内燃機関の制御装置
【課題】 実際の吸入空気流量の変化をより高精度に推定することにより、吸入空気流量制御と点火時期制御の協調制御をより適切に実行し、機関出力トルクの制御精度を向上させることができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 要求トルクに余裕トルクを加算することにより吸気制御目標トルクTRQGAが算出され、吸気制御目標トルクTRQGAに応じて目標弁作動位相VTCCMD及び目標スロットル弁開度THCMDが算出される。弁作動位相VTC及びスロットル弁開度THが、目標弁作動位相VTCCMD及び目標スロットル弁開度THCMDと一致するように制御され、推定弁作動位相HVTC及び推定スロットル弁開度HTHに応じて推定吸気制御トルクHTRQGAが算出され、要求トルクTRQEと推定吸気制御トルクHTRQGAとの比率を用いて点火時期IGLOGの算出が行われる。
【解決手段】 要求トルクに余裕トルクを加算することにより吸気制御目標トルクTRQGAが算出され、吸気制御目標トルクTRQGAに応じて目標弁作動位相VTCCMD及び目標スロットル弁開度THCMDが算出される。弁作動位相VTC及びスロットル弁開度THが、目標弁作動位相VTCCMD及び目標スロットル弁開度THCMDと一致するように制御され、推定弁作動位相HVTC及び推定スロットル弁開度HTHに応じて推定吸気制御トルクHTRQGAが算出され、要求トルクTRQEと推定吸気制御トルクHTRQGAとの比率を用いて点火時期IGLOGの算出が行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に機関の要求トルクに余裕トルクを加算した吸気制御目標トルクに応じて機関の吸入空気量流量を制御するとともに、最適点火時期より遅角側の点火時期を中心として点火時期制御を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、機関の要求トルクに余裕トルクを加算した吸気制御目標トルクに応じて機関の吸入空気量流量を制御するとともに、最適点火時期より遅角側の点火時期を中心として点火時期制御を行うトルク制御装置が示されている。このように点火時期の制御を最適点火時期より遅角側の点火時期(余裕トルク分だけトルクを低下させる点火時期)を中心として実行することにより、機関のアイドル運転時に補機の負荷変動による機関の回転変動を、応答性よく抑制することができる。
【0003】
さらに特許文献1の装置では、最適点火時期から制御中心点火時期まで遅角量の設定に適用する「要求トルク+余裕トルク」(以下「修正要求トルク」という)のなまし処理(スムージング処理)を行うことにより、実際の吸入空気流量の変化の遅れに対応した点火時期制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−138300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の装置では、修正要求トルクのなまし処理に適用するなまし係数を、機関回転数、吸気圧、吸気温度などの機関運転パラメータに応じて設定されるが、実際の吸入空気流量の変化を正確に近似することは困難である。そのため、実際の吸入空気流量に対応した機関出力トルクと、なまし処理された修正要求トルクとがずれて、点火時期の設定が不適切となり、要求トルクに対応した機関出力トルクが得られない可能性がある。
【0006】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、実際の吸入空気流量の変化をより高精度に推定することにより、吸入空気流量制御と点火時期制御の協調制御をより適切に実行し、機関出力トルクの制御精度を向上させることができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の吸入空気流量を制御する吸気制御手段(3,42)と、前記機関の点火時期(IGLOG)を制御する点火時期制御手段とを備える内燃機関の制御装置において、前記機関の要求トルク(TRQE)を算出する要求トルク算出手段と、前記要求トルク(TRQE)に余裕トルク(DTRQIDLS)を加算することにより吸気制御目標トルク(TRQGA)を算出する吸気制御目標トルク算出手段と、前記吸気制御目標トルク(TRQGA)に応じて前記機関の目標吸入空気流量(GACMD)を算出する目標吸入空気流量算出手段と、前記目標吸入空気流量(GACMD)に応じて前記吸気制御手段の目標制御量(THCMD,VTCCMD)を算出する目標制御量算出手段と、前記吸気制御手段の制御量(TH,VTC)が前記目標制御量(THCMD,VTCCMD)と一致するように前記吸気制御手段を駆動する吸気制御実行手段と、前記吸気制御手段の制御量(TH,VTC)を推定する制御量推定手段と、推定された制御量(HTH,HVTC)に応じて前記機関の吸入空気流量の推定値である推定吸入空気流量(HGAIR)を算出する推定吸入空気流量算出手段と、前記推定吸入空気流量(HGAIR)に応じて前記機関の推定出力トルク(HTRQGA)を算出する推定出力トルク算出手段と、前記要求トルク(TRQE)と推定出力トルク(HTRQGA)との比率であるトルク比率(KTRQ)を算出するトルク比率算出手段とを備え、前記点火時期制御手段は、前記トルク比率(KTRQ)に応じて前記点火時期制御を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸気制御手段は、前記機関の吸気管に設けられたスロットル弁(3)と、前記機関の吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動位相可変機構(42)とを備え、前記制御量推定手段は、前記目標吸入空気流量(GACMD)及び前記機関の回転数(NE)に応じて、前記作動位相の目標値である目標作動位相(VTCCMD)を算出する目標作動位相算出手段と、前記目標作動位相(VTCCMD)の変化に対して、制限された変化量(DVTCP,DVTCM)で追従する制限作動位相(VTCLTD)を算出する制限作動位相算出手段とを備え、所定期間前に算出された前記制限作動位相(VTCLTD(k-5))を弁作動位相推定値(HVTCTMP)として算出し、前記推定吸入空気流量算出手段は、前記弁作動位相推定値(HVTCTMP)を用いて前記推定吸入空気流量(HGAIR)を算出することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、前記制御量推定手段は、前記弁作動位相推定値(HVTCTMP)になまし処理を行う第1なまし処理手段をさらに備え、前記推定吸入空気流量算出手段は、前記なまし処理された弁作動位相推定値(HVTC)を用いることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の内燃機関の制御装置において、前記制限作動位相算出手段は、前記目標作動位相(VTCCMD)の変化方向に応じて、前記制限作動位相の前回値(VTCLTD(k-1))に第1制限変化量(DVTCP)を加算すること、または前記制限作動位相の前回値(VTCLTD(k-1)から第2制限変化量(DVTCM)を減算することにより、前記制限作動位相(VTCLTD)を算出し、前記第1及び第2制限変化量(DVTCP,DVTCM)を前記機関の回転数(NE)に応じて設定することを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記制御量推定手段は、前記目標吸入空気流量(GACMD)に応じて目標スロットル弁開度(THCMD)を算出する目標スロットル弁開度算出手段と、前記目標スロットル弁開度(THCMD)のなまし処理を行う第2なまし処理手段とを備え、該なまし処理された目標スロットル弁開度を前記スロットル弁開度の推定値(HTH)として算出し、前記推定吸入空気流量算出手段は、前記スロットル弁開度推定値(HTH)を用いて前記推定吸入空気流量(HGAIR)を算出することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記点火時期制御手段は、前記機関の出力トルクが最大となる最適点火時期(MBT)を、前記機関の運転状態に応じて算出する最適点火時期算出手段と、前記トルク比率(KTRQ)に応じて遅角補正量(DIGRTD)を算出する遅角補正量算出手段とを備え、前記最適点火時期(MBT)を前記遅角補正量(DIGRTD)により補正して、前記点火時期(IGLOG)を算出することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸気制御手段は、前記機関の吸気管に設けられたスロットル弁(3)と、前記機関の吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動位相可変機構(42)とを備え、前記目標吸入空気流量算出手段は、前記機関の回転数(NE)に応じて仮目標吸入空気流量(GATMP)を算出する仮目標吸入空気流量算出手段を有し、前記仮目標吸入空気流量(GATMP)に応じて、前記吸気弁の仮目標作動位相(VTCTMP)を算出する第1ステップと、前記仮目標吸入空気流量(GATMP)に応じて、前記機関の仮吸気ゲージ圧(PBGATMP)を算出する第2ステップと、前記仮吸気ゲージ圧(PBGATMP)及び仮目標作動位相(VTCTMP)に応じて前記点火時期の仮遅角量(DIGRSVM)を算出する第3ステップと、前記仮遅角量(DIGRSVM)に応じて仮トルク低減率(KTDTMP)を算出する第4ステップと、前記仮目標吸入空気流量(GATMP)及び仮トルク低減率(KTDTMP)に応じて前記機関の仮出力トルク(TRQTMP)を算出する第5ステップと、前記仮出力トルク(TRQTMP)が前記吸気制御目標トルク(TRQGA)に近づくように、前記仮目標吸入空気流量(GATMP)を更新する第6ステップとを繰り返し実行し、前記目標吸入空気流量(GACMD)を、前記仮出力トルク(TRQTMP)と吸気制御目標トルク(TRQGA)との差が所定閾値(DTRQTH)以下となった時点の仮目標吸入空気流量(GATMP)に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、機関の要求トルクに余裕トルクを加算することにより吸気制御目標トルクが算出され、吸気制御目標トルクに応じて機関の目標吸入空気流量が算出される。さらに目標吸入空気流量に応じて吸気制御手段の目標制御量が算出され、吸気制御手段の制御量が目標制御量と一致するように吸気制御手段が駆動される。そして、推定された吸気制御手段の制御量に応じて機関の吸入空気流量の推定値である推定吸入空気流量が算出され、推定吸入空気流量に応じて機関の推定出力トルクが算出され、機関の要求トルクと推定出力トルクとの比率であるトルク比率に応じて点火時期制御が行われる。推定された吸気制御手段の制御量に応じて推定吸入空気流量が算出されるので、実際の吸入空気流量の変化を比較的高精度に推定することができる。そして、この推定吸入空気流量に応じて機関の推定出力トルクを算出し、この推定出力トルクと要求トルクとの関係を示すトルク比率に応じて点火時期を制御することにより、機関出力トルク制御における吸入空気量制御と点火時期制御のそれぞれ寄与度合が正確に調整され、機関出力トルクの制御精度を向上させることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、目標吸入空気流量及び機関回転数に応じて、吸気弁作動位相の目標値である目標作動位相が算出されるとともに、目標作動位相の変化に対して、制限された変化量で追従する制限作動位相が算出され、所定期間前に算出された制限作動位相が弁作動位相推定値とされ、弁作動位相推定値を用いて推定吸入空気流量が算出される。制限された変化量で追従する制限作動位相によって、実際の吸気弁作動位相の変化を精度良く推定することができる。そして、所定期間前に算出された制限作動位相を弁作動位相推定値とすることにより、弁作動位相可変機構におけるむだ時間の影響が反映され、正確な弁作動位相推定値を得ることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、弁作動位相推定値になまし処理が行われ、なまし処理された弁作動位相推定値を用いて、推定吸入空気流量が算出算出される。弁作動位相可変機構による吸気弁作動位相の変化速度は比較的遅いので、なまし処理を行った弁作動位相を用いることにより、吸入空気流量をより正確に推定することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、目標作動位相の変化方向に応じて、制限作動位相の前回値に第1制限変化量を加算すること、または制限作動位相の前回値から第2制限変化量を減算することにより、制限作動位相が算出され、第1及び第2制限変化量が機関回転数に応じて設定される。吸気弁作動位相の変更を油圧制御によって行う場合には、吸気弁作動位相の変化速度は、機関回転数に依存するので、第1及び第2制限変化量を機関回転数に応じて設定することにより、正確な推定を行うことができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、目標吸入空気流量に応じて目標スロットル弁開度が算出され、なまし処理された目標スロットル弁開度がスロットル弁開度の推定値とされ、このスロットル弁開度推定値を用いて推定吸入空気流量が算出される。スロットル弁開度制御には、むだ時間がほとんど無いので、目標スロットル弁開度をなまし処理することにより、実際のスロットル弁開度の正確な推定値を得ることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、機関の出力トルクが最大となる最適点火時期が機関運転状態に応じて算出されるとともに、算出されたトルク比率に応じて遅角補正量が算出され、最適点火時期を遅角補正量で補正することにより、点火時期が算出される。すなわち、トルク比率に対応した点火時期の遅角補正が行われ、これによって吸入空気流量制御と協調的に点火時期制御を行うことができるとともに、点火時期の変更による十分なトルク制御性を確保することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、機関回転数に応じて仮目標吸入空気流量が算出され、これを仮目標吸入空気流量の初期値として、仮目標吸入空気流量に応じて、吸気弁の仮目標作動位相を算出する第1ステップと、仮目標吸入空気流量に応じて、仮吸気ゲージ圧を算出する第2ステップと、仮吸気ゲージ圧及び仮目標作動位相に応じて点火時期の仮遅角量を算出する第3ステップと、仮遅角量に応じて仮トルク低減率を算出する第4ステップと、仮目標吸入空気流量及び仮トルク低減率に応じて機関の仮出力トルクを算出する第5ステップと、仮出力トルクが吸気制御目標トルクに近づくように、仮目標吸入空気流量を更新する第6ステップとが繰り返し実行される。そして、目標吸入空気流量が、仮出力トルクと吸気制御目標トルクとの差が所定閾値以下となった時点の仮目標吸入空気流量に設定される。吸入空気流量の変化によって、吸気ゲージ圧及び吸気弁の目標作動位相が変化し、吸気ゲージ圧及び吸気弁の目標作動位相の変化によって、ノッキングの発生を防止するための点火時期の遅角量が変化し、それによって点火時期制御によるトルク低減率が変化する。そのため、目標吸入空気流量の変更が必要となるが、第1〜第6ステップを繰り返し実行することにより、仮出力トルクが吸気制御目標トルクに近づいて行く。したがって、仮出力トルクが吸気制御目標トルクとほぼ一致した時点の仮目標吸入空気流量を目標吸入空気流量とすることにより、過渡状態における吸入空気流量制御と点火時期制御の相互干渉による制御の不安定化を防止し、機関出力トルク制御を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す弁作動特性可変装置の構成を示す図である。
【図3】図2に示す弁作動特性可変装置の動作を説明するための図である。
【図4】目標トルク(TRQE,TRQGA)を算出する処理のフローチャート(第1の実施形態)である。
【図5】図4の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図6】目標吸入空気流量(GACMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図7】目標吸入空気流量(GACMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図8】図6の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図9】点火時期(IGLOG)を算出する処理のフローチャートである。
【図10】目標トルク(TRQE,TRQGA)を算出する処理のフローチャート(第2の実施形態)である。
【図11】推定弁作動位相(HVTC)及び推定スロットル弁開度(HTH)を算出する処理のフローチャートである。
【図12】推定弁作動位相(HVTC)の算出手法を説明するためのタイムチャートである。
【図13】推定スロットル弁開度(HTH)を算出手法を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関とその制御装置の構成を示す図であり、図2は弁作動特性可変装置の構成を示す図である。図1において、例えば4気筒を有する内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、吸気弁及び排気弁と、これらを駆動するカムを備えるとともに、吸気弁を駆動するカムの、クランク軸回転角度を基準とした作動位相を連続的に変更するカム位相可変機構としての弁作動特性可変機構42を有する弁作動特性可変装置40を備えている。弁作動特性可変機構42により吸気弁を駆動するカムの作動位相が変更され、吸気弁の作動位相が変更される。
【0023】
エンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。また、スロットル弁3にはスロットル弁開度(TH)センサ4が連結されており、当該スロットル弁3の開度に応じた電気信号を出力して電子コントロールユニット(以下(ECU)という)5に供給する。スロットル弁3には、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7が接続されており、アクチュエータ7は、ECU5によりその作動が制御される。
【0024】
吸気管2には、エンジン1の吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ13が設けられている。吸入空気流量センサ13の検出信号は、ECU5に供給される。
【0025】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0026】
エンジン1の各気筒の点火プラグ15は、ECU5に接続されており、ECU5は点火プラグ15に点火信号を供給し、点火時期制御を行う。
スロットル弁3の下流には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8及び吸気温TAを検出する吸気温センサ9が取付けられている。またエンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出するエンジン冷却水温センサ10が取り付けられている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0027】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11及び、エンジン1の吸気弁を駆動するカムが固定されたカム軸の回転角度を検出するカム角度位置センサ12が接続されており、クランク軸の回転角度及びカム軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、一定クランク角周期毎(例えば30度周期)に1パルス(以下「CRKパルス」という)と、クランク軸の所定角度位置を特定するパルスを発生する。また、カム角度位置センサ12は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)と、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)でパルス(以下「TDCパルス」という)を発生する。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御及びエンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。なお、カム角度位置センサ12より出力されるTDCパルスと、クランク角度位置センサ11より出力されるCRKパルスとの相対関係からカム軸の実際の作動位相CAINが検出される。
【0028】
エンジン1 の適宜の位置に、高周波振動を検出するノックセンサ14が装着されており、その検出信号がECU5に供給される。またECU5には、エンジン1によって駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ31、当該車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ32、及び大気圧PAを検出する大気圧センサ33が接続されている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0029】
弁作動特性可変装置40は、図2に示すように、吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動特性可変機構42と、吸気弁の作動位相を連続的に変更するために、その開度が連続的に変更可能な電磁弁44とを備えている。吸気弁の作動位相を示すパラメータとして、上記カム軸の作動位相CAINから算出される弁作動位相VTCが用いられる。電磁弁44には、オイルパン46の潤滑油がオイルポンプ45により、加圧されて供給される。なお、弁作動特性可変機構42の具体的な構成は、例えば特開2000−227013号公報に示されている。
【0030】
弁作動特性可変機構42により、吸気弁は、図3に実線L2で示す特性を中心として、カムの作動位相CAINの変化に伴って破線L1で示す最進角位相から、一点鎖線L3で示す最遅角位相までの間の位相で駆動される。本実施形態では、弁作動位相VTCは、最遅角位相を基準とした進角量として定義される。
【0031】
ECU5は各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、CPUで実行される演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路のほか、アクチュエータ7、燃料噴射弁6、電磁弁44に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0032】
ECU5のCPUは、上記センサの検出信号に応じて、点火時期制御、スロットル弁3の開度制御及び吸気弁作動位相制御による吸入空気流量制御、並びにエンジン1に供給する燃料量(燃料噴射弁6の開弁時間)の制御を行う。
【0033】
本実施形態では、アクセルペダル操作量APに応じたドライバ要求トルクTRQDと、エンジンにおける摩擦損失トルクTFとの和に相当するエンジンの基本目標トルクTRQBを算出するとともに、補機負荷の作動状態に応じた補機負荷トルクと、エンジンのアイドル運転状態においてエンジン回転数NEを目標回転数NOBJに維持するため必要とされるフィードバック制御トルクとの和として算出される負荷要求トルクTRQLを算出し、基本目標トルクTRQBと負荷要求トルクTRQLとを合計したエンジン出力トルク(目標トルク)TRQEが得られるように、吸入空気流量制御及び点火時期制御を協調的に行う。
【0034】
図4は、エンジンの目標トルクを算出する処理のフローチャートであり、この処理はECU5のCPUでTDCパルスの発生に同期して実行される。
ステップS11では、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて基本目標トルクTRQBを算出する。基本目標トルクTRQBには、上述したドライバ要求トルクTRQD及び摩擦損失トルクTFが含まれる。
【0035】
ステップS12では、上述した負荷要求トルクTRQLを算出する。ステップS13では、下記式(1)により目標トルクTRQEを算出する。
TRQE=TRQB+TRQL (1)
ステップS14では、吸気ゲージ圧PBGA(=PBA−PA)に応じて図5に示すDTRQIDLSテーブルを検索し、余裕トルクDTRQIDLSを算出する。余裕トルクDTRQIDLSは、点火時期を最適点火時期(エンジン出力トルクが最大となる点火時期)MBTから遅角した値に設定することによるトルク減少量に相当する。
【0036】
ステップS15では、下記式(2)に目標トルクTRQE及び余裕トルクDTRQIDLSを適用し、吸気制御目標トルクTRQGAを算出する。
TRQGA=TRQE+DTRQIDLS (2)
ステップS16では、図6及び図7に示すGACMD算出処理を実行し、吸気制御目標トルクTRQGAを得るために必要な吸入空気流量である目標吸入空気流量GACMDを算出する。
【0037】
ステップS17では、目標吸入空気流量GACMD及びエンジン回転数NEに応じてVTCCMDマップを検索し、目標弁作動位相VTCCMDを算出する。VTCCMDマップは、目標吸入空気流量GACMDに応じて例えば図5(b)に示すように目標弁作動位相VTCCMDが設定されており、図5(b)に示すようなVTCCMDテーブルが複数の所定エンジン回転数について設定されている。したがって、エンジン回転数NEに応じてVTCCMDテーブルが選択され、適宜補間演算を行うことにより、目標弁作動位相VTCCMDが算出される。
【0038】
ステップS18では、目標吸入空気流量GACMD、目標弁作動位相VTCCMD、及びエンジン回転数NEに応じてTHCMDマップを検索し、目標スロットル弁開度THCMDを算出する。THCMDマップは、目標吸入空気流量GACMDに応じて例えば図5(c)に示すように目標スロットル弁開度THCMDが設定されており、図5(c)に示すようなTHCMDテーブルが複数の所定エンジン回転数及び複数の所定弁作動位相について設定されている。したがって、エンジン回転数NE及び目標弁作動位相VTCCMDに応じてをTHCMDテーブルが選択され、適宜補間演算を行うことにより、目標スロットル弁開度THCMDが算出される。
【0039】
ステップS19では、検出されるエンジン回転数NE、スロットル弁開度TH、及び弁作動位相VTCに応じて、吸入空気流量GAIRの推定値である推定吸入空気流量HGAIRを算出する。具体的には、図5(c)に示すTHCMDマップを、検出されるスロットル弁開度TH及び弁作動位相VTCに応じて逆検索することにより、推定吸入空気流量HGAIRを算出する。
【0040】
ステップS20では、実際の吸入空気流量が推定吸入空気流量HGAIRに等しいときに得られるエンジン出力トルクである推定吸気制御トルクHTRQGAを、推定吸入空気流量HGAIRに応じて算出する。具体的には、エンジン回転数NEに応じて換算係数KGATを算出し(図6,ステップS29参照)、推定吸入空気流量HGAIRに換算係数KGATを乗算することにより、推定吸気制御トルクHTRQGAを算出する。
【0041】
ECU5のCPUは、検出される弁作動位相VTC及びスロットル弁開度THが、それぞれ図4の処理で算出された目標弁作動位相VTCCMD及び目標スロットル弁開度THCMDと一致するように、電磁弁44及びアクチュエータ7の駆動制御を行う。
【0042】
図6及び図7は、図4のステップS16で実行されるGACMDを算出処理のフローチャートである。
ステップS21では、エンジン回転数NEに応じて下限吸入空気流量GAIRFCL及び上限吸入空気流量GCYLMAXQを算出する。ステップS22では、仮下側吸入空気流量GATMPLを下限吸入空気流量GAIRFCLに設定するとともに、仮上側吸入空気流量GATMPHを上限吸入空気流量GCYLMAXQに設定する。ステップS23ではインデクスパラメータiを「1」に設定する。
【0043】
ステップS24では、下記式(3)に仮下側吸入空気流量GATMPL及び仮上側吸入空気流量GATMPHを適用し、仮目標吸入空気流量GATMPを算出する。
GATMP=(GATMPL+GATMPH)/2 (3)
【0044】
ステップS25では、仮目標吸入空気流量GATMP及びエンジン回転数NEに応じてVTCCMDマップを検索し、仮目標弁作動位相VTCTMPを算出する(図4,ステップS17参照)。ステップS26では、仮目標吸入空気流量GATMP及びエンジン回転数NEに応じてPBGAマップを検索し、仮吸気ゲージ圧PBGATMPを算出する。PBGAマップは、予め実験により設定され、ECU5の記憶回路に格納されている。
【0045】
ステップS27では、仮目標弁作動位相VTCTMP、エンジン回転数NE、及び仮吸気ゲージ圧PBGATMPに応じてDIGRSVMマップ(図示せず)を検索し、点火時期の仮遅角量DIGRSVMを算出する。仮遅角量DIGRSVMは、点火時期を出力トルクが最大となる最適点火時期MBTに設定したときにノッキングの発生する可能性が高い運転状態に対応して設定される遅角量である。DIGRSVMマップは、予め実験により設定され、ECU5の記憶回路に格納されている。
【0046】
ステップS28では、仮遅角量DIGRSVM及びエンジン回転数NEに応じて仮トルク低減率KTDTMPを算出する。最適点火時期MBTからの遅角量DIGRSVMと、仮トルク低減率KTDTMPとの関係は、図8(a)に示すようになる。図8(a)に示すKTDTMPテーブルが、複数所定エンジン回転数に対応して設定されたトルク低減率マップを、仮遅角量DIGRSVM及びエンジン回転数NEに応じて検索することにより、仮トルク低減率KTDTMPが算出される。
【0047】
ステップS29では、エンジン回転数NEに応じて図8(b)に示すKGATテーブルを検索し、吸入空気流量をエンジン出力トルクに換算するための換算係数KGATを算出する。KGATテーブルは、エンジン回転数NEが増加するほど、換算係数KGATが増加するように設定されている。
【0048】
ステップS30では、下記式(4)に仮目標吸入空気流量GATMP、仮トルク低減率KTDTMP、及び換算係数KGATを適用し、仮出力トルクTRQTMPを算出する。
TRQTMP=GATMP×KTDTMP×KGAT (4)
【0049】
ステップS31では、吸気制御目標トルクTRQGAと、仮出力トルクTRQTMPとの差の絶対値が所定閾値DTRQTH以下であるか否かを判別する。この答が否定(NO)であるときは、インデクスパラメータiが最大値iMAX(例えば10)と等しいか否かを判別する(ステップS32)。最初はこの答は否定(NO)であるので、図7のステップS41に進み、仮出力トルクTRQTMPが吸気制御目標トルクTRQGAより大きいか否かを判別する。
【0050】
ステップS41の答が肯定(YES)であるときは、上側仮吸入空気流量GATMPHを仮目標吸入空気流量GATMPに設定する(ステップS42)。一方、仮出力トルクTRQTMPが吸気制御目標トルクTRQGA以下であるときは、下側仮吸入空気流量GATMPLを仮目標吸入空気流量GATMPに設定する(ステップS43)。ステップS44では、インデクスパラメータiを「1」だけインクリメントし、図6のステップS24に戻る。
【0051】
ステップS24からステップS31及びS32を経由してステップS44に至る処理を繰り返し実行すると、仮出力トルクTRQTMPは吸気制御目標トルクTRQGAに近づいて行く。その結果、ステップS31の答が肯定(YES)となると、ステップS33に進み、目標吸入空気流量GACMDをその時点の仮目標吸入空気流量GATMPに設定する。なお、ステップS33では、目標吸入空気流量GACMDについて、上限吸入空気流量GCYLMAXQ及び下限吸入空気流量GAIRFCLの範囲内に入るようにリミット処理を行うことが望ましい。
【0052】
ステップS31の答が肯定(YES)となる前にインデクスパラメータiが最大値iMAXに達すると、ステップS32からステップS33に進み、目標吸入空気流量GACMDがその時点の仮目標吸入空気流量GATMPに設定される。
【0053】
吸入空気流量が変化すると、吸気ゲージ圧及び吸気弁の作動位相が変化し、吸気ゲージ圧及び吸気弁の作動位相の変化によって、ノッキングの発生を防止するための点火時期の最適点火時期からの遅角量が変化し、それによって点火時期制御おけるトルク低減率が変化する。そのため、目標吸入空気流量の変更が必要となる。図6及び図7の処理によれば、ステップS24〜S32,及びステップS41〜44を繰り返し実行することにより、仮出力トルクTRQTMPが吸気制御目標トルクTRQGAに近づいて行く。したがって、仮出力トルクTRQTMPが吸気制御目標トルクTRQGAとほぼ一致した時点の仮目標吸入空気流量GATMPを目標吸入空気流量GACMDとすることにより、過渡状態における吸入空気流量制御と点火時期制御の相互干渉による制御の不安定化を防止し、エンジン出力トルク制御を安定化することができる。
【0054】
図9は、点火時期IGLOGを算出する処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUでTDCパルスの発生に同期して実行される。なお、点火時期IGLOGは圧縮上死点からの進角量で示される。
【0055】
ステップS61では、エンジン回転数NE、吸気ゲージ圧PBGA、及び弁作動位相VTCに応じて、MBTマップを検索し、最適点火時期MBTを算出する。MBTマップは、エンジン回転数NE及び弁作動位相VTCが一定であれば、吸気ゲージ圧PBGAが増加するほど、最適点火時期MBTが減少する(遅角する)ように設定されている。
【0056】
ステップS62では、下記式(11)により設定点火時期IGSETを算出する。式(11)のIGKNOCKは、弁作動位相VTC、エンジン回転数NE及び吸気ゲージ圧PBGAに応じたノッキング限界点火時期及びノッキングの発生状況に応じて算出されるノッキング補正項であり、IGCRはエンジン冷却水温TW及び吸気温TAなどに応じて設定される環境補正項である。補正項IGKNOCK及びIGCRは、遅角方向で正の値をとる。
IGSET=MBT−IGKNOCK−IGCR (11)
【0057】
ステップS63では、下記式(12)により基本遅角量DIGRBを算出する。
DIGRB=MBT−IGSET (12)
【0058】
ステップS64では、基本遅角量DIGRB及びエンジン回転数NEに応じて図8(a)に示すトルク低減率マップを検索し、基本トルク低減率KIGDNを算出する。基本トルク低減率KIGDNは、点火時期を最適点火時期MBTから基本遅角量DIGRBだけ遅角することによる出力トルクの低減率を示す。ステップS65では、下記式(13)に、図4の処理で算出される目標トルクTRQE及び推定吸気制御トルクHTRQGAを適用し、トルク比率KTRQを算出する。
KTRQ=TRQE/HTRQGA (13)
【0059】
ステップS66では、下記式(14)に基本トルク低減率KIGDN及びトルク比率KTRQを適用し、トルク低減率KIGDNMを算出する。
KIGDNM=KTRQ×KIGDN (14)
【0060】
ステップS67では、トルク低減率KIGDNM及びエンジン回転数NEに応じて図8(a)のトルク低減率マップを逆検索し、遅角量DIGRTDを算出する。ステップS68では、下記式(15)に最適点火時期MBT及び遅角量DIGRTDを適用し、点火時期IGLOGを算出する。
IGLOG=MBT−DIGRTD (15)
【0061】
ECU5は、算出した点火時期IGLOGにおいて点火プラグ15による点火を行う。
【0062】
トルク比率KTRQには、アイドル運転状態においてエンジン回転数NEを目標回転数NOBJに制御するためのフィードバックトルク補正成分、及び補機負荷のオンオフにともなう要求トルク変動成分が反映されているので、式(14)により算出されるトルク低減率KIGDNMを用いることにより、要求トルクの変化に対応した適切な点火時期制御を行うことができる。
【0063】
以上詳述したように本実施形態では、エンジンの要求トルクTRQEに余裕トルクDTRQIDLSを加算することにより吸気制御目標トルクTRQGAが算出され、吸気制御目標トルクTRQGAに応じて目標吸入空気流量GACMDが算出される。さらに目標吸入空気流量GACMDに応じて目標弁作動位相VTCCMD及び目標スロットル弁開度THCMDが算出され、検出される弁作動位相VTC及びスロットル弁開度THが、それぞれ目標弁作動位相VTCCMD及び目標スロットル弁開度THCMDと一致するように電磁弁44及びアクチュエータ7が駆動される。そして、検出されたスロットル弁開度TH及び弁作動位相VTCに応じて推定吸入空気流量HGAIRが算出され、推定吸入空気流量HGAIRに応じて推定吸気制御トルクHTRQGAが算出され、要求トルクTRQEと推定吸気制御トルクHTRQGAとの比率であるトルク比率KTRQを用いて点火時期IGLOGの算出が行われる。検出されたスロットル弁開度TH及び弁作動位相VTCに応じて推定吸入空気流量HGAIRが算出されるので、実際の吸入空気流量の変化を高精度に推定することができる。そして、この推定吸入空気流量HGAIRに応じて推定吸気制御トルクHTRQGAを算出し、この推定吸気制御トルクHTRQGAと要求トルクTRQEとの関係を示すトルク比率KTRQに応じて点火時期を制御することにより、エンジン出力トルク制御における吸入空気量制御と点火時期制御のそれぞれ寄与度合が正確に調整され、エンジン出力トルクの制御精度を向上させることができる。
【0064】
また算出されたトルク比率KTRQに応じて遅角量DIGRTDが算出され、最適点火時期MBTを遅角量DIGRTDで補正することにより、点火時期IGLOGが算出される。すなわち、トルク比率KTRQに対応した点火時期の遅角補正が行われ、これによって吸入空気流量制御と協調的に点火時期制御を行うことができるとともに、点火時期の変更による十分なトルク制御性を確保することができる。
【0065】
本実施形態では、弁作動特性可変機構42及びスロットル弁3が吸気制御手段に相当し、クランク角度位置センサ11、カム角度位置センサ12、及びスロットル弁開度センサ4が制御量検出手段に相当し、ECU5が点火時期制御手段、要求トルク算出手段、吸気制御目標トルク算出手段、目標吸入空気流量算出手段、目標制御量算出手段、吸気制御実行手段、推定吸入空気流量算出手段、推定出力トルク算出手段、トルク比率算出手段、最適点火時期算出手段、遅角補正量算出手段、及び仮目標吸入空気流量算出手段を構成する。具体的には、図9の処理が点火時期制御手段に相当し、図4のステップS11〜S13が要求トルク算出手段に相当し、ステップS15が吸気制御目標トルク算出手段に相当し、ステップS16が目標吸入空気流量算出手段に相当し、ステップS17及びS18が目標制御量算出手段に相当し、ステップS19が推定吸入空気流量算出手段に相当し、ステップS20が推定出力トルク算出手段に相当する。また図9のステップS65がトルク比率算出手段に相当し、ステップS61が最適点火時期算出手段に相当し、ステップS62〜S67が遅角補正量算出手段に相当する。また図6のステップS21,S22,及びS24が仮目標吸入空気流量算出手段に相当する。
【0066】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、検出される弁作動位相VTC及びスロットル弁開度THに応じて、推定吸入空気流量HGAIRを算出したが、本実施形態は、弁作動位相VTC及びスロットル弁開度THの推定値である推定弁作動位相HVTC及び推定スロットル弁開度HTHを算出し、推定弁作動位相HVTC及び推定スロットル弁開度HTHに応じて、推定吸入空気流量HGAIRを算出するようにしたものである。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0067】
図10は本実施形態における目標トルク算出処理のフローチャートである。図10に示す処理は、図4の処理にステップS18aを追加するとともに、ステップS19をステップS19aに変更したものである。
【0068】
ステップS18aでは、図11に示すHVTC/HTH算出処理を実行し、推定弁作動位相HVTC及び推定スロットル弁開度HTHを算出する。ステップS19aでは、エンジン回転数NE、推定スロットル弁開度HTH、及び推定弁作動位相HVTCに応じて、推定吸入空気流量HGAIRを算出する。すなわち、図2のステップS19における演算において、スロットル弁開度TH及び弁作動位相VTCをそれぞれ推定スロットル弁開度HTH及び推定弁作動位相HVTCに置き換えることにより、推定吸入空気流量HGAIRが算出される。
【0069】
図11は、図10のステップS18aで実行されるHVTC/HTH算出処理のフローチャートである。
ステップS81では、目標弁作動位相VTCCMDが制限作動位相の前回値VTCLTD(k-1)より大きいか否かを判別する。制限作動位相VTCLTDは、目標弁作動位相VTCCMDに対して、制限された変化量で追従するパラメータであり、以下に説明するステップS82〜S87で算出される。また「k」は本処理の実行周期(すなわちTDCパルス発生周期)で離散化した離散化時刻である。
【0070】
ステップS81の答が肯定(YES)であるときは、作動位相リミット値VTCLMTを下記式(21)により算出する(ステップS82)。式(21)のDVTCPは、増加方向変化量の上限値である(以下「上限増加量」という)。
VTCLMT=VTCLTD(k-1)+DVTCP (21)
【0071】
ステップS83では、目標弁作動位相VTCCMDが作動位相リミット値VTCLMTより大きいか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、作動位相リミット値VTCLMTを目標弁作動位相VTCCMDに設定する(ステップS86)。その後ステップS87に進む。
【0072】
ステップS83の答が肯定(YES)、すなわちVTCCMD>VTCLMTであるときは、直ちにステップS87に進む。
ステップS81の答が否定(NO)、すなわちVTCCMD≦VTCLTD(k-1)であるときは、作動位相リミット値VTCLMTを下記式(22)により算出する(ステップS84)。式(22)のDVTCMは、減少方向変化量の上限値である(以下「上限減少量」という)。
VTCLMT=VTCLTD(k-1)−DVTCM (22)
【0073】
ステップS85では、目標弁作動位相VTCCMDが作動位相リミット値VTCLMTより小さいか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、前記ステップS86に進む。一方ステップS85の答が肯定(YES)、すなわちVTCCMD<VTCLMTであるときは、直ちにステップS87に進む。
【0074】
ステップS87では、制限作動位相VTCLTD(k)を作動位相リミット値VTCLMTに設定する。ステップS88では、仮推定弁作動位相HVTCTMPを5演算周期前に算出された制限作動位相VTCLTD(k-5)に設定する。次いで仮推定弁作動位相HVTCTMPを下記式(23)に適用し、推定弁作動位相HVTCを算出する(ステップS89)。式(23)のCVTCは、「0」から「1」の間の値に設定されるなまし係数である。
HVTC=HVTC(k-1)
+CVTC×(HVTCTMP(k)−HVTC(k-1)) (23)
【0075】
ステップS90では、下記式(24)に目標スロットル弁開度THCMDを適用し、推定スロットル弁開度HTHを算出する。式(24)のCTHは、「0」から「1」の間の値に設定されるなまし係数である。
HTH=HTH(k-1)
+CTH×(THCMD(k)−HTH(k-1)) (24)
【0076】
図12は、図11の処理におけるHVTC算出処理(ステップS81〜S89)を説明するためのタイムチャートであり、実線、細い破線、及び太い破線がそれぞれ目標弁作動位相VTCCMD、制限作動位相VTCLTD、及び推定弁作動位相HVTCの推移を示す。なお、制限作動位相VTCLTDは、目標弁作動位相VTCCMDと一致している部分は示されていない。
【0077】
制限作動位相VTCLTDは、制限された変化量で目標弁作動位相VTCCMDに追従するように変化するので、目標弁作動位相VTCCMDが急変する期間では、変化速度が制限される。また、仮推定弁作動位相HVTCTMPを5演算周期前に算出された制限作動位相VTCLTDに設定することにより、弁作動特性可変機構42におけるむだ時間(電磁弁44の開度変更から実際に弁作動位相VTCが変化するまでの遅れ時間)の影響が考慮される。さらに、仮推定弁作動位相HVTCTMPをなまし処理することにより、吸気弁作動位相の変化速度が比較的遅いという特性が反映される。その結果、精度の高い推定弁作動位相HVTCを得ることができる。
【0078】
図13は、目標スロットル弁開度THCMDと、推定スロットル弁開度HTHとの関係を示すタイムチャートである。目標スロットル弁開度THCMDがステップ状に変化すると、推定スロットル弁開度HTHは、目標スロットル弁開度THCMDの変化に追従して徐々に変化する。
【0079】
スロットル弁開度制御には、むだ時間がほとんど無いので、目標スロットル弁開度THCMDをなまし処理することにより、正確な推定スロットル弁開度HTHを得ることができる。
【0080】
本実施形態では、推定スロットル弁開度HTH及び推定弁作動位相HVTCに応じて推定吸入空気流量HGAIRが算出される。推定スロットル弁開度HTH及び推定弁作動位相HVTCは、上述したように比較的高い精度で算出することができるので、推定吸入空気流量HGAIRにより実際の吸入空気流量の変化を高精度に推定することができる。したがって、第1の実施形態と同様の効果に、エンジン出力トルク制御における吸入空気量制御と点火時期制御のそれぞれ寄与度合が正確に調整され、エンジン出力トルクの制御精度を向上させることができる。
【0081】
本実施形態では、図10のステップS17が目標弁作動位相算出手段に相当し、図11の処理が制御量推定手段に相当し、図10のステップS19aが推定吸入空気流量算出手段に相当する。また図10のステップS18が目標スロットル弁開度算出手段に相当し、図11のステップS81〜S87が、制限作動位相算出手段に相当し、ステップS89が第1なまし処理手段に相当し、ステップS90が第2なまし処理手段に相当する。
【0082】
なお、第2の実施形態では、仮推定作動位相HVTCTMPをなまし処理することにより推定作動位相HVTCを算出するようにしたが(図11,ステップS89)、仮推定作動位相HVTCTMPをそのまま推定作動位相HVTCとしてもよい。
【0083】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 内燃機関
2 吸気管
3 スロットル弁(吸気制御手段)
4 スロットル弁開度センサ(制御量検出手段)
5 電子制御ユニット(点火時期制御手段、要求トルク算出手段、吸気制御目標トルク算出手段、目標吸入空気流量算出手段、目標制御量算出手段、吸気制御実行手段、推定吸入空気流量算出手段、推定出力トルク算出手段、トルク比率算出手段、最適点火時期算出手段、遅角補正量算出手段、仮目標吸入空気流量算出手段、目標弁作動位相算出手段、制御量推定手段、目標スロットル弁開度算出手段、制限作動位相算出手段、第1なまし処理手段、第2なまし処理手段)
11 クランク角度位置センサ(制御量検出手段)
12 カム角度位置センサ(制御量検出手段)
42 弁作動特性可変機構(吸気制御手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関し、特に機関の要求トルクに余裕トルクを加算した吸気制御目標トルクに応じて機関の吸入空気量流量を制御するとともに、最適点火時期より遅角側の点火時期を中心として点火時期制御を行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、機関の要求トルクに余裕トルクを加算した吸気制御目標トルクに応じて機関の吸入空気量流量を制御するとともに、最適点火時期より遅角側の点火時期を中心として点火時期制御を行うトルク制御装置が示されている。このように点火時期の制御を最適点火時期より遅角側の点火時期(余裕トルク分だけトルクを低下させる点火時期)を中心として実行することにより、機関のアイドル運転時に補機の負荷変動による機関の回転変動を、応答性よく抑制することができる。
【0003】
さらに特許文献1の装置では、最適点火時期から制御中心点火時期まで遅角量の設定に適用する「要求トルク+余裕トルク」(以下「修正要求トルク」という)のなまし処理(スムージング処理)を行うことにより、実際の吸入空気流量の変化の遅れに対応した点火時期制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−138300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の装置では、修正要求トルクのなまし処理に適用するなまし係数を、機関回転数、吸気圧、吸気温度などの機関運転パラメータに応じて設定されるが、実際の吸入空気流量の変化を正確に近似することは困難である。そのため、実際の吸入空気流量に対応した機関出力トルクと、なまし処理された修正要求トルクとがずれて、点火時期の設定が不適切となり、要求トルクに対応した機関出力トルクが得られない可能性がある。
【0006】
本発明はこの点に着目してなされたものであり、実際の吸入空気流量の変化をより高精度に推定することにより、吸入空気流量制御と点火時期制御の協調制御をより適切に実行し、機関出力トルクの制御精度を向上させることができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関の吸入空気流量を制御する吸気制御手段(3,42)と、前記機関の点火時期(IGLOG)を制御する点火時期制御手段とを備える内燃機関の制御装置において、前記機関の要求トルク(TRQE)を算出する要求トルク算出手段と、前記要求トルク(TRQE)に余裕トルク(DTRQIDLS)を加算することにより吸気制御目標トルク(TRQGA)を算出する吸気制御目標トルク算出手段と、前記吸気制御目標トルク(TRQGA)に応じて前記機関の目標吸入空気流量(GACMD)を算出する目標吸入空気流量算出手段と、前記目標吸入空気流量(GACMD)に応じて前記吸気制御手段の目標制御量(THCMD,VTCCMD)を算出する目標制御量算出手段と、前記吸気制御手段の制御量(TH,VTC)が前記目標制御量(THCMD,VTCCMD)と一致するように前記吸気制御手段を駆動する吸気制御実行手段と、前記吸気制御手段の制御量(TH,VTC)を推定する制御量推定手段と、推定された制御量(HTH,HVTC)に応じて前記機関の吸入空気流量の推定値である推定吸入空気流量(HGAIR)を算出する推定吸入空気流量算出手段と、前記推定吸入空気流量(HGAIR)に応じて前記機関の推定出力トルク(HTRQGA)を算出する推定出力トルク算出手段と、前記要求トルク(TRQE)と推定出力トルク(HTRQGA)との比率であるトルク比率(KTRQ)を算出するトルク比率算出手段とを備え、前記点火時期制御手段は、前記トルク比率(KTRQ)に応じて前記点火時期制御を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸気制御手段は、前記機関の吸気管に設けられたスロットル弁(3)と、前記機関の吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動位相可変機構(42)とを備え、前記制御量推定手段は、前記目標吸入空気流量(GACMD)及び前記機関の回転数(NE)に応じて、前記作動位相の目標値である目標作動位相(VTCCMD)を算出する目標作動位相算出手段と、前記目標作動位相(VTCCMD)の変化に対して、制限された変化量(DVTCP,DVTCM)で追従する制限作動位相(VTCLTD)を算出する制限作動位相算出手段とを備え、所定期間前に算出された前記制限作動位相(VTCLTD(k-5))を弁作動位相推定値(HVTCTMP)として算出し、前記推定吸入空気流量算出手段は、前記弁作動位相推定値(HVTCTMP)を用いて前記推定吸入空気流量(HGAIR)を算出することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、前記制御量推定手段は、前記弁作動位相推定値(HVTCTMP)になまし処理を行う第1なまし処理手段をさらに備え、前記推定吸入空気流量算出手段は、前記なまし処理された弁作動位相推定値(HVTC)を用いることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の内燃機関の制御装置において、前記制限作動位相算出手段は、前記目標作動位相(VTCCMD)の変化方向に応じて、前記制限作動位相の前回値(VTCLTD(k-1))に第1制限変化量(DVTCP)を加算すること、または前記制限作動位相の前回値(VTCLTD(k-1)から第2制限変化量(DVTCM)を減算することにより、前記制限作動位相(VTCLTD)を算出し、前記第1及び第2制限変化量(DVTCP,DVTCM)を前記機関の回転数(NE)に応じて設定することを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記制御量推定手段は、前記目標吸入空気流量(GACMD)に応じて目標スロットル弁開度(THCMD)を算出する目標スロットル弁開度算出手段と、前記目標スロットル弁開度(THCMD)のなまし処理を行う第2なまし処理手段とを備え、該なまし処理された目標スロットル弁開度を前記スロットル弁開度の推定値(HTH)として算出し、前記推定吸入空気流量算出手段は、前記スロットル弁開度推定値(HTH)を用いて前記推定吸入空気流量(HGAIR)を算出することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記点火時期制御手段は、前記機関の出力トルクが最大となる最適点火時期(MBT)を、前記機関の運転状態に応じて算出する最適点火時期算出手段と、前記トルク比率(KTRQ)に応じて遅角補正量(DIGRTD)を算出する遅角補正量算出手段とを備え、前記最適点火時期(MBT)を前記遅角補正量(DIGRTD)により補正して、前記点火時期(IGLOG)を算出することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置において、前記吸気制御手段は、前記機関の吸気管に設けられたスロットル弁(3)と、前記機関の吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動位相可変機構(42)とを備え、前記目標吸入空気流量算出手段は、前記機関の回転数(NE)に応じて仮目標吸入空気流量(GATMP)を算出する仮目標吸入空気流量算出手段を有し、前記仮目標吸入空気流量(GATMP)に応じて、前記吸気弁の仮目標作動位相(VTCTMP)を算出する第1ステップと、前記仮目標吸入空気流量(GATMP)に応じて、前記機関の仮吸気ゲージ圧(PBGATMP)を算出する第2ステップと、前記仮吸気ゲージ圧(PBGATMP)及び仮目標作動位相(VTCTMP)に応じて前記点火時期の仮遅角量(DIGRSVM)を算出する第3ステップと、前記仮遅角量(DIGRSVM)に応じて仮トルク低減率(KTDTMP)を算出する第4ステップと、前記仮目標吸入空気流量(GATMP)及び仮トルク低減率(KTDTMP)に応じて前記機関の仮出力トルク(TRQTMP)を算出する第5ステップと、前記仮出力トルク(TRQTMP)が前記吸気制御目標トルク(TRQGA)に近づくように、前記仮目標吸入空気流量(GATMP)を更新する第6ステップとを繰り返し実行し、前記目標吸入空気流量(GACMD)を、前記仮出力トルク(TRQTMP)と吸気制御目標トルク(TRQGA)との差が所定閾値(DTRQTH)以下となった時点の仮目標吸入空気流量(GATMP)に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、機関の要求トルクに余裕トルクを加算することにより吸気制御目標トルクが算出され、吸気制御目標トルクに応じて機関の目標吸入空気流量が算出される。さらに目標吸入空気流量に応じて吸気制御手段の目標制御量が算出され、吸気制御手段の制御量が目標制御量と一致するように吸気制御手段が駆動される。そして、推定された吸気制御手段の制御量に応じて機関の吸入空気流量の推定値である推定吸入空気流量が算出され、推定吸入空気流量に応じて機関の推定出力トルクが算出され、機関の要求トルクと推定出力トルクとの比率であるトルク比率に応じて点火時期制御が行われる。推定された吸気制御手段の制御量に応じて推定吸入空気流量が算出されるので、実際の吸入空気流量の変化を比較的高精度に推定することができる。そして、この推定吸入空気流量に応じて機関の推定出力トルクを算出し、この推定出力トルクと要求トルクとの関係を示すトルク比率に応じて点火時期を制御することにより、機関出力トルク制御における吸入空気量制御と点火時期制御のそれぞれ寄与度合が正確に調整され、機関出力トルクの制御精度を向上させることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、目標吸入空気流量及び機関回転数に応じて、吸気弁作動位相の目標値である目標作動位相が算出されるとともに、目標作動位相の変化に対して、制限された変化量で追従する制限作動位相が算出され、所定期間前に算出された制限作動位相が弁作動位相推定値とされ、弁作動位相推定値を用いて推定吸入空気流量が算出される。制限された変化量で追従する制限作動位相によって、実際の吸気弁作動位相の変化を精度良く推定することができる。そして、所定期間前に算出された制限作動位相を弁作動位相推定値とすることにより、弁作動位相可変機構におけるむだ時間の影響が反映され、正確な弁作動位相推定値を得ることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、弁作動位相推定値になまし処理が行われ、なまし処理された弁作動位相推定値を用いて、推定吸入空気流量が算出算出される。弁作動位相可変機構による吸気弁作動位相の変化速度は比較的遅いので、なまし処理を行った弁作動位相を用いることにより、吸入空気流量をより正確に推定することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、目標作動位相の変化方向に応じて、制限作動位相の前回値に第1制限変化量を加算すること、または制限作動位相の前回値から第2制限変化量を減算することにより、制限作動位相が算出され、第1及び第2制限変化量が機関回転数に応じて設定される。吸気弁作動位相の変更を油圧制御によって行う場合には、吸気弁作動位相の変化速度は、機関回転数に依存するので、第1及び第2制限変化量を機関回転数に応じて設定することにより、正確な推定を行うことができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、目標吸入空気流量に応じて目標スロットル弁開度が算出され、なまし処理された目標スロットル弁開度がスロットル弁開度の推定値とされ、このスロットル弁開度推定値を用いて推定吸入空気流量が算出される。スロットル弁開度制御には、むだ時間がほとんど無いので、目標スロットル弁開度をなまし処理することにより、実際のスロットル弁開度の正確な推定値を得ることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、機関の出力トルクが最大となる最適点火時期が機関運転状態に応じて算出されるとともに、算出されたトルク比率に応じて遅角補正量が算出され、最適点火時期を遅角補正量で補正することにより、点火時期が算出される。すなわち、トルク比率に対応した点火時期の遅角補正が行われ、これによって吸入空気流量制御と協調的に点火時期制御を行うことができるとともに、点火時期の変更による十分なトルク制御性を確保することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、機関回転数に応じて仮目標吸入空気流量が算出され、これを仮目標吸入空気流量の初期値として、仮目標吸入空気流量に応じて、吸気弁の仮目標作動位相を算出する第1ステップと、仮目標吸入空気流量に応じて、仮吸気ゲージ圧を算出する第2ステップと、仮吸気ゲージ圧及び仮目標作動位相に応じて点火時期の仮遅角量を算出する第3ステップと、仮遅角量に応じて仮トルク低減率を算出する第4ステップと、仮目標吸入空気流量及び仮トルク低減率に応じて機関の仮出力トルクを算出する第5ステップと、仮出力トルクが吸気制御目標トルクに近づくように、仮目標吸入空気流量を更新する第6ステップとが繰り返し実行される。そして、目標吸入空気流量が、仮出力トルクと吸気制御目標トルクとの差が所定閾値以下となった時点の仮目標吸入空気流量に設定される。吸入空気流量の変化によって、吸気ゲージ圧及び吸気弁の目標作動位相が変化し、吸気ゲージ圧及び吸気弁の目標作動位相の変化によって、ノッキングの発生を防止するための点火時期の遅角量が変化し、それによって点火時期制御によるトルク低減率が変化する。そのため、目標吸入空気流量の変更が必要となるが、第1〜第6ステップを繰り返し実行することにより、仮出力トルクが吸気制御目標トルクに近づいて行く。したがって、仮出力トルクが吸気制御目標トルクとほぼ一致した時点の仮目標吸入空気流量を目標吸入空気流量とすることにより、過渡状態における吸入空気流量制御と点火時期制御の相互干渉による制御の不安定化を防止し、機関出力トルク制御を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す弁作動特性可変装置の構成を示す図である。
【図3】図2に示す弁作動特性可変装置の動作を説明するための図である。
【図4】目標トルク(TRQE,TRQGA)を算出する処理のフローチャート(第1の実施形態)である。
【図5】図4の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図6】目標吸入空気流量(GACMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図7】目標吸入空気流量(GACMD)を算出する処理のフローチャートである。
【図8】図6の処理で参照されるテーブルを示す図である。
【図9】点火時期(IGLOG)を算出する処理のフローチャートである。
【図10】目標トルク(TRQE,TRQGA)を算出する処理のフローチャート(第2の実施形態)である。
【図11】推定弁作動位相(HVTC)及び推定スロットル弁開度(HTH)を算出する処理のフローチャートである。
【図12】推定弁作動位相(HVTC)の算出手法を説明するためのタイムチャートである。
【図13】推定スロットル弁開度(HTH)を算出手法を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関とその制御装置の構成を示す図であり、図2は弁作動特性可変装置の構成を示す図である。図1において、例えば4気筒を有する内燃機関(以下単に「エンジン」という)1は、吸気弁及び排気弁と、これらを駆動するカムを備えるとともに、吸気弁を駆動するカムの、クランク軸回転角度を基準とした作動位相を連続的に変更するカム位相可変機構としての弁作動特性可変機構42を有する弁作動特性可変装置40を備えている。弁作動特性可変機構42により吸気弁を駆動するカムの作動位相が変更され、吸気弁の作動位相が変更される。
【0023】
エンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。また、スロットル弁3にはスロットル弁開度(TH)センサ4が連結されており、当該スロットル弁3の開度に応じた電気信号を出力して電子コントロールユニット(以下(ECU)という)5に供給する。スロットル弁3には、スロットル弁3を駆動するアクチュエータ7が接続されており、アクチュエータ7は、ECU5によりその作動が制御される。
【0024】
吸気管2には、エンジン1の吸入空気流量GAIRを検出する吸入空気流量センサ13が設けられている。吸入空気流量センサ13の検出信号は、ECU5に供給される。
【0025】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。
【0026】
エンジン1の各気筒の点火プラグ15は、ECU5に接続されており、ECU5は点火プラグ15に点火信号を供給し、点火時期制御を行う。
スロットル弁3の下流には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8及び吸気温TAを検出する吸気温センサ9が取付けられている。またエンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出するエンジン冷却水温センサ10が取り付けられている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0027】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ11及び、エンジン1の吸気弁を駆動するカムが固定されたカム軸の回転角度を検出するカム角度位置センサ12が接続されており、クランク軸の回転角度及びカム軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ11は、一定クランク角周期毎(例えば30度周期)に1パルス(以下「CRKパルス」という)と、クランク軸の所定角度位置を特定するパルスを発生する。また、カム角度位置センサ12は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)と、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)でパルス(以下「TDCパルス」という)を発生する。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御及びエンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。なお、カム角度位置センサ12より出力されるTDCパルスと、クランク角度位置センサ11より出力されるCRKパルスとの相対関係からカム軸の実際の作動位相CAINが検出される。
【0028】
エンジン1 の適宜の位置に、高周波振動を検出するノックセンサ14が装着されており、その検出信号がECU5に供給される。またECU5には、エンジン1によって駆動される車両のアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセルペダル操作量」という)APを検出するアクセルセンサ31、当該車両の走行速度(車速)VPを検出する車速センサ32、及び大気圧PAを検出する大気圧センサ33が接続されている。これらのセンサの検出信号は、ECU5に供給される。
【0029】
弁作動特性可変装置40は、図2に示すように、吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動特性可変機構42と、吸気弁の作動位相を連続的に変更するために、その開度が連続的に変更可能な電磁弁44とを備えている。吸気弁の作動位相を示すパラメータとして、上記カム軸の作動位相CAINから算出される弁作動位相VTCが用いられる。電磁弁44には、オイルパン46の潤滑油がオイルポンプ45により、加圧されて供給される。なお、弁作動特性可変機構42の具体的な構成は、例えば特開2000−227013号公報に示されている。
【0030】
弁作動特性可変機構42により、吸気弁は、図3に実線L2で示す特性を中心として、カムの作動位相CAINの変化に伴って破線L1で示す最進角位相から、一点鎖線L3で示す最遅角位相までの間の位相で駆動される。本実施形態では、弁作動位相VTCは、最遅角位相を基準とした進角量として定義される。
【0031】
ECU5は各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、CPUで実行される演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路のほか、アクチュエータ7、燃料噴射弁6、電磁弁44に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0032】
ECU5のCPUは、上記センサの検出信号に応じて、点火時期制御、スロットル弁3の開度制御及び吸気弁作動位相制御による吸入空気流量制御、並びにエンジン1に供給する燃料量(燃料噴射弁6の開弁時間)の制御を行う。
【0033】
本実施形態では、アクセルペダル操作量APに応じたドライバ要求トルクTRQDと、エンジンにおける摩擦損失トルクTFとの和に相当するエンジンの基本目標トルクTRQBを算出するとともに、補機負荷の作動状態に応じた補機負荷トルクと、エンジンのアイドル運転状態においてエンジン回転数NEを目標回転数NOBJに維持するため必要とされるフィードバック制御トルクとの和として算出される負荷要求トルクTRQLを算出し、基本目標トルクTRQBと負荷要求トルクTRQLとを合計したエンジン出力トルク(目標トルク)TRQEが得られるように、吸入空気流量制御及び点火時期制御を協調的に行う。
【0034】
図4は、エンジンの目標トルクを算出する処理のフローチャートであり、この処理はECU5のCPUでTDCパルスの発生に同期して実行される。
ステップS11では、アクセルペダル操作量AP及びエンジン回転数NEに応じて基本目標トルクTRQBを算出する。基本目標トルクTRQBには、上述したドライバ要求トルクTRQD及び摩擦損失トルクTFが含まれる。
【0035】
ステップS12では、上述した負荷要求トルクTRQLを算出する。ステップS13では、下記式(1)により目標トルクTRQEを算出する。
TRQE=TRQB+TRQL (1)
ステップS14では、吸気ゲージ圧PBGA(=PBA−PA)に応じて図5に示すDTRQIDLSテーブルを検索し、余裕トルクDTRQIDLSを算出する。余裕トルクDTRQIDLSは、点火時期を最適点火時期(エンジン出力トルクが最大となる点火時期)MBTから遅角した値に設定することによるトルク減少量に相当する。
【0036】
ステップS15では、下記式(2)に目標トルクTRQE及び余裕トルクDTRQIDLSを適用し、吸気制御目標トルクTRQGAを算出する。
TRQGA=TRQE+DTRQIDLS (2)
ステップS16では、図6及び図7に示すGACMD算出処理を実行し、吸気制御目標トルクTRQGAを得るために必要な吸入空気流量である目標吸入空気流量GACMDを算出する。
【0037】
ステップS17では、目標吸入空気流量GACMD及びエンジン回転数NEに応じてVTCCMDマップを検索し、目標弁作動位相VTCCMDを算出する。VTCCMDマップは、目標吸入空気流量GACMDに応じて例えば図5(b)に示すように目標弁作動位相VTCCMDが設定されており、図5(b)に示すようなVTCCMDテーブルが複数の所定エンジン回転数について設定されている。したがって、エンジン回転数NEに応じてVTCCMDテーブルが選択され、適宜補間演算を行うことにより、目標弁作動位相VTCCMDが算出される。
【0038】
ステップS18では、目標吸入空気流量GACMD、目標弁作動位相VTCCMD、及びエンジン回転数NEに応じてTHCMDマップを検索し、目標スロットル弁開度THCMDを算出する。THCMDマップは、目標吸入空気流量GACMDに応じて例えば図5(c)に示すように目標スロットル弁開度THCMDが設定されており、図5(c)に示すようなTHCMDテーブルが複数の所定エンジン回転数及び複数の所定弁作動位相について設定されている。したがって、エンジン回転数NE及び目標弁作動位相VTCCMDに応じてをTHCMDテーブルが選択され、適宜補間演算を行うことにより、目標スロットル弁開度THCMDが算出される。
【0039】
ステップS19では、検出されるエンジン回転数NE、スロットル弁開度TH、及び弁作動位相VTCに応じて、吸入空気流量GAIRの推定値である推定吸入空気流量HGAIRを算出する。具体的には、図5(c)に示すTHCMDマップを、検出されるスロットル弁開度TH及び弁作動位相VTCに応じて逆検索することにより、推定吸入空気流量HGAIRを算出する。
【0040】
ステップS20では、実際の吸入空気流量が推定吸入空気流量HGAIRに等しいときに得られるエンジン出力トルクである推定吸気制御トルクHTRQGAを、推定吸入空気流量HGAIRに応じて算出する。具体的には、エンジン回転数NEに応じて換算係数KGATを算出し(図6,ステップS29参照)、推定吸入空気流量HGAIRに換算係数KGATを乗算することにより、推定吸気制御トルクHTRQGAを算出する。
【0041】
ECU5のCPUは、検出される弁作動位相VTC及びスロットル弁開度THが、それぞれ図4の処理で算出された目標弁作動位相VTCCMD及び目標スロットル弁開度THCMDと一致するように、電磁弁44及びアクチュエータ7の駆動制御を行う。
【0042】
図6及び図7は、図4のステップS16で実行されるGACMDを算出処理のフローチャートである。
ステップS21では、エンジン回転数NEに応じて下限吸入空気流量GAIRFCL及び上限吸入空気流量GCYLMAXQを算出する。ステップS22では、仮下側吸入空気流量GATMPLを下限吸入空気流量GAIRFCLに設定するとともに、仮上側吸入空気流量GATMPHを上限吸入空気流量GCYLMAXQに設定する。ステップS23ではインデクスパラメータiを「1」に設定する。
【0043】
ステップS24では、下記式(3)に仮下側吸入空気流量GATMPL及び仮上側吸入空気流量GATMPHを適用し、仮目標吸入空気流量GATMPを算出する。
GATMP=(GATMPL+GATMPH)/2 (3)
【0044】
ステップS25では、仮目標吸入空気流量GATMP及びエンジン回転数NEに応じてVTCCMDマップを検索し、仮目標弁作動位相VTCTMPを算出する(図4,ステップS17参照)。ステップS26では、仮目標吸入空気流量GATMP及びエンジン回転数NEに応じてPBGAマップを検索し、仮吸気ゲージ圧PBGATMPを算出する。PBGAマップは、予め実験により設定され、ECU5の記憶回路に格納されている。
【0045】
ステップS27では、仮目標弁作動位相VTCTMP、エンジン回転数NE、及び仮吸気ゲージ圧PBGATMPに応じてDIGRSVMマップ(図示せず)を検索し、点火時期の仮遅角量DIGRSVMを算出する。仮遅角量DIGRSVMは、点火時期を出力トルクが最大となる最適点火時期MBTに設定したときにノッキングの発生する可能性が高い運転状態に対応して設定される遅角量である。DIGRSVMマップは、予め実験により設定され、ECU5の記憶回路に格納されている。
【0046】
ステップS28では、仮遅角量DIGRSVM及びエンジン回転数NEに応じて仮トルク低減率KTDTMPを算出する。最適点火時期MBTからの遅角量DIGRSVMと、仮トルク低減率KTDTMPとの関係は、図8(a)に示すようになる。図8(a)に示すKTDTMPテーブルが、複数所定エンジン回転数に対応して設定されたトルク低減率マップを、仮遅角量DIGRSVM及びエンジン回転数NEに応じて検索することにより、仮トルク低減率KTDTMPが算出される。
【0047】
ステップS29では、エンジン回転数NEに応じて図8(b)に示すKGATテーブルを検索し、吸入空気流量をエンジン出力トルクに換算するための換算係数KGATを算出する。KGATテーブルは、エンジン回転数NEが増加するほど、換算係数KGATが増加するように設定されている。
【0048】
ステップS30では、下記式(4)に仮目標吸入空気流量GATMP、仮トルク低減率KTDTMP、及び換算係数KGATを適用し、仮出力トルクTRQTMPを算出する。
TRQTMP=GATMP×KTDTMP×KGAT (4)
【0049】
ステップS31では、吸気制御目標トルクTRQGAと、仮出力トルクTRQTMPとの差の絶対値が所定閾値DTRQTH以下であるか否かを判別する。この答が否定(NO)であるときは、インデクスパラメータiが最大値iMAX(例えば10)と等しいか否かを判別する(ステップS32)。最初はこの答は否定(NO)であるので、図7のステップS41に進み、仮出力トルクTRQTMPが吸気制御目標トルクTRQGAより大きいか否かを判別する。
【0050】
ステップS41の答が肯定(YES)であるときは、上側仮吸入空気流量GATMPHを仮目標吸入空気流量GATMPに設定する(ステップS42)。一方、仮出力トルクTRQTMPが吸気制御目標トルクTRQGA以下であるときは、下側仮吸入空気流量GATMPLを仮目標吸入空気流量GATMPに設定する(ステップS43)。ステップS44では、インデクスパラメータiを「1」だけインクリメントし、図6のステップS24に戻る。
【0051】
ステップS24からステップS31及びS32を経由してステップS44に至る処理を繰り返し実行すると、仮出力トルクTRQTMPは吸気制御目標トルクTRQGAに近づいて行く。その結果、ステップS31の答が肯定(YES)となると、ステップS33に進み、目標吸入空気流量GACMDをその時点の仮目標吸入空気流量GATMPに設定する。なお、ステップS33では、目標吸入空気流量GACMDについて、上限吸入空気流量GCYLMAXQ及び下限吸入空気流量GAIRFCLの範囲内に入るようにリミット処理を行うことが望ましい。
【0052】
ステップS31の答が肯定(YES)となる前にインデクスパラメータiが最大値iMAXに達すると、ステップS32からステップS33に進み、目標吸入空気流量GACMDがその時点の仮目標吸入空気流量GATMPに設定される。
【0053】
吸入空気流量が変化すると、吸気ゲージ圧及び吸気弁の作動位相が変化し、吸気ゲージ圧及び吸気弁の作動位相の変化によって、ノッキングの発生を防止するための点火時期の最適点火時期からの遅角量が変化し、それによって点火時期制御おけるトルク低減率が変化する。そのため、目標吸入空気流量の変更が必要となる。図6及び図7の処理によれば、ステップS24〜S32,及びステップS41〜44を繰り返し実行することにより、仮出力トルクTRQTMPが吸気制御目標トルクTRQGAに近づいて行く。したがって、仮出力トルクTRQTMPが吸気制御目標トルクTRQGAとほぼ一致した時点の仮目標吸入空気流量GATMPを目標吸入空気流量GACMDとすることにより、過渡状態における吸入空気流量制御と点火時期制御の相互干渉による制御の不安定化を防止し、エンジン出力トルク制御を安定化することができる。
【0054】
図9は、点火時期IGLOGを算出する処理のフローチャートである。この処理は、ECU5のCPUでTDCパルスの発生に同期して実行される。なお、点火時期IGLOGは圧縮上死点からの進角量で示される。
【0055】
ステップS61では、エンジン回転数NE、吸気ゲージ圧PBGA、及び弁作動位相VTCに応じて、MBTマップを検索し、最適点火時期MBTを算出する。MBTマップは、エンジン回転数NE及び弁作動位相VTCが一定であれば、吸気ゲージ圧PBGAが増加するほど、最適点火時期MBTが減少する(遅角する)ように設定されている。
【0056】
ステップS62では、下記式(11)により設定点火時期IGSETを算出する。式(11)のIGKNOCKは、弁作動位相VTC、エンジン回転数NE及び吸気ゲージ圧PBGAに応じたノッキング限界点火時期及びノッキングの発生状況に応じて算出されるノッキング補正項であり、IGCRはエンジン冷却水温TW及び吸気温TAなどに応じて設定される環境補正項である。補正項IGKNOCK及びIGCRは、遅角方向で正の値をとる。
IGSET=MBT−IGKNOCK−IGCR (11)
【0057】
ステップS63では、下記式(12)により基本遅角量DIGRBを算出する。
DIGRB=MBT−IGSET (12)
【0058】
ステップS64では、基本遅角量DIGRB及びエンジン回転数NEに応じて図8(a)に示すトルク低減率マップを検索し、基本トルク低減率KIGDNを算出する。基本トルク低減率KIGDNは、点火時期を最適点火時期MBTから基本遅角量DIGRBだけ遅角することによる出力トルクの低減率を示す。ステップS65では、下記式(13)に、図4の処理で算出される目標トルクTRQE及び推定吸気制御トルクHTRQGAを適用し、トルク比率KTRQを算出する。
KTRQ=TRQE/HTRQGA (13)
【0059】
ステップS66では、下記式(14)に基本トルク低減率KIGDN及びトルク比率KTRQを適用し、トルク低減率KIGDNMを算出する。
KIGDNM=KTRQ×KIGDN (14)
【0060】
ステップS67では、トルク低減率KIGDNM及びエンジン回転数NEに応じて図8(a)のトルク低減率マップを逆検索し、遅角量DIGRTDを算出する。ステップS68では、下記式(15)に最適点火時期MBT及び遅角量DIGRTDを適用し、点火時期IGLOGを算出する。
IGLOG=MBT−DIGRTD (15)
【0061】
ECU5は、算出した点火時期IGLOGにおいて点火プラグ15による点火を行う。
【0062】
トルク比率KTRQには、アイドル運転状態においてエンジン回転数NEを目標回転数NOBJに制御するためのフィードバックトルク補正成分、及び補機負荷のオンオフにともなう要求トルク変動成分が反映されているので、式(14)により算出されるトルク低減率KIGDNMを用いることにより、要求トルクの変化に対応した適切な点火時期制御を行うことができる。
【0063】
以上詳述したように本実施形態では、エンジンの要求トルクTRQEに余裕トルクDTRQIDLSを加算することにより吸気制御目標トルクTRQGAが算出され、吸気制御目標トルクTRQGAに応じて目標吸入空気流量GACMDが算出される。さらに目標吸入空気流量GACMDに応じて目標弁作動位相VTCCMD及び目標スロットル弁開度THCMDが算出され、検出される弁作動位相VTC及びスロットル弁開度THが、それぞれ目標弁作動位相VTCCMD及び目標スロットル弁開度THCMDと一致するように電磁弁44及びアクチュエータ7が駆動される。そして、検出されたスロットル弁開度TH及び弁作動位相VTCに応じて推定吸入空気流量HGAIRが算出され、推定吸入空気流量HGAIRに応じて推定吸気制御トルクHTRQGAが算出され、要求トルクTRQEと推定吸気制御トルクHTRQGAとの比率であるトルク比率KTRQを用いて点火時期IGLOGの算出が行われる。検出されたスロットル弁開度TH及び弁作動位相VTCに応じて推定吸入空気流量HGAIRが算出されるので、実際の吸入空気流量の変化を高精度に推定することができる。そして、この推定吸入空気流量HGAIRに応じて推定吸気制御トルクHTRQGAを算出し、この推定吸気制御トルクHTRQGAと要求トルクTRQEとの関係を示すトルク比率KTRQに応じて点火時期を制御することにより、エンジン出力トルク制御における吸入空気量制御と点火時期制御のそれぞれ寄与度合が正確に調整され、エンジン出力トルクの制御精度を向上させることができる。
【0064】
また算出されたトルク比率KTRQに応じて遅角量DIGRTDが算出され、最適点火時期MBTを遅角量DIGRTDで補正することにより、点火時期IGLOGが算出される。すなわち、トルク比率KTRQに対応した点火時期の遅角補正が行われ、これによって吸入空気流量制御と協調的に点火時期制御を行うことができるとともに、点火時期の変更による十分なトルク制御性を確保することができる。
【0065】
本実施形態では、弁作動特性可変機構42及びスロットル弁3が吸気制御手段に相当し、クランク角度位置センサ11、カム角度位置センサ12、及びスロットル弁開度センサ4が制御量検出手段に相当し、ECU5が点火時期制御手段、要求トルク算出手段、吸気制御目標トルク算出手段、目標吸入空気流量算出手段、目標制御量算出手段、吸気制御実行手段、推定吸入空気流量算出手段、推定出力トルク算出手段、トルク比率算出手段、最適点火時期算出手段、遅角補正量算出手段、及び仮目標吸入空気流量算出手段を構成する。具体的には、図9の処理が点火時期制御手段に相当し、図4のステップS11〜S13が要求トルク算出手段に相当し、ステップS15が吸気制御目標トルク算出手段に相当し、ステップS16が目標吸入空気流量算出手段に相当し、ステップS17及びS18が目標制御量算出手段に相当し、ステップS19が推定吸入空気流量算出手段に相当し、ステップS20が推定出力トルク算出手段に相当する。また図9のステップS65がトルク比率算出手段に相当し、ステップS61が最適点火時期算出手段に相当し、ステップS62〜S67が遅角補正量算出手段に相当する。また図6のステップS21,S22,及びS24が仮目標吸入空気流量算出手段に相当する。
【0066】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、検出される弁作動位相VTC及びスロットル弁開度THに応じて、推定吸入空気流量HGAIRを算出したが、本実施形態は、弁作動位相VTC及びスロットル弁開度THの推定値である推定弁作動位相HVTC及び推定スロットル弁開度HTHを算出し、推定弁作動位相HVTC及び推定スロットル弁開度HTHに応じて、推定吸入空気流量HGAIRを算出するようにしたものである。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0067】
図10は本実施形態における目標トルク算出処理のフローチャートである。図10に示す処理は、図4の処理にステップS18aを追加するとともに、ステップS19をステップS19aに変更したものである。
【0068】
ステップS18aでは、図11に示すHVTC/HTH算出処理を実行し、推定弁作動位相HVTC及び推定スロットル弁開度HTHを算出する。ステップS19aでは、エンジン回転数NE、推定スロットル弁開度HTH、及び推定弁作動位相HVTCに応じて、推定吸入空気流量HGAIRを算出する。すなわち、図2のステップS19における演算において、スロットル弁開度TH及び弁作動位相VTCをそれぞれ推定スロットル弁開度HTH及び推定弁作動位相HVTCに置き換えることにより、推定吸入空気流量HGAIRが算出される。
【0069】
図11は、図10のステップS18aで実行されるHVTC/HTH算出処理のフローチャートである。
ステップS81では、目標弁作動位相VTCCMDが制限作動位相の前回値VTCLTD(k-1)より大きいか否かを判別する。制限作動位相VTCLTDは、目標弁作動位相VTCCMDに対して、制限された変化量で追従するパラメータであり、以下に説明するステップS82〜S87で算出される。また「k」は本処理の実行周期(すなわちTDCパルス発生周期)で離散化した離散化時刻である。
【0070】
ステップS81の答が肯定(YES)であるときは、作動位相リミット値VTCLMTを下記式(21)により算出する(ステップS82)。式(21)のDVTCPは、増加方向変化量の上限値である(以下「上限増加量」という)。
VTCLMT=VTCLTD(k-1)+DVTCP (21)
【0071】
ステップS83では、目標弁作動位相VTCCMDが作動位相リミット値VTCLMTより大きいか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、作動位相リミット値VTCLMTを目標弁作動位相VTCCMDに設定する(ステップS86)。その後ステップS87に進む。
【0072】
ステップS83の答が肯定(YES)、すなわちVTCCMD>VTCLMTであるときは、直ちにステップS87に進む。
ステップS81の答が否定(NO)、すなわちVTCCMD≦VTCLTD(k-1)であるときは、作動位相リミット値VTCLMTを下記式(22)により算出する(ステップS84)。式(22)のDVTCMは、減少方向変化量の上限値である(以下「上限減少量」という)。
VTCLMT=VTCLTD(k-1)−DVTCM (22)
【0073】
ステップS85では、目標弁作動位相VTCCMDが作動位相リミット値VTCLMTより小さいか否かを判別し、その答が否定(NO)であるときは、前記ステップS86に進む。一方ステップS85の答が肯定(YES)、すなわちVTCCMD<VTCLMTであるときは、直ちにステップS87に進む。
【0074】
ステップS87では、制限作動位相VTCLTD(k)を作動位相リミット値VTCLMTに設定する。ステップS88では、仮推定弁作動位相HVTCTMPを5演算周期前に算出された制限作動位相VTCLTD(k-5)に設定する。次いで仮推定弁作動位相HVTCTMPを下記式(23)に適用し、推定弁作動位相HVTCを算出する(ステップS89)。式(23)のCVTCは、「0」から「1」の間の値に設定されるなまし係数である。
HVTC=HVTC(k-1)
+CVTC×(HVTCTMP(k)−HVTC(k-1)) (23)
【0075】
ステップS90では、下記式(24)に目標スロットル弁開度THCMDを適用し、推定スロットル弁開度HTHを算出する。式(24)のCTHは、「0」から「1」の間の値に設定されるなまし係数である。
HTH=HTH(k-1)
+CTH×(THCMD(k)−HTH(k-1)) (24)
【0076】
図12は、図11の処理におけるHVTC算出処理(ステップS81〜S89)を説明するためのタイムチャートであり、実線、細い破線、及び太い破線がそれぞれ目標弁作動位相VTCCMD、制限作動位相VTCLTD、及び推定弁作動位相HVTCの推移を示す。なお、制限作動位相VTCLTDは、目標弁作動位相VTCCMDと一致している部分は示されていない。
【0077】
制限作動位相VTCLTDは、制限された変化量で目標弁作動位相VTCCMDに追従するように変化するので、目標弁作動位相VTCCMDが急変する期間では、変化速度が制限される。また、仮推定弁作動位相HVTCTMPを5演算周期前に算出された制限作動位相VTCLTDに設定することにより、弁作動特性可変機構42におけるむだ時間(電磁弁44の開度変更から実際に弁作動位相VTCが変化するまでの遅れ時間)の影響が考慮される。さらに、仮推定弁作動位相HVTCTMPをなまし処理することにより、吸気弁作動位相の変化速度が比較的遅いという特性が反映される。その結果、精度の高い推定弁作動位相HVTCを得ることができる。
【0078】
図13は、目標スロットル弁開度THCMDと、推定スロットル弁開度HTHとの関係を示すタイムチャートである。目標スロットル弁開度THCMDがステップ状に変化すると、推定スロットル弁開度HTHは、目標スロットル弁開度THCMDの変化に追従して徐々に変化する。
【0079】
スロットル弁開度制御には、むだ時間がほとんど無いので、目標スロットル弁開度THCMDをなまし処理することにより、正確な推定スロットル弁開度HTHを得ることができる。
【0080】
本実施形態では、推定スロットル弁開度HTH及び推定弁作動位相HVTCに応じて推定吸入空気流量HGAIRが算出される。推定スロットル弁開度HTH及び推定弁作動位相HVTCは、上述したように比較的高い精度で算出することができるので、推定吸入空気流量HGAIRにより実際の吸入空気流量の変化を高精度に推定することができる。したがって、第1の実施形態と同様の効果に、エンジン出力トルク制御における吸入空気量制御と点火時期制御のそれぞれ寄与度合が正確に調整され、エンジン出力トルクの制御精度を向上させることができる。
【0081】
本実施形態では、図10のステップS17が目標弁作動位相算出手段に相当し、図11の処理が制御量推定手段に相当し、図10のステップS19aが推定吸入空気流量算出手段に相当する。また図10のステップS18が目標スロットル弁開度算出手段に相当し、図11のステップS81〜S87が、制限作動位相算出手段に相当し、ステップS89が第1なまし処理手段に相当し、ステップS90が第2なまし処理手段に相当する。
【0082】
なお、第2の実施形態では、仮推定作動位相HVTCTMPをなまし処理することにより推定作動位相HVTCを算出するようにしたが(図11,ステップS89)、仮推定作動位相HVTCTMPをそのまま推定作動位相HVTCとしてもよい。
【0083】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの制御にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 内燃機関
2 吸気管
3 スロットル弁(吸気制御手段)
4 スロットル弁開度センサ(制御量検出手段)
5 電子制御ユニット(点火時期制御手段、要求トルク算出手段、吸気制御目標トルク算出手段、目標吸入空気流量算出手段、目標制御量算出手段、吸気制御実行手段、推定吸入空気流量算出手段、推定出力トルク算出手段、トルク比率算出手段、最適点火時期算出手段、遅角補正量算出手段、仮目標吸入空気流量算出手段、目標弁作動位相算出手段、制御量推定手段、目標スロットル弁開度算出手段、制限作動位相算出手段、第1なまし処理手段、第2なまし処理手段)
11 クランク角度位置センサ(制御量検出手段)
12 カム角度位置センサ(制御量検出手段)
42 弁作動特性可変機構(吸気制御手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸入空気流量を制御する吸気制御手段と、前記機関の点火時期を制御する点火時期制御手段とを備える内燃機関の制御装置において、
前記機関の要求トルクを算出する要求トルク算出手段と、
前記要求トルクに余裕トルクを加算することにより吸気制御目標トルクを算出する吸気制御目標トルク算出手段と、
前記吸気制御目標トルクに応じて前記機関の目標吸入空気流量を算出する目標吸入空気流量算出手段と、
前記目標吸入空気流量に応じて前記吸気制御手段の目標制御量を算出する目標制御量算出手段と、
前記吸気制御手段の制御量が前記目標制御量と一致するように前記吸気制御手段を駆動する吸気制御実行手段と、
前記吸気制御手段の制御量を推定する制御量推定手段と、
推定された制御量に応じて前記機関の吸入空気流量の推定値である推定吸入空気流量を算出する推定吸入空気流量算出手段と、
前記推定吸入空気流量に応じて前記機関の推定出力トルクを算出する推定出力トルク算出手段と、
前記要求トルクと推定出力トルクとの比率であるトルク比率を算出するトルク比率算出手段とを備え、
前記点火時期制御手段は、前記トルク比率に応じて前記点火時期制御を行うことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記吸気制御手段は、前記機関の吸気管に設けられたスロットル弁と、前記機関の吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動位相可変機構とを備え、
前記制御量推定手段は、
前記目標吸入空気流量及び前記機関の回転数に応じて、前記作動位相の目標値である目標作動位相を算出する目標作動位相算出手段と、
前記目標作動位相の変化に対して、制限された変化量で追従する制限作動位相を算出する制限作動位相算出手段とを備え、
所定期間前に算出された前記制限作動位相を弁作動位相推定値として算出し、
前記推定吸入空気流量算出手段は、前記弁作動位相推定値を用いて前記推定吸入空気流量を算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御量推定手段は、前記弁作動位相推定値になまし処理を行う第1なまし処理手段をさらに備え、前記推定吸入空気流量算出手段は、前記なまし処理された弁作動位相推定値を用いることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記制限作動位相算出手段は、前記目標作動位相の変化方向に応じて、前記制限作動位相の前回値に第1制限変化量を加算すること、または前記制限作動位相の前回値から第2制限変化量を減算することにより、前記制限作動位相を算出し、前記第1及び第2制限変化量を前記機関の回転数に応じて設定することを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記制御量推定手段は、
前記目標吸入空気流量に応じて目標スロットル弁開度を算出する目標スロットル弁開度算出手段と、
前記目標スロットル弁開度のなまし処理を行う第2なまし処理手段とを備え、
該なまし処理された目標スロットル弁開度を前記スロットル弁開度の推定値として算出し、
前記推定吸入空気流量算出手段は、前記スロットル弁開度推定値を用いて前記推定吸入空気流量を算出することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記点火時期制御手段は、前記機関の出力トルクが最大となる最適点火時期を、前記機関の運転状態に応じて算出する最適点火時期算出手段と、前記トルク比率に応じて遅角補正量を算出する遅角補正量算出手段とを備え、前記最適点火時期を前記遅角補正量により補正して、前記点火時期を算出することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記吸気制御手段は、前記機関の吸気管に設けられたスロットル弁と、前記機関の吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動位相可変機構とを備え、
前記目標吸入空気流量算出手段は、前記機関の回転数に応じて仮目標吸入空気流量を算出する仮目標吸入空気流量算出手段を有し、
前記仮目標吸入空気流量に応じて、前記吸気弁の仮目標作動位相を算出する第1ステップと、
前記仮目標吸入空気流量に応じて、前記機関の仮吸気ゲージ圧を算出する第2ステップと、
前記仮吸気ゲージ圧及び仮目標作動位相に応じて前記点火時期の仮遅角量を算出する第3ステップと、
前記仮遅角量に応じて仮トルク低減率を算出する第4ステップと、
前記仮目標吸入空気流量及び仮トルク低減率に応じて前記機関の仮出力トルクを算出する第5ステップと、
前記仮出力トルクが前記吸気制御目標トルクに近づくように、前記仮目標吸入空気流量を更新する第6ステップとを繰り返し実行し、
前記目標吸入空気流量を、前記仮出力トルクと吸気制御目標トルクとの差が所定閾値以下となった時点の仮目標吸入空気流量に設定することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項1】
内燃機関の吸入空気流量を制御する吸気制御手段と、前記機関の点火時期を制御する点火時期制御手段とを備える内燃機関の制御装置において、
前記機関の要求トルクを算出する要求トルク算出手段と、
前記要求トルクに余裕トルクを加算することにより吸気制御目標トルクを算出する吸気制御目標トルク算出手段と、
前記吸気制御目標トルクに応じて前記機関の目標吸入空気流量を算出する目標吸入空気流量算出手段と、
前記目標吸入空気流量に応じて前記吸気制御手段の目標制御量を算出する目標制御量算出手段と、
前記吸気制御手段の制御量が前記目標制御量と一致するように前記吸気制御手段を駆動する吸気制御実行手段と、
前記吸気制御手段の制御量を推定する制御量推定手段と、
推定された制御量に応じて前記機関の吸入空気流量の推定値である推定吸入空気流量を算出する推定吸入空気流量算出手段と、
前記推定吸入空気流量に応じて前記機関の推定出力トルクを算出する推定出力トルク算出手段と、
前記要求トルクと推定出力トルクとの比率であるトルク比率を算出するトルク比率算出手段とを備え、
前記点火時期制御手段は、前記トルク比率に応じて前記点火時期制御を行うことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記吸気制御手段は、前記機関の吸気管に設けられたスロットル弁と、前記機関の吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動位相可変機構とを備え、
前記制御量推定手段は、
前記目標吸入空気流量及び前記機関の回転数に応じて、前記作動位相の目標値である目標作動位相を算出する目標作動位相算出手段と、
前記目標作動位相の変化に対して、制限された変化量で追従する制限作動位相を算出する制限作動位相算出手段とを備え、
所定期間前に算出された前記制限作動位相を弁作動位相推定値として算出し、
前記推定吸入空気流量算出手段は、前記弁作動位相推定値を用いて前記推定吸入空気流量を算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御量推定手段は、前記弁作動位相推定値になまし処理を行う第1なまし処理手段をさらに備え、前記推定吸入空気流量算出手段は、前記なまし処理された弁作動位相推定値を用いることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記制限作動位相算出手段は、前記目標作動位相の変化方向に応じて、前記制限作動位相の前回値に第1制限変化量を加算すること、または前記制限作動位相の前回値から第2制限変化量を減算することにより、前記制限作動位相を算出し、前記第1及び第2制限変化量を前記機関の回転数に応じて設定することを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記制御量推定手段は、
前記目標吸入空気流量に応じて目標スロットル弁開度を算出する目標スロットル弁開度算出手段と、
前記目標スロットル弁開度のなまし処理を行う第2なまし処理手段とを備え、
該なまし処理された目標スロットル弁開度を前記スロットル弁開度の推定値として算出し、
前記推定吸入空気流量算出手段は、前記スロットル弁開度推定値を用いて前記推定吸入空気流量を算出することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記点火時期制御手段は、前記機関の出力トルクが最大となる最適点火時期を、前記機関の運転状態に応じて算出する最適点火時期算出手段と、前記トルク比率に応じて遅角補正量を算出する遅角補正量算出手段とを備え、前記最適点火時期を前記遅角補正量により補正して、前記点火時期を算出することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記吸気制御手段は、前記機関の吸気管に設けられたスロットル弁と、前記機関の吸気弁の作動位相を連続的に変更する弁作動位相可変機構とを備え、
前記目標吸入空気流量算出手段は、前記機関の回転数に応じて仮目標吸入空気流量を算出する仮目標吸入空気流量算出手段を有し、
前記仮目標吸入空気流量に応じて、前記吸気弁の仮目標作動位相を算出する第1ステップと、
前記仮目標吸入空気流量に応じて、前記機関の仮吸気ゲージ圧を算出する第2ステップと、
前記仮吸気ゲージ圧及び仮目標作動位相に応じて前記点火時期の仮遅角量を算出する第3ステップと、
前記仮遅角量に応じて仮トルク低減率を算出する第4ステップと、
前記仮目標吸入空気流量及び仮トルク低減率に応じて前記機関の仮出力トルクを算出する第5ステップと、
前記仮出力トルクが前記吸気制御目標トルクに近づくように、前記仮目標吸入空気流量を更新する第6ステップとを繰り返し実行し、
前記目標吸入空気流量を、前記仮出力トルクと吸気制御目標トルクとの差が所定閾値以下となった時点の仮目標吸入空気流量に設定することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−92154(P2013−92154A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−3039(P2013−3039)
【出願日】平成25年1月11日(2013.1.11)
【分割の表示】特願2009−120740(P2009−120740)の分割
【原出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年1月11日(2013.1.11)
【分割の表示】特願2009−120740(P2009−120740)の分割
【原出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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