説明

光走査光学装置及び該光走査光学装置を用いた画像形成装置

【課題】光走査光学装置を低価格化、小型化、軽量化することが課題である。
【解決手段】レーザ光を照射する光源と、レーザ光を偏向し、被走査面上で主走査方向に走査させる走査光学手段と、レーザ光の走査速度を等速にする走査光学系と、レーザ光を線状光にし、反射面に結像させる線状集光素子と、を備え、線状集光素子は、レーザ光が入射する又は出射する面のうち一方の面に回折効果を有する回折部を備え、周囲温度変動に起因する前記回折部のパワー変化が、副走査方向における周囲温度変動起因の焦点位置変化を補正するように回折部は形成され、回折部は、第1の回折面と第2の回折面とを含むブレーズド格子形状をなし、第1の回折面は、平面状に形成され、第2の回折面は、曲面状に形成されることを特徴とする光走査光学装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査光学装置及びこれを用いた画像形成装置(電子写真方式を利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ及びこれらの複合機など)に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ及びこれらの複合機などの画像形成装置は、形成する画像のデータに応じて変調した光を用いて、一様に帯電した感光体を露光することが求められる。高速な画像形成装置においては、レーザダイオードなどの光源からの光を偏向させる回転多面体鏡(ポリゴンミラー)と、偏向された光を感光体上で等速に走査するfθレンズなどで構成された光走査光学装置が用いられる。
【0003】
このような画像形成装置に対して、現在、パーソナル化の要請があり、低価格化、小型化、軽量化並びに形成する画像の高精細化が求められている。このため、光走査光学装置も低価格化、小型化、軽量化並びに温度などの環境変動にかかわらず高精細な画像形成を可能とする手段が求められている。
【0004】
このうち、コストや重量の低減に関して述べると、例えば、レンズを非球面化したり、単レンズ化したりする手法が特許文献1に示されている。また、特許文献2に示されるように、プラスチックレンズを用いることも一般的に行われている。
【0005】
特許文献3には、光源手段から出射された光束を偏向手段に入射させる入射光学手段と、偏向手段で反射偏向された光束を被走査面上に結像させる走査光学手段とを有する光走査光学装置及びこれを用いた画像形成装置が開示される。特許文献3の光走査光学装置の走査光学手段は、偏向手段側に第1のレンズ及び被走査面側に第2のレンズを有する。第1のレンズは、主走査方向に正のパワーを、副走査方向に負のパワーを有する。また、第1のレンズの主走査方向のパワーは第2のレンズの主走査方向のパワーよりも大きい。第2のレンズは、副走査方向に正のパワーを有する。特許文献3の光走査光学装置及びこれを用いた画像形成装置は、偏向手段から第1のレンズまでの長さを短く、第2のレンズから結像面までの長さを長く設計され、この光走査光学装置並びに画像形成装置は更なる小型化に貢献する。
【0006】
しかしながら、プラスチックレンズはガラスレンズと比較した場合、温度変化に対する線膨張や屈折率変化の度合が大きく、焦点ズレによる描画品質の劣化が生じ易いという問題がある。また、光走査光学装置は光偏向器(ポリゴンミラー)の面倒れ誤差による影響を低減するため、一般的に、光ビーム(光束)をポリゴンミラーの近傍で副走査方向についてのみ一旦結像させる構成を採用しており、そのため、副走査方向のパワー(屈折力)が主走査方向のパワーより強いアナモフィック光学系として構成される場合が多い。したがって、温度変化による焦点ズレも、主として副走査方向において問題となる。
【0007】
こういった環境温度変動への対応を設計に盛り込むため、特許文献2は、光ビーム発生手段から出射した光変調ビームを、主走査方向に長い線状光として結像させる第1の光学系と、該第1の光学系の結像位置近傍に偏向面を有し、入射された光ビームを主走査方向に偏向走査する光偏向器と、光偏向器で偏向された光ビームを被走査面上に結像させる第2の光学系とを有する光走査光学装置を開示している。この光走査光学装置の第1の光学系は副走査方向に正のパワーを有するガラス材料より成るシリンドリカルレンズと、副走査方向に負のパワーを有するプラスチック材料より成るシリンドリカルレンズとを有する。第2の光学系は複数のレンズを有する。複数のレンズのうち少なくとも1枚のレンズはプラスチック材料より成るレンズで構成され、第1の光学系の負のパワーのプラスチック材料より成るシリンドリカルレンズと、第2の光学系のプラスチックレンズとでプラスチックレンズの温度変動を相殺する。
【0008】
また同様に特許文献3の開示技術では、走査光学手段の第1のレンズは、主走査方向に正のパワーを、副走査方向に負のパワーを有する。また、第1のレンズの主走査方向のパワーは、第2のレンズの主走査方向のパワーよりも大きくされる。第2のレンズが、副走査方向に正のパワーを有するようにすることで、副走査方向の倍率を低減して副走査方向の焦点位置変化への感度低下を図っている。
【0009】
また、環境温度変動への対応策として特許文献4には、レーザダイオードからの光を、回折効果を有する集光レンズを透過させて回転多面体鏡(ポリゴンミラー)に結像させて温度補償する技術が開示されている。また、特許文献5には、偏向素子(ポリゴンミラー)で偏向された光束を屈折部と回折部とを有する走査光学素子で被走査面上に結像させるようにした光走査光学装置が開示されている。特許文献6には、光源からの光束を、回折部を有するアナモフィック光学素子により偏向素子に結像させ、その後、この偏向素子を用いて、偏向された光束を、屈折部を有する走査光学素子を介して被走査面上で走査させる光走査光学装置が開示され、この光走査光学装置は、温度変動に伴う主走査方向のピント変化を、温度変動による光源の波長変動による回折部のパワー変化を用いて補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3567408(特開平10−148755)号公報
【特許文献2】特開2000−206432号公報
【特許文献3】特開2002−48993号公報
【特許文献4】特許第3317355(特開平4−328951)号公報
【特許文献5】特許第3432085(特開平10−68903)号公報
【特許文献6】特開2003−337295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述の如く、プラスチックレンズはガラスレンズと比較し、温度変化に対する線膨張や屈折率変化の度合が大きく、焦点ズレによる描画品質の劣化が生じ易い。また、主走査方向に正のパワーを有するとともに副走査方向に負のパワーを有する第1レンズと、副走査方向に正のパワーを有する第2レンズを用い、第1レンズを偏向手段に近づけ、第2レンズから結像面までの長さを長くすると、光走査光学装置を小型に構成できるが、逆に、温度変動により、光走査光学装置を構成するレンズの屈折率の少しの変化が被走査面での大きな焦点位置変化になるという問題がある。
【0012】
このため、特許文献3に開示される技術では、第1のレンズの副走査方向には負のパワーを持たせ、第2のレンズの副走査方向には正のパワーを持たせることで、副走査方向の倍率を低減し、副走査方向の焦点位置変化への感度低下を図っている。しかしながら、高性能が要求される現状では、特許文献3の開示技術を用いても、焦点位置変化に対する感度低下効果が不十分な場合が考えられる。また特許文献2では、光学セットにガラスレンズを用いていることや、副走査方向の焦点変動緩和のためだけに凹面シリンダレンズを追加するため、コスト高となる。更に、特許文献2、3、5並びに6に開示される技術において、主走査方向と副走査方向のパワー配分の調整に用いられるシリンドリカルレンズは、光源からの光が平行光にされた後であって、偏向される前に配置されるので、シリンドリカルレンズ入射面からの反射光の影響により、光源の光量制御に悪影響をもたらすことが考えられる。
【0013】
また、特許文献4、特許文献5及び特許文献6の開示技術では、温度補償として回折格子を導入し、主走査方向のピント変化を、温度変動による光源の波長変動による回折部のパワー変化で補正するようにしているが、副走査方向に対する考慮はなされていない。加えて、特許文献4、特許文献5及び特許文献6は、回折格子の形状に起因する収差に関する問題点について、何ら言及していない。
【0014】
本発明は、光走査光学装置を含めて画像形成装置を低価格化、小型化並びに軽量化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一実施形態に係る光走査光学装置は、レーザ光を照射する光源と、該光源からのレーザ光を偏向し、被走査面上で主走査方向に走査させる走査光学手段と、該走査光学手段により偏向されたレーザ光の前記被走査面上における走査速度を等速にする走査光学系と、前記光源からのレーザ光を、主走査方向に長い線状光にし、前記走査光学手段の反射面に結像させる線状集光素子と、を備え、前記線状集光素子は、前記光源からのレーザ光が入射する面又は前記光源からのレーザ光が出射する面のうち一方の面に回折効果を有する回折部を備え、周囲温度変動に起因する前記回折部のパワー変化が、前記主走査方向に対して直交する副走査方向における周囲温度変動起因の焦点位置変化を補正するように前記回折部は形成され、前記回折部は、第1の回折面と第2の回折面とを含むブレーズド格子形状をなし、前記第1の回折面は、平面状に形成され、前記第2の回折面は、曲面状に形成されることを特徴とする(請求項1)。
【0016】
上記構成によれば、走査光学手段は、光源からのレーザ光を偏向し、被走査面上で主走査方向に走査させる。走査光学系は、偏向されたレーザ光の被走査面上における走査速度を等速にする。レーザ光は、線状集光素子によって、主走査方向に長い線状光にされる。線状集光素子は、レーザ光が入射する又は出射する面のうち一方の面に回折効果を有する回折部を備える。周囲温度変動に起因する回折部のパワー変化は、主走査方向に対して直交する副走査方向における周囲温度変動起因の焦点位置変化を補正する。したがって、副走査方向の焦点位置変化を生ずることが防止される。かくして、ガラスレンズを用いることなく光学系を構成でき、製造コストの低廉化を図ることができる。また、回折部は、第1の回折面と第2の回折面とを含む。第1の回折面は、平面状に形成されるので、比較的廉価に形成可能である。第2の回折面は、曲面状に形成されるので、収差の増大に起因する画像品質の低下を防止することができる。
【0017】
上記構成において、前記第2の回折面は、キノフォームをなすことが好ましい(請求項2)。
【0018】
上記構成によれば、第2の回折面が、キノフォームをなすので、収差の増大に起因する画像品質の低下を好適に防止することができる。
【0019】
上記構成において、前記第2の回折面は、前記回折部の中央に形成されることが好ましい(請求項3)。
【0020】
上記構成によれば、第2の回折面が、回折部の中央に形成されるので、収差の増大に起因する画像品質の低下を更に好適に防止することができる。
【0021】
上記構成において、前記第2の回折面は、前記回折部の中心線から0.5mm以内の距離範囲に形成されることが好ましい(請求項4)。
【0022】
上記構成によれば、第2の回折面は、回折部の中心線から0.5mm以内の距離範囲に形成されるので、回折部の回折面の多くを平面状の第1の回折面から形成することができ、比較的低廉に回折部を形成することができる。
【0023】
上記構成において、前記線状集光素子は、前記回折部の反対側の面に、前記光源からのレーザ光を屈折させる屈折部を備え、周囲温度変動に起因する前記回折部及び前記屈折部のパワー変化が、前記副走査方向における周囲温度変動起因の焦点位置変化を補正するように前記回折部及び前記屈折部が形成されることが好ましい(請求項5)。
【0024】
上記構成によれば、屈折部のパワー変化を併せて利用して、周囲温度変動に起因する焦点位置変化を補正するので、回折格子の設計自由度を向上させることができる。
【0025】
上記構成において、前記屈折部が、前記光源からのレーザ光が入射する面に形成されるとともに、凹面形状をなすことが好ましい(請求項6)。
【0026】
上記構成によれば、屈折部界面からの反射光が光源まで到達することを防止することができる。
【0027】
上記構成において、前記走査光学系は、前記走査光学手段側に配した第1のレンズと、前記被走査面側に配した第2のレンズを備え、前記第1のレンズは主走査方向に正のパワーを、前記副走査方向に負のパワーをそれぞれ有し、前記第2のレンズは副走査方向に正のパワーを有し、前記第1のレンズの前記主走査方向のパワーは、前記第2のレンズの主走査方向のパワーよりも大きく、前記第1と第2のレンズのうち一方が非球面形状をなすことが好ましい(請求項7)。
【0028】
上記構成によれば、走査光学手段と第1のレンズとの間を短く、被走査面と第2のレンズとの間を長くすることができ、小型の走査光学系を用いることができる。したがって、光走査光学装置を小型、軽量に構成できる。
【0029】
上記構成において、前記線状集光素子は、オレフィン系樹脂材料により形成されることが好ましい(請求項8)。
【0030】
上記構成によれば、湿度の高い場所でも水分吸収が少なく、水分吸収による屈折率変化が起きないオレフィン系樹脂材料を用いることにより、屈折率の変動を最小限とすることができる。
【0031】
本発明の他の実施形態に係る画像形成装置は、上述した特徴を備える光走査光学装置を搭載する(請求項9)。
【0032】
上記構成によれば、上記の光走査光学装置に関して示された様々な利点を備える画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0033】
上述の如く、本発明に係る光走査光学装置及び画像形成装置は、環境温度の変動に起因する副走査方向への焦点位置変化を好適に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る光走査光学装置を露光装置として組み込んだ画像形成装置の構成概略の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る光走査光学装置を画像形成装置における感光体の露光装置に応用した構成概略の斜視図である。
【図3】図2に示した光走査光学装置の副走査方向断面図である。
【図4】図4(a)は本発明の一実施形態に係る光走査光学装置に用いられるシリンドリカルレンズ4の回折格子側から見た斜視図であり、図4(b)はシリンドリカル面側から見た斜視図であり、図4(c)はシリンドリカルレンズの断面図であり、図4(c)中の楕円部には、主走査方向にはパワーを持たないフレネルな回折格子の部分が拡大して示される。
【図5】シリンドリカルレンズの入射面に形成される凹状の屈折部の効果を説明する図である。
【図6】シリンドリカルレンズの入射面に形成される凹状の屈折部の効果を説明するグラフである。
【図7】シリンドリカルレンズの回折部の更なる改良形態を説明する図である。
【図8】図4に示す回折部(ブレーズド格子形状)を備えるシリンドリカルレンズを用いたときの光強度分布と図7に示す回折部(キノフォーム)を備えるシリンドリカルレンズを用いたときの光強度分布を対比するグラフである。
【図9】シリンドリカルレンズの回折部の更なる改良形態を説明する図である。
【図10】回折部の中央領域に曲面形状の回折部を形成したときの突条を形成したときの光強度分布を示す。
【図11】回折部の中央領域に平面形状の回折部を形成したときの突条を形成したときの光強度分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状並びに相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲を限定する趣旨ではなく、単なる例示的説明に過ぎない。
【0036】
最初に本発明の一実施形態に係る光走査光学装置の構成を簡単に説明する。本発明の一実施形態に係る光走査光学装置は、半導体レーザからなる光源と、シリンドリカルレンズと、走査光学手段と、走査光学系を備える。シリンドリカルレンズは、光源からの光を、主走査方向に長い線状光にし、線状光を走査光学手段の反射面に結像させる。走査光学手段は、シリンドリカルレンズにより線状化された光を偏向するとともに、被走査面(画像形成装置においては、一様に帯電された感光体など)上で主走査方向に走査させる。尚、走査光学手段として、ポリゴンミラーを例示することができる。走査光学系は、被走査面上の偏向された光の走査速度を等速にする。走査光学系として、fθレンズを例示することができる。
【0037】
次に、シリンドリカルレンズ及び走査光学系について、詳述する。シリンドリカルレンズは、光が入射又は出射する一の面に回折部を備え、他の面に弧状に湾曲し、凹面をなすシリンドリカル面(屈折部)を備える。回折部は、主走査方向にパワーを持たない回折効果を発揮する。
【0038】
fθレンズなどからなる走査光学系は、走査光学手段(ポリゴンミラー)側に配される第1のレンズと、被走査面側に配される第2のレンズから構成される。第1のレンズは、主走査方向に正のパワーを有し、主走査方向と直交する副走査方向には負のパワーを有する。第2のレンズは、副走査方向に正のパワーを有する。尚、第1のレンズの主走査方向のパワーは、第2レンズの主走査方向のパワーよりも大きい。
【0039】
第1のレンズと第2のレンズのうちいずれか一方のレンズは、非球面形状をなす。これにより、第1のレンズと走査光学手段(ポリゴンミラー)間の距離が長く、被走査面と第2レンズとの間の距離が短くなるように、第1レンズ及び第2レンズを設置することができる。このような構成を採用することにより、小型の走査光学手段を用いることができ、光走査光学装置の小型化並びに軽量化を図ることができる。
【0040】
光走査光学装置中の温度変動は、半導体レーザの波長変動を生じさせ、シリンドリカルレンズの屈折部と回折部のパワー変化をもたらす。したがって、上述した光走査光学装置は、シリンドリカルレンズの屈折部と回折部のパワー変化を用いて、温度変動に起因する走査光学系の副走査方向の焦点位置変化を補正することが可能となる。よって、本実施形態は、非常に簡単な構成で、環境温度の変動があっても、副走査方向への焦点位置変化を起こさず、また、小型且つ軽量化された光走査光学装置と画像形成装置を提供することができる。
【0041】
図1は、上述の光走査光学装置を組み込んだ画像形成装置の内部構造を概略的に示す図である。尚、図1において示される画像形成装置は、プリンタであるが、ファクシミリ、コピー機などの他の画像形成装置に本実施例の原理を適用することも可能である。図1においてY−Y方向を前後方向といい、特に−Y方向を前方、+Y方向を後方という。上述の光走査光学装置は、図1に示す画像形成装置において、露光装置23として組み込まれている。
【0042】
プリンタ100は、装置本体11を備える。装置本体11下部に、給紙装置30が配設される。給紙装置30は、積載された用紙P1(記録媒体)の束(以下、用紙束Pという)から1枚ずつ用紙P1を繰り出す。給紙装置30の上方に仕切板115が配される。仕切板115の上方に、給紙装置30から供給された用紙P1上にトナー像を転写する画像形成部20と、画像形成部20で転写された用紙P1上のトナー像を用紙P1に定着させる定着ユニット27が配設される。定着ユニット27でトナー像を定着された用紙P1は、装置本体11の上面の一部を形成する排紙トレイ117へ排紙される。
【0043】
給紙装置30は、用紙束Pを積載するとともに、装置本体11に対して挿脱可能に装着された用紙カセット39と、用紙カセット39の前方側の対応した位置に用紙束Pから1枚ずつ最上位の用紙P1を繰り出させる大径の給紙ローラ311を備える。給紙ローラ311の直上位置には、小径の搬送コロ312が設けられる。
【0044】
給紙ローラ311の駆動によって用紙カセット39から繰り出された用紙P1は、搬送コロ312を介し、給紙搬送路313、給紙搬送路313の用紙搬送方向下流端に設けられたレジストローラ対314を順次通って画像形成部20に給紙される。なお、用紙カセット39の前壁38は、給紙ローラ311から画像形成部20へ用紙P1をガイドするガイド面としての役割を担う。
【0045】
画像形成部20は、コンピュータ等から伝送された画像情報に基づき用紙P1にトナー像を転写する。画像形成部20は、感光体ドラム(像担持体)21を備える。感光体ドラム21は、左右方向(図1の紙面と直交する方向)に延びる回転中心軸を備える。感光体ドラム21の周面に沿って時計回りに、感光体ドラム21の直上位置から帯電器22、露光装置23、現像装置24、転写ローラ25およびクリーニング装置26が配設される。
【0046】
感光体ドラム21の周面には、コンピュータ等の外部の機器から伝送される画像データに応じた静電潜像及びこの静電潜像に沿ったトナー像が形成される。帯電器22は、時計回りに回転している感光体ドラム21の周面に一様な電荷を形成する。本実施例においては、ワイヤからのコロナ放電により感光体ドラム21の周面に電荷を付与するコロナ放電方式のものが採用されている。これに代えて、帯電ローラ方式の帯電器22を採用してもよい。帯電ローラ方式の帯電器22を用いる場合は、帯電ローラが感光体ドラム21の周面と当接し、従動回転しながら、感光体ドラム21の周面に電荷を与えることとなる。
【0047】
露光装置23は、コンピュータ等の外部の機器から伝送されてきた画像データに基づき、強弱の付与されたレーザ光を、回転している感光体ドラム21の周面に照射する。レーザ光が照射された部分の電荷が消去されることによって、静電潜像が感光体ドラム21の周面に形成される。
【0048】
現像装置24は、トナーを貯蔵するトナーコンテナ241から感光体ドラム21の周面にトナーを供給し、感光体ドラム21周面の静電潜像が形成された部分にトナーを付着させる。これにより、感光体ドラム21の周面にトナー像が形成される。
【0049】
転写ローラ25は、感光体ドラム21の直下位置に送り込まれた用紙P1に対して、感光体ドラム21の周面に形成されているプラスに帯電したトナー像を用紙P1に転写させる。転写ローラ25は、トナー像の電荷と逆極性であるマイナスの電荷を用紙P1に付与する。
【0050】
感光体ドラム21の直下位置に到達した用紙P1は、転写ローラ25と感光体ドラム21とによって押圧挟持され、用紙P1に対する転写処理が施される。この転写処理は、プラスに帯電した感光体ドラム21周面のトナー像を、マイナスに帯電した用紙P1の表面に向けて引き剥がす処理である。
【0051】
クリーニング装置26は、用紙P1への転写処理後の感光体ドラム21の周面に残留しているトナーを取り除いて清浄化する。クリーニング装置26によって清浄化された感光体ドラム21の周面は、次の画像形成処理のために再び帯電器22へ向かう。
【0052】
定着ユニット27は、画像形成部20において転写された用紙P1上のトナー像を用紙P1に定着させる。定着ユニット27は、加熱源、加熱組立体及び加圧組立体を備える。加熱組立体は、トナー像を熱により定着させるための加熱ローラ271とを備える。加熱源は、略円筒形状に形成された加熱ローラ271内に収容される。本実施例では、加熱源としてハロゲンヒータ273が用いられる。加熱組立体は、加圧ローラ272及び加圧ローラ272を加熱ローラ271に圧接させるための適切な付勢機構を備える。加熱ローラ271は、回転中心軸周りに時計回りに回転し、加圧ローラ272は加熱ローラ272に対して従動回転し、回転中心軸周りに反時計回りに回転する。加熱ローラ271と加圧ローラ272の間にはニップ部が形成される。転写処理後の用紙P1は、ニップ部を通過する。加熱ローラ271からの熱並びに加圧ローラ272からの圧力によって、用紙P1上のトナー像が定着される。トナー像が定着された用紙P1は、排紙搬送路315を通って排紙トレイ117へ排出される。
【0053】
図2は、図1に露光装置23として組み込まれた光走査光学装置の構成概略の斜視図であり、図3は図2に示す光走査光学装置の副走査方向断面図である。以下の説明では、同一構成要素には同一番号を付している。
【0054】
本実施形態の光走査光学装置は、例えば、780nm帯半導体レーザよりなる光源1と、光源1からの光を平行光にするカップリングレンズとして用いられるガラス非球面コリメートレンズ2と、この平行光を所定の大きさとする開口31を備える開口絞り(アパーチャー)3と、カップリングレンズからの平行光を主走査方向10に長い線状光にし、回転反射鏡(ポリゴンミラー)5の反射面5aに結像させるシリンドリカルレンズ4などの線状集光素子と、線状集光素子により結像された光を被走査面上で走査する回転反射鏡(ポリゴンミラー)5と、回転反射鏡(ポリゴンミラー)5により偏向された光の被走査面上における走査速度を等速にするfθレンズなどの走査光学系6、7を備える。尚、図2に示す露光装置では、反射鏡8が、走査光学系6、7を通過した光を、被走査面9に反射させているが、本発明はこれに限定されるものではなく、反射鏡8を備えない構成も採用可能である。また、図2に示す露光装置では、シリンドリカルレンズ4は、光源1からの光が入射する入射面に弧状に湾曲したシリンドリカル面(凹面:屈折部)を備え、出射面に回折面を有するが、入射面側に回折面を形成し、出射面側にシリンドリカル面(凹面:屈折部)を形成することも可能である。シリンドリカルレンズ4の材質として、ZEONEXE48R(日本ゼオン株式会社の登録商標)等のオレフィン系樹脂等を例示することができる。
【0055】
シリンドリカルレンズ4などの線状集光素子に設ける回折面は、フレネルな回折格子であり、主走査方向10にはパワーを持たない形状とされる。これにより、温度変動に起因する回折効果の変化が主走査方向に影響することを防ぐことが可能となる。
【0056】
fθレンズ6、7などの走査光学系は、主走査方向に正のパワーを有するとともに、主走査方向と直交する副走査方向に負のパワーを持つ第1レンズ6と、副走査方向に正のパワーを有する第2レンズ7とで構成される。図2に示す光走査光学装置では、第1レンズ6が非球面形状をなし、第2レンズ7が球面形状をなしているが、第1レンズ6を球面形状とし、第2レンズ7を非球面形状とすることも可能である。
【0057】
本実施形態では、fθレンズ6、7などの走査光学系における温度変動に伴う副走査方向の焦点位置変化は、半導体レーザなどの光源1の温度変動に伴う波長変動により生ずるシリンドリカルレンズ4の屈折部と回折部のパワー変化を用いて補正される。
【0058】
このように光走査光学装置を構成することで、非常に簡単な構成で、環境温度の変動に起因する副走査方向の焦点位置変化を防ぐことが可能となる。さらに、fθレンズ6、7の主走査方向の正、負のパワーの配分によって、第1のレンズ6とポリゴンミラー5との間を短く、被走査面(感光体)9と第2のレンズ7との間を長くすることができ、光走査光学装置を小型且つ軽量に構成できる。また、この光走査光学装置を用いる画像形成装置も小型且つ軽量にすることができ、加えて、高精細な画像形成が可能となる。
【0059】
図4(a)は、本実施形態の光走査光学装置に用いるシリンドリカルレンズ4を回折格子側から見た斜視図であり、図4(b)はシリンドリカル面(屈折部)側から見た斜視図であり、図4(c)はシリンドリカルレンズの副走査方向の断面図である。図4(c)の楕円で囲んだ部分には、主走査方向10にはパワーを持たないフレネルな回折格子の部分が拡大して示されている。
【0060】
図4に例示されるシリンドリカルレンズ4は、略直方体に形成され、中央部に負のパワーを持つシリンドリカル面(屈折部)42を備え、シリンドリカル面(屈折部)42の逆側の面にフレネルな回折格子41を備える。シリンドリカル面(屈折部)42は、副走査方向において弧状に湾曲した凹形状をなす面である。図4には示されていないが、正のパワーを持つシリンドリカルレンズと組み合わせて、図4のシリンドリカルレンズは用いられる。
【0061】
このシリンドリカルレンズ4のフレネルな回折格子41は、図で明らかなように主走査方向10に略平行(副走査方向に対して直角)に設けられ、かつ、主走査方向10にはパワーを持たない回折格子である。図4(c)に明瞭に示される如く、回折格子41は、主走査方向10に延びる断面略直角三角形状の突条411を副走査方向に連設してなり、回折格子41全体として、鋸刃形状(一般的に、ブレーズド格子形状と呼ばれる)をなす。また、回折格子41中心を軸に各突条411は対称の向きをなす。各突条の斜面が回折面412となる。
【0062】
シリンドリカルレンズ4は、上述の如く、オレフィン系樹脂材料により形成される。オレフィン系樹脂材料は、湿度の高い場所でも水分吸収が少ないため、水分吸収に起因するシリンドリカルレンズ4の屈折率変化を最小限とすることができる。なお、以上の説明では、回折格子をシリンドリカルレンズ4に形成した場合を例に説明したが、シリンドリカルレンズ4とは独立とした回折格子部材に設けても良いことは勿論である。
【0063】
次に、この光走査光学装置における温度変動に伴う焦点位置変化に対する補正について説明する。上記の説明において、線状集光素子として用いられるシリンドリカルレンズ4をZEONEXE48R等のオレフィン系樹脂等で形成するとともに、シリンドリカルレンズ4の一の面に回折面を形成した系を用いたが、ここでは、回折面を有さないシリンドリカルレンズを用いた系について考える。この回折面を有さないシリンドリカルレンズを用いた系において、系全体での温度変動に対する感度が、例えば、0.2mm/1℃であるとする。
【0064】
ここで、この光走査光学装置が、例えば、dtだけ昇温した場合を考える。この昇温で走査光学素子の屈折率nはdn/dtだけ変化し、これに伴う焦点距離変化dφIは、下記(1)式の屈折率の関数として表現できる。尚、L(n)は昇温に対する屈折率変化率を焦点距離変化に変換する係数であり、屈折率nの関数である。
【0065】
dφI =L(n)dn/dt ……………………(1)
一方、昇温dtによって半導体レーザ等の光源1の発振波長λもdλ/dtだけ変化する。この昇温dtに伴う屈折と回折の焦点距離変化dφL、dφDは、それぞれ下記(2)、(3)式を用いて、共に波長の関数として表すことができる。ここで、昇温dtに対する発振波長λの変化率を焦点距離変化に変換する係数Lw(λ)及びDw(λ)は、波長の関数である。
【0066】
dφL =Lw(λ)dλ/dt ……………………(2)
dφD =Dw(λ)dλ/dt ……………………(3)
ここで、回折格子41を形成した系を考える。回折格子41は、下記(4)式を満たすように設計される。下記(4)式を満たす回折格子41を用いることにより、環境変動(昇温dt)による副走査方向における倍率変化やピント変化が、回折格子41の屈折及び回折による焦点距離変化で相殺される。
【0067】
dφI +dφL+dφD ≒0 …………………(4)
すなわち、この(4)式を満足させるdφL、dφDを有するように回折格子41を形成し、回折格子の設計に対応して半導体レーザなどの光源1の波長変化を補正するために必要な走査光学系の屈折と回折のパワー配分を決めることができる。
【0068】
なお、ピントズレの改善は回折部のパワーのみで行うことも可能であるが、この場合、回折格子の間隔が製造不可能なサイズ(メーカによって異なる)になってしまう可能性がある。これを避けるために、屈折部のパワーも利用した方がより簡単にピントズレの補正を行うことができる。尚、回折格子の設計において、下記(5)式で表されるコーシーの分散式などを用いて、屈折率を波長の関数として扱うことも可能である。尚、下記(5)式において、nは屈折率であり、λは波長であり、A、B、C、……は定数である。これにより、回折格子の設計の簡便化を図ることができる。
【0069】
n=A+(B/λ2)+(C/λ4)+…… ……(5)
前記したように、光走査光学装置の温度による焦点変動量を0.2mm/1℃とすると、光学系の合成焦点距離fに対する温度変化は、下記(6)式で表されるf(T)なる関数として捉えることができる。
【0070】
f(T)=f+0.2T …………………………(6)
そのため、上述の(1)式で表される温度変動に伴う屈折による焦点変動dφIは、上記(6)式のf(T)とほぼ同値になるため、回折光学素子における温度による焦点距離変動量dφL+dφDを、−1/f(T)とすることで相殺できることになる。
【0071】
このように線状集光素子であるシリンドリカルレンズ4に回折格子を付与することで、アナモフィック光学系の特徴である主走査方向と副走査方向でそれぞれにパワーが異なる光学素子の特徴を失うことなく、温度変動によるピントの変化を起こすことのない光走査光学装置とすることができる。
【0072】
図5は、シリンドリカルレンズ4の屈折部42の効果を示す概略図である。図5(a)は、屈折部42が形成された場合における光源1からシリンドリカルレンズ4までの光学系の概略図であり、図5(b)は、屈折部42が形成されない場合における光源1からシリンドリカルレンズ4までの光学系の概略図である。
【0073】
図5(a)に示す光学系において、光源1から発せられたレーザ光は、コリメートレンズ2を介して、略平行光にされ、その後、開口絞り3を通じて、シリンドリカルレンズ4の屈折部42に達する。屈折部42に達した平行光の大半は、回折部41を通じて下流の光学系に進行するが、一部の平行光は、シリンドリカルレンズ4の界面で反射光RFとなる。副走査方向に弧状に湾曲した凹面をなす屈折部42を介して反射する光は、光源1に達する前に、焦点Fを形成し、光源1に到達する反射光RFはわずかである。
【0074】
一方で、図5(b)に示すような屈折部42を備えない平坦な入射面を有するシリンドリカルレンズ4を用いた場合、コリメートレンズ2を通じた平行光の一部は、焦点を形成することなく、平行光として反射し、光源1に到達しやすくなる。
【0075】
一般に、光源1の光放射側と反対側に配設されたフォトダイオード50を用いて、光源1からの光の光量をモニタし、モニタされた光量に基づき、フィードバック制御を行うことにより、光源1の光量の調節が行われるが、図5(b)に示すようにシリンドリカルレンズ4からの反射光RFが光源1まで達すると、光源1に対するフィードバック制御系に悪影響を与えることとなる。
【0076】
図6は、屈折部42の凹面曲率の異なる2つのシリンドリカルレンズ4を用意し、屈折部42がフィードバック制御系に与える影響を比較したグラフである。図6(a)は、光源1から発せられるレーザ光のうち2%の光が反射光として光源1に戻るように屈折部42を形成したときの光源1のレーザパワー変動を示すグラフであり、図6(b)は、光源1から発せられるレーザ光のうち0.9%の光が反射光として光源1に戻るように屈折部42を形成したときの光源1のレーザパワー変動を示すグラフである。図6(a)及び図6(b)に示す両グラフともに、横軸は時間(秒)であり、縦軸はレーザパワー変動(%)である。
【0077】
図6に示すグラフから明らかなように、0.9%の反射光の条件では、2%の反射光の条件と比べて、レーザパワー変動がほとんどなく一定であることが分かる。図6に示す条件以外の他の反射光の条件を用いて検証した結果、光源1から発せられるレーザ光のうち1%未満が反射光となる条件において、レーザパワー変動が略一定になることが判明している。
【0078】
図6(a)に示すようなレーザパワー変動特性を有する光走査光学装置が画像形成装置に用いられると、レーザパワー変動は画像形成装置により作り出される画像の斑に帰結することとなる。一方で、図6(b)に示すようなレーザパワーが一定である特性を有する光走査光学装置を画像形成装置に搭載すると、斑のない画像を作り出すことが可能となる。したがって、光源1から発せられるレーザ光のうち1%未満が反射光となるように屈折部42の凹面曲率を定めることが好ましい。
【0079】
図7は、回折部41の更なる改良形態を示す図であり、回折部41を構成する改良された突条411の断面形態を示す。
【0080】
図4に示す回折部41の突条411の回折面412は直線形状であったが、図7に示す回折部41の突条411の回折面412それぞれは、光路差が波長の整数倍となるように形成される曲面形状(一般的に、キノフォームと称される)をなす。
【0081】
図8は、図4に示すブレーズド格子形状の回折部41を有する平坦な回折面412のシリンドリカルレンズ4を用いたときの光強度分布(図8(a))と図7に示すキノフォーム形状の回折部41を有するシリンドリカルレンズ4を用いたときの光強度分布(図8(b))を示す。
【0082】
図8(a)に示す如く、ブレーズド格子形状のシリンドリカルレンズ4を用いると、主走査方向の光強度分布は、略正規分布をなすが、副走査方向の光強度分布は、図8(a)中点線部で囲まれている部分において、収差に起因するサイドローブに似た現象を生じていることを示している。このサイドローブに似た現象は、光走査光学装置が画像形成装置に用いられた場合には、画像の品質劣化を招来する。
【0083】
一方で、図8(b)に示す如く、キノフォーム形状の回折部41を有するシリンドリカルレンズ4を用いた場合には、光強度分布が主走査方向及び副走査方向ともに略正規分布をなしていることが分かる。したがって、キノフォーム形状の回折部41を有するシリンドリカルレンズ4を用いることにより、一層の画像品質の向上を図ることができることが分かる。
【0084】
図9は、更に改良された回折部41を示す。図9に示される回折部41は、図7に示される回折部41と略同様のブレーズド格子形状をなすが、突条411の回折面412の形状が異なる。図9において、回折部41の中心に中心線CLが示されている。回折部41の左右領域に平面状の第1の回折面412aを有する突条411が形成され、回折部41の中央領域に曲面形状(好ましくは、キノフォーム形状)の第2の回折面412bを有する突条411が形成される。図9に示される回折部41は、中央の突条411のみが第2の回折面412bを有し、他の突条411が第1の回折面412aを有するが、本発明はこれに限られるものではなく、回折部41の中心から所定の距離範囲(図9中、±Xで示される)内に第2の回折面412bを有する突条411が形成され、この距離範囲外に第1の回折面412aを有する突条411が形成されてもよい。
【0085】
図10は、図9に示される回折部41を用いたときの光強度分布を示す。尚、光強度分布に用いられた回折部41は、図9に示される中心線CLからの距離Xが0.5mmの範囲の突条411が第2の回折面412bを有する。
【0086】
図11は、図9に示される中心線CLからの所定の距離Xの範囲に第1の回折面412aを有する突条411が形成された回折部41を用いたときの光強度分布を示す。図11(a)は、X=0.5mmの範囲に第1の回折面412aを有する突条411が形成された回折部41を用いたときの光強度分布を示し、図11(b)は、X=0.7mmの範囲に第1の回折面412aを有する突条411が形成された回折部41を用いたときの光強度分布を示し、図11(c)は、X=1.0mmの範囲に第1の回折面412aを有する突条411が形成された回折部41を用いたときの光強度分布を示す。
【0087】
図10に示される如く、第2の回折面412bが形成された突条411が中央領域に形成された光強度分布は、滑らかな正規分布曲線を描く。したがって、第2の回折面412bが形成された突条411を回折部41の中央領域に形成(好ましくは、少なくとも回折部41の中心から±0.5mmの範囲内に)することにより、一層の画像品質の向上を図ることができる。
【0088】
一方、図11に示される如く、第1の回折面412aが形成された突条411が中央領域に形成された光強度分布は、図10に示される曲線と比べて滑らかでなく、収差に起因するサイドローブに似た現象を生じている。このサイドローブに似た現象は、光走査光学装置が画像形成装置に用いられた場合には、画像の品質劣化を招来する。
【0089】
図10及び図11に示される光強度分布データの比較から、回折部41の中央部の所定範囲の領域での第2の回折面412bの形成は、画像品質の向上に大きな影響を与えることが分かる。したがって、回折部41の中央領域を除く、多くの突条41に対して、平面状の第1の回折面411aを形成することができるので、回折部41の製造コストの低廉化を図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本実施形態は、画像形成装置に好適に適用される。
【符号の説明】
【0091】
1・・・・・・光源(半導体レーザ)
2・・・・・・コリメートレンズ
3・・・・・・アパーチャー(開口絞り)
31・・・・・開口
4・・・・・・シリンドリカルレンズ
41・・・・・フレネルな回折格子
411a・・・第1の回折面
411b・・・第2の回折面
42・・・・・負のパワーのシリンドリカル面
5・・・・・・ポリゴンミラー
6、7・・・・fθレンズ
8・・・・・・反射鏡
9・・・・・・感光体(被走査面)
10・・・・・走査方向
100・・・・画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を照射する光源と、
該光源からのレーザ光を偏向し、被走査面上で主走査方向に走査させる走査光学手段と、
該走査光学手段により偏向されたレーザ光の前記被走査面上における走査速度を等速にする走査光学系と、
前記光源からのレーザ光を、主走査方向に長い線状光にし、前記走査光学手段の反射面に結像させる線状集光素子と、を備え、
前記線状集光素子は、前記光源からのレーザ光が入射する面又は前記光源からのレーザ光が出射する面のうち一方の面に回折効果を有する回折部を備え、
周囲温度変動に起因する前記回折部のパワー変化が、前記主走査方向に対して直交する副走査方向における周囲温度変動起因の焦点位置変化を補正するように前記回折部は形成され、
前記回折部は、第1の回折面と第2の回折面とを含むブレーズド格子形状をなし、
前記第1の回折面は、平面状に形成され、
前記第2の回折面は、曲面状に形成されることを特徴とする光走査光学装置。
【請求項2】
前記第2の回折面は、キノフォームをなすことを特徴とする請求項1記載の光走査光学装置。
【請求項3】
前記第2の回折面は、前記回折部の中央に形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の光走査光学装置。
【請求項4】
前記第2の回折面は、前記回折部の中心線から0.5mm以内の距離範囲に形成されることを特徴とする請求項3記載の光走査光学装置。
【請求項5】
前記線状集光素子は、前記回折部の反対側の面に、前記光源からのレーザ光を屈折させる屈折部を備え、
周囲温度変動に起因する前記回折部及び前記屈折部のパワー変化が、前記副走査方向における周囲温度変動起因の焦点位置変化を補正するように前記回折部及び前記屈折部が形成されることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の光走査光学装置。
【請求項6】
前記屈折部が、前記光源からのレーザ光が入射する面に形成されるとともに、凹面形状をなすことを特徴とする請求項5に記載の光走査光学装置。
【請求項7】
前記走査光学系は、前記走査光学手段側に配した第1のレンズと、前記被走査面側に配した第2のレンズを備え、
前記第1のレンズは主走査方向に正のパワーを、前記副走査方向に負のパワーをそれぞれ有し、
前記第2のレンズは副走査方向に正のパワーを有し、
前記第1のレンズの前記主走査方向のパワーは、前記第2のレンズの主走査方向のパワーよりも大きく、
前記第1と第2のレンズのうち一方が非球面形状をなすことを特徴とする請求項1乃至6いずれか1項に記載の光走査光学装置。
【請求項8】
前記線状集光素子は、オレフィン系樹脂材料により形成されることを特徴とする請求項1乃至7いずれか1項に記載の光走査光学装置。
【請求項9】
前記請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光走査光学装置を搭載したことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−154118(P2011−154118A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14659(P2010−14659)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】