光学物品およびその製造方法
【課題】帯電防止性および耐久性の良好な光学物品の製造方法を提供する。
【解決手段】光学基材1の上に、直にまたは他の層を介して透光性の第1の層を形成することと、第1の層の表面に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜33を物理的蒸着により形成することとを有する。透光性薄膜を物理的蒸着により形成することは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む。
【解決手段】光学基材1の上に、直にまたは他の層を介して透光性の第1の層を形成することと、第1の層の表面に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜33を物理的蒸着により形成することとを有する。透光性薄膜を物理的蒸着により形成することは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズなどのレンズ、その他の光学材料あるいは製品などに用いられる光学物品、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズなどの光学物品においては、典型的には、種々の機能を果たすための基材(光学基材)の表面に、その基材の機能をさらに強化したり保護したりするための種々の機能を備えた層(膜)が形成されている。種々の機能を備えた層(膜)としては、例えば、レンズ基材の耐久性を確保するためのハードコート層、ゴーストおよびちらつきを防止するための反射防止層などが公知である。反射防止層の典型的なものは、ハードコート層が積層された基材の表面に異なる屈折率を持つ酸化膜を交互に積層してなる、いわゆる多層反射防止層(多層膜)である。
【0003】
特許文献1には、低耐熱性基材に好適な帯電防止性能を有する光学要素を提供することが記載されている。プラスチック製の光学基材上に複層構成の反射防止膜を備えた眼鏡レンズなどの光学要素において、反射防止膜が透明導電層を含み、該透明導電層をイオンアシスト真空蒸着により形成し、他の反射防止膜の構成層は、電子ビーム真空蒸着などにより形成することが記載されている。導電層としては、インジウム、スズ、亜鉛などのいずれか、又は2種以上の複数を成分とする無機酸化物が挙げられており、特に、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムと酸化錫との混合物)が望ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−341052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基材の表面に形成される膜あるいは層に、帯電防止、電磁遮蔽などを目的として導電性を付与するために、酸化インジウムスズ(ITO)層を挿入することが公知である。しかしながら、ITO層は、透明性と帯電防止性には優れているものの、酸やアルカリなどの薬品により侵されやすい。人の汗は塩分を含んだ酸であるため、ITO層を含む反射防止層は、その耐久性が問題になる可能性がある。
【0006】
一方、金や銀などの金属の層を薄く形成することで導電性を得ることが可能である。しかしながら、反射防止層、ハードコート層、防汚層などの光学物品の基材の表面に形成される層は、シリコン(ケイ素)を中心とする化合物あるいは酸化物が主成分であることが多く、このような金属の層は、それらとの相性が問題になる。また、例えば金は、一般的に密着性が低く、膜の剥れが発生するおそれがある。銀は、酸化により導電性が低下することがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、光学物品(光学素子)の製造方法であり、光学基材の上に、直にまたは他の層を介して透光性の第1の層を形成することと、第1の層の表面に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜を物理的蒸着により形成することとを有し、透光性薄膜を物理的蒸着により形成することは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む。
【0008】
遷移金属カーバイド(遷移金属炭素化合物、遷移金属炭化物)、遷移金属シリサイド(遷移金属ケイ素化合物、遷移金属ケイ化物)、および遷移金属ゲルマニド(遷移金属ゲルマニウム化合物、遷移金属ゲルマニウム化物)は、それぞれ、低抵抗な素材であり、酸に対する耐久性も高い。一方、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化する工程を含む物理的蒸着では、物理的蒸着において電子ビームを用いたり、イオンアシストしたりする際に、第1の気体がイオン化されたもの、すなわち、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれか、またはそれらの化合物がイオン化されたものを含めることができる。このため、そのような物理蒸着を用いることにより、第1の層の表面に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイドおよび/または遷移金属ゲルマニドの薄膜を簡単に形成することができ、第1の層を低抵抗化できる。したがって、帯電防止機能および/または電磁波遮蔽機能などを備えた光学物品をいっそう容易に製造および提供できる。
【0009】
物理的蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)は、熱、レーザー光、電子ビームなどによる物理的作用を利用して、固体の薄膜原料を蒸気化して基板に蒸着する蒸着法を一般的に示し、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどを含み、近年では反応性真空蒸着、反応性スパッタリングおよび反応性イオンプレーティングも含む概念である。上記の製造方法においては、たとえば、電子ビームを照射するイオンガンへ導入するガスに二酸化炭素などの第1の気体を含めたり、イオンガンへ導入するガスを第1の気体に変更したりすることによりイオン化された第1の気体を用い、第1の層を低抵抗化できる。
【0010】
遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む薄膜は、薄膜であっても、基材の上に形成された第1の層の表面を十分に低抵抗にすることができる。このため、透光性を良好に確保でき、光学物品の表面の抵抗を低減するのに適している。したがって、例えば、光学物品に適宜適用される既存の反射防止層の層構造を変えずに、または、ほとんど変えずに、反射防止層に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む導電性の薄膜(透光性薄膜)を挿入することができる。
【0011】
上記の製造方法の1つは、第1の層の表面を遷移金属酸化物層にすることを有する方法である。第1の気体をイオン化することは、遷移金属酸化物層に対して第1の気体をイオン化して照射することにより、第1の層の表面に透光性薄膜を形成することを含む。第1の層が遷移金属酸化物層であってもよく、第1の層の表面に遷移金属酸化物層を薄く積層してもよい。
【0012】
炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれか、またはそれらの化合物がイオン化されたものを含む電子ビームの照射により遷移金属酸化物層の少なくとも表層(表層部、表層域)を含む全部または一部に、炭素、ケイ素、およびゲルマニウムのうちの少なくとも1つを導入(添加)できる。これにより、第1の層の表面の遷移金属酸化物層の全部または一部に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、および遷移金属ゲルマニドのいずれかを含む透光性薄膜の導電層が形成され、表面の抵抗が小さな光学物品を製造できる。
【0013】
上記の製造方法の1つは、第1の気体をイオン化することが、遷移金属酸化物を蒸着源とし、第1の気体をイオンアシストガスとして用い、第1の層の表面に透光性薄膜を形成することを含むものである。第1の層の表層(表層部、表層域)に、または表層として、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、または遷移金属ゲルマニドと遷移金属酸化物とを含む透光性薄膜の導電層を形成できる。
【0014】
上記の製造方法の1つは、第1の気体をイオン化することが、遷移金属を含むターゲットに第1の気体をイオン化して照射し、第1の層の表面に透光性薄膜を形成することを含むものである。炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれか、またはそれらの化合物がイオン化されたものを含む電子ビームを用いて遷移金属をスパッタリングし、第1の層の表面に(表層として)、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、または遷移金属ゲルマニドと遷移金属酸化物とを含む透光性薄膜の導電層を形成できる。
【0015】
第1の気体の典型的なガスはハンドリングが容易な二酸化炭素である。その他の第1の化合物群に含まれる種として、遷移金属カーバイドを含む透光性薄膜を形成する場合に適した例としては、一酸化炭素、アセチレン、メタン、エタン、四フッ化炭素などが挙げられ、遷移金属シリサイドを含む透光性薄膜を形成する場合の例としては、例えば、シラン、四塩化ケイ素、四フッ化ケイ素などが挙げられる。また、遷移金属ゲルマニドを含む透光性薄膜を形成する場合の例としては、四塩化ゲルマニウム、ゲルマン(水素化ゲルマニウム)、四フッ化ゲルマニウムなどを挙げることができる。
【0016】
第1の層の典型的なものは、光学基材の上に、ハードコート層、またはプライマー層およびハードコート層を介して形成される、反射防止層に含まれる層である。例えば、光学物品が、無機系または有機系の反射防止層を有するものである場合、第1の層は、無機系または有機系の反射防止層に含まれる層とすることが好ましい。このようにすることにより、無機系または有機系の反射防止層の抵抗値(抵抗率)を下げることができる。
【0017】
また、光学物品が、多層構造の反射防止層(典型的なものとしては、無機系の多層構造の反射防止層)を有するものである場合、第1の層は、例えば、多層構造の反射防止層に含まれる1つの層とすることが好ましい。このようにすることにより、多層構造の反射防止層の抵抗値(抵抗率)を下げることができる。
【0018】
当該製造方法は、透光性薄膜の上、すなわち第1の層の上に、直にまたは他の層を介して防汚層を形成することをさらに有してもよい。光学物品が反射防止層を有する場合には、反射防止層の上に、直にまたは他の層を介して防汚層を形成することをさらに有するようにすることが好ましい。
【0019】
本発明の他の態様の1つは、光学物品であり、光学基材と、光学基材の上に、直にまたは他の層を介して形成された透光性の第1の層と、第1の層の表面に形成された、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜であって、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む物理的蒸着により形成された透光性薄膜とを有する。
【0020】
炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群の中から少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む物理的蒸着により、第1の層の表面に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜が設けられた光学物品は表面抵抗が小さくなる。このため、帯電防止や電磁遮蔽などの機能を備えた光学物品を提供できる。また、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、および遷移金属ゲルマニドは、ITOと比較して、酸やアルカリなどの薬品に対して安定している。したがって、帯電防止機能および/または電磁波遮蔽機能を備えており、しかも、酸やアルカリなどの薬品に対する耐久性が良好な光学物品を提供できる。この光学物品は、帯電防止と耐久性とが要求される身の回りの光学物品(素子、製品)、例えば、眼鏡のレンズ、カメラのレンズ、情報端末の表示装置、DVDなどの多種多様な物品に適用できる。
【0021】
第1の層の一例は、無機系または有機系の反射防止層に含まれる層である。第1の層の他の例は、多層構造の反射防止層、例えば、無機系の多層構造の反射防止層に含まれる層である。さらに、光学物品は、透光性薄膜の上、すなわち第1の層の上に、直にまたは他の層を介して形成された防汚層を有していてもよい。光学物品が反射防止層を有する場合、反射防止層の上に、直にまたは他の層を介して形成された防汚層をさらに有するようにすることが好ましい。
【0022】
光学基材の一例はプラスチックレンズ基材であり、光学物品の一例は眼鏡レンズである。
【0023】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品に含まれる眼鏡レンズと、眼鏡レンズが装着されたフレームとを有する眼鏡である。眼鏡レンズの表面の帯電性を抑制できるため、眼鏡レンズの表面にゴミや埃などが付着し難い。また、電磁波遮蔽能力も付与できる。さらに、汗や薬品に強いため、耐久性が良好である。
【0024】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品であって、一方の面が外界に面した光学物品を有し、この光学物品を通して画像を透視するためのシステムである。このシステムの典型的なものは、時計、表示装置、および表示装置を有する端末などの情報処理装置である。表示装置の表面の帯電性を抑制でき、また、電磁波遮蔽能力を高めることができる。
【0025】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品と、光学物品を通して画像を投影させるための画像形成装置とを有するシステムである。このシステムの典型的なものは、プロジェクターである。この際、光学物品の典型的なものは、投射用のレンズ、ダイクロイックプリズム、平面のガラスなどである。上記の光学物品を、画像形成装置の1つであるLCD(液晶デバイス)などのライトバルブあるいはそれらに含まれる素子に適用してもよい。
【0026】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品と、光学物品を通して画像を取得するための撮像装置とを有するシステムである。このシステムの典型的なものは、カメラである。この際、光学物品の典型的なものは、結像用のレンズ、平面のガラスなどである。上記の光学物品を、撮像装置の1つであるCCDなどに適用してもよい。
【0027】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品と、光学物品を通してアクセスする媒体とを有するシステムである。このシステムの典型的なものは、記録媒体を内蔵し、表面の帯電性が低いことが要望されるDVDなどの情報記録装置、美的表現を発揮する媒体を内蔵した装飾品などである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】タイプA1の層構造の反射防止層を含むレンズの一例を示す断面図。
【図2】反射防止層の製造に用いる蒸着装置の一例を模式的に示す図。
【図3】図3(A)は、ZrO2層上にTiOxが蒸着された様子を示す図、図3(B)は、炭酸ガスイオンビームをTiOx層に照射している様子を示す図、図3(C)は、チタンカーバイドを含む層(透光性薄膜)が形成された様子を示す図。
【図4】タイプA1、A2、A3およびA4の反射防止層の層構造を示す図。
【図5】グループ(1a)に含まれる実施例1〜6と、比較例1〜3とに関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図6】図6(A)は、シート抵抗を測定する様子を示す断面図、図6(B)は、シート抵抗を測定する様子を示す平面図。
【図7】図7(A)は、耐薬品性試験の擦傷工程に使用される試験装置の外観を示す図、図7(B)は、試験装置の内部構造を示す図。
【図8】耐薬品性試験の擦傷工程に使用される試験装置が回転することを示す図。
【図9】耐湿性試験におけるむくみを判定する装置の概略を示す図。
【図10】図10(A)は、レンズ表面にむくみのない状態を模式的に示す図、図10(B)は、レンズ表面にむくみのある状態を模式的に示す図。
【図11】タイプB1の層構造の反射防止層を含むレンズの一例を示す断面図。
【図12】図12(A)は、炭酸ガスイオンビームをTiO2層に照射している様子を示す図、図12(B)は、チタンカーバイドを含む層(透光性薄膜)が形成された様子を示す図。
【図13】タイプB1、B2、B3−1〜B3−6の反射防止層の層構造を示す図。
【図14】グループ(1b)に含まれる実施例7ないし実施例12と、比較例4ないし11とに関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図15】有機系の反射防止層を含むレンズの一例を示す断面図。
【図16】グループ(1c)に含まれる実施例13に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図17】図17(A)は、TiO2分子を蒸着源としてZrO2層またはTiO2層の表面に炭酸ガスイオンビームアシスト蒸着をしている様子を示す図、図17(B)は、ZrO2層またはTiO2層の上にチタンカーバイドを含む層(透光性薄膜)が形成された様子を示す図。
【図18】グループ(2a)に含まれる実施例14ないし実施例19に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図19】グループ(2a)に含まれる実施例20ないし実施例25に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図20】グループ(2b)に含まれる実施例26ないし実施例31に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図21】グループ(2b)に含まれる実施例32ないし実施例37に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図22】有機系の反射防止層を含むレンズの他の例を示す断面図。
【図23】グループ(2c)に含まれる実施例38に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図24】図24(A)は、チタンターゲットに二酸化炭素ガスおよびアルゴンガスをイオン化して照射している様子を示す図、図24(B)は、ZrO2層の上にチタンカーバイドを含む層(透光性薄膜)がスパッタにより形成された様子を示す図。
【図25】グループ(3a)に含まれる実施例39および40に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図26】眼鏡の一例を示す図。
【図27】プロジェクターの一例の概要を示す図。
【図28】デジタルカメラの一例の概要を示す図。
【図29】記録媒体の一例の概要を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の幾つかの実施形態を説明する。以下では、光学物品として眼鏡用のレンズを例示して説明するが、本発明を適用可能な光学物品はこれに限定されるものではない。
【0030】
図1に、本実施形態の典型的なレンズの構成を、基材を中心とした一方の面の側の断面図により示している。レンズ10は、光学基材(レンズ基材)1と、レンズ基材1の表面に形成されたハードコート層2と、ハードコート層2の上に形成された透光性の反射防止層3と、反射防止層3の上に形成された防汚層4とを含む。なお、防汚層4は省略可能である。
【0031】
1. レンズの概要
1.1 レンズ基材
レンズ基材1に使用される材料は、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル樹脂をはじめとして、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)などのアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られるウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物との反応で得られるチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂などを挙げることができる。レンズ基材1の屈折率は、例えば、1.64〜1.75程度である。レンズ基材1の屈折率は、上記の範囲でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。
【0032】
1.2 ハードコート層(プライマー層)
ハードコート層2は、耐擦傷性を向上(付与)するものである。ハードコート層2に使用される材料は、例えば、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂およびこれらの混合物もしくは共重合体などを挙げることができる。
【0033】
ハードコート層2の一例は、シリコン系樹脂である。このようなハードコート層2は、例えば、シリコン系樹脂などの樹脂成分、金属酸化物微粒子、およびシラン化合物を含むコーティング組成物を用意し、このコーティング組成物をレンズ基材1に塗布し硬化させることにより形成することができる。このコーティング組成物には、コロイダルシリカや多官能性エポキシ化合物などの成分が含まれていてもよい。
【0034】
ハードコート層2を形成するためのコーティング組成物(ハードコート層形成用のコーティング組成物)に用いる金属酸化物微粒子の具体例は、SiO2、Al2O3、SnO2、Sb2O5、Ta2O5、CeO2、La2O3、Fe2O3、ZnO、WO3、ZrO2、In2O3、TiO2などの金属酸化物からなる微粒子、または2種以上の金属の金属酸化物からなる複合微粒子である。これらの微粒子は、例えば、分散媒(例えば、水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒)にコロイド状に分散させ、これをコーティング組成物に混合する。
【0035】
レンズ基材1とハードコート層2との密着性を確保するために、レンズ基材1とハードコート層2との間にプライマー層を設けてもよい。プライマー層は、高屈折率レンズ基材の欠点である耐衝撃性を改善するためにも有効である。プライマー層に使用される材料としては、例えば、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂およびこれらの混合物もしくは共重合体などを挙げることができる。密着性を持たせるためのプライマー層としては、ウレタン系樹脂およびポリエステル系樹脂が好ましい。
【0036】
ハードコート層2およびプライマー層の製造方法の典型的なものは、ディッピング法、スピンナー法、スプレー法、フロー法によりコーティング組成物を塗布し、その後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥する方法である。
【0037】
1.3 反射防止層
ハードコート層2の上に形成される反射防止層3の典型的なものは、無機系の反射防止層、あるいは有機系の反射防止層である。無機系の反射防止層3は、典型的には多層膜で構成され、例えば、屈折率が1.3〜1.6である低屈折率層31と、屈折率が1.8〜2.6である高屈折率層32とを交互に積層して形成することができる。層数の一例は、5層(典型的には、低屈折率層31が3層、高屈折率層32が2層)あるいは7層(典型的には、低屈折率層31が4層、高屈折率層32が3層)である。以下の実施例においては、反射防止層3に透光性薄膜33を加える。透光性薄膜33は反射防止層3の基本的な光学的性質に影響を与えるものではない。したがって、以下において透光性薄膜33を含む5層および7層の反射防止層3を全体として6層あるいは8層と表現する場合もあるが、光学的な反射防止層3の構成は5層および7層である。
【0038】
反射防止層3を構成する各層に使用される無機物の例としては、SiO2、SiO、ZrO2、TiO2、TiO、Ti2O3、Ti2O5、Al2O3、TaO2、Ta2O5、NdO2、NbO、Nb2O3、NbO2、Nb2O5、CeO2、MgO、Y2O3、SnO2、MgF2、WO3、HfO2、Y2O3などを挙げることができる。これらの無機物は、単独で用いるか、もしくは2種以上を混合して用いる。
【0039】
反射防止層3を形成する典型的な方法は、乾式法、すなわち物理的蒸着法であり、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などが挙げられる。真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
【0040】
有機系の反射防止層3の製造方法の1つは湿式法である。例えば、内部空洞を有するシリカ系微粒子(以下、「中空シリカ系微粒子」ともいう)と、有機ケイ素化合物とを含む反射防止層形成用のコーティング組成物を、ハードコート層、プライマー層と同様の方法でコーティングして形成することができる。反射防止層形成用のコーティング組成物に中空シリカ系微粒子を用いるのは、内部空洞内にシリカよりも屈折率が低い気体または溶媒が包含されることによって、空洞のないシリカ系微粒子に比べてより屈折率が低減し、結果的に、優れた反射防止効果を付与できるからである。中空シリカ系微粒子は、特開2001−233611号公報に記載されている方法などで製造することができるが、平均粒子径が1〜150nmの範囲にあり、かつ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用することが望ましい。有機系の反射防止層の層厚は、50〜150nmの範囲が好ましい。この範囲より厚すぎたり薄すぎたりすると、十分な反射防止効果が得られないおそれがある。
【0041】
1.4 防汚層
反射防止層3の上に撥水膜、または親水性の防曇膜(防汚層)4を形成することが多い。防汚層4は、光学物品(レンズ)10の表面の撥水撥油性能を向上させる目的で、反射防止層3の上に形成されるものであり、典型的なものとしては、フッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる層を挙げることができる。フッ素を含有する有機ケイ素化合物(含フッ素シラン化合物)としては、例えば、特開2005−301208号公報や特開2006−126782号公報に記載されている含フッ素シラン化合物を好適に使用することができる。
【0042】
含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液(防汚層形成用のコーティング組成物)として用いることが好ましい。防汚層は、この撥水処理液を反射防止層上に塗布することにより形成することができる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法などを用いることができる。なお、撥水処理液を金属ペレットに充填した後、真空蒸着法などの乾式法を用いて、防汚層を形成することも可能である。
【0043】
防汚層の層厚は、特に限定されないが、0.001〜0.5μmが好ましい。より好ましくは0.001〜0.03μmである。防汚層の層厚が薄すぎると撥水撥油効果が乏しくなり、厚すぎると表面がべたつくので好ましくない。また、防汚層の厚さが0.03μmより厚くなると反射防止効果が低下する可能性がある。
【0044】
2. 第1の方法によるSiO2−ZrO2系の反射防止層を備えたサンプルの製造
低屈折率層31としてSiO2層、高屈折率層32としてZrO2層を採用した反射防止層3を備えたサンプルを製造した。さらに、以下に詳述するが、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層として、その表面にさらにTiOxを遷移金属酸化物薄膜として積層(形成)し、TiOxの薄膜に対し、炭酸ガス(二酸化炭素の気体)を第1の気体として使用し、その炭酸ガスをイオン化して照射することにより、最上(最外)の高屈折率層32の表面に透光性薄膜33を形成している。SiO2−ZrO2系の反射防止層3に、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する方法(第1の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(1a)と呼ぶ。
【0045】
また、以降では、各々の実施例のサンプルはサンプルS1、サンプルS2と呼び、各実施例に共通してサンプルを指す場合にはサンプル10と呼ぶことにする。
【0046】
2.1 実施例1(サンプルS1)
2.1.1 レンズ基材の選択およびハードコート層の成膜
レンズ基材1としては、屈折率1.67の眼鏡用のプラスチックレンズ基材(商品名:セイコースーパーソブリン(SSV)(セイコーエプソン(株)製))を用いた。
【0047】
ハードコート層2を形成するための塗布液(コーティング液、コーティング組成物)を次のように調製した。エポキシ樹脂−シリカハイブリッド(商品名:コンポセラン(登録商標)E102(荒川化学工業(株)製))20重量部に、酸無水物系硬化剤(商品名:硬化剤液(C2)(荒川化学工業(株)製))4.46重量部を混合、攪拌して塗布液(コーティング液)を得た。
【0048】
このコーティング液を所定の厚さになるようにスピンコーターを用いてレンズ基材1の上に塗布した。コーティング液塗布後のレンズ基材を125℃で2時間焼成し、レンズ基材1の上にハードコート層2を成膜した。
【0049】
2.1.2 反射防止層の成膜
2.1.2.1 蒸着装置
次に、図2に示す蒸着装置100により、ハードコート層2の上に無機系の反射防止層3を製造(成膜)した。
【0050】
図2に例示した蒸着装置100は電子ビーム蒸着装置であり、真空容器110、排気装置120およびガス供給装置130を備えている。真空容器110は、ハードコート層2までが形成されたレンズサンプル10が載置されるサンプル支持台115と、サンプル支持台115にセットされたレンズサンプル10を加熱するための基材加熱用ヒーター116と、熱電子を発生するフィラメント117とを備えている。
【0051】
この蒸着装置100では、電子銃(不図示)により熱電子を加速し、蒸発源(るつぼ)112および113にセットされた蒸着材料に熱電子を照射し、これを蒸発させて、レンズサンプル10に材料を蒸着する。
【0052】
さらに、この蒸着装置100は、容器110の内部に導入したガスをイオン化して加速し、レンズサンプル10に照射するためのイオン銃118を備えている。このような構成を有しているため、この蒸着装置100は、イオンビームを形成したり、イオンアシスト蒸着を行ったりすることができる。
【0053】
また、真空容器110には、残留した水分を除去するためのコールドトラップや、層厚を管理するための装置などをさらに設けることができる。層厚を管理する装置としては、例えば、反射型の光学膜厚計や水晶振動子膜厚計などがある。
【0054】
真空容器110の内部は、排気装置120に含まれるターボ分子ポンプまたはクライオポンプ121と、圧力調整バルブ122とにより、高真空、例えば1×10-4Paに保持することができる。一方、真空容器110の内部は、ガス供給装置130により所定のガス雰囲気とすることも可能である。ガス供給装置130は、ガス容器131、流量制御装置132、圧力計135などを含む。例えば、ガス容器131には、二酸化炭素ガス(CO2)などの第1の気体(炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる気体(単体または混合ガス))、アルゴンガス(Ar)、窒素ガス(N2)、酸素ガス(O2)などが用意される。ガスの流量は流量制御装置132により制御でき、真空容器110の内圧は圧力計135により制御できる。
【0055】
基材加熱用ヒーター116は、例えば赤外線ランプであり、レンズサンプル10を加熱することによりガス出しあるいは水分とばしを行い、レンズサンプル10の表面に形成される層の密着性を確保する。
【0056】
したがって、この蒸着装置100における主な蒸着条件は、蒸着材料、電子銃の加速電圧および電流値、イオンアシストの有無である。イオンアシストを利用する場合の条件は、イオンの種類(真空容器110の雰囲気)と、イオン銃118の電圧値および電流値とにより与えられる。以下において特に記載しないかぎり、電子銃の加速電圧は、5〜10kVの範囲、電流値は50〜500mAの範囲の中で、成膜レートなどをもとに選択される。また、イオンビームを形成したり、イオンアシストを利用したりする場合は、イオン銃118が電圧値200V〜1kVの範囲、電流値が100〜500mAの範囲で、成膜レートなどをもとに選択される。
【0057】
2.1.2.2 低屈折率層、高屈折率層およびカーバイドを含む層(透光性薄膜)の成膜
ハードコート層2が形成されたレンズサンプル10をアセトンにて洗浄し、真空容器110の内部にて約70℃の加熱処理を行い、レンズサンプル10に付着した水分を蒸発させた。次に、レンズサンプル10の表面にイオンクリーニングを実施した。具体的には、イオン銃118を用いて酸素イオンビームを数百eVのエネルギーでレンズサンプル10の表面に照射し、レンズサンプル10の表面に付着した有機物の除去を行った。この方法により、レンズサンプル10の表面に形成する層(膜、後述する第1層31)の付着力を強固なものとすることができる。なお、酸素イオンの代わりに不活性ガス、例えば、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)や、窒素(N2)を用いて同様の処理を行ってもよいし、酸素ラジカルや酸素プラズマを照射してもよい。
【0058】
真空容器110の内部を十分に真空排気した後、電子ビーム真空蒸着法により、低屈折率層31および高屈折率層32を交互に積層して、以下のような多層構造の無機系の反射防止層3を製造した。
【0059】
(低屈折率層)
第1層および第3層は低屈折率層31であり、イオンアシストは行わず、真空蒸着によりSiO2層を成膜した。成膜レートは2.0nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は100mAとした。
【0060】
(高屈折率層)
第2層および第4層は高屈折率層32であり、タブレット状のZrO2焼結体材料を電子ビームで加熱蒸発させZrO2層を成膜した。成膜レートは0.8nm/secとした。
【0061】
(カーバイドを含む層(透光性薄膜))
図3(A)〜(C)は、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層とし、その表面にカーバイドを含む層33の形成を模式的に示している。図3(A)〜(C)は蒸着装置100においてカーバイドを含む層(透光性薄膜)33を形成する様子を示しており、高屈折率層32と透光性薄膜33との上下関係は図1に示したレンズサンプル10とは逆転して示されている。したがって、これらの図は、レンズサンプル10上に、第1層31、第2層32、第3層31、第4層32を成膜した後、蒸着装置100を用い、カーバイドを含む層、本例では、チタンカーバイド(典型的には、TiCであり、その他TiOCなどを含む)を含む層33を第5層(導電層)として成膜する様子を示している。すなわち、本例では、第4層32が第1の層、カーバイドを含む層(第5層)33が透光性薄膜(導電層)である。以下、カーバイドを含む層33を単にカーバイド層と記載する。
【0062】
カーバイド層33は、以下のようにして成膜した。まず、酸化チタン(TiOx、0<X≦2)顆粒或いは粒状の材料を電子ビームで加熱蒸発させ、イオンアシストを行わず真空蒸着を行った。これにより、第4層32の上にTiOx層(遷移金属酸化物薄膜)33aが形成された(図3(A))。このとき、TiOx層33aは、厚さが6nmとなるように成膜した。
【0063】
その後、酸素ガスに代わり、二酸化炭素(CO2)ガスを使用し、二酸化炭素(CO2)ガス(炭酸ガス)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を200mAとした。これにより、二酸化炭素ガスからCO2+、CO+、C+などを含む炭酸ガスイオンビームを生成し、成膜したTiOx層33aに照射した。炭酸ガスイオンビームの照射時間は120秒とした(図3(B))。
【0064】
炭酸ガスイオンビームは、二酸化炭素を原料として生成したイオンビームであり、二酸化炭素イオンの他、分解生成物である一酸化炭素イオン、炭素イオン、酸素イオンなどが含まれていてもよい。また、炭酸ガスイオンビームには、一価のイオンの他に、二価や三価の多価イオンも含まれていてもよい。炭酸ガスイオンビームをTiOx層33aに照射することにより、高屈折率層32の表層を形成しているTiOx層33a中で炭素(C)がミキシングされて化学反応し、典型的には、TiOxの一部がチタンカーバイドとなる。これにより、チタンカーバイド(典型的にはTiC)を含む層(カーバイド層)33が形成される(図3(C))。
【0065】
この方法により導電性のチタンカーバイドが形成されることは、後述するようにサンプル10が低抵抗化することで確認されている。また、炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガスをイオン化することにより炭酸ガスイオンビームとアルゴンイオンビームとがTiOx層33aに照射される。アルゴンイオンビームを炭酸ガスイオンビームと併用することは、以下の実験結果に示すように低抵抗化に適しており、TiCの形成を促進するなどの影響が予想される。
【0066】
なお、チタンカーバイドは、TiOx層33aの全部または一部(典型的には表面)の領域に形成されて、導電層として機能する透光性薄膜33を形成する。また、TiOx層33a中に導入された炭素(C)は、全てがチタンカーバイドの生成に寄与するとは限られないが、正孔または電子を生成することにより電荷のキャリアを増やし透光性薄膜33の導電率を高めることに寄与する可能性がある。
【0067】
TiOx層33aのうちのどの程度の領域(厚さ、深さ)まで炭素(C)が導入されるか(典型的にはカーバイドが形成されるか)は、炭酸ガスイオンビームの照射時間、イオンエネルギー(イオンの加速電圧)、およびイオン電流によって決まる。本例の条件では、6nmのTiOx層33aのほとんどの領域にチタンカーバイドが形成され、導電性の透光性薄膜33が形成されると考えられる。第4層(ZrO2層)32の表面に積層されたTiOx層33aは光学的には第4層(ZrO2層)32とともに高屈折率層として機能する。したがって、このサンプルS1の製造方法は、最上または最外の高屈折率層32を形成する遷移金属酸化物層33aの表面に炭酸ガスイオンビームを照射することにより高屈折率層32の表面(表層)33を低抵抗化することを含む製造方法である。
【0068】
(低屈折率層)
カーバイド層33の上に、第6層として、第1および第3層と同様の条件で、SiO2層(低屈折率層31)を成膜した。成膜レートは2.0nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は100mAとした。
【0069】
これらの工程において、反射防止層3の光学的性能を主に決める第1〜第4層および第6層の層厚は、それぞれ、150nm、30nm、21nm、55nm、85nmに管理した。この層構造、すなわち、第1層、第3層および第6層がSiO2層の低屈折率層31、第2層および第4層がZrO2層の高屈折率層32、そして、最外の高屈折率層32の表面(外側)に第5層としてカーバイド層33を形成した層構造を、以降ではタイプA1の層構造と呼ぶことにする。
【0070】
2.1.3 防汚層の成膜
反射防止層3までが形成されたレンズサンプル10に酸素プラズマ処理を施し、その後、分子量の大きなフッ素含有有機ケイ素化合物を含む「KY−130」(商品名、信越化学工業(株)製)を含有させたペレット材料を蒸着源として防汚層4を成膜した。より具体的には、真空容器110内において、KY−130を約500℃で加熱して蒸発させて、反射防止層3の上に防汚層4を成膜した。蒸着時間は3分間程度とした。反射防止層3までが形成されたレンズサンプル10に酸素プラズマ処理を施こすことにより、最終のSiO2層(第6層)31の表面にシラノール基を生成することができる。このため、酸素プラズマ処理の後に防汚層4を形成することにより、反射防止層3と防汚層4との化学的密着性(化学結合)を高めることができる。
【0071】
蒸着終了後、真空蒸着装置100からレンズサンプル10を取り出し、反転して再び投入し、上記の2.1.2〜2.1.3の工程を同じ手順で繰り返して、反射防止層3の成膜(カーバイド層33の形成を含む)および防汚層4の成膜を行った。その後、レンズサンプル10を真空蒸着装置100から取り出した。これにより、レンズ基材1の両面に、ハードコート層2、カーバイド層33を層内(第5層)に含むタイプA1の反射防止層3、および防汚層4を備えた実施例1のレンズサンプルS1が得られた。
【0072】
2.2 実施例2(サンプルS2)
後述する光の吸収損失は、表面が湾曲していたりすると測定が難しい。このため、実施例2においては、光学基材1として平面のガラスを用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を形成し、サンプルS2を製造した。すなわち、この平面のガラスのサンプル(ガラスサンプル)S2は、レンズサンプルS1と同じ条件で形成した反射防止層3を有するサンプルである。
【0073】
より詳しくは、この平面のガラスのサンプル(ガラスサンプル)S2は、光学基材1として透明な白板ガラス(B270)を採用し、この光学基材1の上に、ハードコート層を成膜せず、直に上記の実施例1と同様の工程でタイプA1の反射防止層3を成膜した。防汚層は成膜しなかった。
【0074】
2.3 実施例3(サンプルS3)
実施例3では、実施例1と同じレンズ基材1を用い、同じ条件(2.1.1)でハードコート層2を形成し、さらに、その上にタイプA1の反射防止層3と防汚層4とを形成し、サンプルS3を製造した。
【0075】
低屈折率層31および高屈折率層32の成膜方法は、実施例1と同じ条件(2.1.2.2)で行った。カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、オン化させ、イオンエネルギーを500eV、イオン電流を200mAとした。TiOx層33aへの炭酸ガスイオンビームの照射時間は120秒とした。他の条件および成膜方法は実施例1と同じである(2.1.2.2参照)。そして、反射防止層3を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。
【0076】
2.4 実施例4(サンプルS4)
実施例4では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例3と同じ条件で形成し、サンプルS4を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0077】
2.5 実施例5(サンプルS5)
実施例5では、実施例1と同じ条件(2.1)でレンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3および防汚層4を形成し、サンプルS5を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を流量30sccmとして真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を150mAとした。また、TiOx層33aへの炭酸ガスイオンビームの照射時間は20秒とした。
【0078】
2.6 実施例6(サンプルS6)
実施例6では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例5と同じ条件で形成し、サンプルS6を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0079】
2.7 比較例1(サンプルR1)
サンプルR1として、実施例1と同じレンズ基材を用い、同じ条件(2.1.1)でハードコート層を形成し、さらに、その表面に反射防止層を形成し、サンプルR1を製造した。低屈折率層および高屈折率層は、上記の2.1.2.2と同じ条件で成膜した。
【0080】
ただし、第5層(導電層)としては、Si(金属シリコン、アモルファスシリコン)のみを、イオンアシストを用いずに3nmだけ蒸着した。すなわち、第4層(ZrO2層)を成膜後、Siを真空蒸着により成膜し、第5層(導電層)としてアモルファスシリコンの層を形成した。なお、アモルファスシリコン層は、純粋なSiだけで構成されていなくてもよく、多少は酸化されていてもよい。そして、その上に第6層として、SiO2層を形成した。したがって、反射防止層は、アモルファスシリコン層を含む6層構造になる。この6層構造で、アモルファスシリコン層を含むタイプの層構造をタイプA3と呼ぶことにする。
【0081】
反射防止層3を形成した後、実施例1と同様に防汚層を成膜した(2.1.3参照)。したがって、比較例1により製造されたレンズサンプルR1は、プラスチックレンズ基材と、ハードコート層と、第5層(導電層)にアモルファスシリコン層を含むタイプA3の反射防止層と、防汚層とを含む。
【0082】
2.8 比較例2(サンプルR2)
サンプルR2として、実施例1と同じレンズ基材を用い、同じ条件(2.1.1)でハードコート層を形成し、さらに、その表面に反射防止層を形成し、サンプルR2を製造した。低屈折率層および高屈折率層は、上記の2.1.2.2と同じ条件で成膜した。
【0083】
ただし、第5層(導電層)としては、酸化インジウムスズ(ITO)をイオンアシスト真空蒸着により3nmだけ成膜した。すなわち、第4層(ZrO2層)を成膜後、ITOをイオンアシスト真空蒸着により3nm成膜し、第5層(導電層)としてITO層を形成した。ITO層の成膜の際は、電子銃の加速電圧を7kV、電流値を50mAとした。また、ITO膜の酸化を促進させるために、真空容器内に毎分15ミリリットルの酸素ガスを導入し、酸素雰囲気とした。イオン銃へは毎分35ミリリットルで酸素ガスを導入し、電圧値を500V、電流値を250mAとして、サンプルに酸素イオンビームを照射した。そして、その上に第6層として、SiO2層を形成した。したがって、反射防止層3は、ITO層を含む6層構造になる。この6層構造で、ITO層を含むタイプの層構造をタイプA4と呼ぶことにする。
【0084】
反射防止層を形成した後、実施例1と同様に防汚層を成膜した(2.1.3参照)。したがって、比較例2により製造されたレンズサンプルR2は、プラスチックレンズ基材と、ハードコート層と、第5層(導電層)にITO層を含むタイプA4の反射防止層と、防汚層とを含む。
【0085】
2.9 比較例3(サンプルR3)
上記の実施例により得られたガラスサンプルと比較するために、カーバイド層を有しないガラスサンプルR3を製造した。それ以外は、実施例2と同様にガラスサンプルR3を製造した。すなわち、比較例3により製造されたガラスサンプルR3は、ガラス基材と、カーバイド層を含まない5層(SiO2層、ZrO2層、SiO2層、ZrO2層およびSiO2層、以降では、このタイプの層構造をタイプA2と称する)の反射防止層とを含む。また、防汚層は成膜しなかった。
【0086】
2.10 サンプルの評価
図4に、タイプA1、A2、A3およびA4の反射防止層の層構造を纏めて示してある。なお、二酸化ケイ素(SiO2)からなる低屈折率層の波長550nmにおける屈折率nは1.462である。また、酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる高屈折率層の波長550nmにおける屈折率nは2.05である。ITO層の波長550nmにおける屈折率nは2.1である。
【0087】
上記により製造されたサンプルS1(実施例1)〜S6(実施例6)、R1(比較例1)〜R3(比較例3)について、それぞれ、シート抵抗および吸収損失を測定した。さらに、ごみの付着、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)をそれぞれ試験し、これらを評価した。図5に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示した。
【0088】
最初に、上記測定方法、試験方法、および評価方法について説明する。
【0089】
2.10.1 測定、試験、および評価方法
2.10.1.1 シート抵抗
図6(A)および(B)に、各サンプルのシート抵抗を測定する様子を示している。この例では、測定対象、例えば、レンズサンプル10の表面10Aにリングプローブ61を接触させ、レンズサンプル10の表面10Aのシート抵抗を測定した。測定装置60は、三菱化学(株)製高抵抗抵抗率計ハイレスタUP MCP−HT450型を使用した。使用したリングプローブ61は、URSタイプであり、2つの電極を有し、外側のリング電極61Aは、外径18mm、内径10mmであり、内側の円形電極61Bは、直径7mmである。それらの電極間に10〜1kVの電圧を印加し、各サンプルのシート抵抗を計測した。
【0090】
2.10.1.2 ごみの付着試験
プラスチックレンズの表面上で、眼鏡レンズ用拭き布を1kgの垂直荷重にて10往復こすりつけ、このときに発生した静電気によるごみの付着の有無を調べた。ここで、ごみとしては、発泡スチロールを粒子径2〜3mmの大きさに砕いたものを使用した。判断基準は以下の通りである。
○:ゴミの付着が認められなかった。
△:ゴミが数個付着していることが認められた。
×:数多くのゴミが付着していることが認められた。
【0091】
2.10.1.3 吸収損失
光の吸収損失は、表面が湾曲していたりすると測定が難しい。このため、上記のサンプルS1〜S6のうち、ガラスサンプルS2、S4、およびS5について吸収損失を測定し、ガラスサンプルR3の吸収損失と比較した。
【0092】
光の吸収損失の測定には、日立製分光光度計U−4100を使用した。分光光度計を用いて反射率と透過率を測定し、(A)式にて吸収率を算出した。
吸収率(吸収損失)=100%−透過率−反射率 ・・・・(A)
以下、吸収率は波長550nm付近の吸収率を記している。
【0093】
2.10.1.4 耐薬品性
各サンプルの表面に傷をつけ、その後、薬液浸漬を行い、反射防止層の剥がれの有無を観察して耐薬品性を評価した。
【0094】
(1)擦傷工程
図7(A)は、耐薬品性試験の擦傷工程に使用される試験装置の外観を示している。図7(B)は、試験装置の内部構造を示している。図8は、耐薬品性試験の擦傷工程に使用する試験装置を回転させることを示している。
【0095】
図7(A)に示す容器(ドラム)71の内壁に、図7(B)に示すように評価用のサンプル10を4つ貼り付け、さらに、容器(ドラム)71内に擦傷用として不織布73とオガクズ74を入れた。そして、蓋をした後、図8に示すように、ドラム71を30rpmで30分間回転させた。
【0096】
(2)薬液浸漬工程
人の汗を模した薬液(純水に乳酸を50g/L、塩を100g/L溶解した溶液)を用意した。(1)の擦傷工程を経たサンプル10を、50℃に保持した薬液に100時間浸漬した。
【0097】
(3)評価方法
上記の工程を経た各サンプルを、従来のサンプルであるサンプルR3を基準に目視により評価した。判断基準は以下の通りである。
○:基準のサンプルと比較し、傷がほとんど見えず、同等の透明性がある。
△:基準のサンプルに対して傷が見え、透明性が劣る。
×:基準のサンプルに対して層の剥離および多数の傷が見え、透明性が著しく低下した。
【0098】
2.10.1.5 むくみ(耐湿性)
(1)恒温恒湿度環境試験
各サンプルを恒温恒湿度環境(60℃、98%RH)で8日間放置した。
【0099】
(2)むくみの判定方法(評価方法)
図9は、耐湿性試験におけるむくみを判定する装置の概略を示している。図10(A)は、レンズ表面にむくみのない状態を模式的に示している。図10(B)は、レンズ表面にむくみのある状態を模式的に示している。
【0100】
上記の恒温恒湿度環境試験を経た各サンプルの表面または裏面の表面反射光を観察し、むくみの有無を判断した。具体的には、図9に示すように、サンプル10の凸面10Aにおける蛍光灯75の反射光を観察した。図10(A)に示すように、蛍光灯75の反射光76の像の輪郭がくっきりと明瞭に観察できる場合は「むくみ無し」と判定した。一方、図10(B)に示すように、蛍光灯75の反射光77の像の輪郭がぼやけている、またはかすれて観察できるときは「むくみ有り」と判定した。
【0101】
2.10.2 結果
2.10.2.1 シート抵抗の測定結果
図5に示すように、反射防止層3にカーバイド層33を含めたサンプルS1〜S6のシート抵抗の測定値は、それぞれ、2×109[Ω/□]、2×109[Ω/□]、3.5×109[Ω/□]、4.5×109[Ω/□]、1×1010[Ω/□]、1×1010[Ω/□]であった。
【0102】
これに対し、反射防止層にカーバイド層33と置換してアモルファスシリコン層を含めたサンプルR1のシート抵抗の測定値は9×1012[Ω/□]、反射防止層にカーバイド層33と置換してITO層を含めたサンプルR2のシート抵抗の測定値は2×1012[Ω/□]であった。また、導電層を含まない(カーバイド層33を含まない)サンプルR3のシート抵抗の測定値は5×1014[Ω/□]であった。
【0103】
サンプルR3の測定結果が示すように、低抵抗化の処理を施していない従来のサンプル(ガラスサンプル)では、シート抵抗は5×1014[Ω/□]である。これに対し、反射防止層3の1つの層32の表面にカーバイド層33を形成したサンプルS1〜S6においては、シート抵抗が2×109[Ω/□]〜1×1010[Ω/□]となり、シート抵抗が従来のサンプルと比較して3桁〜5桁(103〜105)程度小さくなっている。すなわち、シート抵抗が1/103〜1/105となっており、導電率が向上している。したがって、これらのサンプルS1〜S6は後述するように十分な帯電防止性能を備えており、ごみの付着がほとんど見られない。
【0104】
反射防止層3にアモルファスシリコン層あるいはITO層を含めたレンズサンプルR1およびR2では、シート抵抗が、それぞれ9×1012[Ω/□]、2×1012[Ω/□]であり、良好な帯電防止性能が得られるというほどは低下していない。実施例のサンプルS1〜S6のシート抵抗は、比較例のサンプルR1およびR2のシート抵抗と比較しても、2桁〜3桁(102〜103)程度小さくなっている。すなわち、シート抵抗が1/102〜1/103となっている。
【0105】
このように、カーバイド層33を設けることによって反射防止層3の抵抗値を大幅に低減でき、例えば6nm程度またはそれ以下の厚みのカーバイド層33を含めることにより、反射防止層2を含めた光学基材の表面の導電性の向上に有効であることがわかった。
【0106】
光学物品のシート抵抗を低減することにより幾つかの効果が得られる。典型的な効果は、帯電防止、および電磁遮蔽である。眼鏡用のレンズにおいて帯電防止性の有無の目安は、シート抵抗が1×1012[Ω/□]以下であると考えられている。使用上の安全性などを考慮すると、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011[Ω/□]以下であることがいっそう好ましい。サンプルS1〜S6は、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011Ω/□以下、さらに、1×1010Ω/□以下であり、非常に優れた帯電防止性を備えていることがわかる。
【0107】
2.10.2.2 ごみの付着試験結果
ごみの付着がない場合は帯電防止効果に優れ、ごみの付着がある場合は帯電防止効果が劣っていると言える。図5に示すように、カーバイド層33を備えたサンプルS1〜S6の評価はすべて○であり、帯電防止効果に優れていることがわかった。また、アモルファスシリコン層を備えたサンプルR1および導電層を形成しないサンプルR3は×であり、帯電防止効果が劣っていることがわかった。また、ITO層を備えたサンプルR2は、△であった。
【0108】
2.10.2.3 吸収損失の測定結果
光の吸収損失については、カーバイド層33を形成することにより若干吸収損失が上昇する傾向がみられる。しかしながら、最大でも0.8%程度であり、眼鏡用のレンズとしての許容範囲である透光性を備えている。したがって、カーバイド層33を形成しても、透光性を確保でき、しかも帯電防止性能の優れた光学物品を提供できることがわかった。また、帯電防止および透光性の双方を考慮するのであれば、吸収損失が0.39%のサンプルS4程度であっても十分にシート抵抗が小さい。なお、レンズサンプルS3もサンプルS4と同程度の透光性があると考えられる。
【0109】
2.10.2.4 耐薬品性の評価結果
耐薬品性については、カーバイド層33を備えたサンプルS1〜S6の評価はすべて○であり、日常的に用いられる環境において優れた耐薬品性を有することがわかった。一方、ITO層を備えたサンプルR2の評価は×であった。
【0110】
2.10.2.5 むくみ(耐湿性)の評価結果
カーバイド層33を備えたサンプルS1〜S6を含め、すべてのサンプルについてむくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0111】
2.11 考察
以上の各測定結果および評価より、反射防止層3の1つの層、本例においては最外の高屈折率層32の表面にカーバイド層33を設けたサンプルS1〜S6については、シート抵抗が大幅に低下し、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化はほとんど見られないことがわかった。したがって、遷移金属酸化物層を予め設け、その表面に第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する方法(第1の方法)により、反射防止層3にカーバイド層33を設けることができ、表面の抵抗が小さく、帯電防止などの特性を持ち、さらに、耐久性の良い光学物品を提供できることがわかった。
【0112】
さらに、サンプルS1〜S6のシート抵抗を比較すると、イオン銃118の電圧値および/または電流値(第1のガスに与えるイオンエネルギーおよび/またはイオン電流)を高めたり、TiOx層33aに対する炭酸ガスイオンビームの照射時間を長くしたりすることにより、シート抵抗をさらに低減できることもわかった。これは、イオン銃118の電圧値および/または電流値を高めたり、TiOx層33aに対する炭酸ガスイオンビームの照射時間を長くしたりすることにより、TiOx層33aのより深部までチタンカーバイドを形成できるためであると考えられる。また、シート抵抗を下げるためには、導入ガスとして、第1のガスである二酸化炭素ガスとともにアルゴンガスを併用することも有効であると考えられる。
【0113】
また、カーバイド層33を形成することにより、若干の吸収損失の増加が観測されるが、帯電防止および電磁波遮断などの目的に応じた適切な導電性が得られる程度にカーバイド層33を形成することにより、吸収損失の影響は光学物品としてほとんど無視できる程度の光学物品を提供できることがわかった。
【0114】
このように、反射防止層3にカーバイド層33を設けることにより、優れた帯電防止性能および電磁波遮断性能と、良好な透光性と、耐久性とを備えた光学物品を提供できる。
【0115】
本発明は上記の実施例に限定されるものではない。例えば、上記のグループ(1a)の例では、ZrO2層の上(外側)にTiOx層を形成し、その後、TiOx層に炭酸ガスイオンビームを照射することによりカーバイド層を形成しているが、カーバイド層の形成方法はこれらに限定されるものではない。使用する第1のガスも、二酸化炭素ガスに限定されるものではない。
【0116】
例えば、Cを含むガスに適当なエネルギーを与えてイオン化し、TiOx層の表面にイオンビームとして照射することによっても、TiOx層の表面からその一部または全域にC(炭素)原子が注入(添加)され、TiOxとミキシングされる。これにより、下地の材料であるTiOxとC(炭素)原子とが化学反応を起こし、表面の近傍またはそれ以上の深部までが改質される。典型的には、TiOx層のTi原子とC原子とが反応し、チタンカーバイドが形成されると考えられる。
【0117】
帯電防止性能および/または電磁波遮断性能を与えるためには、チタンカーバイドは、必ずしも所定の層(例えばTiOx層)の表面全体に存在しなくてもよく、部分的に存在すればよい。また、チタンカーバイドの酸化物という状態で存在してもよい。このようなカーバイド層(カーバイドを含む層)33が存在することにより、反射防止層3の抵抗値を低減でき、導電性を高めることができる。このため、カーバイド層(カーバイドを含む層)33を設ける位置は、最外の高屈折率層32の表面(外側)に限定されず、反射防止層3のいずれかの層の表面あるいは層間に設ければよく、さらに、複数の層上にそれぞれカーバイド層を形成してもよい。
【0118】
チタンカーバイドに限らず、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドは一般に低抵抗であり、シリコンあるいは含有シリコン化合物が多く用いられる反射防止層との親和性もよい。
ケイ素(シリコン)およびゲルマニウムは、炭素と同じ第IV族元素であり、同様の電子構造を有する。ゲルマニウムおよびケイ素は、炭素と同様に電気的抵抗が小さく、さらに、炭素と同様に遷移金属と低抵抗の化合物を形成する。すなわち、炭素、ケイ素、あるいはゲルマニウムの少なくともいずれかを注入(添加、ドープ)することにより、所定の層の少なくとも表層域を低抵抗化することが可能である。そして、このようにして形成された層は、化学的および機械的に比較的安定であって、帯電防止性能および電磁シールド性能に優れ、ごみの付着を抑制でき、さらに、光学的性質の低下もほとんどない。
【0119】
したがって、ZrO2層およびTiO2層に限らずに、他の金属酸化物の層の表面であっても、C(炭素)原子、Si(ケイ素)原子(金属シリコン)、Ge(ゲルマニウム)原子(金属ゲルマニウム)の少なくともいずれかを含む透光性薄膜を物理的蒸着により形成することは有効である。
【0120】
このような透光性薄膜は、例えば、SiOx層などの遷移金属酸化物層(遷移金属酸化物薄膜)や、低屈折率層として機能するSiO2層の表面に、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化して照射(イオンビームを照射)することにより形成することができる。すなわち、このようにすることにより、カーバイド、シリサイド、ゲルマニドの少なくともいずれかを含む層(透光性薄膜)を形成することができる。
【0121】
また、イオン化して照射する際に有用な気体(第1の気体)は二酸化炭素ガス(炭酸ガス)に限定されない。その他の第1の化合物群に含まれる種としては、遷移金属カーバイドを含む透光性薄膜33を形成する場合に適した例としては、一酸化炭素、アセチレン、メタン、エタン、四フッ化炭素などが挙げられる。遷移金属シリサイドを含む透光性薄膜33を形成する場合に適した例としては、シラン(SiH4)、四塩化ケイ素(SiCl4)、四フッ化ケイ素(SiF4)などを第1の化合物群に含まれる種として挙げることができる。遷移金属ゲルマイドを含む透光性薄膜33を形成する場合に適した例としては、四塩化ゲルマニウム(GeCl4)、ゲルマン(水素化ゲルマニウム、GeH4)、四フッ化ゲルマニウム(GeF4)などを第1の化合物群に含まれる種として挙げることができる。
【0122】
カーバイドなどと称される有機遷移金属の例としては、SiC、TiC、ZrC、HfC、VC、NbC、TaC、Mo2C、W2C、WC、NdC2、LaC2、CeC2、PrC2、SmC2などを挙げることができる。
【0123】
シリサイドなどと称される遷移金属ケイ化物(金属間化合物)の例としては、ZrSi、CoSi、WSi、MoSi、NiSi、TaSi、NdSi、Ti3Si、Ti5Si3、Ti5Si4、TiSi、TiSi2、Zr3Si、Zr2Si、Zr5Si3、Zr3Si2、Zr5Si4、Zr6Si5、ZrSi2、Hf2Si、Hf5Si3、Hf3Si2、Hf4Si3、Hf5Si4、HfSi、HfSi2、V3Si、V5Si3、V5Si4、VSi2、Nb4Si、Nb3Si、Nb5Si3、NbSi2、Ta4.5Si、Ta4Si、Ta3Si、Ta2Si、Ta5Si3、TaSi2、Cr3Si、Cr2Si、Cr5Si3、Cr3Si2、CrSi、CrSi2、Mo3Si、Mo5Si3、Mo3Si2、MoSi2、W3Si、W5Si3、W3Si2、WSi2、Mn6Si、Mn3Si、Mn5Si2、Mn5Si3、MnSi、Mn11Si19、Mn4Si7、MnSi2、Tc4Si、c3Si、Tc5Si3、TcSi、TcSi2、Re3Si、Re5Si3、ReSi、ReSi2、Fe3Si、Fe5Si3、FeSi、FeSi2、Ru2Si、RuSi、Ru2Si3、OsSi、Os2Si3、OsSi2、OsSi1.8、OsSi3、Co3Si、Co2Si、CoSi2、Rh2Si、Rh5Si3、Rh3Si2、RhSi、Rh4S5、Rh3Si4、RhSi2、Ir3Si、Ir2Si、Ir3Si2、IrSi、Ir2Si3、IrSi1.75、IrSi2、IrSi3、Ni3Si、Ni5Si2、Ni2Si、Ni3Si2、NiSi2、Pd5Si、Pd9Si2、Pd4Si、Pd3Si、Pd9Si4、Pd2Si、PdSi、Pt4Si、Pt3Si、Pt5Si2、Pt12Si5、Pt7Si3、Pt2Si、Pt6Si5、PtSiなどを挙げることができる。
【0124】
ゲルマニドなどと称される遷移金属ゲルマニウム化物(金属間化合物)の例としては、NaGe、AlGe、KGe4、TiGe2、TiGe、Ti6Ge5、Ti5Ge3、V3Ge、CrGe2、Cr3Ge2、CrGe、Cr3Ge、Cr5Ge3、Cr11Ge8、MnGe、Mn5Ge3、CoGe、CoGe2、Co5Ge7、NiGe、CuGe、Cu3Ge、ZrGe2、ZrGe、RbGe4、NbGe2、Nb2Ge、Nb3Ge、Nb5Ge3、Nb3Ge2、NbGe2、Mo3Ge、Mo3Ge2、Mo5Ge3、Mo2Ge3、MoGe2、CeGe4、RhGe、PdGe、AgGe、Hf5Ge3、HfGe、HfGe2、TaGe2、PtGeなどを挙げることができる。
【0125】
中でも、反射防止層の高屈折率層として使用されることが多い、ジルコニウム(Zr)系のカーバイド、シリサイド、およびゲルマイド、タンタル(Ta)系のカーバイド、シリサイド、およびゲルマイド、ネオジム(Nd)系のカーバイド、シリサイド、およびゲルマイド、ニオブ(Nb)系のカーバイド、シリサイド、およびゲルマニドなどは有用である。
【0126】
3. 第1の方法によるSiO2−TiO2系の反射防止層を備えたサンプルの製造
3.1 実施例7(サンプルS7)
低屈折率層31としてSiO2層、高屈折率層32としてTiO2層を採用した反射防止層3を備えたサンプルを製造した。さらに、以下に詳述するが、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層として、その表面に炭酸ガスをイオン化して照射する第1の方法により、最上(最外)の高屈折率層32の表面に透光性薄膜33を形成している。SiO2−TiO2系の反射防止層3に、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する方法(第1の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(1b)と呼ぶ。
【0127】
図11に、光学的には7層構造の反射防止層3を含むレンズの構成例を、基材を中心とした一方の面の側の断面図により示している。
【0128】
3.1.1 レンズ基材の選択およびハードコート層の成膜
上記の実施例1と同様にレンズ基材1を選択した。そして、上記の実施例1と同様にして、レンズ基材1の上にハードコート層2を形成した(2.1.1参照)。
【0129】
3.1.2 反射防止層
実施例1と同様の蒸着装置100を用いて、以下のような多層構造の無機系の反射防止層3を成膜した。レンズ基材1の上にハードコート層2が形成されたサンプル10に実施例1と同じ前処理を施し、真空容器110の内部を十分に真空排気した後、電子ビーム真空蒸着法により、低屈折率層31および高屈折率層32を交互に積層して多層構造の無機系の反射防止層3を製造した。
【0130】
(低屈折率層)
第1層、第3層および第5層は低屈折率層31であり、イオンアシストは行わず、真空蒸着によりSiO2層を成膜した。成膜レートは2.0nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は100mAとした。
【0131】
(高屈折率層)
第2層、第4層および第6層は高屈折率層32であり、TiO2を、酸素ガスを導入しながらイオンアシスト蒸着を行い、TiO2層を成膜した。成膜レートは0.4nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は360mAとした。
【0132】
(カーバイドを含む層(透光性薄膜))
図12(A)および(B)は、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層とし、その表面にカーバイドを含む層の形成を模式的に示している。図12(A)および(B)は蒸着装置100においてカーバイドを含む層(透光性薄膜)33を形成する様子を示しており、高屈折率層32と透光性薄膜33との上下関係は図11に示したレンズサンプル10とは逆転して示されている。レンズサンプル10上に、第1層31、第2層32、第3層31、第4層32、第5層31、第6層32を成膜した後、蒸着装置100を用い、カーバイドを含む層、本例では、チタンカーバイド(典型的には、TiCであり、その他TiOCなどを含む)を含む層33を第7層(導電層)として形成した。
【0133】
具体的には、酸素ガスに代わり、二酸化炭素(CO2)ガスを使用し、二酸化炭素(CO2)ガス(炭酸ガス)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素(CO2)ガスの流量を15sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を200mAとした。これにより形成される炭酸ガスイオンビームを、第6層(TiO2層)32に対して照射した。炭酸ガスイオンビームの照射時間は120秒とした(図12(A))。
【0134】
このようにすることにより、第6層(TiO2層)32の表層域にチタンカーバイド(典型的にはTiC)が形成される(図12(B))。すなわち、本例では、第6層32が第1の層であり、第6の層32の表層域のチタンカーバイド(典型的にはTiC)が形成された領域がカーバイドを含む層(透光性薄膜)33となる。
【0135】
(低屈折率層)
カーバイド層33の上に、第1層、第3層および第5層と同じ条件でSiO2を真空蒸着し、低屈折率層(第8層)31を成膜した。成膜レートは2.0nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は100mAとした。
【0136】
これらの工程において、反射防止層3の光学的性能を決める第1〜第6層および第8層の層厚は、44nm、10nm、57nm、36nm、25nm、36nm、101nmに管理した。カーバイド層33の層厚は、イオン銃118の電圧値および電流値(第1のガスに与えるイオンエネルギーおよびイオン電流)と、炭酸ガスイオンビームの照射時間とにより管理した。第6層(36nm)の表層部が層構造としては第7層であるカーバイド層33となり、本例においては、その層厚は、1〜5nm程度であると予想される。
【0137】
上述した層構造、すなわち、第1層、第3層、第5層および第8層がSiO2層、第2層、第4層および第6層がTiO2層、そして、最外の高屈折率層32の表層がカーバイド層(第7層)33である層構造を、以降、タイプB1の層構造と呼ぶことにする。図13に、B1および後述するB2、B3−1〜B3−6のタイプの反射防止層の層構造を纏めて示してある。
【0138】
3.1.3 防汚層
カーバイド層33を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。
【0139】
3.2 実施例8(サンプルS8)
実施例8は、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例7と同じ条件で形成し、サンプルS8を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0140】
3.3 実施例9(サンプルS9)
実施例9では、実施例7と同じ条件でレンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3および防汚層4を形成し、サンプルS9を製造した。ただし、カーバイド層(第7層)33の形成においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素(CO2)ガスの流量を15sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを500eV、イオン電流を200mAとした。また、TiO2層(第6層)32への炭酸ガスイオンビームの照射時間は120秒とした。
【0141】
3.4 実施例10(サンプルS10)
実施例10では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例9と同じ条件で形成し、サンプルS10を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0142】
3.5 実施例11(サンプルS11)
実施例11では、実施例7と同じ条件でレンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3および防汚層4を形成し、サンプルS11を製造した。ただし、カーバイド層(第7層)33の形成においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を流量30sccmとして真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を150mAとした。TiOx層33aへの炭酸ガスイオンビームの照射時間は20秒とした。
【0143】
3.6 実施例12(サンプルS12)
実施例12では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例11と同じ条件で形成し、サンプルS12を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0144】
3.7 比較例4、5(サンプルR4、R5)
上記の実施例により得られたレンズサンプルおよびガラスサンプルと比較するために、実施例7および実施例8と同様にレンズサンプルR4およびガラスサンプルR5を製造した。ただし、カーバイド層の形成(3.1.2参照)は行わなかった。すなわち、比較例4により製造されたレンズサンプルR4は、レンズ基材と、ハードコート層と、カーバイド層を含まないタイプB2の反射防止層と、防汚層とを含む。比較例5により製造されたガラスサンプルR5は、ガラス基材と、カーバイド層を含まないタイプB2の反射防止層とを含む。ガラスサンプルR5は、ハードコート層および防汚層は形成しなかった。タイプB2の反射防止層の各層の層厚は、タイプB1の反射防止層の各層の層厚と同じである(図13参照)。
【0145】
3.8 比較例6〜11(サンプルR6〜R11)
上記の実施例により得られたレンズサンプルと比較するために、さらに、透明な導電層としてITO(酸化インジウムスズ)層を備えたレンズサンプルR6〜R11を製造した。これらのレンズサンプルR6〜R11は、実施例7と同様に、レンズ基材の上にハードコート層2、反射防止層3および防汚層4を形成した。反射防止層3の低屈折率31および高屈折率32の厚みは図13に纏めて示す通りである。
【0146】
さらに、第6層(TiO2層)の成膜後に、酸化インジウムスズ(ITO)をイオンアシスト真空蒸着により成膜した。ITO層の成膜の際は、電子銃の加速電圧を7kV、電流値を50mAとした。ITO膜の酸化を促進させるために、真空容器内に毎分15ミリリットルの酸素ガスを導入し、酸素雰囲気とした。また、イオン銃へは毎分35ミリリットルで酸素ガスを導入し、電圧値を500V、電流値を250mAとして、レンズサンプルに酸素イオンビームを照射した。ITO層の成膜レートは0.1nm/secとした。このように、ITO層を含む反射防止層は8層構造になる。この8層構造で、ITO層を含むタイプの層構造をタイプB3と呼ぶことにする。なお、図13に示すように、ITO層の層厚は、サンプルR6〜R11において、2.5、3.5、5、7、10および15nmと変えた。このため、図13においてはタイプB3−1〜B3−6と記載して区別することにする。
【0147】
3.9 サンプル評価
サンプルS7〜S12およびR4〜R11について、サンプルS1〜S6と同様に、シート抵抗、ごみの付着試験、吸収損失、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した(2.10参照)。図14に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0148】
サンプルR4およびR5の測定結果が示すように、従来のレンズサンプルおよびガラスサンプルでは、シート抵抗は5×1013[Ω/□]であった。反射防止層にITO層を含めたレンズサンプルR6〜R11では、ITO層の厚みに依存はするが、シート抵抗は1.5×1011[Ω/□]〜2×1013[Ω/□]となった。
【0149】
これらに対し、反射防止層3の1つの層としてカーバイド層33を形成したサンプルS7〜S12においては、シート抵抗が2×109[Ω/□]〜1×1010[Ω/□]であった。このように、サンプルS7〜S12においては、シート抵抗が従来のサンプルR4およびR5と比較して、3桁〜4桁(103〜104)程度小さくなった。すなわち、サンプルS7〜S12においては、従来と比較して、シート抵抗が1/103〜1/104になった。また、サンプルS7〜S12は、サンプルR6〜R11と比較しても、1桁〜4桁(101〜104)程度小さくなった。
【0150】
したがって、サンプルS7〜S12は、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011[Ω/□]以下、さらに、1×1010[Ω/□]以下であり、非常に優れた帯電防止性を備えていることがわかる。ごみの付着試験においても、カーバイド層33を形成したサンプルS7〜S12の評価はすべて○であり、帯電防止効果に優れていることが確かめられた。ITO層を形成した幾つかのサンプルR8〜R11は○であり、ある程度の帯電防止効果を示している。しかしながら、ITO層を形成したサンプルR7は△であり、ITO層を形成したサンプルR6(シート抵抗が2×1013[Ω/□])および導電的な膜(層)を何も形成していないサンプルR4およびR5(シート抵抗値が5×1013[Ω/□])はいずれも×であり、帯電防止効果が劣っていることがわかった。
【0151】
また、グループ(1b)の各サンプルS8、S10およびS11においても、カーバイド層33を形成することにより若干吸収損失が上昇する傾向がみられる。しかしながら、最大でも0.79%程度であり、十分に透光性は高く、反射防止層3の透光性に大きな影響を与えるほど光吸収損失は増加していない。したがって、カーバイド層33を含む層構造B1の反射防止層3を備えたレンズ10は、眼鏡用のレンズとして十分に使用できる。
【0152】
耐薬品性においては、図14に示すようにカーバイド層33を含むサンプルS7〜S12の評価はすべて○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。一方、ITO層を成膜したサンプルR6〜R11の評価はすべて×であり、ITO層を成膜することによりサンプルの耐薬品性が低下することがわかる。
【0153】
むくみの発生(耐湿性)の評価においては、図14に示すようにカーバイド層33を含むサンプルS7〜S12についてはむくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。一方、ITO層を成膜したサンプルR6〜R11については、ITO層の層厚が厚くなるとむくみの発生がみられた。これは、ITO層を成膜することによりサンプルの耐湿性が低下する可能性があることを示している。
【0154】
3.10 考察
以上の各測定結果および評価より、タイプB1の反射防止層3を有するグループ(1b)のサンプルS7〜S12についても、タイプA1の反射防止層3を有するグループ(1a)のサンプルS1〜S6と同様に、シート抵抗が大幅に低下し、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化はないものであることが確認できた。したがって、反射防止層3のタイプに限らず、予め設けられた遷移金属酸化物層(上記の例では高屈折率層32)の表面に第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する方法(第1の方法)によりカーバイド層33を設けることにより帯電防止などの特性を持ち、さらに、耐久性の良い光学物品を提供できる。
【0155】
4. 第1の方法による有機系の反射防止層を備えたサンプルの製造
4.1 実施例13(サンプルS13)
有機系の反射防止層3Aを備えたサンプルを製造した。以下に詳述するが、有機系の層35の表面にTiOxを遷移金属酸化物薄膜として積層(形成)し、TiOxの薄膜に炭酸ガス(二酸化炭素の気体)を第1の気体として使用し、炭酸ガスをイオン化して照射する第1の方法により有機系の層35の表面に透光性薄膜33を形成している。有機系の反射防止層3Aに、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する第1の方法により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(1c)と呼ぶ。図15に、有機系の反射防止層35を備えたサンプルS13の概略構成を示している。
【0156】
4.1.1 レンズ基材の選択およびハードコート層の成膜
上記の実施例1と同様のレンズ基材1を選択した。そして、上記の実施例1と同様にして、レンズ基材1の上にハードコート層2を形成した(2.1.1参照)。
【0157】
4.1.2 反射防止層
上記ハードコート層2の表面に、有機系の層35とカーバイド層33とを含む反射防止層3Aを形成した。
【0158】
(有機系の層(有機系の反射防止層)35)
化学式(CH3O)3Si−C2H4−C6F12−C2H4−Si(OCH3)3で表されるフッ素含有シラン化合物47.8重量部(0.08モル)に、有機溶剤としてメタノール312.4重量部、フッ素を含有しないシラン化合物であるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン4.7重量部(0.02モル)を加え、さらに0.1規定の塩酸水溶液36重量部を加えて混合した。その後、設定温度が25℃の恒温槽内で2時間攪拌して、固形分比率が10重量%のシリコンレジンを得た。
【0159】
このシリコンレジンに、内部に空洞を有するシリカ微粒子として、中空シリカ−イソプロパノール分散ゾル(触媒化成工業(株)製、固形分比率:20重量%、平均粒子径:35nm、外殻厚み:8nm)を、シリコンレジンと中空シリカとの固形分比率が70:30となるように配合した。さらに、分散媒として、プロピレングリコールモノメチルエーテル935重量部を加えて希釈し、固形分が3重量%の組成物を得た。
【0160】
そして、この組成物に、アルミニウム(Al(III))を中心金属とする金属錯塩として、アルミニウムのアセチルアセトン(Al(acac)3)を、最終組成物(有機系反射防止層を形成するコーティング組成物)に対する固形分比率が3重量%となるように加えた後、4時間攪拌した。これにより、有機系反射防止層を形成するコーティング組成物としての反射防止処理液を得た。
【0161】
ハードコート層2が形成されたレンズサンプル10を、大気プラズマによりプラズマ処理した。その後、上記で得られた反射防止処理液を、ハードコート層2の表面に、乾燥層厚が85nmとなるように、スピナー法を用いて塗布した。そして、温度125℃に保たれた恒温槽内に2時間投入して、塗布された反射防止処理液の硬化を行った。これにより、ハードコート層2の上に有機系反射防止層35を形成した。
【0162】
(カーバイド層)
有機系反射防止層35を成膜後、上記蒸着装置100を用いて、イオンアシスト蒸着ではなく、通常の真空蒸着工程により、有機系反射防止層35上に厚さ2nm程度のTiOX層を作り、さらに、このTiOX層に炭酸ガスイオンビームを照射し、導電性の高い光透性薄膜33を形成した。
【0163】
詳しくは、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を流量30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを500eV、イオン電流を200mAとした。これにより生成された炭酸ガスイオンビームを、有機系反射防止層35の表面に成膜したTiOX層に60秒照射した。このようにすることにより、TiOX層中にチタンカーバイド(典型的にはTiC)が形成される。
【0164】
4.1.3 防汚層
カーバイド層33を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。
【0165】
このようにして、プラスチック基材1、ハードコート層2、有機系反射防止層35およびカーバイド層33を含む反射防止層3A、さらに防汚層4を有するレンズサンプルS13を製造した。
【0166】
4.2 サンプルの評価
サンプルS13について、上記実施例と同様に、シート抵抗、ごみの付着試験、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した(2.10参照)。図16に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0167】
シート抵抗の測定値は、2×1011[Ω/□]であり、優れた帯電防止性能が得られた。また、耐薬品性は○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。むくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0168】
4.3 考察
以上の各測定結果および評価より、有機系反射防止層35を備える反射防止層3Aにおいても、予め遷移金属酸化物層(上記の例では、事前に追加されたTiOX層)に第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する方法(第1の方法)により、有機系の反射防止層3Aにおいても導電性のカーバイド層33を形成することができ、それによりシート抵抗を下げられることがわかった。その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化もないことがわかった。これにより、サンプルS13は、帯電防止などの特性を持ち、さらに、耐久性の良い光学物品であることがわかった。
【0169】
このように、無機系の層に限らず、有機系の層においても、カーバイド層33を設けることにより、優れた帯電防止性能および電磁波遮断性能と、耐久性とを備えた光学物品を提供できる。
【0170】
5. 第2の方法によるSiO2−ZrO2系の反射防止層を備えたサンプルの製造
上記の例とは異なり、TiO2を遷移金属酸化物の蒸着源とし、炭酸ガスを第1の気体として蒸着の際のイオンアシストガスとして用い、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層として、その表面に透光性薄膜を形成する方法(第2の方法)により、低屈折率層31としてSiO2層、高屈折率層32としてZrO2層を採用したタイプA1の反射防止層3を備えたサンプルを製造した。SiO2−ZrO2系の反射防止層3の1つの層32の上に、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化してイオンアシストガスとして用い、カーバイド層を生成する方法(第2の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(2a)と呼ぶ。
【0171】
5.1 実施例14(サンプルS14)
5.1.1 レンズ基材の選択およびハードコート層の成膜
上記の実施例1と同様にレンズ基材1を選択し、上記の実施例1と同様にして、レンズ基材1の上にハードコート層2を形成した(2.1.1参照)。
【0172】
5.1.2 反射防止層の成膜
ハードコート層2の上に、タイプA1の反射防止層3を成膜した。すなわち、実施例1と同じ条件(2.1.2.2)で、第1層および第3層の低屈折率層31と、第2層および第4層の高屈折率層32を成膜した。
【0173】
(カーバイドを含む層(透光性薄膜))
さらに、最外の高屈折率層32を第1の層として、その表面(表層)にカーバイドを含む層33を成膜した。
【0174】
図17(A)および(B)は、カーバイドを含む層33を形成する模式的に示している。図17(A)および(B)は蒸着装置100においてカーバイドを含む層(透光性薄膜)33を形成する様子を示しており、高屈折率層32と透光性薄膜33との上下関係は図1に示したレンズサンプル10とは逆転して示されている。したがって、レンズサンプル10上に、第1層31、第2層32、第3層31および第4層32を成膜した後、蒸着装置100を用い、カーバイド層(チタンカーバイドを含む層)33を第5層(導電層、透光性薄膜)として成膜する様子を示している。
【0175】
カーバイド層33は、次のようにして成膜した。酸化チタンTiO2の焼結体材料を蒸着源とし、これに熱電子を照射して蒸発させ、蒸発させた酸化チタンを、炭酸ガスイオンビームを用いて、第4層32の上にイオンアシスト蒸着した(図17(A))。蒸着源はTiOx(0<X≦2)であってもよい。炭酸ガスイオンビームは、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入した。蒸着装置100のイオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を200mAとした。
【0176】
炭酸ガスイオンビームをイオンアシストに用いることにより、CO2、CO、およびCを含む炭酸ガスイオンがTiO2またはTiOxとともに基層(第1の層)となる高屈折率の第4層32に積層される。このため、TiO2またはTiOxに含まれるチタン(Ti)原子と、炭酸ガスイオンビームに含まれる炭素(C)原子とによって、第4層32の上にチタンカーバイド(典型的にはTiC)を含む層(カーバイド層)33が形成される(図17(B))。本例では、層厚が7.2nmのカーバイド層33を形成した。
【0177】
さらに、カーバイド層33の上に、第6層として、第1および第3層と同様の条件で、SiO2層(低屈折率層31)を成膜した。
【0178】
これらの工程において、タイプA1の反射防止層3を形成するため、光学的性能を主に決める第1〜第4層および第6層の層厚は、それぞれ、150nm、30nm、21nm、55nm、85nmに管理した。第4層32の表層を形成するカーバイド層(第5層)33の厚みは、適当な導電性を得るために変えることができ、このサンプルS14においては厚みを7.2nmとした。
【0179】
5.1.3 防汚層の成膜
反射防止層3を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。
【0180】
このようにして、プラスチック基材1、ハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、防汚層4を有するレンズサンプルS14を得た。
【0181】
5.2 実施例15(サンプルS15)
実施例15では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例14と同じ条件で形成し、サンプルS15を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0182】
5.3 実施例16(サンプルS16)
実施例16では、実施例14と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS16を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜において、実施例14と同じ条件(5.1.2)で層厚を5.0nmとした。
【0183】
5.4 実施例17(サンプルS17)
実施例17では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例16と同じ条件で形成し、サンプルS17を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0184】
5.5 実施例18(サンプルS18)
実施例18では、実施例14と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS18を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を150mAとし、炭酸ガスイオンビームを生じさせた。その他は、実施例14と同じ条件(5.1.2)で、カーバイド層33の層厚を7.2nmに設定した。
【0185】
5.6 実施例19(サンプルS19)
実施例19では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例18と同じ条件で形成し、サンプルS19を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0186】
5.7 実施例20(サンプルS20)
実施例20では、実施例14と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS20を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAとした。その他は、実施例14と同じ条件(5.1.2)とした。カーバイド層33の層厚は7.2nmに設定した。
【0187】
5.8 実施例21(サンプルS21)
実施例21は、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例20と同じ条件で形成し、サンプルS21を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0188】
5.9 実施例22(サンプルS22)
実施例22では、実施例14と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS22を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAとし、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例14と同じ条件(5.1.2)とした。カーバイド層33の層厚は、10nmに設定した。
【0189】
5.10 実施例23(サンプルS23)
実施例23では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例22と同じ条件で形成し、サンプルS23を製造した。
【0190】
5.11 実施例24(サンプルS24)
実施例24では、実施例14と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS24を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、この混合ガスのイオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAとし、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例14と同じ条件(5.1.2)とした。カーバイド層33の層厚は10nmに設定した。
【0191】
5.12 実施例25(サンプルS25)
実施例25は、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例24と同じ条件で形成し、サンプルS25を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0192】
5.13 サンプル評価
上記2.10で説明したのと同様に、サンプルS14〜S25について、シート抵抗、ごみの付着試験、吸収損失、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した。図18および図19に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0193】
反射防止層3の1つの層32の表面にカーバイド層33を形成したサンプルS14〜S25においては、シート抵抗が2×108[Ω/□]〜2×1010[Ω/□]であった。これらのサンプルS14〜S25において、シート抵抗は、カーバイド層33の層厚が厚いほど小さくなる傾向がある。カーバイド層33の層厚が同じであれば、二酸化炭素とともにアルゴンガスを導入したサンプルの方が、シート抵抗が小さくなる傾向がある。
【0194】
図5に示したサンプルR1〜R3との比較は、サンプルS14〜S25において、シート抵抗が2桁〜6桁(102〜106)程度小さくなった。すなわち、サンプルS14〜S25においては、サンプルR1〜R3と比較して、シート抵抗が1/102〜1/106になった。このように、カーバイド層33を形成することによって導電性が得られ、サンプル表面の抵抗を大幅に低下できることがわかった。
【0195】
また、これらのサンプルS14〜S25は、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011[Ω/□]以下、さらに、1×1010[Ω/□]以下であり、非常に優れた帯電防止性および電磁遮蔽効果を備えていることがわかる。したがって、サンプルS14、S16、S18、S20、S22、S24は、それぞれ、眼鏡用のレンズとして好適であり、良好な帯電防止効果および電磁遮蔽効果があると言える。
【0196】
帯電防止効果は、ごみの付着試験で、図18および図19に示すように、サンプルS14〜S25の評価はすべて○であることにより確認できた。また、図18および図19に示すように、カーバイド層33を形成することにより若干吸収損失が上昇する傾向がみられる。しかしながら、最大でも1.7%程度であり、十分に透光性は高く、反射防止層3の透光性に大きな影響を与えるほど光吸収損失は増加していない。したがって、眼鏡用のレンズとして十分に使用できる。たとえば、帯電防止および透光性の双方をメリットという点を考慮するのであれば、サンプルS19は十分にシート抵抗が小さく、吸収損失も0.36%と小さいサンプルである。
【0197】
耐薬品性においては、図18および図19に示すように、サンプルS14〜S25の評価はすべて○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。また、むくみの発生(耐湿性)の評価においても、図18および図19に示すように、サンプルS14〜S25についてはむくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0198】
5.14 考察
以上の各測定結果および評価より、サンプルS14〜S25については、サンプルS1〜S13と同様に、シート抵抗が大幅に低下し、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化はないことがわかった。すなわち、反射防止層3の1つの層32の上に、蒸着源として遷移金属酸化物を用い、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化してイオンアシストガスとしてイオンアシスト蒸着する方法(第2の方法)で、導電性のカーバイド層33を形成することができ、従来とほぼ同等の吸収損失で透光性であり(透明であり)、良好な耐久性を有し、しかも、帯電防止性能および電磁波遮蔽性能の優れた光学物品を提供できることが分かった。
【0199】
6. 第2の方法によるSiO2−TiO2系の反射防止層を備えたサンプルの製造
TiO2を遷移金属酸化物の蒸着源とし、炭酸ガスを第1の気体として蒸着の際のイオンアシストガスとして用い、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層として、その表面に透光性薄膜を形成する方法(第2の方法)により、低屈折率層31としてSiO2層、高屈折率層32としてTiO2層を採用したタイプB1の反射防止層3を備えたサンプルを製造した。SiO2−TiO2系の反射防止層3に、イオン化してイオンアシストガスとして用い、カーバイド層を生成する方法(第2の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(2b)と呼ぶ。
【0200】
6.1 実施例26(サンプルS26)
上記の実施例7と同様にレンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を成膜した。ただし、レンズサンプル10上に、低屈折率の第1層31、高屈折率の第2層32、低屈折率の第3層31、高屈折率の第4層32、低屈折率の第5層31、高屈折率の第6層32を成膜した後、蒸着装置100を用い、第6層32の表面にカーバイド層(チタンカーバイドを含む層)33を第7層(透光性薄膜、導電層)として成膜した。
【0201】
カーバイド層33の成膜方法は、実施例14と同様であり、酸化チタンTiO2の焼結体材料を蒸着源とし、これに熱電子を照射して蒸発させ、蒸発させた酸化チタンを、炭酸ガスイオンビームを用いて、第4層32の上にイオンアシスト蒸着した(図17(A))。蒸着源はTiOx(0<X≦2)であってもよい。炭酸ガスイオンビームは、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入した。蒸着装置100のイオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を200mAとした。本例では、第6層32の層厚と第7層33の層厚との合計がおおよそ36nmとなるように、第6層の層厚を29nm、第7層33の層厚を7.2nmに設定した(図21参照)。
【0202】
なお、実施例7と同様に、カーバイド層33の上に、第1層、第3層および第5層と同じ条件でSiO2を真空蒸着し、低屈折率層(第8層)31を成膜した。
【0203】
これらの工程において、タイプB1の反射防止層3を形成するため、第1〜第5、第6および第7層の合計厚み、および第8層の層厚を、それぞれ、44nm、10nm、57nm、36nm、25nm、36nm、101nmに管理した。
【0204】
6.2 実施例27(サンプルS27)
実施例27では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例26と同じ条件で形成し、サンプルS27を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0205】
6.3 実施例28(サンプルS28)
実施例28では、実施例26と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS28を製造した。ただし、第6層32の層厚は31nmとし、カーバイド層(第7層)33を実施例26と同じ条件で行い、層厚は5.0nmとした。
【0206】
6.4 実施例29(サンプルS29)
実施例29は、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例28と同じ条件で形成し、サンプルS29を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0207】
6.5 実施例30(サンプルS30)
実施例30では、実施例26と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS30を製造した。ただし、第6層32の層厚は29nmとし、カーバイド層33の層厚は7.2nmとした。また、カーバイド層(第7層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を150mAとし、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例26と同じ条件とした。
【0208】
6.6 実施例31(サンプルS31)
実施例31では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例30と同じ条件で形成し、サンプルS31を製造した。
【0209】
6.7 実施例32(サンプルS32)
実施例32では、実施例26と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS32を製造した。ただし、第6層32の層厚は29nmとし、カーバイド層33の層厚は7.2nmとした。カーバイド層(第7層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAに設定し、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例26と同じ条件とした。
【0210】
6.8 実施例33(サンプルS33)
実施例33は、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例32と同じ条件で形成し、サンプルS33を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0211】
6.9 実施例34(サンプルS34)
実施例34では、実施例26と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS34を製造した。ただし、第6層32の層厚は26nmとし、カーバイド層33の層厚は10.0nmとした。カーバイド層(第7層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAに設定し、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例26と同じ条件とした。
【0212】
6.10 実施例35(サンプルS35)
実施例35では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例34と同じ条件で形成し、サンプルS35を製造した。
【0213】
6.11 実施例36(サンプルS36)
実施例36では、実施例26と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS36を製造した。ただし、第6層32の層厚は26nmとし、カーバイド層33の層厚は10.0nmとした。また、カーバイド層(第7層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、この混合ガスのイオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAとし、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例26と同じ条件とした。
【0214】
6.12 実施例37(サンプルS37)
実施例37では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例36と同じ条件で形成し、サンプルS37を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0215】
6.13 サンプル評価
サンプルS26〜S37について、上記2.10において説明した方法により、シート抵抗、ごみの付着試験、吸収損失、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した。図20および図21に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0216】
反射防止層3の1つの層32の表面にカーバイド層33を形成したサンプルS26〜S37においては、シート抵抗が2×108[Ω/□]〜2×1010[Ω/□]であった。なお、サンプルS26〜S37において、シート抵抗は、カーバイド層33の層厚が厚いほど小さくなる傾向がある。カーバイド層33の層厚が同じであれば、二酸化炭素とともにアルゴンガスを導入したサンプルの方が、シート抵抗が小さくなる傾向がある。
【0217】
このように、サンプルS26〜S37においては、図14に示したサンプルR4〜R11と比較して、シート抵抗が1桁〜5桁(101〜105)程度小さくなった。すなわち、サンプルS26〜S37においては、サンプルR4〜R11と比較して、シート抵抗が1/101〜1/105になった。このように、カーバイド層33を形成することによって大幅にシート抵抗を低下できることがわかった。また、サンプルS26〜S37は、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011[Ω/□]以下、さらに、1×1010[Ω/□]以下であり、非常に優れた帯電防止性および電磁波遮蔽効果を備えていることがわかる。したがって、サンプルS26、S28、S30、S32、S34、S36は、それぞれ、眼鏡用のレンズとして好適であり、良好な帯電防止効果および電磁遮蔽効果があると言える。
【0218】
ごみの付着試験においても、図20および図21に示すように、サンプルS26〜S37の評価はすべて○であり、帯電防止効果に優れていることが確認できた。また、図20および図21に示すように、カーバイド層33を形成することにより若干吸収損失が上昇する傾向がみられる。しかしながら、最大でも1.7%程度であり、十分に透光性は高く、反射防止層3の透光性に大きな影響を与えるほど光吸収損失は増加していない。したがって、眼鏡用のレンズとして十分に使用できる。
【0219】
耐薬品性においては、図20および図21に示すように、サンプルS26〜S37の評価はすべて○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。また、むくみの発生(耐湿性)の評価においては、図20および図21に示すように、サンプルS26〜S37についてはむくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0220】
6.14 考察
以上の各測定結果および評価より、サンプルS26〜S37では、サンプルS1〜S25と同様に、シート抵抗が大幅に低下することが認められ、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化はないことがわかった。したがって、異なる系の反射防止層3においても、その1つの層32の上に、蒸着源として遷移金属酸化物を用い、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化してイオンアシストガスとしてイオンアシスト蒸着する方法(第2の方法)により導電性のカーバイド層33を形成することができることが分かった。そして、従来とほぼ同等の吸収損失で透光性であり(透明であり)、良好な耐久性を有し、しかも、帯電防止性能および電磁波遮蔽性能の優れた光学物品を提供できることがわかった。また、上記2.11で説明したように、炭素、ケイ素、ゲルマニウムを含む他の第1の気体を用いたイオンアシスト法により、カーバイド、シリサイドまたはゲルマニドを形成する遷移金属酸化物層を蒸着させることにより、上記と同様に帯電防止性能および電磁波遮蔽性能の優れた光学物品を提供できると考えられる。
【0221】
7. 第2の方法による有機系の反射防止層を備えたサンプルの製造
7.1 実施例38(サンプルS38)
有機系の反射防止層3Aを備えたサンプルを製造した。以下に詳述するが、有機系の層35の表面にTiO2を遷移金属酸化物の蒸着源とし、炭酸ガスを第1の気体として蒸着の際のイオンアシストガスとして用い、有機系の層35を第1の層として、その表面に透光性薄膜を形成する方法(第2の方法)により、透光性薄膜33を形成している。有機系の反射防止層3Aに、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化してイオンアシストガスとして用い、カーバイド層を生成する方法(第2の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(2c)と呼ぶ。
【0222】
図22に、本実施形態の典型的なレンズの構成のさらに他の例を、基材を中心とした一方の面の側の断面図により示している。
【0223】
まず、実施例14(5.1参照)と同様にレンズ基材1の上にハードコート層2を成膜し、そのハードコート層2の表面に、有機系の層35を形成した。なお、有機系反射防止層35の層厚は80nmとした。
【0224】
(保護層)
有機系反射防止層35は、中空シリカをバインダー(樹脂)で固めた構造である。このため、イオンビームを直接照射すると、中空シリカおよび/またはバインダーが破壊されるおそれがある。したがって、本例では、有機系反射防止層35の上に、層厚5nmの保護層(SiO2層)39を成膜した。
【0225】
保護層(SiO2層)39は、イオンアシストは行わず、真空蒸着により成膜した。成膜レートは2.0nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は100mAとした。
【0226】
(カーバイド層)
保護層39を成膜後、上記蒸着装置100を用いて、カーバイド層33を成膜した。カーバイド層33は、次のようにして成膜した。酸化チタンTiO2の焼結体材料を蒸着源とし、これに熱電子を照射して蒸発させ、蒸発させた酸化チタンを、炭酸ガスイオンビームを用いて、保護層39の上にイオンアシスト蒸着した。蒸着源はTiOx(0<X≦2)であってもよい。炭酸ガスイオンビームは、二酸化炭素(CO2)ガスを30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを500eV、イオン電流を200mAとし、炭酸ガスイオンビームを照射した。このようにすることにより、TiOxに含まれるチタン(Ti)原子と、炭酸ガスイオンビームに含まれる炭素(C)原子とにより、保護層39の上にチタンカーバイド(典型的にはTiC)を含む層(カーバイド層)33が形成される。本例では、カーバイド層33は、層厚が2nmとなるように設定した。
【0227】
さらに、カーバイド層33を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。このようにして、プラスチック基材1、ハードコート層2、有機系反射防止層35、保護層39、およびカーバイド層33を含む反射防止層3A、防汚層4を有するレンズサンプルS38を得た。
【0228】
7.2 サンプルの評価
サンプルS38について、上記2.10と同様の方法で、シート抵抗、ごみの付着試験、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した。図23に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0229】
シート抵抗の測定値は、1×1011[Ω/□]であり、優れた帯電防止性能が得られた。また、耐薬品性は○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。むくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0230】
7.3 考察
以上の各測定結果および評価より、有機系反射防止層35を備える反射防止層3Aにおいても、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化してイオンアシストガスとして用い、蒸着源に遷移金属酸化物を用いる方法(第2の方法)により、導電性のカーバイド層33を設けられることがわかった。そして、この方法により、シート抵抗を下げることができ、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化もないことがわかった。これにより、サンプルS38は、帯電防止などの特性を持ち、さらに、耐久性の良い光学物品であることがわかった。
【0231】
この例からも、無機系の層に限らず、有機系の層においても、カーバイド層33を設けることにより、優れた帯電防止性能および電磁波遮断性能と、耐久性とを備えた光学物品を提供できることがわかる。
【0232】
8. 第3の方法によるSiO2−ZrO2系の反射防止層を備えたサンプルの製造
上記の例とは異なり、Tiを、遷移金属を含むターゲットとし、炭酸ガスを第1の気体としてイオン化して照射し、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層として、その表面に透光性薄膜をスパッタリングにより形成する方法(第3の方法)により、低屈折率層31としてSiO2層、高屈折率層32としてZrO2層を採用したタイプA1の反射防止層3を備えたサンプルを製造した。SiO2−ZrO2系の反射防止層3の1つの層32の表面に、遷移金属を含むターゲットとし、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化した電子ビームとして用い、スパッタリングによりカーバイド層を生成する方法(第3の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(3a)と呼ぶ。
【0233】
8.1 実施例39(サンプルS39)
8.1.1 レンズ基材の選択およびハードコート層の成膜
上記の実施例1と同様にレンズ基材1を選択し、上記の実施例1と同様にして、レンズ基材1の上にハードコート層2を成膜した(2.1.1参照)。
【0234】
8.1.2 反射防止層
ハードコート層2の上に、タイプA1の反射防止層3を成膜した。すなわち、実施例1と同じ条件(2.1.2.2)で、第1層および第3層の低屈折率層31と、第2層および第4層の高屈折率層32を成膜した。
ZrO2層は以下のように成膜した。まず、チャンバー内にArを200sccm、酸素を100sccm導入し、チャンバー内の圧力を5.0×10-1Paとした。RF1.5kwを印加し放電させ、基板と対向に設置されているZrターゲットをスパッタし、スパッタ粒子を基板に堆積させる。このとき、基板表面ではZrと酸素が化学反応し、ZrO2膜とし堆積していく。
同様にSiO2層ではSiターゲットを用いて、Arを200sccm、酸素を100sccm導入し、チャンバー内の圧力を5.0×10-1Paとした。RF1.8kwを印加し放電させ、Siターゲットをスパッタする。基板表面ではSiと酸素が化学反応してSiO2が堆積していく。これらを繰り返し行うことで、ZrO2とSiO2の多層膜とする。
【0235】
(カーバイドを含む層(透光性薄膜))
さらに、最外の高屈折率層32を第1の層として、その表面(表層)にカーバイドを含む層33を成膜した。
【0236】
図24(A)および(B)は、カーバイドを含む層の形成を模式的に示している。図24(A)は、チタンターゲットに二酸化炭素ガスおよびアルゴンガスをイオン化して照射している様子を示している。図24(B)は、ZrO2層(第6層)の上にチタンカーバイドを含む層(透光性薄膜)がスパッタにより形成された様子を示している。図24(A)および(B)は蒸着装置100においてカーバイドを含む層(透光性薄膜)33を形成する様子を示しており、高屈折率層32と透光性薄膜33との上下関係は図1に示したレンズサンプル10とは逆転して示されている。したがって、レンズサンプル10上に、第1層31、第2層32、第3層31、第4層32をスパッタ成膜した後、同装置にてカーバイドを含む層、本例では、チタンカーバイド(典型的には、TiCであり、その他TiOCなどを含む)を含む層33を第5層(導電層、透光性薄膜)として成膜する様子を示している。
【0237】
カーバイド層33は、以下のようにして成膜した。チャンバー(真空容器)を十分に真空排気し、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素(CO2)ガスの流量を100sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を200sccmとしてチャンバー内に導入し、チャンバー内の圧力を5.0×10-1Paとした。そして、二酸化炭素ガスおよびアルゴンガスをイオン化し、チタンターゲット38に照射した(図24(A)参照)。これにより、チタンターゲット38からチタン(Ti)と炭素(C)を含む元素がはじき出され、第6層32の上にチタンカーバイド(典型的にはTiC)として堆積する(図24(B)参照)。この際、スパッタソースのRFパワーは1.5kWとした。このようにすることにより、第4層32の上に層厚5.0nmのカーバイド層33を成膜した。
【0238】
さらに、カーバイド層33の上に、第6層として、第1層および第3層および第5層と同じ条件でSiO2層(低屈折率層)31を成膜した。
【0239】
これらの工程において、タイプA1の反射防止層3を形成するため、光学的性能を主に決める第1〜第4層および第6層の層厚は、それぞれ、150nm、30nm、21nm、55nm、85nmに管理した。第4層32の表層を形成するカーバイド層(第5層)33の厚みは、適当な導電性を得るために変えることができ、このサンプルS39においては厚みを5.0nmに設定した。
【0240】
8.1.3 防汚層
カーバイド層33を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。
【0241】
8.2 実施例40(サンプルS40)
実施例40では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例39と同じ条件で形成し、サンプルS40を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0242】
8.3 サンプル評価
サンプルS39およびS40について、上記2.10において説明したシート抵抗、ごみの付着試験、吸収損失、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した。図25に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0243】
サンプルS39およびS40においては、シート抵抗が1×1010[Ω/□]であった。サンプルS39およびS40においては、シート抵抗が図5に示したサンプルR1〜R3と比較して、2桁〜4桁(102〜104)程度小さくなった。すなわち、サンプルS39およびS40においては、サンプルR1〜R3と比較して、シート抵抗が1/102〜1/104になった。このように、カーバイド層33を形成することによって大幅にシート抵抗を低下できることがわかった。
【0244】
サンプルS39およびS40は、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011[Ω/□]以下、さらに、1×1010[Ω/□]以下であり、非常に優れた帯電防止性を備えていることがわかる。したがって、サンプルS39は、眼鏡用のレンズとして好適であり、良好な帯電防止効果および電磁遮蔽効果があると言える。
【0245】
ごみの付着試験では、図25に示すように、サンプルS39およびS40の評価はすべて○であり、帯電防止効果に優れていることが確認された。
【0246】
また、図25に示すように、カーバイド層33を形成することにより1.0%ほど吸収損失が上昇するが、この程度であれは、十分に透光性は高い。したがって、眼鏡用のレンズとして十分に使用できると考えられる。
【0247】
耐薬品性においては、図25に示すように、サンプルS39およびS40の評価は○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。また、むくみの発生(耐湿性)の評価においては、図25に示すように、サンプルS39およびS40についてはむくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0248】
8.4 考察
以上の各測定結果および評価より、サンプルS39およびS40については、サンプルS1〜S38と同様に、シート抵抗が大幅に低下し、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化はないことがわかった。すなわち、反射防止層3の1つの層32の表面に、遷移金属を含むターゲットとし、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化した電子ビームとして用い、スパッタリングによりカーバイド層を生成する方法(第3の方法)により導電性のカーバイド層33を形成でき、従来とほぼ同等の吸収損失で透光性であり(透明であり)、良好な耐久性を有し、しかも、帯電防止性能および電磁波遮蔽性能の優れた光学物品を提供できる。
【0249】
なお、第3の方法を含む反射防止層の製造方法(カーバイド層33の成膜方法)は、第1または第2の方法を含む製造方法と同様に、SiO2−ZrO2系の反射防止層だけでなく、SiO2−TiO2系の反射防止層にも適用できる。また、カーバイド、シリサイドまたはゲルマニドを形成する遷移金属をターゲットとし、炭素、ケイ素、ゲルマニウムを含む他の第1の気体をイオン化した電子ビームを用いてスパッタリングによりカーバイド、シリサイドまたはゲルマニドを形成する遷移金属酸化物層を蒸着させることにより、上記と同様に帯電防止性能および電磁波遮蔽性能の優れた光学物品を提供できる。
【0250】
また、上記の実施例で示した反射防止層の層構造は幾つかの例にすぎず、本発明がそれらの層構造に限定されることはない。遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む層(透光性薄膜)は、例えば、3層以下、あるいは9層以上の反射防止層に適用することも可能であり、また、導入される透光性薄膜は1層に限定されない。また、高屈折率層と低屈折率層の組み合わせは、ZrO2/SiO2、TiO2/SiO2に限定されることはなく、Ta2O5/SiO2、NdO2/SiO2、HfO2/SiO2、Al2O3/SiO2などの系であってもよく、これらのいずれかの層の表面に上記透光性薄膜を形成することが可能である。
【0251】
9. 光学物品を含むシステムの例
図26に、上記のカーバイド層を含む眼鏡レンズ10と、眼鏡レンズ10が装着されたフレーム201とを含む眼鏡200を示している。また、図27に、上記のカーバイド層を含むレンズ211と、カーバイド層を含む平面のガラス212と、投射レンズ211および平面のガラス212とを通して投影する光を生成する画像形成装置、例えばLCD213とを備えたプロジェクター210を示している。また、図28に、上記のカーバイド層を含む撮像レンズ221と、カーバイド層を含む平面のガラス222と、撮像レンズ221および平面のガラス222を通して画像を取得するための撮像装置、例えばCCD223とを備えたデジタルカメラ220を示している。また、図29に、上記のカーバイド層として形成された透過層231と、光学的な方法により記録を読み書きできる記録層232とを備えた記録媒体、例えばDVD230を示している。
【0252】
本発明の光学物品は、これらのシステムの光学物品、例えば、レンズ、ガラス、プリズム、カバー層などとして多種多様な用途を備えている。なお、上記に示したシステムは例示にすぎず、当業者が本発明を利用しうる光学物品およびシステムは、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0253】
1 レンズ基材、 2 ハードコート層、 3、3A 反射防止層、 4 防汚層10、 レンズサンプル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズなどのレンズ、その他の光学材料あるいは製品などに用いられる光学物品、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズなどの光学物品においては、典型的には、種々の機能を果たすための基材(光学基材)の表面に、その基材の機能をさらに強化したり保護したりするための種々の機能を備えた層(膜)が形成されている。種々の機能を備えた層(膜)としては、例えば、レンズ基材の耐久性を確保するためのハードコート層、ゴーストおよびちらつきを防止するための反射防止層などが公知である。反射防止層の典型的なものは、ハードコート層が積層された基材の表面に異なる屈折率を持つ酸化膜を交互に積層してなる、いわゆる多層反射防止層(多層膜)である。
【0003】
特許文献1には、低耐熱性基材に好適な帯電防止性能を有する光学要素を提供することが記載されている。プラスチック製の光学基材上に複層構成の反射防止膜を備えた眼鏡レンズなどの光学要素において、反射防止膜が透明導電層を含み、該透明導電層をイオンアシスト真空蒸着により形成し、他の反射防止膜の構成層は、電子ビーム真空蒸着などにより形成することが記載されている。導電層としては、インジウム、スズ、亜鉛などのいずれか、又は2種以上の複数を成分とする無機酸化物が挙げられており、特に、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムと酸化錫との混合物)が望ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−341052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基材の表面に形成される膜あるいは層に、帯電防止、電磁遮蔽などを目的として導電性を付与するために、酸化インジウムスズ(ITO)層を挿入することが公知である。しかしながら、ITO層は、透明性と帯電防止性には優れているものの、酸やアルカリなどの薬品により侵されやすい。人の汗は塩分を含んだ酸であるため、ITO層を含む反射防止層は、その耐久性が問題になる可能性がある。
【0006】
一方、金や銀などの金属の層を薄く形成することで導電性を得ることが可能である。しかしながら、反射防止層、ハードコート層、防汚層などの光学物品の基材の表面に形成される層は、シリコン(ケイ素)を中心とする化合物あるいは酸化物が主成分であることが多く、このような金属の層は、それらとの相性が問題になる。また、例えば金は、一般的に密着性が低く、膜の剥れが発生するおそれがある。銀は、酸化により導電性が低下することがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、光学物品(光学素子)の製造方法であり、光学基材の上に、直にまたは他の層を介して透光性の第1の層を形成することと、第1の層の表面に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜を物理的蒸着により形成することとを有し、透光性薄膜を物理的蒸着により形成することは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む。
【0008】
遷移金属カーバイド(遷移金属炭素化合物、遷移金属炭化物)、遷移金属シリサイド(遷移金属ケイ素化合物、遷移金属ケイ化物)、および遷移金属ゲルマニド(遷移金属ゲルマニウム化合物、遷移金属ゲルマニウム化物)は、それぞれ、低抵抗な素材であり、酸に対する耐久性も高い。一方、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化する工程を含む物理的蒸着では、物理的蒸着において電子ビームを用いたり、イオンアシストしたりする際に、第1の気体がイオン化されたもの、すなわち、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれか、またはそれらの化合物がイオン化されたものを含めることができる。このため、そのような物理蒸着を用いることにより、第1の層の表面に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイドおよび/または遷移金属ゲルマニドの薄膜を簡単に形成することができ、第1の層を低抵抗化できる。したがって、帯電防止機能および/または電磁波遮蔽機能などを備えた光学物品をいっそう容易に製造および提供できる。
【0009】
物理的蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)は、熱、レーザー光、電子ビームなどによる物理的作用を利用して、固体の薄膜原料を蒸気化して基板に蒸着する蒸着法を一般的に示し、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどを含み、近年では反応性真空蒸着、反応性スパッタリングおよび反応性イオンプレーティングも含む概念である。上記の製造方法においては、たとえば、電子ビームを照射するイオンガンへ導入するガスに二酸化炭素などの第1の気体を含めたり、イオンガンへ導入するガスを第1の気体に変更したりすることによりイオン化された第1の気体を用い、第1の層を低抵抗化できる。
【0010】
遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む薄膜は、薄膜であっても、基材の上に形成された第1の層の表面を十分に低抵抗にすることができる。このため、透光性を良好に確保でき、光学物品の表面の抵抗を低減するのに適している。したがって、例えば、光学物品に適宜適用される既存の反射防止層の層構造を変えずに、または、ほとんど変えずに、反射防止層に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む導電性の薄膜(透光性薄膜)を挿入することができる。
【0011】
上記の製造方法の1つは、第1の層の表面を遷移金属酸化物層にすることを有する方法である。第1の気体をイオン化することは、遷移金属酸化物層に対して第1の気体をイオン化して照射することにより、第1の層の表面に透光性薄膜を形成することを含む。第1の層が遷移金属酸化物層であってもよく、第1の層の表面に遷移金属酸化物層を薄く積層してもよい。
【0012】
炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれか、またはそれらの化合物がイオン化されたものを含む電子ビームの照射により遷移金属酸化物層の少なくとも表層(表層部、表層域)を含む全部または一部に、炭素、ケイ素、およびゲルマニウムのうちの少なくとも1つを導入(添加)できる。これにより、第1の層の表面の遷移金属酸化物層の全部または一部に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、および遷移金属ゲルマニドのいずれかを含む透光性薄膜の導電層が形成され、表面の抵抗が小さな光学物品を製造できる。
【0013】
上記の製造方法の1つは、第1の気体をイオン化することが、遷移金属酸化物を蒸着源とし、第1の気体をイオンアシストガスとして用い、第1の層の表面に透光性薄膜を形成することを含むものである。第1の層の表層(表層部、表層域)に、または表層として、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、または遷移金属ゲルマニドと遷移金属酸化物とを含む透光性薄膜の導電層を形成できる。
【0014】
上記の製造方法の1つは、第1の気体をイオン化することが、遷移金属を含むターゲットに第1の気体をイオン化して照射し、第1の層の表面に透光性薄膜を形成することを含むものである。炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれか、またはそれらの化合物がイオン化されたものを含む電子ビームを用いて遷移金属をスパッタリングし、第1の層の表面に(表層として)、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、または遷移金属ゲルマニドと遷移金属酸化物とを含む透光性薄膜の導電層を形成できる。
【0015】
第1の気体の典型的なガスはハンドリングが容易な二酸化炭素である。その他の第1の化合物群に含まれる種として、遷移金属カーバイドを含む透光性薄膜を形成する場合に適した例としては、一酸化炭素、アセチレン、メタン、エタン、四フッ化炭素などが挙げられ、遷移金属シリサイドを含む透光性薄膜を形成する場合の例としては、例えば、シラン、四塩化ケイ素、四フッ化ケイ素などが挙げられる。また、遷移金属ゲルマニドを含む透光性薄膜を形成する場合の例としては、四塩化ゲルマニウム、ゲルマン(水素化ゲルマニウム)、四フッ化ゲルマニウムなどを挙げることができる。
【0016】
第1の層の典型的なものは、光学基材の上に、ハードコート層、またはプライマー層およびハードコート層を介して形成される、反射防止層に含まれる層である。例えば、光学物品が、無機系または有機系の反射防止層を有するものである場合、第1の層は、無機系または有機系の反射防止層に含まれる層とすることが好ましい。このようにすることにより、無機系または有機系の反射防止層の抵抗値(抵抗率)を下げることができる。
【0017】
また、光学物品が、多層構造の反射防止層(典型的なものとしては、無機系の多層構造の反射防止層)を有するものである場合、第1の層は、例えば、多層構造の反射防止層に含まれる1つの層とすることが好ましい。このようにすることにより、多層構造の反射防止層の抵抗値(抵抗率)を下げることができる。
【0018】
当該製造方法は、透光性薄膜の上、すなわち第1の層の上に、直にまたは他の層を介して防汚層を形成することをさらに有してもよい。光学物品が反射防止層を有する場合には、反射防止層の上に、直にまたは他の層を介して防汚層を形成することをさらに有するようにすることが好ましい。
【0019】
本発明の他の態様の1つは、光学物品であり、光学基材と、光学基材の上に、直にまたは他の層を介して形成された透光性の第1の層と、第1の層の表面に形成された、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜であって、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む物理的蒸着により形成された透光性薄膜とを有する。
【0020】
炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群の中から少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む物理的蒸着により、第1の層の表面に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜が設けられた光学物品は表面抵抗が小さくなる。このため、帯電防止や電磁遮蔽などの機能を備えた光学物品を提供できる。また、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、および遷移金属ゲルマニドは、ITOと比較して、酸やアルカリなどの薬品に対して安定している。したがって、帯電防止機能および/または電磁波遮蔽機能を備えており、しかも、酸やアルカリなどの薬品に対する耐久性が良好な光学物品を提供できる。この光学物品は、帯電防止と耐久性とが要求される身の回りの光学物品(素子、製品)、例えば、眼鏡のレンズ、カメラのレンズ、情報端末の表示装置、DVDなどの多種多様な物品に適用できる。
【0021】
第1の層の一例は、無機系または有機系の反射防止層に含まれる層である。第1の層の他の例は、多層構造の反射防止層、例えば、無機系の多層構造の反射防止層に含まれる層である。さらに、光学物品は、透光性薄膜の上、すなわち第1の層の上に、直にまたは他の層を介して形成された防汚層を有していてもよい。光学物品が反射防止層を有する場合、反射防止層の上に、直にまたは他の層を介して形成された防汚層をさらに有するようにすることが好ましい。
【0022】
光学基材の一例はプラスチックレンズ基材であり、光学物品の一例は眼鏡レンズである。
【0023】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品に含まれる眼鏡レンズと、眼鏡レンズが装着されたフレームとを有する眼鏡である。眼鏡レンズの表面の帯電性を抑制できるため、眼鏡レンズの表面にゴミや埃などが付着し難い。また、電磁波遮蔽能力も付与できる。さらに、汗や薬品に強いため、耐久性が良好である。
【0024】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品であって、一方の面が外界に面した光学物品を有し、この光学物品を通して画像を透視するためのシステムである。このシステムの典型的なものは、時計、表示装置、および表示装置を有する端末などの情報処理装置である。表示装置の表面の帯電性を抑制でき、また、電磁波遮蔽能力を高めることができる。
【0025】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品と、光学物品を通して画像を投影させるための画像形成装置とを有するシステムである。このシステムの典型的なものは、プロジェクターである。この際、光学物品の典型的なものは、投射用のレンズ、ダイクロイックプリズム、平面のガラスなどである。上記の光学物品を、画像形成装置の1つであるLCD(液晶デバイス)などのライトバルブあるいはそれらに含まれる素子に適用してもよい。
【0026】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品と、光学物品を通して画像を取得するための撮像装置とを有するシステムである。このシステムの典型的なものは、カメラである。この際、光学物品の典型的なものは、結像用のレンズ、平面のガラスなどである。上記の光学物品を、撮像装置の1つであるCCDなどに適用してもよい。
【0027】
本発明のさらに異なる他の態様の1つは、上記の光学物品と、光学物品を通してアクセスする媒体とを有するシステムである。このシステムの典型的なものは、記録媒体を内蔵し、表面の帯電性が低いことが要望されるDVDなどの情報記録装置、美的表現を発揮する媒体を内蔵した装飾品などである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】タイプA1の層構造の反射防止層を含むレンズの一例を示す断面図。
【図2】反射防止層の製造に用いる蒸着装置の一例を模式的に示す図。
【図3】図3(A)は、ZrO2層上にTiOxが蒸着された様子を示す図、図3(B)は、炭酸ガスイオンビームをTiOx層に照射している様子を示す図、図3(C)は、チタンカーバイドを含む層(透光性薄膜)が形成された様子を示す図。
【図4】タイプA1、A2、A3およびA4の反射防止層の層構造を示す図。
【図5】グループ(1a)に含まれる実施例1〜6と、比較例1〜3とに関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図6】図6(A)は、シート抵抗を測定する様子を示す断面図、図6(B)は、シート抵抗を測定する様子を示す平面図。
【図7】図7(A)は、耐薬品性試験の擦傷工程に使用される試験装置の外観を示す図、図7(B)は、試験装置の内部構造を示す図。
【図8】耐薬品性試験の擦傷工程に使用される試験装置が回転することを示す図。
【図9】耐湿性試験におけるむくみを判定する装置の概略を示す図。
【図10】図10(A)は、レンズ表面にむくみのない状態を模式的に示す図、図10(B)は、レンズ表面にむくみのある状態を模式的に示す図。
【図11】タイプB1の層構造の反射防止層を含むレンズの一例を示す断面図。
【図12】図12(A)は、炭酸ガスイオンビームをTiO2層に照射している様子を示す図、図12(B)は、チタンカーバイドを含む層(透光性薄膜)が形成された様子を示す図。
【図13】タイプB1、B2、B3−1〜B3−6の反射防止層の層構造を示す図。
【図14】グループ(1b)に含まれる実施例7ないし実施例12と、比較例4ないし11とに関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図15】有機系の反射防止層を含むレンズの一例を示す断面図。
【図16】グループ(1c)に含まれる実施例13に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図17】図17(A)は、TiO2分子を蒸着源としてZrO2層またはTiO2層の表面に炭酸ガスイオンビームアシスト蒸着をしている様子を示す図、図17(B)は、ZrO2層またはTiO2層の上にチタンカーバイドを含む層(透光性薄膜)が形成された様子を示す図。
【図18】グループ(2a)に含まれる実施例14ないし実施例19に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図19】グループ(2a)に含まれる実施例20ないし実施例25に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図20】グループ(2b)に含まれる実施例26ないし実施例31に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図21】グループ(2b)に含まれる実施例32ないし実施例37に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図22】有機系の反射防止層を含むレンズの他の例を示す断面図。
【図23】グループ(2c)に含まれる実施例38に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図24】図24(A)は、チタンターゲットに二酸化炭素ガスおよびアルゴンガスをイオン化して照射している様子を示す図、図24(B)は、ZrO2層の上にチタンカーバイドを含む層(透光性薄膜)がスパッタにより形成された様子を示す図。
【図25】グループ(3a)に含まれる実施例39および40に関する図であって、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、およびサンプルの評価結果を纏めて示す図。
【図26】眼鏡の一例を示す図。
【図27】プロジェクターの一例の概要を示す図。
【図28】デジタルカメラの一例の概要を示す図。
【図29】記録媒体の一例の概要を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の幾つかの実施形態を説明する。以下では、光学物品として眼鏡用のレンズを例示して説明するが、本発明を適用可能な光学物品はこれに限定されるものではない。
【0030】
図1に、本実施形態の典型的なレンズの構成を、基材を中心とした一方の面の側の断面図により示している。レンズ10は、光学基材(レンズ基材)1と、レンズ基材1の表面に形成されたハードコート層2と、ハードコート層2の上に形成された透光性の反射防止層3と、反射防止層3の上に形成された防汚層4とを含む。なお、防汚層4は省略可能である。
【0031】
1. レンズの概要
1.1 レンズ基材
レンズ基材1に使用される材料は、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル樹脂をはじめとして、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)などのアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られるウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物との反応で得られるチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂などを挙げることができる。レンズ基材1の屈折率は、例えば、1.64〜1.75程度である。レンズ基材1の屈折率は、上記の範囲でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。
【0032】
1.2 ハードコート層(プライマー層)
ハードコート層2は、耐擦傷性を向上(付与)するものである。ハードコート層2に使用される材料は、例えば、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂およびこれらの混合物もしくは共重合体などを挙げることができる。
【0033】
ハードコート層2の一例は、シリコン系樹脂である。このようなハードコート層2は、例えば、シリコン系樹脂などの樹脂成分、金属酸化物微粒子、およびシラン化合物を含むコーティング組成物を用意し、このコーティング組成物をレンズ基材1に塗布し硬化させることにより形成することができる。このコーティング組成物には、コロイダルシリカや多官能性エポキシ化合物などの成分が含まれていてもよい。
【0034】
ハードコート層2を形成するためのコーティング組成物(ハードコート層形成用のコーティング組成物)に用いる金属酸化物微粒子の具体例は、SiO2、Al2O3、SnO2、Sb2O5、Ta2O5、CeO2、La2O3、Fe2O3、ZnO、WO3、ZrO2、In2O3、TiO2などの金属酸化物からなる微粒子、または2種以上の金属の金属酸化物からなる複合微粒子である。これらの微粒子は、例えば、分散媒(例えば、水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒)にコロイド状に分散させ、これをコーティング組成物に混合する。
【0035】
レンズ基材1とハードコート層2との密着性を確保するために、レンズ基材1とハードコート層2との間にプライマー層を設けてもよい。プライマー層は、高屈折率レンズ基材の欠点である耐衝撃性を改善するためにも有効である。プライマー層に使用される材料としては、例えば、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂およびこれらの混合物もしくは共重合体などを挙げることができる。密着性を持たせるためのプライマー層としては、ウレタン系樹脂およびポリエステル系樹脂が好ましい。
【0036】
ハードコート層2およびプライマー層の製造方法の典型的なものは、ディッピング法、スピンナー法、スプレー法、フロー法によりコーティング組成物を塗布し、その後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥する方法である。
【0037】
1.3 反射防止層
ハードコート層2の上に形成される反射防止層3の典型的なものは、無機系の反射防止層、あるいは有機系の反射防止層である。無機系の反射防止層3は、典型的には多層膜で構成され、例えば、屈折率が1.3〜1.6である低屈折率層31と、屈折率が1.8〜2.6である高屈折率層32とを交互に積層して形成することができる。層数の一例は、5層(典型的には、低屈折率層31が3層、高屈折率層32が2層)あるいは7層(典型的には、低屈折率層31が4層、高屈折率層32が3層)である。以下の実施例においては、反射防止層3に透光性薄膜33を加える。透光性薄膜33は反射防止層3の基本的な光学的性質に影響を与えるものではない。したがって、以下において透光性薄膜33を含む5層および7層の反射防止層3を全体として6層あるいは8層と表現する場合もあるが、光学的な反射防止層3の構成は5層および7層である。
【0038】
反射防止層3を構成する各層に使用される無機物の例としては、SiO2、SiO、ZrO2、TiO2、TiO、Ti2O3、Ti2O5、Al2O3、TaO2、Ta2O5、NdO2、NbO、Nb2O3、NbO2、Nb2O5、CeO2、MgO、Y2O3、SnO2、MgF2、WO3、HfO2、Y2O3などを挙げることができる。これらの無機物は、単独で用いるか、もしくは2種以上を混合して用いる。
【0039】
反射防止層3を形成する典型的な方法は、乾式法、すなわち物理的蒸着法であり、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などが挙げられる。真空蒸着法においては、蒸着中にイオンビームを同時に照射するイオンビームアシスト法を用いてもよい。
【0040】
有機系の反射防止層3の製造方法の1つは湿式法である。例えば、内部空洞を有するシリカ系微粒子(以下、「中空シリカ系微粒子」ともいう)と、有機ケイ素化合物とを含む反射防止層形成用のコーティング組成物を、ハードコート層、プライマー層と同様の方法でコーティングして形成することができる。反射防止層形成用のコーティング組成物に中空シリカ系微粒子を用いるのは、内部空洞内にシリカよりも屈折率が低い気体または溶媒が包含されることによって、空洞のないシリカ系微粒子に比べてより屈折率が低減し、結果的に、優れた反射防止効果を付与できるからである。中空シリカ系微粒子は、特開2001−233611号公報に記載されている方法などで製造することができるが、平均粒子径が1〜150nmの範囲にあり、かつ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用することが望ましい。有機系の反射防止層の層厚は、50〜150nmの範囲が好ましい。この範囲より厚すぎたり薄すぎたりすると、十分な反射防止効果が得られないおそれがある。
【0041】
1.4 防汚層
反射防止層3の上に撥水膜、または親水性の防曇膜(防汚層)4を形成することが多い。防汚層4は、光学物品(レンズ)10の表面の撥水撥油性能を向上させる目的で、反射防止層3の上に形成されるものであり、典型的なものとしては、フッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる層を挙げることができる。フッ素を含有する有機ケイ素化合物(含フッ素シラン化合物)としては、例えば、特開2005−301208号公報や特開2006−126782号公報に記載されている含フッ素シラン化合物を好適に使用することができる。
【0042】
含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液(防汚層形成用のコーティング組成物)として用いることが好ましい。防汚層は、この撥水処理液を反射防止層上に塗布することにより形成することができる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法などを用いることができる。なお、撥水処理液を金属ペレットに充填した後、真空蒸着法などの乾式法を用いて、防汚層を形成することも可能である。
【0043】
防汚層の層厚は、特に限定されないが、0.001〜0.5μmが好ましい。より好ましくは0.001〜0.03μmである。防汚層の層厚が薄すぎると撥水撥油効果が乏しくなり、厚すぎると表面がべたつくので好ましくない。また、防汚層の厚さが0.03μmより厚くなると反射防止効果が低下する可能性がある。
【0044】
2. 第1の方法によるSiO2−ZrO2系の反射防止層を備えたサンプルの製造
低屈折率層31としてSiO2層、高屈折率層32としてZrO2層を採用した反射防止層3を備えたサンプルを製造した。さらに、以下に詳述するが、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層として、その表面にさらにTiOxを遷移金属酸化物薄膜として積層(形成)し、TiOxの薄膜に対し、炭酸ガス(二酸化炭素の気体)を第1の気体として使用し、その炭酸ガスをイオン化して照射することにより、最上(最外)の高屈折率層32の表面に透光性薄膜33を形成している。SiO2−ZrO2系の反射防止層3に、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する方法(第1の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(1a)と呼ぶ。
【0045】
また、以降では、各々の実施例のサンプルはサンプルS1、サンプルS2と呼び、各実施例に共通してサンプルを指す場合にはサンプル10と呼ぶことにする。
【0046】
2.1 実施例1(サンプルS1)
2.1.1 レンズ基材の選択およびハードコート層の成膜
レンズ基材1としては、屈折率1.67の眼鏡用のプラスチックレンズ基材(商品名:セイコースーパーソブリン(SSV)(セイコーエプソン(株)製))を用いた。
【0047】
ハードコート層2を形成するための塗布液(コーティング液、コーティング組成物)を次のように調製した。エポキシ樹脂−シリカハイブリッド(商品名:コンポセラン(登録商標)E102(荒川化学工業(株)製))20重量部に、酸無水物系硬化剤(商品名:硬化剤液(C2)(荒川化学工業(株)製))4.46重量部を混合、攪拌して塗布液(コーティング液)を得た。
【0048】
このコーティング液を所定の厚さになるようにスピンコーターを用いてレンズ基材1の上に塗布した。コーティング液塗布後のレンズ基材を125℃で2時間焼成し、レンズ基材1の上にハードコート層2を成膜した。
【0049】
2.1.2 反射防止層の成膜
2.1.2.1 蒸着装置
次に、図2に示す蒸着装置100により、ハードコート層2の上に無機系の反射防止層3を製造(成膜)した。
【0050】
図2に例示した蒸着装置100は電子ビーム蒸着装置であり、真空容器110、排気装置120およびガス供給装置130を備えている。真空容器110は、ハードコート層2までが形成されたレンズサンプル10が載置されるサンプル支持台115と、サンプル支持台115にセットされたレンズサンプル10を加熱するための基材加熱用ヒーター116と、熱電子を発生するフィラメント117とを備えている。
【0051】
この蒸着装置100では、電子銃(不図示)により熱電子を加速し、蒸発源(るつぼ)112および113にセットされた蒸着材料に熱電子を照射し、これを蒸発させて、レンズサンプル10に材料を蒸着する。
【0052】
さらに、この蒸着装置100は、容器110の内部に導入したガスをイオン化して加速し、レンズサンプル10に照射するためのイオン銃118を備えている。このような構成を有しているため、この蒸着装置100は、イオンビームを形成したり、イオンアシスト蒸着を行ったりすることができる。
【0053】
また、真空容器110には、残留した水分を除去するためのコールドトラップや、層厚を管理するための装置などをさらに設けることができる。層厚を管理する装置としては、例えば、反射型の光学膜厚計や水晶振動子膜厚計などがある。
【0054】
真空容器110の内部は、排気装置120に含まれるターボ分子ポンプまたはクライオポンプ121と、圧力調整バルブ122とにより、高真空、例えば1×10-4Paに保持することができる。一方、真空容器110の内部は、ガス供給装置130により所定のガス雰囲気とすることも可能である。ガス供給装置130は、ガス容器131、流量制御装置132、圧力計135などを含む。例えば、ガス容器131には、二酸化炭素ガス(CO2)などの第1の気体(炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる気体(単体または混合ガス))、アルゴンガス(Ar)、窒素ガス(N2)、酸素ガス(O2)などが用意される。ガスの流量は流量制御装置132により制御でき、真空容器110の内圧は圧力計135により制御できる。
【0055】
基材加熱用ヒーター116は、例えば赤外線ランプであり、レンズサンプル10を加熱することによりガス出しあるいは水分とばしを行い、レンズサンプル10の表面に形成される層の密着性を確保する。
【0056】
したがって、この蒸着装置100における主な蒸着条件は、蒸着材料、電子銃の加速電圧および電流値、イオンアシストの有無である。イオンアシストを利用する場合の条件は、イオンの種類(真空容器110の雰囲気)と、イオン銃118の電圧値および電流値とにより与えられる。以下において特に記載しないかぎり、電子銃の加速電圧は、5〜10kVの範囲、電流値は50〜500mAの範囲の中で、成膜レートなどをもとに選択される。また、イオンビームを形成したり、イオンアシストを利用したりする場合は、イオン銃118が電圧値200V〜1kVの範囲、電流値が100〜500mAの範囲で、成膜レートなどをもとに選択される。
【0057】
2.1.2.2 低屈折率層、高屈折率層およびカーバイドを含む層(透光性薄膜)の成膜
ハードコート層2が形成されたレンズサンプル10をアセトンにて洗浄し、真空容器110の内部にて約70℃の加熱処理を行い、レンズサンプル10に付着した水分を蒸発させた。次に、レンズサンプル10の表面にイオンクリーニングを実施した。具体的には、イオン銃118を用いて酸素イオンビームを数百eVのエネルギーでレンズサンプル10の表面に照射し、レンズサンプル10の表面に付着した有機物の除去を行った。この方法により、レンズサンプル10の表面に形成する層(膜、後述する第1層31)の付着力を強固なものとすることができる。なお、酸素イオンの代わりに不活性ガス、例えば、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)や、窒素(N2)を用いて同様の処理を行ってもよいし、酸素ラジカルや酸素プラズマを照射してもよい。
【0058】
真空容器110の内部を十分に真空排気した後、電子ビーム真空蒸着法により、低屈折率層31および高屈折率層32を交互に積層して、以下のような多層構造の無機系の反射防止層3を製造した。
【0059】
(低屈折率層)
第1層および第3層は低屈折率層31であり、イオンアシストは行わず、真空蒸着によりSiO2層を成膜した。成膜レートは2.0nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は100mAとした。
【0060】
(高屈折率層)
第2層および第4層は高屈折率層32であり、タブレット状のZrO2焼結体材料を電子ビームで加熱蒸発させZrO2層を成膜した。成膜レートは0.8nm/secとした。
【0061】
(カーバイドを含む層(透光性薄膜))
図3(A)〜(C)は、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層とし、その表面にカーバイドを含む層33の形成を模式的に示している。図3(A)〜(C)は蒸着装置100においてカーバイドを含む層(透光性薄膜)33を形成する様子を示しており、高屈折率層32と透光性薄膜33との上下関係は図1に示したレンズサンプル10とは逆転して示されている。したがって、これらの図は、レンズサンプル10上に、第1層31、第2層32、第3層31、第4層32を成膜した後、蒸着装置100を用い、カーバイドを含む層、本例では、チタンカーバイド(典型的には、TiCであり、その他TiOCなどを含む)を含む層33を第5層(導電層)として成膜する様子を示している。すなわち、本例では、第4層32が第1の層、カーバイドを含む層(第5層)33が透光性薄膜(導電層)である。以下、カーバイドを含む層33を単にカーバイド層と記載する。
【0062】
カーバイド層33は、以下のようにして成膜した。まず、酸化チタン(TiOx、0<X≦2)顆粒或いは粒状の材料を電子ビームで加熱蒸発させ、イオンアシストを行わず真空蒸着を行った。これにより、第4層32の上にTiOx層(遷移金属酸化物薄膜)33aが形成された(図3(A))。このとき、TiOx層33aは、厚さが6nmとなるように成膜した。
【0063】
その後、酸素ガスに代わり、二酸化炭素(CO2)ガスを使用し、二酸化炭素(CO2)ガス(炭酸ガス)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を200mAとした。これにより、二酸化炭素ガスからCO2+、CO+、C+などを含む炭酸ガスイオンビームを生成し、成膜したTiOx層33aに照射した。炭酸ガスイオンビームの照射時間は120秒とした(図3(B))。
【0064】
炭酸ガスイオンビームは、二酸化炭素を原料として生成したイオンビームであり、二酸化炭素イオンの他、分解生成物である一酸化炭素イオン、炭素イオン、酸素イオンなどが含まれていてもよい。また、炭酸ガスイオンビームには、一価のイオンの他に、二価や三価の多価イオンも含まれていてもよい。炭酸ガスイオンビームをTiOx層33aに照射することにより、高屈折率層32の表層を形成しているTiOx層33a中で炭素(C)がミキシングされて化学反応し、典型的には、TiOxの一部がチタンカーバイドとなる。これにより、チタンカーバイド(典型的にはTiC)を含む層(カーバイド層)33が形成される(図3(C))。
【0065】
この方法により導電性のチタンカーバイドが形成されることは、後述するようにサンプル10が低抵抗化することで確認されている。また、炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガスをイオン化することにより炭酸ガスイオンビームとアルゴンイオンビームとがTiOx層33aに照射される。アルゴンイオンビームを炭酸ガスイオンビームと併用することは、以下の実験結果に示すように低抵抗化に適しており、TiCの形成を促進するなどの影響が予想される。
【0066】
なお、チタンカーバイドは、TiOx層33aの全部または一部(典型的には表面)の領域に形成されて、導電層として機能する透光性薄膜33を形成する。また、TiOx層33a中に導入された炭素(C)は、全てがチタンカーバイドの生成に寄与するとは限られないが、正孔または電子を生成することにより電荷のキャリアを増やし透光性薄膜33の導電率を高めることに寄与する可能性がある。
【0067】
TiOx層33aのうちのどの程度の領域(厚さ、深さ)まで炭素(C)が導入されるか(典型的にはカーバイドが形成されるか)は、炭酸ガスイオンビームの照射時間、イオンエネルギー(イオンの加速電圧)、およびイオン電流によって決まる。本例の条件では、6nmのTiOx層33aのほとんどの領域にチタンカーバイドが形成され、導電性の透光性薄膜33が形成されると考えられる。第4層(ZrO2層)32の表面に積層されたTiOx層33aは光学的には第4層(ZrO2層)32とともに高屈折率層として機能する。したがって、このサンプルS1の製造方法は、最上または最外の高屈折率層32を形成する遷移金属酸化物層33aの表面に炭酸ガスイオンビームを照射することにより高屈折率層32の表面(表層)33を低抵抗化することを含む製造方法である。
【0068】
(低屈折率層)
カーバイド層33の上に、第6層として、第1および第3層と同様の条件で、SiO2層(低屈折率層31)を成膜した。成膜レートは2.0nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は100mAとした。
【0069】
これらの工程において、反射防止層3の光学的性能を主に決める第1〜第4層および第6層の層厚は、それぞれ、150nm、30nm、21nm、55nm、85nmに管理した。この層構造、すなわち、第1層、第3層および第6層がSiO2層の低屈折率層31、第2層および第4層がZrO2層の高屈折率層32、そして、最外の高屈折率層32の表面(外側)に第5層としてカーバイド層33を形成した層構造を、以降ではタイプA1の層構造と呼ぶことにする。
【0070】
2.1.3 防汚層の成膜
反射防止層3までが形成されたレンズサンプル10に酸素プラズマ処理を施し、その後、分子量の大きなフッ素含有有機ケイ素化合物を含む「KY−130」(商品名、信越化学工業(株)製)を含有させたペレット材料を蒸着源として防汚層4を成膜した。より具体的には、真空容器110内において、KY−130を約500℃で加熱して蒸発させて、反射防止層3の上に防汚層4を成膜した。蒸着時間は3分間程度とした。反射防止層3までが形成されたレンズサンプル10に酸素プラズマ処理を施こすことにより、最終のSiO2層(第6層)31の表面にシラノール基を生成することができる。このため、酸素プラズマ処理の後に防汚層4を形成することにより、反射防止層3と防汚層4との化学的密着性(化学結合)を高めることができる。
【0071】
蒸着終了後、真空蒸着装置100からレンズサンプル10を取り出し、反転して再び投入し、上記の2.1.2〜2.1.3の工程を同じ手順で繰り返して、反射防止層3の成膜(カーバイド層33の形成を含む)および防汚層4の成膜を行った。その後、レンズサンプル10を真空蒸着装置100から取り出した。これにより、レンズ基材1の両面に、ハードコート層2、カーバイド層33を層内(第5層)に含むタイプA1の反射防止層3、および防汚層4を備えた実施例1のレンズサンプルS1が得られた。
【0072】
2.2 実施例2(サンプルS2)
後述する光の吸収損失は、表面が湾曲していたりすると測定が難しい。このため、実施例2においては、光学基材1として平面のガラスを用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を形成し、サンプルS2を製造した。すなわち、この平面のガラスのサンプル(ガラスサンプル)S2は、レンズサンプルS1と同じ条件で形成した反射防止層3を有するサンプルである。
【0073】
より詳しくは、この平面のガラスのサンプル(ガラスサンプル)S2は、光学基材1として透明な白板ガラス(B270)を採用し、この光学基材1の上に、ハードコート層を成膜せず、直に上記の実施例1と同様の工程でタイプA1の反射防止層3を成膜した。防汚層は成膜しなかった。
【0074】
2.3 実施例3(サンプルS3)
実施例3では、実施例1と同じレンズ基材1を用い、同じ条件(2.1.1)でハードコート層2を形成し、さらに、その上にタイプA1の反射防止層3と防汚層4とを形成し、サンプルS3を製造した。
【0075】
低屈折率層31および高屈折率層32の成膜方法は、実施例1と同じ条件(2.1.2.2)で行った。カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、オン化させ、イオンエネルギーを500eV、イオン電流を200mAとした。TiOx層33aへの炭酸ガスイオンビームの照射時間は120秒とした。他の条件および成膜方法は実施例1と同じである(2.1.2.2参照)。そして、反射防止層3を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。
【0076】
2.4 実施例4(サンプルS4)
実施例4では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例3と同じ条件で形成し、サンプルS4を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0077】
2.5 実施例5(サンプルS5)
実施例5では、実施例1と同じ条件(2.1)でレンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3および防汚層4を形成し、サンプルS5を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を流量30sccmとして真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を150mAとした。また、TiOx層33aへの炭酸ガスイオンビームの照射時間は20秒とした。
【0078】
2.6 実施例6(サンプルS6)
実施例6では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例5と同じ条件で形成し、サンプルS6を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0079】
2.7 比較例1(サンプルR1)
サンプルR1として、実施例1と同じレンズ基材を用い、同じ条件(2.1.1)でハードコート層を形成し、さらに、その表面に反射防止層を形成し、サンプルR1を製造した。低屈折率層および高屈折率層は、上記の2.1.2.2と同じ条件で成膜した。
【0080】
ただし、第5層(導電層)としては、Si(金属シリコン、アモルファスシリコン)のみを、イオンアシストを用いずに3nmだけ蒸着した。すなわち、第4層(ZrO2層)を成膜後、Siを真空蒸着により成膜し、第5層(導電層)としてアモルファスシリコンの層を形成した。なお、アモルファスシリコン層は、純粋なSiだけで構成されていなくてもよく、多少は酸化されていてもよい。そして、その上に第6層として、SiO2層を形成した。したがって、反射防止層は、アモルファスシリコン層を含む6層構造になる。この6層構造で、アモルファスシリコン層を含むタイプの層構造をタイプA3と呼ぶことにする。
【0081】
反射防止層3を形成した後、実施例1と同様に防汚層を成膜した(2.1.3参照)。したがって、比較例1により製造されたレンズサンプルR1は、プラスチックレンズ基材と、ハードコート層と、第5層(導電層)にアモルファスシリコン層を含むタイプA3の反射防止層と、防汚層とを含む。
【0082】
2.8 比較例2(サンプルR2)
サンプルR2として、実施例1と同じレンズ基材を用い、同じ条件(2.1.1)でハードコート層を形成し、さらに、その表面に反射防止層を形成し、サンプルR2を製造した。低屈折率層および高屈折率層は、上記の2.1.2.2と同じ条件で成膜した。
【0083】
ただし、第5層(導電層)としては、酸化インジウムスズ(ITO)をイオンアシスト真空蒸着により3nmだけ成膜した。すなわち、第4層(ZrO2層)を成膜後、ITOをイオンアシスト真空蒸着により3nm成膜し、第5層(導電層)としてITO層を形成した。ITO層の成膜の際は、電子銃の加速電圧を7kV、電流値を50mAとした。また、ITO膜の酸化を促進させるために、真空容器内に毎分15ミリリットルの酸素ガスを導入し、酸素雰囲気とした。イオン銃へは毎分35ミリリットルで酸素ガスを導入し、電圧値を500V、電流値を250mAとして、サンプルに酸素イオンビームを照射した。そして、その上に第6層として、SiO2層を形成した。したがって、反射防止層3は、ITO層を含む6層構造になる。この6層構造で、ITO層を含むタイプの層構造をタイプA4と呼ぶことにする。
【0084】
反射防止層を形成した後、実施例1と同様に防汚層を成膜した(2.1.3参照)。したがって、比較例2により製造されたレンズサンプルR2は、プラスチックレンズ基材と、ハードコート層と、第5層(導電層)にITO層を含むタイプA4の反射防止層と、防汚層とを含む。
【0085】
2.9 比較例3(サンプルR3)
上記の実施例により得られたガラスサンプルと比較するために、カーバイド層を有しないガラスサンプルR3を製造した。それ以外は、実施例2と同様にガラスサンプルR3を製造した。すなわち、比較例3により製造されたガラスサンプルR3は、ガラス基材と、カーバイド層を含まない5層(SiO2層、ZrO2層、SiO2層、ZrO2層およびSiO2層、以降では、このタイプの層構造をタイプA2と称する)の反射防止層とを含む。また、防汚層は成膜しなかった。
【0086】
2.10 サンプルの評価
図4に、タイプA1、A2、A3およびA4の反射防止層の層構造を纏めて示してある。なお、二酸化ケイ素(SiO2)からなる低屈折率層の波長550nmにおける屈折率nは1.462である。また、酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる高屈折率層の波長550nmにおける屈折率nは2.05である。ITO層の波長550nmにおける屈折率nは2.1である。
【0087】
上記により製造されたサンプルS1(実施例1)〜S6(実施例6)、R1(比較例1)〜R3(比較例3)について、それぞれ、シート抵抗および吸収損失を測定した。さらに、ごみの付着、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)をそれぞれ試験し、これらを評価した。図5に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示した。
【0088】
最初に、上記測定方法、試験方法、および評価方法について説明する。
【0089】
2.10.1 測定、試験、および評価方法
2.10.1.1 シート抵抗
図6(A)および(B)に、各サンプルのシート抵抗を測定する様子を示している。この例では、測定対象、例えば、レンズサンプル10の表面10Aにリングプローブ61を接触させ、レンズサンプル10の表面10Aのシート抵抗を測定した。測定装置60は、三菱化学(株)製高抵抗抵抗率計ハイレスタUP MCP−HT450型を使用した。使用したリングプローブ61は、URSタイプであり、2つの電極を有し、外側のリング電極61Aは、外径18mm、内径10mmであり、内側の円形電極61Bは、直径7mmである。それらの電極間に10〜1kVの電圧を印加し、各サンプルのシート抵抗を計測した。
【0090】
2.10.1.2 ごみの付着試験
プラスチックレンズの表面上で、眼鏡レンズ用拭き布を1kgの垂直荷重にて10往復こすりつけ、このときに発生した静電気によるごみの付着の有無を調べた。ここで、ごみとしては、発泡スチロールを粒子径2〜3mmの大きさに砕いたものを使用した。判断基準は以下の通りである。
○:ゴミの付着が認められなかった。
△:ゴミが数個付着していることが認められた。
×:数多くのゴミが付着していることが認められた。
【0091】
2.10.1.3 吸収損失
光の吸収損失は、表面が湾曲していたりすると測定が難しい。このため、上記のサンプルS1〜S6のうち、ガラスサンプルS2、S4、およびS5について吸収損失を測定し、ガラスサンプルR3の吸収損失と比較した。
【0092】
光の吸収損失の測定には、日立製分光光度計U−4100を使用した。分光光度計を用いて反射率と透過率を測定し、(A)式にて吸収率を算出した。
吸収率(吸収損失)=100%−透過率−反射率 ・・・・(A)
以下、吸収率は波長550nm付近の吸収率を記している。
【0093】
2.10.1.4 耐薬品性
各サンプルの表面に傷をつけ、その後、薬液浸漬を行い、反射防止層の剥がれの有無を観察して耐薬品性を評価した。
【0094】
(1)擦傷工程
図7(A)は、耐薬品性試験の擦傷工程に使用される試験装置の外観を示している。図7(B)は、試験装置の内部構造を示している。図8は、耐薬品性試験の擦傷工程に使用する試験装置を回転させることを示している。
【0095】
図7(A)に示す容器(ドラム)71の内壁に、図7(B)に示すように評価用のサンプル10を4つ貼り付け、さらに、容器(ドラム)71内に擦傷用として不織布73とオガクズ74を入れた。そして、蓋をした後、図8に示すように、ドラム71を30rpmで30分間回転させた。
【0096】
(2)薬液浸漬工程
人の汗を模した薬液(純水に乳酸を50g/L、塩を100g/L溶解した溶液)を用意した。(1)の擦傷工程を経たサンプル10を、50℃に保持した薬液に100時間浸漬した。
【0097】
(3)評価方法
上記の工程を経た各サンプルを、従来のサンプルであるサンプルR3を基準に目視により評価した。判断基準は以下の通りである。
○:基準のサンプルと比較し、傷がほとんど見えず、同等の透明性がある。
△:基準のサンプルに対して傷が見え、透明性が劣る。
×:基準のサンプルに対して層の剥離および多数の傷が見え、透明性が著しく低下した。
【0098】
2.10.1.5 むくみ(耐湿性)
(1)恒温恒湿度環境試験
各サンプルを恒温恒湿度環境(60℃、98%RH)で8日間放置した。
【0099】
(2)むくみの判定方法(評価方法)
図9は、耐湿性試験におけるむくみを判定する装置の概略を示している。図10(A)は、レンズ表面にむくみのない状態を模式的に示している。図10(B)は、レンズ表面にむくみのある状態を模式的に示している。
【0100】
上記の恒温恒湿度環境試験を経た各サンプルの表面または裏面の表面反射光を観察し、むくみの有無を判断した。具体的には、図9に示すように、サンプル10の凸面10Aにおける蛍光灯75の反射光を観察した。図10(A)に示すように、蛍光灯75の反射光76の像の輪郭がくっきりと明瞭に観察できる場合は「むくみ無し」と判定した。一方、図10(B)に示すように、蛍光灯75の反射光77の像の輪郭がぼやけている、またはかすれて観察できるときは「むくみ有り」と判定した。
【0101】
2.10.2 結果
2.10.2.1 シート抵抗の測定結果
図5に示すように、反射防止層3にカーバイド層33を含めたサンプルS1〜S6のシート抵抗の測定値は、それぞれ、2×109[Ω/□]、2×109[Ω/□]、3.5×109[Ω/□]、4.5×109[Ω/□]、1×1010[Ω/□]、1×1010[Ω/□]であった。
【0102】
これに対し、反射防止層にカーバイド層33と置換してアモルファスシリコン層を含めたサンプルR1のシート抵抗の測定値は9×1012[Ω/□]、反射防止層にカーバイド層33と置換してITO層を含めたサンプルR2のシート抵抗の測定値は2×1012[Ω/□]であった。また、導電層を含まない(カーバイド層33を含まない)サンプルR3のシート抵抗の測定値は5×1014[Ω/□]であった。
【0103】
サンプルR3の測定結果が示すように、低抵抗化の処理を施していない従来のサンプル(ガラスサンプル)では、シート抵抗は5×1014[Ω/□]である。これに対し、反射防止層3の1つの層32の表面にカーバイド層33を形成したサンプルS1〜S6においては、シート抵抗が2×109[Ω/□]〜1×1010[Ω/□]となり、シート抵抗が従来のサンプルと比較して3桁〜5桁(103〜105)程度小さくなっている。すなわち、シート抵抗が1/103〜1/105となっており、導電率が向上している。したがって、これらのサンプルS1〜S6は後述するように十分な帯電防止性能を備えており、ごみの付着がほとんど見られない。
【0104】
反射防止層3にアモルファスシリコン層あるいはITO層を含めたレンズサンプルR1およびR2では、シート抵抗が、それぞれ9×1012[Ω/□]、2×1012[Ω/□]であり、良好な帯電防止性能が得られるというほどは低下していない。実施例のサンプルS1〜S6のシート抵抗は、比較例のサンプルR1およびR2のシート抵抗と比較しても、2桁〜3桁(102〜103)程度小さくなっている。すなわち、シート抵抗が1/102〜1/103となっている。
【0105】
このように、カーバイド層33を設けることによって反射防止層3の抵抗値を大幅に低減でき、例えば6nm程度またはそれ以下の厚みのカーバイド層33を含めることにより、反射防止層2を含めた光学基材の表面の導電性の向上に有効であることがわかった。
【0106】
光学物品のシート抵抗を低減することにより幾つかの効果が得られる。典型的な効果は、帯電防止、および電磁遮蔽である。眼鏡用のレンズにおいて帯電防止性の有無の目安は、シート抵抗が1×1012[Ω/□]以下であると考えられている。使用上の安全性などを考慮すると、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011[Ω/□]以下であることがいっそう好ましい。サンプルS1〜S6は、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011Ω/□以下、さらに、1×1010Ω/□以下であり、非常に優れた帯電防止性を備えていることがわかる。
【0107】
2.10.2.2 ごみの付着試験結果
ごみの付着がない場合は帯電防止効果に優れ、ごみの付着がある場合は帯電防止効果が劣っていると言える。図5に示すように、カーバイド層33を備えたサンプルS1〜S6の評価はすべて○であり、帯電防止効果に優れていることがわかった。また、アモルファスシリコン層を備えたサンプルR1および導電層を形成しないサンプルR3は×であり、帯電防止効果が劣っていることがわかった。また、ITO層を備えたサンプルR2は、△であった。
【0108】
2.10.2.3 吸収損失の測定結果
光の吸収損失については、カーバイド層33を形成することにより若干吸収損失が上昇する傾向がみられる。しかしながら、最大でも0.8%程度であり、眼鏡用のレンズとしての許容範囲である透光性を備えている。したがって、カーバイド層33を形成しても、透光性を確保でき、しかも帯電防止性能の優れた光学物品を提供できることがわかった。また、帯電防止および透光性の双方を考慮するのであれば、吸収損失が0.39%のサンプルS4程度であっても十分にシート抵抗が小さい。なお、レンズサンプルS3もサンプルS4と同程度の透光性があると考えられる。
【0109】
2.10.2.4 耐薬品性の評価結果
耐薬品性については、カーバイド層33を備えたサンプルS1〜S6の評価はすべて○であり、日常的に用いられる環境において優れた耐薬品性を有することがわかった。一方、ITO層を備えたサンプルR2の評価は×であった。
【0110】
2.10.2.5 むくみ(耐湿性)の評価結果
カーバイド層33を備えたサンプルS1〜S6を含め、すべてのサンプルについてむくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0111】
2.11 考察
以上の各測定結果および評価より、反射防止層3の1つの層、本例においては最外の高屈折率層32の表面にカーバイド層33を設けたサンプルS1〜S6については、シート抵抗が大幅に低下し、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化はほとんど見られないことがわかった。したがって、遷移金属酸化物層を予め設け、その表面に第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する方法(第1の方法)により、反射防止層3にカーバイド層33を設けることができ、表面の抵抗が小さく、帯電防止などの特性を持ち、さらに、耐久性の良い光学物品を提供できることがわかった。
【0112】
さらに、サンプルS1〜S6のシート抵抗を比較すると、イオン銃118の電圧値および/または電流値(第1のガスに与えるイオンエネルギーおよび/またはイオン電流)を高めたり、TiOx層33aに対する炭酸ガスイオンビームの照射時間を長くしたりすることにより、シート抵抗をさらに低減できることもわかった。これは、イオン銃118の電圧値および/または電流値を高めたり、TiOx層33aに対する炭酸ガスイオンビームの照射時間を長くしたりすることにより、TiOx層33aのより深部までチタンカーバイドを形成できるためであると考えられる。また、シート抵抗を下げるためには、導入ガスとして、第1のガスである二酸化炭素ガスとともにアルゴンガスを併用することも有効であると考えられる。
【0113】
また、カーバイド層33を形成することにより、若干の吸収損失の増加が観測されるが、帯電防止および電磁波遮断などの目的に応じた適切な導電性が得られる程度にカーバイド層33を形成することにより、吸収損失の影響は光学物品としてほとんど無視できる程度の光学物品を提供できることがわかった。
【0114】
このように、反射防止層3にカーバイド層33を設けることにより、優れた帯電防止性能および電磁波遮断性能と、良好な透光性と、耐久性とを備えた光学物品を提供できる。
【0115】
本発明は上記の実施例に限定されるものではない。例えば、上記のグループ(1a)の例では、ZrO2層の上(外側)にTiOx層を形成し、その後、TiOx層に炭酸ガスイオンビームを照射することによりカーバイド層を形成しているが、カーバイド層の形成方法はこれらに限定されるものではない。使用する第1のガスも、二酸化炭素ガスに限定されるものではない。
【0116】
例えば、Cを含むガスに適当なエネルギーを与えてイオン化し、TiOx層の表面にイオンビームとして照射することによっても、TiOx層の表面からその一部または全域にC(炭素)原子が注入(添加)され、TiOxとミキシングされる。これにより、下地の材料であるTiOxとC(炭素)原子とが化学反応を起こし、表面の近傍またはそれ以上の深部までが改質される。典型的には、TiOx層のTi原子とC原子とが反応し、チタンカーバイドが形成されると考えられる。
【0117】
帯電防止性能および/または電磁波遮断性能を与えるためには、チタンカーバイドは、必ずしも所定の層(例えばTiOx層)の表面全体に存在しなくてもよく、部分的に存在すればよい。また、チタンカーバイドの酸化物という状態で存在してもよい。このようなカーバイド層(カーバイドを含む層)33が存在することにより、反射防止層3の抵抗値を低減でき、導電性を高めることができる。このため、カーバイド層(カーバイドを含む層)33を設ける位置は、最外の高屈折率層32の表面(外側)に限定されず、反射防止層3のいずれかの層の表面あるいは層間に設ければよく、さらに、複数の層上にそれぞれカーバイド層を形成してもよい。
【0118】
チタンカーバイドに限らず、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドは一般に低抵抗であり、シリコンあるいは含有シリコン化合物が多く用いられる反射防止層との親和性もよい。
ケイ素(シリコン)およびゲルマニウムは、炭素と同じ第IV族元素であり、同様の電子構造を有する。ゲルマニウムおよびケイ素は、炭素と同様に電気的抵抗が小さく、さらに、炭素と同様に遷移金属と低抵抗の化合物を形成する。すなわち、炭素、ケイ素、あるいはゲルマニウムの少なくともいずれかを注入(添加、ドープ)することにより、所定の層の少なくとも表層域を低抵抗化することが可能である。そして、このようにして形成された層は、化学的および機械的に比較的安定であって、帯電防止性能および電磁シールド性能に優れ、ごみの付着を抑制でき、さらに、光学的性質の低下もほとんどない。
【0119】
したがって、ZrO2層およびTiO2層に限らずに、他の金属酸化物の層の表面であっても、C(炭素)原子、Si(ケイ素)原子(金属シリコン)、Ge(ゲルマニウム)原子(金属ゲルマニウム)の少なくともいずれかを含む透光性薄膜を物理的蒸着により形成することは有効である。
【0120】
このような透光性薄膜は、例えば、SiOx層などの遷移金属酸化物層(遷移金属酸化物薄膜)や、低屈折率層として機能するSiO2層の表面に、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群に含まれる少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化して照射(イオンビームを照射)することにより形成することができる。すなわち、このようにすることにより、カーバイド、シリサイド、ゲルマニドの少なくともいずれかを含む層(透光性薄膜)を形成することができる。
【0121】
また、イオン化して照射する際に有用な気体(第1の気体)は二酸化炭素ガス(炭酸ガス)に限定されない。その他の第1の化合物群に含まれる種としては、遷移金属カーバイドを含む透光性薄膜33を形成する場合に適した例としては、一酸化炭素、アセチレン、メタン、エタン、四フッ化炭素などが挙げられる。遷移金属シリサイドを含む透光性薄膜33を形成する場合に適した例としては、シラン(SiH4)、四塩化ケイ素(SiCl4)、四フッ化ケイ素(SiF4)などを第1の化合物群に含まれる種として挙げることができる。遷移金属ゲルマイドを含む透光性薄膜33を形成する場合に適した例としては、四塩化ゲルマニウム(GeCl4)、ゲルマン(水素化ゲルマニウム、GeH4)、四フッ化ゲルマニウム(GeF4)などを第1の化合物群に含まれる種として挙げることができる。
【0122】
カーバイドなどと称される有機遷移金属の例としては、SiC、TiC、ZrC、HfC、VC、NbC、TaC、Mo2C、W2C、WC、NdC2、LaC2、CeC2、PrC2、SmC2などを挙げることができる。
【0123】
シリサイドなどと称される遷移金属ケイ化物(金属間化合物)の例としては、ZrSi、CoSi、WSi、MoSi、NiSi、TaSi、NdSi、Ti3Si、Ti5Si3、Ti5Si4、TiSi、TiSi2、Zr3Si、Zr2Si、Zr5Si3、Zr3Si2、Zr5Si4、Zr6Si5、ZrSi2、Hf2Si、Hf5Si3、Hf3Si2、Hf4Si3、Hf5Si4、HfSi、HfSi2、V3Si、V5Si3、V5Si4、VSi2、Nb4Si、Nb3Si、Nb5Si3、NbSi2、Ta4.5Si、Ta4Si、Ta3Si、Ta2Si、Ta5Si3、TaSi2、Cr3Si、Cr2Si、Cr5Si3、Cr3Si2、CrSi、CrSi2、Mo3Si、Mo5Si3、Mo3Si2、MoSi2、W3Si、W5Si3、W3Si2、WSi2、Mn6Si、Mn3Si、Mn5Si2、Mn5Si3、MnSi、Mn11Si19、Mn4Si7、MnSi2、Tc4Si、c3Si、Tc5Si3、TcSi、TcSi2、Re3Si、Re5Si3、ReSi、ReSi2、Fe3Si、Fe5Si3、FeSi、FeSi2、Ru2Si、RuSi、Ru2Si3、OsSi、Os2Si3、OsSi2、OsSi1.8、OsSi3、Co3Si、Co2Si、CoSi2、Rh2Si、Rh5Si3、Rh3Si2、RhSi、Rh4S5、Rh3Si4、RhSi2、Ir3Si、Ir2Si、Ir3Si2、IrSi、Ir2Si3、IrSi1.75、IrSi2、IrSi3、Ni3Si、Ni5Si2、Ni2Si、Ni3Si2、NiSi2、Pd5Si、Pd9Si2、Pd4Si、Pd3Si、Pd9Si4、Pd2Si、PdSi、Pt4Si、Pt3Si、Pt5Si2、Pt12Si5、Pt7Si3、Pt2Si、Pt6Si5、PtSiなどを挙げることができる。
【0124】
ゲルマニドなどと称される遷移金属ゲルマニウム化物(金属間化合物)の例としては、NaGe、AlGe、KGe4、TiGe2、TiGe、Ti6Ge5、Ti5Ge3、V3Ge、CrGe2、Cr3Ge2、CrGe、Cr3Ge、Cr5Ge3、Cr11Ge8、MnGe、Mn5Ge3、CoGe、CoGe2、Co5Ge7、NiGe、CuGe、Cu3Ge、ZrGe2、ZrGe、RbGe4、NbGe2、Nb2Ge、Nb3Ge、Nb5Ge3、Nb3Ge2、NbGe2、Mo3Ge、Mo3Ge2、Mo5Ge3、Mo2Ge3、MoGe2、CeGe4、RhGe、PdGe、AgGe、Hf5Ge3、HfGe、HfGe2、TaGe2、PtGeなどを挙げることができる。
【0125】
中でも、反射防止層の高屈折率層として使用されることが多い、ジルコニウム(Zr)系のカーバイド、シリサイド、およびゲルマイド、タンタル(Ta)系のカーバイド、シリサイド、およびゲルマイド、ネオジム(Nd)系のカーバイド、シリサイド、およびゲルマイド、ニオブ(Nb)系のカーバイド、シリサイド、およびゲルマニドなどは有用である。
【0126】
3. 第1の方法によるSiO2−TiO2系の反射防止層を備えたサンプルの製造
3.1 実施例7(サンプルS7)
低屈折率層31としてSiO2層、高屈折率層32としてTiO2層を採用した反射防止層3を備えたサンプルを製造した。さらに、以下に詳述するが、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層として、その表面に炭酸ガスをイオン化して照射する第1の方法により、最上(最外)の高屈折率層32の表面に透光性薄膜33を形成している。SiO2−TiO2系の反射防止層3に、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する方法(第1の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(1b)と呼ぶ。
【0127】
図11に、光学的には7層構造の反射防止層3を含むレンズの構成例を、基材を中心とした一方の面の側の断面図により示している。
【0128】
3.1.1 レンズ基材の選択およびハードコート層の成膜
上記の実施例1と同様にレンズ基材1を選択した。そして、上記の実施例1と同様にして、レンズ基材1の上にハードコート層2を形成した(2.1.1参照)。
【0129】
3.1.2 反射防止層
実施例1と同様の蒸着装置100を用いて、以下のような多層構造の無機系の反射防止層3を成膜した。レンズ基材1の上にハードコート層2が形成されたサンプル10に実施例1と同じ前処理を施し、真空容器110の内部を十分に真空排気した後、電子ビーム真空蒸着法により、低屈折率層31および高屈折率層32を交互に積層して多層構造の無機系の反射防止層3を製造した。
【0130】
(低屈折率層)
第1層、第3層および第5層は低屈折率層31であり、イオンアシストは行わず、真空蒸着によりSiO2層を成膜した。成膜レートは2.0nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は100mAとした。
【0131】
(高屈折率層)
第2層、第4層および第6層は高屈折率層32であり、TiO2を、酸素ガスを導入しながらイオンアシスト蒸着を行い、TiO2層を成膜した。成膜レートは0.4nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は360mAとした。
【0132】
(カーバイドを含む層(透光性薄膜))
図12(A)および(B)は、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層とし、その表面にカーバイドを含む層の形成を模式的に示している。図12(A)および(B)は蒸着装置100においてカーバイドを含む層(透光性薄膜)33を形成する様子を示しており、高屈折率層32と透光性薄膜33との上下関係は図11に示したレンズサンプル10とは逆転して示されている。レンズサンプル10上に、第1層31、第2層32、第3層31、第4層32、第5層31、第6層32を成膜した後、蒸着装置100を用い、カーバイドを含む層、本例では、チタンカーバイド(典型的には、TiCであり、その他TiOCなどを含む)を含む層33を第7層(導電層)として形成した。
【0133】
具体的には、酸素ガスに代わり、二酸化炭素(CO2)ガスを使用し、二酸化炭素(CO2)ガス(炭酸ガス)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素(CO2)ガスの流量を15sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を200mAとした。これにより形成される炭酸ガスイオンビームを、第6層(TiO2層)32に対して照射した。炭酸ガスイオンビームの照射時間は120秒とした(図12(A))。
【0134】
このようにすることにより、第6層(TiO2層)32の表層域にチタンカーバイド(典型的にはTiC)が形成される(図12(B))。すなわち、本例では、第6層32が第1の層であり、第6の層32の表層域のチタンカーバイド(典型的にはTiC)が形成された領域がカーバイドを含む層(透光性薄膜)33となる。
【0135】
(低屈折率層)
カーバイド層33の上に、第1層、第3層および第5層と同じ条件でSiO2を真空蒸着し、低屈折率層(第8層)31を成膜した。成膜レートは2.0nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は100mAとした。
【0136】
これらの工程において、反射防止層3の光学的性能を決める第1〜第6層および第8層の層厚は、44nm、10nm、57nm、36nm、25nm、36nm、101nmに管理した。カーバイド層33の層厚は、イオン銃118の電圧値および電流値(第1のガスに与えるイオンエネルギーおよびイオン電流)と、炭酸ガスイオンビームの照射時間とにより管理した。第6層(36nm)の表層部が層構造としては第7層であるカーバイド層33となり、本例においては、その層厚は、1〜5nm程度であると予想される。
【0137】
上述した層構造、すなわち、第1層、第3層、第5層および第8層がSiO2層、第2層、第4層および第6層がTiO2層、そして、最外の高屈折率層32の表層がカーバイド層(第7層)33である層構造を、以降、タイプB1の層構造と呼ぶことにする。図13に、B1および後述するB2、B3−1〜B3−6のタイプの反射防止層の層構造を纏めて示してある。
【0138】
3.1.3 防汚層
カーバイド層33を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。
【0139】
3.2 実施例8(サンプルS8)
実施例8は、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例7と同じ条件で形成し、サンプルS8を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0140】
3.3 実施例9(サンプルS9)
実施例9では、実施例7と同じ条件でレンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3および防汚層4を形成し、サンプルS9を製造した。ただし、カーバイド層(第7層)33の形成においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素(CO2)ガスの流量を15sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを500eV、イオン電流を200mAとした。また、TiO2層(第6層)32への炭酸ガスイオンビームの照射時間は120秒とした。
【0141】
3.4 実施例10(サンプルS10)
実施例10では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例9と同じ条件で形成し、サンプルS10を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0142】
3.5 実施例11(サンプルS11)
実施例11では、実施例7と同じ条件でレンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3および防汚層4を形成し、サンプルS11を製造した。ただし、カーバイド層(第7層)33の形成においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を流量30sccmとして真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を150mAとした。TiOx層33aへの炭酸ガスイオンビームの照射時間は20秒とした。
【0143】
3.6 実施例12(サンプルS12)
実施例12では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例11と同じ条件で形成し、サンプルS12を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0144】
3.7 比較例4、5(サンプルR4、R5)
上記の実施例により得られたレンズサンプルおよびガラスサンプルと比較するために、実施例7および実施例8と同様にレンズサンプルR4およびガラスサンプルR5を製造した。ただし、カーバイド層の形成(3.1.2参照)は行わなかった。すなわち、比較例4により製造されたレンズサンプルR4は、レンズ基材と、ハードコート層と、カーバイド層を含まないタイプB2の反射防止層と、防汚層とを含む。比較例5により製造されたガラスサンプルR5は、ガラス基材と、カーバイド層を含まないタイプB2の反射防止層とを含む。ガラスサンプルR5は、ハードコート層および防汚層は形成しなかった。タイプB2の反射防止層の各層の層厚は、タイプB1の反射防止層の各層の層厚と同じである(図13参照)。
【0145】
3.8 比較例6〜11(サンプルR6〜R11)
上記の実施例により得られたレンズサンプルと比較するために、さらに、透明な導電層としてITO(酸化インジウムスズ)層を備えたレンズサンプルR6〜R11を製造した。これらのレンズサンプルR6〜R11は、実施例7と同様に、レンズ基材の上にハードコート層2、反射防止層3および防汚層4を形成した。反射防止層3の低屈折率31および高屈折率32の厚みは図13に纏めて示す通りである。
【0146】
さらに、第6層(TiO2層)の成膜後に、酸化インジウムスズ(ITO)をイオンアシスト真空蒸着により成膜した。ITO層の成膜の際は、電子銃の加速電圧を7kV、電流値を50mAとした。ITO膜の酸化を促進させるために、真空容器内に毎分15ミリリットルの酸素ガスを導入し、酸素雰囲気とした。また、イオン銃へは毎分35ミリリットルで酸素ガスを導入し、電圧値を500V、電流値を250mAとして、レンズサンプルに酸素イオンビームを照射した。ITO層の成膜レートは0.1nm/secとした。このように、ITO層を含む反射防止層は8層構造になる。この8層構造で、ITO層を含むタイプの層構造をタイプB3と呼ぶことにする。なお、図13に示すように、ITO層の層厚は、サンプルR6〜R11において、2.5、3.5、5、7、10および15nmと変えた。このため、図13においてはタイプB3−1〜B3−6と記載して区別することにする。
【0147】
3.9 サンプル評価
サンプルS7〜S12およびR4〜R11について、サンプルS1〜S6と同様に、シート抵抗、ごみの付着試験、吸収損失、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した(2.10参照)。図14に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0148】
サンプルR4およびR5の測定結果が示すように、従来のレンズサンプルおよびガラスサンプルでは、シート抵抗は5×1013[Ω/□]であった。反射防止層にITO層を含めたレンズサンプルR6〜R11では、ITO層の厚みに依存はするが、シート抵抗は1.5×1011[Ω/□]〜2×1013[Ω/□]となった。
【0149】
これらに対し、反射防止層3の1つの層としてカーバイド層33を形成したサンプルS7〜S12においては、シート抵抗が2×109[Ω/□]〜1×1010[Ω/□]であった。このように、サンプルS7〜S12においては、シート抵抗が従来のサンプルR4およびR5と比較して、3桁〜4桁(103〜104)程度小さくなった。すなわち、サンプルS7〜S12においては、従来と比較して、シート抵抗が1/103〜1/104になった。また、サンプルS7〜S12は、サンプルR6〜R11と比較しても、1桁〜4桁(101〜104)程度小さくなった。
【0150】
したがって、サンプルS7〜S12は、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011[Ω/□]以下、さらに、1×1010[Ω/□]以下であり、非常に優れた帯電防止性を備えていることがわかる。ごみの付着試験においても、カーバイド層33を形成したサンプルS7〜S12の評価はすべて○であり、帯電防止効果に優れていることが確かめられた。ITO層を形成した幾つかのサンプルR8〜R11は○であり、ある程度の帯電防止効果を示している。しかしながら、ITO層を形成したサンプルR7は△であり、ITO層を形成したサンプルR6(シート抵抗が2×1013[Ω/□])および導電的な膜(層)を何も形成していないサンプルR4およびR5(シート抵抗値が5×1013[Ω/□])はいずれも×であり、帯電防止効果が劣っていることがわかった。
【0151】
また、グループ(1b)の各サンプルS8、S10およびS11においても、カーバイド層33を形成することにより若干吸収損失が上昇する傾向がみられる。しかしながら、最大でも0.79%程度であり、十分に透光性は高く、反射防止層3の透光性に大きな影響を与えるほど光吸収損失は増加していない。したがって、カーバイド層33を含む層構造B1の反射防止層3を備えたレンズ10は、眼鏡用のレンズとして十分に使用できる。
【0152】
耐薬品性においては、図14に示すようにカーバイド層33を含むサンプルS7〜S12の評価はすべて○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。一方、ITO層を成膜したサンプルR6〜R11の評価はすべて×であり、ITO層を成膜することによりサンプルの耐薬品性が低下することがわかる。
【0153】
むくみの発生(耐湿性)の評価においては、図14に示すようにカーバイド層33を含むサンプルS7〜S12についてはむくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。一方、ITO層を成膜したサンプルR6〜R11については、ITO層の層厚が厚くなるとむくみの発生がみられた。これは、ITO層を成膜することによりサンプルの耐湿性が低下する可能性があることを示している。
【0154】
3.10 考察
以上の各測定結果および評価より、タイプB1の反射防止層3を有するグループ(1b)のサンプルS7〜S12についても、タイプA1の反射防止層3を有するグループ(1a)のサンプルS1〜S6と同様に、シート抵抗が大幅に低下し、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化はないものであることが確認できた。したがって、反射防止層3のタイプに限らず、予め設けられた遷移金属酸化物層(上記の例では高屈折率層32)の表面に第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する方法(第1の方法)によりカーバイド層33を設けることにより帯電防止などの特性を持ち、さらに、耐久性の良い光学物品を提供できる。
【0155】
4. 第1の方法による有機系の反射防止層を備えたサンプルの製造
4.1 実施例13(サンプルS13)
有機系の反射防止層3Aを備えたサンプルを製造した。以下に詳述するが、有機系の層35の表面にTiOxを遷移金属酸化物薄膜として積層(形成)し、TiOxの薄膜に炭酸ガス(二酸化炭素の気体)を第1の気体として使用し、炭酸ガスをイオン化して照射する第1の方法により有機系の層35の表面に透光性薄膜33を形成している。有機系の反射防止層3Aに、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する第1の方法により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(1c)と呼ぶ。図15に、有機系の反射防止層35を備えたサンプルS13の概略構成を示している。
【0156】
4.1.1 レンズ基材の選択およびハードコート層の成膜
上記の実施例1と同様のレンズ基材1を選択した。そして、上記の実施例1と同様にして、レンズ基材1の上にハードコート層2を形成した(2.1.1参照)。
【0157】
4.1.2 反射防止層
上記ハードコート層2の表面に、有機系の層35とカーバイド層33とを含む反射防止層3Aを形成した。
【0158】
(有機系の層(有機系の反射防止層)35)
化学式(CH3O)3Si−C2H4−C6F12−C2H4−Si(OCH3)3で表されるフッ素含有シラン化合物47.8重量部(0.08モル)に、有機溶剤としてメタノール312.4重量部、フッ素を含有しないシラン化合物であるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン4.7重量部(0.02モル)を加え、さらに0.1規定の塩酸水溶液36重量部を加えて混合した。その後、設定温度が25℃の恒温槽内で2時間攪拌して、固形分比率が10重量%のシリコンレジンを得た。
【0159】
このシリコンレジンに、内部に空洞を有するシリカ微粒子として、中空シリカ−イソプロパノール分散ゾル(触媒化成工業(株)製、固形分比率:20重量%、平均粒子径:35nm、外殻厚み:8nm)を、シリコンレジンと中空シリカとの固形分比率が70:30となるように配合した。さらに、分散媒として、プロピレングリコールモノメチルエーテル935重量部を加えて希釈し、固形分が3重量%の組成物を得た。
【0160】
そして、この組成物に、アルミニウム(Al(III))を中心金属とする金属錯塩として、アルミニウムのアセチルアセトン(Al(acac)3)を、最終組成物(有機系反射防止層を形成するコーティング組成物)に対する固形分比率が3重量%となるように加えた後、4時間攪拌した。これにより、有機系反射防止層を形成するコーティング組成物としての反射防止処理液を得た。
【0161】
ハードコート層2が形成されたレンズサンプル10を、大気プラズマによりプラズマ処理した。その後、上記で得られた反射防止処理液を、ハードコート層2の表面に、乾燥層厚が85nmとなるように、スピナー法を用いて塗布した。そして、温度125℃に保たれた恒温槽内に2時間投入して、塗布された反射防止処理液の硬化を行った。これにより、ハードコート層2の上に有機系反射防止層35を形成した。
【0162】
(カーバイド層)
有機系反射防止層35を成膜後、上記蒸着装置100を用いて、イオンアシスト蒸着ではなく、通常の真空蒸着工程により、有機系反射防止層35上に厚さ2nm程度のTiOX層を作り、さらに、このTiOX層に炭酸ガスイオンビームを照射し、導電性の高い光透性薄膜33を形成した。
【0163】
詳しくは、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を流量30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを500eV、イオン電流を200mAとした。これにより生成された炭酸ガスイオンビームを、有機系反射防止層35の表面に成膜したTiOX層に60秒照射した。このようにすることにより、TiOX層中にチタンカーバイド(典型的にはTiC)が形成される。
【0164】
4.1.3 防汚層
カーバイド層33を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。
【0165】
このようにして、プラスチック基材1、ハードコート層2、有機系反射防止層35およびカーバイド層33を含む反射防止層3A、さらに防汚層4を有するレンズサンプルS13を製造した。
【0166】
4.2 サンプルの評価
サンプルS13について、上記実施例と同様に、シート抵抗、ごみの付着試験、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した(2.10参照)。図16に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0167】
シート抵抗の測定値は、2×1011[Ω/□]であり、優れた帯電防止性能が得られた。また、耐薬品性は○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。むくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0168】
4.3 考察
以上の各測定結果および評価より、有機系反射防止層35を備える反射防止層3Aにおいても、予め遷移金属酸化物層(上記の例では、事前に追加されたTiOX層)に第1の気体(炭酸ガス)をイオン化して照射する方法(第1の方法)により、有機系の反射防止層3Aにおいても導電性のカーバイド層33を形成することができ、それによりシート抵抗を下げられることがわかった。その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化もないことがわかった。これにより、サンプルS13は、帯電防止などの特性を持ち、さらに、耐久性の良い光学物品であることがわかった。
【0169】
このように、無機系の層に限らず、有機系の層においても、カーバイド層33を設けることにより、優れた帯電防止性能および電磁波遮断性能と、耐久性とを備えた光学物品を提供できる。
【0170】
5. 第2の方法によるSiO2−ZrO2系の反射防止層を備えたサンプルの製造
上記の例とは異なり、TiO2を遷移金属酸化物の蒸着源とし、炭酸ガスを第1の気体として蒸着の際のイオンアシストガスとして用い、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層として、その表面に透光性薄膜を形成する方法(第2の方法)により、低屈折率層31としてSiO2層、高屈折率層32としてZrO2層を採用したタイプA1の反射防止層3を備えたサンプルを製造した。SiO2−ZrO2系の反射防止層3の1つの層32の上に、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化してイオンアシストガスとして用い、カーバイド層を生成する方法(第2の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(2a)と呼ぶ。
【0171】
5.1 実施例14(サンプルS14)
5.1.1 レンズ基材の選択およびハードコート層の成膜
上記の実施例1と同様にレンズ基材1を選択し、上記の実施例1と同様にして、レンズ基材1の上にハードコート層2を形成した(2.1.1参照)。
【0172】
5.1.2 反射防止層の成膜
ハードコート層2の上に、タイプA1の反射防止層3を成膜した。すなわち、実施例1と同じ条件(2.1.2.2)で、第1層および第3層の低屈折率層31と、第2層および第4層の高屈折率層32を成膜した。
【0173】
(カーバイドを含む層(透光性薄膜))
さらに、最外の高屈折率層32を第1の層として、その表面(表層)にカーバイドを含む層33を成膜した。
【0174】
図17(A)および(B)は、カーバイドを含む層33を形成する模式的に示している。図17(A)および(B)は蒸着装置100においてカーバイドを含む層(透光性薄膜)33を形成する様子を示しており、高屈折率層32と透光性薄膜33との上下関係は図1に示したレンズサンプル10とは逆転して示されている。したがって、レンズサンプル10上に、第1層31、第2層32、第3層31および第4層32を成膜した後、蒸着装置100を用い、カーバイド層(チタンカーバイドを含む層)33を第5層(導電層、透光性薄膜)として成膜する様子を示している。
【0175】
カーバイド層33は、次のようにして成膜した。酸化チタンTiO2の焼結体材料を蒸着源とし、これに熱電子を照射して蒸発させ、蒸発させた酸化チタンを、炭酸ガスイオンビームを用いて、第4層32の上にイオンアシスト蒸着した(図17(A))。蒸着源はTiOx(0<X≦2)であってもよい。炭酸ガスイオンビームは、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入した。蒸着装置100のイオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を200mAとした。
【0176】
炭酸ガスイオンビームをイオンアシストに用いることにより、CO2、CO、およびCを含む炭酸ガスイオンがTiO2またはTiOxとともに基層(第1の層)となる高屈折率の第4層32に積層される。このため、TiO2またはTiOxに含まれるチタン(Ti)原子と、炭酸ガスイオンビームに含まれる炭素(C)原子とによって、第4層32の上にチタンカーバイド(典型的にはTiC)を含む層(カーバイド層)33が形成される(図17(B))。本例では、層厚が7.2nmのカーバイド層33を形成した。
【0177】
さらに、カーバイド層33の上に、第6層として、第1および第3層と同様の条件で、SiO2層(低屈折率層31)を成膜した。
【0178】
これらの工程において、タイプA1の反射防止層3を形成するため、光学的性能を主に決める第1〜第4層および第6層の層厚は、それぞれ、150nm、30nm、21nm、55nm、85nmに管理した。第4層32の表層を形成するカーバイド層(第5層)33の厚みは、適当な導電性を得るために変えることができ、このサンプルS14においては厚みを7.2nmとした。
【0179】
5.1.3 防汚層の成膜
反射防止層3を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。
【0180】
このようにして、プラスチック基材1、ハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、防汚層4を有するレンズサンプルS14を得た。
【0181】
5.2 実施例15(サンプルS15)
実施例15では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例14と同じ条件で形成し、サンプルS15を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0182】
5.3 実施例16(サンプルS16)
実施例16では、実施例14と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS16を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜において、実施例14と同じ条件(5.1.2)で層厚を5.0nmとした。
【0183】
5.4 実施例17(サンプルS17)
実施例17では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例16と同じ条件で形成し、サンプルS17を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0184】
5.5 実施例18(サンプルS18)
実施例18では、実施例14と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS18を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を150mAとし、炭酸ガスイオンビームを生じさせた。その他は、実施例14と同じ条件(5.1.2)で、カーバイド層33の層厚を7.2nmに設定した。
【0185】
5.6 実施例19(サンプルS19)
実施例19では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例18と同じ条件で形成し、サンプルS19を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0186】
5.7 実施例20(サンプルS20)
実施例20では、実施例14と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS20を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAとした。その他は、実施例14と同じ条件(5.1.2)とした。カーバイド層33の層厚は7.2nmに設定した。
【0187】
5.8 実施例21(サンプルS21)
実施例21は、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例20と同じ条件で形成し、サンプルS21を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0188】
5.9 実施例22(サンプルS22)
実施例22では、実施例14と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS22を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAとし、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例14と同じ条件(5.1.2)とした。カーバイド層33の層厚は、10nmに設定した。
【0189】
5.10 実施例23(サンプルS23)
実施例23では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例22と同じ条件で形成し、サンプルS23を製造した。
【0190】
5.11 実施例24(サンプルS24)
実施例24では、実施例14と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプA1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS24を製造した。ただし、カーバイド層(第5層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、この混合ガスのイオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAとし、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例14と同じ条件(5.1.2)とした。カーバイド層33の層厚は10nmに設定した。
【0191】
5.12 実施例25(サンプルS25)
実施例25は、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例24と同じ条件で形成し、サンプルS25を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0192】
5.13 サンプル評価
上記2.10で説明したのと同様に、サンプルS14〜S25について、シート抵抗、ごみの付着試験、吸収損失、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した。図18および図19に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0193】
反射防止層3の1つの層32の表面にカーバイド層33を形成したサンプルS14〜S25においては、シート抵抗が2×108[Ω/□]〜2×1010[Ω/□]であった。これらのサンプルS14〜S25において、シート抵抗は、カーバイド層33の層厚が厚いほど小さくなる傾向がある。カーバイド層33の層厚が同じであれば、二酸化炭素とともにアルゴンガスを導入したサンプルの方が、シート抵抗が小さくなる傾向がある。
【0194】
図5に示したサンプルR1〜R3との比較は、サンプルS14〜S25において、シート抵抗が2桁〜6桁(102〜106)程度小さくなった。すなわち、サンプルS14〜S25においては、サンプルR1〜R3と比較して、シート抵抗が1/102〜1/106になった。このように、カーバイド層33を形成することによって導電性が得られ、サンプル表面の抵抗を大幅に低下できることがわかった。
【0195】
また、これらのサンプルS14〜S25は、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011[Ω/□]以下、さらに、1×1010[Ω/□]以下であり、非常に優れた帯電防止性および電磁遮蔽効果を備えていることがわかる。したがって、サンプルS14、S16、S18、S20、S22、S24は、それぞれ、眼鏡用のレンズとして好適であり、良好な帯電防止効果および電磁遮蔽効果があると言える。
【0196】
帯電防止効果は、ごみの付着試験で、図18および図19に示すように、サンプルS14〜S25の評価はすべて○であることにより確認できた。また、図18および図19に示すように、カーバイド層33を形成することにより若干吸収損失が上昇する傾向がみられる。しかしながら、最大でも1.7%程度であり、十分に透光性は高く、反射防止層3の透光性に大きな影響を与えるほど光吸収損失は増加していない。したがって、眼鏡用のレンズとして十分に使用できる。たとえば、帯電防止および透光性の双方をメリットという点を考慮するのであれば、サンプルS19は十分にシート抵抗が小さく、吸収損失も0.36%と小さいサンプルである。
【0197】
耐薬品性においては、図18および図19に示すように、サンプルS14〜S25の評価はすべて○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。また、むくみの発生(耐湿性)の評価においても、図18および図19に示すように、サンプルS14〜S25についてはむくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0198】
5.14 考察
以上の各測定結果および評価より、サンプルS14〜S25については、サンプルS1〜S13と同様に、シート抵抗が大幅に低下し、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化はないことがわかった。すなわち、反射防止層3の1つの層32の上に、蒸着源として遷移金属酸化物を用い、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化してイオンアシストガスとしてイオンアシスト蒸着する方法(第2の方法)で、導電性のカーバイド層33を形成することができ、従来とほぼ同等の吸収損失で透光性であり(透明であり)、良好な耐久性を有し、しかも、帯電防止性能および電磁波遮蔽性能の優れた光学物品を提供できることが分かった。
【0199】
6. 第2の方法によるSiO2−TiO2系の反射防止層を備えたサンプルの製造
TiO2を遷移金属酸化物の蒸着源とし、炭酸ガスを第1の気体として蒸着の際のイオンアシストガスとして用い、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層として、その表面に透光性薄膜を形成する方法(第2の方法)により、低屈折率層31としてSiO2層、高屈折率層32としてTiO2層を採用したタイプB1の反射防止層3を備えたサンプルを製造した。SiO2−TiO2系の反射防止層3に、イオン化してイオンアシストガスとして用い、カーバイド層を生成する方法(第2の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(2b)と呼ぶ。
【0200】
6.1 実施例26(サンプルS26)
上記の実施例7と同様にレンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を成膜した。ただし、レンズサンプル10上に、低屈折率の第1層31、高屈折率の第2層32、低屈折率の第3層31、高屈折率の第4層32、低屈折率の第5層31、高屈折率の第6層32を成膜した後、蒸着装置100を用い、第6層32の表面にカーバイド層(チタンカーバイドを含む層)33を第7層(透光性薄膜、導電層)として成膜した。
【0201】
カーバイド層33の成膜方法は、実施例14と同様であり、酸化チタンTiO2の焼結体材料を蒸着源とし、これに熱電子を照射して蒸発させ、蒸発させた酸化チタンを、炭酸ガスイオンビームを用いて、第4層32の上にイオンアシスト蒸着した(図17(A))。蒸着源はTiOx(0<X≦2)であってもよい。炭酸ガスイオンビームは、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入した。蒸着装置100のイオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を200mAとした。本例では、第6層32の層厚と第7層33の層厚との合計がおおよそ36nmとなるように、第6層の層厚を29nm、第7層33の層厚を7.2nmに設定した(図21参照)。
【0202】
なお、実施例7と同様に、カーバイド層33の上に、第1層、第3層および第5層と同じ条件でSiO2を真空蒸着し、低屈折率層(第8層)31を成膜した。
【0203】
これらの工程において、タイプB1の反射防止層3を形成するため、第1〜第5、第6および第7層の合計厚み、および第8層の層厚を、それぞれ、44nm、10nm、57nm、36nm、25nm、36nm、101nmに管理した。
【0204】
6.2 実施例27(サンプルS27)
実施例27では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例26と同じ条件で形成し、サンプルS27を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0205】
6.3 実施例28(サンプルS28)
実施例28では、実施例26と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS28を製造した。ただし、第6層32の層厚は31nmとし、カーバイド層(第7層)33を実施例26と同じ条件で行い、層厚は5.0nmとした。
【0206】
6.4 実施例29(サンプルS29)
実施例29は、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例28と同じ条件で形成し、サンプルS29を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0207】
6.5 実施例30(サンプルS30)
実施例30では、実施例26と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS30を製造した。ただし、第6層32の層厚は29nmとし、カーバイド層33の層厚は7.2nmとした。また、カーバイド層(第7層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを800eV、イオン電流を150mAとし、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例26と同じ条件とした。
【0208】
6.6 実施例31(サンプルS31)
実施例31では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例30と同じ条件で形成し、サンプルS31を製造した。
【0209】
6.7 実施例32(サンプルS32)
実施例32では、実施例26と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS32を製造した。ただし、第6層32の層厚は29nmとし、カーバイド層33の層厚は7.2nmとした。カーバイド層(第7層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAに設定し、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例26と同じ条件とした。
【0210】
6.8 実施例33(サンプルS33)
実施例33は、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例32と同じ条件で形成し、サンプルS33を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0211】
6.9 実施例34(サンプルS34)
実施例34では、実施例26と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS34を製造した。ただし、第6層32の層厚は26nmとし、カーバイド層33の層厚は10.0nmとした。カーバイド層(第7層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)を30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAに設定し、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例26と同じ条件とした。
【0212】
6.10 実施例35(サンプルS35)
実施例35では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例34と同じ条件で形成し、サンプルS35を製造した。
【0213】
6.11 実施例36(サンプルS36)
実施例36では、実施例26と同じ条件で、レンズ基材1の上にハードコート層2、タイプB1の反射防止層3、および防汚層4を形成し、サンプルS36を製造した。ただし、第6層32の層厚は26nmとし、カーバイド層33の層厚は10.0nmとした。また、カーバイド層(第7層)33の成膜においては、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素ガスの流量を15sccm、アルゴンガスの流量を15sccmとして真空容器110内に導入し、この混合ガスのイオン化させ、イオンエネルギーを1000eV、イオン電流を200mAとし、炭酸ガスイオンビームを照射した。その他は、実施例26と同じ条件とした。
【0214】
6.12 実施例37(サンプルS37)
実施例37では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプB1の反射防止層3を実施例36と同じ条件で形成し、サンプルS37を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0215】
6.13 サンプル評価
サンプルS26〜S37について、上記2.10において説明した方法により、シート抵抗、ごみの付着試験、吸収損失、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した。図20および図21に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0216】
反射防止層3の1つの層32の表面にカーバイド層33を形成したサンプルS26〜S37においては、シート抵抗が2×108[Ω/□]〜2×1010[Ω/□]であった。なお、サンプルS26〜S37において、シート抵抗は、カーバイド層33の層厚が厚いほど小さくなる傾向がある。カーバイド層33の層厚が同じであれば、二酸化炭素とともにアルゴンガスを導入したサンプルの方が、シート抵抗が小さくなる傾向がある。
【0217】
このように、サンプルS26〜S37においては、図14に示したサンプルR4〜R11と比較して、シート抵抗が1桁〜5桁(101〜105)程度小さくなった。すなわち、サンプルS26〜S37においては、サンプルR4〜R11と比較して、シート抵抗が1/101〜1/105になった。このように、カーバイド層33を形成することによって大幅にシート抵抗を低下できることがわかった。また、サンプルS26〜S37は、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011[Ω/□]以下、さらに、1×1010[Ω/□]以下であり、非常に優れた帯電防止性および電磁波遮蔽効果を備えていることがわかる。したがって、サンプルS26、S28、S30、S32、S34、S36は、それぞれ、眼鏡用のレンズとして好適であり、良好な帯電防止効果および電磁遮蔽効果があると言える。
【0218】
ごみの付着試験においても、図20および図21に示すように、サンプルS26〜S37の評価はすべて○であり、帯電防止効果に優れていることが確認できた。また、図20および図21に示すように、カーバイド層33を形成することにより若干吸収損失が上昇する傾向がみられる。しかしながら、最大でも1.7%程度であり、十分に透光性は高く、反射防止層3の透光性に大きな影響を与えるほど光吸収損失は増加していない。したがって、眼鏡用のレンズとして十分に使用できる。
【0219】
耐薬品性においては、図20および図21に示すように、サンプルS26〜S37の評価はすべて○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。また、むくみの発生(耐湿性)の評価においては、図20および図21に示すように、サンプルS26〜S37についてはむくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0220】
6.14 考察
以上の各測定結果および評価より、サンプルS26〜S37では、サンプルS1〜S25と同様に、シート抵抗が大幅に低下することが認められ、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化はないことがわかった。したがって、異なる系の反射防止層3においても、その1つの層32の上に、蒸着源として遷移金属酸化物を用い、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化してイオンアシストガスとしてイオンアシスト蒸着する方法(第2の方法)により導電性のカーバイド層33を形成することができることが分かった。そして、従来とほぼ同等の吸収損失で透光性であり(透明であり)、良好な耐久性を有し、しかも、帯電防止性能および電磁波遮蔽性能の優れた光学物品を提供できることがわかった。また、上記2.11で説明したように、炭素、ケイ素、ゲルマニウムを含む他の第1の気体を用いたイオンアシスト法により、カーバイド、シリサイドまたはゲルマニドを形成する遷移金属酸化物層を蒸着させることにより、上記と同様に帯電防止性能および電磁波遮蔽性能の優れた光学物品を提供できると考えられる。
【0221】
7. 第2の方法による有機系の反射防止層を備えたサンプルの製造
7.1 実施例38(サンプルS38)
有機系の反射防止層3Aを備えたサンプルを製造した。以下に詳述するが、有機系の層35の表面にTiO2を遷移金属酸化物の蒸着源とし、炭酸ガスを第1の気体として蒸着の際のイオンアシストガスとして用い、有機系の層35を第1の層として、その表面に透光性薄膜を形成する方法(第2の方法)により、透光性薄膜33を形成している。有機系の反射防止層3Aに、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化してイオンアシストガスとして用い、カーバイド層を生成する方法(第2の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(2c)と呼ぶ。
【0222】
図22に、本実施形態の典型的なレンズの構成のさらに他の例を、基材を中心とした一方の面の側の断面図により示している。
【0223】
まず、実施例14(5.1参照)と同様にレンズ基材1の上にハードコート層2を成膜し、そのハードコート層2の表面に、有機系の層35を形成した。なお、有機系反射防止層35の層厚は80nmとした。
【0224】
(保護層)
有機系反射防止層35は、中空シリカをバインダー(樹脂)で固めた構造である。このため、イオンビームを直接照射すると、中空シリカおよび/またはバインダーが破壊されるおそれがある。したがって、本例では、有機系反射防止層35の上に、層厚5nmの保護層(SiO2層)39を成膜した。
【0225】
保護層(SiO2層)39は、イオンアシストは行わず、真空蒸着により成膜した。成膜レートは2.0nm/secとし、電子銃の加速電圧は7kV、電流は100mAとした。
【0226】
(カーバイド層)
保護層39を成膜後、上記蒸着装置100を用いて、カーバイド層33を成膜した。カーバイド層33は、次のようにして成膜した。酸化チタンTiO2の焼結体材料を蒸着源とし、これに熱電子を照射して蒸発させ、蒸発させた酸化チタンを、炭酸ガスイオンビームを用いて、保護層39の上にイオンアシスト蒸着した。蒸着源はTiOx(0<X≦2)であってもよい。炭酸ガスイオンビームは、二酸化炭素(CO2)ガスを30sccmで真空容器110内に導入し、イオン化させ、イオンエネルギーを500eV、イオン電流を200mAとし、炭酸ガスイオンビームを照射した。このようにすることにより、TiOxに含まれるチタン(Ti)原子と、炭酸ガスイオンビームに含まれる炭素(C)原子とにより、保護層39の上にチタンカーバイド(典型的にはTiC)を含む層(カーバイド層)33が形成される。本例では、カーバイド層33は、層厚が2nmとなるように設定した。
【0227】
さらに、カーバイド層33を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。このようにして、プラスチック基材1、ハードコート層2、有機系反射防止層35、保護層39、およびカーバイド層33を含む反射防止層3A、防汚層4を有するレンズサンプルS38を得た。
【0228】
7.2 サンプルの評価
サンプルS38について、上記2.10と同様の方法で、シート抵抗、ごみの付着試験、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した。図23に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0229】
シート抵抗の測定値は、1×1011[Ω/□]であり、優れた帯電防止性能が得られた。また、耐薬品性は○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。むくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0230】
7.3 考察
以上の各測定結果および評価より、有機系反射防止層35を備える反射防止層3Aにおいても、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化してイオンアシストガスとして用い、蒸着源に遷移金属酸化物を用いる方法(第2の方法)により、導電性のカーバイド層33を設けられることがわかった。そして、この方法により、シート抵抗を下げることができ、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化もないことがわかった。これにより、サンプルS38は、帯電防止などの特性を持ち、さらに、耐久性の良い光学物品であることがわかった。
【0231】
この例からも、無機系の層に限らず、有機系の層においても、カーバイド層33を設けることにより、優れた帯電防止性能および電磁波遮断性能と、耐久性とを備えた光学物品を提供できることがわかる。
【0232】
8. 第3の方法によるSiO2−ZrO2系の反射防止層を備えたサンプルの製造
上記の例とは異なり、Tiを、遷移金属を含むターゲットとし、炭酸ガスを第1の気体としてイオン化して照射し、最上(最外)の高屈折率層32を第1の層として、その表面に透光性薄膜をスパッタリングにより形成する方法(第3の方法)により、低屈折率層31としてSiO2層、高屈折率層32としてZrO2層を採用したタイプA1の反射防止層3を備えたサンプルを製造した。SiO2−ZrO2系の反射防止層3の1つの層32の表面に、遷移金属を含むターゲットとし、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化した電子ビームとして用い、スパッタリングによりカーバイド層を生成する方法(第3の方法)により透光性薄膜33を導入したサンプルのグループをグループ(3a)と呼ぶ。
【0233】
8.1 実施例39(サンプルS39)
8.1.1 レンズ基材の選択およびハードコート層の成膜
上記の実施例1と同様にレンズ基材1を選択し、上記の実施例1と同様にして、レンズ基材1の上にハードコート層2を成膜した(2.1.1参照)。
【0234】
8.1.2 反射防止層
ハードコート層2の上に、タイプA1の反射防止層3を成膜した。すなわち、実施例1と同じ条件(2.1.2.2)で、第1層および第3層の低屈折率層31と、第2層および第4層の高屈折率層32を成膜した。
ZrO2層は以下のように成膜した。まず、チャンバー内にArを200sccm、酸素を100sccm導入し、チャンバー内の圧力を5.0×10-1Paとした。RF1.5kwを印加し放電させ、基板と対向に設置されているZrターゲットをスパッタし、スパッタ粒子を基板に堆積させる。このとき、基板表面ではZrと酸素が化学反応し、ZrO2膜とし堆積していく。
同様にSiO2層ではSiターゲットを用いて、Arを200sccm、酸素を100sccm導入し、チャンバー内の圧力を5.0×10-1Paとした。RF1.8kwを印加し放電させ、Siターゲットをスパッタする。基板表面ではSiと酸素が化学反応してSiO2が堆積していく。これらを繰り返し行うことで、ZrO2とSiO2の多層膜とする。
【0235】
(カーバイドを含む層(透光性薄膜))
さらに、最外の高屈折率層32を第1の層として、その表面(表層)にカーバイドを含む層33を成膜した。
【0236】
図24(A)および(B)は、カーバイドを含む層の形成を模式的に示している。図24(A)は、チタンターゲットに二酸化炭素ガスおよびアルゴンガスをイオン化して照射している様子を示している。図24(B)は、ZrO2層(第6層)の上にチタンカーバイドを含む層(透光性薄膜)がスパッタにより形成された様子を示している。図24(A)および(B)は蒸着装置100においてカーバイドを含む層(透光性薄膜)33を形成する様子を示しており、高屈折率層32と透光性薄膜33との上下関係は図1に示したレンズサンプル10とは逆転して示されている。したがって、レンズサンプル10上に、第1層31、第2層32、第3層31、第4層32をスパッタ成膜した後、同装置にてカーバイドを含む層、本例では、チタンカーバイド(典型的には、TiCであり、その他TiOCなどを含む)を含む層33を第5層(導電層、透光性薄膜)として成膜する様子を示している。
【0237】
カーバイド層33は、以下のようにして成膜した。チャンバー(真空容器)を十分に真空排気し、二酸化炭素(CO2)ガス(第1の気体)とアルゴン(Ar)ガスとの混合ガスを、二酸化炭素(CO2)ガスの流量を100sccm、アルゴン(Ar)ガスの流量を200sccmとしてチャンバー内に導入し、チャンバー内の圧力を5.0×10-1Paとした。そして、二酸化炭素ガスおよびアルゴンガスをイオン化し、チタンターゲット38に照射した(図24(A)参照)。これにより、チタンターゲット38からチタン(Ti)と炭素(C)を含む元素がはじき出され、第6層32の上にチタンカーバイド(典型的にはTiC)として堆積する(図24(B)参照)。この際、スパッタソースのRFパワーは1.5kWとした。このようにすることにより、第4層32の上に層厚5.0nmのカーバイド層33を成膜した。
【0238】
さらに、カーバイド層33の上に、第6層として、第1層および第3層および第5層と同じ条件でSiO2層(低屈折率層)31を成膜した。
【0239】
これらの工程において、タイプA1の反射防止層3を形成するため、光学的性能を主に決める第1〜第4層および第6層の層厚は、それぞれ、150nm、30nm、21nm、55nm、85nmに管理した。第4層32の表層を形成するカーバイド層(第5層)33の厚みは、適当な導電性を得るために変えることができ、このサンプルS39においては厚みを5.0nmに設定した。
【0240】
8.1.3 防汚層
カーバイド層33を形成した後、実施例1と同様に防汚層4を成膜した(2.1.3参照)。
【0241】
8.2 実施例40(サンプルS40)
実施例40では、光学基材1として平面のガラス(B270)を用い、その表面にタイプA1の反射防止層3を実施例39と同じ条件で形成し、サンプルS40を製造した。防汚層は成膜しなかった。
【0242】
8.3 サンプル評価
サンプルS39およびS40について、上記2.10において説明したシート抵抗、ごみの付着試験、吸収損失、耐薬品性(剥がれの発生の有無)、耐湿性(むくみの発生の有無)を測定、試験、および評価した。図25に、反射防止層の層構造、カーバイド層(透光性薄膜)の成膜の条件とともに、上記測定および結果、上記試験および評価結果を纏めて示している。
【0243】
サンプルS39およびS40においては、シート抵抗が1×1010[Ω/□]であった。サンプルS39およびS40においては、シート抵抗が図5に示したサンプルR1〜R3と比較して、2桁〜4桁(102〜104)程度小さくなった。すなわち、サンプルS39およびS40においては、サンプルR1〜R3と比較して、シート抵抗が1/102〜1/104になった。このように、カーバイド層33を形成することによって大幅にシート抵抗を低下できることがわかった。
【0244】
サンプルS39およびS40は、上記の測定方法で測定されたシート抵抗が1×1011[Ω/□]以下、さらに、1×1010[Ω/□]以下であり、非常に優れた帯電防止性を備えていることがわかる。したがって、サンプルS39は、眼鏡用のレンズとして好適であり、良好な帯電防止効果および電磁遮蔽効果があると言える。
【0245】
ごみの付着試験では、図25に示すように、サンプルS39およびS40の評価はすべて○であり、帯電防止効果に優れていることが確認された。
【0246】
また、図25に示すように、カーバイド層33を形成することにより1.0%ほど吸収損失が上昇するが、この程度であれは、十分に透光性は高い。したがって、眼鏡用のレンズとして十分に使用できると考えられる。
【0247】
耐薬品性においては、図25に示すように、サンプルS39およびS40の評価は○であり、日常的に用いられる環境において、優れた耐薬品性を示した。また、むくみの発生(耐湿性)の評価においては、図25に示すように、サンプルS39およびS40についてはむくみの発生は観測されず、すぐれた耐湿性を示した。
【0248】
8.4 考察
以上の各測定結果および評価より、サンプルS39およびS40については、サンプルS1〜S38と同様に、シート抵抗が大幅に低下し、その一方で、耐薬品性および耐湿性の劣化はないことがわかった。すなわち、反射防止層3の1つの層32の表面に、遷移金属を含むターゲットとし、第1の気体(炭酸ガス)をイオン化した電子ビームとして用い、スパッタリングによりカーバイド層を生成する方法(第3の方法)により導電性のカーバイド層33を形成でき、従来とほぼ同等の吸収損失で透光性であり(透明であり)、良好な耐久性を有し、しかも、帯電防止性能および電磁波遮蔽性能の優れた光学物品を提供できる。
【0249】
なお、第3の方法を含む反射防止層の製造方法(カーバイド層33の成膜方法)は、第1または第2の方法を含む製造方法と同様に、SiO2−ZrO2系の反射防止層だけでなく、SiO2−TiO2系の反射防止層にも適用できる。また、カーバイド、シリサイドまたはゲルマニドを形成する遷移金属をターゲットとし、炭素、ケイ素、ゲルマニウムを含む他の第1の気体をイオン化した電子ビームを用いてスパッタリングによりカーバイド、シリサイドまたはゲルマニドを形成する遷移金属酸化物層を蒸着させることにより、上記と同様に帯電防止性能および電磁波遮蔽性能の優れた光学物品を提供できる。
【0250】
また、上記の実施例で示した反射防止層の層構造は幾つかの例にすぎず、本発明がそれらの層構造に限定されることはない。遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む層(透光性薄膜)は、例えば、3層以下、あるいは9層以上の反射防止層に適用することも可能であり、また、導入される透光性薄膜は1層に限定されない。また、高屈折率層と低屈折率層の組み合わせは、ZrO2/SiO2、TiO2/SiO2に限定されることはなく、Ta2O5/SiO2、NdO2/SiO2、HfO2/SiO2、Al2O3/SiO2などの系であってもよく、これらのいずれかの層の表面に上記透光性薄膜を形成することが可能である。
【0251】
9. 光学物品を含むシステムの例
図26に、上記のカーバイド層を含む眼鏡レンズ10と、眼鏡レンズ10が装着されたフレーム201とを含む眼鏡200を示している。また、図27に、上記のカーバイド層を含むレンズ211と、カーバイド層を含む平面のガラス212と、投射レンズ211および平面のガラス212とを通して投影する光を生成する画像形成装置、例えばLCD213とを備えたプロジェクター210を示している。また、図28に、上記のカーバイド層を含む撮像レンズ221と、カーバイド層を含む平面のガラス222と、撮像レンズ221および平面のガラス222を通して画像を取得するための撮像装置、例えばCCD223とを備えたデジタルカメラ220を示している。また、図29に、上記のカーバイド層として形成された透過層231と、光学的な方法により記録を読み書きできる記録層232とを備えた記録媒体、例えばDVD230を示している。
【0252】
本発明の光学物品は、これらのシステムの光学物品、例えば、レンズ、ガラス、プリズム、カバー層などとして多種多様な用途を備えている。なお、上記に示したシステムは例示にすぎず、当業者が本発明を利用しうる光学物品およびシステムは、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0253】
1 レンズ基材、 2 ハードコート層、 3、3A 反射防止層、 4 防汚層10、 レンズサンプル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学基材の上に、直にまたは他の層を介して透光性の第1の層を形成することと、
前記第1の層の表面に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜を物理的蒸着により形成することとを有し、
前記透光性薄膜を物理的蒸着により形成することは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群の中から少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む、光学物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の層の表面を遷移金属酸化物層にすることを有し、
前記第1の気体をイオン化することは、前記遷移金属酸化物層に対して前記第1の気体をイオン化して照射することにより、前記第1の層の表面に前記透光性薄膜を形成することを含む、光学物品の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、前記第1の気体をイオン化することは、遷移金属酸化物を蒸着源とし、前記第1の気体をイオンアシストガスとして用い、前記第1の層の表面に前記透光性薄膜を形成することを含む、光学物品の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、前記第1の気体をイオン化することは、遷移金属を含むターゲットに前記第1の気体をイオン化して照射し、前記第1の層の表面に前記透光性薄膜を形成することを含む、光学物品の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記第1の気体は二酸化炭素である、光学物品の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、当該光学物品は、無機系または有機系の反射防止層を有するものであり、
前記第1の層は、前記無機系または有機系の反射防止層に含まれる層である、光学物品の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、当該光学物品は、多層構造の反射防止層を有するものであり、
前記第1の層は、前記多層構造の反射防止層に含まれる1つの層である、光学物品の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、前記透光性薄膜の上に、直にまたは他の層を介して防汚層を形成することをさらに有する、光学物品の製造方法。
【請求項9】
光学基材と、
前記光学基材の上に、直にまたは他の層を介して形成された透光性の第1の層と、
前記第1の層の表面に形成された、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜であって、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群の中から少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む物理的蒸着により形成された透光性薄膜とを有する光学物品。
【請求項10】
請求項9において、前記第1の層を含む無機系または有機系の反射防止層を有する、光学物品。
【請求項11】
請求項9において、前記第1の層を含む多層構造の反射防止層を有する、光学物品。
【請求項12】
請求項10または11において、前記反射防止層の上に、直にまたは他の層を介して形成された防汚層をさらに有する、光学物品。
【請求項13】
請求項9ないし12のいずれかにおいて、前記光学基材は、プラスチックレンズ基材である、光学物品。
【請求項14】
請求項13において、当該光学物品は眼鏡レンズである、光学物品。
【請求項15】
請求項14に記載の眼鏡レンズと、
前記眼鏡レンズが装着されたフレームとを有する、眼鏡。
【請求項16】
請求項9ないし12のいずれかに記載の光学物品と、
前記光学物品を通して画像を投影させるための画像形成装置とを有する、システム。
【請求項17】
請求項9ないし12のいずれかに記載の光学物品と、
前記光学物品を通して画像を取得するための撮像装置とを有する、システム。
【請求項18】
請求項9ないし12のいずれかに記載の光学物品と、
前記光学物品を通してアクセスする媒体とを有する、システム。
【請求項1】
光学基材の上に、直にまたは他の層を介して透光性の第1の層を形成することと、
前記第1の層の表面に、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜を物理的蒸着により形成することとを有し、
前記透光性薄膜を物理的蒸着により形成することは、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群の中から少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む、光学物品の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第1の層の表面を遷移金属酸化物層にすることを有し、
前記第1の気体をイオン化することは、前記遷移金属酸化物層に対して前記第1の気体をイオン化して照射することにより、前記第1の層の表面に前記透光性薄膜を形成することを含む、光学物品の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、前記第1の気体をイオン化することは、遷移金属酸化物を蒸着源とし、前記第1の気体をイオンアシストガスとして用い、前記第1の層の表面に前記透光性薄膜を形成することを含む、光学物品の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、前記第1の気体をイオン化することは、遷移金属を含むターゲットに前記第1の気体をイオン化して照射し、前記第1の層の表面に前記透光性薄膜を形成することを含む、光学物品の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記第1の気体は二酸化炭素である、光学物品の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、当該光学物品は、無機系または有機系の反射防止層を有するものであり、
前記第1の層は、前記無機系または有機系の反射防止層に含まれる層である、光学物品の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、当該光学物品は、多層構造の反射防止層を有するものであり、
前記第1の層は、前記多層構造の反射防止層に含まれる1つの層である、光学物品の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、前記透光性薄膜の上に、直にまたは他の層を介して防汚層を形成することをさらに有する、光学物品の製造方法。
【請求項9】
光学基材と、
前記光学基材の上に、直にまたは他の層を介して形成された透光性の第1の層と、
前記第1の層の表面に形成された、遷移金属カーバイド、遷移金属シリサイド、遷移金属ゲルマニドの少なくともいずれかを含む透光性薄膜であって、炭素、ケイ素、ゲルマニウムのいずれかを含む第1の化合物群の中から少なくとも1種を含む第1の気体をイオン化することを含む物理的蒸着により形成された透光性薄膜とを有する光学物品。
【請求項10】
請求項9において、前記第1の層を含む無機系または有機系の反射防止層を有する、光学物品。
【請求項11】
請求項9において、前記第1の層を含む多層構造の反射防止層を有する、光学物品。
【請求項12】
請求項10または11において、前記反射防止層の上に、直にまたは他の層を介して形成された防汚層をさらに有する、光学物品。
【請求項13】
請求項9ないし12のいずれかにおいて、前記光学基材は、プラスチックレンズ基材である、光学物品。
【請求項14】
請求項13において、当該光学物品は眼鏡レンズである、光学物品。
【請求項15】
請求項14に記載の眼鏡レンズと、
前記眼鏡レンズが装着されたフレームとを有する、眼鏡。
【請求項16】
請求項9ないし12のいずれかに記載の光学物品と、
前記光学物品を通して画像を投影させるための画像形成装置とを有する、システム。
【請求項17】
請求項9ないし12のいずれかに記載の光学物品と、
前記光学物品を通して画像を取得するための撮像装置とを有する、システム。
【請求項18】
請求項9ないし12のいずれかに記載の光学物品と、
前記光学物品を通してアクセスする媒体とを有する、システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2011−150267(P2011−150267A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48847(P2010−48847)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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