説明

円筒ころ軸受装置

【課題】ローラの膨張の吸収に利用されない軸受箱とローラ部との隙間等を少なくし、その分、軸受箱や円筒ころ軸受の軸方向の幅を拡大することによって、円筒ころ軸受の負荷容量を向上する。
【解決手段】2つのローラ部22A,22B間の中心線Y2に対して、軸受箱13の軸方向一方側の第1の側面13Aを、軸方向他方側の第2の側面13Bよりも軸方向外方に配置し、この第1の側面13Aとこれに対向するローラ部22Aとの隙間a1を、第2の側面13Bとこれに対向するローラ部22Bとの隙間a2よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば連続鋳造設備のロールを支持するために使用される円筒ころ軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造設備では、鋳型から抜き出された帯状の鋳片(スラブ)を搬送するために、搬送方向に直交する軸心回りに回転するロールを、搬送方向に多数並べて備えている。
このような連続鋳造設備においては、近年、鋳片の内部亀裂や偏析等の品質問題の対策から、各ロールのロールピッチ寸法を小さくする傾向にある。しかし、この場合、ロールの外径を小さくしなければならないので、ロールの強度が低下するという弊害が生じる。その対策のため、ロールの軸方向両端部だけでなく、中間部でも軸受によって支持することが行われている。
【0003】
図4は、ロール111の中間部の支持に用いられる円筒ころ軸受装置110を示す断面図である。ロール111は、円筒ころ軸受装置によって支持される軸部121と、この軸部121の軸方向両側に配置され、実際に鋳片を搬送する部位となるロール部122A,122Bとを有する杵型ロールとされている。円筒ころ軸受装置110は、円筒ころ軸受112と、円筒ころ軸受112を支持する軸受箱113とを備え、円筒ころ軸受112は、軸部121に外嵌される内輪114と、この内輪114の径方向外側に配置された外輪115と、内輪114及び外輪115の間に配置される円筒ころ116とを備えている。内輪114及び外輪115はそれぞれ径方向線で2分割された2分割軸受とされている。軸受箱113も上下に2分割(113E,113F)され、分割された一方(上側)113Eが外輪115の一部を兼ねている。
【0004】
連続鋳造設備に用いられるロール111は鋳片からの熱によって膨張が生じるため、円筒ころ軸受装置110は、ロール111の熱膨張を吸収するべく、内輪114と外輪115とが軸方向に相対移動可能に構成されている。
具体的には、内輪114の軌道面114Aの軸方向両側には鍔部114Bが形成され、円筒ころ116は、鍔部114Bによって内輪114に対する軸方向の移動が規制されている。一方、外輪115の軌道面115Aは、円筒ころ116よりも軸方向の幅が大きく形成されており、これによって、円筒ころ116は、当該軌道面115A上を軸方向に移動可能とされている。また、ロール部122A,122Bが軸方向に移動したとき、軸受箱113の軸方向側面113A,113Bと接触しないように、当該側面113A,113Bと、両側のロール部122A,122Bとの間には隙間a1,a2が形成されている。
【0005】
なお、下記特許文献1には、杵型ロールを用いた連続鋳造機が開示されている。
【特許文献1】実開昭62−183953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4に示す従来の円筒ころ軸受装置110は、軸方向の中心線Yを基準にして軸方向両側が対称形状に形成され、さらに、軸方向の中心線Yが、2つのロール部122A,122Bの軸方向中心に位置するように配置されていたので、軸受箱113とロール部122A,122Bとの間の隙間a1,a2や、外輪115上の円筒ころ116が移動可能な幅b1,b2は、軸方向両側について同じ量(a1=a2,b1=b2)に設定されていた。
しかしながら、上記ロール111は、通常軸方向一端が固定端とされ、軸方向他方側(例えば矢印X方向)へしか熱膨張することができない構造となっているので、この熱膨張を吸収するための隙間や幅は、軸方向片側(a2,b1)しか利用されない。したがって、反対側の隙間a1や幅b2は、無駄なスペースとして存在している。
【0007】
本願発明は、このような点に着目し、ロールの膨張の吸収に利用されない軸受箱とロール部との間の隙間等を少なくし、その分、軸受箱や円筒ころ軸受の軸方向の幅を拡大することによって、円筒ころ軸受の負荷容量を増大させることができる円筒ころ軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、軸部の軸方向両側に当該軸部よりも大径のロール部を備え且つ軸方向一方側へ膨張しうるロールを、回転自在に支持する円筒ころ軸受装置であって、前記軸部に外嵌される内輪と、この内輪の径方向外側に配置される外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に配置される円筒ころと、前記外輪を支持する軸受箱とを備え、前記内輪と外輪とが軸方向に相対移動可能とされている円筒ころ軸受装置において、
軸方向両側の前記ロール部の間の中心線に対して、前記軸受箱の前記軸方向一方側の第1の側面が、軸方向他方側の第2の側面よりも軸方向外方に配置され、
当該第1の側面とこれに対向する前記ロール部との間の隙間が、前記第2の側面とこれに対向する前記ロール部との間の隙間よりも小さく設定されることを特徴とする。
【0009】
これによれば、ロールの膨張の吸収に利用されない軸受箱の第1の側面とロール部との隙間を少なくし、軸受箱の軸方向の幅を拡大することができる。これに伴い、外輪や円筒ころの軸方向幅(長さ)を拡大し、円筒ころ軸受装置の負荷容量を高めることが可能となる。
【0010】
前記円筒ころは、前記ロールの膨張に伴って前記外輪及び前記内輪のいずれか一方の軌道面上を軸方向に移動可能であり、
さらに、前記円筒ころは、前記一方の軌道面に対する相対的な移動方向とは反対方向に延長して形成され、この円筒ころから前記移動方向とは反対方向へ張り出す前記一方の軌道面の幅が、前記移動方向へ張り出す前記一方の軌道面の幅よりも小さく設定されていることが好ましい。
【0011】
これによれば、ロールの膨張に伴って円筒ころが移動する方向とは反対方向へ円筒ころを延長することにより、円筒ころを従来よりも軸方向に長く形成することができ、これによって円筒ころ軸受装置の負荷容量を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ロールの膨張の吸収に利用されない軸受箱とロール部との間の隙間等を少なくし、その分、軸受箱や円筒ころ軸受の軸方向の幅を拡大することによって、円筒ころ軸受の負荷容量を増大させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる円筒ころ軸受装置10の要部の縦断面図である。この円筒ころ軸受装置10は、例えば連続鋳造設備において鋳片(スラブ;被搬送物)を搬送するロール11を支持するために用いられ、その基本構成は、図4に示す従来技術と同様である。すなわち、円筒ころ軸受装置10は、円筒ころ軸受12と、円筒ころ軸受12を支持する軸受箱(軸受ハウジング)13とからなり、円筒ころ軸受12は、内輪14と、この内輪14の径方向外側に配置された外輪15と、内輪14及び外輪15の間に配置された円筒ころ16と、を備えている。また、円筒ころ軸受12は2分割軸受とされており、内輪14及び外輪15は径方向線で2分割されている。なお、外輪15の分割された一部は、図4と同様に、軸受箱13によって兼用することができる。
【0014】
この円筒ころ軸受装置10によって支持されるロール11は、内輪14に内嵌される軸部21と、この軸部21の軸方向両側に設けられ、軸部21よりも大径のロール部22A,22Bとを備えた杵型ロールであり、ロール部22A,22Bの外周面上を鋳片が搬送される。また、ロール11は、図1の左側が、図示しない他の軸受装置によって軸方向の移動が規制された状態で支持されており、鋳片からの熱伝達によって、右方向(矢印X方向)に熱膨張(伸長)する。なお、図1は、ロール11が熱膨張していない状態を示す。
【0015】
内輪14の外周面には、円筒ころ16用の軌道面14Aが形成され、この軌道面14Aの軸方向両側には鍔部14Bが形成され、この鍔部14Bによって円筒ころ16の軸方向への移動が規制されている。また、鍔部14Bの軸方向外側には周溝14Cが凹設され、この周溝14Cにオイルシール17が装着されている。
外輪15は、内輪14よりも軸方向の幅が小さく形成されている。外輪15の外周面は球面状に形成され、軸受箱13の内周面に形成された球面溝13Cに摺動自在に嵌合し、調心機能が付与されている。外輪15の内周面は、円筒ころ16用の軌道面15Aとされ、この軌道面15Aの軸方向の幅は円筒ころ16の軸方向の長さよりも大きく形成されている。そして、円筒ころ16は、軌道面15Aの軸方向中央部に配置され、円筒ころ16の軸方向両側には、同じ幅(b1=b2)だけ軌道面15Aが張り出している。
【0016】
軸受箱13の内周面において、球面溝13Aの軸方向両側にはそれぞれラビリンスリング18A,18Bが取り付けられ、このラビリンスリング18A,18Bの内周面に前記オイルシール17の外周部が摺動自在に接触している。また、ラビリンスリング18A,18Bの軸方向外端部は、ロール部22A,22Bの側面に形成された凹陥部22Cに挿入されている。
【0017】
軸受箱13は、2つのロール部22A,22B間の中心線Y2に対して、軸方向一方の側面(図1の右側面;以下、第1の側面という)13Aが、軸方向他方の側面(図1の左側面;以下、第2の側面という)13Bよりも軸方向外方(右方)に配置されている。そして、第1の側面13Aは、これに対向する右側のロール部22Aに接近して配置され、両者の隙間a1は、第2の側面13Bとこれに対向する左側のロール部22Bとの隙間a2よりも小さく設定されている。図1には、比較のために従来の軸受箱113(図4参照)の第1の側面113Aの位置を2点鎖線で示している。
【0018】
また、軸受箱13の第1の側面13Aを軸方向外方に配置して、軸受箱13の幅Wを従来よりも拡大したことに伴い、外輪15及び円筒ころ16が軸方向外方(右方)に延長して形成されている。これにより、軸受箱13、外輪15、円筒ころ16の軸方向の中心線Y1は互いに一致し、当該中心線Y1は、2つのロール部22A,22B間の中心線Y2よりも軸方向一方(右方)に配置されている。内輪14の軸方向の中心線は、従来と同様に2つのロール部22A,22B間の中心線Y2と一致している。
【0019】
ロール11が鋳片からの熱によって矢印X方向に膨張すると、内輪14及び円筒ころ16は同方向Xに移動し、円筒ころ16の移動は、円筒ころ16から右側へ張り出す軌道面15Aの幅b1によって吸収される。また、ロール部22Bの移動は、軸受箱13の第2の側面13Bとの間に形成された隙間a2によって吸収される。したがって、第1の側面13Aとロール部22Aとの隙間a1や、円筒ころ16から左側へ張り出す軌道面15Aの幅b2は、ロール11の熱膨張を吸収するためには利用されていない。
【0020】
本実施形態では、上記のようなロール11の熱膨張によって、ロール部22Aとの隙間a1が拡がる側にある軸受箱13の第1の側面13Aを従来よりも軸方向外方に配置することによって、従来発生していた無駄なスペース(図4のa1)を少なくし、軸受箱13の幅Wを拡大している。そのため、外輪15及び円筒ころ16を従来よりも軸方向に延長して、円筒ころ軸受12の負荷容量を増大することができる。
また、軸受箱13の幅Wを広くしても、両ロール部22A,22Bの間隔(a2+W+a1)は従来と変わることがないので、鋳片の搬送に何ら支障はなく、鋳片の品質不良を伴うこともない。
【0021】
図2は、本発明の第2の実施形態にかかる円筒ころ軸受装置10の要部の縦断面図である。本実施形態は、円筒ころ16を軸方向他方(左方)に延長した点で上記第1の実施形態と異なり、その他の構成は同一である。なお、図2には、比較のために第1実施形態の円筒ころ16の左端部の位置(符号16′)を2点鎖線で示してある。
また、このように円筒ころ16を延長したことによって、内輪14の軸方向の中心線Y2と、円筒ころ16の軸方向中心とが一致若しくは略一致している。また、円筒ころ16から左側へ張り出す軌道面15Aの幅b2が、右側へ張り出す幅b1よりも小さくなっている。
【0022】
本実施形態では、ロール11の熱膨張に伴って円筒ころ16が移動する方向とは反対方向(反X方向)に円筒ころ16を延長することによって、従来発生していた無駄なスペース(図4のb2)を小さくし、円筒ころ軸受12の負荷容量をさらに増大することができる。
【0023】
図3は、本発明の第3の実施形態にかかる円筒ころ軸受装置10の要部の縦断面図である。本実施形態の第2実施形態と異なるところは、オイルシール17が軸受箱13の内周面に形成された周溝13Dに装着され、オイルシール17の内周部が、内輪14の外周面に摺動自在に接触している点である。その他の構成及び作用効果は、第2実施形態と略同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0024】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。
例えば、上記実施形態の円筒ころ軸受は、ロール11の熱膨張に伴って円筒ころ16が外輪15の軌道面15A上を軸方向に移動するものとなっているが、内輪14の軌道面14A上を軸方向に移動(内輪14が円筒ころ16上を移動)するものであってもよい。また、本発明は、連続鋳造設備以外に、被搬送物からの熱等によりロールが軸方向一方側へ膨張しうる他の装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る円筒ころ軸受装置の要部の縦断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る円筒ころ軸受装置の要部の縦断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る円筒ころ軸受装置の要部の縦断面図である。
【図4】従来技術に係る円筒ころ軸受装置の縦断面図である。
【符号の説明】
【0026】
10 円筒ころ軸受装置
11 ロール
12 円筒ころ軸受
13 軸受箱
13A 第1の側面
13B 第2の側面
14 内輪
15 外輪
16 円筒ころ
21 軸部
22A,22B ロール部
a1,a2 隙間
b1,b2 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の軸方向両側に当該軸部よりも大径のロール部を備え且つ軸方向一方側へ膨張しうるロールを、回転自在に支持する円筒ころ軸受装置であって、前記軸部に外嵌される内輪と、この内輪の径方向外側に配置される外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に配置される円筒ころと、前記外輪を支持する軸受箱とを備え、前記内輪と外輪とが軸方向に相対移動可能とされている円筒ころ軸受装置において、
軸方向両側の前記ロール部の間の中心線に対して、前記軸受箱の前記軸方向一方側の第1の側面が、軸方向他方側の第2の側面よりも軸方向外方に配置され、
当該第1の側面とこれに対向する前記ロール部との間の隙間が、前記第2の側面とこれに対向する前記ロール部との間の隙間よりも小さく設定されることを特徴とする円筒ころ軸受装置。
【請求項2】
前記円筒ころは、前記ロールの膨張に伴って前記外輪及び前記内輪のいずれか一方の軌道面上を軸方向に移動可能であり、
さらに、前記円筒ころは、前記一方の軌道面に対する相対的な移動方向とは反対方向へ延長して形成され、この円筒ころから前記移動方向とは反対方向へ張り出す前記一方の軌道面の幅が、前記移動方向へ張り出す前記一方の軌道面の幅よりも小さく設定されていることを特徴とする請求項1記載の円筒ころ軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−291909(P2008−291909A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137562(P2007−137562)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】