説明

偏光子の製造方法、偏光子、偏光板、光学フィルム、複合偏光板の製造方法、複合偏光板および画像表示装置

【課題】 小型で簡易な製造装置を用いて、親水性ポリマーフィルムへの液の接触と、テンター方式等による親水性ポリマーフィルムの幅方向の延伸とを、ほぼ同時に行うことが可能な偏光子の製造方法を提供する。
【解決手段】 連続的に供給される親水性ポリマーフィルム1の幅方向の両端を把持手段2により把持し、前記把持手段2を前記フィルム1の長手方向に進行させると共に、前記フィルム1を液に接触させ、前記フィルム1の幅方向の両端を把持する前記把持手段2の双方を前記フィルム1の幅方向の外側にも移動させることで前記フィルム1を幅方向に延伸する幅方向延伸工程と、前記フィルム1を二色性物質により染色処理する染色工程とを有し、前記幅方向延伸工程において、前記液の接触は、前記液の噴霧および塗布の少なくとも一方により実施し、前記幅方向延伸工程を、前記染色工程および前記染色工程とは別の工程の少なくとも一つの工程において実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子の製造方法、偏光子、偏光板、光学フィルム、複合偏光板の製造方法、複合偏光板および画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビ、パソコン、携帯電話等の各種液晶表示装置(LCD)には、偏光子が用いられている。通常、前記偏光子は、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを染色・一軸延伸することで作製されている。PVAフィルムを一軸延伸すると、PVA分子に吸着(染色)した二色性物質が配向するため、偏光子となる。
【0003】
近年、テレビ用としてのLCDの用途が急増しており、画面のサイズも大型化している。これに伴い、テレビに用いられる偏光子にも、大型化が要求されている。このような大型の偏光子を製造する方法として、PVAフィルム全体を液に接触させながら、テンター方式によりPVAフィルムを延伸する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−91374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記方法では、PVAフィルムを浴槽に浸漬させることで液に接触させる場合、浴槽を必要とする。このため、前記方法では、製造装置が大型化する傾向にあった。また、テンター方式では、PVAフィルムの上下方向の移動が構造上困難である。このため、テンター方式による延伸と浴槽へのPVAフィルムの浸漬とを同時に行う組み合わせは、非常に複雑な構造を必要とする。
【0005】
そこで、本発明は、小型で簡易な製造装置を用いて、親水性ポリマーフィルムへの液の接触と、テンター方式等による親水性ポリマーフィルムの幅方向の延伸とを、ほぼ同時に行うことが可能な偏光子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の偏光子の製造方法は、
連続的に供給される親水性ポリマーフィルムの幅方向の両端を把持手段により把持し、前記把持手段を前記親水性ポリマーフィルムの長手方向に進行させると共に、前記親水性ポリマーフィルムを液に接触させ、前記親水性ポリマーフィルムの幅方向の両端を把持する前記把持手段の少なくとも一方を前記親水性ポリマーフィルムの幅方向の外側にも移動させることにより前記親水性ポリマーフィルムを幅方向に延伸する幅方向延伸工程と、
前記親水性ポリマーフィルムを二色性物質により染色処理する染色工程とを有し、
前記幅方向延伸工程において、前記液の接触は、前記液の噴霧および塗布の少なくとも一方により実施し、
前記幅方向延伸工程を、前記染色工程および前記染色工程とは別の工程の少なくとも一つの工程において実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明者等は、前記目的を達成するために、一連の研究を重ねた。その結果、偏光子の製造において、親水性ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に噴霧および塗布の少なくとも一方により液を接触させることで、親水性ポリマーフィルムへの液の接触と、把持手段による親水性ポリマーフィルムの幅方向の延伸とを、ほぼ同時に行うことを可能にした。本発明の製造方法によれば、浴槽を用いた従来の製造方法に比べ、製造装置の小型化が可能である。また、本発明の製造方法によれば、親水性ポリマーフィルムを上下方向に移動させる必要がないため、簡易な製造装置(例えば、従来公知の噴霧装置および従来公知のテンター延伸機等)を用いることが可能である。そして、本発明の製造方法は、液の供給量や種類を容易に変更可能であるため、より複雑な製造条件への適用が可能である。さらに、本発明の製造方法によれば、親水性ポリマーフィルムの必要な場所に必要な量だけ液を供給することができるため、液の使用量や廃液量の削減も可能となる。本発明の製造方法は、大型の偏光子の製造に好ましく用いられるが、これに限定されず、各種サイズの偏光子の製造にも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の偏光子の製造方法では、前記幅方向延伸工程において、前記親水性ポリマーフィルムの長手方向において隣接する前記把持手段の前記フィルムの幅方向の内側の端を結ぶ線を仮想し、この仮想線より内側の領域には前記液を接触させ、且つ、前記仮想線より外側の領域には前記液を接触させないことが好ましい。親水性ポリマーフィルム全体を液に接触させ、テンター方式により親水性ポリマーフィルムを延伸すると、テンタークリップ間で偏光子に延伸ムラが発生するおそれがある。この問題は、本発明者等が初めて見出した問題である。これに対し、前記幅方向延伸工程において、前記親水性ポリマーフィルムの長手方向において隣接する前記把持手段の前記フィルムの幅方向の内側の端を結ぶ線を仮想し、この仮想線より内側の領域には前記液を接触させ、且つ、前記仮想線より外側の領域には前記液を接触させないことにより、偏光子の延伸ムラの発生を抑制できる。
【0009】
本発明の偏光子の製造方法では、前記幅方向延伸工程の前記液の接触において、前記仮想線より前記フィルムの幅方向に5mm内側の第2の仮想線より内側の領域には前記液を接触させ、且つ、前記第2の仮想線より外側の領域には前記液を接触させないことが、より好ましい。
【0010】
本発明の偏光子の製造方法において、前記別の工程は、例えば、前記親水性ポリマーフィルムを膨潤させる膨潤工程、および前記親水性ポリマーフィルムを架橋する架橋工程等がある。
【0011】
本発明の偏光子の製造方法において、前記染色工程および前記別の工程を、各工程の処理液を前記親水性ポリマーフィルムに接触させて実施し、前記幅方向延伸工程、前記染色工程および前記別の工程の少なくとも一つの前記液の接触を、気相中で、前記親水性ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に前記液を噴霧することで実施することが好ましい。これにより、大型の偏光子の製造に好ましく対応できる。
【0012】
本発明の偏光子の製造方法において、前記液の接触が噴霧により実施される工程を、前記親水性ポリマーフィルムを長手方向に搬送しながら実施し、且つ、前記噴霧を、漏洩防止手段により、前記噴霧した液の外部環境への漏洩が防止された空間内で実施することが好ましい。前記液の接触が噴霧により実施される場合、噴霧により発生する霧状の液の一部は、前記親水性ポリマーフィルムに接触することなく、空気の流れに乗って拡散する。ここで、前記噴霧を、前記液の漏洩が防止された空間内で実施することにより、前記拡散した液の外部環境への漏洩を大幅に低減し、且つ、前記拡散した液を容易に回収することが可能となる。この結果、前記拡散した液により作業者の健康が害されることがなくなり、前記回収後の液の再利用や廃棄が容易となる。前記液の漏洩は、必ずしも完全に防止されている必要はない。前記液の漏洩は、前記本発明の効果が損なわれない範囲で、実質的に防止されていればよく、前記液の若干の漏洩があってもよい。例えば、前記把持手段(例えば、テンタークリップ等)が位置する箇所の隙間等から、前記液の若干の漏洩があってもよい。前記漏洩防止手段としては、前記液の漏洩を実質的に防止できるものであれば特に制限されず、例えば、噴霧ブース等が挙げられる。前記噴霧ブースは、前記親水性ポリマーフィルムの搬入口および搬出口を有することが好ましい。
【0013】
本発明の偏光子の製造方法において、前記液の漏洩が防止された空間の圧力を、外部に対し負圧とする(前記液の漏洩が防止された空間の圧力を、外部の圧力より低くする)ことがより好ましい。例えば、前記噴霧ブース内部の圧力を、外部に対し負圧とすることにより、前記外部から前記噴霧ブース内部への気流を発生させ、前記搬入口および前記搬出口からの前記拡散した液の外部環境への漏洩を、効果的に防止できる。
【0014】
本発明の偏光子の製造方法において、前記親水性ポリマーフィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムが好ましく、前記二色性物質は、ヨウ素が好ましい。
【0015】
本発明の偏光子は、本発明の偏光子の製造方法により製造された偏光子である。
【0016】
本発明の偏光板は、偏光子の少なくとも一方の表面に保護層が積層された偏光板であって、前記偏光子が、本発明の偏光子であることを特徴とする。
【0017】
本発明の光学フィルムは、偏光子または偏光板の少なくとも一方の表面に位相差板が積層された光学フィルムであって、前記偏光子が、本発明の偏光子であり、前記偏光板が、本発明の偏光板であることを特徴とする。
【0018】
本発明の複合偏光板の製造方法は、偏光板および反射型偏光子を含む複合偏光板の製造方法であって、
本発明の偏光子を含む偏光板であって、長尺フィルム状でフィルム幅方向に吸収軸を有する偏光板を準備する工程と、
長尺フィルム状でフィルム幅方向に反射軸を有する反射型偏光子を準備する工程と、
前記偏光板および前記反射型偏光子を、それぞれ、フィルム長手方向に搬送しながら貼着する貼着工程とを有することを特徴とする。前記反射型偏光子は、その機能に異方性を有している。この機能を複合偏光板に発現させるためには、偏光板の吸収軸と反射型偏光子の反射軸とが平行となるように両者を貼着する必要がある。偏光子は、一般に、その形成材料を長手方向に延伸することで製造される。このようにして製造された偏光子およびそれを含む偏光板は、フィルム長手方向に吸収軸を有する。前記偏光板の吸収軸と前記反射型偏光子の反射軸とが平行となるように両者を貼着するには、前記偏光板および前記反射型偏光子のいずれかあるいは双方をカットした後、両者を貼着せざるを得ない。このため、工程数が多くなり、製造に時間がかかる。また、製造工程が複雑で、歩留まりも低い。さらに、カット時のごみの発生等によっても歩留まりが低下する。これに対し、前述のとおり、親水性ポリマーフィルムを幅方向に延伸することで製造される前記本発明の偏光子およびそれを含む偏光板は、フィルム幅方向に吸収軸を有する。したがって、長尺フィルム状の前記偏光板および前記反射型偏光子を、それぞれ、フィルム長手方向に搬送しながら貼着することで、前記偏光板の吸収軸と前記反射型偏光子の反射軸とが平行な複合偏光板を連続的に製造可能である。この結果、工程数が減り、短時間での製造が可能となる。また、製造工程も単純で、歩留まりも向上する。
【0019】
本発明の複合偏光板は、本発明の複合偏光板の製造方法により製造された複合偏光板である。
【0020】
本発明の画像表示装置は、偏光子、偏光板、光学フィルムおよび複合偏光板の少なくとも一つを含む画像表示装置であって、前記偏光子が、本発明の偏光子であり、前記偏光板が、本発明の偏光板であり、前記光学フィルムが、本発明の光学フィルムであり、前記複合偏光板が、本発明の複合偏光板であることを特徴とする。
【0021】
つぎに、本発明の偏光子の製造方法について、例を挙げて、以下に説明する。本発明の偏光子の製造方法は、親水性ポリマーフィルムを材料とし、例えば、膨潤工程、染色工程、架橋工程、調整工程、乾燥工程等の一連の工程を有し、これらの工程の少なくとも一つにおいてまたは別個に前記幅方向延伸工程を実施する。
【0022】
(1)親水性ポリマーフィルム
前記親水性ポリマーフィルムとしては、特に制限されず、従来公知のフィルムが使用できる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系フィルムや、これらの部分ケン化フィルム等の親水性ポリマーフィルム等が挙げられる。また、これらの他にも、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルム、延伸配向されたポリビニレン系フィルム等も使用できる。これらの中でも、後述する二色性物質であるヨウ素による染色性に優れることから、PVA系ポリマーフィルムが好ましい。
【0023】
前記PVA系ポリマーフィルムの原料ポリマーとしては、例えば、酢酸ビニルを重合した後にケン化したものや、酢酸ビニルに対して、少量の不飽和カルボン酸や不飽和スルホン酸等の共重合可能なモノマーを共重合したポリマー等が挙げられる。前記PVA系ポリマーの重合度は、特に制限されないが、水に対する溶解度の点等から、500〜10000の範囲が好ましく、より好ましくは、1000〜6000の範囲である。また、前記PVA系ポリマーのケン化度は、75モル%以上が好ましく、より好ましくは、98〜100モル%の範囲である。
【0024】
前記親水性ポリマーフィルム(例えば、PVA系フィルム)は、ロールに巻回した原反フィルムの形態が好ましい。前記親水性ポリマーフィルム(例えば、PVA系フィルム)の厚みは、特に制限されないが、例えば、15〜110μmの範囲であり、好ましくは、38〜110μmの範囲であり、より好ましくは、50〜100μmの範囲であり、さらに好ましくは、60〜80μmの範囲である。
【0025】
(2)幅方向延伸工程
つぎに、本発明の特徴である親水性ポリマーフィルムを幅方向に延伸する幅方向延伸工程について説明する。偏光子の製造は、例えば、膨潤工程、染色工程、架橋工程、調整工程、乾燥工程という順で実施することが一般的である。前述のように、前記幅方向延伸工程は、これらの各工程で実施してもよいし、別個独立の工程として実施してもよい。図1に、本工程の一例の模式図を示す。図示のように、本工程においては、連続的に供給される親水性ポリマーフィルム1の幅方向(同図において左右方向)の両端を把持手段2により把持する。そして、矢印Aに示すように、前記把持手段2を前記親水性ポリマーフィルム1の長手方向(同図において上方向)に進行させる。これにより、矢印Bに示すように、前記親水性ポリマーフィルム1は、その長手方向(同図において上方向)に搬送される。それと共に、前記親水性ポリマーフィルム1を液に接触させ、矢印Cに示すように、前記親水性ポリマーフィルム1の幅方向の両端を把持する前記把持手段2の双方を前記親水性ポリマーフィルム1の幅方向にも移動させることにより、前記親水性ポリマーフィルム1を幅方向に延伸する。前記液の接触は、気相中で、前記液の噴霧および塗布の少なくとも一方により実施する。
【0026】
前述のとおり、前記幅方向延伸工程において、前記親水性ポリマーフィルム1の長手方向(同図において上下方向)において隣接する前記把持手段2の前記フィルム1の幅方向の内側の端を結ぶ線を仮想し、この仮想線(同図における破線)より内側の領域には前記液を接触させ、且つ、前記仮想線(同図における破線)より外側の領域には前記液を接触させないことが好ましい。前記親水性ポリマーフィルム1への前記液の接触は、前記親水性ポリマーフィルム1の両面に行ってもよいし、前記親水性ポリマーフィルム1の片面のみに行ってもよい。また、図1は、前記把持手段2により前記親水性ポリマーフィルム1の両端を把持する前記把持手段2の双方を前記親水性ポリマーフィルム1の幅方向の外側に移動させることにより、前記親水性ポリマーフィルム1を幅方向に延伸する場合を示している。ただし、本発明は、これに限定されるものではなく、前記親水性ポリマーフィルム1の幅方向の両端を把持する前記把持手段2の一方のみを前記親水性ポリマーフィルム1の幅方向の外側に移動させることにより、前記親水性ポリマーフィルム1を幅方向に延伸してもよい。
【0027】
前記把持手段2により前記親水性ポリマーフィルム1が把持された状態を、図2に示す。図2(A)に示すように、この把持手段2は、回転軸21、上把持部22および下把持部23を備える。前記上把持部22は、前記回転軸21により前記把持手段2の内側(同図において左側)に移動可能である。この状態で、図2(B)に示すように、前記親水性ポリマーフィルム1の幅方向の一端を前記下把持部23の上に載せ、前記上把持部22を前記親水性ポリマーフィルム1の上面と接するまで前記把持手段2の外側(同図において右側)に移動させることで、前記親水性ポリマーフィルム1を把持する。
【0028】
図3は、図1の一部の拡大図である。前記把持手段2により前記親水性ポリマーフィルム1が把持される部分(つかみしろ)の長さ(同図におけるa)は、特に制限されないが、例えば、10〜100mmの範囲であり、好ましくは、10〜75mmの範囲であり、より好ましくは、25〜75mmの範囲である。前記つかみしろの幅(同図におけるb)は、特に制限されないが、例えば、5〜50mmの範囲であり、好ましくは、10〜30mmの範囲であり、より好ましくは、10〜20mmの範囲である。また、前記親水性ポリマーフィルム1の長手方向に隣接する前記把持手段2の間の距離(同図におけるc)は、短いほど好ましいが、例えば、1〜20mmの範囲であり、好ましくは、3〜10mmの範囲であり、より好ましくは、3〜6mmの範囲である。
【0029】
また、本工程の前記液の接触において、前記仮想線(図3における破線)より前記フィルム1の幅方向に所定の距離(図3におけるd)内側の第2の仮想線(図3における太破線)より内側の領域には前記液を接触させ、且つ、前記第2の仮想線(図3における太破線)より外側の領域には前記液を接触させないことが、より好ましい。前記所定の距離(図3におけるd)は、例えば、5mm以上であり、好ましくは、10mm以上であり、より好ましくは、30mm以上であり、さらに好ましくは、50mm以上である。前記所定の距離(図3におけるd)の上限は、特に制限されないが、例えば、100mm以下である。
【0030】
本工程の前記液の接触は、気相中で、前記親水性ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に前記液を噴霧することで実施することが好ましい。
【0031】
前記親水性ポリマーフィルムに前記液を噴霧する手段としては、任意の適切な噴霧装置が用いられる。前記噴霧装置としては、例えば、扶桑精機(株)製の商品名「MKシリーズ」、DeVILBISS社製の商品名「T−AFPV」、ACCUSPRAY社製の商品名「56シリーズ」等が挙げられる。前記噴霧装置において、噴霧用ノズルの数は、例えば、1〜10個の範囲であり、好ましくは、1〜8個の範囲であり、より好ましくは、1〜4個の範囲であり、前記噴霧用ノズルの孔径は、例えば、0.3〜2mmの範囲であり、好ましくは、0.5〜1.5mmの範囲であり、より好ましくは、0.75〜1mmの範囲である。前記噴霧用ノズル1個当たりの流量は、例えば、10〜1200mL/秒の範囲であり、好ましくは、10〜700mL/秒の範囲であり、より好ましくは、50〜400mL/秒の範囲である。噴霧空気圧力は、例えば、0.03〜3MPaの範囲であり、好ましくは、0.1〜1MPaの範囲であり、より好ましくは、0.2〜0.5MPaの範囲である。噴霧角度は、例えば、45°〜135°の範囲であり、好ましくは、60°〜120°の範囲であり、より好ましくは、80°〜100°の範囲である。前記噴霧用ノズルを複数個用いる場合、隣接する前記噴霧用ノズル間の距離は、例えば、5〜500mmの範囲であり、好ましくは、25〜300mmの範囲であり、より好ましくは、50〜200mmの範囲である。
【0032】
前記液の噴霧において、前記噴霧装置の噴霧用ノズルと前記親水性ポリマーフィルムとの間の距離は、前記噴霧空気圧力等に応じて適宜に決定することができるが、20cm以下の範囲が好ましい。前記距離を前記範囲とすることで、前記液をロスなく、確実に前記親水性ポリマーフィルムに接触させることができる。
【0033】
前記液の噴霧時間は、特に制限されないが、20秒以上が好ましく、より好ましくは、30〜120秒の範囲であり、さらに好ましくは、40〜60秒の範囲である。また、前記親水性ポリマーフィルムへの前記液の噴霧量は、特に制限されないが、0.06〜0.19mL/1cmの範囲が好ましい。そして、前記液の温度は、特に制限されないが、例えば、40〜70℃の範囲であり、好ましくは、50〜70℃の範囲であり、より好ましくは、60〜70℃の範囲である。
【0034】
前記液の接触は、前記親水性ポリマーフィルムへの前記液の塗布により行われてもよい。前記親水性ポリマーフィルムに前記液を塗布する手段としては、ロールコータ、ダイコータ、バーコータ、スライドコータ、カーテンコータ等、従来公知の手段を取ることができる。なお、前記液の接触においては、前記液の噴霧と塗布とを併用してもよい。
【0035】
本工程において、前記仮想線(図3における破線)または前記第2の仮想線(図3における太破線)より外側の領域に前記液を接触させない方法としては、例えば、前記噴霧装置における噴霧領域の制御、防液板の使用、前記把持手段2から前記フィルム1の幅方向の内側に向けて空気の流れを作るといった方法や、それらの組み合わせが挙げられる。
【0036】
前記親水性ポリマーフィルムの幅方向の延伸処理は、例えば、従来公知のテンター延伸機等を用いて実施することができる。この幅方向延伸工程における前記親水性ポリマーフィルムの合計延伸倍率は、例えば、延伸前のフィルム(原反)の長さに対して、例えば、2〜12倍の範囲であり、好ましくは、3〜10倍の範囲であり、より好ましくは、4〜8倍の範囲である。
【0037】
前記幅方向延伸工程は、前述のように、膨潤工程、染色工程、架橋工程、調整工程等の各工程で実施してもよいし、別個独立に実施してもよい。ただし、均一性の向上、延伸ムラの発生の抑制の点で、液を接触させない外側の領域の効果を最大にするためには、前述の各工程のすべてにおいて、テンター方式等による延伸と噴霧処理とを採用することが、より好ましい。前記幅方向延伸工程を、別個独立に実施する場合には、前記親水性ポリマーフィルムを、延伸液に接触させながら延伸する。
【0038】
前記延伸液としては、特に制限されないが、例えば、ホウ酸、ヨウ化カリウム、各種金属塩やその他のヨウ化化合物、亜鉛化合物等を含む溶液が使用できる。この溶液の溶媒としては、例えば、水、エタノール等が使用できる。前記延伸液は、具体的には、例えば、ホウ酸およびヨウ化カリウムを含むことが好ましく、前記両者の含有量は、例えば、合計で2〜18重量%の範囲であり、好ましくは、合計で4〜17重量%の範囲であり、より好ましくは、合計で6〜15重量%の範囲である。また、前記ホウ酸(A)とヨウ化カリウム(B)との含有割合(A:B(重量比))は、例えば、A:B=1:0.1〜1:4の範囲であり、好ましくは、A:B=1:0.2〜1:3.5の範囲であり、より好ましくは、A:B=1:0.5〜1:3の範囲である。
【0039】
(3)膨潤工程
前記原反親水性ポリマーフィルムを、まず、膨潤液に接触させて膨潤させる。
【0040】
前記膨潤液としては、例えば、水、グリセリン水溶液、ヨウ化カリウム水溶液等が使用できる。
【0041】
本工程において、前記幅方向延伸工程を実施する場合の前記親水性ポリマーフィルムに前記膨潤液を接触させる手段および条件等については、前記幅方向延伸工程で述べたとおりである。
【0042】
本工程において、前記幅方向延伸工程を実施しない場合(例えば、無延伸処理、以下同じ)には、前記膨潤液の接触は、例えば、前記膨潤液への前記親水性ポリマーフィルムの浸漬等により行われてもよい。この場合には、膨潤浴が用いられる。この場合における前記膨潤液(膨潤浴)への前記親水性ポリマーフィルムの浸漬時間は、特に制限されないが、例えば、20〜300秒の範囲であり、好ましくは、30〜200秒の範囲であり、より好ましくは、30〜120秒の範囲である。前記膨潤液(膨潤浴)の温度は、例えば、20〜45℃の範囲であり、好ましくは、25〜40℃の範囲であり、より好ましくは、27〜37℃の範囲である。
【0043】
(4)染色工程
つぎに、前記膨潤後の親水性ポリマーフィルムを、二色性物質を含む染色液に接触させる。
【0044】
前記二色性物質としては、従来公知の物質が使用でき、例えば、ヨウ素や有機染料等が挙げられる。前記有機染料を使用する場合には、例えば、可視光領域のニュートラル化を図る点より、二種類以上を組み合わせることが好ましい。
【0045】
前記染色液としては、前記二色性物質を溶媒に溶解した溶液が使用できる。前記溶媒としては、例えば、水が使用できるが、水と相溶性のある有機溶媒がさらに添加されてもよい。前記溶液における二色性物質の濃度は、特に制限されないが、例えば、0.005〜0.40重量%の範囲であり、好ましくは、0.01〜0.30重量%の範囲である。
【0046】
また、前記二色性物質としてヨウ素を使用する場合、溶解度、染色効率等をより一層向上できることから、ヨウ素に加えて、助剤としてヨウ化物をさらに添加することが好ましい。前記ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等があげられる。これらのヨウ化物の添加割合は、前記染色液において、0.05〜10重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.10〜5重量%の範囲である。
【0047】
例えば、ヨウ素とヨウ化カリウムとを組み合わせて使用する場合、前記溶液におけるヨウ素(A)とヨウ化カリウム(B)の割合(A:B(重量比))は、例えば、A:B=1:5〜1:100の範囲であり、好ましくは、A:B=1:7〜1:50の範囲であり、より好ましくは、A:B=1:10〜1:30の範囲である。
【0048】
本工程において、前記幅方向延伸工程を実施する場合の前記親水性ポリマーフィルムに前記染色液を接触させる手段および条件等については、前記幅方向延伸工程で述べたとおりである。
【0049】
本工程において、前記幅方向延伸工程を実施しない場合には、前記染色液の接触は、例えば、前記染色液への前記親水性ポリマーフィルムの浸漬等により行われてもよい。この場合には、染色浴が用いられる。この場合における前記染色液(染色浴)への前記親水性ポリマーフィルムの浸漬時間は、特に制限されないが、例えば、10〜90秒の範囲であり、好ましくは、15〜60秒の範囲であり、より好ましくは、20〜45秒の範囲である。前記染色液(染色浴)の温度は、例えば、5〜42℃の範囲であり、好ましくは、10〜35℃の範囲であり、より好ましくは、12〜30℃の範囲である。
【0050】
(5)架橋工程
つぎに、前記染色処理後の親水性ポリマーフィルムを、架橋剤を含む架橋液に接触させる。
【0051】
前記架橋剤としては、従来公知の物質が使用でき、例えば、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物等があげられる。これらは、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。前記架橋液としては、前記架橋剤を溶媒に溶解した溶液が使用できる。前記溶媒としては、例えば、水が使用できるが、さらに水と相溶性のある有機溶媒を含んでもよい。
【0052】
前記溶液における架橋剤の濃度は、特に制限されないが、例えば、前記溶媒(例えば、水)100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲が好ましく、より好ましくは、1.5〜8重量部の範囲であり、さらに好ましくは、2〜6重量部の範囲である。
【0053】
前記架橋液は、偏光子の面内の均一な特性が得られる点から、前記ホウ素化合物の他に、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等のヨウ化物等の助剤を含んでいてもよい。これらの中でもホウ酸とヨウ化カリウムとの組み合わせが好ましい。前記溶液における前記助剤の含有量は、例えば、0.05〜15重量%の範囲であり、好ましくは、0.5〜8重量%の範囲である。
【0054】
本工程において、前記幅方向延伸工程を実施する場合の前記親水性ポリマーフィルムに前記架橋液を接触させる手段および条件等については、前記幅方向延伸工程で述べたとおりである。
【0055】
本工程において、前記幅方向延伸工程を実施しない場合には、前記架橋液の接触は、例えば、前記架橋液への前記親水性ポリマーフィルムの浸漬等により行われてもよい。この場合には、架橋浴が用いられる。この場合における前記架橋液(架橋浴)への前記親水性ポリマーフィルムの浸漬時間は、特に制限されないが、例えば、5〜150秒の範囲であり、好ましくは、10〜90秒の範囲であり、より好ましくは、20〜40秒の範囲であり、前記架橋液(架橋浴)の温度は、例えば、20〜70℃の範囲であり、好ましくは、40〜60℃の範囲である。
【0056】
(6)調整・乾燥工程
最後に、前記親水性ポリマーフィルムを、ヨウ化物含有水溶液(調整液)に接触させた後、乾燥することにより、本発明の偏光子が得られる。
【0057】
前記ヨウ化物含有水溶液におけるヨウ化物としては、前述のものが使用でき、その中でも、例えば、ヨウ化カリウムやヨウ化ナトリウム等が好ましい。このヨウ化物含有水溶液によって、前記延伸工程において使用した残存するホウ酸を、親水性ポリマーフィルムから洗い流すことができる。
【0058】
前記水溶液が、ヨウ化カリウム水溶液の場合、その濃度は、例えば、0.5〜20重量%の範囲であり、好ましくは、1〜15重量%の範囲であり、より好ましくは、1.5〜7重量%の範囲である。
【0059】
本工程において、前記幅方向延伸工程を実施する場合の前記親水性ポリマーフィルムに前記調整液を接触させる手段および条件等については、前記幅方向延伸工程で述べたとおりである。
【0060】
本工程において、前記幅方向延伸工程を実施しない場合には、前記調整液の接触は、例えば、前記調整液への前記親水性ポリマーフィルムの浸漬等により行われてもよい。この場合には、調整浴が用いられる。この場合における前記調整液(調整浴)への前記親水性ポリマーフィルムの浸漬時間は、特に制限されないが、例えば、2〜15秒の範囲であり、好ましくは、3〜12秒の範囲である。前記調整液(調整浴)の温度は、例えば、15〜40℃の範囲であり、好ましくは、20〜35℃の範囲である。
【0061】
前記乾燥は、例えば、自然乾燥、風乾、加熱乾燥等、特に制限されないが、加熱乾燥の場合は、温度25〜60℃の範囲が好ましく、より好ましくは、30〜50℃の範囲であり、さらに好ましくは、30〜45℃の範囲である。
【0062】
以上、膨潤工程、染色工程、架橋工程、幅方向延伸工程、調整・乾燥工程について、説明してきた。これらの工程は、別々に実施してもよいが、一工程にまとめることが可能な工程は、まとめて実施してもよい。また、各工程終了ごとに、調整・乾燥工程を実施してもよい。
【0063】
このような一連の工程を経て、本発明の偏光子を製造することができる。本発明の偏光子は、例えば、フィルム幅方向に吸収軸を有する長尺フィルム状として製造される。本発明の偏光子は、例えば、後述の本発明の光学フィルムまたは本発明の複合偏光板の製造に用いることができる。また、本発明の偏光子は、例えば、所定の大きさにカットして使用することもできる。
【0064】
(7)本発明の偏光子の製造方法における液の噴霧
前述のとおり、本発明の偏光子の製造方法においては、膨潤工程、架橋工程、染色工程、幅方向延伸工程、調整工程等の各工程を、前記各工程の処理液を前記親水性ポリマーフィルムに接触させて実施し、前記各工程の少なくとも一つの前記液の接触を、気相中で、前記親水性ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に前記液を噴霧することで実施することが好ましい。この場合において、前記液の接触が噴霧により実施される工程を、前記親水性ポリマーフィルムを長手方向に搬送しながら実施し、且つ、前記噴霧を、漏洩防止手段により、前記噴霧した液の外部環境への漏洩が防止された空間内で実施することが好ましい。前記液の接触が噴霧により実施される場合、噴霧により発生する霧状の液の一部は、前記親水性ポリマーフィルムに接触することなく、空気の流れに乗って拡散する。ここで、前記噴霧を、前記液の漏洩が防止された空間内で実施することにより、前記拡散した液の外部環境への漏洩を大幅に低減し、且つ、前記拡散した液を容易に回収することが可能となる。この結果、前記拡散した液により作業者の健康が害されることがなくなり、前記回収後の液の再利用や廃棄が容易となる。
【0065】
前述のとおり、前記漏洩防止手段としては、例えば、噴霧ブース等が挙げられる。前記噴霧ブースは、前記親水性ポリマーフィルムの搬入口および搬出口を有することが好ましい。ここで、前記噴霧ブース内部の圧力を、外部に対し負圧とする(前記噴霧ブース内部の圧力を、外部の圧力より低くする)ことがより好ましい。これにより、前記外部から前記噴霧ブース内部への気流を発生させ、前記搬入口および前記搬出口からの前記拡散した液の外部環境への漏洩を、効果的に防止できる。前記噴霧ブース内部の圧力は、前記外部の圧力に応じて適宜決定できる。前記噴霧ブース内部の圧力(P1)と前記外部の圧力(P2)との差(P1−P2)は、例えば、−0.05〜−50Paの範囲であり、好ましくは、−0.5〜−20Paの範囲である。前記噴霧ブース内部を負圧化する手段としては、特に制限されないが、例えば、真空ポンプ、排気ファン等の任意の減圧装置を用いることができる。
【0066】
前記液の噴霧について、幅方向延伸工程を例にとり説明する。図4に、本例における前記液の噴霧を模式的に示す。同図においては、図1〜3と同一部分には、同一符号を付している。図示のとおり、本例では、前記漏洩防止手段が、前記親水性ポリマーフィルム1の搬入口41および搬出口42を有する箱状の噴霧ブース4である。本例における前記液の噴霧においては、前記幅方向延伸工程において説明したのと同様に、連続的に供給される親水性ポリマーフィルム1の幅方向の両端を、把持手段2により把持する。そして、前記把持手段2を前記親水性ポリマーフィルム1の長手方向(同図において右方向)に進行させる。これにより、矢印Bに示すように、前記親水性ポリマーフィルム1は、その長手方向(同図において右方向)に搬送される。このようにして、前記親水性ポリマーフィルム1を、前記搬入口41から前記噴霧ブース4に搬入する。前記噴霧ブース4の内部には、前記幅方向延伸工程で説明したのと同様の噴霧装置の噴霧用ノズル3が配置されている。前記搬送と共に、前記噴霧ブース4内部で、前記噴霧用ノズル3により、前記親水性ポリマーフィルム1の両面に、前記液11aを噴霧する。また、この搬送の際に、前述のように、前記親水性ポリマーフィルム1の幅方向の両端の少なくとも一方の側を把持する前記把持手段2を前記親水性ポリマーフィルム1の幅方向の外側にも移動させることにより前記親水性ポリマーフィルム1を幅方向に延伸する。最後に、前記親水性ポリマーフィルム1を、前記搬出口42から搬出する。前記噴霧により発生した霧状の液のうち、前記親水性ポリマーフィルム1に接触することなく拡散した液は、前記噴霧ブース4の底部から容易に回収可能である。また、前記噴霧ブース4内部を、外部に対し負圧とすれば、前記外部から前記噴霧ブース4内部への気流を発生させ、前記搬入口41および前記搬出口42からの前記拡散した液の漏洩を、効果的に防止できる。図4は、前記噴霧用ノズル3により前記親水性ポリマーフィルム1の両面に、前記液11aを噴霧する場合を示している。ただし、本発明は、これに限定されるものではなく、前記親水性ポリマーフィルム1の片面のみに、前記液11aを噴霧してもよい。
【0067】
前記噴霧ブースの形状は、特に制限されず、例えば、図4に示すような箱状であってもよいし、上部が半球形のドーム状等であってもよい。前記噴霧ブースの壁の材質も、特に制限されないが、前記液に対する十分な耐性があるものを用いることが好ましい。
【0068】
前記噴霧ブースの底部には、前記拡散した液を回収するための吸引装置を設けてもよい。前記吸引装置としては、前記拡散した液に加え、前記噴霧ブース内部の空気をも同時に吸引できるものを用いることが好ましい。このような吸引装置を用いれば、前記拡散した液の回収と前記噴霧ブース内部の負圧化を同時に行うことが可能である。
【0069】
なお、本例では、幅方向延伸工程を例にとり説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、幅方向延伸を行わず、ロールにて前記親水性ポリマーフィルムを搬送する場合においても、前記液の漏洩が防止された空間を形成して、前記各工程を実施できる。
【0070】
前記液の接触が噴霧により実施される工程が複数ある場合においては、前記液の組成が異なる工程ごとに、前記液の漏洩が防止された空間を形成することが好ましい。図5に、この場合における前記噴霧の一例を模式的に示す。同図において、図4と同一部分には、同一符号を付している。図示のとおり、本例では、偏光子の製造が、膨潤工程S1、染色工程S2、架橋工程S3、幅方向延伸工程S4、調整工程S5の順序で実施され、前記各工程のすべてにおいて、前記液の接触が噴霧により実施される。前記噴霧ブース4は、隣り合う前記各工程の間に前記親水性ポリマーフィルム1の搬出入口43a〜dが形成された仕切り板44a〜dを有する。前記仕切り板44aにより、前記膨潤工程S1と前記染色工程S2とが仕切られ、前記仕切り板44bにより、前記染色工程S2と前記架橋工程S3とが仕切られ、前記仕切り板44cにより、前記架橋工程S3と前記幅方向延伸工程S4とが仕切られ、前記仕切り板44dにより、前記幅方向延伸工程S4と前記調整工程S5とが仕切られている。前記仕切り板44a〜dにより、前記工程ごとに、前記液の漏洩が防止された空間40a〜eを形成する。これにより、前記各工程の処理液を個別に回収することが可能となる。また、前記工程ごとに、環境温度等を最適化することも可能となる。なお、隣り合う前記各工程の処理液の組成が同じである場合には、その間の仕切り板は設けなくともよい。また、前記仕切り板を設けることに代えて、前記工程ごとに、別個に前記噴霧ブースを設けてもよい。
【0071】
図5では、前記各工程のすべてにおいて、前記親水性ポリマーフィルム1が前記把持手段2により搬送される場合を示している。ただし、本発明は、これに限定されない。例えば、前記幅方向延伸工程S4を除く、前記膨潤工程S1、前記染色工程S2、前記架橋工程S3および前記調整工程S5においては、前記親水性ポリマーフィルム1をロールで搬送し、それと共に前記液の漏洩が防止された空間において前記各工程の処理液を噴霧してもよい。
【0072】
前記液の噴霧においては、例えば、図4および5に示すように、前記親水性ポリマーフィルム1の搬送方向(矢印B)が、水平方向であり、前記噴霧用ノズル3が、前記親水性ポリマーフィルム1の上側および下側の双方に配置される。ただし、本発明は、これに限定されない。前記噴霧用ノズルは、前記親水性ポリマーフィルムの上側のみに配置されてもよく、前記親水性ポリマーフィルムの下側のみに配置されてもよい。
【0073】
(8)偏光子
本発明の偏光子の厚みは、特に制限されないが、例えば、5〜40μmの範囲であり、好ましくは、10〜37μmの範囲であり、より好ましくは、15〜35μmの範囲である。
【0074】
(9)偏光板
つぎに、本発明の偏光板は、前記本発明の偏光子の少なくとも一方の表面に保護層が積層された構成である。前記保護層は、前記偏光子の片面のみに積層されてもよいし、両面に積層されてもよい。両面に積層する場合には、例えば、同じ種類の保護層を使用してもよいし、異なる種類の保護層を使用してもよい。
【0075】
図6に、本発明の偏光板の一例の断面図を示す。図示のように、この偏光板60は、前記偏光子61の両面に保護層62がそれぞれ積層されている。
【0076】
前記保護層62としては、特に制限されず、従来公知の保護フィルムを使用できるが、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好ましい。このような保護層の材質の具体例としては、トリアセチルセルロール(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、アクリル系、アセテート系、ポリオレフィン系等の樹脂等があげられる。また、前記アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等もあげられる。
【0077】
この他にも、特開2001−343529号公報やWO 01/37007号公報に記載されているような、例えば、イソブテンおよびN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物の混合押出物からなるフィルム等も使用できる。
【0078】
さらに、これらの保護フィルムは、例えば、その表面が、アルカリ等によってケン化処理されてもよい。これらの中でも、偏光特性や耐久性等の点から、TACフィルムが好ましく、より好ましくは、その表面がケン化処理されたTACフィルムである。
【0079】
前記保護層の厚みは、例えば、1〜500μmの範囲であり、好ましくは、5〜200μmの範囲であり、より好ましくは、10〜150μmの範囲である。
【0080】
前記保護層には、位相差値が最適化されたものを用いることが好ましい。そのような保護層を用いれば、画像表示装置の視野角特性に影響を及ぼすことがない。
【0081】
前記保護層の位相差値としては、フィルム面内の位相差値(Re)が、好ましくは、0〜5nmの範囲であり、より好ましくは、0〜3nmの範囲であり、さらに好ましくは、0〜1nmの範囲であり、フィルム厚み方向の位相差値(Rth)が、好ましくは、0〜15nmの範囲であり、より好ましくは、0〜12nmの範囲であり、さらに好ましくは、0〜5nmの範囲であり、最も好ましくは、0〜3nmの範囲である。
【0082】
前記保護層は、例えば、偏光子に前記各種透明樹脂を塗布する方法、前記偏光子に前記樹脂製フィルム等を積層する方法等、従来公知の方法によって適宜形成でき、また市販品を使用することもできる。
【0083】
また、前記保護層は、さらに、例えば、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、拡散やアンチグレア等を目的とした処理等が施されたものでもよい。
【0084】
前記偏光子と前記保護層との接着方法は、例えば、粘着剤やその他の接着剤等が使用され、その種類は、偏光子や保護層の種類等によって適宜決定できる。接着層や粘着剤層の厚みは、特に制限されないが、例えば、1〜500nmの範囲であり、好ましくは、10〜300nmの範囲であり、より好ましくは、20〜100nmの範囲である。
【0085】
また、本発明の偏光板は、例えば、液晶セル等への積層が容易になることから、その最外層に、さらに粘着剤層を有していることが好ましい。図7に、このような粘着剤層を有する偏光板の断面図を示す。図7において、図6と同一部分には、同一符号を付している。図示のように、偏光板70は、前記偏光板60の一方の保護層62の表面にさらに粘着剤層71が配置されているという構成である。
【0086】
前記保護層表面への前記粘着剤層の形成は、例えば、粘着剤の溶液または溶融液を、流延や塗工等の展開方式により、前記保護層の所定の面に直接添加して層を形成する方式や、同様にして後述するセパレータ上に粘着剤層を形成させて、それを前記保護層の所定面に移着する方式等によって行うことができる。なお、このような粘着剤層は、前記図7のように偏光板のいずれか一方の表面に形成してもよいが、これには限定されず、必要に応じて両面に配置してもよい。
【0087】
前記粘着剤層としては、例えば、アクリル系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ゴム系等の従来公知の粘着剤を適宜使用して形成できる。前記粘着剤層の表面は、汚染防止等を目的として、セパレータによってカバーすることが好ましい。このセパレータは、前記保護フィルム等のような薄層のフィルムに、必要に応じて、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、硫化モリブデン等の剥離剤による剥離コートを設ける方法等によって形成できる。
【0088】
前記粘着剤層の厚みは、特に制限されないが、例えば、5〜35μmの範囲であり、好ましくは、10〜25μmの範囲であり、より好ましくは、15〜25μmの範囲である。
【0089】
(10)光学フィルム
つぎに、本発明の光学フィルムは、前記本発明の偏光子または前記本発明の偏光板の少なくとも一方の表面に位相差板が積層された構成である。
【0090】
前記位相差板の種類は、例えば、1/2λ板や1/4λ板等の各種波長板、液晶層の複屈折による着色の補償や視野角拡大等の視角の補償を目的としたもの等、使用目的に応じた位相差を有するものでもよく、厚み方向の屈折率を制御した傾斜配向フィルムであってもよい。また、2種以上の位相差板を積層し、位相差等の光学特性を制御した積層体等でもよい。
【0091】
前記位相差板の材料としては、例えば、ポリカーボネート、PVA、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンやその他のポリオレフィン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリノルボルネン等のポリマーフィルムを延伸処理した複屈折性フィルム、液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムで支持した積層体等が挙げられる。
【0092】
前記傾斜配向フィルムは、例えば、ポリマーフィルムに熱収縮性フィルムを接着して、加熱によるその収縮力の作用の下に、前記ポリマーフィルムに延伸処理や収縮処理を施す方法や、液晶ポリマーを斜め配向させる方法等によって得ることができる。
【0093】
前記位相差板は、自作してもよいし、市販品を用いてもよい。
【0094】
本発明の光学フィルムは、例えば、反射型偏光子に代えて、前記位相差板を用いること以外、本発明の複合偏光板の製造方法と同様にして製造できる。ただし、本発明の光学フィルムは、これに限定されず、別の方法で製造されたものであってもよい。
【0095】
(11)複合偏光板
本発明の複合偏光板は、偏光板および反射型偏光子を含む。本発明の複合偏光板の製造は、つぎのようにして実施される。
【0096】
すなわち、まず、前記本発明の偏光子を含む偏光板であって、長尺フィルム状でフィルム幅方向に吸収軸を有する偏光板を準備する。前述のとおり、前記本発明の偏光子は、例えば、フィルム幅方向に吸収軸を有する連続フィルムとして製造される。これを用いることで、容易に前記偏光板を準備することが可能である。前記偏光板は、前記本発明の偏光子を含むものであれば、いかなるものであってもよい。前記偏光板は、例えば、前記本発明の偏光子の少なくとも一方の表面に保護層が積層された前記本発明の偏光板であってもよい。ただし、本発明の複合偏光板に用いられる前記偏光板は、これに限定されず、前記保護層を含まないものであってもよい。前記偏光板は、ロールに巻回した形態で準備されることが好ましい。
【0097】
つぎに、長尺フィルム状でフィルム幅方向に反射軸を有する反射型偏光子を準備する。前記反射型偏光子としては、例えば、自然光または偏光から直線偏光を分離する任意の適切なフィルムが採用され得る。前記直線偏光を分離するフィルムとしては、例えば、軸方向で直交する直線偏光の一方を透過し、他方を反射するフィルム等が挙げられる。このような反射型偏光子の具体例としては、例えば、屈折率差を有する2種類以上の材料による2層以上の多層薄膜積層体、屈折率差を有する2種類以上の樹脂を用いた2層以上の樹脂積層体を延伸したもの等が挙げられる。より具体的には、例えば、前記反射型偏光子として、延伸により位相差を発現する材料(例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート)またはアクリル系樹脂(例えば、ポリメチルメタクリレート)と、位相差発現量の少ない樹脂(例えば、JSR社製の商品名「アートン」シリーズのようなノルボルネン系樹脂)とを交互に積層した多層積層体を一軸延伸して得られるものや、市販の複屈折性多層構造を有する反射型偏光子(例えば、3M社製の商品名「DBEF」)等を用いることができる。前記反射型偏光子の厚みは、特に制限されないが、例えば、50〜200μmの範囲である。前記反射型偏光子も、ロールに巻回した形態で準備されることが好ましい。
【0098】
つぎに、前記偏光板および前記反射型偏光子を、それぞれ、フィルム長手方向に搬送しながら貼着する。前記偏光板および前記反射型偏光子は、特に制限するものではないが、複数のロールにより、前記フィルム長手方向に搬送されることが好ましい。前記偏光板と前記反射型偏光子との貼着には、例えば、粘着剤やその他の接着剤等が使用され、その種類は、偏光板や反射型偏光子の種類等によって適宜決定できる。接着層や粘着剤層の厚みは、特に制限されないが、例えば、1〜50μmの範囲であり、好ましくは、2〜30μmの範囲である。
【0099】
このようにして、本発明の複合偏光板を製造できる。本発明の複合偏光板は、通常、所定の大きさにカットして使用される。
【0100】
図8に、本発明の複合偏光板の製造方法の一例を模式的に示す。図示のとおり、本例では、ロールに巻回した形態の長尺フィルム状の偏光板81および反射型偏光子82を、4本のロール90により、それぞれ、矢印Fで示すように、フィルム長手方向に搬送しながら貼着する。前記偏光板81は、矢印Dで示すように、フィルム幅方向に吸収軸を有する。また、前記反射型偏光子82は、矢印Eで示すように、フィルム幅方向に反射軸を有する。前記貼着により、前記偏光板81の吸収軸と前記反射型偏光子82の反射軸とが平行の複合偏光板83を得ることができる。本例では、前記複合偏光板83をロールに巻回して回収している。
【0101】
このように、本発明によれば、複合偏光板を連続的に製造可能である。すなわち、本発明の複合偏光板の製造方法によれば、前述のとおり、工程数が減り、短時間での製造が可能となる。また、製造工程も単純で、歩留まりも向上する。
【0102】
(12)用途
本発明の偏光子、偏光板、光学フィルムおよび複合偏光板は、液晶表示装置(LCD)やELディスプレイ(ELD)等の各種の画像表示装置に好ましく用いることができる。本発明の画像表示装置は、本発明の偏光子、偏光板、光学フィルムおよび複合偏光板の少なくとも一つを用いること以外は、従来の画像表示装置と同様の構成である。本発明の偏光子等を用いた液晶表示装置は、例えば、液晶セル、本発明の偏光子等の光学部材、および必要に応じて照明システム(バックライト等)等の各構成部品を適宜に組み立てて駆動回路を組み込むこと等により製造できる。
【0103】
本発明の画像表示装置は、任意の適切な用途に使用される。その用途は、例えば、デスクトップパソコン、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター、医療用モニター等の介護・医療機器等が挙げられる。
【実施例】
【0104】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、実施例および比較例における位相差値(Δnd)の測定は、下記の方法により実施した。
【0105】
(位相差値(Δnd))
位相差値(Δnd)は、王子計測機器(株)製、商品名「KOBRA31×100/IR」を用いて測定した。
【0106】
[実施例1]
(PVAフィルムの準備)
原反PVAフィルム((株)クラレ製、商品名:「VF−PS」)を準備した。このPVAフィルムの厚みは、75μmであった。テンター延伸機を用い、前記PVAフィルムの幅方向の両端をテンタークリップ(把持手段)により把持し、前記PVAフィルムを、その長手方向に搬送しながら、下記の各工程を実施した。前記テンタークリップ(把持手段)によるつかみしろの長さは14mm、幅は19mmとした。また、前記PVAフィルムの長手方向に隣接する前記テンタークリップ(把持手段)の間の距離は、10mmとした。
【0107】
(偏光子の作製)
(1)膨潤工程
気相中で、前記PVAフィルムの片面に室温(23℃)の水(膨潤液)を30秒噴霧した。この際、前記PVAフィルムの長手方向に隣接するテンタークリップ(把持手段)の前記PVAフィルムの幅方向の内側の端を結ぶ線を仮想し、前記仮想線より内側の領域には前記膨潤液を接触させ、且つ、前記仮想線より外側の領域には前記膨潤液を接触させなかった。また、噴霧用ノズルと前記PVAフィルムとの間の距離は、20cm、前記PVAフィルムに対する前記膨潤液の噴霧量は、0.06mL/1cmとした。
【0108】
(2)染色工程
前記膨潤後の前記PVAフィルムの片面に、気相中で、0.2重量%のヨウ素を含む室温(23℃)の水溶液(染色液)を27秒噴霧した。この際、前記PVAフィルムの長手方向に隣接するテンタークリップ(把持手段)の前記PVAフィルムの幅方向の内側の端を結ぶ線を仮想し、前記仮想線より内側の領域には前記染色液を接触させ、且つ、前記仮想線より外側の領域には前記染色液を接触させなかった。また、噴霧用ノズルと前記PVAフィルムとの間の距離は、20cm、前記PVAフィルムに対する前記膨潤液の噴霧量は、0.06mL/1cmとした。
【0109】
(3)架橋工程
前記染色処理後の前記PVAフィルムの片面に、気相中で、3重量%のホウ酸と3重量%のヨウ化カリウムとを含む室温(23℃)の水溶液(架橋液)を8秒噴霧した。この際、前記PVAフィルムの長手方向に隣接するテンタークリップ(把持手段)の前記PVAフィルムの幅方向の内側の端を結ぶ線を仮想し、前記仮想線より内側の領域には前記架橋液を接触させ、且つ、前記仮想線より外側の領域には前記架橋液を接触させなかった。また、噴霧用ノズルと前記PVAフィルムとの間の距離は、20cm、前記PVAフィルムに対する前記膨潤液の噴霧量は、0.06mL/1cmとした。
【0110】
(4)幅方向延伸工程
前記架橋後の前記PVAフィルムの片面に、気相中で、4重量%のホウ酸と5重量%のヨウ化カリウムとを含む室温(23℃)の水溶液(延伸液)を噴霧しながら、延伸前の原反フィルムの長さに対して、2.64倍の長さになるように幅方向に延伸した。この際、前記PVAフィルムの長手方向に隣接するテンタークリップ(把持手段)の前記PVAフィルムの幅方向の内側の端を結ぶ線を仮想し、前記仮想線より内側の領域には前記延伸液を接触させ、且つ、前記仮想線より外側の領域には前記延伸液を接触させなかった。また、噴霧用ノズルと前記PVAフィルムとの間の距離は、20cm、前記PVAフィルムに対する前記膨潤液の噴霧量は、0.06mL/1cmとした。ついで、このPVAフィルムに60℃で4分間乾燥処理を施して、本実施例の偏光子を得た。
【0111】
[比較例1]
(PVAフィルムの準備)
実施例1と同様の原反PVAフィルムを準備した。
【0112】
(偏光子の作製)
(1)膨潤工程
前記PVAフィルムを、30℃の水浴(膨潤浴)に30秒浸漬した。
【0113】
(2)染色工程
前記膨潤後の前記PVAフィルムを、0.03重量%のヨウ素を含む30℃の水溶液(染色浴)に27秒浸漬した。
【0114】
(3)架橋工程
前記染色処理後の前記PVAフィルムを、3重量%のホウ酸と3重量%のヨウ化カリウムとを含む30℃の水溶液(架橋浴)に8秒浸漬した。
【0115】
(4)幅方向延伸工程
前記架橋後の前記PVAフィルムを、4重量%のホウ酸と5重量%のヨウ化カリウムとを含む60℃の水溶液(延伸浴)に浸漬した状態で、テンター延伸機を用いて、延伸前の原反PVAフィルムの長さに対して、2.64倍の長さになるように幅方向に延伸した。前記テンター延伸において、テンタークリップ(把持手段)によるつかみしろの長さは14mm、幅は19mmとした。また、前記PVAフィルムの長手方向に隣接する前記テンタークリップ(把持手段)の間の距離は、10mmとした。
【0116】
(5)調整・乾燥工程
前記延伸処理後のPVAフィルムを、3重量%のヨウ化カリウムを含む30℃の水溶液(調整液)に10秒浸漬した。ついで、このPVAフィルムに60℃で4分間乾燥処理を施して、本比較例の偏光子を得た。
【0117】
実施例1および比較例1の偏光子の前記PVAフィルムの長手方向に隣接するテンタークリップ(把持手段)の前記PVAフィルムの幅方向の内側の端を結ぶ線を仮想し、前記仮想線より所定の距離(10mm、30mm、50mmおよび100mm)内側の位相差値(Δnd)を、前記フィルムの長手方向5mmおきに測定した。その実施例1の結果を図9のグラフに、比較例1の結果を図10のグラフに示す。また、前記各所定の距離における前記PVAフィルムの長手方向の位相差値(Δnd)のばらつき(標準偏差)を下記表1に示す。さらに、実施例1の偏光子の写真を図11に、比較例1の偏光子の写真を図12に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
前記表1からわかるように、実施例1では、前記各工程においてPVAフィルム全体に液を接触させた比較例1と比べて前記PVAフィルムの長手方向の位相差値(Δnd)のばらつき(標準偏差)が小さく、偏光子の延伸ムラの発生が抑制されていた。また、実施例において、より内側方向に液の接触領域を限定すると、より延伸ムラが抑制された。さらに、図11および図12の写真に示すように、比較例1では、延伸ムラが目視でも確認できたが、実施例1では確認できなかった。実施例1における偏光子の均一性の向上は、視覚的にも明らかであった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
以上のように、本発明の偏光子の製造方法によれば、親水性ポリマーフィルムへの液の接触と、把持手段による親水性ポリマーフィルムの幅方向の延伸とを、ほぼ同時に行うことが可能である。本発明の偏光子およびそれを用いた偏光板、光学フィルム、複合偏光板および画像表示装置の用途は、例えば、デスクトップパソコン、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター、医療用モニター等の介護・医療機器等が挙げられ、その用途は限定されず、広い分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は、本発明の延伸工程の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の把持手段による親水性ポリマーフィルムの把持について説明する図である。
【図3】図3は、図1の一部の拡大図である。
【図4】図4は、本発明の偏光子の製造方法における液の噴霧の一例を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明の偏光子の製造方法において、前記液の接触が噴霧により実施される工程が複数ある場合における液の噴霧の一例を示す模式図である。
【図6】図6は、本発明の偏光板の構成の一例を示す断面図である。
【図7】図7は、本発明の偏光板の構成のその他の例を示す断面図である。
【図8】図8は、本発明の複合偏光板の製造方法の一例を示す模式図である。
【図9】図9は、本発明の実施例における位相差値(Δnd)の測定結果を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明の比較例における位相差値(Δnd)の測定結果を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明の実施例の偏光子の写真である。
【図12】図12は、本発明の比較例の偏光子の写真である。
【符号の説明】
【0122】
1 親水性ポリマーフィルム
2 把持手段
3 噴霧用ノズル
4 噴霧ブース
11a 液
21 回転軸
22 上把持部
23 下把持部
40 液の漏洩が防止された空間
41 搬入口
42 搬出口
43 搬出入口
44 仕切り板
60、70、81 偏光板
61 偏光子
62 保護層
71 粘着剤層
82 反射型偏光子
83 複合偏光板
90 ロール
A、B、C、D、E、F 矢印
S1 膨潤工程
S2 染色工程
S3 架橋工程
S4 幅方向延伸工程
S5 調整工程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に供給される親水性ポリマーフィルムの幅方向の両端を把持手段により把持し、前記把持手段を前記親水性ポリマーフィルムの長手方向に進行させると共に、前記親水性ポリマーフィルムを液に接触させ、前記親水性ポリマーフィルムの幅方向の両端を把持する前記把持手段の少なくとも一方を前記親水性ポリマーフィルムの幅方向の外側にも移動させることにより前記親水性ポリマーフィルムを幅方向に延伸する幅方向延伸工程と、
前記親水性ポリマーフィルムを二色性物質により染色する染色工程とを有し、
前記幅方向延伸工程において、前記液の接触は、前記液の噴霧および塗布の少なくとも一方により実施し、
前記幅方向延伸工程を、前記染色工程および前記染色工程とは別の工程の少なくとも一つの工程において実施することを特徴とする偏光子の製造方法。
【請求項2】
前記幅方向延伸工程において、前記親水性ポリマーフィルムの長手方向において隣接する前記把持手段の前記フィルムの幅方向の内側の端を結ぶ線を仮想し、この仮想線より内側の領域には前記液を接触させ、且つ、前記仮想線より外側の領域には前記液を接触させない請求項1記載の偏光子の製造方法。
【請求項3】
前記幅方向延伸工程の前記液の接触において、前記仮想線より前記フィルムの幅方向に5mm内側の第2の仮想線より内側の領域には前記液を接触させ、且つ、前記第2の仮想線より外側の領域には前記液を接触させない請求項2記載の偏光子の製造方法。
【請求項4】
前記別の工程が、前記親水性ポリマーフィルムを膨潤させる膨潤工程および前記親水性ポリマーフィルムを架橋する架橋工程の少なくとも一方を含む請求項1から3のいずれか一項に記載の偏光子の製造方法。
【請求項5】
前記染色工程および前記別の工程を、各工程の処理液を前記親水性ポリマーフィルムに接触させて実施し、前記幅方向延伸工程、前記染色工程および前記別の工程の少なくとも一つの前記液の接触を、気相中で、前記親水性ポリマーフィルムの少なくとも一方の面に前記液を噴霧することで実施する請求項1から4のいずれか一項に記載の偏光子の製造方法。
【請求項6】
前記液の接触が噴霧により実施される工程を、前記親水性ポリマーフィルムを長手方向に搬送しながら実施し、且つ、前記噴霧を、漏洩防止手段により、前記噴霧した液の外部環境への漏洩が防止された空間内で実施する請求項5記載の偏光子の製造方法。
【請求項7】
前記液の漏洩が防止された空間を、外部に対し負圧とする請求項6記載の偏光子の製造方法。
【請求項8】
前記親水性ポリマーフィルムが、ポリビニルアルコール系フィルムであり、前記二色性物質がヨウ素である請求項1から7のいずれか一項に記載の偏光子の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の偏光子の製造方法により製造された偏光子。
【請求項10】
偏光子の少なくとも一方の表面に保護層が積層された偏光板であって、前記偏光子が、請求項9記載の偏光子である偏光板。
【請求項11】
偏光子または偏光板の少なくとも一方の表面に位相差板が積層された光学フィルムであって、前記偏光子が、請求項9記載の偏光子であり、前記偏光板が、請求項10記載の偏光板である光学フィルム。
【請求項12】
偏光板および反射型偏光子を含む複合偏光板の製造方法であって、
請求項9記載の偏光子を含む偏光板であって、長尺フィルム状でフィルム幅方向に吸収軸を有する偏光板を準備する工程と、
長尺フィルム状でフィルム幅方向に反射軸を有する反射型偏光子を準備する工程と、
前記偏光板および前記反射型偏光子を、それぞれ、フィルム長手方向に搬送しながら貼着する貼着工程とを有する複合偏光板の製造方法。
【請求項13】
請求項12記載の複合偏光板の製造方法により製造された複合偏光板。
【請求項14】
偏光子、偏光板、光学フィルムおよび複合偏光板の少なくとも一つを含む画像表示装置であって、前記偏光子が、請求項9記載の偏光子であり、前記偏光板が、請求項10記載の偏光板であり、前記光学フィルムが、請求項11記載の光学フィルムであり、前記複合偏光板が、請求項13記載の複合偏光板である画像表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−63982(P2009−63982A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317564(P2007−317564)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】