説明

作業車両のキャビン

【課題】作業者にとって不快な、振動数(周波数)が大きい騒音および振動を低減し、居住性に優れた作業車両のキャビンを提供する。
【解決手段】キャビン12の前端かつ左右略中央となる前中央位置71、該キャビンの後端かつ左端となる後左位置72、および、該キャビンの後端かつ右端となる後右位置73、にそれぞれ防振支持部材60・60・60を配置するようにトラクタ201の機体とキャビン12との間に該防振支持部材を介装した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操縦部を覆う作業車両のキャビンの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業車両の操縦部(作業車両の走行および作業に係る操作手段が設けられている部分)を覆うキャビンの技術は公知となっている。このようなキャビンの多くは、振動および騒音を低減して作業者の居住性を向上させるため、作業車両の機体との間に防振支持部材を設けている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【特許文献1】特開2003−237621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
作業車両の機体からキャビンへ伝播する騒音や振動の振動数(周波数)は、キャビン(より厳密には、キャビンと機体との間に設けられる防振支持部材)が固定される機体側の構造体の持つ固有振動数に影響を受けることが知られており、当該固有振動数が大きいほど発生する騒音や振動の振動数(周波数)も大きい。
ここで、作業者にとって不快な騒音や振動は、一般的には振動数(周波数)が大きいものである。そして、このような大きい振動数(周波数)の騒音または振動は、一般的には小さい部材を発生源としている。
【0004】
例えば、作業車両がトラクタである場合において、該トラクタの多くは、機体の主たる構造体であるシャーシが機体左右中央部に配置されており、該シャーシの機体左右方向の幅は、大径の車輪を配置することから、トラクタの全幅に比べてかなり小さくなっている。
一方、キャビンの内部空間を極力大きくして作業者の居住性を向上させるという観点から、キャビンの機体左右方向の幅をトラクタの全幅を超えない範囲で極力大きくするとともに、キャビンの外形を、極力略直方体形状としている。
従って、トラクタのシャーシの機体左右方向の幅は、通常はキャビンの機体左右方向の幅よりも小さい。
また、従来のトラクタにおいては、キャビンの外形が略直方体形状であることから、該キャビンの荷重を効果的に支持するために、キャビンの底部の四隅に防振支持部材を設けていた。
【0005】
よって、従来のトラクタにおいては、図8に示す如く、キャビン112の底部の四隅のうち、前端かつ左端となる前左位置174、および、キャビン112の前端かつ右端となる前右位置175、を支持するために、シャーシ302の左右側方に突出するブラケット302a・302aを設け、ブラケット302a・302aとキャビン112との間に防振支持部材160・160を設けていた。
しかし、ブラケット302a・302aはシャーシ302に比べて小さい部材であるために、発生する騒音や振動の振動数(周波数)が大きく、キャビン112の居住性を低下させる要因となっていた。
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑み、作業者にとって不快な、振動数(周波数)が大きい騒音および振動を低減し、居住性に優れた作業車両のキャビンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、作業車両の機体との間に防振支持部材を介装した作業車両のキャビンであって、
該キャビンの前端かつ左右略中央となる前中央位置、該キャビンの後端かつ左端となる後左位置、および、該キャビンの後端かつ右端となる後右位置、にそれぞれ該防振支持部材を配置するものである。
【0009】
請求項2においては、前記前中央位置よりも後方、かつ後左位置および後右位置よりも前方、かつ左右略中央となる中間位置に前記防振支持部材を配置するものである。
【0010】
請求項3においては、前記防振支持部材は、
キャビン側の構造体と機体側の構造体との間に設けられ、キャビン側の構造体および機体側の構造体と当接する第一の防振ゴムと、
キャビン側の構造体を挟んで該第一の防振ゴムの反対側に設けられ、キャビン側の構造体と当接する第二の防振ゴムと、
該第二の防振ゴムを挟んでキャビン側の構造体の反対側に設けられ、該第二の防振ゴムと当接する押さえ板と、
機体側の構造体、第一の防振ゴム、キャビン側の構造体、第二の防振ゴム、および押さえ板、を貫通して締結する締結部材と、
を具備するものである。
【0011】
請求項4においては、前記防振支持部材は、
第二の防振ゴムおよび押さえ板を被覆する遮音部材を具備するものである。
【0012】
請求項5においては、前記キャビンの前端かつ左端となる前左位置および該キャビンの前端かつ右端となる前右位置、のいずれか一方または両方に、オイルダンパまたはエアダンパを設けたものである。
【0013】
請求項6においては、前記キャビンの前端かつ左端となる前左位置および該キャビンの前端かつ右端となる前右位置に、ゴムからなる傾倒規制部材を設けたものである。
【0014】
請求項7においては、前記傾倒規制部材は、前記キャビンまたは機体のうちいずれか一方に固定され、該キャビンが機体に対して機体左右方向に所定の傾倒角度以上に傾倒した場合に、該キャビンおよび機体のうち固定されていない方に当接するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、作業車両の機体側の構造体から防振支持部材を経て作業車両のキャビンに伝播する振動および騒音を低減するとともに、当該振動および騒音の振動数(周波数)を小さくすることが可能であり、作業車両のキャビンの居住性が向上する。
【0017】
請求項2においては、作業車両が静置されている状態で防振支持部材に鉛直方向以外の歪みが発生する(いわゆる「こじれた」状態となる)ことを防止することが可能である。
【0018】
請求項3においては、作業車両の機体側の構造体からキャビンに伝播する振動および騒音を低減することが可能であり、作業車両のキャビンの居住性が向上する。
【0019】
請求項4においては、作業車両の機体側の構造体に防振ゴムを介さずに固定された部材を発生源とする騒音が作業車両のキャビンの内部空間に伝播するのを防止することが可能であり、作業車両のキャビンの居住性が向上する。
【0020】
請求項5においては、作業車両の機体に対して作業車両のキャビンが左右方向に過度に傾倒する動きを規制することが可能である。
【0021】
請求項6においては、作業車両の機体に対して作業車両のキャビンが左右方向に過度に傾倒する(ローリングする)動きを規制することが可能である。
【0022】
請求項7においては、作業車両の機体に対して作業車両のキャビンが左右方向に過度に傾倒する(ローリングする)動きを規制することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下では、図1を用いて本発明に係る作業車両の実施の一形態であるトラクタ201の全体構成について説明する。
なお、本発明に係る作業車両は本実施例のトラクタ201に限らず、コンバインや運搬車等の農業用車両、あるいはバックホーやローダ等の建設機械等、作業者が搭乗して運転操作する作業車両に広く適用可能である。
また、以下の説明では図1中の矢印Aの方向(トラクタ201が直進時に移動する方向)をトラクタ201の「前方」とし、図1中の紙面手前側をトラクタ201の「左側面」とする。
【0024】
トラクタ201は、エンジン後部に連設するクラッチハウジングと、その後部に連設するミッションケースをシャーシ202として機体左右中央で前後方向に一体的に構成し、該シャーシ202を機体左右中央に配置し、トラクタ201を構成する他の部材を該シャーシ202に取り付けている。本実施例のシャーシ202は、トラクタ201の主たる構造体である。
トラクタ201の前後には前輪1・1および後輪2・2が支承される。トラクタ201の前部のボンネット6内部にはエンジン5が配置される。該ボンネット6の後方にはキャビン12が設けられる。該キャビン12の内部にはステアリングハンドル10が配設され、その後方には座席11が配設される。また、座席11の側部には主変速レバー、副変速レバー、PTO操作レバー等の操作レバー群が配設される。
ここで、作業者が作業車両(本実施例ではトラクタ201)を操縦するために操作するもの(本実施例においては、ステアリングハンドル10、操作レバー群等)を総称して「操縦部」とする。
エンジン5の後部にはクラッチハウジング7が配置され、クラッチハウジング7の後部にミッションケース9が配設され、エンジン5からの駆動力を前輪1・1および後輪2・2に伝達して駆動する。
【0025】
以下では図1、図2および図3を用いて本発明に係る作業車両のキャビンの第一実施例であるキャビン12の詳細構成について説明する。
図1および図2に示す如く、キャビン12はトラクタ201の座席11の周囲を覆って風雨や直射日光等から作業者を保護するものである。従って、キャビン12の内部にはトラクタ201の操縦部が設けられている。
キャビン12は主に、キャビン12の構造体を成す左右一対のサイドフレームユニット20・20、ロアフレームユニット21、フロントアッパーフレーム23、リアアッパーフレーム24、フロントセンターフレーム81等からなるフレーム群と、該フレーム群に取り付けられる前面風防13、左右一対のドア50・50、後面風防51、キャビン12の上面に設けられるルーフ41等からなる被覆部材群と、で構成される。
【0026】
図2に示す如く、左右一対のサイドフレームユニット20・20はキャビン12の左右の側面部を成す構造体である。なお、本実施例のサイドフレームユニット20・20は左右略対称に構成されていることから、以下の説明ではキャビン12の左側面部を成すサイドフレームユニット20についてのみ説明を行う。
サイドフレームユニット20は主にフロントピラー40、リアピラー14、サイドアッパーフレーム44、サイドステップフレーム42、フェンダ33等で構成される。
【0027】
フロントピラー40はサイドフレームユニット20の前部を成す部材であり、キャビン12のルーフ41の左前端を支持する。フロントピラー40はパイプ状の部材であり、側面視で中途部において略「く」の字型に屈曲している
【0028】
リアピラー14はサイドフレームユニット20の後部を成す部材であり、キャビン12のルーフ41の左後端を支持する。
【0029】
サイドアッパーフレーム44はサイドフレームユニット20の上部を成す部材である。
サイドアッパーフレーム44の前端はフロントピラー40の上端部に固設され、サイドアッパーフレーム44の後端はリアピラー14の上端部に固設される。
【0030】
サイドステップフレーム42はサイドフレームユニット20の下前半部を成す部材である。サイドステップフレーム42の前端はフロントピラー40の下端部に固設され、サイドステップフレーム42の後端はフェンダ33の前端部に固設される。サイドステップフレーム42は乗降時に作業者が足をかけるステップとしての機能を兼ねる。
【0031】
フェンダ33はサイドフレームユニット20の下後半部を成す部材であり、その一端はサイドステップフレーム42の後端部に固設され、その後端はリアピラー14の下端部に固設される。フェンダ33は後輪2・2と対向し、後輪2・2により跳ね上げられる土や泥等がキャビン12に侵入することを防止している。
【0032】
ロアフレームユニット21はキャビン12の下面を構成する構造体である。ロアフレームユニット21は主に左右一対のダウンフレーム26・26、リアセンターフレーム30、ダストカバー29、シート固定部材38、エアカットプレート39、フロントステー27・27、リアマウントステー28・28、フロアプレート15等で構成される。
【0033】
ダウンフレーム26・26は側面視で略「く」の字型に屈曲され、ロアフレームユニット21の下部から後部にかけての部位を成す部材である。ダウンフレーム26・26の前端部はそれぞれエアカットプレート39の左右の下端部に固設され、後端部はそれぞれリアセンターフレーム30の左右端部に固設される。
【0034】
リアセンターフレーム30はロアフレームユニット21の後部を成す部材であり、ダウンフレーム26・26の後端部に固設される。
【0035】
ダストカバー29はロアフレームユニット21の後面を成す部材であり、ダウンフレーム26・26の後部およびリアセンターフレーム30に固設されてロアフレームユニット21の剛性を向上させるとともに、キャビン12の後面下部を閉塞してキャビン12内に土や泥等が侵入することを防止している。
【0036】
シート固定部材38はダウンフレーム26・26の上方かつリアセンターフレーム30の前方に配置される部材であり、その上面には座席11および操作レバー群が配設される。
【0037】
エアカットプレート39はロアフレームユニット21の前面を成す部材であり、その下端部はダウンフレーム26・26の前端部に固設される。エアカットプレート39はボンネット6からキャビン12へ騒音や外気が侵入することを防止する機能と、ステアリングハンドル10やその他の計器類、操作ペダル等が設けられる取付部材としての機能を兼ねる。
【0038】
フロントステー27・27はそれぞれダウンフレーム26・26の前端部に固設される部材であり、ロアフレームユニット21の前部と前記サイドフレームユニット20の前部(サイドステップフレーム42・42)とを固定する。
【0039】
リアマウントステー28・28はそれぞれダウンフレーム26・26の屈曲部に固設される部材であり、ロアフレームユニット21の後部と前記サイドフレームユニット20・20の後部(フェンダ33・33)とを固定する機能と、後述する防振支持部材60の一端を固定する機能とを兼ねる。
【0040】
フロアプレート15はエアカットプレート39、ダウンフレーム26・26の前半部、およびシート固定部材38に取り付けられる。フロアプレート15はキャビン12の底面としての機能と、後述する防振支持部材60の一端を固定する機能とを兼ねる。
【0041】
図1に示す如く、前面風防13は、キャビン12のフレームを構成する部材のうち、フロントアッパーフレーム23、フロントピラー40・40、およびフロントセンターフレーム81で囲まれたキャビン12の前面の開口部に固定される。前面風防13はガラスや樹脂等、透明な材料で構成される。
【0042】
後面風防51は、キャビン12のフレームを構成する部材のうち、リアアッパーフレーム24、リアピラー14・14、およびリアセンターフレーム30で囲まれたキャビン12の後面の開口部に固定される。後面風防51はガラスや樹脂等、透明な材料で構成される。
【0043】
ドア50・50は、キャビン12のフレームを構成する部材のうち、フロントピラー40、リアピラー14、サイドアッパーフレーム44、サイドステップフレーム42、およびフェンダ33で囲まれたキャビン12の左右側面の開口部にそれぞれ開閉可能に設けられる。
【0044】
以下では、図3および図4を用いて、防振支持部材60の詳細構成および本発明の作業車両のキャビンの第一実施例について説明する。
なお、図3は、キャビン12に設けられる複数の防振支持部材60・60・・・のうち、キャビン12の前端かつ左右略中央となる前中央位置71(図4に図示)に配置された防振支持部材60の側面断面図を示している。
防振支持部材60は、トラクタ201の機体に対してキャビン12を支持する機能(支持機能)と、トラクタ201の機体側の振動および騒音がキャビン12に伝播するのを防止する機能(防振機能)と、を兼ねる部材である。防振支持部材60は、トラクタ201の機体とキャビン12との間に介装される。
ここで、防振支持部材60がキャビン12を「支持する」とは、防振支持部材60が単にキャビン12の荷重を支えるだけでなく、トラクタ201の姿勢の変化やトラクタ201の機体が受けた衝撃等によりキャビン12がトラクタ201の機体に対して相対的に上下、前後および左右方向に移動または揺動する量を所定の範囲内に規制することも含まれる。
【0045】
図3に示す如く、防振支持部材60は主に、防振ゴム61、防振ゴム62、押さえ板63、締結部材64、遮音部材65等で構成される。
【0046】
防振ゴム61は第一の防振ゴムの実施の一形態であり、衝撃、振動および騒音を吸収する緩衝材としての機能を果たす。防振ゴム61はゴム等の弾性材料からなり、キャビン12側の構造体と機体側の構造体との間に設けられ、キャビン12側の構造体および機体側の構造体と当接する。
【0047】
ここで、図2および図4に示す如く、「キャビン12側の構造体」とは、防振支持部材60が固定されるキャビン12側の部材を指し、前中央位置71に配置された防振支持部材60の場合にはフロアプレート15、後左位置72または後右位置73に配置された防振支持部材60・60の場合にはリアマウントステー28・28がキャビン12側の構造体」に相当する。
また、「機体側の構造体」とは、防振支持部材60が固定される機体側の部材を指し、前中央位置71に配置された防振支持部材60の場合にはシャーシ202、後左位置72または後右位置73に配置された防振支持部材60・60の場合にはミッションケース9から突設されたステー(図示せず)が「機体側の構造体」に相当する。
【0048】
防振ゴム62は第一の防振ゴムの実施の一形態であり、衝撃、振動および騒音を吸収する緩衝材としての機能を果たす。防振ゴム62はゴム等の弾性材料からなり、キャビン12側の構造体を挟んで防振ゴム61の反対側に設けられ、機体側の構造体に当接する。
【0049】
押さえ板63は板状の部材であり、防振ゴム62を挟んでキャビン12側の構造体の反対側に設けられ、防振ゴム62に当接する。
【0050】
締結部材64は機体側の構造体、防振ゴム61、キャビン12側の構造体、防振ゴム62、および押さえ板63、を貫通して締結する部材である。
本実施例の場合、締結部材64はボルト64aおよびナット64bからなる。
まず、ボルト64aが機体側の構造体(図3の場合、シャーシ202の上面)に設けられた螺孔に螺装されて機体側の構造体に固定され、ボルト64aの胴体部(ネジ山部分)はシャーシ202の上面より上方に突出する。次に、該ボルト64aの胴体部には、防振ゴム61、キャビン12側の構造体(図3の場合、フロアプレート15)、防振ゴム62、および押さえ板63が順に貫装される。最後に、ナット64bがボルト64aに螺装されて、キャビン12側の構造体および機体側の構造体に対して防振支持部材60が固定される。
このとき、機体側の構造体、締結部材64および押さえ部材63は、キャビン12側の構造体に当接しないように構成されるので、機体側の構造体の振動および騒音は、必ず防振ゴム61または防振ゴム62のいずれか一方または両方を介してキャビン12側の構造体に伝播することとなる。
従って、トラクタ201の機体側の構造体からキャビン12側の構造体に伝播する振動や騒音が低減され、キャビン12の居住性が向上する。
なお、防振ゴム61および防振ゴム62のゴムの材質(種類)や大きさ(面積や厚さ)、形状については、キャビン12の荷重や形状、作業車両の使用の態様等に応じて適宜選択することが望ましい。また、防振ゴム61と防振ゴム62とは必ずしも同じ材質、形状、厚さである必要はなく、異なる材質、形状および厚さとなるように構成しても良い。
【0051】
遮音部材65は防振ゴム62および押さえ板63を被覆する部材である。遮音部材65はプラスチックやゴム、スポンジ等、騒音や振動を吸収可能な材料で構成される。あるいは、遮音部材65の内周面(防振ゴム62や押さえ板63と対向する側の面)にプラスチックやゴム、スポンジ等、騒音や振動を吸収可能な材料を貼り付けても良い。
遮音部材65にて防振ゴム62および押さえ板63を被覆することにより、押さえ板63や締結部材64の押さえ板63側の端部等、機体側の構造体(図3の場合、シャーシ202)に防振ゴム61や防振ゴム62等の緩衝材を介さずに固定された部材を発生源とする騒音がキャビン12の内部空間に伝播するのを防止することが可能であり、キャビン12の居住性が向上する。
【0052】
図4に示す本発明の作業車両のキャビンの第一実施例の場合、キャビン12の前端かつ左右略中央となる前中央位置71と、該キャビン12の後端かつ左端となる後左位置72と、該キャビン12の後端かつ右端となる後右位置73と、にそれぞれ防振支持部材60・60・60を配置している。
【0053】
このように構成することは、以下の如き利点を有する。
すなわち、図8に示す従来のキャビン112の場合、キャビン112の四隅となる位置、すなわち、キャビン112の前端かつ左端となる前左位置174と、該キャビン12の前端かつ右端となる前右位置175と、該キャビン112の後端かつ左端となる後左位置172と、該キャビン112の後端かつ右端となる後右位置173と、にそれぞれ防振支持部材160・160・・・を配置していた。
よって、前端かつ左端となる前左位置174、および、キャビン112の前端かつ右端となる前右位置175、を支持するために、シャーシ302の左右側方に突出するブラケット302a・302aを設け、ブラケット302a・302aとキャビン112との間に防振支持部材(図示せず)を設けていた。
しかし、ブラケット302a・302aはシャーシ302に比べて小さい部材であるために、発生する騒音や振動の振動数(周波数)が大きく、キャビン112の居住性を低下させる要因となっていた。
【0054】
これに対して、図4に示す本発明の作業車両のキャビンの第一実施例の場合、キャビン12の前半部において防振支持部材60が配置される位置は前端かつ左右略中央となる前中央位置71であり、該防振支持部材60はシャーシ202の上面に直接固定される。
従って、シャーシ202(機体側の構造体)から該防振支持部材60を経てキャビン12に伝播する振動および騒音を低減するとともに、当該振動および騒音の振動数(周波数)を小さくすることが可能であり、キャビン12の居住性が向上する。
【0055】
また、図8に示す従来のキャビン112の場合、キャビン112を機体に対して四箇所(前左位置174、前右位置175、後左位置172、後右位置173)で支持するため、組み立て時の精度が良くないと該四箇所に設けられた防振支持部材160・160・・・が略同一平面上に位置しない場合がある。従って、トラクタ201を静置した状態でも防振支持部材160を構成する防振ゴムに鉛直方向以外の歪みが発生する(いわゆる「こじれた」状態となる)場合がある。
これに対して、図4に示す作業車両のキャビンの第一実施例の場合、キャビン12を機体に対して三箇所(前中央位置71、後左位置172、後右位置173)で支持するため、組み立て時の精度に関わらず該三箇所に設けられた防振支持部材60・60・60は略同一平面上に位置する。従って、トラクタ201を静置した状態では防振支持部材60を構成する防振ゴム(防振ゴム61および防振ゴム62)に鉛直方向以外の歪みが発生する(いわゆる「こじれた」状態となる)ことを防止することが可能である。
【0056】
なお、本実施例においては、前中央位置71に配置される防振支持部材60と、後左位置72および後右位置73に配置される防振支持部材60・60は同型のものを用いているが、キャビン12の荷重や形状、作業車両の使用の態様等によっては、異なる型式のものを使用しても良い。
例えば、前中央位置71に配置される防振支持部材60に加わる荷重が後左位置72および後右位置73に配置される防振支持部材60・60に加わる荷重よりも大きくなる傾向(前中央位置71に配置される防振支持部材60にキャビン12の荷重が集中する傾向)があり、このような場合には、前中央位置71に配置される防振支持部材60の防振ゴム61および防振ゴム62の平面断面積を大きくすることが挙げられる。
【0057】
以下では、図5を用いて本発明の作業車両のキャビンの第二実施例の詳細構成について説明する。
図5に示す本発明の作業車両のキャビンの第二実施例が図4に示す作業車両のキャビンの第一実施例と異なる点は、前中央位置71、後左位置72、後右位置73の三箇所に加えて、前中央位置71よりも後方、かつ後左位置72および後右位置73よりも前方、かつ左右略中央となる中間位置76にも防振支持部材60を配置することである。
このように構成することにより、前中央位置71に設けられた防振支持部材60にキャビン12の荷重が集中するのを防止することが可能である。
【0058】
以下では、図6を用いて本発明の作業車両のキャビンの第三実施例の詳細構成について説明する。
図6に示す本発明の作業車両のキャビンの第三実施例が図4に示す作業車両のキャビンの第一実施例と異なる点は、キャビン12の前端かつ左端となる前左位置74およびキャビン12の前端かつ右端となる前右位置75の両方に、オイルダンパ80・80を設けたことである。
【0059】
オイルダンパ80は主にシリンダと、該シリンダの内周面に気密的に摺接してシリンダの内部空間を二つに区画するとともに該二つに区画された内部空間を連通する孔が形成されたピストンが設けられたロッドとを具備しており、該シリンダから突出しているロッドの突出または没入方向の動きをシリンダの内部空間に封入された油の粘性により減衰させるものである。
【0060】
本実施例の場合、オイルダンパ80・80の一端(シリンダ基部)をシャーシ202の側方に突出するように設けられたブラケット202a・202aに回動可能に枢支し、オイルダンパ80・80の他端(ロッド端部)を前左位置74・前右位置75に回動可能に枢支する。
【0061】
このように構成することは、以下の如き利点を有する。
すなわち、図4に示す作業車両のキャビンの第一実施例はキャビン12の前部の荷重を左右略中央の前中央位置71の一箇所で支持するため、図8に示す従来のキャビン112と比較した場合に、機体に対してキャビン12が左右方向に過度に傾倒する(ローリングする)動きを規制するのが困難となる傾向がある。
このような問題を解消する方法としては、前中央位置71に配置する防振支持部材60の平面視の面積を大きくすることも考えられるが、図6に示す本発明の作業車両のキャビンの第三実施例の如く前左位置74および前右位置75の両方にオイルダンパ80・80を設けることによっても当該問題を解消することが可能である。
【0062】
なお、本実施例では前左位置74および前右位置75の両方にオイルダンパ80・80を設けたが、オイルダンパ80はロッドが突出方向および没入方向いずれの方向に摺動する場合でも減衰効果があるので、前左位置74または前右位置75のいずれか一方にオイルダンパ80を設ける構成としても略同様の効果を奏する。
また、ロッドをシリンダから突出する方向に付勢するスプリングをオイルダンパ80に設けても良い。
さらに、本実施例のオイルダンパ80に代えてエアダンパ(シリンダに封入されたエアの粘性によりロッドの摺動を減衰させるダンパ)を用いても略同様の効果を奏する。
【0063】
以下では、図7を用いて本発明の作業車両のキャビンの第四実施例の詳細構成について説明する。
図6に示す本発明の作業車両のキャビンの第四実施例が図4に示す作業車両のキャビンの第一実施例と異なる点は、キャビン12の前端かつ左端となる前左位置74およびキャビン12の前端かつ右端となる前右位置75に、ゴムからなる傾倒規制部材90・90を設けたことである。
ここで、「傾倒規制部材」は、「防振支持部材」とは異なり、キャビンが機体に対して機体左右方向に所定の傾倒角度以上に傾倒しないように規制する機能を果たす部材である。
傾倒規制部材90・90はシャーシ202の側方に突出するように設けられたブラケット202a・202aにそれぞれ固定される。
傾倒規制部材90・90は、トラクタ201を平坦な場所に静置した場合にはキャビン12の前左位置74および前右位置75に当接せず、キャビン12が機体に対して機体左右方向に所定の傾倒角度以上に傾倒した場合に前左位置74および前右位置75のいずれか対応する方に当接するように大きさおよび位置関係が定められている。傾倒規制部材90・90はゴムからなるため、キャビン12が勢いよく傾倒規制部材90・90に当接した場合でも、その衝撃を緩衝しつつキャビン12の傾倒を規制することが可能である。
【0064】
このように構成することは、以下の如き利点を有する。
すなわち、図4に示す作業車両のキャビンの第一実施例はキャビン12の前部の荷重を左右略中央の前中央位置71の一箇所で支持するため、図8に示す従来のキャビン112と比較した場合に、機体に対してキャビン12が左右方向に過度に傾倒する(ローリングする)動きを規制するのが困難となる傾向がある。
このような問題を解消する方法としては、前中央位置71に配置する防振支持部材60の平面視の面積を大きくすることも考えられるが、図7に示す本発明の作業車両のキャビンの第四実施例の如く前左位置74および前右位置75に傾倒規制部材90・90を設けることによっても当該問題を解消することが可能である。
【0065】
なお、本実施例では、傾倒規制部材90・90を機体(より厳密には、機体側の構造体たるブラケット202a・202a)に固定し、キャビン12が傾倒するとキャビン12(より厳密には、キャビン12側の構造体たるフロントステー27・27)に当接する構成としたが、傾倒規制部材90・90をキャビン12(より厳密には、キャビン12側の構造体たるフロントステー27・27)に固定し、キャビン12が傾倒すると機体(より厳密には、機体側の構造体たるブラケット202a・202a)に当接する構成としても略同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】トラクタの左側面図。
【図2】キャビンのフレーム群を示す斜視図。
【図3】防振支持部材の側面断面図。
【図4】本発明に係るキャビンの第一実施例を示す模式図。
【図5】本発明に係るキャビンの第二実施例を示す模式図。
【図6】本発明に係るキャビンの第三実施例を示す模式図。
【図7】本発明に係るキャビンの第四実施例を示す模式図。
【図8】従来のキャビンを示す模式図。
【符号の説明】
【0067】
12 キャビン(作業車両のキャビン)
71 前中央位置
72 後左位置
73 後右位置
60 防振支持部材
201 トラクタ(作業車両)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の機体との間に防振支持部材を介装した作業車両のキャビンであって、
該キャビンの前端かつ左右略中央となる前中央位置、該キャビンの後端かつ左端となる後左位置、および、該キャビンの後端かつ右端となる後右位置、にそれぞれ該防振支持部材を配置することを特徴とする作業車両のキャビン。
【請求項2】
前記前中央位置よりも後方、かつ後左位置および後右位置よりも前方、かつ左右略中央となる中間位置に前記防振支持部材を配置することを特徴とする請求項1に記載の作業車両のキャビン。
【請求項3】
前記防振支持部材は、
キャビン側の構造体と機体側の構造体との間に設けられ、キャビン側の構造体および機体側の構造体と当接する第一の防振ゴムと、
キャビン側の構造体を挟んで該第一の防振ゴムの反対側に設けられ、キャビン側の構造体と当接する第二の防振ゴムと、
該第二の防振ゴムを挟んでキャビン側の構造体の反対側に設けられ、該第二の防振ゴムと当接する押さえ板と、
機体側の構造体、第一の防振ゴム、キャビン側の構造体、第二の防振ゴム、および押さえ板、を貫通して締結する締結部材と、
を具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の作業車両のキャビン。
【請求項4】
前記防振支持部材は、
第二の防振ゴムおよび押さえ板を被覆する遮音部材を具備することを特徴とする請求項3に記載の作業車両のキャビン。
【請求項5】
前記キャビンの前端かつ左端となる前左位置および該キャビンの前端かつ右端となる前右位置、のいずれか一方または両方に、オイルダンパまたはエアダンパを設けたことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の作業車両のキャビン。
【請求項6】
前記キャビンの前端かつ左端となる前左位置および該キャビンの前端かつ右端となる前右位置に、ゴムからなる傾倒規制部材を設けたことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の作業車両のキャビン。
【請求項7】
前記傾倒規制部材は、
前記キャビンまたは機体のうちいずれか一方に固定され、
該キャビンが機体に対して機体左右方向に所定の傾倒角度以上に傾倒した場合に、該キャビンおよび機体のうち固定されていない方に当接することを特徴とする請求項6に記載の作業車両のキャビン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−27342(P2006−27342A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205899(P2004−205899)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】