内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置
【課題】燃料中の硫黄による排気ガスセンサの応答性低下に起因した誤ったインバランス判定を抑制することのできる内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置を提供する。
【解決手段】内燃機関10の燃料タンク30に、硫黄濃度センサ30が備えられている。ECU50は、内燃機関10の気筒間の空燃比のインバランスに応じて変化するインバランス判定値を算出することができる。インバランス判定値の値を、硫黄濃度に応じて補正する。その結果、硫黄を高濃度に含む燃料が使用される環境下にあっても、誤ったインバランス判定がなされることを抑制することができる。
【解決手段】内燃機関10の燃料タンク30に、硫黄濃度センサ30が備えられている。ECU50は、内燃機関10の気筒間の空燃比のインバランスに応じて変化するインバランス判定値を算出することができる。インバランス判定値の値を、硫黄濃度に応じて補正する。その結果、硫黄を高濃度に含む燃料が使用される環境下にあっても、誤ったインバランス判定がなされることを抑制することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、米国特許第7,152,594号に開示されているように、内燃機関の気筒間空燃比のばらつき(空燃比の気筒間インバランス)を判定するための技術が知られている。上記従来の技術では、複数の気筒からの排気ガスが集合する排気集合部に設けられた空燃比センサの出力信号の軌跡長を取得し、その軌跡長と「機関回転速度および吸入空気量に応じて変化する参照値」とを比較している。この比較結果に基づいて、空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,152,594号
【特許文献2】特開2009−13967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、空燃比気筒間インバランス状態を判定するために、空燃比センサ等の排気ガスセンサを利用している。ここで、内燃機関に硫黄を高濃度に含む燃料が供給された場合、排気ガスセンサの応答性低下が問題となる。すなわち、燃料中の硫黄濃度が高いと、排気ガスセンサ素子の表面に硫黄が付着することにより、センサの応答性が低下してしまう。この影響を受けて、センサ出力を利用した空燃比気筒間インバランス状態の判定の精度が、低下してしまうおそれがある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、燃料中の硫黄による排気ガスセンサの応答性低下に起因した誤ったインバランス判定を抑制することのできる内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置であって、
複数の気筒を備える内燃機関の排気通路に設けられた排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力に基づいて、前記複数の気筒の間における空燃比のインバランスの大きさに応じて変化するインバランス判定値を取得するインバランス判定値取得手段と、
前記インバランス判定値と所定の基準値との比較に基づいて、前記複数の気筒間におけるインバランス状態の有無を判定するインバランス判定手段と、
前記内燃機関の燃料中の硫黄濃度を取得する硫黄濃度情報取得手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記インバランス判定値と前記基準値の少なくとも一方を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
目標アドミタンス値に基づいて、前記排気ガスセンサの温度を制御する温度制御手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記目標アドミタンス値を補正する目標アドミタンス値補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記内燃機関の吸入空気量が所定の下限空気量を下回っている場合に、前記インバランス判定手段による判定を停止する又はその判定結果の使用を停止する手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度が高いほど、前記下限空気量を大きな値に設定する手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れか1つにおいて、
前記インバランス判定値取得手段で取得した前記インバランス判定値に基づいて、前記インバランス状態を抑制するように、前記内燃機関の空燃比制御にかかる制御量を補正する空燃比制御補正手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記制御量を補正する制御量補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記空燃比制御補正手段は、前記インバランス状態が大きく発生している場合に、前記内燃機関の空燃比をリッチ化するリッチ制御手段を含み、
前記制御量補正手段は、前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度が高いほど、前記リッチ制御手段における前記空燃比の前記リッチ化の量を大きくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、インバランス判定においてその判断のために使用される値に、硫黄濃度に応じた補正を行うことができる。これにより、硫黄を高濃度に含む燃料が使用される環境下にあっても、誤ったインバランス判定がなされることを抑制することができる。
【0012】
第2の発明によれば、排気ガスセンサの温度上昇措置により、硫黄による応答性低下を抑制することができる。
【0013】
第3の発明によれば、排気ガス温度が高く硫黄被毒され難い条件が成立しているときに限って、インバランス判定を行うこと又はインバランス判定の結果を使用することができる。
【0014】
第4の発明によれば、硫黄濃度が異なるとインバランス状態抑制のための適切な空燃比制御量も変わる点を考慮して、硫黄濃度に応じて空燃比制御量を補正することができる。
【0015】
第5の発明によれば、高硫黄濃度の燃料が使用されている場合にも、インバランス状態を抑制するためのリッチ化の量が不足しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置の構成を、これが適用される内燃機関の構成とともに示す図である。
【図2】燃料中の硫黄濃度とセンサ応答性との関係を示す図である。
【図3】センサ応答性とインバランス判定値(空燃比ばらつき判定値)との関係を示す図である。
【図4】高硫黄濃度の燃料を使用したときのインバランス判定値の変化を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかる、硫黄濃度に応じたインバランス判定値の補正について説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態1にかかる硫黄濃度(S濃度)に応じた補正を行った後の、インバランス判定値を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態2にかかる、燃料中の硫黄濃度と目標アドミタンスのマップの一例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態3にかかる、燃料中の硫黄濃度と判定停止ルーチンで用いられる下限空気量(検出下限空気量)との関係を規定したマップの一例を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態3においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【図12】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図13】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図14】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図15】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図16】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図17】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図18】本発明の実施の形態4においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置の構成を、これが適用される内燃機関の構成とともに示す図である。本実施形態にかかる空燃比気筒間インバランス判定装置は、車両用内燃機関に対して好適に適用することができる。
【0018】
本実施形態は、直列4気筒の内燃機関10に対して、各気筒の間で空燃比にインバランス状態が発生しているか否かを判定することができる。内燃機関10は、吸気枝管20および排気枝管40と連通している。図示しないが、内燃機関10は、気筒ごとに、それぞれ、吸気弁、排気弁、点火プラグ、燃料噴射弁などの各種構成を有している。また、同じく図示しないが、内燃機関10は、吸気弁および排気弁の駆動のための動弁機構(可変動弁機構であってもよい)も備えている。なお、本発明が適用される内燃機関は、直列4気筒型に限定されない。インバランス状態が発生しうる複数の気筒を有する内燃機関であれば、気筒数、気筒配列等の具体的構成、方式に限定無く、本発明を適用することができる。
【0019】
吸気枝管20は、その上流において、吸気通路22に連通している。吸気通路22には、スロットルバルブ24およびエアフローメータ26が設けられている。
【0020】
内燃機関10の燃料を貯留する燃料タンク30には、燃料中の硫黄濃度を検出できる硫黄濃度センサ32が備えられている。本実施形態では、この硫黄濃度センサ32は、光学式のセンサとする。
【0021】
排気枝管40は、その下流において、排気管42に連通している。排気管42には、排気触媒46(三元触媒)が設けられている。排気触媒46の上流には空燃比センサ44が、排気触媒46の下流には酸素センサ48が、それぞれ設けられている。
【0022】
ECU(Electronic Control Unit)50は、エアフローメータ26、硫黄濃度センサ32、空燃比センサ44、酸素センサ48と接続する。これにより、ECU50は、内燃機関の吸入空気量、空燃比、燃料中の硫黄濃度といった各種情報を取得することができる。また、ECU50は、図示しない燃料噴射弁とも接続している。ECU50は、目標空燃比や空燃比フィードバック制御量などにより定められる燃料噴射量を噴射するように、燃料噴射弁を制御することができる。
【0023】
実施の形態1においては、ECU50が、空燃比気筒間インバランス判定値(以下、単に「インバランス判定値」とも称す)を算出する算出ルーチンを実行可能に構成されている。このルーチンによれば、空燃比センサの出力に基づいて、複数の気筒の間における空燃比のインバランスの大きさ(度合い)に応じて変化するインバランス判定値を算出することができる。この種のインバランス判定値算出手法は既に公知の技術を利用すればよいため、詳細な説明は行わないが、例えば、「1サイクル分の空燃比センサ出力の変化(傾き)の平均値を複数サイクル分平均化し、この平均化した値が判定クライテリア(判定基準値)よりも大きい場合に、気筒間の空燃比ばらつきが許容できないほど大きい(以上である)」という判定を行うことができる。なお、特願2009−196557号出願書類にも、インバランス判定値を求める具体的技術が記載されている。
【0024】
[実施の形態1の動作]
上述したインバランス判定値を算出するために空燃比センサ出力を利用するにあたって、内燃機関10に硫黄を高濃度に含む燃料が供給された場合、空燃比センサ44の応答性低下が問題となる。すなわち、燃料タンク30の燃料中の硫黄濃度が高いと、空燃比センサ44のセンサ素子の表面に硫黄が付着することにより、センサの応答性が低下してしまう。図2は、燃料中の硫黄濃度とセンサ応答性との関係を示す図である。図3は、センサ応答性とインバランス判定値(空燃比ばらつき判定値)との関係を示す図である。
【0025】
インバランス判定値は、気筒間の空燃比のインバランスの大きさ(度合い)を示す値である。インバランス判定値が大きいほど気筒間の空燃比のインバランスが大きいという傾向で算出が行われている場合、上記の硫黄付着の影響を受けて、センサ出力を利用した空燃比気筒間インバランス判定値が実際の値よりも小さく算出されてしまうおそれがある。その場合、インバランスが実際の大きさよりも小さいものとして判定されてしまう。すなわち、本来は異常として判定すべきほどにインバランスが大きいにも関わらず、誤って小さく算出されたインバランス判定値によって、空燃比気筒間インバランスは正常であるという判定がなされてしまう。図4は、高硫黄濃度の燃料を使用したときのインバランス判定値の変化を示す図である。図に示すように、高硫黄濃度の燃料が使用された場合、インバランス判定値(空燃比ばらつき判定値)が小さめに算出されてしまうおそれがある。これにより、図のように、低硫黄濃度の燃料使用時には異常(空燃比ばらつきがクライテリアを超えて大きい)であると判定される場合であっても、高硫黄濃度の燃料使用時には、誤って、正常との判定がなされるおそれがある。
【0026】
そこで、本実施形態では、燃料タンク30の燃料中の硫黄濃度を検知し、硫黄濃度に応じた補正を行うことにより、インバランス判定において使用される値に、硫黄濃度に応じた補正を行う。これにより、硫黄を高濃度に含む燃料が使用される環境下にあっても、誤ったインバランス判定がなされることを抑制することができる。
【0027】
図5は、本発明の実施の形態1にかかる、硫黄濃度に応じたインバランス判定値の補正について説明するための図である。図5に示すように、インバランス判定値(空燃比ばらつき判定値)を、硫黄濃度(S濃度)が高いほど、小さな値へと補正する。つまり、図に示すように、下記の式に従って、インバランス判定値が補正される。
インバランス判定値 = A×S濃度+B
係数Aおよび切片Bの値は、事前に定めておきECU50に記憶しておく。
【0028】
図6は、本発明の実施の形態1にかかる硫黄濃度(S濃度)に応じた補正を行った後の、インバランス判定値を示す図である。図6において、実線は低硫黄濃度燃料の使用時におけるインバランス値とインバランス率[%]との関係を、破線は高硫黄濃度燃料の使用時において上記の補正を行った後のインバランス値とインバランス率[%]との関係を、それぞれ示す。図6に示すように、補正の効果によって、高硫黄濃度燃料使用時であっても、硫黄濃度上昇によるインバランス値の低下を抑制することができる(図6の黒丸を参照)。従って、硫黄を高濃度に含む燃料が使用される環境下にあっても、誤ったインバランス判定(誤正常判定)がなされることを抑制することができる。
【0029】
[実施の形態1の具体的処理]
以下、図7を用いて、本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置において実行される具体的処理を説明する。図7は、本発明の実施の形態1においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。
【0030】
図7に示すルーチンでは、先ず、空燃比ばらつき判定が完了しているか否かが判定される(ステップS100)。このステップの条件が成立している場合には、既に今回の空燃比ばらつき判定が完了しているため、今回の処理が終了する。
【0031】
ステップS100の条件が否定された場合には、今回の空燃比ばらつき判定が未完了である。従って、この場合には、空燃比ばらつき判定値(インバランス判定値)Afp_orgの算出が完了しているか否かが判定される(ステップS102)。このステップでは、ECU50に予め備えられた、空燃比気筒間インバランス判定値の算出ルーチンの処理が完了したか否かが判定される。このステップの条件が否定された場合には、今回の処理が終了し、処理はリターンする。
【0032】
ステップS102の条件が成立している場合には、硫黄濃度補正の処理が実行される(ステップS104)。このステップでは、下記の式に従って、補正後のインバランス判定値afp_Sが算出される。
afp_S = A×(STD_S−SD)+afp_org
係数Aは、予め実験等により定められた、硫黄濃度に対するインバランス判定値の変化率である。STD_Sは、基準硫黄濃度である。SDは、現在の硫黄濃度つまり硫黄濃度センサ32の出力に基づき特定した現在の燃料の硫黄濃度である。この式は、図5で示した特性と対応している。上記の式により、線形補正を実施し、補正後のインバランス判定値afp_Sを求めることができる。その結果、硫黄濃度が高い場合にインバランス判定値が小さめになるという影響を低減(相殺)するように、内燃機関10の燃料中の硫黄濃度が高いほど、インバランス判定値とクライテリアの比較結果がインバランス状態有りとの結果を示しやすくなるようインバランス判定値が補正される。
【0033】
続いて、下記の式が成立しているか否かにより、比較判定が行われる(ステップS106)。
afp_S > criteria
この式の条件が成立していない場合、補正後のインバランス判定値は、クライテリア(すなわち基準判定値、許容値)以下の値である。従って、この場合には、空燃比気筒間インバランス状態は十分に小さく、正常であるとの判定が下される(ステップS110)。一方、上記の式の条件が成立している場合、補正後のインバランス判定値が、クライテリアを上回っているということになる。従って、この場合には、空燃比気筒間インバランス状態が過大であり、異常であるとの判定が下される(ステップS108)。その後、今回のルーチンが終了する。
【0034】
以上の処理によれば、インバランス判定においてその判断のために使用される値であるインバランス判定値afp_orgに、硫黄濃度に応じた補正を行うことができる。これにより、硫黄濃度に応じて補正された補正後インバランス判定値afp_Sを用いて、criteriaとの比較判定を行うことができる。その結果、硫黄を高濃度に含む燃料が使用される環境下にあっても、誤ったインバランス判定がなされることを抑制することができる。
【0035】
なお、実施の形態1では、硫黄濃度に基づいて、インバランス判定値を補正している。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。クライテリアの値を、硫黄濃度に応じて調節してもよい。つまり、硫黄濃度に基づいて、内燃機関10の燃料中の硫黄濃度が高いほど、インバランス判定値とクライテリアの比較結果がインバランス状態有りとの結果を示しやすくなるように、クライテリアの値を調節してもよい。
【0036】
なお、実施の形態1では、硫黄濃度に対するインバランス判定値の変化率を用いて、インバランス判定値に線形補正を施した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。硫黄濃度とインバランス判定値との関係を、実験やシミュレーション等によって適宜に特定しておき、これに応じた補正用ルーチンをECU50に記憶させておけば良い。また、硫黄濃度とインバランス判定値との関係は、必ずしも図5のような直線的特性としなくともよく、また、マップ等で規定してもよい。
【0037】
実施の形態2.
実施の形態2では、空燃比センサ44が目標アドミタンス値に基づいて加熱されるものとする。目標アドミタンス値の初期設定値は、予め定められ、ECU50に記憶されている。目標アドミタンス値に基づいて空燃比センサ等の排気ガスセンサの温度制御を行う技術は、既に公知であるため、これ以上の詳細な説明は行わない。これ以外の構成については、実施の形態2は実施の形態1と同じ構成を有するため、重複する点は説明を省略する。
【0038】
実施の形態1でも述べたように、燃料中の硫黄濃度が高いと、空燃比センサの応答性が低下する。その結果、空燃比気筒間インバランスの判定精度が低下するおそれがある。
【0039】
一方、このようなセンサ応答性低下の問題は、空燃比センサの素子温度を高めることによって抑制することができる。そこで、実施の形態2では、硫黄濃度が高い場合にはより高い素子温度となるように、硫黄濃度に応じて空燃比センサの目標アドミタンスの値を補正することにした。
【0040】
図8は、本発明の実施の形態2にかかる、燃料中の硫黄濃度と目標アドミタンスのマップの一例を示す図である。実施の形態2では、図8に示すマップに従って、硫黄濃度に応じた目標アドミタンスを取得する。ECU50は、予めこのマップを記憶しているものとする。
【0041】
図9は、本発明の実施の形態2においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。図9のルーチンでは、先ず、空燃比ばらつき判定が完了しているか否かが判定される(ステップS200)。このステップでは、実施の形態1にかかる図7のルーチンのステップS100と同様の処理が行われる。
【0042】
ステップS200の条件が不成立の場合には、ステップS204において、下記の式に従って、硫黄濃度に応じた目標アドミタンスの値が算出される。
adtgt = MAP(SD)
つまり、図8に示したマップが参照され、硫黄濃度センサ32の出力に基づいて特定された現在の硫黄濃度SDに応じて、目標アドミタンスの値が算出される。その後、今回のルーチンが終了し、算出された目標アドミタンスに従って、空燃比センサ44が内蔵するヒータの温度が制御される。
【0043】
ステップS200の条件が成立している場合には、ステップS202において、下記の式に従って目標アドミタンスの値が算出される。
adtgt = ADTGTBSE
その後、今回のルーチンが終了する。
【0044】
以上の処理によれば、硫黄濃度に応じて、目標アドミタンスの値を補正することができる。これにより、空燃比センサの温度上昇措置により、硫黄による応答性低下を抑制することができる。
【0045】
なお、実施の形態2では、実施の形態1の構成に対して、さらに、硫黄濃度に応じた目標アドミタンス値補正を加えている。しかしながら、実施の形態2にかかる「硫黄濃度に応じた目標アドミタンス値補正」の技術内容を、実施の形態1にかかるインバランス判定値の補正とは独立に、内燃機関に適用しても良い。つまり、実施の形態2にかかる「硫黄濃度に応じた目標アドミタンス値補正」の技術的思想のみを、単独で、実施の形態1以外の構成を有する各種の内燃機関に適用してもよい。
【0046】
実施の形態3.
実施の形態3では、ECU50が、内燃機関10の吸入空気量が所定の下限空気量を下回っている場合に、インバランス判定値を用いた空燃比気筒間インバランスの判定を停止する処理(以下、「判定停止ルーチン」とも称す)を備えている。更に、ECU50は、硫黄濃度センサ32で検出された硫黄濃度が高いほど、上記の処理における下限空気量を大きな値に設定する処理(以下、「下限空気量設定ルーチン」)を有している。これ以外の構成については、実施の形態3は実施の形態1と同じ構成を有するため、重複する点は説明を省略する。
【0047】
前述したように、燃料中の硫黄濃度が高いと、空燃比センサの応答性が低下する。その結果、空燃比気筒間インバランスの判定精度が低下するおそれがある。
【0048】
一方、このようなセンサ応答性低下の問題が生じ難い環境(運転条件)においては、前述した誤判定のおそれは少ないと考えることができる。そこで、実施の形態3では、排気ガス温度が高く硫黄被毒が生じ難い条件に内燃機関10がおかれている場合に限って、インバランス判定値を利用したインバランスの判定を行うことにした。具体的には、実施の形態3では、排気ガス温度が高く硫黄被毒が生じ難い条件として、空燃比気筒間インバランス判定を行う条件としての上記判定停止ルーチンにおける下限空気量を、硫黄濃度に応じて変更することにした。
【0049】
図10は、本発明の実施の形態3にかかる、燃料中の硫黄濃度と判定停止ルーチンで用いられる下限空気量(検出下限空気量)との関係を規定したマップの一例を示す図である。図10に示すマップに従って、硫黄濃度が高いほど検出下限空気量が高めに設定される。
【0050】
図11は、本発明の実施の形態3においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。図11のルーチンでは、先ず、空燃比ばらつき判定が完了しているか否かが判定される(ステップS300)。このステップでは、実施の形態1にかかる図7のルーチンのステップS100と同様の処理が行われる。
【0051】
ステップS300の条件が不成立の場合には、ステップS204において、下記の式に従って、硫黄濃度に応じた検出下限空気量が算出される。この処理内容が、実施の形態3における下限空気量設定ルーチンである。
air_tgt = MAP(SD)
このステップにおいて、図10に示したマップが参照され、上記の式にあるように、硫黄濃度センサ32の出力に基づいて特定された現在の硫黄濃度SDに応じて検出下限空気量が算出される。その後、今回のルーチンが終了し、算出された検出下限空気量を用いて、判定停止ルーチンが実行される。これにより、内燃機関10の吸入空気量が算出された検出下限空気量を下回っている場合に、インバランス判定値を用いた空燃比気筒間インバランスの判定が停止される。
【0052】
ステップS200の条件が成立している場合には、今回のルーチンが終了する。
【0053】
以上の処理によれば、硫黄濃度に応じて検出下限空気量を可変に設定することができる。これにより、排気ガス温度が高く硫黄被毒され難い条件が成立しているときに限って、インバランス判定を行うことができる。
【0054】
なお、実施の形態3では、内燃機関10の吸入空気量が所定の下限空気量を下回っている場合にインバランス判定値を用いた空燃比気筒間インバランスの判定が停止されたが、本発明はこれに限られない。インバランス判定値の算出やインバランスの判定自体は継続しつつも、その判定結果を実際に判定結果として使用するか否かを切り換えてもよい。これにより、排気ガス温度が高く硫黄被毒され難い条件が成立しているときに限って、インバランス判定の結果を使用することができる。
【0055】
なお、実施の形態3では、実施の形態1の構成に対して、さらに、硫黄濃度に応じた目標アドミタンス値補正を加えている。しかしながら、実施の形態3にかかる「硫黄濃度に応じた検出下限空気量の設定」の技術内容を、実施の形態1にかかるインバランス判定値の補正とは独立に、内燃機関に適用しても良い。つまり、実施の形態3にかかる「硫黄濃度に応じた検出下限空気量の設定」の技術的思想のみを、単独で、実施の形態1以外の構成を有する各種の内燃機関に適用してもよい。
【0056】
実施の形態4.
実施の形態4は、空燃比気筒間インバランス発生時におけるエミッション低減用の空燃比補正量を、燃料中の硫黄濃度に応じて変化させることにした。これ以外の構成については、実施の形態4は実施の形態1と同じ構成を有するため、重複する点は説明を省略する。
【0057】
図12乃至17は、本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。燃料中の硫黄濃度が高いと、空燃比センサの触媒能が低下するため、空燃比気筒間インバランスが大きい場合に発生する水素の処理能力が低下する。水素の処理能力が低下すると、空燃比センサの出力のリッチ側へのずれ量が増える。結果として、図12に示すように、燃料中の硫黄濃度が高いほど、実空燃比の制御中心A/Fがリーン側へと変化してしまう。これに起因して、図13に示す如く、燃料中の硫黄濃度が高いと、NOxのエミッション悪化率が増加する。これらの理由から、空燃比のインバランス率(ばらつき率)を検出しこれに応じたリッチ化制御を行う場合、低硫黄濃度燃料と高硫黄濃度燃料に対して同じようにリッチ化補正を行うと、高硫黄濃度燃料使用時に十分なNOx抑制を達成できないおそれがある。つまり、図14に示すようにインバランス率が大きいほどリッチ制御量を増加する空燃比制御を行っている場合、図15に示すように、低硫黄濃度燃料では有効なNOx抑制が達成できるリッチ制御量でも、高硫黄濃度燃料ではいまだ不十分であるという事態の発生が想定される。
【0058】
そこで、実施の形態4では、硫黄濃度に応じて、リッチ制御量(リッチ化補正量)を変更することにした。図15は、燃料中の硫黄濃度、インバランス率およびリッチ制御量の関係を規定したマップの一例を示す。図16では、高硫黄濃度(例として、900ppm)の場合、中硫黄濃度(例として、200ppm)の場合、低硫黄濃度(例として、30ppm)の場合、について、それぞれ、インバランス率とリッチ制御量の関係が規定されている。このマップは、NOx悪化を抑制できるような特性に実験等で予め定めておくこととし、同じインバランス率では硫黄濃度が高いほどリッチ制御量が多くなるように定めておく。
【0059】
図17は、上述したリッチ制御量補正を行ったことによるNOx悪化率抑制効果を説明するための図である。上記の補正によれば高硫黄濃度燃料においてはリッチ制御量を多めにすることができるので、図15と17の比較からわかるように、高硫黄濃度燃料使用時においても、クライテリア以下までNOxエミッション悪化率を小さく抑えることが可能となる。このように、実施の形態4によれば、硫黄濃度が異なるとインバランス状態抑制のための適切な空燃比制御量も変わる点を考慮して、硫黄濃度に応じて空燃比制御量を補正することができる。
【0060】
図18は、本発明の実施の形態4においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。
【0061】
図18のルーチンでは、先ず、空燃比補正実行条件が成立しているか否かが判定される(ステップS400)。このステップでは、エンジン回転数、吸入空気量などによって予め定めておいた空燃比補正条件が成立した場合に、実際に空燃比補正の処理へと移行する。
【0062】
ステップS400の条件が成立している場合には、空燃比ばらつき率(空燃比インバランス率)afimbrの算出が完了しているか否かが判定される(ステップS402)。このステップが成立している場合には、下記の式に従って、空燃比補正量が算出される(ステップS404)。
afref_d = map(afimbr, SD)
上記の式は、すなわち、空燃比インバランス率と硫黄濃度とに応じて規定されたマップ(図16参照)が参照されることにより、空燃比補正量afref_dが算出されることを意味している。
【0063】
次に、目標空燃比への加算補正が行われる(ステップS408)。このステップでは、本ルーチンにおける補正なしの場合の空燃比afref(具体的には、例えば、前サイクルでの目標空燃比など)に対して補正分たるafref_dが加算されたものが、今回の目標空燃比afrefとして算定される。その後、今回のルーチンが終了し、算定されたafrefに基づいて、空燃比制御が実行される。
【0064】
一方、ステップS400の条件が不成立の場合には、空燃比補正量afref_dが、下記の式に従って、零に設定される(ステップS406)。
afref_d = 0
これにより、ステップS408へと進み、硫黄濃度分の空燃比補正が実質的には行われることなく、今回のルーチンが終了する。
【0065】
また、ステップS402の条件が不成立の場合にも、ステップS400の条件不成立時と同様に、ステップS406、S408と処理が進み、硫黄濃度分の空燃比補正が実質的には行われることなく、今回のルーチンが終了する。
【0066】
以上の処理によれば、硫黄濃度が異なるとインバランス状態抑制のための適切な空燃比制御量も変わる点を考慮して、硫黄濃度に応じて空燃比制御量を補正することができる。特に、高硫黄濃度の燃料が使用されている場合にも、インバランス状態を抑制するためのリッチ化の量が不足しないようにすることができる。また、上記の処理によれば、空燃比補正実行条件が不成立の場合やインバランス率の算出が未完了である場合には、加算量を零に設定することができる。
【0067】
なお、実施の形態4では、実施の形態1の構成に対して、さらに、硫黄濃度に応じた空燃比補正量の可変的設定を行っている。しかしながら、実施の形態4にかかる「硫黄濃度に応じた空燃比補正量の可変的設定」の技術内容を、実施の形態1にかかるインバランス判定値の補正とは独立に、内燃機関に適用しても良い。つまり、実施の形態4にかかる「硫黄濃度に応じた空燃比補正量の可変的設定」の技術的思想のみを、単独で、実施の形態1以外の構成を有する各種の内燃機関に適用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 内燃機関
20 吸気枝管
22 吸気通路
24 スロットルバルブ
26 エアフローメータ
30 燃料タンク
32 硫黄濃度センサ
40 排気枝管
42 排気管
44 空燃比センサ
46 排気触媒
48 酸素センサ
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、米国特許第7,152,594号に開示されているように、内燃機関の気筒間空燃比のばらつき(空燃比の気筒間インバランス)を判定するための技術が知られている。上記従来の技術では、複数の気筒からの排気ガスが集合する排気集合部に設けられた空燃比センサの出力信号の軌跡長を取得し、その軌跡長と「機関回転速度および吸入空気量に応じて変化する参照値」とを比較している。この比較結果に基づいて、空燃比気筒間インバランス状態が発生したか否かを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7,152,594号
【特許文献2】特開2009−13967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、空燃比気筒間インバランス状態を判定するために、空燃比センサ等の排気ガスセンサを利用している。ここで、内燃機関に硫黄を高濃度に含む燃料が供給された場合、排気ガスセンサの応答性低下が問題となる。すなわち、燃料中の硫黄濃度が高いと、排気ガスセンサ素子の表面に硫黄が付着することにより、センサの応答性が低下してしまう。この影響を受けて、センサ出力を利用した空燃比気筒間インバランス状態の判定の精度が、低下してしまうおそれがある。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、燃料中の硫黄による排気ガスセンサの応答性低下に起因した誤ったインバランス判定を抑制することのできる内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置であって、
複数の気筒を備える内燃機関の排気通路に設けられた排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力に基づいて、前記複数の気筒の間における空燃比のインバランスの大きさに応じて変化するインバランス判定値を取得するインバランス判定値取得手段と、
前記インバランス判定値と所定の基準値との比較に基づいて、前記複数の気筒間におけるインバランス状態の有無を判定するインバランス判定手段と、
前記内燃機関の燃料中の硫黄濃度を取得する硫黄濃度情報取得手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記インバランス判定値と前記基準値の少なくとも一方を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
目標アドミタンス値に基づいて、前記排気ガスセンサの温度を制御する温度制御手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記目標アドミタンス値を補正する目標アドミタンス値補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記内燃機関の吸入空気量が所定の下限空気量を下回っている場合に、前記インバランス判定手段による判定を停止する又はその判定結果の使用を停止する手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度が高いほど、前記下限空気量を大きな値に設定する手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れか1つにおいて、
前記インバランス判定値取得手段で取得した前記インバランス判定値に基づいて、前記インバランス状態を抑制するように、前記内燃機関の空燃比制御にかかる制御量を補正する空燃比制御補正手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記制御量を補正する制御量補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記空燃比制御補正手段は、前記インバランス状態が大きく発生している場合に、前記内燃機関の空燃比をリッチ化するリッチ制御手段を含み、
前記制御量補正手段は、前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度が高いほど、前記リッチ制御手段における前記空燃比の前記リッチ化の量を大きくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明によれば、インバランス判定においてその判断のために使用される値に、硫黄濃度に応じた補正を行うことができる。これにより、硫黄を高濃度に含む燃料が使用される環境下にあっても、誤ったインバランス判定がなされることを抑制することができる。
【0012】
第2の発明によれば、排気ガスセンサの温度上昇措置により、硫黄による応答性低下を抑制することができる。
【0013】
第3の発明によれば、排気ガス温度が高く硫黄被毒され難い条件が成立しているときに限って、インバランス判定を行うこと又はインバランス判定の結果を使用することができる。
【0014】
第4の発明によれば、硫黄濃度が異なるとインバランス状態抑制のための適切な空燃比制御量も変わる点を考慮して、硫黄濃度に応じて空燃比制御量を補正することができる。
【0015】
第5の発明によれば、高硫黄濃度の燃料が使用されている場合にも、インバランス状態を抑制するためのリッチ化の量が不足しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置の構成を、これが適用される内燃機関の構成とともに示す図である。
【図2】燃料中の硫黄濃度とセンサ応答性との関係を示す図である。
【図3】センサ応答性とインバランス判定値(空燃比ばらつき判定値)との関係を示す図である。
【図4】高硫黄濃度の燃料を使用したときのインバランス判定値の変化を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかる、硫黄濃度に応じたインバランス判定値の補正について説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態1にかかる硫黄濃度(S濃度)に応じた補正を行った後の、インバランス判定値を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態2にかかる、燃料中の硫黄濃度と目標アドミタンスのマップの一例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態2においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【図10】本発明の実施の形態3にかかる、燃料中の硫黄濃度と判定停止ルーチンで用いられる下限空気量(検出下限空気量)との関係を規定したマップの一例を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態3においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【図12】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図13】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図14】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図15】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図16】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図17】本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。
【図18】本発明の実施の形態4においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置の構成を、これが適用される内燃機関の構成とともに示す図である。本実施形態にかかる空燃比気筒間インバランス判定装置は、車両用内燃機関に対して好適に適用することができる。
【0018】
本実施形態は、直列4気筒の内燃機関10に対して、各気筒の間で空燃比にインバランス状態が発生しているか否かを判定することができる。内燃機関10は、吸気枝管20および排気枝管40と連通している。図示しないが、内燃機関10は、気筒ごとに、それぞれ、吸気弁、排気弁、点火プラグ、燃料噴射弁などの各種構成を有している。また、同じく図示しないが、内燃機関10は、吸気弁および排気弁の駆動のための動弁機構(可変動弁機構であってもよい)も備えている。なお、本発明が適用される内燃機関は、直列4気筒型に限定されない。インバランス状態が発生しうる複数の気筒を有する内燃機関であれば、気筒数、気筒配列等の具体的構成、方式に限定無く、本発明を適用することができる。
【0019】
吸気枝管20は、その上流において、吸気通路22に連通している。吸気通路22には、スロットルバルブ24およびエアフローメータ26が設けられている。
【0020】
内燃機関10の燃料を貯留する燃料タンク30には、燃料中の硫黄濃度を検出できる硫黄濃度センサ32が備えられている。本実施形態では、この硫黄濃度センサ32は、光学式のセンサとする。
【0021】
排気枝管40は、その下流において、排気管42に連通している。排気管42には、排気触媒46(三元触媒)が設けられている。排気触媒46の上流には空燃比センサ44が、排気触媒46の下流には酸素センサ48が、それぞれ設けられている。
【0022】
ECU(Electronic Control Unit)50は、エアフローメータ26、硫黄濃度センサ32、空燃比センサ44、酸素センサ48と接続する。これにより、ECU50は、内燃機関の吸入空気量、空燃比、燃料中の硫黄濃度といった各種情報を取得することができる。また、ECU50は、図示しない燃料噴射弁とも接続している。ECU50は、目標空燃比や空燃比フィードバック制御量などにより定められる燃料噴射量を噴射するように、燃料噴射弁を制御することができる。
【0023】
実施の形態1においては、ECU50が、空燃比気筒間インバランス判定値(以下、単に「インバランス判定値」とも称す)を算出する算出ルーチンを実行可能に構成されている。このルーチンによれば、空燃比センサの出力に基づいて、複数の気筒の間における空燃比のインバランスの大きさ(度合い)に応じて変化するインバランス判定値を算出することができる。この種のインバランス判定値算出手法は既に公知の技術を利用すればよいため、詳細な説明は行わないが、例えば、「1サイクル分の空燃比センサ出力の変化(傾き)の平均値を複数サイクル分平均化し、この平均化した値が判定クライテリア(判定基準値)よりも大きい場合に、気筒間の空燃比ばらつきが許容できないほど大きい(以上である)」という判定を行うことができる。なお、特願2009−196557号出願書類にも、インバランス判定値を求める具体的技術が記載されている。
【0024】
[実施の形態1の動作]
上述したインバランス判定値を算出するために空燃比センサ出力を利用するにあたって、内燃機関10に硫黄を高濃度に含む燃料が供給された場合、空燃比センサ44の応答性低下が問題となる。すなわち、燃料タンク30の燃料中の硫黄濃度が高いと、空燃比センサ44のセンサ素子の表面に硫黄が付着することにより、センサの応答性が低下してしまう。図2は、燃料中の硫黄濃度とセンサ応答性との関係を示す図である。図3は、センサ応答性とインバランス判定値(空燃比ばらつき判定値)との関係を示す図である。
【0025】
インバランス判定値は、気筒間の空燃比のインバランスの大きさ(度合い)を示す値である。インバランス判定値が大きいほど気筒間の空燃比のインバランスが大きいという傾向で算出が行われている場合、上記の硫黄付着の影響を受けて、センサ出力を利用した空燃比気筒間インバランス判定値が実際の値よりも小さく算出されてしまうおそれがある。その場合、インバランスが実際の大きさよりも小さいものとして判定されてしまう。すなわち、本来は異常として判定すべきほどにインバランスが大きいにも関わらず、誤って小さく算出されたインバランス判定値によって、空燃比気筒間インバランスは正常であるという判定がなされてしまう。図4は、高硫黄濃度の燃料を使用したときのインバランス判定値の変化を示す図である。図に示すように、高硫黄濃度の燃料が使用された場合、インバランス判定値(空燃比ばらつき判定値)が小さめに算出されてしまうおそれがある。これにより、図のように、低硫黄濃度の燃料使用時には異常(空燃比ばらつきがクライテリアを超えて大きい)であると判定される場合であっても、高硫黄濃度の燃料使用時には、誤って、正常との判定がなされるおそれがある。
【0026】
そこで、本実施形態では、燃料タンク30の燃料中の硫黄濃度を検知し、硫黄濃度に応じた補正を行うことにより、インバランス判定において使用される値に、硫黄濃度に応じた補正を行う。これにより、硫黄を高濃度に含む燃料が使用される環境下にあっても、誤ったインバランス判定がなされることを抑制することができる。
【0027】
図5は、本発明の実施の形態1にかかる、硫黄濃度に応じたインバランス判定値の補正について説明するための図である。図5に示すように、インバランス判定値(空燃比ばらつき判定値)を、硫黄濃度(S濃度)が高いほど、小さな値へと補正する。つまり、図に示すように、下記の式に従って、インバランス判定値が補正される。
インバランス判定値 = A×S濃度+B
係数Aおよび切片Bの値は、事前に定めておきECU50に記憶しておく。
【0028】
図6は、本発明の実施の形態1にかかる硫黄濃度(S濃度)に応じた補正を行った後の、インバランス判定値を示す図である。図6において、実線は低硫黄濃度燃料の使用時におけるインバランス値とインバランス率[%]との関係を、破線は高硫黄濃度燃料の使用時において上記の補正を行った後のインバランス値とインバランス率[%]との関係を、それぞれ示す。図6に示すように、補正の効果によって、高硫黄濃度燃料使用時であっても、硫黄濃度上昇によるインバランス値の低下を抑制することができる(図6の黒丸を参照)。従って、硫黄を高濃度に含む燃料が使用される環境下にあっても、誤ったインバランス判定(誤正常判定)がなされることを抑制することができる。
【0029】
[実施の形態1の具体的処理]
以下、図7を用いて、本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置において実行される具体的処理を説明する。図7は、本発明の実施の形態1においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。
【0030】
図7に示すルーチンでは、先ず、空燃比ばらつき判定が完了しているか否かが判定される(ステップS100)。このステップの条件が成立している場合には、既に今回の空燃比ばらつき判定が完了しているため、今回の処理が終了する。
【0031】
ステップS100の条件が否定された場合には、今回の空燃比ばらつき判定が未完了である。従って、この場合には、空燃比ばらつき判定値(インバランス判定値)Afp_orgの算出が完了しているか否かが判定される(ステップS102)。このステップでは、ECU50に予め備えられた、空燃比気筒間インバランス判定値の算出ルーチンの処理が完了したか否かが判定される。このステップの条件が否定された場合には、今回の処理が終了し、処理はリターンする。
【0032】
ステップS102の条件が成立している場合には、硫黄濃度補正の処理が実行される(ステップS104)。このステップでは、下記の式に従って、補正後のインバランス判定値afp_Sが算出される。
afp_S = A×(STD_S−SD)+afp_org
係数Aは、予め実験等により定められた、硫黄濃度に対するインバランス判定値の変化率である。STD_Sは、基準硫黄濃度である。SDは、現在の硫黄濃度つまり硫黄濃度センサ32の出力に基づき特定した現在の燃料の硫黄濃度である。この式は、図5で示した特性と対応している。上記の式により、線形補正を実施し、補正後のインバランス判定値afp_Sを求めることができる。その結果、硫黄濃度が高い場合にインバランス判定値が小さめになるという影響を低減(相殺)するように、内燃機関10の燃料中の硫黄濃度が高いほど、インバランス判定値とクライテリアの比較結果がインバランス状態有りとの結果を示しやすくなるようインバランス判定値が補正される。
【0033】
続いて、下記の式が成立しているか否かにより、比較判定が行われる(ステップS106)。
afp_S > criteria
この式の条件が成立していない場合、補正後のインバランス判定値は、クライテリア(すなわち基準判定値、許容値)以下の値である。従って、この場合には、空燃比気筒間インバランス状態は十分に小さく、正常であるとの判定が下される(ステップS110)。一方、上記の式の条件が成立している場合、補正後のインバランス判定値が、クライテリアを上回っているということになる。従って、この場合には、空燃比気筒間インバランス状態が過大であり、異常であるとの判定が下される(ステップS108)。その後、今回のルーチンが終了する。
【0034】
以上の処理によれば、インバランス判定においてその判断のために使用される値であるインバランス判定値afp_orgに、硫黄濃度に応じた補正を行うことができる。これにより、硫黄濃度に応じて補正された補正後インバランス判定値afp_Sを用いて、criteriaとの比較判定を行うことができる。その結果、硫黄を高濃度に含む燃料が使用される環境下にあっても、誤ったインバランス判定がなされることを抑制することができる。
【0035】
なお、実施の形態1では、硫黄濃度に基づいて、インバランス判定値を補正している。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。クライテリアの値を、硫黄濃度に応じて調節してもよい。つまり、硫黄濃度に基づいて、内燃機関10の燃料中の硫黄濃度が高いほど、インバランス判定値とクライテリアの比較結果がインバランス状態有りとの結果を示しやすくなるように、クライテリアの値を調節してもよい。
【0036】
なお、実施の形態1では、硫黄濃度に対するインバランス判定値の変化率を用いて、インバランス判定値に線形補正を施した。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。硫黄濃度とインバランス判定値との関係を、実験やシミュレーション等によって適宜に特定しておき、これに応じた補正用ルーチンをECU50に記憶させておけば良い。また、硫黄濃度とインバランス判定値との関係は、必ずしも図5のような直線的特性としなくともよく、また、マップ等で規定してもよい。
【0037】
実施の形態2.
実施の形態2では、空燃比センサ44が目標アドミタンス値に基づいて加熱されるものとする。目標アドミタンス値の初期設定値は、予め定められ、ECU50に記憶されている。目標アドミタンス値に基づいて空燃比センサ等の排気ガスセンサの温度制御を行う技術は、既に公知であるため、これ以上の詳細な説明は行わない。これ以外の構成については、実施の形態2は実施の形態1と同じ構成を有するため、重複する点は説明を省略する。
【0038】
実施の形態1でも述べたように、燃料中の硫黄濃度が高いと、空燃比センサの応答性が低下する。その結果、空燃比気筒間インバランスの判定精度が低下するおそれがある。
【0039】
一方、このようなセンサ応答性低下の問題は、空燃比センサの素子温度を高めることによって抑制することができる。そこで、実施の形態2では、硫黄濃度が高い場合にはより高い素子温度となるように、硫黄濃度に応じて空燃比センサの目標アドミタンスの値を補正することにした。
【0040】
図8は、本発明の実施の形態2にかかる、燃料中の硫黄濃度と目標アドミタンスのマップの一例を示す図である。実施の形態2では、図8に示すマップに従って、硫黄濃度に応じた目標アドミタンスを取得する。ECU50は、予めこのマップを記憶しているものとする。
【0041】
図9は、本発明の実施の形態2においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。図9のルーチンでは、先ず、空燃比ばらつき判定が完了しているか否かが判定される(ステップS200)。このステップでは、実施の形態1にかかる図7のルーチンのステップS100と同様の処理が行われる。
【0042】
ステップS200の条件が不成立の場合には、ステップS204において、下記の式に従って、硫黄濃度に応じた目標アドミタンスの値が算出される。
adtgt = MAP(SD)
つまり、図8に示したマップが参照され、硫黄濃度センサ32の出力に基づいて特定された現在の硫黄濃度SDに応じて、目標アドミタンスの値が算出される。その後、今回のルーチンが終了し、算出された目標アドミタンスに従って、空燃比センサ44が内蔵するヒータの温度が制御される。
【0043】
ステップS200の条件が成立している場合には、ステップS202において、下記の式に従って目標アドミタンスの値が算出される。
adtgt = ADTGTBSE
その後、今回のルーチンが終了する。
【0044】
以上の処理によれば、硫黄濃度に応じて、目標アドミタンスの値を補正することができる。これにより、空燃比センサの温度上昇措置により、硫黄による応答性低下を抑制することができる。
【0045】
なお、実施の形態2では、実施の形態1の構成に対して、さらに、硫黄濃度に応じた目標アドミタンス値補正を加えている。しかしながら、実施の形態2にかかる「硫黄濃度に応じた目標アドミタンス値補正」の技術内容を、実施の形態1にかかるインバランス判定値の補正とは独立に、内燃機関に適用しても良い。つまり、実施の形態2にかかる「硫黄濃度に応じた目標アドミタンス値補正」の技術的思想のみを、単独で、実施の形態1以外の構成を有する各種の内燃機関に適用してもよい。
【0046】
実施の形態3.
実施の形態3では、ECU50が、内燃機関10の吸入空気量が所定の下限空気量を下回っている場合に、インバランス判定値を用いた空燃比気筒間インバランスの判定を停止する処理(以下、「判定停止ルーチン」とも称す)を備えている。更に、ECU50は、硫黄濃度センサ32で検出された硫黄濃度が高いほど、上記の処理における下限空気量を大きな値に設定する処理(以下、「下限空気量設定ルーチン」)を有している。これ以外の構成については、実施の形態3は実施の形態1と同じ構成を有するため、重複する点は説明を省略する。
【0047】
前述したように、燃料中の硫黄濃度が高いと、空燃比センサの応答性が低下する。その結果、空燃比気筒間インバランスの判定精度が低下するおそれがある。
【0048】
一方、このようなセンサ応答性低下の問題が生じ難い環境(運転条件)においては、前述した誤判定のおそれは少ないと考えることができる。そこで、実施の形態3では、排気ガス温度が高く硫黄被毒が生じ難い条件に内燃機関10がおかれている場合に限って、インバランス判定値を利用したインバランスの判定を行うことにした。具体的には、実施の形態3では、排気ガス温度が高く硫黄被毒が生じ難い条件として、空燃比気筒間インバランス判定を行う条件としての上記判定停止ルーチンにおける下限空気量を、硫黄濃度に応じて変更することにした。
【0049】
図10は、本発明の実施の形態3にかかる、燃料中の硫黄濃度と判定停止ルーチンで用いられる下限空気量(検出下限空気量)との関係を規定したマップの一例を示す図である。図10に示すマップに従って、硫黄濃度が高いほど検出下限空気量が高めに設定される。
【0050】
図11は、本発明の実施の形態3においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。図11のルーチンでは、先ず、空燃比ばらつき判定が完了しているか否かが判定される(ステップS300)。このステップでは、実施の形態1にかかる図7のルーチンのステップS100と同様の処理が行われる。
【0051】
ステップS300の条件が不成立の場合には、ステップS204において、下記の式に従って、硫黄濃度に応じた検出下限空気量が算出される。この処理内容が、実施の形態3における下限空気量設定ルーチンである。
air_tgt = MAP(SD)
このステップにおいて、図10に示したマップが参照され、上記の式にあるように、硫黄濃度センサ32の出力に基づいて特定された現在の硫黄濃度SDに応じて検出下限空気量が算出される。その後、今回のルーチンが終了し、算出された検出下限空気量を用いて、判定停止ルーチンが実行される。これにより、内燃機関10の吸入空気量が算出された検出下限空気量を下回っている場合に、インバランス判定値を用いた空燃比気筒間インバランスの判定が停止される。
【0052】
ステップS200の条件が成立している場合には、今回のルーチンが終了する。
【0053】
以上の処理によれば、硫黄濃度に応じて検出下限空気量を可変に設定することができる。これにより、排気ガス温度が高く硫黄被毒され難い条件が成立しているときに限って、インバランス判定を行うことができる。
【0054】
なお、実施の形態3では、内燃機関10の吸入空気量が所定の下限空気量を下回っている場合にインバランス判定値を用いた空燃比気筒間インバランスの判定が停止されたが、本発明はこれに限られない。インバランス判定値の算出やインバランスの判定自体は継続しつつも、その判定結果を実際に判定結果として使用するか否かを切り換えてもよい。これにより、排気ガス温度が高く硫黄被毒され難い条件が成立しているときに限って、インバランス判定の結果を使用することができる。
【0055】
なお、実施の形態3では、実施の形態1の構成に対して、さらに、硫黄濃度に応じた目標アドミタンス値補正を加えている。しかしながら、実施の形態3にかかる「硫黄濃度に応じた検出下限空気量の設定」の技術内容を、実施の形態1にかかるインバランス判定値の補正とは独立に、内燃機関に適用しても良い。つまり、実施の形態3にかかる「硫黄濃度に応じた検出下限空気量の設定」の技術的思想のみを、単独で、実施の形態1以外の構成を有する各種の内燃機関に適用してもよい。
【0056】
実施の形態4.
実施の形態4は、空燃比気筒間インバランス発生時におけるエミッション低減用の空燃比補正量を、燃料中の硫黄濃度に応じて変化させることにした。これ以外の構成については、実施の形態4は実施の形態1と同じ構成を有するため、重複する点は説明を省略する。
【0057】
図12乃至17は、本発明の実施の形態4にかかる空燃比制御量の補正処理について説明するための図である。燃料中の硫黄濃度が高いと、空燃比センサの触媒能が低下するため、空燃比気筒間インバランスが大きい場合に発生する水素の処理能力が低下する。水素の処理能力が低下すると、空燃比センサの出力のリッチ側へのずれ量が増える。結果として、図12に示すように、燃料中の硫黄濃度が高いほど、実空燃比の制御中心A/Fがリーン側へと変化してしまう。これに起因して、図13に示す如く、燃料中の硫黄濃度が高いと、NOxのエミッション悪化率が増加する。これらの理由から、空燃比のインバランス率(ばらつき率)を検出しこれに応じたリッチ化制御を行う場合、低硫黄濃度燃料と高硫黄濃度燃料に対して同じようにリッチ化補正を行うと、高硫黄濃度燃料使用時に十分なNOx抑制を達成できないおそれがある。つまり、図14に示すようにインバランス率が大きいほどリッチ制御量を増加する空燃比制御を行っている場合、図15に示すように、低硫黄濃度燃料では有効なNOx抑制が達成できるリッチ制御量でも、高硫黄濃度燃料ではいまだ不十分であるという事態の発生が想定される。
【0058】
そこで、実施の形態4では、硫黄濃度に応じて、リッチ制御量(リッチ化補正量)を変更することにした。図15は、燃料中の硫黄濃度、インバランス率およびリッチ制御量の関係を規定したマップの一例を示す。図16では、高硫黄濃度(例として、900ppm)の場合、中硫黄濃度(例として、200ppm)の場合、低硫黄濃度(例として、30ppm)の場合、について、それぞれ、インバランス率とリッチ制御量の関係が規定されている。このマップは、NOx悪化を抑制できるような特性に実験等で予め定めておくこととし、同じインバランス率では硫黄濃度が高いほどリッチ制御量が多くなるように定めておく。
【0059】
図17は、上述したリッチ制御量補正を行ったことによるNOx悪化率抑制効果を説明するための図である。上記の補正によれば高硫黄濃度燃料においてはリッチ制御量を多めにすることができるので、図15と17の比較からわかるように、高硫黄濃度燃料使用時においても、クライテリア以下までNOxエミッション悪化率を小さく抑えることが可能となる。このように、実施の形態4によれば、硫黄濃度が異なるとインバランス状態抑制のための適切な空燃比制御量も変わる点を考慮して、硫黄濃度に応じて空燃比制御量を補正することができる。
【0060】
図18は、本発明の実施の形態4においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。
【0061】
図18のルーチンでは、先ず、空燃比補正実行条件が成立しているか否かが判定される(ステップS400)。このステップでは、エンジン回転数、吸入空気量などによって予め定めておいた空燃比補正条件が成立した場合に、実際に空燃比補正の処理へと移行する。
【0062】
ステップS400の条件が成立している場合には、空燃比ばらつき率(空燃比インバランス率)afimbrの算出が完了しているか否かが判定される(ステップS402)。このステップが成立している場合には、下記の式に従って、空燃比補正量が算出される(ステップS404)。
afref_d = map(afimbr, SD)
上記の式は、すなわち、空燃比インバランス率と硫黄濃度とに応じて規定されたマップ(図16参照)が参照されることにより、空燃比補正量afref_dが算出されることを意味している。
【0063】
次に、目標空燃比への加算補正が行われる(ステップS408)。このステップでは、本ルーチンにおける補正なしの場合の空燃比afref(具体的には、例えば、前サイクルでの目標空燃比など)に対して補正分たるafref_dが加算されたものが、今回の目標空燃比afrefとして算定される。その後、今回のルーチンが終了し、算定されたafrefに基づいて、空燃比制御が実行される。
【0064】
一方、ステップS400の条件が不成立の場合には、空燃比補正量afref_dが、下記の式に従って、零に設定される(ステップS406)。
afref_d = 0
これにより、ステップS408へと進み、硫黄濃度分の空燃比補正が実質的には行われることなく、今回のルーチンが終了する。
【0065】
また、ステップS402の条件が不成立の場合にも、ステップS400の条件不成立時と同様に、ステップS406、S408と処理が進み、硫黄濃度分の空燃比補正が実質的には行われることなく、今回のルーチンが終了する。
【0066】
以上の処理によれば、硫黄濃度が異なるとインバランス状態抑制のための適切な空燃比制御量も変わる点を考慮して、硫黄濃度に応じて空燃比制御量を補正することができる。特に、高硫黄濃度の燃料が使用されている場合にも、インバランス状態を抑制するためのリッチ化の量が不足しないようにすることができる。また、上記の処理によれば、空燃比補正実行条件が不成立の場合やインバランス率の算出が未完了である場合には、加算量を零に設定することができる。
【0067】
なお、実施の形態4では、実施の形態1の構成に対して、さらに、硫黄濃度に応じた空燃比補正量の可変的設定を行っている。しかしながら、実施の形態4にかかる「硫黄濃度に応じた空燃比補正量の可変的設定」の技術内容を、実施の形態1にかかるインバランス判定値の補正とは独立に、内燃機関に適用しても良い。つまり、実施の形態4にかかる「硫黄濃度に応じた空燃比補正量の可変的設定」の技術的思想のみを、単独で、実施の形態1以外の構成を有する各種の内燃機関に適用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 内燃機関
20 吸気枝管
22 吸気通路
24 スロットルバルブ
26 エアフローメータ
30 燃料タンク
32 硫黄濃度センサ
40 排気枝管
42 排気管
44 空燃比センサ
46 排気触媒
48 酸素センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を備える内燃機関の排気通路に設けられた排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力に基づいて、前記複数の気筒の間における空燃比のインバランスの大きさに応じて変化するインバランス判定値を取得するインバランス判定値取得手段と、
前記インバランス判定値と所定の基準値との比較に基づいて、前記複数の気筒間におけるインバランス状態の有無を判定するインバランス判定手段と、
前記内燃機関の燃料中の硫黄濃度を取得する硫黄濃度情報取得手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記インバランス判定値と前記基準値の少なくとも一方を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置。
【請求項2】
目標アドミタンス値に基づいて、前記排気ガスセンサの温度を制御する温度制御手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記目標アドミタンス値を補正する目標アドミタンス値補正手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置。
【請求項3】
前記内燃機関の吸入空気量が所定の下限空気量を下回っている場合に、前記インバランス判定手段による判定を停止する又はその判定結果の使用を停止する手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度が高いほど、前記下限空気量を大きな値に設定する手段と、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置。
【請求項4】
前記インバランス判定値取得手段で取得した前記インバランス判定値に基づいて、前記インバランス状態を抑制するように、前記内燃機関の空燃比制御にかかる制御量を補正する空燃比制御補正手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記制御量を補正する制御量補正手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置。
【請求項5】
前記空燃比制御補正手段は、前記インバランス状態が大きく発生している場合に、前記内燃機関の空燃比をリッチ化するリッチ制御手段を含み、
前記制御量補正手段は、前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度が高いほど、前記リッチ制御手段における前記空燃比の前記リッチ化の量を大きくすることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置。
【請求項1】
複数の気筒を備える内燃機関の排気通路に設けられた排気ガスセンサと、
前記排気ガスセンサの出力に基づいて、前記複数の気筒の間における空燃比のインバランスの大きさに応じて変化するインバランス判定値を取得するインバランス判定値取得手段と、
前記インバランス判定値と所定の基準値との比較に基づいて、前記複数の気筒間におけるインバランス状態の有無を判定するインバランス判定手段と、
前記内燃機関の燃料中の硫黄濃度を取得する硫黄濃度情報取得手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記インバランス判定値と前記基準値の少なくとも一方を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置。
【請求項2】
目標アドミタンス値に基づいて、前記排気ガスセンサの温度を制御する温度制御手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記目標アドミタンス値を補正する目標アドミタンス値補正手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置。
【請求項3】
前記内燃機関の吸入空気量が所定の下限空気量を下回っている場合に、前記インバランス判定手段による判定を停止する又はその判定結果の使用を停止する手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度が高いほど、前記下限空気量を大きな値に設定する手段と、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置。
【請求項4】
前記インバランス判定値取得手段で取得した前記インバランス判定値に基づいて、前記インバランス状態を抑制するように、前記内燃機関の空燃比制御にかかる制御量を補正する空燃比制御補正手段と、
前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度に基づいて、前記制御量を補正する制御量補正手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置。
【請求項5】
前記空燃比制御補正手段は、前記インバランス状態が大きく発生している場合に、前記内燃機関の空燃比をリッチ化するリッチ制御手段を含み、
前記制御量補正手段は、前記硫黄濃度情報取得手段で取得した前記硫黄濃度が高いほど、前記リッチ制御手段における前記空燃比の前記リッチ化の量を大きくすることを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の空燃比気筒間インバランス判定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−144779(P2011−144779A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8100(P2010−8100)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]