説明

保持治具、薄膜形成装置、及び薄膜形成方法

【課題】基材を保持するとともに、基材の平坦面の露出領域の面積を任意に変更することが可能な保持治具を提供する。
【解決手段】保持治具50は、透明基材10a下面の反射領域10a以外の領域をマスクするマスク部材53A、53Bを有している。このマスク部材53A、53Bはフレーム51に対して着脱可能であるため、反射膜10bを形成した後にマスク部材53A、53Bをフレーム51から取り外すことで、透明基材10aを別の保持治具などに載せ替えることなく、接着領域10cを露出させることが可能となる。これにより、作業効率を向上させるとともに、透明基材10aへの薄膜形成工程の工数を削減することができ、ミラー10の製造コストを削減することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持治具、薄膜形成装置、及び薄膜形成方法にかかり、更に詳しくは、薄膜が形成される基材を保持する保持治具、保持治具に保持された基材に薄膜を形成する薄膜形成装置、及び保持治具に保持された基材に薄膜を形成する薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カールソンプロセスを用いて画像を形成する画像形成装置としては、例えば、回転する感光ドラムの表面を、光ビームで走査することにより、感光ドラム表面に潜像を形成し、この潜像を可視化して得られたトナー像を、記録媒体としての用紙上に定着させることにより、画像を形成する画像形成装置が知られている。この種の画像形成装置は、オンデマンドプリンティングシステムとして簡易印刷によく用いられており、近年では、カラー画像を形成することが可能な画像形成装置も広く普及するに至っている。
【0003】
カラー画像を形成する画像形成装置(以下、カラー画像形成装置ともいう)には、例えば、複数の色に共通する感光体を有し、この感光体に形成された各色に対応する複数のトナー像を重ね合わせて記録媒体に転写する装置や、各色に対応した複数の感光体を有し、各感光体に形成されたトナー像を重ね合わせて記録媒体に転写する装置などがある。いずれの装置にせよ、これらのカラー画像形成装置では、複数色のトナー像を重ね合わせることにより1つのカラー画像を形成するために、各色に対応したトナー像を、記録媒体としての用紙上に精度よく重ね合わせて定着させる必要がある。
【0004】
上述したトナー像の重ね合わせ精度は、光源からの光ビームを整形する整形光学系と、光ビームを感光体上に入射させる光学系などに含まれる光学素子との間の相対位置関係に密接に関係するものである。そのため、カラー画像形成装置では、整形光学系に対して、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されたミラーに代表される光学素子を、精度よく位置決めした状態で配置する必要がある。
【0005】
カラー画像形成装置において上述のミラーを配置する方法としては、装置の部品点数の削減、及び組み立ての容易性の観点から、例えば光学系などが収容される筐体に設けられた支持部などに、ミラーの一部を接着する方法が考えられる。この場合には、ミラーと整形光学系との相対位置関係の変動に起因するレジストずれや、色ずれなどの発生を防止する必要があるため、ミラーの接着面の濡れ性を大きくして、ミラーの接着強度をある程度高める必要がある。
【0006】
【特許文献1】特許第2637016号公報
【特許文献2】特開2000−155204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の濡れ性が高められたミラーを製造する工程では、透明基材の平坦面の一部をマスクした状態で金属材料を蒸着させることにより平坦面に反射膜を形成し、その後、平坦面内の反射膜が形成された領域(以下、反射領域ともいう)と、マスクされていた領域(以下、接着領域)とに、反射率を向上させるとともに濡れ性を高めるためのコーティングを施す処理が行われている。従来は上述の処理を行う場合に、透明基材の平坦面のうち、反射領域のみを露出することができる治具に透明基材を取り付けた状態で反射膜を形成し、次に、透明基材の反射領域と接着領域との双方を露出することができる治具に透明基材を取り付けた状態で、透明基材の平坦面のコーティングを行わなければならなかった。このため、ミラーの製造工程では、2種類の治具を用意するとともに、異なる治具間で透明基材の載せ替えを行う必要が生じていた。
【0008】
本発明は、かかる事情の下になされたもので、その第1の目的は、基材を保持するとともに、基材の平坦面の露出領域の面積を任意に変更することが可能な保持治具を提供することにある。
【0009】
また、本発明の第2の目的は、前記保持治具に保持された基材の平坦面の所望の領域に薄膜を形成することが可能な薄膜形成装置を提供することにある。
【0010】
また、本発明の第3の目的は、基材に薄膜を形成する工程の工数を削減することが可能な薄膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、第1の観点からすると、薄膜が形成される平坦面を有する基材を保持する保持治具であって、前記基材の第1軸方向の一端部に係止可能な第1係止部と、前記基材の前記第1軸方向の他端部に係止可能な第2係止部とを有するフレームと;前記平坦面に対して傾斜した第1の平面内を、前記基材の一端側から前記平坦面の中央側の第1位置に当接する位置まで移動可能に設けられ、前記平坦面の前記第1位置から前記基材の一端側の領域をマスク可能な第1マスク部材と;前記平坦面に対して傾斜した前記第1の平面と異なる第2の平面内を、前記基材の他端側から前記平坦面の中央側の第2位置に当接する位置まで移動可能に設けられ、前記平坦面の前記第2位置から前記基材の他端側の領域をマスク可能な第2マスク部材と;を備える保持治具である。
【0012】
これによれば、フレームの第1係止部と第2係止部によって、第1軸方向の両端が係止された基材に対して、第1マスク部材及び第2マスク部材を、基材の平坦面に傾斜した第1の平面及び第2の平面に沿ってそれぞれ移動させることで、基材の平坦面の露出領域の面積を任意に変更することが可能となる。
【0013】
本発明は第2の観点からすると、本発明の保持治具に保持された基材に、薄膜を形成する薄膜形成装置であって、複数の保持治具がそれぞれ装着される所定数の開口部が設けられた保持部材と;保持治具を介して前記保持部材に装着された基材の平坦面に対して、蒸着材料を蒸着させる蒸着装置と;を備える薄膜形成装置である。
【0014】
これによれば、保持部材に設けられた複数の開口部に装着された保持治具に保持される基材に対して、蒸着材料の蒸着を行う場合に、保持治具の第1マスク部材及び第2マスク部材を移動して、基材の平坦面の露出領域の面積を変更することで、蒸着材料によって構成される薄膜を、基材の平坦面の所望の領域に形成することが可能となる。
【0015】
本発明は第3の観点からすると、本発明の保持治具に保持された前記基材に、複数の薄膜を形成する薄膜形成方法であって、前記第1マスク部材及び前記第2マスク部材で、前記基材の平坦面の、前記第1位置から前記基材の一端側の第1領域、及び前記第2位置から前記基材の一端側の第2領域をマスクするマスク工程と;前記第1領域及び前記第2領域がマスクされた前記平坦面に、反射性を有する物質を蒸着させて反射膜を形成する反射膜形成工程と;前記マスク部材をフレームに対して移動させて、前記平坦面の前記第1領域及び前記第2領域それぞれの少なくとも一部の領域を露出させる露出工程と;前記平坦面の、前記反射膜が形成された領域と、前記第1領域及び前記第2領域とに、保護膜を形成する保護膜形成工程と;を含む薄膜形成方法である。
【0016】
これによれば、基材の平坦面の第1、第2領域がマスクされた状態で、基材の平坦面に反射膜が形成される。そして、第1、第2マスク部材が移動され基材の平坦面の反射膜が形成された領域と、第1、第2マスク部材にマスクされていた第1、第2領域とに保護膜が形成される。これにより、基材の平坦面に反射膜を形成する工程と、保護膜を形成する工程間で、基材を異なる保持治具に載せ替える必要がなくなり、基材に薄膜を形成する工程の工数を削減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図16に基づいて説明する。図1は、本実施形態にかかるミラー10を示す斜視図である。このミラー10は、コピー機などの光走査装置を備えた画像形成装置に用いられている光学素子の1つであり、例えば光源から射出される光ビームを偏向することにより、光ビームの進行方向を偏向する反射ミラーである。
【0018】
図1に示されるように、ミラー10は直方体状のミラーであり、例えばガラスや透明樹脂などを素材とし長手方向をY軸方向とする透明基材10aを有している。そして、図1及びミラー10の平面図である図2を総合して見るとわかるように、透明基材10aの上面(+Z側の面)には、反射膜10b、及び保護膜10cが順次形成されている。
【0019】
前記反射膜10bは、透明基材10a上面の両端部の領域を除いた領域に形成された、光ビームに対して反射性を有する膜である。ここで、説明の便宜上、図1に示されるように、透明基材10a上面の両端部の領域を接着領域a2と定義し、透明基材10a上面の両端部の領域を除いた領域を反射領域a1と定義する。
【0020】
上述した反射膜10bは、一例として、透明基材10aを十分に精密洗浄した後に十分に乾燥させ、真空環境下で透明基材10aの反射領域a1に、例えばアルミニウムや、アルミニウムを含む合金が蒸着されることにより形成されている。
【0021】
前記保護膜10cは、図1及び図2を総合して見るとわかるように、透明基材10a上面の反射領域a1と接着領域a2に渡って連続して形成された透過性を有する膜である。図3は、図2におけるAA線に沿った断面図である。図3に示されるように、この保護膜10cは3層構造の膜であり、最上層(+Z側の層)と最下層(−Z側の層)は親水性が高いSiOが蒸着されることにより形成され、最上層と最下層とに挟まれた中間層はTiOが蒸着されることにより形成されている。
【0022】
上述したように、保護膜10cが、透明基材10aの反射領域a1と接着領域a2とに形成されることで、反射領域a1では、反射膜10bと保護膜10cとの相互作用により、光ビームに対する反射率が向上するとともに、反射膜10bが保護膜10cによって電気的に絶縁される。そして、接着領域a2では、後述する接着剤に対する濡れ性(親水性)が大きくなる。ここで、濡れ性とは、保護膜10cの表面に接着剤が付着したときの、接着剤表面と保護膜10c表面との接触角と等価であり、接触角が大きくなるほど濡れ性が大きい(良好である)と考えられる。
【0023】
図4は、画像形成装置の光学ハウジング100aの一部を示す図である。図4に示されるように、光学ハウジング100aには、ミラー10の両端に形成された接着領域a2を支持する支持面101aが形成された複数組のリブ101A、101Bが形成されている。また、前記リブ101Aの支持面101aには、リブ101Bとは異なり、図5に示されるように、その中央部に母線方向をY軸方向とする半円柱状の突出部が形成されている。上述のように構成されたミラー10は、両端部がリブ101A、101Bによって支持されることで、光学ハウジング100aに装着されている。
【0024】
以下、ミラー10の装着方法について説明する。ミラー10をリブ101A、101Bを介して装着する際には、図6に示されるように、まずミラー10を、その両端部に形成された接着領域a2が、リブ101A、101Bそれぞれの支持面101aに対向した状態で配置する。そして、図6及び図7を総合して見るとわかるように、弾性材料からなる保持部材103を、ミラー10の+Y側の端部に当接させた状態で、ネジ80を保持部材103に設けられた丸孔を介してボス102に螺合する。これにより、ミラー10の+Y側の接着領域a2は、保持部材103の弾性力によってリブ101Aの支持面101aに対して押圧される。上述したように、リブ101Aの支持面101aにはミラー10の接着面に対して突出する半円柱状の突出部が形成されているため、この状態のときには、ミラー10は+Y側の端部を中心に−Y側の端部を動かすことが可能な状態となっている。
【0025】
次に、図8に示されるように、ミラー10の−Y側端部の接着領域a2とリブ101Bの支持面101aとの間に、一例として紫外線硬化性を有する接着材を注入し、不図示の治具を用いてミラー10を+Y側端部を中心に動かして、その姿勢の微調整を行う。
【0026】
そして、図8中の矢印に示されるように、ミラー10の透明基材10aを介して紫外線を接着材に照射することにより接着材を硬化させる。これにより、ミラー10は、姿勢の調整が行われた状態で光学ハウジング100aに装着される。
【0027】
次に、ミラー10の反射膜10b、及び保護膜10cを形成する方法について説明する。
【0028】
図9は、蒸着装置を用いてミラー10に反射膜10b及び保護膜10cを形成する際に、ミラー10を保持するための保持治具50を示す図である。
【0029】
前記保持治具50は、図9に示されるように、矩形枠状のフレーム51、フレーム51に固定された1対のガイド部材52A、52B、フレーム51に対して摺動可能に配置された一対のマスク部材53A、53Bを備えている。
【0030】
図10は、保持治具50の展開斜視図である。図10に示されるように、前記フレーム51は、矩形枠状の部材であり、X軸方向を長手方向とする支持部51bと、Y軸方向を長手方向とする1組のフレーム部51aとを有している。支持部51bそれぞれは、長方形板状に形成され、その上面が相互に対向する側から外側に向かうにつれて低くなるように傾斜した状態で設けられ、それぞれの両端部が、フレーム部51aによって連結されている。本実施形態では、一例として支持部51bの上面がXY平面に対して3度傾斜した状態となっている。
【0031】
前記ガイド部材52Aは、長手方向をX軸方向とする板状の部材である。このガイド部材52Aには、−Y側端部から中央部にかけて切り欠き52aが形成され、この切り欠き52aの+X側及び−X側に、切り欠き52aと平行するように1組のきり欠き52bが形成されている。また、ガイド部材52Aの−Y側の2つのコーナー部分近傍にはZ軸方向に貫通する丸孔52cが形成されている。
【0032】
また、前記ガイド部材52Bもガイド部材52Aと同等の構成を有し、+Y側端部から中央部にかけて切り欠き52aが形成され、この切り欠き52aの+X側及び−X側にそれぞれ切り欠き52bが形成されている。そして、ガイド部材52Aの+Y側の2つのコーナー部分近傍にはZ軸方向に貫通する丸孔52cが形成されている。
【0033】
前記マスク部材53Aは、上述したガイド部材52A、52Bよりも幅(Y軸方向の寸法)が広い長手方向をX軸方向とする板状の部材である。このマスク部材53Aには、上面の中央部に上方に突出する円柱状の凸部53aが形成され、この凸部53aの+X側及び−X側にそれぞれ丸孔53bが形成されている。また、マスク部材53Aの−Y側のコーナー部分には、ガイド部材52Aの丸孔52cと対応可能な位置に丸孔53cがそれぞれ形成されている。
【0034】
また、前記マスク部材53Bもマスク部材53Aと同等の構成を有し、上面の中央部に凸部53aが形成され、この凸部53aの+X側及び−X側にそれぞれ丸孔53bが形成されている。また、マスク部材53Bの−Y側のコーナー部分には、ガイド部材52Bの丸孔52cと対応可能な位置に丸孔53cがそれぞれ形成されている。
【0035】
図9及び図10を参照するとわかるように、ガイド部材52Aは、その下面が対向するフレーム51の支持部51bと平行となった状態で配置され、フレーム51に設けられた1組のフレーム部51aそれぞれの−Y側の端部に、ガイド部材52Aの+X側及び−X側の外縁の中央から+Y側の部分が固定されている。また、ガイド部材52Bは、その下面が対向するフレーム51の支持部51bと平行となった状態で配置され、フレーム51に設けられた1組のフレーム部51aそれぞれの+Y側の端部に、ガイド部材52Aの+X側及び−X側の外縁の中央から−Y側の部分が固定されている。
【0036】
そして、マスク部材53Aは、 図9及び図10を参照するとわかるように、凸部53aがガイド部材52Aに形成された切り欠き52aに挿入されるように、フレーム51の支持部51bとガイド部材52Aとの間に−Y側から挿入されることで、フレーム51の支持部51bの上面に沿って移動可能に取り付けられている。また、マスク部材53Bは、凸部53aがガイド部材52Bに形成された切り欠き52aに挿入されるように、フレーム51の支持部51bとガイド部材52Bとの間に+Y側から挿入されることで、フレーム51の支持部51bの上面に沿って移動可能に取り付けられている。
【0037】
上述のように取り付けられたマスク部材53A、53Bそれぞれは、凸部53aがガイド部材52A、52Bの切り欠き52aの内部を摺動する範囲で移動可能となっており、ガイド部材52A、52Bに形成された切り欠き52bを介して、ネジ60がマスク部材53A、53Bにそれぞれ設けられた丸孔53bに螺合されることで、フレーム51に対して固定されるようになっている。また、マスク部材53A、53Bに設けられた丸孔53cを、ガイド部材52A、52Bに設けられた丸孔52cに一致させることで、マスク部材53A、53Bを、フレーム51に対して所定の位置で位置決めすることも可能となっている。
【0038】
上述のように構成された保持治具50には、図11に示されるように、長手方向をY軸方向とする透明基材10aが、X軸方向に隣接して複数個(14個)配列された状態で保持される。この状態のときには、図12(A)及び透明基材10aとマスク部材53Aの拡大図である図12(B)に示されるように、各透明基材10aは、ガイド部材52A及びガイド部材52Bに挟まれた状態で、それぞれの両端部の下面が、マスク部材53Aの上面と+Y側の側面によって形成されるコーナー部分と、マスク部材53Bの上面と−Y側の側面によって形成されるコーナー部分とによって支持された状態となっている。これにより、透明基材10aは、例えば図1に示される反射領域a1のみがフレーム51の下方から露出した状態となっている。
【0039】
保持治具50に保持された透明基材10aに対して、反射膜10b及び保護膜10cを形成するには、図13に示されるコーティング装置200が用いられる。図13に示されるように、コーティング装置200は、内面が球面形状となった鉛直軸を中心に回転する回転盤202、回転盤202に保持治具50を介して装着された透明基材10aに対して蒸着材料を蒸着させる蒸着装置203、及び上記各部を収容するチャンバ201などを備えている。
【0040】
図14(A)に示されるように、回転盤202には回転中心に円形開口202aが設けられ、該円形開口202aを中心に、2種類の大きさの矩形状の開口202b、202cがそれぞれ形成されている。コーティング装置200では、一例として図14(B)に示されるように、保持治具50のフレーム51が回転盤202に形成された開口202b、202cに上方から嵌合されることで、透明基材10aが保持治具50を介して回転盤202に装着されるようになっている。そして、回転盤202を鉛直軸回りに回転させながら、蒸着装置203が運転されることで、保持治具50に保持された透明基材10aの下面に薄膜が形成される。
【0041】
本実施形態では、コーティング装置200を用いて、保持治具50に保持された透明基材10aの反射領域a1に反射膜10bを形成する。次に、保持治具50のマスク部材53A、53Bをフレーム51から取り外すことにより、透明基材10aの反射領域a1及び接着領域a2をフレーム51の下方から露出させて、反射領域a1及び接着領域a2に対して同時に連続した保護膜10cを形成する。以下、図15(A)〜図16(B)を参照しつつ、薄膜形成方法について説明する。
【0042】
図15(A)には、コーティング装置200によって、下面の反射領域a1に反射膜10bが形成された透明基材10aが、保持治具50に保持された状態で示されている。コーティング装置200によって、透明基材10aの反射領域a1に反射膜10bが形成されたら、透明基材10aは保持治具50に保持された状態で一旦コーティング装置200のチャンバ内から取り出される。
【0043】
そして、保持治具50は、図15(B)に示されるように、床面に載置された正方形板状のベースと、ベース上面に長手方向をX軸方向として設けられた当接部70aとを有する引き抜き治具70に載置される。これにより、保持治具50によって保持されていた透明基材10aが一旦引き抜き治具70の当接部70aによって支持される。なお、当接部70aは、上端部が楔状に形成されており、当接部70aと透明基材10aとの接触面積は最小限に押さえられている。
【0044】
次に、保持治具50のネジ60を取り外してマスク部材53A、53Bの規制を解放し、図16(A)に示されるように、マスク部材53A、53Bそれぞれをフレーム51から抜き取る。この状態から引き抜き治具70に載置された保持治具50を持ち上げることで、図16(B)に示されるように、透明基材10aは、その下面の両端部がフレーム51の支持部51bによって係止される。なお、支持部51bの上面は、上述したようにXY平面に対して傾斜しているため、透明基材10aの両端部は、支持部51bの上面と側面とによって形成されるコーナー部分によって支持される。そして、透明基材10a下面の反射領域a1、及び接着領域a2の双方は、保持治具50のフレーム51の下方から露出した状態となる。
【0045】
次に、マスク部材53A、53Bが取り外された保持治具50に保持された透明基材10aは、コーティング装置200の回転盤202に装着され、コーティング装置200により、透明基材10aの反射領域a1及び接着領域a2に保護膜10cが形成される。
【0046】
以上説明したように、本実施形態にかかる保持治具50は、透明基材10a下面の反射領域10a以外の領域をマスクするマスク部材53A、53Bを有している。このマスク部材53A、53Bはフレーム51に対して着脱可能であるため、反射膜10bを形成した後にマスク部材53A、53Bをフレーム51から取り外すことで、透明基材10aを別の保持治具などに載せ替えることなく、接着領域10cを露出させることが可能となる。これにより、作業効率を向上させるとともに、透明基材10aへの薄膜形成工程の工数を削減することができ、ミラー10の製造コストを削減することが可能となる。
【0047】
また、フレーム51からのマスク部材53A、53Bの取り外しは、例えばマスキングテープなどによるマスクを取り外す場合に比較して単純な動作であるため、短時間で行うことができ、透明基材10aへの異物の付着を抑制することが可能となる。
【0048】
また、透明基材10aに対して、反射膜10b、及び保護膜10cの双方を単一の保持治具50を用いて形成することができるので、別途他の保持治具を用意する必要がなく、製造装置の低コスト化を図ることが可能となる。
【0049】
また、本実施形態にかかる保持治具50では、透明基材10aをマスク部材53A、53Bのコーナー部分、あるいはフレーム51に形成された支持部51bのコーナー部分によって支持することにより、透明基材10aと保持治具50との接触面積が最小限に抑えられるようになっている。これにより、透明基材10a表面での擦り傷等の発生を回避することが可能となる。
【0050】
なお、保持治具50で透明基材10aを保持する際に、14個よりも少ない数の透明基材10aを保持する場合には、一例として図17に示されるように、ダミー基材10a’を透明基材10aに隣接させて配置することが望ましい。これにより、下方からの蒸着材料がフレーム51を通過して回り込み、透明基材10aの上面に付着することを回避することが可能となる。また、ダミー基材10a’の代わりに、不足分の透明基材10aに対応する蓋部材を保持させてもよい。
【0051】
また、本実施形態にかかるコーティング装置200では、回転盤202に形成された開口に保持治具50を介して透明基材10aが装着される。したがって、保持治具50に保持された透明基材10aに対して精度よく反射膜10b及び保護膜10cを形成することが可能となる。
【0052】
なお、コーティング装置200による薄膜形成工程で、回転盤202の開口202b、202cのうち、保持治具50が装着されない開口がある場合には、当該開口を蓋部材などで閉塞するのが好ましい。これにより、回転盤202の開口から蒸着材料が回り込み、透明基材10aの上面に付着することを回避することができる。
【0053】
また、回転盤202の開口202cに2つの保持治具50を装着する場合には、図18に示されるように、固定部材80を用いて、保持治具50同士を連結することとしてもよい。このように保持治具50同士を連結することで、回転盤202の回転に伴って生じる保持治具50の遊動を抑制することが可能となる。これにより、透明基材10aに形成される膜の厚さが不均一になることを回避することができる。なお、この固定部材80は、回転盤202に設けられていてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、透明基材10aの反射領域a1と、その両側の接着領域a2とに、同一の工程で保護膜10cが形成される。この結果、透明基材10aの反射領域a1の反射率の向上と、接着領域a2の濡れ性を向上させることによる接着強度の向上とを同一の工程で実現することが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態では、透明基材10aに、反射膜10bと保護膜10cの2種類の膜を形成する場合について説明したが、これに限らず、保持治具50に保持された透明基材10aに3種類以上の膜を形成することも可能である。この場合、フレーム51に対するマスク部材53A、53Bの位置を調整するとで、透明基材10a上の膜が形成される領域の面積を任意に変更することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態にかかるミラー10を示す斜視図である。
【図2】ミラー10の側面図である。
【図3】ミラー10の断面図である。
【図4】光学ハウジング100aに設けられたリブ101A、101Bを示す図である。
【図5】リブ101Aを示す斜視図である。
【図6】ミラー10の装着方法を説明するための図(その1)である。
【図7】ミラー10の装着方法を説明するための図(その2)である。
【図8】ミラー10の装着方法を説明するための図(その3)である。
【図9】本発明の一実施形態にかかる保持治具50を示す斜視図である。
【図10】保持治具50の展開斜視図である。
【図11】透明基材10aを保持した状態の保持治具50を示す斜視図である。
【図12】図12(A)及び図12(B)は、透明基材10aを保持した状態の保持治具50を示す側面図である。
【図13】コーティング装置200の概略構成を示す図である。
【図14】図14(A)及び図14(B)は、コーティング装置200への保持治具50の装着方法を説明するための図(その1、その2)である。
【図15】図15(A)及び図15(B)は、透明基材10aに反射膜10b及び保護膜10cを形成する方法を説明するための図(その1、その2)である。
【図16】図16(A)及び図16(B)は、透明基材10aに反射膜10b及び保護膜10cを形成する方法を説明するための図(その3、その4)である。
【図17】透明基材10aとダミー基材10a’を保持した状態の保持治具50を示す斜視図である。
【図18】固定部材80によって連結された保持治具50を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0057】
10…ミラー、10a…透明基材、10a’…ダミー基材、10b…反射膜、10c…保護膜、50…保持治具、51…フレーム、51a…フレーム部、51b…支持部、52A、52B…ガイド部材、52a、52b…切り欠き、52c…丸孔、53A、53B…マスク部材、53a…凸部、53b、53c…丸孔、70…引き抜き治具、70a…当接部、80…固定部材、100a…光学ハウジング、101A、101B…リブ、101a…支持面、102…ボス、103…保持部材、200…コーティング装置、202…回転盤、202a…円形開口、202b、202c…開口、203…蒸着装置、a1…反射領域、a2…接着領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜が形成される平坦面を有する基材を保持する保持治具であって、
前記基材の第1軸方向の一端部に係止可能な第1係止部と、前記基材の前記第1軸方向の他端部に係止可能な第2係止部とを有するフレームと;
前記平坦面に対して傾斜した第1の平面内を、前記基材の一端側から前記平坦面の中央側の第1位置に当接する位置まで移動可能に設けられ、前記平坦面の前記第1位置から前記基材の一端側の領域をマスク可能な第1マスク部材と;
前記平坦面に対して傾斜した前記第1の平面と異なる第2の平面内を、前記基材の他端側から前記平坦面の中央側の第2位置に当接する位置まで移動可能に設けられ、前記平坦面の前記第2位置から前記基材の他端側の領域をマスク可能な第2マスク部材と;を備える保持治具。
【請求項2】
前記第1マスク部材及び前記第2マスク部材は、前記平坦面の前記第1位置及び前記第2位置にそれぞれ当接することで、前記基材を前記フレームから離間して支持可能であることを特徴とする請求項1に記載の保持治具。
【請求項3】
前記第1マスク部材の他端部、及び前記第2マスク部材の一端部には、前記平坦面の前記第1位置及び前記第2位置にそれぞれ当接する稜線が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の保持治具。
【請求項4】
前記第1マスク部材及び前記第2マスク部材は、前記フレームに対して摺動可能に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の保持治具。
【請求項5】
前記第1マスク部材及び前記第2マスク部材は、前記フレームに対して着脱可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の保持治具。
【請求項6】
前記基材は、前記第1軸方向を長手方向とする直方体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の保持治具。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の保持治具に保持された基材に、薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
複数の保持治具がそれぞれ装着される所定数の開口部が設けられた保持部材と;
前記保持治具を介して前記保持部材に装着された前記基材の平坦面に対して、蒸着材料を蒸着させる蒸着装置と;を備える薄膜形成装置。
【請求項8】
前記保持治具を前記保持部材に固定する固定部材を更に備える請求項7に記載の薄膜形成装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の保持治具に保持された前記基材に、複数の薄膜を形成する薄膜形成方法であって、
前記第1マスク部材及び前記第2マスク部材で、前記基材の平坦面の、前記第1位置から前記基材の一端側の第1領域、及び前記第2位置から前記基材の他端側の第2領域をマスクするマスク工程と;
前記第1領域及び前記第2領域がマスクされた前記平坦面に、反射性を有する物質を蒸着させて反射膜を形成する反射膜形成工程と;
前記マスク部材を前記フレームに対して移動させて、前記平坦面の前記第1領域及び前記第2領域それぞれの少なくとも一部の領域を露出させる露出工程と;
前記平坦面の、前記反射膜が形成された領域と、前記第1領域及び前記第2領域とに、保護膜を形成する保護膜形成工程と;を含む薄膜形成方法。
【請求項10】
前記保持治具は、所定数の基材を前記第1軸に直交する方向に配列して保持可能であることを特徴とする請求項9に記載の薄膜形成方法。
【請求項11】
前記保持治具で、前記所定数の基材を保持する工程を更に含む請求項10に記載の薄膜形成方法。
【請求項12】
前記保持治具で、前記所定数に不足する数の基材を保持する工程と、前記所定数に不足する数のダミー基材を保持する工程とを更に含む請求項10に記載の薄膜形成方法。
【請求項13】
前記保持治具で、前記所定数に不足する数の基材を保持する工程と、前記所定数に不足する数の基材に対応する寸法の蓋部材を保持する工程とを更に含む請求項10に記載の薄膜形成方法。
【請求項14】
前記請求項7又は8に記載の薄膜形成装置の前記保持部材に設けられた前記所定数の開口部に、前記保持治具をそれぞれ装着する工程を更に含む請求項9〜13のいずれか一項に記載の薄膜形成方法。
【請求項15】
前記請求項7又は8に記載の薄膜形成装置の前記保持部材に設けられた前記所定数の開口部に、前記所定数に不足する数の保持治具をそれぞれ装着する工程と、前記保持治具が装着されていない前記開口部を閉塞する工程とを更に含む請求項9〜13のいずれか一項に記載の薄膜形成方法。
【請求項16】
前記保持部材の開口部に装着された保持治具を、前記保持部材に対して固定する工程を更に含む請求項9〜15のいずれか一項に記載の薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−108349(P2009−108349A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279557(P2007−279557)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(504250820)株式会社吉城光科学 (7)
【Fターム(参考)】