説明

光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法

【課題】蛍光体を安定に分散させるための光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法、および蛍光体の分散安定性を有する、その製造方法により得られる光半導体素子封止用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ケイ素化合物とホウ素化合物を反応させて得られるポリボロシロキサンと蛍光体とを含有してなる光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法であって、ケイ素化合物、ホウ素化合物及び蛍光体を含む混合物を用いて該蛍光体を粉砕しながら、前記ケイ素化合物とホウ素化合物を反応させることを特徴とする光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法、および前記製造方法により得られる光半導体素子封止用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法、およびその製造方法により得られる光半導体素子封止用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体素子封止用樹脂として、蛍光物質を含有するシリコーン樹脂が使用されているが、単に発光ダイオードに含有される蛍光物質の含有量を増やすだけでは発光色を調節できるものの発光輝度が低下する傾向にある。
【0003】
これらの原因としては、樹脂中の蛍光物質はほとんど厚く嵩張って沈降してしまうため、これら密に厚く沈降してしまった蛍光物質層は、発光素子からの光や蛍光物質からの励起光を隠蔽してしまい、発光出力および輝度の低下が生じることが考えられる(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−50800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明の課題は、蛍光体を安定に分散させるための光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法、および蛍光体の分散安定性を有する、その製造方法により得られる光半導体素子封止用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕ケイ素化合物とホウ素化合物を反応させて得られるポリボロシロキサンと蛍光体とを含有してなる光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法であって、ケイ素化合物、ホウ素化合物及び蛍光体を含む混合物を用いて該蛍光体を粉砕しながら、前記ケイ素化合物とホウ素化合物を反応させることを特徴とする光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法、および
〔2〕前記〔1〕記載の製造方法により得られる光半導体素子封止用樹脂組成物
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法により、蛍光体を安定に分散させた光半導体素子封止用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法は、ケイ素化合物とホウ素化合物を反応させて得られるポリボロシロキサンと蛍光体とを含有してなる光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法であって、ケイ素化合物、ホウ素化合物及び蛍光体を含む混合物を用いて該蛍光体を粉砕しながら、前記ケイ素化合物とホウ素化合物を反応させることを特徴とする。
【0008】
本発明の製造方法に用いられるケイ素化合物は、下記式(I):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立してアルキル基、nは4〜250を表す)
で表される化合物であることが好ましい。
【0011】
式(I)において、R1及びR2は、それぞれ独立してアルキル基を表し、アルキル基の炭素数は、分散性の観点から、好ましくは1〜18、より好ましくは1〜12、さらに好ましくは1〜6である。具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルが挙げられ、これらのなかでも、メチルが好ましい。
【0012】
式(I)において、nは、分散性の観点から、好ましくは4〜250であり、より好ましくは4〜200、さらに好ましくは4〜150であることが好ましい。
【0013】
式(I)で表されるケイ素化合物の重量平均分子量は、分散性の観点から、好ましくは300〜19000、より好ましくは300〜1500であることが好ましい。なお、重量平均分子量は、GPCを用いて測定することができる。
【0014】
式(I)で表されるケイ素化合物の使用量は、合成されたポリボロシロキサンの反応性の観点から、反応に供される混合物中に好ましくは50〜90重量%、より好ましくは50〜70重量%である。
【0015】
本発明の製造方法に用いられるホウ素化合物としては、従来からポリボロシロキサンの製造に用いられているものと同様のホウ素化合物が挙げられ、なかでも式(II):
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、Y1 、Y2 及びY3 は、それぞれ独立して水素又はアルキル基を示す)
で表される化合物であることが好ましい。
【0018】
式(II)中のアルキル基の炭素数は、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が例示される。これらのなかでも、イソプロピル基が好ましい。
【0019】
式(II)で表されるホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸メチル、ホウ酸エチル、ホウ酸イソプロピル等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、ホウ酸イソプロピルが好ましい。
【0020】
式(II)で表されるホウ素化合物の使用量は、合成されるポリボロシロキサンの反応性の観点から、反応に供される混合物中に好ましくは1〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
【0021】
本発明の製造方法に用いられる蛍光体は、粉砕機で粉砕されるものであればよく、無機系蛍光体であることが好ましい。無機系蛍光体は、酸化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、または窒化物蛍光体が好適に用いられる。酸化物蛍光体としてはYAGまたはTAG、酸窒化物蛍光体としてはSiAlON、窒化物蛍光体としてはカズンが挙げられるが、これらのなかでも蛍光体はYAGであることが好ましい。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
かかる蛍光体の製造方法は、一般的には結晶母材の構成元素である、それぞれの酸化物粉末(YAGの場合、酸化イットリウムと酸化アルミニウム)と賦活剤(一般的には希土類を含む化合物)とを混合し、高温で焼成することで製造できる。また、市販品として、化成オプトニクス社製 YAG蛍光体「P46−Y3」等を用いてもよい。
【0023】
本発明において、粉砕される前の蛍光体の平均粒子径は、好ましくは1〜30μm、より好ましくは2〜5μmであることが好ましく、粉砕された後の蛍光体の平均粒子径は、沈降抑制の観点から、好ましくは0.1〜2μm、より好ましくは0.1〜0.5μmであることが好ましい。かかる平均粒子径は、例えば、動的光散乱法を用いて測定することができる。
【0024】
蛍光体の使用量は、媒質であるポリボロシロキサンとの混合が困難になるという観点から、反応に供する混合物中に好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜20重量%、さらに好ましくは8〜12重量%である。
【0025】
さらに、反応に供する混合物には、上記の物質のほかに、蛍光体表面とポリボロシロキサンの親和性をより良くするために、シラン系表面処理剤を含んでいてもよい。かかる処理剤の使用量は、未反応の表面処理剤を系中になるべく残存させないために、反応に供する混合物中に好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%、さらに好ましくは1〜2重量%である。
【0026】
本発明の製造方法において、「蛍光体を粉砕しながら」とは、粉砕機を用いて蛍光体粉末の粒子径をより小さくする方法のことをいう。粉砕機としては、ミル、ホモジナイザー、ロータリークラッシャー等が使用でき、中でもミルが好ましい。ミルとしては、例えば、ビーズミル、ボールミル、振動ミル、ハンマーミル等を用いることができ、ビーズミルが好適である。以下、ミルを用いた例をもって説明するが、これに限定されるものでない。本発明においてビーズミルとは、容器の中に直径1〜2mm程度のセラミック粒子を入れ、その中にケイ素化合物、ホウ素化合物及び蛍光体を含む混合物を入れて、容器ごと回転させることにより、セラミック粒子間で蛍光体を粉砕するものであればよい。
【0027】
本発明におけるミルの使用条件は、例えば、好ましくは30〜500cm、より好ましくは50〜300cmの容積中で、平均粒子径が1〜2mmであるセラミック粒子のジルコニアビーズと、ケイ素化合物、ホウ素化合物および蛍光体を含む混合物との体積比(混合物/セラミック粒子)が好ましくは2/1〜1/5、より好ましくは1/1〜1/2となるように混合して、好ましくは1〜3時間分散する条件が挙げられる。
【0028】
本発明の製造方法において、ジルコニアビーズを含むミル中に混合物を用いて蛍光体を粉砕しながら、ケイ素化合物とホウ素化合物を反応させてポリボロシロキサンを合成することができる。ケイ素化合物とホウ素化合物の縮重合反応は、例えば、不活性ガス雰囲気下、好ましくは60〜200℃の温度、好ましくは10〜120分間で、かつ、溶媒非存在下で行うことができる。
【0029】
なお、反応に供されるケイ素化合物とホウ素化合物の重量比(ケイ素化合物/ホウ素化合物)は、100/1〜1/2が好ましく、10/1〜1/1がより好ましい。
【0030】
ケイ素化合物とホウ素化合物の縮重合反応後には、例えば、100〜200℃で1〜12時間、次いで200〜300℃で1〜24時間熱処理する等して、副生成物を留去してもよい。
【0031】
本発明は、上記の製造方法により得られる光半導体素子封止用樹脂組成物を提供する。かかる光半導体素子封止用樹脂組成物は、蛍光体を粉砕しながら反応に供しているので良好な蛍光体の分散安定性を有することができる。得られた樹脂組成物中の蛍光体の含有量は、好ましくは5〜20重量%、より好ましくは8〜12重量%である。また、樹脂組成物中の蛍光体の平均粒子径は、好ましくは0.1〜0.5μmである。
【0032】
該樹脂組成物の粘度は、分散性の観点から、好ましくは0.1〜1Pa・s、より好ましくは0.3〜0.5Pa・sである。なお、粘度は、温度が25℃、1気圧の条件下でレオメーターを用いて算出されるものである。均一に分散された蛍光体が含まれるかかる樹脂組成物は、蛍光体の沈降を抑制でき、長時間にわたって均一で良好な分散状態を保つことができる。
【0033】
本発明の光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法で得られる光半導体素子封止用樹脂組成物は、液晶画面のバックライト、信号機、屋外の大型ディスプレイ、広告看板等に好適に使用し得るものである。
【実施例】
【0034】
実施例1
シリコーンオリゴマー(商品名:X−215841、信越化学社製、式(I)でR1がメチル、R2がメチル、nが13、重量平均分子量1000)3.5g、ホウ酸イソプロピル(商品名:ホウ酸イソプロピル、和光純薬社製、式(II)でY1,Y2,Y3が全てイソプロピル基)1.5g、YAG蛍光体(商品名:P46−Y3、化成オプトニクス社製、平均粒子径4μm)0.5g及び蛍光体のシラン系表面処理剤(KR-500、信越化学社製)0.1gを配合した混合物を作製した。
【0035】
上記の混合物を、ビーズミル装置(商品名:DisperserDAS200、LAU社製)(容積37cmで、平均粒子径2mmのジルコニアビーズ30gを使用した。)により2時間分散し、YAG蛍光体を粉砕しながら、ポリボロシロキサンの合成反応を行うことにより、光半導体素子封止用樹脂組成物(粘度:0.4Pa・s)を得た(YAG蛍光体の平均粒子径0.3μm)。なお、蛍光体の平均粒子径は、動的光散乱装置(ELS8000 大塚電子社製)によって測定した。
【0036】
比較例1
シリコーンオリゴマー(商品名:X−215841、信越化学社製、式(I)でR1がメチル、R2がメチル、nが13、重量平均分子量1000)3.5g、ホウ酸イソプロピル(商品名:ホウ酸イソプロピル、和光純薬社製、式(II)でY1,Y2,Y3が全てイソプロピル基)1.5gを配合した混合物を攪拌しながら、2時間反応させてポリボロシロキサンを得た。
【0037】
上記ポリボロシロキサン5gに対し、YAG蛍光体(商品名:P46−Y3、
化成オプトニクス社製)0.5g及び蛍光体のシラン系表面処理剤(KR-500、信越化学社製)0.1gを混合した混合物を、ビーズミル装置(商品名:DisperserDAS200、
LAU社製)(容積37cmで、平均粒子径2mmのジルコニアビーズ30gを使用した。)により2時間分散し、YAG蛍光体を粉砕して、光半導体素子封止用樹脂組成物(粘度:0.4Pa・s)を得た。
【0038】
(評価)
実施例1及び比較例1で得られた光半導体素子封止用樹脂組成物を、25℃の条件下で静置して、蛍光体が完全に沈降するまでの時間を測定した。その結果、実施例1は120時間、比較例1は96時間であり、実施例1の方が蛍光体の分散安定性が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法で得られる光半導体素子封止用樹脂組成物は、液晶画面のバックライト、信号機、屋外の大型ディスプレイ、広告看板等に好適に使用し得るものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物とホウ素化合物を反応させて得られるポリボロシロキサンと蛍光体とを含有してなる光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法であって、ケイ素化合物、ホウ素化合物及び蛍光体を含む混合物を用いて該蛍光体を粉砕しながら、前記ケイ素化合物とホウ素化合物を反応させることを特徴とする光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
ケイ素化合物が式(I)で表される化合物である、請求項1記載の光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法。
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立してアルキル基、nは4〜250を表す)
【請求項3】
ホウ素化合物が式(II)で表される化合物である、請求項1または2記載の光半導体素子封止用樹脂組成物の製造方法。
【化2】

(式中、Y1、Y2及びY3は、それぞれ独立して水素又はアルキル基を示す)
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の製造方法により得られる光半導体素子封止用樹脂組成物。



【公開番号】特開2009−167361(P2009−167361A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9952(P2008−9952)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】