説明

光学フィルム、及びその製造方法

【課題】 液晶表示装置(LCD)等に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム等に利用することができる光学フィルムについて、製膜時に溶媒を使用しない溶融流延法によって製造されかつ位相差フィルムに好適な種々の条件下でも寸法変化が少なく、額縁故障と呼ばれる濃度ムラの発生がない光学フィルムと、その製造方法を提供する。
【解決手段】 光学フィルムは、セルロースエステル系樹脂を含む樹脂層が2層以上積層されており、そのうちの少なくとも1つの樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子(マット剤)が含まれている。溶融流延製膜法により2層以上の樹脂層を流延ダイから共押し出し、冷却固化して積層ウェブとし、該積層ウェブを延伸して巻き取る。セルロースエステル系樹脂を含む2層以上の樹脂層のうちの少なくとも1つの樹脂層に含水率1重量%以下の無機微粒子が含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)等に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルムまた有機ELディスプレイ等で使用される各種機能フィルム等にも利用することができる光学フィルム、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、従来のCRT表示装置に比べて、省スペース、省エネルギーであることからモニターとして広く使用されている。さらにTV用としても普及が進んできている。このような液晶表示装置には、偏光フィルムや位相差フィルムなどの種々な光学フィルムが使用されている。
【0003】
ところで、液晶表示装置に用いられる偏光板の偏光フィルムは、延伸ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子の片面または両面に、一般にセルロースエステル系樹脂で構成される偏光板保護フィルムが、物理的に偏光板の保護のために積層されている。また、位相差フィルムは、視野角の拡大やコントラストの向上などの目的で用いられており、ポリカーボネ−ト、脂環式構造を有する重合体、セルロースエステル系樹脂などのフィルムを延伸してリタデーションが付与されたものや透明基材上に液晶層を塗設されたものなどである。光学補償フィルムと呼ばれることもある。
【0004】
これらの光学フィルムでは、光学的な欠陥がなく、リタデーションが均一であることが要求される。特に、モニターやTVの大型化や高精細化が進み、これらの要求品質はますます厳しくなってきている。
【0005】
光学フィルムの製造方法には、大別して溶液流延製膜法と溶融流延製膜法とがある。前者は、ポリマーを溶媒に溶かして、その溶液を支持体上に流延し、溶媒を蒸発し、さらに必要により延伸してフィルムにする方法である。膜厚の均一性に優れるなどの点から広く採用されてきたが、ハロゲン系の溶媒を用いた製膜方法であるため、溶媒回収に要する費用は非常に大きい負担となっていた。後者は、ポリマーを加熱溶融して支持体上に流延し、冷却固化し、さらに必要により延伸してフィルムにする方法であり、溶媒を乾燥する必要がないので、設備が比較的コンパクトにできるとの利点があるが、膜厚の均一性に劣り、リタデーションが均一でないという問題点があった。
【0006】
ここで、溶剤を使用しない溶融流延製膜法を用いて光学フィルムを製造する方法としては、例えば下記の特許文献1において提案されている。
【特許文献1】特開2000−352620号公報 特許文献1には、溶融流延によって形成されたセルロースエステルフィルムが開示されており、セルロースエステルフィルムが一方向及びそれと直交する方向にそれぞれ延伸され、またセルロースエステルフィルムが不揮発性可塑剤を含有すること、及び紫外線吸収剤を含有することが開示されている。そして、特許文献1のセルロースエステルフィルムによれば、溶媒を使用することなく光学的、物理的に優れ、特に寸法安定性に優れた光学フィルムを提供することが記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のセルロースエステルフィルムでは、種々な条件下でのフィルムの寸法変化が十分小さくないため、いわゆる額縁故障と呼ばれる濃度ムラが生じることがあるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、製膜時に溶媒を使用しない溶融流延法によって製造されかつ位相差フィルムに好適な種々の条件下でも寸法変化が少なく、額縁故障と呼ばれる濃度ムラの発生がない位相差用フィルムとして有用な光学フィルム、及びその製造方法を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の光学フィルムの発明は、セルロースエステル系樹脂を含む樹脂層が2層以上積層されており、そのうちの少なくとも1つの樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子(マット剤)が含まれていることを特徴としている。
【0010】
請求項2記載の発明は、上記請求項1に記載の光学フィルムであって、セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの化合物であることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、溶融流延製膜法によりセルロースエステル系樹脂を含む2層以上の樹脂層を流延ダイから共押し出し、冷却固化して未延伸積層ウェブとし、該未延伸積層ウェブの両端を把持して幅方向に延伸し、得られた延伸積層フィルムを巻き取る光学フィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂を含む2層以上の樹脂層のうちの少なくとも1つの樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子(マット剤)が含まれていることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、上記請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの化合物であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の光学フィルムの発明は、セルロースエステル系樹脂を含む樹脂層が2層以上積層されており、そのうちの少なくとも1つの樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子(マット剤)が含まれているもので、本発明の光学フィルムによれば、種々の条件下でも寸法変化が少なく、濃度ムラの発生がなく、位相差用フィルムに好適である。本発明の光学フィルムよりなる位相差フィルムを用いた液晶表示装置では、使用環境下での条件に関係なく、常に安定した表示品質を得ることができるという効果を奏する。
【0014】
請求項2記載の発明は、上記請求項1に記載の光学フィルムであって、セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの化合物であるもので、本発明によれば、これらのセルロースエステル系樹脂は、光弾性係数が小さく、優れた光学特性を発揮するものであり、製膜後のフィルムの状態で種々の条件下でも寸法変化の少ない位相差用フィルムに好適なセルロースエステル系樹脂フィルムを得ることができるという効果を奏する。
【0015】
請求項3に記載の発明は、溶融流延製膜法によりセルロースエステル系樹脂を含む2層以上の樹脂層を流延ダイから共押し出し、冷却固化して未延伸積層ウェブとし、該未延伸積層ウェブの両端を把持して幅方向に延伸し、得られた延伸積層フィルムを巻き取る光学フィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂を含む2層以上の樹脂層のうちの少なくとも1つの樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子(マット剤)が含まれているもので、本発明によれば、製膜時に溶媒を使用しない溶融流延製膜法によって製造された位相差フィルムに好適なセルロースエステル系樹脂フィルムを得ることができる。さらに、得られたセルロースエステル系樹脂フィルムは、製膜後のフィルムの状態で種々の条件下でも寸法変化の少ない位相差用フィルムとして機能し得るものであり、この位相差フィルムを用いた液晶表示装置では、使用環境下での条件に関係なく、常に安定した表示品質を得ることができるという効果を奏する。
【0016】
請求項4に記載の発明は、上記請求項3に記載の光学フィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの化合物であるもので、本発明によれば、これらのセルロースエステル系樹脂は、光弾性係数が小さく、優れた光学特性を発揮するものであり、製膜後のフィルムの状態で種々の条件下でも寸法変化の少ない位相差用フィルムに好適なセルロースエステル系樹脂フィルムを得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明による光学フィルムは、セルロースエステル系樹脂を含む樹脂層が2層以上積層されており、そのうちの少なくとも1つの樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子(マット剤)が含まれているものである。
【0019】
本発明の光学フィルムの原料としては、セルロースエステル系樹脂を使用する。なお、セルロースエステル系樹脂は偏光子である延伸ポリビニルアルコールとの接着性に優れるとの特徴を有する。
【0020】
セルロースエステル系樹脂としては、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの化合物が好ましい。上記セルロースエステル系樹脂のアセチル基の置換度は、少なくとも1.5以上であることが、得られるフィルムの寸法安定性に優れるので好ましい。
【0021】
セルロースエステル系樹脂のアシル基の置換度の測定方法としては、ASTMのD−817−91に準じて実施することができる。セルロースエステル系樹脂の分子量は、数平均分子量として50,000〜300,000、とくに60,000〜200,000であることが、得られるフィルムの機械的強度が強くできるので好ましい。
【0022】
本発明において、光学フィルムの主材であるセルロースエステル系樹脂中には、種々の目的で可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、微粒子(マット剤)、帯電防止剤、難燃剤、染料及び油剤などの添加剤を含有させることができる。
【0023】
可塑剤としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリキシリルホスフェート、アリーレンビス(ジアリールホスフェート)エステル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル系可塑剤、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート及びジ−2−エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート及びブチルフタリルブチルグリコレート等のグリコール酸エステル系可塑剤、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸系可塑剤、ジプロピレングリコールベンゾエート、トリプロピレングリコールジベンゾエート、1,3−ジブチレングリコールジベンゾエート、テトラエチレングリコールジベンゾエート、トリメチロールプロパントリアセテート、トリメチロールプロパントリベンゾエート等の多価アルコールエステル系可塑剤、その他にトリメリット酸トリス(2−エチルヘキシル)などを挙げることができる。必要に応じて、上記のうち2種類以上の可塑剤を併用して用いてもよい。これらの添加量は、可塑剤の効果とブリードアウトの兼ね合いから、セルロースエステル系樹脂に対して1〜30重量%が好ましい。
【0024】
また、ポリエステルエーテル、ポリエステル−ウレタン、ポリエステルなどもブレンドすることで、可塑性を改良できるので、好ましく用いることができる。
【0025】
ポリエステルエーテルとしては、炭素原子8〜12個の芳香族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸(例えばテレフタール酸、イソフタール酸、ナフタレンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸)、炭素原子2〜10個の脂肪族グリコールまたは脂環式グリコール類(例えば、エチレンジオール、プロピレンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよび1,5−ペンタンジオール)、エーテル単位の間に炭素原子2〜4個を有するポリエーテルグリコール類(例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、特に1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールを構成要素とするコポリエステルエーテル)が好ましい。ポリエステルエーテルの配合量は、主たるセルロースエステル系樹脂に対して5〜30重量%が好ましい。配合量をこの範囲とすることで、良好な可塑性を呈するフィルムが得られる。
【0026】
ポリエステル−ウレタンとしては、ポリエステルとジイソシアナートとの反応により得られるポリエステル−ウレタンが挙げられる。下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する。
【化1】

【0027】
一般式(1)中、lは、2、3または4を表わし、mは、2、3または4を表わし、nは、1〜100を表わす。Rは、構造単位式(2)〜(7)に示す構造単位のいずれかを表わす。なお、構造単位式(2)中、pは2〜8を表わす。
【0028】
ポリエステル−ウレタンを構成するポリエステルとしては、グリコール成分が、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、または1,4−ブタンジオールであり、二塩基性酸成分が、コハク酸、グルタル酸、またはアジピン酸からなる両末端ヒドロキシル基を有するポリエステルであり、その重合度nは1〜100である。ポリエステルの分子量として、1,000〜4,500に当るものが特に望ましい。
【0029】
ポリエステル−ウレタンを構成するジイソシアナート成分としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート等のポリメチレンイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、p,p′−ジフェニルメタンジイソシアナート、1,5−ナフチレンジイソシアナート等の芳香族ジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。中でも、トリレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナートがポリウレタン化した場合、セルロースエステル系樹脂との相溶性が秀れているので好ましい。
【0030】
ポリエステル−ウレタンの分子量は、2,000〜50,000が好ましく、さらに5,000〜15,000が好ましい。ポリエステル−ウレタンの合成は、上記のポリエステルとジイソシアナートとを混じ攪拌下加熱させる常法の合成法により、容易に得ることができる。また、原料のポリエステルも常法により、相当する二塩基性酸、またはこれらのアルキルエステル類とグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法が、あるいはこれらの酸の酸クロリドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法により、末端基がヒドロキシル基となるよう適宜調整すれば容易に合成することができる。
【0031】
ポリエステル−ウレタンの配合量は、主たる樹脂に対して5〜30重量%が好ましい。配合量をこの範囲とすることで良好な可塑性を呈するフィルムが得られる。
【0032】
ポリエステルとしては、ポリエチレングリコールと脂肪族二塩基性酸とからなるポリエステルで、その平均分子量は700から10,000が好ましい。
【0033】
ポリエチレングリコールは、一般式が
HO−(CHCH−O)−H
(式中、nは、整数である)で表される。nは4以下が好ましい。
【0034】
また、脂肪族二塩基性酸とは、一般式が
HOOC−R−COOH
(式中、Rは、脂肪族二価炭化水素基である)で表される蓚酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸などであり、炭素数9以下が好ましい。
【0035】
ポリエステルの合成は、常法により、上記二塩基性酸またはこれらのアルキルエステル類とグリコール類とのポリエステル化反応、またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法の、いずれかの方法によっても容易に合成することができる。
【0036】
ポリエステルの配合量は、主たる樹脂に対して5〜30重量%が好ましい。配合量をこの範囲とすることで、良好な可塑性を呈するフィルムが得られる。
【0037】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が適当であり、その具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン及びトリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。とくに2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕及びトリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、その効果を得るために、セルロースエステル系樹脂に対し、重量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが、とくに好ましい。
【0038】
本発明において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。
【0039】
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0040】
本発明において、有用な紫外線吸収剤の具体例としては、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を好ましく使用できる。
【0041】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0042】
これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル系樹脂に対して、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5重量%が好ましい。使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不充分の場合があり、多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合がある。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
【0043】
本発明では、フィルムの滑り性を付与するとともに、製膜後のフィルムの状態で種々の条件下でも寸法変化の少なくするために、無機微粒子(マット剤)を添加する。本発明で用いられる無機微粒子としては、溶融時の耐熱性がある無機化合物を使用する。
【0044】
無機化合物としては、例えば、珪素を含む化合物、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウム等が好ましく、さらに好ましくは、ケイ素を含む無機化合物や酸化ジルコニウムである。中でもヘイズを小さく抑えることができることから、二酸化珪素が特に好ましく用いられる。二酸化珪素の具体例としては、アエロジル200V、アエロジルR972V、アエロジルR972、R974、R812、200、300、R202、OX50、TT600(以上、日本アエロジル株式会社製)等の商品名を有する市販品が好ましく使用できる。
【0045】
本発明による光学フィルムは、上記のように、セルロースエステル系樹脂を含む樹脂層が2層以上積層されており、そのうちの少なくとも1つの樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子(マット剤)が含まれているものである。
【0046】
ここで、無機微粒子(マット剤)の含水率の測定方法は、まず、マット剤を電子天秤にて秤量し、このときの重量をW1(g)とする。つぎに、このマット剤を150℃に維持された熱風オーブン型乾燥器に入れ、5時間乾燥させた後、デシケーター内で30分間放冷して秤量し、このときの重量をW2(g)として、次式にて算出する。
【0047】
マット剤の含水率(%)={(W1−W2)/W1}×100
本発明の光学フィルムは、セルロースエステル系樹脂を含む樹脂層が2層以上積層されており、そのうちの少なくとも1つの樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子(マット剤)が含まれているから、種々の条件下でも寸法変化が少なく、濃度ムラの発生がなく、位相差用フィルムとして好適である。
【0048】
ここで、濃度ムラとは、液晶パネルの画面を目視した場合の明るさのムラを意味するものである。
【0049】
また、本発明の光学フィルムよりなる位相差フィルムを用いた液晶表示装置では、使用環境下での条件に関係なく、常に安定した表示品質を得ることができる。
【0050】
なお、本発明による光学フィルムは、セルロースエステル系樹脂を含む樹脂層が2層に限らず、3層以上の多層フィルムにも適用できる。
【0051】
本発明による光学フィルムの製造方法は、溶融流延製膜法によりセルロースエステル系樹脂を含む2層以上の樹脂層を流延ダイから共押し出し、冷却固化して未延伸積層ウェブとし、該未延伸積層ウェブの両端を把持して幅方向に延伸し、得られた延伸積層フィルムを巻き取る光学フィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂を含む2層以上の樹脂層のうちの少なくとも1つの樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子(マット剤)が含まれている。
【0052】
図1は、本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置の1つの実施形態を示す概略フローシートである。この実施形態では、セルロースエステル系樹脂を含む樹脂層を2層積層する場合を示している。
【0053】
同図を参照すると、まず、例えば熱風や真空または減圧下で乾燥したセルロースエステル系樹脂フィルムの第1層用材料11を、ホッパから1軸または2軸タイプの押し出し機1に導入し、押し出し温度200〜300℃程度で溶融し、さらに溶融の途中でマット剤13や紫外線吸収剤などを順に添加して混合する。なお、セルロースエステル系樹脂フィルムの第1層用材料11を供給ホッパーから押し出し機1へ導入する際は、真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして、酸化分解等を防止することが好ましい。
【0054】
一方、マット剤を混合せずに、それ以外については上記第1層と同じ第2層用材料12を、ホッパから1軸または2軸タイプの押し出し機2に導入し、押し出し温度200〜300℃程度で溶融して混合する。同様に、セルロースエステル系樹脂フィルムの第2層用材料12を供給ホッパーから押し出し機2へ導入する際は、真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして、酸化分解等を防止することが好ましい。
【0055】
つぎに、第1層と第2層の流量比が、例えば0.5〜2:4.5〜6、好ましくは1:5程度となるように調整し、リーフディスクタイプのフィルターなどで濾過して異物を除去した後、流延ダイ3に送る。
【0056】
流延ダイ3によるセルロースエステル系樹脂を含む樹脂層の積層は、例えばマルチマニホールド型共押し出しダイを使用し、同時に2層以上をダイ内で積層し、冷却ドラム4の上に押し出すことで達成される。あるいはまた、フィードブロック内で2層を合流し、単層ダイで押し出すこともできる。
【0057】
本発明においては、上記のセルロースエステル系樹脂フィルムのマット剤を含む第1層用材料11及びマット剤を含まない第2層用材料12を、マルチマニフォルド型共押し出しダイ3に供給し、ダイ3内で合流させ、合流した溶融フィルム層材料を、所定温度の冷却ドラム4上に溶融温度でフィルム状に溶融押し出しし、冷却固化させて未延伸樹脂ウェブWを得る。
【0058】
ここで、溶融樹脂の押出し流量は、ギヤポンプを導入するなどして安定に行なうことが好ましい。また、異物の除去に用いるフィルターは、ステンレス繊維焼結フィルターが好ましく用いられる。
【0059】
本発明において、可塑剤や無機微粒子(マット剤)などの添加剤は、予め樹脂と混合しておいてもよいし、押し出し機1の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
【0060】
冷却ドラム4の温度は、セルロースエステル系樹脂の常温からガラス転移温度(Tg)以下の範囲が好ましい。この範囲とするとすることにより、搬送張力などによる僅かなリタデーションむらの発生を抑制できる。冷却ドラム4へ樹脂を密着させるために、静電印加により密着させる方法、風圧により密着させる方法、全幅あるいは端部をニップして密着させる方法、減圧で密着させる方法などを用いることが好ましい。
【0061】
つぎに、冷却ドラム4から剥離ロール5によって剥離した冷却固化されたドープ膜(ウェブ)Wは、ダンサーロール(フィルム張力調整ロール)6を経て延伸機7に導き、そこでウェブWを幅手方向に延伸する。この延伸により、ウェブW中の分子が配向される。ウェブWを幅手方向に延伸する方法は、公知のテンターなどを好ましく用いることができる。特に、延伸方向を幅手方向とすることで、偏光フィルムとの積層がロール形態で実施できるので好ましい。ウェブWを幅手方向に延伸することで、セルロースエステル系樹脂フィルムからなる光学フィルムの遅相軸は幅手方向になる。一方、偏光フィルムの透過軸も、通常、幅手方向である。偏光フィルムの透過軸と光学フィルムの遅相軸とが平行になるように積層した偏光板を液晶表示装置に組み込むことで、液晶表示装置の表示コントラストを高くすることができるとともに、良好な視野角が得られるのである。
【0062】
上記延伸機7における延伸条件は、所望のリタデーション特性が得られるように、温度、倍率を選ぶことができる。通常、延伸倍率は1.1〜2.0倍、好ましくは1.2〜1.5倍であり、延伸温度は、光学フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度をTgとすると、通常、Tg〜Tg+50℃、好ましくはTg〜Tg+40℃の温度範囲で行なわれる。延伸倍率が小さすぎると、所望のリタデーションが得られない場合があり、逆に大きすぎると、フィルムが破断してしまう場合がある。延伸温度が低すぎると、フィルムが破断してしまう場合があり、高すぎると、所望のリタデーションが得られない場合がある。
【0063】
フィルムの幅手方向の延伸は、制御された均一な温度分布下で行なうことが好ましい。好ましくは±2℃以内、さらに好ましくは±1℃以内、特に好ましくは±0.5℃以内である。
【0064】
上記の方法で作製したセルロースエステル系樹脂フィルムのリタデーション調整や寸法変化率を小さくする目的で、フィルムを長さ方向や幅手方向に延伸または収縮させてもよい。長さ方向に収縮するには、例えば、幅手延伸を一時クリップアウトさせて長さ方向に弛緩させる、または横延伸機の隣り合うクリップの間隔を徐々に狭くすることによりフィルムを収縮させるという方法がある。後者の方法は一般の同時二軸延伸機を用いて、縦方向の隣り合うクリップの間隔を、例えばパンタグラフ方式やリニアドライブ方式でクリップ部分を駆動して滑らかに徐々に狭くする方法によって行なうことができる。必要により任意の方向(斜め方向)の延伸と組み合わせてもよい。長手方向、幅手方向とも0.5%から10%収縮させることで光学フィルムの寸法変化率を小さくすることができる。
【0065】
光学フィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、仕上がりのフィルムとして、本発明において使用される膜厚範囲は30〜200μmであり、最近の薄手傾向では、フィルムの膜厚は、40〜120μmの範囲が好ましく、特に40〜100μmの範囲が好ましい。フィルムの平均膜厚は、所望の厚さになるように、押し出し流量、流延ダイ3の流延口の間隙、冷却ドラム4の回転速度等をコントロールすることで、調整できる。
【0066】
延伸後のフィルムFは、巻取り機10によって巻き取る前に、製品となる幅にフィルム端部をスリッター8によりスリットして裁ち落とす。
【0067】
フィルム端部をスリッター8により製品となる幅にスリットして裁ち落とした後、巻き取られた光学フィルム(巻き)F中の貼り付きやすり傷防止のために、エンボスリング及びバックロールよりなるナール加工装置9により、ナール加工(エンボッシング加工)を両端に施してもよい。ナール加工の方法は凸凹のパターンを側面に有する金属リングを加熱や加圧により加工することができる。なお、フィルム両端部のクリップの把持部分は通常、フィルムが変形しており製品として使用できないので切除されて、原料として再利用される。
【0068】
このようにして、本発明の溶融流延製膜法により製造された積層セルロースエステル系樹脂よりなる光学フィルムは、溶液流延製膜法で成形された樹脂フィルムと異なり、種々の条件下でも寸法変化が少なく、濃度ムラの発生がなく、位相差用フィルムとして有用な光学フィルムを安定に生産することができる。
【0069】
なお、本発明による光学フィルムの製造方法は、セルロースエステル系樹脂を含む樹脂層が2層に限らず、3層以上の多層フィルムの製造方法にも適用できる。
【0070】
本発明による光学フィルムを、液晶表示装置(LCD)の偏光板用保護フィルムに用いる場合、光学フィルムを偏光フィルムの少なくとも片面に貼り合わせることにより楕円偏光板とすることができる。
【0071】
偏光フィルムは、従来から使用されている、例えば、ポリビニルアルコールフィルムの如きの延伸配向可能なフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して縦延伸したものである。偏光フィルム自身では、充分な強度、耐久性がないので、一般的にはその両面に保護フィルムとしての異方性のないセルローストリアセテートフィルムを接着して偏光板としている。本発明により得られる光学フィルムは、上記保護フィルム付きの偏光板に貼り合わせて作製してもよいし、また保護フィルムも兼ねて、直接偏光フィルムと貼り合わせて作製してもよい。
【0072】
偏光板は、その片面または両面に感圧性接着剤層(例えば、アクリル系感圧性接着剤層など)を介して剥離性シートを積層した貼着型のもの(剥離性シートを剥すことにより、液晶セルなどに容易に貼着することができる)としてもよい。
【0073】
このようにして得られた偏光板は、種々の表示装置に使用できる。特に電圧無印加時に液晶性分子が実質的に垂直配向しているVAモードの液晶セルを用いた液晶表示装置が好ましい。
【0074】
なお、本発明による光学フィルムは、上記の液晶表示装置(LCD)の偏光板用保護フィルムに用いられる他、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイにおける反射防止フィルムなどの各種機能フィルムまた有機ELディスプレイ等で使用される各種機能フィルム等にも利用することができるものである。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
実施例1と2
セルロースアセテートプロピオネート 100重量部
(アセチル基の置換度2.0、プロピオニル基の置換度0.7)
可塑剤 5重量部
1)トリメチロールプロパントリベンゾエート Td(1.0)=262℃
2)エチルフタリルエチルグリコレート Td(1.0)=172℃
3)トリフェニルフォスフェート Td(1.0)=205℃
ここで、温度Td(1.0)は、可塑剤を示差熱質量測定装置(セイコー電子工業社製TG/DTA200)で25〜300℃の範囲で10℃/minの昇温速度で測定し、加熱前の質量に対して1.0質量%減少した温度をTd(1.0)とした。
【0077】
安定剤 0.5重量部
IRGANOX1010(チバスペシャルティケミカルズ社製)
紫外線吸収剤 2重量部
チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ社製)
マット剤 0.1重量部
アエロジルR972V(日本アエロジル社製 比表面積110m/g)
マット剤の乾燥
上記のマット剤を、120℃の熱風オーブン型乾燥器により乾燥させ、表1に示すように、実施例1では上記マット剤の含水率が本発明の範囲内である0.8重量%、実施例2では同マット剤の含水率が本発明の範囲内である0.6重量%となるように、それぞれ乾燥時間を調整した。
【0078】
ここで、マット剤の含水率の測定方法は、まず、マット剤を電子天秤にて秤量し、このときの重量をW1(g)とする。つぎに、このマット剤を150℃に維持された熱風オーブン型乾燥器に入れ、5時間乾燥させた後、デシケーター内で30分間放冷して秤量し、このときの重量をW2(g)として、次式にて算出した。
【0079】
マット剤の含水率(%)={(W1−W2)/W1}×100
つぎに、図1に示す本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置を用いて、本発明のセルロースアセテートプロピオネートフィルムを製造した。
【0080】
第1層:セルロースアセテートプロピオネート100重量部に対して、上記可塑剤1)、2),3)を各5重量部、上記安定剤を0.5重量部よりなる第1層用材料11を予め混合し、混合物を2軸式押し出し機1を用いて250℃で溶融混合した。さらに溶融の途中でマット剤13、紫外線吸収剤の順に添加し混合した。
【0081】
第2層:マット剤を混合せずに、それ以外については第1層と同じ材料よりなる第2層用材料12を、2軸押し出し機2を用いて250℃で溶融混合した。
【0082】
つぎに、第1層と第2層の流量比が1:5となるように調整し、マルチマニフォルド型共押し出しダイスよりなる流延ダイ3に供給し、ダイ3内でこれらの溶融樹脂を合流させた後、80℃の冷却ドラム4上に溶融温度250℃でフィルム状に溶融押し出しし、冷却固化させて未延伸樹脂ウェブWを得た。
【0083】
そして、冷却ドラム4から剥離ロール5によって剥離した冷却固化されたドープ膜(ウェブ)Wは、ダンサーロール(フィルム張力調整ロール)6を経て連続してテンター7に導入し、幅方向に160℃で1.5倍延伸した後、幅方向に3%緩和しながら30℃まで冷却し、その後クリップから開放した。延伸後のフィルムFは、巻取り機10によって巻き取る前に、製品となる幅にクリップ把持端部をスリッター8によりスリットして裁ち落とす。
【0084】
フィルム端部をスリッター8により製品となる幅にスリットして裁ち落とした後、巻き取られたセルロースアセテートプロピオネートフィルム(巻き)F中の貼り付きやすり傷防止のために、エンボスリング及びバックロールよりなるナール加工装置9により、フィルムの両端にナール加工(エンボッシング加工)を施し、膜厚80μmのセルロースアセテートプロピオネートよりなる光学フィルムを得た。
【0085】
得られたセルロースアセテートプロピオネートフィルムについて、下記のようにして寸法変化の評価を行なった。得られた結果を表1に示した。
【0086】
寸法変化率の測定
得られたセルロースアセテートプロピオネートフィルムを、温度90℃、及び相対湿度5%RHの環境下に120時間保持し、その前後におけるフィルムの寸法変化率を測定した。
【0087】
比較例1と2
比較のために、上記実施例1と2の場合と同様に実施するが、比較例1ではマット剤の含水率が本発明の範囲外である2.0重量%、比較例2では同マット剤の含水率が本発明の範囲外である1.2重量%となるように、それぞれ乾燥時間を調整した。これらのマット剤を使用した以外は、上記実施例1の場合と同様にして、厚み80μmのセルロースアセテートプロピオネートフィルムを得た。
【0088】
得られたセルロースアセテートプロピオネートフィルムについて、実施例1と2の場合と同様にして、寸法変化の評価を行なった。得られた結果を表1にあわせて示した。
【表1】

【0089】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1と2では、セルロースアセテートプロピオネートを含む樹脂層が2層積層されており、そのうちの第1樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子(マット剤)が含まれているから、種々の条件下でも寸法変化が少なく、かつ濃度ムラの発生がなく、位相差用フィルムに好適なセルロースアセテートプロピオネートフィルムよりなる光学フィルムが得られた。
【0090】
このような本発明のセルロースアセテートプロピオネートフィルムよりなる位相差フィルムを用いた液晶表示装置では、使用環境下での条件に関係なく、常に安定した表示品質を得ることができる。
【0091】
これに対し、比較例1と2では、セルロースアセテートプロピオネートを含む樹脂層が2層積層されており、そのうちの第1樹脂層に、含水率がそれぞれ本発明の範囲外である無機微粒子(マット剤)が含まれているから、比較例1と2のセルロースアセテートプロピオネートフィルムは、寸法変化が大きく、かつ濃度ムラの発生があり、位相差用フィルムに適さないものであった。
【0092】
<偏光板の作製>
上記実施例1と2で作製したセルロースアセテートプロピオネートフィルムを用いて、下記の方法により、偏光板を作製した。
【0093】
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムをヨウ素1g、ホウ酸4gを含む水100gに浸漬し、50℃で6倍に延伸して、偏光膜を作った。この偏光膜の両面に、下記のアルカリケン化処理を行なったセルローストリアセテートプロピオネートフィルムを、完全ケン化型ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤としてそれぞれ貼り合わせ、偏光板を作製した。
【0094】
(アルカリケン化処理)
工程 処理液 処理温度 処理時間
ケン化工程:2モル/L・NaoH溶液 50℃ 90秒
水洗工程 : 水 30℃ 45秒
中和工程 :100重量%HCl溶液 30℃ 45秒
水洗工程 : 水 30℃ 45秒
上記の条件で、各セルローストリアセテートプロピオネートフィルムを、ケン化、水洗、中和、水洗の順に処理し、ついで80℃で乾燥した。
【0095】
《液晶表示パネルによる濃度ムラの評価》
市販の液晶パネル(NEC社製、カラー液晶ディスプレイ、MultiSync LCD1525J:型名 LA−1529HM)の両面の偏光板を注意深く剥離し、ここに偏光方向を合わせた実施例1と2で得られセルロースアセテートプロピオネートフィルムを張り付けて、液晶表示パネルを作製し、濃度ムラの評価を下記のように行なった。
【0096】
温度25℃、相対湿度60%RHの環境条件において、バックライトを5時間連続点灯し、全面黒表示状態を暗室にて目視で観察して、濃度ムラを評価した。得られた結果は、上記の表1にあわせて示した。なお、濃度ムラとは、液晶パネルの画面を目視した場合の明るさのムラをいう。
【0097】
また、比較例1と2で得られたセルロースアセテートプロピオネートフィルムについても、上記の場合と同様にして、偏光板を作製して、液晶表示パネルによる濃度ムラの評価を行ない、得られた結果を上記表1にあわせて示した。
【0098】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1と2のセルロースアセテートプロピオネートフィルムを用いた偏光板により作製した液晶表示パネルでは、濃度ムラは全く観察されなかった。
【0099】
これに対し、比較例1のセルロースアセテートプロピオネートフィルムを用いた偏光板により作製した液晶表示パネルでは、液晶周辺に濃度の薄い箇所が観察され、比較例2のセルロースアセテートプロピオネートフィルムを用いた偏光板により作製した液晶表示パネルでは、液晶周辺に黒の濃度の薄い箇所がわずかに観察された。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の光学フィルムの製造方法を実施する装置の1つの実施形態を示す概略フローシートである。
【符号の説明】
【0101】
1:第1層用2軸押し出し機
2:第2層用2軸押し出し機
3:溶融流延共押し出しダイ
4:冷却ドラム
5:剥離ロール5
6:ダンサーロール
7:テンター(延伸機)
8:スリッター
9:ナール加工装置
10:巻取り機
11:樹脂フィルムの第1層用材料
12:樹脂フィルムの第2層用材料
13:マット剤
W:未延伸樹脂ウェブ
F:光学フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステル系樹脂を含む樹脂層が2層以上積層されており、そのうちの少なくとも1つの樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子が含まれていることを特徴とする、光学フィルム。
【請求項2】
セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
溶融流延製膜法によりセルロースエステル系樹脂を含む2層以上の樹脂層を流延ダイから共押し出し、冷却固化して未延伸積層ウェブとし、該未延伸積層ウェブの両端を把持して幅方向に延伸し、得られた延伸積層フィルムを巻き取る光学フィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂を含む2層以上の樹脂層のうちの少なくとも1つの樹脂層に、含水率1重量%以下の無機微粒子が含まれていることを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、及びセルロースフタレートよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−65065(P2007−65065A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247956(P2005−247956)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】