説明

作業車両の変速装置

【課題】オペレータにとって操作性に優れ、最適な変速位置となるようなトラクタなどの作業車両の変速装置を提供することである。
【解決手段】自動変速制御時に副変速レバー179による路上走行への変速段操作及び主変速増減速スイッチ192a、192bによる主変速変更操作が行われた時の主変速位置を副変速レバー179の路上走行への変速段操作時の最低主変速位置としてメモリ100aに記憶させる制御装置100を設けた作業車両の変速装置である。そして、その制御装置100は、副変速レバー179によって路上走行が選択されて、更に主変速増減速スイッチ192a、192bによりメモリ100aに記憶されている最低主変速位置よりも減速側の主変速位置に操作された場合には、新たに減速された主変速位置をメモリ100aに更新、記憶させる処理を行うことで、オペレータにとって最適な最低主変速位置が設定可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用、建築用、運搬用等の作業機を連結した作業車両、特にトラクタなどの変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタなどの作業車両の変速装置は、主変速装置の他に副変速装置などが組み合わされて多段変速の形態が取られている。したがって、目標の変速段にするためにはこれらの変速装置の操作が必要であり、操作が煩雑となるため、オペレータにとっても負担となっていた。
【0003】
そこで、下記特許文献1には、副変速操作をするための副変速レバーに、副変速後の主変速を操作して任意の目標位置に設定するためのボタンが設けられたトラクタの変速装置が開示されている。まず副変速レバー操作により路上走行などの高速域や作業走行などの低速域等の副変速操作を行って、次に更に細かい変速(主変速)を前記ボタンを押すことで操作して目標の変速位置を選択する。そして、走行発進時には、トラクタの速度がこの選択された変速位置に対応する速度に自動的になるようにして、トラクタの操作性を高め、オペレータの負担軽減を図っている。
【特許文献1】特開2004−9998号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1記載の発明では、予め目標変速位置を設定することによって、後は走行開始により自動的に目標変速位置への変速が行われる。この特許文献1記載の発明においては、目標変速位置への変更は、停止中に行なう構成である。自動変速走行におけるトラクタの発進時には、状況によってあるいは個々のオペレータにとって最適な車速で走行を開始できることが好ましいので、発進時の最低速を変更することが望ましい。この場合、引用文献1の構成では、自動変速走行中に変更したいと思っても一旦停車する必要があり操作性に優れていない。
本発明の課題は、オペレータにとって操作性に優れ、最適な変速位置となるようなトラクタなどの作業車両の変速装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題は、次の解決手段により解決される。
請求項1記載の発明は、路上走行を含む複数の変速段に変速操作が可能な副変速操作手段(179)と、前記複数の変速段の各々の変速段から更に細かい変速段である主変速の中の主変速位置を選択する手動操作が可能な主変速操作手段(192a,192b)と、エンジン回転数を加減するためのアクセル操作手段(175)と、アクセル操作手段(175)の操作量に応じたエンジン回転数に対応する車速になるように前記副変速操作手段(179)により選択された変速段の中の適切な主変速位置を選択して自動で変速する自動変速機能部を有する制御装置(100)と、前記制御装置(100)の自動変速機能部を入り切り操作するための自動変速操作手段(199)とを設けた作業車両の変速装置であって、前記制御装置(100)は、前記自動変速操作手段(199)により自動変速機能が入りに操作されており、前記副変速操作手段(179)により路上走行が選択され、更に主変速操作手段(192a,192b)により主変速位置が手動操作されると、該手動操作された主変速位置が前記自動変速機能部による自動変速範囲の最低速度に対応する主変速位置である最低主変速位置として記憶されるための記憶部(100a)と、前記副変速操作手段(179)により前記路上走行が選択され、更に主変速操作手段(192a,192b)により前記記憶部(100a)によって記憶されている最低主変速位置よりも減速側の主変速位置に手動操作された場合には、前記自動変速機能部により自動変速範囲で作業車両が走行中であっても前記記憶されている最低主変速位置を前記減速された主変速位置に更新して記憶させる処理を行う更新記憶機能部を有する作業車両の変速装置である。
【0006】
請求項2記載の発明は、前記副変速操作手段(179)により路上走行が選択され、前記自動変速機能部により自動変速範囲で作業車両が走行中の場合、前記制御装置(100)は、前記主変速操作手段(192a,192b)により前記記憶部(100a)によって記憶されている最低主変速位置よりも増速側の主変速位置に操作された場合には、前記増速された主変速位置を副変速操作手段(179)により路上走行が選択された時の最低主変速位置としては記憶させない処理を行う機能を有する請求項1記載の作業車両の変速装置である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、自動変速操作手段(199)により自動変速機能が入りに操作されており、前記副変速操作手段(179)により路上走行が選択され、更に主変速操作手段(192a,192b)により主変速位置が手動操作されると、該手動操作された主変速位置が最低主変速位置として記憶されるので、オペレータにとって最適な最低車速変速位置が設定可能となる。例えば、オペレータが最低主変速位置を上げることで、より高速段の主変速位置から走行を開始できる。
【0008】
また、副変速操作手段(179)により路上走行が選択され、更に主変速操作手段(192a,192b)により記憶部(100a)によって記憶されている最低主変速位置よりも減速側の主変速位置に手動操作された場合には、自動変速走行中であっても記憶されている最低主変速位置を減速された主変速位置に更新して記憶させるので、オペレータが発進走行速度が速いと感じた場合など次回から最低主変速位置を下げたい場合に対応できる。特に、前記自動変速機能部により自動変速範囲で走行中であっても変更できるので、思いついたときに忘れることなく変更可能となる。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、作業車両が自動変速走行中において、主変速操作手段(192a,192b)により記憶部(100a)によって記憶されている最低主変速位置よりも増速側の主変速位置に操作された場合には、増速された主変速位置を副変速操作手段(179)により路上走行が選択された時の最低主変速位置としては記憶させないようにしているので、例えば、前記自動変速機能部により自動変速範囲で走行中に現在の速度が最低主変速位置に対応する速度である場合、最低主変速位置が増速側に変更されてしまうと実際の速度が増速されてしまうが、このような不具合を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態について以下図面と共に説明する。なお、本明細書では車両の前進方向に向かって左右をそれぞれ左、右といい、前後をそれぞれ前、後ということにする。ここで、本明細書において左右の走行車軸とは、作業車両の進行方向を向いて左右方向の走行車軸をいう。そして、本発明の実施の形態によれば、作業車両の一例であるトラクタを例として以下に説明する。
【0011】
図1には本発明の実施形態のトラクタの左側面図を示し、図2には、図1のトラクタのトランスミッション内の動力伝動図を示す。更に図3には図2の動力伝動図の油圧回路図を示し、図4には図1の変速装置の前後進動力入切用の油圧クラッチシリンダの構成図を示す。また、また、図5には図1のトラクタの制御ブロック図を示す。
【0012】
乗用四輪駆動の走行形態を有するトラクタ車体Tは、ステアリングハンドル73(図6,図7)で前輪61を操向しながら走行運転する。車体Tの後部にはロータリ耕耘装置等の作業機を3点リンク機構により昇降可能に装着して対地作業を行うことができる。この車体Tは、前端部にフロントアクスルハウジング(図示せず)に支架させるエンジンブラケットを介してエンジン62を搭載し、このエンジン62の後側にクラッチハウジングや、ミッションケース65等を一体的に連結し、このミッションケース65の最後部にリヤアクスルハウジング(図示せず)を設けて、左右両側部に後輪63を軸装する。
【0013】
図2には、図1のトラクタのトランスミッション内の動力伝動図を示す。
エンジン62は後側に突出のエンジン軸1を有し、このエンジン軸1をクラッチハウジング部の入力軸2に連結する。ミッションケース65内の伝動機構を介して後端部の出力軸3及びPTO軸14を連動すると共に、ミッションケース65の下部に設けた前輪出力軸5を連動する構成としている。この出力軸3はミッションケース65内の後部の略中央部において前後方向に沿うように軸受されて後端にドライブピニオンギヤ53を有し、リヤデフ45のデフリングギヤ46に噛合し、リヤアクスルハウジングに沿って軸装されたリヤデフ軸10と後輪軸11を遊星減速機構を介して連動する。また、前輪出力軸5はミッションケース65の下部からエンジン62の下部を経て、フロントアクスルハウジングの中央部に設けられるフロントデフ47の入力軸26に連結され、このフロントアクスルハウジングに沿って軸装されるフロントデフ軸12及び遊星減速機構等を介して前輪軸13へ連動する構成としている。なお、入力軸2から油圧ポンプ80(図3)への動力取り出し用のギヤ駆動軸15,17が入力軸2に並列配置されている。
【0014】
図2に示すトランスミッションの噛合式変速装置は、エンジン軸1によって駆動される入力軸2から入力ギヤ31に連動されるPTO変速カウンタギヤ44を有するPTOカウンタ軸9上にPTOクラッチパック66を設けている。PTOクラッチパック66や入力ギヤ31などからなるPTOの動力伝達部の構成をPTOクラッチEということにする。
【0015】
また入力軸2には前後進切替用の前後進切替ギア42、42が遊転状態に設けられ、一方の後進側の前後進切替ギア42には入力軸2と並列配置されたバックカウンタ軸8に設けられたバックカウンタギア43が噛合し、他方の前進側の前後進切替ギア42には主変速軸19上に固定した入力ギヤ48と該主変速軸19上に遊転自在に設けた有効径の異なる4つの主変速ギヤ33を設ける。これら4つの主変速ギヤ33は、四段変速に構成され、クラッチパック76によって切替シフトされ、4つの主変速ギヤ33から構成される変速装置を主変速油圧クラッチAということにする。
【0016】
前記主変速軸19上には、前記主変速油圧クラッチAの4つの主変速ギヤ33のうち、最も有効径の小さい主変速ギヤ33(第1速用)と3番目に有効径の小さい主変速ギヤ33(第3速用)との間にクラッチパック76を固定して設け、2番目に有効径の小さい主変速ギヤ33(第2速用)と最も有効径の大きい主変速ギヤ33(第4速用)との間にクラッチパック76を固定して設ける。前記2つのクラッチパック76には、各主変速ギヤ33を主変速軸19と一体回転するように連結する摩擦クラッチが各々設けられている。
【0017】
また、前後進切替ギヤ42の前進側のギヤと噛合可能な入力ギヤ48は、前後進切替ギヤ42の後進側のギヤともバックカウンタ軸8上のバックカウンタギヤ43と噛合っており、該前後進切替ギヤ42のうちの前進側のギヤ42と後進側のギヤ42とを、前後独立した摩擦クラッチから成る2つの前後進切替クラッチパック60の切替によって択一的に入力軸2と一体化して、前進走行と後進走行とに切替えられる構成である。後述する油圧シリンダ85(図3)を含めこれらギヤ42とクラッチパック60などからなる構成を前後進油圧クラッチDということにする。
また、前後進油圧クラッチDの切替を手動で行う前後進切替レバー115(図6)をステアリングハンドル73のポスト部分に設け、クラッチぺダル119(図6)はハンドルポストの足下に設けている。
【0018】
主変速軸19と同軸芯位置に設けられた副変速軸20にはクラッチパック76によって切替シフトされる有効径の異なる2つの高低速切替ギヤ34が設けられており、主変速後の駆動力を更に減速して高速と低速とに切り替えることができる。この高速と低速とに切り替え可能なギア構成をハイ・ロー変速クラッチBということにする。
【0019】
さらに副変速軸20と同軸上には有効径の異なる3つの副変速ギヤ35を有する出力軸3が配置されている。出力軸3は副変速ギヤ35により三段変速する構成としている。この三段変速可能なギヤ35の構成を副変速ギア伝動機構Cということにする。
【0020】
また、副変速ギヤ35に噛合するクリープカウンタギヤ49を備えたクリープカウンタ軸21が出力軸3に並列位置に設けられている。また主変速ギヤ33や高低速切替ギヤ34等と噛合する主変速カウンタギヤ39と高低速切替ギヤ40を有する走行カウンタ軸6が主変速軸19や副変速軸20と並列位置に配置されており、主変速軸19から伝動される回転が主変速ギヤ33で変速されて、その回転が主変速カウンタギヤ39と高低速切替ギア40を順次経由して副変速軸20に設けられた高低速切替ギヤ34に伝達される。高低速切替ギヤ34に伝達された動力はクラッチパック76を介して副変速軸20上に設けた副変速ギヤ35による変速機構を介して出力軸3に伝達される。
この走行動力伝達系では、PTO正逆切替ギヤ37機構を備えたPTO連動軸4を回転する伝動形態である正逆転PTOを設けている。
【0021】
また、前記副変速ギヤ35と噛み合う副変速カウンタギヤ38の副変速カウンタ軸27を回転自在に支持すると共に、出力軸3から前輪取出ギヤ36を介して連動される前輪連動ギヤ51を有する前輪連動軸28を設け、この前輪連動軸28の前方延長軸芯上にはPTO減速ギヤ50を有するPTO減速軸23を設けている。さらに、前輪連動軸28の並行位置にPTO連動軸4を設け、該PTO連動軸4と同軸芯上前端部にPTO連動軸4を正転と逆転に切替えるPTO正逆切替ギヤ37のPTO正逆切替軸22と、PTO変速ギヤ32のPTO変速軸18を配置している。
【0022】
また、PTO正逆切替ギヤ37と噛合するPTO逆回転カウンタギヤ52を有するPTO逆回転カウンタ軸24が前記PTO正逆切替軸22の側部に設けられ、PTOクラッチパック66の入りによって、入力軸2からPTO変速ギヤ32、PTO変速カウンタギヤ44及びPTO正逆切替ギヤ37等を介してPTO正逆切替軸22へ動力が伝動するように構成している。前記正逆切替ギヤ37は前記PTO変速ギヤ32と同形態のクラッチリングを用いる形態としている。このPTO正逆切替軸22の側方にはPTO逆回転カウンタギヤ52を有する逆回転カウンタ軸24を設け、PTO逆回転カウンタギヤ52は、PTO減速ギヤ50からの連動を受けてPTO正逆切替ギヤ37を逆回転することができる。なお、前記PTOカウンタ軸9の後方に減速軸23が配置される。
【0023】
更に、ミッションケース65内の下段部に配置された前輪出力軸5は、ミッションケース65の後部底部に軸装されて、前輪連動軸25やカップリング等を介して前記フロントデフ47の入力軸26へ連結する。この前輪出力軸5の横側には前輪駆動軸7が配置されている。前輪駆動軸7の後端には前輪ギヤ55が設けられている。また、前記出力軸3の後端部の前輪取出ギヤ36に前輪連動軸28上の第1の前輪連動ギヤ51が噛合し、該第1の前輪連動ギヤ51を介して前輪連動軸28に伝達される出力軸3の駆動力は、前輪連動軸28と一体回転する第2の前輪連動ギア54に伝達されて、該前輪連動ギア54から前輪駆動軸7に伝達される。
【0024】
また前輪駆動クラッチパック67を前輪駆動軸7上に設け、この駆動軸7の前端部から前輪出力軸5へギヤ連動する。また、有効径の異なる2つの前輪駆動切替ギヤ41が前輪駆動クラッチパック67の左右に配置されており、該2つの前輪駆動切替ギヤ41は、カウンタ軸59に設けた有効径の異なる2つの切替駆動カウンタギヤ56に各々噛み合わされ、前輪駆動クラッチパック67を択一的に接続することにより、2つの減速比のうちのいずれか一方の減速比で前輪駆動軸7を駆動することができる。
【0025】
前輪駆動クラッチパック67を中立位置にシフトするときは前輪61を駆動させない後輪駆動の二駆形態とし、この前輪駆動クラッチパック67を油圧操作によって切り換えて低速位置にシフトするときは前輪61を後輪63に対して約1倍の等速駆動させる四駆形態とし、また、この前輪駆動クラッチパック67を油圧操作によって切り換えて高速位置にシフトするときは前輪61を後輪63に対して約2倍に増速駆動させる四駆形態とすることによって走行することができる。
【0026】
上記構成からなる噛合式変速装置により、エンジン62の回転動力は主クラッチを構成する前後進油圧クラッチDを経由して4段の変速段からなる主変速油圧クラッチAと2段の変速段からなるハイ・ロー変速クラッチB及び3段の変速段からなる副変速ギア伝動機構Cで合計24段のうちのいずれかの変速段に変速され、得られた回転動力はリヤデフ45を経て後輪63が駆動される。また、前記副変速ギア伝動機構Cで変速された回転動力は前輪駆動クラッチパック(二駆四駆切替クラッチ)67にも伝達され、該クラッチパック67により前輪61が「等速」もしくは「増速」に切り換えられた後、フロントデフ47を経て前輪61が駆動される。
【0027】
また、PTO変速ギヤ32、走行系の主変速ギヤ33、高低速切替ギヤ34及び副変速ギヤ35等を、ドライブピニオンギヤ53を有する出力軸3の軸芯上に沿って配置する構成とする。走行系の伝動は、入力軸2から出力軸3の軸芯上に配置される主変速ギヤ33、高低速切替ギヤ34及び複変速ギヤ35等を介してドライブピニオンギヤ53へ多段変速連動される。また、PTO系の変速は、この出力軸3の軸芯上の前端部に設けられるPTO変速ギヤ32を介して連動される。
【0028】
次に図3には図2の動力伝動図の油圧回路図を示す。
図3の油圧回路図では左右の後輪63を独立して制動する左右のブレーキシリンダ83、前輪61へ伝達する動力を「等速」もしくは「増速」に切り換える四駆切換クラッチシリンダ99、ステアリングハンドル73の回転操作により作動するパワーステアリング装置103、PTOクラッチシリンダ104、PTOクラッチ切替換弁105、PTOクラッチ比例圧力制御弁106などが設けられている。なお、一点鎖線部分の回路101はメイン油圧回路(作業機昇降・作業機水平や外部油圧取出しなど)となり、サブ回路(走行・ブレーキ・デフロック・PTO側回路)とあまり関係がないため、回路図の図示を省略している。
【0029】
油圧ポンプ80から吐出した作動油は、減圧弁81aを介して主変速油圧クラッチAの第4速用と第2速用の各ギア33をクラッチパック76を介してそれぞれ作動させる油圧クラッチシリンダ88と油圧クラッチシリンダ87を切り替える主変速(2−4)クラッチ比例圧力制御弁(2−4速昇圧ソレノイド)89に供給され、さらに主変速油圧クラッチAの第1速用と第3速用の各ギア33をそれぞれ作動させる油圧クラッチシリンダ91と油圧クラッチシリンダ92を切り替える主変速(1−3)クラッチ比例圧力制御弁(1−3速昇圧ソレノイド)93に供給される。
【0030】
減圧弁81aを経由する作動油は、前後進クラッチシリンダ85のオン・オフ制御弁129を介して前後進クラッチシリンダ85の前進側と後進側の油圧クラッチDを切り替える切替弁86(前進ソレノイド86F,後進ソレノイド86R)に供給される。該前後進クラッチシリンダ85の前進側と後進側の油圧クラッチDのいずれに作動油が供給されているかは前進側クラッチ圧力センサ110(図5)と後進側クラッチ圧力センサ111(図5)で検出できる。また、前・後進クラッチDの油圧を昇圧するための前後進昇圧ソレノイド90を設けている。
【0031】
そして、同様に、上記及び下記油圧クラッチシリンダに供給される作動油はそれぞれの油圧クラッチシリンダへの入口側の油路に設けた圧力センサ(例えば油圧クラッチAの第1速用から第4速用までの圧力センサ145a〜145dやPTOクラッチEの圧力センサ146など(図5))で検知できる構成になっている。
【0032】
また、油圧ポンプ80から吐出した作動油は、減圧弁81bを介してブレーキバルブ82aを経由して左右のブレーキシリンダ83に分岐供給される。前記ブレーキバルブ82aは後輪63を選択する切替制御弁であり、該ブレーキバルブ82aはブレーキ力を調整する圧力制御弁82bと一体構成となっている。
【0033】
さらに、減圧弁81bを経由する作動油は、前記第1速〜第4速用の各ギア33で変速された速度を「高速」と「低速」の二つのギヤ40のいずれかにクラッチパック76を介して作動させるハイ・ロー油圧クラッチシリンダ95を切り替えるための制御弁96a,96bに供給される。
また、減圧弁81bを経由する作動油は、デフロック制御弁97を経てフロントデフ47用の前輪デフロックシリンダ98a及びリアデフ45用の後輪デフロックシリンダ98bに分岐される。
【0034】
さらに、前輪駆動クラッチパック67のギア41の切替用の油圧シリンダ99には切替制御弁94を経て前記減圧弁81bを経由する作動油が供給される。
同様に、減圧弁81bを経由する作動油は、PTO用バルブ105,106を介してPTOクラッチシリンダ104に供給され、PTOクラッチEの圧力を調整する。
また図3に示す油圧ポンプ80からの油圧は、パワステアリングハンドル73の操作で作動されるオービットロール107に作動油を供給する構成である。
【0035】
図4には、前後進ギア42,42の切替を行う前後進クラッチシリンダ85の断面構成図を示す。
シリンダ85の前後一対のシリンダ85F、85R内には流入する作動油(オイル)によりそれぞれ作動するピストン78F、78Rと該ピストン78F、78Rの作動で互いに接触する複数組の摩擦板からなる前後進切替クラッチパック60、60がそれぞれ設けられている。
【0036】
クラッチペダル119の非操作時(足踏み式ペダル119の踏み込み操作をしていない時)には前進と後進用のいずれかのシリンダ85F、85R内にオイルが流入してピストン78F又は78Rが作動状態であり、前後進切替クラッチパック60、60が接続状態となり、エンジン動力が変速装置24内の前進側の駆動機構又は後進側の駆動機構に伝達される。また各シリンダ85F、85R内にはリターンスプリング(圧縮スプリング)77F、77Rが設けられており、該リターンスプリング77F、77Rはそれぞれ前進、後進クラッチパック60、60の接続状態を解除する側に付勢される。したがってクラッチペダル119を操作すると(足踏み式ペダル119の踏み込み操作をすると)とシリンダ85F又は85R内のオイルが流出して、リターンスプリング77F又は77Rの付勢力でピストン78F又は78Rが戻し方向に移動し、該前進又は後進用のクラッチパック60の接続状態が解除される。
【0037】
また、図6には、図1のトラクタの操縦席付近の上面図を示し、図7には同じく斜視図を示し、図8(a)には図6及び図7に示したスイッチボックス180の平面図を示し、図8(b)には図8(a)の側面図を示す。
トラクタの操縦席16の左側には、トラクタの前進と後進の切り替えを行う前後進切替レバー115や駐車ブレーキ172、前方側のPTOチェンジレバー173a(2速−N(中立)−1速にチェンジ可能)、後方側のPTOチェンジレバー173b等を配置している。後方側のPTOチェンジレバー173bは、型式によって3種類ある(機能が異なるだけで図は同じである)。
【0038】
Z型は正逆切換レバー(前側が正転、後側が逆転)であり、WX型はエコノミーPTO切換レバー(前側が切−後側が入)であり、入りにすると、PTO軸が所定回転ダウンする。また、GWD型はグランドPTO切換レバー(前側が切−後側が入)であり、入りにするとPTO軸の回転が車速に同期(シンクロ)する。
【0039】
一方、トラクタの操縦席16の右側には、アクセルペダル175やアクセルレバー176(前に倒すとエンジン回転数増大、一番手前にするとアイドリングになる)、更に圃場や建設、土木作業場など(以下、圃場という)の作業領域(以下、圃場内という)における作業時のエンジン回転数を設定してメモリ(記憶部)100aに記憶させるためのエンジン回転数記憶スイッチ177aなどがある。エンジン回転数記憶スイッチ177aは、いわゆるシーソースイッチであり、上側又は下側を押して指を離すと自動的に押していない状態に戻る。また、コントローラ(制御装置)100のメモリ100aには2通りのエンジン回転数を記憶できるので、その切換スイッチである。
【0040】
例えば、エンジン回転数記憶スイッチ177aの上側を押すとエンジン回転数がA回転数になり、下側を押すとB回転数となる。上側を押して指を離すとエンジン回転数記憶スイッチ177aは押す前の位置に戻るが、スイッチ177aは入り状態になっており、エンジン回転数はコントローラ100によりA回転数になるように制御されて保持される。同様に、下側を押して指を離すとエンジン回転数記憶スイッチ177aは押す前の位置に戻るが、スイッチ177aは入り状態になっており、エンジン回転数はコントローラ100によりB回転数に制御されて保持される。
【0041】
本実施形態の場合は2通りのエンジン回転数を記憶できる例を示しているが、それよりも多い3通り以上の回転数を記憶できる構成でも良い。この場合は、スイッチを換える必要があり、例えば、上下左右にシーソーするスイッチにすると4通りの回転数が記憶可能となる。
【0042】
また、エンジン回転数記憶スイッチ177aの後方のエンジン回転数設定スイッチ177bもシーソースイッチであり、上側又は下側を押して指を離すと自動的に押していない状態に戻る。そして、エンジン回転数記憶スイッチ177aを押した後(上側又は下側)、押した状態のままエンジン回転数設定スイッチ177bの上側を押すとエンジン回転数が上昇し、又は下側を押すとエンジン回転数が下降する。エンジン回転数記憶スイッチ177aは押した状態でなくてもよい。そして、新たに設定した回転数がメモリ100aに記憶される。
【0043】
更に、アクセルレバー176の後方には、副変速操作手段としての副変速レバー179(低速、中速、高速、路上走行速)を設けており、低速8段、中速8段、高速8段、路上走行速4段(高速8段の上側4段)などの変速が可能である。副変速レバー179はレバーガイド179aに沿って前後方向と左右方向に作動し、前方右側に倒すと高速179c、前方左側に倒すと路上走行速179b、後方右側に倒すと中速179d、後方左側に倒すと低速179eとなる。そして、前後方向位置及び左右方向位置は副変速レバー位置センサ(図示せず)により検出されて、当該センサ信号がコントローラ100(図5)に入力される。また、後述する主変速増減速スイッチ(センサ)192a,192bなどの変速段の操作もコントローラ100に入力される。
【0044】
更に前後進切替レバー115の操作位置を検出する前後進レバーセンサ167(図5)やアクセルペダル175の踏み込み位置を検出するアクセルポジションセンサ175a(図5)等によるセンサ信号がコントローラ100に入力されることで、コントローラ100によりそれぞれの操作内容に応じた制御が行われる。
【0045】
図2には副変速ギア伝動機構Cの拡大図を示している。
副変速レバー179の位置が低速では、ギア137がギア139に噛み合い、伝動の流れは、副変速軸20、副変速ギヤ35、副変速カウンタギヤ38、ギア134、ギア140、ギア135、クリープカウンタギヤ49a、クリープカウンタギヤ49b、ギア136、ギア139、ギア137、出力軸3となる。
副変速レバー179の位置が中速では、ギア131がギア133に噛み合い、伝動の流れは、副変速軸20、副変速ギヤ35、副変速カウンタギヤ38、ギア134、ギア140、ギア133、ギア131、出力軸3となる。
【0046】
副変速レバー179の位置が高速では、ギア131がギア130に噛み合い、伝動の流れは副変速軸20、副変速ギヤ35、ギア130、ギア131、出力軸3となる。
路上走行速では副変速のレバー位置の変更はなく、高速位置の状態であり、高速の上側4段(5速〜8速)を使用する。
【0047】
なお、トランスミッション内の副変速ギア伝動機構Cは3段であるが、副変速レバー179の変速位置は、4段(低速179e、中速179d、高速179c、路上走行速179b)である。主変速油圧クラッチAは4段、ハイ・ロー変速クラッチBは2段であるため、低速、中速、高速で副変速の位置に対する変速段数は各8段となる。すなわち、副変速が低速で8段、副変速が中速で8段、副変速が高速で8段となる。路上走行速については、高速8段の上側(高速側)4段となり、コントローラ100により上側4段のみ使用することにしている。したがって、副変速レバー179を路上走行速にしても、トランスミッション内の変速機構は何も動かず、高速位置のままである。
【0048】
また、サブコントロールレバー1連目178aは外部油圧取り出しレバーのことであり、トラクタのロータリ耕耘装置を外して別の作業機を駆動するときなどに高圧のオイルを供給するためのものである。サブコントロールレバー1連目178aの後方にはサブコントロールレバー2連目178bを配置しており、3連目(図示せず)や4連目(図示せず)を設けても良い。
【0049】
ドラフト比調整ダイヤル182は、ドラフトコントロールの感度を調整するダイヤルであり、左側に回すとポジション側、右側に回すとドラフト側となり、ポジション側(左側)にするほど負荷にかかわらず、設定している耕耘深さを維持する制御となる。また、ドラフト比調整ダイヤル182を右側に回すと負荷優先となる。すなわち、所定以上の負荷が作業機に作用すると、耕深よりも負荷を軽くするために作業機(ロータリ耕耘装置など)の図示しない作業機の昇降シリンダを少し上げるように制御する。
【0050】
したがって、圃場の状態やオペレータの好みでドラフト比を調整できる。表1には、ドラフト比の調整と圃場の状態との関係を示す。
(表1)
ドラフト比 1 5
調整ダイヤル (左回し) (右回し)
耕深 浅くする ←→ 深くする
土質 軽い ←→ 重い
【0051】
すなわちポジション側(左)に回すほど、負荷に対するロータリ耕耘装置の昇降変化量が少なくなり、耕す深さを優先する。ドラフト側(右)に回すほど負荷に対するロータリ耕耘装置の昇降変化量が大きくなり、負荷の軽減を図るようにする。
【0052】
そして、ロータリ耕耘装置の上げ調整ダイヤル183は、ロータリ耕耘装置の高さを調整するためのものであって、左側に回すとロータリ耕耘装置の高さが低くなり、右側に回すと高くなる。上げ調整ダイヤル183により、ロータリ耕耘装置の3点リンク機構の高さを調整できる。作業機によっては最も高く上げるとトラクタ本体に当たる場合もあるが、作業機の高さをリフトシリンダの伸縮により調整することで、このような不具合を防止できる。また、それほど上げる必要のない作業機は、この上げ調整ダイヤル183で調整して、効率的な作業を行うことができる。
【0053】
そして、傾き調整ダイヤル184は、ロータリ耕耘装置の傾きを調整するもので、左側に回すと右上がりとなり、右側に回すと右下がりとなる。更に4WD切替スイッチ185は走行ローダと2WDと4WDとフルターンと2WDターンに切換ができる。
【0054】
走行ローダは、路上走行やローダ作業時に使用し、通常は2輪駆動である。しかし、トラクタがぬかるみに入ったり、急な坂道、凹凸道になった場合は、自動的に4輪駆動になる。そして、ブレーキをかけると自動的に4輪駆動になったり、運転中に停止すると4輪駆動になる。すなわち、4輪駆動になることで2輪駆動の場合と比べて走行ブレーキ機能がより発揮され、安定して走行停止ができるようになる。
【0055】
2WD(2輪駆動)の場合は後輪63、63が駆動し、4WD(4輪駆動)の場合は4輪(前輪61、61、後輪63、63)が駆動する。また、フルターンは4WDにおいて旋回時に前輪61、61の速度が増速され、素早い旋回となる。更に2WDターンは固い圃場などでは、旋回時のみ前輪61、61の駆動となり、旋回が素早くスムーズに行える。
【0056】
更に、水平シリンダ(図示せず)の手動上げ下げスイッチ186を手動で操作することにより、ロータリ耕耘装置などの3点リンク機構の水平シリンダを動かすことができる。そして、圃場の状態により、ロータリ耕耘装置の左右傾斜を調整する。また、手動上げ下げスイッチ186は、ロータリ耕耘装置などの作業機の脱着等に使用する。
【0057】
また、PTO入り切りスイッチ187を押しながら右側に回すとPTOが入りになってロータリ耕耘装置が作動し、PTOが入り状態の時に押すと自動でPTOが切りに戻るとロータリ耕耘装置が停止する。更に、PTO手動自動スイッチ188を左側に回すと手動になり、ロータリ耕耘装置の作動を手動で設定して操作する。この場合は、PTO入り切りスイッチ187により、PTO変速が入っているとロータリ耕耘装置が常時作動する。
【0058】
また、PTO手動自動スイッチ188を右側に回すと自動になり、ロータリ耕耘装置の作動が自動で行われる。この場合、ロータリ耕耘装置を上昇させると自動でロータリ耕耘装置の回転が止まり、ロータリ耕耘装置を下降させると自動でロータリ耕耘装置の回転が再開する。
【0059】
そして、PTO手動自動スイッチ188が手動側に設定されている場合は、PTO入り切りスイッチ187が入りの状態で、チェンジが入っていると(PTOチェンジレバー173が中立以外の時の状態をいう)常時PTO軸14が回転する。PTO手動自動スイッチ188が自動側に設定されている場合は、クラッチペダル119を踏んだり、ロータリ耕耘装置を上昇させることにより回転が止まる。この機能は、主に水田作業で利用する。
【0060】
そして、デフロックスイッチ189は、シーソースイッチであり、操縦席16とは反対側を押すとデフロックとなり、もう一度押すとデフロックは解除される。なお、オペレータの腕などが不用意に当たることによる誤操作を防止するため、座席16側は押せない構成である。
【0061】
そして、操縦席16右側のアームレスト部には作業機の昇降位置をコントロールするための作業機ポジションレバー190が配置されており、作業機ポジションレバー190を後側に倒すと作業機は上昇し、前側に倒すと作業機は下降する。この作業機ポジションレバー190の操作角度をポテンショメータ(図示せず)により検出することでその検出値に応じて作業機は昇降する。
【0062】
また、作業機昇降スイッチ191はシーソースイッチであり、後側をワンプッシュするとロータリ耕耘装置は最大位置まで上昇し、前側をワンプッシュすると作業機ポジションレバー190の設定位置まで下降する。最大位置とは、上げ調整ダイヤル183で調整した位置のことである。
【0063】
更に、主変速操作手段としての主変速増減速スイッチ192a,192bは、主変速の変速段のシフトアップ(シフトダウン)用のスイッチであり、副変速レバー179によって操作された変速段(低速、中速、高速、路上走行速)を更に細かく手動で変速するためのものである。主変速増減速スイッチ192a,192bによって上述のように低速は更に8段(1速〜8速の主変速位置)、中速は更に8段(1速〜8速の主変速位置)、高速は更に8段(1速〜8速の主変速位置)、路上走行速は4段(通常、高速の5速〜8速の主変速位置)に変速が可能である。
【0064】
主変速増速スイッチ192aは主変速の変速段(主変速位置)のシフトアップ用のスイッチであり、一回押すごとに変速段がシフトアップし、主変速減速スイッチ192bは、変速段のシフトダウン用のスイッチであり、一回押すごとに変速段がシフトダウンする。エンジン回転数に関係なく、手動操作されると操作された変速段に応じた速度に変速される。
【0065】
また、これらスイッチの後方にはシガーライター194がある。そして、スイッチボックス180にある作業機上昇・下降モニターランプ195はロータリ耕耘装置などの作業機が上昇又は下降する際に点灯する。また、ATシフト作業感度ダイヤル196は、後述するATシフト作業スイッチ200が入りのときに作用する。
ATシフト作業スイッチ200を入りにすると、後述する自動変速(オートドライブ)が作用するが、ATシフト作業感度ダイヤル196は、この自動的に車速を増減速する自動変速の感度を変更するダイヤルであり、右側に回すと感度がアップし、左側に回すと感度がダウンする。なお、スイッチボックス180内のスイッチを操作しない場合は蓋211を閉じてスイッチボックス180内に埃などが入ることを防いでいる。
【0066】
下げ速度ダイヤル197は、作業機下降速度を調整するダイヤルであって、右側に回すと速度が大きくなって作業機は速く降りる。したがって、重量が軽い作業機(例えば水田の代掻機など)などに好適である。一方、左側に回すと速度が小さくなって作業機は遅く降りる。この場合は重量が重い作業機(例えばスキ作業機)などに好適である。
【0067】
そして、ブレーキ調整ダイヤル198を左側に回すとブレーキが弱くなり、右側に回すとブレーキが強くかかる。ブレーキ調整ダイヤル198は、後述するオートブレーキ入切スイッチ206が入りのときに作用する。
【0068】
また、ATシフト路上スイッチ199を入りにすると、副変速レバー179を路上走行速に設定した路上走行のときにエンジン回転数に応じて副変速高速8段の上側4段のうちの適切な変速段に自動で変速する変速可能な自動変速(オートドライブ)機能がオンして自動変速制御となる。ATシフト路上スイッチ199が入りのときは主変速増減速スイッチ192a、192bを操作しても無効となり、アクセルペダル175の踏み込みのみで変速する。
【0069】
なお、主変速増減速スイッチ192a、192bを手動操作するときは、ATシフト路上スイッチ199が切りのときである。副変速が路上走行速のときは、副変速高速の上側4段(5速〜8速)を使用するが、ATシフト路上スイッチ199が切りのときに主変速増減速スイッチ192a、192bを操作して、例えば、3速〜8速にして、その後、ATシフト路上スイッチ199を入り状態にすると、アクセルペダル175の操作のみで3速〜8速の間を自動変速する。
【0070】
そして、ATシフト作業スイッチ200を入りにすると、メモリ100aには副変速レバー179のそれぞれの位置(低速、中速、高速)における使用時間が一番長い主変速位置(1速〜8速の8段の変速段)が記憶されているが、ATシフト作業スイッチ200を入りにして、副変速レバー179を変速操作(低速、中速、高速)すると、メモリ100aに記憶されている主変速位置に自動的に変速されるようになる。
【0071】
副変速レバー179の位置が路上走行速である路上走行時に、ATシフト路上スイッチ199を入りにするとエンジンの回転数に応じて自動で変速制御され、発進、停止時のクラッチ119の操作のみで走行中の変速操作は要しない。また、クラッチペダル119を踏んでいなくても、前後進切替レバー115が中立の場合は車体Tが停車した状態であり、前後進切替レバー115を操作してアクセルペダル175を踏み込んでいくと加速しながら自動変速される。そして、自動変速(オートドライブ)制御時には、アクセルペダル175の踏み込み量に応じたエンジン回転数に対応する車速になるように自動的に変速される。
【0072】
すなわち、アクセルペダル175を踏み込んだ状態ではエンジン回転数が高回転数になり、現在の主変速位置(図2の主変速油圧クラッチAとハイロー変速クラッチBの8段変速のうちの現在の変速位置である。ただし、8速より上はないため、8速は除く)では加速しても車速を上げることができない場合は、コントローラ100により現在の変速位置に対してシフトアップする。ブレーキを踏んで減速するときには、アクセルペダル175は踏んでいないので、車速に対応した変速位置に自動変速する。
【0073】
そして、接続感度変速スイッチ201を押すと入り、再び押すと切りになり、接続感度変速スイッチ201を入り切りすることで、主変速油圧クラッチAにより主変速を変速したときの接続フィーリングを変更できる。例えば、接続感度変速スイッチ201を入りにするとランプ201aが点灯して緩やかな変速をし、切りにするとランプ201aが消灯して急接続(クラッチの早めの接続)をする。プラウなどを後部に装着する牽引系の作業で接続感度変速スイッチ201を使用して切りにすると、主変速油圧クラッチAによる主変速の変速操作時に主変速油圧クラッチAの接続時間が短くなる。
【0074】
更に、接続感度PTOスイッチ202はPTOクラッチEのつながり方の変更ができる。接続感度PTOスイッチ202を押すたびに、ロータリ、牧草1、牧草2の順で点灯する。接続感度PTOスイッチ202をロータリにすると、PTOクラッチEのつながり方が速くなる。主にロータリ耕耘装置などの作業機で使用する。PTO軸14が回転し始めると、すぐに圃場の土の抵抗に負けない回転力で回る。
【0075】
また、接続感度PTOスイッチ202を牧草1あるいは牧草2にすると、PTOクラッチEのつながりが緩やかになる。牧草1と牧草2で2種類の変速が可能である。主に牧草作業機やスノーブロワーなどPTOクラッチEの接続をゆっくり行う作業機で使用する。接続感度PTOスイッチ202をロータリにした場合と同様にPTO軸14で使用する。
【0076】
水平感度スイッチ203は、作業機の自動水平制御装置の動作感度を切り換えるためのスイッチであり、水平感度スイッチ203を押すと、動作感度が鈍くなって自動水平制御の動きが遅くなる。そして、再び水平感度スイッチ203を押すと動作感度が元に戻る。そして、バックアップ入切スイッチ204を入りにすると、トラクタの後進時にロータリ耕耘装置が自動で上昇する。
【0077】
また、オートリフト入切スイッチ205を入りにしてステアリングハンドル73を回すと、自動でロータリ耕耘装置が上昇する。更にオートブレーキ入切スイッチ206を入りにしてステアリングハンドル73を回すと、自動で旋回内側の後輪63のみにブレーキがかかる。そして、水平切換スイッチ207により、ロータリ耕耘装置などの作業機の水平制御を行うことができる。水平切換スイッチ207を押すと、自動水平、手動、平行、傾斜の順にランプが点灯する。自動水平では、水平センサ(図示せず)により、自動的に水平を保持する。手動の場合は、傾き調整ダイヤル184で手動調整する。平行では、トラクタ車体Tに対して、ロータリ耕耘装置を常に平行に保つ。そして、傾斜では、地面に対してロータリ耕耘装置をある一定の角度をもたせるように制御する。
【0078】
3点切換スイッチ208は、リフトシリンダ(図示せず)の取り付け穴の選択によって、スイッチボックス180の3点切換スイッチ208の選択を行う。カテゴリ1の作業機(ロワーリンクの前穴に付けるとき)は1を選択し、カテゴリ2の作業機(ロワーリンクの後穴に付けるとき)は2を選択する。そして、オートアクセルスイッチ209は、入りにした状態でロータリ耕耘装置を上昇すると、エンジン回転数が1700rpm程度まで低下する。
【0079】
そして、本実施形態によれば、ATシフト路上スイッチ199が入りの自動変速制御時に副変速レバー179によって低速179e、中速179d、高速179c、路上走行速179bのうちの路上走行速179bに操作され、且つ主変速増減速スイッチ192a,192bによって主変速位置の変更操作が行われると、その変更操作された主変速位置が、自動変速制御の最低速度に対応する最低変速段の主変速位置(ATシフト路上スイッチ199が入りの自動変速制御時の初期位置(発進変速段))としてコントローラ100内のメモリ100aに記憶されることで、オペレータにとって最適な最低車速変速位置が設定可能となる。
【0080】
例えば、オペレータが最低変速段の主変速位置を上げることで、より高速段の変速位置から走行を開始できる。なお、最低変速段とは、走行開始時の発進変速段であるとともに、メモリ100aに記憶されている変更可能な変速段の最低変速段を言う。すなわち、ATシフト路上スイッチ199が入りの自動変速制御時に自動変速できる最低変速段(自動変速範囲の下限値)を言う。副変速が路上走行時の主変速変速段内においては何度でも更新可能である。
【0081】
更に、コントローラ100は、副変速レバー179によって路上走行速に操作され、更に主変速増減速スイッチ192a,192bによりメモリ100aに記憶されている最低変速段の主変速位置(最低主変速位置と略称する場合がある)よりも減速側の主変速位置に操作された場合に前記記憶されている最低主変速位置を前記減速された主変速位置に更新して記憶させる処理を行う。したがって、オペレータが走行速度が速いと感じた場合など次回から最低主変速位置を下げたい場合に対応できる。
【0082】
図9には、図1のトラクタのコントローラによる制御例のフローを示す。
トラクタによる作業を開始すると、コントローラ100により各センサ、スイッチ類の読み込みが行われる。このときに、ATシフト路上スイッチ199が入りであること、すなわち自動変速制御であることを確認する。そして、オペレータが副変速レバー179を路上走行位置に操作して、更に主変速増減速スイッチ192a,192bを押して主変速を操作した場合(もともとメモリ100aに記憶されている最低主変速位置よりも高速(増速)側又は低速(減速)側に操作した場合、たとえば発進変速段が予め6速に設定されていた場合に6速から5速に変更)に(ステップA)、この操作された主変速位置(5速)が最低主変速位置としてメモリ100aに記憶される。
【0083】
なお、ATシフト路上スイッチ199が入りであるため、主変速増減速スイッチ192a、192bを手動操作してもコントローラ100は当該操作を受け付けず無効であり、実際の主変速はアクセルペダル175の操作によって変速される。
【0084】
そして、この手動操作された主変速位置(5速)が最低主変速位置としてメモリ100aに記憶されると、ATシフト路上スイッチ199が入りの自動変速制御時に5速〜8速の範囲で自動変速可能となる。なお、記憶される前は6速〜8速の範囲で自動変速可能であったが、新たな最低主変速位置が記憶された時点からこのように制御される。
【0085】
通常、路上走行速では高速8段の上側4段(5速〜8速)を使用するが、高速8段の下側4段(1速〜4速)の使用も可能であり、したがって路上走行速の場合は主変速位置を1速に操作すれば8段(1速〜8速)の変速が可能となる。
【0086】
そして、次回の走行開始時には、副変速レバー179を路上走行位置に操作するだけで、最低主変速位置としてメモリ100aに記憶された主変速位置(上記の例では5速)に制御されるため、主変速増減速スイッチ192a,192bの操作が不要となり、運転者に最適な最低主変速位置が設定可能になる。
【0087】
このように副変速レバー179によって路上走行速に操作をすると、当該路上走行速のメモリ100aに記憶された最低主変速位置に応じた最低速度に車速が制御されるが、メモリ100aに記憶された最低主変速位置よりも減速側にオペレータが主変速減速スイッチ192bを操作してシフトダウンした場合は、トラクタの走行状態(停止中、走行中)によらず、シフトダウンした主変速位置がメモリ100aに新たに記憶される。すなわち、メモリ100aに記憶された最低主変速位置よりも減速側にシフトダウンした場合はメモリ100aに記憶された最低主変速位置が変更、更新されて、シフトダウンした主変速位置が新たに最低主変速位置としてメモリ100aに記憶される構成である。
【0088】
通常はATシフト路上スイッチ199を切りにしないとATシフト路上スイッチ199が入り時の自動変速制御時における最低主変速位置を変更できない。しかし、本構成により、ATシフト路上スイッチ199を切りにする操作をしなくても、ATシフト路上スイッチ199が入りのままで自動変速制御時における最低主変速位置を変更可能となる。
【0089】
例えばオペレータが副変速レバー179による変速段操作をして当該変速段のメモリ100aに記憶された最低主変速位置で走行中に、オペレータが速度が速いと感じてもう1速段数を下げたい(シフトダウンしたい)と思った場合に最低主変速位置を下げることが可能になる。
そして、そのシフトダウンした主変速位置が最低主変速位置として新たにメモリ100aに記憶されるため、次回の自動変速制御からは、走行開始時の発進変速段が当該更新された主変速位置になる。
【0090】
また、従来の走行開始時の目標変速位置への変更は、停止中に行なう構成であるが、本構成を採用することにより、特に自動変速制御により走行中であっても最低主変速位置を変更できるので、思いついたときに忘れることなく変更可能となる
コントローラ100は、トラクタの走行中に前回の副変速レバー179による変速段操作と同様の操作をして副変速を路上走行とし、実際に自動変速制御により自動変速走行中に主変速増速スイッチ192aによってメモリ100aに記憶されている最低主変速位置よりも増速側の主変速位置に操作した場合(シフトアップした場合)には当該増速された主変速位置を当該副変速レバー179による変速段における最低主変速位置としてメモリ100aに記憶させない処理を行うことで、例えば、自動変速制御により自動変速走行中に、現在の速度が最低主変速位置に対応する速度である場合、最低主変速位置が増速側に変更されてしまうと実際の速度が増速されてしまうが、このような不具合を防止できる。また、走行停止中であれば最低主変速位置を変更しても問題は無い。
【0091】
図10には、図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローを示す。
トラクタによる作業を開始すると、コントローラ100により各センサ、スイッチ類の読み込みが行われる。このときに、ATシフト路上スイッチ199が入りであること、すなわち自動変速制御であることを確認する。そして、オペレータが副変速レバー179を路上走行位置に操作して、更に主変速増減速スイッチ192a,192bを押して主変速を操作した場合であって(ステップA)、メモリ100aに記憶されている路上走行の場合の主変速位置よりも(工場出荷時は設定初期値(初期設定変速段)が基準となる)高速(増速)側に操作した場合には、トラクタが走行中であれば、この操作された主変速位置は最低主変速位置としてメモリ100aに記憶されない。
【0092】
一方、トラクタが走行中でない場合(停止中)は、メモリ100aに記憶されている路上走行の場合の主変速位置よりも高速(増速)側に操作した場合でも、この操作された主変速位置は最低主変速位置として新たにメモリ100aに記憶され、次回の走行開始時には、自動変速制御を開始すると最低主変速位置としてメモリ100aに新たに記憶された(シフトアップした)主変速位置に制御される。
【0093】
特に路上走行時には路上条件により一時的に主変速を速く(増速)させようとして、ATシフト路上スイッチ199が入りの自動変速制御であることを忘れて主変速増減速スイッチ192a、192bを操作してしまう場合がある。現在、最低主変速位置に対応する最低速で自動変速制御により自動変速走行中の場合、最低主変速位置(発進変速段)が増速側に変更されてしまうと実際の速度が増速されてしまう。しかし、トラクタの走行中にメモリ100aに記憶されている最低主変速位置よりも高速(増速)側に操作した場合は、その変更された主変速位置が最低主変速位置としてメモリ100aに記憶されない構成とすることで、実際の速度が増速されてしまうという上記不具合を防止し、安全性を確保できる。
【0094】
なお、トラクタが停止中の時は、メモリ100aに記憶されている最低主変速位置よりも高速(増速)側に操作した場合、この操作された主変速位置は最低主変速位置として新たにメモリ100aに記憶される。トラクタが停止中の時は、オペレータが次回の操作時には発進変速段として走行を開始したい主変速位置に設定することで、前回よりも高速で走行を開始したい場合にスムーズに速度を上げることができる。
【0095】
このように、トラクタの走行中に副変速レバー179を路上走行速に操作をして、更に主変速増速スイッチ192aによってメモリ100aに記憶されている最低主変速位置よりも高速(増速)側に操作した場合はメモリ100aへの記憶が制限されることで、例えば、現在、最低主変速位置で走行中において急に増速されることを防止できて安全性を確保できる。
【0096】
また、オペレータが副変速レバー179を操作後、主変速増減速スイッチ192a,192bによる主変速変更操作を行った時に、その変更操作された主変速位置が予め設定された安全な位置(例えばトラクタ購入時の設定初期値)以下である場合にのみ、その変更操作された主変速位置が、次回にも同様な前記副変速レバー179の変速段操作が行われた時の走行開始時の主変速位置としてコントローラ100内のメモリ100aに記憶される構成としても良い。
【0097】
本構成を採用することにより、トラクタの走行開始時の発進変速段が設定初期値よりも高速側となることを防止し、次回の走行開始時にいきなり高速側の主変速位置になって速度が上がることもなく、安全性を確保できる。
【0098】
図11には、図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローを示す。また、図12には、最低主変速位置を1速から5速まで変えた場合の変速可能位置を示す。図12では、予め設定された安全な位置を5速とした場合を示している。
トラクタによる作業を開始すると、コントローラ100により各センサ、スイッチ類の読み込みが行われる。このときに、ATシフト路上スイッチ199が入りであること、すなわち自動変速制御であることを確認する。そして、オペレータが副変速レバー179を路上走行位置に操作して、更に主変速増減速スイッチ192a,192bを押して主変速を操作した場合であって(ステップA)、もともと設定された安全な主変速位置である初期設定変速段(工場出荷時の設定初期値)と同じかそれよりも低速(減速)側に操作した場合には(ステップB)、この操作された主変速位置は最低主変速位置として新たにメモリ100aに記憶される。
【0099】
図12には 図11に示すフローのステップBにおいて、初期設定変速段を5速とした場合に、それ以下の1速〜4速に最低主変速位置を変更した場合の可能な変速段(主変速位置)を示したものである。
【0100】
副変速レバー179の高速側179cは、ミッションの主変速位置として、前述のように8段(ハイ4段、ロー4段)の変速段が可能である。通常、最低主変速位置としての初期設定変速段は5速であるため、路上走行速では高速8段の上側(ハイ)4段(5速から8速)を使用するが、新たにメモリ100aに記憶された最低主変速位置が4速である場合は高速8段の上側5段(4速から8速)の使用も可能であり(図12の最低主変速位置が4速の場合)、同様に、新たにメモリ100aに記憶された最低主変速位置が3速である場合は6段(3速〜8速)、最低主変速位置が2速である場合は7段(2速〜8速)、最低主変速位置が1速である場合は8段(1速〜8速)の変速が可能である。したがって、最低主変速位置が低速であるほど、変速(変速段の)可能範囲が広がる。
【0101】
本構成を採用することにより、最低主変速位置が初期設定変速段よりも高速となることを防止でき、安全性を確保できる。例えば、路上走行時にアクセルペダル175を急に踏み込んでも急加速を防止できるようになる。また、変速(変速段の)可能範囲が広がることで様々な条件に対応した走行が可能になる。
【0102】
図13には、図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローを示す。
図13に示すフローは、図11に示すフローのステップAにおいて、主変速をメモリ100aに記憶された最低主変速位置よりも増速側に操作した場合と減速側に操作した場合とを分けて示した例である。
【0103】
ステップAにおいて、主変速を現在の最低主変速位置(メモリ100aに記憶された最低主変速位置)に対して増速側に操作した場合に、増速後の主変速位置が初期設定変速段以下である場合は(ステップD)、コントローラ100は現在の変速位置(メモリ100aに記憶された主変速)よりも1速(1段)増速させる処理を行い、この増速した主変速位置を最低主変速位置としてメモリ100aに記憶させる。
【0104】
例えば、初期設定変速段が5速であって現在の最低主変速位置(メモリ100aに記憶された最低主変速位置)が3速の場合に、3速から5速(2段増速)に増速すると、メモリ100aに記憶される最低主変速位置は3速よりも1速(1段)のみ増加した4速となる。また、初期設定変速段が5速であって現在の最低主変速位置メモリ100aに記憶された最低主変速位置)が3速の場合に、3速から6速(3段増速)に増速すると、6速は初期設定変速段である5速よりも高速であるため、メモリ100aには変速された主変速位置(6速)に更新、記憶されず、現在のメモリ100aに記憶されている最低主変速位置である3速をそのまま保持する。
【0105】
また、ステップAにおいて増速操作されない場合はステップCに進む。ステップCで主変速を現在の最低主変速位置よりも減速側に操作した場合に、現在の最低主変速位置が2速以上であれば、コントローラ100は現在の最低主変速位置(メモリ100aに記憶された主変速)よりも1速(1段)減速した主変速位置を最低主変速位置としてメモリ100aに記憶させる。一方、ステップCにおいて、現在の最低主変速位置が2速よりも低い場合(1速の場合)は、フローをリターンする。
【0106】
例えば、初期設定変速段が5速であって現在の最低主変速位置(メモリ100aに記憶された最低主変速位置)が5速の場合に、5速から3速(2段減速)に減速すると、メモリ100aに記憶される最低主変速位置は5速よりも1速(1段)のみ減少した4速の主変速位置となる。なお、現在の最低主変速位置が1速の場合は、フローをリターンする。
【0107】
本構成を採用することにより、主変速を現在の最低主変速位置よりも2段以上増速側又は減速側に操作した場合でも、1段増速又は1段減速した変速位置が最低主変速位置としてメモリ100aに記憶されるため、トラクタの走行開始時の発進変速段が現在の最低主変速位置(メモリ100aに記憶された最低主変速位置)と比較して、高速側又は低速側に急激に変速されることを防止し、次回の走行開始時には前回の最低主変速位置の条件とあまり変更しないようにすることで、オペレータが交代した場合でも、安全性を確保できる。そして、最低主変速位置の大きな変更を牽制し、トラクタの走行開始時の初期速度の思わぬ速度変更を防止できる。
【0108】
また、図9〜図13の各フローにおいて、オペレータが副変速レバー179を操作後、主変速増減速スイッチ192a,192bによる主変速変更操作を行って、その変更操作された主変速位置が新たにメモリ100aに記憶される場合に、前回メモリ100aに記憶されていた最低主変速位置(現在の変速位置)よりも減速側(走行中、停止中のいずれでも記憶可)又は増速側(図10のフローより停止中のみ記憶可)のいずれに操作された場合でも、メモリ100aが不揮発性ロム(EEPROM等、容量が限られているもの)の場合は主変速を変更操作した後、一定時間経過してから記憶される構成としても良い。
【0109】
変更された最低主変速位置がメモリ100aに記憶しても良いかどうか記憶のタイミングを計ることで、すなわちこれ以上変速されないことを確認してから記憶させることで、記憶させる必要のない場合まで記憶させることを防止し、確実に必要な場合のみ記憶させることで記憶動作の無駄を省き、トラクタの操作性を向上させることができる。また、容量が限られている不揮発性ロムに不要な情報を記憶させて余計な容量が取られることを防ぐとともに、EEPROMの劣化を防止できる。
【0110】
図14には、図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローを示す。
トラクタによる作業を開始すると、コントローラ100により各センサ、スイッチ類の読み込みが行われる。このときに、ATシフト路上スイッチ199が入りであること、すなわち自動変速制御であることを確認する。そして、オペレータが副変速レバー179を路上走行位置に操作して、更に主変速増減速スイッチ192a,192bを押して主変速を操作した場合であって(ステップA)、主変速が変更されて一定時間経過後に(ステップE)、その変更操作された主変速位置が新たにメモリ100aに記憶される。ステップAにおける主変速操作があって主変速が変更されても、ステップEにおいて一定時間経過しないで更に変更された場合には、最終的に変更されてから一定時間経過した場合の主変速位置がメモリ100aに記憶される。
【0111】
例えば誤って主変速の変速操作をしたがすぐに気がついて元に戻した場合や一時的に変速したい場合など、記憶させる必要のない場合やかえって記憶させると不都合が生じる場合などは変更された主変速位置が最低主変速位置としてメモリ100aに記憶されることを防止できる。
そして、不要な情報がメモリ100aに記憶されることを防止し、容量が限られている不揮発性ロムに余計な容量が取られることを防ぐとともに、EEPROMなどの劣化を防止できる。
【0112】
また、ATシフト路上スイッチ199を入りにして自動変速(オートドライブ)機能をオンにした場合に(自動変速制御の状態)、アクセルペダル175やアクセルレバー176の操作をしてから一定時間経過していないと主変速増減速スイッチ192a,192bを押して主変速を操作しても、変更操作された主変速位置に最低主変速位置が変更、記憶されない構成としても良い。
【0113】
図15には、図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローを示す。
トラクタによる作業を開始すると、コントローラ100により各センサ、スイッチ類の読み込みが行われる。このときに、ATシフト路上スイッチ199が入りであること、すなわち自動変速制御であることを確認する。そして、オペレータが副変速レバー179を路上走行位置に操作すると、車速センサ170(図5)により車速を検出して実際にトラクタが走行中か否かを判断する。更に、トラクタが走行中である場合は主変速操作(主変速増減速スイッチ192a,192b)の操作の有無を判断する(ステップA)。
【0114】
そして、主変速増減速スイッチ192a,192bを押して主変速を操作した場合は、ステップGに進み、ステップGにおいて、自動変速後(図5の油圧ソレノイドの出力後)、一定時間経過したか否かを判断する。一定時間経過した場合は最低主変速位置が変更操作された主変速位置に変更されて、その変更された主変速位置がメモリ100aに最低主変速位置として記憶される。
本構成を採用することにより、自動変速と主変速増減速スイッチ192a,192bの操作が一定時間内に重なった場合でも、連続的な主変速(主変速2段減速)が防止できる。すなわち一定時間内に急な速度変更を防止するものである。
【0115】
また、自動変速後一定時間経過している場合は、副変速レバー179及び主変速増減速スイッチ192a,192bの手動操作によってオペレータの意向に応じた最低主変速位置も保持できる。
【0116】
そして、トラクタのメータパネル213(図5、図7)の表示部215(図5、図7)には、主変速の変速可能な段数が表示される構成としても良い。図9〜図15の各フローにおいて、オペレータが副変速レバー179を操作後、主変速増減速スイッチ192a,192bによる主変速変更操作を行って、その変更操作された最低主変速位置が新たにメモリ100aに記憶される場合に、何段(何速から何速まで)が自動で変速されるのか、すなわち自動変速制御の変速範囲が一目瞭然となる。このように、オペレータにとって変速可能な変速段が容易に判ることで、トラクタの操作性が向上する。
【0117】
図16には図1のトラクタのメータパネル213の表示部215の表示例を示している。図16(a)は、最低主変速位置が3速の場合で3速から8速までの6段の変速段が可能な場合を示している。「路上」とは、副変速レバー179を路上走行位置179bに操作した場合であって、その隣の「1〜6」の数字は図12にも示したように6段(3速〜8速)の変速段が可能であることを示している。
【0118】
また、白抜きの数字は現在の変速段の位置を示している。この例では「1」が白抜きの数字であるが、「1」とするのは第1番目という意味であり、オペレータに最低主変速位置であることを認識させるためであって、実際は3速のことを表している。そして、走行中に変速されるとその変速位置が示される。そして、更に表示部215の左下側には現在の車速(時速)が表示され、同様に右下側には燃料量及び水温が表示される。
【0119】
図16(b)は、最低主変速位置が5速の場合で5速から8速の4段の変速段が可能な場合を示している。「1〜4」の数字は図16(a)と同様に4段(5速〜8速)の変速段が可能であることを示している。
【0120】
図5に示すように、各センサ、スイッチ類の信号がコントローラ100に入力されることで、コントローラ100はメータパネル213の表示部215に各センサ、スイッチ類の指示に応じた信号を出力して表示させる処理を行う。
【0121】
本構成を採用することにより、現在メモリ100aに記憶されている最低主変速位置が視認できることで、オペレータの誤操作を防ぐとともに、わざわざ確認する手間を省くことで、トラクタの操作性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明は、トラクタなどの作業車両の操作性を良くすることができ、農業用、建築用、運搬用等の様々な作業車両に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の一実施形態のトラクタの左側面図である。
【図2】図1のトラクタのトランスミッション内の動力伝動図である。
【図3】図2の動力伝動図の油圧回路図である。
【図4】図1の変速装置の前後進動力入切用の油圧クラッチシリンダの構成図である。
【図5】図1のトラクタの制御ブロック図である。
【図6】図1のトラクタの操縦席付近の上面図である。
【図7】図1のトラクタの操縦席付近の斜視図である。
【図8】図8(a)は図6及び図7のスイッチボックスの平面図であり、図8(b)は側面図である。
【図9】図1のトラクタのコントローラによる制御例のフローである。
【図10】図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローである。
【図11】図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローである。
【図12】最低主変速位置を1速から5速まで変えた場合の変速可能位置を示した図である。
【図13】図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローである。
【図14】図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローである。
【図15】図1のトラクタのコントローラによる制御例の別のフローである。
【図16】図1のトラクタのメータパネルの表示部の表示例を示した図である。
【符号の説明】
【0124】
1 エンジン軸 2 入力軸
3 出力軸 4 PTO連動軸
5 前輪出力軸 6 走行カウンタ軸
7 前輪駆動軸 8 バックカウンタ軸
9 PTOカウンタ軸 10 リヤデフ軸
11 後輪軸 12 フロントデフ軸
13 前輪軸 14 PTO軸
15,17 ギヤ駆動軸 16 操縦席
18 PTO変速軸 19 主変速軸
19 主変速軸 20 副変速軸
21 クリープカウンタ軸 22 PTO正逆切替軸
23 PTO減速軸 24 PTO逆回転軸
25 前輪連動軸 26 入力軸
27 副変速カウンタ軸 28 前輪連動軸
30 アームレスト 31 入力ギヤ
32 PTO変速ギヤ 33 主変速ギヤ
34 高低速切替ギヤ 35 副変速ギヤ
36 前輪取出ギヤ 37 PTO正逆切替ギヤ
38 副変速カウンタギヤ 39 主変速カウンタギヤ
40 高低速切替ギヤ 41 前輪駆動切換ギヤ
42 前後進切替ギヤ 43 バックカウンタギヤ
44 PTO変速カウンタギヤ 45 リヤデフ
46 デフリングギヤ 47 フロントデフ
48 入力ギヤ 49 クリープカウンタギヤ
50 PTO減速ギヤ 51 前輪連動ギヤ
52 PTO逆回転ギヤ 53 ドライブピニオンギヤ
54 前輪連動ギヤ 55 前輪ギヤ
56 切替駆動カウンタギヤ 59 カウンタ軸
60 前後進切替クラッチパック
61 前輪 62 エンジン
63 後輪 65 ミッションケース
66 PTOクラッチパック 67 前輪駆動クラッチパック
73 ステアリングハンドル 76 クラッチパック
77F、77R リターンスプリング
78F、78R ピストン 80 油圧ポンプ
81a,81b 減圧弁 82a ブレーキバルブ
82b 圧力制御弁 83 ブレーキシリンダ
85 前後進クラッチシリンダ
86 前後進クラッチ比例圧力制御弁(切替弁)
86F、86R ソレノイド
89 主変速(2−4)クラッチ比例圧力制御弁
90 前後進昇圧ソレノイド
87,88,91,92 油圧クラッチシリンダ
93 主変速(1−3)クラッチ比例圧力制御弁
94 切替制御弁
95 ハイ・ロー油圧クラッチシリンダ
96a,96b 制御弁 97 デフロック制御弁
98a 前輪デフロックシリンダ
98b 後輪デフロックシリンダ
99 四駆切替クラッチシリンダ
100 制御処理装置(コントローラ)
100a メモリ 101 メイン油圧回路
103 パワーステアリング装置
104 PTOクラッチシリンダ
105,106 PTOクラッチ比例圧力制御弁
107 オービットロール 110 前進側クラッチ圧力センサ
111 後進側クラッチ圧力センサ
112 エンジン回転数センサ 115 前後進切替レバー
129 オン・オフ制御弁
130,131,133〜137,139,140 ギア
145、146 圧力センサ 167 前後進レバーセンサ
170 車速センサ 172 駐車ブレーキ
173 PTOチェンジレバー 175 アクセルペダル
175a アクセルポジションセンサ
176 アクセルレバー
177a、177b エンジン回転数記憶スイッチ
178a、178b サブコントロールレバー
179 副変速レバー 179a レバーガイド
179b 副変速路上速位置 179c 副変速高速位置
179d 副変速中速位置 179e 副変速低速位置
180 スイッチボックス 182 ドラフト比調整ダイヤル
183 上げ調整ダイヤル 184 傾き調整ダイヤル
185 4WD切替スイッチ 186 手動上げ下げスイッチ
187 PTO入り切りスイッチ
188 PTO手動自動スイッチ
189 デフロックスイッチ
190 作業機ポジションレバー
191 昇降用スイッチ(作業機昇降スイッチ)
192a、192b 主変速増減速スイッチ
194 シガーライター
195 作業機上昇・下降モニターランプ
196 ATシフト作業感度ダイヤル
197 下げ速度ダイヤル 198 ブレーキ調整ダイヤル
199 ATシフト路上スイッチ
199a ATシフト路上スイッチセンサ
200 ATシフト作業スイッチ
201 接続感度変速スイッチ
201a ランプ 202 接続感度PTOスイッチ
203 水平感度スイッチ 204 バックアップ入切スイッチ
205 オートリフト入切スイッチ
206 オートブレーキ入切スイッチ
207 水平切換スイッチ 208 3点切換スイッチ
209 オートアクセルスイッチ
211 蓋 213 メータパネル
215 表示部 A 主変速油圧クラッチ
B ハイ・ロー変速クラッチ C 副変速ギア伝動機構
D 前後進クラッチ E PTOクラッチ
T トラクタ車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路上走行を含む複数の変速段に変速操作が可能な副変速操作手段(179)と、
前記複数の変速段の各々の変速段から更に細かい変速段である主変速の中の主変速位置を選択する手動操作が可能な主変速操作手段(192a,192b)と、
エンジン回転数を加減するためのアクセル操作手段(175)と、
アクセル操作手段(175)の操作量に応じたエンジン回転数に対応する車速になるように前記副変速操作手段(179)により選択された変速段の中の適切な主変速位置を選択して自動で変速する自動変速機能部を有する制御装置(100)と、
前記制御装置(100)の自動変速機能部を入り切り操作するための自動変速操作手段(199)と
を設けた作業車両の変速装置であって、
前記制御装置(100)は、前記自動変速操作手段(199)により自動変速機能が入りに操作されており、前記副変速操作手段(179)により路上走行が選択され、更に主変速操作手段(192a,192b)により主変速位置が手動操作されると、該手動操作された主変速位置が前記自動変速機能部による自動変速範囲の最低速度に対応する主変速位置である最低主変速位置として記憶されるための記憶部(100a)と、
前記副変速操作手段(179)により前記路上走行が選択され、更に主変速操作手段(192a,192b)により前記記憶部(100a)によって記憶されている最低主変速位置よりも減速側の主変速位置に手動操作された場合には、前記自動変速機能部により自動変速範囲で作業車両が走行中であっても前記記憶されている最低主変速位置を前記減速された主変速位置に更新して記憶させる処理を行う更新記憶機能部を有することを特徴とする作業車両の変速装置。
【請求項2】
前記副変速操作手段(179)により路上走行が選択され、前記自動変速機能部により自動変速範囲で作業車両が走行中の場合、前記制御装置(100)は、前記主変速操作手段(192a,192b)により前記記憶部(100a)によって記憶されている最低主変速位置よりも増速側の主変速位置に操作された場合には、前記増速された主変速位置を副変速操作手段(179)により路上走行が選択された時の最低主変速位置としては記憶させない処理を行う機能を有することを特徴とする請求項1記載の作業車両の変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−236295(P2009−236295A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86371(P2008−86371)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】