説明

光受信装置および光通信システム

【課題】 共振周波数が受光素子のキャパシタンスの変動にロバストな光受信装置を提供する。
【解決手段】 本発明の実施の形態に係わる光受信装置100は、光信号を受信して電流信号に変換する受光素子であるフォトダイオード101と、フォトダイオード101のアノード端子に直列に接続されたインダクタ102と、インダクタ103aおよびキャパシタ103bからなり、インダクタ102に直列に接続された並列共振回路103と、インダクタ102と並列共振回路103との間に接続されたキャパシタ104と、キャパシタ104に接続された増幅器105とを備えている。そして、増幅器105は、復調器106に接続され、復調器106は、増幅器105で増幅された電圧からデータ信号を復調する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光受信装置および光通信システムに係わり、特に共振周波数が受光素子のキャパシタンスの変動にロバストな光受信装置および光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体レーザやLED(Light Emitting Diode)から発光される光をデータ信号に応じて強度変調し、この強度変調された光信号を用いてデータの送受信を行う光空間通信技術が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。このような光空間通信では、空間を伝播する光信号を光受信装置の受光素子で受信し、これを電気信号に変換することで光信号に重畳されたデータ信号を復調する。
【0003】
ここで、このような光受信装置においては、光信号を効率よく受光するためには、受光素子の受光面積は大きいほうが望ましい。
【0004】
しかし一方で、受光素子の受光面積を大きくすると、受光素子のキャパシタンス(寄生容量)が大きくなるため、受光素子の温度の変化やフォトダイオードに印加されるバイアス電圧の変化など、受光素子の使用環境の変化によるキャパシタンスの変動も大きくなる。そのため、光受信装置の共振周波数の変動が大きくなり、安定した光通信が行えないという問題が生じる。
【特許文献1】特開2002‐111593公報(6頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の光受信装置では、光信号を効率よく受信するために受光素子の面積を大きくすると、使用環境の変化による受光素子のキャパシタンスの変動が大きくなり、これに応じて光受信装置の共振周波数が大きく変動するため、安定した光通信が行えない、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、共振周波数が受光素子のキャパシタンスの変動にロバストな光受信装置および光通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の光受信装置は、光信号を受信して電流信号に変換する受光素子と、前記受光素子の第1の端子に直列に接続された第1のインダクタと、前記第1のインダクタに接続された第1のキャパシタと、前記第1のキャパシタに接続された増幅器と、前記第1のインダクタと前記第1のキャパシタとの間に接続された、第2のインダクタおよび第2のキャパシタを含む並列共振回路とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の光通信システムは、光信号を受信して電流信号に変換する受光素子と、前記受光素子の第1の端子に直列に接続された第1のインダクタと、第2のインダクタおよび第1のキャパシタからなり、前記第1のインダクタに直列に接続された並列共振回路と、前記第1のインダクタと前記並列共振回路との間に接続された第2のキャパシタと、前記第2のキャパシタに接続された増幅器とを備える光受信装置と、副搬送波の周波数が前記光受信装置の最も高い共振周波数と一致する光送信装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光受信装置の共振周波数を受光素子のキャパシタンスの変動に対してロバストにすることができるので、受光素子の受光面積を大きくして効率よく光信号を受信し、安定した光通信を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係わる光受信装置100の構成を示す図である。
【0012】
この実施形態に係わる光受信装置100は、光信号を受信して電流信号に変換する受光素子であるフォトダイオード101と、フォトダイオード101のアノード端子に直列に接続されたインダクタ102と、インダクタ103aおよびキャパシタ103bからなり、インダクタ102に直列に接続された並列共振回路103と、インダクタ102と並列共振回路103との間に接続されたキャパシタ104と、キャパシタ104に接続された増幅器105とを備えている。このとき、フォトダイオード101で発生する光電流は、並列共振回路103を負荷として電圧信号に変換され、この電圧信号はキャパシタ104を介して増幅器105で増幅される。そして、増幅器105で増幅された電圧信号は、増幅器105に接続された復調器106で、データ信号へと復調される。
【0013】
ここで、並列共振回路103は、グラウンドに接地されており、フォトダイオード101のカソード端子とグラウンドとの間には、電圧制御回路(図示しない)によって、逆バイアス電圧(Vb)が印加されている。
【0014】
また、インダクタ102およびインダクタ103aのインダクタンスを、それぞれ、LおよびL、キャパシタ103bおよびキャパシタ104のキャパシタンスを、それぞれ、CおよびCとする。
【0015】
ここで、フォトダイオード101は、電流源と、その電流源に並列に接続されたキャパシタと等価と考えられる。そして、バイアス電圧は交流的にはショートと等価であるので、図1に示す光受信装置100の等価回路は、図2に示す回路のようになる。なお、図2では、フォトダイオード101のキャパシタンス(寄生容量)をC、フォトダイオード101に流れる光電流をIとした。
【0016】
このとき、図2における並列共振回路103の両端の電圧、すなわち、光受信装置100の出力電圧Vと光電流Iとの間の変換係数(電流電圧変換係数)Zは、(1)式のように表すことができる。ここで、ωは角周波数である。
【数1】

【0017】
なお、ここでは各インダクタに存在する抵抗は無視している。
【0018】
ここで、光受信装置100の共振周波数は、(1)式の分母が0となる角周波数である。したがって、共振周波数は、(2)式によって求めることができる。
【数2】

【0019】
さらに、(2)式を変形すると、(3)式が得られる。
【数3】

【0020】
(2)式において、電流電圧変換係数の絶対値を大きくするためには、(2)式の分子に含まれるインダクタンスLの値を大きく設定する必要がある。一方で、インダクタンスLとキャパシタンスCの値は自由に設定することができる。そこで、キャパシタンスCとインダクタンスLとの積を、キャパシタンスCとインダクタンスLとの積に比較して十分小さくなるように設定すると、(4)式に示す近似式が成り立つ。
【数4】

【0021】
したがって、(3)式は、(5)式のように近似することができる。
【数5】

【0022】
ここで、フォトダイオード101のキャパシタンスCは、上述したように、使用環境などによって大きく変動する場合がある。しかし、キャパシタンスCをキャパシタンスCに比較して十分小さく設定すれば、(5)式の第2項は無視することができるので、光受信装置100の共振周波数は(6)式のように表すことができる。
【数6】

【0023】
したがって、この場合、光受信装置100の共振周波数は、フォトダイオード101のキャパシタンスCに依存しなくなる。すなわち、光受信装置100の共振周波数は、使用環境などの変化によるキャパシタンスCの変動の影響を受けにくくなる。
【0024】
図3に、フォトダイオード101のキャパシタンスCを1000pF、インダクタ103aのインダクタンスLを1μH、インダクタ102のインダクタンスL1を200nH、キャパシタ103bのキャパシタンスCを100pFとした場合の電流電圧変換係数の絶対値の様子を示す。図6に示すように、この場合、5MHz付近に第1の共振周波数が現れ、40MHz付近に第2の共振周波数が現れている。ここで、第2の共振周波数が、上述した(6)式によって求まる共振周波数(約39MHz)に相当する。
【0025】
増幅器105は、並列共振回路103の両端間の電圧(出力電圧V)を、キャパシタ104を介して増幅する。
【0026】
ここで、上述した光受信装置100には、光送信装置から送信される光信号のほかに、例えば、太陽光などの背景光雑音なども入力される。このような背景光雑音は直流成分である場合が多い。
【0027】
そこで、このような背景光雑音を除去し、耐雑音性の高い光通信を行うためには、まず、光送信装置から送信される光信号の副搬送波の周波数を、上述した第2の共振周波数と一致させる。そして、増幅器105では、上記の第2の共振周波数である40MHz付近の周波数の電圧を選択的に増幅するようにする。このようにすることで、光受信装置100が受光した信号のうち、太陽光などの背景光雑音を含む直流成分は増幅器105で除去されることになるため、耐雑音性の高い光通信を行うことが可能となる。
【0028】
さらに、このとき、第2の共振周波数がより高周波領域に存在すれば、光送信装置より送信された光信号を、精度よく背景光雑音から分離することが可能になる。ここで、本実施形態に係わる光受信装置100の共振周波数は、(6)式に示すように、フォトダイオード101のキャパシタンスCに依存せず、インダクタンスL、インダクタンスLおよびキャパシタンスCの値によって定まる。そこで、これらの値を適切に設定し、上記の第2の共振周波数をより高い周波数領域に設定する。そして、その第2の共振周波数に一致させるように、光送信装置から送信される光信号の副搬送波の周波数を設定すれば、背景光雑音と光信号とを光受信装置100において精度よく分離することが可能になる。なお、このとき副搬送波の周波数は、背景光雑音と光信号とを分離できるように設定されていればよく、必ずしも第2の共振周波数と完全に一致している必要はない。
【0029】
そして、このようにして増幅器105で増幅された電圧を復調器106に入力することで、光信号に重畳されたデータ信号を復調することが可能となる。
【0030】
このように、本発明の実施形態に係わる光受信装置によれば、光受信装置の共振周波数に対するフォトダイオードのキャパシタンスの影響を小さくでき、共振周波数をフォトダイオードのキャパシタンスの変動に対してロバストにすることが可能になる。
【0031】
なお、上述した実施形態では、フォトダイオード101のアノード端子をインダクタ102と直列に接続するようにしたが、フォトダイオード101のカソード端子をインダクタ102と接続するようにしてもよい。この場合、フォトダイオード101のアノード端子とグラウンドとの間に、フォトダイオード101に対して逆バイアス電圧となるような電圧が印加されるようにする。ただし、一般にフォトダイオードのアノード端子をインダクタ102と接続して逆バイアス電圧を印加するほうが光受信装置の実装が容易となるため望ましい。
【0032】
また、上述した実施形態では、受光素子としてフォトダイオードを用いたが、このほかフォトトランジスタやアバランシェフォトダイオードなどを用いることも可能である。
【0033】
次に、本実施形態に係わる光受信装置100に対して光信号を送信する側の光送信装置200の実施形態について説明する。なお、ここでは、光送信装置200として、副搬送波を変調して、その出力によって可視光半導体レーザ(以下、可視光LD:Laser Diodeと呼ぶ)から発光される光信号を強度変調する形態について説明をするが、光信号の強度変調は、例えば、直流成分を除去したベースバンドアナログ信号により行うことも可能である。また、副搬送波の変調として位相変調を行う例を説明するが、このほかに、振幅変調や周波数変調を行うことも可能である。
【0034】
図4は、本実施形態に係わる光受信装置100と光送信装置200とからなる光通信システムの構成を示す図である。また、図5は、光送信装置200の構成を示す図である。
【0035】
図5に示す光送信装置200は、可視光LD201と、可視光LD201に直列に接続されたインダクタ202と、可視光LD201とインダクタ202との間に接続されたキャパシタ203と、キャパシタ203に接続され、入力されたデータ信号に対応して副搬送波の位相を変調する副搬送波位相変調器204とを備えている。
【0036】
ここで、インダクタ202はグラウンドに接地されており、可視光LD201にはバイアス電圧(V)が印加されている。これにより、可視光LD201にはバイアス電流(I)が流れる。このような構成により、副搬送波位相変調器204の出力によって、可視光LD201から発光される光の強度を変調し、データ信号が重畳された光信号を送信することが可能となる。なお、バイアス電流Iは、副搬送波位相変調器204からの出力と加算された場合の最低値が、可視光LD201の発振しきい電流値以上になるように設定する。
【0037】
副搬送波位相変調器204の位相変調方法としては、例えば、2値位相変調(BPSK:Binary Phase Shift Keying)方式を用いることができる。2値位相変調方式を用いた場合、入力されるデータ信号のデジタル値「1」および「0」に対応して、特定の周波数の副搬送波の位相が180度変化するような位相変調が行われる。
【0038】
このような副搬送波位相変調器204は、具体的には、図6に示すように、フリップフロップと排他的論理和回路を用いて構成することが出来る。
【0039】
図6に示す副搬送波位相変調器204の副搬送波発生器204aは、出力電圧レベルが論理レベルで、クロック信号を発生する。ここで、クロック信号源の発振周波数(クロック周波数)は、上述した光受信装置100の第2の共振周波数と一致させることが望ましい。
【0040】
そして、データ信号入力と同期を取る目的で、D型フリップフロップ(以下、D−FFと呼ぶ)204bを用いて、クロック信号の遷移点でデータ信号の識別を行う。なお、入力するデータ信号は、D−FF204bに入力する以前に、クロック信号と同期をとっておくことが望ましい。しかし、データ信号のビットレートが、クロック信号に対して十分低い場合には、D−FF204bのみで同期処理を行うことができる。
【0041】
データ信号のビットレートとしては、例えば、9.6kbit/s、あるいは、19.2kbit/sを用いることができる。9.6kbit/sのタイムスロットは、約0.1msecであり、クロック周波数を40MHzとした場合、その1周期の約4200倍となる。
【0042】
そして排他的論理和回路204cにおいて、D−FF204bで同期を取ったデータ信号とクロック信号との間の排他的論理和を求めることにより、2値位相変調波形を得ることができる。
【0043】
なお、本実施形態の光受信装置100に対して用いることができる光送信装置は、上述した実施形態には限られない。
【0044】
例えば、可視光LD201の代わりに可視光LEDを用いることも可能である。この場合の光送信装置300の構成を図7に示す。
【0045】
可視光LED301を用いる場合には発振しきい値は存在しないので、バイアス電流Iと副搬送波位相変調器302の出力による電流との和の最低値は、ゼロとすることができる。すなわち、バイアス電流Iと副搬送波位相変調器302の出力による電流の振幅を等しくすることができる。
【0046】
そこで、図7に示すように、バイアス電流と副搬送波位相変調器302の出力による電流との間で振幅を調整することなく、トランジスタを用いた電流スイッチ回路303により、バイアス電流2×Iをスイッチすることで送信器を構成することができる。
【0047】
このように電流スイッチにより可視光LED301を駆動するようにしたことで、可視光LED301から出力される光信号には高調波成分が含まれることになる。このような高調波成分は、送信信号が電波の場合には他の無線システムに悪影響を与える場合があるが、光信号の場合、信号の直進性が強いために、そのような高調波成分による干渉の問題は生じない。
【0048】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係わる光受信装置の構成図。
【図2】本発明の実施形態の光受信装置の一部の等価回路を示す図。
【図3】本発明の実施形態の光受信装置の電流電圧変換係数と周波数との関係を示す図。
【図4】本発明の実施形態に係わる光通信システムの構成図。
【図5】本発明の実施形態の光送信装置の構成図。
【図6】本発明の実施形態の副搬送波変調器の構成図。
【図7】本発明の実施形態のほかの光送信装置の構成図。
【符号の説明】
【0050】
100・・・光受信装置
101・・・フォトダイオード
102、103a、202・・・インダクタ
103b、104、203・・・キャパシタ
105・・・増幅器
106・・・復調器
200、300・・・光送信装置
201・・・可視光LD
204、302・・・副搬送波変調器
301・・・可視光LED
303・・・電流スイッチ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を受信して電流信号に変換する受光素子と、
前記受光素子の第1の端子に直列に接続された第1のインダクタと、
前記第1のインダクタに接続された第1のキャパシタと、
前記第1のキャパシタに接続された増幅器と、
前記第1のインダクタと前記第1のキャパシタとの間に接続された、第2のインダクタおよび第2のキャパシタを含む並列共振回路と
を備えることを特徴とする光受信装置。
【請求項2】
前記受光素子がフォトダイオードであり、前記第1の端子および第2の端子がそれぞれアノード端子およびカソード端子であることを特徴とする請求項1に記載の光受信装置。
【請求項3】
光信号を受信して電流信号に変換する受光素子と、
前記受光素子の第1の端子に直列に接続された第1のインダクタと、
第2のインダクタおよび第1のキャパシタからなり、前記第1のインダクタに直列に接続された並列共振回路と、
前記第1のインダクタと前記並列共振回路との間に接続された第2のキャパシタと、
前記第2のキャパシタに接続された増幅器とを備える光受信装置と、
副搬送波の周波数が前記光受信装置の最も高い共振周波数と一致する光送信装置と
を備えることを特徴とする光通信システム。
【請求項4】
前記光送信装置が、振幅変調、周波数変調、もしくは、位相変調された副搬送波により光信号の強度変調を行うことを特徴とする請求項3に記載の光通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−49456(P2007−49456A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231978(P2005−231978)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】