説明

制振シート

【課題】 目的の使用温度に応じて優れた振動吸収性を発現する制振材シートを提供する。
【解決手段】 側鎖が、塩素基20wt%以上(対ポリマー)、シアノ基5〜45wt%(対ポリマー)で、主鎖が炭素と炭素の単結合または、二重結合で構成された熱可塑性樹脂とベンゾチアジル基含有化合物を含む制振シート。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、住宅、マンション、オフィスビル等の住宅建造物、高速道路、高架橋、鉄道軌道等の各種構造物、自動車、鉄道車両、船舶等の各種車両、家電機器、OA機器等の機器において発生する振動及び騒音の低減のために使用される制振シートに関する。
【0002】
【従来の技術】制振性の指標として、一般に損失正接(tanδ)が使用されている。tanδが大きいほど、振動吸収性の優れた制振材であり、1を越えると優れた制振材と言われている。tanδは、雰囲気の温度に依存しているので、制振シートの制振性能を最大限に発現するには、使用される雰囲気下でtanδの値を大きくする必要がある。
【0003】一般にポリ塩化ビニルは、他の樹脂と比較してtanδが大きな樹脂として知られているが、tanδの温度依存性を測定すると、ピーク位置(ガラス転移温度、Tg)は80℃で、しかも、ピークがシャープなので、80℃近辺以外の温度では、振動吸収性能極端に低下する。つまり、通常の材料の使用温度範囲(−20〜60℃)では、振動吸収性能に劣る材料となる欠点があった。そこで、ピーク位置を低温側にシフトさせたり、ピーク幅を広げる方法として、フタル酸系、直鎖二塩基酸エステル系、燐酸エステル系、トリメリット酸系等の可塑剤を樹脂に添加する方法や、tanδのピーク温度がポリ塩化ビニルより低いポリマーをブレンドする方法(特開平9−316295号公報参照)等が一般に行われている。
【0004】しかし、ポリ塩化ビニル樹脂に、可塑剤やポリ塩化ビニルよりTgの低い樹脂をブレンドする方法を用いると、tanδのピーク位置は低温側に移動し、ピークの形状はブロードになるが、ピーク高さが低下し、振動吸収性能が悪くなる。また、可塑剤を添加する方法の場合、特に可塑剤量が多くなると、制振性能の低下に加えて、可塑剤のブリードによる表面のべたつきや外観不良の問題が発生する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の課題を解消して、目的の使用温度に応じて優れた振動吸収性を発現する制振材シートを提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、側鎖が、塩素基20wt%以上(対ポリマー)、シアノ基5〜45wt%(対ポリマー)で、主鎖が炭素と炭素の単結合または、二重結合で構成された熱可塑性樹脂とベンゾチアジル基含有化合物を含む制振シートである。
【0007】請求項2記載の発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂の側鎖に、塩素基20wt%(対ポリマー)以上残してシアノ基5〜45wt%(対ポリマー)を付与したポリマーとベンゾチアジル基含有化合物を含む制振シートである。
【0008】請求項3記載の発明は、塩素化ポリオレフィンの側鎖に、塩素基20wt%(対ポリマー)以上残してシアノ基5〜25wt%(対ポリマー)を付与したポリマーとベンゾチアジル基を含む化合物からなる制振シート
【0009】本発明の熱可塑性樹脂とは、主鎖が主に炭素と炭素の単結合、場合によっては二重結合で構成され、側鎖は、主に水素、塩素基、シアノ基で構成され、側鎖の塩素基が20wt%以上(対ポリマー)、シアノ基が5〜45wt%(対ポリマー)であれば特に限定されるものではない。前記ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリマーの側鎖に、塩素基、シアノ基を付与したポリマーや側鎖にシアノ基を付与した塩化ビニル等が挙げられる。側鎖の塩素基量が減少すればtanδのピーク高さが低くなるので、20wt%以上は必要である。又、シアノ基が5wt未満の場合は、tanδのピーク高さが1を越える温度領域のが狭くなり、45wt%を越えるとピーク高さが低くなってしまう。
【0010】上記熱可塑性樹脂の平均重量分子量は、特に限定されないが2〜40万が好ましい。4万より低いと力学物性が弱く、40万より高いとシート化する際の成形加工性が悪くなるためである。
【0011】側鎖に塩素基、シアノ基を含有する熱可塑性樹脂樹脂として、例えば、請求項2に記載の如く、ポリ塩化ビニル系樹脂の側鎖に、塩素基20wt%以上(対ポリマー)残して、シアノ基5〜45wt%(対ポリマー)を付与したポリマーが好適に用いられる。前記塩化ビニル系樹脂の側鎖にシアノ基を付与する方法は、特に限定されないが、ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等の極性の非プロトン溶剤に上記ポリマーを溶かし、該溶液にシアン化カリウムを添加することで側鎖をシアノ基に置換する方法が、反応時間が短い点でよい。その際、塩素基を20wt%以上残し、シアノ基の含有量を、制振材として使用される温度に応じて、5〜45wt%(対ポリマー)に調整するのが望ましい。本発明において使用されるポリ塩化ビニル系樹脂として、ポリ塩化ビニル、ポリ塩素化塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンとポリ塩化ビニル等の共重合体が挙げられる。重合度は、特に限定されないが、300〜2000の範囲内にあるのが望ましい。300より低いと力学物性が弱く、2000より高いと樹脂の流動性が悪く、可塑剤等を添加する必要があり、その結果、振動吸収性能が低下するためである。
【0012】側鎖に塩素基、シアノ基を含有する熱可塑性樹脂樹脂として、例えば、請求項3に記載の如く、塩素化ポリオレフィン樹脂の側鎖に、塩素基20wt%以上(対ポリマー)残して、シアノ基5〜45wt%(対ポリマー)を付与したポリマーが好適に用いられる。前記塩素化ポリオレフィンの側鎖にシアノ基を付与する方法は、特に限定されないが、ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシド等の極性の非プロトン溶剤に上記ポリマーを溶かし、該溶液にシアン化カリウムを添加することで側鎖をシアノ基に置換する方法が、反応時間が短い点でよい。その際、塩素基を20wt%以上残し、シアノ基の含有量を、制振材として使用される温度に応じて、5〜45wt%(対ポリマー)に調整するのが望ましい。本発明の塩素化ポリオレフィンとは、例えば、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。例えば、塩素化ポリエチレンの場合、平均重量分子量は、特に限定されないが、4〜40万が好ましい。4万より低いと力学物性が弱く、40万より高いと成形加工性が悪くなるためである。
【0013】また、上記熱可塑性樹脂の側鎖に水素、塩素基、シアノ基以外の他の置換基、例えば、水酸基、アセチル基、メチル基、エチル基、臭素基、フッ素基等が5wt%以下(対ポリマー)が含まれてもよい。5wt%を越える場合、振動吸収性能が劣るからである。
【0014】本発明において使用されるベンゾチアジル基含有化合物として、N、N‐ジシクロヘキシル‐1,2‐ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N‐シクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N‐オキシジエチレン‐2 ‐ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、ジベンゾチアジルジスルフィド等が選ばれる。塩素基、シアノ基を含む熱可塑性樹脂100重量部に対するベンゾチアジル基含有化合物の配合量は、20〜200重量部が好ましい。20重量部より少ない場合、添加効果が認められず、振動吸収性能が悪く、200重量部より多い場合、ポリマーの可撓性が失われ脆い材料になるからである。
【0015】上記制振シートには熱、光による脱塩酸反応による分解劣化を抑制するために、安定剤を加えられてよい。安定剤としては、ポリ塩化ビニル系樹脂に一般的に使用されている安定剤で良く、例えば、鉛白、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛等の鉛塩系、ステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸等と鉛、カドミウム、バリウム、亜鉛、カルシウム等の金属セッケン系、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズジラウレート等の有機錫化合物系等が挙げられる。
【0016】更に、上記制振シートには、熱可塑性樹脂の熱分解抑制と加工性を良くするために、滑剤が加えられてよい。滑剤としては、ポリ塩化ビニル系樹脂に一般的に使用されている滑剤で良く、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸等の高級脂肪酸とその誘導体(エステル、エーテル)、カルナバワックス、キャンデリラワックス等のワックス等が挙げられる。
【0017】制振シートの製法としては、押出成形法と溶剤キャスト法、バンク成形法、プレス成形法が挙げられる。押出成形法で行う場合、押出機は、単軸押出機でも良いが、混練性を向上させるために、二軸押出機が好ましい。その際、スクリュー形態としては、フルフライトでも良いが、ミキシングを設けた方が更に混練性を向上し好ましい。ダイは、Tダイが望ましい。引取機は、カレンダーのような狭圧ロールを設けても良いし、ベルト同士で狭圧するベルト−ベルト成形でも良いし、ベルト/ロール引取機でも良い。温度は上流側から徐々に温度をTg以下に下げるような設定にするのが望ましい。
【0018】溶剤キャスト法で行う場合、塗工機は厚み性能を良好にするために、ダイコーターかコンマコーターが好ましい。溶液は、スチールベルトを用いたエンドレスベルト上に塗工してもよいし、使用している溶剤で溶けない他のプラスチックフィルム或いはシート上に塗工した後、乾燥しても良い。溶剤は、シアノ基が付与されたポリ塩化ビニル系樹脂並びにベンゾチアジル基を含む化合物を溶解するものであれば何でも良いが、十分な乾燥を実現するために、ポリマーの融点や分解点以下の沸点を有するものが望ましく、例えば、THF(テトラヒドロフラン)等の低沸点(66℃)剤が最も望ましい。塗工した後、樹脂溶液は連続的あるいは断続的に乾燥炉に送られ、乾燥後剥離される。剥離の際のシートの含有溶剤量は3〜20%であるのが望ましい。基材側から乾燥できないため、3%以下に乾燥するのは時間を多く費やし効率的でない。また20%以上では樹脂層の粘度が低く安定的に剥離できないために好ましくない。剥離した後の樹脂層は更に乾燥炉内で両面乾燥され溶剤をほぼ完全に揮発させる。
【0019】(作用)本発明の制振シートは、側鎖に塩素基20wt%以上(対ポリマー)、シアノ基5〜45wt%(対ポリマー)を含有する熱可塑性樹脂とベンゾチアジル基含有化合物からなっているので、tanδが1以上の温度領域幅が広く、tanδのピーク温度を室温付近に調整可能であるので、振動吸収性能が高い制振シートが得られる。更にベンゾチアジル基含有化合物を含んでいるので、可塑剤を必要としない。従って、可塑剤のブリードアウト現象が起きず、経時的に外観が損なわれたり、表面がべとついたりすることがない。
【0020】
【実施例】実施例1〔制振シートの作製〕ポリ塩化ビニル(積水化学社製;SLP40 重合度=400)をジメチルホルムアミドに溶かし、シアン化ナトリウムを加えることで、シアノ基で置換して作製したポリマー(塩素基25wt%、シアノ基27wt% 対ポリマー)100部、ジブチルスズマレート5部、カルナバワックス2部を、ミキシング部を備えたL/D=36のスクリューを装備した二軸押出機(日本製鋼所:TEX44)にて混練した。押出の際にサイドフィーダーからN、N‐ジシクロヘキシル‐1,2‐ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学社製;ノクセラーDZ)をポリマーに対して重量比で1:1の割合になるように供給した。成形温度は160℃。吐出部には、Tダイを設けてシート化した。尚、シアノ基、塩素基の含有量の確認は、蛍光X線により定量評価した。
【0021】〔制振シートの評価〕
(tanδ)制振シートのtanδを、粘弾性測定器(東洋精機製作所:レオログラフ)を用いて、周波数100Hzで測定した。尚、tanδは縦弾性係数(E’、E”)より算出した。結果を表1に示す。
(外観)制振シート作製後1週間後に、可塑剤のブリードアウト(表面析出)現象を無垢氏で観察した。
【0022】実施例2〔制振シートの作製〕塩素基40wt%の塩素化ポリエチレン(昭和電工:エラスレン401 平均重量分子量=25万)をジメチルスルホキシドに溶かし、シアン化ナトリウムを加えることで、シアノ基で置換して作製したポリマー(塩素基22wt%、シアノ基17wt% 対ポリマー)を作製した。それ以外は、実施例1と同様な方法で制振シートを作製した。但し、成形温度は、100℃。
【0023】(制振シートの評価)得られたシートのついて実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0024】比較例1〔制振シートの作製〕実施例1で用いたポリ塩化ビニル(積水化学社製:SLP40)にフタル酸ジオクチル30部を加える以外は実施例1と同様にしてシートを得た。但し、成形温度は、130℃であった。
【0025】〔制振シートの評価〕得られたシートのついて実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0026】比較例2〔制振シートの作製〕実施例1で用いたポリ塩化ビニル(積水化学社製;SLP40)100重量部に塩素化度40wt%の塩素化ポリエチレン(昭和電工社製;エラスレン401、Tg ℃)を100重量部を加える以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。但し、成形温度は、160℃であった。
【0027】〔制振シートの評価〕得られたシートのついて実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0028】比較例3〔制振シートの作製〕実施例1で用いたポリ塩化ビニル100重量部にトリオクチルホスフェート35部加える以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。但し、成形温度は、130℃であった。
【0029】〔制振シートの評価〕得られたシートのついて実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0030】比較例4〔制振シートの作製〕塩素基40wt%の塩素化ポリエチレン(昭和電工社製;エラスレン401)を用いる以外は実施例1と同様にしてシートを得た。但し、成形温度は、140℃であった。
【0031】〔制振シートの評価〕得られたシートのついて実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】


【0033】実施例1,2はtanδの値が高く、tanδが1以上の温度領域幅が40℃と広く、良好な制振性能有していることを示しており、自動車搭乗者に快適な空間を提供するために、ダッシュ部、フロア部、ルーフ部等の自動車の一部に装着する制振材、自動車・鉄道等の運搬車両から発生する騒音や振動が住宅建造物へ伝搬しないようにする防音壁、運搬車両の通過の際、搬送用軌道から発生する騒音や振動を防ぐ制振材、子供の飛び跳ね音や雨音を打ち消すために、床や屋根等の住宅の一部に装着される制振材として使用することができる。比較例1、4はtanδの値は高いけれども、tanδが1以上の温度領域幅が10℃と狭く、比較例2,3はtanδの値が1以下であり、制振性能は不十分である。
【0034】
【発明の効果】請求項1記載の発明は、側鎖が、塩素基20wt%以上(対ポリマー)、シアノ基5〜45wt%(対ポリマー)で、主鎖が炭素と炭素の単結合または、二重結合で構成された熱可塑性樹脂とベンゾチアジル基含有化合物を含んでいるので、優れた制振性能を示す。請求項2記載の発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂の側鎖に、塩素基20wt%(対ポリマー)以上残してシアノ基5〜45wt%(対ポリマー)を付与したポリマーとベンゾチアジル基含有化合物を含んでいるので、優れた制振性能を示す。請求項1記載の効果をより確実に奏することができる。請求項3記載の発明は、塩素化ポリオレフィンの側鎖に、塩素基20wt%(対ポリマー)以上残してシアノ基5〜25wt%(対ポリマー)を付与したポリマーとベンゾチアジル基含有化合物を含むんでいるので、優れた制振性能を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 側鎖が、塩素基20wt%以上(対ポリマー)、シアノ基5〜45wt%(対ポリマー)で、主鎖が炭素と炭素の単結合または、二重結合で構成された熱可塑性樹脂とベンゾチアジル基含有化合物を含むことを特徴とする制振シート。
【請求項2】 ポリ塩化ビニル系樹脂の側鎖に、塩素基20wt%(対ポリマー)以上残してシアノ基5〜45wt%(対ポリマー)を付与したポリマーとベンゾチアジル基含有化合物を含むことを特徴とする制振シート。
【請求項3】 塩素化ポリオレフィンの側鎖に、塩素基20wt%(対ポリマー)以上残してシアノ基5〜25wt%(対ポリマー)を付与したポリマーとベンゾチアジル基含有化合物を含むことを特徴とする制振シート。

【公開番号】特開2001−72777(P2001−72777A)
【公開日】平成13年3月21日(2001.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−251643
【出願日】平成11年9月6日(1999.9.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】