説明

加飾樹脂成形品の製造方法及び加飾樹脂成形品

【課題】木質感がよりリアルに表現された加飾樹脂成形品と、その有利な製造技術を提供する。
【解決手段】本木材の表面の微細な溝状凹部に対応する突条30が設けられた第一のキャビティ面50を有する第一の型34と第二の型36との間に形成される成形キャビティ内に、本木材と同様な色を有する溶融樹脂材料を射出して、第一のキャビティ面50にて形成される意匠面12にウエルドライン18やフローマークを発生させつつ、溶融樹脂材料を成形キャビティ内に充填した後、固化せしめることにより、意匠面12に、ウエルドライン18やフローマークからなる木目模様14を形成すると共に、前記第一のキャビティ面50の突条30に対応した凹部16を形成して、木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品10を成形するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾樹脂成形品の製造方法と加飾樹脂成形品と加飾樹脂成形品の射出成形用型とに係り、特に、木質感をよりリアルに表現する加飾が施された加飾樹脂成形品の製造方法と、そのような加飾樹脂成形品と、それを成形するのに有利に用いられる加飾樹脂成形品の射出成形用型とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、木質感を擬似的に表現する加飾が施された加飾樹脂成形品が、自動車内装部品や家具、建築材、家電製品等の様々な製品や物品の表面材として、多く利用されている。この加飾樹脂成形品を用いることで、木材の風合いや高級感が、手軽に且つ低コストに得られるからである。
【0003】
そして、そのような加飾樹脂成形品の製造手法には、例えば、射出成形用型の成形キャビティ内に、表面に木目模様が印刷された樹脂フィルムが収容配置した後、基材となる溶融樹脂材料を射出、充填して、固化するようにした、所謂フィルムインモールド成形手法(例えば、下記特許文献1参照)や、表面に木目模様が印刷された水溶性フィルムを水槽中の貯留水の水面に浮かべておき、これに基材を接触させたり、或いは水槽内を流れる水の水面に、インキを浮かべて、これに基材を接触させたりすることによって、基材表面に木目模様を転写するようにした、所謂水圧転写法(例えば、下記特許文献2参照)等が、知られている。これらの従来手法によれば、複雑な形状とされた意匠面に対しても、木目模様を確実に且つ容易に形成することが出来るといった利点が得られる。
【0004】
ところが、上記の如きフィルムインモールド成形手法や水溶性フィルムを用いる水圧転写法においては、目的とする加飾樹脂成形品を成形する工程の実施に先立って、木目模様が印刷された樹脂フィルムを形成する工程を行わなければならず、また、水溶性フィルムを用いない水圧転写法にあっても、先ず、基材を成形し、その後、かかる基材の意匠面に対する木目模様の転写工程を行うといった手順に従って製造作業が進められるものであって、何れの手法にしろ、加飾樹脂成形品の成形と同時に、その意匠面に木目模様を形成することが出来なかった。
【0005】
それ故、それらの従来手法では、目的とする加飾樹脂成形品の製造工程が不可避的に煩雑なものとなっており、しかも、それが製造コストの削減の妨げともなっていたのである。また、前記せる従来手法によって得られる加飾樹脂成形品は、単に、意匠面に対して木目模様が形成されただけのものであるため、今一つ、リアル感に欠けるものとなってしまうことが避けられなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平9−109179号公報
【特許文献2】特開平9−277793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、木質感が、よりリアルに表現された加飾樹脂成形品を、簡便に且つ安価に製造し得る方法と、よりリアルな木質感を有する加飾樹脂成形品と、そのような加飾樹脂成形品の製造に際して有利に用いられる加飾樹脂成形品の射出成形用型とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、加飾樹脂成形品の製造方法に係る課題の解決のために、その要旨とするところは、本木材と同様な色を有する意匠面に対して、該本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部と木目模様とを形成することにより、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品の製造方法であって、(a)前記意匠面を形成する意匠面形成部を含む第一のキャビティ面を有し、且つ該第一のキャビティ面の意匠面形成部に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する微細な突条が設けられてなる第一の型と、該意匠面とは反対側の裏面を形成する裏面形成部を含み、該第一のキャビティ面との間で前記加飾樹脂成形品を与える成形キャビティを形成する第二のキャビティ面を有する第二の型とを備えた射出成形用型を準備する工程と、(b)該準備された射出成形用型を用いて、前記本木材と同様な色を有する溶融樹脂材料を該射出成形用型の前記成形キャビティ内に射出して、前記意匠面にウエルドラインとフローマークのうちの少なくとも何れか一方が生ずるように、該溶融樹脂材料を流動させつつ、該成形キャビティ内に充填した後、該成形キャビティ内の該溶融樹脂材料を固化することにより、該意匠面に対して、前記木目模様を、該意匠面に生ぜしめられた該ウエルドラインや該フローマークにて形成すると共に、前記第一のキャビティ面の前記意匠面形成部に設けられた前記微細な突条に対応した凹部を、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部と同様な形状をもって該意匠面に形成して、前記本木材と同様な色を有する該意匠面に、前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形する工程とを含むことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法にある。
【0009】
また、本発明にあっては、加飾樹脂成形品の製造方法に係る課題の解決のために、本木材と同様な色を有する意匠面に対して、該本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部と木目模様とを形成することにより、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品の製造方法であって、(a)前記意匠面を形成する意匠面形成部を含む第一のキャビティ面を有し、且つ該第一のキャビティ面の意匠面形成部に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する微細な突条が設けられてなる第一の型と、該意匠面とは反対側の裏面を形成する裏面形成部を含み、該第一のキャビティ面との間で前記加飾樹脂成形品を与える成形キャビティを形成する第二のキャビティ面を有し、且つ該第二のキャビティ面の裏面形成部に、該成形キャビティ内に射出されて、該成形キャビティ内を流動する溶融樹脂材料の流れを阻害する凹部や凸部からなる複数の流動阻害部が設けられてなる第二の型とを備えた射出成形用型を準備する工程と、(b)該準備された射出成形用型を用いて、前記本木材と同様な色を有する溶融樹脂材料を該射出成形用型の前記成形キャビティ内に射出して、前記第二のキャビティ面の裏面形成部に設けられた前記複数の流動阻害部にて該溶融樹脂材料の流れが阻害されることにより、前記意匠面にウエルドラインが生ずるように、該溶融樹脂材料を流動させつつ、該成形キャビティ内に充填した後、該成形キャビティ内の該溶融樹脂材料を固化することにより、該意匠面に対して、前記木目模様を、該意匠面に生ぜしめられた該ウエルドラインにて形成すると共に、前記第一のキャビティ面の前記意匠面形成部に設けられた前記微細な突条に対応した凹部を、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部と同様な形状をもって該意匠面に形成して、前記本木材と同様な色を有する該意匠面に、前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形する工程とを含むことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法をも、また、その要旨とするものである。
【0010】
なお、このような本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の好ましい態様の一つによれば、前記本木材を用いて、前記第一のキャビティ面の意匠面形成部に、該本木材の表面の前記微細な溝状凹部を転写することにより、該微細な溝状凹部に対応する前記微細な突条が、該意匠面形成部に設けられることとなる。
【0011】
また、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の望ましい態様の一つによれば、前記溶融樹脂材料に、フレーク状の光輝性顔料が含有せしめられる。
【0012】
さらに、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の有利な態様の一つによれば、前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形した後、該樹脂成形品における前記凹部が形成された前記意匠面に、透明な塗膜を形成する工程が、更に実施される。なお、このような意匠面に対する透明な塗膜の形成工程が実施される場合には、有利には、かかる透明な塗膜が、透明なつや消し塗料を用いて形成されることとなる。
【0013】
また、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の別の好適な態様の一つによれば、前記流動阻害部が、第二のキャビティ面の裏面形成部に形成された凹部のみにて構成される。
【0014】
さらに、本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法の他の有利な態様の一つによれば、前記第二のキャビティ面の裏面形成部に、前記成形キャビティ内を流動する前記溶融樹脂材料の流動方向に交差する方向に延びる凹溝が設けられて、前記流動阻害部が、該凹溝を含んで構成される。また、有利には、流動阻害部が、かかる凹溝と、前記意匠面とは反対側の裏面に柱状の突起部を形成する凹所とにて、構成される。
【0015】
そして、本発明にあっては、前記せる加飾樹脂成形品に係る課題の解決のために、本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部と木目模様とが、該本木材と同様な色を有する意匠面に形成されて、木質感を表現する加飾が施された、射出成形品からなる加飾樹脂成形品であって、前記意匠面に形成された前記木目模様が、前記射出成形品の射出成形操作によって該意匠面に生ぜしめられたウエルドラインとフローマークのうちの少なくとも何れか一方にて構成されていることを特徴とする加飾樹脂成形品をも、その要旨とするものである。
【0016】
また、このような本発明に従う加飾樹脂成形品の好ましい態様の一つによれば、前記射出成形品を与える成形キャビティ内に前記本木材と同様な色を有する溶融樹脂材料を射出充填する際に、前記意匠面とは反対側の裏面を形成するキャビティ面の裏面形成部に設けられた複数の凹所により、該成形キャビティ内での溶融樹脂材料の流れが阻害されるように、該溶融樹脂材料を該成形キャビティ内に射出、充填する射出成形操作によって、前記ウエルドラインが該意匠面に生ぜしめられていると共に、該意匠面とは反対側の裏面に、前記キャビティ面の裏面形成部における前記複数の凹所に対応した複数の突起部が設けられる。なお、かかる複数の突起部は、有利には、複数のリブ状突起と複数の柱状突起とにて、構成される。
【0017】
そしてまた、本発明にあっては、前記せる加飾樹脂成形品の射出成形用型に係る課題の解決のために、本木材と同様な色を有する意匠面に対して、該本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部と木目模様とを形成することにより、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品を射出成形するための射出成形用型であって、(a)前記意匠面を形成する意匠面形成部を含む第一のキャビティ面を有し、且つ該第一のキャビティ面の意匠面形成部に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する微細な突条が設けられてなる第一の型と、(b)前記意匠面とは反対側の裏面を形成する裏面形成部を含み、前記第一の型における前記第一のキャビティ面との間で前記加飾樹脂成形品を与える成形キャビティを形成する第二のキャビティ面を有し、且つ該第二のキャビティ面の裏面形成部に、該成形キャビティ内に射出されて、該成形キャビティ内を流動する溶融樹脂材料の流れを阻害する凹部や凸部からなる複数の流動阻害部が設けられてなる第二の型と
を含んで構成されていることを特徴とする加飾樹脂成形品の射出成形用型をも、また、その要旨とするものである。
【0018】
なお、このような本発明に従う加飾樹脂成形品の射出成形用型の望ましい態様の一つによれば、前記第一の型における前記第一のキャビティ面の意匠面形成部に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部が転写されて、前記突条が、該意匠面形成部に設けられることとなる。
【発明の効果】
【0019】
すなわち、このような本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法にあっては、目的とする加飾樹脂成形品を射出成形するに際して、本木材を同様な色を有する溶融樹脂材料を用いると共に、本来、成形不良として生ずるウエルドラインやフローマークを、敢えて、意匠面に発生させ、そして、そのようなウエルドラインやフローマークを利用して、本木材(天然木材)と同様な色となる意匠面に木目模様を形成するようにしたものである。
【0020】
それ故、例えば、フィルムインモールド成形手法や水溶性フィルムを用いる水圧転写法を利用した従来の加飾樹脂成形品の製造方法とは異なって、目的とする加飾樹脂成形品を成形する工程の実施に先立って、木目模様が印刷された樹脂フィルムを形成する必要が、有利に皆無ならしめられ得る。また、水溶性フィルムを用いない水圧転写法を利用した従来の加飾樹脂成形品の製造方法とも異なって、加飾樹脂成形品の基材を成形した後、かかる基材の意匠面に対する木目模様の転写工程を行うといった二つの工程に跨る作業手順を踏むことなく、加飾樹脂成形品の成形と同時に、その意匠面に木目模様を形成することが出来る。
【0021】
しかも、かかる本発明手法においては、成形キャビティのキャビティ面のうち、意匠面を形成する意匠面形成部に、本木材の表面に存在する微細な溝状凹部に対応する微細な突条が設けられてなる射出成形用型が用いられることで、目的とする加飾樹脂成形品が、その意匠面に、意匠面形成部の微細な突条に対応した凹部、つまり本木材の表面に存在する微細な溝状凹部に対応した凹部が設けられるように、射出成形される。これによって、射出成形された加飾樹脂成形品の意匠面に対して、単に、木目模様だけが形成されてなるものに比して、よりリアルな木質感が付与され得る。
【0022】
従って、このような本発明に従う加飾樹脂成形品の製造方法によれば、それまでの製造手法では到底得られない、よりリアルな木質感を有する加飾樹脂成形品を、少ない工程数で、簡便に且つより低コストに製造することが出来るのである。
【0023】
また、成形キャビティのキャビティ面のうち、意匠面の裏面を形成する裏面形成部に、複数の流動阻害部が設けられてなる射出成形用型を用いて、成形キャビティ内での溶融樹脂材料の流れを複数の流動阻害部にて阻害することで、意匠面にウエルドラインを発生させるようにした本発明の加飾樹脂成形品の製造方法によれば、特別な射出条件を採用することなく、一般的な射出条件下での射出成形操作にて、ウエルドラインを意匠面に更に一層確実に且つ有利に発生させることが出来、以て、上記の如き優れた特徴が、更に有効に発揮され得ることとなる。
【0024】
そして、本発明に従う加飾樹脂成形品にあっては、所定の射出成形操作によって意匠面に生ぜしめられたウエルドラインやフローマークにて、木目模様が、意匠面に形成されると共に、本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部も、意匠面に設けられているところから、木質感が、よりリアルに表現され得て、木材の風合いや高級感が、更に一層有利に得られるのであり、しかも、そのようなリアルな木質感が、簡略に且つ低コストに付与され得ているのである。
【0025】
そしてまた、本発明に従う加飾樹脂成形品の射出成形用型にあっては、第一のキャビティ面の意匠面形成部に、本木材の表面の微細な溝状凹部に対応する微細な突条が設けられる一方、第二のキャビティ面の裏面形成部に、成形キャビティ内での溶融樹脂材料の流れを阻害する複数の流動阻害部が設けられているため、目的とする加飾樹脂成形品の成形の際に使用されることによって、前記せる特徴的な加飾樹脂成形品の製造方法において奏される作用・効果と実質的に同一の作用・効果が、極めて有効に享受され得るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0027】
先ず、図1乃至図4には、本発明手法に従って製造された加飾樹脂成形品の一例として、自動車用内装部品の一種たる収納ボックスのカバーパネル(蓋体)が、その上面の斜視形態と下面の斜視形態と縦断面形態と上面の一部を拡大した形態とにおいて、それぞれ示されている。それらの図から明らかなように、カバーパネル10は、全体として、所定の厚さを有する略矩形の筐体形状を呈しており、自動車用内装部品の形成材料として一般的に用いられる熱可塑性の樹脂材料(例えば、ABS樹脂等)を用いて射出成形された射出成形品にて構成されている。
【0028】
また、かかるカバーパネル10にあっては、外部に露呈される外面の全面が意匠面12とされており、この意匠面12に対して、木目模様14と木目調シボ16とが、それぞれ多数形成されている。更に、このカバーパネル10は、本木材と同様な茶色や焦げ茶色等の色を有し、しかも、例えばメタリック顔料やパール顔料等のフレーク状(りん片状)の光輝性顔料が含有せしめられた樹脂材料を用いて形成されている。これによって、意匠面12を含む全体が、本木材と同様な茶色や焦げ茶色等に着色されており、また、光輝性顔料にて光が反射されることで、高級感が得られるようになっている。
【0029】
そして、ここでは、それら多数の木目模様14が、カバーパネル10の射出成形操作の過程で意匠面12に生ぜしめられるウエルドライン18にて、構成されている。また、多数の木目調シボ16は、様々な長さをもって延びる微細な溝状凹部からなっている。そして、そのような木目調シボ16にあっては、断面形状が、三角形状やU字状、台形状、或いは無定形状等の様々な形状とされていると共に、開口部形状も、別々の木目調シボ16同士の間で、互いに異なる、比較的に複雑な形状とされている。また、かかる木目調シボ16の深さも、別々のもの同士の間で、種々異なる深さとされている。更に、図示されてはいないものの、一つの木目調シボ16においても、浅い部分と深い部分とが存在している。
【0030】
かくして、本実施形態のカバーパネル10にあっては、意匠面12に対して、成形時に生ずるウエルドライン18からなる多数の木目模様14が付与されていることに加えて、本木材(天然木)からなる突き板表面に存在する微細な溝状凹部と同様に、様々な長さや深さと各種の複雑な開口部形状や断面形状とを備えた溝状の凹部からなる木目調シボ16が、意匠面12に多数形成されている。これによって、カバーパネル10の意匠面12に、木質感を表現する加飾が、より一層リアルな木質感を表現し得るように施されているのである。
【0031】
また、かかるカバーパネル10においては、意匠面12の全面に、クリヤ塗膜20が、積層形成されている。このクリヤ塗膜20は、公知の透明な塗料が従来と同様な手法により塗布されることで、意匠面12の全面を被覆して、形成されている。これにより、カバーパネル10の意匠面12に対して、鏡面仕上げされたような高級感が効果的に付与され、更には、カバーパネル10の意匠面12の耐候性や耐衝撃性が高められて、かかる意匠面12に疵が付き難くなっている。また、ここでは、クリヤ塗膜20の厚さが十分に薄肉とされて、そのようなクリヤ塗膜20の表面にも、多数の木目調シボ16や多数の木目模様14にそれぞれ対応した微細な溝状凹部が形成されており、以て、本木材に近い肌触りが得られるようになっている。
【0032】
さらに、本実施形態のカバーパネル10にあっては、意匠面12とは厚さ方向の反対側の面となる裏面21に、突起部としてのボス22とリブ23とが、それぞれ複数個ずつ、一体的に設けられている。それら複数のボス22は、何れも、全体として、高さの低い円柱形状を呈している。また、かかる複数のボス22の中には、高さと径とが互いに同じものと、高さと径のうちの少なくとも何れか一方が互いに異なるものとが、混在している。
【0033】
一方、複数のリブ23は、何れも、全体として、カバーパネル10の裏面21の幅方向に延びる矩形平板形状を呈し、所定厚さと比較的に低い高さとカバーパネル10の裏面21の幅よりも十分に短い長さとを有している。また、そのような複数のリブ23の中にも、厚さと高さと長さとが互いの同じものと、厚さと高さと長さのうちの少なくとも何れか一方が互いに異なるものとが、混在している。
【0034】
そして、そのような複数のボス22と複数のリブ23とが、カバーパネル10の裏面21に、その長さ方向や幅方向において互いに適当な間隔を開けて、位置せしめられている。つまり、複数のボス22と複数のリブ23は、カバーパネル10の裏面21上に、無作為に点在するように位置せしめられているのである。
【0035】
ところで、かくの如き構造とされたカバーパネル10を製造する際には、例えば、先ず、目的とするカバーパネル10の外形形状に対応した成形キャビティを有する射出成形用型が形成されて、準備され、次いで、この準備された射出成形用型の成形キャビティ内で、カバーパネル10が射出成形されることとなる。
【0036】
より詳細には、カバーパネル10の外形形状に対応した成形キャビティを有する射出成形用型を形成するに際して、先ず、図5に示される如く、様々な深さと各種の複雑な開口部形状や断面形状とを有する微細な溝状凹部24が表面に多数存在する本木材からなる突き板25が準備され、そして、この準備された突き板25を用いて、その表面から、多数の微細な溝状凹部24が、所定の樹脂材料からなる型取り成形体26の型取り面28に型取りされて、かかる型取り面28に、多数の溝状凹部24に対応する突条30が、多数形成される。
【0037】
なお、この型取り工程は、実施されるべき具体的な操作が、特に限定されるものではないものの、例えば、以下の手順に従って進められる。即ち、先ず、上型と下型とからなる成形用金型の成形キャビティ内に、突き板25が、微細な溝状凹部24が多数存在する表面とは反対側の面を下型のキャビティ面に接触させた状態で、収容配置される。次いで、突き板25が収容された成形キャビティ内に、型取り成形体26を与える所定の樹脂材料が、溶融乃至は可塑化状態で、突き板25の微細な溝状凹部24が多数存在する表面上に接するように充填される。そして、必要に応じて、成形キャビティ内の樹脂材料が、上型にて加圧された状態で、固化乃至は硬化せしめられて、板状の樹脂成形体が形成される。その後、それら板状樹脂成形体と突き板25とが、成形用金型から離型せしめられた後、突き板25が、板状樹脂成形体から剥離される。なお、本工程では、必要に応じて、突き板25が接触配置されるキャビティ面に、公知の離型剤が塗布される等して、離型剤層が形成される。これによって、成形キャビティ内で成形された樹脂成形体からの突き板25の剥離が容易となる。
【0038】
かくして、本工程では、上記のようにして成形された板状樹脂成形体にて、全体として板状形態を呈する型取り成形体26が形成され、また、それと同時に、成形キャビティ内での突き板25との接触面からなる型取り面28に、突き板25表面の多数の微細な溝状凹部24が転写されて、かかる多数の溝状凹部24にそれぞれ対応する微細な突条30が、多数形成されるのである。
【0039】
また、本工程で型取り成形体26を形成する樹脂材料としては、好ましくは、突き板25の燃焼温度よりも低い温度で溶融乃至は可塑化される熱硬化性樹脂材料が用いられる。何故なら、そのような熱硬化性樹脂材料を使用する場合、かかる樹脂材料が溶融乃至は可塑化状態で突き板25と接触したときに、突き板25が燃焼することが回避され、それによって、突き板25表面の多数の微細な溝状凹部24が、型取り成形体26の型取り面28に対して確実に且つ正確に転写され得るからである。また、後述する如き射出成形工程にて、目的とするカバーパネル10を製造するに際して、型取り成形体26がキャビティ面に固着された射出成形用型の成形キャビティ内に、所定の溶融樹脂材料を射出、充填したときに、型取り成形体26が、かかる溶融樹脂材料との接触により加熱されて、再び溶融乃至は可塑化せしめられることが回避され、以て、目的とするカバーパネル10の意匠面12に対して、型取り成形体26における型取り面28の突条30が、確実に且つ正確に転写され得ることとなるからである。
【0040】
そして、型取り成形体26が成形されたら、この型取り成形体26を用いて、図6に示される如き構造を有する射出成形用型32が作製(形成)されて、準備される。
【0041】
なお、本工程で作製され、準備される射出成形用型32は、例えば上下方向において相対的に接近又は離隔可能に配置された第一の型としての上型34と第二の型としての下型36とを備えた分割型構造を有している。また、この射出成形用型32の上型34は、下方に向かって開口する矩形のキャビティ形成凹部38を有しており、更に、下型36は、上型34のキャビティ形成凹部38よりも一周り小さな大きさをもって上方に突出する矩形のキャビティ形成凸部40を一体的に有している。そして、それら上型34と下型36との互いの型合せ(型閉め)状態下において、上型34のキャビティ形成凹部38内に、下型36のキャビティ形成凸部40が嵌入せしめられて、キャビティ形成凹部38の開口部が下型36にて覆蓋されることにより、それら上型34と下型36との間に、キャビティ形成凹部38の内面とキャビティ形成凸部40の外面とをそれぞれ第一のキャビティ面と第二のキャビティ面とする矩形の成形キャビティ42が形成されるようになっている(図7参照)。
【0042】
また、上型34と下型36との型合せによるキャビティ形成凹部38内へのキャビティ形成凸部40の嵌入状態下で、キャビティ形成凹部38の底面と対向するキャビティ形成凸部40の先端面には、ボス形成凹所44とリブ形成凹所46が、それぞれ複数個ずつ形成されている。これら複数のボス形成凹所44と複数のリブ形成凹所46は、何れも、カバーパネル10の裏面21に形成される複数のボス22と複数のリブ23にそれぞれ対応した内面形状を有している。
【0043】
つまり、ここでは、下型36におけるキャビティ形成凸部40の先端面が、目的とするカバーパネル10の裏面21を与える裏面形成部48とされて、この裏面形成部48に対して、複数のボス形成凹所44と複数のリブ形成凹所46とが、裏面形成部48の長さ方向と幅方向とにおいて互いに適当な間隔を開けて、換言すれば、無作為に点在乃至は散在する状態で、上方に開口して設けられている。また、それら複数のボス形成凹所44と複数のリブ形成凹所46は、ボス形成凹所44同士の間でも、またリブ形成凹所46同士の間でも、大きさや深さ、形状等が互いに同一とされたものと、それらが互いに異なるものとが、それぞれ混在せしめられている。更に、複数のリブ形成凹所46にあっては、後述する如き成形キャビティ42内への溶融樹脂材料の射出、充填操作に際して、成形キャビティ42内での溶融樹脂材料の流動方向に対して交差する方向で、その中でも特に直角な方向に延びるように形成されている。
【0044】
そして、本工程では、上型34におけるキャビティ形成凹部38の底面の全面に対して、型取り成形体26が、型取り面28とは反対側の面において、接着剤を用いて接着されること等によって固着されることで、目的とするカバーパネル10を射出成形するための射出成形用型32が作製される。また、そのようにして作製された射出成形用型32の上型34におけるキャビティ形成凹部38の底面が、目的とするカバーパネル10の意匠面12を与える意匠面形成部50とされて、この意匠面形成部50の全面に対して、突き板25表面の多数の微細な溝状凹部24に対応する突条30が多数形成されることとなるのである。
【0045】
次に、かくして作製された射出成形用型32が用いられて、図7に示されるように、かかる射出成形用型32の上型34と下型36とが型合せされることにより、それらの間に成形キャビティ42が形成される。
【0046】
引き続き、図8に示される如く、上型34と下型36との間に形成される成形キャビティ42内に、所定の溶融樹脂材料が、図示しない射出成形機のノズルから射出、充填される。そして、その後、成形キャビティ42内に充填された溶融樹脂材料が、放冷される等して、固化せしめられる。これによって、上型34のキャビティ形成凹部38の意匠面形成部50との接触面にて意匠面12が形成され、また、かかる意匠面12に対して、意匠面形成部50に設けられた多数の突条30が転写されて、それら多数の突条30に対応する木目調シボ16が多数形成されてなる樹脂成形品52が、成形キャビティ42内で成形される。
【0047】
なお、本工程では、成形キャビティ42内に射出される溶融樹脂材料として、茶色や焦げ茶色等の顔料が含まれて、本木材と同様な色に着色され、またそれに加えて、フレーク状のメタリック顔料やパール顔料等の光輝性顔料が含有せしめられてなるものが、用いられる。これによって、樹脂成形品52の意匠面12を含む全体が、本木材と同様な茶色や焦げ茶色に着色される。また、メタリック顔料やパール顔料の存在によって、特に意匠面12において光を反射する光輝性が発揮されて、高級感が得られるようになる。
【0048】
また、そのような樹脂成形品52の意匠面12に形成された多数の木目調シボ16は、それぞれ、突条30に対応した形状とされることで、突き板25表面に存在する前記微細な溝状凹部24と同様に、断面形状が、三角形状やU字状、台形状、或いは無定形状等の様々な形状とされていると共に、開口部形状も、別々の木目調シボ16同士の間で、互いに異なる、比較的に複雑な形状とされている。また、かかる木目調シボ16の深さも、別々のもの同士の間で、種々異なる深さとされている。更に、図示されてはいないものの、一つの木目調シボ16においても、浅い部分と深い部分とが存在している。
【0049】
そして、かかる本工程では、射出成形機のノズルから成形キャビティ42内への溶融樹脂材料の射出、充填時に、溶融樹脂材料の一部が、成形キャビティ42内を、下型36のキャビティ形成凸部40の裏面形成部48に設けられた複数のボス形成凹所44や複数のリブ形成凹所46に入り込みながら流動せしめられるようになる。その際、成形キャビティ42内での溶融樹脂材料のスムーズな流れが阻害されて、一部の溶融樹脂材料同士がぶつかり合うような流れが発生し、それによって、上型34のキャビティ形成凹部38の意匠面形成部50との接触面に、ウエルドライン18(極微細な凹溝乃至は段差)が、多数、生ぜしめられる。
【0050】
また、前述せるように、複数のボス形成凹所44や複数のリブ形成凹所46は、大きさや深さ、形状等が互いに同一とされたものと、それらが互いに異なるものとが、それぞれ混在せしめられている。それ故、そのような不均一な形態を呈する複数の凹所44,46の一つ一つにより成形キャビティ42内での溶融樹脂材料の流れが阻害されて生ずる多数のウエルドライン18にて、樹脂成形品52の意匠面12に、互いに異なる不規則な曲線や直線が描かれる。そうして、樹脂成形品52の意匠面12に対して、それら多数のウエルドライン18からなる不規則な曲線にて、本木材の年輪等を擬似的に表現する木目模様14が、形成される。このことから明らかなように、本実施形態においては、ボス形成凹所44とリブ形成凹所46とにて、流動阻害部が構成されている。
【0051】
なお、本実施形態では、複数のリブ形成凹所46が、成形キャビティ42内での溶融樹脂材料の流動方向に対して直角な方向に延びる形態とされているところから、成形キャビティ42内での溶融樹脂材料の流れに対して、複数のボス形成凹所44よりも大きな流動抵抗を及ぼすようになる。このため、かかるリブ形成凹所46にて溶融樹脂材料の流れが阻害されて生ずるウエルドライン18からなる木目模様14が、ボス形成凹所44にて溶融樹脂材料の流れが阻害されて生ずるウエルドライン18からなる木目模様14よりも大きなカーブを描き、しかも鮮明な曲線や直線を描くように形成される。
【0052】
また、ここでは、樹脂成形品52を与える溶融樹脂材料中にフレーク状のメタリック顔料やパール顔料等の光輝性顔料が含有せしめられているため、成形キャビティ42内を流動する溶融樹脂材料同士がぶつかったときに、それらフレーク状の光輝性顔料が、溶融樹脂材料同士のぶつかり合った部分において、起立せしめられて、光を反射し難いような状態となる。そして、それによって、そのような溶融樹脂材料同士のぶつかり合った部分に生ずるウエルドライン18、更にはこのウエルドライン18からなる木目模様14が、意匠面12において、黒っぽい筋のようになって、よりはっきりと鮮明に視認され得るように形成されることとなる。
【0053】
かくして、ウエルドライン18からなる木目模様14と、突き板25表面に存在する多数の微細な溝状凹部24と同様形状の木目調シボ16とが意匠面12に多数形成されることにより、木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品52が、射出成形用型32(成形キャビティ42)内で射出成形される。その後、図9に示されるように、樹脂成形品52が射出成形用型32から離型される。そして、それに引き続いて、図示されてはいないものの、バリ等が除去された後、樹脂成形品52の表面の全面に対して、ウレタン塗料等の透明な塗料が塗布等されて、クリヤ塗膜20が形成される。そうして、図1乃至図4に示される如き構造を有する、目的とするカバーパネル10が、得られることとなるのである。なお、本工程においても、射出成形用型32の成形キャビティ42内への溶融樹脂材料の射出に先立って、射出成形用型32における上型34のキャビティ形成凹部38の内面と下型36のキャビティ形成凸部40の外面とに、公知の離型剤が塗布される等して、離型剤層が形成される。これによって、樹脂成形品52の射出成形用型32内からの離型性が高められる。
【0054】
このように、本実施形態においては、成形キャビティ42内に溶融樹脂材料を射出、充填して、固化する一回の射出成形操作を行うだけで、目的とするカバーパネル10を成形すると同時に、かかるカバーパネル10の意匠面12に対して、多数の木目模様14と多数の木目調シボ16とを形成することが出来る。それ故、従来手法とは異なって、例えば、カバーパネル10の成形操作に先立って、木目模様14が印刷された樹脂フィルム等を成形する操作や、木目模様14を有しない基材を成形する操作等を行う必要が、有利に皆無ならしめられ得る。しかも、カバーパネル10の意匠面12に木目模様14と共に形成される木目調シボ16が、突き板25表面の溝状凹部24と同様に、互いに異なるもの同士の間において、或いは一つのものにおいても様々な深さと、各種の複雑な開口部形状や断面形状とを有するようにされる。
【0055】
従って、かくの如き本実施形態によれば、従来においては到底得られないような、よりリアルな木質感と木材の風合い、更には高級感とを兼ね備えたカバーパネル10が、少ない工程数で、簡便に且つより低コストに製造され得ることとなる。そして、そのようにして得られたカバーパネル10を、例えば高級感が不足するために、従来では使用が困難であった用途等に対しても、広く適用することが可能となるのである。
【0056】
また、本実施形態では、下型36のキャビティ形成凸部40の裏面形成部48にボス形成凹所44とリブ形成凹所46とがそれぞれ複数設けられてなる射出成形用型32を用いた射出成形操作を行うことにより、各凹所44,46にて成形キャビティ42内での溶融樹脂材料の流れを阻害させて、成形される樹脂成形品52の意匠面12に、ウエルドライン18からなる木目模様14を多数形成するようにしたものである。それ故、例えば、溶融樹脂材料や射出成形用型32の温度や射出圧等の射出条件を何等変更するような面倒な操作を何等行うことなく、一般的な射出条件で射出操作を行うことによって、通常では成形不良とされるウエルドライン18を、意匠面12に対して、故意に且つ容易に発生させることが出来る。そして、その結果として、意匠面12に、木目模様14を簡便に形成することが可能となるのである。
【0057】
さらに、本実施形態においては、成形キャビティ42内での溶融樹脂材料の流動抵抗となる複数のボス形成凹所44や複数のリブ形成凹所46に、大きさや深さ、形状等が互いに同一とされたものと、それらが互いに異なるものとが、それぞれ混在せしめられており、それによって、不規則で、より複雑な曲線や直線からなるウエルドライン18にて構成された木目模様14が、意匠面12に形成される。それ故、そのような木目模様14が、整然とした人工的な風合いではなく、より自然な風合いを有するようになり、以て、カバーパネル10に対して、よりリアルで且つ自然な木質感が付与せしめられ得るのである。
【0058】
更にまた、本実施形態では、カバーパネル10の成形時において、その表面に木目調シボ16を形成する突条30が、突き板25を用いて、その表面に存在する微細な溝状凹部24を転写された形状を有しているところから、カバーパネル10に対して、それが、あたかも、実際の突き板25を用いて形成されているようなリアル感、つまり、本木材が有する木肌の質感と微妙なツヤ変化までもが、有利に付与され得る。
【0059】
また、本実施形態にあっては、下型36のキャビティ形成凸部40の裏面形成部48に複数のボス形成凹所44と複数のリブ形成凹所46とが設けられて、カバーパネル10の裏面21に対して、それら各凹所44,46に対応したボス22やリブ23等の突起部が形成されると共に、そのようなボス形成凹所44やリブ形成凹所46が成形キャビティ42内での溶融樹脂材料の流動抵抗となって、カバーパネル10の意匠面12に多数のウエルドライン18が生ぜしめられるようになっている。そのため、例えば、下型36のキャビティ形成凸部40の裏面形成部48に、成形キャビティ42内での溶融樹脂材料の流動抵抗となる(流れを阻害する)多数の凸部を設ける場合とは異なって、カバーパネル10の意匠面12に多数のウエルドライン18が生ぜしめられるものの、その裏面21に対して、多数の凸部に対応した多数の凹部が設けられ、そのために、カバーパネル10全体の強度の低下が惹起されるようなことが、未然に防止され得る。
【0060】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0061】
例えば、前記実施形態では、下型36のキャビティ形成凸部40の裏面形成部48に、流動阻害部としてのボス形成凹所44とリブ形成凹所46とがそれぞれ複数設けられてなる射出成形用型32が用いられていたが、ボス形成凹所44とリブ形成凹所46のうちの何れか一方のみが複数設けられてなる射出成形用型32を用いても良い。これによっても、最終的に得られるカバーパネル10の意匠面12に対して、ウエルドライン18からなる木目模様14を多数形成することが出来る。
【0062】
また、流動阻害部は、例示のボス形成凹所44とリブ形成凹所46に何等限定されるものではなく、成形キャビティ42内に射出された溶融樹脂材料の成形キャビティ42内での流れを阻害し得るように、裏面形成部48に設けられた各種の形状や大きさ等を有する突条や突起等からなる凸部や、様々な形状や深さ等を有する凹溝や凹所などからなる凹部が、適宜に採用され得る。
【0063】
さらに、それらの凸部や凹部からなる流動阻害部の裏面形成部への配設位置や配設個数も、目的とする加飾樹脂成形品(カバーパネル10)の意匠面に形成されるべき木目模様の形状や大きさ、個数等に応じて、適宜に変更され得るものであることは、言うまでもないところである。
【0064】
また、目的とする加飾樹脂成形品の射出成形に際して用いられる射出成形用型として、成形キャビティのキャビティ面の裏面形成部に、凹部や凸部等からなる流動阻害部が何等設けられることなく、かかる裏面形成部が平坦面とされた射出成形用型を用いることも出来る。この場合にあっては、例えば、溶融樹脂材料や射出成形用型の温度を、通常の射出成形時よりも低く設定したり、或いは射出圧等を調節して、成形キャビティ内での溶融樹脂材料の流動速度を調節したりすることによって、成形される樹脂成形品の意匠面に、ウエルドラインとフローマークのうちの少なくとも何れか一方が生ぜしめられて、それらのウエルドラインやフローマークにて、木目模様が形成されることとなる。
【0065】
更にまた、加飾樹脂成形品としてのカバーパネル10の意匠面12に形成されたクリヤ塗膜20を省略しても、何等差し支えない。なお、クリヤ塗膜20を形成する場合にあっても、かかるクリヤ塗膜20を、例えばウレタン塗料等の公知の透明なつや消し塗料を用いて形成することも出来る。これによって、カバーパネル10の意匠面12の触感が、樹脂の硬質な感じではなく、木の柔らかな感じに表現され得る。
【0066】
また、前記実施形態では、微細な溝状凹部24の被転写材料として、突き板25が用いられていたが、かかる被転写材料には、突き板25以外の各種の本木材が、利用可能である。
【0067】
さらに、突き板25等の本木材の表面に存在する溝状凹部24に対応した突条30を、射出成形用型32における上型34のキャビティ形成凹部38の意匠面形成部50に形成する方法は、例示のものに、特に限定されるものではない。
【0068】
例えば、熱硬化性樹脂材料に代えて、セラミックス材料を用い、所定の金型の成形キャビティ内に、突き板25等の本木材を収容配置した上で、かかるセラミックス材料を充填して、公知の金型プレス成形手法等を実施することにより、突き板25等の本木材の表面に存在する溝状凹部24に対応した突条30が表面に転写されたセラミックス製の型取り成形体を成形する。そして、この型取り成形体を、突条30の形成面とは反対側の面において、上型34のキャビティ形成凹部38の意匠面形成部50に固着する方法等も、採用され得る。
【0069】
また、例えば、先ず、突き板25等の本木材の溝状凹部24を、樹脂製の第一型取り成形体の第一型取り面に転写して、第一の突条を形成した後、セラミックス製の第二型取り成形体の第二型取り面に、第一型取り成形体の第一の突条を転写して、それに対応した凹溝を形成し、その後、セラミックス製の第三型取り成形体の第三型取り面に、第二型取り成形体の凹溝を転写して、かかる凹溝に対応し且つ突き板25等の本木材の溝状凹部24に対応した第二の突条(突条30)を形成する。そして、この第三型取り成形体を、第二の突条の形成面とは反対側の面において、上型34のキャビティ形成凹部38の意匠面形成部50に固着する方法等も、適宜に採用され得る。なお、第一乃至第三型取り成形体の成形手法や各突条や凹溝の転写方法も、何等限定されるものではない。
【0070】
このように、上型34のキャビティ形成凹部38の意匠面形成部50に対して、セラミックス製の取り成形体を固着することで、突き板25等の本木材の表面に存在する溝状凹部24に対応した突条30(第二の突条)を形成する場合にあっては、例えば、目的とする加飾樹脂成形品(カバーパネル10)の成形時に、樹脂材料の流動圧によって、突条30が変形せしめられることが有利に回避され、その結果、木目調シボ16の形状が、突き板25表面の溝状凹部24の形状と正確に一致せしめられ得ることとなる。
【0071】
さらに、突き板25等の本木材の表面に存在する溝状凹部24に対応した突条30を、射出成形用型32における上型34のキャビティ形成凹部38の意匠面形成部50に形成する方法には、その他、意匠面形成部50に対して公知のエッチング加工等を施して、所望の突条30を形成する方法がある。
【0072】
加えて、前記実施形態では、本発明を、自動車用内装部品の一種たる収納ボックスのカバーパネルとその製造方法とそれに用いられる成形用型に適用したものの具体例を示したが、本発明は、他の自動車用内装部品や自動車用内装部品以外の部品乃至は部材を構成する加飾樹脂成形品の製造方法と加飾樹脂成形品と加飾樹脂成形品の成形用型の何れに対しても、有利に適用されるものであることは、勿論である。
【0073】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明手法に従って製造される加飾樹脂成形品の一実施形態としてのカバーパネルを示す斜視説明図である。
【図2】図1に示されたカバーパネルの裏面形態を示す斜視説明図である。
【図3】図1のIII−III断面における部分拡大説明図である。
【図4】図1における部分拡大説明図である。
【図5】本発明に従って、図1に示されたカバーパネルを製造するに際して、射出成形用型を形成する際の一工程例を示す説明図であって、突き板表面の溝状凹部を型取りして、型取り成形体を形成した状態を示している。
【図6】図5に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、型取り成形体を上型のキャビティ面の意匠面形成部に固着して、目的とするカバーパネルを成形するための射出成形用型を形成した状態を示している。
【図7】本発明手法に従って、図1に示されたカバーパネルを図6に示された射出成形用型を用いて製造する際の一工程例を示す説明図であって、かかる射出成形用型を型閉めして、成形キャビティを形成した状態を示している。
【図8】図7に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、成形キャビティ内に溶融樹脂を射出、充填し、固化せしめた状態を示している。
【図9】図8に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、成形キャビティ内で成形された樹脂成形品を離型した状態を示している。
【符号の説明】
【0075】
10 カバーパネル 12 意匠面
14 木目模様 16 木目調シボ
18 ウエルドライン 20 クリヤ塗膜
16 木目調シボ 21 裏面
22 ボス 23 リブ
24 溝状凹部 25 突き板
26 型取り成形体 30 突条
32 射出成形用型 42 成形キャビティ
44 ボス形成凹所 46 リブ形成凹所
48 裏面形成部 50 意匠面形成部
52 樹脂成形品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本木材と同様な色を有する意匠面に対して、該本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部と木目模様とを形成することにより、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品の製造方法であって、
前記意匠面を形成する意匠面形成部を含む第一のキャビティ面を有し、且つ該第一のキャビティ面の意匠面形成部に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する微細な突条が設けられてなる第一の型と、該意匠面とは反対側の裏面を形成する裏面形成部を含み、該第一のキャビティ面との間で前記加飾樹脂成形品を与える成形キャビティを形成する第二のキャビティ面を有する第二の型とを備えた射出成形用型を準備する工程と、
該準備された射出成形用型を用いて、前記本木材と同様な色を有する溶融樹脂材料を該射出成形用型の前記成形キャビティ内に射出して、前記意匠面にウエルドラインとフローマークのうちの少なくとも何れか一方が生ずるように、該溶融樹脂材料を流動させつつ、該成形キャビティ内に充填した後、該成形キャビティ内の該溶融樹脂材料を固化することにより、該意匠面に対して、前記木目模様を、該意匠面に生ぜしめられた該ウエルドラインや該フローマークにて形成すると共に、前記第一のキャビティ面の前記意匠面形成部に設けられた前記微細な突条に対応した凹部を、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部と同様な形状をもって該意匠面に形成して、前記本木材と同様な色を有する該意匠面に、前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形する工程と、
を含むことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
本木材と同様な色を有する意匠面に対して、該本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部と木目模様とを形成することにより、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品の製造方法であって、
前記意匠面を形成する意匠面形成部を含む第一のキャビティ面を有し、且つ該第一のキャビティ面の意匠面形成部に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する微細な突条が設けられてなる第一の型と、該意匠面とは反対側の裏面を形成する裏面形成部を含み、該第一のキャビティ面との間で前記加飾樹脂成形品を与える成形キャビティを形成する第二のキャビティ面を有し、且つ該第二のキャビティ面の裏面形成部に、該成形キャビティ内に射出されて、該成形キャビティ内を流動する溶融樹脂材料の流れを阻害する凹部や凸部からなる複数の流動阻害部が設けられてなる第二の型とを備えた射出成形用型を準備する工程と、
該準備された射出成形用型を用いて、前記本木材と同様な色を有する溶融樹脂材料を該射出成形用型の前記成形キャビティ内に射出して、前記第二のキャビティ面の裏面形成部に設けられた前記複数の流動阻害部にて該溶融樹脂材料の流れが阻害されることにより、前記意匠面にウエルドラインが生ずるように、該溶融樹脂材料を流動させつつ、該成形キャビティ内に充填した後、該成形キャビティ内の該溶融樹脂材料を固化することにより、該意匠面に対して、前記木目模様を、該意匠面に生ぜしめられた該ウエルドラインにて形成すると共に、前記第一のキャビティ面の前記意匠面形成部に設けられた前記微細な突条に対応した凹部を、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部と同様な形状をもって該意匠面に形成して、前記本木材と同様な色を有する該意匠面に、前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形する工程と、
を含むことを特徴とする加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記本木材を用いて、前記第一のキャビティ面の意匠面形成部に、該本木材の表面の前記微細な溝状凹部を転写することにより、該微細な溝状凹部に対応する前記微細な突条が、該意匠面形成部に設けられている請求項1又は請求項2に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記溶融樹脂材料に、フレーク状の光輝性顔料が含有せしめられている請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記木質感を表現する加飾が施された樹脂成形品を成形した後、該樹脂成形品における前記凹部が形成された前記意匠面に、透明な塗膜を形成する工程を更に含んでいる請求項1乃至請求項4のうちの何れか1項に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記透明な塗膜が、透明なつや消し塗料を用いて形成されている請求項5に記載の加飾樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部と木目模様とが、該本木材と同様な色を有する意匠面に形成されて、木質感を表現する加飾が施された、射出成形品からなる加飾樹脂成形品であって、
前記意匠面に形成された前記木目模様が、所定の射出成形操作によって、該意匠面に生ぜしめられたウエルドラインとフローマークのうちの少なくとも何れか一方にて構成されていることを特徴とする加飾樹脂成形品。
【請求項8】
前記射出成形品を与える成形キャビティ内に前記本木材と同様な色を有する溶融樹脂材料を射出充填する際に、前記意匠面とは反対側の裏面を形成するキャビティ面の裏面形成部に設けられた複数の凹所により、該成形キャビティ内での溶融樹脂材料の流れが阻害されるように、該溶融樹脂材料を該成形キャビティ内に射出、充填する射出成形操作によって、前記ウエルドラインが該意匠面に生ぜしめられていると共に、該意匠面とは反対側の裏面に、前記キャビティ面の裏面形成部における前記複数の凹所に対応した複数の突起部が設けられている請求項7に記載の加飾樹脂成形品。
【請求項9】
本木材と同様な色を有する意匠面に対して、該本木材の表面に存在する微細な溝状凹部と同様な形状の凹部と木目模様とを形成することにより、木質感を表現する加飾が施された加飾樹脂成形品を射出成形するための射出成形用型であって、
前記意匠面を形成する意匠面形成部を含む第一のキャビティ面を有し、且つ該第一のキャビティ面の意匠面形成部に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部に対応する微細な突条が設けられてなる第一の型と、
前記意匠面とは反対側の裏面を形成する裏面形成部を含み、前記第一の型における前記第一のキャビティ面との間で前記加飾樹脂成形品を与える成形キャビティを形成する第二のキャビティ面を有し、且つ該第二のキャビティ面の裏面形成部に、該成形キャビティ内に射出されて、該成形キャビティ内を流動する溶融樹脂材料の流れを阻害する凹部や凸部からなる複数の流動阻害部が設けられてなる第二の型と、
を含んで構成されていることを特徴とする加飾樹脂成形品の射出成形用型。
【請求項10】
前記第一の型における前記第一のキャビティ面の意匠面形成部に、前記本木材の表面の前記微細な溝状凹部が転写されて、前記突条が、該意匠面形成部に設けられている請求項9に記載の加飾樹脂成形品の射出成形用型。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−272943(P2008−272943A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115542(P2007−115542)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】