説明

分注装置及びそのピペットチップ取付方法並びに全反射減衰を利用した測定装置

【課題】 ピペットチップのノズルに対する挿し込み量のバラツキを抑える。
【解決手段】 ピペットヘッド54には、液体の吸引と吐出とを行うノズル54aが形成されている。ノズル54aは、ピペットヘッド54の端面から略円筒状に突出し、その外径とピペットチップ62の内径とがほぼ一致する。ピペットチップ62は、このノズル54aとの嵌め合わせによってピペットヘッド54に保持される。調整治具64には、ピペットチップ62の外形形状よりもわずかに大きく形成された調整穴70が設けられている。ピペットチップ62をノズル54aに挿し込んだ後、ピペットチップ62を調整穴70に挿入する。ピペットチップ62の先端62aを、調整穴70の底面70aに押し当てて、ピペットチップ62の挿し込み量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の吸引と吐出とを行うノズルに略筒状のピペットチップを挿し込んで液体の分注を行う分注装置と、そのピペットチップ取付方法、及びこの分注装置を備えた表面プラズモン共鳴などの全反射減衰を利用した測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNAなどの生化学物質間における相互作用の測定や、薬品のスクリーニングなどを行う際に、全反射減衰を利用して試料の反応を測定する測定装置が知られている。
【0003】
このような全反射減衰を利用した測定装置の1つに、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance)現象を利用した測定装置(以下、SPR測定装置と称す)がある。なお、表面プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動することによって生じ、その金属の表面に沿って進む自由電子の粗密波である。
【0004】
例えば、特許文献1などで知られるKretschmann配置を採用したSPR測定装置では、透明な誘電体(以下、プリズムと称す)上に形成された金属膜の表面をセンサ面として、このセンサ面上で試料を反応させた後、プリズムを介してセンサ面の裏面側から全反射条件を満たすように金属膜を照射し、その反射光を測定している。
【0005】
全反射条件を満たすように金属膜に照射された光のうち、エバネッセント波と呼ばれるわずかな光は、反射せずに金属膜内を透過してセンサ面側に染み出す。この際、エバネッセント波の振動数と表面プラズモンの振動数とが一致するとSPRが発生し、反射光の強度を大きく減衰させる。また、この減衰が発生する光の入射角度(共鳴角)は、金属膜上の屈折率に応じて変化する。すなわち、SPR測定装置は、金属膜からの反射光を捉えて共鳴角を検出することにより、センサ面上の試料の反応状況を測定する。
【0006】
ところで、タンパク質やDNAなどの生体試料は、乾燥による変性や失活を防ぐため、生理的食塩水や純水、または各種のバッファ液などの溶媒に溶かされた試料溶液として扱われることが多い。特許文献1記載のSPR測定装置は、こうした生体試料の相互作用などを調べるものであり、センサ面の上には試料溶液を送液するための流路が設けられている。なお、この流路とプリズムは、装置本体に設けられた測定ステージに配置されており、ガラス基板上に金属膜を形成したチップ型のセンサユニットを測定ステージに装着することで、前述の測定が行われる。
【0007】
特許文献1では、ポンプやバルブなどに接続された配管(チューブ)を介して、試料溶液を保管する容器から直接流路に試料溶液を送り込むようにしているが、この方法では、配管内に付着した試料が後に注入する試料溶液中に混入してしまう、いわゆるコンタミネーションが生じやすいという問題があった。
【0008】
この問題を解決するため、本出願人は、先端に小孔が形成された略円錐筒状のピペットチップと、このピペットチップを着脱自在に保持するヘッド部とからなるピペットを用いて、容器に保管された試料溶液などの液体を流路に分注するSPR測定装置を提案している(例えば、特願2004−287615号明細書参照)。このSPR測定装置では、分注する液体毎にピペットチップを交換することで、流路に液体を送り込む際に生じるコンタミネーションを防止することができる。
【特許文献1】特許第3294605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ピペットチップの取り付けは、複数のピペットチップが保管されたケースにヘッド部を移動させ、ヘッド部に形成されたノズルをピペットチップに挿し込んで機械的に嵌め合わせることによって行われる。この際、挿し込み時の押圧力によってケースが歪み、ノズルとピペットチップとの挿し込み量にバラツキが生じてしまうことがある。例えば、挿し込みが浅いと、ピペットチップを流路に挿し込んで液体の分注を行った後、流路から引き抜く際にノズルからピペットチップが抜け、ピペットチップが流路に刺さったままになってしまう。また、ノズルに対してピペットチップが斜めに挿し込まれると、ピペットチップが流路に刺さらなかったり、センサユニットを動かしてSPR信号に外乱を与えてしまったりする。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、ピペットチップのノズルに対する挿し込み量のバラツキを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するため、本発明の分注装置は、液体の吸引と吐出とを行うノズルが形成され、このノズルに挿し込まれる略筒状のピペットチップを着脱自在に保持する分注ヘッドと、前記ピペットの少なくとも一部が挿し込まれる調整穴と、前記ピペットチップの挿し込み方向と略直交する当接面とが形成された調整治具と、前記分注ヘッドに保持された前記ピペットチップを前記調整穴に挿入して、前記当接面に前記ピペットチップの一部を押し当てる押し当て手段とを設けたことを特徴とする。
【0012】
なお、前記調整穴に前記ピペットチップが挿入されたか否かを検出するためのピペット検出手段を設けることが好ましい。
【0013】
また、前記分注ヘッドに複数の前記ノズルを形成し、複数の前記ノズルのそれぞれに挿し込まれる複数の前記ピペットチップの数に応じた複数の調整穴を前記調整治具に設けることが好ましい。
【0014】
さらに、前記押し当て手段は、前記分注ヘッドを前後左右上下の3方向に移動させるヘッド移動機構と、このヘッド移動機構の各方向への移動量を制御する制御部とからなることが好ましい。
【0015】
また、前記当接面を前記調整穴の底面とし、前記押し当て手段は、前記ピペットチップの先端を前記底面に押し当てることが好ましい。
【0016】
なお、本発明のピペットチップ取付方法は、液体の吸引と吐出とを行うノズルが形成され、このノズルに挿し込まれる略筒状のピペットチップを着脱自在に保持する分注ヘッドを備えた分注装置にあって、前記ピペットチップを前記ノズルに挿し込んだ後、前記ピペットチップの挿し込み方向と略直交する当接面に、前記ピペットチップを押し当てて、前記ノズルに対する前記ピペットチップの挿し込み量を調整することを特徴とする。
【0017】
また、前記当接面に前記ピペットチップを押し当てた際には、前記挿し込み方向に対して均一な力が前記ピペットチップに加えられることが好ましい。
【0018】
また、本発明の全反射減衰を利用した測定装置は、一面に薄膜層が形成された誘電体ブロックと、前記薄膜層に試料溶液を送液する流路が形成された流路部材とからなるセンサユニットに対して、全反射条件を満足するように光を照射する光源と、前記センサユニットからの反射光を受光して電気信号に光電変換する光検出手段と、前記試料溶液の吸引と吐出とを行うノズルが形成され、このノズルに挿し込まれる略筒状のピペットチップを着脱自在に保持する分注ヘッドによって、前記流路に前記試料溶液を注入する分注手段と、前記ピペットチップの少なくとも一部が挿し込まれる調整穴と、前記ピペットチップの挿し込み方向と略直交する当接面とが形成された調整治具と、前記分注ヘッドに保持された前記ピペットチップを前記調整穴に挿入し、前記当接面に前記ピペットチップの一部を押し当てる押し当て手段とを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の分注装置、及び全反射減衰を利用した測定装置によれば、分注ヘッドに保持されたピペットチップを調整穴に挿入して、ピペットチップの挿し込み方向と略直交する当接面にピペットチップの一部を押し当てるようにしたので、押し当てによってピペットチップのノズルに対する挿し込み量が調整され、挿し込み量のバラツキを抑えることができる。また、調整穴に挿入することで、ピペットチップがノズルに対して斜めに挿し込まれた際に、調整穴の内壁面に沿わせてピペットチップの向きを真っ直ぐに矯正させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1に示すように、SPRを利用した測定方法は、大きく分けて、固定工程と、測定処工程(データ読み取り工程)と、データ解析工程との3つの工程からなる。SPR測定装置は、固定工程を行う固定機10と、測定工程を行う測定機11と、測定機11によって得られたデータを解析するデータ解析機とからなる。
【0021】
測定は、SPRセンサであるセンサユニット12を用いて行われる。センサユニット12は、一方の面がSPRが発生するセンサ面13aとなる金属膜(薄膜層)13と、このセンサ面13aの裏面の光入射面13bと接合されるプリズム(誘電体ブロック)14と、前記センサ面13aと対向して配置され、リガンドやアナライトが送液される流路16が形成された流路部材41とを備えている。
【0022】
金属膜13としては、例えば、金や銀などが使用され、その膜厚は、例えば、50nmである。この膜厚は、金属膜の素材、照射される光の発光波長などに応じて適宜選択される。プリズム14は、その上面に前記金属膜13が形成される透明な誘電体であり、光入射面13bに向けて、全反射条件を満たすように照射された光を集光する。流路16は、略U字形に屈曲された送液管であり、液体を注入する注入口16aと、それを排出する排出口16bとを持っている。流路16の管径は、例えば、約1mm程度であり、注入口16aと排出口16bの間隔は、例えば、約10mm程度である。
【0023】
また、流路16の底部は、開放されており、この開放部位はセンサ面13aによって覆われて密閉される。これら流路16とセンサ面13aによってセンサセル17が構成される。後述するように、センサユニット12は、こうしたセンサセル17を複数個備えている(図3参照)。
【0024】
固定工程は、センサ面13aにリガンドを固定する工程である。固定工程は、センサユニット12を固定機10にセットして行われる。固定機10には、1対のピペット19a、19bからなるピペット対19が設けられている。ピペット対19は、各ピペット19a、19bが、注入口16aと排出口16bのそれぞれに挿入される。各ピペット19a、19bは、それぞれが流路16への液体の注入と、流路16からの吸い出しを行う機能を備えており、一方が注入動作を行っているときには、他方が吸い出し動作を行うというように、互いに連動する。このピペット対19を用いて、注入口16aから、リガンドを溶媒に溶かしたリガンド溶液21が注入される。
【0025】
センサ面13aのほぼ中央部には、リガンドと結合するリンカー膜22が形成されている。このリンカー膜22は、センサユニット12の製造段階において予め形成される。リンカー膜22は、リガンドを固定するための固定基となるので、固定するリガンドの種類に応じて適宜選択される。
【0026】
リガンド溶液21を注入するリガンド固定化処理を行う前には、まず、リンカー膜22に固定用バッファ液が送液され、リンカー膜22を湿らせてリガンドを結合しやすくするリンカー膜22の活性化処理が施される。例えば、アミンカップリング法では、リンカー膜22としてカルボキシメチルデキストランが使用され、リガンド内のアミノ基をこのデキストランに直接共有結合させる。この場合の活性化液としては、N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)とN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)との混合液が使用される。この活性化処理の後、固定用バッファ液によって流路16が洗浄される。
【0027】
固定用バッファ液や、リガンド溶液21の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水が使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度などは、リガンドの種類に応じて適宜決められる。例えば、リガンドとして生体物質を使用する場合には、pHを中性付近に調整した生理的食塩水が使用される場合が多い。しかし、上記アミンカップリング法では、リンカー膜22は、カルボキシメチルデキストランにより負(マイナス)に帯電するので、このリンカー膜22と結合しやすいようにタンパク質を陽(プラス)に帯電させるため、生理的とはいえない高濃度のリン酸塩を含む緩衝作用の強いリン酸緩衝溶液(PBS:phosphatic−buffered,saline)などが使用される場合もある。
【0028】
こうした活性化処理及び洗浄が行われた後、センサセル17へリガンド溶液21が注入されてリガンド固定化処理が行われる。リガンド溶液21が流路16へ注入されると、溶液中で拡散しているリガンド21aが徐々にリンカー膜22へ近づいて、結合する。こうしてセンサ面13aにリガンド21aが固定される。固定化には、通常、約1時間程度かかり、この間、センサユニット12は、温度を含む環境条件が所定の条件に設定された状態で保管される。なお、固定化が進行している間、流路16内のリガンド溶液21を静置しておいてもよいが、流路16内のリガンド溶液21を攪拌して流動させることが好ましい。こうすることで、リガンドとリンカー膜22との結合が促進され、リガンドの固定量を増加させることができる。
【0029】
センサ面13aへのリガンド21aの固定化が完了すると、前記流路16からリガンド溶液21が排出される。リガンド溶液21は、ピペット19bによって吸い出されて排出される。固定化が完了したセンサ面13aは、流路16へ洗浄液が注入されて洗浄処理が行われる。この洗浄後、必要に応じて、ブロッキング液を流路16へ注入して、リンカー膜22のうち、リガンドが結合しなかった反応基を失活させるブロッキング処理が行われる。ブロッキング液としては、例えば、エタノールアミン−ヒドロクロライドが使用される。このブロッキング処理の後、再び流路16が洗浄される。この後、流路16には、乾燥防止液が注入される。こうして、センサユニット12は、センサ面13aが乾燥防止液に浸された状態で、測定までの間保管される。
【0030】
測定工程は、センサユニット12を測定機11にセットして行われる。測定機11にも、固定機10のピペット対19と同様のピペット対26が設けられている。このピペット対26によって、注入口16aから、流路16へ各種の液が注入される。測定工程では、まず、流路16へ測定用バッファ液が注入される。この後、アナライトを溶媒に溶かしたアナライト溶液27を注入し、その後、再び測定用バッファ液が注入される。なお、最初に測定用バッファ液を注入する前に、いったん流路16の洗浄を行ってもよい。データの読み取りは、基準となる信号レベルを検出するために、最初に測定用バッファを注入した直後から開始され、アナライト溶液27の注入後、再び測定用バッファが注入されるまでの間行われる。これにより、基準レベル(ベースライン)の検出、アナライトとリガンドの反応状況(結合状況)、測定用バッファ液の注入による結合したアナライトとリガンドとの脱離までのSPR信号を測定することができる。
【0031】
測定用バッファ液や、アナライト溶液27の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水が使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度等は、リガンドの種類に応じて適宜決められる。例えば、アナライトを溶けやすくするために、生理的食塩水にDMSO(ジメチル−スルホ−オキシド)を含ませてもよい。このDMSOは、信号レベルに大きく影響する。上述したとおり測定用バッファ液は基準レベルの検出に用いられるので、アナライトの溶媒中にDMSOが含まれる場合には、そのDMSO濃度と同程度のDMSO濃度を持つ測定用バッファ液を使用することが好ましい。
【0032】
なお、アナライト溶液27は、長期間(例えば、1年)保管されることも多く、そうした場合には、経時変化によって、初期のDMSO濃度と測定時のDMSO濃度との間に濃度差が生じてしまう場合がある。厳密な測定を行う必要がある場合には、こうした濃度差をアナライト溶液27を注入したときの参照信号(ref信号)のレベルから推定し、測定データに対して補正(DMSO濃度補正)が行われる。
【0033】
ここで、参照信号(ref信号)とは、後述するように、センサ面上に設けられリガンドが固定されない参照領域に対応するSPR信号であり、リガンドが固定されアナライトとの反応を生じる測定領域の測定信号(act信号)と比較参照される信号である。測定に際しては、前記測定信号と参照信号の2つの信号が検出され、データ解析に際しては、例えば、それら2つのSPR信号の差分を取り、これを測定データとして解析がなされる。こうすることで、例えば、複数のセンサセル間の個体差や、液体の温度変化など、外乱に起因するノイズをキャンセルすることが可能となり、S/N比の良好な信号が得られるようにしている。
【0034】
DMSO濃度補正のための補正データは、アナライト溶液27を注入する前に、DMSO濃度が異なる複数種類の測定用バッファ液をセンサセル17に注入して、このときのDMSO濃度変化に応じた、ref信号のレベルとact信号のレベルのそれぞれの変化量を調べることにより求められる。
【0035】
測定部31は、照明部32と検出器(光検出手段)33からなる。上述したとおり、リガンドとアナライトの反応状況は、共鳴角(光入射面に対して照射された光の入射角)の変化として表れるので、照明部32は、全反射条件を満足する様々な入射角の光を光入射面13bに対して照射する。照明部32は、例えば、光源34と、集光レンズ、拡散板、偏光板を含む光学系36とからなり、配置位置および設置角度は、照明光の入射角が、上記全反射条件を満足するように調整される。
【0036】
光源34としては、例えば、LED(Light Emitting Diode)、LD(Laser Diode)、SLD(Super Luminescent Diode)などの発光素子が使用される。こうした発光素子を1個使用し、この単一光源から1つのセンサセル17に向けて光が照射される。なお、複数のセンサセル17を同時に測定するような場合には、単一光源からの光を分光して複数のセンサセル17に照射してもよいし、各センサセル17に対して発光素子が1つずつ割り当てられるように複数の発光素子を並べて使用してもよい。拡散板は、光源34からの光を拡散して、発光面内の光量ムラを抑える。偏光板は、照射光のうち、SPRを生じさせるp偏光のみを通過させる。なお、LDを使用する場合など、光源が発する光線自体の偏光の向きが揃っている場合には、偏光板は不要である。また、偏光が揃っている光源を使用した場合でも、拡散板を通過することにより、偏光の向きが不揃いになってしまう場合には、偏光板を使用して偏光の向きが揃えられる。こうして拡散および偏光された光は、集光レンズによって集光されてプリズム14に照射される。これにより、光強度にバラツキがなく様々な入射角を持つ光線を光入射面13bに入射させることができる。
【0037】
検出器33は、光入射面13bで反射する光を受光して、その光強度に応じたレベルの電気信号を出力する。光入射面13bには、様々な角度で光線が入射するので、光入射面13bでは、それらの光線が、それぞれの入射角に応じて様々な反射角で反射する。検出器33は、これらの様々な反射角の光線を受光する。センサ面13a上の媒質に変化が生じると屈折率が変化して、反射光の光強度が減衰する光の入射角(SPRが発生する共鳴角)も変化する。センサ面13a上にアナライトを送液すると、アナライトとリガンドの反応状況に応じてセンサ面13a上の屈折率が変化するため、それに応じて共鳴角も変化する。
【0038】
検出器33は、例えば、CCDエリアセンサやフォトダイオードアレイが使用され、光入射面13bにおいて様々な反射角で反射する反射光を受光し、それらを光電変換してSPR信号として出力する。リガンドとアナライトの反応状況は、この受光面内における反射光の減衰位置の推移として表れる。例えば、アナライトがリガンドと接触する前後では、センサ面13a上の屈折率が異なり、SPRが発生する共鳴角が異なる。そして、アナライトがリガンドと接触して反応を開始すると、それに応じて共鳴角が変化を開始し、前記受光面内における反射光の減衰位置が移動し始める。こうして得た反応状況を表すSPR信号が、データ解析機に出力される。データ解析工程では、測定機11で得たSPR信号を解析して、アナライトの特性を分析する。
【0039】
なお、測定部31の構成が明確になるように、便宜的に、図1では、光入射面13bへの入射光線およびそこで反射する反射光線の向きが、流路16内の液体の流れ方向と平行になるように、照明部32および検出器33を配置した形態で示しているが、図2に示すように、実際には、入射光線および反射光線の向きが、前記流れ方向と直交する方向に照射されるように、照明部32および検出器33が配置される。もちろん、測定部31をこの図1に示しているように配置して測定してもよい。
【0040】
図2に示すように、リンカー膜22上には、リガンドが固定されアナライトとリガンドとの反応が生じる測定領域(act領域)22aと、リガンドが固定されず、前記測定領域の信号測定に際しての参照信号を得るための参照領域(ref領域)22bとが形成される。このref領域22bは、上述したリンカー膜22を製膜する際に形成される。形成方法としては、例えば、リンカー膜22に対して表面処理を施して、リンカー膜22の半分程度の領域について、リガンドと結合する結合基を失活させる。これにより、リンカー膜22の半分がact領域22aとなり、残りの半分がref領域22bとなる。
【0041】
検出器33は、act領域22aに対応するSPR信号をact信号として出力し、ref領域22bに対応するSPR信号をref信号として出力する。これらact信号とref信号は、基準レベルの検出から結合反応を経て脱離に至るまで、ほぼ同時に計測される。データ解析は、こうして得られたact信号とref信号の差や比を求めて行われる。データ解析機は、例えば、act信号とref信号との差分データを求め、この差分データを測定データとし、これに基づいて解析を行う。こうすることで、上述したとおり、センサユニットや各センサセルの個体差や、装置の機械的な変動や、液体の温度変化など、外乱に起因するノイズをキャンセルすることができるので、精度の高い測定が可能になる。
【0042】
照明部32及び検出器33は、これら各act信号及びref信号の2チャンネルの計測を行うことができるように構成されている。例えば、照明部32を、1個の発光素子を反射ミラーなどを用いて、act領域22aとref領域22bのそれぞれに向けて入射する複数の光線に分光する。そして、各チャンネル用の複数のフォトダイオードアレイで構成した検出器33により、各光線をそれぞれ受光する。
【0043】
また、検出器33として、CCDエリアセンサを用いた場合には、同時に受光した各チャンネルの反射光を画像処理によってact信号とref信号として認識することもできる。しかし、こうした画像処理による方法が難しい場合には、act領域22aとref領域22bに対して入射させるタイミングを微小時間ずらして、各チャンネルの信号を受光するようにしてもよい。入射タイミングをずらす方法としては、例えば、光路上に、配置角度が180度ずれた位置に2つの孔が形成された円板を配置し、この円板を回転させることにより、各チャンネルの入射タイミングがずらされる。各孔は、中心からの距離が各領域22a、22bの間隔だけ異なる位置に配置されており、これにより、一方の孔が光路内に進入したときには、act領域22aに光線が入射し、他方の孔が光路内に進入したときには、ref領域22bに光線が入射する。
【0044】
図3は、センサユニット12の分解斜視図である。センサユニット12は、流路16が形成される流路部材41と、上面に金属膜13が形成されたプリズム14と、流路部材41の底面とプリズム14の上面とを接合させた状態で保持する保持部材42と、保持部材42の上方に配置される蓋部材43とからなる。
【0045】
流路部材41には、例えば、3つの流路16が形成されている。流路部材41は、長尺状に形成されており、3つの流路16は、その長手方向に沿って配列されている。この流路16は、その底面に接合される金属膜13とともにセンサセル17(図1参照)を構成する。そのため、流路部材41は、金属膜13との密着性を高めるために、例えば、ゴムやPDMS(ポリジメチルシロキサン)などといった弾性材料で成形されている。これにより、流路部材41の底面をプリズム14の上面に圧接すると、流路部材41が弾性変形して金属膜13との接合面の隙間を埋め、各流路16の開放された底部がプリズム14の上面によって水密に覆われる。なお、本例では、流路16の数が3つの例で説明したが、もちろん、流路16の数は、3つに限らず、1つまたは2つであってもよいし、4つ以上でもよい。
【0046】
プリズム14には、その上面に、蒸着によって金属膜13が形成されている。この金属膜13は、流路部材41に形成された複数の流路16と対向するように短冊状に形成される。さらに、この金属膜13の上面(センサ面13a)には、各流路16に対応する部位に、リンカー膜22が形成される。また、プリズム14の長手方向の両側面には、保持部材42の係合部42aと係合する係合爪14aが設けられている。これらの係合により、流路部材41が保持部材42とプリズム14とによって挟み込まれ、その底面とプリズム14の上面とが圧接した状態で保持される。こうして、流路部材41、金属膜13およびプリズム14が一体化される。
【0047】
また、プリズム14の短辺方向の両端部には、突部14bが設けられている。後述するように、センサユニット12は、ホルダ52(図4参照)に収納された状態で、固定が行われる。突部14bは、ホルダ52のスリットと嵌合することにより、センサユニット12をホルダ内の所定の収納位置に位置決めするためのものである。
【0048】
なお、プリズム14には、例えば、ホウケイクラウン(BK7)やバリウムクラウン(Bak4)などに代表される光学ガラスや、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、非晶性ポリオレフィン(APO)などに代表される光学プラスチックなどを用いることができる。
【0049】
保持部材42の上面には、各流路16の注入口16aおよび排出口16bに対応する位置に、ピペット(19a、19b、26a、26b)の先端が進入する受け入れ口42bが形成されている。受け入れ口42bは、ピペットから吐出される液体が各注入口16aへ導かれるように、漏斗形状をしている。保持部材42が流路部材41を挟み込んでプリズム14と係合すると、受け入れ口42bの下面は、注入口16aおよび排出口16bと接合して、受け入れ口42bと流路16とが連結される。
【0050】
また、これら各受け入れ口42bの両脇には、円筒形のボス42cが設けられている。これらのボス42cは、蓋部材43に形成された穴43aと嵌合して、蓋部材43を位置決めするためのものである。蓋部材43は、受け入れ口42bおよびボス42cに対応する位置に穴が空けられた両面テープ44によって、保持部材42の上面に貼り付けられる。
【0051】
蓋部材43は、流路16に通じる受け入れ口42bを覆うことで、流路16内の液体の蒸発を防止する。蓋部材43は、例えば、ゴムやプラスチックなどの弾性材料で成形されており、各受け入れ口42bに対応する位置に、十字形のスリット43bが形成されている。蓋部材43は、流路16内の液体の蒸発を防止するためのものであるから、受け入れ口42bを覆う必要があるが、完全に覆ってしまっては、ピペットを受け入れ口42bに挿入することができない。そこで、スリット43bを形成することで、ピペットの挿入を可能とするとともに、ピペットを挿入していない状態では、受け入れ口42bが塞がれるようにしている。スリット43bは、ピペットが押し込まれると、スリット43bの周辺が弾性変形(図1参照)して、スリット43bの口が大きく開いて、ピペットを受け入れる。そして、ピペットを抜くと、弾性力によってスリット43bが初期状態に復帰して、受け入れ口42bを塞ぐ。
【0052】
なお、センサユニット12のプリズム14や保持部材42などに、例えば、非接触式のICタグであるRFID(Radio Frequency IDentification)タグなどを取り付けるようにしてもよい。例えば、読み込み専用のRFIDタグにセンサユニット12毎の固有のID番号を書き込んでおき、各工程を行う前にこのID番号を読み込むことで、センサユニット12の識別を行うことができる。これにより、複数のセンサユニット12に対して同時に固定や測定を行う場合にも、間違ったアナライトの注入や、測定結果の取り違えなどといった問題の発生を防止することができる。さらには、読み書き可能なRFIDタグを用いて、例えば、固定したリガンドの種類やリガンドを固定させた日時、及び反応させたアナライトの種類などを、各工程毎に書き込んでいくようにしてもよい。
【0053】
図4に示すように、固定機10は、筐体のベースとなる筐体ベース50上に、複数のセンサユニット12を載置する載置スペース51が確保されている。センサユニット12は、この載置スペース51に載置された状態で固定工程のすべての処理が施される。したがって、この載置スペース51は、センサユニット12に対して固定工程を実行する固定ステージとなる。
【0054】
センサユニット12は、ホルダ52に収納された状態で固定機10にセットされる。ホルダ52は、センサユニット12を複数個(例えば、8個)収納できるようになっている。ホルダ52には、センサユニット12の突部14bと嵌合して、センサユニット12を位置決めするスリットが設けられている。また、ホルダ52の底部は、センサユニット12の両端部を支持する支持部を除いて、開口になっている。測定工程において、センサユニット12をホルダ52から取り出す場合には、この開口から押し上げ部材を挿入してセンサユニット12を下方から押し上げる。
【0055】
載置スペース51には、ホルダ52を、例えば、10個並べて配置することができるようになっており、その数に応じた台座53が設けられている。各台座53上には、ホルダ52を位置決めする位置決め用のボスが設けられている。
【0056】
固定機10には、ピペット対19を3組連装したピペットヘッド(分注ヘッド)54が設けられている。ピペットヘッド54は、載置スペース51に配列された各センサユニット12にアクセスして、液体の注入や排出を行う。ピペットヘッド54には、ピペット対19が3組設けられているので、1つのセンサユニット12に含まれる3つのセンサセル17に対して同時に液体を注入(および排出)することができる。固定機10には、固定機10の各部を統括的に制御するコントローラ(制御部)60が設けられており、このコントローラ60によって、各ピペット対19の吸い込みや吐き出しのタイミング、及び吸い込み量や吐き出し量などが制御される。
【0057】
筐体ベース50には、このピペットヘッド54をX、Y、Zの3方向に移動させるヘッド移動機構56が設けられている。ヘッド移動機構56は、例えば、搬送ベルト、プーリ、キャリッジ、モータなどから構成される周知の移動機構であり、ピペットヘッド54を上下させる昇降機構と、この昇降機構ごとピペットヘッド54をY方向へ移動自在に保持するガイドレール58を含むY方向移動機構と、前記ガイドレール58を両端で保持し、ガイドレール58ごとピペットヘッド54をX方向へ移動させるX方向移動機構とからなる。ヘッド移動機構56は、コントローラ60によって制御されており、コントローラ60は、このヘッド移動機構56を駆動して、ピペットヘッド54の前後左右上下の位置を制御する。
【0058】
筐体ベース50の上には、流路16へ注入する種々の液体(リガンド溶液、洗浄液、固定用バッファ液、乾燥防止液、活性化液、ブロッキング液など)を保管する複数の液保管部61が設けられている。液保管部61の数は、使用する液体の種類に応じて決定される。各液保管部61には、挿入口が6個並べて設けられている。この挿入口の数および配列ピッチは、ピペットヘッド54のピペットの数と配列ピッチに応じて決められる。ピペットヘッド54は、センサセル17へ液体を注入する場合には、各液保管部61へアクセスして、所望の液体を吸い込み、その後、載置スペース51へ移動して、センサユニット12へ注入する。
【0059】
また、筐体ベース50の上には、複数のピペットチップ62を保管するピペットチップ保管部63と、ピペットチップ62の挿し込み量を調整するための調整治具64とが設けられている。略円錐筒状に成形されたピペットチップ62は、ピペットヘッド54に着脱自在に保持される。すなわち、各ピペット19a、19bは、ピペットヘッド54にピペットチップ62を取り付けることで構成される。ピペットチップ62は、液体と直接接触するので、このピペットチップ62を介して異種の液体の混液が生じないように、使用する液体毎に交換される。
【0060】
図5に示すように、ピペットヘッド54には、図示せぬポンプによって加えられる圧力に応じて液体の吸引と吐出とを行うノズル54aが形成されている。ノズル54aは、ピペットヘッド54の端面から略円筒状に突出するように形成されており、その外径とピペットチップ62の内径とがほぼ一致するようにされている。ピペットチップ62は、このノズル54aに挿し込まれた際に、ノズル54aとの機械的な嵌め合いによってピペットヘッド54に保持される。図5は、図4においてピペットヘッド54と調整治具64とをY方向に切断した説明用の部分断面図であり、ノズル54aは、X方向に沿って6つ形成されている。
【0061】
また、ピペットヘッド54には、図示せぬリリース機構が設けられている。リリース機構は、各ノズル54aに挿し込まれた各ピペットチップ62を押し下げて、各ピペットチップ62をピペットヘッド54から取り外す。ピペットチップ62を交換する際には、まず、使用済みのピペットチップ62を図示せぬ廃却部でリリースし、この後、ピペットチップ保管部63にアクセスして未使用のピペットチップ62を各ノズル54aに挿し込む。
【0062】
調整治具64には、ピペットヘッド54に保持される各ピペットチップ62に応じた6つ(図4参照)の調整穴70が形成されている。各調整穴70の穴深さは、ピペットチップ62の長さとほぼ等しく、その穴径は、ピペットチップ62の外径よりもわずかに大きくされている。また、各調整穴70の配列ピッチは、ピペットヘッド54に取り付けられる6本のピペットチップ62のそれぞれに対応している。調整治具64は、ピペットヘッド54が各ピペットチップ62を各調整穴70に挿入した際に、図6に示すように、各ピペットチップ62の先端62aと各調整穴70の底面70aとを当接させる。
【0063】
ピペットヘッド54の位置制御は、前述のようにコントローラ60によって行われる。コントローラ60は、ヘッド移動機構56の昇降機構の移動量を制御し、先端62aが底面70aに押し当てられる所定の位置までピペットヘッド54を降下させる。これにより、ノズル54aに対して挿し込みの浅いピペットチップ62が押し込められ、各ピペットチップ62の挿し込み量が一定となるように調整される。
【0064】
また、各調整穴70には、互いに対向して配置される発光素子72と受光素子73とからなる透過型のフォトインタラプタ(ピペット検出手段)71が設けられている。発光素子72が照射する検出光は、調整穴70に挿入されたピペットチップ62によって遮られる。フォトインタラプタ71は、検出光が遮られたことを受光素子73で検出することにより、ピペットチップ62が挿入されたか否かを検出する。この検出結果は、コントローラ60に伝えられる。
【0065】
図4に戻って、筐体ベース50の上には、上記の他に、複数のウエル状の升がマトリックス配列されたウエルプレート65が設けられている。ウエルプレート65は、各ピペット19a、19bで吸い上げた液体を一時的に保管したり、複数種類の液体を混合して混合液を調整する際に用いられる。
【0066】
固定を開始する際には、固定機10の筐体がカバー(図示は省略)によって覆われ、載置スペース51を含む固定機10の内部が、外部から遮蔽される。固定機10内の温度は、温度調節器(図示は省略)によって調節が可能になっている。センサセル17にリガンド21aを注入後、センサ面13aへのリガンド21aの固定化が完了するまでの間、センサユニット12は、載置スペース51上で所定時間保管される。この保管中に、必要に応じて流路16内のリガンド溶液21が攪拌される。この間の固定化の進行度合いは、センサユニット12の環境条件(温度など)によって左右される。そのため、温度調節器によって固定機10の内部温度が所定の温度に保たれる。設定される温度や静置時間などは、リガンド21aの種類などに応じて適宜決められる。
【0067】
固定が完了すると、センサセル17に対して、バッファ(洗浄液)が注入される。バッファは、センサセル17をリガンド溶液21で満たしたままの状態で、バッファを吸い込んだピペット19aをスリット43bへ挿入して、センサセル17へ注入される。バッファが注入口16aから流路へ吐き出されると、流路16に注入済みのリガンド溶液21が排出口16bに向けて押し出されて、排出される。そして、ピペット19aの注入動作に連動して吸い込み動作を行うピペット19bによって、排出されるバッファが吸い込まれる。これにより、センサセル17内の液の置換(入れ替え)が行われる。
【0068】
洗浄が終了した後には、上記と同様の手順によって、センサセル17に対して、リガンド21aの乾燥を防止する乾燥防止液を注入してもよい。こうしておくことで、測定が開始されるまでの間、リガンドの乾燥が防止される。
【0069】
次に、図7に示すフローチャートを参照しながら、上記構成による固定機10の作用について説明する。センサユニット12に固定工程を施す際には、まず、センサユニット12をホルダ52に収納し、そのホルダ52を載置スペース51にセットする。センサユニット12がセットされた後、オペレータからの固定開始指示が入力されると、ピペットヘッド54がピペットチップ保管部63に向けて移動を開始する。ピペットチップ保管部63に移動したピペットヘッド54は、各ノズル54aを保管されたピペットチップ62に挿し込み、ピペットチップ62の取り付けを行う。ピペットチップ62を取り付けたピペットヘッド54は、調整治具64に移動する。移動したピペットヘッド54は、各ピペットチップ62を各調整穴70に挿入し、各ピペットチップ62の先端62aを各調整穴70の底面70aに押し当てる(図6参照)。
【0070】
この際、コントローラ60は、各調整穴70に設けられたフォトインタラプタ71の検出結果を確認し、ピペットヘッド54の各ノズル54aにピペットチップ62が挿し込まれているか否かを判断する。コントローラ60は、各ノズル54aのいずれか一つにでもピペットチップ62が挿し込まれていないと判断した際に、例えば、動作を停止する、異常をオペレータに報知する、一度各ピペットチップ62をリリースしてピペットチップ62の取り付けをやり直す、などといった異常検出処理を実行する。
【0071】
底面70aに押し当てられた各ピペットチップ62は、ピペットヘッド54の降下移動量に応じて各ノズル54aに押し込められ、各ノズル54aに対する挿し込み量が一定となるように調整されるので、ピペットチップ保管部63の歪みなどによって生じる挿し込み量のバラツキが抑えられる。また、各調整穴70の穴径を、ピペットチップ62の外径よりもわずかに大きい程度としたので、ピペットチップ62がノズル54aに対して斜めに挿し込まれた際に、ピペットチップ62を調整穴70の内壁面に沿わせてピペットチップ62の向きを真っ直ぐに矯正させることができる。
【0072】
また、底面70aは、ピペットチップ62の挿し込み方向と直交しており、先端62aを押し当てた際に、挿し込み方向に対して均一な力がピペットチップ62に加わる。これにより、底面70aへの押し当てによってピペットチップ62が傾いたり、調整穴70にピペットチップ62が嵌り込んで、ノズル54aからピペットチップ62が抜けてしまったりすることが防止される。
【0073】
なお、これ以降では、ピペットヘッド54が調整治具64に移動し、各ピペットチップ62を各調整穴70に挿入して、各ピペットチップ62の先端62aと各調整穴70の底面70aとを当接させるまでの一連の動作を、『ピペットチップ62を念押しする』と称す。
【0074】
各ピペットチップ62を念押ししたピペットヘッド54は、リンカー膜22の活性化液を保管する液保管部61に移動し、各ピペット19aに活性化液を吸引させる。活性化液を吸引したピペットヘッド54は、載置スペース51にセットされたセンサユニット12に向けて移動する。センサユニット12に移動したピペットヘッド54は、センサユニット12の各流路16に活性化液を注入して、各リンカー膜22に活性化処理を施す。
【0075】
この際、各ピペットチップ62を念押しして、ノズル54aに対する挿し込み量が一定となるように調整したので、ノズル54aから抜けてピペットチップ62が流路16に刺さったままになる、斜めに挿し込まれたピペットチップ62がセンサユニット12を動かしてSPR信号に外乱を生じさせるなどといった不具合が防止される。また、フォトインタラプタ71でピペットチップ62が挿し込まれているか否かを検出しているので、ピペットチップ62が取り付けられていない状態で固定工程が進んでしまうような不具合も起きない。
【0076】
活性化液を注入したピペットヘッド54は、図示を省略した廃却部に移動して、活性化液に浸された各ピペットチップ62を廃却部にリリースする。各ピペットチップ62をリリースしたピペットヘッド54は、再びピペットチップ保管部63に移動してピペットチップ62を取り付け、調整治具64に移動して各ピペットチップ62の念押しを行い、次に注入するリガンド溶液21のためにピペットチップ62を交換する。なお、各ピペットチップ62をリリースする際に、各ピペットチップ62をピペットチップ保管部63に戻し、注入する液体毎に専用のピペットチップ62を設けるようにしてもよい。
【0077】
ピペットチップ62の交換を行ったピペットヘッド54は、リガンド溶液21を保管する液保管部61に移動して、各ピペット19aにリガンド溶液21を吸引させる。リガンド溶液21を吸引したピペットヘッド54は、載置スペース51にセットされたセンサユニット12に向けて移動する。センサユニット12に移動したピペットヘッド54は、センサユニット12の各流路16にリガンド溶液21を注入して、各リンカー膜22にリガンド21aを固定させる固定化処理を施す。
【0078】
なお、上記実施形態では、調整穴70の底面70aを請求項5記載の当接面としているが、これに限ることなく、例えば、図8に示すように、段差部80aが形成されたピペットチップ80を用いる場合などには、調整治具64の上面64aを当接面として挿し込み量の調整を行うようにしてもよい。また、ピペットチップ62、80が、ノズル54aに対して斜めに挿し込まれる心配がない場合などには、調整治具64を設けることなく、挿し込み方向と直交する単なる平面に、ピペットチップ62、80の先端62a、80bを押し当てて、挿し込み量の調整を行うようにしてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、略円錐筒状のピペットチップ62、80を用いているが、ピペットチップの形状は、これに限ることなく、例えば、三角錐や四角錐状のものであってもよい。また、調整穴70は、円錐筒状のピペットチップ62、80に合わせて円柱状に形成されているが、この形状もこれに限ったものではなく、ピペットチップの形状に合わせて、ピペットチップの少なくとも一部が挿入可能な形状としておけばよい。
【0080】
なお、上記実施形態では、ピペット検出手段として透過型のフォトインタラプタ71を用いているが、これに限ることなく、例えば、反射型のフォトインタラプタなどの他の光学センサを用いてもよいし、磁気センサや機械的なスイッチなどを用いるようにしてもよい。また、例えば、ピペットチップ62、80に突起部を設けるなどして、これらの所定の位置(高さ)を検出することにより、ピペットチップ62、80の挿し込み量が検出できるようにしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、ヘッド移動機構56とコントローラ60とによって請求項記載の押し当て手段を構成するようにしているが、これに限ることなく、例えば、調整治具64側を移動させて、ピペットチップ62、80を調整穴70に挿入させる機構を用いてもよい。
【0082】
さらに、上記実施形態では、誘電体ブロックとしてプリズム14を示しているが、誘電体ブロックには、この他に、光学ガラスや光学プラスチックなどを板状にしたものや、これらの板状のものとプリズムとを光学面平滑剤(例えば、光学マッチングオイル)で一体化させたものなどを含めるものとする。
【0083】
なお、上記実施形態では、固定機10に調整治具64を設けて、固定機10の各ピペット対19を念押しする例を示したが、もちろん測定機11に調整治具64を設けて、測定機11のピペット対26を念押しするようにしてもよい。さらには、ピペットチップを挿し込んで使用する他の分注装置に本発明を適用してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、全反射減衰を利用した測定装置の一例として、SPR測定装置を示したが、全反射減衰を利用した測定装置としては、この他に、例えば、漏洩モードセンサが知られている。漏洩モードセンサは、誘電体と、この上に順に層設されたクラッド層と光導波層とによって構成された薄膜とからなり、この薄膜の一方の面がセンサ面となり、他方の面が光入射面となる。光入射面に全反射条件を満たすように光を入射させると、その一部が前記クラッド層を透過して前記光導波層に取り込まれる。そして、この光導波層において、導波モードが励起されると、前記光入射面における反射光が大きく減衰する。導波モードが励起される入射角は、SPRの共鳴角と同様に、センサ面上の媒質の屈折率に応じて変化する。この反射角の減衰を検出することにより、前記センサ面上の化学反応が測定される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】SPR測定方法の説明図である。
【図2】1つのセンサセルを抜き出して説明する説明図である。
【図3】センサユニットの概略構成を示す分解斜視図である。
【図4】固定機の構成を概略的に示す斜視図である。
【図5】ピペットチップが調整治具に挿入される前の状態を示す説明図である。
【図6】ピペットチップが調整治具に挿入された状態を示す説明図である。
【図7】固定化処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】挿し込み量調整の他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0086】
10 固定機
11 測定機
12 センサユニット
13 金属膜(薄膜層)
14 プリズム(誘電体ブロック)
32 照明部
33 検出器(光検出手段)
34 光源
54 ピペットヘッド(分注ヘッド)
54a ノズル
56 ヘッド移動機構
60 コントローラ(制御部)
62、80 ピペットチップ
62a、80b 先端
64 調整治具
64a 上面
70 調整穴
70a 底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の吸引と吐出とを行うノズルが形成され、このノズルに挿し込まれる略筒状のピペットチップを着脱自在に保持する分注ヘッドを備えた分注装置において、
前記ピペットチップの少なくとも一部が挿し込まれる調整穴と、前記ピペットチップの挿し込み方向と略直交する当接面とが形成された調整治具と、
前記分注ヘッドに保持された前記ピペットチップを前記調整穴に挿入して、前記当接面に前記ピペットチップの一部を押し当てる押し当て手段とを設けたことを特徴とする分注装置。
【請求項2】
前記調整穴に前記ピペットチップが挿入されたか否かを検出するためのピペット検出手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の分注装置。
【請求項3】
前記分注ヘッドには、複数の前記ノズルが形成されており、
前記調整治具は、複数の前記ノズルのそれぞれに挿し込まれる複数の前記ピペットチップの数に応じた複数の調整穴を有することを特徴とする請求項1又は2記載の分注装置。
【請求項4】
前記押し当て手段は、前記分注ヘッドを前後左右上下の3方向に移動させるヘッド移動機構と、このヘッド移動機構の各方向への移動量を制御する制御部とからなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の分注装置。
【請求項5】
前記当接面は、前記調整穴の底面であって、
前記押し当て手段は、前記ピペットチップの先端を前記底面に押し当てることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の分注装置。
【請求項6】
液体の吸引と吐出とを行うノズルが形成され、このノズルに挿し込まれる略筒状のピペットチップを着脱自在に保持する分注ヘッドを備えた分注装置のピペットチップ取付方法であって、
前記ピペットチップを前記ノズルに挿し込んだ後、
前記ピペットチップの挿し込み方向と略直交する当接面に、前記ピペットチップを押し当てて、
前記ノズルに対する前記ピペットチップの挿し込み量を調整することを特徴とするピペットチップ取付方法。
【請求項7】
前記当接面に前記ピペットチップを押し当てた際に、前記挿し込み方向に対して均一な力が前記ピペットチップに加えられることを特徴とする請求項6記載のピペットチップ取付方法。
【請求項8】
一面に薄膜層が形成された誘電体ブロックと、前記薄膜層に試料溶液を送液する流路が形成された流路部材とからなるセンサユニットに対して、全反射条件を満足するように光を照射する光源と、前記センサユニットからの反射光を受光して電気信号に光電変換する光検出手段とを備えた全反射減衰を利用した測定装置において、
前記試料溶液の吸引と吐出とを行うノズルが形成され、このノズルに挿し込まれる略筒状のピペットチップを着脱自在に保持する分注ヘッドによって、前記流路に前記試料溶液を注入する分注手段と、
前記ピペットチップの少なくとも一部が挿し込まれる調整穴と、前記ピペットチップの挿し込み方向と略直交する当接面とが形成された調整治具と、
前記分注ヘッドに保持された前記ピペットチップを前記調整穴に挿入し、前記当接面に前記ピペットチップの一部を押し当てる押し当て手段とを設けたことを特徴とする全反射減衰を利用した測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−284350(P2006−284350A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104261(P2005−104261)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】