説明

側位システムおよび無線通信装置

【課題】移動局と基地局および基地局同士の同期システムが不必要であり、設置する基地局数が最低1個あれば移動局の位置を算出することの可能な側位システムを提供する。
【解決手段】1つの基地局200により側位の対象となる移動局100は、タイミング信号をトリガにして生成された超広帯域(UWB)方式による信号を基準拡散符号(PN0)で拡散して基準拡散信号とする基準拡散器104と、基地局から反射信号を受信する第1、第2の受信部110、118と、第1の受信部で受信した信号から所定の拡散符号(PN1)との相関により反射信号を検出する第1の相関器114と、第2の受信部で受信した信号から所定の拡散符号(PN1)との相関により反射信号を検出する第2の相関器118と、第1、第2の相関器により検出された反射信号とタイミング信号との時間差を測定する時間差測定部126とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は側位システムおよび無線通信装置にかかり、特に、屋内等のGPS(Global Positioning System)の利用が困難な場所における位置情報が必要とされるあらゆるシステムに適用可能である。このようなシステムとしては、例えば、掃除、警備、配達などの用途に使われる自走式ロボットがある。本明細書においては、側位の対象となる装置等を「移動局」と称し(ただし一般には、移動体とも称される)、移動局の側位を行うための基準位置となる装置等を「基地局」と称する(ただし一般には、個局あるいは固局とも称される。)。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信手段を用いて移動局の位置測定を行う場合は、各基地局からの到達時間差を利用した三辺測量法で位置測定を行っていた。無線LANや超音波を利用した測位を行った場合、数十cmの測位精度が限界とされている。そこで、精度を向上させるために特開2005−274364号公報(特許文献1)では、移動局に走行計を搭載し相互比較することで精度を向上させている。
【0003】
また、特開2006−220642号公報(特許文献2)では、超音波を利用して側位を行っている。この側位システムは、超音波受信装置である超音波アレイセンサの各受波素子で超音波を受波した時間の時間差と各受波素子の配置位置と向き検出手段により検出された移動体の向きとに基づいて、超音波受信装置に対して音源の存在する方位を求めるものである。
【0004】
【特許文献1】特開2005−274364号公報
【特許文献2】特開2006−220642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の三辺測量による位置検出を行う場合は、図9、図10に示したように、既位置の基地局が複数局(A、B、Cの3局以上)必要となる。図9に示した側位システムでは、移動局Pが発射した電波を、あらかじめ位置の分かっている3つ以上の基地局A、B、Cが受信する。そして、それぞれの基地局A、B、Cが受信した時間差をサーバが計算し、これにより移動局Pの位置を特定するものである。また、図10に示した側位システムでは、基地局A、B、C側が電波を発射し、移動局Pが電波を受け、移動局Pが自身の位置を把握するための計算を行うものである。
【0006】
このような側位システムを家電(掃除ロボット等)に使用したときに、基地局の設置に対する負荷が大きくなる。これは、移動局Pおよび基地局A、B、Cのどちらで位置検出を行う場合でも、複数の基地局は同期を取らなければならないためである。従ってこのような側位システムでは、正確な位置検出を行う場合に技術的に困難となる。また、部屋ごとに基地局を複数局設置し、基地局ごとに電源供給を確保しなければならないため、費用や外観の点においてデメリットとなる。
【0007】
また、超音波を利用した側位システムは、近距離における精度は高いが、遠距離における精度が非常に劣化する。また、基地局から信号を発信するため、正確な測定を行うためには、移動局と基地局との時間同期が必要となる。
【0008】
また、家電使用を考えた場合は屋内で利用することが前提と考えられる。そのため、測位方法として最も有効的なGPS(Global Positioning System)を用いると、逆に誤差を発生させるため実用的でない。
【0009】
本発明は、従来の側位システムが有する上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、移動局と基地局および基地局同士の同期システムが不必要であり、設置する基地局数が最低1個あれば移動局の位置を算出することの可能な、新規かつ改良された側位システムおよび無線通信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点によれば、側位の対象となる移動局と、前記移動局の側位を行うための基地局とを含む側位システムが提供される。本発明の側位システムは以下の構成を採用する(請求項1)。
【0011】
前記移動局(100)は、タイミング信号をトリガにして生成された超広帯域(UWB)方式による信号を基準拡散符号(PN0)で拡散して基準拡散信号とする基準拡散器(104)と、前記基準拡散信号を前記基地局に送信する送信部(108)と、前記基地局から反射信号を受信する(一定距離離れた)第1、第2の受信部(110、118)と、前記第1の受信部で受信した信号から所定の拡散符号(PN1)との相関により前記反射信号を検出する第1の相関器(114)と、前記第2の受信部で受信した信号から所定の拡散符号(PN1)との相関により前記反射信号を検出する第2の相関器(118)と、前記第1、第2の相関器により検出された反射信号と前記タイミング信号との時間差を測定する時間差測定部(126)と、を備える。
【0012】
前記基地局(200)は、前記移動局からの信号を受信する受信部(202)と、前記受信部で受信した信号から基準拡散符号(PN0)との相関により前記基準拡散信号を検出する基準相関器(206)と、前記基準拡散信号をトリガにして生成された信号を所定の拡散符号(PN1)で拡散して反射信号とする拡散器(214)と、前記反射信号を前記移動局に送信する送信部(202)と、を備える。
【0013】
かかる側位システムによれば、UWBを利用した移動局と基地局および基地局同士の同期システムが不必要であり、移動局の位置を正確に算出することが可能である。基地局をレスポンダとして利用することで、移動局の絶対位置を移動局自身で算出することが可能となる。また、設置する基地局数が最低1個あれば移動局の位置を算出することが可能である。そのため、基地局を設置する際の面倒な配線や基地局同士の同期が不要となり、価格の低下や技術的容易さを向上させることが可能となる。また、短パルスを使用して通信を行うUWB方式では、精度を1〜2cmとすることが可能となる。
【0014】
なお上記において、構成要素に付随して括弧書きで記した参照符号は、説明の便宜のために、後述の実施形態および図面における対応する構成要素を一例として記したに過ぎず、本発明がこれに限定されるものではない。以下も同様である。
【0015】
上記本発明の側位システムでは様々な応用が可能であるが、いくつかの応用例を挙げれば以下の通りである。
【0016】
前記移動局は、さらに、自身の移動方向を認識するための移動方向認識部を備えた構成とすることも可能である(請求項2)。移動局の移動方向を検知することにより、移動局の位置の候補点を限定できる。また、基地局の位置を壁際等とすることによって、移動局の位置が室内であることを前提にさらに移動局の候補点を絞り込むことができ、移動局の位置を一意に決定することができる。
【0017】
前記移動局は、さらに、各方向の対象物までの距離を測定するための対象物距離測定部(130a,130b,130c,130d)を備えた構成とすることも可能である(請求項3)。移動局の各方向の対象物までの距離を測定することにより、移動局の位置の候補点を限定できる。また、上記の移動方向の検知と組み合わせることにより、移動局の位置を一意に決定することができる。
【0018】
また、前記基地局(200)は、前記移動局からの信号を受信する4つの受信部(202)と、前記各受信部に対応し、前記各受信部で受信した信号から基準拡散符号(PN0)との相関により前記基準拡散信号を検出する4つの基準相関器(206)と、前記各基準相関器に対応し、前記基準拡散信号をトリガにして生成された信号を所定の拡散符号(PN1〜PN4)で拡散して反射信号とする4つの拡散器(214)と、前記各拡散器に対応し、前記反射信号を前記移動局に送信する4つの送信部(202)と、を備え、前記4つの受信部および前記4つの送信部は、4象限に区切った放射パターンを持ち、前記4つの拡散器は、互いに異なる拡散符号を用いるように構成することも可能である(請求項4)。かかる構成によれば、移動局の移動方向を検知したり、移動局の各方向の対象物までの距離を測定したりすることなく、UWBだけによる位置測定により、移動局の位置を一意に決定することができる。
【0019】
上記課題を解決するため、本発明の第2の観点によれば、1つの基地局により側位の対象となる無線通信装置であって、タイミング信号をトリガにして生成された超広帯域(UWB)方式による信号を基準拡散符号(PN0)で拡散して基準拡散信号とする基準拡散器(104)と、前記基準拡散信号を前記基地局に送信する送信部(108)と、前記基地局から反射信号を受信する(一定距離離れた)第1、第2の受信部(110、118)と、前記第1の受信部で受信した信号から所定の拡散符号(PN1)との相関により前記反射信号を検出する第1の相関器(114)と、前記第2の受信部で受信した信号から所定の拡散符号(PN1)との相関により前記反射信号を検出する第2の相関器(118)と、前記第1、第2の相関器により検出された反射信号と前記タイミング信号との時間差を測定する時間差測定部(126)と、を備えたことを特徴とする、無線通信装置が提供される(請求項5)。
【0020】
かかる無線通信装置によれば、UWBを利用した移動局と基地局および基地局同士の同期システムが不必要であり、移動局の位置を正確に算出することが可能である。基地局をレスポンダとして利用することで、移動局の絶対位置を移動局自身で算出することが可能となる。また、設置する基地局数が最低1個あれば移動局の位置を算出することが可能である。そのため、基地局を設置する際の面倒な配線や基地局同士の同期が不要となり、価格の低下や技術的容易さを向上させることが可能となる。
【0021】
上記本発明の無線通信装置では様々な応用が可能であるが、いくつかの応用例を挙げれば以下の通りである。
【0022】
さらに、自身の移動方向を認識するための移動方向認識部を備える構成とすることも可能である(請求項6)。移動局の移動方向を検知することにより、移動局の位置の候補点を限定できる。また、基地局の位置を壁際等とすることによって、移動局の位置が室内であることを前提にさらに移動局の候補点を絞り込むことができ、移動局の位置を一意に決定することができる。
【0023】
さらに、各方向の対象物までの距離を測定するための対象物距離測定部(130a,130b,130c,130d)を備える構成とすることも可能である(請求項7)。移動局の各方向の対象物までの距離を測定することにより、移動局の位置の候補点を限定できる。また、上記の移動方向の検知と組み合わせることにより、移動局の位置を一意に決定することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、移動局と基地局および基地局同士の同期システムが不必要であり、設置する基地局数が最低1個あれば移動局の位置を算出することが可能である。その他の本発明の優れた効果については、以下の発明を実施するための最良の形態の説明においても説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明にかかる側位システムおよび無線通信装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について説明する。
【0027】
まず本実施形態の基本的な概念について説明する。
以下の実施形態では、移動局にUWB無線送信機1個とUWB無線受信機2個を一定距離離して搭載する。また、基地局として最低1個の送受信機を用いて、移動局の位置を移動局自身により測定する、レスポンダタイプの位置測定方法である。測定手順は移動局の送信機から送信したパルスを基地局が受信し、拡散符号を変更して基地局が移動局の2個の受信機に対してパルスを返信する。このとき、移動局の2個の受信機は微少な時間差で基地局からの返信パルスを受信する。そしてこの時間差により側位を行う。
【0028】
同期については、移動局が出した電波を基地局が送り返すレピータ方式により、時計は移動局内で完結するため不要となる。送り返す際の遅延に関しても、UWBの持つシンプルな構成により補正が簡単になる利点がある。
【0029】
以下、本実施形態の構成および動作について詳細に説明する。本実施形態の屋内設置例を図1に、移動局および基地局のブロック図を図2に示す。
【0030】
(1−1)移動局および基地局の屋内設置例(図1)
図1は、移動局100と1つの基地局200が屋内に設置された状態を示す説明図である。本実施形態では、移動局に図1のようにUWB無線送信機1個(参照符号Pで表す)とUWB無線受信機2個(参照符号A、Bで表す)を一定距離離して搭載する。また、基地局として最低1個の送受信機を用いて、移動局の位置を移動局自身により測定する。本実施形態は、このようなレスポンダタイプの位置測定方法である。測定手順は移動局の送信機から送信したパルスを基地局が受信し、拡散符号を変更して基地局が移動局の2個の受信機に対してパルスを返信する。このとき、移動局の2個の受信機は微少な時間差で基地局からの返信パルスを受信する。
【0031】
移動局100は、本発明の無線通信装置の一例であり、本システムにおける側位の対象となる装置等である。本実施形態の移動局100は自身の位置を精度良く知っている必要があるものである。このような移動局100の具体例としては、例えば、掃除、警備、配達などの用途に使われる自走式ロボットである。地上の位置を決定する手段として現在最も一般的な方法であるGPS(Global
Positioning System)では屋内での高精度の側位が困難であることから、以下に説明する基地局200を用いて側位を行う。
【0032】
基地局200は、移動局100の側位を行うための装置等である。基地局200は、図1に示したように、屋内の日常において障害とならない部屋の天井などに設置される。また例えば、基地局200を照明の近傍に設置することにより、照明と同じ電源から電力の供給を受けることが可能である。
【0033】
(1−2)移動局および基地局の構成例(図2)
移動局100および基地局200の構成例について、図2を参照しながら説明する。
【0034】
(移動局100)
移動局100は、図2に示したように、送信機能(図1の参照符号Pに相当)としてのパルスジェネレータ102、拡散器(PN0)104、増幅器106およびアンテナ108と、受信機能(図1の参照符号A、Bに相当)としての2つのアンテナ110、118および2つの増幅器112、120と、2つの相関器(PN1)114、122と、2つのアナログデジタル変換器116、124と、時間差測定部126を備えて構成されている。
【0035】
パルスジェネレータ102は、時間測定部126からのタイミングシグナル(Timing Signal)をトリガに、超広帯域(UWB)方式によるパルスを発生する。拡散器104はこのパルスを符号PN0に拡散する。この拡散器104により拡散された信号は、本実施形態の側位において基準となる信号であるため、以下、基準拡散信号と称する。増幅器106は基準拡散信号を増幅する。アンテナ108は、増幅後の基準拡散信号を基地局200に送信する。
【0036】
一方、受信機能としての2つのアンテナ110、118は、基地局200から送り返された信号(反射信号)を受信する。この反射信号は基地局200で生成される信号であり、その詳細についてはさらに後述する。増幅器112、120は反射信号を増幅する。相関器114、122は、受信信号から第1の拡散符号PN1との相関により、基地局200から送信される反射信号を検出する。アナログデジタル変換器116、124は反射信号をデジタル変換する。
【0037】
時間差測定部126は、2つのアンテナ110、118から受信した反射信号の時間差を測定し、タイミングシグナルを基準とした時間を計測することで、2つのアンテナ110、118の基地局200からの距離を測定する。本実施形態では、この測定された距離を用いて、移動局100の側位を行う。この点については、図3を参照しながらさらに後述する。
【0038】
(基地局200)
基地局200は、図2に示したように、受信機能としてのアンテナ202および増幅器204と、相関器(PN0)206と、増幅器208と、アナログデジタル変換器210と、パルスジェネレータ212と、拡散符号PN1に対応する拡散器(PN1)214と、送信機能としての増幅器216およびアンテナ202と、を備えて構成されている。図2に示した一例では、アンテナ202で送信機能および受信機能を兼用しているが、送信用のアンテナと受信用のアンテナを別個に設けてもよい。
【0039】
アンテナ202は、移動局100から送信された信号を受信する。増幅器204は受信信号を増幅する。相関器206はこの増幅された受信信号から相関値(PN0)との相関により、移動局100から送信された基準拡散信号を検出する。増幅器208は基準拡散信号を増幅する。アナログデジタル変換器210は、増幅後の基準拡散信号をデジタル信号に変換する。パルスジェネレータ212は、このデジタル信号をトリガとしてパルスを発生する。
【0040】
次段の拡散器214は、パルスジェネレータ212が生成したパルスを符号PN1に拡散して拡散信号とする。この拡散器214により拡散された信号は、本実施形態の側位において移動局100に反射されて側位に用いられる信号であるため、本明細書において反射信号と称する。増幅器216は、この反射信号を増幅する。アンテナ218は、増幅後の電波を移動局100に送り返す。
【0041】
本実施形態では、移動局100と基地局200との間での同期を必要とせず、また、基地局200を1つだけ設置することから基地局間での同期という概念は存在しない。このため、本実施形態の基地局200は、図2に示したような簡易な構成とすることが可能であり、また、設置も容易である。
【0042】
本実施形態の構成は以上の通りである。次に、本実施形態の動作について説明する。
【0043】
(1−3)本実施形態の動作
移動局100において、タイミングシグナルをトリガにパルスジェネレータ102からパルスが発生し、次段の拡散器104で符号PN0に拡散され、増幅器106で増幅後、アンテナ108より発射される。
【0044】
基地局200では、アンテナ202で信号を受信し増幅器204で増幅後、符号PN0に対応する相関器206により、相関値を出力する。この信号がトリガとなり、基地局200のアンテナ218からは、パルスジェネレータ212で生成され拡散器214で符号PN1に拡散された電波を移動局100に送り返す。
【0045】
移動局100に送り返された信号は、2つの相関器114、122で検出される。時間差測定部126において、タイミングシグナルからの時間を計測することで、移動局100と基地局200との間の距離が測定される。この点について、以下説明する。
【0046】
(1−4)移動局および基地局における受信信号(図3)
図3は、移動局100および基地局200における受信信号を示す説明図である。図3では、説明の便宜上、移動局100が基準拡散信号を送信してから移動局100が反射信号を受信するまでの間のみを示している。
【0047】
図3に示したように、移動局100が送信するパルス幅をTp、移動局100の2つの各アンテナと基地局200との間の空間伝送時間をTd、基地局200でのレスポンス時間をTlとする。時間差測定部126により算出される時間差をTtとすると、Tt=4×Tp+2×Td+Tlである。よって、移動局100の2つの各アンテナと基地局200との間の距離Xは、X=c(光速)×Td=c×(Tt−4×Tp−Tl)/2で算出される。
【0048】
本実施形態では、移動局100の2つのアンテナが反射信号を受信する時間差を利用して側位を行う。すなわち、移動局100自身が基準拡散信号を送信し、かつ反射信号を受信することから、移動局100と基地局200との間の距離を判断することができる。さらに、移動局100の2つのアンテナが反射信号を受信する時間差を利用することで、移動局100の絶対位置の候補点を絞り込む。
【0049】
上述のような計算では、移動局100の位置は一意には決まらず、図4に示したように、位置検出範囲を基地局200を中心とするXY座標で考えた場合、各象限に対称的に算出されて4個の座標に限定される。以下の説明では、図4において紙面右上の象限を第1象限、紙面左上の象限を第2象限、紙面左下の象限を第3象限、紙面右下の象限を第4象限と称する。
【0050】
図5は、移動局100が第2象限に存在する場合の、移動局100の2つのアンテナと基地局200との位置関係を示す説明図である。以下の説明では、図5に示したように、移動局100の2つのアンテナA、Bと基地局200との間の距離をXa、Xbとして区別する。
【0051】
図4に示したように、移動局100の位置は一意には決まらず、移動局100の4つの候補点が与えられる。ただし、移動局100が室内のみを移動し、室外には存在しないという前提のもとでは、基地局200を壁際等に設置した場合には、4つのうち2つの候補点は室外となる。また、基地局200を室内の隅に設置した場合には、4つのうち3つの候補点は室外となる。そこで、移動局100が室内のみを移動し、室外には存在しないという情報を予め移動局100に入力することにより、移動局100の位置を絞り込んだり一意に決定したりすることができる。このようにして、他の候補点の存在が実用上問題となることはない。なお、移動局100の候補点を絞り込む他の方法については、後述の実施形態でさらに説明する。
【0052】
また、移動局100が受信する信号の中には、基地局200から反射無しで送り返される信号のほか、壁などで反射される反射波も含まれる。しかし、本実施形態ではUWB(超広帯域)方式を利用していることで、かかる反射波は反射無しで送り返される信号に比べてその信号レベルが小さくなる。すなわち、最初に帰ってくる信号レベルが一番大きく、これが反射無しで送り返される信号であると判別することが可能である。この点も、本実施形態でUWBを利用していることの利点の一つである。
【0053】
(第1の実施形態の効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、UWBを利用した移動局100と基地局200および基地局同士の同期システムが不必要であり、移動局100の位置を正確に算出することが可能である。基地局200をレスポンダとして利用することで、移動局100の絶対位置を移動局100自身で算出することが可能となる。
【0054】
また、設置する基地局数が最低1個あれば移動局の位置を算出することが可能である。そのため、基地局を設置する際の面倒な配線や基地局同士の同期が不要となり、価格の低下や技術的容易さを向上させることが可能となる。
【0055】
(移動局100の候補点を絞り込む方法)
上記第1の実施形態の方法では、基地局200から2個のアンテナへの距離Xa、Xbが算出された結果、図4のように位置検出範囲を基地局200を中心とするXY座標で考えた場合、各象限に対称的に算出されて4個の座標に限定される。そこで、以下の第2、第3の実施形態では、限定された位置からどの象限に位置するかを判別する方法について、いくつかの例を説明する。
【0056】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態について説明する。
本実施形態では、移動局100は、移動局100の移動方向を認識するための移動方向認識部を備えたことを特徴とする。
【0057】
通常、自立自走型の移動局は移動方向の認識や直進性を維持するために方位認識装置を搭載する必要がある。この装置はジャイロやGPSで容易に実現できる。このような装置を本発明の移動方向認識部として用いることにより移動局の移動方向を移動局自身が認識できる。かかる装置では移動方向だけを認識できれば良いため、拡散符号を変更したり、反射波の影響を考慮したりするなどの仕組みを必要としない。このため、高度な測定装置は必要ではなく、ジャイロ以外にも例えば屋内(地下を除く)でのGPSでも可能となる。
【0058】
このように、移動局に自身の移動方向を認識するための移動方向認識部を備えたことにより、移動局の進行方向が限定される。図4に示した例では、図中矢印で示したように、移動局100の進行方向に対して受信部Aが左側であり受信部Bが右側であることを前提とすると、移動局100が紙面上向き(Y軸の正方向)に進行していれば、移動局100の位置は第2、第3象限のいずれかであると判定できる。また、移動局100が紙面下向き(Y軸の負方向)に進行していれば、移動局100の位置は第1、第4象限のいずれかであると判定できる。このように、移動局100の進行方向が限定されることにより、第1の実施形態においてUWB通信で算出された移動局100の位置を1/2に限定できる。
【0059】
(第2の実施形態の効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、ジャイロ等の簡易な手段により移動局100の移動方向を検知することにより、第1の実施形態との比較で移動局100の位置を1/2に限定できる。さらに、基地局200を、図4のX軸を壁際とするような位置に設置することによって、第3、第4象限(または第1、第2象限)の候補点を除外することができ、移動局100の位置を一意に決定することができる。
【0060】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態について説明する。
本実施形態では、移動局100は、図6に示したように、各方向の対象物(壁など)までの距離を測定するための対象物距離測定機能を備えたことを特徴とする。図6に示した一例では、対象物距離測定部として、4つの方向に測定部130a、130b、130c、130dを備えている。
【0061】
通常、自立自走型の移動局は移動方向の認識や直進性を維持するために複数のセンサを搭載している。また、屋内における家電移動局は屋内に設置された家具や壁を避けながら移動することが要求されるため、ショックセンサや超音波センサ等を使用して、壁や家具を認識し、回避動作等を行っている。その一つに対壁センサとして、超音波距離測定装置を搭載することがある。この距離測定法は近距離において精度を上げられる利点があるが、UWBを用いても同様以上の精度を達成することが可能である。
【0062】
また、基地局200との通信でUWBを使用しているため、図7に示したように、移動局100の上部に設置されている送信機の放射パターンを半球状にすることで、壁面からの反射波を移動局100の側面に搭載した受信機(図7の例では測定部130b)で受信して、壁面までの距離を測定することが可能となる。この場合、基地局200との間の通信とは異なり、拡散符号による判別を行う必要が無く、電力検出による簡単な構成で受信が可能となる。すなわち、対壁に使用する受信機は拡散符号を使用したものではなく、最初に反射してきたパルスを受信すれば良いため、簡単な検波機能を持つ受信機で良い。
【0063】
このように、移動局100の壁面までの距離が限定されることにより、第1の実施形態のUWB通信で算出された位置を1/2に限定できる。すなわち、対象物距離測定部130a、130bからの対象物までの距離が、他の対象物距離測定部130c、130dから対象物までの距離よりも大きければ、移動局100の位置は図4に示した第2、第4象限のいずれかであり、対象物距離測定部130c、130dからの対象物までの距離が、他の対象物距離測定部130a、130bから対象物までの距離よりも大きければ、移動局100の位置は図4に示した第1、第3象限のいずれかであると判定できる。
【0064】
(第3の実施形態の効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、移動局100の壁際までの距離を検知することにより、第1の実施形態との比較で移動局100の位置を1/2に限定できる。
【0065】
さらに、第2の実施形態(移動方向を検知)と組み合わせることにより、移動局100の位置を一意に決定することができる。すなわち、第2の実施形態では、移動局100の位置を、第1、第4象限のいずれか、または第2、第3象限のいずれかに候補点を絞り込むことができる。そして、第3の実施形態では、移動局100の位置を、第2、第4象限のいずれか、または第1、第3象限のいずれかに候補点を絞り込むことができる。このように、無線基地局からの距離、移動局の進行方向、壁からの距離を複合して計算することで、図4のXY座標のどの象限のどの位置に移動局が存在するかを測定することができ、移動局100の位置を一意に決定することができる。
【0066】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態について説明する。
本実施形態では、第2、第3の実施形態と異なり、UWBによる位置測定だけで移動局100の位置の候補点を絞り込む方法について説明する。UWBだけによる位置測定を行う場合には、図8に示したように、基地局200に4象限に区切った放射パターンを持つ送受信機200−1、200−2、200−3、200−4を設置して、それぞれの送受信機に異なる拡散符号を持たせることで、移動局のある象限を判別する。そしてその後、移動局に搭載されている2個の受信機で基地局からの返信時間を測定して正確な位置を算出することができる。
【0067】
各送受信機200−1、200−2、200−3、200−4の構成は、図1に示したアンテナ202、増幅器204、相関器(PN0)206、増幅器208、アナログデジタル変換器210、パルスジェネレータ212、拡散器214および増幅器216の構成と実質的に同様である。ただし、拡散器214で用いる拡散符号は、各送受信機200−1、200−2、200−3、200−4において互いに異なるもの(例えば、拡散符号PN1、PN2、PN3、PN4)とする。これにより、移動局100は、送受信機200−1、200−2、200−3、200−4のいずれからの反射信号であるかを判定することができる。
【0068】
(第4の実施形態の効果)
以上説明したように、本実施形態によれば、移動局100が存在する象限を特定することができ、移動局100の位置を一意に決定することができる。また、本実施形態の構成によれば、基地局200を任意の位置に設置できるため、例えば、基地局200を照明の近傍に設置することによって、照明と同じ電源から電力の供給を受けることが可能である。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら本発明にかかる側位システムおよび無線通信装置の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0070】
例えば、上記実施形態では、移動局100に2つの受信部A、Bを備えた構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、3つ以上の受信部を備える構成であってもよい。受信部の数を増やすことにより、側位の精度をさらに向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は側位システムおよび無線通信装置に利用可能であり、特に、屋内等のGPSの利用が困難な場所における位置情報が必要とされるあらゆるシステムに適用可能である。このようなシステムとしては、例えば、掃除、警備、配達などの用途に使われる自走式ロボットがある。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】移動局および基地局の屋内設置例を示す説明図である。
【図2】第1の実施形態にかかる移動局および基地局の構成例を示す説明図である。
【図3】第1の実施形態における移動局の受信信号を示す説明図である。
【図4】第2の実施形態にかかる側位システムを示す説明図である。
【図5】第2の実施形態にかかる側位システムを示す説明図である。
【図6】第3の実施形態にかかる側位システムを示す説明図である。
【図7】第3の実施形態にかかる側位システムを示す説明図である。
【図8】第4の実施形態にかかる側位システムを示す説明図である。
【図9】従来の側位システムの一例を示す説明図である。
【図10】従来の側位システムの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0073】
100 移動局
102 パルスジェネレータ
104 拡散器(PN0)
106 増幅器
108 アンテナ
110 アンテナ
112 増幅器
114 相関器(PN1)
116 アナログデジタル変換器
118 アンテナ
120 増幅器
122 相関器(PN1)
124 アナログデジタル変換器
126 時間差測定部
130a、130b、130c、130d 移動方向認識部
200 基地局
202 アンテナ
204 増幅器
206 相関器(PN0)
208 増幅器
210 アナログデジタル変換器
212 パルスジェネレータ
214 拡散器(PN1)
216 増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側位の対象となる移動局と、前記移動局の側位を行うための基地局とを含む側位システムにおいて、
前記移動局は、
タイミング信号をトリガにして生成された超広帯域方式による信号を基準拡散符号で拡散して基準拡散信号とする基準拡散器と、
前記基準拡散信号を前記基地局に送信する送信部と、
前記基地局から反射信号を受信する第1、第2の受信部と、
前記第1の受信部で受信した信号から所定の拡散符号との相関により前記反射信号を検出する第1の相関器と、
前記第2の受信部で受信した信号から所定の拡散符号との相関により前記反射信号を検出する第2の相関器と、
前記第1、第2の相関器により検出された反射信号と前記タイミング信号との時間差を測定する時間差測定部と、
を備え、
前記基地局は、
前記移動局からの信号を受信する受信部と、
前記受信部で受信した信号から基準拡散符号との相関により前記基準拡散信号を検出する基準相関器と、
前記基準拡散信号をトリガにして生成された信号を所定の拡散符号で拡散して反射信号とする拡散器と、
前記反射信号を前記移動局に送信する送信部と、
を備えたことを特徴とする、側位システム。
【請求項2】
前記移動局は、さらに、自身の移動方向を認識するための移動方向認識部を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の側位システム。
【請求項3】
前記移動局は、さらに、各方向の対象物までの距離を測定するための対象物距離測定部を備えたことを特徴とする、請求項1または2に記載の側位システム。
【請求項4】
前記基地局は、
前記移動局からの信号を受信する4つの受信部と、
前記各受信部に対応し、前記各受信部で受信した信号から基準拡散符号との相関により前記基準拡散信号を検出する4つの基準相関器と、
前記各基準相関器に対応し、前記基準拡散信号をトリガにして生成された信号を所定の拡散符号で拡散して反射信号とする4つの拡散器と、
前記各拡散器に対応し、前記反射信号を前記移動局に送信する4つの送信部と、
を備え、
前記4つの受信部および前記4つの送信部は、4象限に区切った放射パターンを持ち、
前記4つの拡散器は、互いに異なる拡散符号を用いることを特徴とする、請求項1に記載の側位システム。
【請求項5】
1つの基地局により側位の対象となる無線通信装置であって、
タイミング信号をトリガにして生成された超広帯域方式による信号を基準拡散符号で拡散して基準拡散信号とする基準拡散器と、
前記基準拡散信号を前記基地局に送信する送信部と、
前記基地局から反射信号を受信する第1、第2の受信部と、
前記第1の受信部で受信した信号から所定の拡散符号との相関により前記反射信号を検出する第1の相関器と、
前記第2の受信部で受信した信号から所定の拡散符号との相関により前記反射信号を検出する第2の相関器と、
前記第1、第2の相関器により検出された反射信号と前記タイミング信号との時間差を測定する時間差測定部と、
を備えたことを特徴とする、無線通信装置。
【請求項6】
さらに、自身の移動方向を認識するための移動方向認識部を備えたことを特徴とする、請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項7】
さらに、各方向の対象物までの距離を測定するための対象物距離測定部を備えたことを特徴とする、請求項5または6に記載の無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−151533(P2008−151533A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337138(P2006−337138)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】