内燃機関の燃料噴射制御装置
【課題】排気浄化触媒を適切に保護できる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】所定の運転領域において排気浄化触媒127の触媒床温に応じた燃料噴射量の制御を実行する内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記触媒床温が所定温度に達したら前記燃料噴射量を増量する制御手段11と、前記排気浄化触媒の劣化度を検出する劣化度検出手段11,113,126,128,140と、を備え、前記制御手段は、前記劣化度に応じて前記燃料噴射量を増量する。
【解決手段】所定の運転領域において排気浄化触媒127の触媒床温に応じた燃料噴射量の制御を実行する内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記触媒床温が所定温度に達したら前記燃料噴射量を増量する制御手段11と、前記排気浄化触媒の劣化度を検出する劣化度検出手段11,113,126,128,140と、を備え、前記制御手段は、前記劣化度に応じて前記燃料噴射量を増量する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射量を増量補正することで排気浄化触媒を保護する内燃機関の燃料噴射装置において、燃料カット制御領域から燃料増量制御領域へ移行する際に、燃料増量によって触媒床温が過昇温(オーバーシュート)する。この触媒床温のオーバーシュートによる排気浄化触媒の熱劣化を防止するために、所定期間だけ燃料の増量補正を制限する内燃機関の制御装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3076884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、排気浄化触媒が経時劣化により酸素吸着能力が低下すると、燃料増量による触媒床温のオーバーシュート量も減少する。しかしながら、上述した従来の内燃機関の制御装置は、たとえば排気浄化触媒の劣化度が大きい場合でも燃料を増量するため、無駄な燃料を噴射するといった問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、排気浄化触媒を適切に保護できる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、排気浄化触媒の劣化度を検出し、検出された劣化度に応じて燃料噴射量の増量制御を実行することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、排気浄化触媒の劣化度を考慮した燃料噴射量の増量制御が実行されるので、排気浄化触媒を適切に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施の形態を適用した内燃機関を示すブロック図である。
【図2】図1のエンジンコントロールユニットの燃料噴射制御の一例を示すフローチャートである。
【図3】図1の燃料噴射制御の基本的な時間的制御内容を示すタイムチャートである。
【図4】燃料増量制御時に触媒劣化度に応じた増量制御を実行しなかった場合の推定BED温等と、燃料増量制御時に触媒劣化度に応じた増量制御を実行した場合の推定BED温等を示すグラフである。
【図5A】触媒床温と排気浄化触媒に加わる熱負荷との関係を示すグラフである。
【図5B】空燃比と排気浄化触媒に加わる熱負荷との関係を示すグラフである。
【図5C】図5A及び図5Bにより求められる熱負荷の積算値と産初吸着能力との関係を示すグラフである。
【図6A】燃料増量開始時における排気浄化触媒の入口及び出口での空燃比を示すグラフである。
【図6B】燃料増量終了時における排気浄化触媒の入口及び出口での空燃比を示すグラフである。
【図7】本発明の他の実施の形態に係る触媒劣化度と増量開始温度クライテリアの制御マップである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の一実施の形態を適用した内燃機関を示すブロック図であり、火花点火式エンジンEGに本発明の燃料噴射制御装置を適用した例を説明する。
【0010】
図1において、エンジンEGの吸気通路111には、エアーフィルタ112、吸入空気流量を検出するエアフローメータ113、吸入空気流量を制御するスロットルバルブ114およびコレクタ115が設けられている。
【0011】
スロットルバルブ114には、当該スロットルバルブ114の開度を調整するDCモータ等のアクチュエータ116が設けられている。このスロットルバルブアクチュエータ116は、運転者のアクセルペダル操作量等に基づき演算される要求トルクを達成するように、エンジンコントロールユニット11からの駆動信号に基づき、スロットルバルブ114の開度を電子制御する。また、スロットルバルブ114の開度を検出するスロットルセンサ117が設けられて、その検出信号をエンジンコントロールユニット1へ出力する。なお、スロットルセンサ117はアイドルスイッチとしても機能させることができる。
【0012】
また、コレクタ115から各気筒に分岐した吸気通路の燃料噴射ポート111aに臨ませて、燃料噴射バルブ118が設けられている。燃料噴射バルブ118は、エンジンコントロールユニット11において設定される駆動パルス信号によって開弁駆動され、図外の燃料ポンプから圧送されてプレッシャレギュレータにより所定圧力に制御された燃料を燃料噴射ポート111a内に噴射する。なお、本発明では、燃料噴射バルブ118からの燃料が燃焼室123に直接噴射されるように設けてもよい。本発明は、排気浄化触媒127の触媒床温が過熱状態になるのを防止するために、触媒床温が上昇したときに燃料を増量し、燃焼温度を低下させることで当該触媒床温を低下させる制御を実行する。この燃料増量制御の詳細は後述する。
【0013】
シリンダ119と、当該シリンダ内を往復移動するピストン120の冠面と、吸気バルブ121及び排気バルブ122が設けられたシリンダヘッドとで囲まれる空間が燃焼室123を構成する。点火プラグ124は、各気筒の燃焼室123に臨んで装着され、エンジンコントロールユニット11からの点火信号に基づいて吸入混合気に対して点火を行う。
【0014】
一方、排気通路125には、排気中の特定成分、たとえば酸素濃度を検出することにより排気、ひいては吸入混合気の空燃比を検出する空燃比センサ126が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。この空燃比センサ126は、リッチ・リーン出力する酸素センサであっても良いし、空燃比をリニアに広域に亘って検出する広域空燃比センサであってもよい。
【0015】
また、排気通路125には、排気を浄化するための排気浄化触媒127が設けられている。この排気浄化触媒127としては、ストイキ(理論空燃比,λ=1、空気重量/燃料重量=14.7)近傍において排気中の一酸化炭素COと炭化水素HCを酸化するとともに、窒素酸化物NOxの還元を行って排気を浄化することができる三元触媒、或いは排気中の一酸化炭素COと炭化水素HCの酸化を行う酸化触媒を用いることができる。
【0016】
排気通路125の排気浄化触媒127の下流側には、排気中の特定成分、たとえば酸素濃度を検出し、リッチ・リーン出力する酸素センサ128が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。ここでは、酸素センサ128の検出値により、空燃比センサ126の検出値に基づく空燃比フィードバック制御を補正することで、排気浄化触媒127の劣化等に伴う制御誤差を抑制するため(いわゆるダブル空燃比センサシステム採用のため)或いは後述する図2のステップS2,図6A及び図6Bの酸素吸着能力を検出するために、下流側酸素センサ128を設けて構成したが、空燃比センサ126の検出値に基づく空燃比フィードバック制御を行なわせるだけでよい場合には、酸素センサ128を省略することができる。
【0017】
排気通路125の排気浄化触媒127の入口近傍には排気温度を検出する排気温度センサ140が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。排気浄化触媒127の触媒床温は、この排気温度センサ140で検出された入口温度と、空燃比センサ126にて検出された排気中の空燃比による触媒反応熱と、排気温度センサ140などのセンサ応答遅れや排気浄化触媒127の過渡応答遅れなどによる補正値とに基づいて、エンジンコントロールユニット11に設定された所定の演算式により推定される。
なお、図1において129はマフラである。
【0018】
エンジンEGのクランク軸130にはクランク角センサ131が設けられ、エンジンコントロールユニット11は、クランク角センサ131から機関回転と同期して出力されるクランク単位角信号を一定時間カウントすることで、又は、クランク基準角信号の周期を計測することで、エンジン回転速度Neを検出することができる。
【0019】
エンジンEGの冷却ジャケット132には、水温センサ133が当該冷却ジャケットに臨んで設けられ、冷却ジャケット131内の冷却水温度Twを検出し、これをエンジンコントロールユニット11へ出力する。
【0020】
既述したように、各種センサ類113,117,126,128,131,133からの検出信号は、CPU,ROM,RAM,A/D変換器及び入出力インタフェース等を含んで構成されるマイクロコンピュータからなるエンジンコントロールユニット11に入力され、当該エンジンコントロールユニット11は、センサ類からの信号に基づいて検出される運転状態に応じて、スロットルバルブ114の開度を制御し、燃料噴射バルブ118を駆動して燃料噴射量と燃料噴射時期を制御する。燃料噴射量は、例えば、検出した吸気量と、運転状態に応じて予め設定された所定の空燃比とから基本燃料噴射量を算出し、これに各種補正を施して最終燃料噴射量とする。後述のように燃料噴射量を増量補正する場合、例えば、基本燃料噴射量に対して所定の係数(ゲイン)をかけ合わせることによって実現することができる。
【0021】
また、排気浄化触媒127の触媒床温を推定し、所定の上限温度に達すると燃料噴射量を増量し、排気浄化触媒127の過熱を防止する。図3はこの制御内容の一例を示すタイムチャートであり、エンジンが高負荷になる運転領域を燃料の増量制御を実行する領域に設定した例である。エンジン負荷が上昇して排気浄化触媒127の触媒床温(同図では触媒内部温度と称する)が増量開始クライテリアに達すると、燃料噴射バルブ118からの燃料噴射量の増量制御を開始し、推定した触媒床温が増量開始クライテリア以下になるまで増量制御を継続することを示す。これにより、触媒床温が触媒破損クライテリアに達するのを防止する。
【0022】
さて、排気浄化触媒127は所定の酸素吸着能力を有するが、経時的劣化により酸素吸着能力が低下する。そして、燃料増量制御時の酸素吸着能力によって、増量燃料の発熱反応による触媒床温の温度上昇代が変動し、このため触媒床温の推定精度が低下する。すなわち、排気浄化触媒127の劣化が進行して酸素吸着能力が低下すると、燃料と反応すべき酸素が相対的に少ないので、劣化を考慮しない推定温度より実際の温度が低くなる。
【0023】
図4の左図にこの様子を示す。図4の左図に示すように、時間tにてエンジン負荷の増加などによって燃料噴射量が増量されると、これにともない触媒床温の推定温度も過昇温するが、推定条件となった排気浄化触媒127の劣化状態より実際の排気浄化触媒127の劣化が進行している場合には、同図の点線で示すように実際の触媒床温が推定温度より低い温度となる。
【0024】
排気浄化触媒127の劣化度は、酸素吸着能力により指標することができる。そして、酸素吸着能力は、排気浄化触媒127の熱負荷履歴を積算したり、排気浄化触媒127に流入する酸素量と流出する酸素量を検出したりすることで求めることができる。これらの詳細については後述する。
【0025】
以下、排気浄化触媒127の劣化度を考慮した本例の燃料の増量制御手順について、図2を参照しながら説明する。
【0026】
排気浄化触媒127の過熱防止のための燃料噴射量の増量制御は、まずステップS1にてエンジンの運転状態が所定の運転条件、たとえば図3に示すような高負荷領域にあるか否かを判断する。エンジンの高負荷領域において排気浄化触媒127の過熱が生じ易いからである。
【0027】
ステップS1でエンジンが高負荷領域にない場合はステップS5へ進み、排気温度センサ140で検出された入口温度と、空燃比センサ126にて検出された排気中の空燃比による触媒反応熱と、排気温度センサ140などのセンサ応答遅れや排気浄化触媒127の過渡応答遅れなどによる補正値とに基づいて、エンジンコントロールユニット11に設定された所定の演算式により排気浄化触媒127の触媒床温を推定する。また、排気浄化触媒127に与えられた熱負荷を積算する。
【0028】
ステップS1でエンジンが高負荷領域にある場合にはステップS2へ進み、排気浄化触媒127の劣化度の一指標である酸素吸着能力を演算する。図5A〜図5Cに酸素吸着能力の演算例を示し、図6A〜図6Bに他の酸素吸着能力の演算例を示す。
【0029】
図5A及び図5Bに示すように、排気浄化触媒127の酸素吸着能力は、主として排気ガスにより印加された温度や排気ガスの空燃比に影響を受ける。すなわち、図5Aに示すように触媒床温が所定温度以上になると熱負荷が大きくなり、また図5Bに示すように空燃比がストイキよりもリーン又はリッチになればなるほど熱負荷が大きくなる。そして、これら触媒床温による熱負荷履歴の積算値と空燃比による熱負荷履歴の積算値とを加算した熱負荷積算値と酸素吸着能力は、図5Cに示すような関係となり、熱負荷積算値が大きくなればなるほど酸素吸着能力が低下することになる。
【0030】
このためエンジンコントロールユニット11は、排気浄化触媒127を新品に交換してから現在までの熱負荷を積算する。具体的には図5Aの触媒床温に対する熱負荷の時間積分値と図5Bの空燃比に対する熱負荷の時間積分値を求め、これらを加算した値を熱負荷積算値とする。ステップS2では、エンジンコントロールユニット11にて演算されたこれまでの熱負荷積算値を検出し、図5Cの実験マップを用いて酸素吸着能力を求める。
【0031】
一方、図6Aは燃料噴射を増量した際に、排気浄化触媒127の上流に設けられた空燃比センサ126と、下流に設けられた酸素センサ128とのそれぞれによって検出された排気浄化触媒127の前後の空燃比を示すグラフである。燃料が増量されたことにより排気浄化触媒127の上流の空燃比は低下するが、排気浄化触媒127の下流の空燃比は時間的に遅れて低下する。これは、増量された燃料が排気浄化触媒127によって吸着された酸素によって処理されるからである。したがって、これら排気浄化触媒127の前後の空燃比の時間積分値(図6Aの斜線部の面積)に、エアフローメータ113により検出された吸入空気量を乗じた値が排気浄化触媒127の酸素吸着能力を示すことになる。
【0032】
同様に、図6Bは燃料噴射を減量した際に、排気浄化触媒127の上流に設けられた空燃比センサ126と、下流に設けられた酸素センサ128とのそれぞれによって検出された排気浄化触媒127の前後の空燃比を示すグラフである。燃料が減量されたことにより排気浄化触媒127の上流の空燃比は増加するが、排気浄化触媒127の下流の空燃比は時間的に遅れて増加する。これは、燃料が減量されたことにより空気量が増量され、その空気に含まれる酸素が排気浄化触媒127によって吸着されるからである。したがって、これら排気浄化触媒127の前後の空燃比の時間積分値(図6Bの斜線部の面積)に、エアフローメータ113により検出された吸入空気量を乗じた値が排気浄化触媒127の酸素吸着能力を示すことになる。
【0033】
このためステップS2において、エンジンコントロールユニット11は、図5A〜図5Cに示す酸素吸着能力の演算に代えて、燃料噴射の増量又は減量の指令信号を当該エンジンコントロールユニット11内で受け取るとともに、空燃比センサ126、酸素センサ128及びエアフローメータ113からの検出信号を読み込んで酸素吸着能力を演算する。
【0034】
ステップS3では、ステップS2にて求められた酸素吸着能力と、予め実験的又はシミュレーションにより求められた酸素吸着能力と反応熱との関係をマップ化した制御マップとを用いて、この酸素吸着能力による反応熱を演算する。そして、ステップS4にて、ステップS3で求められた反応熱も加味し、排気温度センサ140で検出された入口温度と、空燃比センサ126にて検出された排気中の空燃比による触媒反応熱と、排気温度センサ140などのセンサ応答遅れや排気浄化触媒127の過渡応答遅れなどによる補正値とに基づいて、エンジンコントロールユニット11に設定された所定の演算式により排気浄化触媒127の触媒床温を推定する。本例におけるこの推定値は、演算の時点で増量を実施した場合に将来に到達することになるであろう触媒床温(予測値)を示す。
【0035】
ステップS6では、ステップS4又はS5で推定された触媒床温が、予め設定された触媒破損クライテリアから余裕代だけ低い値に設定された限界値以上か否かを判断し(但し、限界値>増量開始閾値)、推定された触媒床温が限界値以上の場合はステップS7に進んで、所定量だけ燃料噴射量を増量する。推定された触媒床温が限界値未満の場合はステップS8及びS9に進み、燃料噴射量を増量しない。すなわち、触媒の酸素吸着能力が高い場合はより早い時点で限界値に達することが予測され、より早い時点で増量が開始される一方、触媒の酸素吸着能力が低い場合はより遅い時点で限界値に達することが予測され、より遅い時点で増量が開始される。
【0036】
なお、推定された触媒床温が限界値以上と判断されステップS7にて燃料噴射量を増量したあとは、ステップS1へ戻り、ステップS8にて推定された触媒床温が増量開始閾値未満になるまで増量制御を継続し、推定された触媒床温が増量開始閾値未満になったらステップS9にて燃料噴射量の増量を解除する。
【0037】
以上のとおり、本例の燃料噴射量の増量制御によれば、図4の右図に示すように、時間tにてエンジン負荷の増加などによって燃料噴射量が増量されると、これにともない触媒床温の推定温度も過昇温するが、図2のステップS4にて推定された触媒床温は排気浄化触媒127の酸素吸着能力(劣化度)も考慮して演算されているので、実際の触媒床温と近似することになる。これにより、実際の排気浄化触媒127の酸素吸着能力が高い(劣化度が小さい)場合には、増量開始後の触媒床温の過昇温が大きくなるが、この触媒床温の推定精度が高まるので排気浄化触媒127を適切に保護することができる。また、実際の排気浄化触媒127の酸素吸着能力が低い(劣化度が大きい)場合には、増量開始後の触媒床温の過昇温が小さくなるが、この触媒床温の推定精度が高まるので燃料噴射量の増量を抑制でき、燃費が向上する。
【0038】
上述した実施の形態では、排気浄化触媒127の劣化度(酸素吸着能力)に応じた触媒床温の温度上昇代を演算し、これを含めて触媒床温を推定(予測)した(図2のステップS2〜S4)が、排気浄化触媒127の劣化度(酸素吸着能力)に応じて図2のステップS6の増量開始閾値(図3の増量開始クライテリアに相当)を設定してもよい。すなわち、本例では、図2のステップS3に代えてステップS6の増量開始閾値を排気浄化触媒127の劣化度(酸素吸着能力)に応じた値に設定するステップを設ける。
【0039】
図7は、予め実験又はシミュレーションにより得られた排気浄化触媒127の劣化度(たとえば酸素吸着能力)と増量開始クライテリア温度との関係を制御マップ化したものである。排気浄化触媒127の劣化度が小さい(酸素吸着能力が高い)ほど増量開始後の過昇温が大きくなるので、増量開始クライテリアを相対的に低温に設定し(換言すれば、図3の触媒破損クライテリア温度との差温ΔTを大きく設定し)、劣化度が大きい(酸素吸着能力が低い)ほど増量開始後の過昇温が小さくなるので、増量開始クライテリアを相対的に高温に設定する(換言すれば、図3の触媒破損クライテリア温度との差温ΔTを小さく設定する)。
【0040】
このように、触媒床温の推定温度に排気浄化触媒127の劣化度を考慮することに代えて、増量開始クライテリアの設定温度に排気浄化触媒127の劣化度を考慮しても、同様の作用効果を奏することになる。すなわち、本例の燃料噴射量の増量制御によれば、エンジン負荷の増加などによって燃料噴射量が増量されると、これにともない触媒床温の推定温度も過昇温するが、増量開始及び終了のクライテリア温度が排気浄化触媒127の劣化度も考慮して演算されているので、実際の触媒床温との温度差が精度の高い値になる。これにより、実際の排気浄化触媒127の酸素吸着能力が高い(劣化度が小さい)場合には、増量開始後の触媒床温の過昇温が大きくなるが、実際の触媒床温との差温の推定精度が高まるので排気浄化触媒127を適切に保護することができる。また、実際の排気浄化触媒127の酸素吸着能力が低い(劣化度が大きい)場合には、増量開始後の触媒床温の過昇温が小さくなるが、実際の触媒床温との差温の推定精度が高まるので燃料噴射量の増量を抑制でき、燃費が向上する。
【0041】
上記エンジンコントロールユニット11,エアフローメータ113,空燃比センサ126,排気温度センサ140,酸素センサ128は本発明に係る劣化度検出手段に相当し、上記エンジンコントロールユニット11は本発明に係る制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0042】
EG…エンジン(内燃機関)
11…エンジンコントロールユニット
111…吸気通路
111a…燃料噴射ポート
112…エアーフィルタ
113…エアフローメータ
114…スロットルバルブ
115…コレクタ
116…スロットルバルブアクチュエータ
117…スロットルセンサ
118…燃料噴射バルブ
119…シリンダ
120…ピストン
121…吸気バルブ
122…排気バルブ
123…燃焼室
124…点火プラグ
125…排気通路
126…空燃比センサ
127…排気浄化触媒
128…酸素センサ
129…マフラ
130…クランク軸
131…クランク角センサ
132…冷却ジャケット
133…水温センサ
140…排気温度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料噴射量を増量補正することで排気浄化触媒を保護する内燃機関の燃料噴射装置において、燃料カット制御領域から燃料増量制御領域へ移行する際に、燃料増量によって触媒床温が過昇温(オーバーシュート)する。この触媒床温のオーバーシュートによる排気浄化触媒の熱劣化を防止するために、所定期間だけ燃料の増量補正を制限する内燃機関の制御装置が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3076884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、排気浄化触媒が経時劣化により酸素吸着能力が低下すると、燃料増量による触媒床温のオーバーシュート量も減少する。しかしながら、上述した従来の内燃機関の制御装置は、たとえば排気浄化触媒の劣化度が大きい場合でも燃料を増量するため、無駄な燃料を噴射するといった問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、排気浄化触媒を適切に保護できる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、排気浄化触媒の劣化度を検出し、検出された劣化度に応じて燃料噴射量の増量制御を実行することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、排気浄化触媒の劣化度を考慮した燃料噴射量の増量制御が実行されるので、排気浄化触媒を適切に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施の形態を適用した内燃機関を示すブロック図である。
【図2】図1のエンジンコントロールユニットの燃料噴射制御の一例を示すフローチャートである。
【図3】図1の燃料噴射制御の基本的な時間的制御内容を示すタイムチャートである。
【図4】燃料増量制御時に触媒劣化度に応じた増量制御を実行しなかった場合の推定BED温等と、燃料増量制御時に触媒劣化度に応じた増量制御を実行した場合の推定BED温等を示すグラフである。
【図5A】触媒床温と排気浄化触媒に加わる熱負荷との関係を示すグラフである。
【図5B】空燃比と排気浄化触媒に加わる熱負荷との関係を示すグラフである。
【図5C】図5A及び図5Bにより求められる熱負荷の積算値と産初吸着能力との関係を示すグラフである。
【図6A】燃料増量開始時における排気浄化触媒の入口及び出口での空燃比を示すグラフである。
【図6B】燃料増量終了時における排気浄化触媒の入口及び出口での空燃比を示すグラフである。
【図7】本発明の他の実施の形態に係る触媒劣化度と増量開始温度クライテリアの制御マップである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の一実施の形態を適用した内燃機関を示すブロック図であり、火花点火式エンジンEGに本発明の燃料噴射制御装置を適用した例を説明する。
【0010】
図1において、エンジンEGの吸気通路111には、エアーフィルタ112、吸入空気流量を検出するエアフローメータ113、吸入空気流量を制御するスロットルバルブ114およびコレクタ115が設けられている。
【0011】
スロットルバルブ114には、当該スロットルバルブ114の開度を調整するDCモータ等のアクチュエータ116が設けられている。このスロットルバルブアクチュエータ116は、運転者のアクセルペダル操作量等に基づき演算される要求トルクを達成するように、エンジンコントロールユニット11からの駆動信号に基づき、スロットルバルブ114の開度を電子制御する。また、スロットルバルブ114の開度を検出するスロットルセンサ117が設けられて、その検出信号をエンジンコントロールユニット1へ出力する。なお、スロットルセンサ117はアイドルスイッチとしても機能させることができる。
【0012】
また、コレクタ115から各気筒に分岐した吸気通路の燃料噴射ポート111aに臨ませて、燃料噴射バルブ118が設けられている。燃料噴射バルブ118は、エンジンコントロールユニット11において設定される駆動パルス信号によって開弁駆動され、図外の燃料ポンプから圧送されてプレッシャレギュレータにより所定圧力に制御された燃料を燃料噴射ポート111a内に噴射する。なお、本発明では、燃料噴射バルブ118からの燃料が燃焼室123に直接噴射されるように設けてもよい。本発明は、排気浄化触媒127の触媒床温が過熱状態になるのを防止するために、触媒床温が上昇したときに燃料を増量し、燃焼温度を低下させることで当該触媒床温を低下させる制御を実行する。この燃料増量制御の詳細は後述する。
【0013】
シリンダ119と、当該シリンダ内を往復移動するピストン120の冠面と、吸気バルブ121及び排気バルブ122が設けられたシリンダヘッドとで囲まれる空間が燃焼室123を構成する。点火プラグ124は、各気筒の燃焼室123に臨んで装着され、エンジンコントロールユニット11からの点火信号に基づいて吸入混合気に対して点火を行う。
【0014】
一方、排気通路125には、排気中の特定成分、たとえば酸素濃度を検出することにより排気、ひいては吸入混合気の空燃比を検出する空燃比センサ126が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。この空燃比センサ126は、リッチ・リーン出力する酸素センサであっても良いし、空燃比をリニアに広域に亘って検出する広域空燃比センサであってもよい。
【0015】
また、排気通路125には、排気を浄化するための排気浄化触媒127が設けられている。この排気浄化触媒127としては、ストイキ(理論空燃比,λ=1、空気重量/燃料重量=14.7)近傍において排気中の一酸化炭素COと炭化水素HCを酸化するとともに、窒素酸化物NOxの還元を行って排気を浄化することができる三元触媒、或いは排気中の一酸化炭素COと炭化水素HCの酸化を行う酸化触媒を用いることができる。
【0016】
排気通路125の排気浄化触媒127の下流側には、排気中の特定成分、たとえば酸素濃度を検出し、リッチ・リーン出力する酸素センサ128が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。ここでは、酸素センサ128の検出値により、空燃比センサ126の検出値に基づく空燃比フィードバック制御を補正することで、排気浄化触媒127の劣化等に伴う制御誤差を抑制するため(いわゆるダブル空燃比センサシステム採用のため)或いは後述する図2のステップS2,図6A及び図6Bの酸素吸着能力を検出するために、下流側酸素センサ128を設けて構成したが、空燃比センサ126の検出値に基づく空燃比フィードバック制御を行なわせるだけでよい場合には、酸素センサ128を省略することができる。
【0017】
排気通路125の排気浄化触媒127の入口近傍には排気温度を検出する排気温度センサ140が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。排気浄化触媒127の触媒床温は、この排気温度センサ140で検出された入口温度と、空燃比センサ126にて検出された排気中の空燃比による触媒反応熱と、排気温度センサ140などのセンサ応答遅れや排気浄化触媒127の過渡応答遅れなどによる補正値とに基づいて、エンジンコントロールユニット11に設定された所定の演算式により推定される。
なお、図1において129はマフラである。
【0018】
エンジンEGのクランク軸130にはクランク角センサ131が設けられ、エンジンコントロールユニット11は、クランク角センサ131から機関回転と同期して出力されるクランク単位角信号を一定時間カウントすることで、又は、クランク基準角信号の周期を計測することで、エンジン回転速度Neを検出することができる。
【0019】
エンジンEGの冷却ジャケット132には、水温センサ133が当該冷却ジャケットに臨んで設けられ、冷却ジャケット131内の冷却水温度Twを検出し、これをエンジンコントロールユニット11へ出力する。
【0020】
既述したように、各種センサ類113,117,126,128,131,133からの検出信号は、CPU,ROM,RAM,A/D変換器及び入出力インタフェース等を含んで構成されるマイクロコンピュータからなるエンジンコントロールユニット11に入力され、当該エンジンコントロールユニット11は、センサ類からの信号に基づいて検出される運転状態に応じて、スロットルバルブ114の開度を制御し、燃料噴射バルブ118を駆動して燃料噴射量と燃料噴射時期を制御する。燃料噴射量は、例えば、検出した吸気量と、運転状態に応じて予め設定された所定の空燃比とから基本燃料噴射量を算出し、これに各種補正を施して最終燃料噴射量とする。後述のように燃料噴射量を増量補正する場合、例えば、基本燃料噴射量に対して所定の係数(ゲイン)をかけ合わせることによって実現することができる。
【0021】
また、排気浄化触媒127の触媒床温を推定し、所定の上限温度に達すると燃料噴射量を増量し、排気浄化触媒127の過熱を防止する。図3はこの制御内容の一例を示すタイムチャートであり、エンジンが高負荷になる運転領域を燃料の増量制御を実行する領域に設定した例である。エンジン負荷が上昇して排気浄化触媒127の触媒床温(同図では触媒内部温度と称する)が増量開始クライテリアに達すると、燃料噴射バルブ118からの燃料噴射量の増量制御を開始し、推定した触媒床温が増量開始クライテリア以下になるまで増量制御を継続することを示す。これにより、触媒床温が触媒破損クライテリアに達するのを防止する。
【0022】
さて、排気浄化触媒127は所定の酸素吸着能力を有するが、経時的劣化により酸素吸着能力が低下する。そして、燃料増量制御時の酸素吸着能力によって、増量燃料の発熱反応による触媒床温の温度上昇代が変動し、このため触媒床温の推定精度が低下する。すなわち、排気浄化触媒127の劣化が進行して酸素吸着能力が低下すると、燃料と反応すべき酸素が相対的に少ないので、劣化を考慮しない推定温度より実際の温度が低くなる。
【0023】
図4の左図にこの様子を示す。図4の左図に示すように、時間tにてエンジン負荷の増加などによって燃料噴射量が増量されると、これにともない触媒床温の推定温度も過昇温するが、推定条件となった排気浄化触媒127の劣化状態より実際の排気浄化触媒127の劣化が進行している場合には、同図の点線で示すように実際の触媒床温が推定温度より低い温度となる。
【0024】
排気浄化触媒127の劣化度は、酸素吸着能力により指標することができる。そして、酸素吸着能力は、排気浄化触媒127の熱負荷履歴を積算したり、排気浄化触媒127に流入する酸素量と流出する酸素量を検出したりすることで求めることができる。これらの詳細については後述する。
【0025】
以下、排気浄化触媒127の劣化度を考慮した本例の燃料の増量制御手順について、図2を参照しながら説明する。
【0026】
排気浄化触媒127の過熱防止のための燃料噴射量の増量制御は、まずステップS1にてエンジンの運転状態が所定の運転条件、たとえば図3に示すような高負荷領域にあるか否かを判断する。エンジンの高負荷領域において排気浄化触媒127の過熱が生じ易いからである。
【0027】
ステップS1でエンジンが高負荷領域にない場合はステップS5へ進み、排気温度センサ140で検出された入口温度と、空燃比センサ126にて検出された排気中の空燃比による触媒反応熱と、排気温度センサ140などのセンサ応答遅れや排気浄化触媒127の過渡応答遅れなどによる補正値とに基づいて、エンジンコントロールユニット11に設定された所定の演算式により排気浄化触媒127の触媒床温を推定する。また、排気浄化触媒127に与えられた熱負荷を積算する。
【0028】
ステップS1でエンジンが高負荷領域にある場合にはステップS2へ進み、排気浄化触媒127の劣化度の一指標である酸素吸着能力を演算する。図5A〜図5Cに酸素吸着能力の演算例を示し、図6A〜図6Bに他の酸素吸着能力の演算例を示す。
【0029】
図5A及び図5Bに示すように、排気浄化触媒127の酸素吸着能力は、主として排気ガスにより印加された温度や排気ガスの空燃比に影響を受ける。すなわち、図5Aに示すように触媒床温が所定温度以上になると熱負荷が大きくなり、また図5Bに示すように空燃比がストイキよりもリーン又はリッチになればなるほど熱負荷が大きくなる。そして、これら触媒床温による熱負荷履歴の積算値と空燃比による熱負荷履歴の積算値とを加算した熱負荷積算値と酸素吸着能力は、図5Cに示すような関係となり、熱負荷積算値が大きくなればなるほど酸素吸着能力が低下することになる。
【0030】
このためエンジンコントロールユニット11は、排気浄化触媒127を新品に交換してから現在までの熱負荷を積算する。具体的には図5Aの触媒床温に対する熱負荷の時間積分値と図5Bの空燃比に対する熱負荷の時間積分値を求め、これらを加算した値を熱負荷積算値とする。ステップS2では、エンジンコントロールユニット11にて演算されたこれまでの熱負荷積算値を検出し、図5Cの実験マップを用いて酸素吸着能力を求める。
【0031】
一方、図6Aは燃料噴射を増量した際に、排気浄化触媒127の上流に設けられた空燃比センサ126と、下流に設けられた酸素センサ128とのそれぞれによって検出された排気浄化触媒127の前後の空燃比を示すグラフである。燃料が増量されたことにより排気浄化触媒127の上流の空燃比は低下するが、排気浄化触媒127の下流の空燃比は時間的に遅れて低下する。これは、増量された燃料が排気浄化触媒127によって吸着された酸素によって処理されるからである。したがって、これら排気浄化触媒127の前後の空燃比の時間積分値(図6Aの斜線部の面積)に、エアフローメータ113により検出された吸入空気量を乗じた値が排気浄化触媒127の酸素吸着能力を示すことになる。
【0032】
同様に、図6Bは燃料噴射を減量した際に、排気浄化触媒127の上流に設けられた空燃比センサ126と、下流に設けられた酸素センサ128とのそれぞれによって検出された排気浄化触媒127の前後の空燃比を示すグラフである。燃料が減量されたことにより排気浄化触媒127の上流の空燃比は増加するが、排気浄化触媒127の下流の空燃比は時間的に遅れて増加する。これは、燃料が減量されたことにより空気量が増量され、その空気に含まれる酸素が排気浄化触媒127によって吸着されるからである。したがって、これら排気浄化触媒127の前後の空燃比の時間積分値(図6Bの斜線部の面積)に、エアフローメータ113により検出された吸入空気量を乗じた値が排気浄化触媒127の酸素吸着能力を示すことになる。
【0033】
このためステップS2において、エンジンコントロールユニット11は、図5A〜図5Cに示す酸素吸着能力の演算に代えて、燃料噴射の増量又は減量の指令信号を当該エンジンコントロールユニット11内で受け取るとともに、空燃比センサ126、酸素センサ128及びエアフローメータ113からの検出信号を読み込んで酸素吸着能力を演算する。
【0034】
ステップS3では、ステップS2にて求められた酸素吸着能力と、予め実験的又はシミュレーションにより求められた酸素吸着能力と反応熱との関係をマップ化した制御マップとを用いて、この酸素吸着能力による反応熱を演算する。そして、ステップS4にて、ステップS3で求められた反応熱も加味し、排気温度センサ140で検出された入口温度と、空燃比センサ126にて検出された排気中の空燃比による触媒反応熱と、排気温度センサ140などのセンサ応答遅れや排気浄化触媒127の過渡応答遅れなどによる補正値とに基づいて、エンジンコントロールユニット11に設定された所定の演算式により排気浄化触媒127の触媒床温を推定する。本例におけるこの推定値は、演算の時点で増量を実施した場合に将来に到達することになるであろう触媒床温(予測値)を示す。
【0035】
ステップS6では、ステップS4又はS5で推定された触媒床温が、予め設定された触媒破損クライテリアから余裕代だけ低い値に設定された限界値以上か否かを判断し(但し、限界値>増量開始閾値)、推定された触媒床温が限界値以上の場合はステップS7に進んで、所定量だけ燃料噴射量を増量する。推定された触媒床温が限界値未満の場合はステップS8及びS9に進み、燃料噴射量を増量しない。すなわち、触媒の酸素吸着能力が高い場合はより早い時点で限界値に達することが予測され、より早い時点で増量が開始される一方、触媒の酸素吸着能力が低い場合はより遅い時点で限界値に達することが予測され、より遅い時点で増量が開始される。
【0036】
なお、推定された触媒床温が限界値以上と判断されステップS7にて燃料噴射量を増量したあとは、ステップS1へ戻り、ステップS8にて推定された触媒床温が増量開始閾値未満になるまで増量制御を継続し、推定された触媒床温が増量開始閾値未満になったらステップS9にて燃料噴射量の増量を解除する。
【0037】
以上のとおり、本例の燃料噴射量の増量制御によれば、図4の右図に示すように、時間tにてエンジン負荷の増加などによって燃料噴射量が増量されると、これにともない触媒床温の推定温度も過昇温するが、図2のステップS4にて推定された触媒床温は排気浄化触媒127の酸素吸着能力(劣化度)も考慮して演算されているので、実際の触媒床温と近似することになる。これにより、実際の排気浄化触媒127の酸素吸着能力が高い(劣化度が小さい)場合には、増量開始後の触媒床温の過昇温が大きくなるが、この触媒床温の推定精度が高まるので排気浄化触媒127を適切に保護することができる。また、実際の排気浄化触媒127の酸素吸着能力が低い(劣化度が大きい)場合には、増量開始後の触媒床温の過昇温が小さくなるが、この触媒床温の推定精度が高まるので燃料噴射量の増量を抑制でき、燃費が向上する。
【0038】
上述した実施の形態では、排気浄化触媒127の劣化度(酸素吸着能力)に応じた触媒床温の温度上昇代を演算し、これを含めて触媒床温を推定(予測)した(図2のステップS2〜S4)が、排気浄化触媒127の劣化度(酸素吸着能力)に応じて図2のステップS6の増量開始閾値(図3の増量開始クライテリアに相当)を設定してもよい。すなわち、本例では、図2のステップS3に代えてステップS6の増量開始閾値を排気浄化触媒127の劣化度(酸素吸着能力)に応じた値に設定するステップを設ける。
【0039】
図7は、予め実験又はシミュレーションにより得られた排気浄化触媒127の劣化度(たとえば酸素吸着能力)と増量開始クライテリア温度との関係を制御マップ化したものである。排気浄化触媒127の劣化度が小さい(酸素吸着能力が高い)ほど増量開始後の過昇温が大きくなるので、増量開始クライテリアを相対的に低温に設定し(換言すれば、図3の触媒破損クライテリア温度との差温ΔTを大きく設定し)、劣化度が大きい(酸素吸着能力が低い)ほど増量開始後の過昇温が小さくなるので、増量開始クライテリアを相対的に高温に設定する(換言すれば、図3の触媒破損クライテリア温度との差温ΔTを小さく設定する)。
【0040】
このように、触媒床温の推定温度に排気浄化触媒127の劣化度を考慮することに代えて、増量開始クライテリアの設定温度に排気浄化触媒127の劣化度を考慮しても、同様の作用効果を奏することになる。すなわち、本例の燃料噴射量の増量制御によれば、エンジン負荷の増加などによって燃料噴射量が増量されると、これにともない触媒床温の推定温度も過昇温するが、増量開始及び終了のクライテリア温度が排気浄化触媒127の劣化度も考慮して演算されているので、実際の触媒床温との温度差が精度の高い値になる。これにより、実際の排気浄化触媒127の酸素吸着能力が高い(劣化度が小さい)場合には、増量開始後の触媒床温の過昇温が大きくなるが、実際の触媒床温との差温の推定精度が高まるので排気浄化触媒127を適切に保護することができる。また、実際の排気浄化触媒127の酸素吸着能力が低い(劣化度が大きい)場合には、増量開始後の触媒床温の過昇温が小さくなるが、実際の触媒床温との差温の推定精度が高まるので燃料噴射量の増量を抑制でき、燃費が向上する。
【0041】
上記エンジンコントロールユニット11,エアフローメータ113,空燃比センサ126,排気温度センサ140,酸素センサ128は本発明に係る劣化度検出手段に相当し、上記エンジンコントロールユニット11は本発明に係る制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0042】
EG…エンジン(内燃機関)
11…エンジンコントロールユニット
111…吸気通路
111a…燃料噴射ポート
112…エアーフィルタ
113…エアフローメータ
114…スロットルバルブ
115…コレクタ
116…スロットルバルブアクチュエータ
117…スロットルセンサ
118…燃料噴射バルブ
119…シリンダ
120…ピストン
121…吸気バルブ
122…排気バルブ
123…燃焼室
124…点火プラグ
125…排気通路
126…空燃比センサ
127…排気浄化触媒
128…酸素センサ
129…マフラ
130…クランク軸
131…クランク角センサ
132…冷却ジャケット
133…水温センサ
140…排気温度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の運転領域において排気浄化触媒の触媒床温に応じた燃料噴射量の制御を実行する内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記触媒床温が所定温度に達したら前記燃料噴射量を増量する制御手段と、
前記排気浄化触媒の劣化度を検出する劣化度検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記劣化度に応じて前記燃料噴射量を増量する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記制御手段は、前記劣化度に応じた触媒床温の温度上昇代を推定し、当該温度上昇代を含めた触媒床温に基づいて前記燃料噴射量を増量する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記制御手段は、前記劣化度が大きいほど前記触媒床温の温度上昇代を小さく推定する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記劣化度に応じて前記所定温度を設定する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記制御手段は、前記劣化度が大きいほど前記所定温度を高く設定する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記劣化度は、前記排気浄化触媒の酸素吸着能力により求め、
前記酸素吸着能力は、前記排気浄化触媒の触媒床温の推定温度と、前記燃料噴射の空燃比とに基づいて前記排気浄化触媒の熱負荷履歴を求め、当該熱負荷履歴に基づいて求める内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記劣化度は、前記排気浄化触媒の酸素吸着能力により求め、
前記酸素吸着能力は、前記排気浄化触媒に流入する酸素成分と、前記排気浄化触媒から流出する酸素成分とに基づいて求める内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項1】
所定の運転領域において排気浄化触媒の触媒床温に応じた燃料噴射量の制御を実行する内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記触媒床温が所定温度に達したら前記燃料噴射量を増量する制御手段と、
前記排気浄化触媒の劣化度を検出する劣化度検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記劣化度に応じて前記燃料噴射量を増量する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記制御手段は、前記劣化度に応じた触媒床温の温度上昇代を推定し、当該温度上昇代を含めた触媒床温に基づいて前記燃料噴射量を増量する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記制御手段は、前記劣化度が大きいほど前記触媒床温の温度上昇代を小さく推定する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記劣化度に応じて前記所定温度を設定する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記制御手段は、前記劣化度が大きいほど前記所定温度を高く設定する内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記劣化度は、前記排気浄化触媒の酸素吸着能力により求め、
前記酸素吸着能力は、前記排気浄化触媒の触媒床温の推定温度と、前記燃料噴射の空燃比とに基づいて前記排気浄化触媒の熱負荷履歴を求め、当該熱負荷履歴に基づいて求める内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記劣化度は、前記排気浄化触媒の酸素吸着能力により求め、
前記酸素吸着能力は、前記排気浄化触媒に流入する酸素成分と、前記排気浄化触媒から流出する酸素成分とに基づいて求める内燃機関の燃料噴射制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【公開番号】特開2012−241695(P2012−241695A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115972(P2011−115972)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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