説明

加工時の発生ガス量の少ないアクリル系樹脂の製造方法

【課題】加工時の発生ガス量の少ないアクリル系樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】アクリル系樹脂と必要に応じて低揮発成分を押出機に添加して、所望の反応(例えば、イミド化反応)を進める際に、例えば50cm/s以上高回転で押出機を運転しながら、更に好ましくはベントから高真空(例えば、絶対圧8kPa未満の圧力)で揮発分を除去することによって加工時の発生ガス量の少ないイミド化アクリル系樹脂等のアクリル系樹脂を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工時の発生ガス量の少ないアクリル系樹脂(例えば、イミド化アクリル系樹脂、エステル化変性イミド化アクリル系樹脂)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系樹脂は、その透明性や光学特性から光学レンズ、光拡散板、導光板などの光学用部品や各種保護フィルムや光学フィルムとして利用されている。
【0003】
アクリル系樹脂を上記成形品に加工する際に、樹脂中にオリゴマー成分が残存していると、特にフィルムでの加工時にオリゴマー成分が揮発することで、フィルムに欠陥が生じてしまう。
【0004】
樹脂中の揮発成分を除去する方法として、超臨界流体を利用する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
アクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチルや、メタクリル酸メチルの吸湿性を改善するために、スチレンなどの芳香族ビニル化合物を共重合したものが知られている。
【0006】
また、これらアクリル系樹脂を、高温の脱揮槽に導入して揮発成分を除去する方法等も考えられるが、脱揮は重合後に高温の脱揮槽を通すもので押出機以外の装置を必要とし効率が悪い。
【0007】
一方、アクリル樹脂としては、ポリメタクリル酸メチルの耐熱性を向上させるために、アクリル系樹脂をイミド化したものが知られている。
【0008】
例えば、特許文献2にはポリメタクリル酸メチルを一級アミンと反応させてアクリル系樹脂を得る方法が記載されている。また、特許文献3にはメタクリル酸メチル−スチレン共重合体を一級アミンと反応させてアクリル系樹脂を得ることが記載されており、さらに、イミド化反応の中間生成物の酸基および酸無水物基が他の熱可塑性ポリマーとの相溶性を悪くするのでエステル化剤と反応させて非酸基および非無水物基へ転化させて、他の熱可塑性ポリマーとのブレンド時の相溶性を良くする方法が記載されている。
【0009】
アクリル系樹脂中の残存揮発分を除去する方法として、特許文献2には押出時に大気圧および真空の脱揮によって残存揮発分を除去することが記載されている。また、特許文献4には、アクリル系樹脂をメタノールあるいは水とともに再脱揮することで残存揮発文中のトリメチルアミンを30ppm以下にする方法が記載されている。しかし、オリゴマーの除去に関しては何ら触れられていない。
【特許文献1】特開平11−292921号
【特許文献2】米国特許4、246、374号
【特許文献3】米国特許4、727、117号
【特許文献4】米国特許5、126、409号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アクリル系樹脂あるいは、耐熱性を向上させるためにアクリル系樹脂をイミド化させた樹脂(例えば、イミド化アクリル系樹脂、エステル化変性イミド化アクリル系樹脂等)にはオリゴマー成分が残存しており、加工時のガス発生に伴って欠陥が生じてしまうという問題があり、オリゴマー成分を低減する新たな製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究の結果、アクリル系樹脂と必要に応じて低揮発成分を押出機に添加して所望の反応を進める際に、押出機のスクリューの周速を50cm/s以上の高回転で押出機を運転すること、更にはベントから絶対圧8kPa未満の圧力で揮発分を減圧除去することにより、加工時の発生ガス量の少ないアクリル系樹脂(例えば、イミド化アクリル系樹脂、エステル化変性イミド化アクリル系樹脂等)を製造できることが分かり、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、アクリル系樹脂と一級アミンを押出機に添加してイミド化反応を行わせる際に、押出機スクリューの周速を50cm/s以上として押出を行うことを特徴とするイミド化アクリル系樹脂の製造方法(請求項1)、
イミド化アクリル系樹脂とエステル化剤を押出機に添加してエステル化変性反応を行わせる際に、押出機スクリューの周速を50cm/s以上として押出を行うことを特徴とするエステル化変性イミド化アクリル系樹脂の製造方法(請求項2)、
エステル化変性イミド化アクリル系樹脂を押出機に添加し、押出機スクリューの周速を50cm/s以上で脱揮押出することを特徴とするエステル化変性イミド化アクリル系樹脂の製造方法(請求項3)に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
アクリル系樹脂と必要に応じて低揮発成分を押出機に添加して、所望の反応を進める際に、高回転で押出機を運転しながら、更にはベントから高真空下で揮発分を減圧除去することによって、加工時の発生ガス量の少ないアクリル系樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の製造方法は、少なくとも下記一般式(1)、(2)で表される繰り返し単位を含有するアクリル系樹脂(本明細書中では、特に文脈からその原料であることを明確にせずにアクリル系樹脂という場合は、イミド化アクリル系樹脂、エステル化変性イミド化アクリル系樹脂等のイミド化されたアクリル系樹脂を含む意味とする)に適用することができる製造方法である。
【0015】
【化1】

(ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0016】
【化2】

(ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0017】
【化3】

(ここで、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
上記アクリル系樹脂を構成する、第一の構成単位としては、下記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位である。
【0018】
【化4】

(ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
好ましいグルタルイミド単位としては、R、Rが水素またはメチル基であり、Rが水素、メチル基、またはシクロヘキシル基である。Rがメチル基であり、Rが水素であり、Rがメチル基である場合が、特に好ましい。
【0019】
該グルタルイミド単位は、単一の種類でもよく、R、R、Rが異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0020】
上記アクリル系樹脂を構成する、第二の構成単位としては、下記一般式(2)で表されるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル単位である。
【0021】
【化5】

(ここで、RおよびRは、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
前記(メタ)アクリル酸系化合物もしくは(メタ)アクリル酸エステル系化合物には、特に限定がなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、無水マレイン酸等の酸無水物またはそれらと炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸などもイミド化可能であり、本発明に使用可能である。これらの中で、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0022】
これら第二の構成単位は、単一の種類でもよく、R、R、Rが異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0023】
さらに、本発明製造方法を適用可能なアクリル系樹脂には、下記一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含んでも良い。
【0024】
【化6】

(ここで、Rは、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、Rは、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
好ましい芳香族ビニル構成単位としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。これらの中でスチレンが特に好ましい。
【0025】
これら第三の構成単位は、単一の種類でもよく、R、Rが異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0026】
アクリル系樹脂の、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、アクリル系樹脂の1重量%以上が好ましい。グルタルイミド単位の、好ましい含有量は、1重量%から95重量%であり、より好ましくは1.5〜90重量%、さらに好ましくは、2〜80重量%である。グルタルイミド単位がこの範囲より小さい場合、得られるアクリル系樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれることがある。また、この範囲を超えると不必要に耐熱性が上がり、成形しにくくなる他、得られる成形体の機械的強度は極端に脆くなり、また、透明性が損なわれることがある。
【0027】
アクリル系樹脂の、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、アクリル系樹脂の総繰り返し単位を基準として、80重量%以下が好ましい。芳香族ビニル単位の、好ましい含有量は、1重量%から80重量%であり、より好ましくは1.5〜70重量%、さらに好ましくは、2〜60重量%である。芳香族ビニル単位がこの範囲より大きい場合、得られるアクリル系樹脂の耐熱性が不足するとともに、光弾性係数が小さくなることがある。
【0028】
さらに、本発明の製造方法を適用可能なアクリル系樹脂には、必要に応じ、第四の構成単位が共重合されていてもかまわない。第四の構成単位として、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を用いることができる。これらはアクリル系樹脂中に、直接共重合してあっても良く、グラフト共重合してあってもかまわない。
【0029】
本発明の製造方法を適用可能なメタクリル酸メチル−スチレン共重合体は、イミド化反応が可能な(メタ)アクリル酸系化合物もしくは(メタ)アクリル酸エステル系化合物の単独もしくはこれらの共重合体もしくは(メタ)アクリル酸系化合物もしくは(メタ)アクリル酸エステル系化合物、およびスチレン系化合物を必須として含んでいれば、リニアー(線状)ポリマーであっても、またブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマーであっても構わない。ブロックポリマーはA−B型、A−B−C型、A−B−A型、またはこれら以外のいずれのタイプのブロックポリマーであっても問題ない。コアシェルポリマーはただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであっても、それぞれが多層になっていても問題ない。
【0030】
本発明で使用されるイミド化剤はメタクリル酸メチル−スチレン共重合体をイミド化することができれば特に制限されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンが挙げられる。また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素の如き加熱によりこれらのアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。これらのイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミンが好ましい。
【0031】
イミド化剤の添加量は必要な物性を発現するためのイミド化率によって決定される。
【0032】
また、本発明の製造方法で製造可能なアクリル系樹脂(イミド化アクリル系樹脂、エステル化変性イミド化アクリル系樹脂等を含む)は、特に10,000から200,000の重量平均分子量を有することが好ましい。重量平均分子量が上記の値以下の場合には、成形品の機械的強度が不足し、上記の値以上の場合には、溶融時の粘度が高く、成形時の生産性が低下することがある。
【0033】
また、本発明の製造方法で製造可能なアクリル系樹脂(イミド化アクリル系樹脂、エステル化変性イミド化アクリル系樹脂等を含む)のガラス転移温度は100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、115℃以上であることが更に好ましい。
【0034】
また、本発明の製造方法で製造可能なアクリル系樹脂(イミド化アクリル系樹脂、エステル化変性イミド化アクリル系樹脂等を含む)には、必要に応じて、他のアクリル系樹脂を添加することができる。
【0035】
また、本発明の製造方法で製造可能なアクリル系樹脂はイミド化の反応の際に、未反応の一級アミンと各種の副生成物からなる不要な揮発成分が生じることがある。ポリメタクリル酸メチル樹脂にモノメチルアミンを処理する際のイミド化反応時の揮発成分はモノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンなどのアミン類、メタノール、水および樹脂のモノマーやオリゴマーなどが含まれる。その他のアクリル系樹脂とその他の一級アミンを使用した場合も、各種アミン、各種アールコール、水、樹脂のモノマーやオリゴマーなどの揮発成分が生じる。
【0036】
これらの揮発成分はイミド化反応後に除去される。米国特許4、246、374号には、アクリル系樹脂を押出機中で一級アミンと接触させてイミド化反応させた後に揮発成分を真空脱揮によって除去すると記載されている。
【0037】
本発明のアクリル系樹脂中にイミド化反応の中間生成物の酸基および酸無水物基が残存すると、溶融加工時に発泡したり、成形品に表面不良が生じたり、他の熱可塑性ポリマーとの相溶性が悪くなる。そのため、必要に応じてエステル化剤と反応させて非酸基および非無水物基へ転化させることが望ましい。
【0038】
本発明で使用されるエステル化剤としては炭酸ジメチル、ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリメチルアルトホルメート、トリエチルアルトホルメートなどがあるが、イミド化したアクリル系樹脂の酸基と酸無水物基のエステル化を効率よく行えるものであればこの限りではない。また、前記エステル化剤によるエステル化反応を促進するために、少量の触媒を添加してもよい。
【0039】
本発明で使用されるエステル化剤の触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどがある。
【0040】
これらのエステル化剤のうち、コスト、物性の面から炭酸ジメチルが好ましい。
【0041】
本発明のアクリル系樹脂は、樹脂加工時の発泡などの成形不良を抑えるために、イミド化、エステル化変性後にさらに脱揮押出を行って、残存揮発分を除去するのが好ましい。
【0042】
本発明に用いる押出機としては単軸押出機、二軸押出機あるいは多軸押出機があり、脱揮効率の良好な二軸押出機が好ましい。二軸押出機には非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式が含まれる。二軸押出機の中では噛合い型同方向回転式が高速回転が可能であり、生産量を多くできるので好ましい。これらの押出機は単独で用いても、直列につないでも構わない。また、押出機には大気圧以下に減圧可能なベント口を1箇所以上設置することが好ましい。
【0043】
アクリル系樹脂からオリゴマー成分を除去する際の押出温度は150〜350℃の範囲で行う。200〜330℃がより好ましく、250〜310℃がさらに好ましい。150℃以下ではポリマーの溶融粘度が高くなり装置の運転に大きな負荷がかかるとともにオリゴマーの揮発が十分に行われず、また350℃以上では樹脂劣化が生じてしまう。
【0044】
押出機内圧は通常、大気圧〜15MPaの範囲内であり、さらには0.5MPa〜10MPaの範囲内が好ましい。0.5MPa以下ではイミド化剤やエステル化剤の反応効率が低くなり、反応が進みにくくなる。10MPa以上では樹脂シールのための極端なスクリュー構成が必要であり、樹脂温度が高くなり樹脂の分解、着色を生じてしまう。
【0045】
押出機の回転数は、10rpm〜2000rpmが好ましく、さらには20rpm〜1000rpmがより好ましい。10rpm以下では生産性や脱揮効率が悪くなり、また2000rpm以上では、押出機主モーターの電力量が大きくなり、さらに樹脂の発熱も激しくなって樹脂劣化が生じてしまう。
【0046】
脱揮を効率良く行わせるには、樹脂温度を高くして揮発分を蒸発しやすくするとともに、押出機の回転を早くしてベント部の樹脂の表面更新を大きくする必要がある。その両者を兼ねた指標として押出機のスクリューの周速を用いる。
【0047】
押出機のスクリューの周速は、10cm/s〜200cm/sが好ましく、さらには20〜180cm/sがより好ましく、50〜150cm/sがさらに好ましい。周速が10cm/sでは、混練が不十分になり、脱揮が十分にできない。また、周速が200cm/sより大きいと、樹脂の発熱が激しくなって樹脂劣化が生じてしまう。
【0048】
押出機から揮発分を除去するためのベントは、複数設置するのが好ましい。効率を上げるために上流側に大気開放したベントを設けて、下流側に真空ポンプに接続して減圧度を高くしたベントを設けるのが好ましい。
【0049】
残存揮発分除去時の圧力は、低いほど除去率が高くなるので好ましく、絶対圧30kPa以下が好ましく、絶対圧8kPa以下がより好ましい。絶対圧30kPa以上では残存揮発分を十分に除去することができない。
【0050】
本発明によるアクリル系樹脂は樹脂加工時に発生するガスが少ないのが特徴である。
【0051】
ガス量として、加熱脱着装置によるガス量を指標としており、ヘリウム雰囲気下、280℃、30分間加熱した時に発生するガス総量が樹脂1g当たり2000μg以下が好ましく、1500μg以下がより好ましい。
【0052】
本アクリル系樹脂中には、一般に用いられる触媒、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0053】
本発明によるアクリル系樹脂は、高い引張強度および曲げ強度、耐溶剤性、熱安定性、良好な光学特性、耐候性などの特性を有している。
【0054】
本発明で得られるアクリル系樹脂はそれ自体で用いてもよく、または他の熱可塑性ポリマーとブレンドしても構わない。アクリル系樹脂単独、または他の熱可塑性樹脂とのブレンドは、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形などのような各種プラスチック加工法によって様々な成形品に加工できる。また、塩化メチレンなどの本発明で得られるアクリル系樹脂を溶解する溶剤に溶解させ、得られるポリマー溶液を用いる流延法によっても成形可能である。
【0055】
成形加工の際には、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0056】
本発明のアクリル系樹脂から得られる成形品は、例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏光子保護フィルムや位相差フィルムなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視境用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具、などに使用可能である。
【実施例】
【0057】
本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法はつぎのとおりである。
【0058】
(1)加熱脱着装置による揮発ガス量の測定
生成物のペレットをそのまま用いて、パーキンエルマー製加熱脱着装置TurboMatrix ATDを装着したガスクロマトグラフィー(アジレントテクノロジー製6890plus)/マススペクトル(アジレントテクノロジー製5973)(GC/MS)で測定した。
【0059】
約20gのペレットをサンプルチューブに入れ、石英ウールで両端を固定し、加熱脱着装置で280℃、30分間加熱し、発生したガス成分を−30℃でテナックス管にて捕集し、その後280℃に加熱して脱着させて、GC/MS測定を行った。GC/MSの条件は、カラム:DB−5MS(0.25mmID×30m)、オーブン温度:40℃(5min保持)→10℃/min→320℃(10min保持)、キャリアガス:He)とした。スチレンを用いて検量線を作成し、GC/MSにより得られるトータルイオンクロマトグラム(TIC)の全面積から揮発ガス量(μg/g)を計算した。。
【0060】
(2)イミド化率の測定
SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、樹脂ペレットから室温にてIRスペクトルを測定した。得られたスペクトルより、1720cm−1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度と、1660cm−1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度の比からイミド化率を求めた。ここで、イミド化率とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0061】
(3)酸価の測定
樹脂0.3gをメタノール/塩化メチレン混合液75cmに溶解して、0.1kmol/mの水酸化ナトリウム5mlを滴下して樹脂中の酸および酸無水物成分を中和した後に、余剰の水酸化ナトリウムを0.1kmol/mの塩酸で逆滴定する。また、ブランクとしてメタノール/塩化メチレン混合液も同様に逆滴定を行い、ブランクと樹脂の塩酸滴定量の差から酸と酸無水物の中和に使用された塩酸のモル数を求めて、樹脂重量あたりの酸価を算出した。
【0062】
(実施例1)
市販のポリメタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(新日鐵化学(株)製エスチレンMS−800)、一級アミンとしてモノメチルアミンを用いて、反応押出によってイミド化されたアクリル系樹脂を製造した。使用した押出機はテクノベル製の口径40mm、L/D=90の噛合い型同方向回転二軸押出機である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数を300rpm、ポリメタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂の供給量を20kg/h、モノメチルアミンの供給量を4kg/hとして押出を行った。このときの押出機スクリューの周速は63cm/sであった。反応後の副生成物および未反応のメチルアミンを大気開放された第1ベントおよび真空ポンプで圧力を5kPaに減圧した第2ベントから分離除去してイミド化されたアクリル系樹脂を得た。押出機出口における樹脂温度は302℃であった。この樹脂のイミド化率は76%、酸価は0.62mmol/g、加熱脱着装置による揮発ガス量は480μg/gであった。
【0063】
(実施例2)
実施例1で得られたイミド化されたアクリル系樹脂、エステル化剤として炭酸ジメチル、触媒としてトリエチルアミンを用いて、反応押出によってイミド化アクリル系樹脂をエステル変性した。使用した押出機は日本製鋼所製の口径44mm、L/D=42の噛合い型同方向回転二軸押出機である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数を300rpm、イミド化アクリル系樹脂の供給量を15kg/h、エステル化剤として炭酸ジメチルとトリエチルアミンの混合液(4:1)の供給量を1.5kg/hとして押出を行った。このときの押出機スクリューの周速は68cm/sであった。反応後の副生成物を大気開放された第1ベントおよび真空ポンプで圧力を4kPaに減圧した第2ベントから分離除去して変性イミド化アクリル系樹脂を得た。押出機出口における樹脂温度は286℃であった。この樹脂のイミド化率は66%、酸価は0.07mmol/g、加熱脱着装置による揮発ガス量は370μg/gであった。
【0064】
(実施例3)
実施例2で得られた変性イミド化アクリル系樹脂を用いて脱揮押出を行った。使用した押出機は日本製鋼所製の口径44mm、L/D=42の噛合い型同方向回転二軸押出機である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を240℃、スクリュー回転数を300rpm、変性イミド化アクリル系樹脂の供給量を10kg/hとして押出を行った。このときの押出機スクリューの周速は68cm/sであった。残存揮発分を大気開放された第1ベントおよび真空ポンプで圧力を3kPaに減圧した第2ベントから分離除去して変性イミド化アクリル系樹脂を得た。押出機出口における樹脂温度は296℃であった。この樹脂のイミド化率は67%、酸価は0.1mmol/g、加熱脱着装置による揮発ガス量は320μg/gであった。
【0065】
(比較例1)
押出機のスクリュー回転数を150rpmとする以外は実施例1と同様の操作を行った。このときの押出機スクリューの周速は31cm/sであった。押出機出口における樹脂温度は284℃であった。この樹脂のイミド化率は74%、酸価は0.6mmol/g、加熱脱着装置による揮発ガス量は1700μg/gであった。
【0066】
(比較例2)
市販のポリメタクリル酸メチル−スチレン共重合樹脂(新日鐵化学(株)製エスチレンMS−800)の加熱脱着装置による揮発ガス量は4300μg/gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂と一級アミンを押出機に添加してイミド化反応を行わせる際に、押出機スクリューの周速を50cm/s以上として押出を行うことを特徴とするイミド化アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項2】
イミド化アクリル系樹脂とエステル化剤を押出機に添加してエステル化変性反応を行わせる際に、押出機スクリューの周速を50cm/s以上として押出を行うことを特徴とするエステル化変性イミド化アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項3】
エステル化変性イミド化アクリル系樹脂を押出機に添加し、押出機スクリューの周速を50cm/s以上で脱揮押出することを特徴とするエステル化変性イミド化アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
ベントから絶対圧8kPa未満の圧力で揮発分を減圧除去することを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のイミド化アクリル系樹脂又はエステル化変性イミド化アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
アクリル系樹脂が芳香族ビニル系単量体を1重量%以上含んでいることを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のイミド化アクリル系樹脂又はエステル化変性イミド化アクリル系樹脂の製造方法。
【請求項6】
ヘリウム雰囲気下、280℃、30分間加熱した時に発生するガス総量が樹脂1g当たり1500μg以下であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載のイミド化アクリル系樹脂又はエステル化変性イミド化アクリル系樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2008−255139(P2008−255139A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95636(P2007−95636)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】