説明

加工方法

【課題】加工位置を適正に検出しながら被加工物に対して分割予定ラインに沿った高精度なレーザー加工を施すこと。
【解決手段】ある実施の形態における加工方法において、ズレ量算出工程は、加工対象の第1の分割予定ライン11に沿って最も表面側の改質領域を形成する前に、被加工物1を透過させて内部を撮像する撮像ユニット255によって加工対象の第1の分割予定ライン11に対して形成済みの改質領域17bを撮像し、その加工位置を検出して加工対象の第1の分割予定ライン11のY座標上の位置とのズレ量L21を算出する。そして、位置付け工程は、レーザー照射ユニットをY座標方向に割り出し送りして次に加工対象とする第1の分割予定ライン11に位置付ける際に、第1の分割予定ライン11間の距離によって定まる割り出し送り位置をズレ量L21分ずらして割り出し送りする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハ等の被加工物を加工する加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエーハや光デバイスウエーハ等の被加工物を分割予定ラインに沿って分割する方法として、被加工物に対して透過性を有するパルス状の加工用レーザービーム(パルスレーザービーム)を用い、このパルスレーザービームを被加工物の内部に集光点を合わせて照射するレーザー加工方法が試みられている(例えば、特許文献1を参照)。このレーザー加工方法を用いた分割方法では、例えば、被加工物の表面側から被加工物の内部に集光点を合わせた状態でレーザー照射手段によって前述のパルスレーザービームを照射し、被加工物の内部に分割予定ラインに沿った改質領域を連続的に形成する。そして、被加工物に外力を加えることにより、改質領域が形成されたことで強度が低下した分割予定ラインに沿って被加工物を分割する。ここで、特許文献1では、被加工物内部の所定位置に改質領域を形成しているが、表面からの深さ方向の位置を異ならせて複数層の改質領域を形成する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3408805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したレーザー加工方法では、改質領域の形成に先立ち、分割予定ラインとレーザー照射手段との位置合わせを行う。この位置合わせは、レーザー照射手段との位置関係が固定されたカメラを用いて被加工物の表面を撮像することにより分割予定ラインを検出し、レーザー照射手段とカメラとの位置関係をもとに分割予定ライン上にレーザー照射手段を位置付けることで行われている。しかしながら、被加工物にレーザー加工を施す過程で変動する温度等により、レーザー照射手段とカメラとの位置関係がレーザー加工の実施途中で変化する場合がある。この問題を解決するためには、実際に改質領域が形成された位置(加工位置)をカメラで撮像する等して随時検出し、分割予定ラインに沿っているかを確認する必要がある。
【0005】
ところで、被加工物の内部に改質領域を複数層形成する場合、表面側に形成した改質領域を基点としたクラックが被加工物の表面に発生する場合があるが、このクラックは改質領域の直上に発生するとは限らない。このため、単にカメラで加工位置を撮像してしまうと、クラックによって加工位置を正しく検出できないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みて為されたものであり、加工位置を適正に検出しながら被加工物に対して分割予定ラインに沿った高精度なレーザー加工を施すことができる加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる加工方法は、XY座標上に表面を有し、該表面に定められた複数の分割予定ラインがX座標方向に沿うように配置された板状の被加工物に対し、パルスレーザー照射手段をY座標方向に順次割り出し送りして加工対象の分割予定ラインに位置付け、前記パルスレーザー照射手段をX座標方向に加工送りさせながら前記被加工物を透過する波長のパルスレーザービームを前記被加工物の内部に集光点を合わせて照射することで、前記表面に直交するZ座標上の位置が異なる複数の改質領域を前記被加工物の裏面側から順次重ねて形成する加工方法であって、前記加工対象の分割予定ラインに沿って前記複数の改質領域を形成する過程において前記Z座標上の位置が最も表面側の改質領域を形成する前に、前記被加工物を透過させて内部を撮像する撮像手段を用いて前記加工対象の分割予定ラインに沿って形成済みの改質領域を撮像し、該形成済みの改質領域のY座標上の位置を検出して前記加工対象の分割予定ラインのY座標上の位置とのズレ量を算出するズレ量算出工程と、前記パルスレーザー照射手段をY座標方向に割り出し送りして次に加工対象とする分割予定ラインに位置付ける際に、前記分割予定ライン間の距離によって定まる割り出し送り位置を前記ズレ量分ずらして前記パルスレーザー照射手段を割り出し送りする位置付け工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加工対象の分割予定ラインに沿って複数の改質領域を被加工物の裏面側から順次重ねて形成する過程において、最も表面側の改質領域を形成する前に、加工対象の分割予定ラインに沿って形成済みの改質領域を撮像することによってそのY座標上の位置を検出し、加工対象の分割予定ラインのY座標上の位置とのズレ量を算出することができる。これによれば、改質領域を基点として被加工物の表面に発生するクラックの影響を受けずに適正に加工位置を検出してズレ量を算出することができる。そして、パルスレーザー照射手段をY座標方向に割り出し送りして次の加工対象の分割予定ラインに位置付ける際に、分割予定ライン間の距離によって定まる割り出し送り位置を前述のように最も表面側の改質領域を形成する前に算出したズレ量分ずらして位置付けることができる。これによれば、加工対象の分割予定ラインのY座標上の位置と実際に改質領域が形成された加工位置との位置ズレを補正してパルスレーザー照射手段を次の加工対象の分割予定ラインに位置付けることができる。したがって、加工位置を適正に検出しながら被加工物に対して分割予定ラインに沿った高精度なレーザー加工を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、加工装置の構成およびこの加工装置がレーザー加工を施す被加工物の構成を説明する模式図である。
【図2】図2は、被加工物の表面を示す平面図である。
【図3】図3は、被加工物の内部に形成される改質領域を示す模式図である。
【図4】図4は、このクラックを説明する断面図である。
【図5】図5は、加工方法を実施する加工装置の動作手順を説明するフローチャートである。
【図6】図6は、加工方法の工程を説明する説明図である。
【図7】図7は、加工方法の他の工程を説明する説明図である。
【図8】図8は、加工方法の他の工程を説明する説明図である。
【図9】図9は、加工方法の他の工程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態である加工方法について図面を参照して説明する。本実施の形態では、被加工物にレーザー加工を施す加工装置への適用例を示す。図1は、加工装置2の構成およびこの加工装置2がレーザー加工を施す被加工物1の構成を説明する模式図である。
【0011】
図1に示すように、被加工物1は、円板形状を有し、その表面側に第1の分割予定ライン11と第2の分割予定ライン13とが格子状に配列され、これら第1の分割予定ライン11および第2の分割予定ライン13によって区画された複数の矩形領域にデバイス15が形成されて構成される。被加工物1の具体例としては、特に限定されないが、例えばシリコンウエーハ等の半導体ウエーハ、サファイア(Al23)系の無機材料基板等のミクロンオーダの加工位置精度が要求される各種加工材料が挙げられる。
【0012】
この被加工物1にレーザー加工を施す加工装置2は、保持手段21と、X駆動手段23と、Y駆動手段24と、レーザー加工手段25と、Z駆動手段27と、制御手段29とを含む。
【0013】
保持手段21は、被加工物1に応じた大きさのチャックテーブルを主体とするものであり、XY座標平面と平行な保持面211を有する。被加工物1は、前述のように第1の分割予定ライン11と第2の分割予定ライン13とが格子状に配列されてデバイス15が形成された表面を上にして保持手段21に搬入され、保持面211上に保持される。より具体的には、搬入時において被加工物1は、第1の分割予定ライン11がX座標方向に、第2の分割予定ライン13がY座標方向に沿う向きで保持面211上に保持される。
【0014】
このように被加工物1を保持面211上で保持する保持手段21は、X駆動手段23およびY駆動手段24によってX座標方向およびY座標方向に移動自在に構成されている。X駆動手段23は、保持手段21をX座標方向に移動駆動して保持手段21を加工送りするための駆動源であるモータや、保持手段21のX座標方向の位置(X位置)を検出するX位置検出手段等(不図示)を具備して構成され、制御手段29の制御のもと、所定のX位置に保持手段21を移動駆動する。同様に、Y駆動手段24は、保持手段21をY座標方向に移動駆動して保持手段21を割り出し送りするための駆動源であるモータや、保持手段21のY座標方向の位置(Y位置)を検出するY位置検出手段等(不図示)を具備して構成され、制御手段29の制御のもと、所定のY位置に保持手段21を移動駆動する。さらに、保持手段21は、不図示の回転駆動手段により、保持面211の中心を通る鉛直軸を軸中心として回転自在に構成されている。
【0015】
レーザー加工手段25は、保持面211上に保持された被加工物1をレーザー加工するためのものであり、支持部材251と、この支持部材251に対して互いの位置関係が固定された状態で取り付けられたパルスレーザー照射手段としてのレーザー照射ユニット253および撮像手段としての撮像ユニット255とを備える。
【0016】
レーザー照射ユニット253は、保持面211上の被加工物1に対してパルスレーザービームを照射し、被加工物1の内部に改質領域を形成するためのものであり、その下端部に保持面211上の被加工物1の表面と対向するように配設された集光器254を具備している。一方、支持部材251の内部には、レーザービーム発振手段や伝送光学系等(不図示)が配設されており、レーザー照射ユニット253は、これらレーザービーム発振手段や伝送光学系と協働し、集光器254の鉛直下方に位置付けられる被加工物1の表面側からパルスレーザービームを照射する。
【0017】
集光器254は、レーザービーム発振手段によって発振されるパルスレーザービームを保持面211上の被加工物1に向けて集光させるための集光レンズや、レーザービーム発振手段からのパルスレーザービームを保持面211上の被加工物1に向けて反射させるためのミラーといった光学系が内部に配設されたものである。また、レーザービーム発振手段は、保持面211上の被加工物1を透過する所定波長(例えば1064nm)のパルスレーザービームを発振するためのものであり、例えばYAGレーザー発振器やYVO4レーザー発振器等からなるレーザービーム発振器等で構成される。
【0018】
撮像ユニット255は、被加工物1のレーザー加工すべき位置(第1の分割予定ライン11や第2の分割予定ライン13の中心位置)を集光器254の鉛直下方に位置付けるためのアライメントを行うとともに、実際にパルスレーザービームが照射されてレーザー加工が施された位置(加工位置)を検出してレーザー加工すべき位置を補正するためのものである。この撮像ユニット255は、例えば、保持面211上の被加工物1と対向するように配設された対物レンズ等を含む顕微鏡構造体(不図示)と、この顕微鏡構造体による被加工物1の拡大観察像を撮像するカメラ(不図示)とからなり、保持面211上の被加工物1を撮像し、得られた画像データを制御手段29に出力する。撮像ユニット255を構成するカメラは、例えば赤外線カメラで構成される。本実施の形態では、被加工物1としてシリコンウエーハを想定しており、このカメラによって赤外光を検出し、被加工物1の表面を透過して被加工物1の内部を撮像する。ただし、この撮像ユニット255のカメラは、被加工物1の内部を撮像できればよい。
【0019】
このようにレーザー照射ユニット253および撮像ユニット255が取り付けられた支持部材251は、Z駆動手段27によってXY座標平面に直交するZ座標方向に移動自在に構成されている。Z駆動手段27は、支持部材251をZ座標方向に移動駆動するための駆動源であるモータや、支持部材251のZ座標方向の位置(Z位置)を検出するZ位置検出手段等(不図示)を具備して構成され、制御手段29の制御のもと、所定のZ位置に支持部材251を移動駆動する。この構成によって集光器254に内蔵された集光レンズを保持面211に対して垂直に移動させることができ、レーザー加工手段25は、集光レンズによって集光されるパルスレーザービームの集光点位置(Z位置)の調整が可能な構成とされている。
【0020】
制御手段29は、加工装置2の動作に必要な各種データを保持するメモリを内蔵したマイクロコンピュータ等で構成され、加工装置2を構成する各部の動作を制御して加工装置2を統括的に制御する。
【0021】
なお、本加工装置2では、X駆動手段23およびY駆動手段24によって保持手段21をX座標方向およびY座標方向に移動させ、Z駆動手段27によって支持部材251をZ座標方向に移動させる構成としたが、保持手段21と支持部材251とが互いにX,Y,Zの各座標方向で相対移動可能な構成であれば別の構成でもよい。例えば、支持部材251を固定とし、保持手段21をX,Y,Zの各座標方向に移動させる構成としてもよいし、保持手段21を固定とし、支持部材251をX,Y,Zの各座標方向に移動させる構成としてもよい。あるいは、保持手段21および支持部材251の双方をX,Y,Zの各座標方向に沿って互いに逆方向に移動させることでこれらを相対移動させる構成とすることもできる。X,Y,Zの各座標方向に沿って保持手段21および支持部材251の何れを移動させるのかや、保持手段21および支持部材251の双方を移動させるのかは適宜設定できる。
【0022】
次に、以上のように構成される加工装置2が被加工物1に施すレーザー加工の流れについて説明する。図2は、被加工物1の表面を示す平面図である。被加工物1に対するレーザー加工では先ず、撮像ユニット255が被加工物1の表面を撮像することによって最初に加工対象とする第1の分割予定ライン11の中心位置(Y位置)を検出し、検出した第1の分割予定ライン11の中心位置を集光器254の鉛直下方に位置付けて第1の分割予定ライン11の中心位置と集光レンズとの位置合わせ(アライメント)を行う。例えば、図2中に示す最下段の第1の分割予定ライン11−1を最初に加工対象とすることとすると、この第1の分割予定ライン11−1の中心位置(第1の分割予定ライン11−1の破線で示す中心線C11上のY位置)を検出した後、既知であるレーザー照射ユニット253と撮像ユニット255との位置関係(距離)をもとに保持手段21をY座標方向にずらすことで位置合わせを行う。なお、レーザー照射ユニット253と撮像ユニット255との距離は、予め設定値として定義して制御手段29のメモリに保持しておく。
【0023】
このようなアライメントの後、第1の分割予定ライン11−1を加工対象としたレーザー加工を行う。具体的には、保持手段21をX座標方向に加工送りさせながらレーザー照射ユニット253が順次パルスレーザービームを照射することにより、第1の分割予定ライン11−1に沿って改質領域を形成する。その後は、順次隣接する第1の分割予定ライン11の中心位置を集光器254の鉛直下方に位置付けて加工対象を移しながら第1の分割予定ライン11のそれぞれに沿って改質領域を形成する。ここで、集光器254の鉛直下方に対する第1の分割予定ライン11の中心位置の位置付けは、デバイス15を挟んで隣接する第1の分割予定ライン11の中心位置間の距離L11を用いて行う。例えば、第1の分割予定ライン11−1に対する改質領域の形成を終えた場合であれば、距離L11の分だけ保持手段21をY座標方向にずらした位置を割り出し送り位置として割り出し送りすることで、第1の分割予定ライン11−2の中心位置(第1の分割予定ライン11−2の破線で示す中心線C13上のY位置)を集光器254の鉛直下方に位置付ける。
【0024】
そして、全ての第1の分割予定ライン11に対してそれぞれ改質領域を形成したならば、保持手段21を90度回転させることで第2の分割予定ライン13がX座標方向に沿うように被加工物1の姿勢を変更する。そして、第1の分割予定ライン11に対する動作と同様にアライメントを行った後、順次第2の分割予定ライン13の中心位置を集光器254の鉛直下方に位置付けて加工対象を移しながら第2の分割予定ライン13のそれぞれに沿って改質領域を形成する。集光器254の鉛直下方に対する第2の分割予定ライン13の中心位置の位置付けは、第2の分割予定ライン13の中心位置間の距離L13を用い、距離L13の分だけ保持手段21をY座標方向にずらした位置を割り出し送り位置として割り出し送りすることで行う。この距離L13は、前述の第1の分割予定ライン11の中心位置間の距離L11とともに予め設定値として定義し、制御手段29のメモリに保持しておく。
【0025】
図3は、以上のように第1の分割予定ライン11および第2の分割予定ライン13のそれぞれに沿って被加工物1の内部に形成される改質領域を1つの第1の分割予定ライン11に着目して示す模式図であり、図3では、被加工物1の一部をこの着目する第1の分割予定ライン11に沿って切り欠いて内部に形成される改質領域17a,17b,17cを示すとともに、レーザー照射ユニット253によって照射されるパルスレーザービームを二点鎖線で示している。本実施の形態では、第1の分割予定ライン11毎および第2の分割予定ライン13毎に被加工物1の内部においてその表面からの深さ方向の位置(Z位置)が異なる複数層(図3では3層)の改質領域17a,17b,17cを形成する。
【0026】
例えば、これらの深さ方向に重なる3層の改質領域17a,17b,17cは、最下層の改質領域17aから順番に順次その深さ位置に集光点を合わせながらパルスレーザービームを照射することによって形成する。すなわち先ず、パルスレーザービームの集光点位置が最下層の改質領域の深さ位置(以下、「最下層位置」と呼ぶ。)と一致するように予め設定されたZ位置に支持部材251を移動させる。そして、このようにして最下層位置に集光点を合わせた状態でパルスレーザービームを照射し、最下層位置において第1の分割予定ライン11に沿った改質領域17aを形成する。
【0027】
続いて、パルスレーザービームの集光点位置が中央層の改質領域の深さ位置(以下、「中央層位置」と呼ぶ。)と一致するように予め設定されたZ位置に支持部材251を移動させる。そして、このようにして中央層位置に集光点を合わせた状態でパルスレーザービームを照射し、中央層位置において第1の分割予定ライン11に沿った改質領域17bを形成する。さらに、パルスレーザービームの集光点位置が最上層の改質領域の深さ位置(以下、「最上層位置」と呼ぶ。)と一致するように予め設定されたZ位置に支持部材251を移動させる。そして、図3中に一点鎖線で示すように、このようにして最上層位置に集光点を合わせた状態で被加工物1の表面側からパルスレーザービームを照射し、最上層位置において第1の分割予定ライン11に沿った改質領域17cを形成する。なお、ここでは3層の改質領域を例示したが、2層以上の所定数の改質領域を適宜形成することとしてよい。
【0028】
ここで、改質領域とは、密度や屈折率、機械的強度、あるいはその他の物理的特性が加工前と異なる状態の領域のことをいう。例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等が挙げられ、これらが混在した領域を含む。
【0029】
ところで、上記したように、レーザー照射ユニット253と撮像ユニット255との距離は、レーザー加工の過程で変動する温度等により、レーザー加工の実施途中で変化する場合がある。このため、アライメントを行って第1の分割予定ライン11または第2の分割予定ライン13の中心位置と集光レンズとを位置合わせした際にこれらの間に位置ズレが生じる場合があり、第1の分割予定ライン11および第2の分割予定ライン13の中心位置と、これら第1の分割予定ライン11および第2の分割予定ライン13に対する加工位置とにズレが生じてしまう。したがって、実際に加工位置をカメラで撮像する等して随時検出し、この位置ズレを補正する必要があった。
【0030】
一方で、被加工物1の表面側にパルスレーザービームを照射して改質領域を形成すると、形成した改質領域を基点としたクラックが被加工物1の表面に発生する場合がある。図4は、このクラックを説明する断面図である。この図4では、3層の改質領域17a,17b,17cが形成された被加工物1の内部の様子をY座標方向から示しており、最も表面側の最上層の改質領域17cを基点として被加工物1の表面側に発生したクラック191,193を示している。
【0031】
ここで、図4に向かって左側の最上層の改質領域17cによって発生したクラック191は、Z座標方向に沿って改質領域17cの略鉛直上方に形成されている。一方、図4に向かって右側の最上層の改質領域17cによって発生したクラック193は、改質領域17cから被加工物1の表面側に向けて右斜め方向に形成されている。このように、最上層の改質領域17cによって被加工物1の表面側に発生するクラックは、最上層の改質領域17cの鉛直上方に形成されるとは限らない。このため、最上層の改質領域17cを形成した後で加工位置を撮像するのでは、このクラックによって加工位置を正しく検出できない場合がある。
【0032】
そこで、本実施の形態では、最上層の改質領域17cを除く下位層の改質領域17a,17bを形成した時点で被加工物1の内部を撮像し、加工対象としている第1の分割予定ライン11または第2の分割予定ライン13の中心位置と下位層の改質領域の加工位置(下位層のうちの最も上層の改質領域(本実施の形態では中央層の改質領域17b)の加工位置)とを検出し、これらの位置ズレを、次に加工対象とする第1の分割予定ライン11または第2の分割予定ライン13の中心位置を集光器254の鉛直下方に位置付ける際の補正に用いる。
【0033】
次に、以上のように構成され、被加工物1の内部に複数層の改質領域を形成する加工装置2の動作について図5〜図9を参照して説明する。ここで、図5は、本実施の形態の加工方法を実施する加工装置2の動作手順を説明するフローチャートである。加工装置2は、図5の各工程に従って動作することで加工方法を実施する。なお、以下説明する加工装置2の動作は、制御手段29が装置各部を制御することで実現される。また、図6〜図9は、加工方法の各工程を説明する説明図であり、各工程での被加工物1の内部の様子をY座標方向から示している。
【0034】
図5に示すように、加工装置2は先ず、被加工物1の表面に配列された第1の分割予定ライン11の中心位置と集光レンズとの位置合わせ(アライメント)を行う(ステップS1)。ここで、アライメントに先立ち、不図示の搬入手段が表面を上にした状態で被加工物1を保持手段21に搬入し、その後保持手段21が不図示の吸引手段を駆動して保持面211上で被加工物1を吸引保持する。
【0035】
そして、ステップS1では、制御手段29は先ず、X駆動手段23およびY駆動手段24を駆動して保持面211上の被加工物1を撮像ユニット255の鉛直下方に位置付ける。続いて、撮像ユニット255を駆動して被加工物1を撮像し、得られた画像データにパターンマッチング等の画像処理を施す。そして、この画像処理の結果をもとに保持手段21を回転させ、第1の分割予定ライン11がX座標方向に、第2の分割予定ライン13がY座標方向に沿うように保持面211上の被加工物1の向きを調整するとともに、デバイス15を区画している第1の分割予定ライン11の中心位置(例えば最初に加工対象とする図2に示した最下段の第1の分割予定ライン11−1の中心線C11上の位置)を検出し、X駆動手段23およびY駆動手段24を駆動して撮像ユニット255の鉛直下方に位置付ける。その後、レーザー照射ユニット253と撮像ユニット255との距離の分だけ保持手段21をY座標方向にずらすことで最初に加工対象とする第1の分割予定ライン11の中心位置を集光器254の鉛直下方に位置付け、第1の分割予定ライン11を加工対象とする。
【0036】
続いて、加工対象の第1の分割予定ライン11に沿って被加工物1の内部に上記したような複数層(本実施の形態では3層)の改質領域を形成するが、本実施の形態の加工装置2は先ず、図5に示すように、最上層を除く下位層の改質領域を裏面側から順次重ねて形成する(ステップS3)。
【0037】
このステップS3では、制御手段29は先ず、Z駆動手段27を駆動して支持部材251をZ座標方向に移動させ、被加工物1内部の最下層位置に集光レンズの集光点を合わせる。そして、X駆動手段23を駆動して保持手段21をX座標方向に加工送りさせるとともに、これと並行してレーザー照射ユニット253を駆動し、被加工物1の表面側からパルスレーザービームを照射する。これにより、パルスレーザービームが最下層位置に集光され、図6に示すように、加工対象の第1の分割予定ライン11に沿って被加工物1の内部に改質領域17aが形成される。さらに、Z駆動手段27を駆動して支持部材251をZ座標方向に移動させ、図6中に一点鎖線で示すように、改質領域17aよりも上方の中央層位置に集光レンズの集光点を合わせる。そして、X駆動手段23を駆動して保持手段21をX座標方向に加工送りさせるとともに、これと並行してレーザー照射ユニット253を駆動し、被加工物1の表面側からパルスレーザービームを照射する。これにより、パルスレーザービームが中央層位置に集光され、加工対象の第1の分割予定ライン11に沿って改質領域17aの上方に改質領域17bが形成される。
【0038】
続いて、図5に示すように、加工装置2は、ズレ量算出工程として、ステップS3で形成した下位層の改質領域の加工位置を検出し、第1の分割予定ライン11の中心位置と検出した加工位置とのズレ量を算出する(ステップS5)。
【0039】
具体的には、制御手段29は先ず、Y駆動手段24を駆動し、レーザー照射ユニット253と撮像ユニット255との距離の分だけ保持手段21をY座標方向にずらすことで下位層の改質領域17a,17bを形成した加工位置を撮像ユニット255の鉛直下方に位置付ける。そして、撮像ユニット255を駆動して図7中に二点鎖線で示すように被加工物1を撮像し、得られた画像データを画像処理することで加工対象の第1の分割予定ライン11の中心位置と下位層の改質領域の加工位置(下位層のうち最も上層の改質領域17bの加工位置)とを検出してこれらのズレ量L21を算出する。なお、このようにしてズレ量L21を算出した後は、レーザー照射ユニット253と撮像ユニット255との距離の分だけ保持手段21をY座標方向にずらすことで、下位層の改質領域17a,17bの加工位置を集光器254の鉛直下方に位置付ける。
【0040】
続いて、図5に示すように、加工装置2は、ステップS3で形成済みの下位層の改質領域の上方に最上層の改質領域を形成する(ステップS7)。このステップS7では、制御手段29は先ず、Z駆動手段27を駆動して支持部材251をZ座標方向に移動させ、図8中に一点鎖線で示すように、下位層の改質領域17a,17bよりも上方の最上層位置に集光レンズの集光点を合わせる。その後、X駆動手段23を駆動して保持手段21をX座標方向に加工送りさせるとともに、これと並行してレーザー照射ユニット253を駆動し、被加工物1の表面側からパルスレーザービームを照射する。これにより、パルスレーザービームが最上層位置に集光され、第1の分割予定ライン11に沿って前段の工程で形成済みの改質領域17a,17bよりも上方に改質領域17cが形成される。
【0041】
そして、図5に示すように、今回の加工対象が第1の分割予定ライン11の中の最終ラインであるか否かを判定する。最終ラインでなければ(ステップS9:No)、加工装置2は、位置付け工程として、ステップS5で算出したズレ量をもとに第1の分割予定ライン11の中心位置と実際の改質領域の加工位置との位置ズレを補正し、次の第1の分割予定ライン11に加工対象を移す(ステップS11)。
【0042】
このステップS11では、制御手段29は先ず、図9に示すように、図2に示して説明したように予め設定値として定義されている第1の分割予定ライン11の中心位置間の距離L11と、ステップS5で算出したズレ量L21とをもとに、移動量L31を決定する。そして、保持手段21を決定した移動量L31に従ってY座標方向に割り出し送りさせることで距離L11によって定まる次の割り出し送り位置をズレ量L21分ずらし、デバイス15を挟んで隣接する次の加工対象の第1の分割予定ライン11の中心位置を集光器254の鉛直下方に位置付ける。これにより、今回加工対象とした第1の分割予定ライン11の中心位置と、実際に改質領域17a,17b,17cが形成された加工位置とのズレ量が補正され、次の第1の分割予定ライン11の中心位置が集光器254の鉛直下方に位置付けられる。
【0043】
その後は、加工装置1は、図5に示すように、ステップS3に戻って次の加工対象の第1の分割予定ライン11に沿って被加工物1の内部に最上層を除く下位層の改質領域を形成する。すなわち、図9中に一点鎖線で示すようにパルスレーザービームを最下層位置に集光させ、この次の加工対象の第1の分割予定ライン11に沿って被加工物1の内部に改質領域17cを形成させる。そして、加工装置1は、ステップS5以降の動作を同様に繰り返し行う。
【0044】
一方、図5に示すように、ステップS9において加工対象ラインが最終ラインと判定した場合には(ステップS9:Yes)、保持手段21を90度回転させることで、第2の分割予定ライン13がX座標方向に沿う向きに被加工物1を変位させる(ステップS13)。そして、第2の分割予定ライン13に対してステップS1〜ステップS11と同様の工程を行って、第2の分割予定ライン13のそれぞれに複数層の改質領域を形成する。すなわち、加工装置2は、第2の分割予定ライン13の中心位置と集光レンズとのアライメントを行った上で(ステップS15)、加工対象の第2の分割予定ライン13に沿って最上層を除く下位層の改質領域を形成する(ステップS17)。続いて、加工装置2は、形成した下位層の改質領域の加工位置を検出し、第2の分割予定ライン13の中心位置と検出した加工位置とのズレ量を算出する(ステップS19)。その後、加工装置2は、ステップS17で形成済みの下位層の改質領域の上方に最上層の改質領域を形成する(ステップS21)。そして、加工対象とした第2の分割予定ライン13が最終ラインでない間は(ステップS23:No)、ステップS19で算出したズレ量をもとに第2の分割予定ライン13の中心位置と実際の改質領域の加工位置との位置ズレを補正して次の第2の分割予定ライン13に加工対象を移し(ステップS25)、ステップS17に戻って第2の分割予定ライン13のそれぞれに複数層の改質領域を順次形成する。そして、最終ラインと判定したならば(ステップS23:Yes)、本加工方法を終える。
【0045】
なお、本加工方法によって被加工物1の内部に複数層の改質領域が形成された被加工物1は、保持手段21から搬出されて不図示の分割装置に装着され、この分割装置において個々のチップに分割される。具体的には、分割装置は、被加工物1に外力を加えることにより、改質領域が形成されたことで強度が低下した第1の分割予定ライン11および第2の分割予定ライン13に沿って被加工物1を分割する。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態によれば、最上層を除く下位層の改質領域を形成した時点で、加工対象のライン(第1の分割予定ライン11または第2の分割予定ライン13)と実際に形成した下位層の改質領域の加工位置とのズレ量を算出することができる。これによれば、改質領域を基点として被加工物の表面に発生するクラックの影響を受けずに加工対象のラインに対する実際の加工位置を適正に検出し、ズレ量を算出することができる。そして、下位層の改質領域を形成した加工位置においてこの下位層の改質領域の上方に最上層の改質領域を形成した後で、前述のように算出したズレ量をもとにラインの中心位置と実際の加工位置との位置ズレを補正し、次に加工対象とするラインの中心位置を集光器254の鉛直下方に位置付けることができる。したがって、被加工物1に対して、第1の分割予定ライン11および第2の分割予定ライン13に沿った高精度なレーザー加工を施すことができる。
【0047】
また、加工対象のラインと下位層の改質領域を形成した加工位置とのズレ量を算出した後は形成済みの下位層の改質領域の上方に最上層の改質領域を形成することとし、算出したズレ量は次の加工対象のラインの中心位置を集光器254の鉛直下方に位置付ける際の補正に用いることとした。したがって、同一の加工対象のラインに対して形成する複数層の改質領域は全て同一のY座標上の位置に形成することができ、分割品質を低下させることがない。
【0048】
なお、上記した実施の形態では、全ての第1の分割予定ライン11および第2の分割予定ライン13にレーザー加工を施す毎にその加工位置を検出してズレ量を算出し、その位置ズレを補正することとした。これに対し、毎回補正を行うのではなく、所定数のライン毎に加工位置を検出してズレ量を算出し、位置ズレの補正を行う構成としてもよい。あるいは、補正を行うこととして予め設定された所定のラインに対してレーザー加工を施す際に加工位置を検出してズレ量を算出し、位置ズレを補正する構成としてもよい。そして、いくつのライン毎に補正を行うのかや、何れのラインをレーザー加工する際に補正を行うのかは、例えばユーザ操作に従って適宜設定変更可能な構成としてよい。これによれば、加工対象のラインと実際の加工位置とのズレ量を定期的に算出してその位置ズレを補正することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明の加工方法は、加工位置を適正に検出しながら被加工物に対して分割予定ラインに沿った高精度なレーザー加工を施すのに適している。
【符号の説明】
【0050】
1 被加工物
11 第1の分割予定ライン
13 第2の分割予定ライン
15 デバイス
2 加工装置
21 保持手段
23 X駆動手段
24 Y駆動手段
25 レーザー加工手段
253 レーザー照射ユニット
255 撮像ユニット
27 Z駆動手段
29 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
XY座標上に表面を有し、該表面に定められた複数の分割予定ラインがX座標方向に沿うように配置された板状の被加工物に対し、パルスレーザー照射手段をY座標方向に順次割り出し送りして加工対象の分割予定ラインに位置付け、前記パルスレーザー照射手段をX座標方向に加工送りさせながら前記被加工物を透過する波長のパルスレーザービームを前記被加工物の内部に集光点を合わせて照射することで、前記表面に直交するZ座標上の位置が異なる複数の改質領域を前記被加工物の裏面側から順次重ねて形成する加工方法であって、
前記加工対象の分割予定ラインに沿って前記複数の改質領域を形成する過程において前記Z座標上の位置が最も表面側の改質領域を形成する前に、前記被加工物を透過させて内部を撮像する撮像手段を用いて前記加工対象の分割予定ラインに沿って形成済みの改質領域を撮像し、該形成済みの改質領域のY座標上の位置を検出して前記加工対象の分割予定ラインのY座標上の位置とのズレ量を算出するズレ量算出工程と、
前記パルスレーザー照射手段をY座標方向に割り出し送りして次に加工対象とする分割予定ラインに位置付ける際に、前記分割予定ライン間の距離によって定まる割り出し送り位置を前記ズレ量分ずらして前記パルスレーザー照射手段を割り出し送りする位置付け工程と、
を含むことを特徴とする加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−54841(P2011−54841A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203954(P2009−203954)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】