説明

分岐ヒアルロン酸及びその製造方法

分岐ヒアルロン酸であって、その直鎖骨格が、1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンがグルコサミンに脱アセチル化されたヒアルロン酸を含んでなり、前記脱アセチル化グルコサミンの第1級アミンに分岐側鎖が共有結合して第2級アミンを形成する、分岐ヒアルロン酸、前記分岐ヒアルロン酸を作製するための前駆体、並びに、前記分岐ヒアルロン酸を作製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元的アルキル化による脱アセチル化ヒアルロン酸(deHA)の分岐化、かかる分岐ヒアルロン酸自体、並びに、特に化粧品業界及び生物医学産業における、それらの応用及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
身体に最も豊富に存在するヘテロ多糖はグリコサミノグリカンである。グリコサミノグリカンは、二糖単位の繰り返しからなる非分岐炭水化物ポリマーである(ケラタン硫酸のみ炭水化物のコア領域で分岐している)。二糖単位は通常、第一のサッカライド単位として、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)又はN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)という、2種の変性糖の一方を含んでなる。第二の単位は通常、ウロン酸、例えばグルクロン酸(GlcUA)又はイズロネートである。
【0003】
グリコサミノグリカンは負荷電分子であって、拡張した立体構造を有し、溶液に高い粘度を付与する。グリコサミノグリカンは主に細胞表面又は細胞外マトリクスに存在する。また、グリコサミノグリカンは溶液中で低圧縮性を示すことから、理想的な生理学的潤滑液(例えば関節等)となる。グリコサミノグリカンの剛性は、細胞に構造的一体性を与え、また細胞間に通路を提供し、細胞遊動を可能にしている。生理学的に最も重要なグリコサミノグリカンは、ヒアルロナン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸及びケラタン硫酸である。多くのグリコサミノグリカンは、特定のオリゴ糖構造を介してプロテオグリカンコアタンパク質に共有結合する。例外的にヒアルロナンは、特定のプロテオグリカンと大きな凝集体を形成するが、これは遊離炭水化物鎖がプロテオグリカンと非共有結合複合体を形成するためである。
【0004】
ヒアルロナンの体内での役割は多数同定されている(Laurent T. C. and Fraser J. R. E., 1992, FASEB J. 6: 2397-2404; 及び Toole B.P., 1991, "Proteoglycans and hyaluronan in morphogenesis and differentiation." In: Cell Biology of the Extracellular Matrix, pp. 305-341, Hay E. D., ed., Plenum, New Yorkを参照)。ヒアルロナンは、硝子軟骨、滑膜関節液及び皮膚組織(真皮及び表皮の両方)に存在する。また、ヒアルロナンは多くの生理学的機能、例えば付着、成長、細胞運動性、癌、血管形成及び創傷治癒に関与していると推測される。ヒアルロナンは、その独自の物理学的及び生物学的特性から、眼及び関節の手術で利用されるほか、その他の医療方法でも評価されている。
【0005】
「ヒアルロナン(hyaluronan)」又は「ヒアルロン酸(hyaluronic acid)」という語は、文献では、D−グルクロン酸及びN−アセチル−D−グルコサミン酸の残基により構成される、種々の分子量を有する酸性多糖類であって、天然には細胞表面、脊椎動物の結合組織の塩基性細胞外基質、関節の滑液、眼の眼内流体、ヒト臍帯組織、及び鶏冠に存在するものを指す言葉として用いられる。
【0006】
実際には「ヒアルロン酸(hyaluronic acid)」という語は、通常は種々の分子量を有するD−グルクロン酸及びN−アセチル−D-グルコサミン酸の残基が交互する鎖状多糖類全体、又はその分解された分画を意味するものとして使用されるため、複数形(hyaluronic acids)を用いるのがより正確であろう。但し、本明細書ではやはり単数形を用いる。加えて、かかる総称に代えてしばしば、略語である「HA」を用いる。
【0007】
HAは生物において重要な役割を果たす。皮膚、腱、筋肉及び軟骨等、多くの組織の細胞を機械的に支持し、細胞内マトリクスの主成分である。また、組織の保湿や潤滑等の生物学的過程で、HAは別の重要な役割を演じる。
【0008】
HAは上述の天然組織から抽出され得るが、今日では、病原体による感染の潜在的リスクを最小限に抑え、かつ製品の均一性・品質・可用性を高めるために、微生物学的方法による調製が好適である。
【0009】
HA及びその種々の分子サイズ分画、並びにこれらの塩は、(特に関節症治療用の)薬剤として、(特に眼科及び美容外科における)天然器官及び組織用の助剤及び/又は置換剤として、また、化粧品の材料として用いられてきた。また、整形外科、リュウマチ、及び皮膚科用にも、ヒアルロナン製品が開発されてきた。
【0010】
さらに、HAは衛生及び手術用品に用いられるポリウレタンやポリエステル等の種々のポリマー材料の生体適合性を高める添加剤としても使用され得る。
【0011】
ヒドラジンを用いたHAの脱N−アセチル化が文献に記載されている(Crescenzi et al. (2002) New cross-linked and sulfated derivatives of partially deacetylated hyaluronan: Synthesis and preliminary characterization, Biopolymers 64, 86-94)。
【0012】
亜硝酸(HONO)を用いた還元的分解によるキトサンの分岐化及び還元的N−アルキル化が報告されている(Tommeraas et al. (2002) Carbohydrate Research 337, 2455-2462)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
例えば、直鎖HAとの比較における粘弾性の向上、例えば、剪断菲薄化(shear thinning)やイオン強度変化に対する感受性の低減、同分子量の直鎖HAからの粘度低減等の性質等、所望の特性を有する生物適合性ポリマーの新規の誘導体の開発が求められている。これらの特性は、生物医学用インプラントや、化粧品、生物医学及び医薬製剤の応用分野で有用であると考えられる。その他の興味ある特性としては、泡を安定化させる性質の向上や、化粧品で通常用いられるような非親水性物質との混合容易性等が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様によれば、本発明は、分岐ヒアルロン酸であって、その直鎖骨格が、1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンがグルコサミンに脱アセチル化されたヒアルロン酸を含んでなり、前記脱アセチル化グルコサミンの第1級アミンに分岐側鎖が共有結合して第2級アミンを形成する、分岐ヒアルロン酸を提供する。
【0015】
本発明の第2の態様は、前駆体又は中間体分子に関し、これは第3の態様の方法の一部を構成する。即ち、1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンがグルコサミンに脱アセチル化された、部分又は完全脱アセチル化ヒアルロン酸(dHA)に関する。
【0016】
第3の態様によれば、本発明は、分岐ヒアルロン酸を製造する方法であって、(a)1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンがグルコサミンに脱アセチル化された直鎖ヒアルロン酸骨格を供給する工程;及び(b)少なくとも1の遊離還元性アルデヒド基を含んでなる生物適合性ポリマーを、(a)の1又は2以上のグルコサミンの第1級アミンと、還元的N−アルキル化により反応させ、分岐ヒアルロン酸を形成する工程を含んでなる方法を提供する。
【0017】
第4の態様によれば、本発明は、第1の態様に係る分岐ヒアルロン酸と活性成分、好ましくは薬理学的活性剤とを含んでなる組成物に関する。
【0018】
第5の態様によれば、本発明は、第1の態様に係る分岐ヒアルロン酸の有効量と、医薬的に許容し得る担体、賦形剤、又は希釈剤とを含んでなる医薬組成物に関する。
【0019】
第6の態様は、第1の態様に係る分岐ヒアルロン酸の有効量をビヒクルとして含んでなると共に、薬理学的活性剤を含んでなる医薬組成物に関する。
【0020】
第7の態様は、有効量の第1の態様に係る分岐HA、又は第2、第3、第4の態様のいずれかに係る組成物を活性成分として含んでなる化粧製品に関する。
【0021】
第8の態様によれば、本発明は、第1の態様に係る分岐HA、又は第2、第3、第4の態様のいずれかに係る組成物を含んでなる、衛生製品、医療又は手術製品、好ましくはおむつ、生理用ナプキン、手術用スポンジ、創傷治癒スポンジ、又は絆創膏や他の創傷被覆材の部材に関する。
【0022】
重要な一態様は、第1の態様に係る分岐HA、又は第4〜6の態様のいずれかに係る組成物を含んでなる、医薬カプセル又はマイクロカプセルに関する。
【0023】
本発明の最後の態様は、眼科的治療、変形性関節炎又は癌の治療、創傷の治療、薬理学的活性剤の皮膚投与又は経皮投与、又は化粧品の皮膚投与における処置を実施する方法に関し、その改善は、第1の態様に係る分岐HA、又は第3〜6の態様のいずれかに係る組成物の使用を包含する。
【0024】
数々の態様が、変形性関節炎又は癌治療に用いられる薬剤の製造、眼科的治療に用いられる薬剤の製造、創傷の治療に用いられる薬剤の製造、血管形成に用いられる薬剤の製造、又は保湿剤の製造における、第1の態様のいずれかに係る分岐HA、又は第4〜6の態様のいずれかに係る組成物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、ヒアルロン酸の分子量の関数である縮約因子(contraction factor)「g」のプロットを示す(g=(Rg,分岐2/(Rg,直鎖2)。g値が1未満の場合、ポリマーが分岐していることを示す。図に示すように、分子量の増大に伴って縮約因子も増加することから、分岐HAの調製が確認できる。試料2.a、2.b、及び2.cは、分岐反応実施後の実施例2の試料A、B及びCに相当する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ヒアルロン酸
本明細書において「ヒアルロン酸」は、交互に現れるβ−1,4及びα−1,3グリコシド結合によって連結される、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)及びグルクロン酸(GlcUA)の繰り返し二糖構造からなる、非硫酸化グルコサミノグリカンとして定義される。ヒアルロン酸はヒアルロナン、ヒアルロネート、又はHAとしても知られている。ヒアルロナン及びヒアルロン酸という用語は、本明細書では何れも、前述の分子自体、及びそのあらゆる種類の塩を表す言葉として、同義に用いられる。
【0027】
ヒアルロナンの重要な商業供給源としては雄鶏の鶏冠がある。代替源としては微生物がある。米国特許第4,801,539号には、ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus zooepidemicus)の或る株を用いた、ヒアルロン酸調製のための発酵方法が開示されており、そのヒアルロン酸収量は約3.6g/Lであると報告されている。欧州特許第0694616号では、ストレプトコッカス・ズーエピデミカスの改良株を用いた発酵方法が開示されており、そのヒアルロン酸産生量は約3.5g/Lであると報告されている。WO03/054163(Novozymes)(本文献は本明細書に組み入れられる)に開示のように、ヒアルロン酸又はその塩は、例えばグラム陽性バチルス宿主を用い、組み換えによって生産することができる。
【0028】
ヒアルロナンシンターゼとしては、脊椎動物、病原菌及び藻類ウイルス由来のものが報告されている(DeAngelis, P. L., 1999, Cell. Mol. Life Sci. 56: 670-682)。WO99/23227には、ストレプトコッカス・エクイシミリス(Streptococcus equisimilis)由来のグループIヒアルロン酸シンターゼが開示され、WO99/51265及びWO00/27347にはパスチュレラ・ムルトシダ(Pasturella multocida)由来のグループIIヒアルロン酸シンターゼが記載されている。Ferrettiらは、ヒアルロン酸シンターゼ、UDPグルコースデヒドロゲナーゼ、及びUDP−グルコースピロホスホリラーゼをそれぞれコードする3つの遺伝子hasA、hasB及びhasCから構成される、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)のヒアルロナンシンターゼオペロンを開示している(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98, 4658-4663, 2001)。WO99/51265では、ストレプトコッカス・エクイシミリス由来のヒアルロナンシンターゼのコード領域を有する核酸セグメントが記載されている。
【0029】
組み換えバチルス細胞のヒアルロナンは培地に直接発現されるので、簡単な方法で培地からヒアルロナンを単離することができる。まず、バチルス細胞及び破砕細胞を培地から物理的に除去する。所望により、最初に培地を希釈して培地の粘度を低減してもよい。培地から細胞を除去する方法としては、遠心分離や精密濾過等、多数の方法が当業者に公知である。所望により、残存する上清を限外濾過等によって濾過することによって、ヒアルロナンを濃縮するとともに小分子汚染物質を除去してもよい。細胞及び破砕細胞の除去後、既知の機序によって培地からヒアルロナンの単純沈殿を行う。濾液からのヒアルロナンの沈殿には、塩、アルコール、又は塩とアルコールの組み合わせを用いることができる。沈殿となったヒアルロナンは、物理的手段で溶液から容易に単離することができる。ヒアルロナンは、当技術分野で公知の蒸発技術、例えば噴霧乾燥等を用いて、濾液から乾燥又は濃縮することができる。
【0030】
本発明の第1の態様は、分岐ヒアルロン酸であって、その直鎖骨格が、1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンがグルコサミンに脱アセチル化されたヒアルロン酸を含んでなり、前記脱アセチル化グルコサミンの第1級アミンに分岐側鎖が共有結合して第2級アミンを形成する、分岐ヒアルロン酸に関する。
【0031】
好ましい実施形態によれば、分岐側鎖は生物適合性ポリマーを含んでなる。生物適合性ポリマーは、好ましくはヒアルロン酸を含んでなる。
【0032】
本発明の第2の態様は、第3の態様の方法で第1の態様の分岐HAを製造するために必要な中間体又は前駆体分子に関する。前記中間体又は前駆体分子は、1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンがグルコサミンに脱アセチル化された、部分又は完全脱アセチル化ヒアルロン酸(dHA)である。
【0033】
前記1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンの脱アセチル化は、化学処理又は酵素処理により、例えば、シアノ水素化ホウ素ナトリウムと硫酸ヒドラジンとの併用や、HAデアセチラーゼ活性を有する酵素の使用等により行われる。
【0034】
第2の態様のdHAに関する好ましい実施形態によれば、直鎖ヒアルロン酸骨格中のN−アセチル−グルコサミンの50%以下がグルコサミンに脱アセチル化され、好ましくは、直鎖ヒアルロン酸骨格中のN−アセチル−グルコサミンの40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、10%以下、最も好ましくは5%以下がグルコサミンに脱アセチル化される。
【0035】
第2の態様のdHAに関する別の好ましい実施形態によれば、前記dHAは10〜3,000kDa、好ましくは20〜2,000kDa、最も好ましくは20〜1,000kDa、又はさらに小さく、20〜900kDa、20〜800kDa、20〜700kDa、20〜600kDa、20〜500kDa、20〜400kDa、20〜300kDa、20〜200kDa、20〜100kDaの範囲の平均分子量を有する。
【0036】
分子量
ヒアルロン酸のレベルは、改良カルバゾール法(Bitter and Muir, 1962, Anal Biochem. 4: 330-334)で決定することができる。さらに、ヒアルロン酸の平均分子量は、本技術分野の標準的な方法、例えば、Ueno at al., 1988, Chem. Pharm. Bull. 36, 4971-4975; Wyatt, 1993, Anal. Chim. Acta 272: 1-40; 及び Wyatt Technologies, 1999, "Light Scattering University DAWN Course Manual" and "DAWN EOS Manual" Wyatt Technology Corporation, Santa Barbara, California. に記載の方法で決定することができる。
【0037】
場合によっては、最初に直鎖ヒアルロン酸骨格又はその塩の平均分子量を小さくすることが有利である。例えば、ヒアルロン酸のいわゆる低分子量分画の製造業者の一部は、それが皮膚バリアを透過して皮膚中の本来のヒアルロン酸量を回復し得ることから、かかる分画は、抗肌加齢剤及び抗しわ剤として販売される化粧用組成物に特に適していると主張している。食品への利用については、低分子量のヒアルロン酸が胃腸隔壁を透過し、生体利用率が向上させることが示されている。最後に、低分子量のヒアルロン酸は抗炎症作用を示し、炎症疾患の治療用途に有望である。ヒアルロン酸、その誘導体又は塩の平均分子量を減らすことは、当技術分野において一般的な方法、例えば単純加熱処理、酵素分解、超音波処理、又は酸による加水分解等により達成することができる(例えば、米国特許第6,020,484号では添加剤としてNaOClを含むHAの超音波処理法が記載されている。又、T. Miyazaki et al. (2001) Polymer Degradation and Stability, 74: 77-85を参照)。
【0038】
本発明の第3の態様は、分岐ヒアルロン酸を製造する方法であって、
(a)1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンがグルコサミンに脱アセチル化された直鎖ヒアルロン酸骨格を供給する工程;及び
(b)少なくとも1の遊離還元性アルデヒド基を含んでなる生物適合性ポリマーを、(a)の1又は2以上のグルコサミンの第1級アミンと、還元的N−アルキル化により反応させ、分岐ヒアルロン酸を形成する工程を含んでなる方法に関する。
【0039】
第3の態様の方法において、好ましくは、直鎖ヒアルロン酸骨格中のN−アセチル−グルコサミンの50%以下がグルコサミンに脱アセチル化され、好ましくは、直鎖ヒアルロン酸骨格中のN−アセチル−グルコサミンの40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、10%以下、最も好ましくは5%以下がグルコサミンに脱アセチル化される。
【0040】
第3の態様の好ましい実施形態によれば、直鎖ヒアルロン酸骨格の平均分子量は、10〜3,000キロダルトン(kDa)、好ましくは20〜2,000kDa、最も好ましくは20〜1,000kDa、又はさらに小さく、20〜900kDa,20〜800kDa、20〜700kDa、20〜600kDa、20〜500kDa,20〜400kDa、20〜300kDa、20〜200kDa、20〜100kDaである。
【0041】
生物適合性ポリマーは当技術分野で周知であり、天然品から合成生産品まで多様なポリマーを包含する。これらはヒト等の生物において、毒性や健康への悪影響を与えることなく代謝及び分解され得る。
【0042】
第3の態様の方法に関する別の好ましい実施形態によれば、還元的N−アルキル化反応はシアノ水素化ホウ素ナトリウム、NaCNBH3の存在下、好ましくはpH値4〜10の範囲、好ましくは5〜9、さらに好ましくは6〜8、最も好ましくは約7で行われる。
【0043】
その他の成分
好ましい実施形態によれば、本発明の分岐HAを含んでなる組成物は、更に他の成分、好ましくは1又は2以上の活性成分、好ましくは1又は2以上の薬理学的活性物質、及び同様に好ましくは水溶性賦形剤、例えばラクトース等を含んでいてもよい。
【0044】
本発明で使用可能な活性成分又は薬理学的活性成分としては、これらに限定されるものではないが、タンパク質及び/又はペプチド薬剤、例えばヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモン、ブタ成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン/ペプチド、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子、マクロファージ−コロニー刺激因子、エリスロポイエチン、骨形態形成タンパク質、インターフェロン又はその誘導体、インスリン又はその誘導体、アトリオペプチンIII、モノクローナル抗体、腫瘍壊死因子、マクロファージ活性化因子、インターロイキン、腫瘍変性因子、インスリン様成長因子、表皮成長因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、第IIV因子、第IIIV因子、及びウロキナーゼが挙げられる。
【0045】
活性成分を安定化する目的で、水溶性賦形剤を包含させてもよい。かかる賦形剤としては、タンパク質、例えばアルブミン又はゼラチン;アミノ酸、例えばグリシン、アラニン、グルタミン酸、アルギニン、リシン及びその塩;炭水化物、例えばグルコース、ラクトース、キシロース、ガラクトース、フルクトース、マルトース、サッカロース、デキストラン、マンニトール、ソルビトール、トレハロース及びコンドロイチンスルフェート;無機塩、例えばホスフェート;界面活性剤、例えばTWEEN(登録商標)(ICI)、ポリエチレングリコール及びその混合物が挙げられる。賦形剤又は安定剤は、生成物の0.001〜99重量%の範囲の量で使用することができる。
【0046】
本発明の一部の態様は、種々の組成物及び医薬品であって、構成成分として特に、第1の態様に係る物質の有効量と、活性成分、好ましくは薬理学的活性剤;並びに、医薬的に許容し得る担体、賦形剤又は希釈剤、好ましくは水溶性賦形剤、最も好ましくはラクトースを含んでなるものに関する。
【0047】
さらに、本発明の態様は、第1の態様に係る分岐HA、又は本発明の他の態様及び実施形態に係る組成物を含んでなる製品、例えば化粧品、衛生製品、医療又は手術製品に関する。最終態様によれば、本発明は、第1の態様に係る生成物、又は本発明の他の態様及び実施形態に係る組成物を含んでなる、薬剤カプセル又はマイクロカプセルに関する。
【実施例】
【0048】
実施例1−脱アセチル化HAの調製
HA(6.0g)を硫酸ヒドラジン(3.0g)とともにヒドラジン一水和物(300mL)に溶解し、55℃で92時間撹拌した。得られた生成物に冷エタノール(350mL)を加えて沈殿させ、回収した。飽和NaCl溶液(5mL)を加えて沈殿を促進した。得られた沈殿を新たなエタノール(250mL)で洗浄し、遠心分離(3000g、10分)により回収した。回収物(780g)は脱アセチル化HA(脱アセチル化度13%)であることが分かった。
【0049】
実施例2−脱アセチル化HA分解物の調製
実施例1の記載に従って調製した脱アセチル化HA(deHA)を、亜硝酸を用いて以下の手順により分解した。
【0050】
deHA(100mg)の3つの試料A、B及びCを、1%酢酸水溶液(6mL)に溶解させた。表1に従い、亜硝酸(NaNO2)を加えた。これらの溶液を暗所で4時間放置した後、pHを7前後に調整した。
【0051】
表1 試料A、B及びCに加えた亜硝酸量と、それに伴う破壊共有結合価
【表1】


【0052】
実施例3−分岐HAの調製
実施例2で調製した分解deHAの試料A、B及びCを、以下の手順で還元的アルキル化し、分岐化した。
【0053】
pHを調整した実施例2の水溶液に、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、NaCNBH3(20.41mg)を加えた。48時間(撹拌下)放置して反応を進行させ、終了した。脱イオン水で透析後(MWCO12〜14kDa)、凍結乾燥法で生成物を回収した。
【0054】
実施例4−SEC−MALLS−visc分析
実施例3で調製した分岐生成物である試料2.a、2.b及び2.c(実施例2の試料A、B及びCに対応)を、オンライン検知器MALLS(多角度光散乱検知器)、RI(示差屈折計)及びvisc(固有粘度検知器)を用い、サイズ排除クロマトグラフィーで解析した。この方法で生成物質の立体構造及び分子量を評価し、生成物質が分岐しているか否かを調べた。図1に、分子量関数である縮約因子gのプロットを示す。g値が1未満であれば、高分子が分岐していることを示す(g=(Rg,分岐2/(Rg,直鎖2)。図に示すとおり、分子量の増大に伴い縮約因子が増加することから、分岐HAが調製されていることが分かる。
【0055】
表2に分岐HA試料2.a、2.b及び2.cの特性をまとめる。表2中、パラメータ「a」はlogRg対logMwのプロットから得られる。このパラメータから、用いた溶液中でのポリマーの立体構造に関する情報を知ることができる(通常、ランダムコイル:0.5〜0.6、剛直ロッド状:1.0、及び球形:0.33)。出発物質(通常のHA)では、値は0.5〜0.6であり、想定通りランダムコイル構造である。約0.25という数値からは、高度且つ不規則に分岐した高分子が推定されるから、このことからも試料2.a、2.b及び2.cが分岐生成物であることが示唆される。
【0056】
表2 試料2.a、2.b及び2.cの主な特徴(Mwは重量平均分子量、PDIは多分散指数、Rgはz−平均回転半径、[η]は重量平均固有粘度、aは方程式Rg〜Maの指数を表す)。
【0057】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐ヒアルロン酸であって、その直鎖骨格が、1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンがグルコサミンに脱アセチル化されたヒアルロン酸を含んでなり、前記脱アセチル化グルコサミンの第1級アミンに分岐側鎖が共有結合して第2級アミンを形成する、分岐ヒアルロン酸。
【請求項2】
分岐側鎖が生物適合性ポリマーを含んでなる、請求項1記載の分岐ヒアルロン酸。
【請求項3】
生物適合性ポリマーがヒアルロン酸を含んでなる、請求項2記載の分岐ヒアルロン酸。
【請求項4】
1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンがグルコサミンに脱アセチル化された、部分又は完全脱アセチル化ヒアルロン酸(dHA)。
【請求項5】
1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンが化学及び/又は酵素処理により脱アセチル化された、請求項4記載のdHA。
【請求項6】
直鎖ヒアルロン酸骨格中のN−アセチル−グルコサミンの50%以下がグルコサミンに脱アセチル化され、好ましくは、直鎖ヒアルロン酸骨格中のN−アセチル−グルコサミンの40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、10%以下、最も好ましくは5%以下がグルコサミンに脱アセチル化された、請求項4又は5に記載のdHA。
【請求項7】
平均分子量が10〜3,000キロダルトン(kDa)、好ましくは20〜2,000kDa、最も好ましくは20〜1,000kDaである、請求項4〜6のいずれかに記載のdHA。
【請求項8】
分岐ヒアルロン酸を製造する方法であって、
(a)1又は2以上のN−アセチル−グルコサミンがグルコサミンに脱アセチル化された直鎖ヒアルロン酸骨格を供給する工程;及び
(b)少なくとも1の遊離還元性アルデヒド基を含んでなる生物適合性ポリマーを、(a)の1又は2以上のグルコサミンの第1級アミンと、還元的N−アルキル化により反応させ、分岐ヒアルロン酸を形成する工程を含んでなる方法。
【請求項9】
直鎖ヒアルロン酸骨格中のN−アセチル−グルコサミンの50%以下がグルコサミンに脱アセチル化され、好ましくは、直鎖ヒアルロン酸骨格中のN−アセチル−グルコサミンの40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、10%以下、最も好ましくは5%以下がグルコサミンに脱アセチル化された、請求項8記載の方法。
【請求項10】
直鎖ヒアルロン酸骨格の平均分子量が10〜3,000キロダルトン(kDa)、好ましくは20〜2,000kDa、最も好ましくは20〜1,000kDaである、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
生物適合性ポリマーがヒアルロン酸を含んでなる、請求項8〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
還元的N−アルキル化反応がシアノ水素化ホウ素ナトリウム、NaCNBH3の存在下で行われる、請求項8〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
還元的N−アルキル化反応がpH値4〜10の範囲、好ましくは5〜9、より好ましくは6〜8、最も好ましくは約7で行われる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸と、活性物質、好ましくは薬理学的活性物質とを含んでなる組成物。
【請求項15】
水溶性賦形剤をさらに含んでなる、請求項14に記載組成物。
【請求項16】
請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸の有効量と、医薬的に許容し得る担体、賦形剤又は希釈剤とを含んでなる医薬組成物。
【請求項17】
請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸の有効量をビヒクルとして含んでなるとともに、薬理学的活性物質を含んでなる医薬組成物。
【請求項18】
請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物を含んでなる化粧製品。
【請求項19】
有効量の請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物を活性成分として含んでなる化粧製品。
【請求項20】
請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物を含んでなる衛生製品、医療又は手術製品であって、好ましくは、おむつ、生理用ナプキン、手術用スポンジ、創傷治癒スポンジ、又は、絆創膏若しくは他の創傷被覆材の部材である前記製品。
【請求項21】
請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物を含んでなる医薬カプセル又はマイクロカプセル。
【請求項22】
眼科的処置を実施する方法における、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用を含んでなる改良。
【請求項23】
変形性関節炎の治療における処置を実施する方法における、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用を含んでなる改良。
【請求項24】
癌治療の治療における処置を実施する方法における、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用を含んでなる改良。
【請求項25】
薬理学的活性剤の経皮投与を実施する方法における、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用を含んでなる改良。
【請求項26】
薬理学的活性剤の皮膚投与を実施する方法における、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用を含んでなる改良。
【請求項27】
化粧品の皮膚投与を実施する方法における、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用を含んでなる改良。
【請求項28】
請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物を使用する眼科的方法。
【請求項29】
変形性関節炎を治療する方法であって、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の有効量を、好ましくは皮膚、経皮、経口又は注射により、哺乳類に投与する工程を含んでなる方法。
【請求項30】
創傷を治療する方法であって、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の有効量を、哺乳類に投与する工程を含んでなる方法。
【請求項31】
脱毛又は禿頭症を治療する方法であって、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の有効量を、好ましくは皮膚、経皮、経口又は注射により、哺乳類に投与する工程を含んでなる方法。
【請求項32】
変形性関節炎の治療に用いられる薬剤の製造のための、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項33】
眼科的治療に用いられる薬剤の製造のための、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項34】
癌の治療に用いられる薬剤の製造のための、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項35】
創傷の治療に用いられる薬剤の製造のための、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項36】
血管形成に用いられる薬剤の製造のための、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項37】
保湿剤の製造のための、請求項1〜3のいずれかに記載の分岐ヒアルロン酸、又は請求項14〜17のいずれかに記載の組成物の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−545637(P2009−545637A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522088(P2009−522088)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/DK2007/000358
【国際公開番号】WO2008/014787
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(509198343)ノボザイムス バイオファーマ デーコー アクティーゼルスカブ (11)
【Fターム(参考)】