説明

加工アタッチメント及びミシン

【課題】既存のミシンに備わる機構や装置を利用することにより、複雑な模様であっても、模様の形成が容易にできるパーチメントクラフトに適した加工アタッチメント及びミシンを提供する。
【解決手段】アタッチメント70は、針棒15及び押え棒16を備えるミシンの押え棒16に着脱可能に装着され、本体部71、連結部72、針部材73及び針部材上下機構部74を備える。本体部71は、押え棒15の下端に装着可能である。連結部72は、針棒15の下端に設けられた針抱き43に連結可能であり、針棒上下機構部26による針棒15の上下動に伴って針棒15と共に上下へ移動可能である。針部材73は、被加工物を貫いて被加工物に穴を形成する。針部材上下機構部74は、連結部72の上下動により針部材73を上下動させる。これにより、ミシンにアタッチメント70を取り付けるだけで、被加工物に対し容易に穴を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に窪みや穴を形成するためにミシンに装着される加工アタッチメント及びこの加工アタッチメントを備えるミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば紙や布などの被加工物に形成した窪み(エンボス)や穴を利用して種々の模様を表現することが広く利用されている。例えば特許文献1には、ドットインパクト装置を利用することにより、被加工物にエンボス加工を施すことが開示されている。また、特許文献2には、所定の模様の輪郭が予め形成されたエンボス加工用プレートを利用することにより、手作業によって厚紙などにエンボス加工を施すことが開示されている。
【0003】
また近年では、例えばペーパアートとしてパーチメントクラフトが普及しつつある。パーチメントクラフトでは、厚手のトレーシングペーパなどを被加工物として使用して、これに複数の窪みや穴を手作業にて形成することで、装飾物を製作している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−320195号公報
【特許文献2】実用新案登録第3105746号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているドットインパクト装置は、機器自体が大型であると共に、専用品であるため汎用性も低い。そのため、芸術や趣味として個人で利用するには不向きである。また、特許文献2に開示されているエンボス加工用プレートは、各種の模様に応じて専用のプレートを必要とする。そのため、模様の数が多くなる程、多くのプレートを必要とする。また、特許文献2の場合、模様の形成は手作業であり、加工が煩雑となって、製作に時間がかかるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、既存のミシンに備わる機構や装置を利用することにより、複数の窪みや穴からなる複雑な模様であっても、模様の形成が容易にできるパーチメントクラフトに適した加工アタッチメント及びミシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1記載の加工アタッチメントは、被加工物を押圧する着脱可能な押え足を下端部に装着する押え棒と、前記押え棒を上下動させる押え棒上下機構部と、前記被加工物を貫く着脱可能な縫針を装着する針抱きを下端部に有する針棒と、前記針棒を上下動させる針棒上下機構部とを備えるミシンの前記押え棒に着脱可能に装着して前記被加工物を加工する加工アタッチメントであって、前記押え棒の下端に装着可能な本体部と、前記針抱きに連結可能であり、且つ前記針棒上下機構部による前記針棒の上下動に伴って前記針棒と共に上下へ移動可能な連結部と、前記被加工物を貫いて前記被加工物に穴を形成する針部材と、前記連結部の上下動により前記針部材を上下動させる針部材上下機構部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記の構成を備える加工アタッチメントを、必要に応じてミシンの押え棒及び針棒に装着することによって、針棒と共に上下に移動する連結部が針棒上下機構部を介して針部材を上下に駆動し、針部材が被加工物に穴を形成する。従って、複数の穴からなる複雑な模様であっても容易に形成することができる。
【0009】
請求項2記載の加工アタッチメントは、請求項1記載の加工アタッチメントであって、前記針部材上下機構部は、前記針棒の上下方向の移動量に対して前記針部材の上下方向の移動量が小さくなるように前記針部材を上下動させる伝達機構を有することを特徴とする。
請求項3記載の加工アタッチメントは、請求項1又は2記載の加工アタッチメントであって、前記針部材は、軸方向へ外径が変化するテーパ状であることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の加工アタッチメントは、請求項1から3のいずれか一項記載の加工アタッチメントであって、前記本体部に、前記被加工物を押圧して前記被加工物を窪ませる突状部材をさらに備え、前記押え棒上下機構部により前記押え棒を上下動させることに伴い、前記突状部材を上下動させることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載のミシンは、請求項1から4のいずれか一項記載の加工アタッチメントと、保持された前記被加工物を、前後方向であるY方向と、このY方向と直交する左右方向であるX方向へ移送する移送装置と、前記移送装置による前記被加工物のX方向又はY方向の少なくともいずれか一方への移送と、前記アタッチメントによる前記被加工物への穴の形成とを連動して実行する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載のミシンは、請求項5記載のミシンであって、前記移送装置による前記被加工物の移送位置と前記加工アタッチメントによる前記穴の形成位置とを関連づけた穴形成データを記憶する記憶手段をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の加工アタッチメントによれば、必要に応じてミシンの押え棒及び針棒に装着することによって、針棒と共に上下に移動する連結部が針棒上下機構部を介して針部材を上下に駆動し、針部材が被加工物に穴を形成する。従って、複数の穴からなる複雑な模様であっても容易に形成することができる。
【0014】
請求項2記載の加工アタッチメントによれば、請求項1記載の効果に加え、伝達機構を有しているので、針部材の上下方向の移動量を縮小でき、簡単な構成で針棒の上下動を針部材に伝達することができる。即ち、上下方向の移動距離が比較的大きな針棒の上下動は、被加工物から抜き差し可能な程度に縮小されて針部材に伝達される。そのため、針部材の上下方向の移動距離は、針棒の上下方向の移動距離に比較して小さくなる。針部材の上下方向の移動距離を小さくすることにより、針部材と被加工物との間へのユーザの指などの侵入が妨げられる。従って、安全性を高めることができる。
請求項3記載の加工アタッチメントによれば、請求項1又は2記載の効果に加え、針状部材がテーパ状であるので、被加工物に対して針部材が貫く量によって形成する穴の径を変化させることができる。
【0015】
請求項4記載の加工アタッチメントによれば、請求項1から3のいずれか一項記載の効果に加え、ミシンが備える押え棒上下機構部により、押え棒を介して突状部材を上下動させるので、被加工物に対して針部材による穴の形成だけでなく、突状部材による窪みの形成も行うことができる。
請求項5記載のミシンによれば、請求項1から4のいずれか一項記載の効果に加え、被加工物を移送する移送装置を備えているので、被加工物の移送と穴の形成とを連動して実行させることができる。
【0016】
請求項6記載のミシンによれば、請求項5記載の効果に加え、移送装置による被加工物の移送位置とアタッチメントによる被加工物への穴の形成位置とが関連づけられているので、被加工物の移送及び穴の形成とを自動的に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態による加工アタッチメントを装着したミシンを正面から見た概略斜視図
【図2】第1実施形態によるミシンを左方から見た概略斜視図
【図3】第1実施形態によるミシンの頭部に収容された針棒上下機構部及び押え棒上下機構部を示す概略斜視図
【図4】第1実施形態によるミシンの頭部に収容された針棒上下機構部及び押え棒上下機構部を示す概略斜視図
【図5】第1実施形態のミシンの電気的構成を示すブロック図
【図6】第1実施形態による加工アタッチメントを示す概略図
【図7】第1実施形態による加工アタッチメントの動作を示す概略図
【図8】形成模様を構成する窪みの位置及び穴の位置を示す模式図
【図9】模様データのデータ構造を示す模式図
【図10】形成模様を構成する窪み及び穴を示す模式図
【図11】窪み及び穴が形成された最終的な完成品を示す模式図
【図12】第1実施形態のミシンによるパーチメントクラフトの処理の流れを示す概略図
【図13】エンボス加工工程の処理の流れを示す概略図
【図14】穴開け加工工程の処理の流れを示す概略図
【図15】第2実施形態によるミシンの頭部に収容された針棒上下機構部及び押え棒上下機構部を示す概略斜視図
【図16】第2実施形態によるミシンの頭部に収容された針棒上下機構部及び押え棒上下機構部を示す概略斜視図
【図17】第2実施形態による加工アタッチメントの動作を示す概略図
【図18】第2実施形態による加工アタッチメントの動作を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明による加工アタッチメント(以下、「アタッチメント」と称する。)の複数の実施形態をミシンに適用した例を図面に基づいて説明する。また、図1に示す前後、左右及び上下をミシンの前後、左右及び上下として説明する。この場合、左右方向がX方向であり、前後方向がY方向であり、上下方向がZ方向である。本実施形態のミシンは、通常のミシンとして加工布に縫製を行うことが可能であると共に、被加工物にパーチメントクラフトを行うことも可能である。パーチメントクラフトを行う場合、被加工物としては例えばトレーシングペーパや厚紙などが使用される。なお、本実施形態におけるミシンは、特に、押え棒を上下動させる押え棒上下機構部を備える家庭用ミシンとするが、家庭用ミシンに限定するものではない。
【0019】
(第1実施形態)
まず、図1及び図2に示すミシン10について説明する。ミシン10は、ベッド部11、脚柱部12、アーム部13、頭部14、針棒15及び押え棒16等を備える。脚柱部12は、ベッド部11の右端側に上方へ延びて設けられている。アーム部13は、ベッド部11と対向して脚柱部12の上端側から左方へ延びている。頭部14は、アーム部13の左端側に設けられている。ベッド部11は、図3及び図4に示すように上端面と同一の平面上に針板17を有している。ベッド部11は、この針板17の下方に図示しない釜機構及び送り機構を収容している。釜機構には、下糸が巻かれた図示しないボビンが着脱可能に装着される。送り機構は、図示しない加工布を移送するための図示しない送り歯を駆動する機構である。図1及び図2に示すように脚柱部12は、前面に液晶ディスプレイ18を有している。また、アーム部13の前面下部には、縫製開始スイッチ21、縫製終了スイッチ22及び押え棒昇降スイッチ23等の各種スイッチが設けられている。
【0020】
アーム部13の上部側には、開閉可能なカバー24が取り付けられている。このカバー24は、アーム部13の左右全長にわたって設けられ、アーム部13の上方後端側に設けられている図示しない回転軸を中心に回転することによりアーム部13の上方を開閉する。カバー24の内部のアーム部13には、頭部14の右方に、上糸が巻かれた図示しない糸駒が収容される図示しない糸収容部を有している。
【0021】
針棒15は、頭部14に設けられ、図4に示すように頭部14を構成するミシン機枠25に上下へ往復移動可能に支持されている。この針棒15は、針棒上下機構部26により上下へ往復駆動される。針棒上下機構部26は、図5に示すミシンモータ30の駆動力によって図示しない主軸等を有するミシン駆動機構部を介して駆動される。ミシン駆動機構部は、周知の構成であるので詳細な説明を省略する。
【0022】
ミシン10は、図3及び図4に示すように押え棒16を上下に駆動する押え棒上下機構部27を備えている。押え棒上下機構部27は、針棒15の後方に配置され、押え棒16を上下に往復駆動する。押え棒上下機構部27は、ラック部31、止め輪32、パルスモータ33、駆動ギア34、中間ギア35、ピニオンギア36、押え棒抱き37、押えばね38、押え上げレバー39、及びポテンショメータ41等を有している。ラック部31は、押え棒16の上端部分に上下へ昇降可能に取り付けられている。止め輪32は、押え棒16の上端に固定されている。パルスモータ33は、押え棒16を上下へ駆動する駆動力を発生する押え棒駆動手段であり、ラック部31のすぐ右側においてミシン機枠25に固定されている。駆動ギア34は、パルスモータ33の出力軸に取り付けられている。中間ギア35は、駆動ギア34と噛み合っている。ピニオンギア36は、中間ギア35と一体に形成され、ラック部31と噛み合っている。押え棒抱き37は、押え棒16の高さ方向の中段部に固定されている。押えばね38は、ラック部31と押え棒抱き37との間で押え棒16に取り付けられている。押え上げレバー39は、パルスモータ33による押え棒16の昇降動作とは独立して押え棒16を手動で昇降させるための操作が入力される。ポテンショメータ41は、押え棒16の左側に設けられ、押え棒抱き37の上下位置、即ち押え棒16の上下方向の位置を検出する。
【0023】
ポテンショメータ41は、回転式のポテンショメータであって、ポテンショメータ41の回転軸から右方へ延びる図示しないレバー部は、押え棒抱き37の左方へ突出する突出部の上面に常に接触するように設けられている。これにより、押え棒16の昇降に伴い押え棒抱き37が昇降すると、レバー部が揺動し、ポテンショメータ41の抵抗値が変化する。押え棒16の位置は、この抵抗値の変化に応じて出力される電圧に基づいて検出される。
【0024】
押え上げレバー39は、一方の端部がミシン機枠25に固定された図示しないピンを中心に揺動可能に支持されている。押え上げレバー39は、ピンとは反対側の端部に手動操作のための操作部391を有している。この操作部391を手動操作することにより、押え上げレバー39は下降位置から上昇位置まで揺動可能である。この押え上げレバー39の揺動によって、パルスモータ33の駆動力が加わらないときでも、押え棒16は上下へ昇降される。押え棒16は、下端側に着脱可能な図示しない押え足を装着可能である。ミシン10にて縫製を実行する場合、押え棒16の下端には図示しない押え足が装着される。針棒15は、下端側に着脱可能な図示しない縫針を装着可能である。図示しない縫針は、針棒15の下端に設けられている針抱き43に装着される。ミシン10にて縫製を実行する場合、針棒15の下端には図示しない縫針が装着される。
【0025】
針板17は、ベッド部11の上面であって上述の針棒15及び押え棒16の下端と対向する位置に設けられている。針板17は、針穴44及び受け部45を有している。針穴44は、針棒15の延長線上すなわち針棒15に図示しない縫針を装着したとき、この縫針の延長線上に位置している。これにより、針棒15に装着された図示しない縫針は、針棒15の下降に伴って針穴44に進入し、針棒15の上昇に伴って針穴44から退出する。受け部45は、図示しない送り歯が出没する角穴46の後方に位置している。受け部45は、例えばゴムなどの柔軟な材料で形成されている緩衝部材を有している。なお、パーチメントクラフトを実行する際には、前記送り歯は、図示しない送り歯沈下機構により針板17の上面から突出しない位置に保持される。
【0026】
ミシン10は、図1及び図2に示すように被加工物60をX方向及びY方向へ移送する移送装置61を備えている。移送装置61は、枠部材62、キャリッジ63、X方向移送機構部64及びY方向移送機構部65を有している。X方向移送機構部64はベッド部11に着脱可能に装着される移送装置61のケーシング68に収容されている。Y方向移送機構部65はケーシング68の直ぐ上方に配置され、カバー部材69に収容されている。枠部材62は、例えばトレーシングペーパなどの被加工物60を支持している。キャリッジ63は、枠部材62を支持している。Y方向移送機構部65は、キャリッジ63を前後方向であるY方向へ移送する。X方向移送機構部64は、Y方向移送機構部65の下側に設けられ、キャリッジ63をY方向移送機構部65と共に左右方向であるX方向へ移送する。X方向移送機構部64は、Y方向移送機構部65をX方向へ駆動する図5に示すXモータ66を有している。また、Y方向移送機構部65は、キャリッジ63をY方向へ駆動する図5に示すYモータ67を有している。Xモータ66はケーシング68に収容され、Yモータ67はカバー部材69に収容されている。この移送装置71は、周知の構成であるので、X方向移送機構部64及びY方向移送機構部65の詳細な説明は省略する。
【0027】
次に、第1実施形態のアタッチメント70について詳細に説明する。
アタッチメント70は、図3、図4及び図6に示すように本体部71、連結部72、針部材73及び針部材上下機構部74を備えている。図6(A)はアタッチメント70の右側面図、図6(B)はアタッチメント70の正面図、図6(C)はアタッチメント70を背面図、図6(D)はアタッチメント70の平面図である。針部材上下機構部74は、針部材73を支持する針支持部75、及び伝達機構を構成するリンク部76を有している。本体部71は、保護部81、装着部82及び支持部83により一体に構成されている。保護部81は、板状に形成され、針部材73の周囲を囲んでいる。これにより、ユーザの指等が上下へ移動する針部材73の近傍へ進入することが防止され、安全性が高められる。装着部82は、押え棒16に装着される。押え棒16のアタッチメント70側の端部すなわち下端部は、装着部82に挿入される。装着部82に挿入された押え棒16をねじ部材84で締め付けることによって、アタッチメント70は押え棒16に装着される。
【0028】
リンク部76は、第一アーム部材761、第二アーム部材762及び第三アーム部材763で構成されている。第一アーム部材761は、一方の端部に連結部72を有し、他方の端部が第二アーム部材762に接続している。第二アーム部材762は、一方の端部が第一アーム部材761に接続し、他方の端部が第三アーム部材763に接続している。第三アーム部材763は、一方の端部が第二アーム部材762に接続している。この第三アーム部材763は、第二アーム部材762と反対側の端部に針支持部75を一体に有している。
【0029】
第一アーム部材761及び第二アーム部材762は、関節部764を中心として相対的に回転可能なリンクを形成している。同様に、第二アーム部材762及び第三アーム部材763は、関節部765を中心として相対的に回転可能なリンクを形成している。また、第一アーム部材761は、長手方向の途中に設けられている第一支点部85において、保護部81から一体に延びている支持部83に回転可能に支持されている。さらに、針支持部75と一体の第三アーム部材763も、長手方向の途中に設けられている第二支点部86において、保護部81と一体の支持部83に対し回転可能に支持されている。
【0030】
第一アーム部材761の端部は、上述のように連結部72を有している。連結部72は、針棒15の下端に設けられている針抱き43に連結される。具体的には、連結部72が設けられている第一アーム部材761の端部は、内側に針抱き43が挿入されるように二股形状の挿入部7611を形成している。針抱き43から一体的に右方へ延びている円柱状のボス部431が、この挿入部7611に挿入される。挿入部7611は、第一アーム部材761の長手方向に沿って延びている。そのため、針棒16の上下方向の移動に伴ってボス部431が上下方向に移動しても、ボス部431は挿入部7611に案内されて第一アーム部材761の長手方向へ相対的に移動可能である。
【0031】
針支持部75は、第三アーム部材763の前端側に設けられ、第三アーム部材763と共に支持部83の第二支点部86を中心として揺動する。針支持部75は、針部材73を支持している。針支持部75は、図6(B)に示すように針部材73を挿入する針挿入穴751を有している。針挿入穴751に挿入された針部材73は、ねじ部材87を締め付けることによって針支持部75に取り付けられる。針部材73は、軸方向に外径が変化するテーパ状であり、針支持部75に支持される根元側ほど外径が大きく形成されている。そのため、針部材73が被加工物60に対し深く刺さると外径が比較的大きな穴が形成され、針部材73が被加工物60に対し浅く刺さると外径が比較的小さな穴が形成される。なお、この針部材73の先鋭部(図7(B)参照)は、針板17の針穴44に進入又は退出する位置に設けられている。
【0032】
本体部71は、装着部82の後方に突状部材支持部88を有している。突状部材支持部88は、突状部材89を支持している。突状部材支持部88は、図6(D)に示すように突状部材89を挿入する挿入穴891を有している。挿入穴891に挿入された突状部材89は、ねじ部材91を締め付けることによって突状部材支持部88に取り付けられる。突状部材89は、棒状に形成され、一方の端部(上端部)が突状部材支持部88に挿入され、他方の端部(下端部)に凸頭部92を有している。凸頭部92は、例えば図6に示すような球状に形成されたものや、図示はしないが、角柱形状に形成されたものなどがあり、これら形状やその大きさについても複数種類が用意されている。ねじ部材91を操作して突状部材89を交換することにより、被加工物60に接する凸頭部92の形状や大きさを適宜変更することができる。
【0033】
次に、アタッチメント70の動作について説明する。
パルスモータ33が駆動されると、その駆動力は中間ギア35及びピニオンギア36に伝達されラック部31を駆動する。ラック部31が上昇するとき、ラック部31の上端面が押え棒16の上端に固定されている止め輪32を上昇させ、押え棒16に取り付けられたアタッチメント70も上昇する。パルスモータ33を駆動してラック部31が下降すると、ラック部31の下端面に接する押えばね38が下方へ押し付けられる。そのため、押え棒16に固定されている押え棒抱き37も下方へ押し付けられ、アタッチメント70は針板17側へ下降する。このように、アタッチメント70が装着された押え棒16は、パルスモータ33によって上下へ駆動される。押え棒16は、上位置と下位置との間で上下に往復駆動される。ここで、上位置とは、押え棒16の上下への往復移動範囲において上端側を意味する。一方、下位置とは、押え棒16の上下への往復移動範囲において下端側を意味する。
【0034】
これに対し、針棒15は、針棒上下機構部26に伝達されたミシンモータ30の駆動力によって、上位置と下位置との間で上下に往復駆動される。ここで、上位置とは、針棒15の上下への往復移動範囲において上端側を意味する。一方、下位置とは、針棒15の上下への往復移動範囲において下端側を意味する。
【0035】
ここで、パルスモータ33による押え棒16の駆動を停止した状態でミシンモータ30によって針棒15を駆動すると、針棒15と押え棒16との間には上下へ相対的な距離の変化が生じる。すなわち、アタッチメント70の本体部71は上下へ移動することなく、針棒15だけが上下に移動する。針棒15の下端には針抱き43が設けられ、この針抱き43のボス部431が第一アーム部材761の挿入部7611に挿入されている。そのため、針棒15が上下すると、第一アーム部材761は針棒15の上下への移動に従って上下へ揺動する。これにより、針棒15の上下への移動に伴う第一アーム部材761の揺動は、第二アーム部材762及び第三アーム部材763を経由して針支持部75へ伝達される。
【0036】
図7(A)に示すように針棒15が上位置にあるとき、ボス部431が挿入される挿入部7611を有する第一アーム部材761は第一支点部85を中心に上方へ移動する。そのため、第一支点部85で支持されている第一アーム部材761は、挿入部7611と反対の第二アーム部材762側が下方へ移動する。第一アーム部材761は関節部764において第二アーム部材762に接続しているため、第二アーム部材762も下方へ移動する。第二アーム部材762は関節部765において第三アーム部材763に接続しているため、第二支点部86で支持されている第三アーム部材763は第二アーム部材762側の端部が第二アーム部材762と共に下方へ移動する。その結果、第三アーム部材763は、第二アーム部材762と反対側の端部すなわち針支持部75側が第二支点部86を中心に上方へ移動する。従って、針支持部75に支持されている針部材73は、被加工物60よりも上方に位置する。
【0037】
一方、図7(B)に示すように針棒15が下位置へ移動すると、ボス部431が挿入される挿入部7611を有する第一アーム部材761は第一支点部85を中心に下方へ移動する。そのため、第一支点部85で支持されている第一アーム部材761は、挿入部7611と反対側の第二アーム部材762側が上方へ移動する。第一アーム部材761は関節部764において第二アーム部材762に接続しているため、第二アーム部材762も上方へ移動する。第二アーム部材762は関節部765において第三アーム部材763に接続しているため、第二支点部86で支持されている第三アーム部材763は第二アーム部材762側の端部が第二アーム部材762と共に上方へ移動する。その結果、第三アーム部材763は、第二アーム部材762と反対側の端部すなわち針支持部75側が第二支点部86を中心に下方へ移動する。従って、針支持部75に支持されている針部材73は、被加工物60に突き刺さる。
【0038】
本実施形態のアタッチメント70の場合、第一支点部85及び第二支点部86の位置、並びに第二アーム部材762の全長を適宜選択することにより、針棒15が上下へ移動する距離に対する針部材73が上下へ移動する距離の倍率は任意に変更される。これにより、針棒15の上下への移動距離を縮小して針支持部75へ伝達することができる。すなわち、リンク部76は、針棒15の上下の移動量の倍率を変更、つまり本実施形態では縮小して針支持部75へ伝達する。その結果、針棒15の上下への移動量に対し、針部材73の上下方向の移動量は小さくなる。
【0039】
テーパ状の針部材73が形成する穴の径は、被加工物60に対し針部材73が刺さる深さによって変化する。被加工物60に対し針部材73が刺さる深さは、アタッチメント70の本体部71と被加工物60との距離によって変化する。すなわち、本体部71と被加工物60との距離が小さいとき針部材73は被加工物60に対し深く刺さり、本体部71と被加工物60との距離が大きいとき針部材73は被加工物60に対し浅く刺さる。そのため、本体部71の位置(高さ)、即ち、押え棒16の位置(高さ)を上下へ移動させて本体部71と被加工物60との距離を調整することにより、テーパ状の針部材73によって被加工物60に形成される穴の径も制御される。
【0040】
一方、突状部材89を利用して被加工物60に窪みを形成する場合、針棒15が上位置で停止した状態、即ち針部材73が上方に位置した状態で、押え棒16が上下に駆動される。押え棒16が上下に駆動されることにより、アタッチメント70は押え棒16と共に上下へ移動する。そのため、突状部材支持部88に取り付けられている突状部材89も押え棒16と共に上下へ移動する。その結果、押え棒16の下降によって突状部材89が下降するとき、被加工物60には窪みが形成される。
【0041】
次に、ミシン10の制御系について説明する。
ミシン10は、図5に示すように制御手段としての制御装置100を備えている。制御装置100は、CPU101、ROM102及びRAM103で構成されているマイクロコンピュータ、入力インターフェイス104、並びに出力インターフェイス105を有している。入力インターフェイス104は、外部記憶装置106、縫製開始スイッチ21等のスイッチ類、ポテンショメータ41及びリミットスイッチ42と電気的に接続している。出力インターフェイス105は、ミシンモータ30、パルスモータ33、液晶ディスプレイ18、並びに移送装置61のモータ66及びモータ67とそれぞれ駆動回路111〜115を経由して電気的に接続している。外部記憶装置106は、例えばEEPROMなどの不揮発性のメモリやハードディスクドライブによって構成されている。
【0042】
ROM102は、ミシン10を制御するための制御プログラムを記憶している。この制御プログラムは、縫製を実行するための縫製プログラム、パーチメントクラフトを実行するための実行プログラム及び液晶ディスプレイ18に各種情報を表示させるための表示制御プログラム等を含んでいる。なお、制御プログラムは、ROM102に限らず一部又は全部を外部記憶装置106に記憶してもよい。
制御装置100は、例えば図8に示すような形成模様120に対応する模様データに基づき、実行プログラムに従ってミシンモータ30による針棒15の駆動、パルスモータ33による押え棒16の駆動、並びにXモータ66及びYモータ67による被加工物60を支持する枠部材62の駆動を制御する。
【0043】
図9に示すように模様データ130は、図8に示すような形成模様120に対して設定され、窪み形成データ131及び穴形成データ132で構成されている。図8において、小さな丸印121はいずれも突状部材89による窪みの形成位置の中心を示し、大きな丸印122はいずれも針部材73による穴形成位置を示す。図9に示すように、模様データ130を構成する窪み形成データ131及び穴形成データ132は、それぞれ窪み形成データ131であるか穴形成データ132であるかを示す「M値133」、窪み又は穴を形成する座標を示す「X座標値134」及び「Y座標値135」を含んでいる。この「M値133」は、「0」のとき窪みを形成するための窪み形成データ131であることを示し、「1」のとき穴を形成するための穴形成データ132であることを示す。図9に示す本実施形態の模様データの場合、「M値133」が「0」の窪み形成データ131と、「M値133」が「1」の穴形成データ132とは一連のデータとして設定されている。ROM102又は外部記憶装置106には、図8に示すような形成模様120に対応する模様データ130に限らず、複数の形成模様にそれぞれ対応する複数の模様データを記憶している。ユーザは、例えば液晶ディスプレイ18に表示された各模様データに基づく形成模様の画像を参照して、任意の形成模様を選択することができる。
【0044】
窪み形成データ131は、さらに窪みの深さを設定する「深さ値136」を含んでいる。「深さ値136」は、各窪みごとに設定されている。「深さ値136」は、押え棒16の移動量、すなわちアタッチメント70に取り付けられた突状部材89の移動量に相当する。被加工物60としてトレーシングペーパを用いる場合、トレーシングペーパに形成される窪みの深さに応じて、窪みの濃淡の度合が変化する。例えば被加工物60がトレーシングペーパの場合、突状部材89の移動量が大きく窪みが深いとき白濁は濃くなるのに対し、突状部材89の移動量が小さく窪みが浅いとき白濁は薄くなる。このように窪みごとに「深さ値136」を設定することにより、突状部材89の移動量が設定され、被加工物60に形成される窪みの深さは制御される。
【0045】
この場合、「深さ値136」は、例えば「0.5mm」や「1.2mm」のような実際に深さに限らず、図9の模様データ130に示すように深さの段階に応じて設定した値であってもよい。例えば最も浅い窪みを形成するとき、「深さ値136」は「1」とし、深さに応じて段階的に「深さ値136」は「2」、「3」・・・とし、窪みを形成しないとき「深さ値136」は「0」のように設定してもよい。制御装置100は、これらの実際の深さを示す「深さ値136」又は深さの段階を示す「深さ値136」に基づいて押え棒16、及び押え棒16に装着されたアタッチメント70の突状部材89の移動量を制御する。
【0046】
窪み形成データ131及び穴形成データ132のX座標値134及びY座標値135は、窪み又は穴を形成する位置を示している。制御装置100は、模様データ130のX座標値134及びY座標値135に基づいて移送装置61のXモータ66及びYモータ67を駆動する。これにより、移送装置61の枠部材62に支持された被加工物60は、X座標値134及びY座標値135に基づいて突状部材89の鉛直方向の中心線の延長上又は針部材73の先鋭部(図7(B)参照)の略鉛直方向の中心線の延長上に移送される。その結果、被加工物60には、模様データ130に基づいて図10に示すように窪み141及び穴142からなる形成模様140が形成される。図10における形成模様140において、網掛けされた比較的大きな円形状の部分は窪み141を示し、比較的小さな円形状の部分は穴142を示している。そして、例えばハサミなどを用いて窪み141及び穴142からなる形成模様140の最も外周の穴142に沿って被加工物60を切り出すことにより、図11に示すような完成品150が製作される。完成品150は、網掛けの部分が窪み151に対応し、比較的小さな円形状の内側が穴152に対応する。
【0047】
次に、上記の構成のミシン10によるパーチメントクラフトの処理を説明する。
(メインルーチン)
まず、図12に基づいてミシン10による処理のメインルーチンについて説明する。
ミシン10の制御装置100は、まずパーチメントクラフトを実行するパーチメントクラフトモードであるか否かを判断する(S101)。ミシン10は、パーチメントクラフトに限らず、通常の縫製も実行可能である。そのため、制御装置100は、パーチメントクラフトモード又は縫製モードのいずれが設定されているかを判断する。パーチメントクラフトモードのとき、針棒15及び押え棒16にはアタッチメント70が装着される。具体的には、押え棒16の下端は、アタッチメント70の本体部71に設けられている装着部82に装着される。また、針抱き43のボス部431は、アタッチメント70の第一アーム部材761に設けられている挿入部7611に挿入される。
【0048】
一方、縫製モードのとき、押え棒16には図示しない押え足が装着され、針棒15には図示しない縫針が装着される。また、縫製モードのとき、上糸が巻かれた図示しない糸駒及び下糸が巻かれた図示しないボビンもミシン10に取り付けられる。なお、パーチメントクラフトモードのとき、上糸及び下糸は使用しない。そのため、制御装置100は、上糸の有無を検出する図示しない上糸切れセンサー、及び下糸の残量を検出する図示しない下糸残量センサーからの出力を無視する。本実施形態の場合、パーチメントクラフトモードのとき、ミシン10は移送装置61を装着している。また、縫製モードの場合、移送装置61は、通常縫製を実行するときにはミシン10から取り外され、刺繍縫製を実行するときにはミシン10に装着される。
【0049】
制御装置100は、パーチメントクラフトであると判断すると(S101:Yes)、窪み141を形成するエンボス加工工程を実行すると共に(S102)、穴142を形成する穴開け加工工程を実行する(S103)。本実施形態の場合、被加工物60の全体にエンボス加工工程を実行した後、引き続いて被加工物60の全体に穴開け加工工程を実行する。エンボス加工工程及び穴開け加工工程の詳細は、後述する。制御装置100は、縫製モードであると判断すると(S101:No)。通常の縫製又は刺繍縫製を実行する(S104)。
【0050】
(エンボス加工工程)
図13に基づいてエンボス加工工程について説明する。
メインルーチンのS102においてエンボス加工工程に移行すると、制御装置100は針棒15、押え棒16及び移送装置61を駆動する。具体的には、制御装置100は、針棒15を上位置で停止させると共に、押え棒16を上位置で停止させる(S201)。なお、針棒15及び押え棒16の上位置は、アタッチメント70の針部材73及び突状部材89が被加工物60に接しない範囲であれば、上端の上位置に限らず、上下への往復移動範囲の中間であってもよい。
【0051】
制御装置100は、針棒15及び押え棒16を上位置で停止させると共に、枠部材62に支持された被加工物60を移送装置61によりエンボス加工を実行する位置へ移送する(S202)。制御装置100は、模様データの窪み形成データに基づいて枠部材62を移動する。本実施形態の場合、突状部材89は、アタッチメント70の後端側すなわち針部材73の中心から所定距離だけ離れた位置に支持されている。そのため、制御装置100は、窪み形成データに基づいて、この突状部材89と針部材73との距離を補正値として加算(又は減算)して移送装置61をX方向及びY方向へ駆動する。なお、X座標値134とY座標値135とに前記補正値を夫々組み込んだデータを、窪み形成データ131として設定してもよい。
【0052】
制御装置100は、針棒15、押え棒16及び移送装置61を駆動すると、押え棒16のみを上位置から下位置へ駆動すると共に、さらに押え棒16を下位置から上位置へ駆動する(S203)。制御装置100は、パルスモータ33へ通電することにより、押え棒16を駆動する。このとき、制御装置100は、模様データ130に含まれる深さ値136に基づいて押え棒16の下降量を制御する。このように、制御装置100は、押え棒16のみを上下へ往復駆動させつつ、押え棒16の下方向への移動量を制御する。その結果、アタッチメント70に設けられた突状部材89は被加工物60に窪みすなわちエンボスを形成する。
【0053】
押え棒16を上下へ駆動すると、制御装置100は模様データ130に含まれる窪み形成データ131に基づいて窪み141の形成が全て完了したかを判断する(S204)。制御装置100は、窪み141の形成が全て完了したと判断すると(S204:Yes)、ステップS201へ戻り、模様データ130に含まれている全ての窪み形成データ131に対応する全ての窪み141の形成が完了するまでS201以降の処理を繰り返す。
【0054】
(穴開け加工工程)
図14に基づいて穴開け加工工程について説明する。
メインルーチンのS103における穴開け加工工程に移行すると、制御装置100は針棒15、押え棒16及び移送装置61を駆動する。具体的には、制御装置100は、針棒15を上位置で停止させると共に、押え棒16を上位置で停止させる(S301)。
制御装置100は、針棒15及び押え棒16を上位置で停止させると共に、枠部材62に支持された被加工物60を移送装置61により穴開け加工を実行する位置へ移送する(S302)。制御装置100は、模様データ130の穴形成データ132に基づいて枠部材62を移送する。本実施形態の場合、針部材73は針棒15の中心線上に支持されている。そのため、制御装置100は、穴形成データ132のX座標値134及びY座標値135に基づいて移送装置61をX方向及びY方向へ駆動する。
【0055】
制御装置100は、針棒15、押え棒16及び移送装置61を駆動すると、押え棒16を下方へ駆動すると共に、針棒15を上位置から下位置、及び下位置から上位置へ駆動する(S303)。このとき、押え棒16は、アタッチメント70に取り付けられている突状部材89が被加工物60に接しない程度の位置まで下降する。制御装置100は、ミシンモータ30へ通電することにより、針棒15を駆動する。ミシンモータ30によって駆動される針棒15は、上下方向の移動距離が通常の縫製と同様に一定である。針棒15が上下へ移動すると、針棒15の下端に取り付けられた針抱き43のボス部431が挿入される第一アーム部材761の挿入部7611も上下へ移動する。ボス部431の上下への移動に伴う第一アーム部材761の移動は、第二アーム部材762及び第三アーム部材763を介して針支持部75へ伝達される。このとき、上述のように針抱き43の上下方向の移動は、リンク部76によって縮小されて針支持部75へ伝達される。これにより、針支持部75は、第二支点部86を中心に回転しながら針部材73を上下へ駆動する。その結果、針棒15の上下への移動によって、被加工物60には穴142が形成される。また、このとき、アタッチメント70が取り付けられた押え棒16の下降位置を変更することにより、被加工物60に形成される穴142の径も変更される。
【0056】
針棒15を上下へ駆動すると、制御装置100は模様データ130に含まれる穴形成データ132に基づいて穴142の形成が全て完了したかを判断する(S304)。制御装置100は、穴142の形成が全て完了したと判断すると(S304:Yes)、図12に示すメインルーチンへリターンする。一方、制御装置100は、穴142の形成が完了していないと判断すると(S304:No)、ステップS301へ戻り、模様データ130に含まれる全ての穴形成データ132に対応する全ての穴142の形成が完了するまでS302以降の処理を繰り返す。
【0057】
以上の手順により、図10に示すように被加工物60には、押え棒16の上下への往復移動に伴う突状部材89による窪み141の形成と、針棒15の上下への往復移動に伴う針部材73による穴142の形成とが順に実行される。穴142が形成された被加工物60は、例えばハサミなどにより最も外周の穴142に沿って切り出すことにより、図11に示すような完成品150が製作される。
【0058】
以上説明したアタッチメント70の第1実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
パーチメントクラフトを実行するとき、アタッチメント70はミシン10の針棒15及び押え棒16に装着される。アタッチメント70の針部材73は、針棒15の上下への移動によって被加工物60に穴142を形成する。従って、ミシン10へアタッチメント70を装着することにより、針棒15の駆動によって被加工物60に穴142を形成するため、複数の穴からなる複雑な模様であっても容易に形成することができる。さらに、針棒15から針部材73には、リンク部76を介して駆動力が伝達される。リンク部76は、針棒15の上下方向の移動を縮小して針部材73へ伝達する。そのため、移動距離が比較的大きな針棒15の移動は、被加工物60から抜き差し可能な程度に縮小されて針部材73に伝達される。針部材73の上下方向の移動距離を小さくすると共に、針部材73の周囲を保護部81で覆うことにより、針部材73と被加工物60との間へのユーザの指などの侵入が妨げられる。従って、安全性を高めることができる。
【0059】
アタッチメント70は、第一アーム部材761、第二アーム部材762、第三アーム部材763、第一支点部85及び第二支点部86から構成されるリンク部76を有している。これら第一アーム部材761、第二アーム部材762若しくは第三アーム部材763の長さ、又は第一支点部85若しくは第二支点部86の位置を調整することにより、針棒15の上下への移動距離と針部材73の上下への移動距離との比率が変更される。従って、簡単な構成で針部材73の上下方向の移動量を縮小しつつ、針棒15から針部材73へ駆動力を伝達することができる。
【0060】
また、針部材73が被加工物60に刺さる深さは、アタッチメント70の位置すなわち押え棒16の下端と被加工物60との間の距離によって変化する。また、アタッチメント70に設けられている針部材73は、根元側ほど外径が大きなテーパ状に形成されている。そのため、被加工物60に対し針部材73が深く刺さると比較的大きな径の穴142が形成され、針部材73が浅く刺さると比較的小さな径の穴142が形成される。従って、押え棒16によってアタッチメント70と被加工物60との間の距離を調整することにより、簡単な構成で被加工物60に形成する穴142の径を変化させることができる。
【0061】
アタッチメント70は、本体部71に下側へ突出する突状部材89を備えている。突状部材89は、押え棒16の上下方向の移動に従って本体部71と共に上下へ移動する。そのため、押え棒16を下降させて突状部材89を被加工物60に押し付けることにより、被加工物60には窪み141が形成される。従って、被加工物60に対して針部材73による穴142の形成だけでなく、突状部材89による窪み141の形成も行うことができる。また、押え棒16の下降距離を変化させることにより、被加工物60に形成される窪み141の深さも変化する。これにより、被加工物60に形成される窪み141の深さに応じて窪み141の濃淡も任意に変更することができる。
【0062】
上述したアタッチメント70を備えるミシン10は、以下のような効果を奏する。
アタッチメント70を備えるミシン10は、被加工物60を移送する移送装置61もさらに備えている。そのため、被加工物60は、移送装置61によってX方向及びY方向へ移送される。これにより、被加工物60の移送と窪み141及び穴142の形成とが連動して実行される。そして、移送装置61による被加工物60の移送位置とアタッチメント70による被加工物60への窪み141又は穴142の形成位置とは、模様データ130として関連づけて記憶されている。従って、被加工物60に対する窪み141及び穴142の形成を連動して自動的に実行することができる。
【0063】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態によるアタッチメントを図15及び図16に基づいて説明する。なお、第1実施形態と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
第2実施形態によるアタッチメント170は、図15及び図16に示すように本体部171、連結部172、針部材173及び針部材上下機構部174を有している。針部材上下機構部174は、針部材173を支持する針支持部175、及び伝達機構部176を有している。本体部171は、装着部182及び支持部183により一体に構成されている。装着部182は、押え棒16に装着される。押え棒16のアタッチメント170側の端部すなわち下端部は、装着部182に挿入される。装着部182に挿入された押え棒16をねじ部材184で締め付けることによって、アタッチメント170は押え棒16に装着される。支持部183は、装着部182と一体に構成されている。支持部183は、上端及び下端にそれぞれ前方へ延びる上壁185及び下壁186を有している。支持部183は、上壁185を上下方向へ貫く上穴187、及び下壁186を上下方向へ貫く下穴188を有している。
【0064】
伝達機構部176は、軸部材191、止め輪192及びばね部材193を有している。軸部材191は、上壁185の上穴187及び下壁186の下穴188を貫いており、支持部183に対し上下へ移動可能に支持されている。軸部材191は、軸方向の一端である上端側に連結部172が設けられている。連結部172は、軸部材191の上端の近傍から前方へ延びている。連結部172は、軸部材191と反対側の端部が針抱き43のボス部431に接する。
【0065】
軸部材191は、軸方向の途中に止め輪192を有している。止め輪192は、軸部材191に固定されている。さらに、軸部材191は、軸方向の他端である下端側に針支持部175を有している。針支持部175は、軸部材191の下端に接続し、軸部材191と共に上下へ移動可能である。軸部材191は、ばね部材193の内周側に挿入されている。ばね部材193は、上端側が上壁185に接し、下端側が止め輪192に接している。ばね部材193は、上壁185と止め輪192との間に伸長方向の力を加える。これにより、軸部材191は、ばね部材193から常に下向きの力を受けている。ばね部材193から下向きの力を受けている軸部材191は、止め輪192が下壁186に接することにより、下方への移動が制限される。
【0066】
針支持部175は、軸部材191の下端に接続し、軸部材191と共に上下へ移動する。針支持部175は、針部材173を支持している。針支持部175は、針部材173を挿入する図示しない針挿入穴を有している。針挿入穴に挿入された針部材173は、ねじ部材194を締め付けることによって針支持部175に取り付けられる。針部材173は、第1実施形態と同様に軸方向へ外径が変化するテーパ状であり、針支持部175に支持される根元側ほど外径が大きく形成されている。
【0067】
本体部171は、図15に示すように装着部182の後方に突状部材支持部195を有している。突状部材支持部195は、突状部材196を支持している。突状部材支持部195は、突状部材196を挿入する図示しない挿入穴を有している。挿入穴に挿入された突状部材196は、ねじ部材197を締め付けることによって突状部材支持部195に取り付けられる。これにより、突状部材196は、適宜交換可能である。突状部材196は、第1実施形態と同様に棒状に形成され、先端に凸頭部198を有している。針板17は、針部材173の中心線上で対向する位置に針受け穴199を有している。針支持部175に支持されている針部材173は、針受け穴199へ進入又は退出する。また、針板17は、突状部材196の中心線上で対向する位置に受け部45を有している。
【0068】
次に、アタッチメント170の動作について説明する。
押え棒16は、第1実施形態と同様にパルスモータ33によって上位置と下位置との間で上下へ駆動される。また、針棒15も、第1実施形態と同様にミシンモータ30によって上位置と下位置との間で上下へ駆動される。
【0069】
ここで、パルスモータ33による押え棒16の駆動を停止した状態でミシンモータ30によって針棒15を駆動すると、押え棒16と針棒15との間には上下への相対的な移動に伴う距離の変化が生じる。すなわち、アタッチメント170の本体部171は上下へ移動することなく、針棒15だけが上下に移動する。針棒15の下端には針抱き43が設けられ、この針抱き43のボス部431が軸部材191から延びる連結部172に接している。そのため、針棒15が上下に移動すると、連結部172が設けられている軸部材191は針棒15の上下への移動に従って上下へ移動する。
【0070】
針棒15が上位置にあるとき、図17に示すように針棒15の下端に設けられている針抱き43に接する連結部172は針抱き43によって上方へ引き上げられている。そのため、連結部172が設けられている軸部材191は、ばね部材193の押し付け力に抗して上方へ移動し、軸部材191と一体に針支持部175も上昇する。従って、針棒15が上位置にあるとき、針部材173は被加工物60から最も離れた位置にある。図17は、アタッチメント170が上位置にあるときを示す概略図であり、(A)は斜視図、(B)は正面図である。
【0071】
針棒15が下降すると、針棒15の下端に設けられている針抱き43も下降する。このとき、連結部172が設けられている軸部材191は、止め輪192を介してばね部材193から下方へ力を受けている。そのため、連結部172と針抱き43とは接触を維持したまま、軸部材191は針棒15の下降に従って下方へ移動する。そして、軸部材191は、図18に示すように止め輪192が下壁186に接触するまで下方へ移動する。止め輪192が下壁186に接触すると、軸部材191はさらに下方への移動が制限される。従って、針棒15が上位置から所定の位置まで下降すると、針部材173は被加工物60に突き刺さる位置となる。図18は、下降中のアタッチメント170を示す概略図であり、(A)は斜視図、(B)は正面図である。
【0072】
針棒15は、図18に示すように止め輪192が下壁186に接触した後も、さらに下降する。そして、針棒15は、最も下方の下位置まで下降する。止め輪192が下壁186に接触してから針棒15が下位置まで移動する間、針抱き43と連結部172との接触は解除される。そのため、この間、針部材173は被加工物60に突き刺さった状態を維持する。
【0073】
針棒15が下位置から再び上昇しても、針抱き43と連結部172とが接触するまで、針部材173は被加工物60に突き刺さった状態を維持する。そして、針棒15がさらに上昇すると、針抱き43は再び連結部172と接触する。針抱き43と共に針棒15がさらに上昇することにより、連結部172が設けられている軸部材191は針棒15の上昇に従って、ばね部材193を圧縮しながら上昇する。そのため、軸部材191に取り付けられている針支持部175は軸部材191と共に上昇し、針部材173は被加工物から離脱する。
【0074】
このように、針棒15の上下への移動は、針抱き43、連結部172、軸部材191及び針支持部175を介して針部材173に伝達される。これにより、針部材173は、針棒15の上下への移動によって、上下へ移動する。第2実施形態の場合、軸部材191に固定されている止め輪192と下壁186とが接触し、針抱き43と連結部172との接触が解除された後でも、針棒15は下降を継続する。そのため、針部材173は、針抱き43と連結部172とが接触している間のみ上下へ移動する。その結果、針棒15の上下方向の移動量に対し、針部材173の上下方向の移動量は小さくなる。
【0075】
突状部材196を利用して被加工物60に窪みを形成する場合、針棒15が上位置で停止した状態、即ち針部材173が上方に位置した状態で、押え棒16が上下に駆動される。押え棒16が上下に駆動されるとことにより、アタッチメント70は押え棒16と共に上下へ移動する。そのため、突状部材支持部195に取り付けられている突状部材196も押え棒16と共に上下へ移動する。その結果、押え棒16の下降によって突状部材196が下降するとき、被加工物60には窪みが形成される。
【0076】
以上説明したアタッチメント170の第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
また、第2実施形態のアタッチメント170では、リンク部によって駆動力を伝達する第1実施形態と比較して、部品点数が低減され、より簡単な構成とすることができる。また、止め輪192の位置、或は針支持部175からの針部材173の突出量等を変更することにより、容易に針部材173の上下方向の移動距離を変更することができる。第2実施形態では、第1実施形態と異なり針部材173は針棒15の中心線上に位置していない。そのため、移送装置61で被加工物60を移送する場合、突状部材196による窪みの形成だけでなく、針部材173による穴の形成の際も、針棒15に対する針部材173の位置は補正される。
【0077】
なお、第2実施形態では、針抱き43のボス部431の上側に連結部172が接する構成について説明した。しかし、ボス部431の下側に連結部172が接する構成としてもよい。この場合、針棒15が上位置から下位置へ下降する途中で針抱き43が連結部172に接触し、針棒15の下降に従って連結部172と共に軸部材191を下方へ移動させることにより、針部材173は被加工物60に突き刺さる。そして、針棒15が上昇するとき、連結部172は軸ばね部材193の力によって針抱き15との接触を維持しつつ上昇し、針部材173は被加工物60から離脱する。この場合、針部材173の突出量は、針棒13の下位置によって一定であるので、被加工物60に形成される穴の径も一定となる。穴の径を変更する場合は、ねじ部材194を操作して針支持部175に対する針部材173の取り付け位置(上下位置)を変更する。
【0078】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0079】
10 ミシン
15 針棒
16 押え棒
26 針棒上下機構部
27 押え棒上下機構部
43 針抱き
60 被加工物
61 移送装置
70 アタッチメント(加工アタッチメント)
71 本体部
72 連結部
73 針部材
74 針部材上下機構部
76 リンク部(伝達機構)
89 突状部材
100 制御装置(制御手段)
102 ROM(記憶手段)
106 外部記憶装置(記憶手段)
170 アタッチメント(加工アタッチメント)
171 本体部
172 連結部
173 針部材
174 針部材上下機構部
176 伝達機構部(伝達機構)
196 突状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を押圧する着脱可能な押え足を下端部に装着する押え棒と、前記押え棒を上下動させる押え棒上下機構部と、前記被加工物を貫く着脱可能な縫針を装着する針抱きを下端部に有する針棒と、前記針棒を上下動させる針棒上下機構部とを備えるミシンの前記押え棒に着脱可能に装着して前記被加工物を加工する加工アタッチメントであって、
前記押え棒の下端に装着可能な本体部と、
前記針抱きに連結可能であり、且つ前記針棒上下機構部による前記針棒の上下動に伴って前記針棒と共に上下へ移動可能な連結部と、
前記被加工物を貫いて前記被加工物に穴を形成する針部材と、
前記連結部の上下動により前記針部材を上下動させる針部材上下機構部と、
を備えることを特徴とする加工アタッチメント。
【請求項2】
前記針部材上下機構部は、前記針棒の上下方向の移動量に対して前記針部材の上下方向の移動量が小さくなるように前記針部材を上下動させる伝達機構を有することを特徴とする請求項1記載の加工アタッチメント。
【請求項3】
前記針部材は、軸方向へ外径が変化するテーパ状であることを特徴とする請求項1又は2記載の加工アタッチメント。
【請求項4】
前記本体部に、前記被加工物を押圧して前記被加工物を窪ませる突状部材をさらに備え、
前記押え棒上下機構部により前記押え棒を上下動させることに伴い、前記突状部材を上下動させることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の加工アタッチメント。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載の加工アタッチメントと、
保持された前記被加工物を、前後方向であるY方向と、このY方向と直交する左右方向であるX方向へ移送する移送装置と、
前記移送装置による前記被加工物のX方向又はY方向の少なくともいずれか一方への移送と、前記アタッチメントによる前記被加工物への穴の形成とを連動して実行する制御手段と、
を備えることを特徴とするミシン。
【請求項6】
前記移送装置による前記被加工物の移送位置と前記加工アタッチメントによる前記穴の形成位置とを関連づけた穴形成データを記憶する記憶手段をさらに備えることを特徴とする請求項5記載のミシン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2010−193951(P2010−193951A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39308(P2009−39308)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.EEPROM
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】