説明

別のウェハと接合するための半導体ウェハ表面の調製

【課題】 2枚のウェハ間の接合を、接合後の欠陥の発生を低減すること、および接合エネルギーを高めることによって、強化する方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、別のウェハと接合するためにウェハの酸化表面を調製する方法であって、酸化表面には原子種が注入され、NH4OHとH22を使用して酸化表面を洗浄する第1ステップと、塩化水素種(HCl)を使用して洗浄する第2ステップとを含み、第1ステップは、約10Å〜約120Åでエッチングするように実行され、第2ステップは、約10分間またはそれ以内の間、約50℃以下の選択された温度で実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロエレクトロニクス、光学またはオプトエレクトロニクスの構造体を形成するために、半導体材料を含む2枚のウェハを接合することに関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、一体に接合される2枚のウェハの少なくとも一方の接合面を調製することに関する。
【背景技術】
【0003】
2枚のウェハを一体に接合する前に良好な接触品質を保証するために、接合される2つの表面のうち少なくとも一方が洗浄されていなければならない。
【0004】
ウェハ表面に絶縁性粒子または汚染物質が存在すると、それらが2枚のウェハの界面に位置する場合は良好な接合を損なう可能性がある。
【0005】
詳細には、これが発生するのは、接合する前に、2枚の接合ウェハのうちの一方には、接合される面近くに原子種が注入され、次いでSmart−Cut(登録商標)として既知の方法の進行中に、注入されるゾーンで分離される場合である。後に接合界面内で密封されるそれらの粒子は、分離後に得られる構造体内に形成される表面上のブリスターをもたらし、および/または原子種が注入されたゾーンと前記構造体の表面との間の変態(transferred)していないゾーンをもたらす可能性がある。これらのブリスターは、例えば、接合を強化するための接合の間または接合後に実施される熱処理の間に増加および/または成長する。
【0006】
したがって、このような粒子と汚染物質を接合表面から除去する手段を見出すことが重要である。
【0007】
当技術分野で既知の従来の洗浄技術は、接合前にウェハを化学的に処理するステップを含む。
【0008】
例えば半導体材料のウェハなど、ウェハの酸化表面を洗浄するために、RCA洗浄として既知の処理を使用することが知られている。RCA洗浄には、
−水酸化アンモニウム(NH4OH)と過酸化水素(H22)と脱イオン水とを含む、通常、30℃から80℃の温度範囲で使用されるSC1(標準洗浄1)の溶液を用いた第1浸漬と、
−塩酸(HCl)と過酸化水素(H22)と脱イオン水とを含む、70℃から90℃の温度範囲で使用されるSC2(標準洗浄2)の溶液を用いた第2浸漬と、を含む。
【0009】
第1浸漬は、主として、ウェハ表面の絶縁性粒子とその表面近くに埋まった粒子を除去し、それらが再び堆積することを防止するためのものである。
【0010】
さらに、この第1のSC1浸漬は、接合されるウェハ表面の親水性を改善できる。表面の親水特性は、ここでは、2枚のウェハ間を良好に接合するのに不可欠な状態を構成する。
【0011】
SC2溶液は、主として、塩化物を形成することによってウェハ表面に堆積された金属による汚染物質を除去するためのものである。
【0012】
金属の除去効率は、典型的には、周囲温度から90℃の間で95%〜99%である。ウェハ内部への化学作用の深さは、典型的には、周囲温度から90℃の間で約1オングストローム(Å)〜約10Åである。
【0013】
このため、SC2処理は、通常、70℃〜90℃の温度範囲で実施されている。
【0014】
ただし、このような化学処理を行った後に得られる表面は粗いままであり、場合によっては処理前よりも顕著になっている場合もある。
【0015】
ウェハの表面に存在するこのプロフィール形状は、オングストロームRMS(二乗平均平方根)で測定する粗さ値が高いときよりもさらに接合状態を変化させる。
【0016】
またウェハ表面に絶縁性の粒子または汚染物質が存在すると、それらが界面で見つかった場合には、ウェハの良好な接合の支障になり得る。
【0017】
接合後、後に接合界面において密封されるこれらの粒子によって、Smart−Cut(登録商標)による分離後に得られる構造体内に形成される表面上のブリスターをもたらし、および/または原子種が注入されたレベルでの領域とこの構造体の表面との間の変態していない領域をもたらす可能性がある。これらのブリスターは、例えば、接合を強化するための接合の間または接合後に実施される熱処理の間に増加および/または成長する。
【0018】
特に、欧州特許第0971396号明細書はSC1、次いでSC2、最後に別のSC1処理を実施することによってこのような注入表面を調製することから成る技術を開示している。このプロセスには、80℃で、約8分間(4分×2回)のSC1処理と、80℃で、約4分間のSC2処理との全所用時間を要する3つのステップを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、2枚のウェハ間の接合品質の向上を最大限にするために、その洗浄および接合調製作用を最適化するRCA処理を実行する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第一の態様によると、本発明は別のウェハと接合するためにウェハの酸化表面を調製する方法であって、酸化表面は原子種の注入を受け、方法は、NH4OHとH22を使用することによって酸化表面を洗浄する第1ステップと、塩化水素種(HCl)を使用することによって洗浄する第2ステップと、を含み、第1ステップが、約10Åから約120Åまでエッチングされるように実行され、第2ステップが、約10分未満の持続時間で約50℃を下回る選択温度で実行される方法を提案する事により状況を改善しようというものである。
【0021】
酸化ウェハ表面を調製する方法の特徴(すべて、約30%の割合で水に希釈されたNH4OHに対応するNH4OHの単位質量を基準とする)は、
−第1ステップのエッチングが約10オングストローム〜約60オングストロームでエッチングされるように実行されること、
−第1ステップの処理パラメータが、平均直径が約0.1マイクロメータより大きい絶縁性粒子を表面から除去するように選択されること、
−第1ステップの処理パラメータが、処理後の粗さが約5ÅRMS未満、さらに詳細には、約4ÅRMS未満となるように選択されること、
−NH4OH/H22の単位質量当たりの分量が約1/2〜約4/4の範囲にあり、この第1ステップが処理される温度が約30℃から約90℃の間であること、
−NH4OH/H22の単位質量当たりの百分率分量が約1/2で、この混合物の温度は約50℃で、第1ステップの洗浄時間は約3分間であること、
−NH4OH/H22の単位質量当たりの百分率分量が約2/4で、この混合物の温度は約70℃で、第1ステップの洗浄時間は約3分間であること、
−NH4OH/H22の単位質量当たりの分量は約3/4で、この混合物の温度は約80℃で、第1ステップの洗浄時間は約3分間であること、
−洗浄の第2ステップは、ウェハ表面に存在する金属汚染物質の約95%〜99%が除去されるように実行されること、
−第2ステップの混合物が使用される選択温度はおよそ室温に選択されること、
−第2ステップにおいて使用される選択温度は約0℃より高いこと、
−第2ステップの洗浄時間は約10分未満、より詳細には約3分未満であること、
−プラズマ活性化ステップが第1ステップの前に実施されること、である。
【0022】
第2の態様によると、本発明は、薄膜を除去する方法であって、
a)形成される薄膜の厚さに近い深さで第1ウェハ内に脆弱ゾーンを形成するステップと、
b)酸化表面を調製する方法にしたがって第1ウェハの酸化表面を調製するステップと、
c)ステップb)で調製された表面で第2ウェハに第1ウェハを接合するステップと、
d)脆弱ゾーンで、第2ウェハに接合された薄膜を剥離するエネルギーを供給するステップと、を含む方法を提案する。
【0023】
本発明による薄膜を除去する方法の特徴は、
−ステップb)で調製される表面の熱酸化ステップがステップb)の前に実施されること、
−この方法が、酸化表面を調製する前記方法にしたがって、第2ウェハの接合面を調製することをさらに含むこと、
−第2ウェハの表面の熱酸化ステップが前記表面を調製する前に実施されること、
−ステップa)の間に形成される脆弱ゾーンが、脆弱ゾーンの深さに近い深さまで原子種を注入することによって得られること、である。
【0024】
第3の態様によれば、本発明は、セミコンダクタ・オン・インシュレータ構造の生成に薄膜除去方法を適用することを提示する。
【0025】
本発明の別の態様、目的および利点は、以下の図の説明において本文書の以下に記載する。
【0026】
図1は、「Smart−Cut(登録商標)」技術の種々のステップ(図1a〜図1d)を示す。
【0027】
図2は、種々の洗浄操作後のウェハの粗さの測定値を示すグラフである。
【0028】
図3は、図2に示す測定値と同じ測定値を示すグラフであって、ここでは、より実質的には洗浄操作において得られる粗さを予測するのに用いられる。
【0029】
図4は、洗浄によって生じるエッチング深さの関数として、ウェハから表面の粒子を除去する効率の測定値を示すグラフである。
【0030】
図5は、Smart−Cut(登録商標)方法を用いて除去した後に得られるウェハ上で観察されるブリスターの数の測定値を示すグラフであって、ここでは、接合前に、本発明によるSC1処理の後、SC2処理が50℃の温度で実行されたか、またはSC2処理が80℃の温度で実行された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1a】「Smart−Cut(登録商標)」技術のステップを示す図。
【図1b】「Smart−Cut(登録商標)」技術のステップを示す図。
【図1c】「Smart−Cut(登録商標)」技術のステップを示す図。
【図1d】「Smart−Cut(登録商標)」技術のステップを示す図。
【図2】種々の洗浄操作後のウェハの粗さの測定値を示すグラフ。
【図3】図2に示す測定値と同じ測定値を示すグラフ。
【図4】洗浄によって生じるエッチング深さの関数として、ウェハから表面の粒子を除去する効率の測定値を示すグラフ。
【図5】Smart−Cut(登録商標)方法を用いて除去した後に得られるウェハ上で観察されるブリスターの数の測定値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明によるウェハ洗浄ステップは、いわゆるSmart−Cut(登録商標)プロセスによる薄膜除去プロセスに含むこともできる。
【0033】
図1aを参照すると、薄膜除去プロセスの第1段階は、表面酸化層11を有するドナーウェハ10を作製するために、半導体材料のウェハを酸化することから成る。
【0034】
この酸化は自然酸化であってもよく、あるいは熱処理(すなわち熱酸化)またはSiO2の凝結体の堆積によってなされてもよい。
【0035】
図1bを参照すると、このように酸化されたドナーウェハ10には、これらの酸化表面の1つを通して、例えば水素および/またはヘリウムの注入など、原子種が注入される。
【0036】
注入に用いられるこれらの原子種が投与され、ドナーウェハ10の表面下の予め設定された深さ、すなわちドナーウェハ10の残り部分に対して特定の脆性を有する脆化領域15まで、予め設定されたエネルギーで送られる。これによって、脆化領域15と注入12を受ける酸化表面とによって画定された膜16が形成される。
【0037】
図1cを参照すると、受容ウェハ20は、注入12を受けたドナーウェハの酸化表面に接触している。
【0038】
最初に利用される接着特性は、接触した表面間の分子付着である。
【0039】
次に、2枚のウェハ間の結合を強化するために随意の熱処理が実行される。この熱処理は1つまたは複数の所定温度で、所定の継続時間で実行され、これにより接合効率が最適となり、ウェハ表面の構造欠陥の形成を回避できる。例として、約30分間、約300℃の温度を用いてもよい。実際には、この熱処理によって、Si−O−Siの強い共有結合の利点に対して、大部分のSiOH結合が失われてしまう。
【0040】
したがって、熱および/または機械エネルギーなど十分なエネルギーが供給されて、脆化領域15の弱い接合を破壊し、したがって薄膜16がドナーウェハ10から分離されて、図1dに示すように、セミコンダクタ・オン・インシュレータ構造30を形成する。ドナーウェハ10から除去された薄膜16は、その後半導体部分を形成し、下位酸化層17は、その後構造体30の電気的絶縁部分を形成する。
【0041】
分離および接合された表面は有利には、例えば、化学エッチング、犠牲酸化、研磨、化学機械的研磨もしくはCMP、原子種衝撃または任意の他の平滑化技術によって、仕上げされる。次いで、最終構造体はマイクロエレクトロニクス、光学またはオプトエレクトロニクスにおける用途に向けられる。
【0042】
最終構造体はマイクロエレクトロニクス、光学またはオプトエレクトロニクスにおける用途に向けられる。
【0043】
例えば、分離層内に構成部品を形成することも可能である。
【0044】
したがって、例えば、SOI、SGOI(Silicon Germanium on Insulator)、SOQ(Silicon on Quartz)、GeOI(Germanium On Insulator)構造体、III−V族に属する成分によって絶縁物グループの上に構成される合金などのセミコンダクタ・オン・インシュレータ構造を形成することができる。各SOI構造は分離層と他のウェハとの間に置かれる本発明による洗浄後の酸化物を含む絶縁層を有する。
【0045】
上述のとおり、ドナーウェハ10を受容ウェハ20に接合する段階は、Smart−Cut(登録商標)プロセスにおける基本段階を構成する。
【0046】
したがって、本発明の主目的は2枚のウェハ10、20の間のこの接合を、特に以下の4つの目的を満たすことによって、強化することである。すなわち、
−接合されるウェハの少なくとも一方の表面から絶縁性粒子を除去し、接合後の欠陥の発生を低減すること、
−ウェハ表面の凹凸の大きさと数を低減して接合表面の接触面積を増やし、これにより接合エネルギーを高めること、
−表面を親水性にしてこれを維持し、接合エネルギーを最大限にすること、
−接合されるウェハの少なくとも一方の表面上の汚染物質を除去し、接合後に欠陥が生じることを低減することである。
【0047】
別の目的は、簡単で速い費用対効果の優れた技術によってこれらの目的に適合できることである。
【0048】
別の目的は、本発明によるステップを組み込んだSmart−Cut(登録商標)プロセスからセミコンダクタ・オン・インシュレータ構造を形成することである。
【0049】
別の目的は、注入12を受けた酸化表面を接合するために調製を制御することである。実際、このような表面は、注入を受けていない場合に比べてそのような調製に対して約5倍感度が高いことを本出願人は見出した。したがって、この目的を達成するために、適合され校正される調製パラメータを極めて正確に設定することが必須である。
【0050】
調製されるウェハは、任意の種類の半導体材料によっても形成することができる。
【0051】
しかし、ウェハ材料はここではシリコンに限定されるものであり、それは、本出願人が以下に記載の研究を実施した材料である。
【0052】
このウェハは、自然に酸化された(以後、自然酸化と称する)か、または人工的に酸化(これは、例えば、加熱成形された酸化物の場合である)されたものである。
【0053】
場合により、接合する少なくとも一方の酸化表面のプラズマ活性化の予備ステップを実行してもよい。
【0054】
次に、本発明は、別のウェハと接合するためにウェハのこの表面を調製する方法を提示する。この方法では、H22分子と混合するアンモニア処理した化学種を用いた少なくとも1つの化学処理ステップを実行する。
【0055】
好ましくは、これらの化学種は湿潤媒体で供給される。
【0056】
化学種は、例えば脱イオン水で希釈されている。この種のアンモニア処理された溶液はSC1溶液とも呼ばれる。
【0057】
このSC1溶液を用いて実施されるこの第1洗浄ステップは、特に(この溶液の化学作用によって得られる)以下の効果の結果を得る。すなわち、
−粒子の下を掘ることによって、したがってそれらを「剥離する」(あるいは「リフトオフ」効果として知られる)ことによって表面をエッチングすること、
−表面と粒子との間に、絶縁性粒子の分離を発生させる溶液の高pHに直接結合される反対の電位を生成すること、
−生成された反対の電位によって与えられる、バス(bath)からプレートまでの粒子の移動を防止すること、である。
【0058】
したがって、この洗浄は特に、アンモニア処理された溶液の高pHに関連し、結果として、溶液中に高濃度のOHイオンを含む。
【0059】
これらのイオンは、アンモニアによる酸化物のエッチングの間に、表面に生成されるペンダント結合と反応し、SiOH末端においてそれらを飽和させる。表面上に形成されるSiOHのこの層は、その後、前記の反発する反対電位を生成し、表面との結合度合いが最も小さい粒子(言い換えると、絶縁性粒子)を表面から除去して、それらが再び付着するのを防ぐ。
【0060】
これらの表面SiOH結合は、ウェハ表面の水分子の吸着点でもあり、それによって親水性の原因となる。この親水性によって、その後、別のウェハとの接合が強化される。
【0061】
図2を参照すると、種々のSC1溶液によってエッチングされた材料の厚み(エッチング深さとも言う)間の関係を見出すことから成る、本出願人により実施された研究の結果が示されており、ウェハ表面に存在する凹凸が測定されている。
【0062】
エッチング深さはここでは反射率計よって測定され、凹凸は、酸化されイオン注入されたシリコンウェハ上で、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて測定される。
【0063】
粒子の除去の度合いは、各SC1処理の前およびその後の反射率測定によって決定される。一般には予め設定された光スペクトルに調整されたレーザを用いて実行される測定を、約0.13ミクロンの粒子について実施し、この値は、ここでは反射率計によって検出可能な最も小さい粒子の平均直径を構成している。
【0064】
図2のグラフのx座標は、種々のSC1溶液で得られたエッチング深さを示しており、これらのエッチング深さはオングストロームで表されている。
【0065】
図2のグラフのy座標は、ウェハ上で行われた種々のエッチングに対してウェハ上で測定された粗さ値を示しており、これらの粗さ値は、ここでは、RMSオングストロームで表されている。
【0066】
明らかになった粗さは、ここでは、ウェハ表面上でなされたエッチングの関数として表され、グラフでは黒点で示されている。
【0067】
この測定の1つの第1の結果は、平均粗さがエッチング深さとともに増加することである。
【0068】
第2の結果は、エッチング深さと粗さとの間に、略直線関係が得られることである。
【0069】
図3を参照し、エッチングと粗さとのこの略直線関係を考慮すると、図2の曲線1の線形延長により、図3の曲線2が形成される。
【0070】
曲線1のこの線形延長を用い、予め設定された最大粗さ値であってそれを超えると結合エネルギーが不十分となる最大粗さ値を知ると、それに対応する最大エッチング深さであってそれを超えると結合エネルギーが不十分となる最大エッチング深さを導き出し、予測することができる。
【0071】
ここで、本出願人によって実行された前記研究においては、最大粗さ値を約5RMSオングストロームに設定することを考慮すると、この粗さ値は、例えば、「電気機械学会会報(Electromechanical Society Proceedings) 第97−36巻」、50頁、第3章で発表されたC.Mallevilleらによる「ウェハ接合メカニズムの詳細な特徴(Detailed characterisation of wafer bonding mechanisms)」で開示された測定結果にしたがっている。実際、約5RMSオングストロームの粗さでは、結合エネルギーが大幅に低減することが示されている。
【0072】
このように、図3を参照すると、エッチングの最大深さは120オングストローム近くで見出されることが推定される。
【0073】
Smart−Cut(登録商標)によるSOI構造の形成に適用される場合、ウェハ接合は、次の分離ステップ中に接合が剥がれるのを避けるのに十分な接合強度を必要とする。これは、粗さが4オングストロームRMS未満である場合に実験的に達成されており、これにより、最大エッチングを約60〜70オングストローム近くで低減する(図3を再び参照のこと)。
【0074】
本出願人によってなされたこれらの測定は、超えてはならないエッチング深さの最大限度で、ウェハ表面をエッチングする作用をできる限り制限する必要性を強調している。
【0075】
図4を参照すると、ウェハから表面粒子を除去する効率と、種々のSC1溶液によるウェハのエッチング深さとの間の関係を見出すために、本出願人によって別の研究がなされた。
【0076】
これらの測定値を得るために、本出願人はまず、除去すべき粒子を表す予め設定された多数の絶縁性粒子を堆積することによってウェハを意図的に汚染した。
【0077】
同様に意図的に汚染された種々のウェハの表面でLPD(Light Point Defect、明視野点欠陥)を測定することによって、特にこれらの粒子の除去効率を見出した。
【0078】
LPDは、レーザ光散乱光学測定器によって検出可能なハイライトとも称される欠陥である。
【0079】
LPD測定は、レーザ源によって放射される入射光波でウェハ表面を照射することと、光学検出器によって、表面上に存在するLPD欠陥によって散乱した光を検出することから成る。
【0080】
ウェハ表面で散乱する光は、ウェハ表面の残留粒子の数と相互に関連するため、光散乱測定はこれらの残留粒子の数に関する情報を与える。
【0081】
LPD測定以外の技術は、単独またはLPD測定と組み合わせて実現できる。
【0082】
エッチング深さに関しては、(図2を参照して)粗さを測定するのに用いられた方法と実質的に同一の方法で、典型的には反射率計によって測定される。
【0083】
x座標として、図2および図3と同じ方法で、種々のSC1溶液によって影響を受ける、オングストロームで表された種々のエッチング深さが示されている。
【0084】
y座標として、ウェハ表面上に存在すると予測される絶縁性粒子の総数に対する百分率で表される、絶縁性粒子の除去効率が示されている。
【0085】
エッチング深さの関数として粒子除去効率の測定値がグラフ上の黒点で示されている。
【0086】
図4を参照すると、約10オングストロームのエッチング深さの値を超えると、粒子除去効率は100%に近くなるのに対して、この値が約10オングストロームを下回ると、効率は約50%〜60%になるため、粒子除去はそれほど印象的ではない。
【0087】
したがって、約10オングストローム未満のエッチングに対しては、粒子除去は良好な状態で接合するには不十分である。
【0088】
エッチングされた厚みが小さすぎる場合、粒子が表面から分離せず、それらの除去効率は極めて急激に低下する。
【0089】
場合により、SC1バスを使用するのと同時に、粒子を表面から分離するのを促進できるメガサウンド(megasound)を適用することができる。
【0090】
さらに、ここで再び、この種の化学処理に際して注入された酸化表面で生じた特定感度を思い出すとよい。実際には、この感度は、注入されていない同一面の感度よりも約5倍高い。
【0091】
この目的を達成するには、特に、化学処理の実施および較正が特に細かく行われなければならない。
【0092】
図2および図4に関して本出願人により実行された測定では、エッチング深さを、洗浄されるウェハがSC1溶液に浸漬されたときに得るのが望ましいと評価することが可能であり、エッチング深さは、約10オングストローム〜約120オングストロームの間、Smart−Cut(登録商標)によるSOI構造を使用する用途においては約10オングストローム〜約60オングストロームの間の範囲に位置するように拘束される。
【0093】
エッチング深さのこの許可された範囲内で、本出願人は、洗浄後の結合エネルギーをさらに増加させることを目的として、SC1溶液を用いてエッチング条件を最適化しようと試みる多数の実験を実施してきた。
【0094】
これらエッチングの結果に関しては、典型的には、
−約1/2〜約4/4または約1/2.5〜約4/4の範囲におけるNH4OH/H22の単位質量当たりの分量(すべて、約30%の割合で水に希釈されたNH4OHに対応するNH4OHの単位質量を基準とする)、
−約30℃〜約80℃の範囲の温度、
−数秒から数時間のエッチング時間、を使用した。
【0095】
以下の表においては、特に顕著と見なされるSC1による洗浄の条件が与えられている。
【0096】
【表1】

【0097】
本出願人は詳細には以下のことを導き出した。すなわち、
−単位質量当たりのNH4OH/H22%=約1/2
−約70℃の温度
−約3分の洗浄時間
【0098】
約20オングストロームのエッチングが得られ、約3RMSオングストロームの粗さと約90%を超える粒子除去レベルを達成し、これにより最適な結合エネルギーを得た。
【0099】
場合により、1つまたは複数の洗浄段階に先立ちまたはそれに続いて先の洗浄段階が実行される。
【0100】
このように、SC2処理の第2ステップが、先のSC1処理に続いて実行されることが有利であり、このSC2処理はHClとH22の混合物を含む溶液に基づいている。
【0101】
SC1タイプの処理中にアンモニア性の化学種を使用する処理など、塩基性pHで化学処理を先に施すと、例えば、ウェハ表面の親水性が大幅に向上した。
【0102】
実際に、溶液中の水酸化物イオンが高濃度であるので、これらOH-イオンが、ウェハの表面で生じたペンダント結合と反応し、それらをSiOH末端で飽和させることができる。このような表面SiOH結合は、ウェハ表面上の水分子の吸着点を構成し、それによってウェハが親水性となる。前記親水性は、その後、別のウェハとの接合を強化する。さらに、表面上に形成されたSiOH層が反対の反発電位を生成し、この電位は結合の度合いが最も小さい粒子(すなわち絶縁性粒子)を表面から切り離し、それらが再び堆積するのを防止できる。
【0103】
このように、表面上に使用される塩基性溶液は、(それらを再び堆積するのを防ぐことによって)望ましくない粒子を除去し、ウェハの別のウェハとの接着能力を高める。
【0104】
その後、親水性または親水化した表面が、塩化水素化学種(HCl)を用いて化学処理される。
【0105】
本発明の方法のこの第2ステップの第1実施態様においては、前記化学種は湿式処理によって供給される。
【0106】
本発明の方法の第2実施態様においては、前記化学種は乾式処理によって供給される。
【0107】
後者の場合、前記化学種は、例えば脱イオン水で希釈できる。このような塩化水素溶液は、このとき、SC2溶液と称される。
【0108】
本出願人は各種検査を実行して、最大結合エネルギーを達成する洗浄温度を最適化することを試みた。
【0109】
詳細には、本出願人は、検査によって、塩化水素処理中の結合エネルギーに対する衝撃温度を観測した。
【0110】
図5に関して、本出願人はSmart−Cut(登録商標)によって形成されるほぼ同一のSOI構造体に現れるブリスターの数(すでに説明した)を記録し、該構造体は約1500Åの厚みの酸化層で覆われた単結晶シリコンから形成され、これにより塩化水素種を使用する結合前化学処理は50℃または80℃の温度で実行された。
【0111】
ブリスターの数は縦座標に表れている。
【0112】
温度は横座標に沿って示されている。
【0113】
80℃で塩化水素処理を受けたSmart−Cut(登録商標)後に得られるSOI構造の試料について実施される一連の測定の全体結果では、ブリスターの平均数は約7であった。
【0114】
次のSmart−Cut(登録商標)で得られる構造体の試料について、50℃で塩化水素処理を受けた測定の全体の結果では、ブリスターの平均数は約0.5であった。
【0115】
したがって、本出願人は、実験条件下で、結合前洗浄の間に塩化水素種を用いると、80℃よりむしろ50℃で実行したときに、結合エネルギーが増加することを明確に確認した。
【0116】
表面ブリスターの数の低減(したがって結合エネルギーの増加)に対する温度の影響を説明できる理由としては、表面親水性へのHCl化学作用の悪影響がある。
【0117】
塩酸は(約2の)酸性pHを有し、したがって溶液中に高濃度のH3+イオンを含む。したがって、それらのイオンはウェハ表面の水と表面SiOH末端と相互作用して、後者の数を低減する。
【0118】
その後、これらの結合の低減は、結合部の数と表面ウェハの質を低減する傾向にあり、表面の親水特性を低下させる。
【0119】
しかし、結合される表面の良好な親水性によって、ウェハ間の結合エネルギーがより高くなり、それによって表面に拘束される粒子をより強力に封止し(ブリスターの原型)、それらの周りの微小欠陥を閉鎖する。その後、分離すると、表面を変形させてその中にブリスターを形成する加圧空洞がより少なくなってしまう。
【0120】
したがって温度減少によって、接合面の親水性への塩化水素の酸性の悪影響を低減し、したがって結合エネルギーをあまりに大きく低減させることがない。
【0121】
したがって、本出願人は、塩化水素処理の間の50℃の温度によって、一定の処理継続時間で、従来行われた塩化水素処理(典型的には80℃以上で行われる)に比べて約30%結合エネルギーが増加することを立証できた。
【0122】
本出願人はまた、塩化水素処理の間の温度を50℃未満まで低減すると、約10分未満、好ましくは約3分未満の処理継続時間で結合エネルギーを増加させることを明確に確認した。
【0123】
ただし、SC2処理などの塩化水素処理を実施する主な目的は、接合される表面の汚染除去をすることであり、汚染物質(主に金属)除去効率は、温度が周囲温度から約90℃の範囲内にそれぞれあるかどうかによって約95%〜約99%に変化すること、および処理温度で酸化物内の塩素イオンの拡散距離に直結する作用の深さが、周囲温度から約90℃の間で約1Åから約10Åに変化可能であることが以前に説明されている。なお、汚染除去は、先に処理したプラズマ活性化ステップの場合(先に記載したように)に、特に効果的でなければならない。実際、プラズマ活性化は表面を汚染する傾向がある。
【0124】
したがって、以下のことが言える。すなわち、
−良好な接合品質で、接合される面の十分な親水性(先のSC1処理から得られる)を保護し、塩化水素処理の間の温度は低くすること、
−接合面を十分に汚染除去し、温度はその塩化水素処理の間は高くすること、である。
【0125】
このように、親水性と金属汚染除去との間で妥協点を見つけることができる。
【0126】
この目的を達成するために、温度は結合エネルギーを最大にするように適合させる。
【0127】
接合される2枚のウェハの前記2枚の酸化接合面のうちの少なくとも一方を洗浄した後、これら2枚のウェハを、この一つの(または複数の)洗浄面の高さで互いに密着させる。
【0128】
このように、酸化したウェハを洗浄すると、相当数の大きいサイズの粒子を制限することができ、したがってウェハの品質を低下させる欠陥を有することを避けることができる。ウェハは、結合エネルギーが欠陥のない最終構造を得るのに十分でない場合に品質が低下する。
【0129】
図1cおよび図1dを参照すると、構造30を形成するための、接合後に実施される、脆化領域15の高さでの薄膜16の前記分離が、非変態領域で不完全に実行される。
【0130】
これらの欠陥は、接合前に実施される本発明による洗浄ステップによって可能な限り低減される。化学処理SC1は調節された処理パラメータの条件下で、このパラメータにしたがって実行して、接合界面での絶縁性粒子の最大数を低減させ、同時にできる限り界面の粗さを低減し、注入を受けた酸化面のエッチングに対する特定感度を考慮に入れた。
【0131】
その後、SC2処理は、金属汚染物質が効果的に除去され、SC1処理で得られた親水性がより良好な接合に対して高く留まるように実行した。
【0132】
本発明は、半導体分野に関するあらゆる種類の材料からの酸化ウェハの表面、言い換えると、シリコンまたはシリコンゲルマニウム合金などの原子族IVに属するがIV−IV、III−VまたはII−VI族の他のタイプの合金にも及ぶ材料からの酸化ウェハの表面の調製に関する。
【0133】
なお、これらの合金は2元、3元、4元またはそれ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0134】
10 ドナーウェハ
11 表面酸化層
15 脆化領域
16 薄膜
20 受容ウェハ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0135】
【特許文献1】欧州特許第0971396号明細書

【特許請求の範囲】
【請求項1】
別のウェハと接合するためにウェハの酸化表面を調製する方法であって、酸化表面は原子種の注入を受け、方法は、NH4OHとH22を使用することによって酸化表面を洗浄する第1ステップと、塩化水素種(HCl)を使用することによって洗浄する第2ステップと、を含み、第1ステップが、10Åから120Åまでエッチングされるように実行され、第2ステップが、10分未満の持続時間で50℃を下回る選択温度で実行され、NH4OH/H22の単位質量当たりの分量が1/2〜4/4の範囲内にあり、この第1ステップが処理される温度は30℃〜90℃の間である、酸化ウェハ表面の調製方法。
【請求項2】
NH4OH/H22の単位質量当たりの百分率分量が1/2で、この混合物の温度は50℃で、第1ステップの洗浄時間は3分間である、請求項1に記載の酸化ウェハ表面の調製方法。
【請求項3】
NH4OH/H22の単位質量当たりの百分率分量が2/4で、この混合物の温度は70℃で、第1ステップの洗浄時間は3分間である、請求項1または2に記載の酸化ウェハ表面の調製方法。
【請求項4】
NH4OH/H22の単位質量当たりの分量が3/4で、この混合物の温度は80℃で、第1ステップの洗浄時間は3分間である、請求項1〜3のいずれか一つに記載の酸化ウェハ表面の調製方法。
【請求項5】
洗浄の第2ステップが、ウェハ表面に存在する金属汚染物質の95%〜99%が除去されるように実行される、請求項4に記載のウェハの酸化表面の調製方法。
【請求項6】
第2ステップの混合物が使用される選択温度は室温である、請求項1〜5のいずれか一つに記載のウェハの酸化表面の調製方法。
【請求項7】
第2ステップの間に使用された選択温度が0℃よりも高い、請求項6に記載のウェハの酸化表面の調製方法。
【請求項8】
第2ステップが、10分未満の継続時間の間、50℃を下回る選択温度で実行される、請求項7に記載のウェハの酸化表面の調製方法。
【請求項9】
プラズマ活性化ステップが第1ステップよりも前に実行される、請求項1〜8のいずれか一つに記載のウェハの酸化表面の調製方法。
【請求項10】
表面酸化層を有する第1ウェハから薄膜を除去する方法であって、
a)形成される薄膜の厚さに近い深さで第1ウェハ内に脆弱ゾーンを形成するステップと、
b)請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法にしたがって第1ウェハの酸化表面を調製するステップと、
c)ステップb)で調製された表面で第2ウェハに第1ウェハを接合するステップと、
d)脆弱ゾーンで、第2ウェハに接合された薄膜を剥離するエネルギーを供給するステップと、を含む除去方法。
【請求項11】
ステップb)で調製される表面の熱酸化ステップが、ステップb)の前に実行される、請求項10に記載の除去方法。
【請求項12】
請求項1から請求項9のいずれか一つに記載の方法によって第2ウェハの接合表面を調製することをさらに含む、請求項10または11に記載の除去方法。
【請求項13】
第2ウェハの表面の熱酸化ステップが、表面を調製する前に実行される、請求項12に記載の除去方法。
【請求項14】
ステップa)の間に形成された脆弱ゾーンが、脆弱ゾーンの深さと近い深さまで原子種を注入することによって得られる、請求項10〜13のいずれか一つに記載の除去方法。
【請求項15】
セミコンダクタ・オン・インシュレータ構造を形成するための、請求項10〜14のいずれか一つに記載の除去方法の使用。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−268001(P2010−268001A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180678(P2010−180678)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【分割の表示】特願2007−505672(P2007−505672)の分割
【原出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(500361216)エス オー イ テク シリコン オン インシュレータ テクノロジース (39)
【氏名又は名称原語表記】S.O.I.TEC SILICON ON INSULATOR TECHNOLOGIES
【出願人】(506330704)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【Fターム(参考)】