説明

内燃機関用潤滑油組成物

【課題】低粘度であっても走行時の騒音を低減し、ギヤピッチングなどの疲労損傷を抑制し、オイル消費を低減し、かつ、良好な省燃費性を有する内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【解決手段】粘度指数が125以上であり、Noack蒸発量(250℃×1h)が15質量%以下である基油に、組成物全量を基準として、(A)質量平均分子量500以上10,000以下の炭素数2〜20のオレフィン重合体、及び/又は(B)質量平均分子量が10,000以上100,000未満の高分子化合物を0.1〜10質量%配合してなり、(C)質量平均分子量100,000以上の高分子化合物の配合量が1.0質量%未満であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,内燃機関用潤滑油組成物に関し,さらに詳しくは、走行時の騒音を低減し、疲労寿命を高め、オイル消費を低減し、かつ、良好な省燃費性を有する、二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油としても有用な内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギー、二酸化炭素(CO2)低減の要請などにより、内燃機関用潤滑油(エンジンオイル)においても必要な性能として省燃費性が強く求められている。
従来、四輪車に用いられるエンジンオイルについて、省燃費性を高める手段として、エンジンオイルを低粘度化することが行われてきた。
しかし、同じエンジンオイルであっても、二輪車に用いられるエンジンオイルの省燃費性を高めるために、エンジンオイルを低粘度化すると、四輪車と二輪車の機械的構造の相違から、種々の問題が発生する。
つまり、二輪車は、エンジンなどの装置を小型化する必要があるため、通常、エンジンとともに変速用トランスミッションをも同一のエンジンオイルで潤滑する構造を有している。
このような構造を有する二輪車に用いられるエンジンオイルとして、省燃費性を高めるために低粘度化したエンジンオイルを用いると、変速用トランスミッションでギヤピッチングなどの疲労損傷が発生する。また、二輪車では、エンジンがむき出しに設置されていることから、エンジン騒音が大きくなり騒音問題となる。さらに、二輪車は、エンジンが小型であることから、四輪車に比較して、オイルが高温になるため、オイルの蒸発に起因するオイル消費が大きくなる。
したがって、二輪車に用いるエンジン油を低粘度化して省燃費性を向上させようとした場合、これらの問題を解決する必要がある。
【0003】
また、従来、実使用温度領域の粘度を下げる手段として、基油に高分子化合物である粘度指数向上剤を組み合わせて粘度指数を向上させることが行われている(例えば、特許文献1参照)。しかし、粘度指数向上剤を含む潤滑油は、エンジンの軸受や歯車の歯面などの高せん断下では、高分子の配向により、粘度低下を起こす。そのために、従来のマルチグレード型エンジンオイル(高分子化合物を含む潤滑油)では、高温高せん断粘度が不足するため耐金属疲労性が低下する傾向があり、二輪車に用いるエンジン油を低粘度化する上で障害になっている。
したがって、二輪車に用いるエンジン油を低粘度化して省燃費性を向上させようとした場合のこの種の問題も解決できないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−087070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下で、低粘度であっても走行時の騒音を低減し、ギヤピッチングなどの疲労損傷を抑制し、オイル消費を低減し、かつ、良好な省燃費性を有する内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特定の基油に、特定構造及び分子量を有する重合体、及び/又は特定分子量の高分子化合物を配合することにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は、
【0007】
[1] 粘度指数が125以上であり、Noack蒸発量(250℃×1h)が15質量%以下である基油に、組成物全量を基準として、(A)質量平均分子量500以上10,000以下の炭素数2〜20のオレフィン重合体、及び/又は(B)質量平均分子量が10,000以上100,000未満の高分子化合物を0.1〜10質量%含み、(C)質量平均分子量100,000以上の高分子化合物の配合量が1.0質量%未満であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物、
[2]前記高分子化合物が、ポリメタクリレート、オレフィン共重合体、スチレン共重合体、及び、ポリイソブチレンの中から選ばれる一種又は二種以上の高分子化合物である上記[1]に記載の内燃機関用潤滑油組成物、
[3]さらに、モリブデン系摩擦調整剤若しくは無灰系摩擦調整剤を配合したことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の内燃機関用潤滑油組成物、
[4]Noack蒸発量(250℃×1h)が10.0質量%以下であり、かつ、粘度指数が140以上である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物、
[5]二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低粘度であっても走行時の騒音を低減し、ギヤピッチングなどの疲労損傷を抑制し、オイル消費を低減し、かつ、良好な省燃費性を有する内燃機関用潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物(以下、「本組成物」ともいう)は、粘度指数が125以上であり、Noack蒸発量(250℃×1h)が15質量%以下である基油に、組成物全量を基準として、(A)質量平均分子量500以上10,000以下の炭素数2〜20のオレフィン重合体、及び/又は(B)質量平均分子量が10,000以上100,000未満の高分子化合物を0.1〜10質量%配合してなり、(C)質量平均分子量100,000以上の高分子化合物の配合量が1.0質量%未満であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物である。以下、本組成物について詳細に説明する。
【0010】
1.基油
本発明で用いる基油は、鉱物油、合成油又はそれらの混合物からなる潤滑油基油であり、その粘度指数が125以上であることを要する。基油の粘度指数が高いほど、内燃機関用潤滑油組成物の高温における粘度の低下を抑制し、耐摩耗性や疲労寿命の低下を抑制することができる。粘度指数は130以上であることがより好ましい。
なお、粘度指数は、JIS K 2283に準拠して測定された値である。
また、本発明で用いる基油は、Noack蒸発量(250℃×1h)が15質量%以下であることが必要である。Noack蒸発量(250℃×1h)が15質量%を超えると、本組成物の蒸発損失によるオイル消費が増大する。Noack蒸発量は、10質量%以下が好ましい。
なお、Noack蒸発量は、CEC−L−40−A−93、ASTM D5800に規定の方法で測定した値である。
【0011】
また、基油としては、環分析による%CAが3.0以下で、硫黄分の含有量が100質量ppm以下のものが好ましく用いられる。
ここで、環分析による%CAとは、環分析n−d−M法にて算出した芳香族分の割合(百分率)を示す。また、硫黄分はJIS K 2541に準拠して測定した値である。
%CAが3.0以下で、硫黄分が100質量ppm以下の基油は、良好な酸化安定性を有し、酸価の上昇やスラッジの生成を抑制しうる潤滑油組成物を提供することができる。より好ましい%CAは1.0以下、さらには0.5以下である。
【0012】
本組成物に使用される基油は、100℃において、2〜20mm2/sの動粘度を有することが好ましく、より好ましい動粘度は3〜15mm2/sの範囲であり、さらに好ましい動粘度は3.5〜10mm2/sの範囲である。基油の動粘度が高すぎると、組成物としたときに攪拌抵抗が大きくなり、また、流体潤滑域での摩擦係数が高くなるため、省燃費特性が悪化する。また、動粘度が低すぎると、内燃機関の動弁系、ピストン、リングや軸受等の摺動部において摩耗が増加する。
【0013】
前記鉱物油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分や常圧残油を減圧蒸留して得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、水素化分解などの1つ以上の処理を行って精製したもの、或いは鉱油系ワックスやフィッシャー・トロプシュプロセス等により製造されるワックス(GTLワックス)を異性化することによって製造される鉱物油などが挙げられる。
【0014】
特に、本発明における粘度指数が125以上の基油は、潤滑油留分の水素化分解、あるいはワックスの水素異性化で得られた生成油を溶剤脱ろう又は水素化脱ろうすることにより好ましく製造することができる。
水素化分解は、通常、上記潤滑油留分を、水素化分解触媒、例えば、シリカ−アルミナ担体上にニッケル、コバルト等の8族金属の1種以上、及び、モリブデン、タングステン等の6A族金属の1種以上を担持した触媒と、水素分圧7〜14MPaの水素存在下、350〜450℃の温度、0.1〜2hr-1のLHSV(液空間速度)で接触させて行われる。
また、ワックスの水素異性化は、例えば、鉱油系潤滑油の溶剤脱ろう工程で得られるスラックワックスやフィッシャー・トロプシュ合成で得られたワックス等を、水素異性化触媒、例えばアルミナ、或いはシリカ−アルミナ担体上にニッケル、コバルト等の8族金属、及びモリブデン、タングステン等の6A族金属の1種以上を担持した触媒やゼオライト触媒もしくはゼオライト含有担体に白金等を担持した触媒と、水素分圧5〜14MPaの水素存在下、300〜450℃の温度、0.1〜2hr-1のLHSV(液空間速度)で接触させて行われる。
【0015】
上記方法で得られる水素化分解生成油や水素異性化生成油は、通常、軽質留分を留去して潤滑油留分を得るが、さらに脱ろう処理を行い、ワックス分を除去して、低流動点(例えば、−10℃以下)の潤滑油基油を得ることができる。
以上のような方法で得られた潤滑油留分は、所望により、さらに溶剤精製或いは水素化精製を行ってもよい。
【0016】
一方、合成油としては、従来公知の種々のものが使用可能であり、例えば、ポリ−α−オレフィン、ポリブテン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、芳香族エステル、リン酸エステル、ポリフェニルエーテル、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ネオペンチルグリコール、シリコーンオイル、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、更にはヒンダードエステルなどを用いることができるが、特にポリ−α−オレフィンは粘度指数が比較的高い点、及び、鉱物油に近い組成であるため、従来の鉱物油で使用している添加剤をそのまま使用できる点で好ましい。
本発明で用いる基油は、上記性状を満たす限り、2種類以上の鉱物油、2種類以上の合成油の混合物、又は、鉱物油と合成油の混合物であっても差し支えなく、上記混合物における2種類以上の基油の混合比は、任意に選ぶことができる。
【0017】
2.オレフィン重合体及び高分子化合物
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、上述の基油に対して、(A)質量平均分子量500以上10,000以下の炭素数2〜20のオレフィン重合体、及び/又は(B)質量平均分子量が10,000以上100,000未満の高分子化合物を0.1〜10質量%、好ましくは0.3〜7質量%、より好ましくは0.5〜5質量%配合してなり、(C)質量平均分子量100,000以上の高分子化合物の配合量が1.0質量%未満とすることによって得られる。
質量平均分子量500以上10,000以下の炭素数2〜20のオレフィン重合体や質量平均分子量が10,000以上100,000未満の高分子化合物を配合することで、組成物の粘度指数を高めるのみならず、騒音の発生を抑制することができる。
基油に対して配合される上記(B)高分子化合物の質量平均分子量が100,000未満としたのは、基油に対して配合される高分子化合物の分子量が大きいほど粘度指数を向上させる効果は大きいものの、せん断によって高分子化合物の分子鎖が配向することで、一時的な粘度低下を引き起こし、必要な高温高せん断粘度を維持できなくなる恐れがあり、また、使用により高分子化合物の分子鎖が切断されて分子量が低下し、粘度が低下してしまう恐れがあるからである。
したがって、質量平均分子量が100,000以上(より好ましくは70,000以上、さらに好ましくは50,000以上)の上記(C)高分子化合物を配合しないことが望ましいのであるが、粘度指数を向上させるために止むを得ず添加する場合もある。ただし、その場合であっても1.0質量%未満、好ましくは0.1質量%未満、さらに好ましくは、0.01質量%未満とすることで、本発明の内燃機関用潤滑油組成物を得ることができる。
なお、上記(B)高分子化合物の質量平均分子量は70,000以下であることが好ましく、50,000以下であることが、より好ましい。
【0018】
前記(A)のオレフィン重合体としては、炭素数2〜20、好ましくは2〜16、より好ましくは2〜14のオレフィンの単独重合体及び共重合体から選択される一種以上を使用する。炭素数2〜20のオレフィン重合体として代表的なものは、エチレン−α−オレフィン共重合体並びにα−オレフィンの単独重合体及び共重合体が挙げられる。このうち、エチレン−α−オレフィン共重合体としては、15〜80モル%のエチレンと、プロピレン、1−ブテン、1−デセンなどの炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体が挙げられ、ランダム体でもブロック体でもよい。該共重合体は潤滑油に対して非分散型であるが、エチレン−α−オレフィン共重合体をマレイン酸、N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾール、グリシジルアクリレートなどでグラフト化した分散型のものも使用できる。また、α−オレフィンの単独重合体及び共重合体は、好ましくは炭素数4〜20、より好ましくは炭素数6〜16、さらに好ましくは炭素数6〜14のα−オレフィンの単独重合体及び共重合体で、共重合体は、ランダム体でもブロック体でもよい。
これらのオレフィン重合体は、任意の方法で製造することができる。例えば、無触媒による熱反応によって製造することができるほか、過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物触媒;塩化アルミニウム、塩化アルミニウム−多価アルコール系、塩化アルミニウム−四塩化チタン系、塩化アルミニウム−アルキル錫ハライド系、フッ化ホウ素などのフリーデルクラフツ型触媒;有機塩化アルミニウム−四塩化チタン系、有機アルミニウム−四塩化チタン系などのチーグラー型触媒;アルミノキサン−ジルコノセン系、イオン性化合物−ジルコノセン系などのメタロセン型触媒;塩化アルミニウム−塩基系、フッ化ホウ素−塩基系などのルイス酸コンプレックス型触媒などの公知の触媒系を用いて、上記のオレフィンを単独重合または共重合させることで製造することができる。なお、上記したオレフィン重合体を用いることができるが、当該オレフィン重合体は通常二重結合を有しているので、その熱・酸化安定性を考慮すると、オレフィン重合体中の二重結合を水素化したオレフィン重合体の水素化物を用いることが好ましい。
なお、オレフィン重合体の質量平均分子量は2,000〜9,000であることが好ましく、3,000〜8,000であることが、より好ましい。
【0019】
前記高分子化合物としては、ポリメタクリレート(PMA)、オレフィン系共重合体(オレフィンコポリマー)、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン水素化共重合体など)及びポリイソブチレンから選ばれる少なくともいずれか一種が好ましく挙げられる。ポリメタクリレートは、分散型、非分散型のどちらでも使用できる。オレフィンコポリマーとして代表的なものは、エチレン−α−オレフィン共重合体である。
これらの中から一種を単独で、あるいは二種以上組み合わせて使用することができる。より好ましくは、ポリメタクリレート(PMA)、オレフィン系共重合体(オレフィンコポリマー)が挙げられる。
【0020】
3.摩擦調整剤
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物においては、省燃費特性を向上させるために、モリブデン系摩擦調整剤や無灰系摩擦調整剤を配合することが好ましい。モリブデン系摩擦調整剤及び無灰系摩擦調整剤を併用するとより好ましい。
モリブデン系摩擦調整剤としては、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジチオリン酸モリブデン(以下、MoDTPともいう)及びモリブデン酸のアミン塩(以下、Moアミン塩ともいう)から選ばれる少なくとも一種が好適に用いられる。モリブデン系摩擦調整剤の中では、効果の点でMoDTCが好ましい。これらは、一種あるいは二種以上組み合わせて使用することができ、その好ましい配合量は、組成物全量に基づきモリブテン量として好ましくは10〜1000質量ppm、より好ましくは100〜800質量ppmの範囲である。モリブデン量が10質量ppm未満では十分な低摩擦性が得られないし、1000重量ppmを超えるとその量の割には摩擦特性の向上効果がみられない。
MoDTCは下記一般式(I)で表される。
【0021】
【化1】

【0022】
一般式(I)において、R1〜R4は炭素数5〜16の炭化水素基であり、全て同一でも異なっていてもよい。XはS(硫黄原子)又はO(酸素原子)である。R1〜R4で表される炭化水素基としては、例えば、炭素数5〜16のアルキル基、炭素数5〜16のアルケニル基、炭素数5〜16のシクロアルキル基、炭素数5〜16のアルキルアリール基、炭素数5〜16のアリールアルキル基などを挙げることができる。炭素数5〜16の炭化水素の具体例としては、各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基,各種ノニル基,各種デシル基,各種ウンデシル基,各種ドデシル基,各種トリデシル基,各種テトラデシル基,各種ペンタデシル基,各種ヘキサデシル基,各種オクテニル基,各種ノネニル基,各種デセニル基,各種ウンデセニル基,各種ドデセニル基,各種トリデセニル基,各種テトラデセニル基,各種ペンタデセニル基,シクロヘキシル基,ジメチルシクロヘキシル基,エチルシクロヘキシル基,メチルシクロヘキシルメチル基,シクロヘキシルエチル基,プロピルシクロヘキシル基,ブチルシクロヘキシル基,ヘプチルシクロヘキシル基,フェニル基,トリル基,ジメチルフェニル基,ブチルフェニル基,ノニルフェニル基,メチルベンジル基,フェニルエチル基,ナフチル基,ジメチルナフチル基などを挙げることができる。
また、MoDTPは下記一般式(II)で表される。
【0023】
【化2】

【0024】
一般式(II)において、R5〜R8は炭素数5〜16の炭化水素基であり、全て同一でも異なっていてもよい。YはS(硫黄原子)又はO(酸素原子)である。R5〜R8で表される炭化水素基としては、例えば、炭素数5〜16のアルキル基、炭素数5〜16のアルケニル基、炭素数5〜16のシクロアルキル基、炭素数5〜16のアルキルアリール基、炭素数5〜16のアリールアルキル基などを挙げることができる。炭素数5〜16の炭化水素の具体例としては、各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基,各種ノニル基,各種デシル基,各種ウンデシル基,各種ドデシル基,各種トリデシル基,各種テトラデシル基,各種ペンタデシル基,各種ヘキサデシル基,各種オクテニル基,各種ノネニル基,各種デセニル基,各種ウンデセニル基,各種ドデセニル基,各種トリデセニル基,各種テトラデセニル基,各種ペンタデセニル基,シクロヘキシル基,ジメチルシクロヘキシル基,エチルシクロヘキシル基,メチルシクロヘキシルメチル基,シクロヘキシルエチル基,プロピルシクロヘキシル基,ブチルシクロヘキシル基,ヘプチルシクロヘキシル基,フェニル基,トリル基,ジメチルフェニル基,ブチルフェニル基,ノニルフェニル基,メチルベンジル基,フェニルエチル基,ナフチル基,ジメチルナフチル基などを挙げることができる。
Moアミン塩は下記一般式(III)で表されるモリブデン酸の第二級アミン塩である。
【0025】
【化3】

【0026】
一般式(III)において、Rは炭素数5〜18の炭化水素基であり、4個の炭化水素基は同一でも、異なっていてもよい。炭素数5〜18の炭化水素基としては、例えば、炭素数5〜18のアルキル基、炭素数5〜18のアルケニル基、炭素数5〜18のシクロアルキル基、炭素数5〜18のアルキルアリール基、炭素数5〜18のアリールアルキル基などを挙げることができる。炭素数5〜18の炭化水素の具体例としては、各種ペンチル基,各種ヘキシル基,各種ヘプチル基,各種オクチル基,各種ノニル基,各種デシル基,各種ウンデシル基,各種ドデシル基,各種トリデシル基,各種テトラデシル基,各種ペンタデシル基,各種ヘキサデシル基,各種ヘプタデシル基,各種オクタデシル基,各種オクテニル基,各種ノネニル基,各種デセニル基,各種ウンデセニル基,各種ドデセニル基,各種トリデセニル基,各種テトラデセニル基,各種ペンタデセニル基,シクロヘキシル基,ジメチルシクロヘキシル基,エチルシクロヘキシル基,メチルシクロヘキシルメチル基,シクロヘキシルエチル基,プロピルシクロヘキシル基,ブチルシクロヘキシル基,ヘプチルシクロヘキシル基,フェニル基,トリル基,ジメチルフェニル基,ブチルフェニル基,ノニルフェニル基,メチルベンジル基,フェニルエチル基,ナフチル基,ジメチルナフチル基などを挙げることができる。
【0027】
無灰系摩擦調整剤としては、例えば、脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、油脂類、アミン、アミド、硫化エステル等が挙げられる。これらの摩擦調整剤は、単独で又は複数種を任意に組み合わせて含有させることができるが、通常、その配合量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%の範囲である。
【0028】
4.内燃機関用潤滑油組成物
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、基油の粘度指数、Noack蒸発量(250℃×1h)、オレフィン重合体、高分子化合物の質量平均分子量及び高分子化合物の配合量を上記規定範囲とすることで得ることができる。このような配合であれば、粘度指数が135若しくは140以上で、騒音が低く、ギヤピッチングなどの疲労損傷を抑制する効果に優れた省燃費型内燃機関用潤滑油組成物が得られる。
【0029】
また、本組成物は、150℃における高せん断時の粘度低下率が、低せん断時の粘度に対して3.0%以下であることが好ましい。高せん断時の粘度低下率が3.0%を超える内燃機関用潤滑油は、粘度低下を見越して低せん断粘度を高く設定する必要があり、省燃費性を悪化させてしまうからである。
さらに、潤滑油組成物は、100℃における動粘度が11.0mm2/s未満であることが好ましい。11.0mm2/s以上になると、内燃機関用潤滑油の実使用温度領域(80℃〜100℃)の動粘度としては高いため、省燃費化を図ることができないからである。
特に、潤滑油組成物は、150℃における高せん断粘度がSAE粘度グレードで30相当の2.9mPa・s以上の場合、100℃おける動粘度が、9.0mm2/s未満であることが望ましく、150℃における高せん断粘度がSAE粘度グレードで20相当の2.6mPa・s以上の場合は、100℃おける動粘度が、7.5mm2/s未満が望ましい。これらの100℃動粘度を超えると、実使用温度領域(80℃〜100℃)における内燃機関用潤滑油の粘性が高くなり過ぎてしまい、従来油と比較して省燃費化を図ることができないからである。
【0030】
5.その他の添加剤
さらに、本発明の内燃機関用潤滑油組成物においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、無灰系分散剤、金属系清浄剤、極圧剤、金属不活性化剤、防錆剤、消泡剤、抗乳化剤及び着色剤等に代表される各種添加剤を単独で、又は数種組み合わせて配合してもよい。
無灰系分散剤としては、質量平均分子量が900〜3,500のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド、ポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、及びこれらのホウ酸変性物等の誘導体等が挙げられる。これらの無灰分散剤は、単独で又は複数種を任意に組み合わせて含有させることができるが、通常その配合量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%の範囲である。
【0031】
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属(ナトリウム(Na)、カリウム(K)等)又はアルカリ土類金属(カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等)のスルフォネート、フェネート、サリシレート及びナフテネート等が挙げられる。これらは単独で又は複数種を組み合わせて使用できる。これらの金属系清浄剤の全塩基価及び配合量は、要求される潤滑油の性能に応じて適宜選択すればよい。全塩基価は、過塩素酸法で通常0〜500mgKOH/g、望ましくは10〜400mgKOH/gである。また、その配合量は、通常、組成物全量基準で0.1〜10質量%の範囲である。
【0032】
極圧剤としては、例えば、硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィドなどの硫黄系化合物、リン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩などのリン系化合物等が挙げられ、通常、その配合量は、組成物全量基準で0.01〜10質量%の範囲である。
【0033】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体等が挙げられ、通常、その配合量は、組成物全量基準で0.01〜3質量%の範囲である。
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、アルカリ土類金属(カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)等)のスルフォネート、フェネート、サリシレート及びナフテネート、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられ、通常、その配合量は、組成物全量基準で0.01〜5質量%の範囲である。
消泡剤としては、液状シリコーンが適しており、例えば、メチルシリコーン、フルオロシリコーン、及びポリアクリレート等が使用可能である。これら消泡剤の好ましい配合量は、組成物全量基準で0.0005〜0.1質量%である。
抗乳化剤として、エチレンプロピレンブロックポリマー、アルカリ土類金属(カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等)のスルフォネート、フェネート、サリシレート及びナフテネートなどを用いることができ、通常その配合量は0.0005〜1質量%である。
着色剤としては、染料や顔料等を用いることができ、通常、その配合量は、組成物全量基準で0.001〜1質量%である。
【0034】
このようにして調製された本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、上述のように配合してなるので、低粘度であるが、蒸発減量が少なく、粘度指数が高く、かつ、高温高せん断時における粘度低下率が低いという効果を有する。特に、そのような性質を有するとともに、騒音を低減する効果、疲労損傷を抑制する効果及び省燃費性を有する。それ故、内燃機関用潤滑油、特に二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油として有用な内燃機関用潤滑油組成物として好適に用いることができる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例によってなんら限定されるものでない。
なお、各例における潤滑油組成物(試料油)の性状は以下のような方法で求めた。
(1)動粘度(40℃、100℃)及び粘度指数
JIS K 2283の方法により測定した。
(2)HTHS粘度(150℃)
ASTM D4683の方法により、TBS高温粘度計(Tapered Bearing Simulator)を用いて測定した。試験条件を以下に示す。
・せん断速度 :106sec-1
・回転数(モーター) :3000rpm
・間隔(ローター/ステーター):2〜3μm
・試料量 :20〜50ml
・測定時間 :校正4〜6時間
:試験15分間
(3)低温粘度(CCS粘度)
JIS K2606に準拠し、−25℃、−30℃における粘度を測定した。
(4)Noack蒸発量
CEC−L−40−A−93、ASTM D5800/Aに規定される方法で蒸発量を測定した。試験条件は、250℃で1時間である。
【0036】
(5)騒音性評価
下記のエンジンモータリング装置と運転条件下で発生する音を、下記の方法によって騒音測定を行った。
[エンジンモータリング装置と運転条件]
エンジン:二輪車用水冷600CC、4気筒エンジン
駆動モーター:7.5kw
動弁形式:DOHC(直打)
エンジン回転数:3000rpm
オイルパン油温:100℃
[騒音測定方法]
騒音計(小野測器社製 LA5560)を用い、周波数分析装置(小野測器製Repolyzer XN−8100)にて、6300Hzの周波数のパワースペクトル(dB)を測定した。
(6)省燃費性の評価
以下のような仕様のエンジンにエンジン油を充填してモータリングトルク試験を行い、所定回転数におけるトルク(dB)を測定した。試験条件を以下に示す。
・エンジンモータリング装置と運転条件
・エンジン:二輪車用水冷600CC 4気筒エンジン
・動弁形式:DOHC(直打)
・エンジン回転数:5000rpm
・オイルパン油温:100℃
・駆動モーター:7.5kw
(7)疲労寿命
4球転動疲労試験機を用い、下記の要領にて疲労寿命を測定した。
(ベアリング)
材質 :ベアリング鋼
試験片 :Φ60×暑さ5mm
試験鋼球寸法:φ3/8 インチ
(試験条件)
荷重:147N
回転速度:2200rpm
油温:120℃
(評価方法)
試験片にフレーキングが発生するまでの時間を疲労寿命とし、6回の試験の結果をワイブル統計処理し、L50(分)を算出した。
(8)粘度低下率
100℃における動粘度と粘度指数から、150℃における動粘度を求めた値に、JIS K 2249に準じて測定した15℃における密度と80℃における密度から、150℃における密度を外挿して求めた値を掛け合わせることで、150℃における低せん断時の粘度とした。この値と上記HTHS粘度(150℃)より、粘度低下率を算出した。
【0037】
〔実施例1〜5、比較例1〜7〕
以下に示す各種基油、各種共重合体、高分子化合物、添加剤を用いて、第1表の組成にしたがって内燃機関用潤滑油組成物(試料油)を調製した。
調製した試料油は前記した方法で各性状を評価し、結果を第1表に示す。
(基油)
・基油−1 鉱物油系水素化分解基油(API分類GIII)100N、100℃動粘度4.175mm2/s、粘度指数131、硫黄分0.01質量%以下、%CA0、Noack蒸発量14質量%
・基油−2 鉱物油系水素化分解基油(API分類GIII)、150N、100℃動粘度6.274mm2/s、粘度指数129、硫黄分0.01質量%以下、%CA0、Noack蒸発量6質量%
・基油−3 鉱物油系水素化精製基油(API分類GII)、150N、100℃動粘度5.284mm2/s、粘度指数104、硫黄分0.01質量%以下、%CA0、Noack蒸発量14質量%
・基油−4 鉱物油系水素化精製基油(API分類GII)、500N、100℃動粘度10.89mm2/s、粘度指数107、硫黄分0.01質量%以下、%CA0、Noack蒸発量4質量%
・基油−5 鉱物油系水素化精製基油(API分類GII)、ブライトストック、API分類GII)、100℃動粘度30.86mm2/s、粘度指数107、硫黄分0.01質量%以下、%CA0、Noack蒸発量2質量%以下
【0038】
(オレフィン重合体)
・共重合体−1 エチレン−α−オレフィン共重合体 質量平均分子量4,700 (三井化学社製 ルーカントHC600)
・共重合体−2 エチレン−α−オレフィン共重合体 質量平均分子量7,000 (三井化学社製 ルーカントHC2000)
(高分子化合物)
・高分子化合物―1 ポリメタクリレート(PMA)、 質量平均分子量45,000 (三洋化成工業社製 アクルーブC−728)
・高分子化合物―2 オレフィンコポリマー(OCP)、質量平均分子量100,000 (シェブロン社製 Paratone8057)
(流動点降下剤)
PMA、質量平均分子量690,000、(デグサ社製 PLEXOL−162)
(摩擦調整剤)
モリブデン系摩擦調整剤:モリブデン系摩擦調整剤としてモリブデンジアルキルジチオカルバメートを用いた。なお、モリブデン量としては4.5wt%である。
(DI剤)
パッケージ添加剤、ZnDTP(1.1)、金属系清浄剤(4)、硼素変性コハク酸イミドA(1)、硼素変性コハク酸イミドB(1)、ポリブテニルコハク酸イミド(2.1)、アミン系酸化防止剤(0.8)及び希釈油(残部)の混合物。( )内は質量%を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
第1表の結果から以下のことが分かる。
(1)本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、いずれも良好な低騒音性、耐疲労寿命性、省燃費性、耐蒸発性、及び、低粘度低下性を有する(実施例1〜5)。これに対し、本発明のいずれかの要件を満たさない組成物は、これらの性能のうちの一以上の性能を満たさない。
(2)具体的には、次のことが明確である。
(i)実施例1、実施例2及び実施例5の組成物は、粘度グレードが、5W−20油であるが、粘度グレードが10W−30で、より高粘度(動粘度)の比較例3の組成物と同等もしくはそれ以上に良好な低騒音性、耐疲労寿命性、耐蒸発性を有する。
(ii)実施例3の組成物は、粘度グレードが、10W−20油であるが、粘度グレードが40で、より粘度(動粘度)が高い比較例7の組成物と同等もしくはそれ以上に良好な低騒音性、耐疲労寿命性を有する。
(iii)実施例4の組成物は、粘度グレードが、10W−30油であるが、粘度グレードが10W−40で、より粘度(動粘度)が高い比較例4の組成物と同等もしくはそれ以上に良好な低騒音性、耐疲労寿命性、耐蒸発性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、低粘度であっても走行時の騒音を低減し、ギヤピッチングなどの疲労損傷を抑制し、オイル消費を低減し、かつ、良好な省燃費性を有する内燃機関用潤滑油組成物を提供することができる。したがって、二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油にも効果的に使用できる内燃機関用潤滑油組成物として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度指数が125以上であり、Noack蒸発量(250℃×1h)が15質量%以下である基油に、組成物全量を基準として、(A)質量平均分子量500以上10,000以下の炭素数2〜20のオレフィン重合体、及び/又は(B)質量平均分子量が10,000以上100,000未満の高分子化合物を0.1〜10質量%含み、(C)質量平均分子量100,000以上の高分子化合物の配合量が1.0質量%未満であることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記高分子化合物が、ポリメタクリレート、オレフィン共重合体、スチレン共重合体、及びポリイソブチレンの中から選ばれる一種又は二種以上の高分子化合物である請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項3】
さらに、モリブデン系摩擦調整剤若しくは無灰系摩擦調整剤を配合したことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項4】
Noack蒸発量(250℃×1h)が10.0質量%以下であり、かつ、粘度指数が140以上である請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項5】
二輪車用4サイクルエンジン用潤滑油である請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2011−195734(P2011−195734A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64942(P2010−64942)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】