説明

内燃機関のプリイグニッション推定制御装置

【課題】プリイグニッションを防止する、内燃機関のプリイグニッション推定制御装置を得る。
【解決手段】吸気温センサ1、水温センサ2、給油センサ3、ノックセンサ4の検出信号に基づき、燃料のオクタン価を推定するオクタン価推定部214と、推定されたオクタン価等に基づき、プリイグニッション発生指標を演算するプリイグニッション発生指標演算部216と、プリイグニッション発生指標を、プリイグニッションがより発生し易い側へ補正するプリイグニッション発生指標補正部218と、プリイグニッション発生指標に基づき、有効圧縮比の限界を演算する有効圧縮比限界演算部219と、有効圧縮比の限界等に基づき、吸気カム109の位相進角量を演算する吸気カム位相進角量演算部220と、吸気カム109の位相進角量に基づき、位相進角量の変化を制限するように、吸気カム位相可変システム10を制御する吸気カム位相制御部221とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両などに搭載され、プリイグニッションを防止することができる、内燃機関のプリイグニッション推定制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高圧縮比の火花点火式内燃機関において、燃焼騒音や出力変動を引き起こすプリイグニッションが発生することがある。このプリイグニッションとは、燃焼に伴う内燃機関の燃焼室内の圧力変動が過剰に大きくなる現象を指す。一般に、火花点火実行前に発生するプリイグニッションが知られている。このプリイグニッション以外にも、燃焼室内の混合気(空気と燃料の混合気体)が圧縮により高温になって自着火するプリイグニッションや、点火プラグ先端部やデポジット等がホットスポットになり着火に至るプリイグニッションといった現象がある。また、点火後の燃焼過程において燃焼室周辺のエンドガスが自着火するノックも知られている。
【0003】
このような現象は、騒音や振動を伴うだけでなく、内燃機関の燃焼室内の損傷を招き、最終的には内燃機関が動作しなくなるおそれを持っている。
【0004】
そこで、従来から、環境条件や運転条件からプリイグニッションの発生を推定し、プリイグニッションを防止する方法が提案されている。
【0005】
従来のプリイグニッション防止方法においては、低回転高負荷で高温時に発生するプリイグニッションを、内燃機関の温度と運転状態から判断し、温度の上昇に応じて実圧縮比を低下させ、プリイグニッションを防止する(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、他の従来のプリイグニッション防止方法においては、燃料のオクタン価を推定し、推定した燃料のオクタン価からプリイグニッションの発生し易さを判定し、内燃機関の環境温度に応じて始動時の実圧縮比を低下させることで、始動時のプリイグニッションを防止する(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−76466号公報
【特許文献2】特開2009−114973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、内燃機関の温度上昇に応じて実圧縮比を低下させることにより、プリイグニッションを抑制すると記載されている。しかし、プリイグニッション発生の要因として、内燃機関の温度と燃焼室内圧縮による温度上昇の他に燃料性状があり、燃料のオクタン価が低いほどプリイグニッションが発生し易いことが分かっている。
【0009】
従って、環境温度(例えば、内燃機関周りの雰囲気温度として、燃焼室に導入される吸気の温度)が低い場合においても、燃料のオクタン価が低ければ、プリイグニッションが発生する可能性が考えられる。逆の場合もあり、燃料のオクタン価が高くても、環境温度が高い場合にはプリイグニッションが発生する可能性が考えられる。
【0010】
特許文献2には、プリイグニッションの発生し易さを判定し、これに応じた実圧縮比を始動時に設定することで、始動時のプリイグニッションを防止すると記載されている。しかし、特許文献2は、始動時に発生するプリイグニッションの防止(プリイグニッションの防止とはプリイグニッションが発生する可能性ある運転状態としないことを指す)についてのみ記載されており、「始動後」に発生するプリイグニッションについては考慮されていない。また、プリイグニッション防止動作を行った後にプリイグニッションが発生した場合のプリイグニッションの回避方法(プリイグニッションの回避とは、実際にプリイグニッションが発生した場合にプリイグニッションを発生しないよう運転状態を変更することを指す)については全く考慮されていない。加えて、プリイグニッションの発生し易さについては、吸気温度、冷却水温、燃料のオクタン価が想定されているが、それぞれ独立して考えられており、それぞれを複合した条件でのプリイグニッションの発生し易さについては考慮されていない。プリイグニッションが発生し易くなる条件は、複数あるため、それぞれを考慮してプリイグニッションの発生し易さの指標とする必要がある。
【0011】
引用文献2記載の方法は、プリイグニッションの発生し易さは、オクタン価により判定すると記載されている。高オクタン価の燃料を使用した際には、どんな高吸気温、高水温状態で始動(例えば、吸気温50℃、水温110℃など砂漠等での熱間始動)を行っても実圧縮比を低下する制御は実施されない。しかし、オクタン価が高い燃料(例えば、95[Ron]等のハイオク燃料)を用いたとしても、高吸気温、高水温であればプリイグニッションが発生する可能性があることは実験的に分かっている。
【0012】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、全運転状態にわたって、吸気温と冷却水温と燃料のオクタン価から、プリイグニッションの発生し易さを表すプリイグニッション発生指標を演算し、このプリイグニッション発生指標に応じて、吸気カムの位相変化(位相進角量の変化)を制限するように、吸気カム位相可変システムを制御して、プリイグニッションを防止することができる、内燃機関のプリイグニッション推定制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置は、燃焼室に導入される吸気の温度を検出する吸気温センサと、内燃機関の冷却水温を検出する水温センサと、給油口に燃料が流れたことを検出する給油センサと、ノック及びプリイグニッションによる内燃機関の変化を検出するノック検出手段と、吸気カムの位相を可変して吸気バルブの開閉タイミングを変更する吸気カム位相可変システムと、前記吸気温センサ、前記水温センサ、前記給油センサ及び前記ノック検出手段の検出信号に基づいて、燃料のオクタン価を推定するオクタン価推定手段と、前記吸気温センサ及び前記水温センサの検出信号、並びに前記オクタン価推定手段によって推定されたオクタン価に基づいて、合計のプリイグニッション発生指標を演算するプリイグニッション発生指標演算部と、プリイグニッションが検出された際には、前記合計のプリイグニッション発生指標を、プリイグニッションがより発生し易い側へ補正するプリイグニッション発生指標補正部と、前記プリイグニッション発生指標補正部によって求められた合計のプリイグニッション発生指標に基づき、有効圧縮比の限界を演算する有効圧縮比限界演算部と、運転条件、及び前記有効圧縮比限界演算部によって演算された有効圧縮比の限界に基づいて、前記吸気カムの位相進角量を演算する吸気カム位相進角量演算部と、前記吸気カム位相進角量演算部から出力された前記吸気カムの位相進角量に基づいて、前記吸気カムの位相進角量の変化を制限するように、前記吸気カム位相可変システムを制御する吸気カム位相制御部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置によれば、プリイグニッション発生指標に基づいて、全運転状態にわたって、吸気カムの位相変化(位相進角量の変化)を制限するように、吸気カム位相可変システムを制御して、間接的に有効圧縮比を制限し、プリイグニッションを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態1に係る内燃機関の概略構成を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置のオクタン価推定動作を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の給油センサの検出信号を示すタイミングチャートである。
【図5】この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置のノックセンサの検出信号と点火信号を示すタイミングチャートである。
【図6】この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置のプリイグニッション発生指標演算及び有効圧縮比限界演算動作を示すフローチャートである。
【図7】吸気温−プリイグニッション発生指標テーブルを示す図である。
【図8】水温−プリイグニッション発生指標テーブルを示す図である。
【図9】オクタン価−プリイグニッション発生指標テーブルを示す図である。
【図10】プリイグニッション発生指標−有効圧縮比限界マップを示す図である。
【図11】この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の吸気カムの位相と吸気バルブの開区間との関係を示す図である。
【図12】この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の吸気カム位相進角量演算動作を示すフローチャートである。
【図13】吸気カムの位相進角量マップを示す図である。
【図14】有効圧縮比限界−吸気カム位相進角量制限値マップを示す図である。
【図15】この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の吸気カムの位相進角量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0017】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置について図1から図14までを参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関の概略構成を示す図である。なお、以降では、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0018】
図1において、内燃機関(エンジン)100の燃焼室101は、シリンダヘッド102と、シリンダブロック103と、ピストン104とにより形成されている。
【0019】
さらに、燃焼室101には、吸気ポート105と排気ポート106が接続されており、吸気ポート105と排気ポート106は、シリンダヘッド102に形成されている。
【0020】
ピストン104には、クランク軸107が接続されており、ピストン104が上下することによりクランク軸107が回転させられる。このクランク軸107には、図示しないクランクプレートが取り付けられている。このクランクプレートには突起があり、クランク角センサ108は、この突起を検出することによりクランク軸107の回転数やクランク角度位置を検出する。
【0021】
吸気ポート105の燃焼室101側には、吸気カム109によって動作する吸気バルブ110が設けられ、排気ポート106の燃焼室101側には、排気カム111によって動作する排気バルブ112が設けられている。シリンダヘッド102の吸気ポート105の下部には、燃料噴射弁113が設けられており、燃焼室101の上部中央には点火プラグ114が設けられている。
【0022】
吸気カム109には、吸気カム位相可変システム10が接続されており、この吸気カム位相可変システム10によって吸気カム109の位相を可変することで、吸気バルブ110の開閉タイミングが変更できるようになっている。その結果、有効圧縮比を制限することができる。
【0023】
燃焼サイクルについて簡単に説明する。まず、吸気行程で、燃焼室101に吸気ポート105から吸気バルブ110を介して導入された空気と、燃料噴射弁113から噴射された燃料とが混合気を形成する。次に、圧縮行程で、ピストン104により混合気は圧縮される。その後、混合気は、圧縮上死点(TDC:Top Dead Center)付近で点火プラグ114により点火される。次に、膨張行程で、点火された混合気はピストン104を押し下げ、クランク軸107を回転させる。燃焼室101内の混合気は、膨張後排気行程で排気バルブ112を介して排気ポート106を通り排出される。以上が燃焼サイクルである。
【0024】
電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)200には、クランク角センサ108からの検出信号の他に、燃焼室101に導入される吸気の温度を検出する吸気温センサ1、内燃機関100の冷却水温を検出する水温センサ2、図示しない給油口に燃料が流れたことを検出する給油センサ3、内燃機関100の振動を検出するノックセンサ(ノック検出手段)4、吸気カム109の位相を検出する位相角センサ5、燃焼室101に導入される吸気量を検出する吸気量センサ6、スロットル開度を検出するスロットルポジションセンサ7等からの検出信号が入力され、吸気カム109の位相進角量の演算や、内燃機関100の回転速度、点火時期、燃料噴射量等の演算を実行する。なお、電子制御装置200は、IGSW8からのON信号により各種の制御を開始する。
【0025】
図2は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の構成を示すブロック図である。
【0026】
図2において、電子制御装置(ECU)200は、各種のI/F回路(図示しない)と、マイクロコンピュータ201とから構成されている。
【0027】
また、マイクロコンピュータ201は、各種のセンサの検出信号などのアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器(図示しない)と、プリイグニッション推定制御プログラムなどの各種の制御プログラムを実行するCPU(図示しない)と、各種の制御プログラムや制御定数、各種のテーブル等を記憶するROM(図示しない)と、各種の制御プログラムを実行した際の変数等を記憶するRAM(図示しない)等から構成されている。
【0028】
さらに、マイクロコンピュータ201は、給油センサ3からの検出信号に基づき、給油直後かどうかを判定する給油判定部211と、ノックセンサ4からの検出信号に基づき、ノックを検出するノック検出部212と、ノックセンサ4からの検出信号に基づき、プリイグニッションを検出するプリイグニッション検出部213と、吸気温センサ1、水温センサ2、給油判定部211、ノック検出部212、及びプリイグニッション検出部213からの検出信号、情報に基づき、燃料のオクタン価を推定するオクタン価推定部214と、オクタン価推定値を記憶するオクタン価推定値記憶部215と、吸気温センサ1、水温センサ2、及びオクタン価推定部214からの検出信号、オクタン価推定値に基づき、プリイグニッション発生指標を演算するプリイグニッション発生指標演算部216と、プリイグニッション検出部213からの情報に基づき、プリイグニッションが発生したことを記憶するプリイグニッション記憶部217と、プリイグニッション検出部213、プリイグニッション発生指標演算部216及びプリイグニッション記憶部217からの情報に基づき、プリイグニッションが発生し易い側へプリイグニッション発生指標を補正するプリイグニッション発生指標補正部218と、プリイグニッション発生指標補正部218からのプリイグニッション発生指標に基づき、有効圧縮比限界を演算する有効圧縮比限界演算部219と、有効圧縮比限界演算部219からの有効圧縮比限界に基づき、吸気カム109の位相進角量を演算する吸気カム位相進角量演算部220と、吸気カム位相進角量演算部220からの吸気カム位相進角量に基づき、吸気カム位相可変システム10を制御する吸気カム位相制御部221とが設けられている。
【0029】
なお、ノック検出部212とプリイグニッション検出部213は、理解し易くするために別々にしているが、両者を一体構成してノック/プリイグニッション検出部とし、ノックセンサ4の検出信号の振動レベルが、プリイグニッション判定閾値を超えた場合には、プリイグニッションが発生したことを検出し、ノックセンサ4の検出信号の振動レベルが、ノック判定閾値を超えた場合には、ノックが発生したことを検出しても良い。
【0030】
マイクロコンピュータ201内の給油判定部211〜吸気カム位相制御部221は、オクタン価推定値記憶部215及びプリイグニッション記憶部217を除き、プリイグニッション推定制御プログラムを構成するソフトウェアである。このオクタン価推定値記憶部215は、ECU200の電源OFF時にもオクタン価推定値を保持するバックアップメモリであり、プリイグニッション記憶部217は、ECU200の電源OFF時にもプリイグニッションが発生したことを保持するバックアップメモリである。
【0031】
マイクロコンピュータ201内のROMには、図7の吸気温−プリイグニッション発生指標テーブルと、図8の水温−プリイグニッション発生指標テーブルと、図9のオクタン価−プリイグニッション発生指標テーブルと、図10のプリイグニッション発生指標−有効圧縮比限界マップと、図13の吸気カムの位相進角量マップと、図14の有効圧縮比限界−吸気カム位相進角量制限値マップとが予め記憶されている。各テーブル、各マップには、エンジン適合試験により得られた最適な値が設定されている。
【0032】
つぎに、この実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0033】
最初に、燃料のオクタン価の推定方法について簡単に説明する。一般に、オクタン価が低いほど、ノックが起こり易い。従って、オクタン価の推定方法としては、所定の時間内に発生するノック回数が所定回数以上であればオクタン価を低い値に推定するといった方法が考えられる。
【0034】
図3は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置のオクタン価推定動作を示すフローチャートである。
【0035】
この図3のフローチャートは、ノックの発生頻度からオクタン価を推定する処理などを含む。このオクタン価推定処理は、エンジン回転と同期したタイミング(例えば、180degCA毎の割込み処理等、degCAはクランク角度の意味)で実行される処理である。
【0036】
ステップ301において、給油判定部211は、給油センサ3から検出信号を入力し、給油直後かどうかを判定する。給油判定部211は、給油直後と判定した場合には、情報「給油直後」をオクタン価推定部214へ伝達し、次のステップ302へ進む。給油直後と判定しない場合には、ステップ303へ移行する。
【0037】
図4は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の給油センサの検出信号を示すタイミングチャートである。
【0038】
図4において、横軸は時間、縦軸は検出信号のレベルをそれぞれ示す。給油センサ3は、例えば、図示しない給油口に配設され、給油口に燃料が流れたことを検出すると検出信号が反転する。給油センサ3は、矢印の給油タイミングで給油口の燃料の流れを検出して、例えば、検出信号をロー(Lo)からハイ(Hi)へ切り替える。検出信号がHiからLoへ切り替わる給油センサ3でも良い。給油判定部211は、給油センサ3の検出信号のレベルの切り替えタイミングを検出することで給油直後かどうかを判定する。
【0039】
次に、ステップ302において、オクタン価推定部214は、給油判定部211から情報「給油直後」が伝達されたときには、オクタン価推定値を初期値に設定し、オクタン価推定値記憶部215に記憶する。
【0040】
この初期値は、プリイグニッション発生指標に影響のない値を設定する。例えば、プリイグニッション発生指標が0となるオクタン価(例えば、90)や、エンジン適合試験を実施したオクタン価(レギュラーガソリン設定であればレギュラーガソリン相当の値)とする。この初期値は、オクタン価推定部214に予め記憶しておく。
【0041】
給油直後と判定した際に、オクタン価推定部214で、オクタン価推定値を初期値にする処理により、給油以前のオクタン価推定値を使用することがなくなる。従って、給油以前のオクタン価の影響を除いた状態でプリイグニッション発生指標の演算が可能となり、給油直前のオクタン価の影響による誤判定を防ぐことができる。
【0042】
次に、ステップ303において、オクタン価推定部214は、吸気温と水温が所定温度以上かどうかを判断する。所定温度以上の場合には、オクタン価推定部214は、オクタン価推定値記憶部215に記憶されたオクタン価推定値をプリイグニッション発生指標演算部216へ伝達して本処理を終了する。所定温度以上でない場合には、次のステップ304へ進む。
【0043】
吸気温センサ1と水温センサ2からの検出信号がオクタン価推定部214に入力されており、吸気温が吸気温閾値以上で、かつ水温が水温閾値以上の場合には、オクタン価推定部214は、ノック及びプリイグニッション検出によるオクタン価推定値の更新を実行しない。例えば、吸気温が吸気温閾値である50℃以上、かつ水温が水温閾値である110℃以上の場合には、オクタン価推定部214は、オクタン価推定値の更新を実行しない。これは、プリイグニッション(ノックも含む)が発生する要因は、オクタン価が低いことだけではなく、環境条件による場合があるためであり、これによりオクタン価推定値が必要以上に低くなることを防ぐことができる。
【0044】
次に、ステップ304において、ノック検出部212は、ノックセンサ4から検出信号を入力し、ノックを検出すると、情報「ノック検出」をオクタン価推定部214へ伝達する。また、プリイグニッション検出部213は、ノックセンサ4から検出信号を入力し、プリイグニッションを検出すると、情報「プリイグニッション検出」をオクタン価推定部214へ伝達する。オクタン価推定部214は、ノック検出部212から伝達された情報「ノック検出」をカウントすることにより、所定サイクル内のノック発生の回数を求める。
【0045】
図5は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置のノックセンサの検出信号と点火信号を示すタイミングチャートである。
【0046】
図5において、横軸は、時間(角度軸)であり、図5中に示した点火時期の左側が進角側、右側が遅角側となる。縦軸は、点火信号(a)とノックセンサ4の検出信号(b)のレベルをそれぞれ示す。ノックセンサ4は、ノックによって発生する内燃機関100の振動を検出し、振動を電圧に変換して検出信号として出力する。従って、ノックセンサ4の検出信号の波形は、振動レベルとなっており、大きくなるほど振動が大きいことを示す。
【0047】
図5中に示した点火時期よりも進角側に示したノックセンサ4の検出信号の波形がプリイグニッション時の波形であり、点火時期よりも遅角側に示したノックセンサ4の検出信号の波形がノック時の波形である。ノック検出部212は、通常、ノック判定閾値(一点鎖線)を設定し、ノックセンサ4の検出信号の振動レベルが、ノック判定閾値を超えた場合には、ノックが発生したことを検出する。また、プリイグニッション検出部213は、ノック判定閾値よりも高いレベルのプリイグニッション判定閾値(破線)を設定し、ノックセンサ4の検出信号の振動レベルが、プリイグニッション判定閾値を超えた場合には、プリイグニッションが発生したことを検出する。これは、プリイグニッションの振動レベルがノックの振動レベルよりも明らかに大きいことが分かっているためである。従って、プリイグニッションとノックを振動レベルの大きさで区別することができる。もちろん、この他の方法でプリイグニッションとノックを区別しても良い。
【0048】
次に、ステップ305において、オクタン価推定部214は、所定サイクル内のノック発生回数が発生回数閾値以上かどうかを判断する。オクタン価推定部214は、例えば、ノック発生回数が100サイクル中20回以上かどうかを判断する。所定サイクル内のノック発生回数が発生回数閾値以上の場合には、次のステップ306へ進み、ノック発生回数が発生回数閾値未満の場合には、ステップ307へ移行する。
【0049】
次に、ステップ306において、オクタン価推定部214は、オクタン価推定値記憶部215に記憶されたオクタン価推定値を低い側へ更新する。オクタン価推定部214は、例えば、「新しいオクタン価推定値=現在のオクタン価推定値−1」という計算を実行して、現在のオクタン価推定値を1だけ低い値に更新する。
【0050】
次に、ステップ307において、オクタン価推定部214は、プリイグニッションを検出したかどうかを判断する。オクタン価推定部214は、プリイグニッション検出部213から情報「プリイグニッション検出」が伝達されたかどうかで、プリイグニッションの検出の有無を判断する。プリイグニッションを検出した場合には、次のステップ308へ進み、プリイグニッションを検出しない場合には、オクタン価推定部214は、オクタン価推定値記憶部215に記憶されたオクタン価推定値をプリイグニッション発生指標演算部216へ伝達して本処理を終了する。
【0051】
そして、ステップ308において、オクタン価推定部214は、オクタン価推定値記憶部215に記憶されたオクタン価推定値を低い側へ更新する。オクタン価推定部214は、例えば、「新しいオクタン価推定値=現在のオクタン価推定値−1」という計算を実行して、現在のオクタン価推定値を1だけ低い値に更新する。また、オクタン価推定部214は、プリイグニッションを検出したときには、カウントしているノック発生回数をリセットする。オクタン価推定部214は、オクタン価推定値記憶部215に記憶されたオクタン価推定値をプリイグニッション発生指標演算部216へ伝達して本処理を終了する。
【0052】
なお、プリイグニッション検出部213は、プリイグニッションを検出すると、情報「プリイグニッション検出」をオクタン価推定部214へ伝達する際に、プリイグニッション記憶部217及びプリイグニッション発生指標補正部218にも情報「プリイグニッション検出」を伝達する。プリイグニッション記憶部217は、情報「プリイグニッション検出」が伝達されると、プリイグニッション発生を記憶し、IGSW8からOFF信号が入力されると、プリイグニッション発生の記憶を消去する。プリイグニッション検出処理は、例えば、始動時を含めて180degCA周期で実行される。
【0053】
当然のことながら、ノック検出手段として、筒内圧センサ、回転変動センサ等の他のセンサを用いて、ノックや、プリイグニッションを検出し、オクタン価推定値の更新を実行しても良いことは言うまでもない。筒内圧センサは、ノックセンサ4と同様に、ノックやプリイグニッションによって変化する筒内圧を検出し、筒内圧を電圧に変換して検出信号として出力する。また、回転変動センサは、ノックセンサ4と同様に、ノックやプリイグニッションによって変動する内燃機関100の回転を検出し、回転数を電圧に変換して検出信号として出力する。ノック検出部212は、筒内圧センサや回転変動センサの検出信号のレベルが、ノック判定閾値を超えた場合には、ノックが発生したことを検出する。また、プリイグニッション検出部213は、筒内圧センサや回転変動センサの検出信号のレベルが、プリイグニッション判定閾値を超えた場合には、プリイグニッションが発生したことを検出する。
【0054】
図6は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置のプリイグニッション発生指標演算及び有効圧縮比限界演算動作を示すフローチャートである。
【0055】
この図6のフローチャートは、プリイグニッションの発生し易さを表すプリイグニッション発生指標及び有効圧縮比の限界を演算する処理などを含む。このプリイグニッション発生指標及び有効圧縮比限界演算処理は、エンジン回転と同期したタイミング(例えば、180degCA毎の割込み処理等)で行われる処理である。
【0056】
ステップ321において、プリイグニッション発生指標演算部216は、吸気温センサ1から検出信号を入力し、吸気温を得て、吸気温とプリイグニッション発生指標の対応関係を記述した吸気温−プリイグニッション発生指標テーブルから、吸気温によるプリイグニッション発生指標P_ATを求める。図7に示すような、吸気温−プリイグニッション発生指標テーブルを予め用意しておき、吸気温によるプリイグニッション発生指標P_ATを求める。例えば、吸気温が50℃であれば、この吸気温テーブルから吸気温によるプリイグニッション発生指標P_AT=10が得られる。
【0057】
次に、ステップ322において、プリイグニッション発生指標演算部216は、水温センサ2から検出信号を入力し、水温を得て、水温とプリイグニッション発生指標の対応関係を記述した水温−プリイグニッション発生指標テーブルから、水温によるプリイグニッション発生指標P_WTを求める。図8に示すような、水温−プリイグニッション発生指標テーブルを予め用意しておき、水温によるプリイグニッション発生指標P_WTを求める。例えば、水温が100℃であれば、この水温テーブルから水温によるプリイグニッション発生指標P_WT=10が得られる。
【0058】
次に、ステップ323において、プリイグニッション発生指標演算部216は、オクタン価推定部214から推定されたオクタン価を得て、オクタン価とプリイグニッション発生指標の対応関係を記述したオクタン価−プリイグニッション発生指標テーブルから、オクタン価によるプリイグニッション発生指標P_OCTを求める。図9に示すような、オクタン価−プリイグニッション発生指標テーブルを予め用意しておき、オクタン価によるプリイグニッション発生指標P_OCTを求める。例えば、オクタン価が95[Ron]であれば、このオクタン価テーブルからオクタン価によるプリイグニッション発生指標P_OCT=0が得られる。
【0059】
次に、ステップ324において、プリイグニッション発生指標演算部216は、上述の各ステップで求めた各パラメータ(各プリイグニッション発生指標)を合算して、合計のプリイグニッション発生指標P_ALLを演算する。プリイグニッション発生指標演算部216は、P_ALL=P_AT+P_WT+P_OCTを演算する。例えば、合計のプリイグニッション発生指標P_ALL=10+10+0=20が得られる。
【0060】
ここで、吸気温と水温から求められるプリイグニッション発生指標は、それぞれプリイグニッションが発生し易い温度域では正の値を、プリイグニッションが発生し難い温度域では負の値を設定する。また、オクタン価から求められるプリイグニッション発生指標についても、所定のオクタン価を基準(例えば、エンジン適合試験をする際に使用した燃料のオクタン価)として、プリイグニッションが発生し易いオクタン価では正の値を、プリイグニッションが発生し難いオクタン価では負の値を設定する。こうすることで、パラメータ毎に適切なプリイグニッション発生指標が設定でき、プリイグニッションがより発生し易い場合にだけ制御が実行できる。1つのパラメータのみが、プリイグニッションが発生し易い状態であったとしても、他のパラメータがプリイグニッションが発生し難い状態であれば、最終的に吸気カム位相可変システム10を制御しなくて済む。
【0061】
次に、ステップ325において、プリイグニッション発生指標補正部218は、プリイグニッションを検出したかどうかを判断する。プリイグニッションを検出した場合には、次のステップ326へ進み、プリイグニッションを検出しない場合には、ステップ327へ移行する。プリイグニッション発生指標補正部218は、プリイグニッション検出部213から情報「プリイグニッション検出」が伝達されたかどうかで、プリイグニッションの検出の有無を判断する。
【0062】
プリイグニッション発生指標補正部218は、プリイグニッション発生指標演算部216で演算されたプリイグニッション発生指標に対して、プリイグニッションを検出した場合のみプリイグニッションが発生し易い側へプリイグニッション発生指標を補正する。また、プリイグニッションを検出しないサイクルにおいても、プリイグニッション記憶部217に過去のプリイグニッションの発生が記憶されていれば、プリイグニッションが発生し易い側へプリイグニッション発生指標を補正する。
【0063】
次に、ステップ326において、プリイグニッション発生指標補正部218は、合計のプリイグニッション発生指標P_ALLに、第1のプリイグニッション発生指標補正値P_HOSEIを代入する。このプリイグニッション発生指標補正値P_HOSEIは、有効圧縮比の限界が下限値となる指標を設定する。例えば、有効圧縮比の限界が下限値となるプリイグニッション発生指標が60であれば、P_HOSEI=60であり、P_ALL=P_HOSEI=60となる。こうすることで、プリイグニッションが発生した際に有効圧縮比の限界を下限値とすることができ、特別な防止手段を用いなくても、次回以降のプリイグニッションの発生を防止することが可能となる。
【0064】
次に、ステップ327において、プリイグニッション発生指標補正部218は、プリイグニッション記憶部217が過去のプリイグニッションの発生を記憶しているかどうかを判断する。過去のプリイグニッションの発生を記憶している場合には、次のステップ328へ進み、プリイグニッションの発生を記憶していない場合には、ステップ329へ移行する。
【0065】
次に、ステップ328において、プリイグニッション発生指標補正部218は、プリイグニッションが発生し易いプリイグニッション発生指標となるよう、予め設定しておいた第2のプリイグニッション発生指標補正値P_OFTを、合計のプリイグニッション発生指標P_ALLに加えて今回の合計のプリイグニッション発生指標P_ALLとする。例えば、プリイグニッション発生指標補正値P_OFT=10とすると、今回の合計のプリイグニッション発生指標P_ALLは、P_ALL=P_ALL+P_OFT=20+10=30となる。
【0066】
以前にプリイグニッションが発生したことを記憶しておき、過去にプリイグニッションが発生したことがあるかどうかに応じて、プリイグニッション発生指標を補正することで、プリイグニッションが発生した走行時でのプリイグニッションが発生する可能性を低減することができる。
【0067】
そして、ステップ329において、有効圧縮比限界演算部219は、合計のプリイグニッション発生指標に基づいて有効圧縮比の限界を演算する。図10に示したように、プリイグニッション発生指標と有効圧縮比の限界の対応関係を記述したプリイグニッション発生指標−有効圧縮比限界マップには、X−Y座標系において、X軸に、プリイグニッション発生指標が最も小さい値(例えば、−30)と、プリイグニッション発生指標が最も大きい値(例えば、60)が設定され、Y軸に、プリイグニッションが発生し易い条件の有効圧縮比の限界の下限値(例えば、圧縮比8)と、プリイグニッションが発生し難い条件の有効圧縮比の限界の上限値(例えば、圧縮比20)が設定されている。有効圧縮比限界演算部219は、合計のプリイグニッション発生指標P_ALLに基づき、プリイグニッション発生指標−有効圧縮比限界マップの有効圧縮比の限界の下限値と上限値の間を線形補間して有効圧縮比の限界を演算する。
【0068】
有効圧縮比限界演算部219は、プリイグニッション発生指標補正部218から伝達された合計のプリイグニッション発生指標P_ALLから、現在の内燃機関100の状態に応じたプリイグニッションが発生しない有効圧縮比の限界を演算する。プリイグニッションは、上述したとおり、燃焼室101内の混合気が圧縮により高温になって自着火する現象であるため、回避策として有効圧縮比を低減させること、また、燃料噴射等により燃焼室101内の温度を低下させることが考えられる。本プリイグニッション推定制御装置は、有効圧縮比を低減させる演算を行い、最終的に吸気カム位相可変システム10を制御して、プリイグニッションを防止する。
【0069】
図10から、例えば、プリイグニッションが発生し易い条件として、プリイグニッション発生指標P_ALLは60、有効圧縮比の限界の下限値は圧縮比8が設定され、プリイグニッションが発生し難い条件として、プリイグニッション発生指標P_ALLは−30、有効圧縮比の限界の上限値は圧縮比20が設定されている。
【0070】
ステップ324の補正前の合計のプリイグニッション発生指標P_ALLがP_ALL=20であるので、有効圧縮比限界演算部219は、合計のプリイグニッション発生指標P_ALL=20に基づき、プリイグニッション発生指標−有効圧縮比限界マップの圧縮比8と圧縮比20の間を線形補間して圧縮比=13.3を演算する。また、ステップ326のプリイグニッションを検出していた場合には、合計のプリイグニッション発生指標P_ALLがP_ALL=60であるので、有効圧縮比限界演算部219は、合計のプリイグニッション発生指標P_ALL=60に基づき、プリイグニッション発生指標−有効圧縮比限界マップの有効圧縮比の限界の下限値から、圧縮比=8を求める。
【0071】
ここで、吸気カム109の位相と吸気バルブ110の開区間との関係を説明する。図11は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の吸気カムの位相と吸気バルブの開区間との関係を示す図である。
【0072】
図11において、下段の点描部分が吸気カム109の位相進角時の吸気バルブ開区間であり、上段の縦線部分が吸気カム109の位相遅角時の吸気バルブ開区間である。TDCは上死点(Top Dead Center)、BDCは下死点(Bottom Dead Center)である。図11に示すように、吸気カム109の位相が進角側の場合、吸気バルブ110の開区間が吸気行程中であり、内燃機関100の燃焼室101内の吸気量が多く有効圧縮比が高くなる。一方、吸気カム109の位相が遅角側の場合、圧縮行程中も吸気バルブ110が開いているため、吹き返しが発生し燃焼室101内の吸気量が減少する。従って、有効圧縮比を低くすることができる。この現象を利用することで、吸気カム109の位相変化を制限して、間接的に有効圧縮比を制限する。本プリイグニッション推定制御装置は、吸気カム109の位相を可変して吸気バルブ110の開閉タイミングを変更する、吸気カム位相可変システム10を、全運転状態にわたって、吸気カム109の位相変化(位相進角量の変化)を制限するように、制御することで、間接的に有効圧縮比を制限し、プリイグニッションを防止することができる。
【0073】
図12は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の吸気カム位相進角量演算動作を示すフローチャートである。
【0074】
ステップ341において、吸気カム位相進角量演算部220は、運転条件から吸気カム109の位相進角量を演算する。すなわち、吸気カム位相進角量演算部220は、クランク角センサ108の検出信号から内燃機関100の回転数Ne、スロットルポジションセンサ7の検出信号からスロットル開度をそれぞれ求める。吸気カム位相進角量演算部220は、図13に示すように、回転数Ne[r/min]とスロットル開度[%]の対応関係を記述した吸気カムの位相進角量マップから、吸気カム109の位相進角量を演算する。
【0075】
次に、ステップ342において、吸気カム位相進角量演算部220は、有効圧縮比の限界から吸気カム109の位相進角量の制限値を求める。図14に示すように、有効圧縮比の限界と吸気カム109の位相進角量の制限値の対応関係を記述した有効圧縮比限界−吸気カム位相進角量制限値マップには、X−Y座標系において、X軸に、有効圧縮比の限界の下限値(例えば、圧縮比8)と、有効圧縮比の限界の上限値(例えば、圧縮比20)が設定され、Y軸に、吸気カム109の位相進角量の制限値の下限値(例えば、0degCA)と、制限値の上限値(例えば、50degCA)が設定されている。例えば、有効圧縮比の限界が圧縮比=13.3で制限された場合、吸気カム位相進角量演算部220は、有効圧縮比限界演算部219によって演算された有効圧縮比の限界(圧縮比=13.3)に基づき、この有効圧縮比限界−吸気カム位相進角量制限値マップの位相進角量の制限値の下限値と上限値の間を線形補間して、吸気カム109の位相進角量の制限値22.1degCAを求める。
【0076】
次に、ステップ343において、吸気カム位相進角量演算部220は、運転条件から求められる吸気カム109の位相進角量と、吸気カム109の位相進角量の制限値とを比較する。運転条件から求められる吸気カム109の位相進角量がその制限値より大きい場合には、次のステップ344へ進み、運転条件から求められる吸気カム位相進角量がその制限値以下の場合には、ステップ345へ移行する。
【0077】
次に、ステップ344において、吸気カム位相進角量演算部220は、吸気カム109の位相進角量を、吸気カム109の位相進角量の制限値に設定する。
【0078】
そして、ステップ345において、吸気カム位相制御部221は、吸気カム位相進角量演算部220によって演算された吸気カム109の位相進角量に基づいて、吸気カム109の位相を可変して吸気バルブ110の開閉タイミングを変更する、吸気カム位相可変システム10へ制御信号を出力して、図15に示すように、吸気カム109の位相変化(位相進角量の変化)を制限するように、吸気カム位相可変システム10を制御する。このように、吸気カム109の位相変化(位相進角量の変化)が制限されることにより、間接的に有効圧縮比が制限され、この実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置は、プリイグニッションの発生を防止することができる。
【0079】
図15は、この発明の実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置の吸気カムの位相進角量の変化を示す図である。
【0080】
図15において、横軸は時間、縦軸は吸気カム109の位相進角量(degCA)をそれぞれ示す。運転条件から求められる吸気カム109の位相進角量の変化(破線)、有効圧縮比の限界による吸気カム109の位相進角量の制限値の変化(細線)、並びに運転条件から求められる吸気カム109の位相進角量と位相進角量の制限値が合された、吸気カム109の位相進角量の変化(太線)が図示されている。
【0081】
この実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置は、プリイグニッションの発生し易さに対応して、吸気カム位相可変システム10を制御することで、必要以上のトルク低下を招くことなく、プリイグニッションの発生を防止することができる。
【0082】
この実施の形態1に係る内燃機関のプリイグニッション推定制御装置は、筒内噴射型の内燃機関に適用したが、プリイグニッション発生指標の推定自体はポート噴射型の内燃機関等の他の内燃機関に対しても有効である。
【符号の説明】
【0083】
1 吸気温センサ、2 水温センサ、3 給油センサ、4 ノックセンサ、5 位相角センサ、6 吸気量センサ、7 スロットルポジションセンサ、8 IGSW、10 吸気カム位相可変システム、100 内燃機関、101 燃焼室、102 シリンダヘッド、103 シリンダブロック、104 ピストン、105 吸気ポート、106 排気ポート、107 クランク軸、108 クランク角センサ、109 吸気カム、110 吸気バルブ、111 排気カム、112 排気バルブ、113 燃料噴射弁、114 点火プラグ、200 電子制御装置、201 マイクロコンピュータ、211 給油判定部、212 ノック検出部、213 プリイグニッション検出部、214 オクタン価推定部、215 オクタン価推定値記憶部、216 プリイグニッション発生指標演算部、217 プリイグニッション記憶部、218 プリイグニッション発生指標補正部、219 有効圧縮比限界演算部、220 吸気カム位相進角量演算部、221 吸気カム位相制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に導入される吸気の温度を検出する吸気温センサと、
内燃機関の冷却水温を検出する水温センサと、
給油口に燃料が流れたことを検出する給油センサと、
ノック及びプリイグニッションによる内燃機関の変化を検出するノック検出手段と、
吸気カムの位相を可変して吸気バルブの開閉タイミングを変更する吸気カム位相可変システムと、
前記吸気温センサ、前記水温センサ、前記給油センサ及び前記ノック検出手段の検出信号に基づいて、燃料のオクタン価を推定するオクタン価推定手段と、
前記吸気温センサ及び前記水温センサの検出信号、並びに前記オクタン価推定手段によって推定されたオクタン価に基づいて、合計のプリイグニッション発生指標を演算するプリイグニッション発生指標演算部と、
プリイグニッションが検出された際には、前記合計のプリイグニッション発生指標を、プリイグニッションがより発生し易い側へ補正するプリイグニッション発生指標補正部と、
前記プリイグニッション発生指標補正部によって求められた合計のプリイグニッション発生指標に基づき、有効圧縮比の限界を演算する有効圧縮比限界演算部と、
運転条件、及び前記有効圧縮比限界演算部によって演算された有効圧縮比の限界に基づいて、前記吸気カムの位相進角量を演算する吸気カム位相進角量演算部と、
前記吸気カム位相進角量演算部から出力された前記吸気カムの位相進角量に基づいて、前記吸気カムの位相進角量の変化を制限するように、前記吸気カム位相可変システムを制御する吸気カム位相制御部と
を備えたことを特徴とする内燃機関のプリイグニッション推定制御装置。
【請求項2】
前記オクタン価推定手段は、
前記給油センサの検出信号に基づき、給油直後かどうかを判定する給油判定部と、
前記ノック検出手段の検出信号に基づき、ノックを検出するノック検出部と、
前記ノック検出手段の検出信号に基づき、プリイグニッションを検出するプリイグニッション検出部と、
前記給油判定部によって給油直後と判定された場合には、燃料のオクタン価推定値を初期値に設定し、
前記ノック検出部によって検出されたノックの発生回数を求め、所定サイクル内のノック発生回数が発生回数閾値以上のときには、前記オクタン価推定値を低い側へ更新し、
前記プリイグニッション検出部によってプリイグニッションが検出されたときには、前記オクタン価推定値を低い側へ更新するとともに、前記ノック発生回数をリセットし、
前記吸気温センサによって検出された吸気温が吸気温閾値以上で、かつ前記水温センサによって検出された水温が水温閾値以上の場合には、ノック検出及びプリイグニッション検出によるオクタン価推定値の更新を行わないオクタン価推定部とを含む
ことを特徴とする請求項1記載の内燃機関のプリイグニッション推定制御装置。
【請求項3】
前記プリイグニッション発生指標演算部は、
前記吸気温センサによって検出された吸気温に基づき、吸気温−プリイグニッション発生指標テーブルから、第1のプリイグニッション発生指標を求め、
前記水温センサによって検出された水温に基づき、水温−プリイグニッション発生指標テーブルから、第2のプリイグニッション発生指標を求め、
前記オクタン価推定手段によって推定されたオクタン価に基づき、オクタン価−プリイグニッション発生指標テーブルから、第3のプリイグニッション発生指標を求め、
前記第1、第2及び第3のプリイグニッション発生指標を合算して、合計のプリイグニッション発生指標を演算する
ことを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関のプリイグニッション推定制御装置。
【請求項4】
前記プリイグニッション発生指標補正部は、
前記プリイグニッション検出部によってプリイグニッションが検出された場合には、前記合計のプリイグニッション発生指標を、有効圧縮比の限界が下限値となる第1のプリイグニッション発生指標補正値に設定し、
前記プリイグニッション検出部によってプリイグニッションが検出されない場合に、前記プリイグニッション検出部によってプリイグニッションが過去に検出されたときには、前記合計のプリイグニッション発生指標に、プリイグニッションが発生し易いプリイグニッション発生指標となるよう、第2のプリイグニッション発生指標補正値を加算する
ことを特徴とする請求項2又は3記載の内燃機関のプリイグニッション推定制御装置。
【請求項5】
前記有効圧縮比限界演算部は、
前記プリイグニッション発生指標補正部によって求められた合計のプリイグニッション発生指標に基づき、プリイグニッション発生指標−有効圧縮比限界マップから、有効圧縮比の限界を演算する
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の内燃機関のプリイグニッション推定制御装置。
【請求項6】
前記吸気カム位相進角量演算部は、
運転条件から吸気カムの位相進角量を演算し、
前記有効圧縮比限界演算部によって演算された有効圧縮比の限界に基づき、有効圧縮比限界−吸気カム位相進角量制限値マップから、前記吸気カムの位相進角量の制限値を求め、
前記運転条件から演算した位相進角量が前記制限値より大きい場合には、前記吸気カムの位相進角量を、前記制限値に設定する
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の内燃機関のプリイグニッション推定制御装置。
【請求項7】
前記吸気温−プリイグニッション発生指標テーブルは、
プリイグニッションが発生し易い温度域では、プリイグニッション発生指標は正の値が設定され、
プリイグニッションが発生し難い温度域では、プリイグニッション発生指標は負の値が設定されている
ことを特徴とする請求項3記載の内燃機関のプリイグニッション推定制御装置。
【請求項8】
前記水温−プリイグニッション発生指標テーブルは、
プリイグニッションが発生し易い温度域では、プリイグニッション発生指標は正の値が設定され、
プリイグニッションが発生し難い温度域では、プリイグニッション発生指標は負の値が設定されている
ことを特徴とする請求項3記載の内燃機関のプリイグニッション推定制御装置。
【請求項9】
前記オクタン価−プリイグニッション発生指標テーブルは、
プリイグニッションが発生し易いオクタン価では、プリイグニッション発生指標は正の値が設定され、
プリイグニッションが発生し難いオクタン価では、プリイグニッション発生指標は負の値が設定されている
ことを特徴とする請求項3記載の内燃機関のプリイグニッション推定制御装置。
【請求項10】
前記プリイグニッション発生指標−有効圧縮比限界マップは、
X−Y座標系において、X軸に、プリイグニッション発生指標が最も小さい値と、プリイグニッション発生指標が最も大きい値が設定され、
Y軸に、プリイグニッションが発生し易い条件の有効圧縮比の限界の下限値と、プリイグニッションが発生し難い条件の有効圧縮比の限界の上限値が設定され、
前記有効圧縮比限界演算部は、
前記プリイグニッション発生指標補正部によって求められた合計のプリイグニッション発生指標に基づき、前記プリイグニッション発生指標−有効圧縮比限界マップの有効圧縮比の限界の下限値と上限値の間を線形補間して、有効圧縮比の限界を演算する
ことを特徴とする請求項5記載の内燃機関のプリイグニッション推定制御装置。
【請求項11】
前記有効圧縮比限界−吸気カム位相進角量制限値マップは、
X−Y座標系において、X軸に、有効圧縮比の限界の下限値と、有効圧縮比の限界の上限値が設定され、
Y軸に、前記吸気カムの位相進角量の制限値の下限値と、位相進角量の制限値の上限値が設定され、
前記吸気カム位相進角量演算部は、
前記有効圧縮比限界演算部によって演算された有効圧縮比の限界に基づき、前記有効圧縮比限界−吸気カム位相進角量制限値マップの位相進角量の制限値の下限値と上限値の間を線形補間して、前記吸気カムの位相進角量の制限値を求める
ことを特徴とする請求項6記載の内燃機関のプリイグニッション推定制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−82728(P2012−82728A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228424(P2010−228424)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】