説明

光の反射防止効果を有する成型品

【課題】優れた光の反射防止効果を有する成型品を効率良く簡便に提供することにある。更に、優れた光の反射防止効果や優れた光の透過性能を有する光の反射防止効果を有する成型品に要求される表面形状と物性を見出し、かかる特定の表面形状と物性を有する光の反射防止効果を有する成型品を提供すること。
【解決手段】表面に微細形状を有する型を用い、該型が表面に有する微細形状を熱可塑性樹脂に熱転写し成型してなる成型品であって、その表面に平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は平均深さ100nm以上1000nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在していることを特徴とする成型品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の材料からなり特定の表面形状を有し、優れた光の反射防止効果、優れた光の透過性能を有する成型品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
反射を防止したい対象は多くあり、例えば、特許文献1には、各種メーター類の前面に設けられる反射が防止されたメーターフロントカバーの例が記載されている。また、レンズ等の成型体のように、透過率を少しでも上げたい成型体にとって反射率を下げることは極めて重要である。更に、液晶表示ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)等のフラットパネルディスプレイ(以下、「FPD」と略記する)でも、その視認性確保のために、ディスプレイの表面における光の反射を防止する成型体を設けることは極めて重要である。
【0003】
かかる反射を防止する手段としては、主に以下の反射防止手段が使用されてきた。(1)一般にドライ法と言われているもの、すなわち、誘電体多層膜を気相プロセスで作製し、光学干渉効果で低反射率を実現したもの、(2)一般にウエット法と言われているもの、すなわち、低屈折率材料を基板フィルム上にコーティングしたもの等が使用されてきた。また、これらとは原理的に全く異なる技術として、(3)表面に微細構造を付与することにより、低反射率を発現させることができることが知られている(特許文献1〜特許文献12)。
【0004】
中でも、その反射防止性能が高い点で、上記(3)が挙げられるが、上記(3)の微細構造を表面に付与する手段を採りつつ、更に光の反射防止効果の性能を向上させる方法として種々検討されており、例えば、アルミニウム表面の陽極酸化による陽極酸化被膜の形成と、その陽極酸化被膜のエッチングとを組み合わせたものを型として、その形状を反射防止膜に転写する方法等が知られている(特許文献12〜特許文献15)。
【0005】
また、表面に微細構造が付与された成型体の材料の研究もあり、例えば、特許文献9、特許文献15には、かかる材料として光硬化性組成物や熱硬化性組成物を用いる技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらについては、未だ十分な性能を備えているものはなく、特に、光の反射防止性能のみならず光の透過性能が十分ではなく、更なる向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−264594号公報
【特許文献2】特開昭50−070040号公報
【特許文献3】特開平9−193332号公報
【特許文献4】特開2003−162205号公報
【特許文献5】特開2003−215314号公報
【特許文献6】特開2003−240903号公報
【特許文献7】特開2004−004515号公報
【特許文献8】特開2004−059820号公報
【特許文献9】特開2004−059822号公報
【特許文献10】特開2005−010231号公報
【特許文献11】特開2005−092099号公報
【特許文献12】特開2003−043203号公報
【特許文献13】特開2005−156695号公報
【特許文献14】特開2007−086283号公報
【特許文献15】特開2006−091859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、光の反射防止効果、光の透過性能等に優れた成型品を効率良く簡便に提供することにある。更に、優れた光の反射防止効果や優れた光の透過性能を有する光の反射防止効果を有する成型品に要求される表面形状と物性を見出し、かかる特定の表面形状と物性を有する光の反射防止効果を有する成型品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、熱可塑性樹脂を用いた加工工程において、同時に表面微細構造を加工成型することにより、光の反射防止効果、光の透過性能等に極めて優れた成型品を、効率良く簡便に得られることを見出し本発明に到達した。
【0010】
更に、その時に使用される型に関しても、型としてアルミニウムの陽極酸化被膜を用いる場合、アルミニウム材料に圧延加工を施す際に生じる加工応力や加工自体に基づく表面の不均一性、製造過程における環境からの影響、例えば、加工時に混入するダストや汚染物質に起因する表面の不均一性等が、得られた成型品の光の反射防止効果、光の透過性能等に悪影響を及ぼすことを見出した。すなわち、かかるアルミニウム材料から得られた型を転写して得られた成型品は、光の反射防止効果や透過性能の低下をもたらすことを見出した。そして、それを解決するために、アルミニウム材料の表面をあらかじめ加工仕上げすることにより、所望の性能を持った、特に、光の反射防止効果、光の透過性能等に優れた成型品が得られることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、表面に微細形状を有する型を用い、該型が表面に有する微細形状を熱可塑性樹脂に熱転写し成型してなる成型品であって、その表面に平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は平均深さ100nm以上1000nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在していることを特徴とする成型品を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、必ずしも膜に限定されていない。成型品の表面に直接微細形状を有するので、基材への貼付等の製造工程を必要とせず、光の反射防止効果、光の透過性能等に極めて優れた成型品を、効率良く簡便に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の成型品を製造するための型の一例を示す走査型電子顕微鏡写真(3万倍)である。
【図2】本発明の成型品の一例の断面を示す走査型電子顕微鏡写真(4万倍)である。
【図3】本発明の成型品の視感度補正後の反射率のスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[型について]
<1.型の作製方法>
本発明の光の反射防止効果、光の透過性能等に優れた成型品は、表面に微細形状を有する型を用い、その型が表面に有する該微細形状を熱可塑性樹脂に熱転写し成型することによって得られる。表面に微細形状を有する型の種類又は型の作製方法は特に限定はないが、アルミニウム材料の表面の陽極酸化被膜を用いた型;微細切削加工機等を用いダイヤモンドバイト等で機械的に微細形状を形成した型;ニッケル、クロム、銅、金等のめっきに適した金属のめっき物を利用した電気鋳造による型;等が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、特にアルミニウム材料の表面を陽極酸化し、その陽極酸化被膜表面の有する微細なテーパー形状の孔を利用してそれを転写する方法が、型として微細な形状を形成させ易いために好ましい。
【0016】
<2.アルミニウム材料の表面の陽極酸化被膜を用いた型>
ここで、「アルミニウム材料」とは、主成分がアルミニウムである材料であればよく、純アルミニウム(1000系)、アルミニウム合金の何れでもよい。本発明における純アルミニウムとは、純度99.00%以上のアルミニウムであり、好ましくは純度99.50%以上、より好ましくは純度99.85%以上である。アルミニウム合金は特に限定はないが、例えば、Al−Mn系合金(3000系)、Al−Mg系合金(5000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)等が挙げられる。これらの中でも、純アルミニウム(1000系);Mgの添加量が比較的少ないために加工性、耐食性に優れている点、良好な「テーパー形状の細孔」が得られる点で、アルミニウム合金5005;アルミニウム合金5005の改良合金(例えば、日本軽金属製58D5)等が好ましい。
【0017】
アルミニウム材料の種類は特に限定はないが、工業的に圧延されたままのアルミニウム板、押出管、引き抜き管等を用いることが、本発明においてはアルミニウム材料に後述する研摩を行うので、コスト低減や工程簡略化のために好ましい。
【0018】
また、本発明における表面に微細形状を有する型は、アルミニウム材料の表面に、陽極酸化による陽極酸化被膜の形成と、該陽極酸化被膜のエッチングとの組み合わせにより、微細形状を形成させてなる型であることが、光の反射防止効果、光の透過性能等に優れた成型品が得られる点で好ましい。特に好ましくは、表面に微細形状を有する型が、アルミニウム材料の表面を研摩により加工した後、該アルミニウム材料の表面に、陽極酸化による陽極酸化被膜の形成と、該陽極酸化被膜のエッチングとの組み合わせにより、微細形状を形成させてなる型であり、更に好ましくは、機械研摩、化学研摩及び/又は電解研摩により加工した後、該アルミニウム材料の表面に、陽極酸化による陽極酸化被膜の形成と、該陽極酸化被膜のエッチングとの組み合わせにより、微細形状を形成させてなる型である。
【0019】
<2−1.陽極酸化>
「陽極酸化」とは、酸溶液中で、アルミニウム材料を陽極として電流を流し、水が電気分解して発生する酸素とアルミニウムを反応させ、表面に細孔を有する酸化アルミニウムの被膜を形成させるものである。
【0020】
電解液としては、酸溶液であれば特に制限はなく、例えば、硫酸系、シュウ酸系、リン酸系又はクロム酸系の何れでもよいが、型としての被膜強度が優れている点、所望の細孔寸法が得られる点でシュウ酸系の電解液が好ましい。
【0021】
陽極酸化の条件は、前記した目的の形状の型ができるものであれば特に限定はないが、電解液としてシュウ酸を用いる場合の条件は以下の通りである。すなわち、濃度は0.01〜0.5Mが好ましく、0.02〜0.3Mがより好ましく、0.03〜0.1Mが特に好ましい。印加電圧は20〜120Vが好ましく、40〜110Vがより好ましく、60〜105Vが特に好ましく、80〜100Vが更に好ましい。液温は0〜50℃が好ましく、1〜30℃がより好ましく、2〜10℃が特に好ましい。1回の処理時間は5〜500秒が好ましく、10〜250秒がより好ましく、15〜200秒が特に好ましく、20〜100秒が更に好ましい。かかる範囲の条件で陽極酸化を行えば、下記するエッチング条件と組み合わせることにより、「微細形状を有する型」が製造できる点で好ましい。なお、他の酸でも上記とほぼ同じ陽極酸化の条件が好ましい。
【0022】
電圧が大き過ぎる場合には、形成される細孔の平均間隔が大き過ぎるようになり、この型を熱可塑性樹脂に熱転写させることによって、得られた成型品の表面に形成された凸部又は凹部の平均周期が大きくなり過ぎる場合がある。一方、電圧が小さ過ぎる場合には、細孔の平均間隔が小さ過ぎるようになり、この型を熱可塑性樹脂に熱転写させることによって、得られた成型品の表面に形成された凸部又は凹部の平均周期が小さくなり過ぎる場合がある。本発明の成型品は、その表面に存在する凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在することが必須であるので、電圧はこの範囲に入るように調整されるのが好ましい。
【0023】
処理時間が長過ぎる場合は、成型品の凹凸部の高さが高くなり過ぎる場合があり、短過ぎる場合は、成型品の凹凸部の高さが低くなりすぎ、期待する反射防止効果が低下する場合がある。また、陽極酸化と後述するエッチングを交互に繰り返すことが好ましい。
【0024】
<2−2.エッチング>
エッチングは主に陽極酸化被膜の孔径拡大と所望の形状の型を得るために行われる。上記の陽極酸化とエッチングとを組み合わせることで、アルミニウム材料表面上の陽極酸化被膜に形成された、テーパー形状を形成する細孔の孔径、該テーパー形状、細孔の凹凸部の高さ及び深さ等を調整することができる。
【0025】
エッチングの方法は通常知られている方法であれば特に制限なく用いることができる。例えば、エッチング液としては、リン酸、硝酸、酢酸、硫酸、クロム酸等の酸溶液、又はこれらの混合液を用いることができる。好ましくは、リン酸又は硝酸であり、必要な溶解速度が得られる点、より均一な面が得られる点で、特に好ましくはリン酸である。
【0026】
エッチング液の濃度や浸漬時間、温度等は、所望の微細形状が得られるように適宜調節すればよいが、リン酸の場合の条件は以下の通りである。すなわち、エッチング溶液の濃度は、1〜20質量%が好ましく、1.2〜10質量%がより好ましく、1.5〜2.5質量%が特に好ましい。液温は、30〜90℃が好ましく、35〜80℃がより好ましく、40〜60℃が特に好ましい。1回の処理時間(浸漬時間)は1〜60分が好ましく、2〜40分がより好ましく、3〜20分が特に好ましく、5〜10分が更に好ましい。かかる範囲の条件でエッチングを行えば、上記した陽極酸化条件との組み合わせで、「微細形状を有する型」が製造できる点で好ましい。なお、他の酸でも上記とほぼ同じ条件が好ましい。
【0027】
上記陽極酸化とエッチングは組み合わせて、「微細形状を形成させてなる型」を得ることができる。「組み合わせる」とは、先に陽極酸化をして交互に処理を繰り返すことをいう。各処理の間には水洗をすることも好ましい。陽極酸化とエッチングの回数は所望の形状が得られるように適宜調節すればよいが、組み合わせの回数として、1〜10回が好ましく、2〜8回がより好ましく、3〜6回が特に好ましい。
【0028】
本発明の成型品において、熱転写させる「微細形状を形成させてなる型」を得る場合、特に好ましい組み合わせは、シュウ酸水溶液で陽極酸化をし、リン酸水溶液でエッチングをすることである。全体の好ましい条件は上記の各好ましい条件の組み合わせである。
【0029】
<2−3.研磨>
アルミニウム材料の表面を研摩により加工した後、該アルミニウム材料の表面に上記した方法で微細形状を形成させてなる型は、その微細形状を熱可塑性樹脂に熱転写することによって、特に光の透過性能に優れた反射防止膜を提供できる点で好ましい。研摩としては、機械研摩、化学研摩及び/又は電解研摩が好ましい。すなわち、機械研摩、化学研摩及び/又は電解研摩により加工した後、該アルミニウム材料の表面に、陽極酸化による陽極酸化被膜の形成と、該陽極酸化被膜のエッチングとの組み合わせにより、微細形状を形成させてなる型が、型として特に好ましい。
【0030】
上記アルミニウム材料の表面を、機械研摩、化学研摩及び/又は電解研摩により加工する場合には、機械研摩、化学研摩、電解研摩の何れか1つでもよく、又はこれらを任意に組み合わせてもよい。アルミニウム材料の表面を研摩することによって、アルミニウム材料の表面が均一になり、それを加工して得られた表面を型として用いて得られた本発明の成型品は、光の透過性能が著しく向上する。
【0031】
研摩によって得られたアルミニウム材料の表面のRa、Ryは、特に限定はないが、研摩によって得られたアルミニウム材料の表面のRaは、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.03μm以下、特に好ましくは0.02μm以下である。また、Ryは、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.35μm以下である。ここで、Ra及びRyは、JIS B0601(1994)により求めた値であり、Raは「算術平均粗さ」であり、Ryは「最大高さ」である。
【0032】
このような、Ra及び/又はRyのときに、本発明の前記効果を奏し易い。特に、本発明の成型品が膜である場合、この研摩によって初めてヘイズが15%以下の反射防止膜が得られる。また、この研摩によって、視感度補正後の反射率を380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.5%以下にできるようになる。
【0033】
得られた成型品の光の透過性能をより向上させる点等から、電解研摩単独、機械研摩単独、電解研摩と化学研摩の組合せ、機械研摩と化学研摩の組合せ、電解研摩と機械研摩の組合せ、電解研摩と機械研摩と化学研摩の組合せが好ましく、その中でも、電解研摩単独又は電解研摩を含んだ組合せがより好ましい。更にその中でも、その前記した効果が大きく、また処理の容易な点で、機械研摩をした後に電解研磨する方法が特に好ましい。以下、各研摩方法について詳細に説明する。
【0034】
<2−3−1.機械研摩>
機械研摩としては、特に制限はなく常法に従って行えばよいが、具体的には例えば、バフ研摩法、グラインダーバフ研摩法、リューター研摩法、ベルトサンダー研摩法、ブラッシ研摩法、スチールウール研摩法、サンドブラスト研摩法、液体ホーニング研摩法、型付け研摩法、旋盤研摩法、バレル研摩法、ラッピング研摩法等が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、任意に組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、当該用途のアルミニウム材表面を効率良く加工でき、且つ、研摩面が優れ、結果として得られた成型品の光の透過性能を向上させる点で、バフ研摩法、旋盤研摩法、ラッピング研摩法かつバフ研摩法等が好ましく、片面平面バフ、ボールバフ、バイアスバフ等のバフ研摩法;精密旋盤研摩法;が特に好ましい。
【0035】
用いる研摩材は、特に制限はなく、通常使用されている研摩材を用いればよい。具体的には、例えば、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、炭化ケイ素、コランダム、酸化セリウム等、用いる研摩法や目的の形状に合わせて適宜選択すればよい。これらの最適化により、得られた成型品の光の透過性能を向上させることが可能となる。アルミニウム材料の表面をより均一にする点で、アルミニウム材との相性の良いコランダム(アルミナ系)を研摩材として用いたバフ研摩法、コロイダルシリカを研摩材として用いたボールバフ、無水ケイ酸系の油脂研摩材として用いたバイアスバフ、ダイヤモンドバイトを用いた精密旋盤研摩法が好ましい。
【0036】
ラッピングにおいては、必要に応じて研削液を用いるが、通常知られている水溶性、油溶性の研削液を用いればよい。スクラッチ等の傷が入りにくい、クーラント液として浸透性が良い、加工抵抗が低い、アルミニウム表面への影響を低減できる、洗浄が簡易である等の点で、水溶性研削液が好ましい。
【0037】
機械研摩の後、アルミニウム材料の表面に付着した研摩材を取り除く為に、スクラブ洗浄をするのが好ましい。アルミニウム材料の表面を傷つけない方法であれば特に制限はない。洗浄工程で用いる装置としては、具体的には、例えば、超音波洗浄機、ブラシスクラブ洗浄機、純水スピン洗浄乾燥機、RCA洗浄機、機能水洗浄機等が挙げられる。
【0038】
<2−3−2.化学研摩>
本発明における化学研摩とは、研摩液を作用させて化学反応を起こさせることでアルミニウム材料の表面を研摩する方法であり、特に制限はなく常法に従って行えばよい。具体的には、例えば、リン酸−硝酸法、Kaiser法、Alupol I、IV、V法、General Motor法、リン酸−酢酸−銅塩法、リン酸−硝酸−酢酸法、Alcoa R5法等が挙げられる。用いる化学研摩法に応じて、研摩液、温度、時間等を適宜選択することによって、得られた成型品の光の透過性能を向上させることが可能となる。これらの中でも、浴管理、実績、研摩面の仕上がり等の点で、リン酸−硝酸法、リン酸−酢酸−銅塩法が好ましい。
【0039】
リン酸−硝酸法における好ましい処理温度は、70℃〜120℃、より好ましくは80℃〜100℃であり、好ましい研摩時間は30秒〜20分、更に好ましくは1分〜15分である。また用いる研摩液の組成は、40〜80体積%リン酸、2〜10体積%硝酸、残量水の混合液である。
【0040】
<2−3−3.電解研摩>
本発明における電解研摩とは、電解液中で電解によってアルミニウムの表面を研摩するものであり、特に限定はなく常法に従って行うことができる。酸性溶液等の水分が少ないためにアルミニウム材料が溶解しにくい状態になっている溶液の中で、アルミニウムを陽極として直流電流を通じることによって、表面を研摩する。具体的には例えば、Kaiser法、リン酸法、Erftwerk法、Aluflex法等が挙げられる。用いる電解液、電流値、処理温度、時間等によって、研摩された表面は異なり、これらを適宜選択することによって、得られた成型品の光の透過性能を向上させることが可能となる。
【0041】
これらの中でも、リン酸法、リン酸−硫酸法が一般的であり、浴管理、仕上がり、得られる表面特性の点で好ましい。好ましいリン酸法の電解条件としては、温度は通常40℃〜90℃、好ましくは50℃〜80℃であり、電流密度は、20〜80A/dmが好ましく、30〜60A/dmがより好ましい。また用いる電解液としては、85〜100体積%リン酸が好ましい。また、電解研摩処理後に、酸化膜を除去するために、硝酸浴中に浸漬してもよい。
【0042】
<2−4.脱脂処理>
上記した、機械研摩、化学研摩及び/又は電解研摩をする前には、必要に応じて脱脂処理を行うことも好ましい。脱脂処理方法としては、例えば、有機溶剤法、界面活性剤法、硫酸法、電解脱脂法、アルカリ脱脂法、乳化脱脂法、リン酸塩法等が挙げられる。アルミニウム材表面を必要以上に荒らさない点から、非侵食性の脱脂処理を行うことが好ましい。
【0043】
<3.微細切削加工機等を用いて機械的に微細形状を形成した型>
機械的に微細形状を形成する方法としては、例えば、高精度の微細切削加工機と、表面算術平均粗さ(Ra)が極めて小さいダイヤモンドバイトとを用い、管理された恒温室内で、型を形成するための型基板に、凹凸形状、凹形状又は凸形状を加工する方法が好ましい。
【0044】
高精度の微細切削加工機を用いることにより、型基板表面への三次元加工を、高い精度で行うことができる。微細切削加工機のX、Y、Z移動軸の精度は、10nm以下が好ましく、特に好ましくは1nm以下である。型基板に対する、凹凸形状、凹形状又は凸形状の加工に用いるダイヤモンドバイトは、単結晶ダイヤモンドバイトでも焼結ダイヤモンドバイトでもよいが単結晶ダイヤモンドバイトが好ましい。
【0045】
[成型品について]
本発明の成型品には「膜」も含まれるが、本発明の成型品が、熱可塑性樹脂に熱転写し成型して作製される長所を生かすために、膜状であるよりも肉厚品の方が好ましい。ここで、「膜」とは厚さ0.1mm以下のものをいう。反射防止膜を貼り付けるのではなく、直接成型品表面に微細形状を転写した方が、工程が少なくなる点、反射防止効果が確実に得られる点等から好ましい。
【0046】
<1.成型品の表面微細形状>
また、本発明の成型品は、その表面に、平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は平均深さ100nm以上1000nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在していることが必須である。ここで凸部とは、基準となる面より出っ張った部分をいい、凹部とは、基準となる面より凹んだ部分をいう。本発明の成型品は、その表面に凸部を有していても、凹部を有していてもよい。また、凸部と凹部の両方を有していてもよく、更に、それらが連結して波打った構造を有していてもよい。
【0047】
本発明の成型品が両面を有する場合、かかる凸部又は凹部は、その両面に有していてもよいが、少なくとも一方の表面に有していることが必須である。中でも、空気と接している最表面に有していることが好ましい。空気は本発明の成型品とは屈折率が大きく異なり、互いに屈折率の異なる物質の界面が、本発明の特定の構造になっていることによって、反射防止性能や透過改良性能が良好に発揮されるからである。
【0048】
凸部又は凹部は、成型品の表面全体に均一に存在していることが、上記効果を奏するために好ましい。凸部の場合には、基準となる面からのその平均高さが、100nm以上1000nm以下であることが必須である。凹部の場合にも、基準となる面からのその平均深さが、100nm以上1000nm以下であることが必須である。高さ又は深さは一定でなくてもよく、その平均値が上記範囲に入っていればよいが、実質的にほぼ一定の高さ又は一定の深さを有していることが好ましい。
【0049】
凸部の場合でも、凹部の場合でも、その平均高さ又は平均深さは、150nm以上であることが好ましく、200nm以上であることが特に好ましい。また、600nm以下であることが好ましく、500nm以下であることが特に好ましい。平均高さ又は平均深さが、小さ過ぎると、良好な光学特性が発現されない場合があり、大き過ぎると、製造が困難になる等の場合がある。凸部と凹部が連結して波打った構造を有している場合では、最高部(凸部の上)と最深部(凹部の下)の平均長さは、100nm以上1000nm以下であることが同様の理由から好ましい。
【0050】
本発明の成型品は、その表面に、上記凸部又は凹部が、少なくともある一の方向の平均周期が、100nm以上400nm以下となるように配置されていることが必須である。凸部又は凹部は、ランダムに配置されていてもよいし、規則性を持って配置されていてもよい。また、何れの場合でも、上記凸部又は凹部は、成型品の表面全体に実質的に均一に配置されていることが反射防止性や透過改良性の点で好ましい。また、少なくとも、ある一の方向について、平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていればよく、全ての方向に、その平均周期が50nm以上400nm以下となっている必要はない。
【0051】
凸部又は凹部が、規則性を持って配置されている場合、上記のように、少なくともある一の方向の平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていればよいが、最も周期が短い方向(以下「x軸方向」という)への周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていることが好ましい。すなわち、ある一の方向として、最も周期が短い方向をとったときに、周期が上記範囲内になっていることが好ましい。更にその際、x軸方向に垂直なy軸方向についても、その周期が50nm以上400nm以下となるように配置されていることが特に好ましい。
【0052】
上記平均周期(凸部又は凹部の配置場所に規則性がある場合は「周期」)は、80nm以上が好ましく、150nm以上が特に好ましい。また、250nm以下が好ましく、200nm以下が特に好ましい。平均周期が短すぎても長すぎても、本発明の成型品が充分に得られない場合がある。
【0053】
本発明の成型品は、表面に上記構造を有することが必須であるが、更に、一般に「モスアイ構造(蛾の眼構造)」と呼ばれる構造を有していることが、良好な反射防止性能を有している点で好ましい。
【0054】
高さ又は深さを平均周期で割った値であるアスペクト比は特に限定はないが、1以上が光学特性の点で好ましく、1.5以上が特に好ましく、2以上が更に好ましい。また、5以下が製造プロセス上好ましく、表面の機械的強度の点で3以下が特に好ましい。
【0055】
本発明の成型品は、表面に上記構造を付与することにより、光の反射率を低減させたり、光の透過性を向上させたりするが、更に、型に微細形状を形成する前に、型となる材料に対して前述の研摩を行うことによって、光反射防止効果や光の透過性能を更に向上させることが可能となる。この場合の「光」は、少なくとも可視光領域の波長の光を含む光である。
【0056】
<2.成型品の物性>
本発明によれば、光の反射防止効果、光の透過性能等に極めて優れた成型品を提供することができる。
【0057】
<2−1.成型品の反射率>
本発明の成型品は、表面に上記凹凸部の形状を有することにより、光の反射率を低減させたり、光の透過性を向上させたりする。この場合の「光」は、少なくとも可視光領域の波長の光を含む光である。本発明の成型品は、上記凹凸部の形状を有することが必須であり、視感度補正後の反射率が380nm以上780nm以下の全ての波長領域において、0.5%以下であることが好ましい。より好ましくは0.4%以下であり、特に好ましくは0.3%以下、更に好ましくは0.1%以下である。本発明の成型品では、上記値を達成することが可能である。
【0058】
ここで、「反射率」とは正反射率をいい、反射光の強度の入射光の強度に対する比をいう。具体的には、汎用の分光光度計を用いて測定される5°正反射率が用いられる。「表面の反射率」とは、外部から成型品に光が入射したときの表面での反射率と、成型品の内部から外部に光が入射したときの表面での反射率の何れをもいう。すなわち、その何れにおいても、上記反射率を有するものが好ましい。
【0059】
「視感度補正後の反射率」とは、人間の目が明るく感じる波長について重み付け補正した後の反射率のことをいい、光量計に通常の視感度補正フィルターをつけて、光量を人間の目の感度(標準比視感度曲線)に合わせて補正することにより得られる。具体的には、測定された分光反射率をCIE1931に示された方法で、等色関数と標準イルミナントを使用して、数値計算により求められる。なお、通常のガラスや透明合成樹脂の平滑な表面の場合、視感度補正後の反射率は380nm以上780nm以下の波長領域において約4%である。本発明では、「視感度補正後の反射率」を単に「反射率」ということがある。
【0060】
<2−2.成型品のヘイズ>
本発明の成型品は、更に好ましくはヘイズ15%以下である。ヘイズは全光透過率に対する拡散透過率の百分率であり、本発明におけるヘイズはヘイズメーター「HGM−2DP(スガ試験機社製)」を用いて、JIS K7361に準拠して可視光線のヘイズ測定したものとして定義される。ヘイズが大き過ぎると、FPDの視認性確保が不十分になる場合がある。型となるアルミニウム材料の表面を研摩することによって、それを用いて得られた成型品は、ヘイズを15%以下にすることが可能であり、光の透過性能が著しく向上する。特に、陽極酸化に先立つ前述した研摩を加えることによって初めてヘイズが15%以下の成型品が得られるようになった。ヘイズは15%以下が好ましく、より好ましくは12%以下、特に好ましくは8%以下、更に好ましくは5%以下である。本発明の成型品では、上記値を達成することが可能である。なお、ヘイズ測定においては、成型品の厚さは影響しないが、上記値は厚さ1mmの成型品の表面に、前記した微細形状を形成させて測定した値である。
【0061】
<3.成型品の材料・作製方法>
本発明の成型品は、前記の型と成型品材料を用いて作製される。本発明の成型品は、その表面に平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は凹部を有し、それが少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在するという極めて微細な表面構造を有している。かかる微細構造は、型から熱可塑性樹脂を熱転写により精度よく転写できる。
【0062】
<3−1.成型品の形成材料>
一般に型の微細形状が転写される材料としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等があるが、本発明の成型品の材料(型の微細形状が転写される材料)としては、熱可塑性樹脂であることが必須である。熱可塑性樹脂であることによって、樹脂の物性や種類の幅を広げることができ、成型品の用途に応じた物性を得ることができる。例えば、吸湿性を低くできるので寸法安定性に優れ成型品に反りが生じない、比重を調整できるので成型品を軽量化できる等が挙げられる。また、硬化工程が不要であるため、工程も簡略化できコスト的にも有利である等という効果もある。
【0063】
硬化性樹脂では、硬化前の粘度は一般に低いので、型の表面に存在する微細形状中に容易に入り込み易いようにも思われるが、本発明の成型品にあっては、その点に関して熱可塑性樹脂が問題なく使用できる。特に、後述する好ましい成型方法や特に好ましい成型方法を用いれば、より問題なく使用できる。
【0064】
<3−1−1.熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度以上又は融点以上まで加熱することによって軟らかくなるものであれば特に制限はないが、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン系樹脂、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン系樹脂、スチレン−(メタ)アクリレート系樹脂、ブダジエン−スチレン系樹脂等のスチレン系樹脂;塩化ビニル系樹脂、エチレン−塩化ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、プロピレン系樹脂、プロピレン−塩化ビニル系樹脂、プロピレン−酢酸ビニル系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、フッ素化ポリエチレン系樹脂、フッ素化ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ケトン系樹脂;ポリアセタール系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアミド系樹脂;アクリレート系樹脂等が挙げられる。
【0065】
また、熱可塑性樹脂には、更に、他のポリマー、有機・無機の微粒子、着色染料、着色顔料、体質顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、離型剤、滑剤、潤滑剤、レベリング剤、難燃剤、導電剤、界面活性剤等を配合することもできる。これらは、従来公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0066】
<3−2.成型品の作製方法>
本発明の成型品は、上記型が表面に有する微細形状を熱可塑性樹脂に熱転写し成型してなる。微細形状を熱可塑性樹脂に熱転写し成型する方法は、成型品が上記表面構造を有するようになれば特に制限はないが、熱可塑性樹脂を軟化する温度まで加熱し、上記型の表面に有する微細形状を転写し成型する方法が好ましい。本発明の前記優れた効果が得られる点で、射出成型、真空成型、圧空成型又はホットプレス成型が好ましい。これらの中でも、大量生産が可能な点で射出成型がより好ましい。
【0067】
<3−2−1.射出成型>
射出成型は、射出成型機を用いて上記した型に、軟化してある程度の低粘度になるまで加熱した熱可塑性樹脂を、射出圧を加えて押し込んで型に充填して成型する方法であり、加熱して溶融した熱可塑性樹脂を金型に入れて固化させるものである。
【0068】
本発明に用いられる射出成型装置は特に限定はなく、一般の射出成型装置を用いることができる。可動側型板と固定側型板を有し、可動側型板と固定側型板からなる一対の金型の間には、キャビティが形成されており、該キャビティ内の可動側型板側及び/又は固定側型板の内面に、上記した表面に微細形状を有する型が設けられている射出成型装置が好ましい。更に、キャビティ内に通じるようにノズルを設置し、溶融した熱可塑性樹脂がキャビティ内に供給されるように構成し、更に脱気孔が開けられているものが好ましい。
【0069】
このように構成された射出成型装置のキャビティ内を脱気孔から脱気し、ノズルから溶融した熱可塑性樹脂を射出して充填し、熱可塑性樹脂を行き渡らせ、その後、冷却し、冷却の後、型を開放して成型品を取り出すことにより、本発明の成型品を得ることができる。上記の一連の工程において、キャビティ内は脱気を行なって真空にしておくことが好ましく、脱気は、キャビティ内への熱可塑性樹脂の充填より前に行なっておくことが好ましい。脱気は脱気孔を通じ、真空ポンプを用いて行なう。なお、熱可塑性樹脂を充填することにより、熱可塑性樹脂の分解や反応等によりガスが発生することがあるので、脱気は、充填工程中も続けて行なうことが好ましい。この真空状態は、型の開放直前に開放される。
【0070】
溶融した熱可塑性樹脂を供給するノズルは1つでも2つ以上でもよい。また、1種類の熱可塑性樹脂を充填しても、2種類以上の熱可塑性樹脂を充填してもよい。一の樹脂を使用して、その樹脂で形成すべき部分を成型して半製品としておき、その半製品を金型内にセットして、他の樹脂を供給して成型するような二色成型法を用いることもできる。
【0071】
<3−2−2.真空成型>
本発明における真空成型は、ある程度に軟化するまで加熱した好ましくはシート状の熱可塑性樹脂に上記した型を押し当て、熱可塑性樹脂と型の隙間から空気を抜いて真空状態にして密着させることで成型する方法である。真空成型の成型条件は、用いる熱可塑性樹脂により適宜調整すればよい。また、真空成型に用いる装置も汎用のものを用いることができる。
【0072】
予め、シート状の熱可塑性樹脂と型の隙間から十分に空気を抜いて、そこを高い真空状態にしておき、型の表面に存在する微細形状の内部から十分に空気等の気体を除いてから、熱可塑性樹脂を型に密着させることが、微細形状の内部まで熱可塑性樹脂を行き渡らせるために好ましい。その後、冷却し、冷却の後、型を開放して成型品を取り出すことにより、本発明の成型品を得ることができる。
【0073】
<3−2−3.圧空成型>
圧空成型は、軟化する温度に加熱した熱可塑性樹脂、好ましくはシート状の熱可塑性樹脂に上記した型を押し当て、熱可塑性樹脂側に圧縮空気を入れて熱可塑性樹脂を型に密着させることで成型する方法である。この場合でも、シート状の熱可塑性樹脂と型の隙間から十分に空気を抜いて、そこを高い真空状態にしておき、熱可塑性樹脂が微細構造の内部まで行き渡るようにすることが好ましい。すなわち、本発明における圧空成型には、真空成型を組み合わせることが好ましい。
【0074】
真空成型が組み合わされた圧空成型は、真空成型における真空のマイナスの圧力に加え、更に圧縮する圧力が高く得られるため、微細構造以外の部分の成型性が良い点で好ましい。圧空成型の成型条件は、用いる熱可塑性樹脂により適宜調整すればよい。
【0075】
<3−2−4.ホットプレス成型>
本発明におけるホットプレス成型は、熱可塑性樹脂に上記した型を、加熱装置が内蔵されたプレス機を用いて押し当て、加熱圧縮成型する方法である。上記した真空成型、圧空成型等とは並列関係にある成型方法ではなく、上記定義による成型方法である。この場合でも、熱可塑性樹脂と型の隙間から十分に空気を抜いて、そこを真空状態にしておき、熱可塑性樹脂が微細構造の内部まで行き渡るようにすることが好ましい。すなわち、本発明におけるホットプレス成型には、真空成型を組み合わせることが好ましい。
【0076】
ホットプレス成型の成型条件は、用いる熱可塑性樹脂により適宜調整すればよく、特に限定はないが、成型時の温度は、熱可塑性樹脂の融点又は軟化点より5〜20℃高い温度が好ましく、5MPa〜20MPaの圧力下が好ましい。
【0077】
[作用・原理]
光の反射防止効果、光の透過性能等に優れた成型品を効率良く簡便に提供することができる作用・原理については明らかではなく、また本発明は以下の作用・原理によっては限定されないが、以下のように考えられる。陽極酸化被膜の表面にある形状は、本発明の成型品表面の極めて特殊な形状を得るのに十分なほど微細であるが、かかる微細形状の内部にも、熱転写成型方法によって、熱可塑性樹脂を行き渡らせることができるのは、そこに介在する気体を十分に除けるからであると考えられる。
【0078】
また、型としてアルミニウム材料の表面の陽極酸化被膜を用いた場合に、本発明の成型体は優れた反射防止効果や光の透過性能を有するが、それは型となるアルミニウム材料の表面を研摩したためと考えられる。従来から、型となるアルミニウム材料の表面は陽極酸化されるので、それに先立って表面を研摩することは必要ないと考えられていた。また、特定の表面構造によって反射が防止でき、ヘイズに関してはそれで十分と考えられていたために、更なる光透過性能を求めることもなかったと考えられる。また、従来は、とりあえず反射防止効果を有する微細構造を作ることにのみ重点が置かれ、ヘイズを極めて低く、具体的には15%以下にしようとするだけの技術水準に材料的にも加工的にも至っておらず、そのため、型の表面を研摩しようとは考えつかなかったものと考えられる。
【0079】
陽極酸化に先立ってアルミニウム表面を研摩することによってヘイズが15%以下にできる作用・原理については明らかではなく、また本発明は以下の作用・原理によっては限定されないが、以下のように考えられる。すなわち、本発明の成型体の反射防止に効果がある特定の表面の微細形状よりもオーダー的に大きいサイズの若しくは長いピッチの凹凸又は不均一性がヘイズには影響するので、そのような凹凸又は不均一性を研磨によって除いたためにヘイズが低下したものと考えられる。陽極酸化によってアルミニウム表面に微細形状はできるが、かかるオーダー的に大きい凹凸又は不均一性等は完全にはなくならず、オーダー的に大きい凹凸又は不均一性を有するアルミニウムの上に微細構造が形成されても、ヘイズの向上には限界があったものと思われる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらに限定されるものではない。
【0081】
実施例1
<型の作製>
アルミニウム材料として、99.85%のアルミニウム圧延板(2mm厚)を片面平面バフ研摩盤(Speedfam社製)により、アルミナ系の研摩材(フジミ研磨材社製)を用いて、10分間研摩して鏡面を得た。研摩面をスクラブ洗浄後、非浸食性の脱脂処理を行った。得られた表面のRa及びRyは、JIS B0601(1994)に従って測定したところ、Ra=0.035(μm)、Ry=0.45(μm)であった。
【0082】
更に、以下に示す陽極酸化条件と、形成された陽極酸化被膜の以下に示すエッチング(孔径拡大)処理条件との組み合わせによりテーパー形状の細孔を有する型を作製した。
<陽極酸化の条件>
使用液:0.05Mシュウ酸
電圧 :80Vの直流電圧
温度 :5℃
時間 :50秒
【0083】
<エッチングの条件>
使用液:2質量%リン酸
温度 :50℃
時間 :5分
【0084】
陽極酸化とエッチング(孔径拡大)を交互に5回繰り返すことで、周期200nm、細孔径開口部160nm、底部50nm、細孔の平均深さ500nmのテーパー形状の細孔を有する陽極酸化被膜表面をもつ型を得た。得られた型の電子顕微鏡写真を図1に示す。
【0085】
<成型品の製造>
上記作製した金型を150℃に加熱したのち、熱可塑性樹脂であるポリメチルメタクリレート基材(三菱レーヨン社製、商品名アクリライトL)の両面に、10MPaの圧力で1時間押し当てホットプレス成型した後、70℃以下まで冷却することによって、表面に、平均高さ500nmの凸部が平均周期200nmで存在する成型品を得た。図2に、得られた成形品の表面の断面の電子顕微鏡写真を示す。
【0086】
この成型品の微細な凹凸形状の斜面の算術平均粗さ(Ra)は30nmであり、視感度補正後の反射率は以下の測定法で行ったところ、380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.5%以下であった。また、ヘイズは10.5%であった。380nm以上780nm以下の波長領域において測定した「視感度補正後の反射率のスペクトル」を図3に示す。
【0087】
<微細形状の算術平均粗さ(Ra)の測定>
得られた成型品の微細形状の算術平均粗さ(Ra)は、JIS B0601(1994)に従って測定した。
【0088】
<視感度補正後の反射率の測定>
島津製作所社製、自記分光光度計「UV−3150」を用い、裏面に黒色テープを貼り付け、380nm以上780nm以下の波長領域において、透過光量を人間の目の感度(標準比視感度曲線)に合わせて補正した通常の視感度補正フィルターをつけて、5°正反射率を測定し、「視感度補正後の反射率」とした。
【0089】
<ヘイズの測定>
ヘイズメーター「HGM−2DP(スガ試験機社製)」を用いて、JIS K7361に準拠して可視光線のヘイズを測定した。
【0090】
実施例2
<型の作製>
一辺の長さが100mmの正方形で、厚さが1.0mmの平板を射出成型するための型の可動側のコアの中央部30mm×30mmに、室温25.0±0.1℃に管理された恒温室内で、微細切削加工機((株)ナガセインテグレックス、超々精密5軸CNC制御微細加工機NIC200)と表面算術平均粗さ(Ra)が3nmの単結晶ダイヤモンドバイトを用いて、細孔径開口部160nm、細孔深さ500nmの円錐形状の細孔を、周期200nmに加工して、表面の30mm×30mmの全面に微細な凹形状をもつ型を得た。
【0091】
<成型品の製造>
上記で得られた型を装着した射出成型機((株)日本製鋼所、JSW−ELIII、型締力1MN)を用いて、熱可塑性樹脂としてポリメチルメタクリレート(PMMA)(住友化学工業社製、商品名MG5)を、樹脂温度290℃、型温度80℃の条件で射出成型し、一辺の長さが100mmの正方形で、厚さが1.0mmであり、表面に、平均高さ500nmの凸部が平均周期200nmで存在する成型品を得た。この成型品の微細な凹凸形状の斜面の算術平均粗さ(Ra)は45nmであり、視感度補正後の反射率は、380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.5%以下であった。また、ヘイズは8.5%であった。
【0092】
実施例3
<成型品の製造>
実施例2において、成型品を製造するために用いた熱可塑性樹脂をポリメチルメタクリレート(PMMA)の代わりにポリカーボネートにし、射出成型時の樹脂温度を300℃、型温度を90℃に変更した以外は、実施例2と同様にして一辺の長さが100mmの正方形で、厚さが1.0mmであり、表面に、平均高さ500nmの凸部が平均周期200nmで存在する成型品を得た。この成型品の微細な凹凸形状の斜面の算術平均粗さ(Ra)は40nmであり、視感度補正後の反射率は、380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.4%以下であった。また、ヘイズは、9.0%であった。
【0093】
実施例4
<成型品の製造>
実施例1と同様の条件によって、周期200nm、細孔径開口部160nm、底部50nm、細孔の平均深さ500nmのテーパー形状の細孔を有する陽極酸化被膜表面をもつ真空成型用の型を得た。この型を用いて、真空成型機(ハーミス社製FE38PH)を用いて、熱可塑性樹脂としてポリメチルメタクリレート(PMMA)シート(三菱レーヨン社製、商品名 アクリライトL)を樹脂温度180℃、型温度80℃にて真空成型したところ、一辺の長さが100mmの正方形で、厚さが1.0mmであり、表面に、平均高さ450nmの凸部が平均周期200nmで存在する成型品を得た。この成型品の微細な凹凸形状の斜面の算術平均粗さ(Ra)は、35nmであり、視感度補正後の反射率は、380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.5%以下であった。また、ヘイズは11.0%であった。
【0094】
実施例5
<成型品の製造>
実施例1で得られた型を用いて、真空圧空成型機(浅野研究所社製、FK−0431−10)を用いて、熱可塑性樹脂としてポリメチルメタクリレート(PMMA)シート(三菱レーヨン社製、商品名 アクリライトL)を、樹脂温度180℃、型温度80℃にて、0.4MPa条件下で真空圧空成型したところ、一辺の長さが100mmの正方形で、厚さが1.0mmであり、表面に、平均高さ450nmの凸部が平均周期200nmで存在する成型品を得た。この成型品の微細な凹凸形状の斜面の算術平均粗さ(Ra)は、40nmであり、視感度補正後の反射率は、380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.5%以下であった。また、ヘイズは10.0%であった。
【0095】
実施例6
実施例1においてアルミナ系の研摩材を用いて機械研摩する代わりに、95℃、60体積%リン酸と5体積%硝酸の混合で得られる研摩液中で、3分間振動させながら化学研摩する以外は、実施例1と同様にして型を得た。なお、上記「化学研摩により加工した後のアルミニウム材料」の表面のRa及びRyは、JIS B0601(1994)に従って測定したところ、Ra=0.035(μm)、Ry=0.45(μm)であった。
【0096】
この型を用い、実施例1と同様に成型したところ、表面に、平均高さ500nmの凸部が平均周期200nmで存在する成型品を得た。この成型品の微細な凹凸形状の斜面の算術平均粗さ(Ra)は、30nmであり、視感度補正後の反射率は、380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.4%以下であった。また、ヘイズは10.0%であった。
【0097】
実施例7
実施例1においてアルミナ系の研摩材を用いて研摩する代わりに、70℃、90体積%リン酸浴中において、アルミ材をプラス極として40A/dmの電流密度で5分間振動しながら電解研摩し、その後、20℃の硝酸浴(市販の約68%硝酸を2倍に希釈)中に10分間浸漬して表面の酸化膜を溶解除去した以外は、実施例1と同様にして型を得た。なお、上記「電解研摩により加工した後のアルミニウム材料」の表面のRa及びRyは、JIS B0601(1994)に従って測定したところ、Ra=0.035(μm)、Ry=0.45(μm)であった。
【0098】
その型を用いて、実施例1と同様にして成型したところ、表面に、平均高さ500nmの凸部が平均周期200nmで存在する成型品を得た。この成型品の微細な凹凸形状の斜面の算術平均粗さ(Ra)は、30nmであり、視感度補正後の反射率は、380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.4%以下であった。また、ヘイズは9.0%であった。
【0099】
実施例8
実施例2において、熱可塑性樹脂ポリメチルメタクリレートを用いる代わりにポリエチレンテレフタレート(日本ユニペット株式会社製、商品名:UNIPET、グレード:RT553C)を用い、樹脂温度290℃、型温度25℃の条件にした以外は、実施例2と同様にして成型品を製造ところ、表面に、平均高さ500nmの凸部が平均周期200nmで存在する成型品を得た。この成型品の微細な凹凸形状の斜面の算術平均粗さ(Ra)は、45nmであり、視感度補正後の反射率は、380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.5%以下であった。また、ヘイズは9.5%であった。
【0100】
比較例1
多官能アクリレート化合物と光重合開始剤を含有する光硬化性組成物をPETフィルム上に採取、バーコーターNO28にて、均一な膜厚になるよう塗布した。その後、実施例1で得られた型を貼り合わせ、細孔内に光硬化性組成物が充填されたことを確認して、紫外線を照射して重合硬化させた。硬化後、膜を型から剥離することで、表面に、平均高さ500nmの凸部が平均周期200nmで存在する反射防止効果を有する膜を得たが、これを更に基材等に貼り合わせて反射防止効果を有するものとして用いる必要があった。
【0101】
実施例9
実施例1において、アルミニウム材料を研摩しない以外は、実施例1と同様にして型を得た。なお、研摩していないアルミニウム材料の表面のRa及びRyは、JIS B0601(1994)に従って測定したところ、Ra=0.50(μm)、Ry=2.00(μm)であった。
【0102】
この型を用い、実施例1と同様に成型したところ、表面に、平均高さ500nmの凸部が平均周期200nmで存在する成型品を得た。この成型品の微細な凹凸形状の斜面の算術平均粗さ(Ra)は、450nmであり、視感度補正後の反射率は、380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.5%以下であった。また、ヘイズは39.5%であった。
【0103】
実施例1ないし実施例8で得られた成形品は何れもその表面に平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は平均深さ100nm以上1000nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在しており、ヘイズは何れも12%以下であった。視感度補正後の反射率は、実施例1ないし実施例3ないし実施例9は何れも、380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.5%以下であった。また、成形品の透明性を目視により判断したところ、何れも極めて良好であった。すなわち、本発明の成形品は、優れた光の反射防止効果や優れた光の透過性能を有していた。
【0104】
一方、比較例1で得られたものは、光の反射防止効果を有するものの、反射防止効果を有するものを簡便に得ることができなかった。
【0105】
また、実施例9で得られた成形品は、視感度補正後の反射率は極めて良好であったが、ヘイズが39.5%と実施例1〜8の成形品と比べれば極めて大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の成型品は、光の反射防止効果や優れた光の透過性能等に優れているので、レンズ、メーターフロントカバー、窓板、ヘッドライトカバー、ショーウィンドー等;更には、液晶表示ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機EL(OEL)、CRT、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)等の用途に広く好適に利用されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微細形状を有する型を用い、該型が表面に有する微細形状を熱可塑性樹脂に熱転写し成型してなる成型品であって、その表面に平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は平均深さ100nm以上1000nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在していることを特徴とする成型品。
【請求項2】
微細形状を熱可塑性樹脂に熱転写し成型する方法が、射出成型、真空成型、圧空成型又はホットプレス成型による方法である請求項1記載の成型品。
【請求項3】
表面に微細形状を有する型が、アルミニウム材料の表面に、陽極酸化による陽極酸化被膜の形成と、該陽極酸化被膜のエッチングとの組み合わせにより、微細形状を形成させてなる型である請求項1又は請求項2記載の成型品。
【請求項4】
表面に微細形状を有する型が、アルミニウム材料の表面を、機械研摩、化学研摩及び/又は電解研摩により加工した後、該アルミニウム材料の表面に、陽極酸化による陽極酸化被膜の形成と、該陽極酸化被膜のエッチングとの組み合わせにより、微細形状を形成させてなる型である請求項3記載の成型品。
【請求項5】
機械研摩、化学研摩及び/又は電解研摩により加工した後のアルミニウム材料の表面が、算術平均粗さRaとして0.1μm以下のものである請求項4記載の成型品。
【請求項6】
上記陽極酸化が、シュウ酸濃度0.01M以上0.5M以下、印加電圧20V以上120V以下、かつ液温0℃以上50℃以下で行われるものである請求項3ないし請求項5の何れかの請求項記載の成型品。
【請求項7】
上記エッチングが、リン酸濃度1質量%以上20質量%以下、液温30℃以上90℃以下、かつ1回の処理時間1分以上60分以下で行われるものである請求項3ないし請求項6の何れかの請求項記載の成型品。
【請求項8】
上記熱可塑性樹脂が、ビニル系樹脂、ポリカーボネート樹脂又はポリエステル樹脂である請求項1ないし請求項7の何れかの請求項記載の成型品。
【請求項9】
視感度補正後の反射率が、380nm以上780nm以下の全ての波長領域において0.5%以下である請求項1ないし請求項8の何れかの請求項記載の成型品。

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−2762(P2011−2762A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147674(P2009−147674)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】