説明

前駆体組成物及び方法

【課題】前駆体組成物及び方法の提供。
【解決手段】アミド基含有蒸着前駆体及び安定化添加剤を含有する組成物が提供される。このような組成物は、アミド基含有蒸着前駆体自体と比較したとき、改良された熱安定性及び増加した揮発度を有する。これらの組成物は、例えば、原子層堆積による薄膜の堆積において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、蒸着前駆体組成物及び薄膜の蒸着におけるそれらの使用の分野に関する。特に、本発明は、薄膜の蒸着のための前駆体として有用なアミド基含有化合物の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
原子層堆積(「ALD」)プロセスにおいて、共形薄膜が、2種以上の化学反応物質の交互蒸気に表面を暴露することによって堆積される。第一前駆体(また、有機金属化合物、供給源又は反応物質とも称される)からの蒸気が、その上に所望の薄膜が堆積されるべき表面に運ばれる。次いで、未反応の蒸気は、真空下で系から除去される。次に、第二前駆体からの蒸気が、この表面に運ばれ、第一前駆体と反応させられ、過剰の第二前駆体蒸気は除去される。ALDプロセスにおけるそれぞれの工程では、典型的に、所望の膜の単分子層が堆積する。この工程順序が、所望の膜厚さが得られるまで繰り返される。一般的に、ALDプロセスは、例えば200〜400℃のような低い温度で実施される。正確な温度範囲は、堆積されるべき個々の膜並びに使用される個々の前駆体に依存する。ALDプロセスは、純粋な金属並びに金属酸化物、金属窒化物、金属炭窒化物及び金属ケイ化窒化物を堆積させるために使用されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ALD前駆体は、適当な時間内に基体表面上に単分子層を堆積させるために、反応器内の前駆体蒸気の十分な濃度を確保するために、十分に揮発性でなくてはならない。また、この前駆体は、時期尚早の分解及び望ましくない副反応無しに蒸発されるために十分に安定でなくてはならないが、また、基体上に所望の膜を形成するために十分に反応性でなくてはならない。揮発度、表面反応性及び熱安定性特性のこのような要求されるバランスを有する好適なALD前駆体が、全体的に不足している。
【0004】
金属−酸素結合を含有する前駆体化合物、例えば、金属アルコキシド及び金属β−ジケトナートが、必要な熱安定性を与えるために使用されてきたが、このような前駆体化合物は不十分な揮発度を有し、かつALDプロセスにおいて比較的高い温度を必要とする。金属−窒素結合を有する前駆体、特に金属ジアルキルアミド及び金属アミジナートは、ALDプロセスにおいて使用するための有望な候補として考えられてきた。アルキルアミド前駆体は、アルキルアミドリガンドが、前駆体分子が接近して、前駆体化合物の金属中心と相互作用するのを効率的に防止するので、高い揮発度を有する傾向がある。にもかかわらず、アルキルアミド前駆体は、ALDプロセスでそれらを使用するために必要なものよりも低い熱安定性を有する。他方、アミジナート前駆体は、アミジナトリガンドのキレート化効果のために、熱的に一層安定である傾向があるが、ALD用途で実際に使用するためには比較的低い揮発度を有する傾向がある。或る種の一般的なALDプロセスでは、所望の前駆体化合物が、一般的に、好適な有機溶媒の中に溶解される、直接液体注入プロセスが利用される。しかしながら、蒸発プロセスの間の粒子発生を回避するために、前駆体の揮発度と一致している溶媒を選択することは困難である。ときには、所望のALD前駆体は、直接液体注入プロセスにおいて実際に使用するものであるこのような溶媒中で、不十分に溶解性である。
【0005】
従って、「ゴルディロックス効果(Goldilocks effect)」を有する適切な供給源、即ち、かなり揮発性であり、好ましくはこれらは、著しく大きい熱安定性(従来のジアルキルアミド供給源に比較したとき)を有する液体又は容易に液化可能な低融点固体であり、かつALD必要条件に適合し、並びに高い均一性の物であり、実質的に炭素を含有せず、及び粒子を含有しない膜を製造するように、十分に有機溶媒可溶性である供給源に対する要求が、依然として存在している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、遷移金属、リン、アンチモン及びヒ素から選択される金属又はメタロイドを含有するアミド基含有蒸着前駆体、並びに電子を金属又はメタロイドと共有することができる安定化添加化合物を含む、薄膜の蒸気相堆積のための組成物であって、安定化添加化合物が、蒸着前駆体に基づいて0.01〜3モル当量の量で存在する組成物を提供する。このような組成物は、対応するアミド基含有前駆体自体と比較したとき、より大きい揮発度と共に、より高い熱安定性を有する。本発明は、更に、上記の組成物を含有する蒸気デリバリーシリンダーを提供する。
【0007】
また、本発明によって、アミド基含有蒸着前駆体を安定化添加化合物と組み合わせること;蒸着前駆体及び安定化添加物の組合せを加熱すること;及び蒸着前駆体と安定化添加物とを混合して、混合物を形成すること;を含む、上記の組成物の製造方法が提供される。
【0008】
本発明は、更に、蒸着反応器チャンバー内に基体を提供すること;第一前駆体として、上記の組成物を移送すること;アミド基含有蒸着前駆体を、基体の表面上に化学吸着させること;反応器から、化学吸着されなかったアミド基含有蒸着前駆体を除去すること;第二前駆体を気体形態で反応器に移送すること;第一前駆体と第二前駆体とを反応させて、基体上に膜を形成させること;及び未反応の第二前駆体を除去することを含む、薄膜の堆積方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書を通して使用されるとき、下記の略語は、文脈が他を明瞭に示していない限り、下記の意味を有するものとする。℃=摂氏温度;g=グラム;mL=ミリリットル;Me=メチル;Et=エチル;i−Pr=イソプロピル;n−Bu=n−ブチル;s−Bu=sec−ブチル;t−Bu=tert−ブチル;t−Am=tert−アミル;DAA=ジ(シリル置換アルキル)アミノ、ジシリルアミノ又はジ(アルキル置換シリル)アミノを含む、ジアルキルアミノ;EMA=エチルメチルアミド;Cp=シクロペンタジエニル;MeCp=メチルシクロペンタジエニル;EtCp=エチルシクロペンタジエニル;CDI=N,N’−ジ−イソプロピルカルボジイミド;CO=一酸化炭素;Bz=ベンゼン;AMD=アミジナト;FAMD=ホルムアミジナト;PAMD=ホスホアミジナト;DMA=ジメチルアミド;TMG=テトラメチルグアニジナト;PMDETA=ペンタメチルジエチレントリアミン;及びTHF=テトラヒドロフラン。
【0010】
「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を指し、「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードを指す。同様に、「ハロゲン化された」は、フッ素化された、塩素化された、臭素化された及びヨウ素化されたを指す。「アルキル」は、直鎖、分枝鎖及び環式アルキルを含む。同様に、「アルケニル」及び「アルキニル」は、それぞれ、直鎖、分枝鎖及び環式のアルケニル及びアルキニルを含む。本明細書中に使用されるとき、シクロペンタジエニル及びヘテロシクロペンタジエニルリガンドは、これらに限定されないが、インデニル及びフルオレニル基をはじめとする、縮合環システムを包含する。ヒドロカルビル構造物は、特に、C〜C30直鎖、分枝鎖及び環式アルキル並びに芳香族縮合環及びペンダント環を含む。
【0011】
他に指摘しない限り、すべての量は重量パーセントであり、全ての比はモル比である。全ての数字範囲は、境界値を含み、かかる数字範囲が、合計して100%に制約されることが明白である場合を除き、全ての順序で組み合わせることができる。
【0012】
本発明の組成物は、遷移金属、リン、アンチモン及びヒ素から選択される金属又はメタロイドを含有するアミド基含有蒸着前駆体、並びに電子を金属又はメタロイドと共有することができる安定化添加化合物を含む。
【0013】
任意のアミド基含有蒸気相前駆体を、本発明において好適に使用することができる。本明細書中に使用されるとき、用語「アミド基含有蒸着前駆体」は、アミジナト、ホルムアミジナト、ハロアミジナト、ホスホアミジナト、グアニジナト、ホスホグアニジナト及び(R)NR(式中、R及びRは、独立に、H、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C)シクロアルキル、ジアルキルアミノアルキル、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ジ(シリル−アルキル)アミノ、ジ(アルキル−シリル)アミノ、ジシリルアミノ、アルキルアルコキシ、アルコキシアルキル及びアリールから選択される)から選択される1個以上の基を有する蒸気相前駆体であって、かかる基が、かかる基の窒素と、かかる前駆体の金属又はメタロイドとの間の結合相互作用を有する、蒸気相前駆体を指す。遷移金属には、ランタノイド金属が含まれる。リン、アンチモン及びヒ素は、メタロイド(又は半金属)である。本発明の蒸着前駆体中で有用な代表的な金属及びメタロイドには、これらに限定されないが、P、As、Sb、Zn、Sc、Y、Cu、Ag、Au、Lu、La、Ti、Zr、Hf、Nb、W、Mn、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir及びPtが含まれる。特に好適な金属には、これらに制限されないが、La、Ti、Zr、Hf、Nb、W、Mn、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir及びPtが含まれる。代表的なアミド基には、これらに限定されないが、(C〜C)アルキルアミノ、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ及びプロピルアミノ;並びにジ(C〜C)アルキルアミノ、例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、エチルメチルアミノ及びジプロピルアミノが含まれる。代表的なアミジナート基には、ジメチルアセトアミジナト、ジ−イソプロピルアセトアミジナト及び第三級ブチルエチルプロピオアミジナトが含まれる。代表的なホルムアミジナート基には、ジエチルホルムアミジナト、ジ−イソプロピルホルムアミジナト及びエチルイソプロピルホルムアミジナトが含まれる。代表的なグアニジナートには、テトラメチルグアニジナート及びテトラエチルグアニジナートが含まれる。代表的なホスホアミジナートには、N,P−ジメチル−メチルホスホアミジナト、N,P−ジエチル−メチルホスホアミジナト、N,P−ジエチル−エチルホスホアミジナト、N,P−ジ−イソ−プロピル−メチルホスホアミジナト、N,P−ジ−イソ−プロピル−イソプロピル−ホスホアミジナト及びN,P−ジメチル−フェニルホスホアミジナトが含まれる。
【0014】
代表的な蒸着前駆体は、式、(アミド)+m(m−n)[式中、M=遷移金属、リン、アンチモン又はヒ素;L=アニオン性リガンド;L=中性リガンド;m=Mの原子価;n=1〜6;p=0〜3;およびmは、nよりも大きいか又はnに等しい;アミド=アミジナト、ホルムアミジナト、ハロアミジナト、ホスホアミジナト、グアニジナト、ホスホグアニジナト及び(R)NR(式中、R及びRは、独立に、H、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C)シクロアルキル、ジアルキルアミノアルキル、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ジ(シリル−アルキル)アミノ、ジ(アルキル−シリル)アミノ、ジシリルアミノ、アルキルアルコキシ、アルコキシアルキル及びアリールから選択される)]を有する。下付文字「n」は、この化合物中のアミドリガンドの数を表す。この蒸着前駆体は、ヘテロレプティック(heteroleptic)又はホモレプティック(homoleptic)であり得る。m=nであるとき、この化合物はホモレプティックである。nが1よりも大きいとき、アミド基は同じか又は異なっていてよい。R及びRのそれぞれについての代表的な基には、これらに制限されないが、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ビニル、アリル、ブテニル、アセチレニル、プロピニル及び置換された又は置換されていないアリール基が含まれる。代表的なアリール基には、これらに限定されないが、フェニル、メチルフェニル、エチルフェニル、イソ−プロピルフェニル、ベンジル、トリル及びキシリルが含まれる。本明細書中に使用されるとき、「置換された」は、他の置換基、例えば、(C〜C)アルキル、(C〜C12)アルコキシ及びハロによる、水素の置換を指す。代表的な置換基には、これらに制限されないが、tert−ブチル、イソ−ブチル、イソ−プロピル、tert−ブトキシ、イソ−ブトキシ、イソ−プロポキシ及びフルオロが含まれる。
【0015】
広範囲の種々のアニオン性リガンド(L)を、本発明において使用することができる。かかるリガンドは、負の電荷を有する。アニオン性リガンド(L)はアミドリガンドではない。好適なアニオン性リガンドには、これらに制限されないが、水素化物、ハロゲン化物、アジ化物、アルキル、アルケニル、アルキニル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ジ(シリル−アルキル)アミノ、ジシリルアミノ、ジ(アルキル−シリル)アミノ、ジアルキルアミノアルキル、ヒドラジド、ホスフィド、ニトリル、アルコキシ、ジアルキルアミノアルコキシ、アルコキシアルキルジアルキルアミノ、シロキシ、ジケトナート、シクロペンタジエニル、シリル、β−ジケトナト、β−ジイミナト、β−ケトイミナト及びピラゾラートが含まれる。このようなリガンドの何れも、例えば、1個以上の水素を、他の置換基、例えば、ハロ、アミノ、ジシリルアミノ及びシリルによって置き換えることによって、任意に置換することができる。代表的なアニオン性リガンドには、これらに限定されないが、(C〜C10)アルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロプロピル、シクロペンチル及びシクロヘキシル;(C〜C10)アルケニル、例えば、エテニル、アリル及びブテニル;(C〜C10)アルキニル、例えば、アセチレニル及びプロピニル;(C〜C10)アルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ及びブトキシ;シクロペンタジエニル、例えば、シクロペンタジエニル、メチルシクロペンタジエニル、エチルシクロペンタジエニル及びペンタメチルシクロペンタジエニル;ジ(C〜C10)アルキルアミノ(C〜C10)アルコキシ、例えば、ジメチルアミノエトキシ、ジエチルアミノエトキシ、ジメチルアミノプロポキシ、エチルメチルアミノプロポキシ及びジエチルアミノプロポキシ;シリル、例えば、(C〜C10)アルキルシリル並びに(C〜C10)アルキルアミノシリルが含まれる。好ましいアニオン性リガンドは、シクロペンタジエニル及び(C〜C10)アルコキシである。2個以上のアニオン性リガンドが存在するとき、かかるリガンドは、同じか又は異なっていてよい。
【0016】
中性リガンド(L)は、この化合物内で任意であり得る。かかる中性リガンドは、全体での電荷を有しない。中性リガンドには、これらに制限されないが、CO、NO、窒素(N)、アミン、ホスフィン、アルキルニトリル、アルケン、アルキン及び芳香族化合物が含まれる。用語「アルケン」には、1個以上の炭素−炭素二重結合を有する任意の脂肪族化合物が含まれる。代表的な中性リガンドには、これらに限定されないが、(C〜C10)アルケン、例えば、エテン、プロペン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、ノルボルネン、ビニルアミン、アリルアミン、ビニルトリ(C〜C)アルキルシラン、ジビニルジ(C〜C)アルキルシラン、ビニルトリ(C〜C)アルコキシシラン及びジビニルジ(C〜C)アルコキシシラン;(C〜C12)ジエン、例えば、ブタジエン、シクロペンタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、オクタジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン及びα−テルピネン;(C〜C16)トリエン;(C〜C10)アルキン、例えば、アセチレン及びプロピン;並びに芳香族化合物、例えば、ベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、トルエン、o−シメン、m−シメン、p−シメン、ピリジン、フラン及びチオフェンが含まれる。好適なアミンには、これらに制限されないが、式NR(式中、R、R及びRのそれぞれは、独立に、H、(C〜C)アルキル及びアリールから選択される)の化合物が含まれる。代表的なアミンは、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン及びエチルメチルアミンである。好適なホスフィンには、これらに制限されないが、式PR(式中、R、R及びRのそれぞれは、独立に、H、(C〜C)アルキル及びアリールから選択される)の化合物が含まれる。代表的なホスフィンは、ホスフィン、メチルホスフィン、ジメチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン及びトリフェニルホスフィンである。中性リガンドの数は、Mとして選択される個々の金属に依存する。2個以上の中性リガンドが存在するとき、かかるリガンドは、同じか又は異なっていてよい。
【0017】
アミド基含有蒸着前駆体は、当該技術分野で公知の種々の方法によって調製することができる。例えば、この前駆体は、リチウムジアルキルアミド塩を金属ハロゲン化物と、好適な溶媒(例えばエーテルなど)中で反応させることによって調製することができる。このような反応は、複数の温度範囲に亘って実施することができ、特定の反応のためには室温が好適である。前駆体の代替の合成において、アルキルリチウムを、最初に、金属ハロゲン化物と、好適な溶媒、例えば、アミン又はエーテル(例えばTHFなど)中で、好適な温度(例えば室温など)で反応させ、続いて、ジアルキルアミンと、好適な溶媒(これは、典型的に、第一反応のために使用したのと同じ溶媒である)中で反応させることができる。
【0018】
広範囲の種々の安定化添加化合物を、本発明の組成物において使用することができる。安定化添加物は、電子を、蒸着前駆体の金属又はメタロイドと共有することができる。即ち、安定化添加物は、蒸着前駆体の金属又はメタロイドのためのリガンドであり得る。安定化添加物は中性又はアニオン性であり得る。安定化添加物は中性であることが好ましい。好適な安定化添加物には、これらに限定されないが、1個以上の窒素、リン、酸素、硫黄及び共役ジエンを含有する化合物、更に好ましくは、1個以上の窒素、リン及び酸素を含有する化合物が含まれる。このような安定化添加物は、一座、二座又は多座リガンドであり得る。代表的な安定化添加物には、これらに限定されないが、アミジン;ホルムアミジン;ハロアミジン;ホスホアミジン;グアニジン;ホスホグアニジン;β−ジケトン;β−ジケトイミナート;アルコール;ポリオール(例えばグリコールなど);アルキルアミン、ジアルキルアミン及びアリールアミンを含むアミン;ポリアミン;カルボジイミド;アルキルカルボジイミド;シクロペンタジエン;チオエーテル;メルカプタン;並びにこれらの混合物が含まれる。本発明の組成物中に使用される安定化添加物は、好ましくは、蒸着前駆体中に使用されるリガンドとは異なる。安定化添加物として有用な化合物は、例えばSigma−Aldrich(ウィスコンシン州ミルウォーキー)などから広く商業的に入手可能である。
【0019】
本発明の組成物において、安定化添加化合物は、蒸着前駆体に基づいて0.01〜3モル当量の量で存在する。好ましくは、安定化添加物の量は、蒸着前駆体に基づいて、0.01〜2.5モル当量、更に好ましくは0.01〜2モル当量、なお更に好ましくは0.05〜1.5モル当量、なお更に好ましくは0.1〜1.5モル当量である。使用される安定化添加物の量は、蒸着前駆体のための溶媒として作用するためには不十分である。
【0020】
本発明の組成物は、アミド基含有蒸着前駆体を安定化添加化合物と組み合わせること;蒸着前駆体及び安定化添加物の組合せ物を加熱すること;並びに蒸着前駆体と安定化添加物とを混合して、混合物を形成することによって調製することができる。任意に、本発明の組成物を調製するために、溶媒を使用することができる。かかる溶媒は、典型的に、金属及び酸素化された不純物を実質的に含有していない(即ち、これらは、0.005%未満のこのような不純物を含有している)。この加熱及び混合工程は、任意の順序によって実施することができ、逐次的に又は同時に実施することができる。一般的に、加熱工程は、90℃以下の温度で実施される。更に好ましくは、加熱工程は、≦70℃、なお更に好ましくは≦60℃で実施される。高沸点(≧100℃)の溶媒を使用する場合は、>90℃の温度を使用することができる。混合は、任意の好適な手段によるものでよく、例えば、撹拌、ブレンド又はかき混ぜなどによるものであり得る。この混合物は実質的に均一であることが好ましい。このプロセスには、加熱工程に続いて、揮発性有機成分を除去する更なる工程が任意に含まれる。あるいは、揮発性有機成分の除去を、加熱工程の間に実施することができる。このような揮発性有機成分の除去は、任意の好適な方法によって達成することができ、例えば、混合物をパージすること若しくは混合物を減圧に付すこと、又は任意の好適な方法の組合せによって達成することができる。
【0021】
本発明の組成物は、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属シリケート及び金属シリコンオキシニトリド(oxynitride)薄膜の蒸着のための前駆体として使用するために特に適している。このような組成物は、種々のCVDプロセス並びに種々のALDプロセスにおいて使用することができる。このような組成物の2種類以上を、CVD又はALDプロセスにおいて使用することができる。2種以上の組成物を使用するとき、かかる組成物は、同じ金属を含有するが異なるリガンドを有してよく、又は異なる金属を含有し同じリガンドを有してもよく、又は異なる金属及び異なるリガンドを含有してよい。かかる第二組成物の選択は、十分に、当業者の能力内である。あるいは、本発明の組成物を、任意の好適な蒸着前駆体と組み合わせて使用することもできる。
【0022】
バブラー(bubbler)(シリンダーとしても知られている)は、蒸気相状態の有機金属化合物を、堆積反応器に提供するために使用される、典型的なデリバリーデバイスである。かかるバブラーには、典型的に、充填ポート、ガス入口ポート及び堆積チャンバーに連結されている出口ポートが含まれている。担体ガスは、典型的に、ガス入口ポートを通ってバブラーに入り、前駆体蒸気を同伴するか又は拾い上げる。次いで、前駆体蒸気を含有するガスは、出口ポートを通ってバブラーから出て、堆積チャンバーの方に移送される。種々の担体ガス、例えば、水素、ヘリウム、窒素、アルゴン及びこれらの混合物を使用することができる。
【0023】
使用する個々の堆積装置に応じて、広範囲の種々のバブラーを使用することができる。前駆体化合物が固体であるとき、米国特許第6,444,038号明細書(Rangarajanら)及び米国特許第6,607,785号明細書(Timmonsら)に開示されているバブラー、並びに他の設計を使用することができる。液体前駆体化合物のために、米国特許第4,506,815号明細書(Melasら)及び米国特許第5,755,885号明細書(Mikoshibaら)に開示されているバブラー並びに他の液体前駆体バブラーを使用することができる。供給源化合物は、バブラー内に液体又は固体として維持される。固体供給源化合物は、堆積チャンバーへの移送の前に、典型的に蒸発又は昇華される。ALDプロセスで使用するためのバブラーは、入口ポート及び出口ポートに、必要な蒸気パルスを提供するため必要なときに開閉を容易にするための空気バルブを有していてもよい。
【0024】
一般的なCVDプロセスにおいて、液体前駆体を供給するためのバブラー、並びに固体前駆体を供給するための特定のバブラーは、ガス入口ポートに連結されている浸漬管(dip tube)を含んでいる。一般的に、担体ガスは、有機金属化合物の表面の下に導入され、供給源化合物を通ってその上のヘッドスペースへ上方に通過され、担体ガスの中に前駆体化合物の蒸気を同伴するか又は運ぶ。また、このような浸漬管を含まないシリンダーも、本発明の組成物において使用することができる。
【0025】
ALDプロセスにおいて使用される前駆体は、多くの場合、液体、低融点固体又は溶媒中に配合された固体である。これらの種類の前駆体を取り扱うために、ALDプロセスにおいて使用されるバブラーは、出口ポートに連結された浸漬管を含んでいてもよい。ガスは、入口を通ってこれらのバブラーに入り、バブラーを加圧し、前駆体を、浸漬管の上方及びバブラーの外に押し進める。
【0026】
本発明は、前記組成物によって飽和された流体流を、化学蒸着システムに供給するための、前記組成物を含むデリバリーデバイスを提供する。このデリバリーデバイスは、断面を有する内側表面を有する細長い円筒形状部分と、頂閉鎖部分と、底閉鎖部分とを有する容器であって、頂閉鎖部分が、担体ガスの導入のための入口開口及び出口開口部を有し、細長い円筒形状部分が、前記の有機金属化合物を含有するチャンバーを有する、容器を含むことができる。デリバリーデバイスの他のタイプを使用することもできる。また、本発明によって、前記の組成物で飽和された流体流を供給するための1以上のデバイスを含む、金属膜の化学蒸着のための装置が提供される。
【0027】
堆積チャンバーは、典型的に、その中に、少なくとも1つ、かつできるかぎり多くの基体が配置される、加熱された容器である。堆積チャンバーは出口を有し、出口は、副生物をチャンバーから引き出し、かつである減圧を与えるために、典型的に真空ポンプに連結されている。金属有機CVD(「MOCVD」)は、大気圧又は減圧で実施することができる。堆積チャンバーは、供給源化合物の分解を誘導するために十分に高い温度で維持される。典型的な堆積チャンバー温度は、200〜1200℃、更に典型的に200〜600℃であり、選択される正確な温度は、効果的な堆積を与えるように最適化される。基体が上昇した温度で維持される場合、又は他のエネルギー(例えばプラズマなど)が無線周波数源によって発生される場合には、堆積チャンバー内の温度を、任意に、全体として低下させることができる。
【0028】
堆積のための好適な基体は、電子デバイス製造の場合に、珪素、シリコンゲルマニウム、炭化珪素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、リン化インジウムなどであり得る。このような基体は、特に、集積回路及びメモリーチップの製造において有用である。
【0029】
堆積は、所望の特性を有する膜を製造するために望まれる間続けられる。典型的に、膜厚さは、堆積が停止したとき、数百オングストロームから数千オングストローム以上までである。
【0030】
従って、本発明は、a)蒸着反応器内に基体を提供すること;b)前駆体として、前記の組成物を気体形態で、反応器に移送すること;及びc)金属又はメタロイドを含有する薄膜を、基体上に堆積させること;を含む、薄膜の堆積方法を提供する。典型的なCVDプロセスにおいて、上記の方法には、反応器内で前駆体を分解させる工程が、更に含まれる。
【0031】
薄い金属(又はメタロイド)含有膜(金属又は金属酸化物又は金属窒化物又は金属シリケート又は金属シリコンオキシニトリド)は、殆ど完全な化学量論でALDにより製造され、あるいは、基体を1つずつ、膜が形成される元素のそれぞれの前駆体化合物の蒸気に付すことによって製造される。ALDプロセスにおいて、基体の表面と反応することができる第一前駆体と基体の表面との反応が起こり第一前駆体(又は、その中に含有されている金属)の単原子層が基体の表面上に形成されるために十分に高い温度で、基体は、基体の表面と反応することができる第一前駆体の蒸気に付され、そして、このようにして形成された、その上に第一前駆体原子層を有する表面を、第一前駆体と反応する第二前駆体と第一前駆体との反応が起こり所望の金属膜の単原子層が基体の表面上に形成されるために十分に高い温度で、第一前駆体と反応する第二前駆体の蒸気に付される。この手順は、形成される膜が所望の厚さに達するまで、第一前駆体及び第二前駆体を交互に使用することによって続けることができる。このようなALDプロセスにおいて使用される温度は、典型的に、MOCVDプロセスいおいて使用されるものよりも低く、200〜400℃の範囲内であってよいが、選択される前駆体、堆積されるべき膜及び当業者に公知の他の規準に応じて、他の好適な温度を使用することができる。
【0032】
ALD装置には、典型的に、真空にされた雰囲気を提供するための真空チャンバー手段;真空チャンバー手段内に設置された一対の手段であって少なくとも1つの基体を支持するための支持手段、及びそれぞれ2種の異なった前駆体の少なくとも2種の蒸気のための供給源を形成するための供給源手段を含む一対の手段;並びに最初に前駆体の一方の単原子層を基体上に提供し、次いで他方の前駆体の単原子層を基体上に提供するため、一方の手段を、一対の手段の他方に関連させて運転するために、一対の手段の一方と操作可能に連結された運転手段が含まれている。ALD装置の説明については、例えば、米国特許第4,058,430号明細書(Suntola)を参照されたい。
【0033】
本発明は、蒸着反応器内に基体を提供すること;第一前駆体として、前記の組成物を移送すること;アミド基含有蒸着前駆体を、基体の表面上に化学吸着させること;反応器から、化学吸着されなかったアミド基含有蒸着前駆体を除去すること;第二前駆体を気体形態で反応器に移送すること;第一前駆体と第二前駆体とを反応させて、基体上に膜を形成させること;並びに未反応の第二前駆体を除去すること;を含む、薄膜の堆積方法を提供する。第一前駆体及び第二前駆体を移送する交互工程並びに第一前駆体と第二前駆体とを反応させる工程は、所望の厚さの膜が得られるまで繰り返される。反応器から前駆体を除去する工程には、反応器を真空下で排気すること並びに非反応剤ガス及び/又は溶媒蒸気を使用して反応器をパージすることの1つ以上が含まれ得る。第二前駆体は、第一前駆体と反応して所望の膜を形成する任意の好適な前駆体であり得る。かかる第二前駆体は、任意に、他の金属又はメタロイドが含有することができる。代表的な第二前駆体には、これらに限定されないが、酸素、オゾン、水、過酸化物、アルコール、亜酸化窒素及びアンモニアが含まれる。
【0034】
本発明の組成物を、ALDプロセス又は直接液体注入プロセスにおいて使用する場合は、これらは有機溶媒と組み合わせることができる。この組成物を溶解し、この組成物に対して適切に不活性であり、この組成物の蒸気圧、熱安定性及び極性と適合する、任意の有機溶媒を使用することができる。代表的な有機溶媒には、これらに制限されないが、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、直鎖アルキルベンゼン、ハロゲン化炭化水素、シリル化炭化水素、アルコール、エーテル、グリム、グリコール、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、スルホン酸、フェノール、エステル、アミン、アルキルニトリル、チオエーテル、チオアミン、シアナート、イソシアナート、チオシアナート、シリコーン油、ニトロアルキル、硝酸アルキル及びこれらの混合物が含まれる。好適な溶媒には、テトラヒドロフラン、ジグリム、ポリグリム、酢酸n−ブチル、オクタン、酢酸2−メトキシエチル、乳酸エチル、1,4−ジオキサン、ビニルトリメチルシラン、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、ピリジン、メシチレン、トルエン及びキシレンが含まれる。有機溶媒の混合物を使用することができる。直接液体注入プロセスにおいて使用されるとき、組成物の濃度は、典型的に、0.05〜0.25モル濃度、更に典型的に0.05〜0.15モル濃度の範囲内である。組成物/有機溶媒組成物は、典型的に溶液である。好適な直接液体注入プロセスは、米国特許出願第2006/0110930号明細書(Senzaki)に記載されているものである。
【0035】
更に、本発明によって、前記の方法の何れか一つを使用して薄膜を堆積する工程を含む、電子デバイスの製造方法が提供される。
【0036】
本発明は、機能性、所望の熱安定性、匹敵する蒸着前駆体自体よりも高い蒸気圧の好適なバランスを有する組成物、特にALDのための組成物を使用する蒸着プロセスを提供する。ALDプロセスにおいて従来の前駆体の使用は、多くの場合、粒子形成を生じる駆体の早期分解をもたらす。このような粒子は、反応器内、蒸気移送ライン内又は基体上に蓄積し得る。粒子形成は、反応器を詰まらせる場合があり、かかる粒子は、欠陥の無い膜の成長のために有害である。本発明の組成物は、このような安定化添加物を有するものの対応する蒸着前駆体と比較したとき、析出物、粒子並びに表面欠陥(例えば、粗さ及び組成不均一性など)の無い、よりきれいな膜を提供する。本発明の組成物は、また、このような安定化添加物を有するものの対応する蒸着前駆体と比較したとき、より長い寿命及び安全性問題の低減を有する。
【0037】
ALDプロセスにおいて有用であるために、前駆体は、140℃以下、好ましくは150℃以下の温度で分解してはならない。かかる分解温度を決定するための一つの方法は、加速速度熱量計の使用によるものである。好適な熱量計は、Arthur D.Littleから入手可能なARC(登録商標)断熱型熱量計である。使用する際に、サンプルを、密閉された圧力測定システムに連結された球状ボンベの中に入れる。サーモカップルをボンベの外側に取り付け、ボンベを熱量計アセンブリの中心に置く。熱量計アセンブリは、3つの帯域を有し、それぞれの帯域は、それ自体のサーモカップル及びヒーターを有する。ARC(登録商標)熱量計は、加熱−待機−サーチ−発熱プログラムを使用する。熱量計及びサンプルは、開始温度まで加熱される。サンプル及び熱量計温度は、プログラムの待機部分の間に平衡になる。次に、熱量計は、プログラムのサーチ部分の間に、自己加熱のためにサンプルをモニターする。0.02℃/分の予定速度よりも大きい自己加熱が検出されない場合、プログラムは、サンプルが、プログラムの発熱部分を始動する発熱しきい値を超えるまで、又は最高上限温度若しくは圧力が到達されるまで、このシーケンスを繰り返す。サンプルの自己加熱が検出される(0.02℃/分を超える)場合、加熱プログラムは、断熱トラッキングの方に移動する。この方法において、発熱の開始温度が決定される。
【0038】
下記の実施例は、本発明の種々の態様を示すと期待される。
【実施例1】
【0039】
比較例
テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム(800g)を、文献(例えば、D.C.Bradley及びI.M.Thomas、J.Chem.Soc.、1960、3857−3861頁参照)に記載されているような手順を使用して、テトラヒドロフラン/ヘキサン反応溶媒中での、リチウムエチルメチルアミド及び四塩化ジルコニウムの反応によって製造した。この反応は、窒素の一定のブランケットの下で実施し、全ての試薬は新たに調製し、有害な不純物による汚染を回避するために精製した。生成物である、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウムを、加速反応熱量計測定に付して、熱発生開始温度及び最大速度までの時間を測定した。その結果を図1に示す。
【0040】
図1からわかるように、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウムは、低い安定性を有しており、短時間(約500分)後に、低温度でも分解する(139℃で熱分解の開始)。テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウムは、低温度でも大きい自己熱発生速度(分解速度に対応する)を示し及び/又は断熱条件下で短時間後に自己熱発生速度の最大値を示す。
【実施例2】
【0041】
実施例1からの生成物、即ち、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム(TEMAZr、26g、0.08モル)を、ニートのN,N’−ジメチルアセトアミジン(14g、0.16モル)と組み合わせた。この反応物を撹拌して、良好な混合を確保した。次いで、これをゆっくり加温して(約50℃)、溶解させた。TEMA−Zr中にN,N’−ジメチルアセトアミジンを混合し、溶解した後、薄黄色の反応物を30分間撹拌した。次いで、これを58℃まで加熱し、この加熱工程の間に、揮発性有機不純物を除去した。この組成物を、55℃及び8mTorr(1.07Pa)圧力で排気及びポット・ツー・ポット(pot−to−pot)蒸留により、4時間更に精製した。最終生成物の収量は、精製後に32gであった。この配合生成物を、H NMRにより分析して、所望のレベル(N,N’−ジメチルアセトアミジン:TEMA−Zrが2:1モル比で存在する)で添加物の存在が確認された。この組成物を、加速反応熱量計測定に付して、熱発生開始温度及び最大速度までの時間を測定した。分解の開始は、160℃で認められ、開始時の速度は、0.051372℃/分であることがわかった。この結果から、TEMAZr−N,N’−ジメチルアセトアミジン組成物が、TEMA−Zrよりも大きい熱安定性を有することが確認された。
【実施例3】
【0042】
脱気した直鎖アルキルベンゼン(100mL)中のテトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウムの攪拌した溶液に、メチルシクロペンタジエン二量体を熱解離することによって調製したメチルシクロペンタジエン単量体(5%w/w)を、滴下により添加する。この反応混合物を30分間加熱し、揮発性不純物を、窒素流下で追い出す。この組成物を真空下で蒸留し、これはテトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウムよりも大きい熱安定性を有すると期待される。
【実施例4】
【0043】
脱気したヘキサン(100mL)中のテトラキス(ジメチルアミド)ハフニウムの攪拌した溶液に、ジ−イソプロピルホルムアミジン(10%w/w)を、滴下により添加する。この反応混合物を30分間加熱し、幾らかのヘキサンを含有する揮発性不純物を、窒素流下で追い出す。この組成物を真空下で蒸留し、これはテトラキス(ジメチルアミド)ハフニウムよりも大きい熱安定性を有すると期待される。
【実施例5】
【0044】
脱気した直鎖アルキルベンゼン(100mL)中のターシャリーブチルイミド−トリス(エチルメチルアミド)タンタルの攪拌した溶液に、ジピバロイルメタン(すなわち2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン又は「thd」)の直鎖アルキルベンゼン溶液を、滴下により添加する。この反応混合物を45分間加熱し、揮発性不純物を、窒素流下で追い出す。得られる組成物を真空下で蒸留し、これはターシャリーブチルイミド−トリス(エチルメチルアミド)タンタルよりも大きい熱安定性を有すると期待される。
【実施例6】
【0045】
脱気した直鎖アルキルベンゼン(100mL)中のテトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウムの攪拌した懸濁液に、ジ−イソプロピルアセトアミジン(7.5%w/w)と、ジメチルシクロペンタジエン二量体を熱解離することによって製造したジメチルシクロペンタジエン単量体(5%w/w)とを、滴下により添加する。この反応混合物を30分間加熱し、揮発性不純物を、窒素流下で追い出す。この組成物を真空下で蒸留し、これはテトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウムよりも大きい熱安定性を有すると期待される。
【実施例7】
【0046】
ALD又は直接液体注入プロセスで使用するために好適な、向上された熱安定性の組成物を、実施例2に記載した手順に従って、下記の表に記載した、アミド基含有蒸着前駆体を安定化添加物と組み合わせることによって調製する。蒸着前駆体及び安定化添加物は、典型的に、これらの組成物中に、それぞれ、1:0.01〜1:3のモル化学量論で存在する。
【0047】
【表1】

【0048】
表中に使用されるとき、略語は下記の意味を有する。TEMA=テトラキス(エチルメチルアミド);PEMA=ペンタキス(エチルアミド);TDMA=テトラキス(ジメチルアミド);mmpH=1−メトキシ−2−メチル−2−プロパノール;BDMIBDMAW=ビス(ジメチルイミド)−ビス(ジメチルアミド)タングステン;TBTDET=tert−ブチルイミド−トリス(ジエチルアミド)タンタル;AMITDET=アミルイミド−トリス(ジエチルアミド)タンタル;TDMAP=トリスジメチルアミド燐;TDMASb=トリスジメチルアミドアンチモン;MP=メチルピロリジン;DBZM=ジベンゾイルメタン;BTBIBEMAMo=ビス(tert−ブチルイミド)−ビス(エチルメチルアミド)モリブデン;及びhfac=1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオナート。
【実施例8】
【0049】
下記の表中の組成物は、前記の手順の1つ以上を使用して製造されると期待される。使用すべき出発物質及び手順を、この表中に示す。この生成物は、この組成物を製造するために使用される、対応する蒸着前駆体よりも大きい熱安定性を示すと期待される。
【0050】
【表2】

【0051】
上記の表中に使用されるとき、略語は下記の意味を有する。acac=アセトニルアセトナート及びdpm=ジピボイルメタン。
【実施例9】
【0052】
下で、TEMA−Zr(10g、0.031モル)を、100mLのシュレンクフラスコの中に入れた。N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(3.9g、0.031モル)を、TEMA−Zrに、−10℃で適度に撹拌しながらゆっくり滴下により添加し、透明な黄色みを帯びた粘性のある液体を得た。H NMRによるこの液体の分析によって、TEMA−Zr:N,N’−ジ−イソプロピルカルボジイミド(モル比=1:1)の存在が確認された。
【0053】
この物質を、加速速度熱量試験による熱安定性調査に付した。この熱安定性調査によって、250℃以下で熱分解の開始が検出されなかったことが示された。実施例1と比較したとき、安定化添加物の添加によって、前駆体の熱安定性が、110℃よりも高く向上することが、明らかにわかる。従って、本発明の配合物は、安定化添加物を含有しない前駆体単独に対して比較したとき、増加した熱安定性を有する。
【実施例10】
【0054】
酸化ジルコニウム(ZrO)膜を、実施例9からの前駆体配合物及び実施例1からの比較前駆体を使用して、成長させた。
【0055】
A.実施例9からの前駆体配合物(1.17g)を、ASM F−120 ALD反応器からの供給源ボートの中に、N下で入れた。供給源温度を120℃に設定した。一次パージングガス及び二次パージングガスはNであり、それらの流量は、それぞれ、300sccm及び200sccmであった。p型シリコン(Cz、研磨した片側)の10cm(4インチ)ウェーハを、ALDチャンバー内に置き、250℃で加熱した。パルスシーケンスは、1s/3sで前駆体/Nパージ及び1s/3sでO/Nパージであった。Oパルス流量は、オゾン発生器から20sccmで調節した。ZrO薄膜堆積のために、1000サイクルを適用した。
【0056】
平滑で高度に均一なZrO膜が、100サイクル後にウェーハ上に成長した。分光偏光解析法による膜厚さは、約89.8nmであると判明した。最適化されなかった薄膜成長速度は、約0.9Å/サイクルであった。
【0057】
B.実施例1からのTEMA−Zrを使用して、上記と同一条件下でZrO膜を成長させることを試みた。これらの条件下で成長は起こらなかったことが判明し、TEMA−Zrはボート内で分解することが判明された。
【0058】
下記の表は、TEMA−Zr及び実施例9からの前駆体配合物を使用する、膜成長の比較を示す。
【0059】
【表3】

【実施例11】
【0060】
下で、TEMA−Hf(0.045モル)を、100mLのシュレンクフラスコの中に入れる。1−tert−ブチル−3−エチルカルボジイミド(0.045モル)を、TEMA−Hfに、−10℃で適度に撹拌しながらゆっくり滴下により添加し、1:1のモル比で、TEMA−Hf:1−tert−ブチル−3−エチルカルボジイミドの配合物を得る。加速速度熱量試験によるこの配合物の分析は、実施例9の前駆体配合物と同様の熱安定性を示すと期待される。
【実施例12】
【0061】
下で、TBTDET(0.065モル)を、100mLのシュレンクフラスコの中に入れる。N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(0.065モル)を、TBTDETに、−10℃で適度に撹拌しながらゆっくり滴下により添加し、1:1のモル比で、TBTDET:N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドの配合物を得る。加速速度熱量試験によるこの配合物の分析は、実施例9の前駆体配合物と同様の熱安定性を示すと期待される。
【実施例13】
【0062】
下で、TEMA−Ti(0.045モル)を、100mLのシュレンクフラスコの中に入れる。N,N’−ジ−イソプロピルカルボジイミド(0.045モル)を、TBTDETに、−10℃で適度に撹拌しながらゆっくり滴下により添加し、1:1のモル比で、TEMA−Ti:N,N’−ジ−イソプロピルカルボジイミドの配合物を得る。加速速度熱量試験によるこの配合物の分析は、実施例9の前駆体配合物と同様の熱安定性を示すと期待される。
【実施例14】
【0063】
実施例1からの生成物、即ち、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム(23g、0.07モル)を、トルエン中のN,N’−ジメチルアセトアミジンの溶液と組み合わせた。後者は、N,N’−ジメチルアセトアミジン(6g、0.07モル)をトルエン(28g、30mL)に添加し、溶解するまでゆっくり加温することによって調製した。アセトアミジン溶液とテトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウムとを混合した後、薄黄色の反応物を30分間撹拌した。次いで、これを110℃まで加熱し、この加熱工程の間に、揮発性有機不純物を除去した。この組成物を、70℃及び8mTorr(1.07Pa)圧力で排気及びポット・ツー・ポット蒸留により、更に精製した。この組成物を、NMRにより分析して、所望のレベル(N,N’−ジメチルアセトアミジンが25モル%で存在する)で添加物の存在が確認された。この組成物を、加速反応熱量測定に付して、熱発生開始温度及び最大速度までの時間を測定した。その結果を図2に示す。
【0064】
テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウム−N,N’−ジメチルアセトアミジン組成物は、テトラキス(エチルメチルアミド)ジルコニウムよりも、大きい熱安定性を有し、より長い期間に亘って比較的高い温度で分解し、大きい自己熱発生速度を示す。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は従来のアミド基含有蒸着前駆体についてのサンプル温度対時間のプロットを示す。
【図2】図2は、本発明の組成物についてのサンプル温度対時間のプロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属、リン、アンチモン及びヒ素から選択された金属又はメタロイドを含有するアミド基含有蒸着前駆体、並びに電子を金属又はメタロイドと共有することができる安定化添加化合物を含む、薄膜の蒸気相堆積のための組成物であって、安定化添加化合物が、蒸着前駆体に基づいて0.01〜3モル当量の量で存在する組成物。
【請求項2】
蒸着前駆体が、式、(アミド)+m(m−n)[式中、M=遷移金属、リン、アンチモン又はヒ素;L=アニオン性リガンド;L=中性リガンド;m=Mの原子価;n=1〜6;p=0〜3;mは、nよりも大きいか又はnに等しい;アミド=アミジナト、ホルムアミジナト、ハロアミジナト、ホスホアミジナト、グアニジナト、ホスホグアニジナト及び(R)NR(式中、R及びRは、独立に、H、(C〜C)アルキル、(C〜C)アルケニル、(C〜C)アルキニル、(C〜C)シクロアルキル、ジアルキルアミノアルキル、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ジ(シリル−アルキル)アミノ、ジ(アルキル−シリル)アミノ、ジシリルアミノ、アルキルアルコキシ、アルコキシアルキル及びアリールから選択される)]を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
安定化添加化合物が、アミジン、ホルムアミジン、ハロアミジン、ホスホアミジン、グアニジン、ホスホグアニジン、β−ジケトン、β−ジケトイミナート、アルコール、アミン、ポリアミン、カルボジイミド、アルキルカルボジイミド、シクロペンタジエン及びこれらの混合物から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
安定化添加化合物が、窒素、リン、酸素及び硫黄から選択された原子を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
安定化添加化合物が、蒸着前駆体に基づいて0.01〜2モル当量の量で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
安定化添加化合物が、蒸着前駆体中に存在する如何なるリガンドとも異なる、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
アミド基含有蒸着前駆体を安定化添加化合物と組み合わせること;蒸着前駆体及び安定化添加物の組合せを加熱すること;及び蒸着前駆体と安定化添加物とを混合して、混合物を形成することを含む、請求項1記載の組成物の調製方法。
【請求項8】
加熱工程に続いて、揮発性有機成分を除去する工程を更に含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
加熱工程を、90℃以下の温度で実行する、請求項7記載の方法。
【請求項10】
蒸着反応器内に基体を提供すること;第一前駆体として、請求項1に記載の組成物を移送すること;アミド基含有蒸着前駆体を、基体の表面上に化学吸着させること;反応器から、化学吸着されなかったアミド基含有蒸着前駆体を除去すること;第二前駆体を気体形態で反応器に移送すること、第一前駆体と第二前駆体とを反応させて、基体上に膜を形成させること;及び未反応の第二前駆体を除去すること;を含む、薄膜の堆積方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−79290(P2009−79290A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−181005(P2008−181005)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(591016862)ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ,エル.エル.シー. (270)
【Fターム(参考)】