説明

光ディスク原盤処理液及び光ディスク原盤の処理方法

【課題】 凹凸パターンが形成された無機レジストを速やかに除去することが可能な光ディスク原盤処理液及び光ディスク原盤の処理方法を提供する。
【解決手段】 基板2上に無機レジストにより凹凸パターン(無機レジスト層3)が形成された光ディスク原盤1の凹凸パターンを除去するための光ディスク原盤処理液である。この処理液は、過酸化水素とアンモニアを含有する。処理液に含まれる過酸化水素及びアンモニアは、過酸化水素水(試薬特級)及びアンモニア水(試薬特級)を基準として、1倍〜200倍に希釈されている。また、過酸化水素水とアンモニア水の比率は4:1〜1:10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機レジストにより形成された凹凸パターンを除去するための光ディスク原盤処理液に関するものであり、さらには、これを用いた光ディスク原盤の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクの製造においては、光学カッティング工程を経て作製された光ディスク原盤を基にスタンパを複製し、複製されたスタンパを用いて射出成形を行い、光ディスク基板を量産するのが一般的である。射出成形に用いられるスタンパには、記録信号に応じて光ディスク原盤に形成された微細凹凸パターンが転写形成されており、前記射出成形によりスタンパ表面の微細凹凸パターンが光ディスク基板に忠実に転写される。
【0003】
光ディスク原盤の作製から射出成形までの工程を簡単に説明すると、先ず、光ディスク原盤の作製に際しては、表面を十分に平滑にした基板(例えばガラス基板やシリコン基板等)上に感光性を有するレジスト層を形成する。レジスト層を有機レジスト材料等により形成する場合には、スピンコート等の手法により厚さが均一なレジスト層を形成する。次に、カッティング工程において、記録用レーザ光により情報信号に応じてレジスト層を選択的に露光し、現像液により現像する。これにより、基板上に情報信号に応じた凹凸パターンが形成された光ディスク原盤が得られる。
【0004】
次いで、作製した光ディスク原盤を基に、Ni電鋳等の手法によってスタンパを作製する。光ディスク原盤にNiめっきを施し、これを剥離することで、表面に光ディスク原盤の凹凸パターンが転写されたスタンパが得られる。このスタンパを用いて射出成形を行い、光ディスク基板を大量に複製し、当該光ディスク基板の凹凸パターンが転写された面に反射膜や保護膜等を成膜することで光ディスクが製造される。
【0005】
近年、光記録の分野においては、より一層の高密度記録化が進められており、様々なフォーマットが提案されている。例えば、青色レーザを用いて信号の記録再生が行われる光ディスクは、片面25GBというデータ容量を備え、高精細映像の長時間記録を可能にしている。
【0006】
このような高密度光ディスクの作製においては、凹凸パターンの微細化が不可欠であり、従来の光ディスクの作製に際して用いられてきた有機レジストに代わり、無機レジスト材料を用いて光ディスク原盤を作製することが提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2等を参照)。無機レジスト材料は、熱記録の特性によりレーザ光のスポット径よりも小さなパターンでの露光が可能であり、高記録密度化に対応した光ディスクのマスタリングに有用な技術として注目されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、MoやW等の遷移金属の不完全酸化物を含む無機レジスト材料を用い、前記無機レジスト材料よりなるレジスト層を基板上に成膜した後、レジスト層を選択的に露光し、現像して所定の形状にパターニングする微細加工方法が記載されている。特許文献1記載の発明では、酸素の含有量が繊維金属のとりうる価数に応じた化学量論組成の酸素含有量よりも小さな不完全酸化物をレジスト材料として用いることで、特に紫外から可視光領域を露光源とする精度の高い微細加工を可能にしている。
【0008】
同様に、特許文献2には、基板上に中間層を形成し、中間層上に金属酸化物からなる無機レジスト層を形成し、露光・現像処理により微細な凹凸パターンを無機レジスト層に形成し、さらに無機レジスト層の表面を還元処理する光ディスク原盤の製造方法が開示されている。特許文献2記載の発明では、前記還元処理によって凹凸パターンが形成された無機レジスト層の表面に金属性の薄膜を形成することで、光ディスク原盤の耐久性を向上させている。
【特許文献1】特開2003−315988号公報
【特許文献2】特開2007−287261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前述の光ディスクの製造において、著作権上の問題等から、光ディスク原盤の持ち出しは厳しく管理されている。光ディスク原盤を入手することができれば、いわゆる海賊版等を簡単に複製することができるからである。したがって、使用済みの光ディスク原盤については、速やかに信号(凹凸パターン)を消去することが望まれる。信号を消去するには、無機レジスト層を光ディスク基板表面から除去すればよい。
【0010】
また、無機レジスト層の光ディスク基板表面からの除去は、光ディスク基板を再利用する上でも有用である。光ディスク原盤には、平坦性に優れた高精度の基板(例えばシリコンウエハ等)が用いられており、これを再利用することができれば、製造コストを大幅に削減することが可能となる。
【0011】
このような状況から、光ディスク原盤上の無機レジスト層を除去する方法が検討されているが、良好な結果が得られていないのが実情である。例えば、酸を用いて無機レジスト層を溶解除去することが考えられるが、酸による処理では必ずしも十分に無機レジスト層を除去することができない。また、研磨や研削によって無機レジスト層を除去し、基板を平坦化しようとすると、無機レジスト層の凹凸が研磨後の表面に反映されてしまい、基板を再利用することは難しい。酸による処理と研磨とを組み合わせた場合にも、酸処理後に無機レジスト層が残存するために、平坦化は難しい。
【0012】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、無機レジストを速やかに除去することが可能な光ディスク原盤処理液を提供することを目的とし、さらには光ディスク原盤の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前述の目的を達成するために種々の実験を重ね、過酸化水素とアンモニアを含む処理液が無機レジストの溶解除去に極めて有効に作用し、当該処理液で処理することにより、光ディスク原盤から短時間のうちに無機レジストを消失させることが可能であることを見出すに至った。
【0014】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明の光ディスク原盤処理液は、基板上に無機レジストにより凹凸パターンが形成された光ディスク原盤の前記凹凸パターンを除去するための光ディスク原盤処理液であって、過酸化水素とアンモニアを含有することを特徴とする。また、本発明の光ディスク原盤の処理方法は、基板上に無機レジストにより凹凸パターンが形成された光ディスク原盤を過酸化水素とアンモニアを含有する光ディスク原盤処理液により処理し、前記凹凸パターンを除去することを特徴とする。
【0015】
過酸化水素とアンモニアを含む処理液によって無機レジストが去されるメカニズムについて、その詳細は不明であるが、当該処理液によって無機レジスト層が形成された光ディスク原盤を処理すると、無機レジスト層が速やかに溶解除去(あるいは剥離除去)される。これは、実験的に確かめられた事実である。したがって、光ディスク原盤に凹凸パターンとして形成された信号を消失させることができ、基板の平坦性が回復する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光ディスク原盤の表面に形成された無機レジストの凹凸パターンを速やかに除去することができる。したがって、使用済みの光ディスク原盤上の信号を簡単に消去することができ、不用意な複製等を確実に防止することが可能である。また、前記凹凸パターンの除去は、基板を再利用する上でも有効であり、使用済みの光ディスク原盤から簡単に基板を再生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を適用した光ディスク原盤処理液及び光ディスク基板の処理方法の実施形態について説明する。
【0018】
先ず、処理対象となる光ディスク原盤について説明する。光ディスク原盤1は、例えば図1に示すように、基板2上に無機レジスト層3を形成してなるものであり、無機レジスト層3を露光、現像することで、信号に応じた凹凸パターンが形成されている。また、本例の光ディスク原盤1においては、基板2と無機レジスト層3の間に中間層4が形成されているが、当該中間層4は省略することも可能である。
【0019】
前記光ディスク原盤1の基板2としては、この種の原盤に用いられるものであれば任意のものが使用可能であり、例えばガラス基板やシリコン基板(シリコンウエハ)、金属板、セラミック板等を用いることができるが、平滑性や寸法精度等に優れることから、シリコンウエハが好適である。
【0020】
無機レジスト層3は、遷移金属酸化物等の金属酸化物からなるものであり、可視光や紫外線により大きな化学変化が得られることから、例えばタングステン(W)やモリブデン(Mo)の酸化物等が好適である。また、無機レジスト層3を構成する酸化物としては、遷移金属(タングステンやモリブデン等)がとりうる化学量論組成に対して酸素含有量が不足している不完全酸化物が用いられる。このような遷移金属の不完全酸化物は、可視光あるいは紫外光に対して吸収を示し、これら波長域のレーザ光を照射することで、その化学的性質が変化する。例えば、活性エネルギー線(前記レーザ光等)の照射によって、照射部位(露光部)で結晶・アモルファスの相転移、あるいは酸化反応が起こる。この結果、現像工程において露光部と未露光部とでエッチング速度に差が生じ、例えば記録信号に応じて選択的にレーザ光を照射することで、凹凸パターンが形成される。
【0021】
また、前記無機レジスト層3においては、例えば表面を還元処理して金属性被膜を形成してもよい。金属酸化物からなる無機レジスト層3の表面を還元処理すると、表面における金属酸化物の酸化数は、内部の金属酸化物の酸化数に比べて小さくなる。凹凸パターンが形成された無機レジスト層3において、前記のような金属性被膜を形成することで、光ディスク原盤1の耐久性を向上することができ、複製を繰り返した場合にも表面における荒れの発生を抑制することができる。
【0022】
さらに、前記無機レジスト層3において、2種類以上の遷移金属の酸化物を組み合わせて用いることで、あるいは遷移金属以外の他の元素を添加することで、前記不完全酸化物の結晶粒を小さくすることができ、露光部と未露光部の境界をより一層明瞭なものとすることもできる。これにより分解能の大幅な向上を図ることができ、露光感度を改善することができる。
【0023】
前記無機レジスト層3を構成する無機レジスト材料(遷移金属の不完全酸化物)は、優れたγ特性を有し、有機レジストに比べて急峻なテーパ角が得られる。したがって、有機レジストに比べて高記録密度化に適した材料ということができる。
【0024】
一方、前記中間層4を構成する材料としては、例えば硫化亜鉛(ZnS)と二酸化シリコン(SiO)の混合体、五酸化タンタル(Ta)、酸化チタン(TiO)、アモルファスシリコン(a−Si)、二酸化ケイ素(SiO)、窒化シリコン(SiN)等を挙げることができる。良好な露光感度の点からすると、硫化亜鉛(ZnS)と二酸化シリコン(SiO)の混合体、五酸化タンタル(Ta)、酸化チタン(TiO)が好ましい。
【0025】
なお、先にも述べた通り、前記中間層4は省略することも可能である。この場合には、基板2上に直接無機レジスト層3が形成されることになる。
【0026】
前述の無機レジスト層3や中間層4は、化学蒸着法(CVD)や、真空蒸着法、プラズマ援用蒸着法、スパッタ法等の物理蒸着法により形成することができる。また、前記無機レジスト層3の膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。中間層4の膜厚も任意であるが、例えば15nm程度とすればよい。
【0027】
前述の構成を有する光ディスク原盤1を用いて光ディスク基板の複製を行うが、通常は、前記光ディスク原盤1からスタンパを作製し、これを用いて光ディスク基板を大量に複製する。図示は省略するが、スタンパ作製工程では、Ni電鋳を行い、前記光ディスク原盤1の表面にNiめっき膜を形成する。このNiめっき膜には、前記光ディスク原盤1の無機レジスト層3の凹凸パターンが反映され、これを光ディスク原盤1から引き剥がすことで、前記凹凸パターンが転写されたスタンパ(前記Niめっき膜)を得ることができる。得られたスタンパを射出成形機の金型にセットし、キャビティ内にポリカーボネート等の溶融樹脂材料を注入することで、前記凹凸パターン(ピットやグルーブ)が転写された光ディスク基板が作製され、凹凸パターン形成面に反射膜や記録膜、さらには保護膜等を成膜することによって光ディスクを完成する。
【0028】
本発明の光ディスク原盤処理液は、前述のような光ディスク原盤1の処理に用いられるものであり、光ディスク原盤1の表面に形成された凹凸パターン(無機レジスト層3)の溶解除去に用いられる。
【0029】
光ディスク原盤1の表面には、情報信号に応じた凹凸パターン(無機レジスト層3)が形成されており、これを基に前記情報信号を簡単に複製することが可能である。したがって、前記光ディスク原盤1は、厳重に管理する必要があり、使用済みの光ディスク原盤1の凹凸パターンは速やかに消去することが望ましい。また、製造コスト削減のため、基板2の再利用も望まれる。そこで、本発明では、前記光ディスク原盤処理液として、過酸化水素とアンモニアを含む処理液を用い、前記無機レジスト層3を除去する。
【0030】
本発明者らは、処理液の成分について、様々な試行錯誤を繰り返し、過酸化水素とアンモニアを含む処理液が、前記無機レジスト層3に特異的に作用し、これを速やかに溶解除去(剥離除去)することを見出した。このような現象は、例えば酸を用いた処理液等では実現することができない。以下、本発明の光ディスク原盤処理液について説明する。
【0031】
本発明の光ディスク原盤処理液は、前述の通り、過酸化水素(H)とアンモニア(NHOH)を含むものであり、過酸化水素水(例えば試薬特級)とアンモニア水(例えば試薬特級)を所定の割合で混合し、これを純水で希釈したものである。過酸化水素とアンモニアの比率は任意であるが、若干アンモニアの比率が多い方が好ましい。具体的には、過酸化水素とアンモニアの比率[過酸化水素水(試薬特級):アンモニア水(試薬特級)]は、4:1〜1:10とすることが好ましい。例えばアンモニアの比率が少なくなり過ぎると、無機レジスト層3の溶解除去する能力が不十分となるおそれがある。
【0032】
また、本発明の光ディスク原盤処理液では、前記過酸化水素水とアンモニア水を混合したものを純水で希釈して使用する。希釈倍率は、前記無機レジスト層3の溶解性等を考慮して決めればよいが、前記過酸化水素水やアンモニア水として試薬特級を用いた場合、これを1倍〜200倍に希釈することが好ましい。すなわち、試薬特級を基準として、1倍〜200倍に希釈する。例えば、過酸化水素水(試薬特級)1:アンモニア水(試薬特級)1:純水2なる比率で混合希釈した場合には、2倍希釈ということになる。前記希釈倍率が200倍を越えると、無機レジスト3を溶解除去する能力が不十分となるおそれがある。逆に、希釈倍率が1倍未満であると、取り扱いが難しくなり、作業環境の悪化等に繋がるおそれがある。
【0033】
なお、前記過酸化水素水として試薬特級を用いた場合、その濃度は35%である。また、アンモニア水として試薬特級を用いた場合、その濃度は約28%(15N)である。したがって、本発明の光ディスク原盤処理液に含まれる過酸化水素やアンモニアの実際の濃度は、これら試薬特級における各濃度、前記過酸化水素水とアンモニア水の比率、前記希釈倍率から算出することが可能である。したがって、過酸化水素水やアンモニア水に試薬特級以外のものを用いた場合にも、換算される濃度になるように過酸化水素やアンモニア、純水を調合すればよい。
【0034】
本発明の光ディスク原盤処理液は、過酸化水素及びアンモニアを構成成分として含有するものであり、これらを混合したものを純水で希釈することで調製されるが、必要に応じて各種添加剤を加えることも可能である。
【0035】
次に、本発明の光ディスク原盤処理液を使用した光ディスク原盤の処理方法について説明する。
【0036】
本発明の処理方法において、処理対象となる光ディスク原盤は、前記の通り無機レジスト層3により凹凸パターンが形成された光ディスク原盤1であり、特に、無機レジスト層3がタングステンやモリブデンの酸化物を含む場合に有効である。使用済みであり記録された情報信号を消去する必要のある光ディスク原盤について、前述の光ディスク原盤処理液を用いて処理し、無機レジスト層3の凹凸パターンを溶解除去する。
【0037】
処理に際しては、図2に示すように、処理槽5内に前述の光ディスク原盤処理液6を入れ、この中に光ディスク原盤1を浸漬すればよい。処理方法としては、例えば処理液で光ディスク原盤1の表面を洗浄する洗浄法も考えられるが、処理効率等の点から光ディスク原盤1を光ディスク原盤処理液6中に浸漬するバッチ処理とすることが好ましい。
【0038】
前記バッチ処理では、例えば光ディスク原盤1を純水で洗浄した後、光ディスク原盤処理液中に光ディスク原盤を浸漬し、再度純水で洗浄した後、熱風等で乾燥する。光ディスク原盤処理液中での処理時間は、無機レジスト層3を溶解除去するに足る時間とすればよい。
【0039】
前記光ディスク原盤処理液による無機レジスト層の溶解除去においては、光ディスク原盤処理液を温度は、常温(20℃)以上、80℃以下とすることが好ましい。特に、40℃程度に加熱することにより、処理時間を短縮することができる。ただし、処理液温度が80℃を越えて高くなり過ぎると、薬液成分である過酸化水素が揮発、分解したり、アンモニアが揮発する等の問題が生じ、また、作業環境の悪化にも繋がる。
【0040】
また、前記光ディスク原盤処理液による処理は、密閉空間で行うことが好ましい。前記処理を開放された状態で行うと、処理液中のアンモニアが経時とともに揮発し、処理液中のアンモニアの濃度が低下する。アンモニア濃度の低下は無機レジスト層を溶解除去する能力の低下に繋がり、処理効率が悪くなるおそれがある。したがって、前記処理槽5内で処理を行う場合には、処理槽5を密閉容器とし、光ディスク原盤処理液6からアンモニアが揮発して失われないようにすることが好ましい。
【0041】
前述の処理に際して、処理槽5内に供給する光ディスク原盤処理液の調合は、手動調合としてもよいし、自動調合としてもよい。例えば、手動調合とする場合には、一定量の純水をタンクに入れ、所定の比率で過酸化水素水、アンモニア水の順番で調合すればよい。自動調合とする場合には、例えば、薬液調合タンクと供給タンクを設置し、洗浄機である処理槽5に前記薬液調合タンク内で調合された光ディスク原盤処理液を供給タンクを介して供給するようにする。そして、薬液調合タンク内で光ディスク原盤処理液を行い、供給タンク側の処理液が一定量まで減少した時に、薬液調合タンク内の処理液を全量供給タンク内に移行するようにする。薬液調合タンク内が空になった時点で処理液の調合を行うようにすれば、常に正確に濃度設定された光ディスク原盤処理液を処理槽5内に供給することが可能になる。
【0042】
以上の処理により、光ディスク原盤1の表面に形成された無機レジスト層3の凹凸パターンを速やかに溶解除去することが可能になる。処理に際しては、大がかりな設備や特殊な薬剤は必要なく、例えば光ディスク原盤を取り扱う工場内で簡便に処理することができる。したがって、厳しく管理する必要のある光ディスク原盤を工場の敷地内から持ち出す必要がなくなり、光ディスク原盤の管理上、極めて有用である。
【0043】
前記処理により無機レジスト層3が溶解除去された基板2は、そのまま再利用することが可能である。あるいは、簡単な研磨工程を経ることで再生し、再利用することも可能である。例えば、基板2上に中間層4を介して無機レジスト層3が形成されている場合、前記処理後に中間層4が残存する可能性がある。このような場合には、前記処理液による無機レジスト層3の溶解除去に加えて、中間層4の除去等を行う研磨工程を行うことで、基板2の再生が可能になる。
【0044】
前記研磨工程は、いわゆる研磨のみを行ってもよいし、研削の後、研磨を行うようにすることも可能である。研削は、研削刃によって基板表面を切削する工程であり、研磨は、研磨剤等を使用して表面を磨いていく工程である。研磨は、例えばCMP(化学機械研磨)等により行えばよい。
【0045】
光ディスク原盤1に使用されるシリコンウエハ等の基板2を、前記光ディスク原盤処理液による処理、さらには研磨工程を組み合わせることにより再生し、再利用可能とすることで、光ディスク原盤作製における製造コストを大幅に削減することが可能である。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0047】
本実験では、光ディスク製造工場から使用済みの光ディスク原盤を入手し、各種処理液での薬液処理を試みた。前記光ディスク原盤は、中間層上にタングステン及びモリブデンの酸化物を含む無機レジスト層が形成され、情報信号に応じて無機レジスト層に凹凸パターン(ピットやグルーブ)が形成されてなるものである。
【0048】
光ディスク原盤処理液としては、表1及び表2に示す比率で過酸化水素水(試薬特級)、アンモニア水(試薬特級)、及び純水を調合したもの(実施例1〜実施例20)を用いた。また、比較のために、塩酸水溶液(比較例1)及びフッ酸水溶液(比較例2)を処理液として用い、同様の処理を行った。
【0049】
前記処理液による処理は、密閉容器である処理槽内に処理液を入れ、この中に光ディスク原盤を浸漬することにより行った。この時、処理液の温度は40℃とした。また、処理時間は8時間とした。処理後の基板の表面の様子を集光灯下での目視検査にて確認し、無機レジスト層の残存状態を調べた。結果を表1及び表2に併せて示す。なお、前記残存状態の評価は、3段階評価とし、○は無機レジスト層がほとんど完全に消失した場合、△は無機レジスト層が僅かに残存した場合、×は明らかに無機レジスト層の残存がわかる場合とした。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
これら表から明らかなように、本発明の光ディスク原盤処理液(過酸化水素とアンモニアを含む処理液)を用いることで、無機レンジスト層を速やかに除去し得ることがわかった。ただし、過酸化水素の割合が多い実施例15〜20では、若干の能力の低下が見られ、無機レジスト層が僅かに残存していた。一方、塩酸水溶液(比較例1)及びフッ酸水溶液(比較例2)を処理液とした場合には、無機レジスト層をほとんど除去することができず、処理能力が不足することがわかった。
【0053】
同様の実験を希釈倍率を変えて行ったが、100倍希釈、あるいは200倍希釈でも無機レジスト層を除去することが可能であった。ただし、希釈倍率が200倍を超えると、処理能力の低下が確認された。
【0054】
また、前記処理の後、基板を研磨してその表面を観察したところ、本発明の処理液を用いた場合には、研磨後の基板は十分に平坦であり、再利用可能であることがわかった。一方、塩酸水溶液(比較例1)及びフッ酸水溶液(比較例2)を処理液とした場合には、無機レジスト層の凹凸パターンが残存したため、研磨後の基板表面にもこれが反映され、平滑な表面を得ることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】光ディスク原盤の構成例を示す要部拡大断面図である。
【図2】光ディスク原盤処理液による処理工程の一例を模式的に示す斜視図である。
【0056】
1 光ディスク原盤、2 基板、3 無機レジスト層、4 中間層、5 処理槽、6 光ディスク原盤処理液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に無機レジストにより凹凸パターンが形成された光ディスク原盤の前記凹凸パターンを除去するための光ディスク原盤処理液であって、
過酸化水素とアンモニアを含有することを特徴とする光ディスク原盤処理液。
【請求項2】
前記過酸化水素及びアンモニアは、過酸化水素水(試薬特級)及びアンモニア水(試薬特級)を基準として、1倍〜200倍に希釈されていることを特徴とする請求項1記載の光ディスク原盤処理液。
【請求項3】
過酸化水素水とアンモニア水の比率が4:1〜1:10であることを特徴とする請求項2記載の光ディスク原盤処理液。
【請求項4】
基板上に無機レジストにより凹凸パターンが形成された光ディスク原盤を過酸化水素とアンモニアを含有する光ディスク原盤処理液により処理し、前記凹凸パターンを除去することを特徴とする光ディスク原盤の処理方法。
【請求項5】
前記光ディスク原盤処理液において、過酸化水素及びアンモニアは、過酸化水素水(試薬特級)及びアンモニア水(試薬特級)を基準として、1倍〜200倍に希釈されていることを特徴とする請求項4記載の光ディスク原盤の処理方法。
【請求項6】
前記光ディスク原盤処理液において、過酸化水素水とアンモニア水の比率が4:1〜1:10であることを特徴とする請求項5記載の光ディスク原盤の処理方法。
【請求項7】
前記光ディスク原盤処理液による処理は、密閉空間内で行うことを特徴とする請求項4から6のいずれか1項記載の光ディスク原盤の処理方法。
【請求項8】
前記光ディスク原盤処理液の温度を20℃〜80℃とすることを特徴とする請求項4から7のいずれか1項記載の光ディスク原盤の処理方法。
【請求項9】
光ディスク原盤処理液による処理の後、研削及び/又は研磨を行うことを特徴とする請求項4から8のいずれか1項記載の光ディスク原盤の処理方法。
【請求項10】
前記無機レジストは、タングステン又はモリブデンの酸化物を含有することを特徴とする請求項4から9のいずれか1項記載の光ディスク原盤の処理方法。
【請求項11】
処理後の基板を再利用することを特徴とする請求項4から10のいずれか1項記載の光ディスク原盤の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−9724(P2010−9724A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171010(P2008−171010)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】