説明

加締め型及びシールド電線の編組固定構造

【課題】加締めを施した後の中子の抜き取りを可能にするとともに、編組端末の接続固定に係る固着力を十分に高めることが可能な、加締め型及びシールド電線の編組固定構造を提供する。
【解決手段】加締め型5を構成する中子16の中子本体18における外周面21の中間に、この周方向に段差形状で凹むような段差形状受け部22を設ける。また、段差形状受け部22よりも中子挿入開始側を段差形状受け部22の位置のサイズ以下に形成する。このような加締め型5を用いて加締めを施すことにより、接続固定対象部分における断面視の固着状態を、段差形状受け部22の断面形状に合わせた複数の曲げ箇所を有する固着状態にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド電線の編組固定構造と、この固定構造に用いられる加締め型とに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気自動車やハイブリッド自動車のインバータやモータに接続されるシールド電線(この場合はモータケーブルに相当)は、複数本の電線と、導電性を有する金属製のシールドシェルと、導電性を有し複数本の電線を一括して覆う筒状の編組と、を備えて構成されている。シールド電線は、編組端末がシールドシェルに接続固定されるような端末構造になっている。また、シールド電線は、シールドシェルを介して編組がシールドケースに接地されるような端末構造になっている。
【0003】
編組端末とシールドシェルとの接続固定に関しては、下記特許文献1において次のようなことが開示されている。すなわち、編組端末とシールドシェルとを接続固定する手段としては、先ず、シールドシェルにおける筒状の編組固定部の外周面に編組端末を外嵌するとともに、この外側に金属製リング状の加締めリングを外嵌し、次に、加締めリングと編組固定部とに対して外周側から周方向の溝を形成するようにして加締めを施し、これによって編組端末を加締めリングと編組固定部との間で強固に挟み込み、もって編組端末とシールドシェルとを接続固定する手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−329557号公報 (第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された、編組端末とシールドシェルとを接続固定する手段にあっては、外周に周方向の溝状受け部を有する中子を筒状の編組固定部の内側にセットし、内面に周方向の突条が形成されるダイスによって、加締めリングの外周面側を打圧する必要がある。しかし、加締めを施した後の状態においては、編組固定部の内周面から周方向に突出する突条が中子の溝状受け部に入り込んでいることから、中子を編組固定部から抜き取ることができなくなってしまう。そこで、複数のパーツを合体させた中子を用いることにし、中子を編組固定部から抜き取る際においては、複数のパーツのうち中心側の一つを取り外し、この後に編組固定部の内周面に接する残りのパーツを径方向内側へスライドさせれば、編組固定部から中子を抜き取ることが可能になる。
【0006】
複数のパーツを合体させた中子を用いる場合、中子が複雑な構造になってしまうのは勿論のこと、加締めを施した後の中子の抜き取りに係る作業性が悪くなってしまうという問題点を有している。
【0007】
尚、加締めを施さないで編組端末を接続固定する手段としては、筒状の編組固定部に編組端末を外嵌し、そして、この外側に単にリングを圧入することによって、編組端末を挟圧により固定する手段が考えられる。この場合、上記問題点の解消に効果的ではあるが、固着力が弱くなってしまうという別な問題点を有している。
【0008】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、加締めを施した後の中子の抜き取りを可能にするとともに、編組端末の接続固定に係る固着力を十分に高めることが可能な、加締め型及びシールド電線の編組固定構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の加締め型は、複数本の電線と、導電性を有する金属製のシールドシェルと、導電性を有し前記複数本の電線を一括して覆う筒状の編組と、を含むシールド電線の前記編組端末を、前記シールドシェルにおける筒状の編組固定部の外周面に加締めによって接続固定するための加締め型において、前記編組固定部の軸に沿って該編組固定部の内側に挿抜自在となる中子と、前記軸に直交する方向に開閉自在となり接続固定対象部分に対し加締めを施すことが可能なダイスと、を含む一方、前記中子における中子本体の外周面中間にこの周方向に段差形状で凹むような段差形状受け部を設け、且つ該段差形状受け部よりも中子挿入開始側を前記段差形状受け部の位置のサイズ以下に形成するとともに、前記ダイスによる加締め位置を前記編組固定部からの前記中子の抜きに支障のない前記段差形状受け部の位置に合わせて設定することを特徴とする。
【0010】
このような特徴を有する本発明によれば、加締めを施すと、編組固定部の内周面から周方向に突出する突条が中子本体の段差形状受け部に入り込む。中子本体の外周面中間に設けられる段差形状受け部は、中子本体の外周面の周方向に段差形状で凹むことから、また、この段差形状受け部よりも中子挿入開始側は、段差形状受け部の位置のサイズ以下に形成されることから、本発明では編組固定部から中子を抜き取る際に上記突条との引っ掛かり合いが生じることはない。
【0011】
上記課題を解決するためになされた請求項2記載の本発明のシールド電線の編組固定構造は、複数本の電線と、導電性を有する金属製のシールドシェルと、導電性を有し前記複数本の電線を一括して覆う筒状の編組と、を含むシールド電線の前記編組端末を、前記シールドシェルにおける筒状の編組固定部の外周面に加締めによって接続固定するための編組固定構造において、前記編組固定部に前記編組端末を接続固定するにあたり、前記編組固定部の軸に沿って該編組固定部の内側に挿抜自在となる中子と、前記軸に直交する方向に開閉自在となり接続固定対象部分に対し加締めを施すことが可能なダイスと、を含む加締め型を用いるとともに、前記編組端末の外側に挿入され前記ダイスにより加締められて変形する金属製リング状の加締めリングを用いる一方、前記中子における中子本体の外周面中間にこの周方向に段差形状で凹むような段差形状受け部を設け、且つ該段差形状受け部よりも中子挿入開始側を前記段差形状受け部の位置のサイズ以下に形成するとともに、前記ダイスによる加締め位置を前記編組固定部からの前記中子の抜きに支障のない前記段差形状受け部の位置に合わせて設定し、この上で加締めを施すことにより、前記編組固定部、前記加締めリング、及びこれらに挟まれる前記編組端末からなる前記接続固定対象部分における断面視の固着状態を、前記段差形状受け部の断面形状に合わせた複数の曲げ箇所を有する固着状態にすることを特徴とする。
【0012】
このような特徴を有する本発明によれば、加締めを施すと、編組固定部の内周面から周方向に突出する突条が中子本体の段差形状受け部に入り込む。中子の外周面中間に設けられる段差形状受け部は、中子の外周面の周方向に段差形状で凹むことから、編組固定部、加締めリング、及びこれらに挟まれる編組端末からなる接続固定対象部分は、段差形状受け部の断面形状に合わせた複数の曲げ箇所を有する状態で固着される。すなわち、本発明では、十分な固着力によって編組が接続固定される。段差形状受け部は、上記の如く中子本体の外周面の周方向に段差形状で凹むことから、また、この段差形状受け部よりも中子挿入開始側は、段差形状受け部の位置のサイズ以下に形成されることから、本発明では編組固定部から中子を抜き取る際に上記突条との引っ掛かり合いが生じることはない。
【0013】
請求項3記載の本発明のシールド電線の編組固定構造は、請求項2に記載のシールド電線の編組固定構造において、筒状の前記編組固定部及びリング状の前記加締めリングを、これらの壁が前記編組固定部の前記軸に対して傾くように、且つ前記壁の間隔が前記編組固定部の先端に向けて次第に小さくなるように形成するとともに、前記中子本体の前記外周面も前記軸に対して傾くように、且つ前記中子挿入開始側に向けて次第に縮径するように形成することを特徴とする。
【0014】
このような特徴を有する本発明によれば、中子を抜き方向に移動させると直ぐに編組固定部と中子本体との接触がなくなり、中子はスムーズに編組固定部から抜き取られる。
【0015】
請求項4記載の本発明のシールド電線の編組固定構造は、請求項2又は請求項3に記載のシールド電線の編組固定構造において、前記編組端末を、内側への折り返しにより二重の状態にすることを特徴とする。
【0016】
このような特徴を有する本発明によれば、編組端末を二重にすることにより、編組固定部に接続固定された編組の網目が密になり、編組端末を広げて編組固定部に挿入したとしてもシールド性能が十分に発揮される。また、編組端末を二重にすることにより、編組端末の尖鋭な端末部をカットする等の後処理が不要になる。さらに、編組端末を二重にすることにより、編組端末のホツレ防止に寄与する。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載された本発明によれば、編組固定部の内周面から周方向に突出する突条が生じるような加締めを施しても中子の抜き取りが可能となる加締め型を提供することができるという効果を奏する。また、この加締め型を用いることにより、編組端末の接続固定に係る固着力を十分に高めることができるという効果を奏する。
【0018】
請求項2に記載された本発明によれば、編組固定部の内周面から周方向に突出する突条が生じるような加締めを施しても中子の抜き取りが可能となる加締め型を用いることにより、編組端末の接続固定に係る固着力を構造的に十分に高めることができるという効果を奏する。
【0019】
請求項3に記載された本発明によれば、斜めの構造により中子を編組固定部から抜き取り易くすることができるという効果を奏する。
【0020】
請求項4に記載された本発明によれば、編組端末を二重にして編組を密にすることにより、シールド性能を高めることができるという効果を奏する。また、編組端末の後処理を不要にして作業性向上及びコスト低減を図ることができるという効果を奏する。さらに、編組端末のホツレを防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のシールド電線の編組固定構造及び加締め型を示す図であり、(a)は加締めを施した時の断面図、(b)加締め型を除いた状態の断面図である。
【図2】シールド電線端末及び加締め型の分解斜視図である。
【図3】加締めを施す前の状態を示すシールド電線端末及び加締め型の斜視図である。
【図4】加締めを施す前の状態を示すシールド電線端末及び加締め型の断面図である。
【図5】本発明のシールド電線の編組固定構造及び加締め型を示す断面図(実施例2)である。
【図6】本発明のシールド電線の編組固定構造及び加締め型を示す断面図(実施例3)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
加締め型を構成する中子の中子本体外周面の中間に、この周方向に段差形状で凹むような段差形状受け部を設ける。また、段差形状受け部よりも中子挿入開始側を、段差形状受け部の位置のサイズ以下に形成する。このような加締め型を用いて加締めを施すことにより、接続固定対象部分における断面視の固着状態を、段差形状受け部の断面形状に合わせた複数の曲げ箇所を有する固着状態にする。加締めを施すことにより、編組固定部の内周面から周方向に突出する突条が生じることになるが、段差形状受け部及びこの中子挿入開始側の形状によって中子の抜き取りには支障を来すことがない。
【実施例1】
【0023】
以下、図面を参照しながら第1実施例を説明する。図1は本発明のシールド電線の編組固定構造及び加締め型を示す図である。
【0024】
図1において、引用符号1は例えば電気自動車やハイブリッド自動車におけるモーター及びインバータを電気的に接続するためのシールド電線を示している(本発明に係る部分のみを図示するものとする)。本実施例のシールド電線1は、モータケーブルとして用いられるものであって、図示しない複数本(例えば三本)の電線と、導電性を有する金属製のシールドシェル2と、導電性を有し上記複数本の電線を一括して覆う筒状の編組3と、この編組3の端末外側に挿入されて加締められる金属製リング状の加締めリング4とを備えて構成されている。
【0025】
シールド電線1は、編組3の端末が加締め型5による加締めによってシールドシェル2に接続固定されるような端末構造になっている。また、シールド電線1は、シールドシェル2を介して編組3が上記モータ及びインバータの各シールドケース(図示省略)に接地されるような端末構造になっている。編組3とシールドシェル2との接続固定は、強固な固着状態となる固定になっている。
【0026】
先ず上記各構成について説明し、次に加締めを施す工程及び固着状態について説明する。図面は図1ないし図4を参照するものとする。図2はシールド電線端末及び加締め型の分解斜視図、図3及び図4は加締めを施す前の状態を示すシールド電線端末及び加締め型の斜視図及び断面図である。尚、矢印Pの方向を前後方向、矢印Qの方向を上下方向と定義するものとする。
【0027】
シールドシェル2は、筒状の編組固定部6と、この編組固定部6の円形後端周縁に連成されるフランジ部7と、編組固定部6の円形前端周縁に連成される筒状の前部8とを有している。
【0028】
編組固定部6は、編組3の端末を接続固定することができる部分(固着する部分)として形成されている。編組固定部6は、この中心線CLに対して壁9が傾く(非平行)ように斜めの構造に形成されている。具体的には、編組固定部6の後端から前端(先端)に向けて次第に内径が小さくなるように(壁9の間隔が小さくなるように)形成されている。編組固定部6の内周面10及び外周面11は、加締め型5による加締め前の状態において、それぞれ凹凸のない斜面となるように形成されている(断面で見た場合)。壁9は、加締め型5による加締めによって変形可能な肉厚を有している(変形は塑性変形)。
【0029】
フランジ部7は、図示しないシールドケースに対し例えばネジ止めによって固定される部分であって、前面12及び後面13は平坦な面に形成されている(ネジ止め部分の図示は省略するものとする)。フランジ部7は、シールド電線1を固定する部分としての機能を有するとともに、アースをする部分としての機能を有している。
【0030】
前部8は、編組固定部6の中心線CLに対して壁9が平行となるように形成されている。すなわち、前部8は円筒形状に形成されている。前部8の外径は、編組3の端末を広げない状態における内側サイズに合わせて設定されている。尚、前部8の前後方向の長さ、及び前部8の形成は任意であるものとする。
【0031】
編組3は、導電性を有する細径線を筒状に編み込むことによって形成されている。編組3は、シールド部材であって、この端末が外側に広げられて編組固定部6の外周面11に挿入(外嵌)されるようになっている。
【0032】
加締めリング4は、編組固定部6の外周面11に挿入(外嵌)された編組3の更に外側に挿入(外嵌)される部品であって、加締め型5による加締めによって変形可能な薄肉に形成されている(変形は塑性変形)。加締めリング4は、編組3の端末を接続固定することができる部分(固着する部分)として形成されている。加締めリング4は、編組固定部6の中心線CLに対して壁(符号省略)が傾く(非平行)ように斜めの構造に形成されている。具体的には、加締めリング4の後端から前端に向けて次第に内径が小さくなるように(壁の間隔が小さくなるように)形成されている。加締めリング4の内周面14及び外周面15は、加締め型5による加締め前の状態において、それぞれ凹凸のない斜面となるように形成されている(断面で見た場合)。加締めリング4は、この前後方向の長さが編組固定部6の同長さよりも短くなるように形成されている。
【0033】
加締め型5は、前後方向Pに一致する編組固定部6の中心線CL(軸)に沿って、この編組固定部6の内側に挿抜自在となる中子16と、中心線CLに直交する上下方向Qに開閉自在となる一対のダイス17とを含んで構成されている(これら金型を移動させる機構等の図示及び説明は省略するものとする)。
【0034】
中子16は、中実となる金型であって、中子本体18と、この中子本体18の円形後端に連成される中子後部19と、中子本体18の円形前端に連成される中子前部20とを有している。
【0035】
中子本体18は、編組固定部6の中心線CLに対して外周面21が傾くように斜めの構造に形成されている。具体的には、中子本体18の後端から前端に向けて次第に縮径するように形成されている。このような中子本体18の外周面21の中間には、この周方向に段差形状で凹む段差形状受け部22が形成されている(段差形状受け部22は、傾斜する外周面21に対して周方向の凹みとなることから、図示のような段差形状になっている)。段差形状受け部22は、一対のダイス17を閉じた時の受け部となるように形成されている。段差形状受け部22は、本実施例において、この凹み側面23と凹み底面24とが曲面25で繋がれるように形成されている(一例であるものとする)。
【0036】
中子後部19は、中子本体18よりも大径となる形状に形成されている。中子後部19は、この前面26がフランジ部7の後面13に当接するように形成されている。
【0037】
中子前部20は、編組固定部6に対する中子挿入開始側に配置形成されている。中子前部20は、中子本体18の円形前端と同径でこの前方に真っ直ぐのびる円柱形状に形成されている。中子前部20の前端周縁には、テーパ27が形成されている。
【0038】
一対のダイス17は、これらが閉じるとリング状となる金型であって、各ダイス17の内面28には、周方向に突出する打圧突条29が形成されている。打圧突条29は、段差形状受け部22の形状(断面形状)に合わせて形成されている。すなわち、上記凹み側面23に対応する突条側面30と、上記凹み底面24に対応する突条先端面31と、上記曲面25に対応する曲面32とを有するように形成されている。
【0039】
上記構成及び構造において、図3及び図4に示す如く、シールドシェル2における編組固定部6の外周面11に編組3の端末を挿入(外嵌)し、そして、この編組3の外側に加締めリング4を挿入(外嵌)し、この後に、中子16を図1に示す如く編組固定部6の内側に挿入し、更に、一対のダイス17を閉じて接続固定対象部分に加締めを施すと、編組固定部6、加締めリング4、及びこれらに挟まれる編組3の端末からなる接続固定対象部分は、段差形状受け部22の断面形状に合わせた複数の曲げ箇所を有する状態に変形する(本実施例では3箇所曲がる)。すなわち、図示のような固着状態が形成されて、編組3の端末と編組固定部6との接続固定が完了する。
【0040】
加締めを施すことにより、編組固定部6の内周面10には、この周方向に突出する突条33が生じるようになるが、この突条33は中子16の抜き取りに際して、中子16と引っ掛かり合うことはない。つまり、中子16の抜き取りが可能であって、もって編組3の端末の接続固定に係る固着力を十分に高めることができるという効果を奏する。
【0041】
尚、加締めリング4の挿入(外嵌)に関して補足説明をすると、この加締めリング4を十分に押し込むことにより、編組3の端末と編組固定部6の外周面11との密着度合いが高まり、結果、シールド性能の向上を図ることが可能になる。
【実施例2】
【0042】
以下、図面を参照しながら第2実施例を説明する。図5は本発明のシールド電線の編組固定構造及び加締め型を示す断面図である。尚、上記第1実施例と同一の構成部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0043】
図5において、シールド電線41は、実施例1のシールド電線1に対して編組3の端末形状が異なるのみで他は同じになっている。編組3の端末形状は、端末を内側への折り返して二重の状態にする形状になっている。編組3の端末を二重にすることにより、編組固定部6に接続固定された編組3の網目が密になり、編組3の端末を広げて編組固定部6に挿入(外嵌)しても目開きが小さくなる。つまり、シールド性能を十分に発揮させることができるという効果を奏する。また、編組3の端末を二重にすることにより、端末の尖鋭な端末部をカットする等の後処理を不要にすることができるという効果をすする。
【実施例3】
【0044】
以下、図面を参照しながら第3実施例を説明する。図6は本発明のシールド電線の編組固定構造及び加締め型を示す断面図である。
【0045】
図6において、本実施例のシールド電線51は、図示しない複数本(例えば三本)の電線と、導電性を有する金属製のシールドシェル52と、導電性を有し上記複数本の電線を一括して覆う筒状の編組53と、この編組53の端末外側に挿入されて加締められる金属製リング状の加締めリング54とを備えて構成されている。
【0046】
シールド電線51は、編組53の端末が加締め型55による加締めによってシールドシェル52に接続固定されるような端末構造になっている。また、シールド電線51は、シールドシェル52を介して編組53がシールドケース(図示省略)に接地されるような端末構造になっている。編組53とシールドシェル52との接続固定は、強固な固着状態となる固定になっている。
【0047】
シールドシェル52は、筒状の編組固定部56と、この編組固定部56の円形後端周縁に連成されるフランジ部57と、編組固定部56の円形前端周縁に連成される筒状の前部58とを有している。
【0048】
編組固定部56は、編組53の端末を接続固定することができる部分(固着する部分)として形成されている。編組固定部56は、この中心線CLに対して壁59が平行になるように形成されている。すなわち、編組固定部56は円筒形状に形成されている。編組固定部56の内周面60及び外周面61は、加締め型55による加締め前の状態において、それぞれ凹凸のない面となるように形成されている(断面で見た場合)。壁59は、加締め型55による加締めによって変形可能な肉厚を有している(変形は塑性変形)。
【0049】
フランジ部57は、図示しないシールドケースに対し例えばネジ止めによって固定される部分であって、前面62及び後面63は平坦な面に形成されている(ネジ止め部分の図示は省略するものとする)。フランジ部57は、シールド電線51を固定する部分としての機能を有するとともに、アースをする部分としての機能を有している。
【0050】
前部58は、編組固定部56の中心線CLに対して壁59が平行となるように形成されている。すなわち、前部58は円筒形状に形成されている。前部58の外径は、編組53の端末を広げない状態における内側サイズに合わせて設定されている。尚、前部58の前後方向の長さ、及び前部58の形成は任意であるものとする。
【0051】
編組53は、導電性を有する細径線を筒状に編み込むことによって形成されている。編組53は、シールド部材であって、上記実施例1の編組3と同じものとなっている。編組53は、編組固定部56の外周面61に挿入(外嵌)されるようになっている。
【0052】
加締めリング54は、編組固定部56の外周面61に挿入(外嵌)された編組53の更に外側に挿入(外嵌)される部品であって、加締め型55による加締めによって変形可能な薄肉に形成されている(変形は塑性変形)。加締めリング54は、編組53の端末を接続固定することができる部分(固着する部分)として形成されている。加締めリング54は、編組固定部56の中心線CLに対して壁(符号省略)が平行になるように形成されている。すなわち、加締めリング54は、円筒形状に形成されている。加締めリング54の内周面64及び外周面65は、加締め型55による加締め前の状態において、それぞれ凹凸のない面となるように形成されている(断面で見た場合)。加締めリング54は、この前後方向の長さが編組固定部56の同長さよりも短くなるように形成されている。
【0053】
加締め型55は、前後方向Pに一致する編組固定部56の中心線CL(軸)に沿って、この編組固定部56の内側に挿抜自在となる中子66と、中心線CLに直交する上下方向Qに開閉自在となる一対のダイス67とを含んで構成されている(これら金型を移動させる機構等の図示及び説明は省略するものとする)。
【0054】
中子66は、中実となる金型であって、中子本体68と、この中子本体68の円形後端に連成される中子後部69と、中子本体68の円形前端に連成される中子前部70とを有している。
【0055】
中子本体68は、編組固定部56の中心線CLに対して外周面71が平行になるように形成されている。このような中子本体68の外周面71の中間には、この周方向に段差形状で凹む段差形状受け部72が形成されている。段差形状受け部72は、一対のダイス67を閉じた時の受け部となるように形成されている。
【0056】
中子後部69は、中子本体68よりも大径となる形状に形成されている。中子後部69は、この前面76がフランジ部57の後面63に当接するように形成されている。
【0057】
中子前部70は、編組固定部56に対する中子挿入開始側に配置形成されている。中子前部70は、中子本体68における段差形状受け部72の形成部分と同径でこの前方に真っ直ぐのびる円柱形状に形成されている。
【0058】
一対のダイス67は、これらが閉じるとリング状となる金型であって、各ダイス67の内面78には、周方向に突出する打圧突条79が形成されている。打圧突条79は、段差形状受け部72の形状(断面形状)に合わせて形成されている。
【0059】
上記構成及び構造において、シールドシェル52における編組固定部56の外周面61に編組53の端末を挿入(外嵌)し、そして、この編組53の外側に加締めリング54を挿入(外嵌)し、この後に、中子66を編組固定部56の内側に挿入し、更に、一対のダイス67を閉じて接続固定対象部分に加締めを施すと、編組固定部56、加締めリング54、及びこれらに挟まれる編組53の端末からなる接続固定対象部分は、段差形状受け部72の断面形状に合わせた複数の曲げ箇所を有する状態に変形する。これにより、編組53の端末と編組固定部56との接続固定が完了する。
【0060】
加締めを施すことにより、編組固定部56の内周面60には、この周方向に突出する突条(図示省略)が生じるようになるが、この突条は中子66の抜き取りに際して、中子66と引っ掛かり合うことはない。つまり、中子66の抜き取りが可能であって、もって編組53の端末の接続固定に係る固着力を十分に高めることができるという効果を奏する。
【0061】
この他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【0062】
以上の説明においては、断面円形となる形状を基本としているが、これに限らず、断面略楕円形状や断面略長円形状に変更することも可能であるものとする。
【符号の説明】
【0063】
1…シールド電線
2…シールドシェル
3…編組
4…加締めリング
5…加締め型
6…編組固定部
7…フランジ部
8…前部
9…壁
10、14…内周面
11、15…外周面
12、26…前面
13…後面
16…中子
17…ダイス
18…中子本体
19…中子後部
20…中子前部
21…外周面
22…段差形状受け部
23…凹み側面
24…凹み底面
25、32…曲面
27…テーパ
28…内面
29…打圧突条
30…突条側面
31…突条先端面
33…突条
CL…中心線(軸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の電線と、導電性を有する金属製のシールドシェルと、導電性を有し前記複数本の電線を一括して覆う筒状の編組と、を含むシールド電線の前記編組端末を、前記シールドシェルにおける筒状の編組固定部の外周面に加締めによって接続固定するための加締め型において、
前記編組固定部の軸に沿って該編組固定部の内側に挿抜自在となる中子と、前記軸に直交する方向に開閉自在となり接続固定対象部分に対し加締めを施すことが可能なダイスと、を含む一方、
前記中子における中子本体の外周面中間にこの周方向に段差形状で凹むような段差形状受け部を設け、且つ該段差形状受け部よりも中子挿入開始側を前記段差形状受け部の位置のサイズ以下に形成するとともに、前記ダイスによる加締め位置を前記編組固定部からの前記中子の抜きに支障のない前記段差形状受け部の位置に合わせて設定する
ことを特徴とする加締め型。
【請求項2】
複数本の電線と、導電性を有する金属製のシールドシェルと、導電性を有し前記複数本の電線を一括して覆う筒状の編組と、を含むシールド電線の前記編組端末を、前記シールドシェルにおける筒状の編組固定部の外周面に加締めによって接続固定するための編組固定構造において、
前記編組固定部に前記編組端末を接続固定するにあたり、前記編組固定部の軸に沿って該編組固定部の内側に挿抜自在となる中子と、前記軸に直交する方向に開閉自在となり接続固定対象部分に対し加締めを施すことが可能なダイスと、を含む加締め型を用いるとともに、前記編組端末の外側に挿入され前記ダイスにより加締められて変形する金属製リング状の加締めリングを用いる一方、
前記中子における中子本体の外周面中間にこの周方向に段差形状で凹むような段差形状受け部を設け、且つ該段差形状受け部よりも中子挿入開始側を前記段差形状受け部の位置のサイズ以下に形成するとともに、前記ダイスによる加締め位置を前記編組固定部からの前記中子の抜きに支障のない前記段差形状受け部の位置に合わせて設定し、
この上で加締めを施すことにより、前記編組固定部、前記加締めリング、及びこれらに挟まれる前記編組端末からなる前記接続固定対象部分における断面視の固着状態を、前記段差形状受け部の断面形状に合わせた複数の曲げ箇所を有する固着状態にする
ことを特徴とするシールド電線の編組固定構造。
【請求項3】
請求項2に記載のシールド電線の編組固定構造において、
筒状の前記編組固定部及びリング状の前記加締めリングを、これらの壁が前記編組固定部の前記軸に対して傾くように、且つ前記壁の間隔が前記編組固定部の先端に向けて次第に小さくなるように形成するとともに、前記中子本体の前記外周面も前記軸に対して傾くように、且つ前記中子挿入開始側に向けて次第に縮径するように形成する
ことを特徴とするシールド電線の編組固定構造。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のシールド電線の編組固定構造において、
前記編組端末を、内側への折り返しにより二重の状態にする
ことを特徴とするシールド電線の編組固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−277836(P2010−277836A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128935(P2009−128935)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】