説明

光学式膜厚測定装置およびこれを備える真空成膜装置

【課題】 投光部および受光部が近接し、かつ、これらの前側にカバーガラスが設けられている構成の光学式膜厚測定装置において、カバーガラスに起因する迷光の影響を有効に抑制し、測定精度を向上させる。
【解決手段】 投光部121aの投光面122aおよび受光部121bの受光面122b同士の間隔をdと定義し、投光面122aおよび受光面122bとカバーガラス14との間隔をLと定義し、投光部121aの開口数をNA1 、受光部121bの開口数をNA2 と定義すれば、カバーガラス14は、0<L<d/(tanθ1 +tanθ2 )を満たす位置に設けられる。但し、θ1 =sin-1 (NA1 )であり、θ2 =sin-1 (NA2 )であり、θ1 およびθ2 はいずれも90°未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜に照射した光の干渉による反射率の変化から膜厚を測定する光学式膜厚測定装置と、これを備える真空成膜装置とに関し、特に、光を投光する部位および反射光を受光する部位が互いに近接し、かつ、これら部位の前面に保護部材が設けられている光学式膜厚測定装置と、これを備える真空成膜装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に各種の薄膜を形成する装置では、当該薄膜の膜厚を、各種の膜厚測定技術により測定する。代表的な膜厚測定技術としては、測定対象物(試料)に対して照射された光の干渉による反射率の変化から膜厚を決定する光学的手法が挙げられる。
【0003】
近年では、薄膜形成技術の進歩に伴い、より膜厚の薄い薄膜を形成することが可能となっているため、膜厚測定技術においても、より膜厚の薄い薄膜を精度良く測定することが求められている。そこで、光学的手法による膜厚測定技術においては、従来から、反射光に関する様々な基準値を予め設定し、この基準値と実際に測定された値(実測値)とを利用して補正処理を行うことにより、測定精度を向上させる技術が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、マイクロメーター以下の薄膜の測定において、予め、試料から理想分光反射率を計算し、この理想分光反射率の極大点列を結ぶ曲線と、極小点列を結ぶ曲線と、極大および極小の中間レベルの曲線とを計算し、実際の試料の分光反射率から、その反射率の極大点列を結ぶ曲線と、極小点列を結ぶ曲線と、極大および極小の中間レベルの曲線とを計算し、これら各曲線の関数から真の分光反射率を計算する技術が開示されている。
【0005】
また、基板上の薄膜の膜厚を測定する技術ではないが、特許文献2には、シリコンウエハの厚さを測定する技術として、基準ウエハおよび測定ウエハを透過した光の透過後スペクトルを測定し、透過前のスペクトルと、基準ウエハの透過後スペクトルと、測定ウエハの透過後スペクトルと基準ウエハの厚さとから仮の差吸光度スペクトルを複数求め、この仮の差吸光度スペクトルにおいて、フォノン吸収に基づくピークが消えるときの厚みを、測定ウエハの厚みとして測定する技術が開示されている。
【0006】
ところで、光学的手法による膜厚測定技術においては、試料に光を投光する部位(投光部)と反射光を受光する部位(受光部)とを近接させる構成の光学式膜厚測定装置が知られている。このような構成であれば、投光部および受光部の設置面積が小さくなるため、薄膜を形成する設備に対して測定装置を設置しやすくなり、例えばインラインでの膜厚の測定に好ましく用いることができる。
【0007】
前記構成の光学式膜厚測定装置では、投光部および受光部の前側にカバーガラス等の保護部材が設けられることが多い。これは、薄膜を形成する処理空間に投光部および受光部が露出していると、投光部および受光部が汚れたり処理雰囲気により腐食したりする可能性があるためである。
【0008】
例えば、特許文献3には、投光側光ファイバーの出射端と受光側光ファイバーの受光端とが隣接して配置され、両光ファイバーの先端部の前方には、窓材が、投光される白色光の光軸に対して傾斜させて配置されている構成の測定装置が開示されている。窓材の傾斜角度αは、使用する光ファイバー固有の開口数により定まる照射光の広がり角Θか、分光器の許容入射角のうちの、小さい方を基準として、それより大きな角度となるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−127605号公報
【特許文献2】特開平8−105716号公報
【特許文献3】特開2008−268093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、前記構成の光学式膜厚測定装置においては、投光部および受光部の前側に保護部材が設けられると、保護部材に起因する迷光によって測定精度が低下するという問題が生じる。すなわち、投光部および受光部の前側に保護部材が設けられると、投光部から投光される光が保護部材の表面で反射し、受光部に迷光として入射する。このような迷光が受光部で受光されると、検出される反射率に誤差が生じ、測定精度が低下する。
【0011】
特許文献3においては、前記のとおり、投光される白色光の光軸に対して窓材を傾斜させ、窓材からの反射光を受光側光ファイバーに入射させない構成が開示されている。しかしながら、本来は水平に配置すればよい窓材を敢えて傾斜させているため、窓材を傾斜固定するための特別な部材や構成が必要となる。それゆえ、光学式膜厚測定装置の構成そのものが複雑化することに加え、窓材(保護部材)の設置の自由度も低下する。
【0012】
また、迷光の影響を回避するためには、投光部および受光部のそれぞれに対して別個に保護部材を設けることが考えられる。つまり、投光部には投光部専用の保護部材が設けられ、受光部には受光部専用の保護部材が設けられ、投光部専用の保護部材で生じた迷光が受光部に入射しないように構成すればよい。ところが、この構成では、二つの保護部材が必要になり、かつ、迷光の入射を防止する構成も別途必要になるので、部材点数が増加し構成も複雑化する。しかも、投光部および受光部を近接させ過ぎると、二つの保護部材の設置スペースが十分に確保できなくなるので、投光部および受光部の設置面積が小さくできるという利点が得難くなる。
【0013】
さらに、保護部材により生ずる迷光の影響は一様ではないので、特許文献1または2に開示されるような、反射光に関する基準値を設定する補正処理のみでは、迷光の影響を十分に抑制することはできない。
【0014】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、光学式膜厚測定装置において、投光部および受光部が近接し、かつ、これらの前側に保護部材が設けられている構成を有しているときに、保護部材に起因する迷光の影響を有効に抑制し、測定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る光学式膜厚測定装置は、前記の課題を解決するために、先端面から光を投光する投光部と、前記投光部に並設され、先端面で光を受光する受光部と、前記投光部および前記受光部のそれぞれの前記先端面の前方に、当該各先端面に対して平行となるよう配置され、光を透過する保護部材と、を備え、前記投光部および前記受光部の前記先端面同士の間隔をd、前記投光部の前記先端面と前記保護部材との間隔をL、前記投光部の開口数をNA1 、前記受光部の開口数をNA2 と定義すれば、前記保護部材は、次の式
0<L<d/(tanθ1 +tanθ2
(但し、θ1 =sin-1 (NA1 )であり、θ2 =sin-1 (NA2 )であり、θ1 およびθ2 はいずれも90°未満である。)
を満たす位置に設けられ、前記受光部の前記先端面と前記保護部材との間隔は、前記間隔Lと等しいか、前記間隔L未満となるよう設定されている。
【0016】
前記構成によれば、投光部および受光部に対する保護部材の位置を、前記式を満たすような位置関係で設定することで、保護部材に起因する迷光の影響を有効に抑制することができる。それゆえ、光の干渉による反射率の変化を用いた膜厚測定の精度が向上する。
【0017】
前記光学式膜厚測定装置においては、前記構成に加えて、薄膜が形成された試料を、前記投光部からの光が投光される位置に固定する試料固定部材と、前記受光部で受光した光を電気信号に変換することにより、前記受光した光の光強度情報を生成する光電変換器と、前記光電変換器で生成された前記光強度情報から前記試料に形成された前記薄膜の膜厚を算出する膜厚算出器と、記憶器と、を備え、前記膜厚算出器は、前記試料固定部材により前記試料が固定されていない状態で、前記投光部から光が投光されているときには、前記光電変換器で生成された前記光強度情報を、背景光強度情報として前記記憶器に記憶させるとともに、前記試料固定部材により前記試料が固定され、当該試料に対して前記投光部から光が投光されているときには、前記光電変換器で生成された前記光強度情報から、前記記憶器に記憶されている前記背景光強度情報を差し引いた補正光強度情報を生成し、当該補正光強度情報から前記薄膜の膜厚を算出するよう構成されていることが好ましい。
【0018】
前記構成によれば、前記保護部材の位置を設定する構成に加えて、背景光の影響を低減するデータ補正を行う構成を組み合わせることになる。これにより、保護部材に起因する迷光の影響をより一層抑制することができる。
【0019】
前記光学式膜厚測定装置においては、前記構成に加えて、前記投光部および前記受光部が光ファイバーであり、前記保護部材がカバーガラスであることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る真空成膜装置は、前記構成の光学式膜厚測定装置を備えている。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、光学式膜厚測定装置の構成が、投光部および受光部が近接し、かつ、これらの前側に保護部材が設けられている構成であるときに、保護部材に起因する迷光の影響を有効に抑制し、測定精度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1に係る光学式膜厚測定装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【図2】図1に示す光学式膜厚測定装置の投光部および受光部、並びにカバー部材の位置関係を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る光学式膜厚測定装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係る真空成膜装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る光学式膜厚測定装置を用いて窒化ケイ素薄膜の光反射スペクトルを測定した実施例1の結果を示す光スペクトルチャートである。
【図6】図5に示す実施例1に対する比較例1の結果を示す光スペクトルチャートである。
【図7】図5に示す実施例1および図6に示す比較例1に対する参考例1の結果を示す光スペクトルチャートである。
【図8】本発明の実施の形態1に係る光学式膜厚測定装置を用いて二酸化チタン薄膜の光反射スペクトルを測定した実施例2の結果を示す光スペクトルチャートである。
【図9】図8に示す実施例2に対する比較例2の結果を示す光スペクトルチャートである。
【図10】図8に示す実施例2および図9に示す比較例2に対する参考例2の結果を示す光スペクトルチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0024】
(実施の形態1)
[光学式膜厚測定装置の構成]
まず、本実施の形態に係る光学式膜厚測定装置の構成について、図1および図2に基づいて説明する。図1は本発明の実施の形態1に係る測定装置の概略構成の一例を示す模式図であり、図2は、図1に示す測定装置の投光部および受光部、並びにカバー部材の位置関係を示す模式図である。
【0025】
本実施の形態に係る光学式膜厚測定装置10は、図1に示すように、光源11、Y型光ファイバー12、測定プローブ13、カバーガラス14、分光器15、光電変換部16、試料固定部材17、および解析部21を備えている。試料固定部材17は、測定対象物である試料40を固定しており、試料40は、基板41の表面に薄膜42が形成されている。
【0026】
光源11は、膜厚を測定するために試料40に対して投光される光(測定光)を発する。光源11の種類は特に限定されないが、測定光としては、一般的に白色光が用いられるので、本実施の形態では、タングステンハロゲンランプが光源11として用いられる。あるいは、白熱電球またはキセノンランプ等も好適に用いられる。
【0027】
Y型光ファイバー12は、投光側光ファイバー12aと受光側光ファイバー12bとが、それぞれ一方の端部側で1本にまとめられ、途中で分岐して「Y」字形状となるように構成されている。投光側光ファイバー12aは、光源11が発する測定光を測定プローブ13に伝達する投光側の導光部材である。測定プローブ13からは測定光が試料40に投光され、当該測定光は、試料40で反射され反射光として測定プローブ13で受光されるが、受光側光ファイバー12bは、受光された反射光を分光器15に伝達する受光側の導光部材である。
【0028】
測定プローブ13は、投光側光ファイバー12aから伝達された測定光を、試料40に向けて投光するとともに、試料40からの反射光を受光する。より具体的には、例えば、図2に示すように、投光側光ファイバー12aの先端が投光部121aとなり、この投光部121aの先端面である投光面122aから測定光が試料40に向かって投光される。また、受光側光ファイバー12bの先端が受光部121bとなり、この受光部121bの先端面である受光面122bで、試料40からの反射光が受光される。投光部121aおよび受光部121bは、図2に示すように、投光面122aおよび受光面122bが所定の間隔dを形成するように、隣接して配置される。また、投光面122aと受光面122とは、実質的に1つの平面上に位置するように配置される。
【0029】
さらに、図2においては図示されないが、本実施の形態では、投光部121aおよび受光部121bは各種の保護部材および間隔保持部材によって、前記間隔dが維持された上で、一つの測定プローブ13としてまとめられている。この構成において、図2に部分的に示すように、投光部121aおよび受光部121bは、それぞれを構成する光ファイバーの端面122a,122bが同一平面となるようにまとめられているが、同一平面になくてもよい。すなわち、測定プローブ13においては、投光面122aおよび受光面122bが間隔dを確保するようにまとめられていればよく、測定プローブ13の全体的な構成は特に限定されない。
【0030】
カバーガラス14は、測定プローブ13の先端、すなわち、投光側光ファイバー12aの投光面122aおよび受光側光ファイバー12bの受光面122bを保護するために設けられる板状の保護部材である。特に、半導体装置の製造時において、半導体基板上に各種薄膜が形成される過程で、当該薄膜の膜厚をインラインで測定する場合には、薄膜を形成する処理に伴って投光面122aおよび受光面122bが汚れたり傷ついたりするおそれがある。このような汚れ等は測定精度を低下させるため、カバーガラス14は、投光面122aおよび受光面122bの汚れ等を防止する汚れ防止カバーとして設けられる。カバーガラス14は、少なくとも、測定光である白色光を透過する材質で形成されていればよく、インラインでの膜厚測定に用いられる場合には、各種薄膜形成処理に耐え得る耐久性を有していればよい。本実施の形態では、公知の光学用ガラスが用いられている。また、カバーガラス14のサイズも特に限定されず、本実施の形態では、投光面122aおよび受光面122bを確実に覆うことができる程度の面積があればよい。なお、図2においては、説明の便宜上、カバーガラス14を断面で図示している。
【0031】
分光器15は、本実施の形態では、受光側光ファイバー12bにおいて、投光側光ファイバー12aとの分岐点から光電変換部16までの間に介在され、受光した反射光が、光電変換部16に入力される前に、予め設定された所定の波長別に分光する。分光器15としては、本実施の形態では、例えば回折格子が用いられるが、これに限定されず、試料40の種類や反射光として想定される光の波長域等の条件に応じて、適切な分光器を選択して用いることができる。
【0032】
光電変換部16は、分光器15で分光された反射光を電気信号に変換する。変換された電気信号は、反射光の光強度情報として解析部21に入力される 光電変換部16の具体的構成は特に限定されないが、本実施の形態では、電荷結合素子(CCD)アレイが用いられる。なお、本実施の形態では、図1に示すように、分光器15と光電変換部16とは、受光側光ファイバー12bを介して互いに分離しているが、これに限定されず、一体化された光電変換ユニットとして構成されてもよい。
【0033】
解析部21は、光電変換部16からの電気信号を解析して、薄膜42の膜厚を算出する。本実施の形態では、測定プローブ13で受光された試料40からの反射光は、前記のとおり分光器15で分光されて光電変換部16に入力されることで、各波長別の光の干渉情報として解析部21に出力される。解析部21では、この干渉情報に基づいて、試料40の薄膜42の膜厚を解析する。解析部21の具体的構成は特に限定されず、本実施の形態では、パーソナルコンピュータが用いられる。解析部21による膜厚の算出手法は特に限定されず、公知の手法を用いることができる。例えば、光電変換部16で生成された反射光の光強度情報における強度分布波形から、理論上の分布波形と対比することで膜厚を算出すればよい。なお、解析部21としては、前記パーソナルコンピュータのような独立した解析装置ではなく、マイクロコンピュータが用いられ、光電変換ユニットと一体化される構成であってもよい。
【0034】
試料固定部材17は、測定対象物である試料40を、測定プローブ13からの測定光が投光される位置に固定するものであれば、その構成は特に限定されない。図1に示す例では、試料40が、透光性の基板41の表面に薄膜42が形成されている構成であり、測定光は基板41の裏面から投光されるので、試料固定部材17は、試料40を周囲から固定するような枠体となっている。なお、図1では、説明の便宜上、試料40および試料固定部材17は断面で図示している。
【0035】
前記構成の光学式膜厚測定装置における膜厚の測定方法について説明する。まず、試料40を試料固定部材17に固定する。測定プローブ13およびカバーガラス14は、図1には図示されないが、いずれも後述する所定の位置関係で固定されて配置されているので、光源11を発光させ、投光側光ファイバー12aを介して測定プローブ13の投光部から試料40に対して測定光を投光する。このとき、測定光は、大部分がカバーガラス14を透過するが、その一部は、後述するように、カバーガラス14の測定プローブ13側の表面で反射して迷光となる。なお、迷光に関しては、投光部、受光部およびカバーガラスの位置関係とともに説明する。
【0036】
カバーガラス14を透過した測定光は、試料40で反射されて反射光となり、カバーガラス14を透過して測定プローブ13の受光部で受光される。受光された反射光は、受光側光ファイバー12bを介して分光器15に達する。この反射光はさまざまな波長の光を含む光反射スペクトルであるため、分光器15で所定の波長別に分光され、光電変換部16に入射される。光電変換部16では、波長別に光の強度を電気信号に変換し、光強度情報として生成する。生成した光強度情報は解析部21に入力され、解析部21では、前記のとおり、入力された光強度情報から薄膜41の膜厚を算出する。
【0037】
[投光部、受光部、カバーガラスの位置関係]
次に、本実施の形態に係る光学式膜厚測定装置において、測定精度を向上するために、投光部121aおよび受光部121b、並びにカバーガラス14の位置関係を最適化する構成について、図2に基づいて説明する。
【0038】
図2に示すように、本実施の形態では、投光部121aおよび受光部121bは互いに近接して配置されている。このような構成で、投光面122aおよび受光面122bを1枚のカバーガラス14で保護しようとする場合、投光面122aから投光される測定光の一部が、カバーガラス14の表面で反射され、さらに散乱することで迷光となる。この迷光が受光面122bに入射すると、試料40からの反射光以外の雑光を受光することになるので、測定精度が低下する。そこで、本実施の形態では、迷光の影響を低減するために、測定プローブ13の先端面からカバーガラス14の表面までの距離を最適化する。
【0039】
具体的には、測定プローブ13の先端面は投光面122aおよび受光面122bとなるので、図2に示すように、カバーガラス14はその表面が投光面122aおよび受光面122b(換言すれば、投光面122aおよび受光面122bを含む平面)に実質的に平行になるように配置される。そして、これら投光面122aとカバーガラス14の表面との間隔をLと定めるとともに、投光面122aおよび受光面122bの間隔をdと定める。その上で、前記間隔Lを、投光部121aを構成する投光側光ファイバー12aの開口数(NA値)と、受光部121bを構成する受光側光ファイバー12bのNA値と、前記間隔dとに基づいて設定し、かつ、受光面122bとカバーガラス14との間隔も、前記間隔Lに設定する。
【0040】
まず、迷光の光路について見れば、投光部121aの投光面122aから測定光が出射し、この測定光は、理想的にはカバーガラス14を全て透過するが、現実には、その一部がカバーガラス14の表面で反射して、受光部121bの受光面122bに迷光として入射する。このとき、迷光の発生源である、カバーガラス14の表面における測定光の反射部位は、投光面122aと受光面122bとの間に対応する位置となる。
【0041】
ここで、投光側光ファイバー12aの開口数をNA1 とすれば、θ1 はNA1 の正弦逆関数より求められる。すなわちθ1 =sin-1 NA1 である。この角度θ1 は、図2に示すように、投光面122aの前側(カバーガラス14または試料40の側)に向かって、当該投光面122aから出射する測定光が広がる角度に対応する。また、受光側光ファイバー12bの開口数をNA2 とし、NA2 の正弦逆関数より求められる角度をθ2 とすれば(θ2 =sin-1 NA2 )、受光面122bの前側から当該受光面122bに入射する迷光を想定すると、角度θ2 は、当該想定光が前側から受光面122bに入射する限界の角度に対応する(図2参照)。
【0042】
それゆえ、投光面122aおよび受光面122bが同一平面上に含まれる構成、すなわち、投光面122aおよびカバーガラス14の間隔、並びに、受光面122bおよびカバーガラスの間隔が等しいとすれば、迷光が入射する状態では、投光面122aと受光面122bとの間隔dは、角度θ1 の正接tanθ1 と角度θ2 の正接tanθ2 との和に、投光面122aおよび受光面122bとカバーガラス14との間隔Lを乗算した値に等しくなる。したがって、迷光が入射しないのであれば、間隔dは、次の式(1)に示すような不等式で表すことができる。
【0043】
d<L(tanθ1 +tanθ2 ) ・・・ (1)
ここで、本実施の形態では、投光部121aおよび受光部121bは、測定プローブ13としてまとめられているので、事実上、間隔dは固定されていると見なすことができる。したがって、迷光の入射を回避するためには、間隔Lが次の式(2)を満たすように、カバーガラス14を測定プローブ13の先端面の前側に設置すればよい。これにより、カバーガラス14からの迷光の影響を大幅に低減することができるため、測定精度を向上することができる。
【0044】
0<L<d/(tanθ1 +tanθ2 ) ・・・ (2)
なお、式(2)において、間隔Lの上限は前記式(1)から明らかであるが、間隔Lの下限は、投光面122aおよび受光面122bにカバーガラス14を接触させず、必ず間隔を設けなければならないことに基づく。
【0045】
[変形例]
前述した図2に示す構成においては、投光面122aおよび受光面122bとカバーガラス14との間隔は、いずれも等しい構成となっているが、本発明は、これに限定されず、受光面122bとカバーガラス14との間隔は、投光面122aとカバーガラス14との間隔よりも短くてもよい。すなわち、投光面122aとカバーガラス14との間隔をC1 と定義し、受光面122bとカバーガラス14との間隔をC2 と定義すれば、本発明においては、次の式が成立するような位置関係とすることで、迷光の影響を有効に回避することができる。
【0046】
L=C1 >C2 ・・・ (3)
また、本実施の形態では、保護部材としてカバーガラス14が用いられているが、本発明はこれに限定されず、樹脂製のカバーが用いられてもよいし、その他の透光性材料から形成される保護部材が用いられてもよい。すなわち、保護部材は、測定光を透過する材料で形成されていればよい。
【0047】
また、本実施の形態では、投光側光ファイバー12aおよび受光側光ファイバー12bは、本実施の形態では、いずれも1本の光ファイバーとして構成されているが、例えば複数本の光ファイバーを束ねて保護部材を被覆した光ケーブルとして構成されてもよい。あるいは、例えば受光側光ファイバー12bのみが光ケーブルに置き換えられるように構成されてもよい。また、導光部材の具体的構成は、本実施の形態で用いられるY型光ファイバー12に限定されない。例えば、投光側光ファイバー12aおよび受光側光ファイバー12bがそれぞれ1本ずつ独立した構成であってもよい。
【0048】
さらに、投光側光ファイバー12aの投光部121aと、受光側光ファイバー12bの受光部121bとは、単一の測定プローブ13として一体化されているが、これら投光部121aと受光部121bとがまとめられておらず、それぞれ分離していてもよい。この場合、Y型光ファイバー12に代えて、それぞれ独立した投光側光ファイバー12aおよび受光側光ファイバー12bが用いられることになる。さらに、投光部121aと受光部121bとがまとめられていない場合には、間隔Lではなく間隔dを調整することもできる。
【0049】
(実施の形態2)
前記実施の形態1では、測定プローブ13の先端部とカバーガラス14との間に形成される間隔Lを調整することで、投光部121a、受光部121b、およびカバーガラス14の位置関係を最適化していたが、本実施の形態では、この最適化に加えて、さらに、試料40が存在しない状態での光のスペクトルを、膜厚測定時の光のスペクトルから差し引く構成を組み合わせることにより、迷光の影響を低減する。図3は、本実施の形態に係る光学式膜厚測定装置10bの概略構成の一例を示す模式図である、
図3に示すように、本実施の形態に係る光学式膜厚測定装置10bは、基本的には、前記実施の形態1に係る光学式膜厚測定装置10aと同じ構成であるが、解析部21は、演算部22、I/O回路23、および記憶部24を備えている。
【0050】
演算部22は、例えば、マイクロコンピュータのCPUで構成され、解析部21の動作に関する各種の演算を行う。この演算には、光電変換部16で生成した電気信号から試料40に形成された薄膜42の膜厚を算出する演算が含まれる。したがって、光学式膜厚測定装置10bにおいては、演算部22は膜厚算出器として機能する。I/O回路23は、演算部22に接続され、光電変換部16で生成された電気信号(光強度情報)を演算部22に入力する。なお、光学式膜厚測定装置10bの具体的な構成に応じて、演算部22から光電変換部16に対して制御信号が出力されるよう構成されてもよい。I/O回路34は、例えば、マイクロコンピュータのI/O入出力回路で構成される。
【0051】
記憶部24は、解析部21の動作に関する各種情報を記憶するものである。本実施の形態では、記憶部24には、光電変換部16で生成された光強度情報が少なくとも記憶される。記憶部24の具体的構成としては、例えば、マイクロコンピュータの内部メモリとして構成されてもよいし、独立したメモリとして構成されてもよい。また、記憶部24は、単一である必要はなく、複数の記憶装置(例えば、内部メモリと外付け型のハードディスクドライブ)として構成されてもよい。
【0052】
本実施の形態に係る光学式膜厚測定装置10bでは、測定プローブ13およびカバーガラス14の位置関係は、前記実施の形態1で説明したとおり、式(2)を満たすように、投光面122aおよび受光面122bとカバーガラス14との間隔Lが設定されるが、さらに、試料が存在しない状態での光強度情報を背景光強度情報として予め取得して記憶部24に記憶させ、その後、試料が存在する状態での光強度情報を取得し、この光強度情報から背景光強度情報を差し引くことで、迷光の影響を低減させている。つまり、本実施の形態では、前記間隔Lを好適な範囲に設定するとともに、検出された反射光から背景光を差し引くデータ補正を行っている。
【0053】
具体的には、本実施の形態では、背景光検出段階とその後の実測段階との2段階で測定が行われる。まず、背景光検出段階について説明する。
【0054】
背景光検出段階では、試料固定部材17に試料40が固定される前に、測定プローブ13の投光部121aから、試料40が固定される位置に測定光が投光される。この状態では、測定プローブ13の受光部121bに試料40からの反射光を受光することはないが、カバーガラスやその周囲の部材により測定光が散乱することで散乱光が生じ、これが迷光として受光部121bに入射する。この散乱光は、無視できる場合も多いが、膜厚が薄い場合、あるいはより高い精度で膜厚を測定したい場合には、この散乱光が迷光として受光されることは好ましくない。そこで、予め散乱光の光強度を検出しておく。
【0055】
受光部121bで散乱光を受光すれば、前述したとおり、分光器15で所定の波長別に分光され、光電変換部16に入射される。光電変換部16では、波長別に光の強度を電気信号に変換し、光強度情報として生成する。この光強度情報は、I/O回路23を介して演算部22に入力される。ここで、生成される光強度情報は、試料40が存在しない状態での散乱光についての光強度情報であるため、演算部22は、この光強度情報から膜厚を算出する演算を行わず、背景光強度情報として記憶部24に記憶させる。これで背景光検出段階が終了する。
【0056】
次に、実測段階について説明する。背景光検出段階が終了し、背景光強度情報が記憶部24に記憶された後に、試料固定部材17に試料40が固定されれば、改めて、測定プローブ13の投光部121aから試料40に対して測定光が投光される。測定光は試料40で反射されて光反射スペクトルとして測定プローブ13の受光部121bで受光される。このとき、前記散乱光も、迷光として受光部121bで受光されているので、受光部121bで実際に受光される光は、反射光および散乱光のスペクトルとなっている。なお、説明の便宜上、実際に受光された前記光スペクトルを、実測光と称する。
【0057】
前記実測光は、前記と同様に分光器15で分光され、光電変換部16で所定の波長別に光強度情報として生成され、演算部22に入力される。入力された実測光の光強度情報には、膜厚測定に用いる反射光の光強度情報以外に、迷光である散乱光の光強度情報も含まれる。そこで、演算部22は、まず、実測光の光強度情報から、記憶部24に記憶されている背景光強度情報を差し引いて補正光強度情報を生成し、その後、補正光強度情報から薄膜42の膜厚を算出する。このようなデータ補正を行うことにより、カバーガラス14からの反射光だけでなく散乱光の影響が抑制できるので、迷光が膜厚測定に与える影響がより一層低減され、測定精度が向上する。
【0058】
なお、本実施の形態に係る光学式膜厚測定装置10bにおいては、背景光検出段階が使用者による手動で行われるよう構成されてもよいし、試料固定部材17に試料40が固定されているか否かを検知する試料センサ、制御部、表示部等を備えることで、背景光検出段階が自動で行われるよう構成されてもよい。
【0059】
(実施の形態3)
前記実施の形態1および2においては、光学式膜厚測定装置10aまたは10bの要部の構成のみについて説明したが、本実施の形態では、真空成膜装置のインラインでの膜厚測定を行うために、光学式膜厚測定装置が真空成膜装置に含まれている構成について説明する。図4は、本実施の形態に係る真空成膜装置の構成の一例を示す模式図である。
【0060】
図4に示すように、本実施の形態に係る真空成膜装置20は、膜厚測定部10cおよび真空チャンバ18を備え、さらに、膜厚測定部10cが備える測定プローブ13は、その先端が真空チャンバ18内の上方に挿入されている。真空チャンバ18内の上方には、測定プローブ13の先端にカバーガラス14が配置され、測定プローブ13の先端から測定光が投光可能な位置に試料固定部材17が設けられ、試料40が固定されている。また、真空チャンバ18内の下方には、試料40の表面に形成される薄膜の原材料(成膜材料)を蒸発させる蒸発源43が配置されている。
【0061】
真空成膜装置20の具体的構成は特に限定されず、真空チャンバ18内で試料40の表面に薄膜を形成する構成であればよい。具体的には、例えば、物理的気相成長法(PVD)を用いる構成であってもよいし、化学的気相成長法(CVD)を用いる構成であってもよい。本実施の形態では、図4には詳細に図示されないが、真空成膜装置20は、PVDの一種である、イオンプレーティング法を用いた構成となっている。具体的には、真空チャンバ18の下方に配置される蒸発源43は、例えば、抵抗加熱により成膜材料を真空チャンバ18内に蒸発させる公知の構成となっている。蒸発源43から蒸発した成膜材料は、真空チャンバ18内に形成された高周波電界によってプラズマ化され、このプラズマ化した成膜材料による膜が試料40に形成される。
【0062】
膜厚測定部10cの具体的構成は、前述した光学式膜厚測定装置10a(実施の形態1)または光学式膜厚測定装置10b(実施の形態2)と同様の構成となっている。また、本実施の形態では、測定プローブ13は、真空チャンバ18内に先端のみが挿入されているが、これに限定されず、測定プローブ13全体が真空チャンバ内に配置されてもよい。
【0063】
一般に、真空成膜装置においては、成膜の過程で、製品に形成されている薄膜の膜厚を測定することが広く行われている。例えば、オフライン測定、すなわち、成膜の各工程で製品を抜き取り、真空成膜装置が設置されている場所から離れたところ(例えば測定室)まで運び、そこに設置される膜厚測定装置で膜厚を測定するということが行われている。
【0064】
ここで、測定した膜厚が許容範囲から外れていた場合には、成膜の諸条件を調整し、膜厚を許容範囲内に収める必要がある。前記オフライン測定では、測定した膜厚情報を真空成膜装置20の運転にフィードバックするまでに時間を要することになる。また、前記オフライン測定では、抜き取りを行っていない製品に形成されている薄膜が、許容範囲に入っているか否かの確認も行うことができないので、歩留まりを低下させるおそれもある。それゆえ、真空成膜装置においては、インライン測定、すなわち、製品の製造ラインのうち、成膜中または成膜の直後に光学式膜厚測定装置を組み込むことで、製品の抜き取りを行うことなく、理想的には全製品の膜厚を測定することが広く試みられている。
【0065】
前記真空成膜装置では、成膜の過程で、真空チャンバ内の空間に成膜材料の原料物質を蒸発させている。そのため、インライン測定を行う光学式膜厚測定装置においては、受光面に成膜材料が直接付着することを防止するため、カバーガラス等の保護部材を受光部の前面に設けることが必須となる。ただし、保護部材を単に設けるだけでは、投光部からの測定光が保護部材の表面で反射し、迷光となって受光部に入射するため、測定精度が低下する。
【0066】
これに対して、本実施の形態では、膜厚測定部10cが真空成膜装置20に含まれる構成となっているので、成膜の過程で試料40に形成された薄膜の膜厚をインラインで測定することができる。しかも、前記実施の形態1で説明したように、カバーガラス14と測定プローブ13の投光部および受光部の位置関係が、前記式(2)を満たすように設定されている(図2参照)ため、カバーガラス14の表面で生じる反射光が迷光となって測定結果に影響を及ぼすことを抑制できる。さらに、前記実施の形態2で説明したように、背景光強度情報を予め取得して、実測光の光強度情報から差し引いて補正光強度情報を生成し、これから膜厚を算出することで、前記反射光だけでなく、散乱光が迷光となって測定結果に影響を及ぼすことを抑制できる。
【0067】
(実施例)
本発明について、実施例、比較例および参考例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例、比較例および参考例における薄膜の「基準値」および「対照値」の測定は次のように行った。
【0068】
[基準値の測定]
実施例、比較例または参考例で測定対象となる試料について、事前に、分光光度計(日立製作所製、製品番号U−4100)を用いて、当該試料に形成された薄膜の光反射スペクトルを測定した。この測定では、本発明に係る光学式膜厚測定装置を用いずに、市販の分光光度計を用いて、前記薄膜の基準となる光反射スペクトルを測定することを目的としているので、この測定結果を「基準値」と称する。
【0069】
[対照値の測定]
まず、実施例、比較例または参考例で用いられる光学式膜厚測定装置において、カバーガラスを設けないもの(便宜上、カバー無し測定装置と称する。)を準備した。次に、カバー無し測定装置を用いて、実施例、比較例または参考例で測定対象となる試料について、事前に、当該試料に形成された薄膜の光反射スペクトルを測定した。この測定では、カバーガラスを設置しない状態、すなわち迷光が発生しない状態で、前記薄膜の光反射スペクトルを測定し、カバーガラスを設置した状態での測定結果と比較対照し、カバーガラス以外に測定装置の構成上、測定結果に与える影響を確認することを目的としているので、この測定結果を「対照値」と称する。
【0070】
[実施例1]
本実施例を含む以下の全ての実施例、比較例および参考例では、図1に示す構成の光学式膜厚測定装置10aを用いた。まず、試料として、膜厚107nmの窒化ケイ素(Si3N4 )薄膜が形成されたテストガラスを準備し、前記のとおり、窒化ケイ素薄膜の基準値を測定した。また、光学式膜厚測定装置10aにおいてカバーガラス14を設けないカバー無し測定装置を準備し、前記のとおり、窒化ケイ素薄膜の対照値を測定した。
【0071】
次に、図1に示す構成の光学式膜厚測定装置10aを用いて窒化ケイ素薄膜の光反射スペクトルを測定した。なお、本実施例で用いた光学式膜厚測定装置10aにおいては、投光面122aおよび受光面122bの間隔d=3mmである。また、投光部121aの開口数NA1 =0.3であり、受光部121bの開口数NA2 =0.3であるので、θ1 =17.5°となり、θ2 =17.5°となる。この条件で、測定プローブ13の前面に設置されたカバーガラス14と投光面122aおよび受光面122bと間隔Lについては、前記式(2)を満たすように、L=3mmと設定した(図2参照)。この測定結果を「測定値」と称する。
【0072】
前記基準値、対照値および測定値の比較結果を図5に示す。図5において、横軸は、光反射スペクトルの波長(nm)を示し、縦軸は、相対反射率(%)を示す。また、基準値は実線で示し、対照値は点線で示し、測定値は破線で示した。なお、同様の結果を示す図6ないし図10においても、横軸および縦軸、並びに、基準値、対照値および測定値の表示は、いずれも図5と同様である。
【0073】
図5に示すように、測定値は、基準値とほぼ重なっており、また、対照値も同様に基準値とほぼ重なっていることから、前記間隔Lを、式(2)を満たすように好適な値に設定することで、カバーガラス14に起因する迷光の影響を有効に低減できることがわかる。
【0074】
[比較例1]
前記実施例1において、配置したカバーガラス14と投光面122aおよび受光面122bと間隔Lを、前記式(2)を満たさないように、L=10mmと設定した以外は、当該実施例1と同様にして、窒化ケイ素薄膜の測定値を測定し、基準値および対照値と比較した。比較結果を図6に示す。
【0075】
図6に示すように、本比較例の測定値は、全体的に基準値および対照値を下回っている。それゆえ、前記間隔Lを好適な値に設定しなければ、カバーガラス14に起因する迷光によって光反射スペクトルに大きなずれが生じていることがわかる。
【0076】
なお、前記実施例1で述べたように、対照値は基準値とほぼ重なっており、本比較例の測定値が基準値および対照値からずれていることから、光学式膜厚測定装置10aは、その構成上、カバーガラス14を除いて、窒化ケイ素薄膜の光反射スペクトルの測定に対して悪影響を与えないことがわかる。
【0077】
[参考例1]
前記比較例1において、前記実施の形態2で説明したデータ補正を行った以外は、当該比較例1と同様にして、窒化ケイ素薄膜の測定値を測定し、基準値および対照値と比較した。比較結果を図7に示す。
【0078】
図7に示すように、本参考例の測定値は、全体的に基準値および対照値を下回っているものの、比較例1の測定結果を比較すれば、基準値と測定値との差分は小さいものとなっている。このように、膜厚の測定に際して前記データ補正を行っただけは、ある程度の迷光の低減効果は得られるものの、前記実施例1に示すような顕著な迷光の低減効果は得られない。それゆえ、反射光に関する基準値を設定する補正処理のみでは、迷光の影響を十分に抑制することはできないことがわかる。
【0079】
ただし、本参考例の結果から、前記データ補正単独でも、ある程度迷光の影響を低減できることがわかる。したがって、前記データ補正を間隔Lの設定と組み合わせることで、迷光の影響をより一層低減することが期待される。
【0080】
[実施例2]
試料として、膜厚280nmの二酸化チタン薄膜が形成されているテストガラスを用いた以外は、前記実施例1と同様にして、当該二酸化チタン薄膜の光反射スペクトルについて、基準値、対照値および測定値を測定した。これらの比較結果を図8に示す。
【0081】
図8に示すように、測定値は、基準値とほぼ重なっており、また、対照値も同様に基準値とほぼ重なっていることから、前記間隔Lを好適な値に設定することで、カバーガラス14に起因する迷光の影響を有効に低減できることがわかる。
【0082】
[比較例2]
前記実施例2において、配置したカバーガラス14と投光面122aおよび受光面122bと間隔Lを、前記比較例1と同様に、式(2)を満たさない値に設定した以外は、当該実施例2と同様にして、二酸化チタン薄膜の測定値を測定し、基準値および対照値と比較した。これらの比較結果を図9に示す。
【0083】
図9に示すように、本比較例の測定値は、光反射スペクトルにおける2箇所の極小値近傍の波長域(約470nm〜約490nmの波長域と約660nm〜約700nmの波長域)では、基準値および対照値とほぼ重なっているものの、それ以外の波長域では、基準値および対照値を下回っている。それゆえ、前記間隔Lを好適な値に設定しなければ、カバーガラス14に起因する迷光によって光反射スペクトルに大きなずれが生じることがわかる。
【0084】
なお、前記実施例2で述べたように、対照値は基準値とほぼ重なっており、本比較例の測定値が基準値および対照値からずれていることから、光学式膜厚測定装置10aは、その構成上、カバーガラス14を除いて、二酸化チタン薄膜の光反射スペクトルの測定に対して悪影響を与えないことがわかる。
【0085】
[参考例2]
前記比較例2において、前記実施の形態2で説明したデータ補正を行った以外は、当該比較例2と同様にして、二酸化チタン薄膜の測定値を測定し、基準値および対照値と比較した。比較結果を図10に示す。
【0086】
図10に示すように、本参考例の測定値は、前記比較例2と同様に、2箇所の極小値近傍の波長域以外は、基準値および対照値を下回っているが、極大値(約560nm)近傍の波長域では、比較例2よりも、基準値と測定値との差分は小さいものとなっている。このように、膜厚の測定に際して前記データ補正を行っただけは、ある程度の迷光の低減効果は得られるものの、前記実施例2に示すような顕著な迷光の低減効果は得られない。それゆえ、反射光に関する基準値を設定する補正処理のみでは、迷光の影響を十分に抑制することはできないことがわかる。
【0087】
ただし、本参考例の結果から、前記データ補正単独でも、ある程度迷光の影響を低減できることがわかる。したがって、前記データ補正を間隔Lの設定と組み合わせることで、迷光の影響をより一層低減することが期待される。
【0088】
なお、本発明は前記各実施の形態や実施例等の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態または実施例や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、光学式膜厚測定装置の分野全般に好適に用いることができることに加え、例えば、真空成膜装置の分野において、インラインの膜厚測定手段として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0090】
10a 光学式膜厚測定装置
10b 光学式膜厚測定装置
10c 膜厚測定部(光学式膜厚測定装置)
12 Y型光ファイバー
13 測定プローブ(プローブ)
14 カバーガラス(保護部材)
16 光電変換部(光電変換器)
17 試料固定部材
20 真空成膜装置
21 解析部
22 演算部(膜厚算出器)
24 記憶部(記憶器)
121a 投光部
121b 受光部
122a 投光面
122b 受光面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端面から光を投光する投光部と、
前記投光部に並設され、先端面で光を受光する受光部と、
前記投光部および前記受光部のそれぞれの前記先端面の前方に、当該各先端面に対して平行となるよう配置され、光を透過する保護部材と、を備え、
前記投光部および前記受光部の前記先端面同士の間隔をd、前記投光部の前記先端面と前記保護部材との間隔をL、前記投光部の開口数をNA1 、前記受光部の開口数をNA2 と定義すれば、前記保護部材は、次の式
0<L<d/(tanθ1 +tanθ2
(但し、θ1 =sin-1 (NA1 )であり、θ2 =sin-1 (NA2 )であり、θ1 およびθ2 はいずれも90°未満である。)
を満たす位置に設けられ、
前記受光部の前記先端面と前記保護部材との間隔は、前記間隔Lと等しいか、前記間隔L未満となるよう設定されている、光学式膜厚測定装置。
【請求項2】
薄膜が形成された試料を、前記投光部からの光が投光される位置に固定する試料固定部材と、
前記受光部で受光した光を電気信号に変換することにより、前記受光した光の光強度情報を生成する光電変換器と、
前記光電変換器で生成された前記光強度情報から前記試料に形成された前記薄膜の膜厚を算出する膜厚算出器と、
記憶器と、を備え、
前記膜厚算出器は、前記試料固定部材により前記試料が固定されていない状態で、前記投光部から光が投光されているときには、前記光電変換器で生成された前記光強度情報を、背景光強度情報として前記記憶器に記憶させるとともに、
前記試料固定部材により前記試料が固定され、当該試料に対して前記投光部から光が投光されているときには、前記光電変換器で生成された前記光強度情報から、前記記憶器に記憶されている前記背景光強度情報を差し引いた補正光強度情報を生成し、当該補正光強度情報から前記薄膜の膜厚を算出するよう構成されている、請求項1に記載の光学式膜厚測定装置。
【請求項3】
前記投光部および前記受光部が光ファイバーであり、前記保護部材がカバーガラスである、請求項1又は2に記載の光学式膜厚測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の光学式膜厚測定装置を備えている、真空成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−230623(P2010−230623A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81161(P2009−81161)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】