説明

制御装置

【課題】冷媒の凍結による配管の閉塞を抑制する。
【解決手段】冷媒にエンジン1からの廃熱を付与して発生させた蒸気により膨張器10を駆動するランキンサイクルシステム100内の圧力を制御する大気開放弁12aと、冷媒が凍結する可能性があるか否かを判定し、冷媒が凍結する可能性がある場合に、大気開放弁12aによりランキンサイクルシステム100内の圧力を上昇させるECU30と、を備える。これにより、ランキンサイクルシステム内の圧力の上昇により、内燃機関内の冷媒の沸騰が抑制されるため、発生する蒸気量が減少し、ランキンサイクルシステム内の各部で凝縮する冷媒の量を減少させることができる。この結果、ランキンサイクルシステム内の各部に付着した凝縮した冷媒が凍結することに起因する配管の閉塞を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関の稼動に伴う廃熱を回収するランキンサイクルが知られている。このようなランキンサイクルには、例えば、エンジンの水冷冷却系統を密閉構造として沸騰冷却を行うようにし、エンジンにおける廃熱によって気化した冷媒、すなわち蒸気によって蒸気タービンのような膨張器を駆動して、その蒸気の持つ熱エネルギを電気エネルギ等に変換して回収するものがある。
【0003】
通常、ランキンサイクルシステム内の圧力は、大気圧以下に維持される。ランキンサイクル内の圧力の制御に関する技術として、例えば、特許文献1〜5がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−197672号公報
【特許文献2】特開2010−065587号公報
【特許文献3】特開2000−345835号公報
【特許文献4】特開2006−207396号公報
【特許文献5】特開2007−009897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ランキンサイクル稼動時は、タービンノズルが絞りとなり、コンデンサ圧力P2は、エンジン側圧力P1よりも低く設定されている。これにより、コンデンサ側圧力P2は、大気圧以下に設定されている。一方でエンジン側圧力P1は、大気圧よりも高く設定されている。しかし、ランキンサイクルが停止したとき、ランキンサイクルシステム内の圧力は、作動媒体の温度低下による液化のため大気圧以下になってしまう。エンジンが停止した後であっても、エンジンからの熱はエンジン内の冷媒に伝播するため、エンジン内の冷媒温度の低下速度は、エンジン外のランキンサイクルシステムの経路内温度の低下速度に比べて遅くなる。したがって、エンジンの停止後、エンジン内の冷媒温度は、エンジン外のランキンサイクルシステムの経路内温度よりも高くなるため、エンジン水温に対応する飽和蒸気圧が、エンジン外のランキンサイクルシステムの経路内温度に対応する飽和蒸気圧よりも高くなる。この結果、エンジン内の冷却水が沸騰し蒸気が生成される。エンジン内で発生した蒸気は、エンジン内よりも低い温度となっている、エンジン以外のランキンサイクルシステムの各部に移動する。エンジン以外のランキンサイクルシステムの各部に移動した蒸気は熱を奪われるため、ランキンサイクルシステムの各部において凝縮水が生成され、ランキンサイクルシステムの各部に付着する。ここで、外気温が氷点下である場合には、ランキンサイクルシステムの各部に付着した凝縮水が凍結し、凍結した凝縮水によってランキンサイクルシステム内の経路が閉塞されてしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本明細書開示の制御装置は、冷媒の凍結に起因する配管の閉塞を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、本明細書開示の制御装置は、冷媒に内燃機関からの廃熱を付与して発生させた蒸気により膨張器を駆動するランキンサイクルシステム内の圧力を制御する圧力制御手段と、前記冷媒が凍結する可能性があるか否かを判定する凍結可能性判定手段と、前記冷媒が凍結する可能性がある場合に、前記圧力制御手段により前記ランキンサイクルシステム内の圧力を上昇させる制御手段と、を備える。
【0008】
上記の構成によれば、ランキンサイクルシステム内の圧力の上昇により、内燃機関内の冷媒の沸騰が抑制されるため、発生する蒸気量が減少し、ランキンサイクルシステム内の各部で凝縮する冷媒の量を減少させることができる。この結果、ランキンサイクルシステム内の各部に付着した凝縮した冷媒が凍結することに起因する配管の閉塞を抑制できる。
【0009】
また、上記制御装置は、前記内燃機関の運転状態を判定する判定手段を備え、前記制御手段は、前記判定手段により前記内燃機関の運転が停止したと判定され、かつ、前記冷媒が凍結する可能性がある場合に、前記圧力制御手段により前記ランキンサイクルシステム内の圧力を上昇させる構成としてもよい。
【0010】
上記構成によれば、内燃機関の停止後に内燃機関内の冷媒が沸騰するのを抑制できるため、発生する蒸気量が減少し、ランキンサイクルシステム内の各部で凝縮する冷媒の量を減少させることができる。この結果、ランキンサイクルシステム内の各部に付着した凝縮した冷媒が凍結することに起因する配管の閉塞を抑制できる。
【0011】
また、上記制御装置において、前記制御手段は、前記ランキンサイクルシステム内の圧力が、前記冷媒の温度に対応する飽和蒸気圧よりも高い圧力となるように、前記圧力制御手段により前記ランキンサイクルシステム内の圧力を上昇させる構成としてもよい。
【0012】
上記構成によれば、ランキンサイクルシステム内の圧力を冷媒の温度に対応する飽和蒸気圧よりも高い圧力とすることで、内燃機関内の冷媒が沸騰するのを抑制できる。これにより、発生する蒸気量が減少し、ランキンサイクルシステム内の各部で凝縮する冷媒の量を減少させることができる。この結果、ランキンサイクルシステム内の各部に付着した凝縮した冷媒が凍結することに起因する配管の閉塞を抑制できる。
【0013】
また、上記制御装置において、前記制御手段は、前記判定手段により前記内燃機関が始動したと判定され、かつ、前記冷媒が凍結する可能性がある場合に、前記内燃機関と過熱器とにおいて廃熱を付与して発生させた蒸気を、液相状態の冷媒を貯留する貯留手段内に設けられた蒸気通路から外部に放出し、前記ランキンサイクルシステム内の圧力を低下させる構成としてもよい。
【0014】
上記構成によれば、ランキンサイクルシステム内の圧力を、ランキンサイクルシステムの稼動に好適な圧力とすることができる。また、蒸気が貯留手段内に配設された蒸気通路を通過するため、蒸気通路と接触する貯留手段内の凍結した冷媒を蒸気が持つ熱により融解することができる。この結果、外気温が氷点下であっても、ランキンサイクルシステムの始動を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本明細書開示の制御装置によれば、冷媒の凍結による配管の閉塞が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例に係るランキンサイクルシステムの概略構成図である。
【図2】図2は、従来のランキンサイクルシステムにおいてエンジンが停止した場合の蒸気の流れについて説明するための図である。
【図3】図3は、実施例に係るランキンサイクルシステムにおいてエンジンが停止した場合について説明するための図である。
【図4】図4は、エンジン停止後の放置冷却過程にけるランキンサイクルシステム各部の温度、及び、飽和蒸気圧の推移を表すグラフである。
【図5】図5は、ランキンサイクルシステム内の圧力を上昇させることによって、エンジン内の冷却水の沸騰を抑制できる原理について説明するための図である。
【図6】図6は、ECUが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【図7】図7は、本実施例に係るランキンサイクルシステムのエンジン再始動時における蒸気の流れを説明するための図である。
【図8】図8は、エンジン再始動時においてECUが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【図9】図9は、図8のステップS56の処理を行った場合の蒸気の流れを説明するための別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【0018】
本願発明に係る制御装置を含むランキンサイクルシステム100の概略構成について図1を参照しつつ説明する。図1は、実施例に係るランキンサイクルシステム100の概略構成図である。以後、ランキンサイクルシステム100における冷媒は水であるとして説明を行うが、冷媒は水に限られず、不凍液でもよい。図1において、点線の矢印は、気相の冷媒(蒸気)の流通方向を示し、実線の矢印は液相の冷媒(水)の流通方向を示す。また、図1において、ハッチング部分は液相状態の冷媒を表す。
【0019】
ランキンサイクルシステム100は、内部で冷媒が沸騰することにより冷却されるエンジン1を備えている。エンジン1は、内燃機関の一例である。
【0020】
エンジン1は、シリンダブロック1aとシリンダヘッド1bを備える。シリンダブロック1a及びシリンダヘッド1b内にはウォータジャケット2が形成されており、このウォータジャケット2内の冷却水が沸騰することによってエンジン1の冷却が行われる。このときエンジン1は、蒸気を発生させる。
【0021】
エンジン1のシリンダヘッド1bには、ウォータジャケット2から蒸気化した冷媒(すなわち蒸気)が流通する蒸気通路3の一端が接続されている。
【0022】
蒸気通路3の他端には、気液分離器4が配設されている。エンジン1側から気液混合状態で気液分離器4に流入した混合冷媒は、気液分離器4内で気相(蒸気)と液相(水)とに分離される。気液分離器4の下端部には、冷媒循環路5の一端が接続されている。この冷媒循環路5の他端は、エンジン1内に液化冷媒を圧送する第1ウォーターポンプ6に接続される。この第1ウォーターポンプ6は、いわゆるメカ式であり、エンジン1が備えるクランクシャフトを駆動源としている。
【0023】
気液分離器4の上端部は、蒸気流通経路3aの一端と接続されている。蒸気流通経路3aの他端は、過熱器8に接続される。蒸気流通経路3aは、気液分離機4で分離された蒸気を過熱器8へと流通させる。
【0024】
過熱器8には、排気管が引き込まれている。排気管の内部には、エンジン1で発生した排気ガスが流通する。排気管は、過熱器8を貫通しており、その内部を排気ガスが通過する。排気ガスは、気液分離器4で分離された蒸気と熱交換をする。これにより、蒸気発生量が増大すると共に、蒸気の過熱度が向上し、廃熱回収効率が向上する。過熱器8で更に熱を付与された蒸気は、蒸気流通経路3bへと流入する。
【0025】
過熱器8の下流側には、膨張器10が配設されている。膨張器10は、過熱器8から供給された気化冷媒、すなわち蒸気によって駆動されてエネルギ回収を行う。膨張器10は、例えば、蒸気タービンである。膨張器10が備えるタービン翼は、蒸気流通経路3bを通じて供給された蒸気により回転駆動される。タービン翼の回転力は、エンジン1が備えるクランクシャフトの回転を補助したり、発電機を駆動したりする。これにより、廃熱の回収が行われる。
【0026】
膨張器10の下流側には、エネルギを回収された後の冷却媒体を排出する排出通路11が設けられている。排出通路11の一端は、膨張器10に接続されており、排出通路11の他端は、他端はコンデンサ(凝縮器)12に接続されている。排出通路11は、膨張器10が排出した蒸気をコンデンサ12に導入する。コンデンサ12は、蒸気を冷却することによって凝縮して液化冷媒を生成する。またコンデンサ12は、冷却ファン13による送風により冷却される。この結果コンデンサ12は、蒸気を凝縮させることができる。コンデンサ12の下流側にはコンデンサ12において生成された液化冷媒を貯留するキャッチタンク(貯留手段)14が設置されている。
【0027】
キャッチタンク14の下流側には、キャッチタンク14内に一旦貯留された液化冷媒をエンジン1側へ再循環させる冷媒回収路16が設けられている。冷媒回収路16は、冷媒循環路5に接続されている。冷媒回収路16には第2ウォータポンプ17が配設されている。この第2ウォータポンプ17は、電気式のベーンポンプとなっている。第2ウォータポンプ17が稼動状態となると、キャッチタンク14内の液化冷媒が冷媒循環路5へ供給される。また、第2ウォータポンプ17の下流には、冷媒の逆流を回避するための一方弁18が配設されている。以上のように、ランキンサイクルシステム100は、冷媒が循環する経路を備えている。
【0028】
また、実施例に係るランキンサイクルシステム100において、コンデンサ12は、大気開放弁12a圧力計12b、及び凝縮水温計12cを備える。コンデンサ12が備える大気開放弁12aは、圧力制御手段の一例である。大気開放弁12aは、キャッチタンク14内を通過しリザーブタンク23へと引き込まれる
蒸気通路20及びリザーブタンク23内に設置された蒸気通路24に接続されている。蒸気通路20の一端は大気開放弁12aと接続し、他端はリザーブタンク23内に引き込まれ大気に開放されている。また、蒸気通路20は、冷媒回路16、第2ウォータポンプ17、及び一方弁18と熱交換を行うことができるように配設されている。大気開放弁12aは、ECU30によってその開閉を制御され、ランキンサイクルシステム100内の圧力を変更する。圧力計12bは、膨張器10の下流の圧力値(タービン下流圧力値)を計測し、後述するECU30に計測した圧力を出力する。凝縮水温計12cは、コンデンサ12で凝縮した凝縮水の水温を計測し、ECU30に計測した水温を出力する。
【0029】
また、実施例に係るランキンサイクルシステム100は、冷却水を貯留しておくリザーブタンク23を備える。リザーブタンク23には、その一端がコンデンサ12に接続される冷却水通路25が接続されている。冷却水通路25には、リザーブタンク開閉弁25aが備えられおり、リザーブタンク開閉弁25aは、ECU30の制御によってその開閉を制御される。また、リザーブタンク23内には、蒸気通路24が配置されている。なお、リザーブタンク23は、大気に開放されている。
【0030】
また、ランキンサイクルシステム100は、凍結可能性判定手段、制御手段及び判定手段として機能するECU(Electronic control unit)30を備える。ECU30は、ウォータジャケット2内の冷却水の温度(以後、エンジン水温という)を計測するエンジン水温計21、外気温を計測する外気温計22、コンデンサ12が備える大気開放弁12a、圧力計12b及び凝縮水温計(水温センサ)12c、並びにリザーブタンク開閉弁25aと電気的に接続されている。
【0031】
ECU30は、エンジン水温計21及びコンデンサ12内に設けられた凝縮水温計12cからエンジン水温及びコンデンサ内凝縮水温度を取得する。また、ECU30は、外気温計22から外気温を取得し、ランキンサイクルシステム内の冷媒が凍結する可能性があるか否か判定する。例えば、ECU30は、外気温が氷点下である場合に、ランキンサイクルシステム内の冷媒が凍結する可能性があると判定する。また、ECU30は、コンデンサ12が備える圧力計12bから、コンデンサ12内の圧力(ランキンサイクルシステム100内の圧力とみなせる)を取得する。
【0032】
また、ECU30は、例えば、エンジン回転数を取得し、エンジン1の運転状態を判定する。ECU30は、エンジン水温、外気温、ランキンサイクルシステム100内の圧力、及びエンジン1の運転状態に基づいて、大気開放弁12aの開閉を制御する。また、ECU30は、リザーブタンク開閉弁25aの開閉を制御する。ECU30が実行する処理の詳細については後述する。
【0033】
次に、図2を用いて、従来のランキンサイクルシステムにおいてエンジンが停止した場合の蒸気の流れについて説明する。なお、図2において、図1と同様の構成については、同一の符号を付している。
【0034】
図2に示すランキンサイクルシステム100´は、大気開放弁12aが存在しない点において、図1に示すランキンサイクルシステム100と異なる。図2において、エンジン1が停止した場合を考える。エンジン1が停止しても、エンジン1からの熱はエンジン1内の冷却水に伝播するため、エンジン1内の冷却水の温度が、エンジン1以外のランキンサイクルシステムの温度よりも高くなり、熱容量に差が生じる。この熱容量の差によって、エンジン内水温に対応する飽和蒸気圧は、エンジン1以外のランキンサイクルシステムにおける飽和蒸気圧よりも高くなるため、エンジン1内の冷却水が沸騰し、蒸気が発生する。エンジン1以外のランキンサイクルシステム内の温度は、エンジン1よりも低温であるため、発生した蒸気はエンジン1以外のランキンサイクルシステムの各部へと移動し、凝縮してエンジン1以外のランキンサイクルシステムの各部に付着する。このとき、例えば、外気温が氷点下である場合、凝縮した冷却水が凍結し、蒸気流通経路等を閉塞してしまう。
【0035】
次に、本実施例に係るランキンサイクルシステム100において、エンジンが停止した場合の蒸気の流れについて説明する。図3は、図1で説明したランキンサイクルシステム100において、エンジンが停止した場合について説明するための図である。
【0036】
図3において、ECU30は、エンジン停止後も外気温、エンジン水温、及びランキンサイクルシステム内の圧力を、外気温計22、エンジン水温計21、及び圧力計12bからそれぞれ取得する。ECU30は、外気温、エンジン水温、及びランキンサイクルシステム内の圧力に基づいて、大気開放弁12aを開弁するか否か決定する。具体的には、ECU30は、外気温が例えば氷点下、かつ、ランキンサイクルシステム内の圧力が、エンジン水温に対応する飽和蒸気圧よりも低い場合に、大気開放弁12aを開弁する。これにより、図3において、一点鎖線の矢印で示すように蒸気通路20から、大気がランキンサイクルシステム内に導入される。
【0037】
ECU30は、ランキンサイクルシステム内の圧力を、エンジン水温に対する飽和蒸気圧よりも高く維持できる必要最小限の大気をランキンサイクルシステム100内に導入し、エンジン1内の冷却水の沸騰を防止する。
【0038】
図4(A)及び(B)は、エンジン停止後の放置冷却過程にけるランキンサイクルシステム各部の温度、及び、飽和蒸気圧の推移を表すグラフである。図4(A)において、実線は、エンジン停止からの経過時間とエンジン水温との関係を示し、破線は、エンジン停止からの経過時間とエンジン以外のランキンサイクルシステムの構成要素の平均的温度との関係を示す。また、図4(B)において、実線はエンジン停止からの経過時間とエンジン水温に対応する飽和蒸気圧との関係を示し、破線はエンジン停止からの経過時間とエンジン以外のシステム構成要素の平均的温度に対応する飽和蒸気圧との関係を示す。また、一点鎖線はエンジン停止からの経過時間とランキンサイクルシステム内に大気を導入した場合のランキンサイクルシステム内の圧力との関係を示す。
【0039】
図4(A)のグラフにおいて矢印で示すように、エンジンの停止後、エンジン水温が、エンジン以外のシステム構成要素の平均的温度よりも高くなる。この結果、図4(B)のグラフにおいて矢印Aで示すように、エンジン水温に対応する飽和蒸気圧は、エンジン以外のシステム構成部品の平均的温度に対応する飽和蒸気圧よりも高くなり、エンジン内の冷却水が沸騰し蒸気が生成される。生成された蒸気は、エンジン1よりも低温であるエンジン1以外のシステム構成要素に移動し、凝縮する(ヒートパイプ現象)。
【0040】
しかし、ランキンサイクルシステム内に大気を導入した場合、一点鎖線で示すようにランキンサイクルシステム内の圧力が上昇し、本実施例では約0.2kg/cm程度、エンジン水温に対応する飽和蒸気圧よりも高くなる。これにより、エンジン内の冷却水が沸騰し蒸気となることが抑制される。
【0041】
図5を用いて、ランキンサイクルシステム内の圧力を上昇させることによって、エンジン内の冷却水の沸騰を抑制できる原理について説明する。図5において、横軸はエンジン水温を表し、縦軸は沸騰圧力(飽和蒸気圧)を表す。図5において、実線は、各エンジン水温において冷却水が沸騰する場合の圧力(沸騰圧力)を示している。例えば、エンジン水温が60℃の場合、ランキンサイクルシステム内の圧力が0.2kg/cm以下であれば、エンジン内の冷却水は沸騰する。したがって、各エンジン水温において、ランキンサイクルシステム内の圧力を破線で示すように、エンジン水温に対応する飽和蒸気圧よりも一定量高く維持することによって、エンジン内の冷却水の沸騰を抑制し、冷却水が蒸気化するのを抑制できる。エンジン内の冷却水の沸騰を抑制することで、エンジン1内の冷却水から発生する蒸気量が減少するため、ランキンサイクルシステムの各部に付着する凝縮水の量を減少させることができ、凝縮水の凍結による配管の凍結閉塞が抑制される。
【0042】
次に、本実施形態に係るECU30が実行する処理の一例について説明する。図6は、ECU30が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0043】
まず、ECU30は、エンジンが停止しているか否かを判定する(ステップS10)。ECU30は、例えば、エンジンの回転数に基づいてエンジンが停止しているか否かを判定する。
【0044】
エンジンが停止している場合(ステップS10/YES)、ECU30は、外気温が氷点下か否か、すなわち、冷却水が凍結する可能性があるか否かを判定する(ステップS12)。ECU30は、外気温が氷点下である場合(ステップS12/YES)、タービン下流圧力値が、エンジン水温に対応する飽和蒸気圧(エンジン水温対応飽和蒸気圧)よりも低いか否か判定する(ステップS16)。タービン下流圧力値は、コンデンサ内に設けられた圧力計12bにより取得する。エンジン水温対応飽和蒸気圧は、エンジン水温計21より取得した水温から算出する。タービン下流圧力値がエンジン水温に対応する飽和蒸気圧よりも低い場合(ステップS16/YES)、エンジン内の冷却水が沸騰するおそれがあるため、ECU30は大気開放弁12aを開弁し、ランキンサイクルシステム100内に大気を導入する(ステップS18)。
【0045】
次に、ECU30は、タービン下流圧力値がエンジン水温に対応する飽和蒸気圧よりも所定の値(例えば、0.2kg/cm)以上高いか否か判定する(ステップS20)。タービン下流圧力値とエンジン水温に対応する飽和蒸気圧との差が所定の値よりも小さい場合(ステップS20/NO)、ECU30は大気開放弁12aの開放を継続する(ステップS18)。タービン下流圧力値がエンジン水温に対応する飽和蒸気圧よりも所定の値以上高い場合(ステップS20/YES)、ECU30は、大気開放弁12aを閉弁し(ステップS22)、本処理を終了する。すなわち、ECU30は、タービン下流圧力値がエンジン水温に対応する飽和蒸気圧よりも所定の値以上高くなるまで、大気開放弁12aを開放することによって、ランキンサイクルシステム内の圧力を上昇させ、エンジン内の冷却水の沸騰を抑制する。
【0046】
次に、エンジン1の再始動時における制御について説明する。図7は、本実施例に係るランキンサイクルシステム100のエンジン再始動時における蒸気の流れを説明するための図である。ECU30は、エンジンの再始動時、大気開放弁12aの開閉及びリザーブタンク開閉弁25aの開閉を制御して、ランキンサイクルシステム内の圧力を調整する。
【0047】
外気温が氷点下の場合、エンジンの再始動時において、エンジン内の冷却水も凍結している可能性が高い。しかしながら、エンジン1の発熱により、エンジン内の冷却水の融解は早くに始まる。その後、冷却水の温度は蒸気が発生する温度に到達し、蒸気が点線で示す凍結閉塞の無い経路を通る。蒸気は、ランキンサイクルシステム100内に導入された大気と一緒に、ECU30が開弁した大気開放弁12aから、リザーブタンク23に引き込まれた蒸気通路20、及びリザーブタンク23に設けられた蒸気通路24を通過してシステム外に押し出される。これにより、ランキンサイクルシステム内の圧力を低下させることができる。また、キャッチタンク14内の凍結した冷却水を、及び、冷媒回収路16内の凍結した冷却水を、蒸気通路20を通過する蒸気の熱により融解させることができる。この結果、外気温が氷点下であってもランキンサイクルシステム100の再始動を行うことができる。
【0048】
なお、上述の実施例において、冷却水が通過する配管と蒸気が通過する配管とを接触させることにより、蒸気からの伝熱により、実線で示した配管内に存在する凍結冷媒を融解するようにしてもよい。ECU30は、ランキンサイクルシステム100内に導入した大気を全て排出すると、大気開放弁12aを閉じる。
【0049】
次に、エンジン再始動時においてECU30が実行する処理の一例について説明する。図8は、エンジン再始動時においてECU30が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0050】
ECU30は、エンジン1が始動したか否か判定する(ステップS40)。ECU30は、例えば、エンジン回転数に基づいて、エンジン1が始動したか否かを判定できる。ECU30は、エンジン1が始動した場合(ステップS40/YES)、タービン下流圧力値が、エンジン水温に対応する飽和蒸気圧以下か否か判定する(ステップS42)。
【0051】
タービン下流圧力値が、エンジン水温に対応する飽和蒸気圧以下でない場合(ステップS42/NO)、ECU30は、冷却ファン13の停止を維持する(ステップS46)。次に、ECU30は、タービン下流圧力値が大気圧以上か否か判定する(ステップS48)。
【0052】
タービン下流圧力値が大気圧よりも低い場合(ステップS48/NO)、ECU30は、タービン下流圧力値が大気圧以上となるまで、ステップS46及びステップS48の処理を繰り返す。タービン下流圧力値が大気圧以上である場合(ステップS48/YES)、ECU30は、外気温度が氷点下か否か、すなわち、冷媒が凍結している可能性があるか否かを判定する(ステップS50)。
【0053】
ECU30は、外気温度が氷点下である場合(ステップS50/YES)、大気開放弁12aを開弁し、予め定められた時間、ランキンサイクルシステム内に存在する大気を蒸気とともに蒸気通路20及びリザーブタンク23内に設けられた蒸気通路24より放出する(ステップS52)。
【0054】
外気温度が氷点下でない場合(ステップS50/YES)、又は、ステップS52の処理後、ECU30は、大気開放弁12aを閉弁し、リザーブタンク開閉弁25aを開弁し、予め定められた時間、コンデンサ12内に存在する大気を蒸気とともに冷却水通路25からリザーブタンク23へと排出する(ステップS56)。図8のステップS56の処理を行った場合の蒸気の流れを、図9を用いて説明する。
【0055】
図9において、ECU30が大気開放弁12aを閉弁し、リザーブタンク開閉弁25aを開弁することにより、一点鎖線の矢印で示すように、コンデンサ12内に存在する大気は蒸気とともに冷却水通路25を通ってリザーブタンク23に排出される。これにより、ランキンサイクルシステム内の圧力を低下させることができる。なお、外気温が氷点下の場合、リザーブタンク23内の冷却水は凍結している可能性があるが、ステップS52の処理において蒸気通路24を通過した蒸気により凍結した冷却水は融解される。したがって、蒸気により融解された部分からコンデンサ12内に存在する大気をリザーブタンク23内に排出できる。
【0056】
ステップS56の処理後、ECU30はステップS42から処理を継続する。タービン下流圧力値がエンジン水温に対応する飽和蒸気圧以下である場合(ステップS42/YES)、ランキンサイクルシステム内への大気の導入がなかった、または、ランキンサイクルシステム内の大気放出が完了したと判定できるため、ECU30は、コンデンサ12の冷却ファン13を稼動させ(ステップS44)、処理を終了する。
【0057】
以上説明したように、上述の実施例に係るECU30は、冷却水が凍結する可能性がある場合に(例えば、外気温計22により検出された外気温が冷却水を凍結させる温度以下(氷点下)である場合)、大気開放弁12aを開放し、ランキンサイクルシステム内の圧力を上昇させる。この場合、上昇したランキンサイクルシステム内の圧力はエンジン水温に対する飽和蒸気圧よりも高い圧力であることが望ましい。タービン下流圧力値を、エンジン水温に対応する飽和蒸気圧よりも高くすることによって、エンジン1内の冷却水の沸騰が抑制される。この結果、エンジンの停止後に、エンジン1以外のランキンサイクルシステムの各部に移動する蒸気の量を減少させることができるため、凝縮水の量も減少し、凝縮した冷媒の凍結等に起因した配管の閉塞を抑制できる。また、凝縮した冷媒の凍結による体積膨張よって、配管が破損するのを抑制することができる。さらに、ランキンサイクルシステム内に大気を導入することによって、ランキンサイクルシステム内の圧力の低下によってランキンサイクルシステムの各部が押し潰されることを抑制できる。
【0058】
また、ECU30は、エンジンの始動時に、冷却水が凍結している可能性がある場合(例えば、外気温計22により検出された外気温が氷点下である場合)、大気開放弁12aを開放して、ランキンサイクルシステム内に導入された大気を蒸気とともに、キャッチタンク14内を通過しリザーブタンク23内に引き込まれた蒸気通路20から排出し、ランキンサイクルシステム内の圧力を低下させる。これにより、ランキンサイクルシステム内の圧力を、ランキンサイクルシステムの稼動に好適な圧力とすることができる。また、蒸気がキャッチタンク14内に配設された蒸気通路20を通過するため、蒸気通路20と接触するキャッチタンク14内の凍結した冷却水を蒸気が持つ熱により融解することができる。また、蒸気通路20は、冷媒回収路16と熱交換を行えるように配設されているため、冷媒回収路16内で凍結した冷却水を蒸気が持つ熱により融解することができる。この結果、外気温が氷点下であっても、ランキンサイクルシステム100の始動を行うことができる。
【0059】
上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではなく、これらの実施例を種々変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施例が可能であることは上記記載から自明である。
【0060】
例えば、上述の実施例では、ECU30はエンジン1の回転数を用いてエンジン1が停止したか否かを判定していた。しかしながら、ECU30は、エンジン1が停止したか否かを、例えば、イグニッションスイッチのON/OFFに基づいて判定してもよい。
【0061】
また、上述の実施例では、コンデンサ12内に圧力計12bを設けていたが、圧力計の取り付け位置は、膨張器10の出口から、コンデンサ12までの通路であればどこでもよい。また、上述の実施例では、コンデンサ12内に凝縮水温計12cを設けていたが、凝縮水温計は、エンジン1以外のシステム経路で、エンジンの停止放置時に最も早く水温又は壁温が低下する部位に設置するのが望ましい。
【符号の説明】
【0062】
1…エンジン
2…排気管
3…蒸気通路
3a…蒸気排出管
4…気液分離器
5…冷媒循環路
6…第1ウォータポンプ(W/P)
8…過熱器
10…膨張器
11…排出通路
12…コンデンサ
12a…大気開放弁
12b…圧力計
13…冷却ファン
14…キャッチタンク
16…冷媒回収路
17…第2ウォータポンプ(W/P)
18…一方弁
21…エンジン水温計
22…外気温計
30…ECU
100…ランキンサイクルシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒に内燃機関からの廃熱を付与して発生させた蒸気により膨張器を駆動するランキンサイクルシステム内の圧力を制御する圧力制御手段と、
前記冷媒が凍結する可能性があるか否かを判定する凍結可能性判定手段と、
前記冷媒が凍結する可能性がある場合に、前記圧力制御手段により前記ランキンサイクルシステム内の圧力を上昇させる制御手段と、
を備えることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の運転状態を判定する判定手段を備え、
前記制御手段は、前記判定手段により前記内燃機関の運転が停止したと判定され、かつ、前記冷媒が凍結する可能性がある場合に、前記圧力制御手段により前記ランキンサイクルシステム内の圧力を上昇させることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ランキンサイクルシステム内の圧力が、前記冷媒の温度に対応する飽和蒸気圧よりも高い圧力となるように、前記圧力制御手段により前記ランキンサイクルシステム内の圧力を上昇させることを特徴とする請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記判定手段により前記内燃機関が始動したと判定され、かつ、前記冷媒が凍結する可能性がある場合に、前記内燃機関と過熱器とにおいて廃熱を付与して発生させた蒸気を、液相状態の冷媒を貯留する貯留手段内に設けられた蒸気通路から外部に放出し、前記ランキンサイクルシステム内の圧力を低下させることを特徴とする請求項2に記載の制御装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−159067(P2012−159067A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21171(P2011−21171)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】