説明

光送信機

【課題】半導体MZM位相光変調器においても、環境温度の変化に対して、同一変調電圧での駆動を可能とし、ペルチェ素子等を用いた温度調整機構を省略し、消費電力を低減することができる光送信機を提供する。
【解決手段】npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器1と、前記半導体MZ変調器1の温度を監視する温度センサ43と、前記半導体MZ変調器1の変調電極にバイアス電圧を印加するバイアス回路41とを備え、前記バイアス回路41は、前記温度センサ43からの入力が変化すると、前記バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として前記半導体MZ変調器1を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光通信網の普及に伴い、40Gbit/sec(ギガビット毎秒)を超える伝送容量を有する基幹系光通信システムへ適応が盛んに進められるようになった。これらの超高速通信システムでは、従来の光通信システムで適用されてきたNRZ(Non Return to Zero)変調方式と比べて、周波数利用効率が高く、光信号対雑音比(optical Signal‐to‐Noise Ratio;OSNR)耐力及び非線形性耐力などが優れている様々な光変調方式の採用が相次いでいる。このような背景のなか、1シンボル時間で多ビット情報送信方式が最も有力な手段として考えられている。
【0003】
例えば、変調された4つの位相にそれぞれ2ビットのデータを割り当てることのできる方式である差動四相位相偏移変調(differential quadrature phase Shift keying;DQPSK)の場合、送信器は、少なくとも4つの高速位相変調器を集積したデバイス構成が必要となる。現在、これらの高速位相変調器は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3;LN)にて構成された変調器が広く用いられている(下記特許文献1参照)。LN導波路を用いることで、これらの変調器を低損失で実現することができるメリットがある。
【0004】
しかしながら、より複雑な情報伝送フォーマットにLN導波路を用いて対応する場合、デバイスサイズが大きくなるというデメリットを生ずる。例えば、100Gbit/secを実現する偏波多重を含めた、4ビットのデータを割り当てるDP‐QPSK(Dual Polarization Quadrature Phase Shift Keying)の場合(下記非特許文献1参照)、DQPSKの構成が各偏波用に形成する形体となり、LNを用いて形成した場合、構成するカップラーの個数も増える上、位相変調部の個数が少なくとも8個と倍になるため素子サイズが非常に大きくなるという問題がある。
【0005】
今後、さらに複雑な情報伝送フォーマットに対応すればするほど、LNを用いた変調器では、デバイスのサイズがより大きくなるという問題がある。この問題を回避するために、LNを用いた変調器で折り返し構造を採用し小型化を図っている(下記非特許文献2参照)。しかしながら、それでも十分に小型であるとはいいがたい。
【0006】
これらのLNを用いた変調器とならんで、半導体からなる光変調器として注目されているのが、半導体導波路の一部に電界を素子に与えることで、屈折率を変化させ、入力電気信号を光の位相変化に変換する半導体マッハツェンダ型位相光変調器(半導体MZM位相光変調器)である。
【0007】
この半導体MZM位相光変調器の最大のメリットは、LN変調器と同等の特性を示しながら、より小型な変調器を実現することが可能な点である。LN変調器の場合、チップサイズが5cm程度にも及ぶが、半導体MZM位相光変調器の場合、少なくとも5〜6mm程度のチップサイズでLN変調器と同様の機能を発現することが可能となる。また、光源となるレーザも半導体から形成されているため、レーザをも同一基板上に集積し製作することが可能であるため、より小型な位相変調器を提供することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−204753号公報
【特許文献2】特開2008−107468号公報
【特許文献3】特開2009−060533号公報
【特許文献4】特開2008−107468号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A.H.Gnauck、外9名、“25.6‐Tb/s WDM Transmission of Polarization‐Multiplexed RZ‐DQPSK Signals”、JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY、VOL.26、NO.1、2008年1月、p.79−84
【非特許文献2】Kenji Aoki、外6名、“High‐Speed X‐Cut Thin‐Sheet LiNbO3 Optical Modulator With Folded Structure”、JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY、VOL.25、NO.7、2008年7月、p.1805−1810
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、半導体からなる半導体MZM位相光変調器は、大幅な小型化を可能とするが、LN変調器に対して現時点で劣る点がある。それは温度調整にかかる消費電力にある。挿入損失も現時点では劣っているが、これは素子構造の最適化、結合方法の最適化により解決できる見込みがある。
【0011】
しかし、温度調整機構により発生する消費電力が大きいということは、LN変調器に比べ半導体MZM位相光変調器の欠点である。現在、地球温暖化対策ということで、エネルギーの低消費電力化が強く求められている上、通信容量が増大している今日、WDMの波長帯域をすべて使いきる前に、消費電力により通信容量が制限されるようになるとも言われており、消費電力が発生する温度調整機構は大きな問題である。
【0012】
LN変調器は、基本的にはペルチェ素子等の温度制御装置を用いなくても一定電圧での高速変調を実現することができる。つまり、温度が変化しても、変調効率はほとんど変わらないため、温度制御なしで使用することができる。
【0013】
一方、半導体MZM位相光変調器は、バンドギャップが温度とともに変化するため、原理上、変調効率も変化してしまう。そのため、温度調整機構を設け、一定温度での駆動を余儀なくなされる。つまり、温度が変化すると、変調駆動する電圧も変化させなくてはならないという問題がある。
【0014】
通常、温度変化に対し、変調駆動電圧を変化させることは、特殊な駆動ドライバーを使用することになるため行われない。一般的には、素子周辺に設けた温度センサからの入力を元に、ペルチェ素子を駆動し素子温度が一定になるようにして、外気温が変動しても変調効率が一定になるようにし、一定電圧駆動を行う。一定温度に保つためにかかる消費電力は、素子の大きさなどにも依存するが、最悪のケースで1W程度消費される。
【0015】
これに対し、LN変調器の場合は0Wでありその差は大きい。光変調器は各チャンネルに1つという使い方をされるので、10ユーザでは10W、1000ユーザでは1KWの消費電力が発生し、LN変調器を使う場合と比べ消費電力に大きな差が生まれてしまう。
【0016】
以上のことから本発明によれば、半導体MZM位相光変調器においても、環境温度の変化に対して、同一変調電圧での駆動を可能とし、ペルチェ素子等を用いた温度調整機構を省略し、消費電力を低減することができる光送信機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る光送信機は、
npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器と、
前記半導体MZ変調器の温度を監視する温度センサと、
前記半導体MZ変調器の変調電極にバイアス電圧を印加するバイアス回路と
を備え、
前記バイアス回路は、前記温度センサからの入力が変化すると、前記バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として前記半導体MZ変調器を駆動する
ことを特徴とする。
【0018】
上記の課題を解決するための第2の発明に係る光送信機は、
npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器と、
前記半導体MZ変調器の温度を監視する温度センサと、
前記半導体MZ変調器の変調電極にバイアス電圧を印加するバイアス回路と、
前記温度センサからの入力と前記バイアス電圧の配列を記憶してある電子記憶媒体と
を備え、
前記バイアス回路は、前記温度センサからの入力に基づき前記電子記憶媒体に記憶してある前記配列を参照して前記バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として前記半導体MZ変調器を駆動する
ことを特徴とする。
【0019】
上記の課題を解決するための第3の発明に係る光送信機は、
npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器と、
前記半導体MZ変調器の温度を監視する温度センサと、
前記半導体MZ変調器の変調電極にバイアス電圧を印加するバイアス回路と、
前記温度センサからの入力を関数とする多項式により前記バイアス電圧を演算する演算回路と
を備え、
前記バイアス回路は、前記演算回路における演算結果により前記バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として前記半導体MZ変調器を駆動する
ことを特徴とする。
【0020】
上記の課題を解決するための第4の発明に係る光送信機は、
波長可変レーザと、
npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器と、
前記半導体MZ変調器の温度を監視する温度センサと、
前記半導体MZ変調器の変調電極にバイアス電圧を印加するバイアス回路と、
前記波長可変レーザの動作波長と前記温度センサからの入力と前記バイアス電圧の3次元配列を記憶してある電子記憶媒体と
を備え、
前記バイアス回路は、温度又は波長の変化により前記電子記憶媒体に記憶した前記3次元配列を参照して前記バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として前記半導体MZ変調器を駆動する
ことを特徴とする。
【0021】
上記の課題を解決するための第5の発明に係る光送信機は、
波長可変レーザと、
npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器と、
前記半導体MZ変調器の温度を監視する温度センサと、
前記半導体MZ変調器の変調電極にバイアス電圧を印加するバイアス回路と、
前記波長可変レーザの動作波長と前記温度センサからの入力を関数とする多項式により前記バイアス電圧を演算する演算回路と
を備え、
前記バイアス回路は、前記演算回路における演算結果により前記バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として前記半導体MZ変調器を駆動する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、半導体MZM位相光変調器においても、環境温度の変化に対して、同一変調電圧での駆動を可能とし、ペルチェ素子等を用いた温度調整機構を省略し、消費電力を低減することができる光送信機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施例に係る半導体MZ変調器の構成を示した模式図である。
【図2】第1の実施例に係る半導体MZ変調器の製作方法を示した模式図である。
【図3】第1の実施例に係る半導体MZ変調器における分離溝の配置位置を示した模式図である。
【図4】第1の実施例に係る半導体MZ変調器の基本動作について示した図である。
【図5】第1の実施例に係る半導体MZ変調器における変調電極消光特性のバイアス電圧依存性を示した図である。
【図6】第1の実施例に係る半導体MZ変調器における変調電極消光特性の温度依存性を示した図である。
【図7】第1の実施例に係る半導体MZ変調器における変調振幅電圧のバイアス電圧依存性を示した図である。
【図8】第1の実施例に係る光送信機の構成を示したブロック図である。
【図9】第1の実施例に係る光送信機における−5℃と75℃環境下の変調電極消光特性を示した図である。
【図10】第2の実施例に係る光送信機の構成を示したブロック図である。
【図11】第2の実施例に係る光送信機におけるバイアス電圧Vbiasの温度依存性を示した図である。
【図12】第3の実施例に係る光送信機の構成を示したブロック図である。
【図13】第3の実施例に係る光送信機における変調振幅電圧の波長依存性を示した図である。
【図14】第3の実施例に係る光送信機における変調振幅電圧のバイアス電圧依存性を示した図である。
【図15】第3の実施例に係る光送信機の他の構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る光送信機について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の第1の実施例に係る光送信機について説明する。
本実施例に係る光送信機は、npin構造の半導体MZ変調器と、半導体MZ変調器の温度を監視する温度センサと、半導体MZ変調器の変調電極にバイアス電圧を与えるバイアス回路とを備える光送信機であって、温度センサからの入力が変化すると、バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として駆動することを特徴としている。本実施例においては、本実施例に係る光送信機を製作し、評価を行った。
【0026】
はじめに、本実施例に係る半導体MZ変調器の構成について説明する。
図1は、本実施例に係る半導体MZ変調器の構成を示した模式図である。
図1に示すように、本実施例に係る半導体MZ変調器1は、入力ポート側に配置された3dBカップラー10aと、出力ポート側に配置された3dBカップラー10bと、2つの3dBカップラー10a,10bを接続するアーム導波路11a,11bと、アーム導波路11a,11b上に設置された高速変調を行うための変調電極12a,12bと、アーム導波路11a,11b上に設置された製造時の位相誤差を調整するためのバランス調整電極13a,13bとにより構成されている。なお、本実施例に係る半導体MZ変調器1の層構造は、npin構造であり上記特許文献2に見られるInP構造の半導体MZ変調器と同じ構造である。
【0027】
本実施例に係る半導体MZ変調器1は、下側のアーム導波路11bを通過する経路の方が半波長(波長/アーム導波路11a,11bの実効屈折率/2の長さ)分だけ長く設計された非対称MZの構成となっている。本実施例に係る半導体MZ変調器1は、理想的に製作できた場合にはノーマリーOFFとなり、変調電極12a,12b及びバランス調整電極13a,13bに電圧を印加しない場合には、入力ポートから入力した光は出力ポートから出力されない状態となる。
【0028】
しかし、実際に製作するデバイスにおいて、製造時の位相誤差により、ノーマリーOFFとはならないため、製造時の位相誤差を調整する機構が必要となる。このため、アーム導波路11a,11bの後段にはバランス調整電極13a,13bを設置する。無論、製造時の位相誤差を調整することができるのであるから、元より非対称MZではなく対称MZとして設計を行い、製造後にバランス調整電極13a,13bを用いて消光点を調整するようにしてもよい。また、アーム導波路11a,11bの前段には、通信信号をのせるための変調電極12a,12bを設置する。
【0029】
なお、図1においては、プッシュプル駆動を行う場合の構成を示しており、アーム導波路11a,11bには変調電極電圧Vpaiを印加する。また、変調電極12a,12bには、直流(DC)成分のバイアス電圧Vbiasを印加する。また、変調電極12a,12bの終端側には、終端抵抗14と、DC成分が通過しないようにコンデンサ15が挿入されている。
【0030】
次に、本実施例に係る半導体MZ変調器の製作方法について説明する。
図2は、本実施例に係る半導体MZ変調器の製作方法を示した模式図である。
図2(a)に示すように、本実施例に係る半導体MZ変調器1は、半絶縁性(SI;semi‐insulating)‐InP基板20上には、第1のn型電極層(n+‐InP)21を成長させる。第1のn型電極層21上には、第1のn型クラッド層(n‐InP)22を成長させる。第1のn型クラッド層22上には、第1の中間層(i‐InGaAsP)23を成長させる。第1の中間層23上には、コア層24を成長させる。コア層24上には、第2の中間層(i‐InGaAsP)25の順に成長させる。
【0031】
第2の中間層25上には、第1の低濃度クラッド(i‐InP)26を成長させる。第1の低濃度クラッド26上には、電子バリアとして機能するp型クラッド層(p‐InP)27を成長させる。p型クラッド層27上には、第2のn型クラッド層(n‐InP)28を成長させる。第2のn型クラッド層28上には、第2のn型電極層(n+‐InP)29を成長させる。
【0032】
ここで、コア層25は、動作光波長で電気光学効果が有効に働くように構成され、例えば、1500nm帯のデバイスであれば、InGaAlAsのGa/Al組成を変えた層を、それぞれ量子井戸層と量子バリア層にした多重量子井戸構造とすることができる。また、第1の中間層23は、光吸収で発生したキャリアをヘテロ界面でトラップされないようにするための接続層として機能する。
【0033】
図3は、本実施例に係る半導体MZ変調器における分離溝の配置位置を示した模式図である。
図3に示すように、本実施例に係る半導体MZ変調器を製作するには、2つのアーム導波路11a,11bを電気的に分離するために、アーム導波路11a,11b上に分離溝16を形成する。
【0034】
なお、変調電極12a,12bとバランス調整電極13a,13bとが分かれているMZ構造の場合には、その間にも分離溝16を設けて電気的分離を行う。これは、電気的分離がなされていないと、片方のアーム導波路に変調のため印加した電圧が、他方のアーム導波路の変調に影響を及ぼすためである。
【0035】
分離溝16は、第2のn型電極層29から電子バリアとして機能するp型クラッド層27までの一部を標準的なフォトリソグラフィー、パターニングをし、ウエットエッチング技術を用いて、アーム導波路11a,11bの何処かを幅数ミクロンの溝として取り除く。なお、本実施例においては、分離溝16による電気的分離を行ったが、電極が接触する変調電極12a,12bの周辺以外を石英のハードマスクを用いて第2のn型電極層29から電子バリアとして機能するp型クラッド層27までを除去した後、半絶縁性のInPで再度成長し置き換を実施してもよい。
【0036】
次に、図2(b)に示すように、ドライエッチング技術を用いて第2のn型電極層29から、第1の中間層23までの層をエッチングすることにより、ハイメサ型の導波路構造を形成する。続いて、第1のn型クラッド層22をエッチングすることにより、第1のn型電極層21を露出させる。
【0037】
そして、図2(c)に示すように、変調電極12a,12bと、バランス調整電極13a,13bとなるn型電極30を第2のn型電極層29上に、GNDとなる第2のn型電極31を第1のn型電極層21上にそれぞれ形成する。なお、本実施例においては、n型電極30及び第2のn型電極31は金により形成した。また、必要に応じて、パッシベーション膜を堆積し、メサ表面を保護するようにしてもよいし、ポリマーなどを利用してハイメサ構造を保護してもよい。
【0038】
次に、本実施例に係る半導体MZ変調器のモジュールへの実装方法について説明する。
上述したようにn型電極30及び第2のn型電極31を形成した後、後程行うへき開が実施できる程度までSI‐InP基板20の裏面を研磨した。SI‐InP基板20の裏面に固定半田が接着するように金属膜を蒸着し、各素子をへき開した後、入出力導波路がある端面に無反射コートを施した。
【0039】
そして、本実施例に係る半導体MZ変調器1を窒化アルミニウムからなるサブマウントに、標準的なチップボンダーで搭載した後に加熱して固定し、続いて、終端抵抗と、コンデンサと、抵抗の変化を温度の変化として検出する温度センサとしてサーミスタと、高速信号を伝送するための配線板を、同じくチップボンダーで搭載し、リフロー方式により固定した。
【0040】
固定されたサブマウント上の配線や素子、及び、半導体MZ変調器1の変調電極12a,12b及びバランス調整電極13a,13bをワイヤーボンディングにより結線した後、CuWからなるマウントにサブマウントを再度リフロー方式により固定し、YAGレーザを用いて入出力導波路の先に、入出力光をコリメートするレンズを固定した。
【0041】
上述したようにマウントに搭載されたものを、両端にファイバー固定ができるようになった気密パッケージ内に実装し、レンズ付きの入出力ファイバーをYAGレーザにより固定し、パッケージに設けられた高周波の差動信号入力端子にRF入力コネクターとしてGPPOコネクターを装着してモジュール形体とした。
【0042】
なお、本実施例においては、レンズの固定はYAGレーザを用いて行ったが、これ以外の方法により行ってもよい。また、RF入力コネクターとしてGPPOコネクターを用いたが、これ以外にも所望周波数の信号が入力できるRF入力用端子であればどのようなものを用いてもよい。
【0043】
次に、製作したモジュールの性能測定結果に基づき、本実施例に係る半導体MZ変調器の無温調駆動方法について、本実施例に係る半導体MZ変調器の特性とともに説明する。
図4は、本実施例に係る半導体MZ変調器の基本動作について示した図である。
なお、図4においては、変調電極12a,12bに電圧を印加して行き、そのときの出力ポートから出力される光強度を模式的に示している。
【0044】
ここで、図4に示すグラフにおいて、負側は、アーム導波路11aにバイアス電圧Vbias(<0V)を印加した上に、変調電極電圧Vpaiを負の電圧として印加した状態を示している。このとき、プッシュプル駆動のために、アーム導波路11bには、アーム導波路11aと同じバイアス電圧Vbiasが印加され、かつ、アーム導波路11aとは符号が逆の変調電極電圧Vpaiが印加される。このとき、|Vpai|<|Vbias|の関係がある。
【0045】
同じく、図4の正側は、電圧印加するアーム導波路の違いを示しており、便宜上グラフの正にプロットしているが、印加されるバイアス電圧Vbias及び変調電極電圧Vpaiの符号は、アーム導波路11aと同じ符号である。以後の実測のグラフも同じようなプロットをしている。
【0046】
図4(a)に示すように、製造後のモジュールの特性においては、製造時に発生する位相誤差により、消光点がゼロ電圧のところに現れない。そこで、バランス調整電極13a,13bに電圧を印加して(この電圧をVnullとする)消光点がゼロ電圧のところに位置するように調整する。なお、通常は、Vnullが低くなる方のバランス調整電極13a,13bに電圧を印加する。
【0047】
また、本実施例においては、Vnullは、時間軸に対し長期的な変動が発生しても、常に変調電極12a,12bの消光特性で電圧非印加時に消光点がゼロ電圧となるように自動バイアス制御回路(Auto bias circuits)(上記特許文献3参照)を用いて調整させている。無論、長期的変動がない場合は、自動バイアス制御回路は不要である。
【0048】
その後、変調電極12a,12bに電圧をスイープすると、図4(b)に示すように、左右対称の特性が得られる。ここで、正負の最初の最大透過強度が得られる点までの電圧が、DPSKとして半導体MZ変調器1を使用した場合の変調振幅電圧Vpaiとなる。そして、本実施例に係る半導体MZ変調器1の特徴は、変調振幅電圧Vpaiがある程度任意に選択できる点にある。
【0049】
図5は、本実施例に係る半導体MZ変調器における変調電極消光特性のバイアス電圧依存性を示した図である。
図5においては、一例として、製作した半導体MZ変調器1のバイアス電圧が8Vから16Vまでの変調電極12a,12bの消光特性のVbias依存性を示している。なお、図5においては、−5℃一定に温度を保ち波長1560nmで測定した結果を示している。また、図5においては、図を見やすくするために、各バイアス電圧Vbiasで規格化透過強度を10dBずらして表示してある。
【0050】
図5に示すように、Vnullを印加し消光点を調整した状態で、バイアス電圧Vbias(すなわち、変調電極12a,12bに印加するDC成分)を高くすると、ゼロ電圧を対称軸に中央に向かって変調振幅電圧Vpaiが小さくなる。図5に示した例においては、バイアス電圧Vbiasを1V変化させると、0.2Vの変調振幅電圧Vpaiの変化が得られ、およそその変化は、ほぼバイアス電圧Vbiasに比例している。
【0051】
ところで、半導体MZ変調器1は、位相変調器部分の長さが長いほど駆動電圧を低くすることができる。これは、バンドギャップがかならず温度依存性を持つため、半導体であれば駆動電圧の波長依存性が必ず存在し、これを一定駆動電圧にするためバイアス電圧Vbiasを印加して補償しているためである。
【0052】
従来の光変調器はpin構造が主流である。しかし、一般的なInP構造の半導体MZ変調器の構成(pin構造)ではp層は損失が高く、変調領域の長さを長くすると損失が増大してしまう。そこで、短い変調領域で変調を行えるように、動作波長とバンドギャップ波長を近いところに設定する。すなわち、デチューニング量(動作波長とバンドギャップ波長の差)を小さくする。
【0053】
ここでは、ある程度Vπ(変調振幅)を小さくし、かつ、C帯(1530nm〜1560nm)全域での損失が許容できる範囲(例えば、0.5dB程度)となるように、バンドギャップ波長と長さを設計している。この設計は、温度一定となるようにペルチェ素子の使用を前提として設計されている。
【0054】
このような素子構造のInP構造の半導体MZ変調器では、波長変化をバイアス電圧Vbiasで補償した上に、さらにバイアス電圧Vbiasを印加して温度補償をすると損失の増加が大きくなり実現することができない。
【0055】
一方、本実施例に係る半導体MZ変調器1の構造は、npin構造である(上記特許文献2参照)。この構造は、波長依存性をバイアス電圧Vbiasで補償しなくてはならない点は同じであるが、従来の構造に比べて損失が小さい。なぜなら、従来の構造に比べてp層が極めて薄く損失が小さいので、変調領域の長さを損失を増加させることなく十分に長くすることができるからである。
【0056】
そのため、本実施例に係る半導体MZ変調器1においては、バイアス電圧Vbiasを印加しなくてもVπ(変調振幅)が小さいという特徴がある。これは、変調領域の長さでの調整範囲が広いためである。このため、波長依存性を補償する電圧の範囲も狭いという特徴がある。さらに、損失増加が許容できるバイアス電圧Vbiasの範囲内で十分に、温度補償も行うことができるという特徴がある。
【0057】
そして、これらの特徴を実現することができるのは本実施例に係るnpin構造の半導体MZ変調器1だけである。通常、従来のLN変調器等の場合、LN変調器が持つ物性値と長さから導き出される変調振幅電圧Vpaiが決定される。しかし、本実施例に係る半導体MZ変調器1の場合は、変調振幅電圧Vpaiがある程度任意に選択できる点に優位性がある。
【0058】
図6は、本実施例に係る半導体MZ変調器における変調電極消光特性の温度依存性を示した図である。
図6においては、温度を変化させた際の変調振幅電圧Vpai変動の様子を示している。なお、図6においては、5℃から75℃まで温度を変化させた場合に、変調電極12a,12bをスイープして得られる消光特性を示している。なお、図6においては、図を見やすくするために、各温度で規格化透過強度を10dBずらして表示してある。また、ここでは、バイアス電圧Vbias=5V、波長1560nm一定で測定を実施した。
【0059】
図6に示すように、高温部から温度が下がるにつれて、変調振幅電圧Vpaiは大きくなる。これは温度が下がることによりデチューニング量が大きくなり、変調効率が低下するためである。このように、半導体MZ変調器1は、温度の変化で変調振幅電圧Vpaiが変動してしまう。温度の変化とともに、温度入力を受け、しかも、半導体MZ変調器1の振幅変動に合わせて、半導体MZ変調器1を駆動するドライバーが振幅電圧を可変できればよいが、通常そのようなドライバーは入手できない。
【0060】
図7は、本実施例に係る半導体MZ変調器における変調振幅電圧のバイアス電圧依存性を示した図である。
図7においては、図5に示した動作波長1560nmでバイアス電圧Vbiasを変化させて得られる特性を、−5℃から75℃の温度範囲で取得し、バイアス電圧Vbiasと変調振幅電圧Vpaiの関係を、温度を関数にしてプロットし直している。
【0061】
図7に示すように、−5℃のとき、バイアス電圧Vbias=16Vで、変調振幅電圧Vpaiは1.3V(図7中に破線で示す)となっている。バイアス電圧Vbias一定のまま、温度が上昇して行くと変調振幅電圧Vpaiは小さくなり45℃では0.53Vまで小さくなってしまうのがわかる。なお、55℃以上では、バンド端が動作波長に近づき過ぎ、損失増加が認められたため、プロットから除外している。
【0062】
一方、最大環境温度である75℃のときを見ると、バイアス電圧Vbaisを下げて行き、4Vまで下げると変調振幅電圧Vpaiを2.8Vまで上昇させることができている。つまり、−5℃のときVbias=16Vで達成されていた変調振幅電圧Vpai=1.3Vは、バイアス電圧Vbias=7.1Vと設定すれば75℃の環境下でも達成できることがわかる。
【0063】
このとき、バイアス電圧Vbias=7.1Vは、前後の測定点の線形補完で求めた。図7を見てもわかるように、ほぼ線形的にプロットできているので十分である。無論、測定精度を高めて、よりバイアス電圧Vbiasの測定間隔を狭くして適正なバイアス電圧Vbiasを求めてもよい。
【0064】
図8は、本実施例に係る光送信機の構成を示したブロック図である。
図8に示すように、作動信号を入力するRF1,RF2の端子には、バイアスティー40a,40bを介して半導体MZ変調器1にバイアス電圧Vbiasが印加できるようになっている。バイアス回路41は、電子記憶媒体に記憶された配列であるメモリテーブル42を内部に持っており、半導体MZ変調器1近傍に設置している温度センサ43から検出温度の入力を受け、バイアス電圧Vbiasを温度変化に対応して変化させ入力できるようになっている。なお、本実施例においては、温度センサ43として標準的なサーミスタを用いた。
【0065】
メモリテーブル42内には、温度センサ43からの検出温度の入力に応じて出力されるバイアス電圧Vbiasを記憶し、予め測定された値が、温度とバイアス電圧Vbiasの配列として記憶されている。具体的な回路では、サーミスタ電流を定電流とした回路構成をとり、出力電圧をAD変換後、デジタル処理でメモリテーブル42内バイアス電圧Vbiasを決定し出力する。なお、図示していないが、バランス調整電極13a,13bには、ABC回路を接続し、消光点の調整を行えるようにした。
【0066】
上述したように光送信機を形成し、実際に無温調下での実験を行った。環境温度は、疑似的に本実施例に係る半導体MZ変調器1をペルチェ素子上に搭載しモジュール温度を変化させることで行った。なお、環境炉で温度を変化させても同様の結果が得られるはずである。
【0067】
図9は、本実施例に係る光送信機における−5℃と75℃環境下の変調電極消光特性を示した図である。
図9に示すように、両者が−1.3Vから1.3Vまでの間で、同じ特性を示しており、変調振幅電圧Vpai一定の無温調駆動を実現できることを確認した。このときのバイアス電圧Vbiasをモニタしたところ、−5℃環境下では16V、75℃環境下では7.1Vであった。
【0068】
このように、本実施例に係る光送信機は、温度が変化しても変調振幅電圧Vpaiを一定に保ったまま駆動することができる。なお、本実施例に係る光送信機においては、バイアス回路41にメモリテーブル42が必要となるが、半導体MZ変調器1を使用した光送信機内のペルチェ素子による温調を排除することができ、消費電力を低減することができるという効果を得ることができる。
【実施例2】
【0069】
以下、本発明の第2の実施例に係る光送信機について説明する。
本実施例においては、温度センサ43からの検出温度の入力に対し、バイアス電圧Vbiasを変化させる半導体MZ変調器を駆動する光送信機であって、バイアス電圧Vbiasを温度センサ43からの検出温度の入力に対して演算処理により決定し、無温調素子で駆動することを特徴とする半導体MZ変調器を有する光送信機について説明する。
【0070】
なお、本実施例で用いる半導体MZ変調器、その製造方法、モジュール組み立て方法は、第1の実施例と同様である。また、本実施例で用いる半導体MZ素子は、第1の実施例と同素性の素子であり、特性も第1の実施例の素子と同様である。
【0071】
第1の実施例では、バイアス回路41は、温度センサ43からの検出温度の入力を参照し、自身又は他にあるメモリテーブル42を参照することでバイアス電圧Vbiasを決定して駆動することで無温調駆動を可能としていた。しかし、メモリテーブル42を有する場合、メモリテーブル42へのデータの書き込みを行い、また、メモリテーブル42に書き込んだデータの取得を行わなければならない。
【0072】
図10は、本実施例に係る光送信機の構成を示したブロック図である。
図10に示すように、本実施例では、バイアス回路41の外部又は内部に演算回路44を用意することで温度が変化した際にも変調振幅電圧Vpaiを一定として駆動させることができるように行う。
【0073】
図11は、本実施例に係る光送信機におけるバイアス電圧Vbiasの温度依存性を示した図である。
なお、図11は、図5上の変調振幅電圧Vpai=1.3Vを達成できるバイアス電圧Vbias、温度を関数にプロットしたものである。
図11より、この温度範囲では、非常に線形的な変動を示すことがわかる。フィッティングした結果、この素子では下記式(1)に示す関係があることがわかった。
【数1】

ここで、Tは環境温度である。
【0074】
温度センサ43からの検出温度の入力がTで与えられる場合はよいが、通常は与えられないのでTは電圧や電流等の何らかの入力の関数で示される。温度センサ43にサーミスタを用いた場合は、サーミスタの理論特性は下記式(2)で表される。
【数2】

ここで、Rは抵抗値、Bはサーミスタ定数、Tは実温度(K)、Taは基準温度、Raは基準温度における抵抗値である。なお、実際は、上記の式の補正項を加えた式にて温度を測定する。
【0075】
この抵抗値を、サーミスタ電流を定電流とした回路構成をとり、出力電圧をAD変換後、デジタル処理を行い、上記式(1)に、Tを与えることでバイアス電圧Vbiasを決定することができる。なお、本実施例で用いた素子では、係数が0.112、切片が−15.50となったが、無論、用いる素子において、それぞれ値が異なる。
【0076】
また、本実施例で用いた素子では、温度に対して線形的なバイアス電圧Vbias依存性を示しているが、非線形の場合であっても下記式(3)に示す多項式を用いて変調振幅電圧Vpaiを一定に駆動するこができる。
【数3】

【0077】
このように、本実施例のように、上記式(3)に示す多項式によって示される係数を電子記憶媒体に記憶し、温度センサ43からの検出温度の入力を引数としてバイアス回路41外部又は内部に設けた演算回路44で演算を行うことで、変調振幅電圧Vpaiを決定し、バイアス回路41を介して半導体MZ変調器1を、温調機構なしに駆動することができるため、消費電力を低減することができる。
【実施例3】
【0078】
以下、本発明の第3の実施例に係る光送信機について説明する。
図12は、本実施例に係る光送信機の構成を示したブロック図である。
図12に示すように、本実施例では、半導体MZ変調器1を用いた光送信機であって、光源として波長可変レーザ(半導体チューナブルレーザ)50、レーザ駆動回路51、半導体MZ変調器1、温度センサ43、温度センサ43からの検出温度Tとレーザ駆動回路51からの発振設定波長λが入力されるバイアス回路41、バイアス回路41がバイアス電圧Vbiasを決定するため参照する電子記憶媒体に記憶された配列であるメモリテーブル42を有する光送信機で、C帯(1530nm〜1560nm)全域、温度範囲−5℃から75℃で、ペルチェ素子などの温調素子なく、バイアス電圧Vbiasを可変し、変調振幅電圧Vpaiを一定に駆動する光送信機を作製した。
【0079】
第1,2の実施例では、半導体MZ変調器1の変調振幅電圧Vpaiは温度依存性を示す特性を、温度無依存に駆動するため、メモリテーブル42内に格納された配列、又は、演算回路44によりVbiasを、温度センサ43からの検出温度Tを入力関数にして可変させて温度に依存することなく駆動できる光送信機について示した。これらは、いずれも固定波長の光源を利用した場合について記載されている。
【0080】
しかし、光送信機の光源としては、一般に半導体チューナブルレーザ50を用いることが多い。これは、波長多重伝送(WDM伝送)を行う際に、波長毎に、多数の予備のレーザの在庫を抱えることとなるという問題から、半導体チューナブルレーザ50で予備のレーザの在庫を減らすという目的からである。
【0081】
半導体チューナブルレーザ50は、方式の違いはあるが波長を変えるため、電流や温度による波長制御を行うため、ユーザが指定した動作波長を実現するために、ユーザにより入力された波長に、電流や温度を設定する機構が何かしら搭載されている。
【0082】
半導体チューナブルレーザ50の場合、ユーザにより入力された波長を参照し、メモリテーブル42内に格納された予め測定された電流、温度の設定値に駆動条件を合わせることで所望の特性を出力しているものである。つまり、半導体チューナブルレーザ50そのものが、発振波長に対してメモリ内に駆動条件を収めているものである。
【0083】
本実施例では、光半導体MZ変調器1及びモジュールは、第1の実施例に示した方法で作製し、素子特性が同じものを使用している。さらに、モジュールに、電子回路からなるボードにより制御されている半導体チューナブルレーザ50からの出力を光ファイバーで接続した。
【0084】
また、半導体チューナブルレーザ50を駆動しているボード出力より波長λをデジタル信号として半導体MZ変調器1のバイアス回路41へ出力している。半導体MZ変調器1のバイアス回路41は、予めメモリテーブル42内に格納された配列より、入力された温度Tと波長λを参照して、バイアス電圧Vbiasを決定し、半導体MZ変調器1にバイアス電圧Vbiasを印加するようにしてある。
【0085】
ここでは、半導体チューナブルレーザ50と半導体MZ変調器1は別々にパッケージされたモジュールをファイバーにより接続しているが、無論、ひとつのパッケージ内に収める、又は、ひとつの同一基板上に形成することとしてもよい。また、半導体チューナブルレーザ50を光源としたが、その他の波長可変機構があるレーザを用いることとしてもよい。
【0086】
図13は、本実施例に係る光送信機における変調振幅電圧の波長依存性を示した図である。
なお、図13においては、バイアス電圧Vbias=12、温度T=15℃と一定として半導体チューナブルレーザ50の波長を1530〜1580nmまで外部入力により変化さえたときの変調振幅電圧Vpaiをプロットしたものである。
【0087】
本実施例に係る半導体MZ変調器1では、変調振幅電圧Vpaiは波長にも依存し、動作波長が10nm長波側に移動すると、変調振幅電圧Vpaiが0.14Vずつ増加して行くことを示している。このように、半導体MZ変調器1は、温度だけでなく動作波長に対しても、変調振幅電圧Vpaiが変動してしまう。
【0088】
図14は、本実施例に係る光送信機における変調振幅電圧のバイアス電圧依存性を示した図である。
なお、図14においては、環境温度−5℃、波長1560nmで測定した変調振幅電圧Vpaiのバイアス電圧Vbias依存性と、環境温度75℃で波長1530nmで測定した変調振幅電圧Vpaiのバイアス電圧Vbias依存性を示している。また、図14においては、図が煩雑になるのを避けるため、動作条件がもっとも過酷な条件となる低温、長波長の場合と、高温、短波長の場合のみを示している。
【0089】
環境温度−5度、波長1560nmでバイアス電圧Vbias=16Vのときの変調振幅電圧Vpai=1.3V(図14中に破線で示す)である。この状態は、バイアス電圧Vbiasを印加しない場合、バンドギャップが最も動作波長から遠い状態にあたる。
【0090】
一方、環境温度75℃で波長1530nmの場合は、バイアス電圧Vbiasを印加しない場合、バンドギャップが最も動作波長から近い状態にあたる。このとき、図14に示すようにバイアス電圧Vbiasが2Vのとき、変調振幅電圧Vpai=1.45Vとなっており、環境温度−5℃、波長1560nmでバイアス電圧Vbias=16Vのときの変調振幅電圧Vpai=1.3Vを上回る。
【0091】
よって、バイアス電圧Vbias=3.15Vと設定すれば、環境温度75℃で波長1530nmの場合、変調振幅電圧Vpai=1.3Vを達成できる。無論、この間の温度T及び波長λであれば、バイアス電圧Vbiasが3.15Vから16Vの間の電圧に設定することで、変調振幅電圧Vpai=1.3Vを達成することができる。
【0092】
言い換えると、この結果は、C帯(1530〜1560nm)の波長範囲で、かつ環境温度−5℃〜75℃の間であれば、バイアス電圧Vbiasを制御することで、ペルチェ素子等の温調素子を使用することなく、温度に依存せずに変調振幅電圧Vpai一定での駆動が可能であることを意味している。
【0093】
このように、温度Tと波長λの情報を元にメモリテーブル42内に格納されたバイアス電圧Vbiasを出力することで、温度T、波長λによらず、変調振幅電圧Vpai一定での駆動をペルチェ素子等の温度調整素子なしに、実現することができるため、消費電力を低減することができる。
【0094】
先の例では、半導体MZ変調器1のバイアス回路42のメモリテーブル42内に、温度T、波長λ、バイアス電圧Vbiasの3次元配列を格納し、入力された温度Tと波長λにより半導体MZ変調器1のバイアス電圧Vbiasを決定している。しかし、半導体チューナブルレーザ50は、目的波長の駆動条件を格納した電子記憶媒体(メモリ)を有している。
【0095】
図15は、本実施例に係る光送信機の他の構成を示したブロック図である。
図15に示すように、半導体MZ変調器1のバイアス回路41の温度T、波長λ、バイアス電圧Vbiasの3次元配列を半導体チューナブルレーザ50側のメモリテーブル52に格納しておく、又は、メモリテーブル52を半導体MZ変調器1のバイアス回路42側と共有することで、電子回路の簡素化を図ることができる。
【0096】
以上説明したように、本実施例のように、半導体MZ変調器1を用いた光送信機であって、光源として半導体チューナブルレーザ50、レーザ駆動回路51、半導体MZ変調器1、温度センサ43、温度センサ43からの検出温度Tとレーザ駆動回路51からの発振設定波長λが入力されるバイアス回路41、バイアス回路41が温度を決定するため参照するメモリテーブル42,52を有する光送信機で、温度T、波長λによらず、振幅電圧Vpai一定での駆動をペルチェ素子等の温度調整素子なしに、実現することができるため、消費電力を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、例えば、npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器を備える光送信機に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 半導体MZ変調器
10a,10b 3dBカップラー
11a,11b アーム導波路
12a,12b 変調電極
13a,13b バランス調整電極
14 終端抵抗
15 コンデンサ
20 SI‐InP基板
21 第1のn型電極層
22 第1のn型クラッド層
23 第1の中間層
24 コア層
25 第2の中間層
26 第1の低濃度クラッド
27 p型クラッド層
28 第2のn型クラッド層
29 第2のn型電極層
30 n型電極
31 第2のn型電極
40a,40b バイアスティー
41 バイアス回路
42 メモリテーブル
43 温度センサ
44 演算回路
50 半導体チューナブルレーザ
51 レーザ駆動回路
52 メモリテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器と、
前記半導体MZ変調器の温度を監視する温度センサと、
前記半導体MZ変調器の変調電極にバイアス電圧を印加するバイアス回路と
を備え、
前記バイアス回路は、前記温度センサからの入力が変化すると、前記バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として前記半導体MZ変調器を駆動する
ことを特徴とする光送信機。
【請求項2】
npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器と、
前記半導体MZ変調器の温度を監視する温度センサと、
前記半導体MZ変調器の変調電極にバイアス電圧を印加するバイアス回路と、
前記温度センサからの入力と前記バイアス電圧の配列を記憶してある電子記憶媒体と
を備え、
前記バイアス回路は、前記温度センサからの入力に基づき前記電子記憶媒体に記憶してある前記配列を参照して前記バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として前記半導体MZ変調器を駆動する
ことを特徴とする光送信機。
【請求項3】
npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器と、
前記半導体MZ変調器の温度を監視する温度センサと、
前記半導体MZ変調器の変調電極にバイアス電圧を印加するバイアス回路と、
前記温度センサからの入力を関数とする多項式により前記バイアス電圧を演算する演算回路と
を備え、
前記バイアス回路は、前記演算回路における演算結果により前記バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として前記半導体MZ変調器を駆動する
ことを特徴とする光送信機。
【請求項4】
波長可変レーザと、
npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器と、
前記半導体MZ変調器の温度を監視する温度センサと、
前記半導体MZ変調器の変調電極にバイアス電圧を印加するバイアス回路と、
前記波長可変レーザの動作波長と前記温度センサからの入力と前記バイアス電圧の3次元配列を記憶してある電子記憶媒体と
を備え、
前記バイアス回路は、温度又は波長の変化により前記電子記憶媒体に記憶した前記3次元配列を参照して前記バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として前記半導体MZ変調器を駆動する
ことを特徴とする光送信機。
【請求項5】
波長可変レーザと、
npin構造を有する変調領域を有する半導体MZ変調器と、
前記半導体MZ変調器の温度を監視する温度センサと、
前記半導体MZ変調器の変調電極にバイアス電圧を印加するバイアス回路と、
前記波長可変レーザの動作波長と前記温度センサからの入力を関数とする多項式により前記バイアス電圧を演算する演算回路と
を備え、
前記バイアス回路は、前記演算回路における演算結果により前記バイアス電圧を変化させて変調振幅電圧を一定として前記半導体MZ変調器を駆動する
ことを特徴とする光送信機。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−221370(P2011−221370A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91903(P2010−91903)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】