説明

内燃機関の制御装置および排気浄化装置

【課題】内燃機関の空燃比フィードバック制御による補正を迅速に収束させて、内燃機関の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる内燃機関の制御装置および排気浄化装置を提供する。
【解決手段】エンジンシステム1は、空燃比F/B制御を実行するエンジン100の排気通路16に酸素吸蔵/放出材33bを含有する排気浄化触媒31aを備え、排気浄化触媒31aの下流側の酸素吸蔵/放出材33bを構成するZr組成比率を上流側よりも小さい構成とすることで、エンジン100の同一運転環境下において、下流側の酸素吸蔵速度をより小さくすることができることから、排気浄化触媒31aの下流側の空燃比をより早く検出することができる。よって、エンジン100の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、エンジン100の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置および排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の燃費向上や排気エミッションの改善を目的として、様々な負荷状態における内燃機関の空燃比を目標とする空燃比に近づけるように制御し、燃焼を実行させるためのフィードバック(F/B)制御が広く実行されている。
【0003】
F/B制御は、例えば、排気浄化触媒の上流側と下流側に、内燃機関から排出される排気ガスの空燃比を検出するための空燃比(A/F)センサと酸素濃度(O2)センサとをそれぞれ設ける。そして、これらセンサの検出結果に基づいてエンジンECU(Electronic Control Unit)が目的とする空燃比となるよう燃料噴射量をフィードバック制御する。
【0004】
すなわち、排気浄化触媒上流のA/Fセンサの検出結果から気筒内の混合気の空燃比を把握し、現状の負荷状態で要求される空燃比へと補正するための第1補正係数を演算して、第1補正係数に基づいてインジェクタからの燃料噴射量を調整するメインF/B制御が実行される。更に、メインF/B制御に加えて、排気浄化触媒下流のO2センサの検出結果に基づいて第2補正係数を演算し、メインF/B制御にて得られた第1補正係数を修正するサブF/B制御が実行される。このようなサブF/B制御を実行することにより、排気浄化触媒上流のA/Fセンサの出力特性のバラツキに基づく空燃比の誤差を、充分に撹拌されて酸素濃度が平衡状態となった排気浄化触媒下流の排気ガスからO2センサが検出した空燃比に基づいて修正可能であるために、空燃比制御の精度をより向上させることができる。
【0005】
一方、自動車用内燃機関の排気浄化触媒として、不完全燃焼成分である炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)の酸化と、空気中の窒素と燃え残りの酸素とが反応して生成する窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に促進させる三元触媒が広く適用されている。三元触媒は、近年、空燃比がリーン状態にあるときに排気ガス中の酸素を吸蔵し、空燃比がリッチ状態にあるときに吸蔵した酸素を放出する酸素ストレージ能(Oxygen Storage Capacity:OSC)を有するものが用いられている。
【0006】
OSCを有する三元触媒としては、排気ガス通路に三元触媒として働く上流側触媒と下流側触媒とを配置するとともに、上流側触媒の酸素吸蔵材である複合酸化物の結晶格子点または格子点間にRhを配置することにより、触媒の耐熱性、浄化性能および酸素吸蔵能の向上を図り、さらに装置の小型化ないしはレイアウト性の向上を図る技術が特許文献1に開示されている。
【0007】
また、このようなOSCを有する三元触媒は、一般的に、内燃機関が所定の空燃比(例えば、理論空燃比14.6近傍)のときに適切な酸素吸蔵量となり、安定した浄化性能を発揮するように設計されている。そのため、三元触媒に適切な浄化性能を発揮させるためには、様々な負荷状態における内燃機関の空燃比を所定の空燃比近傍に制御することが望ましい。
【0008】
このような手法としては、触媒の下流に配置される酸素濃度センサの出力に基づき、触媒のリッチ側最大酸素吸蔵量とリーン側最大酸素吸蔵量とを等しくするような理論空燃比を算出することにより、触媒の内部で酸素の吸蔵量と脱離量とを均衡させ得る空燃比(真の理論空燃比)を精度よく見つけだし、真の理論空燃比に基づいてF/B制御を実行する技術が特許文献2に開示されている。
【0009】
そして、触媒の酸素吸蔵量に対して上側しきい値および下側しきい値を設定し、酸素吸蔵量が上側しきい値および下側しきい値の範囲に収まるように内燃機関の空燃比F/B制御を実行することにより、排気浄化触媒の酸素吸蔵能力の低下を抑制すると共に、安定した空燃比制御を実行できる技術が特許文献3に開示されている。
【0010】
更に、空燃比F/B制御を実行する内燃機関の空燃比制御装置において、吸入空気量が所定量よりも小さく、且つ排気浄化触媒の下流側に配置されたO2センサにより検出された空燃比がリッチである場合に、排気浄化触媒雰囲気の空燃比のリーン化を抑制するように排気の目標空燃比を制御することにより、吸入空気量が急激に増大する運転が行われても、排気浄化触媒による排気ガス中のNOxの充分な還元浄化を可能とする技術が特許文献4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−291918号公報
【特許文献2】特開2005−098205号公報
【特許文献3】特開2002−115590号公報
【特許文献4】特開2009−203910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
OSCを有する三元触媒は、三元触媒に酸素が充分に吸蔵されていないとき、すなわち、三元触媒がリッチ雰囲気のときは排気ガス中の酸素を吸蔵する速度が大きいために、三元触媒の下流側に充分な量の酸素が流出しない。そして、三元触媒は、吸蔵した酸素の量が増加し三元触媒がリーン雰囲気になると、酸素の吸蔵速度が低下するために、三元触媒の下流側に流出する酸素の量が大幅に増加する。このように、三元触媒に酸素が充分に吸蔵されるまでの間は下流側に充分な量の酸素が流出しないために、三元触媒の下流側に設けられたO2センサに空燃比の検出遅れが生じる場合がある(図3(a)参照)。このようなO2センサの検出遅れが生じると、内燃機関の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させることができないために、内燃機関の空燃比を目標空燃比に近づける制御に遅れが生じてしまう。
【0013】
しかしながら、特許文献2〜4の技術では、三元触媒の下流側に設けられたO2センサの検出遅れを抑制するための手段を有していない。そのため、内燃機関の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、内燃機関の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることが困難である、といった問題点がある。
また、特許文献1の技術では、上流側触媒と下流側触媒との酸素吸蔵量を変えることで触媒の耐熱性や浄化性能を向上させることを目的としており、下流側に設けられたO2センサの検出遅れを抑制するものではない。そのため、内燃機関の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、内燃機関の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることが困難である、といった問題点がある。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、内燃機関の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、内燃機関の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる内燃機関の制御装置および排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の内燃機関の制御装置は、内燃機関の排気通路に1または複数設けられ、流入する排気ガス中の酸素濃度が過剰であるときに排気ガス中の酸素を吸蔵し、排気ガス中の酸素濃度が不足しているときに吸蔵している酸素を放出する酸素吸蔵/放出材を含有する排気浄化触媒を有する排気浄化装置と、前記排気浄化装置が有する排気浄化触媒の上流側に設けられ、前記排気浄化触媒を通過する前の排気ガスの空燃比を検出する上流側空燃比検出手段と、前記排気浄化装置が有する排気浄化触媒の下流側に設けられ、前記排気浄化触媒を通過した後の排気ガスの空燃比を検出する下流側空燃比検出手段と、前記内燃機関の空燃比を目標空燃比へと補正する空燃比制御手段と、を備え、前記空燃比制御手段が、前記上流側空燃比検出手段の検出結果に基づいて前記内燃機関の燃料噴射量を補正するメインフィードバック制御と、前記下流側空燃比検出手段の検出結果に基づいて前記メインフィードバック制御による燃料噴射量の補正を修正するサブフィードバック制御と、を実行し、更に、前記排気浄化触媒が、前記内燃機関の同一運転環境下において、前記上流側空燃比検出手段に対向する側の酸素吸蔵速度よりも前記下流側空燃比検出手段に対向する側の酸素吸蔵速度が小さいことを特徴とする。
このように、同一運転環境下において、排気浄化触媒の下流側空燃比検出手段に対向する側の酸素吸蔵速度をより小さくすることで、排気ガス中の酸素をより早く下流側空燃比検出手段に到達させることができる。そのため、下流側空燃比検出手段が空燃比の変化を迅速に検出することができることから、検出結果に基づいてメインF/B制御による空燃比の補正を修正するサブF/B制御を迅速に実行することができる。よって、内燃機関の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、内燃機関の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる。
【0016】
特に、本発明の内燃機関の制御装置は、前記排気浄化触媒に含有される前記酸素吸蔵/放出材が、複合酸化物に貴金属を担持したものから構成され、前記排気浄化触媒が、前記上流側空燃比検出手段に対向する側の貴金属の担持量よりも前記下流側空燃比検出手段に対向する側の貴金属の担持量が少量である構成とすることができる。
このように、排気浄化触媒に含有される酸素吸蔵/放出材の貴金属の担持量を、下流側空燃比検出手段に対向する側をより少量とすることで、排気浄化触媒の下流側空燃比検出手段に対向する側の酸素吸蔵速度をより小さくすることができる。そのため、排気ガス中の酸素をより早く下流側空燃比検出手段に到達させることができる。よって、内燃機関の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、内燃機関の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる。
【0017】
また、本発明の内燃機関の制御装置は、前記排気浄化触媒に含有される前記酸素吸蔵/放出材は、CeおよびZrを含有する複合酸化物から構成され、前記排気浄化触媒が、前記上流側空燃比検出手段に対向する側の前記複合酸化物のZr組成比率よりも前記下流側空燃比検出手段に対向する側の前記複合酸化物のZr組成比率が小さい構成とすることができる。
このように、排気浄化触媒に含有される酸素吸蔵/放出材のZr組成比率を、下流側空燃比検出手段に対向する側をより小さくすることで、排気浄化触媒の下流側空燃比検出手段に対向する側の酸素吸蔵速度をより小さくすることができる。そのため、排気ガス中の酸素をより早く下流側空燃比検出手段に到達させることができる。よって、内燃機関の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、内燃機関の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる。
【0018】
そして、本発明の内燃機関の制御装置は、前記下流側空燃比検出手段が、排気ガス中の酸素濃度に応じた電圧値を示し、前記排気浄化触媒が、前記下流側空燃比検出手段に対向する側の酸素吸蔵速度が、前記下流側空燃比検出手段が示す電圧値が所定の上限値および下限値の範囲内になる酸素吸蔵速度とする構成とすることができる。
このように、排気浄化触媒の下流側空燃比検出手段に対向する側の酸素吸蔵速度を、下流側空燃比検出手段が示す電圧値が所定の範囲内になる酸素吸蔵速度とすることで、下流側空燃比検出手段が示す電圧の振幅を小さくして検出応答性を高めることができる。よって、内燃機関の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、内燃機関の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる。
【0019】
更に、本発明の排気浄化装置は、内燃機関の排気通路に1または複数設けられ、流入する排気ガス中の酸素濃度が過剰であるときに排気ガス中の酸素を吸蔵し、排気ガス中の酸素濃度が不足しているときに吸蔵している酸素を放出する酸素吸蔵/放出材を含有する排気浄化触媒を有する排気浄化装置であって、前記排気浄化触媒が、前記内燃機関の同一運転環境下において、前記排気通路の上流側の酸素吸蔵速度よりも前記排気通路の下流側の酸素吸蔵速度が小さい構成とすることができる。
このように、同一運転環境下において、排気浄化触媒の排気通路の下流側の酸素吸蔵速度をより小さくすることで、排気ガス中の酸素をより早く排気通路の下流側に到達させることができる。そのため、排気浄化触媒の下流側の空燃比を迅速に検出することができることから、検出結果に基づいてメインF/B制御による空燃比の補正を修正するサブF/B制御を迅速に実行することができる。よって、内燃機関の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、内燃機関の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の内燃機関の制御装置および排気浄化装置によれば、同一運転環境下において、排気浄化触媒の下流側空燃比検出手段に対向する側の酸素吸蔵速度をより小さくすることで、排気浄化触媒の下流側の空燃比をより早く検出することができる。よって、内燃機関の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、内燃機関の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例のエンジンシステムの一構成例を示した図である。
【図2】エンジンの空燃比とO2センサの出力電圧との相関を示している。
【図3】排気浄化触媒の下流側のO2濃度イメージを示している。
【図4】排気浄化触媒を通過する排気ガス中のO2濃度変化の一例を示している。
【図5】排気浄化触媒の下流側の酸素吸蔵速度とO2センサの出力電圧推移との相関を示している。
【図6】O2センサの出力電圧の振幅とNOxエミッションとの相関を示している。
【図7】排気浄化触媒の下流側の酸素吸蔵速度とO2センサの出力電圧の振幅振幅および平均排気エミッション濃度との相関を示している。
【図8】実施例のエンジンシステムの一構成例を示した図である。
【図9】実施例のエンジンシステムの一構成例を示した図である。
【図10】O2センサの出力電圧の振幅と排気エミッション濃度との相関を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例1について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の内燃機関の制御装置を搭載したエンジンシステム1の一構成例を示した図である。なお、図1にはエンジンの一部の構成のみを示している。
【0024】
図1に示すエンジンシステム1は、動力源であるエンジン100を備えており、エンジン100の運転動作を総括的に制御するエンジンECU(Electronic Control Unit)10を備えている。また、エンジンシステム1は、排気浄化触媒31aの上流側および下流側の排気通路16にA/Fセンサ21およびO2センサ22を備えている。
【0025】
エンジン100は、車両に搭載される多気筒エンジンであって、各気筒は燃焼室11を構成するピストン12を備えている。各燃焼室のピストン12は、エンジン100のシリンダに摺動自在に嵌合されており、それぞれコネクティングロッドを介して出力軸部材であるクランクシャフトに連結されている。
エンジンECU10は、クランク角センサからのピストン12の位置、および吸気カム角センサからのカム軸回転位相の情報に基づき、燃料噴射タイミングを決定しインジェクタ18に信号を送る。インジェクタ18は、エンジンECU10の信号に従って、指示された噴射タイミングで吸気ポート13に燃料を噴射する。インジェクタ18より噴射された燃料は、霧化して吸入空気と混合しつつ、吸気弁の開弁に伴って吸気ポート13から燃焼室11内へ流入する。燃焼室11内へ流入した燃料と吸入空気との混合気は、ピストン12の上昇運動により燃焼室11内で圧縮されて点火プラグ19により点火されることで燃焼し、燃焼室内を膨張させてピストン12を下降させる。この下降運動がコネクティングロッドを介してクランクシャフトの軸回転に変更されることにより、エンジン100は動力を得る。
この場合、エンジン100は、ガソリンを燃料とするガソリンエンジンに限られず、軽油を燃料とするディーゼルエンジン、ガソリンとアルコールとを任意の割合で混合した燃料を使用するフレキシブルフューエルエンジンのいずれでもよい。また、エンジンシステム1は、エンジン100と複数の電動モータとを組み合わせたハイブリッドシステムであってもよい。
【0026】
各気筒の燃焼室11には、それぞれ燃焼室11と連通する吸気ポート13と、吸気ポート13に連結し、吸入空気を吸気ポート13から燃焼室11へと導く吸気通路14とが接続されている。更に、各気筒の燃焼室11には、それぞれ燃焼室11と連通する排気ポート15と、燃焼室で発生した排気ガスをエンジン100の外部へと導く排気通路16が接続されている。
【0027】
吸気通路14には、エアフロメータ、スロットルバルブ17およびスロットルポジションセンサが設置されている。エアフロメータおよびスロットルポジションセンサは、それぞれ吸気通路14を通過する吸入空気量、スロットルバルブ17の開度を検出し、検出結果をエンジンECU10に送信する。エンジンECU10は、送信された検出結果に基づいて吸気ポート13および燃焼室11へ導入される吸入空気量を認識し、スロットルバルブ17の開度を調整することで吸入空気量を調節する。
スロットルバルブ17は、ステップモータを用いたスロットルバイワイヤ方式を適用することが好ましいが、例えばステップモータの代わりにワイヤなどを介してアクセルペダル(図示しない)と連動し、スロットルバルブ17の開度が変更されるような機械式スロットル機構を適用することもできる。
【0028】
吸気ポート13には、インジェクタ18が装着されている。インジェクタ18は、エンジンECU10の指示に基づいて、フューエルポンプから燃料配管を通じて高圧供給された燃料をノズルボディ先端部の円周方向に等間隔で設けられた燃料噴射孔より吸気ポート13内へ噴射する。インジェクタ18のリーク燃料は、リリーフ弁からリリーフ配管を通じて燃料タンクへと戻される。
この場合、インジェクタ18は、吸気ポート13に限られず、燃焼室11の任意の位置に装着して燃焼室11内に燃料を直接噴射する構成としてもよい。また、インジェクタ18は、燃焼室11と吸気ポート13との両方に設けてもよい。
【0029】
排気通路16には、排気浄化触媒31aが設置されている。排気浄化触媒31aは、エンジン100の排気ガス中のHC、CO、NOxを浄化することができる三元触媒である。排気浄化触媒31aは、空燃比リーン時に排気ガス中に含まれる酸素(O2)を吸蔵して酸化雰囲気となり、空燃比リッチ時に排気ガス中に含まれる還元成分(HC,CO)によって酸素が放出されて還元雰囲気となる。このような排気浄化触媒31aの酸素吸蔵/放出の能力は、エンジン100の仕様に基づいて、後述する酸素吸蔵/放出材33a中のCe2O3(CeO2)の絶対量、Zrの組成比率およびPt担持量を調節することで決定する。この場合、排気浄化触媒31aは、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときにNOxを吸蔵し、空燃比がストイキまたはリッチのときに吸蔵しているNOxを還元成分(HC,CO)にて還元浄化するNOx吸蔵還元型であってもよい。また、排気浄化触媒31aは、エンジン100の排気量、使用地域等の違いによって複数個組み合わせて用いてもよい。
排気浄化触媒31aの具体的な構成については後述する。
【0030】
また、排気通路16には、A/Fセンサ21、O2センサ22、排気温センサ(図示しない)が設けられており、燃焼室11から排出される排気ガスの空燃比、温度を検出し、その結果をエンジンECU10へと送信する。また、排気浄化触媒31aには触媒温度センサ(図示しない)が設けられており、排気浄化触媒31aの温度を検出し、その結果をエンジンECU10へと送信する。
【0031】
A/Fセンサ21は、排気浄化触媒31aの上流側に設けられており、排気ガス中の酸素濃度と未燃ガス濃度からエンジン100内の空燃比を検出し、その結果をエンジンECU10へと送信する。それにより、エンジンECU10は、様々な負荷状態におけるエンジン100の空燃比情報を取得することができる。A/Fセンサ21としては、ジルコニア表面に白金をコートし、外側電極の外周に拡散律速層を設けたものを適用するが、これに限られない。A/Fセンサ21は、素子に電圧を印加するとリーン側(A/F>14.6)で排気ガス中の酸素濃度に、リッチ側(A/F<14.6)で未燃ガス濃度に応じた酸素イオン電流が発生する。この場合、A/Fセンサ21の出力電流は空燃比に対して正の相関があることから、これにより広範囲での空燃比の検出が可能になる。
なお、A/Fセンサ21は、本発明の上流側空燃比検出手段の一構成例である。
【0032】
O2センサ22は、排気浄化触媒31aの下流側に設けられており、排気ガス中に残存している酸素濃度を検出し、その結果をエンジンECU10へと送信する。それにより、エンジンECU10は、排気浄化触媒31aを通過した排気ガスの空燃比情報を取得することができる。O2センサ22としては、A/Fセンサ21と類似構造であって、ジルコニア表面に白金をコートしたものを適用するが、これに限られない。図2は、エンジン100の空燃比とO2センサ22の出力電圧との相関を示している。O2センサ22は、理論空燃比(A/F=14.6)付近で0.5[V]の電圧を示し、リッチ側(A/F<14.6)で略0.9[V]、リーン側(A/F>14.6)で略0.1[V]の電圧を示す。
なお、O2センサ22は、本発明の下流側空燃比検出手段の一構成例である。
【0033】
エンジンECU10は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)と、データ等を記憶するRAM(Random Access Memory)やNVRAM(Non Volatile RAM)と、を備えるコンピュータである。エンジンECU10は、クランク角センサ、吸気カム角センサ、アクセル開度センサ、エアフロメータ、スロットルポジションセンサ、排気温センサ、触媒温度センサ、水温センサ等の検出結果を読み込み、スロットルバルブ17の動作、吸気弁、排気弁の動作、インジェクタ18の動作、点火プラグ19の動作など、エンジン100の運転動作を統合的に制御する。
【0034】
また、エンジンECU10は、A/Fセンサ21およびO2センサ22の検出結果に基づいて燃焼室11の燃焼情報を取得し、最適な燃焼状態となるように気筒内への燃料噴射量を調整する空燃比F/B制御を実行する。
まず、エンジンECU10は、排気浄化触媒31a上流側のA/Fセンサ21の検出結果から燃焼室11内の混合気の空燃比を把握し、現状の負荷状態で要求される空燃比へと補正するための第1補正係数を演算して、第1補正係数に基づいて燃料噴射量を調整するメイン空燃比F/B制御を実行する。
次に、エンジンECU10は、メイン空燃比F/B制御に加えて、排気浄化触媒31a下流側のO2センサ22の検出結果に基づいて第2補正係数を演算し、メイン空燃比F/B制御にて得られた第1補正係数を修正するサブ空燃比F/B制御を実行する。このようなサブ空燃比F/B制御を実行することにより、排気浄化触媒31a上流側のA/Fセンサ21の出力特性のバラツキに基づく空燃比の誤差を、充分に撹拌されて酸素濃度が平衡状態となった排気浄化触媒31a下流側の排気ガスからO2センサ22が検出した空燃比に基づいて修正可能であるために、空燃比制御の精度をより向上させることができる。
【0035】
この制御を実行することにより、エンジン100の運転に適した空燃比となるよう燃料噴射量を補正することができることから、広い運転領域において適切な内燃機関の空燃比を維持することができる。
なお、エンジンECU10は、本発明の空燃比制御手段の一構成例である。
【0036】
この場合、本発明の内燃機関の制御装置は、排気浄化触媒31aのO2センサ22に対向する側の酸素吸蔵速度をより小さくすることで、排気浄化触媒31a下流側のO2センサ22の空燃比の検出遅れを抑制することができる。よって、エンジン100の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、エンジン100の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる。
以下に、排気浄化触媒31aの具体的な構成を説明する。排気浄化触媒31aは、触媒担体32aと酸素吸蔵/放出材33aから構成される。
【0037】
触媒担体32aは、アルミナ(Al2O3)系セラミックスからなるハニカム形状であり、その内部を排気ガスが通過可能な周知の構造を採用する。セラミックスとしては、Al2O3に限られず、コーディライト等の触媒担体として周知のセラミックスにAl2O3をコートしたものを適用することができる。この場合、触媒担体32aは、周知のセラミックスに限られず、ステンレス(Fe−Cr−Al)等のメタル担体にAl2O3をコートしたものを適用してもよい。
【0038】
酸素吸蔵/放出材33aは、触媒担体32a壁の表面に層状に形成されており、複合酸化物に貴金属を担持したもので構成される。複合酸化物は、セリウム(Ce)およびジルコニウム(Zr)の複合酸化物であるCe2O3(CeO2)−ZrO2を主成分とする。また、複合酸化物に担持する貴金属としては、白金(Pt)を適用する。
【0039】
Ptは、排気ガス中のHC、CO、NOxを酸化・還元してH2O、CO2、N2とする触媒反応を起こすための活性成分であり、ナノオーダーの粒径にて複合酸化物に担持される。また、Ptは、複合酸化物と共存することで、複合酸化物がO2を取り込むことを助長する。
【0040】
そして、酸素吸蔵/放出材33aは、触媒担体32aのO2センサ22に対向する側の、すなわち、排気浄化触媒31aの下流側の複合酸化物のZr組成比率が、A/Fセンサ21に対向する側(上流側)よりも小さい構成をとる。具体的には、例えば、触媒担体32aの上流側の端部から触媒担体32aの長軸方向の8分目以下の所定の位置までのZr組成比率を20%以上(好ましくは30%以上)とする。そして、前記所定の位置から下流側の端部までのZr組成比率を30%以下(好ましくは10%以下)であって、前記上流側のZr組成比率を超えない比率とする。このような構成とすることで、排気浄化触媒31aの下流側の酸素吸蔵速度を上流側よりも小さくすることができる。なお、Zr組成比率は、複合酸化物中のZrのmol比率であるが、ZrO2のmol比率や重量比率等で表してもよい。
【0041】
ここで、O2センサ22に対向する側の酸素吸蔵/放出材33aのZr組成比率を小さくする理由について説明する。Ceを含有する酸化物(Ce系酸化物)が酸素を吸蔵・放出する際の化学反応式は、以下の通りである。
[酸素吸蔵/放出の化学反応式]
4CeO ⇔ 2Ce+O ・・・(1)
上記(1)式のように、Ce系酸化物の酸素吸蔵メカニズムは、Ce3+ → Ce4+の酸化反応による。この酸化反応は、Ce2O3とO2とが瞬時に反応するために、O2が接触し易いCe系酸化物のより表層部分から内部に向かって進行する。そのため、より多くのO2を迅速にCe系酸化物のより内部まで侵入させることで、Ce系酸化物の単位時間当たりの酸化反応量が増大する、すなわち、酸素吸蔵速度が大きくなる。
ここで、Ce系酸化物とZrO2の固溶体は、Ce原子に対してZr原子が極めて小さいために固溶体の結晶に歪みができる。そのため、結晶の歪みを通じて固溶体のより内部までO2が素早く侵入することができることから、Ce系酸化物の酸素吸蔵速度が大きくなる。そして、固溶体中のZr組成比率がより大きいほど、O2が固溶体の内部に侵入するための通路が増加するために酸素吸蔵速度がより大きくなる。また、固溶体中のZr組成比率がより小さいほど、O2が固溶体の内部に侵入するための通路が減少するために酸素吸蔵速度がより小さくなる。このように、酸素吸蔵/放出材33aのZr組成比率をより小さくすることで、排気浄化触媒31aの酸素吸蔵速度をより小さくすることができる。
【0042】
また、酸素吸蔵反応が進行するにつれて、反応速度の遅い酸素がより排気浄化触媒31aの下流側の、すなわち、よりO2センサ22に対向する側の酸素吸蔵/放出材33aで吸蔵される。そのため、排気浄化触媒31aのO2センサ22に対向する側の酸素吸蔵速度を小さく、すなわち、Zr組成比率を小さくすることで、排気浄化触媒31aがリーン雰囲気になる前に排気浄化触媒31aの下流側へ充分な量のO2を流出させることができる(図3(b)参照)。
【0043】
図4は、排気浄化触媒を通過する排気ガス中のO2濃度変化の一例を示している。例えば、排気浄化触媒の酸素吸蔵速度を1/3とした場合、判定電圧時の酸素量に達する前の段階での排気浄化触媒の下流側に漏れ出る酸素量が多くなる。このように、排気浄化触媒の下流側にO2が徐々に漏れ出ることで、排気浄化触媒の下流側に設けられたO2センサの出力が緩やかに変化する。そのため、O2センサ22は、エンジン100の空燃比の変化によって生じる排気ガス中のO2濃度の変化をより早く検出することが可能である。
【0044】
図5は、排気浄化触媒31aの下流側の酸素吸蔵速度とO2センサ22の出力電圧推移との相関を示している。前述のように、排気浄化触媒31aのO2センサ22に対向する側のZr組成比率を小さくすると、排気浄化触媒31aの下流側の酸素吸蔵速度が小さくなる。それによって、O2センサ22は、より早くエンジン100の空燃比の変化を検出して出力電圧を変化させることができる。そのため、エンジンECU10は、O2センサ22の出力電圧に基づいてエンジン100の空燃比の変化を迅速に判定することができる(図5(a)参照)。
この場合、特に、O2センサ22の空燃比の判定電圧を0.5[V]からより高電圧側(リッチ側)に設定してもよい。それにより、エンジン100の空燃比がリッチ側からリーン側へと変化する際に生じるO2センサ22の空燃比の検出遅れをより効果的に抑制することができる(図5(b)参照)。
【0045】
更に、排気浄化触媒31aは、酸素吸蔵/放出材33aのZr組成比率を変化させる所定の位置および比率を、排気浄化触媒31aの下流側に設けられるO2センサ22の出力電圧の振幅に基づいて決定する。すなわち、O2センサ22の出力電圧の振幅が所定の上限値および下限値の範囲に収まるような任意の位置および比率でZr組成比率を変化させることで、O2センサ22の出力電圧の振幅をより小さくして空燃比の検出応答性を高めることができる。この場合、O2センサ22の出力電圧の振幅の上限値および下限値は、例えば±0.3[V]以下に設定し、より好ましくは±0.1[V]以下に設定することができる。
【0046】
図6は、O2センサ22の出力電圧の振幅とNOxエミッションとの相関を示している。O2センサ22は、エンジン100の空燃比がよりリッチ側に偏ると、過度に還元されてその拡散層がHC等により被毒されることで検出感度が低下する場合がある。このように、O2センサ22の検出感度が低下すると、空燃比検出の応答遅れが生じることから、エンジン100の排気エミッションが悪化してしまう。そのため、O2センサ22は、高い検出感度を維持するために過度に還元されない領域(高感度領域)で使用されることが好ましく、すなわち、O2センサ22の出力電圧の振幅はより小さいほうが好ましい。
【0047】
ここで、排気浄化触媒31aの下流側の複合酸化物のZr組成比率をより小さくすると、すなわち、下流側の酸素吸蔵速度をより小さくすると、O2センサ22の出力電圧の振幅が小さくなる(図7(a)参照)。そのため、O2センサ22を高感度領域で使用することができるために高い検出感度が維持されることから、空燃比検出の応答遅れを抑制することができる。更に、O2センサ22の出力電圧の振幅が小さくなることで、サブF/B制御を迅速に行うことができることから、エンジン100の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させることができる。よって、エンジン100の空燃比をより早く理論空燃比に近づけることができることから、排気エミッション濃度を大幅に低減させることができる(図7(b)参照)。なお、排気浄化触媒31aの下流側の酸素吸蔵速度をゼロにすると、O2センサ22の出力電圧の振幅が発散してしまうために、排気エミッション濃度を効果的に低減することができなくなる点に留意する。
なお、排気浄化触媒31aは、本発明の排気浄化装置の一構成例である。
【0048】
以上のように、本実施例のエンジンシステム1は、排気浄化触媒31aのO2センサ22に対向する側の複合酸化物を構成するZr組成比率を、A/Fセンサ21に対向する側よりも小さい構成とすることで、エンジン100の同一運転環境下において、O2センサ22に対向する側の酸素吸蔵速度をより小さくすることができることから、排気浄化触媒31aの下流側の空燃比をより早く検出することができる。よって、エンジン100の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、エンジン100の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる。
【実施例2】
【0049】
つづいて、本発明の実施例2について説明する。本実施例のエンジンシステム2は、排気浄化触媒31aに代えて、触媒担体32aのO2センサ22に対向する側のPt担持量をA/Fセンサ21に対向する側よりも少量とする構成をとる排気浄化触媒31bを備える点でエンジンシステム1と相違している。
【0050】
本実施例のエンジンシステム2は、実施例1と同様に、エンジンECU10、A/Fセンサ21、O2センサ22を備えている。これにより、A/Fセンサ21およびO2センサ22の検出結果に基づいて燃焼室11の燃焼情報を取得し、エンジン200が最適な燃焼状態となるように気筒内への燃料噴射量を調整する空燃比F/B制御を実行する。
更に、エンジンシステム2は、排気通路16に排気浄化触媒31bを備えることで、下流側に設けられたO2センサ22の空燃比の検出遅れを抑制し、エンジン200の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させることができる。
【0051】
つづいて、排気浄化触媒31bについて詳細に説明する。図8は、実施例のエンジンシステム2の一構成例を示した図である。排気浄化触媒31bは、実施例1の排気浄化触媒31aと同様に、エンジン200の排気ガス中のHC、CO、NOxを浄化することができる三元触媒である。
排気浄化触媒31bは、触媒担体32aと酸素吸蔵/放出材33bから構成される。
【0052】
酸素吸蔵/放出材33bは、触媒担体32a壁の表面に層状に形成されており、セリウム(Ce)およびジルコニウム(Zr)の複合酸化物であるCe2O3(CeO2)−ZrO2を主成分とする複合酸化物に貴金属のPtを担持したもので構成される。
また、酸素吸蔵/放出材33bは、その複合酸化物を構成するZr組成比率が、触媒担体32aの全体にわたって同じ比率をとる構成である。
【0053】
そして、酸素吸蔵/放出材33bは、触媒担体32aのO2センサ22に対向する側の、すなわち、排気浄化触媒31bの下流側の複合酸化物へのPtの担持量が、A/Fセンサ21に対向する側(上流側)の担持量よりも少量である構成をとる。具体的には、例えば、触媒担体32aの上流側の端部から触媒担体32aの長軸方向の8分目以下の所定の位置までのPt担持量と、前記所定の位置から下流側の端部までのPt担持量との比率を10:1とする。このような構成とすることで、排気浄化触媒31bの下流側の酸素吸蔵速度を上流側よりも小さくすることができる。この場合、触媒担体32aの上流側と下流側とのPt担持量の比率は、後述するO2センサ22の出力電圧の振幅に基づいて、例えば、10:1から3:1の間の任意の比率に設定することができる。
【0054】
ここで、O2センサ22に対向する側の酸素吸蔵/放出材33bのPt担持量を少量とする理由について説明する。Ceを含有する酸化物(Ce系酸化物)が酸素を吸蔵・放出する際の反応速度式は、以下の通りである。
[酸素吸蔵の反応速度式]
v=k・[O]・[Ce ・・・(2)
(v:酸素吸蔵速度,k:反応速度係数)
上記(2)式のように、Ce系酸化物の酸素吸蔵の反応速度は、O2の濃度に対してCe2O3の濃度が二乗で関与する。そして、一般的に、Ce系酸化物は、Pt等の貴金属と共存することでCe4+ → Ce3+の還元反応の速度が大きくなる、すなわち、O2の放出速度が大きくなる。そのため、Ce系酸化物の結晶子内にPtをより多量に分散させるほど、Ce系酸化物が吸蔵したO2を放出する際の速度が大きくなるために、Ce系酸化物中のCe2O3の濃度が高まる。このように、Ce系酸化物中のCe2O3の濃度が高まると、(2)式より、Ce系酸化物の酸素吸蔵速度がより大きくなる。また、NOx吸蔵還元型においても、NOx吸蔵/放出材に貴金属を担持することで、排気ガス中のNOxが貴金属を滑り落ちてその近傍のNOx吸蔵/放出材に吸蔵するスピルオーバー効果によってNOxの吸蔵・放出速度が大幅に向上する。そのため、複合酸化物へのPt担持量を少量とすることで、酸素吸蔵/放出材33bの酸素吸蔵速度を小さくすることができる。
また、酸素吸蔵反応が進行するにつれて、反応速度の遅い酸素がより排気浄化触媒31bの下流側の、すなわち、よりO2センサ22に対向する側の酸素吸蔵/放出材33bで吸蔵される。そのため、排気浄化触媒31bのO2センサ22に対向する側の酸素吸蔵速度を小さく、すなわち、Pt担持量を少量にすることで、排気浄化触媒31bがリーン雰囲気になる前に排気浄化触媒31bの下流側へ充分な量のO2を流出させることができる(図3(b)参照)。
このように、排気浄化触媒31bのO2センサ22に対向する側のPt担持量を少量とすることで、排気浄化触媒31bの下流側へ充分な量のO2を流出させることができることから、O2センサ22の検出応答性を向上させることができる。よって、O2センサ22の空燃比の検出遅れを抑制することができる。
【0055】
更に、排気浄化触媒31bは、酸素吸蔵/放出材33bのPt担持量を変化させる所定の位置および比率を、排気浄化触媒31bの下流側に設けられるO2センサ22の出力電圧の振幅に基づいて決定する。すなわち、O2センサ22の出力電圧の振幅が所定の上限値および下限値の範囲に収まるような任意の位置および比率でPt担持量を変化させることで、O2センサ22の出力電圧の振幅をより小さくして空燃比の検出応答性を高めることができる。この場合、O2センサ22の出力電圧の振幅の上限値および下限値は、実施例1と同様に、例えば±0.3[V]以下に設定し、より好ましくは±0.1[V]以下に設定することができる。
【0056】
前述のように、排気浄化触媒31bの下流側の酸素吸蔵速度を小さくすると、すなわち、複合酸化物へのPt担持量をより少量とすると、O2センサ22の出力電圧の振幅が小さくなる(図7(a)参照)。そのため、O2センサ22を高感度領域で使用することができるために高い検出感度が維持されることから、空燃比検出の応答遅れを抑制することができる。更に、O2センサ22の出力電圧の振幅が小さくなることで、サブF/B制御を迅速に行うことができることから、エンジン200の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させることができる。よって、エンジン200の空燃比をより早く理論空燃比に近づけることができることから、排気エミッション濃度を大幅に低減させることができる(図7(b)参照)。なお、排気浄化触媒31bの下流側の酸素吸蔵速度をゼロにすると、O2センサ22の出力電圧の振幅が発散してしまうために、排気エミッション濃度を効果的に低減することができなくなる点に留意する。
なお、排気浄化触媒31bは、本発明の排気浄化装置の一構成例である。
【0057】
以上のように、本実施例のエンジンシステム2は、排気浄化触媒31bのO2センサ22に対向する側の複合酸化物へのPt担持量を、A/Fセンサ21に対向する側よりも少量とすることで、エンジン200の同一運転環境下において、O2センサ22に対向する側の酸素吸蔵速度をより小さくすることができることから、排気浄化触媒31bの下流側の空燃比をより早く検出することができる。よって、エンジン200の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、エンジン200の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる。
【実施例3】
【0058】
つづいて、本発明の実施例3について説明する。本実施例のエンジンシステム3は、排気浄化触媒31aおよび排気浄化触媒31bに代えて、A/Fセンサ21に対向する側に酸素吸蔵速度がより大きい排気浄化触媒31cと、O2センサ22に対向する側に酸素吸蔵速度がより小さい排気浄化触媒31dと、を備える点でエンジンシステム1および2と相違している。
【0059】
本実施例のエンジンシステム3は、実施例1および2と同様に、エンジンECU10、A/Fセンサ21、O2センサ22を備えている。これにより、A/Fセンサ21およびO2センサ22の検出結果に基づいて燃焼室11の燃焼情報を取得し、エンジン300が最適な燃焼状態となるように気筒内への燃料噴射量を調整する空燃比F/B制御を実行する。
更に、エンジンシステム3は、排気通路16に排気浄化触媒31cおよび排気浄化触媒31dを備えることで、下流側に設けられたO2センサ22の空燃比の検出遅れを抑制し、エンジン300の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させることができる。
【0060】
つづいて、排気浄化触媒31cおよび排気浄化触媒31dについて詳細に説明する。図9は、実施例のエンジンシステム3の一構成例を示した図である。排気浄化触媒31cおよび排気浄化触媒31dは、実施例1,2の排気浄化触媒31aおよび排気浄化触媒31bと同様に、エンジン300の排気ガス中のHC、CO、NOxを浄化することができる三元触媒である。
排気浄化触媒31cは、触媒担体32bと酸素吸蔵/放出材33cとから構成される。また、排気浄化触媒31dは、触媒担体32cと酸素吸蔵/放出材33dとから構成される。そして、排気浄化触媒31cは、排気通路16の両センサ間のよりA/Fセンサ21側(上流側)に設けられて、排気浄化触媒31dは、排気通路16の両センサ間のよりO2センサ22側(下流側)に設けられる。
【0061】
排気通路16のより上流側に設けられる排気浄化触媒31cは、実施例1の排気浄化触媒31aの上流側の端部から触媒担体32aの長軸方向の8分目以下の所定の位置までの部分と同じ構成をとる。また、より下流側に設けられる排気浄化触媒31dは、実施例1の排気浄化触媒31aの前記所定の位置から下流側の端部までの部分と同じ構成をとる。すなわち、触媒担体32bと触媒担体32cとは、排気ガスの流通方向への触媒容量・容積の比が、例えば8:2(4:1)となっている。更に、酸素吸蔵/放出材33cの複合酸化物を構成するZr組成比率が20%以上(好ましくは30%以上)となっており、酸素吸蔵/放出材33dのZr組成比率が30%以下(好ましくは10以下)であって、前記酸素吸蔵/放出材33cのZr組成比率を超えない比率となっている。このような構成とすることで、より下流側に設けられる排気浄化触媒31dの酸素吸蔵速度を、より上流側に設けられる排気浄化触媒31cの酸素吸蔵速度よりも小さくすることができる。
【0062】
そして、排気浄化触媒31cおよび排気浄化触媒31dは、触媒担体32bおよび触媒担体32cの触媒容量・容積、並びにそれぞれの複合酸化物を構成するZr組成比率を、排気浄化触媒31dの下流側に設けられるO2センサ22の出力電圧の振幅に基づいて決定する。すなわち、排気浄化触媒31cおよび排気浄化触媒31dの酸素吸蔵速度を、O2センサ22の出力電圧の振幅が所定の上限値および下限値の範囲に収まるような酸素吸蔵速度とする。これによって、O2センサ22の出力電圧の振幅をより小さくして空燃比の検出応答性を高めることができる。この場合、O2センサ22の出力電圧の振幅の上限値および下限値は、実施例1および2と同様に、例えば±0.3[V]以下に設定し、より好ましくは±0.1[V]以下に設定することができる。
【0063】
図10は、O2センサ22の出力電圧の振幅と排気エミッション濃度との相関を示している。図10中、(a)は、より上流側に排気浄化触媒31cを配置し、より下流側に複合酸化物および貴金属を有さないダミー触媒(触媒担体32c)を配置したものである。また、(b)は、本実施例と同様に、より上流側に排気浄化触媒31cを配置し、より下流側に排気浄化触媒31dを配置したものである。そして、(c)は、より上流側に排気浄化触媒31cを配置し、より下流側に排気浄化触媒31cと酸素吸蔵速度が等しい排気浄化触媒を配置したものである。
より下流側に酸素吸蔵速度がゼロのダミー触媒を配置した(a)、および酸素吸蔵速度が等しい排気浄化触媒を配置した(c)は、O2センサ22の出力電圧の振幅がより大きく、判定電圧付近に収束できていない。そのため、サブF/B制御を迅速に行うことができないために、エンジン300の空燃比をより早く理論空燃比に近づけることができず、その結果、排気エミッション濃度を効果的に低減することができない。
一方、より下流側に酸素吸蔵速度の小さい排気浄化触媒31dを配置した(b)は、O2センサ22の出力電圧の振幅がより小さく、判定電圧付近に収束している。そのため、サブF/B制御を迅速に行うことができるために、エンジン300の空燃比がより早く理論空燃比に近づき、その結果、排気エミッション濃度を効果的に低減することができる。
【0064】
この場合、排気浄化触媒31cおよび排気浄化触媒31dは、実施例2と同様に、それぞれの複合酸化物のZr組成比率を同じ比率にして、かつ、それぞれのPt担持量を変えることによって排気浄化触媒31dの酸素吸蔵速度をより小さくする構成としてもよい。
なお、排気浄化触媒31cおよび排気浄化触媒31dは、本発明の排気浄化装置の一構成例である。
【0065】
以上のように、本実施例のエンジンシステム3は、A/Fセンサ21に対向する側に排気浄化触媒31cと、O2センサ22に対向する側に排気浄化触媒31dと、を設置し、排気浄化触媒31dの複合酸化物を構成するZr組成比率を、排気浄化触媒31cよりも小さい構成とすることで、エンジン300の同一運転環境下において、より下流側に設けられる排気浄化触媒31dの酸素吸蔵速度を、より上流側に設けられる排気浄化触媒31cの酸素吸蔵速度よりも小さくすることができることから、排気浄化触媒31dの下流側の空燃比をより早く検出することができる。よって、エンジン300の空燃比F/B制御による補正を迅速に収束させて、エンジン300の空燃比をより早く目標空燃比に近づけることができる。
【0066】
上記実施例は本発明を実施するための一例にすぎない。よって本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0067】
例えば、排気浄化触媒31の上流側から下流側にかけて連続的に酸素吸蔵速度を小さくしてもよい。また、排気浄化触媒31の酸素吸蔵/放出材33は、触媒担体32の壁面に他の複数の化合物(例えば、ゼオライトなど)と組み合わせて層状に形成されてもよい。
【0068】
そして、複合酸化物を構成する成分としては、CeおよびZrに限られず、カリウム(K),ナトリウム(Na),セシウム(Cs)等のアルカリ金属、バリウム(Ba),カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属、ランタン(La),イットリウム(Y),ネオジム(Nd),プラセオジム(Pr)等の希土類から選ばれた少なくとも一つを用いたり、これら複数を組み合わせたりしてもよい。更に、複合酸化物としてLn2O2SO4等の希土類オキシ硫酸塩を用いてもよい。
【0069】
また、複合酸化物に担持する貴金属としては、Ptに限られず、パラジウム(Pd),ロジウム(Rh),イリジウム(Ir),ルテニウム(Ru),オスミウム(Os)等の白金族や、金(Au),銀(Ag),レニウム(Re)等に代表される排気浄化触媒に用いられる周知の金属から選ばれた少なくとも一つを用いたり、これら複数を組み合わせたりしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1〜3 エンジンシステム
10 エンジンECU(空燃比制御手段)
11 燃焼室
12 ピストン
18 インジェクタ
21 A/Fセンサ(上流側空燃比検出手段)
22 O2センサ(下流側空燃比検出手段)
31 排気浄化触媒(排気浄化装置)
32 触媒担体
33 酸素吸蔵/放出材
100,200,300 エンジン



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に1または複数設けられ、流入する排気ガス中の酸素濃度が過剰であるときに排気ガス中の酸素を吸蔵し、排気ガス中の酸素濃度が不足しているときに吸蔵している酸素を放出する酸素吸蔵/放出材を含有する排気浄化触媒を有する排気浄化装置と、
前記排気浄化装置が有する排気浄化触媒の上流側に設けられ、前記排気浄化触媒を通過する前の排気ガスの空燃比を検出する上流側空燃比検出手段と、
前記排気浄化装置が有する排気浄化触媒の下流側に設けられ、前記排気浄化触媒を通過した後の排気ガスの空燃比を検出する下流側空燃比検出手段と、
前記内燃機関の空燃比を目標空燃比へと補正する空燃比制御手段と、を備え、
前記空燃比制御手段は、前記上流側空燃比検出手段の検出結果に基づいて前記内燃機関の燃料噴射量を補正するメインフィードバック制御と、前記下流側空燃比検出手段の検出結果に基づいて前記メインフィードバック制御による燃料噴射量の補正を修正するサブフィードバック制御と、を実行し、
更に、前記排気浄化触媒は、前記内燃機関の同一運転環境下において、前記上流側空燃比検出手段に対向する側の酸素吸蔵速度よりも前記下流側空燃比検出手段に対向する側の酸素吸蔵速度が小さいことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記排気浄化触媒に含有される前記酸素吸蔵/放出材は、複合酸化物に貴金属を担持したものから構成され、
前記排気浄化触媒は、前記上流側空燃比検出手段に対向する側の貴金属の担持量よりも前記下流側空燃比検出手段に対向する側の貴金属の担持量が少量であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記排気浄化触媒に含有される前記酸素吸蔵/放出材は、CeおよびZrを含有する複合酸化物から構成され、
前記排気浄化触媒は、前記上流側空燃比検出手段に対向する側の前記複合酸化物のZr組成比率よりも前記下流側空燃比検出手段に対向する側の前記複合酸化物のZr組成比率が小さいことを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記下流側空燃比検出手段は、排気ガス中の酸素濃度に応じた電圧値を示し、
前記排気浄化触媒は、前記下流側空燃比検出手段に対向する側の酸素吸蔵速度が、前記下流側空燃比検出手段が示す電圧値が所定の上限値および下限値の範囲内になる酸素吸蔵速度とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
内燃機関の排気通路に1または複数設けられ、流入する排気ガス中の酸素濃度が過剰であるときに排気ガス中の酸素を吸蔵し、排気ガス中の酸素濃度が不足しているときに吸蔵している酸素を放出する酸素吸蔵/放出材を含有する排気浄化触媒を有する排気浄化装置であって、
前記排気浄化触媒は、前記内燃機関の同一運転環境下において、前記排気通路の上流側の酸素吸蔵速度よりも前記排気通路の下流側の酸素吸蔵速度が小さいことを特徴とする排気浄化装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−111922(P2011−111922A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266812(P2009−266812)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】