説明

光走査装置及びこれを用いた画像形成装置

【課題】走査レンズの面形状の検証を容易に行うことができる光走査装置を提供する。
【解決手段】光走査装置は、回転非対称の屈折面Rを少なくとも1面含み、MEMSミラーで偏向走査された光束を被走査面上に結像させる走査レンズ105を備える。屈折面Rは、当該屈折面Rの子線頂点を結ぶ母線Pが副走査方向に湾曲し、光源から被走査面に至る光軸と副走査軸とで作られる面と平行な副走査断面Rlの形状が楕円であり、前記楕円の、前記光軸方向における極値は母線P上にあり、母線Pを光軸に垂直な平面に投影した投影母線Paに垂直な断面Rsの形状が円弧状とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸の軸回りに回転しつつ光源から発せられる光束を反射して偏向走査させる偏向体を備えた光走査装置、及びこれを用いた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザープリンターや複写機等に用いられる光走査装置において、光源から発せられた光束を偏向走査させる偏向体として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)マイクロミラーを用いたものがある(例えば特許文献1)。特許文献1の光走査装置では、入射光学系で光源が発する光束をマイクロミラーに結像させ、負の光学的パワーを有する走査レンズを介して感光体ドラム(被走査面)に走査光を結像させている。この光学構成によれば、正の光学的パワーを有する走査レンズを用いる場合に比べて、同一光路長において走査領域を長くできる利点がある。しかし、被走査面に対する収束角が同一であれば、正の走査レンズを用いる場合よりも負の走査レンズを用いる場合の方が、マイクロミラーのミラー径を大きくする必要がある。
【0003】
ミラー径が大きくなると、マイクロミラーの慣性モーメントが大きくなるため共振周波数を大きくできない、素子サイズが大きくなる等の不具合が生じる。そこで、前記ミラー径を可及的に小さくするための工夫が必要となる。最も効果的な手法が、所謂センター入射光学系を採用することである。センター入射光学系は、主走査断面におけるマイクロミラーに対する光束の入射角を最小とするもので、一つの副走査断面内にマイクロミラーの回転軸、マイクロミラーへの入射光の光軸及びマイクロミラーからの反射光の光軸を配置する光学系である。この場合、前記入射光と前記反射光とを空間的に分離するために、入射光は副走査方向に角度を持たせた斜入射方式でマイクロミラーへ入射される。
【0004】
前記斜入射方式を採用した場合、走査湾曲が発生し、これに伴い走査端部付近における結像性能が低下するという問題が生じる。このような問題の解決のため、特許文献2には、走査レンズの屈折面を特殊トーリック面とする技術が開示されている。該特殊トーリック面は、子線の頂点を結ぶ母線形状が副走査方向に湾曲した曲線形状を有する屈折面である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−78520号公報
【特許文献2】特開平10−73778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2では、走査レンズの副走査断面における形状が特定されていない。従って、面形状の検証が困難であり、例えば走査レンズを金型成形にて作成するに当たり、当該金型の設計及びその検証に多大な労力を要し、所期の光学性能を有する面形状を備えた走査レンズを容易に得ることができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、走査レンズの面形状の検証を容易に行うことができる光走査装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の局面に係る光走査装置は、光束を発する光源と、回転軸を有し、該回転軸の軸回りに回転しつつ前記光源から発せられる光束を反射して偏向走査させる偏向体と、回転非対称の屈折面を少なくとも1面含み、前記偏向走査された前記光束を被走査面上に結像させる走査レンズと、前記偏向体へ入射される入射光束と、前記偏向体で偏向走査されて前記被走査面に向かう反射光束とが干渉しないよう、前記反射光束の光路に対して副走査方向に角度を持たせて前記入射光束を前記偏向体へ向かわせる入射光学系と、を備え、前記屈折面は、当該屈折面の子線頂点を結ぶ母線が副走査方向に湾曲し、前記光源から前記被走査面に至る光軸と副走査軸とで作られる面と平行な副走査断面の形状が楕円であり、前記楕円の、前記光軸方向における極値は前記母線上にあり、前記母線を前記光軸に垂直な平面に投影した投影母線に垂直な断面の形状が円弧状である。
【0009】
この構成によれば、副走査方向に角度を持たせて入射光束を偏向体へ入射させる入射光学系が採用された光走査装置において、走査レンズの屈折面の子線頂点を結ぶ母線が副走査方向に湾曲されているので、偏向体の小型化を図れると共に、走査湾曲の影響を抑制することができる。さらに、前記屈折面の副走査断面の形状が特定されているので、走査レンズの面形状の検証を容易に行うことができる。
【0010】
上記構成において、副走査軸をx方向、主走査軸をy方向、光軸をz方向と定義する場合において、前記屈折面の副走査断面における形状zが、前記母線をyz平面へ投影した形状をf(y)、前記母線をyx平面に投影した形状をg(y)、前記母線に垂直な円弧状断面の曲線をrs、前記副走査断面の楕円曲線をrlとするとき、下記(1)式で表される楕円であることが望ましい。
【0011】
【数1】

【0012】
【数2】

【0013】
この構成によれば、前記屈折面の副走査断面の面形状が数式で定義されるので、当該面形状を、光学ソフト等を用いて自動設計させることができる。
【0014】
本発明の他の局面に係る光走査装置は、光束を発する光源と、回転軸を有し、該回転軸の軸回りに回転しつつ前記光源から発せられる光束を反射して偏向走査させる偏向体と、回転非対称の屈折面を少なくとも1面含み、前記偏向走査された前記光束を被走査面上に結像させる走査レンズと、前記偏向体へ入射される入射光束と、前記偏向体で偏向走査されて前記被走査面に向かう反射光束とが干渉しないよう、前記反射光束の光路に対して副走査方向に角度を持たせて前記入射光束を前記偏向体へ向かわせる入射光学系と、を備え、前記屈折面は、当該屈折面の子線頂点を結ぶ母線が副走査方向に湾曲し、前記母線を、前記光源から前記被走査面に至る光軸に垂直な平面に投影した投影母線に垂直な断面の形状が円弧であり、前記円弧の、前記光軸方向における極値は前記母線上にあり、前記光軸と副走査軸とで作られる面と平行な副走査断面の形状が楕円状である。
【0015】
この構成によっても、前記屈折面の副走査断面の形状が特定されるので、走査レンズの面形状の検証を容易に行うことができる。
【0016】
上記構成において、前記入射光束、前記反射光束及び前記偏向体の回転軸が同一平面上に配置されていることが望ましい。この構成によれば、入射光学系が所謂センター入射光学系となるので、偏向体のサイズを極小化することができる。
【0017】
上記構成において、前記走査レンズの前記少なくとも1面の屈折面が、前記光軸に対して副走査方向に平行偏心した屈折面とされていることが望ましい。前記屈折面を平行偏心させることによって被走査面における走査湾曲が変化する。従って、入射光束を副走査方向に角度を持たせて偏向体へ斜入射させる場合に発生する走査湾曲をより一層抑制することが可能となる。
【0018】
また、前記走査レンズを、主走査方向に平行な軸回りに回転させる回転機構をさらに備えることが望ましい。走査レンズを主走査方向に平行な軸回りに回転させると、被走査面から見た前記母線の形状が変化することとなり、走査湾曲も変化する。従って、回転機構によって走査湾曲をより一層抑制することが可能となる。
【0019】
さらに、前記光源から前記被走査面に至る光路に配置された光学部品に対して、走査湾曲の調整操作を与える調整手段をさらに備えることが望ましい。この構成によれば、調整手段によって走査湾曲をより一層抑制することが可能となる。
【0020】
本発明のさらに他の局面に係る画像形成装置は、静電潜像を担持する像担持体と、前記像担持体の周面を前記被走査面として光束を照射する上記の光走査装置とを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、走査レンズの面形状の検証を容易に行うことができる光走査装置及び画像形成装置を提供することができる。従って、走査レンズ及び光走査装置の開発コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るプリンターの概略構成を示す断面図である。
【図2】光走査装置の主走査断面の構成を示す光路図である。
【図3】光走査装置の副走査断面の構成を示す光路図である。
【図4】図3の要部拡大図である。
【図5】MEMSミラーの走査領域を説明するための模式図である。
【図6】MEMSミラーによる被走査面への収束角を説明するための模式図である。
【図7】MEMSミラーのミラー径を説明するための模式図である。
【図8】MEMSミラーへ向かう入射光束と、MEMSミラーで反射される反射光束とを示す模式的な斜視図である。
【図9】走査湾曲を説明するための模式図である。
【図10】走査湾曲が発生した場合の結像状態を示す特性図である。
【図11】本発明の実施形態に係る走査レンズの主走査平面の形状を示す図である。
【図12】図11の矢印A方向の矢視図である。
【図13】本発明の実施形態に係る光走査装置の、MEMSミラーから被走査面までの光路図である。
【図14】本実施形態の光走査装置の結像状態を示す特性図である。
【図15】本実施形態の光走査装置の走査湾曲を示すグラフである。
【図16】本実施形態の光走査装置のビームピッチの変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る光走査装置について図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る光走査装置11を含む画像形成装置1の構成を概略的に示した断面図である。画像形成装置1は、光走査装置11、現像器12、帯電器13、感光体ドラム14(像担持体)、転写ローラー15、定着器16及び給紙カセット17を備える。
【0024】
感光体ドラム14は、円筒状の部材であり、その周面に静電潜像及びトナー像が形成される。感光体ドラム14は、図略のモータからの駆動力を受けて、図1における時計回りの方向に回転される。帯電器13は、感光体ドラム14の表面を略一様に帯電する。
【0025】
光走査装置11は、レーザーダイオード等の光源、偏向体、走査レンズ及び光学素子等を備え、帯電器13によって略一様に帯電された感光体ドラム14の周面(被走査面)に対して、画像データに応じたレーザー光を照射して、画像データの静電潜像を形成する。この光走査装置11については、後記で詳述する。
【0026】
現像器12は、静電潜像が形成された感光体ドラム14の周面にトナーを供給してトナー像を形成する。現像器12は、トナーを担持する現像ローラーやトナーを攪拌搬送するスクリューを含む。感光体ドラム14に形成されたトナー像は、給紙カセット17から繰り出され搬送路Pを搬送される記録紙に転写される。この現像器12には、図略のトナーコンテナからトナーが補給される。
【0027】
感光体ドラム14の下方には転写ローラー15が対向して配設され、両者によって転写ニップ部が形成されている。転写ローラー15は、導電性を有するゴム材料等で構成されると共に転写バイアスが与えられ、感光体ドラム14に形成されたトナー像を前記記録紙に転写させる。
【0028】
定着器16は、ヒーターを内蔵する定着ローラー160及び定着ローラー160と対向する位置に設けられた加圧ローラー161を備え、トナー像が形成された記録紙を加熱搬送することにより、記録紙に形成されたトナー像を定着させる。
【0029】
次に、画像形成装置1の画像形成動作について簡単に説明する。先ず、帯電器13により感光体ドラム14の表面が略均一に帯電される。帯電された感光体ドラム14の周面が、光走査装置11により露光され、記録紙に形成する画像の静電潜像が感光体ドラム14の表面に形成される。この静電潜像が、現像器12から感光体ドラム14の周面にトナーが供給されることにより、トナー像として顕在化される。一方、給紙カセット17からは記録紙が搬送路Pに繰り出される。前記トナー像は、転写ローラー15と感光体ドラム14との間のニップ部を記録紙が通過することにより、当該記録紙に転写される。この転写動作が行われた後、記録紙は定着器16に搬送され、記録紙にトナー像が固着される。
【0030】
続いて、光走査装置11の詳細構造について説明する。図2は、光走査装置11の主走査断面の構成を示す光路図、図3は、その副走査断面の構成を示す光路図、図4は、図3の要部の拡大図である。光走査装置11は、半導体レーザー101(光源)、コリメータレンズ102、シリンドリカルレンズ103、MEMSミラー104(偏向体)、第1走査レンズ105a、第2走査レンズ105b、第1ミラー106及び第2ミラー107を備える。なお、これら図中のX方向が副走査方向、Y方向が主走査方向、Z方向が光軸方向である。
【0031】
半導体レーザー101は、所定の波長のレーザー光(入射光束L0)を発する光源である。コリメータレンズ102は、半導体レーザー101から発せられ拡散する入射光束L0を平行光に変換する。シリンドリカルレンズ103は、前記平行光の光束L0を主走査方向に長い線状光に変換してMEMSミラー104に結像させる。第2ミラー107は、コリメータレンズ102及びシリンドリカルレンズ103を間に挟んで半導体レーザー101の射出面に対向して配置され、入射光束L0を斜め上方に向けて折り返すように反射する。第1ミラー106は、MEMSミラー104の斜め前の上方に配置され、第2ミラー107により反射された入射光束L0を斜め下方に反射し、これをMEMSミラー104へ入射させる。
【0032】
MEMSミラー104は、ミラー面104Mと、副走査方向Zに平行な回転軸104Pとを有する。この回転軸は、図示しない駆動源により回転駆動(正弦揺動)される。MEMSミラー104は、前記回転軸の軸回りに回転しつつ、半導体レーザー101から発せられ、コリメータレンズ102及びシリンドリカルレンズ103を経て結像された入射光束L0を偏向走査する。
【0033】
コリメータレンズ102、シリンドリカルレンズ103、第1ミラー106及び第2ミラー107は、MEMSミラー104へ入射光束L0を入射させる入射光学系であって、本実施形態ではセンター入射光学系の構成とされている。すなわち、図4に示すように、光軸Zを含む副走査方向Xと平行な平面上に、シリンドリカルレンズ103の中心と、MEMSミラー104の回転軸104Pと、第1ミラー106及び第2ミラー107の法線とが配置されている。
【0034】
MEMSミラー104から感光体ドラム14の周面14aに向かう光軸を基準として副走査方向Xで見ると、第2ミラー107は前記光軸より下方に配置され、第1ミラー106は前記光軸より上方に配置されている。このように第1ミラー106及び第2ミラー107を配置して入射光束L0をMEMSミラー104へ斜入射させるのは、入射光束L0とMEMSミラー104からの反射光束(偏向光束L1、偏向光束L2)とを空間的に分離するためである。
【0035】
第1走査レンズ105a及び第2走査レンズ105bは、fθ特性を有するレンズであって、特殊トーリック面からなるレンズ面(回転非対称の屈折面)を備えたレンズである。これら走査レンズ105a、105bは、MEMSミラー104から感光体ドラム14の周面14aに向かう光軸上で互いに対向して配置されており、MEMSミラー104によって反射された反射光束を集光し、周面14a(被走査面)に結像させる。
【0036】
次に、本実施形態で採用されている上記センター入射光学系の利点について説明する。図5は、上掲の特許文献1の光走査装置に採用されているような、側方入射光学系を示す光路図である。この側方入射光学系では、図略の光源から発せられた入射光束は、主走査断面と平行な平面であってMEMSミラー21から被走査面23へ向かう光軸を含む平面の側方から、MEMSミラー21に入射される。ここで、走査レンズ22として負の光学的パワーを有するレンズを用いると、MEMSミラー21の偏向角θが同一で且つMEMSミラー21から被走査面23までの光路長が同一であるという条件下では、正の光学的パワーを有するレンズを走査レンズ22として用いる場合に比べて走査領域を長くすることができる。
【0037】
従って、光路長の短縮という観点からは、負の光学的パワーを有する走査レンズ22を用いることが有利であると言うことができる。しかし、MEMSミラー21のミラー径の縮小という観点からは、正の光学的パワーを有する走査レンズ22が有利となる。図6は、被走査面23に照射される光束のスポット径に大きく影響を与える光束の収束角φを示す図である。収束角φが一定であるという条件下では、正の光学的パワーを有する走査レンズ22がMEMSミラー21の配置位置において作る像の方が、負の光学的パワーを有する走査レンズ22が作る像よりも小さくなる。つまり、同一収束角φのビームスポットを形成する場合、走査レンズ22として正の光学的パワーを有するレンズを用いるときの反射光束LpのMEMSミラー21上における像幅Dpは、負の光学的パワーを有するレンズを用いるときの反射光束Lnの像幅Dnよりも小さい。従って、MEMSミラー21のミラー径の小型化を図るには、負の光学的パワーを有する走査レンズ22を用いると不利になる。
【0038】
MEMSミラー21が大型化すると、その慣性モーメントが大きくなり駆動面で問題が生じる。図7に示すように、MEMSミラー21のミラー径は、入射光束がMEMSミラー21へ入射する角度αに依存する。MEMSミラー21は、偏向角θの範囲で揺動するので、前記入射角度αは、入射光束の光軸とMEMSミラー21のミラー面とがなす角が最大である場合の角度αmin(最小入射角)から、前記なす角が最小である角度αmax(最大入射角)まで変化する。角度αminの場合に必要となるMEMSミラー21のミラー径Dは比較的小さいが、角度αmaxの場合に必要となるミラー径Dは比較的大きく、最大入射角によって大きく異なることになる。
【0039】
従って、上記最大入射角(角度αmax)を可及的に小さくすることが求められるのであるが、最大入射角を極小にできる光路構成は、MEMSミラー21の正面から入射光束を入射させる構成である。すなわち、本実施形態が採用するセンター入射光学系である。この場合、MEMSミラー21がその揺動範囲の中心回転位置にあるとき、主走査方向における入射角度αはゼロとなる。
【0040】
図8は、センター入射光学系において、MEMSミラー104へ向かう入射光束と、MEMSミラー104で反射される反射光束(偏向光束)との関係を示す模式的な斜視図である。センター入射光学系においては、入射光束と反射光束とが干渉しないように、入射光束は副走査方向に角度を持ってMEMSミラー104へ入射される(以下、斜入射という)。
【0041】
入射光束をMEMSミラー104へ斜入射させた場合、図9に示す通り走査湾曲が発生する。すなわち、反射光束が走査領域を走査する走査線が弓なりに湾曲する現象が発生する。走査湾曲が発生すると、走査領域の中央の偏向光束L1(図2参照)と走査領域の端部の偏向光束L2との間で、走査レンズ105aに対する入射位置が副走査方向にズレが生じることとなる。このズレによって、感光体ドラム14の周面14aに描かれる静電潜像に歪みが発生する。
【0042】
さらに、走査湾曲によって、走査領域の端部付近おける結像性能も低下する。図9に示すように、偏向光束L1、L2は主走査方向に長軸を有する楕円型の光束である。この場合、端部の偏向光束L2は走査湾曲が生じている走査線に沿ってその長軸が主走査方向に対して傾いた状態で走査レンズ105aへ入射することになる。一方、従来の一般的な走査レンズはそのパワー方向が主走査方向及び副走査方向に合わせて設定されている。このため、中央の偏向光束L1については光束の長軸及び短軸方向とレンズパワー方向とが一致しているが、端部の偏向光束L2については光束の長軸及び短軸方向とレンズパワー方向とが一致しない。このことは、偏向光束L2についての結像性能を著しく低下させることになる。図10(A)は、中央の偏向光束L1のスポット像を、図10(B)は、端部の偏向光束L2のスポット像をそれぞれ示している。
【0043】
図9に示す走査湾曲の湾曲量eは、MEMSミラー104から周面14aに至る反射光束の光軸と入射光束の光軸とがなす角が小さいほど、抑制することができる。本実施形態では、湾曲量eの抑制のため、第2ミラー107から入射光束を直接的にMEMSミラー104へ入射させるのではなく、MEMSミラー104の近傍に配置した第1ミラー106でさらに入射光束を反射させた上でMEMSミラー104へ入射させている。すなわち、第1ミラー106を反射光束の光軸を挟んで第2ミラー107と反対側に、且つMEMSミラー104の至近位置に配置することで、反射光束の光軸と入射光束の光軸とがなす角を可及的に小さくしている(図4参照)。
【0044】
しかし、上記のような工夫を施したとしても、走査湾曲が消失するものではない。そこで本実施形態では、走査レンズ(本実施形態では第1走査レンズ105a及び第2走査レンズ105b)の少なくとも1面を、以下に述べるような回転非対称の屈折面(トーリック面)としている。
【0045】
図11は、1枚の走査レンズ105を主走査平面上で模式的に示した図、図12はこの走査レンズ105を、図11の矢印F方向から見た図である。これらの図に基づいて、本実施形態で採用される走査レンズ105の屈折面R(トーリック面)の面形状について説明する。これらの図において、X方向が副走査方向、Y方向が主走査方向、Z方向が光軸Oの延びる方向である。
【0046】
トーリック面は半円柱型を呈する面であって、前記円柱が延びる方向が母線方向、この母線と直交する方向が子線方向である。子線は、前記円柱の各断面の曲面を示す線であり、この子線の頂点を結ぶ線が母線となる。図12を参照して、屈折面Rは、
(A)母線Pが副走査方向に湾曲している、
(B)MEMSミラー104から被走査面に至る光軸Oと副走査軸Xとで作られる面と平行な副走査断面Rlの形状が楕円である、
(C)前記楕円の、光軸O方向における極値は母線P上にある、
(D)母線Pを光軸Oに垂直な平面に投影した投影母線Pa(図12に示されているのは投影母線Paである)に垂直な断面Rsの形状が円弧状である、
という4つの形状的特徴を有している。なお、上記項目(D)において、「円弧状」と表しているのは、走査方向によって曲率半径が変化するため完全な円弧とはならないからである。但し、トーリック面の光学性能的には円弧として扱うことができる。
【0047】
上記屈折面Rの副走査断面における形状zは、副走査軸をx方向、主走査軸をy方向、光軸をz方向と定義する場合において、屈折面Rの副走査断面における形状zが、母線Pをyz平面へ投影した形状をf(y)、母線Pをyx平面に投影した形状をg(y)、母線Pに垂直な円弧状断面の曲線をrs、副走査断面の楕円曲線をrlとするとき、下記(1)式で表される。
【0048】
【数3】

【0049】
但し、上記(1)式において、f(y)、g(y)、rs及びrlは、下記の(2)〜(5)式で示される。
【0050】
【数4】

【0051】
屈折面Rが上記の形状を備えることによる主な意義は、次の2点である。
(ア);上記(D)で示したように、母線Pをyx平面に投影した曲線に対して垂直な断面Rsのレンズ形状が、曲率半径rsの円弧とほぼ等しくなる。これにより、屈折面Rに入射する楕円形の偏向光束の短軸と、当該屈折面Rの光学的パワーの方向とが一致することになる。従って、走査領域端部の結像性能を良好なものとすることができる。
(イ);上記(B)で示したように、副走査断面Rlの形状が楕円であるので、当該断面におけるz軸方向の極値を頂点として、その断面形状は対称となる。しかも、上記(C)で示したように、前記楕円の極値は母線P上にある。このため、屈折面Rの面形状の検証を容易に行うことができる。
【0052】
上記屈折面Rの形状において、上記(B)の楕円と、上記(D)の円弧とを入れ替えるようにしても、実質的に同じ作用を得ることができる。すなわち、屈折面Rが、
(A)母線Pが副走査方向に湾曲している、
(B)′母線Pを光軸Oに垂直な平面に投影した投影母線Paに垂直な断面Rsの形状が円弧である、
(C)′前記円弧の、光軸O方向における極値は母線P上にある、
(D)′MEMSミラー104から被走査面に至る光軸Oと副走査軸Xとで作られる面と平行な副走査断面Rlの形状が楕円状である、
という4つの形状的特徴を有するものとしても良い。なお、上記項目(D)′において、「楕円状」と表しているのは、完全な楕円とはならないからである。但し、トーリック面の光学性能的には楕円として扱うことができる。
【0053】
このような屈折面Rによっても、次の2点の意義を有する。
(ア)′;上記(D)′で示したように、副走査断面Rlの形状がほぼ楕円となる。これにより、屈折面Rに入射する楕円形の偏向光束の短軸と、当該屈折面Rの光学的パワーの方向とが一致することになる。従って、走査領域端部の結像性能を良好なものとすることができる。
(イ)′;上記(B)′で示したように、母線Pをyx平面に投影した曲線に対して垂直な断面Rsのレンズ形状が円弧であるので、当該断面におけるz軸方向の極値を頂点として、その断面形状は対称となる。しかも、上記(C)′で示したように、前記円弧の極値は母線P上にある。このため、屈折面Rの面形状の検証を容易に行うことができる。
【0054】
続いて、具体的な実施例を例示する。図13は、MEMSミラー104から被走査面である感光体ドラム14の周面14aまでの光学系を主走査断面で示す光路図である。なお、光源からMEMSミラー104までの光路は、図13では省いている。第1走査レンズ105aは被走査面に向けて凸のメニスカス形状を備えた正の光学的パワーを有するレンズ、第2走査レンズ105bは、光軸O上において光源側に凹面を有する負の光学的パワーを有するレンズである。本実施例では、第1走査レンズ105aの入射面AR1及び出射面AR2と、第2走査レンズ105bの入射面BR1及び出射面BR2との4面全てが、上述の特殊な屈折面Rとされている。
【0055】
表1に、本実施例に係る第1走査レンズ105aの入射面AR1及び出射面AR2、並びに第2走査レンズ105bの入射面BR1及び出射面BR2のコンストラクションデータを示す。面間は、次の面までの光軸O上における軸上面間距離(mm)を示している。表1では、この距離を、マイナス符号を付して表している。なお、MEMSミラー104から第1走査レンズ105aの入射面AR1までの距離は−20mmである。
【0056】
【表1】

【0057】
本実施例に係る光学系の副走査断面の構成は、図3及び図4に示した構成と同じである。入射光束L0が第1ミラー106を介してMEMSミラー104に入射する入射角度は7度、入射光束L0と反射光束(偏向光束L1、L2)との開き角は14度である。また、第2走査レンズ105bは、第1走査レンズ105aから周面14aへ至る光軸に対して副走査方向に0.6mmだけオフセット(平行偏心)して配置されている。つまり、入射面BR1(屈折面)を、前記光軸に対してオフセットさせている。本実施例では、入射光束L0がMEMSミラー104に斜入射されるため走査湾曲が生じるが、前記オフセットにより走査湾曲をより一層抑制することができる。
【0058】
走査湾曲の影響を一層抑制する他の手法として、第1走査レンズ105a及び第2走査レンズ105bの少なくとも一方を、主走査方向に平行な軸回りに回転させる回転機構を付設しても良い。走査レンズを主走査方向に平行な軸回りに回転させると、被走査面から見た前記母線の形状が変化することとなり、走査湾曲も変化する。従って、回転機構によって第1走査レンズ105a及び第2走査レンズ105bの少なくとも一方を適宜回転させることによって、走査湾曲をより一層抑制することができる。
【0059】
あるいは、半導体レーザー101から周面14aに至る光路に配置された光学部品に対して、走査湾曲の調整操作を与える調整手段を設ける構成としても良い。調整手段は、光学部品に機械的な力を与えて走査湾曲を変形させることが可能な手段である。例えば、第1走査レンズ105a及び第2走査レンズ105bを物理的に湾曲させる力を加える機械的な手段、第1ミラー106及び第2ミラー107を湾曲させることが可能な機械的な手段である。このような調整手段によっても、走査湾曲をより一層抑制することが可能である。
【0060】
以上説明した本実施例に係る光学系(光走査装置11)の光学性能を示す。図14は、当該光学系の結像状態を示す特性図であって、図14(A)は周面14aの主走査方向(y方向)の中心から−110mmの箇所、図14(B)は主走査方向の中心(0mm)、図14(C)は主走査方向の中心から+110mmの箇所における偏向光束のスポット像をそれぞれ示している。また、図14(A)〜(C)の各々について、結像位置をz軸方向に2mmずつ変化させて(中央の図が0mm、左側の図が−2mmデフォーカス、右側の図が+2mmだけデフォーカスさせたもの)、スポット像を取得している。図14(A)〜(C)から明からな通り、走査領域の中央だけでなく走査領域の端部においても、良好な結像状態が得られていることが判る。
【0061】
図15は、本実施例の光学系(光走査装置11)の走査湾曲を示すグラフである。図15に示されている通り、走査湾曲は若干発生しているものの、その副走査方向の高さは6μm以下であり、実用上は問題がないことが確認された。図16は、光源を複数にした場合おける結像面(被走査面)におけるビームピッチの変動を示すグラフである。ビームピッチの変動は0.2mm以下であり、マルチビームに十分対応可能であることが判る。
【0062】
以上説明した本実施形態に係る光走査装置11によれば、走査領域端部の結像性能を良好にすることができるだけでなく、走査レンズの面形状の検証を容易に行うことができる光走査装置及び画像形成装置を提供することができる。従って、走査レンズ及び光走査装置の開発コストを低減させることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 画像形成装置
11 光走査装置
14 感光体ドラム(像担持体)
14a 周面(被走査面)
101 半導体レーザー(光源)
102 コリメータレンズ
103 シリンドリカルレンズ
104 MEMSミラー(偏向体)
105a 第1走査レンズ
105b 第2走査レンズ
106 第1ミラー
107 第2ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光束を発する光源と、
回転軸を有し、該回転軸の軸回りに回転しつつ前記光源から発せられる光束を反射して偏向走査させる偏向体と、
回転非対称の屈折面を少なくとも1面含み、前記偏向走査された前記光束を被走査面上に結像させる走査レンズと、
前記偏向体へ入射される入射光束と、前記偏向体で偏向走査されて前記被走査面に向かう反射光束とが干渉しないよう、前記反射光束の光路に対して副走査方向に角度を持たせて前記入射光束を前記偏向体へ向かわせる入射光学系と、を備え、
前記屈折面は、
当該屈折面の子線頂点を結ぶ母線が副走査方向に湾曲し、
前記光源から前記被走査面に至る光軸と副走査軸とで作られる面と平行な副走査断面の形状が楕円であり、
前記楕円の、前記光軸方向における極値は前記母線上にあり、
前記母線を前記光軸に垂直な平面に投影した投影母線に垂直な断面の形状が円弧状である、光走査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光走査装置において、
副走査軸をx方向、主走査軸をy方向、光軸をz方向と定義する場合において、前記屈折面の副走査断面における形状zが、前記母線をyz平面へ投影した形状をf(y)、前記母線をyx平面に投影した形状をg(y)、前記母線に垂直な円弧状断面の曲線をrs、前記副走査断面の楕円曲線をrlとするとき、下記(1)式で表される楕円である、光走査装置。
【数5】

【数6】

【請求項3】
光束を発する光源と、
回転軸を有し、該回転軸の軸回りに回転しつつ前記光源から発せられる光束を反射して偏向走査させる偏向体と、
回転非対称の屈折面を少なくとも1面含み、前記偏向走査された前記光束を被走査面上に結像させる走査レンズと、
前記偏向体へ入射される入射光束と、前記偏向体で偏向走査されて前記被走査面に向かう反射光束とが干渉しないよう、前記反射光束の光路に対して副走査方向に角度を持たせて前記入射光束を前記偏向体へ向かわせる入射光学系と、を備え、
前記屈折面は、
当該屈折面の子線頂点を結ぶ母線が副走査方向に湾曲し、
前記母線を、前記光源から前記被走査面に至る光軸に垂直な平面に投影した投影母線に垂直な断面の形状が円弧であり、
前記円弧の、前記光軸方向における極値は前記母線上にあり、
前記光軸と副走査軸とで作られる面と平行な副走査断面の形状が楕円状である、光走査装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の光走査装置において、
前記入射光束、前記反射光束及び前記偏向体の回転軸が同一平面上に配置されている、光走査装置。
【請求項5】
請求項1に記載の光走査装置において、
前記走査レンズの前記少なくとも1面の屈折面が、前記光軸に対して副走査方向に平行偏心した屈折面とされている、光走査装置。
【請求項6】
請求項1に記載の光走査装置において、
前記走査レンズを、主走査方向に平行な軸回りに回転させる回転機構をさらに備える、光走査装置。
【請求項7】
請求項1に記載の光走査装置において、
前記光源から前記被走査面に至る光路に配置された光学部品に対して、走査湾曲の調整操作を与える調整手段をさらに備える、光走査装置。
【請求項8】
静電潜像を担持する像担持体と、
前記像担持体の周面を前記被走査面として光束を照射する、請求項1〜7のいずれかに記載の光走査装置と、
を備える画像形成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図10】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−29753(P2013−29753A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167043(P2011−167043)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】