説明

偏向感度補正方法及び荷電ビーム描画装置

【課題】キャリブレーション時に生じるビームドリフトによる影響を抑制することができ、描画精度の向上に寄与する。
【解決手段】荷電ビーム描画装置の偏向器12の偏向領域内に位置検出用のマークをマトリクス状に配置し、偏向器12により荷電ビームを偏向することによって各々のマークの位置を測定し、測定結果に基づき偏向器12の偏向感度の補正を行う方法であって、マーク位置の測定順をランダムに行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電ビーム描画装置に用いられる偏向器の偏向感度を補正するための偏向感度補正方法及び荷電ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マスクやウェハ等の試料上に所望パターンを描画するものとして電子ビーム描画装置が用いられている。この電子ビーム描画装置は、電子ビームを集束するための各種レンズ、ビームを偏向するための各種偏向器、及びビームを成形するための各種アパーチャ等を備えている。
【0003】
電子ビーム描画装置では、ビームを誤差1nm程度の高い精度で位置決めすることが要求されており、偏向感度を正確に補正することが重要である。電子ビーム描画装置の偏向感度を補正するには、偏向領域内に複数配置された位置検出用のマークをビーム走査することにより、それぞれのマーク位置を検出し、実際に配置されたマークの位置との差を持って補正するという手法(キャリブレーション)が採られていた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、最近の素子の微細化に伴い、電子ビーム描画装置に要求される精度が飛躍的に高まっており、このような状況では次のような問題が生じている。即ち、キャリブレーション時においてもマーク位置の測定を行うためにビームを照射することから、散乱電子により絶縁物が帯電し、予期しない電場を形成してしまう。これらの電場はビームを偏向し位置精度の劣化につながってしまう。つまり、キャリブレーション時においてもビームドリフトが生じ、従来問題とならない程度の偏向キャリブレーションの誤差も問題になるようになっている。
【0005】
従来より、ビームドリフトを小さくする工夫は成されていたが、このビームドリフトがあることを前提とした測定方法は未だ提案されていない。また、実際にビームドリフトをゼロにすることは困難であり、要求される精度が上がるにつれて、測定時に生じる小さなビームドリフトでも無視できなくなっている。
【特許文献1】特開平10−284392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、電子ビーム描画装置に要求される精度が高まるに伴い、キャリブレーション時におけるビームドリフトの影響も無視できなくなっている。そして、キャリブレーション時に生じるビームドリフトの影響から正確な偏向感度補正が困難となり、これが原因で描画精度の低下を招く問題が生じている。
【0007】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的とするところは、キャリブレーション時に生じるビームドリフトによる影響を抑制することができ、描画精度の更なる向上に寄与し得る偏向感度補正方法及び荷電ビーム描画装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、次のような構成を採用している。
【0009】
即ち、本発明の一態様は、荷電ビーム描画装置の偏向器の偏向領域内に位置検出用のマークをマトリクス状に配置し、前記偏向器により荷電ビームを偏向することによって各々のマークの位置を測定し、測定結果に基づき前記偏向器の偏向感度の補正を行う方法であって、前記マーク位置の測定順をランダムに行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の別の一態様は、荷電ビーム描画装置において、荷電ビームを発生する荷電ビーム源と、前記荷電ビーム源から放出された荷電ビームを集束するレンズと、描画データに応じて前記荷電ビームを偏向し、該ビームを試料上の所望の位置に照射する偏向器と、前記偏向器の偏向領域内にマトリクス状に配置された複数の位置検出用マークをビーム走査することにより各々のマーク位置を測定し、且つマーク位置の測定をランダムに行い、マーク位置測定結果に基づいて前記偏向器の偏向感度の補正係数を求める手段と、前記求められた偏向感度の補正係数を前記描画データに加えることにより前記偏向器の偏向感度を補正する手段と、を具備してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、位置検出用マーク位置の測定をランダムに行うことにより、散乱電子による帯電がショット毎に蓄積されるのを未然に防止することができ、帯電による影響を少なくすることができる。従って、キャリブレーション時におけるビームドリフトを抑制することができ、描画精度の向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の詳細を図示の実施形態によって説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係わる電子ビーム描画装置を示す概略構成図である。
【0014】
図中の10は電子光学鏡筒、20は試料室、30は制御計算機である。電子光学鏡筒10は、電子銃,各種レンズ,各種偏向器,各種アパーチャ,及び反射電子検出器などから構成されている。図では簡単のため、電子銃11とビーム走査のための一つの偏向器12、更に反射電子検出器13を示している。試料室20内には、試料21を載置した試料ステージ22が収容されている。
【0015】
偏向器12は、描画データが入力されるDACアンプ33により駆動される。ステージ22の移動位置はレーザ側長系35により測定され、この測定結果は制御計算機30に供給されるものとなっている。
【0016】
制御計算機30に接続された描画データデコーダ31により描画データが解析され、演算回路32に描画データが供給される。演算回路32で演算された描画データは、DACアンプ33に入力される。そして、DACアンプ33の出力によって偏向器12に所定の偏向電圧が印加されるようになっている。演算回路32には、描画データと共に、後述する方法により偏向器12の偏向感度を補正するための補正係数を格納した偏向キャリブレーション回路34から補正係数が入力される。そして、描画データに補正係数を加えるようになっている。
【0017】
本実施形態では、実際の描画を行う前に、偏向キャリブレーションを行って偏向感度の補正を行う。偏向キャリブレーションを行うためには、偏向領域内に位置検出用のマークを行列(マトリクス)状に配置し、偏向器12により電子ビームを偏向することによって各々のマークの位置を測定し、その測定結果に基づき偏向器12の偏向感度の補正を行う。マーク位置の測定は、マーク上を電子ビームで走査し、そのときの反射電子を反射電子検出器13で検出することにより実現される。
【0018】
従来方法では、図2(a)に示すように、偏向領域(試料21上又は試料ステージ22上)にマトリクス状に配置された位置検出用マークに対し、偏向領域の左から右へ、下から上へと順にマーク位置の測定を行っていた。ここで、図中に付した番号1〜25が測定順序を示している。
【0019】
ビームドリフトは、散乱電子が絶縁物等に帯電し、その帯電が元で発生する電場によりビーム位置が期待した位置よりもずれる現象(チャージアップ)である。このチャージアップは測定時間や散乱電子の量等に依存する。
【0020】
図3に、チャージアップによりビームが移動する様子を示す。図中の40は偏向領域、実線41は初期ビーム位置、破線42はT秒後ビーム位置である。このように、図3に実線41で示されるビームは、偏向器にかける電圧を変更しない場合にも、例えば破線42で示される位置に時間と共に移動してしまう。移動量をΔxとして時間Tとの関係を表したのが、図4である。
【0021】
通常、キャリブレーションは偏向領域内を順序良く測定していく。その場合、Δx分の誤差が測定結果に載ってしまう。キャリブレーションを前記図2(a)に示すように、偏向領域の左下から順に行う場合、図5中に実線で示すように本当は正しくキャリブレーションできていた場合(格子状に示される)でも、ドリフトの影響で破線のように歪んでしまう。
【0022】
そこで本実施形態では、次の(a)〜(d)のような手法を採用する。
(a)偏向領域内の測定順をランダムにする。
(b)測定を複数回行い、平均値を使用する。
(c)複数回測定する場合、毎回測定順を変える。
(d)複数回測定する場合、測定と測定との間の時間をドリフトの時定数に
基づき間隔を開ける。
【0023】
このように本実施形態によれば、図2(b)に示すように、偏向領域内のマーク位置測定をランダムに行うことにより、キャリブレーション時のあるショットによりにチャージアップが生じても、次のショットは離れた位置となる。このため、前のショットによるチャージアップの影響が蓄積されるのを未然に防止することができる。
【0024】
通常、マーク位置測定結果は2次、3次等の多項式でフィッティングされるため、図6に示すように、ビームドリフトはランダムな誤差となり、偏向領域が平行移動した形となり、歪み誤差は小さくできる。このようにして求められた図6に示すような偏向位置ずれを偏向補正係数として前記偏向キャリブレーション回路34に格納しておく。そして、実際の描画時に、演算回路32で描画データに偏向係数を加えることにより、偏向器12によるビーム位置を補正し、本来照射したい位置にビームを照射することができる。
【0025】
ビームの照射位置は、DACアンプの誤差、偏向器の機械誤差等により、本来照射したい位置からずれた位置に照射される。これずれ量を正確に測定し(偏向キャリブレーション)、その結果を演算時に考慮することにより、本来照射したい位置にビームを照射することができる。
【0026】
また、マーク位置測定を複数回行い、その平均値を取ることにより、歪み誤差をより小さくすることができる。即ち、測定回数を増やすと、各測定点での平均値は徐々に同じ値に近づくので、より正確に偏向領域の形状が求められる。ここで、複数回の測定を行うに際して毎回測定順を変えることにより、更なる平均化が可能となる。また、測定と測定との間の時間をビームドリフトの時定数に基づいて決定することにより、測定を繰り返すことによるビームドリフトの影響も抑制することができる。
【0027】
(変形例)
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。電子ビーム描画装置の構成は前記図1に何ら限定されるものではなく、仕様に応じて適宜変更可能である。また、実施形態では、電子ビーム描画装置を例に取り説明したが、本発明は電子ビームの代わりにイオンビームを用いたイオンビーム描画装置に適用することも可能である。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係わる電子ビーム描画装置を示す概略構成図。
【図2】位置検出用マークの配置例及び検出順序を示す模式図。
【図3】ビームドリフトの様子を示す模式図。
【図4】ビーム照射時間とビーム位置との関係を示す特性図。
【図5】従来方法による測定結果を説明するためのもので、ビームドリフトの影響で偏向領域が歪んだ様子を示す模式図。
【図6】本実施形態方法による測定結果を説明するためのもので、偏向領域にビームドリフトの影響が現れていない様子を示す模式図。
【符号の説明】
【0029】
10…電子光学鏡筒
11…電子銃
12…偏向器12
13…反射電子検出器
20…試料室
21…試料
22…試料ステージ
30…制御計算機
31…描画データデコーダ
32…演算器
33…DACアンプ
35…レーザ側長系
40…偏向領域
41…初期ビーム位置
42…T秒後ビーム位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電ビーム描画装置の偏向器の偏向領域内に位置検出用のマークをマトリクス状に配置し、前記偏向器により荷電ビームを偏向することによって各々のマークの位置を測定し、測定結果に基づき前記偏向器の偏向感度の補正を行う方法であって、
前記マーク位置の測定順をランダムに行うことを特徴とする偏向感度補正方法。
【請求項2】
前記マーク位置の測定を複数回行い、各々のマークに対して複数回の測定の平均を取ることを特徴とする請求項1記載の偏向感度補正方法。
【請求項3】
前記マーク位置の測定を複数回行うに際して、各々の測定回でマークの測定順を変えることを特徴とする請求項2記載の偏向感度補正方法。
【請求項4】
前記マーク位置の測定を複数回行うに際して、n回目の測定とn+1回目の測定との間の時間を、ビームドリフトの時定数に基づいて決めることを特徴とする請求項2記載の偏向感度補正方法。
【請求項5】
荷電ビームを発生する荷電ビーム源と、
前記荷電ビーム源から放出された荷電ビームを集束するレンズと、
描画データに応じて前記荷電ビームを偏向し、該ビームを試料上の所望の位置に照射する偏向器と、
前記偏向器の偏向領域内にマトリクス状に配置された複数の位置検出用マークをビーム走査することにより各々のマーク位置を測定し、且つマーク位置の測定をランダムに行い、マーク位置測定結果に基づいて前記偏向器の偏向感度の補正係数を求める手段と、
前記求められた偏向感度の補正係数を前記描画データに加えることにより前記偏向器の偏向感度を補正する手段と、
を具備してなることを特徴とする荷電ビーム描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−49024(P2007−49024A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233350(P2005−233350)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】