説明

分光光度計

【課題】複数の光源を用いたマルチチャンネル分光光度計において、複数の光源からの光の混合比を調整可能として試料溶媒や導入光学系の波長依存性に合わせた適切な測定を行う。
【解決手段】PDA検出器17からの1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中で複数回光源部11、12をパルス点灯させ、且つ光源部11、12毎にパルス点灯回数を調節可能とする。PDA検出器17において、1回の電荷蓄積期間中のパルス点灯に対応した試料15からの透過光に由来する電荷は積算されるため、パルス点灯回数が多いほど実効的にハーフミラー13での混合比を高めたのと等価となる。これにより、試料15に照射される光の発光スペクトルの形状を変えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分光光度計に関し、さらに詳しくは、フォトダイオードアレイ(PDA)検出器やCCDリニアイメージセンサ等、多数の受光素子が一次元的に配列されたマルチチャンネル型検出器により所定波長範囲の波長分散光をほぼ一斉に検出する光学系を有する分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紫外可視分光光度計の1つとして、フォトダイオードアレイ検出器やCCDリニアイメージセンサなどのマルチチャンネル型(多波長型)検出器を用い、試料から到来する透過光(又は反射光)を分光器により波長分散した波長分散光をほぼ同時に検出するマルチチャンネル型の分光光度計が知られている(例えば特許文献1など参照)。こうしたマルチチャンネル型の検出器では、1回の信号読み出し周期中に、受光した光の強度(光量)に応じた電荷信号を発生して蓄積(積算)する電荷蓄積期間と、各受光素子で蓄積された電荷信号を直列的に検出器の外部に読み出す信号読み出し期間とが設定されるのが一般的である。
【0003】
こうした分光光度計において光源としてキセノンフラッシュランプなどのパルス点灯光源を用いる場合、パルス点灯毎に発光強度にばらつきがあるため、このばらつきの影響を軽減する必要がある。そこで、電荷蓄積期間中に1回光源をパルス点灯させることで蓄積した電荷信号を読み出す、という測定を同一試料に対し複数回繰り返し、その複数の測定データを積算又は平均することで発光強度のばらつきやランダムノイズの影響を軽減するようにしている。しかしながら、こうした方法では、或る試料についての1個の測定データを取得するために時間が掛かり、分析のスループットを高くするのが難しいという問題がある。
【0004】
また、同一の発光強度であっても試料の吸光度によって検出器に入射する光の強度は大きく相違し、吸光度が大きい場合には受光強度が小さくなって高いSN比を確保するのが難しい。供給電力等により光源の発光強度を調節できる場合には光源の発光強度を大きくすればSN比の改善が可能であるが、試料の吸光度が小さい場合に今度は検出器で検出出力が上限に達して飽和してしまうおそれがあるし、光源に供給する電力を大きくし過ぎると光源の寿命が短くなるという問題もある。
【0005】
また、試料に測定光を照射するための光源は、その種類によって特有の発光波長特性(発光スペクトル)を有している。そのため、赤外領域から可視・紫外領域までの広い波長範囲に亘る吸光スペクトルを測定したい場合には、異なる発光スペクトルを有する複数の光源(例えば重水素ランプとハロゲンランプなど)を組み合わせて利用する必要がある。こうした場合に、一般的には、特許文献2などに記載のように、目的の波長範囲に亘る発光スペクトルを得るために、ハーフミラーなどの光学素子を用いて複数の光源からの光を混合した測定光を試料に照射し、その混合光である測定光に対応した透過光や反射光を1つのマルチチャンネル型検出器で検出して吸光スペクトルを得るようにしている。
【0006】
このように複数の光源からの光をハーフミラーで混合する場合、両者共に発光強度(光量)を有している波長では両者の光量が加算され、一方しか発光強度を有していない波長ではその光源の光量が試料に照射されることになる。前述のように検出器では受光強度が大きいほどSN比は良好になるものの、検出出力が上限に達して飽和してしまうと正確な測定は行えない。そのため、受光強度は検出出力が飽和しない範囲でできるだけ大きくなるようにすることが望ましいが、各光源に印加する電圧等を調整して各光源の発光強度をそれぞれ正確に調整することは容易ではない。何故なら、前述のように光源に供給する電力を大きくし過ぎると光源の寿命が短くなり、一方、光源に供給する電力を小さくし過ぎると発光強度が不安定になるため、供給電力による発光強度の調整範囲は比較的狭いからである。
【0007】
また、ハーフミラーにより光を混合する方法では混合比率が一定(通常は1:1が多い)となり、各光源の発光強度を変化させない場合には、一義的に測定光のスペクトルが決まる。これに対し、試料溶媒や光ファイバなどの光導入系の光透過率が波長依存性を有している場合には、その波長依存性に合わせて測定光のスペクトルを調整したほうが適切な測定が行えるもののそうした調整は容易ではない。さらにまた経年変化等によって複数の光源の発光エネルギーの減衰度合にばらつきがあると、混合した測定光のスペクトルも変動してしまうことになるが、そうした場合にも上記のように測定光のスペクトルの調整が容易に行えると都合がよい。
【0008】
【特許文献1】特開2004−354187号公報
【特許文献2】特開平8−122150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その第1の目的とするところは、測定時間を短縮しながらパルス駆動光源の発光強度のばらつきの影響を軽減して高精度な透過測定を行うことができるマルチチャンネル型の分光光度計を提供することである。
【0010】
また、本発明の第2の目的とするところは、複数の光源を用いてその混合光を試料に照射する場合に、試料に照射する測定光の強度を容易に調整することができるようにし、さらにまた、複数の光源からの光の混合比率を調節することにより混合光のスペクトルを容易に調整することができるようにしたマルチチャンネル型の分光光度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された第1発明に係る分光光度計は、
a)試料に光を照射するためのパルス点灯可能な光源手段と、
b)該光源手段による光の照射に応じた前記試料からの透過光又は反射光を波長分散させる分光器と、
c)該分光器による波長分散光を一斉に検出するべく多数の受光素子がその波長分散方向に配列され、各受光素子で受光光により発生した電荷信号を蓄積した後に直列的に信号読み出しを行うマルチチャンネル型の検出器と、
d)該検出器における1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記光源手段を複数回パルス点灯させる駆動制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
また上記課題を解決するために成された第2発明に係る分光光度計は、
a)互いに発光スペクトルの相違する複数の光源手段と、
b)該複数の光源手段による出射光を合一して試料に照射する光合一手段と、
c)該光の照射に応じた前記試料からの透過光又は反射光を波長分散させる分光器と、
d)該分光器による波長分散光を一斉に検出するべく多数の受光素子がその波長分散方向に配列され、各受光素子で受光光により発生した電荷信号を蓄積した後に直列的に信号読み出しを行うマルチチャンネル型の検出器と、
e)該検出器における1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記複数の光源手段をそれぞれ1乃至複数回パルス点灯させる駆動制御手段と、
を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
マルチチャンネル型の検出器にあって1回の信号読み出し周期の中の電荷蓄積期間中に各受光素子が受けた光により発生する電荷信号は積算されるから、光源が複数回パルス点灯された場合にはその複数回の点灯時に受光した光で発生する電荷信号の合計(積算値)が読み出し信号となる。したがって、第1発明に係る分光光度計において、1回のパルス点灯毎に発光強度がばらついたとしても、1回の電荷蓄積期間中にパルス点灯する回数を或る程度多くしておくことにより、各点灯時の発光強度の相違の影響を軽減することができる。また、1回の電荷蓄積期間中に複数回のパルス点灯に応じて各受光素子で得られた電荷信号をアナログ的に積算した上で読み出しているので、1回のパルス点灯毎に電荷信号を読み出してデータ処理上で積算を行う場合に比べて、同一試料に対する測定時間を短縮することができる。
【0014】
また、第1発明に係る分光光度計において、1回の電荷蓄積期間中の光源のパルス点灯回数を調節することより、実質的に各受光素子が受ける光量、つまり受光強度を調節することができる。但し、受光素子に蓄積する信号電荷が飽和するのを回避する必要があるため、本発明に係る分光光度計の一実施態様として、与えられた分析条件に基づいて、1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記光源手段をパルス点灯させる回数を算出する点灯回数決定手段、をさらに備える構成とするとよい。ここで、分析条件とは例えば溶媒の種類、測定波長範囲、光ファイバなどの光導入系の使用の有無、などである。
【0015】
この構成によれば、1回の信号読み出し周期の中の電荷蓄積期間中に光源手段をパルス点灯させる回数を適宜調節することにより、マルチチャンネル型検出器の受光素子で電荷信号が飽和しない範囲でできるだけ信号を大きくしてSN比を向上させることができる。また、パルス点灯の回数を増やすことで1回のパルス点灯毎の発光強度のばらつきの影響を一層軽減することができる。
【0016】
また第2発明に係る分光光度計では一実施態様として、前記駆動制御手段は、1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記複数の光源手段を同時に複数回パルス点灯させる構成とすることができる。
【0017】
また別の実施態様として、前記駆動制御手段は、1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記複数の光源手段をそれぞれ異なる回数パルス点灯可能である構成とすることができる。
【0018】
この構成によれば、複数の光源手段のパルス点灯回数をそれぞれ適宜に設定することにより、試料に照射される光における複数の光源手段からの出射光の混合比を調節することができる。但し、ここで言う混合比は或る瞬間における複数の光の混合比ではなく、電荷蓄積期間中に試料に照射される光の総量(積算値)における混合比である。これにより、試料に照射される光のスペクトルの形状を試料の溶媒の透過率や光ファイバなどの光導入系の透過率の波長依存性に合わせた形状として、より正確な測定を行うことができる。
【0019】
但し、ユーザーが適切な点灯回数を設定するのは面倒であるから、与えられた分析条件に基づいて、1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記複数の光源手段をパルス点灯させる回数をそれぞれ算出する点灯回数決定手段、を備える構成とすると便利である。
【0020】
なお、複数の光源手段を複数回パルス点灯させるタイミングは周期的でもよいし非周期的でもよい。また、複数の光源手段をそれぞれ異なる回数パルス点灯させる場合でも、一部のパルス点灯は複数の光源手段において同時であってもよいし、全てのパルス点灯のタイミングが複数の光源手段で一致しない、或いは意図的にずらすようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[第1実施例]
本発明の分光光度計の一実施例(第1実施例)について、図面を参照して説明する。図1は本実施例のマルチチャンネル分光光度計の要部の全体構成図である。
【0022】
測光部10は、パルス点灯可能である光源部11と、光源部11から出射した測定光の光路上に配設された、試料15を内部に収容する試料セル14と、試料15を通過した光を波長分散する回折格子16と、回折格子16で一次元的(線状)に波長分散された光をほぼ同時に検出する、N(例えばN=512、1024など)個の受光素子が直線状に配設されて成るPDA検出器17と、を含む。光源部11は制御部22による制御の下に、光源駆動部18によりパルス点灯駆動される。
【0023】
前述のようにPDA検出器17の各受光素子には回折格子16で波長分散された光がほぼ同時に当たり、各受光素子ではそれぞれ受光した光量(光強度)に応じた電荷信号を発生する。基本的には、電荷蓄積期間と信号読み出し期間とを含む所定時間を1サイクルとして、電荷蓄積期間に各受光素子は受光した光の量に応じて発生した電荷を蓄積し、引き続く信号読み出し期間に、その直前の電荷蓄積期間に蓄積された電荷信号をパラレル/シリアル変換して1系統の信号出力経路を通して読み出してA/D変換器20に送る。
【0024】
A/D変換器20は送られてきた電荷信号を1個ずつデジタルデータに変換してデータ処理部21に送り、データ処理部21は、受け取ったデータを一旦メモリに格納した後に、収集したデータに基づいて例えば各波長毎の吸光度を計算し、吸光度スペクトルを作成したり定性分析、定量分析を実行したりする。制御部22は本装置の動作を司るものであり、ユーザーが操作する入力部23、ユーザーに操作に伴う情報や分析結果などを提供する表示部24が接続されている。制御部22やデータ処理部21の機能の殆どは、パーソナルコンピュータにインストールされた専用の制御/処理ソフトウエアを実行することにで具現化することができる。
【0025】
次に本実施例の分光光度計における特徴的な動作として、PDA検出器17での信号蓄積及び読み出し動作について図2〜図4を参照して説明する。図2は本実施例の分光光度計における測定実行時の制御部22を中心とする制御/処理のフローチャート、図3は定期割り込み処理による光源点灯制御のフローチャート、図4は1回の測定開始から終了までの概略タイミング図である。
【0026】
分光光度計における測定開始には、ユーザーが入力部23からキーボード操作等により測定開始指示を入力する場合と、ユーザーが測定待機指示を行った後に本分光光度計とは別の外部機器からの測定開始指示を受ける場合とがある。ここでは後者の場合を想定する。なお、こうした動作に対応した既存の分光光度計としては上記特許文献1に記載のものがあり、本実施例の分光光度計は本願発明を上記既存の分光光度計と組み合わせたものである。
【0027】
いまここでは、光源部11をパルス点灯させるべく光源駆動部18に点灯トリガ信号を出力する出力タイミングを、PDA検出器17の暗電流読み出し完了時点から1回目の点灯までの待ち時間(初回点灯待ち時間)Ta、点灯周期Tb、連続点灯回数Tc、連続測定回数Td、電荷蓄積時間Te、初回読み出しまでの待ち時間Tfなどを光源点灯パラメータとして指定するものとする(図4参照)。
【0028】
測定開始に先立って、分析者(ユーザー)は入力部23より上述した光源点灯パラメータを含む測定条件を入力し、これが制御部22に設定される。そして分析者が入力部23より測定開始を指示すると、制御部22は測定開始コマンドを受けて測定状態に移行する(ステップS1)。分析者が測定のキャンセルや終了を指示する測定中止コマンドがなければ(ステップS2でN)、制御部22は測定開始トリガ信号入力待ち状態に移行する(ステップS3)。
【0029】
例えばこの分光光度計が液体クロマトグラフの検出器として使用される場合、オートサンプラによるカラムへの試料注入に伴って測定が開始される。したがって、その場合にはオートサンプラが外部機器に相当し、この図示しない外部機器から測定開始トリガ信号が入力される。測定開始トリガ信号が入力されると(ステップS4でY)、初回読み出しまでの待ち時間Tfを測定開始待ち時間Rに設定し(ステップS5)、その待ち時間が経過すると(ステップS6でY)、前回の測定が終了してからPDA検出器17の各受光素子に蓄積されていた暗電流データを読み出して廃棄する(ステップS7)。具体的には制御部22はPDA検出器17に所定数の読み出しクロックを送り、それに応じてPDA検出器17から出力された信号をA/D変換せずに捨てればよい。この暗電流データ読み捨てにより、各受光素子の蓄積電荷はリセット状態に戻る。
【0030】
次いで、制御部22では連続測定回数Tdを残り測定回数Pに設定する(ステップS8)。残り測定回数Pが0であるか否かを判定し(ステップS9)、0でなければさらに連続点灯回数Tcを残り発光回数Qに、初回点灯待ち時間Taを次回点灯待ち時間Uに設定する(ステップS10)。それから、電荷蓄積時間を再設定し(ステップS11)、実測定データ出力待ち状態に移行する(ステップS12)。この実測定データ出力待ち状態において、後述のように定期割り込み処理により点灯トリガ信号が出力され、光源部11の点灯に応じてPDA検出器17の各受光素子では電荷信号が蓄積される。
【0031】
そして、電荷蓄積時間が経過したならば実測定データ読み出しを実行することで(ステップS13)、その直前の電荷蓄積時間の間にPDA検出器17の各受光素子に蓄積されていた電荷信号を1素子分ずつ読み出し、A/D変換器20で変換されたデジタルデータをデータ処理部21に読み込む。これで1回の測定が終了するから、残り測定回数Pを1だけ減じたものを新たにPとし(ステップS14)、ステップS9に戻る。したがって、ステップS9〜S14の処理の繰り返しにより、残り測定回数Pが0になるまで上記のような電荷蓄積と信号の読み出しとを繰り返し、残り測定回数Pが0になったならばステップS9からS2に戻る。したがって、前述のように分析者の指示に応じて測定中止コマンドが与えられるか、或いは、測定開始前に制御部に予め設定しておいた測定完了時間が経過するまで、上記一連の動作を繰り返すことになる。
【0032】
上述のように電荷蓄積期間に入ると、図3に示すような定期割り込み処理による光源点灯制御が所定の周期で繰り返し実行される。即ち、まず測定開始待ち時間Rが0であるか否かを判定し(ステップS20)、測定開始待ち時間Rが0でなければ測定開始待ち時間Rから1を減じて(ステップS26)割り込み処理を終了する。測定開始待ち時間Rが0である場合には、残り点灯回数Qが0であるか否かを判定し(ステップS21)、0である場合には割り込み処理を終了する。残り点灯回数Qが0でなければ、次回点灯待ち時間Uが0であるか否かを判定し(ステップS22)、0でなければ次回点灯待ち時間Uから1を減じて(ステップS27)割り込み処理を終了する。
【0033】
測定開始待ち時間Rが0であって、残り点灯回数Qは0でなく、次回点灯待ち時間Uが0である場合には、制御部22は点灯トリガ信号を出力する(ステップS23)。光源駆動部18はこの点灯トリガ信号を受けて光源部11を短時間、つまりパルス状(又はフラッシュ状)に点灯させる。制御部22は残り点灯回数Qから1を減じ(ステップS24)、点灯周期Tbを次回点灯待ち時間Uに設定して(ステップS25)割り込み処理を終了する。この割り込み処理の繰り返しにより、測定待ち時間Rが0になった後に、予め設定されている連続点灯回数Tcだけ決まった点灯周期Tbの間隔で以て光源部11はパルス点灯される(図4参照)。
【0034】
以上のように本実施例の分光光度計では、1回の電荷蓄積期間中に光源部11を複数回パルス点灯させ、各点灯毎に測定光を試料15に照射し、その試料15を透過した光をPDA検出器17の各受光素子で積算して出力することができる。したがって、各パルス点灯毎の発光光量にばらつきがあっても、検出出力においてはそうしたばらつきの影響は平均化されて軽減されることになる。
【0035】
上記実施例では、複数の測定における光源部11のパルス点灯のタイミングを同じにして且つ1回の電荷蓄積期間の中で周期的にパルス点灯させるようにしていたが、各測定毎に異なるシーケンスでパルス点灯が行われるようにパラメータの設定方法を変更してもよい。また、周期的なパルス点灯でなく非周期的なパルス点灯を行わせるために、点灯周期に代えて、例えば連続点灯回数の全てについて前の点灯と次の点灯との間の時間間隔を設定したり、或いは所定の計算式に従って順番に時間間隔が変化するような設定としてもよい。このように光源点灯パラメータの指定方法は特に限定されず、各種の変形が可能である。
【0036】
また例えば試料15における光の透過率が非常に小さくPDA検出器17への入射光の光量が非常に小さいことが予め分かっている場合、つまりPDA検出器17での蓄積電荷の飽和のおそれがないような場合には、分析者の設定に依らずに予め決めておいた光源点灯パラメータに基づいて点灯トリガ信号を出力するようにしてもよい。具体的には、例えば初回点灯待ち時間Taを0、点灯周期Tbを光源最小点灯周期、連続点灯回数Tcを制限なし、に設定して制御部22は点灯制御を行い、電荷蓄積時間が終了するまでパルス点灯を繰り返すようにすることができる。このように単純なパルス点灯制御でよい場合には、タイマICなどの計時回路により点灯トリガ出力信号を生成することも可能である。
【0037】
また、点灯周期Tbを光源最小点灯周期に固定し、連続点灯回数TcはPDA検出器17の飽和上限で決まる値又は光源部11の点灯動作上限で決まる値のいずれか小さいほうに決めてもよい。これにより、PDA検出器17が飽和しない範囲で最もSN比が良好になるようにすることができる。
【0038】
光源部11は例えばキセノンフラッシュなどのパルス点灯専用の光源であることが望ましいが、重水素ランプやハロゲンランプなどの連続点灯光源であっても、高速開閉可能なシャッタなどを光路上に設け、該シャッタの開閉動作により擬似的に短時間のパルス点灯を行うことが可能な構成としてもよい。
【0039】
また、連続点灯回数や点灯周期などのパラメータを変えたときにSN比などの測定データの質を評価するモードを用意し、該モードを実行することでSN比などの性能の要求水準が予め決めたレベルを満足する範囲で最も少ない連続点灯回数を見い出し、これを実際の試料の測定に採用するようにしてもよい。これにより、無駄なパルス点灯を無くして光源の消耗を抑えるとともに消費電力を少なくすることができる。
【0040】
[第2実施例]
次に本発明に係る他の実施例(第2実施例)による分光光度計について、図5を参照して説明する。上記第1実施例のマルチチャンネル分光光度計は光源部が1個のみあるが、この第2実施例のマルチチャンネル分光光度計は複数の光源部を有するものである。図5において図1と同じ又は相当する構成要素には同じ符号を付してある。
【0041】
図5において、測光部10は試料セル14の前方に、いずれもパルス点灯可能な第1光源部11及び第2光源部12と、両光源部11、12から到来した光を混合して(ここでは混合比は約1:1であるものとする)同一の測定光路に送るハーフミラー13と、を備える。第1光源部11及び第2光源部12は互いに発光スペクトルが相違する(例えば図7(a)中のA1、A2)異なる種類の光源であり、制御部22による制御の下に、第1光源駆動部18と第2光源駆動部19によりそれぞれパルス点灯駆動される。
【0042】
この構成では、制御部22から同一の点灯トリガ信号が第1及び第2光源駆動部18、19に与えられるため、第1及び第2光源部11、12はほぼ同時に同時間だけ発光し、両者の発光光がハーフミラー13で混合されたパルス状の測定光が試料15に照射される。測定光の発光スペクトルは第1及び第2光源部11、12の出射光の発光スペクトルを上記混合比(ここでは1:1)で加算したものとなり、これに対応する透過光のスペクトルをPDA検出器17で得ることができる。この場合、同一の点灯トリガ信号に応じて両光源部11、12が発光するため、パルス点灯のための制御は上述の第1実施例と全く同様に行うことができる。
【0043】
即ち、ステップS23で制御部22により点灯トリガ信号が出力されると、同一の点灯トリガ信号が第1光源駆動部18と第2光源駆動部19とに並行して入力されるから、第1及び第2光源部11、12は同時にパルス点灯する。このようにして1回の電荷蓄積期間中に複数の光源部11、12を同時に複数回パルス点灯させ、光源部11、12からパルス状に発せられた光をハーフミラー13で混合した測定光を試料15に照射し、その試料15を透過した光をPDA検出器17の各受光素子で積算して出力することができる。
【0044】
上記第2実施例では、複数の測定における光源部11、12のパルス点灯のタイミングを同じにして且つ1回の電荷蓄積期間の中で周期的にパルス点灯させるようにしていたが、上記第1実施例と同様に各種の変形が可能であることは言うまでもない。
【0045】
[第3実施例]
次に本発明に係るさらに他の実施例(第3実施例)による分光光度計について、図6により説明する。上記第1、第2実施例と同一又は相当する構成要素には同一符号を付して説明を省略する。この第3実施例によるマルチチャンネル分光光度計は、上記第2実施例と同様に2個の光源部11、12、2個の光源駆動部18、19を有しているが、これを駆動する点灯トリガ信号は共通ではなく、制御部22からそれぞれ独立して入力されている。また、制御部22は光源駆動部18、19に送る点灯トリガ信号の個数を計算するために、点灯パルス数計算部221を機能として備えている。
【0046】
上記第1、第2実施例では、予め分析者により設定された連続点灯回数だけ1回の電荷蓄積期間中にパルス点灯が行われるように制御がなされたが、この第3実施例の分光光度計では、分析者が設定した分析条件に従って最適な測定が実行されるように2個の光源部11、12の連続点灯回数が自動的に決められる。
【0047】
一例を挙げると、例えばいま第1光源部11、第2光源部12の発光スペクトルが図7(a)中のA1、A2であるとし、ハーフミラー13での光の混合比が1:1でパルス点灯の数が同一(つまり上記第2実施例の場合)であるときにA3で示すようなほぼ平坦な発光スペクトルができるものとする。但し、ここで言う発光スペクトルは或る瞬間的なものではなく、1回の電荷蓄積期間中の複数回のパルス点灯で得られる光量の総和のスペクトルである。いま試料15の溶媒自体の透過率に波長依存性があって図7(b)中に示すような形状であるとすると、長波長領域では透過率が落ちる。この場合に、例えば長波長側の第2光源部12のパルス点灯回数を第1光源部11よりも増やすと実効的に光量が増加したことになり、第1光源部11、第2光源部12の発光スペクトルの関係は図7(b)中のB1、B2となる。つまり、両方の光の混合比が変わることと等価となり、ハーフミラー13で混合された光の発光スペクトルはB3に示すようになる。
【0048】
このように1回の電荷蓄積期間中にパルス点灯する回数を同一とせずに光源部毎に調整することにより、光の混合比を実質的に調整して試料15に照射される測定光の発光スペクトルの形状を変えることができる。例えば入力部23から分析条件の1つとして溶媒の種類を入力すると、点灯パルス数計算部221は溶媒の種類から予め登録されている情報に基づいて上記のような透過率の波長依存性を求め、これに応じて適切な混合比を算出した上で各光源部11、12毎の点灯パルス数を計算する。この計算の際には、上述したようにPDA検出器17での飽和上限や各光源部11、12の点灯動作上限なども利用することができる。
【0049】
もちろん、点灯パルス数計算部221で自動的に計算される点灯パルス数ではなく、上記第2実施例と同様に各光源部11、12に対応してそれぞれ設定される光源点灯パラメータに従って点灯制御を行うようにしてもよい。このときに設定される光源点灯パラメータの様式も特に限定されないし、また上記のような各種の変形がこの実施例に適用できることも当然である。
【0050】
さらにまた上述した以外の点についても、本発明の趣旨の範囲で適宜、変形、修正、追加などを行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施例(第1実施例)のマルチチャンネル分光光度計の要部の全体構成図。
【図2】第1実施例の分光光度計における測定実行時の制御部を中心とする制御/処理のフローチャート。
【図3】第1実施例の分光光度計において定期割り込み処理による光源点灯制御のフローチャート。
【図4】第1実施例の分光光度計において1回の測定開始から終了までの概略タイミング図。
【図5】本発明の別の実施例(第2実施例)のマルチチャンネル分光光度計の要部の全体構成図。
【図6】本発明の別の実施例(第3実施例)のマルチチャンネル分光光度計の要部の全体構成図。
【図7】第3実施例のマルチチャンネル分光光度計の動作を説明するための図。
【符号の説明】
【0052】
10…測光部
11…光源部(第1光源部)
12…第2光源部
13…ハーフミラー
14…試料セル
15…試料
16…回折格子
17…PDA検出器
18…光源駆動部(第1光源駆動部)
19…第2光源駆動部
20…A/D変換器
21…データ処理部
22…制御部
221…点灯パルス数計算部
23…入力部
24…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)試料に光を照射するためのパルス点灯可能な光源手段と、
b)該光源手段による光の照射に応じた前記試料からの透過光又は反射光を波長分散させる分光器と、
c)該分光器による波長分散光を一斉に検出するべく多数の受光素子がその波長分散方向に配列され、各受光素子で受光光により発生した電荷信号を蓄積した後に直列的に信号読み出しを行うマルチチャンネル型の検出器と、
d)該検出器における1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記光源手段を複数回パルス点灯させる駆動制御手段と、
を備えることを特徴とする分光光度計。
【請求項2】
与えられた分析条件に基づいて、1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記光源手段をパルス点灯させる回数を算出する点灯回数決定手段、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の分光光度計。
【請求項3】
a)互いに発光スペクトルの相違する複数の光源手段と、
b)該複数の光源手段による出射光を合一して試料に照射する光合一手段と、
c)該光の照射に応じた前記試料からの透過光又は反射光を波長分散させる分光器と、
d)該分光器による波長分散光を一斉に検出するべく多数の受光素子がその波長分散方向に配列され、各受光素子で受光光により発生した電荷信号を蓄積した後に直列的に信号読み出しを行うマルチチャンネル型の検出器と、
e)該検出器における1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記複数の光源手段をそれぞれ1乃至複数回パルス点灯させる駆動制御手段と、
を備えることを特徴とする分光光度計。
【請求項4】
前記駆動制御手段は、1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記複数の光源手段を同時に複数回パルス点灯させることを特徴とする請求項3に記載の分光光度計。
【請求項5】
前記駆動制御手段は、1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記複数の光源手段をそれぞれ異なる回数パルス点灯可能であることを特徴とする請求項3に記載の分光光度計。
【請求項6】
与えられた分析条件に基づいて、1回の信号読み出し周期の電荷蓄積期間中に前記複数の光源手段をパルス点灯させる回数をそれぞれ算出する点灯回数決定手段、を備えることを特徴とする請求項5に記載の分光光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−96241(P2008−96241A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277293(P2006−277293)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】