円板部材の製造方法およびサイジング金型
【課題】加熱処理によって円板部材の真円度が低下した場合であっても、サイジング金型を用いて円板部材を真円に是正することができ、円板部材の真円度を向上させることができる円板部材の製造方法およびサイジング金型を提供すること。
【解決手段】クラッチハブを製造するに際し、外周部に複数のキー溝が形成されたクラッチハブを焼結した後、サイジング工程において、円状の内周部42を有する嵌合穴43および内周部42から放射方向内方に向かって突出する複数の突部45を含み、内周部42の内径が突部45に向かうに従って大きくなるように内周部42の曲面が形成されるサイジング金型41を用い、クラッチハブの焼結体のキー溝を突部45に位置合わせしてクラッチハブを嵌合穴43に圧入して寸法矯正するようにした。
【解決手段】クラッチハブを製造するに際し、外周部に複数のキー溝が形成されたクラッチハブを焼結した後、サイジング工程において、円状の内周部42を有する嵌合穴43および内周部42から放射方向内方に向かって突出する複数の突部45を含み、内周部42の内径が突部45に向かうに従って大きくなるように内周部42の曲面が形成されるサイジング金型41を用い、クラッチハブの焼結体のキー溝を突部45に位置合わせしてクラッチハブを嵌合穴43に圧入して寸法矯正するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円板部材および円板部材の製造方法に関し、熱処理によって外周部に外周溝を有する円板部材を成形した後、サイジング金型によって円板部材の寸法矯正を行うようにした円板部材の製造方法およびサイジング金型に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の手動変速機において、変速のためのシフト操作が行われるとき、新しくギヤ段を成立させるために、噛み合うギヤ同士を回転同期させてからシフト操作を完了させる同期式噛み合い装置を用いることが知られている。
【0003】
この同期式噛み合い装置としては、図7に示すようなものが知られている。図7において、回転軸16上にトルク伝達可能に組付けられたクラッチハブ15と、クラッチハブ15上に軸方向に移動可能かつトルク伝達可能に支持されたスリーブ11と、回転軸16上に遊嵌されたギヤ10A、10Bと、ギヤ10A、10Bとそれぞれ一体回転するギヤピース13、14と、スリーブ11とギヤピース13、14との間にそれぞれ介装され、スリーブ11とギヤピース13、14との間で摩擦力によりトルクの伝達を行うシンクロナイザリング17、18と、スリーブ11を軸方向に移動させるシフトフォーク12とを備えている。
【0004】
また、図8に示すように、クラッチハブ15の外周部にはスリーブスプライン11Aに嵌合するハブスプライン15Aが形成されており、このハブスプライン15Aには、クラッチハブ15の円周方向に一定の間隔でキー溝15aが形成されている。
【0005】
このキー溝15aには、弾性部材によってスリーブ11の内周部に設けられた位置決め面に押圧されてスリーブ11を回転軸16上に位置決めさせる一方、スリーブ11に加えられる軸心方向の操作力により弾性部材が弾性変形させられると、スリーブ11の軸心方向の移動を許容するシンクロナイザキー15bが収納されている。
【0006】
また、スリーブスプライン11Aとギヤピーススプライン13A、14Aとは、スリーブ11が所定方向に移動すると、シンクロナイザリング17、18の作用により、スリーブ11側とギヤピース13、14側の回転が同期した後、噛合するようになっている。
【0007】
これによって、回転軸16からクラッチハブ15、スリーブ11、ギヤピース13、14のいずれか一方を介して、ギヤ10A、10Bのいずれか一方にトルクが伝達されるようになっている。
【0008】
ところで、この同期式噛み合い装置は、例えば、振動等に起因してスリーブ11とギヤピース13、14との噛み合いが自然に解除される、所謂、ギヤ抜け(シフト抜け)が発生することがある。
【0009】
このギヤ抜けを防止するために、スリーブスプライン11Aとギヤピーススプライン13Aの形状を工夫したものがあり、図9のように示される(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
図9において、スリーブ11のスリーブスプライン11Aの歯面には、スリーブスプライン11Aの歯幅が歯先側に向かうに従って広くなるようテーパ角Q1のテーパ歯面11aが形成されており、ギヤピース13のギヤピーススプライン13Aの歯面には、ギヤピーススプライン13Aの歯幅が歯先側に向かうに従って広くなるようテーパ角Q2のテーパ歯面13aが形成されている。また、テーパ歯面11aの歯先側には歯元側を向いた斜面11bが形成されており、テーパ歯面13aの歯元側には歯元側を向いた面取り面13bが形成されている。
【0011】
この同期式噛み合い装置は、シフトフォーク12を操作してスリーブ11をニュートラル位置から軸方向に変位させ、シンクロナイザリング17、18の作用により、ギヤピース13(14)とスリーブ11の回転を同期させ、ギヤピース13(14)とスリーブ11が係合した状態、すなわち、テーパ歯面11a、13a同士が対向した状態において、トルク入力ないし変動がある場合、斜面11bと面取り面13bとを摺接させて、大きなギヤ抜け防止力を発生させることができる。
【0012】
このように斜面11bと面取り面13bとの摺接によって大きなギヤ抜け防止力が発生するため、テーパ面11a、13aのテーパ角度Q1、Q2を小さくしても、所定のギヤ抜け防止力を得ることができ、スリーブ11に吸い込み力が作用した場合のスリーブ11の吸い込み量を減少させることができる。
【0013】
ところで、この同期式噛み合い装置は、スリーブ11とギヤピース13、14とのギヤ抜けを防止するために、スリーブ11およびギヤピース13にテーパ歯面11a、テーパ歯面13a、斜面11bおよび面取り面13bを形成する必要がある。このため、同期式噛み合い装置の製造が面倒である上に、同期式噛み合い装置の設計の自由度が低下してしまう。
【0014】
一方、上述したように外周部にキー溝15aを有するクラッチハブ15は、例えば、原料粉末をクラッチハブ15の形状に圧粉成形して焼結する等の熱処理を行った後、クラッチハブ15をサイジング金型でサイジングすることにより、クラッチハブ15の寸法矯正を行うようにして製造されることが一般的に行われている(例えば、特許文献2参照)。
【0015】
このサイジング金型は、クラッチハブ15が嵌合されるキャビティ(嵌合穴)を備えており、クラッチハブ15をキャビティに嵌合して圧力を加えることで、クラッチハブ15の寸法調整を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2008−51142号公報
【特許文献2】特開2009−167477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、クラッチハブ15を焼結等の熱処理によって成形する際に、高温の熱の影響を受けてキー溝15aとキー溝15aとの間に位置する放射方向の肉厚が大きい部位(以下、厚肉部19という)が放射方向外方に膨張して、所謂、花びら形状となってしまう。
【0018】
すなわち、図10に示すように、クラッチハブ15の焼結時に、クラッチハブ15の外周部であるハブスプライン15Aの歯底円Aの真円度を高めた形状となるように成形したいのにもかかわらず、厚肉部19が膨張することでクラッチハブ15の歯底円Bが真円となるべき歯底円Aから放射方向外方にずれて湾曲してしまい、クラッチハブ15の真円度が悪化してしまう。
なお、図10において、歯底円Aと歯底円Bとのずれを極端に表しているが、歯底円Aと歯底円Bとの実際のずれ量はμm単位である。
【0019】
図11に厚肉部19が膨張して花びら形状となった厚肉部19の状態を模式的に示すように、厚肉部19の膨張量は、キー溝15aに最も近い部位が小さく、キー溝15aからキー溝15aとキー溝15aと間の円周方向の中央部に向かうに従って大きいものとなる。
【0020】
本出願人は、このように熱処理時に上述した現象が生じることを発見するとともに、この現象がギヤ抜けの発生要因の1つであることを発見した。
【0021】
すなわち、クラッチハブ15に厚肉部19が発生すると、変速時に、例えば、クラッチハブ15のハブスプライン15Aがスリーブ11のスリーブスプライン11Aに噛み合っている状態において、ハブスプライン15Aとスリーブスプライン11Aの噛み合いの精度が悪化してしまい、ハブスプライン15Aとスリーブスプライン11Aの接触部の抜け力が増加しまう。
【0022】
このようなギヤ抜けの発生を防止するには、焼結時に厚肉部19が放射方向外方に膨張しないようにするために、原料粉末の材料を選択すること等が考えられるが、この場合には、高価な原料粉末が必要となり、クラッチハブ15の製造コストが増大してしまうおそれがある。
【0023】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、加熱処理によって円板部材の真円度が低下した場合であっても、サイジング金型を用いて円板部材を真円に是正することができ、円板部材の真円度を向上させることができる円板部材の製造方法およびサイジング金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係る円板部材の製造方法は、上記目的を達成するため、(1)外周部に少なくとも1つ以上の外周溝が形成された円板部材を熱処理により成形する熱処理工程と、円状の内周部を有する嵌合穴および前記内周部から放射方向内方に向かって突出する少なくとも1つ以上の突部を含み、前記内周部の内径が前記突部に向かうに従って大きくなるように前記内周部の曲面が形成されるサイジング金型を用い、前記外周溝を前記突部に位置合わせして前記円板部材を前記嵌合穴に圧入するサイジング工程とを含むものである。
【0025】
この円板部材の製造方法は、熱処理工程において、外周溝の間の放射方向の肉厚が大きい部位が放射方向外方に膨張することで円板部材の真円度が低下した場合に、嵌合穴の内周部の内径が突部に向かうに従って大きくなるように内周部の曲面が形成されるサイジング金型を用い、外周溝をサイジング金型の突部に位置合わせして円板部材をサイジング金型の嵌合穴に圧入して、円板部材の寸法矯正を行うことにより、円板部材の外周部の膨張した部位を嵌合穴の内周部によって真円に是正することができる。
【0026】
このため、円板部材の真円度を高めることができ、例えば、円板部材をクラッチハブに適用した場合には、クラッチハブのハブスプラインとスリーブのスリーブスプラインとの噛み合いの精度を向上させることができる。クラッチハブのハブスプラインとスリーブのスリーブスプラインとの抜け力を低減させることができ、振動等に起因してスリーブがクラッチハブから抜け出る、所謂、ギヤ抜けが生じることを防止することができる。
【0027】
また、嵌合穴の内周部の形状を工夫したサイジング金型を用いて円板部材の外周部を真円に是正することができるので、高価な材料を用いることなく円板部材を製造することができ、円板部材の製造コストが増大するのを防止することができる。
【0028】
上記(1)に記載の円板部材の製造方法において、(2)前記熱処理工程では、前記円板部材の外周部に外歯を形成し、前記サイジング工程では、前記円状の内周部に内歯が形成されたサイジング金型を用いて前記円板部材を嵌合穴に圧入することにより、円板部材としてクラッチハブを製造する。
【0029】
この円板部材の製造方法は、クラッチハブの真円度を高めることができるため、クラッチハブのハブスプラインとスリーブのスリーブスプラインとの抜け力を低減させることができ、ギヤ抜けが生じることを防止することができる。
【0030】
上記(1)または(2)に記載の円板部材の製造方法において、(3)前記熱処理工程は、焼結工程である。
【0031】
この円板部材の製造方法は、円板部材を焼結によって成形するので、熱処理工程で外周溝の間の放射方向の肉厚が大きい部位が放射方向外方に膨張することによって、円板部材の真円度が低下した場合であっても、サイジング金型を用いて円板部材の寸法矯正を行うことにより、円板部材の外周部を真円に是正することができる。このため、焼結による利点を損なうことなく、円板部材の製造コストを低減して強度の高い円板部材を得ることができる。
【0032】
上記(1)〜(3)のいずれかに記載の円板部材の製造方法に用いられるサイジング金型であって、(4)サイジング金型が、円状の内周部を有する嵌合穴および前記内周部から放射方向内方に向かって突出する少なくとも1つ以上の突部を含み、前記内周部の内径が前記突部に向かうに従って大きくなるように前記内周部の曲面が形成されるものから構成されている。
【0033】
本発明は、熱処理工程で嵌合穴の間の放射方向の肉厚が大きい部位が放射方向外方に膨張することにより、円板部材の真円度が低下した場合に、嵌合穴の内周部の内径が突部に向かうに従って大きくなるように内周部の曲面が形成されるサイジング金型を用い、外周溝をサイジング金型の突部に位置合わせして円板部材をサイジング金型の嵌合穴に圧入して、円板部材の寸法矯正を行うことにより、円板部材の外周部を真円に是正することができる。
【0034】
上記(4)のサイジング金型において、(5)前記内周部の円周方向に離隔する複数の突部を有し、前記突部の突出方向中心線を結んだ前記内周部の円周方向略中央部の内径が最も小さく、前記円周方向中央部から前記突部の突出方向中心線に向かうに従って内径が大きくなるように湾曲するものから構成されている。
【0035】
本発明は、外周部に複数の嵌合穴を有する円板部材を熱処理して円板部材を成形した場合に、複数の嵌合穴の間の放射方向の肉厚が大きい部位が放射方向外方に膨張して真円度が低下した場合に、突部の突出方向中心線を結んだ内周部の円周方向略中央部の内径が最も小さく、円周方向中央部から突部の突出方向中心線に向かうに従って内径が大きくなるように湾曲するサイジング金型を用いて円板部材の寸法矯正を行う。
【0036】
このようにすれば、複数の外周溝を有する円板部材の外周部を真円に是正することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、加熱処理によって円板部材の真円度が低下した場合であっても、サイジング金型を用いて円板部材を真円に是正することができ、円板部材の真円度を向上させることができる円板部材の製造方法およびサイジング金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、同期式噛み合い装置の断面図である。
【図2】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、クラッチハブの正面図である。
【図3】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、サイジング金型の上面図である。
【図4】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、サイジング金型の要部構成図である。
【図5】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、花びら形状となったクラッチハブの模式図である。
【図6】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、クラッチハブがサイジング金型に圧入された状態を示す図である。
【図7】従来の同期式噛み合い装置の断面図である。
【図8】従来のクラッチハブの正面図である。
【図9】従来のスリーブスプラインとギヤピーススプラインの噛み合い状態を示す図である。
【図10】従来のクラッチハブの厚肉部が膨張した状態を示す図である。
【図11】花びら形状となったクラッチハブの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の制御装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図6は、本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図である。
【0040】
まず、構成を説明する。
図1において、同期式噛み合い装置1の回転軸21は、回転中心軸21aを中心にして回転自在となっており、図示しない内燃機関からの回転力が伝達されるようになっている。回転軸21の外周部には円板部材としてのクラッチハブ22が取付けられており、クラッチハブ22は、回転軸21と共に回転するように回転軸21にスプライン嵌合している。
【0041】
回転軸21にはギヤ23、24が取付けられており、ギヤ23、24は、回転軸21に対して相対回転自在となっている。すなわち、図1に示すニュートラル状態においては、回転軸21の回転力がギヤ23、24には伝達されず、ギヤ23、24は、空転するようになっている。
【0042】
ギヤ23、24にはギヤピース25、26がスプライン嵌合されており、ギヤピース25、26は、ギヤ23、24と共に回転するようになっている。ギヤピース25、26は、図1に示す状態ではクラッチハブ22から力を受けていないため、クラッチハブ22に対して回転自在となっている。
【0043】
ギヤピース25、26は、回転軸21に対して傾斜したテーパ面であるコーン部27、28を備えており、コーン部27、28上にシンクロナイザリング29、30が嵌合されている。
【0044】
シンクロナイザリング29、30は、ギヤピース25、26とクラッチハブ22との回転を同期させるための装置であり、テーパ面であるコーン部31、32を有している。シンクロナイザリング29、30のコーン部31、32は、ギヤピース25、26のコーン部27、28と接触しており、シンクロナイザリング29、30とギヤピース25、26とはコーン部27、28、31、32を介して摩擦摺動する。
【0045】
クラッチハブ22の外歯であるハブスプライン22bにはスリーブ34のスリーブスプライン34aが嵌合しており、スリーブ34は、回転軸21の延在する方向にスライド自在となっている。
【0046】
スリーブ34のスリーブスプライン34aは、クラッチハブ22のハブスプライン22bに噛合しており、クラッチハブ22は、スリーブ34をスライド自在に保持している。
【0047】
スリーブ34がギヤ23に近づくと、スリーブ34のスリーブスプライン34aがギヤピース25のギヤピーススプライン25aおよびシンクロナイザリング29のシンクロナイザスプライン29aに噛合することにより、クラッチハブ22の回転がスリーブ34を介してギヤピース25およびギヤ23に伝達される。
【0048】
このスリーブ34は、環状のシフトフォーク溝34bを有しており、シフトフォーク溝34bにはシフトフォーク36が嵌合され、シフトフォーク36によってスリーブ34が軸方向に摺動されるようになっている。
【0049】
図2に示すように、クラッチハブ22は、回転軸21にスプライン嵌合される内周スプライン22aが形成されるボス部22Aと、ボス部22Aから放射方向外方に延在するハブ部22Bと、ハブ部22Bの外周部に設けられた外歯としてのハブスプライン22bとを備えている。
【0050】
ハブ部22Bの外周部には円周方向に離隔する外周溝としての複数のキー溝37が形成されており、図1に示すように、キー溝37にはシンクロナイザキー38が嵌合されている。図1において、シンクロナイザキー38の凸部38aは、スリーブ34と嵌合し、シンクロナイザキー38は、スリーブ34と共に軸方向にスライド自在となっている。
【0051】
そして、シンクロナイザキー38がスライドすると、シンクロナイザリング29、30に軸方向の力を加えることにより、この力がコーン部27、28、31、32に伝達されてコーン部27、28、31、32で摩擦抵抗が生じ、シンクロナイザリング29、30とギヤピース25、26との間で同期動作が行われる。
【0052】
そして、同期後にスリーブスプライン34aとギヤピーススプライン25aおよびシンクロナイザスプライン29aが噛合することにより、内燃機関の動力がクラッチハブ22、スリーブ34およびギヤピース25を介してギヤ23に伝達される。
【0053】
図3は、クラッチハブ34をサイジング加工するためのサイジング金型である。
【0054】
サイジング金型41は、円状の内周部42を有する嵌合穴43が形成されており、嵌合穴43の内周部42には、嵌合穴43にクラッチハブ22が嵌合されたときにクラッチハブ22のハブスプライン22bが嵌合される内歯44が形成されている。
【0055】
また、嵌合穴43の内周部には複数の突部45が形成されており、この突部45は、嵌合穴43の内周部42から放射方向内方に向かって突出している。
【0056】
嵌合穴43の内周部42の内径は、突部45に向かうに従って大きくなるように内周部42の曲面が形成されており、この内周部42の曲面は、仮想線で示す内歯44の歯底円46の曲面である。したがって、本実施の形態のサイジング金型41は、逆花びら形状となっている。
【0057】
具体的には、図4に示すように、内周部42の曲面は、突部45の突出方向中心線45aを結んだ嵌合穴43の内周部42である内歯44の歯底円46の円周方向略中央部の内径が最も小さく、円周方向中央部から突部45の突出方向中心線に向かうに従って内歯44の歯底円46の内径が大きくなるように湾曲している。
【0058】
なお、図4は、内歯44の歯底円46の円周方向中央部の内径を基準「X0」とした場合に、円周方向中央部から突部45に向かって内周部42の内径がX0〜X7(XN)まで+方向に大きくなることを示している。このため、内歯44の歯先円の内径も円周方向中央部から突部45に向かって大きくなる曲面を有している。
【0059】
すなわち、嵌合穴43の内周部42は、クラッチハブ22の中心軸から内周部42の円周方向中央部までの距離が最も短く、クラッチハブ22の中心軸から突部45に最も近接する部位の距離が最も大きいものとなっている。
なお、説明の便宜上、嵌合穴43の内周部42の曲面と真円48とのずれを表しているが、内周部42の曲面と真円48との実際のずれ量はμm単位である。
【0060】
次に、クラッチハブ22の製造方法を説明する。
まず、鉄、銅、カーボンからなる原料粉末をクラッチハブ22の形状に圧粉成形して焼結した後、クラッチハブ22の焼結体を成形する(熱処理工程)。このとき、クラッチハブ22の焼結体を高温で加熱することにより、クラッチハブ22の焼結体が高温の熱の影響を受けてキー溝37とキー溝37との間に位置して放射方向の肉厚が大きい部位(以下、厚肉部47という)が放射方向外方に膨張して、花びら形状となってしまう。図5に厚肉部47が膨張して花びら形状となった状態を模式的に示す。
【0061】
焼結後に、クラッチハブ22の焼結体をサイジング金型41によってサイジング加工する。このサイジング工程では、クラッチハブ22の焼結体に形成されたキー溝37を突部45に位置合わせした後、図示しない上パンチによってクラッチハブ22を嵌合穴43に圧入する(図6参照)。この結果、サイジング金型41によってクラッチハブ22の焼結体の寸法矯正が行われ、最終形状のクラッチハブ22が製造される。
【0062】
本実施の形態では、外周部に複数のキー溝37が形成されたクラッチハブ22を焼結した後、サイジング工程において、円状の内周部42を有する嵌合穴43および内周部42から放射方向内方に向かって突出する複数の突部45を含み、内周部42の内径が突部45に向かうに従って大きくなるように内周部42の曲面が形成されるサイジング金型41を用い、クラッチハブ22の焼結体のキー溝37を突部45に位置合わせしてクラッチハブ22を嵌合穴43に圧入して寸法矯正するようにしたので、嵌合穴43の内周部42の曲面によって厚肉部47を真円に是正することができる。
【0063】
すなわち、内周部42の曲面は、突部45の突出方向中心線45aを結んだ内歯44の歯底円46の円周方向略中央部の内径が最も小さく、円周方向中央部から突部45の突出方向中心線に向かうに従って内歯44の歯底円46の内径が大きくなるように湾曲しているのに対して、厚肉部47は、キー溝37とキー溝37との間の円周方向略中央部の外径が最も大きく、キー溝37の中心軸線に向かう従って外径が小さくなる構成となっている。
【0064】
このため、サイジング金型41の内周部42の曲面に厚肉部47の外周部を嵌合させることにより、厚肉部47を真円に是正することができるのである。
【0065】
本実施の形態では、このようにクラッチハブ22の真円度を高めることができるため、クラッチハブ22のハブスプライン22bとスリーブ34のスリーブスプライン34aとの有効噛み合いの精度を向上させることができる。
【0066】
このため、クラッチハブ22のハブスプライン22bとスリーブ34のスリーブスプライン34aとの抜け力を低減させることができ、振動等に起因してスリーブ34がクラッチハブ22から抜け出る、所謂、ギヤ抜け(シフト抜け)が生じることを防止することができる。
【0067】
また、本実施の形態では、嵌合穴43の内周部42の形状を工夫したサイジング金型41を用いてクラッチハブ22の外周部を真円に是正することができるので、高価な材料を用いることなくクラッチハブ22を製造することができ、クラッチハブ22の製造コストが増大するのを防止することができる。
【0068】
また、本実施の形態では、クラッチハブ22の熱処理工程として焼結工程を採用しているので、焼結工程においてクラッチハブ22の真円度が低下した場合であっても、サイジング金型41を用いてクラッチハブ22の寸法矯正を行うことにより、クラッチハブ22の外周部を真円に是正することができる。このため、焼結による利点を損なうことなく、クラッチハブ22の製造コストを低減して強度の高いクラッチハブ22を得ることができる。
【0069】
なお、本実施の形態では、焼結によってクラッチハブ22を予備成形しているが、熱処理であれば、焼結に限定されるものではない。
【0070】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0071】
以上のように、本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型は、加熱処理によって円板部材の真円度が低下した場合であっても、サイジング金型を用いて円板部材を真円に是正することができ、円板部材の真円度を向上させることができる円板部材の製造方法およびサイジング金型を提供することができるという効果を有し、熱処理によって外周部に外周溝を有する円板部材を成形した後、サイジング金型によって円板部材の寸法矯正を行うようにした円板部材の製造方法およびサイジング金型等として有用である。
【符号の説明】
【0072】
22 クラッチハブ(円板部材)
37 キー溝(外周溝)
41 サイジング金型
42 内周部
43 嵌合穴
44 内歯
45 突部
45a 突出方向中心線
【技術分野】
【0001】
本発明は、円板部材および円板部材の製造方法に関し、熱処理によって外周部に外周溝を有する円板部材を成形した後、サイジング金型によって円板部材の寸法矯正を行うようにした円板部材の製造方法およびサイジング金型に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の手動変速機において、変速のためのシフト操作が行われるとき、新しくギヤ段を成立させるために、噛み合うギヤ同士を回転同期させてからシフト操作を完了させる同期式噛み合い装置を用いることが知られている。
【0003】
この同期式噛み合い装置としては、図7に示すようなものが知られている。図7において、回転軸16上にトルク伝達可能に組付けられたクラッチハブ15と、クラッチハブ15上に軸方向に移動可能かつトルク伝達可能に支持されたスリーブ11と、回転軸16上に遊嵌されたギヤ10A、10Bと、ギヤ10A、10Bとそれぞれ一体回転するギヤピース13、14と、スリーブ11とギヤピース13、14との間にそれぞれ介装され、スリーブ11とギヤピース13、14との間で摩擦力によりトルクの伝達を行うシンクロナイザリング17、18と、スリーブ11を軸方向に移動させるシフトフォーク12とを備えている。
【0004】
また、図8に示すように、クラッチハブ15の外周部にはスリーブスプライン11Aに嵌合するハブスプライン15Aが形成されており、このハブスプライン15Aには、クラッチハブ15の円周方向に一定の間隔でキー溝15aが形成されている。
【0005】
このキー溝15aには、弾性部材によってスリーブ11の内周部に設けられた位置決め面に押圧されてスリーブ11を回転軸16上に位置決めさせる一方、スリーブ11に加えられる軸心方向の操作力により弾性部材が弾性変形させられると、スリーブ11の軸心方向の移動を許容するシンクロナイザキー15bが収納されている。
【0006】
また、スリーブスプライン11Aとギヤピーススプライン13A、14Aとは、スリーブ11が所定方向に移動すると、シンクロナイザリング17、18の作用により、スリーブ11側とギヤピース13、14側の回転が同期した後、噛合するようになっている。
【0007】
これによって、回転軸16からクラッチハブ15、スリーブ11、ギヤピース13、14のいずれか一方を介して、ギヤ10A、10Bのいずれか一方にトルクが伝達されるようになっている。
【0008】
ところで、この同期式噛み合い装置は、例えば、振動等に起因してスリーブ11とギヤピース13、14との噛み合いが自然に解除される、所謂、ギヤ抜け(シフト抜け)が発生することがある。
【0009】
このギヤ抜けを防止するために、スリーブスプライン11Aとギヤピーススプライン13Aの形状を工夫したものがあり、図9のように示される(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
図9において、スリーブ11のスリーブスプライン11Aの歯面には、スリーブスプライン11Aの歯幅が歯先側に向かうに従って広くなるようテーパ角Q1のテーパ歯面11aが形成されており、ギヤピース13のギヤピーススプライン13Aの歯面には、ギヤピーススプライン13Aの歯幅が歯先側に向かうに従って広くなるようテーパ角Q2のテーパ歯面13aが形成されている。また、テーパ歯面11aの歯先側には歯元側を向いた斜面11bが形成されており、テーパ歯面13aの歯元側には歯元側を向いた面取り面13bが形成されている。
【0011】
この同期式噛み合い装置は、シフトフォーク12を操作してスリーブ11をニュートラル位置から軸方向に変位させ、シンクロナイザリング17、18の作用により、ギヤピース13(14)とスリーブ11の回転を同期させ、ギヤピース13(14)とスリーブ11が係合した状態、すなわち、テーパ歯面11a、13a同士が対向した状態において、トルク入力ないし変動がある場合、斜面11bと面取り面13bとを摺接させて、大きなギヤ抜け防止力を発生させることができる。
【0012】
このように斜面11bと面取り面13bとの摺接によって大きなギヤ抜け防止力が発生するため、テーパ面11a、13aのテーパ角度Q1、Q2を小さくしても、所定のギヤ抜け防止力を得ることができ、スリーブ11に吸い込み力が作用した場合のスリーブ11の吸い込み量を減少させることができる。
【0013】
ところで、この同期式噛み合い装置は、スリーブ11とギヤピース13、14とのギヤ抜けを防止するために、スリーブ11およびギヤピース13にテーパ歯面11a、テーパ歯面13a、斜面11bおよび面取り面13bを形成する必要がある。このため、同期式噛み合い装置の製造が面倒である上に、同期式噛み合い装置の設計の自由度が低下してしまう。
【0014】
一方、上述したように外周部にキー溝15aを有するクラッチハブ15は、例えば、原料粉末をクラッチハブ15の形状に圧粉成形して焼結する等の熱処理を行った後、クラッチハブ15をサイジング金型でサイジングすることにより、クラッチハブ15の寸法矯正を行うようにして製造されることが一般的に行われている(例えば、特許文献2参照)。
【0015】
このサイジング金型は、クラッチハブ15が嵌合されるキャビティ(嵌合穴)を備えており、クラッチハブ15をキャビティに嵌合して圧力を加えることで、クラッチハブ15の寸法調整を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2008−51142号公報
【特許文献2】特開2009−167477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、クラッチハブ15を焼結等の熱処理によって成形する際に、高温の熱の影響を受けてキー溝15aとキー溝15aとの間に位置する放射方向の肉厚が大きい部位(以下、厚肉部19という)が放射方向外方に膨張して、所謂、花びら形状となってしまう。
【0018】
すなわち、図10に示すように、クラッチハブ15の焼結時に、クラッチハブ15の外周部であるハブスプライン15Aの歯底円Aの真円度を高めた形状となるように成形したいのにもかかわらず、厚肉部19が膨張することでクラッチハブ15の歯底円Bが真円となるべき歯底円Aから放射方向外方にずれて湾曲してしまい、クラッチハブ15の真円度が悪化してしまう。
なお、図10において、歯底円Aと歯底円Bとのずれを極端に表しているが、歯底円Aと歯底円Bとの実際のずれ量はμm単位である。
【0019】
図11に厚肉部19が膨張して花びら形状となった厚肉部19の状態を模式的に示すように、厚肉部19の膨張量は、キー溝15aに最も近い部位が小さく、キー溝15aからキー溝15aとキー溝15aと間の円周方向の中央部に向かうに従って大きいものとなる。
【0020】
本出願人は、このように熱処理時に上述した現象が生じることを発見するとともに、この現象がギヤ抜けの発生要因の1つであることを発見した。
【0021】
すなわち、クラッチハブ15に厚肉部19が発生すると、変速時に、例えば、クラッチハブ15のハブスプライン15Aがスリーブ11のスリーブスプライン11Aに噛み合っている状態において、ハブスプライン15Aとスリーブスプライン11Aの噛み合いの精度が悪化してしまい、ハブスプライン15Aとスリーブスプライン11Aの接触部の抜け力が増加しまう。
【0022】
このようなギヤ抜けの発生を防止するには、焼結時に厚肉部19が放射方向外方に膨張しないようにするために、原料粉末の材料を選択すること等が考えられるが、この場合には、高価な原料粉末が必要となり、クラッチハブ15の製造コストが増大してしまうおそれがある。
【0023】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、加熱処理によって円板部材の真円度が低下した場合であっても、サイジング金型を用いて円板部材を真円に是正することができ、円板部材の真円度を向上させることができる円板部材の製造方法およびサイジング金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明に係る円板部材の製造方法は、上記目的を達成するため、(1)外周部に少なくとも1つ以上の外周溝が形成された円板部材を熱処理により成形する熱処理工程と、円状の内周部を有する嵌合穴および前記内周部から放射方向内方に向かって突出する少なくとも1つ以上の突部を含み、前記内周部の内径が前記突部に向かうに従って大きくなるように前記内周部の曲面が形成されるサイジング金型を用い、前記外周溝を前記突部に位置合わせして前記円板部材を前記嵌合穴に圧入するサイジング工程とを含むものである。
【0025】
この円板部材の製造方法は、熱処理工程において、外周溝の間の放射方向の肉厚が大きい部位が放射方向外方に膨張することで円板部材の真円度が低下した場合に、嵌合穴の内周部の内径が突部に向かうに従って大きくなるように内周部の曲面が形成されるサイジング金型を用い、外周溝をサイジング金型の突部に位置合わせして円板部材をサイジング金型の嵌合穴に圧入して、円板部材の寸法矯正を行うことにより、円板部材の外周部の膨張した部位を嵌合穴の内周部によって真円に是正することができる。
【0026】
このため、円板部材の真円度を高めることができ、例えば、円板部材をクラッチハブに適用した場合には、クラッチハブのハブスプラインとスリーブのスリーブスプラインとの噛み合いの精度を向上させることができる。クラッチハブのハブスプラインとスリーブのスリーブスプラインとの抜け力を低減させることができ、振動等に起因してスリーブがクラッチハブから抜け出る、所謂、ギヤ抜けが生じることを防止することができる。
【0027】
また、嵌合穴の内周部の形状を工夫したサイジング金型を用いて円板部材の外周部を真円に是正することができるので、高価な材料を用いることなく円板部材を製造することができ、円板部材の製造コストが増大するのを防止することができる。
【0028】
上記(1)に記載の円板部材の製造方法において、(2)前記熱処理工程では、前記円板部材の外周部に外歯を形成し、前記サイジング工程では、前記円状の内周部に内歯が形成されたサイジング金型を用いて前記円板部材を嵌合穴に圧入することにより、円板部材としてクラッチハブを製造する。
【0029】
この円板部材の製造方法は、クラッチハブの真円度を高めることができるため、クラッチハブのハブスプラインとスリーブのスリーブスプラインとの抜け力を低減させることができ、ギヤ抜けが生じることを防止することができる。
【0030】
上記(1)または(2)に記載の円板部材の製造方法において、(3)前記熱処理工程は、焼結工程である。
【0031】
この円板部材の製造方法は、円板部材を焼結によって成形するので、熱処理工程で外周溝の間の放射方向の肉厚が大きい部位が放射方向外方に膨張することによって、円板部材の真円度が低下した場合であっても、サイジング金型を用いて円板部材の寸法矯正を行うことにより、円板部材の外周部を真円に是正することができる。このため、焼結による利点を損なうことなく、円板部材の製造コストを低減して強度の高い円板部材を得ることができる。
【0032】
上記(1)〜(3)のいずれかに記載の円板部材の製造方法に用いられるサイジング金型であって、(4)サイジング金型が、円状の内周部を有する嵌合穴および前記内周部から放射方向内方に向かって突出する少なくとも1つ以上の突部を含み、前記内周部の内径が前記突部に向かうに従って大きくなるように前記内周部の曲面が形成されるものから構成されている。
【0033】
本発明は、熱処理工程で嵌合穴の間の放射方向の肉厚が大きい部位が放射方向外方に膨張することにより、円板部材の真円度が低下した場合に、嵌合穴の内周部の内径が突部に向かうに従って大きくなるように内周部の曲面が形成されるサイジング金型を用い、外周溝をサイジング金型の突部に位置合わせして円板部材をサイジング金型の嵌合穴に圧入して、円板部材の寸法矯正を行うことにより、円板部材の外周部を真円に是正することができる。
【0034】
上記(4)のサイジング金型において、(5)前記内周部の円周方向に離隔する複数の突部を有し、前記突部の突出方向中心線を結んだ前記内周部の円周方向略中央部の内径が最も小さく、前記円周方向中央部から前記突部の突出方向中心線に向かうに従って内径が大きくなるように湾曲するものから構成されている。
【0035】
本発明は、外周部に複数の嵌合穴を有する円板部材を熱処理して円板部材を成形した場合に、複数の嵌合穴の間の放射方向の肉厚が大きい部位が放射方向外方に膨張して真円度が低下した場合に、突部の突出方向中心線を結んだ内周部の円周方向略中央部の内径が最も小さく、円周方向中央部から突部の突出方向中心線に向かうに従って内径が大きくなるように湾曲するサイジング金型を用いて円板部材の寸法矯正を行う。
【0036】
このようにすれば、複数の外周溝を有する円板部材の外周部を真円に是正することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、加熱処理によって円板部材の真円度が低下した場合であっても、サイジング金型を用いて円板部材を真円に是正することができ、円板部材の真円度を向上させることができる円板部材の製造方法およびサイジング金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、同期式噛み合い装置の断面図である。
【図2】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、クラッチハブの正面図である。
【図3】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、サイジング金型の上面図である。
【図4】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、サイジング金型の要部構成図である。
【図5】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、花びら形状となったクラッチハブの模式図である。
【図6】本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図であり、クラッチハブがサイジング金型に圧入された状態を示す図である。
【図7】従来の同期式噛み合い装置の断面図である。
【図8】従来のクラッチハブの正面図である。
【図9】従来のスリーブスプラインとギヤピーススプラインの噛み合い状態を示す図である。
【図10】従来のクラッチハブの厚肉部が膨張した状態を示す図である。
【図11】花びら形状となったクラッチハブの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の制御装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図6は、本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型の一実施の形態を示す図である。
【0040】
まず、構成を説明する。
図1において、同期式噛み合い装置1の回転軸21は、回転中心軸21aを中心にして回転自在となっており、図示しない内燃機関からの回転力が伝達されるようになっている。回転軸21の外周部には円板部材としてのクラッチハブ22が取付けられており、クラッチハブ22は、回転軸21と共に回転するように回転軸21にスプライン嵌合している。
【0041】
回転軸21にはギヤ23、24が取付けられており、ギヤ23、24は、回転軸21に対して相対回転自在となっている。すなわち、図1に示すニュートラル状態においては、回転軸21の回転力がギヤ23、24には伝達されず、ギヤ23、24は、空転するようになっている。
【0042】
ギヤ23、24にはギヤピース25、26がスプライン嵌合されており、ギヤピース25、26は、ギヤ23、24と共に回転するようになっている。ギヤピース25、26は、図1に示す状態ではクラッチハブ22から力を受けていないため、クラッチハブ22に対して回転自在となっている。
【0043】
ギヤピース25、26は、回転軸21に対して傾斜したテーパ面であるコーン部27、28を備えており、コーン部27、28上にシンクロナイザリング29、30が嵌合されている。
【0044】
シンクロナイザリング29、30は、ギヤピース25、26とクラッチハブ22との回転を同期させるための装置であり、テーパ面であるコーン部31、32を有している。シンクロナイザリング29、30のコーン部31、32は、ギヤピース25、26のコーン部27、28と接触しており、シンクロナイザリング29、30とギヤピース25、26とはコーン部27、28、31、32を介して摩擦摺動する。
【0045】
クラッチハブ22の外歯であるハブスプライン22bにはスリーブ34のスリーブスプライン34aが嵌合しており、スリーブ34は、回転軸21の延在する方向にスライド自在となっている。
【0046】
スリーブ34のスリーブスプライン34aは、クラッチハブ22のハブスプライン22bに噛合しており、クラッチハブ22は、スリーブ34をスライド自在に保持している。
【0047】
スリーブ34がギヤ23に近づくと、スリーブ34のスリーブスプライン34aがギヤピース25のギヤピーススプライン25aおよびシンクロナイザリング29のシンクロナイザスプライン29aに噛合することにより、クラッチハブ22の回転がスリーブ34を介してギヤピース25およびギヤ23に伝達される。
【0048】
このスリーブ34は、環状のシフトフォーク溝34bを有しており、シフトフォーク溝34bにはシフトフォーク36が嵌合され、シフトフォーク36によってスリーブ34が軸方向に摺動されるようになっている。
【0049】
図2に示すように、クラッチハブ22は、回転軸21にスプライン嵌合される内周スプライン22aが形成されるボス部22Aと、ボス部22Aから放射方向外方に延在するハブ部22Bと、ハブ部22Bの外周部に設けられた外歯としてのハブスプライン22bとを備えている。
【0050】
ハブ部22Bの外周部には円周方向に離隔する外周溝としての複数のキー溝37が形成されており、図1に示すように、キー溝37にはシンクロナイザキー38が嵌合されている。図1において、シンクロナイザキー38の凸部38aは、スリーブ34と嵌合し、シンクロナイザキー38は、スリーブ34と共に軸方向にスライド自在となっている。
【0051】
そして、シンクロナイザキー38がスライドすると、シンクロナイザリング29、30に軸方向の力を加えることにより、この力がコーン部27、28、31、32に伝達されてコーン部27、28、31、32で摩擦抵抗が生じ、シンクロナイザリング29、30とギヤピース25、26との間で同期動作が行われる。
【0052】
そして、同期後にスリーブスプライン34aとギヤピーススプライン25aおよびシンクロナイザスプライン29aが噛合することにより、内燃機関の動力がクラッチハブ22、スリーブ34およびギヤピース25を介してギヤ23に伝達される。
【0053】
図3は、クラッチハブ34をサイジング加工するためのサイジング金型である。
【0054】
サイジング金型41は、円状の内周部42を有する嵌合穴43が形成されており、嵌合穴43の内周部42には、嵌合穴43にクラッチハブ22が嵌合されたときにクラッチハブ22のハブスプライン22bが嵌合される内歯44が形成されている。
【0055】
また、嵌合穴43の内周部には複数の突部45が形成されており、この突部45は、嵌合穴43の内周部42から放射方向内方に向かって突出している。
【0056】
嵌合穴43の内周部42の内径は、突部45に向かうに従って大きくなるように内周部42の曲面が形成されており、この内周部42の曲面は、仮想線で示す内歯44の歯底円46の曲面である。したがって、本実施の形態のサイジング金型41は、逆花びら形状となっている。
【0057】
具体的には、図4に示すように、内周部42の曲面は、突部45の突出方向中心線45aを結んだ嵌合穴43の内周部42である内歯44の歯底円46の円周方向略中央部の内径が最も小さく、円周方向中央部から突部45の突出方向中心線に向かうに従って内歯44の歯底円46の内径が大きくなるように湾曲している。
【0058】
なお、図4は、内歯44の歯底円46の円周方向中央部の内径を基準「X0」とした場合に、円周方向中央部から突部45に向かって内周部42の内径がX0〜X7(XN)まで+方向に大きくなることを示している。このため、内歯44の歯先円の内径も円周方向中央部から突部45に向かって大きくなる曲面を有している。
【0059】
すなわち、嵌合穴43の内周部42は、クラッチハブ22の中心軸から内周部42の円周方向中央部までの距離が最も短く、クラッチハブ22の中心軸から突部45に最も近接する部位の距離が最も大きいものとなっている。
なお、説明の便宜上、嵌合穴43の内周部42の曲面と真円48とのずれを表しているが、内周部42の曲面と真円48との実際のずれ量はμm単位である。
【0060】
次に、クラッチハブ22の製造方法を説明する。
まず、鉄、銅、カーボンからなる原料粉末をクラッチハブ22の形状に圧粉成形して焼結した後、クラッチハブ22の焼結体を成形する(熱処理工程)。このとき、クラッチハブ22の焼結体を高温で加熱することにより、クラッチハブ22の焼結体が高温の熱の影響を受けてキー溝37とキー溝37との間に位置して放射方向の肉厚が大きい部位(以下、厚肉部47という)が放射方向外方に膨張して、花びら形状となってしまう。図5に厚肉部47が膨張して花びら形状となった状態を模式的に示す。
【0061】
焼結後に、クラッチハブ22の焼結体をサイジング金型41によってサイジング加工する。このサイジング工程では、クラッチハブ22の焼結体に形成されたキー溝37を突部45に位置合わせした後、図示しない上パンチによってクラッチハブ22を嵌合穴43に圧入する(図6参照)。この結果、サイジング金型41によってクラッチハブ22の焼結体の寸法矯正が行われ、最終形状のクラッチハブ22が製造される。
【0062】
本実施の形態では、外周部に複数のキー溝37が形成されたクラッチハブ22を焼結した後、サイジング工程において、円状の内周部42を有する嵌合穴43および内周部42から放射方向内方に向かって突出する複数の突部45を含み、内周部42の内径が突部45に向かうに従って大きくなるように内周部42の曲面が形成されるサイジング金型41を用い、クラッチハブ22の焼結体のキー溝37を突部45に位置合わせしてクラッチハブ22を嵌合穴43に圧入して寸法矯正するようにしたので、嵌合穴43の内周部42の曲面によって厚肉部47を真円に是正することができる。
【0063】
すなわち、内周部42の曲面は、突部45の突出方向中心線45aを結んだ内歯44の歯底円46の円周方向略中央部の内径が最も小さく、円周方向中央部から突部45の突出方向中心線に向かうに従って内歯44の歯底円46の内径が大きくなるように湾曲しているのに対して、厚肉部47は、キー溝37とキー溝37との間の円周方向略中央部の外径が最も大きく、キー溝37の中心軸線に向かう従って外径が小さくなる構成となっている。
【0064】
このため、サイジング金型41の内周部42の曲面に厚肉部47の外周部を嵌合させることにより、厚肉部47を真円に是正することができるのである。
【0065】
本実施の形態では、このようにクラッチハブ22の真円度を高めることができるため、クラッチハブ22のハブスプライン22bとスリーブ34のスリーブスプライン34aとの有効噛み合いの精度を向上させることができる。
【0066】
このため、クラッチハブ22のハブスプライン22bとスリーブ34のスリーブスプライン34aとの抜け力を低減させることができ、振動等に起因してスリーブ34がクラッチハブ22から抜け出る、所謂、ギヤ抜け(シフト抜け)が生じることを防止することができる。
【0067】
また、本実施の形態では、嵌合穴43の内周部42の形状を工夫したサイジング金型41を用いてクラッチハブ22の外周部を真円に是正することができるので、高価な材料を用いることなくクラッチハブ22を製造することができ、クラッチハブ22の製造コストが増大するのを防止することができる。
【0068】
また、本実施の形態では、クラッチハブ22の熱処理工程として焼結工程を採用しているので、焼結工程においてクラッチハブ22の真円度が低下した場合であっても、サイジング金型41を用いてクラッチハブ22の寸法矯正を行うことにより、クラッチハブ22の外周部を真円に是正することができる。このため、焼結による利点を損なうことなく、クラッチハブ22の製造コストを低減して強度の高いクラッチハブ22を得ることができる。
【0069】
なお、本実施の形態では、焼結によってクラッチハブ22を予備成形しているが、熱処理であれば、焼結に限定されるものではない。
【0070】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0071】
以上のように、本発明に係る円板部材の製造方法およびサイジング金型は、加熱処理によって円板部材の真円度が低下した場合であっても、サイジング金型を用いて円板部材を真円に是正することができ、円板部材の真円度を向上させることができる円板部材の製造方法およびサイジング金型を提供することができるという効果を有し、熱処理によって外周部に外周溝を有する円板部材を成形した後、サイジング金型によって円板部材の寸法矯正を行うようにした円板部材の製造方法およびサイジング金型等として有用である。
【符号の説明】
【0072】
22 クラッチハブ(円板部材)
37 キー溝(外周溝)
41 サイジング金型
42 内周部
43 嵌合穴
44 内歯
45 突部
45a 突出方向中心線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に少なくとも1つ以上の外周溝が形成された円板部材を熱処理により成形する熱処理工程と、
円状の内周部を有する嵌合穴および前記内周部から放射方向内方に向かって突出する少なくとも1つ以上の突部を含み、前記内周部の内径が前記突部に向かうに従って大きくなるように前記内周部の曲面が形成されるサイジング金型を用い、前記外周溝を前記突部に位置合わせして前記円板部材を前記嵌合穴に圧入するサイジング工程とを含んでなる円板部材の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程では、前記円板部材の外周部に外歯を形成し、前記サイジング工程では、前記円状の内周部に内歯が形成されたサイジング金型を用いて前記円板部材を嵌合穴に圧入することにより、円板部材としてクラッチハブを製造することを特徴とする請求項1に記載の円板部材の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程は、焼結工程であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の円板部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の円板部材の製造方法に用いられるサイジング金型であって、
円状の内周部を有する嵌合穴および前記内周部から放射方向内方に向かって突出する少なくとも1つ以上の突部を含み、前記内周部の内径が前記突部に向かうに従って大きくなるように前記内周部の曲面が形成されることを特徴とするサイジング金型。
【請求項5】
前記内周部の円周方向に離隔する複数の突部を有し、前記突部の突出方向中心線を結んだ前記内周部の円周方向略中央部の内径が最も小さく、前記円周方向中央部から前記突部の突出方向中心線に向かうに従って内径が大きくなるように湾曲することを特徴とする請求項4に記載のサイジング金型。
【請求項1】
外周部に少なくとも1つ以上の外周溝が形成された円板部材を熱処理により成形する熱処理工程と、
円状の内周部を有する嵌合穴および前記内周部から放射方向内方に向かって突出する少なくとも1つ以上の突部を含み、前記内周部の内径が前記突部に向かうに従って大きくなるように前記内周部の曲面が形成されるサイジング金型を用い、前記外周溝を前記突部に位置合わせして前記円板部材を前記嵌合穴に圧入するサイジング工程とを含んでなる円板部材の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程では、前記円板部材の外周部に外歯を形成し、前記サイジング工程では、前記円状の内周部に内歯が形成されたサイジング金型を用いて前記円板部材を嵌合穴に圧入することにより、円板部材としてクラッチハブを製造することを特徴とする請求項1に記載の円板部材の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程は、焼結工程であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の円板部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1の請求項に記載の円板部材の製造方法に用いられるサイジング金型であって、
円状の内周部を有する嵌合穴および前記内周部から放射方向内方に向かって突出する少なくとも1つ以上の突部を含み、前記内周部の内径が前記突部に向かうに従って大きくなるように前記内周部の曲面が形成されることを特徴とするサイジング金型。
【請求項5】
前記内周部の円周方向に離隔する複数の突部を有し、前記突部の突出方向中心線を結んだ前記内周部の円周方向略中央部の内径が最も小さく、前記円周方向中央部から前記突部の突出方向中心線に向かうに従って内径が大きくなるように湾曲することを特徴とする請求項4に記載のサイジング金型。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−115863(P2012−115863A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266820(P2010−266820)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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