説明

保持ブレーキ装置とこれを用いたアクチュエータ及びロボット装置

【課題】 非常停電時に保持ブレーキの回転を確実に阻止することができる保持ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 電動機への通電が遮断した場合に作動して電動機シャフトを拘束する負作動ブレーキであって、回転ディスク(8)と、前記回転ディスク(8)に隣接するアーマチェア(5)と、前記アーマチェア(5)をサイドプレート(7)へ押す第1のバネ(4)と、前記アーマチェア(5)を駆動する第1のコイル(3)とヨーク(2)を備えた保持ブレーキ装置(1)において、前記アーマチェア(5)に凹凸部を備え、前記凹凸部に噛み合う凹凸部を備えたブロック(14)を前記回転ディスク(8)上に備えたことを特徴とする保持ブレーキ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常停電による回転停止時に機械的に回転が阻止される保持ブレーキ装置(一般的に負作動ブレーキと称される)及びこれを組み込んだモータ、アクチュエータ、及びロボット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、保持ブレーキ装置では、回転停止後の保持トルクTは、バネ力(F)×ライニングと相手材の摩擦係数(μ)× 接触半径(r)、である。
すなわち T=μF×r ・・・(1)
図6において、1は保持ブレーキ、2はヨーク、3はコイル、4はバネ、5はアーマチェア、6はライニング、7はサイドプレート、8は回転ディスク、9はスタッド、10はシャフト、11はスプラインであり本図は回転停止時の保持状態を示す。シャフト10にスプライン11で支持された回転ディスクがバネ4の力でアーマチェア5とサイドプレート7にはさまれ、ライニング6を介して押してけられ保持されている。
このように、従来の保持ブレーキ装置の保持トルクはバネ力および接触部材間の摩擦係数で決められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−152560号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の保持ブレーキ装置では、回転停止後の保持トルクは、上記(1)式となる。ところがライニングの磨耗によるバネ力の低下や、ライニングの回転ディスクからの剥離や、ライニング表面に油やグリス等が付着して摩擦係数が下がりブレーキ装置の所定の保持トルクが出なくなる問題があった。
そのため、本ブレーキ装置を組み込んだモータ、アクチュエータを使用したロボットなどの機械において、保持ブレーキが低下することにより、停電時に重力などの影響によりロボットの姿勢が保持できなかったり、機械の垂直軸が下がる等の問題があった。
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、非常停電時に保持ブレーキの回転を確実に阻止することができる保持ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
電動機への通電が遮断した場合に作動して電動機シャフトを拘束する負作動ブレーキであって、回転ディスクと、前記回転ディスクに隣接するアーマチェアと、前記アーマチェアをサイドプレートへ押す第1のバネと、前記アーマチェアを駆動する第1のコイルとヨークを備えた保持ブレーキ装置において、
前記アーマチェアに凹凸部を備え、前記凹凸部に噛み合う凹凸部を備えたブロックを前記回転ディスク上に備えたことを特徴とするものである。
また、請求項1記載の発明において前記回転ディスクに形成された凹凸部は、回転時は遠心力で、停止時はバネ力で移動することを特徴とするものである。
また、請求項1記載の発明において前記第1のコイル近傍の固定部に第2のコイルと第2のバネとプランジャを設け、前記プランジャに沿うように挿入させる複数の穴を前記回転ディスクに形成し、前記プランジャの先端を回転ディスク停止時に回転ディスクに設けた穴に挿入するようにしたことを特徴とするものである。
また、請求項1記載の発明において前記凹凸部が噛み合い歯車であることを特徴とするものである。
また、請求項3記載の発明において前記第2のコイルと第2のバネとプランジャを第1のコイルの内側に設けたことを特徴とするものである。
また、請求項1乃至3の保持ブレーキ装置が、モータ、回転検出器、減速機のいずれかのフレーム内に組み込まれたことを特徴とするものである。
また、関節部の駆動源としてアクチュエータを用いるロボット装置において、前記アクチュエータを、請求項6に記載のアクチュエータで構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、保持ブレーキにおいて回転ディスクが回転停止後、回転ディスクと固定部が機械的に保持され、ブレーキライニングの磨耗やはがれ、あるいは押し付け力の低下による保持トルクの低下が発生しても、回転部を確実に停止保持することができる。また、回転部を確実に停止保持することができるモータやアクチュエータが構成でき、これを関節駆動に用いたロボット等の停止保持を確実にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1実施例を示す保持ブレーキ装置の側断面図
【図2】本発明の第1実施例を示す保持ブレーキ装置の正面図
【図3】本発明の第2実施例を示す保持ブレーキ装置の側断面図
【図4】本発明の第2実施例を示す保持ブレーキ装置の正面図
【図5】本発明の保持ブレーキを組み込んだモータの側断面図
【図6】従来の保持ブレーキ装置の側断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は本発明の保持ブレーキ装置の側断面図、図2は保持ブレーキ装置の正面図である。図1と図2において、1は保持ブレーキ、2はヨーク、3はコイル、4はバネ、5はアーマチェア、6はライニング、7はサイドプレート、8は回転ディスク、9はスタッド、10はアクチュエータや減速機などのシャフト、11はスプラインである。シャフト10が回転中(通電時)はコイル3に電流が流れ、発生した磁界による磁束がヨーク2を通り、アーマチェア5をバネ4の力に抗し吸引することにより、回転ディスク8に取り付けられたライニング6とアーマチェア5およびサイドプレート7の間に隙間が生じで、回転ディスク8にスプライン11で勘合したシャフト10が回転する。スタッド9はアーマチェア5のガイドである。
【0010】
次にコイル3の電流がなくなると(非常停電時)吸引力はなくなり、バネ4の力でアーマチェア5がサイドプレート7側に押され、回転ディスク8はライニング6を介してサイドプレート7に押し付けられた摩擦力により制動され、そのまま保持される。
本発明が従来技術と異なる部分は、12a、12bの凹凸部である噛み合い歯、13の戻しバネ、14のブロックを設けた部分である。噛み合い歯12aはブロック14に、噛み合い歯12bはアーマチェア5に形成されている。ブロック14は回転ディスクに取り付けられており半径方向に可動できるようになっている。
【0011】
その動作は回転中(通電時)はアーマチェア5はヨーク3に吸引されているため、噛み合い歯12aと12bは噛み合ってなく、さらに遠心力によりブロック14が噛み合いが外れる位置まで外側に移動している。コイル3の電流がなくなる(非常停電時)とアーマチェアがサイドプレート7の方向に移動するとともに、回転ディスク8が制動され、回転が落ちるとともに遠心力が小さくなり、戻しバネ13の力によりブロック14が内側に移動し、噛み合い歯12aと12bが噛み合う。これにより回転ディスク8を機械的に固定(保持)することができる。
【実施例2】
【0012】
図3は第2の実施例の構成を示す図であり、図4は図3の正面図である。図3と図4において、21は第2のコイル、22はバネ、23はプランジャ、24は回転ディスクに設けられた穴である。シャフト10が回転中(通電時)は第2のコイルを励磁することによりプランジャ23が吸引されて、回転ディスクは自由にまわる。非常停電時は第2のコイルへの給電が遮断されるので、第1のコイルと第2のコイルへの電流が遮断され励磁がなくなり、バネ22の力でプランジャ23を回転ディスクに設けた穴24に挿入する。これにより回転保持を機械的に確実に行うことができる。
第1のコイル近傍の固定部に第2のコイルと第2のバネとプランジャを設け、プランジャに沿うように挿入させる複数の穴を回転ディスクに形成している。これによりプランジャの先端を回転ディスク停止時に回転ディスクに設けた穴に挿入するようにしている。
【0013】
図5は実施例1の保持ブレーキをモータに組み込んだ構成を示す図である。51は保持ブレーキ付モータ、52はフレーム、53aおよび53bは軸受、54はステータ、55はロータ、56はシャフト10の回転角度を検出するエンコーダである。
このように、モータおよびアクチュエータに本保持ブレーキを組み込むことにより、非常停電時のシャフト10の保持をより確実にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本保持ブレーキをロボット等の関節を駆動するアクチュエータに組み込むことにより、非常停電時にもロボットアームなどが重力により下がることなく非常停電時の姿勢を確実に保持することができる。
【符号の説明】
【0015】
1 保持ブレーキ
2 ヨーク
3 コイル
4 バネ
5 アーマチェア
6 ライニング
7 サイドプレート
8 回転ディスク
9 スタッド
10 シャフト
11 スプライン
12a、12b 噛み合い歯
13 戻しバネ
14 ブロック
21 第2のコイル
22 バネ
23 プランジャ
24 穴
51 保持ブレーキ付モータ
52 フレーム
53a、53b 軸受
54 ステータ
55 ロータ
56 エンコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機への通電が遮断した場合に作動して電動機シャフトを拘束する負作動ブレーキであって、回転ディスクと、前記回転ディスクに隣接するアーマチェアと、前記アーマチェアをサイドプレートへ押す第1のバネと、前記アーマチェアを駆動する第1のコイルとヨークを備えた保持ブレーキ装置において、
前記アーマチェアに凹凸部を備え、前記凹凸部に噛み合う凹凸部を備えたブロックを前記回転ディスク上に備えたことを特徴とする保持ブレーキ装置。
【請求項2】
前記回転ディスクに形成された凹凸部は、回転時は遠心力で、停止時はバネ力で移動することを特徴とする請求項1記載の保持ブレーキ装置。
【請求項3】
前記第1のコイル近傍の固定部に第2のコイルと第2のバネとプランジャを設け、前記プランジャに沿うように挿入させる複数の穴を前記回転ディスクに形成し、前記プランジャの先端を回転ディスク停止時に回転ディスクに設けた穴に挿入するようにしたことを特徴とする請求項1記載の保持ブレーキ装置。
【請求項4】
前記凹凸部が噛み合い歯車であることを特徴とする請求項1記載の保持ブレーキ装置。
【請求項5】
前記第2のコイルと第2のバネとプランジャを第1のコイルの内側に設けたことを特徴とする請求項3記載の保持ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1乃至3の保持ブレーキ装置が、モータ、回転検出器、減速機のいずれかのフレーム内に組み込まれたことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項7】
関節部の駆動源としてアクチュエータを用いるロボット装置において、
前記アクチュエータを、請求項6に記載のアクチュエータで構成したことを特徴とするロボット装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−58578(P2011−58578A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209747(P2009−209747)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】