説明

保護膜で保護された金属装飾膜を備えた樹脂製基材及び樹脂製基材への金属装飾膜の積層方法

【課題】 有機溶剤を用いて保護膜を形成しても樹脂製基材が侵されることがない保護膜で保護された金属装飾膜を備えた樹脂製基材及び樹脂製基材への金属装飾膜の積層方法を提供する。
【解決手段】 保護膜で保護された金属装飾膜を樹脂製基材に積層する方法であって、前記樹脂製基材上に、蒸着重合法による高分子膜と、金属装飾膜とを積層した後、有機溶剤を用いて保護膜を積層することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜で保護された金属装飾膜を備えた樹脂製基材及び樹脂製基材への金属装飾膜の積層方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器、家電製品、自動車用外装・内装等に使用される樹脂製基材の表面に、金属光沢を与えるために湿式メッキ工法、スパッタリング工法や真空蒸着工法により金属装飾膜を形成するようにしている。
前記金属装飾膜を、湿式メッキ工法により形成する場合には、その膜厚が数十μmと比較的厚いため、金属装飾膜の上から有機溶剤を用いて保護膜を塗装しても、樹脂製基材は有機溶剤により侵されることはない。
しかしながら、スパッタリング工法や真空蒸着工法により成膜された金属装飾膜では、その膜厚が数十〜数百nmと比較的薄いために、前記湿式メッキ工法と同様に保護膜を有機溶剤を用いて塗装すると、有機溶剤が金属装飾膜に浸透して、更に、その下の樹脂製基材を侵してしまい金属装飾膜が剥離してしまうという問題があった。
この問題を解決するために、樹脂製基材上に有機溶剤の浸透を防ぐための保護膜を湿式工法や塗装工法により形成する方法が考えられるが、樹脂製基材表面に形成されたヘアライン加工やエンボス加工により形成された微細凹凸面がある場合には、この保護膜がうまく凹凸面に沿うように積層されず、その上に金属装飾膜を形成しても、所望の意匠性が得られないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、有機溶剤を用いて保護膜を形成しても樹脂製基材が侵されることがない保護膜で保護された金属装飾膜を備えた樹脂製基材及び樹脂製基材への金属装飾膜の積層方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明者等は、鋭意検討の結果、樹脂製基材上に有機溶剤が浸透することがない高分子からなる薄膜を蒸着重合法により形成することを知見し、下記の通り解決手段を見出した。
即ち、本発明の金属装飾膜の積層方法は、請求項1に記載の通り、保護膜で保護された金属装飾膜を樹脂製基材に積層する方法であって、前記樹脂製基材上に、蒸着重合法による高分子膜と、金属装飾膜とを積層した後、有機溶剤を用いて保護膜を積層することを特徴とする。
また、請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の金属装飾膜の積層方法において、前記金属装飾膜は、乾式工程により形成することを特徴とする。
また、請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の金属装飾膜の積層方法において、前記高分子膜は、ポリ尿素膜であることを特徴とする。
また、本発明の樹脂製部材は、請求項4に記載の通り、保護膜で保護された金属装飾膜を備えた樹脂製基材であって、前記樹脂製基材の表面に蒸着重合で得られた高分子膜を介して前記金属装飾膜が設けられていることを特徴とする。
また、請求項5に記載の本発明は、請求項4に記載の樹脂製基材において、前記高分子膜は、ポリ尿素膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の樹脂製基材への金属装飾膜の積層方法によれば、金属装飾膜の上から保護膜を有機溶剤を用いて積層しても、有機溶剤により樹脂製基材が侵されることがない。その結果、金属装飾膜の剥離を防ぐことができる。
また、本発明の樹脂製基材によれば、金属装飾膜は、剥離することが抑えられ、しかも、樹脂製基材表面にエンボス加工やヘアライン加工等により形成された凹凸面の形状を損なうことのない金属装飾膜となるため、優れた意匠性を有するものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の金属装飾膜の積層方法は、樹脂製基材上に、まず、蒸着重合法により高分子膜を積層する。
高分子膜の成膜速度については、特に制限はないが、0.5μm/min以下とすることが好ましい。これは、成膜条件をモノマーの反応律速にし、表面形状にそって膜を形成させるためである。
前記高分子膜を形成する材料としては、ポリ尿素膜、ポリイミド、ポリアミド、ポリオキサジアゾール、ポリウレタン、ポリアゾメチン等の蒸着重合可能な高分子材料であれば特に制限するものではないが、ポリ尿素膜とすることが好ましい。樹脂製基材を保護する特性に優れているからである。
前記ポリ尿素膜は、芳香族アルキル、脂環状又は脂肪族のジイソシアネートモノマーと、芳香族アルキル、脂環状又は脂肪族のジアミンモノマーの蒸着重合により得ることができる。
原料モノマーのジイソシアネートとしては、例えば、化1に示される芳香族アルキルジイソシアネート、例えば、化2に示される脂環状ジイソシアネート又は、例えば、化3に示される脂肪族ジイソシアネートを使用することができる。
【化1】


【化2】


【化3】

【0007】
また、原料モノマーのジアミンとしては、例えば、化4に示される芳香族アルキルジアミン、例えば、化5に示される脂環状ジアミン又は例えば、化6に示される脂肪族ジアミンを使用することができる。
【化4】


【化5】


【化6】

【0008】
これらの原料モノマーを真空中で蒸発させ、樹脂製基材上において重合反応させることにより、ポリ尿素膜とすることができる。尚、真空の圧力については特に制限するものではないが、10-3〜100Pa程度とすることができる。
【0009】
尚、上記原料モノマーの具体例は以下の通りである。
<ジイソシアネート>
芳香族アルキル:1,3−ビス(イソシアネートメチル)ベンゼン、1,3−ビス(1−イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼン等
脂環状:1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルヘキシルイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、2,5(2,6)−ビス(イソシアネートメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン等
脂肪族:1,6−ジイソシアネートヘキサン、1,5−ジイソシアネート−2−メチルペンタン、1,8−ジイソシアネートオクタン、1,12−ジイソシアネートドデカン、テトライソシアネートシラン、モノメチルトリイソシアネートシラン等
<ジアミン>
芳香族アルキル:1,3−ビス(アミノメチル)ベンゼン、1,4−ビス(アミノメチル)ベンゼン、イソフタル酸ジヒドラジド等
脂環状:1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルヘキシルアミン、1,2−ジアミンシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、メチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)、ピペラジン、2−ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン、1,3−ジ(4−ピペリジル)プロパン、ヒダントイン、ヘキサヒドロ−1H−1,4−ジアゼピン、バルビツール酸等
脂肪族:1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、ビス(2−アミノエチル)アミン、ビス(3−アミノプロピル)アミン、N,N’−ビス(アミノプロピル)メチルアミン、N−(3−アミノプロピル)−1,4−ブタンジアミン、N,N’−(3−アミノプロピル)−1,4−ブタンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等
【0010】
前記高分子膜の膜厚は、1μm〜50μmとすることが好ましく、更に好ましくは5μmとすることが好ましい。1μm未満であると、有機溶剤の樹脂製基材への浸透を防げず、50μm超えであると、表面の意匠性を失う可能性があるからである。
【0011】
上記のように高分子膜が形成された樹脂製基材上に、次に、金属装飾膜を、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティング等により積層する。
この金属装飾膜の膜厚は、特に制限するものではないが、10nm〜1000nm程度とすること好ましい。10nm未満であると、金属光沢が出ず、1000nm超えであると、膜にクラック等の不具合が発生するからである。また、金属装飾膜を構成する材料についても特に制限するものではないが、例えば、Cr、Al、SUS等を使用することができる。
また、前記金属装飾膜は、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の乾式工程により形成することが好ましい。廃液等の環境負荷物質の発生を少なくすることができるからである。
【0012】
そして、次に、金属装飾膜上に、有機溶剤を用いて保護膜を積層する。保護膜の材料としては、具体的には、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系等を使用することができる。尚、有機溶剤としては、例えば、アルコール系、アセトン系等を使用することができる。
この保護膜の膜厚は、例えば、20μm程度とすることができる。
【0013】
上記のようにして、蒸着重合法により形成された高分子膜に、金属装飾膜を積層すれば、有機溶剤を用いて保護膜を積層した場合に、有機溶剤が金属装飾膜を透過しても、蒸着重合法により形成された高分子膜により樹脂製基材は侵されることがない。
【0014】
尚、本発明における樹脂製基材は、樹脂であれば特に制限するものではないが、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、PC(ポリカーボネート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等を使用することができる。また、樹脂製基材は、特に平面形状に限定されるものではなく、複雑な三次元形状であってもよい。
【0015】
また、本発明は、前記樹脂製基材には、エンボス加工やヘアライン加工により、高さ100nm〜1mm程度の凹凸面が形成されている場合に特に有効である。高分子膜を凹凸面の形状に沿った薄膜を形成するため、その上に積層される金属装飾膜も、前記凹凸面の形状に沿うようにすることができるからである。
【実施例】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施例について説明する。
図1は、本発明の方法を実施するための装置の一例を示すもので、図中1は処理室を示し、処理室1内にポリ尿素膜を形成せしめるべきPC樹脂製基材2をホルダー3に回転自在に支持した。また、処理室1は、外部の真空ポンプその他の真空排気系4と、流路5,6を介して原料モノマーを封入した容器7,8とに接続した。原料モノマーには、メチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)と、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンとを使用した。尚、図中9はPC樹脂製基材2と両蒸発用容器7,8との介在されるバルブを示す。
【0017】
次に、容器7内のメチレンビス(4−シクロヘキシルアミン)を84℃に加熱し、ガラス製の容器8内の1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンを76℃に加熱し、処理室1内の圧力を1Paとなるまで真空排気系4により排気を行い、同室内の温度を20℃とし、PC樹脂製基材2の温度を20℃としてから、各原料モノマーを処理室1内に導入し、下記化7で示す蒸着重合反応により、PC樹脂製基材2上に成膜速度0.4μm/minでポリ尿素膜を積層した。尚、原料モノマー導入後の処理室1内の圧力は、5Paであった。
【0018】
【化7】

【0019】
次に、図2に示すように、ポリ尿素膜10上に、スパッタリングにより、膜厚0.1μmのCrからなる金属装飾膜11を積層し、その上に、アクリルウレタンを有機溶剤を用いて塗布することにより保護膜12を積層し、実施例の樹脂製基材とした。
【0020】
比較のために、蒸着重合法によりポリ尿素膜を積層しなかった以外は、実施例と同様にした樹脂製基材を比較例として作製した。
【0021】
上記実施例と比較例のそれぞれの金属装飾膜を1mm角となるように、保護膜上から切れ目を入れ、JIS H8504による剥離試験をしたところ、実施例では、100個の片について剥離が見られなかったのに対して、比較例では、ほぼ全てが剥離した。
この結果から、比較例では、有機溶剤により樹脂製基材が侵され、金属装飾膜との密着性が失われているのに対して、実施例では、有機溶剤により樹脂製基材が侵されておらず、金属装飾膜との密着性が確保できていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、電子機器(例えば、携帯電話外装)、家電製品(例えば、冷蔵庫の取っ手)、自動車用外装(例えば、フロントグリル)、内装部品(例えば、センターコンソール)等の樹脂製基材に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例に使用する装置構成の説明図
【図2】本発明の一実施例の樹脂製基材の積層構造の説明図
【符号の説明】
【0024】
1 処理室
2 樹脂製基材
3 ホルダー
4 真空排気系
5 流路
6 流路
7 容器
8 容器
9 バルブ
10 ポリ尿素膜(高分子膜)
11 金属装飾膜
12 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護膜で保護された金属装飾膜を樹脂製基材に積層する方法であって、前記樹脂製基材上に、蒸着重合法による高分子膜と、金属装飾膜とを積層した後、有機溶剤を用いて保護膜を積層することを特徴とする樹脂製基材への金属装飾膜の積層方法。
【請求項2】
前記金属装飾膜は、乾式工程により形成することを特徴とする請求項1に記載の樹脂製基材への金属装飾膜の積層方法。
【請求項3】
前記高分子膜は、ポリ尿素膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂製基材への金属装飾膜の積層方法。
【請求項4】
保護膜で保護された金属装飾膜を備えた樹脂製基材であって、前記樹脂製基材の表面に蒸着重合で得られた高分子膜を介して前記金属装飾膜が設けられていることを特徴とする樹脂製基材。
【請求項5】
前記高分子膜は、ポリ尿素膜であることを特徴とする請求項4に記載の樹脂製基材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−97043(P2009−97043A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270848(P2007−270848)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】