説明

制震架構

【課題】鉄骨柱と鉄骨梁とを簡易な構造で接合でき、しかも制震要素も合理的に設置し得る有効適切な構造の制震架構を提供する。
【解決手段】鉄骨柱1と鉄骨梁2と半剛接接合により接合し、その接合部に、所定軸力を受けると塑性変形してエネルギー吸収機能を発揮する制震要素と、該制震要素が塑性変形しても弾性変形範囲に留まって耐力を発揮する耐震要素とを併せ持つ対震ブレース3を接合する。鉄骨柱をH形鋼もしくはボックス鋼からなるものとし、鉄骨梁をH形鋼からなるものとし、鉄骨梁のフランジを鉄骨柱にダイヤフラムを介することなくスプリットティまたはアングルからなる接合部材4を介してボルト締結により接合し、該接合部に対して対震ブレースを接合部材を介してボルト締結により接合する。対震ブレースの軸力の作用線が鉄骨柱と鉄骨梁との接合部の中心を通るように対震ブレースの接合位置を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物の架構に関わり、特に鉄骨柱と鉄骨梁と対震ブレースとによる制震架構に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、鉄骨柱と鉄骨梁とを主体とする鉄骨造の建物における構造形式は純ラーメン構造とされることが最も一般的である。
その場合、鉄骨柱と鉄骨梁とによる架構はそれらを完全剛接合することで構成され、したがってそれらの接合は溶接により行うか、あるいは鉄骨梁としてのH形鋼の上下のフランジおよびウェブの全てを多数の高力ボルトによって鉄骨柱に対してボルト締結することにより行う必要がある。また、いずれにしても接合部の剛性を確保するために鉄骨柱にはダイヤフラムを設ける必要もある。したがって、従来一般の鉄骨造純ラーメン構造による架構の施工に際しては、鉄骨の製作とその接合作業の双方に多大のコストと手間を要することが不可避であった。
【0003】
そのため、たとえば特許文献1に示されているように、鉄骨造の架構内に高剛性のブレースを組み込むことによって架構全体を高剛性化し、それにより鉄骨柱と鉄骨梁との接合形式を簡略化して半剛接接合とすることを可能とし、かつ鉄骨柱におけるダイヤフラムも省略可能とする耐震構造が提案されている。
【特許文献1】特開2002−146905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように鉄骨造の架構に高剛性のブレースを組み込む耐震構造によれば、架構全体の剛性を確保しつつ柱梁接合部の簡略化を図ることが可能であるので施工上およびコスト上での利点は得られるものの、そのような構造では近年の建物に要求される制震機能は期待できず、その点では改善の余地が残されているものである。
なお、上記のように鉄骨造の架構にブレースを組み込んで高剛性化したうえで、さらに制震機能を持たせる目的で各種のダンパーを組み込むことも考えられるが、そのようにブレースとダンパーを二重に組み込むことは架構全体が徒に複雑化するばかりでなく、それらの設置スペースを確保しなければならず、当然にコスト的にも負担が大きく、現実的ではない。
勿論、単にダンパーのみを組み込んでブレースを省略することは、従前の構造と同様に鉄骨柱と鉄骨梁のみで架構全体の剛性を確保する必要があるからそれらを完全剛接合する必要があるし、鉄骨柱にダイヤフラムを設けることも不可欠であるから、制震効果は得られるにしたところで何ら問題の解決にならない。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は鉄骨柱と鉄骨梁とを簡易な構造で接合でき、しかも制震要素も合理的に設置し得る有効適切な構造の制震架構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の制震架構は、鉄骨柱と鉄骨梁との接合形式が半剛接接合とされる架構に対して、所定軸力を受けると塑性変形してエネルギー吸収機能を発揮する制震要素と、該制震要素が塑性変形しても弾性変形範囲に留まって耐力を発揮する耐震要素とを併せ持つ対震ブレースを組み込んでなることを特徴とする。
【0007】
本発明の制震架構においては、前記鉄骨柱をH形鋼もしくはボックス鋼からなるものとし、前記鉄骨梁をH形鋼からなるものとし、前記鉄骨柱に対して前記鉄骨梁のフランジをダイヤフラムを介することなくスプリットティまたはアングルからなる接合部材を介してボルト締結により接合し、該接合部に対して前記対震ブレースを接合部材を介してボルト締結により接合することが良い。
また、前記対震ブレースの軸力の作用線が前記鉄骨柱と前記鉄骨梁との接合部の中心を通るように、該接合部に対する前記対震ブレースの接合位置を設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の制震架構によれば、鉄骨柱に対して鉄骨梁を半剛接接合の形式で接合するので、それらを完全剛接合する場合に比べて柱梁接合部の構造を大幅に簡略化でき、かつ鉄骨柱にはダイヤフラムを省略できることから、鉄骨製作および接合作業の双方を大きく合理化することができることはもとより、その接合部に対して対震ブレースを接合することにより架構全体の剛性低下を補償して所望の剛性を支障なく確保することができる。
しかも、対震ブレースは耐震要素のみならず制震要素も併せ持つものであるから、この対震ブレースを設置することのみで他にダンパー等の格別の制震要素を設置することなく所望の制震効果を併せて得られるものであり、したがって当然に格別のダンパーを設置するための手間と費用、設置スペースを確保する必要もなく、優れた耐震効果と制震効果が得られて極めて有効であり合理的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1〜図4を参照して本発明の制震架構の実施形態を説明する。
図1は本実施形態の制震架構の全体概略構成を示すもので、これは鉄骨柱1と鉄骨梁2とを主体とする鉄骨造の架構に対して対震ブレース3を組み込むことを主眼としている。
図示例では地上9階建ての3スパンからなる建物を対象として、その架構の中央スパンにのみ一対2本の対震ブレース3を「ハ」状に配置した場合の例を模式的に示したものであるが、建物全体の規模や架構の形態、対震ブレース3の配置位置や配置形態は、要求される耐震性能および制震性能に応じて設計すれば良い。
【0010】
本実施形態においては、図2に示すように鉄骨柱1および鉄骨梁2はいずれもH形鋼からなるものとされ、かつ鉄骨梁2は鉄骨柱1に対して半剛接接合の形式で接合されたものとなっている。
すなわち、鉄骨柱1のフランジおよびウェブには接合部材4としてのスプリットティがそれぞれ直接密着せしめられて高力ボルトによりボルト締結され、その接合部材4に対して、鉄骨梁2の上下のフランジが高力ボルトによりボルト締結されているに留められていて、通常の完全剛接合による場合のように鉄骨梁2のウェブは鉄骨柱1に対しては接合されておらず、また完全剛接合による場合には鉄骨柱1に設けることが不可欠とされるダイヤフラムも省略されたものとなっている。
【0011】
その上で、本実施形態では上記の接合部に対して対震ブレース3(3A,3B)が接合部材5を介して接合され、半剛接接合とされることによる剛性低下をその対震ブレース3によって補償して架構全体に所望の剛性を確保し、かつその対震ブレース3により所望の制震効果が得られるものとなっている。
【0012】
本実施形態における対震ブレース3は、所定軸力を受けると塑性変形してエネルギー吸収機能を発揮する制震要素と、その制震要素が塑性変形しても弾性変形範囲に留まって耐力を発揮する耐震要素とを併せ持つものである。
なお、「対震」とは「耐震」および「制震」の双方を包括する概念であって、本実施形態における「対震ブレース」とは、容易に降伏せずに優れた耐力を発揮する「耐震ブレース」としての機能と、早期に降伏してダンパー効果を発揮する「制震ブレース(ブレースダンパー)」としての機能を併せ持つ構造要素であり、具体的には図3あるいは図4に示す構成のものが好適に採用可能である。
【0013】
図3に示す対震ブレース3Aは特開2007−191987号公報に開示されているものであって、これは、帯板状の心材11と、それに外装されて心材11の面外座屈を拘束する拘束部材12からなるものである。
心材11は降伏変位が異なる複数の鋼板が積層されたものであり、図示例のものは耐震要素として機能する中央の1枚の第一の鋼板11aと、それよりも早期に降伏することによって制震要素として機能する両側2枚の第二の鋼板11bから構成されている。
具体的には、中央の1枚の第一の鋼板11aは中小地震時に受ける程度の軸力では降伏せずに弾性変形領域に留まって耐力を発揮するものとされ、これにより架構全体の剛性は充分に確保されるものとなっている。一方、第一の鋼板11aの両側に積層されている2枚の第二の鋼板11bは、中小地震時に受ける程度の軸力で降伏して塑性変形して鋼材ダンパーとして機能するものであり、これにより中小規模の地震においても架構全体の振動エネルギーが効果的に吸収されて優れた制震効果が得られるものとなっている。
【0014】
図4に示す対震ブレース3Bは特開2007−191988号公報に開示されているものであって、これは耐震要素としての帯板状の芯材13と、その両面側に配置された制震要素としての粘弾性ダンパー14と、それらに外装された拘束部材12(上記の対震ブレース3Aにおける拘束部材12と同様のもの)からなる。
心材13は上記の対震ブレース3Aにおける第一の鋼板11aと同様に中小地震時に受ける程度の軸力では降伏せずに弾性変形領域に留まって耐力を発揮するものである。粘弾性ダンパー14は、心材13に一体に積層された鋼板14aと拘束部材12との間に介装された粘弾性体14bからなり、鋼材14aが心材13とともに変形した際に粘弾性体14bが塑性変形を受けてダンパー効果を発揮するものである。
【0015】
なお、図3に示した対震ブレース3A、および図4に示した対震ブレース3Bのいずれにおいても、拘束部材12は背中合わせ状態で組み合わせられる対の溝形鋼21と、それら溝形鋼21のフランジどうしを連結する対のカバープレート22から構成されて、それらが全体としてH形に組み立てられるものであり、溝形鋼21の要所には補剛用のリブプレート23が溶接されたものとされている。
そして、図3に示した対震ブレース3Aにおいては、拘束部材12の内側に上記の心材11をゴムパッキン24を介して収納することによって心材11の軸方向変形を許容しつつその面外座屈を拘束可能とされ、図4に示した対震ブレース3Bも拘束部材12の内側に心材13および粘弾性ダンパー14を軸方向に変形可能に収納してそれら全体の面外座屈を防止可能とされている。
【0016】
また、対震ブレース3Aにおける制震要素としての第二の鋼板11b、および対震ブレース3Bにおける耐震要素としての心材13には、いずれも中央部に括れ部25が形成されることによってそれらの剛性と降伏変位が適切に調整可能とされている。さらに、対震ブレース3Aにおける耐震要素としての第一の鋼板11a、対震ブレース3Bにおける耐震要素としての心材13の両端部は、いずれもリブプレート26が溶接されて十字形断面とされており、そこにはこれら対震ブレース3(3A,3B)を架構に対してボルト締結により接合するための多数のボルト孔が形成されている。
【0017】
既に述べたように、対震ブレース3は架構の要所に配置されてそれらの一端が鉄骨柱1と鉄骨梁2との接合部に対して接合部材5を介してボルト締結されるものであるが、その際、対震ブレース3の軸力の作用線が鉄骨柱1と鉄骨梁2との接合部の中心を通るように、つまり図2(a)に示すように鉄骨柱1と鉄骨梁2と対震ブレース3の中心軸線が1点で交わるように、柱梁接合部に対する対震ブレース3の接合位置を厳密に設定することが好ましい。
また、対震ブレース3を柱梁接合部に接合するための接合部材5は、鉄骨梁2を鉄骨柱1に対して接合するための接合部材4であるスプリットティに溶接された十字形断面のものであって、この接合部材5に対して対震ブレース3における耐震要素(すなわち対震ブレース3Aにおける第一の鋼板11a、あるいは対震ブレース3Bにおける心材13)がスプライスプレートを介して高力ボルトによりボルト締結すれば良い。
なお、本実施形態のように2本の対震ブレース3を架構内にハ状に配置するような場合においては、対震ブレース3の他端部を鉄骨梁2の中央部に対して適宜の接合部材を介してボルト締結すれば良いが、一般的には対震ブレース3の他端部も上記と同様の構造で柱梁接合部に対して接合すれば良い。
【0018】
本実施形態の制震架構によれば、鉄骨柱1に対して鉄骨梁2のフランジのみをボルト締結することでそれらの接合形式を半剛接接合とするので、それらを完全剛接合する場合に比べて接合部の構造を大幅に簡略化でき、かつ鉄骨柱1にはダイヤフラムを省略できることから、鉄骨製作および接合作業の双方を大きく合理化することができる。
そして、その上で接合部に対して対震ブレース3を接合するので、接合部が半剛接接合とされることによる架構の剛性低下が対震ブレース3によって補償されて架構全体に所望の剛性を支障なく確保することができる。
しかも、その対震ブレース3は耐震要素のみならず制震要素も併せ持つものであるから、この対震ブレース3を設置することのみで所望の制震効果も併せて得られるものであり、他にダンパー等の格別の制震要素を設置することなく、したがってそのための手間と費用、設置スペースを確保する必要もなく、極めて合理的であって有効である。
その観点からは、本発明の制震架構は従来一般の単なる制震架構とも先行文献1に示されるような耐震架構とも異なるものであって、上述したように「制震」と「耐震」とを包括する概念である「対震」機能を有する対震架構というべきものであるといえる。
【0019】
なお、上記実施形態では鉄骨柱1と鉄骨梁2とを半剛接接合するために接合部材4としてのスプリットティを使用して鉄骨梁2のフランジのみをボルト締結することとしたが、接合部材4としてはスプリットティに代えてアングルを使用することも可能であるし、要は、柱梁接合部に対して対震ブレース3を接合することを前提として鉄骨柱1と鉄骨梁2との接合形式を構造的に半剛接接合とすれば良いのであって、その限りにおいて半剛接接合の具体的な構造やそれに使用する接合部材4については任意であるし、鉄骨柱1をH形鋼に代えてボックス鋼とすることも勿論可能である。
また、上記実施形態では対震ブレース3として好適な2種の構成例を例示したが、対震ブレース3としては架構に要求される所望の耐震機能を発揮し得る耐震要素と、所望の制震機能を発揮し得る制震要素を併せ持つものであれば良く、その限りにおいて対震ブレース3の具体的な構成や形式は上記実施形態に例示したものに限定されることなく任意である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態である制震架構の概要を示す図である。
【図2】同、鉄骨柱と鉄骨梁との接合部の構造を示す図(図1におけるII部の詳細図)である。
【図3】同、対震ブレースの一例を示す図である。
【図4】同、対震ブレースの他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
1 鉄骨柱
2 鉄骨梁
3(3A,3B) 対震ブレース
4 接合部材(スプリットティ)
5 接合部材
11 心材
11a 第一の鋼板(耐震要素)
11b 第二の鋼板(制震要素)
12 拘束部材
13 心材(耐震要素)
14 粘弾性ダンパー(制震要素)
14a 鋼板
14b 粘弾性体
21 溝形鋼
22 カバープレート
23 リブプレート
24 ゴムパッキン
25 括れ部
26 リブプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱と鉄骨梁との接合形式が半剛接接合とされる架構に対して、所定軸力を受けると塑性変形してエネルギー吸収機能を発揮する制震要素と、該制震要素が塑性変形しても弾性変形範囲に留まって耐力を発揮する耐震要素とを併せ持つ対震ブレースを組み込んでなることを特徴とする制震架構。
【請求項2】
請求項1記載の制震架構であって、前記鉄骨柱はH形鋼もしくはボックス鋼からなるとともに前記鉄骨梁はH形鋼からなり、前記鉄骨柱に対して前記鉄骨梁のフランジをダイヤフラムを介することなくスプリットティまたはアングルからなる接合部材を介してボルト締結により接合し、該接合部に対して前記対震ブレースを接合部材を介してボルト締結により接合してなることを特徴とする制震架構。
【請求項3】
請求項1または2記載の制震架構であって、前記対震ブレースの軸力の作用線が前記鉄骨柱と前記鉄骨梁との接合部の中心を通るように、該接合部に対する前記対震ブレースの接合位置を設定してなることを特徴とする制震架構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−161937(P2009−161937A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−340101(P2007−340101)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】