説明

制振制御システム及び電気機器

【課題】急峻に変化する振動に対する応答性を向上させ、その上で電力回生することができる制振制御システム,及びその制振制御システムを提供する。
【解決手段】洗濯機21の基部12と水槽14との間に、リニアモータ1とスプリング15とを組み合わせてなる電磁式サスペンション11を配置しリニアモータ1の固定子7側に位置センサ8を配置する。制御装置41は、位置演算部55により位置センサ8より出力される位置信号に基づいて位置θeを検出し、微分器57により速度vを検出すると、位置θe及び速度v及び基部12に取り付けられた加速度センサ16より出力される加速度信号aとモータ電流Ia,Ib,Icとに基づきリニアモータ1をベクトル制御して、洗濯運転時に水槽14について生じる振動を目標値まで抑制し、かつ、そのときに得られる最大の電力を回生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振対象物について生じる振動を抑制する制振制御システム,及びその制振制御システムを備えて構成される電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、車両用サスペンションシステムを構成する電磁式アブソーバ(アクチュエータ)が開示されている。上記システムでは、車輪を保持してばね下部の一部分を構成するサスペンションロアアームと、車体に設けられてばね上部の一部分を構成するマウント部との間にそれらを連結するように電磁式アブソーバを配設し、それと並列にエアスプリングを備えている。
【0003】
上記アクチュエータは、良好な振動減衰特性が要求される場合に、ばね上速度とばね下速度との少なくとも一方に基づいてアクチュエータ力を制御して減衰力を作用させる。それ以外の場合には、アクチュエータ力の発生を専ら電磁モータによる発電を伴うものとすべく、ばね上部とばね下部との相対動作に対してその相対動作の速度に応じた特定の大きさの抵抗力となるアクチュエータ力を発生させる。これら2つの制御は、車体に取り付けられた車速センサ及び加速度センサの信号に基づいて、切換可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−155756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のアクチュエータ制御では、制振を主とする制御と電力回生を主とする制御を切り換えているため、制振を主とする制御を実施中において振動を十分に減衰させている場合に、そのとき回生可能な電力を最大限回収できていないおそれがある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、制振と電力回生の実施割合を連続的に調整して、2つの制御を両立することができる制振制御システム,及びその制振制御システムを備えて構成される電気機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の制振制御システムは、制振対象物と基部との間に配置され、固定側に対して制振対象物を弾性的に支持する弾性体と、3相巻線を備える固定子と永久磁石を備える可動子とを有し、前記固定子と前記可動子との何れか一方が前記制振対象物に固定され、他方が前記基部に固定されるリニアモータと、前記巻線に通電される電流を検出する電流検出手段と、前記可動子の相対位置を検出し、位置信号を出力する位置センサと、この位置信号に基づいて前記可動子の速度を検出し、速度信号を出力する速度検出手段と、前記制振対象物の加速度を検出し、加速度信号を出力する加速度センサとを備え、前期電流検出手段により検出される電流と前記位置信号と前記速度と前記加速度とに基づいて前記リニアモータをベクトル制御することで、前記制振対象物について生じる振動を抑制し、前記巻線に通電される電流の位相を調整することで、前記リニアモータにより電源に電力を回生し、前記制振対象物の振動値が、目標振動値に到達していない場合は、制振を主とする制御を実施し、到達している場合は、制振と電力回生を両立する制御を実施し、前記リニアモータが制御を実施しない状態で前記制振対象物の振動値が目標振動値以下となる場合は、回生を主とする制御を実施することで、制振制御及び電力回生制御の実施割合を調整する制御装置とで構成されることを特徴とする。
【0008】
また、請求項9記載の電気機器は、請求項1乃至8の何れかに記載の制振制御システムを備え、商用交流電源より直流電源を生成して動作する場合に振動が発生する可動部を有し、当該可動部が前記制振対象物となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の制振制御システムおよび電気機器によれば、制振と電力回生の実施割合を連続的に調整して2つの制御を両立することで、振動を少なくし、さらに回生を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施例であり、リニアモータをベクトル制御する制御装置の電気的構成を示す機能ブロック図
【図2】リニアモータの構成を、一部を透過させて示す斜視図
【図3】電磁式サスペンションの構成を示す正面図
【図4】ドラム式洗濯乾燥機の縦断側面図
【図5】ドラム式洗濯乾燥機の一部を破断して示す斜視図
【図6】制振及び回生制御の電流位相を示す図
【図7】制振及び回生制御の実施割合を示す図
【図8】制振及び回生制御の実施割合の判定手段を示す図
【図9】洗濯機工程における電磁式サスペンションの制御構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施例)
以下、本発明の第1実施例について図1乃至図9を参照して説明する。本発明では、リニアモータを用いて電磁式サスペンションを構成する。図2は、リニアモータの構成を、一部を透過させて示す斜視図である。リニアモータ1は、シャフト2と、そのシャフト2にN極,S極が交互に並ぶように配置される永久磁石3(N,S)とで構成される可動子4と、内部にU,V,W相の巻線5を有し、直方体状の本体6を備えてなる固定子7とで構成されている。また、本体6には、可動子4の相対的な変位位置を出力する位置センサ8が配置されている。
【0012】
そして、図3乃至図5に示すように、本実施例では、リニアモータ1とスプリングとを組み合わせることで、ドラム式洗濯乾燥機(以下、単に洗濯機と称する場合がある)の水槽を支持するための電磁式サスペンション(アブソーバ)11を構成する。図3は、電磁式サスペンション11の構成を示す正面図である。洗濯機の底面側に配置される基部12には支持部材13が立設されており、その支持部材13が、リニアモータ1の固定子7を下方側より支持している。リニアモータ1のシャフト2の上端は、洗濯機の水槽14の一部であるシャフト固定部14aに固定されており、シャフト固定部14aと固定子7の上端側との間には、スプリング(弾性体)15が配置されている。したがって、電磁式サスペンション11が洗濯機に配置された状態では、固定子7が固定側となり、可動子4が可動側となっている。
【0013】
図4はドラム式洗濯乾燥機の縦断側面図であり、図5は、同一部を破断して示す斜視図である。ドラム式洗濯乾燥機(電機機器)21の外殻を形成する外箱22は、前面に円形状に開口する洗濯物出入口23を有しており、この洗濯物出入口23は、ドア24により開閉されるようになっている。外箱22の内部には、背面が閉鎖された有底円筒状の水槽14が配置されており、この水槽14の背面中央部には洗濯用モータとしての永久磁石モータ25の固定子がねじ止めにより固着されている。そして、水槽(制振対象物)14は、上述した電磁式サスペンション11により基部12上に支持されている。尚、電磁式サスペンション11は、実際には正面から見て水槽14の左右に2つ配置されているが、図示しているのは一方のみである。
【0014】
永久磁石モータ25の回転軸26は、後端部(図4では右側の端部)が永久磁石モータ25の回転子に固定されており、前端部(図4では左側の端部)が水槽14内に突出している。回転軸26の前端部には、背面が閉鎖された有底円筒状のドラム27が水槽14に対して同軸状となるように固定されており、このドラム27は、永久磁石モータ25の駆動により回転軸26と一体的に回転する。なお、ドラム27には、空気および水を流通可能な複数の流通孔28と、ドラム27内の洗濯物の掻き上げやほぐしを行うための複数のバッフル29が設けられている。
【0015】
水槽14には給水弁30が接続されており、当該給水弁30が開放されると、水槽14内に給水されるようになっている。また、水槽14には排水弁31を有する排水ホース32が接続されており、当該排水弁31が開放されると、水槽14内の水が排出されるようになっている。
【0016】
水槽14の下方には、前後方向へ延びる通風ダクト33が設けられている。この通風ダクト33の前端部は前部ダクト34を介して水槽14内に接続されており、後端部は後部ダクト35を介して水槽14内に接続されている。通風ダクト33の後端部には、送風ファン36が設けられており、この送風ファン36の送風作用により、水槽14内の空気が、矢印で示すように、前部ダクト34から通風ダクト33内に送られ、後部ダクト35を通して水槽14内に戻されるようになっている。
【0017】
通風ダクト33内部の前端側には蒸発器37が配置されており、後端側には凝縮器38が配置されている。これら蒸発器37および凝縮器38は、コンプレッサ39や図示しない絞り弁とともにヒートポンプ40を構成しており、通風ダクト33内を流れる空気が、蒸発器37により除湿され凝縮器38により加熱されて、水槽14内に循環されるようになっている。
【0018】
図1は、リニアモータ1をベクトル制御する制御装置(ベクトル演算手段)41の構成をブロック図で示したものである。ベクトル制御では、巻線5に流れる電流を、界磁である永久磁石3の磁束方向と、それに直交する方向とに分離してそれらを独立に調整し、磁束と発生トルクとを制御する。電流制御には、リニアモータ1の可動子4の移動ピッチを周期として回転する座標系、いわゆるd−q座標系で表わした電流値が用いられるが、d軸は永久磁石3の作る磁束方向であり、q軸はd軸に直交する方向である。巻線5に流れる電流のq軸成分であるq軸電流Iqはトルクを発生させる成分であり(トルク成分電流)、同d軸成分であるd軸電流Idは磁束を作る成分である(励磁または磁化成分電流)。
【0019】
電流センサ50(U,V,W)は、モータ1の各相(U相、V相、W相)に流れる電流Ia,Ib,Icを検出するセンサである。尚、電流センサ50(電流検出手段)に替えて、インバータ回路51(駆動回路)を構成する下アーム側のスイッチング素子とグランドとの間に3個のシャント抵抗を配置し、それらの端子電圧に基づいて電流を検出する構成としても良い。尚、電流センサ50は、実際にはインバータ回路51の出力端子とモータ1の巻線5との間に介挿されている。
【0020】
電流センサ50により検出された電流Ia,Ib,Icは、A/D変換器52によりA/D変換されて、電流変換部53において2相電流Iα、Iβに変換された後、更にd軸電流Id,q軸電流Iqに変換される。α,βは、モータ1の固定子7に固定された2軸座標系の座標軸である。電流変換部53における座標変換の計算には、後述する可動子4の位置(α軸とd軸との位相差,電気角)θeが用いられる。d軸電流Id,q軸電流Iqは、電流制御部54に与えられている。
【0021】
リニアモータ1の固定子7に配置されている位置センサ8が出力する位置信号は、A/D変換器52によりA/D変換されて、制御装置41の位置演算部(位相検出手段)55に与えられている。位置演算部55は、上記位置信号を可動子4の移動ピッチを周期とする位置θeに変換して、電流変換部53,後述する電圧変換部56に出力すると共に、制御装置41で取扱い可能な形態の距離信号θm(機械角)に変換して微分器(速度検出手段)57に出力する。微分器57は、距離信号θmを時間微分した(dθm/dt)速度信号vを、トルク制御部(回生)(q軸電流指令生成手段(回生))58に出力する。
【0022】
トルク制御部(回生)58は、洗濯乾燥機21のドラム27が回転することで水槽14に振動が発生した場合に、その振動に応じた可動子の速度に対して減衰ブレーキトルクを発生させるようにq軸電流指令を生成出力する。ここで、質量m[kg]の物体を、ばね乗数k[N/m]のスプリングと、減衰係数cのサスペンションとで並列に支持した振動系(1質点並列振動系)の一般的なモデルを想定する。変位量x[m]を与えた初期状態から、物体を自由減衰振動させた場合の運動方程式は、(1)式となる。
【0023】
m(dx/dt)+c(dx/dt)+kx=0 …(1)
電磁式サスペンション11の場合、スプリング15のばね乗数kを考慮して減衰係数cを決定する。そして、速度v(=dθm/dt)に対し、減衰係数cを逆極性で乗じることで減衰ブレーキトルクを与え、リニアモータ1のトルク定数Ktの逆数を乗じてトルク(q軸)電流指令(回生)Iqref(回生)を生成する。このトルク電流指令(回生)の電流位相は、減衰ブレーキトルクが最大となり、最も回生電力を得ることができるため、回生を主とする制御に使用する。
【0024】
電磁式サスペンション11の基部12に配置されている加速度センサ16が出力する加速度信号は、A/D変換器52によりA/D変換されて、制御装置41の制振・電力回生両立制御部42に与えられている。加速度信号aは、制振・電力回生両立制御部42の減算器59aにおいて、外部より与えられる目標加速度(ゼロ)との差が減算されて、偏差Δaが算出される。加速度偏差Δaは、トルク制御部(制振)44において比例積分演算され、トルク(q軸)電流指令(制振)Iqref(制振)を生成する。
【0025】
トルク制御部(制振)44は、洗濯乾燥機21のドラム27が回転することで水槽14に振動が発生した場合に、その振動が基部12に与える振動(加速度)に対して相殺トルクを発生させるようにq軸電流指令を生成出力する。このトルク電流指令(制振)の電流位相は、基部に対する振動相殺トルクが最大となり、最も制振を得ることができるため、制振を主とする制御に使用する。
【0026】
制振・回生実施割合調整手段43について図6乃至図9を参照して説明する。図6は、Iqref(制振)とIqref(回生)の位相関係をそれぞれ示したものであり、図6(a)は、制振を100%とした制御の場合のq軸電流指令Iqref(制振)を示し、図6(b)は、電力回生を100%とした制御の場合のq軸電流指令Iqref(回生)を示し、図6(c)は、制振・電力回生両立制御の場合のq軸電流指令る。制振を主とする制御では、Iqrefの位相は、基部12に与えられる加速度aの逆位相で与えられる。このとき、例えば、加速度a>0において、d−q軸の電流ベクトルは、d軸電流指令を0として、−q軸方向となる。
【0027】
電力回生を主とする制御では、Iqrefの位相は、モータの固定子7に取り付けられた位置センサ8が出力する位置信号に基づいて算出される可動子4の速度vの逆位相で与えられる。このとき、例えば、速度v>0において、d−q軸の電流ベクトルは、d軸電流指令をq軸電流指令と同極性(この場合はマイナス)として、第3象限方向となる。d軸電流の決定方法については後述する。
【0028】
ここで、制振と電力回生を両立する制御では、Iqrefの位相は、上述した2つの制御の電流指令Iqref(制振)とIqref(回生)の電流位相間に位置し、2つの電流指令を合成することで与えられる。制振・回生実施割合調整手段43は、例えば、図7に示すような線に基づいて、制御の実施割合を決定する係数P1、P2を変化させ、トルク制御部(制振)44、トルク制御部(回生)58に出力する。このP1とP2の値は、合計すると2つの制御の実施割合が「1」となるように設定され、例えば実験的に算出する。例えば、図7に示す線のうち、P1maxから上に凸の線とP2maxから下に凸の線は制振を主とする制御(図7中、二点鎖線)、P1maxから下に凸の線とP2maxから上に凸の線は電力回生を主とする制御(図7中、鎖線)の場合のゲイン設定を示す。また、P1max、P2maxの値は等しいとは限らない。制振・回生実施割合調整手段43は、外部より与えられる目標振動値と基部12の振動値(加速度)を比較して、前述する線に基づいて、制振及び電力回生の2つの制御の実施割合を決定する。図8に示すように、目標振動値>実振動値の場合は、制振と電力回生を両立して実施し、実振動値が目標振動値と一致するような実施割合の点で落ち着く。目標振動値<実振動値の場合は、制振を主とする制御のみを実施し、実振動値が目標振動値以下となるようにする。
【0029】
これを洗濯機工程に置き換え実施する場合には、図9に示すように制御を切り換える。洗い時は、上述する実施割合の判定方法に基づいてP1とP2の値を調整し、制振と電力回生を両立して、基部12が設置されている洗濯機筐体の振動を目標振動値まで低減させ、かつ、そのときに得られる最大の電力を電源に回生する。
【0030】
脱水時は、低速時、中速時、高速時の3パターンに電磁式サスペンション11の制御方法が分けられる。まず、脱水の低速時(起動時)は、洗濯槽の共振点が存在するため、洗濯槽の振動が大きくなる。これによって、図示しない洗濯槽の振動を検知する加速度センサの加速度信号が閾値を超え、脱水運転を停止してしまう場合がある。この起動不良を防止するため、電磁式サスペンション11には、強いダンパ力が求められる。洗濯槽の振動を低減するためには、電磁式サスペンション11は洗濯槽の振動を抑えるようにブレーキをかければよいので、電力回生を主とする回生ブレーキ制御(電力回生)を実施する。すなわち、P2の割合をより大きくとった制御を行う。ただし、筐体の振動低減も同時に図るため、例えば、洗濯槽の共振点付近(つまり、図示しない洗濯槽の加速度センサの加速度信号が閾値を超えそうな場合)のみ電力回生制御とし、それ以外の区間は上述する実施割合の判定方法に基づいて、制振と電力回生を両立する。また、脱水の起動時などダンパ力を強くする必要がある場合に、電磁式サスペンションの制御は、回生ブレーキの代わりに、スイッチング素子を三相ブリッジ接続して構成されるインバータ回路の下アームのみオンさせる短絡ブレーキとする、もしくは可動子4が変位しないよう巻線5に直流を励磁して可動子4を固定子7に対して固定しても良い。
【0031】
脱水の中速時は、洗い時と同様の制御を実施する。最後に、脱水の高速時を説明する。このモードでは、洗濯乾燥機21のドラム27が回転することで水槽14に発生する振動の周波数が高くなり、電磁式サスペンション11に取り付けられたスプリング15によって吸収され、筐体の振動値は目標振動値以下となる。つまり、制振制御を実施する必要がないため、電力回生を主とする制御のみを実施する。ただし、回生ブレーキによって振動値が目標振動値を超える場合には、制振・回生両立制御を実施する。また、脱水の高速時に、電磁式サスペンション11は、弱いダンパ力が求められており、振動によって変位される可動子は制御を実施せずフリーに可動させ、電力を回生しても良い。
【0032】
上記のように、洗濯機工程によって連続的に電磁式サスペンション11の制御を切り換えることで、全工程において筐体の振動を目標値まで低減させ、そのときに回生可能な電力を最も得ることができる。
【0033】
ここで、インバータ回路51に駆動用直流電源を供給する直流電源回路62が、洗濯用モータ(動力用モータ)25もしくはコンプレッサ39を駆動するインバータ回路(駆動回路)63に対しても共通に電源を供給するように構成されている。このため、電磁式サスペンション11で発生した電力は、インバータ回路51を介して、直流電源回路62に回生させることができ、洗濯機システムとして消費電力の低減を図ることができる。また、この回生電力は、図示しない別の直流電源回路に貯蔵するなどして利用することもできる。
【0034】
また、制振・回生実施割合調整手段43は、直流電源回路62より供給される直流電源電圧が変動するのに応じて、2つの制御の実施割合を可変設定するように構成されている。具体的には、直流電源電圧が低下するのに応じて回生制御の割合を増加させる。すなわち、水槽14に振動が加わった場合にリニアモータ1が制振動作しなければ、その分、リニアモータ1において回生電力が発生し、その電力はインバータ回路51を介して直流電源回路62側に回生される。
【0035】
したがって、直流電源電圧が低下している場合には回生制御の実施割合を大きくして、電磁式サスペンション11によるアクティブな振動減衰作用を抑制し、直流電源回路62側に回生させる電力量をより大きくする。それにより、電圧低下の補償を優先させることも可能である。
【0036】
以上のように、洗濯用モータ25をインバータ回路63を介して駆動する場合に、インバータ回路51,63に対して、電源回路62より直流電源を共通に供給し、制振・回生実施割合調整手段43は、直流電源電圧が低下するのに応じてq軸電流指令Iqrefの位相を回生制御よりにシフトさせる。したがって、電源電圧が低下した場合には、リニアモータ1が発生した電力を、直流電源回路62側により多く回生させるようにして、電圧低下を補償することができる。
【0037】
制振・電力回生両立制御部42において、トルク電流指令(制振)及びトルク電流指令(回生)は、加算器45によって加算されて、トルク電流指令Iqrefが算出される。制御装置41の電圧検出部49は、上記直流電源の電圧を検出し、検出結果をA/D変換器52に出力する。q軸電流指令制限手段46は、通常の電流指令制限に加えて、A/D変換器52によりA/D変換されて与えられる電源電圧に応じてq軸電流指令を制限する。回生電力によって上昇する電源電圧が、外部より与えられる目標電源電圧を超えた場合にq軸電流指令を制限する。
【0038】
トルク電流指令Iqrefは、電流制御部54に出力される。また、制振を主とする制御では、基本的にリニアモータ1は全界磁運転させるため、励磁電流指令Idrefは「0」を与える。回生を実施する制御では、d軸電流指令決定手段47によって決定される励磁電流指令を与える。d軸電流指令決定手段47は、外部より与えられる回生電流指令Idqbrkとトルク電流指令Iqrefに基づいて次式を使用してd軸電流指令Idrefを決定する。
【0039】
Idqbrk=√(Idref+Iqref) …(2)
ここで、d軸電流指令の極性は、q軸電流指令と同極性である。回生電流指令Idqbrkは、例えば実験的に求める。回生電流指令を大きくすればブレーキ力は大きくなり、小さくすればブレーキ力は小さくなる。
【0040】
これらd−q軸電流指令は、電流制御部54の減算器59q,59dにおいて、電流変換部53より出力されるd軸電流Id,q軸電流Iqとの差が演算されて、偏差ΔIq,ΔId が算出される。電流偏差ΔIq,ΔIdは、比例積分器60q,60dにおいて比例積分演算され、d−q座標系で表わされた電圧指令Vq,Vdが算出される。
【0041】
電圧指令Vq,Vdは、電圧変換部56によりα−β座標系で表わした値に変換され、更にαβ/abc座標系で表わした各相電圧指令Va,Vb,Vcに変換される。各相電圧指令Va,Vb,Vcは電圧出力部61に入力され、直流電源電圧に基づいて、指令値に一致する電圧を供給するためのパルス幅変調(PWM)されたゲート駆動信号が形成される。
【0042】
インバータ回路51は例えばIGBTなどのスイッチング素子を三相ブリッジ接続して構成され、直流電源回路62より直流電源電圧が供給される。
【0043】
電圧出力部61で形成されたゲート駆動信号(上アーム:u,v,w/下アーム:x,y,z)は、インバータ回路51を構成する各スイッチング素子のゲートに与えられ、それにより各相電圧指令Va,Vb,Vcに一致する、PWM変調された三相交流電圧が生成されてリニアモータ1の巻線5に印加される。
【0044】
上記の構成において、減算器59q,59dと比例積分器60q,60dとで、比例積分(PI)演算による電流ループのフィードバック制御が行なわれ、d軸電流Id、q軸電流Iqは,それぞれd軸電流指令Idref、q軸電流指令Iqrefに一致するように制御される。
【0045】
次に、本実施例の作用について説明する。洗濯乾燥機21において洗濯運転が行われる場合、洗濯用モータ25によりドラム27が回転駆動されると水槽14に振動が発生する。すると、その振動によって電磁式サスペンション11の可動子4側が変位し、相対的な変位量が位置センサ8により検出され、位置信号として制御装置41に出力される。
【0046】
制御装置41では、上述したように、位置信号に基づく速度vから、水槽14の振動を回生させるブレーキトルクが演算されてq軸電流指令(回生)Iqref(回生)が出力され、基部12に取り付けられた加速度センサ信号に基づく加速度偏差Δaから、水槽14の振動を減衰させる相殺トルクが演算されてq軸電流指令(制振)Iqref(制振)が出力される。これらを出力するトルク制御部は、制振・回生実施割合調整手段43によって、実施割合を調整される。そして、q軸電流指令(制振)とq軸電流指令(回生)を加算したq軸電流指令Iqrefと、d軸電流指令決定手段47によって出力されたd軸電流指令Idrefに基づき電流ループのフィードバック制御が行なわれ、また、位置信号に基づき得られる電気角θeによりベクトル演算が行われq軸電流Iq及びd軸電流Idが制御され、インバータ回路51を介してリニアモータ1が駆動される。その結果、リニアモータ1が発生するブレーキトルク及び振動を減衰する相殺トルクを合成したトルクによって、水槽14に発生した振動が減衰し、電力を回生する。
【0047】
以上のように本実施例によれば、洗濯機21の基部12と水槽14との間に、リニアモータ1とスプリング15とを組み合わせてなる電磁式サスペンション11を配置し、リニアモータ1の固定子7側に位置センサ8を配置する。そして、制御装置41は、位置演算部55により位置センサ8より出力される位置信号に基づいて位置θeを検出し、微分器57により速度v(=dθm/dt)を検出すると、位置θe及び速度v及び加速度aとモータ電流Ia,Ib,Icとに基づいてリニアモータ1をベクトル制御して、洗濯運転時に水槽14について生じる振動を抑制し、電力回生するようにした。
【0048】
すなわち、トルク制御部(制振)44、トルク制御部(回生)58により、振動を回生するブレーキトルク及び振動を減衰する相殺トルクを合成したトルクを付与するようにリニアモータ1のトルク電流Iqを制御することで、急峻に変化する振動を高精度に目標値に抑制し、その上で電力回生をすることが可能となる。この場合、トルク制御部(制振)44は、基部12の加速度aに反比例させてq軸電流指令Iqrefを生成するので、電磁式サスペンション11について設定した減衰係数cを作用させて振動を減衰させることができ、トルク制御部(回生)58は、可動子4の相対速度vに反比例させてq軸電流指令Iqrefを生成するので、ブレーキトルクを掛け、振動を回生させることができる。
【0049】
また、本発明の制振制御システムを、商用交流電源より直流電源を生成してモータ25を動作させ、ドラム27を回転駆動させる洗濯乾燥機21に適用したので、洗濯乾燥機21を、低振動且つ低騒音で動作させ、振動を電力として回生することが可能となる。
【0050】
本発明は上記し又は図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
【0051】
リニアモータの可動子を固定側として、固定子を可動側として電磁式アクチュエータを構成しても良いことは勿論である。
【0052】
リニアモータの電流は、必ずしも3相全てを電流センサ等により検出する必要はなく、何れか2相のみ検出し、残りの1相は演算で求めても良い。
【0053】
弾性体はスプリング15に限ることなく、固定側に対して制振対象物を弾性的に支持する構造であればどのようなものでも良い。
【0054】
電気機器は洗濯機に限ることなく、商用交流電源より直流電源を生成して動作する場合に振動が発生する可動部を有しているものであれば適用が可能である。
【0055】
また、第1実施例に記載した洗濯機に限ることなく、例えば車両用のショックアブソーバや、精密機器を台車等に乗せて搬送する場合に振動を抑制するために配置されるサスペンション等にも適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1…リニアモータ、3…永久磁石、4…可動子、5…巻線、7…固定子、8…位置センサ、11…電磁式サスペンション、12…基部、14…水槽(制振対象物)、15…スプリング(弾性体)、21…ドラム式洗濯乾燥機(電機機器)、25…永久磁石モータ(動力用モータ)、41…制御装置、44…トルク制御部(制振)(q軸電流指令生成手段(制振))、50…電流センサ(電流検出手段)、51…インバータ回路(駆動回路)、55…位置演算部(位相検出手段)、57…微分器(速度検出手段)、58…トルク制御部(回生)(q軸電流指令生成手段(回生))、62…直流電源回路、63…インバータ回路(駆動回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制振対象物と基部との間に配置され、固定側に対して制振対象物を弾性的に支持する弾性体と、
3相巻線を備える固定子と、永久磁石を備える可動子とを有し、前記固定子と前記可動子との何れか一方が前記制振対象物に固定され、他方が前記基部に固定されるリニアモータと、
前記巻線に通電される電流を検出する電流検出手段と、
前記可動子の相対位置を検出し、位置信号を出力する位置センサと、
この位置信号に基づいて前記可動子の速度を検出し、速度信号を出力する速度検出手段と、
前記制振対象物の加速度を検出し、加速度信号を出力する加速度センサとを備え、
前期電流検出手段により検出される電流と前記位置信号と前記速度と前記加速度とに基づいて前記リニアモータをベクトル制御することで、前記制振対象物について生じる振動を抑制し、
前記巻線に通電される電流の位相を調整することで、前記リニアモータにより電源に電力を回生し、
前記制振対象物の振動値が、目標振動値に到達していない場合は、制振を主とする制御を実施し、
到達している場合は、制振と電力回生を両立する制御を実施し、
前記リニアモータが制御を実施しない状態で前記制振対象物の振動値が目標振動値以下となる場合は、回生を主とする制御を実施することで、
制振制御及び電力回生制御の実施割合を調整する制御装置とで構成されることを特徴とする制振制御システム。
【請求項2】
前記基部が設置されている側より振動を受ける場合、
前記制御装置は、
外部より与えられる前記制振対象物の目標加速度信号と、前記加速度信号との差分に基づいて、リニアモータの推力となるq軸電流指令を生成出力する電流指令生成出力手段を有し、
前記制振対象物の加速度が前記目標加速度に一致するように制御することを特徴とする請求項1記載の制振制御システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記加速度信号と、前記速度信号とに基づいて、q軸電流指令を生成する制振・回生割合調整手段を備えることを特徴とする請求項1又は2記載の制振制御システム。
【請求項4】
前記制振・回生調整手段は、前記速度に基づき演算される第1q軸電流指令と、前記加速度に基づき演算される第2q軸電流指令とを、割合を調整し、合成してq軸電流指令を生成することを特徴とする請求項3記載の制振制御システム。
【請求項5】
動力用モータと、この動力用モータに通電を行い駆動する駆動回路とを備え、前記動力用モータが前記制振対象物に対する振動の発生源となる場合、
前記駆動回路に供給される直流電源と、前記リニアモータに通電を行い駆動する駆動回路に供給される直流電源とが共通化されていることを特徴とする請求項2ないし請求項4の何れかに記載の制振制御システム。
【請求項6】
前記制御装置は、外部より与えられる前記駆動回路の目標電源電圧を電力回生時に前記直流電源の電圧が超えないように、前記q軸電流指令を制限する電流指令制限手段を有することを特徴とする請求項5記載の制振制御システム。
【請求項7】
前記制御装置は、回生時に外部より与えられる回生電流指令と、前記q軸電流指令との関係から電流位相を調整するd軸電流指令を決定することを特徴とする請求項6記載の制振制御システム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記制振対象物が共振している場合は、回生を主とする制御を実施することを特徴とする請求項1ないし請求項7の何れかに記載の制振制御システム。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載の制振制御システムを備え、
商用交流電源より直流電源を生成して動作する場合に振動が発生する可動部を有し、当該可動部が前記制振対象物となることを特徴とする電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−106571(P2011−106571A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262109(P2009−262109)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】