説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、内燃機関の制御装置に関し、アイドル回転数制御と空燃比フィードバック制御における目標への追従速度の差に起因して、アイドリング時に内燃機関にストールや過回転が生ずるのを好適に防止することを目的とする。
【解決手段】アイドリング時の実エンジン回転数NEと目標エンジン回転数NEtagとの偏差(NE−NEtag)が所定値DNEH以上である場合において、目標エンジン回転数NEtagが実エンジン回転数NEよりも低く、かつ実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりもリーンである第1の条件、または、目標エンジン回転数NEtagが実エンジン回転数NEよりも高く、かつ実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりもリッチである第2の条件が成立する場合に、空燃比フィードバック制御に比してアイドル回転数制御が優先して実行すべく、空燃比フィードバック制御を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、アイドル回転数制御と空燃比フィードバック制御とを行う内燃機関を制御するうえで好適な内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、アイドル回転数制御と空燃比フィードバック制御とを行う内燃機関の電子制御装置が開示されている。この従来の電子制御装置では、アイドル回転数制御と空燃比フィードバック制御のうち少なくとも何れか一方の制御量を他方の制御量の変化方向に応じて補正するようにしている。
【0003】
上記従来の電子制御装置では、より具体的には、アイドル時のエンジン回転数が目標回転数となるようにISCバルブを介してバイパス空気量を制御し、かつ、アイドル時に酸素センサで検出される空燃比が予め設定された目標空燃比となるように燃料噴射弁から噴射する燃料供給量を制御するようにしたうえで、アイドル時に、目標空燃比と実空燃比との偏差に応じて上記バイパス空気量を補正し、かつ目標回転数と実回転数との偏差に応じて上記燃料供給量を補正するようになっている。上記従来の電子制御装置では、このような制御を行うことによって、両制御系の相互作用により生じるハンチングを防ぎ、アイドル回転数や空燃比を高精度に制御することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−203952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アイドル回転数制御における目標(目標エンジン回転数)に対するエンジン回転数の追従速度と、空燃比フィードバック制御における目標(目標空燃比)に対する空燃比の追従速度とは異なるものである。より具体的には、目標に対する空燃比の追従速度の方が、目標に対するエンジン回転数の追従速度よりも非常に高い。このような追従速度の違いを踏まえた制御を行わないと、アイドリング時に、内燃機関にストールや過回転が生じてしまう可能性がある。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、アイドル回転数制御と空燃比フィードバック制御における目標への追従速度の差に起因して、アイドリング時に内燃機関にストールや過回転が生ずるのを好適に防止し得る内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の実エンジン回転数を取得するエンジン回転数取得手段と、
前記内燃機関の実空燃比を取得する空燃比取得手段と、
アイドリング時に、前記実エンジン回転数が目標エンジン回転数となるように吸入空気量を調整するアイドル回転数制御を行うアイドル回転数制御手段と、
前記実空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射量を調整する空燃比フィードバック制御を行う空燃比フィードバック制御手段と、
前記アイドリング時の前記実エンジン回転数と前記目標エンジン回転数との偏差が所定値以上である場合において、前記目標エンジン回転数が前記実エンジン回転数よりも低く、かつ前記実空燃比が前記目標空燃比よりもリーンである第1の条件、または、前記目標エンジン回転数が前記実エンジン回転数よりも高く、かつ前記実空燃比が前記目標空燃比よりもリッチである第2の条件が成立する場合に、前記空燃比フィードバック制御に比して前記アイドル回転数制御が優先して実行されるように、前記アイドル回転数制御手段および前記空燃比フィードバック制御手段のうちの少なくとも一方を調整する制御調整手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記制御調整手段は、前記第1の条件または前記第2の条件が成立する場合に、前記空燃比フィードバック制御に比して前記アイドル回転数制御が優先して実行されるように、前記空燃比フィードバック制御手段の使用を禁止する手段であることを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記制御調整手段は、前記アイドリング時の前記実エンジン回転数と前記目標エンジン回転数との偏差が前記所定値以上である場合において、前記目標エンジン回転数が前記実エンジン回転数よりも低く、かつ前記実空燃比が前記目標空燃比よりもリッチである条件が成立する場合には、前記空燃比フィードバック制御の使用を許可することを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
前記制御調整手段は、前記アイドリング時の前記実エンジン回転数と前記目標エンジン回転数との偏差が前記所定値以上である場合において、前記目標エンジン回転数が前記実エンジン回転数よりも高く、かつ前記実空燃比が前記目標空燃比よりもリーンである条件が成立する場合には、前記空燃比フィードバック制御の使用を許可することを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第2の発明において、
前記内燃機関の失火を検出する失火検出手段を更に備え、
前記制御調整手段は、前記第1の条件が成立する場合であっても前記失火が検出された場合には、前記空燃比フィードバック制御の使用を許可することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明によれば、上記第1または第2の条件が成立している場合において、目標への追従速度が相対的に高い空燃比フィードバック制御に比してアイドル回転数制御を優先して実行させることにより、アイドリング時に内燃機関にストールや過回転が生ずるのを好適に防止することが可能となる。
【0013】
第2の発明によれば、上記第1または第2の条件が成立している場合において、目標への追従速度が相対的に高い空燃比フィードバック制御に比してアイドル回転数制御を優先して実行すべく空燃比フィードバック制御が禁止されることになる。これにより、アイドリング時に内燃機関にストールや過回転が生ずるのを好適に防止することが可能となる。
【0014】
第3または第4の発明によれば、アイドリング時に内燃機関にストールや過回転が生ずる懸念の低い条件下において、アイドル回転数制御および空燃比フィードバック制御の使用によって、実エンジン回転数および実空燃比をそれぞれの目標値に十分に追従させられるようになる。
【0015】
第5の発明によれば、上記第1の条件が成立する場合であっても失火が検出された場合には、空燃比フィードバック制御の禁止が解除され、その使用が許可される。このため、上記第1の条件が成立する場合であっても失火が検出された場合において、内燃機関の過回転防止よりも実空燃比を目標空燃比に収束させることを優先することで、失火に起因する排気エミッションの悪化防止およびエンジンストールの発生防止を確実に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1における内燃機関のシステム構成を説明するための図である。
【図2】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
[内燃機関のシステム構成]
図1は、本発明の実施の形態1における内燃機関10のシステム構成を説明するための図である。図1に示すシステムは、内燃機関10を備えている。内燃機関10の筒内には、ピストン12が設けられている。筒内におけるピストン12の頂部側には、燃焼室14が形成されている。燃焼室14には、吸気通路16および排気通路18が連通している。
【0018】
吸気通路16の入口近傍には、吸気通路16に吸入される空気の流量に応じた信号を出力するエアフローメータ20が設けられている。エアフローメータ20の下流には、スロットルバルブ22が設けられている。スロットルバルブ22は、アクセル開度と独立してスロットル開度を制御することのできる電子制御式スロットルバルブである。
【0019】
スロットルバルブ22の下流には、内燃機関10の吸気ポートに燃料を噴射するための燃料噴射弁24が配置されている。また、内燃機関10が備えるシリンダヘッドには、燃焼室14の頂部から燃焼室14内に突出するように点火プラグ26が取り付けられている。吸気ポートおよび排気ポートには、それぞれ、燃焼室14と吸気通路16、或いは燃焼室14と排気通路18を導通状態または遮断状態とするための吸気バルブ28および排気バルブ30が設けられている。
【0020】
また、排気通路18には、排気ガスを浄化するための触媒(三元触媒)32が配置されている。更に、触媒32よりも上流側の排気通路18には、その位置で排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ34が取り付けられている。空燃比センサ34は、排気ガスの空燃比に対してほぼリニアな出力を発するセンサである。また、触媒32の下流には、その位置の空燃比がリッチであるかリーンであるかに応じた信号を発生する酸素センサ36が配置されている。
【0021】
本実施形態のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40には、上述したセンサに加え、エンジン回転数を検出するためのクランク角センサ42、および、燃焼室14内の圧力(筒内圧力)を検出するための筒内圧センサ44が接続されている。また、ECU40には、上述した各種のアクチュエータが接続されている。ECU40は、それらのセンサ出力に基づいて、内燃機関10の運転状態を制御することができる。
【0022】
[アイドル回転数制御]
以上のように構成された本実施形態のシステムでは、アイドリング時に、クランク角センサ42を用いて検出されたエンジン回転数(以下、「実エンジン回転数NE」と称する)が所定の目標エンジン回転数NEtagとなるように吸入空気量を調整するアイドル回転数制御(ISC:Idle Speed Control)が行われる。より具体的には、このアイドル回転数制御は、例えば、実エンジン回転数NEが目標エンジン回転数NEtagとなるようにスロットルバルブ22の開度をフィードバック制御することによって実行することができる。また、ECU40には、アイドリング時の実エンジン回転数NEを目標エンジン回転数NEtagとするためのスロットル開度や吸入空気量がISC学習値として記憶されている。尚、アイドル回転数制御は、スロットルバルブ22の開度調整に代え、或いはそれとともに、スロットルバルブ22をバイパスするバイパス通路に設けられたISCバルブの開度調整を利用して吸入空気量を調整することによって行われるものであってもよい。
【0023】
[空燃比フィードバック制御]
また、本実施形態のシステムでは、内燃機関10の運転中に、内燃機関10の実空燃比AFが所定の目標空燃比AFtag(例えば、理論空燃比)となるように燃料噴射量を調整する空燃比フィードバック制御が行われる。この空燃比フィードバック制御において使用する実空燃比AFとしては、上述した筒内圧センサ44を用いて算出された値、或いは、空燃比センサ34およびまたは酸素センサ36を用いて検出された値が用いられる。尚、筒内圧センサ44を用いる場合には、当該筒内圧センサ44により検出された筒内圧力(燃焼圧力)に基づいて所定の関係式に従って燃焼室14内に供給された燃料の燃焼による発熱量を算出したうえで、当該発熱量に基づいて所定の関係式に従って実空燃比AFを算出することができる。
【0024】
[実施の形態1の制御]
(アイドル回転数制御における課題)
上記アイドル回転数制御における目標(目標エンジン回転数NEtag)に対する追従速度と、上記空燃比フィードバック制御における目標(目標空燃比AFtag)に対する追従速度とは異なるものである。より具体的には、目標に対する空燃比の追従速度の方が、目標に対するエンジン回転数の追従速度よりも非常に高い。このような追従速度の差が生ずるのは、以下のような理由による。すなわち、空燃比フィードバック制御は、排気エミッションの低減要求、内燃機関10のドライバビリティに対する要求、および失火抑制要求などから、即効性が求められるものである。一方、アイドル回転数のフィードバック制御については、吸入空気量の応答が遅いので、フィードバックを素早く行おうとするとフィードバックが発散し、エンジン回転数のハンチングを誘引してしまうことが懸念される。従って、アイドル回転数の調整は、空燃比の調整に比べてゆっくり動かす必要がある。
【0025】
上述したような追従速度の違いを踏まえた制御を行わないと、アイドリング時に、内燃機関にストールや過回転が生じてしまう可能性がある。
具体的には、アイドリング時において、実エンジン回転数NEが目標値よりも低く、かつ実空燃比AFが目標値よりもリッチであるケースでは、目標値である理論空燃比となるように空燃比のリーン補正を実施すると、目標への追従速度の緩やかなアイドル回転数制御(による吸入空気量の増量)によって実エンジン回転数NEが高められるよりも先に、目標への追従速度が相対的に高い空燃比フィードバック制御による空燃比のリーン補正によって実エンジン回転数NEが更に低下し、内燃機関10がストールしてしまう可能性がある。尚、このようなケースは、例えば、吸気バルブ28の作動不良のようにスロットルバルブ22の調整以外の要因で吸入空気量が突然減少した場合に生じ易い。
また、アイドリング時において、実エンジン回転数NEが目標値よりも高く、かつ実空燃比AFが目標値よりもリーンであるケースでは、目標値である理論空燃比となるように空燃比のリッチ補正を実施すると、目標への追従速度の緩やかなアイドル回転数制御(による吸入空気量の減量)によって実エンジン回転数NEが下げられるよりも先に、目標への追従速度が相対的に高い空燃比フィードバック制御による空燃比のリッチ補正によって実エンジン回転数NEの上昇(過回転)が生じてしまう可能性がある。尚、このようなケースは、例えば、バッテリー交換直後などにおいてISC学習値がキャンセルされた場合に生じ易い。付け加えると、ISC学習値の初期値は、一般的に、経時的なデポジットの付着によるスロットルバルブ22の開口面積の減少を考慮して大きく設定されており、これにより、ISC学習値のキャンセル直後には、アイドル回転数が高くなる傾向にある。
【0026】
(実施の形態1の制御の概要)
そこで、本実施形態では、アイドル回転数制御と空燃比フィードバック制御における目標への追従速度の差に起因して、アイドリング時に、内燃機関10にストールや過回転が生ずるのを好適に防止するために、次のような制御を行うようにした。すなわち、アイドリング時の実エンジン回転数NEと目標エンジン回転数NEtagとの回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が上側所定値DNEH(例えば、300rpm)以上である場合において、目標エンジン回転数NEtagが実エンジン回転数NEよりも低く、かつ実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりもリーンである第1の条件が成立する場合に、上記回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が下側所定値DNEL(例えば、100rpm)以下となるまで、空燃比フィードバック制御に比してアイドル回転数制御が優先して実行されるようにした。具体的には、この第1の条件が成立する場合には、空燃比フィードバック制御を禁止するようにした。ただし、上記第1の条件が成立する場合であっても、失火が検出された場合には、空燃比フィードバック制御の実施を許可するようにした。
【0027】
また、本実施形態では、上記回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が上側所定値DNEH以上である場合において、目標エンジン回転数NEtagが実エンジン回転数NEよりも高く、かつ実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりもリッチである第2の条件が成立する場合においても、上記回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が下側所定値DNEL以下となるまで、空燃比フィードバック制御に比してアイドル回転数制御が優先して実行されるようにするために、空燃比フィードバック制御を禁止するようにした。
【0028】
更に、本実施形態では、上記回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が上側所定値DNEH以上である場合において、目標エンジン回転数NEtagが実エンジン回転数NEよりも低く、かつ実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりもリッチである第3の条件が成立する場合には、アイドル回転数(フィードバック)制御と空燃比フィードバック制御の双方の使用を許可するようにした。また、同様に、上記回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が上側所定値DNEH以上である場合において、目標エンジン回転数NEtagが実エンジン回転数NEよりも高く、かつ実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりもリーンである第4の条件が成立する場合においても、アイドル回転数(フィードバック)制御と空燃比フィードバック制御の双方の使用を許可するようにした。
【0029】
(実施の形態1における具体的処理)
図2は、上記の機能を実現するために、ECU40が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。尚、本ルーチンは、内燃機関10がアイドリング運転状態にあるときに、所定時間毎に周期的に実行されるものとする。また、上述したアイドリング回転数(フィードバック)制御および空燃比フィードバック制御自体は、それぞれ、別のルーチンを用いて本ルーチンの処理と並行して実行されているものとする。
【0030】
図2に示すルーチンでは、先ず、クランク角センサ42の出力を用いて実エンジン回転数NEが取得される(ステップ100)。次いで、ECU40に記憶されているアイドリング時の目標エンジン回転数NEtagが取得される(ステップ102)。
【0031】
次に、筒内圧センサ44の出力を用いて実空燃比AF(の推定値)が取得される(ステップ104)。次いで、現在の目標空燃比AFtag(例えば、理論空燃比)が取得される(ステップ106)。
【0032】
次に、失火判定フラグXMFが取得される(ステップ108)。失火の有無の判定は、例えば、内燃機関10の回転変動が所定値以上であるか否かの判断、或いは、筒内圧センサ44の出力波形の変化に基づく判断によって行うことができる。失火判定フラグXMFは、このような手法によって失火が検出された際にONとされるフラグである。
【0033】
次に、実エンジン回転数NEと目標エンジン回転数NEtagとの回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が上側所定値DNEH(例えば、300rpm)よりも大きいか否かが判定される(ステップ110)。その結果、本ステップ110の判定が成立する場合には、実エンジン回転数NEが目標エンジン回転数NEtagよりも高いか否かが判定される(ステップ112)。
【0034】
上記ステップ112においてNE>NEtagが成立すると判定された場合には、次いで、実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりも大きいか否かが判定される(ステップ114)。その結果、AF>AFtagが成立すると判定された場合、つまり、実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりもリーンであると判断できる場合(上記第1の条件が成立する場合)には、空燃比フィードバック禁止フラグXAFFBINHがONに設定される(ステップ116)。
【0035】
次に、失火判定フラグXMFがONでないか否かが判定される(ステップ118)。その結果、失火判定フラグXMFがONでない場合、つまり、失火が検出されていない場合には、次いで、上記回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が下側所定値DNEL(例えば、100rpm)よりも小さいか否かが判定される(ステップ120)。その結果、上記回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が未だ下側所定値DNELに到達しない間は、空燃比フィードバック禁止フラグXAFFBINHがONのままとされ、一方、上記回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が下側所定値DNELに到達した場合には、空燃比フィードバック禁止フラグXAFFBINHがOFFとされる(ステップ122)。また、上記ステップ118の判定が不成立である場合、つまり、失火判定フラグXMFがONであるために失火が検出されていると判断できる場合には、ステップ122に進み、空燃比フィードバック禁止フラグXAFFBINHがOFFとされる。
【0036】
一方、上記ステップ114において、AF>AFtagが不成立であると判定された場合、つまり、実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりもリッチであると判断できる場合には、空燃比フィードバック禁止フラグXAFFBINHがONに設定されることはなく、このため、アイドル回転数(フィードバック)制御および空燃比フィードバック制御の双方の使用が許可される。
【0037】
また、上記ステップ112において、NE>NEtagが不成立であると判定された場合には、次いで、実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりも小さいか否かが判定される(ステップ124)。その結果、AF<AFtagが成立すると判定された場合、つまり、実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりもリッチであると判断できる場合(上記第2の条件が成立する場合)には、空燃比フィードバック禁止フラグXAFFBINHがONに設定される(ステップ126)。以後、上記ステップ120および122の処理と同様のステップ128および130の処理が順次実行される。
【0038】
一方、上記ステップ124において、AF<AFtagが不成立であると判定された場合、つまり、実空燃比AFが目標空燃比AFtagよりもリーンであると判断できる場合には、空燃比フィードバック禁止フラグXAFFBINHがONに設定されることはなく、このため、アイドル回転数(フィードバック)制御および空燃比フィードバック制御の双方の使用が許可される。
【0039】
以上説明した図2に示すルーチンによれば、アイドリング時において、上記第1の条件が成立する場合には、上記回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が下側所定値DNEL以下となるまで、空燃比フィードバック禁止フラグXAFFBINHがONに設定される。本フラグXAFFBINHがONとされている間は、空燃比フィードバック制御の使用が禁止される。このように、上記ルーチンによれば、上記第1の条件が成立している場合に、目標への追従速度が相対的に高い空燃比フィードバック制御に比してアイドル回転数制御を優先して実行すべく空燃比フィードバック制御が禁止されることになる。その結果、アイドル回転数制御における実エンジン回転数NEの収束のための吸入空気量の減量よりも先に、空燃比フィードバック制御によって実空燃比AFのリッチ補正が行われるのを防止することができる。これにより、アイドリング時に、内燃機関10の過回転が生ずるのを好適に防止することができる。
【0040】
また、上記ルーチンによれば、アイドリング時において、上記第2の条件が成立する場合においても、上記回転数偏差(NE−NEtag)の絶対値が下側所定値DNEL以下となるまで、空燃比フィードバック禁止フラグXAFFBINHがONに設定される。このように、上記第2の条件が成立している場合に、本フラグのON設定によって、目標への追従速度が相対的に高い空燃比フィードバック制御に比してアイドル回転数制御を優先して実行すべく空燃比フィードバック制御が禁止されることにより、アイドル回転数制御における実エンジン回転数NEの収束のための吸入空気量の増量よりも先に、空燃比フィードバック制御によって実空燃比AFのリーン補正が行われるのを防止することができる。これにより、アイドリング時に、内燃機関10にストールが生ずるのを好適に防止することができる。
【0041】
また、上記ルーチンによれば、上記第3または第4の条件が成立する場合には、アイドル回転数(フィードバック)制御と空燃比フィードバック制御の双方の使用が許可される。これにより、上記第1または第2条件の成立時とは異なり、アイドリング時に内燃機関10にストールや過回転が生ずる懸念の低い条件下において、上記の2つのフィードバック制御の使用によって、実エンジン回転数NEおよび実空燃比AFをそれぞれの目標値NEtag、AFtagに十分に追従させられるようになる。
【0042】
また、上記ルーチンによれば、上記第1の条件が成立する場合であっても失火が検出された場合には、空燃比フィードバック制御の禁止が解除され、その使用が許可される。このような処理によれば、上記第1の条件が成立する場合であっても失火が検出された場合において、内燃機関10の過回転防止よりも実空燃比AFを目標空燃比AFtagに収束させることを優先することで、失火に起因する排気エミッションの悪化防止およびエンジンストールの発生防止を確実に行えるようになる。
【0043】
ところで、上述した実施の形態1においては、アイドリング時に上記第1または第2の条件が成立する場合に空燃比フィードバック制御の使用を禁止することにより、空燃比フィードバック制御に比してアイドル回転数制御が優先して実行されるようにしている。しかしながら、本発明において、空燃比フィードバック制御に比してアイドル回転数制御が優先して実行されるようにするために制御調整手段が行う制御調整の態様は、上記のものに限定されるものではない。すなわち、アイドリング時に上記第1または第2の条件が成立する場合に、例えば、アイドル回転数制御とともに空燃比フィードバック制御の使用を許可しつつ、空燃比フィードバック制御のフィードバックゲインを通常時よりも小さくするなどして、当該空燃比フィードバック制御における目標への追従速度をアイドル回転数制御における目標への追従速度に対して相対的に下げるものであってもよい。或いは、フィードバックの発散が生じない範囲でアイドル回転数制御における目標への追従速度を高めることが可能な場合であれば、アイドリング時に上記第1または第2の条件が成立する場合に、アイドル回転数制御とともに空燃比フィードバック制御の使用を許可しつつ、アイドル回転数制御における目標への追従速度を通常時よりも高めることによって、空燃比フィードバック制御における目標への追従速度をアイドル回転数制御における目標への追従速度に対して相対的に下げるものであってもよい。
【0044】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU40が、上記ステップ100の処理を実行することにより前記第1の発明における「エンジン回転数取得手段」が、上記ステップ104の処理を実行することにより前記第1の発明における「空燃比取得手段」が、上記図2に示すルーチンと並行してアイドル回転数制御を実行することにより前記第1の発明における「アイドル回転数制御手段」が、上記図2に示すルーチンと並行して空燃比フィードバック制御を実行することにより前記第1の発明における「空燃比フィードバック制御手段」が、上記ステップ110〜130の一連の処理を実行することにより前記第1の発明における「制御調整手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU40が上記ステップ108および118の処理を実行することにより前記第5の発明における「失火検出手段」が実現されている。
【符号の説明】
【0045】
10 内燃機関
14 燃焼室
16 吸気通路
18 排気通路
22 スロットルバルブ
24 燃料噴射弁
34 空燃比センサ
36 酸素センサ
40 ECU(Electronic Control Unit)
42 クランク角センサ
44 筒内圧センサ
AF 実空燃比
AFtag 目標空燃比
DNEH 上側所定値
DNEL 下側所定値
NE 実エンジン回転数
NEtag 目標エンジン回転数
XAFFBINH 空燃比フィードバック禁止フラグ
XMF 失火判定フラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の実エンジン回転数を取得するエンジン回転数取得手段と、
前記内燃機関の実空燃比を取得する空燃比取得手段と、
アイドリング時に、前記実エンジン回転数が目標エンジン回転数となるように吸入空気量を調整するアイドル回転数制御を行うアイドル回転数制御手段と、
前記実空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射量を調整する空燃比フィードバック制御を行う空燃比フィードバック制御手段と、
前記アイドリング時の前記実エンジン回転数と前記目標エンジン回転数との偏差が所定値以上である場合において、前記目標エンジン回転数が前記実エンジン回転数よりも低く、かつ前記実空燃比が前記目標空燃比よりもリーンである第1の条件、または、前記目標エンジン回転数が前記実エンジン回転数よりも高く、かつ前記実空燃比が前記目標空燃比よりもリッチである第2の条件が成立する場合に、前記空燃比フィードバック制御に比して前記アイドル回転数制御が優先して実行されるように、前記アイドル回転数制御手段および前記空燃比フィードバック制御手段のうちの少なくとも一方を調整する制御調整手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御調整手段は、前記第1の条件または前記第2の条件が成立する場合に、前記空燃比フィードバック制御に比して前記アイドル回転数制御が優先して実行されるように、前記空燃比フィードバック制御手段の使用を禁止する手段であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御調整手段は、前記アイドリング時の前記実エンジン回転数と前記目標エンジン回転数との偏差が前記所定値以上である場合において、前記目標エンジン回転数が前記実エンジン回転数よりも低く、かつ前記実空燃比が前記目標空燃比よりもリッチである条件が成立する場合には、前記空燃比フィードバック制御の使用を許可することを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記制御調整手段は、前記アイドリング時の前記実エンジン回転数と前記目標エンジン回転数との偏差が前記所定値以上である場合において、前記目標エンジン回転数が前記実エンジン回転数よりも高く、かつ前記実空燃比が前記目標空燃比よりもリーンである条件が成立する場合には、前記空燃比フィードバック制御の使用を許可することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関の失火を検出する失火検出手段を更に備え、
前記制御調整手段は、前記第1の条件が成立する場合であっても前記失火が検出された場合には、前記空燃比フィードバック制御の使用を許可することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77719(P2012−77719A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225761(P2010−225761)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】