説明

動力伝達装置およびその制御方法

【課題】入力部材の変形を抑制する。
【解決手段】インプットシャフトに接続されたインプットコーンとアウトプットシャフトに接続されたアウトプットコーンとを互いに逆向きに配置し、アウトプットシャフトに作用するトルクをアウトプットシャフト方向の力に変換する狭圧力調節機構によってアウトプットシャフトに作用するトルクが大きいほど大きな狭圧力でリングが狭圧される無段変速機を備えるものにおいて、リングの位置がアウトプットコーンの大径側端部である出力部材最大径時に、アウトプットシャフトに作用するトルクとしての出力トルクToutが閾値Tref以上のときには(S120)、リングをアウトプットコーンの小径側にスライドさせる(S130,S140)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の動力伝達装置としては、インプットシャフトに接続されたインプットコーンとアウトプットシャフトに接続されたアウトプットコーンとを互いに逆向きに平行に配置し、アウトプットシャフトに作用するトルクを狭圧力調節機構によって軸方向の力に変換してアウトプットコーンに作用させることによって両コーンでリングを狭圧する無段変速機を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置における無段変速機では、リングをスライドさせることにより、インプットシャフトに入力された動力を変速比の変更を伴ってアウトプットシャフトに出力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−243559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした動力伝達装置では、リングがアウトプットコーンの大径側端部に位置するとき(減速比が最大のとき)などには、アウトプットシャフトに大きなトルクが作用しやすく、そのトルクの大きさによってはアウトプットシャフトから狭圧力調節機構やアウトプットコーン,リングを介してインプットコーンに大きな力が作用してインプットコーンが変形し、動力の伝達性能の低下を招く場合がある。このため、インプットコーンの変形を抑制することが望まれるが、インプットコーンの強度の向上などによってこうした変形を抑制しようとすると、インプットコーンの大型化や重量の増加につながる。
【0005】
本発明の動力伝達装置およびその制御方法は、入力部材の変形を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の動力伝達装置およびその制御方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の動力伝達装置は、
入力軸と該入力軸に平行に配置された出力軸とを有し、該入力軸に入力された動力を無段階に変速して該出力軸に出力する無段変速機を備える動力伝達装置であって、
前記入力軸に接続された円錐形状の入力部材と、
前記出力軸に接続され、前記入力部材とは逆向きに配置された円錐形状の出力部材と、
前記入力部材と前記出力部材とに狭圧され、該入力部材と該出力部材との間で動力の伝達を行なう環状の伝達部材と、
前記伝達部材をスライドさせることにより変速比を変更可能なスライド手段と、
前記出力軸に作用するトルクである出力トルクが大きいほど大きくなる傾向に前記伝達部材に作用する狭圧力を調節する狭圧力調節手段と、
前記伝達部材の位置を取得する位置取得手段と、
前記出力トルクを取得する出力トルク取得手段と、
前記取得された伝達部材の位置が前記出力部材の大径側端部を含む所定範囲内であり且つ前記取得された出力トルクが所定トルク以上のとき、前記伝達部材が前記出力部材の小径側にスライドするよう前記スライド手段を制御するスライド制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の動力伝達装置では、伝達部材の位置が出力部材の大径側端部を含む所定範囲内であり且つ出力軸に作用するトルクである出力トルクが所定トルク以上のときには、伝達部材が出力部材の小径側にスライドするようスライド手段を制御する。これにより、減速比が小さくなって出力トルクが小さくなるため、出力軸から狭圧力調節手段や出力部材,リングを介して入力部材に作用する力を小さくすることができ、入力部材の変形を抑制することができる。ここで、「所定トルク」は、入力部材が変形する可能性のある出力トルクの下限やそれよりも若干小さいトルクとして予め定められたトルクであるものとすることもできるし、伝達部材の少なくとも一部が出力部材からはみ出る(伝達部材と出力部材との接触面積が小さくなる)可能性のあるトルクの下限やそれよりも若干小さいトルクであるものとすることもできる。また、「所定範囲」は、入力部材が変形する可能性のあるトルクが出力軸に作用し得る範囲として予め定められた範囲であるものとすることもできるし、伝達部材の少なくとも一部が出力部材からはみ出る可能性のあるトルクが出力軸に作用し得る範囲として予め定められた範囲であるものとすることもできる。
【0009】
こうした本発明の動力伝達装置において、前記スライド制御手段は、前記出力部材の移動可能距離以上の距離だけ前記伝達部材が前記出力部材の小径側にスライドするよう前記スライド手段を制御する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、入力部材の変形などによって伝達部材の少なくとも一部が出力部材からはみ出るのをより確実に抑制することができる。
【0010】
また、本発明の動力伝達装置において、前記スライド制御手段は、前記取得された出力トルクが大きいほど大きくなる傾向の距離だけ前記伝達部材が前記出力部材の小径側にスライドするよう前記スライド手段を制御する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、出力トルクに応じた距離だけ伝達部材をスライドさせることができる。
【0011】
本発明の動力伝達装置の制御方法は、
入力軸に接続された円錐形状の入力部材と、出力軸に接続され前記入力部材とは逆向きに配置された円錐形状の出力部材と、前記入力部材と前記出力部材とに狭圧され該入力部材と該出力部材との間で動力の伝達を行なう環状の伝達部材と、前記伝達部材をスライドさせることにより変速比を変更可能なスライド手段と、前記出力軸に作用するトルクである出力トルクが大きいほど大きくなる傾向に前記伝達部材に作用する狭圧力を調節する狭圧力調節手段と、を有し、前記入力軸に入力された動力を無段階に変速して前記出力軸に出力する無段変速機を備える動力伝達装置の制御方法であって、
前記伝達部材の位置が前記出力部材の大径側端部を含む所定範囲内であり且つ前記出力トルクが所定トルク以上のとき、前記伝達部材が前記出力部材の小径側にスライドするよう前記スライド手段を制御する、
ことを特徴とする。
【0012】
この本発明の動力伝達装置の制御方法では、伝達部材の位置が出力部材の大径側端部を含む所定範囲内であり且つ出力軸に作用するトルクである出力トルクが所定トルク以上のときには、伝達部材が出力部材の小径側にスライドするようスライド手段を制御する。これにより、減速比が小さくなって出力トルクが小さくなるため、出力軸から狭圧力調節手段や出力部材,リングを介して入力部材に作用する力を小さくすることができ、入力部材の変形を抑制することができる。ここで、「所定トルク」は、入力部材が変形する可能性のある出力トルクの下限やそれよりも若干小さいトルクとして予め定められたトルクであるものとすることもできるし、伝達部材の少なくとも一部が出力部材からはみ出る(伝達部材と出力部材との接触面積が小さくなる)可能性のあるトルクの下限やそれよりも若干小さいトルクであるものとすることもできる。また、「所定範囲」は、入力部材が変形する可能性のあるトルクが出力軸に作用し得る範囲として予め定められた範囲であるものとすることもできるし、伝達部材の少なくとも一部が出力部材からはみ出る可能性のあるトルクが出力軸に作用し得る範囲として予め定められた範囲であるものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例としての動力伝達装置20が組み込まれた自動車10の構成の概略を示す構成図である。
【図2】実施例の動力伝達機構20aの構成の概略を示す構成図である。
【図3】CVT30の変速の様子を示す説明図である。
【図4】スライド機構62の構成の概略を示す構成図である。
【図5】狭圧力調節機構50の構成の概略を示す構成図である。
【図6】狭圧力調節機構50を部分的に拡大した部分拡大図である。
【図7】電子制御ユニット90により実行される出力部材最大径時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】目標スライド距離設定用マップの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の一実施例としての動力伝達装置20を搭載する自動車10の構成の概略を示す構成図である。実施例の自動車10は、図示するように、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関としてのエンジン12と、エンジン12からの動力を変速して左右の車輪88a,88bに伝達する動力伝達機構20aと、車両全体をコントロールする電子制御ユニット90とを備える。ここで、実施例の動力伝達装置20としては、動力伝達機構20aおよび電子制御ユニット90が該当する。
【0016】
動力伝達機構20aは、エンジン12から図示しない発進装置(例えば、トルクコンバータなど)を介して入力された動力を変速して左右の車輪88a,88bに伝達するトランスアクスル装置として構成されており、図2に示すように、発進装置の出力軸22に接続され発進装置からの動力を正転と逆転との切替を伴って出力する前後進切替機構24と、前後進切替機構24に接続されたインプットシャフト32とこのインプットシャフト32に平行に配置されたアウトプットシャフト38とを有しインプットシャフト32に入力された動力を無段階に変速してアウトプットシャフト38に出力する無段変速機としてのCVT30と、CVT30のアウトプットシャフト38に減速ギヤ26を介して連結されると共に左右の前輪に連結されたデファレンシャルギヤ28とを備え、これらはトランスアクスルハウジング21aとコンバータハウジング21bとリアケース21cとからなるケース21に収容されている。なお、このケース21の内部には、前後進切替機構24とデファレンシャルギヤ28とが配置される空間とCVT30が配置される空間とを仕切る仕切プレート21dが設けられている。
【0017】
前後進切替機構24は、ダブルピニオンの遊星歯車機構とブレーキB1およびクラッチC1とにより構成されている。ダブルピニオンの遊星歯車機構は、外歯歯車のサンギヤ24aと、このサンギヤ24aと同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ24bと、サンギヤ24aに噛合する複数の第1ピニオンギヤおよびこの第1ピニオンギヤに噛合すると共にリングギヤ24bに噛合する複数の第2ピニオンギヤを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア24cとを備え、サンギヤ24aには出力軸22が、キャリア24cにはCVT30のインプットシャフト32が、各々連結されている。遊星歯車機構のリングギヤ24bは、ブレーキB1によりケース21に接続されており、ブレーキB1をオンオフすることにより、リングギヤ24bを自由に回転するものとしたり、その回転を禁止したりする。遊星歯車機構のサンギヤ24aとキャリア24cは、クラッチC1により接続されており、クラッチC1をオンオフすることにより、サンギヤ24aとキャリア24cとを連結したり切り離したりする。前後進切替機構24は、ブレーキB1をオフすると共にクラッチC1をオンすることにより出力軸22の回転をそのままCVT30のインプットシャフト32に伝達して車両を前進させたり、ブレーキB1をオンすると共にクラッチC1をオフすることにより出力軸22の回転を逆方向に変換してCVT30のインプットシャフト32に伝達して車両を後進させたりする。また、ブレーキB1をオフすると共にクラッチC1をオフすることにより出力軸22とCVT30のインプットシャフト32とを切り離すこともできる。なお、実施例では、前後進切替機構24をダブルピニオンの遊星歯車機構とブレーキB1とクラッチC1とにより構成するものとしたが、ダブルピニオンの遊星歯車機構に代えてシングルピニオンの遊星歯車機構により構成するものとしてもよいし、その他の構成とするものとしてもよい。
【0018】
CVT30は、インプットシャフト32が一体的に形成された円錐形状のインプットコーン34と、インプットコーン34と略同一形状でインプットコーン34と逆向きとなるようアウトプットシャフト38に連結されたアウトプットコーン36と、インプットコーン34に挿入されてインプットコーン34とアウトプットコーン36とにより挟まれるよう配置されたリング60と、リング60を回転自在に支持しリング60をスライド可能なスライド機構62(図4参照)と、インプットコーン34とアウトプットコーン36との間のリング60への狭圧力を調節する狭圧力調節機構50とを備え、スライド機構62によってリング60をスライドさせることによりインプットシャフト32からの動力を無段階に変速してアウトプットシャフト38に出力する。図3に、CVT30の変速の様子を示す。図示するように、リング60を図中手前側(図2中左側)にスライドさせることによりインプットコーン34からの動力を比較的小さな減速比をもって変速してアウトプットコーン36に伝達し、リング60を図中奥側(図2中右側)にスライドさせることによりインプットコーン34からの動力を比較的大きな減速比をもって変速してアウトプットコーン36に伝達する。
【0019】
インプットコーン34およびインプットシャフト32は、図2中右端では仕切プレート21dに取り付けられスラスト力を受けることができないが比較的大きなラジアル力を受けることができる円筒ころ軸受けとして形成された軸受け41により回転自在に支持されると共に左端ではトランスアクスルハウジング21aに取り付けられスラスト力を受けることができる円錐ころ軸受けとして形成された軸受け42により回転自在に支持されている。一方、アウトプットコーン36は、図2中右端では仕切プレート21dに取り付けられ円筒ころ軸受けとして形成された軸受け45により回転自在に支持されると共に左端ではトランスアクスルハウジング21aに取り付けられ円筒ころ軸受けとして形成された軸受け46により回転自在に支持されている。また、アウトプットコーン36に連結されたアウトプットシャフト38の図2中右端ではコンバータハウジング21bに取り付けられ円錐ころ軸受けとして形成された軸受け49により回転自在に支持されている。
【0020】
スライド機構62は、図4に示すように、リング60のスライド方向に略平行に延在してトランスアクスルハウジング21aによって回転自在に支持される送りネジとしてのガイドレール64と、ガイドレール64に嵌合する嵌合部を有しガイドレール64の回転時には回転せずにガイドレール64に沿って移動可能なスライダ66と、ガイドレール64の延在方向に揺動可能にスライダ66に取り付けられると共にU字形状のU字部によってリング60を側面から回転自在に保持する保持部68と、ガイドレール64の一端に回転軸が接続されてガイドレール64を回転させるモータ70とを備える。このスライド機構62では、モータ70の回転駆動によってガイドレール64を回転させてスライダ66をガイドレール64に沿って移動させることにより、リング60を図中手前側(図2中左側)または図中奥側(図2中右側)にスライドさせる。
【0021】
狭圧力調節機構50は、図2に示すように、アウトプットコーン36に内蔵されており、機械的な機構によりインプットコーン34とアウトプットコーン36とによりリング60に作用する狭圧力を調節する。図5は狭圧力調節機構50の構成の概略を示す構成図であり、図6は狭圧力調節機構50を部分的に拡大した部分拡大図である。狭圧力調節機構50は、図5および図6に示すように、アウトプットシャフト38の先端部に形成されたスプラインにスプライン嵌合されアウトプットシャフト38に対して軸方向に移動不能に固定された固定部材52と、アウトプットコーン36の内周面に形成されたスプラインにスプライン嵌合されアウトプットシャフト38に対してアウトプットコーン36と共に軸方向に移動可能に形成された移動部材54と、固定部材52に形成された複数の半球状のボール受け52aと移動部材54に形成された複数の半球状のボール受け54aとの間に配置された複数のボール56と、固定部材52と移動部材54との間に設けられ固定部材52をバネ受けとして移動部材54を軸方向に付勢するバネ58と、アウトプットコーン36に取り付けられアウトプットコーン36をアウトプットシャフト38に対して軸方向に移動可能に支持する支持部材59とを備え、アウトプットシャフト38に作用するトルクを軸方向の力に変換してアウトプットコーン36に作用させることによりリング60の狭圧力を調節する。図6に示すように、アウトプットシャフト38にトルクが作用していないときには、固定部材52のボール受け52aと移動部材54のボール受け54bとは丁度向かい合う位置にあり、移動部材54はボール56からの何らの力も受けないが(図6(a)参照)、アウトプットシャフト38にトルクが作用すると、固定部材52のボール受け52aと移動部材54のボール受け54aとの間にねじれが生じて固定部材52からの反力を用いてボール56で移動部材54を押す出す力が生じる(図6(b)参照)。前述したように、移動部材54にはアウトプットコーン36が取り付けられているから、移動部材54の移動に伴ってアウトプットコーン36も押し出されることになる。このとき、アウトプットコーン36を押し出す力はアウトプットシャフト38に作用するトルクが大きいほど大きくなり、これにより、リング60の狭圧力が調節される。したがって、CVT30は、インプットシャフト32に入力されたトルクに対して減速比が大きいほどアウトプットシャフト38に作用するトルクが大きくなるから、減速比が大きいほどリング60の狭圧力は大きくなる方向に調節されることになる。
【0022】
電子制御ユニット90は、CPUを中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMと、データを一時的に記憶するRAMと、入出力ポートと、通信ポートとを備える。電子制御ユニット90には、エンジン12の運転状態を検出する各種センサからの信号や、スライダ66に取り付けられてリング60の位置を検出する位置検出センサ72(図4参照)からのリング位置Pr,インプットシャフト32に取り付けられた回転数センサからのインプットシャフト32の回転数,アウトプットシャフト38に取り付けられた回転数センサからのアウトプットシャフト38の回転数,シフトレバー91の操作位置を検出するシフトポジションセンサ92からのシフトポジションSP,アクセルペダル93の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル95の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ96からのブレーキペダルポジションBP車速センサ98からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット90からは、エンジン12への制御信号や、前後進切替機構24のクラッチC1やブレーキB1への制御信号,CVT30のスライド機構62のモータ70への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0023】
次に、こうして構成された実施例の動力伝達装置20の動作、特に、リング60の位置がアウトプットコーン36の大径側端部(最大減速比に相当する位置)である出力部材最大径時の動作について説明する。図7は、電子制御ユニット90により実行される出力部材最大径時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、出力部材最大径時でCVT30の変速比の変更が要求されていないときに所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返し実行される。なお、出力部材最大径時であるか否かは、位置検出センサ72からのリング位置Prを用いて判定することができる。
【0024】
出力部材最大径時制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット90のCPUは、まず、インプットシャフト32に入力されるトルクとしての入力トルクTinを入力し(ステップS100)、入力トルクTinに基づいてアウトプットシャフト38に作用するトルクとしての出力トルクToutを推定する(ステップS110)。ここで、入力トルクTinは、エンジン12の運転状態(回転数や吸入空気量など)に基づいて推定された値を用いるものとした。また、出力トルクToutは、入力トルクTinとCVT30の減速比と出力トルクToutとの関係を予め実験や解析などによって定めてマップとしてROM(図示せず)に記憶しておき、入力トルクTinと減速比とが与えられると記憶したマップから対応する出力トルクToutを導出して設定するものとした。なお、いま、出力部材最大径時を考えているから、減速比としては最大減速比を用いることができる。
【0025】
続いて、出力トルクToutを閾値Trefと比較する(ステップS120)。ここで、閾値Trefは、インプットコーン34が変形する可能性のある出力トルクToutの下限またはそれよりも若干小さいトルクや、インプットコーン34の変形などによってリング60の少なくとも一部がアウトプットコーン36のからはみ出る(リング60とアウトプットコーン36との接触面積が小さくなる)可能性のある出力トルクToutの下限またはそれよりも若干小さいトルクなどを予め実験や解析などによって定めて用いることができる。出力部材最大径時にはアウトプットシャフト38に大きなトルクが作用しやすく、出力トルクToutの大きさによってはアウトプットシャフト38から狭圧力調節機構50やアウトプットコーン36,リング60を介してインプットコーン34に大きな力が作用してインプットコーン34が変形し、動力の伝達性能の低下を招いたり、リング60の少なくとも一部がアウトプットコーン36からはみ出たりする可能性がある。ステップS120の出力トルクToutと閾値Trefとの比較は、こうした可能性があるか否かを判定する処理である。なお、こうした問題を解消するために、インプットコーン34の強度を向上させることも考えられるが、この場合、インプットコーン34の大型化や重量の増加につながる。
【0026】
出力トルクToutが閾値Tref未満のときには、前述の可能性はないと判断し、そのまま本ルーチンを終了する。一方、出力トルクToutが閾値Tref以上のときには、前述の可能性があると判断し、リング60の目標スライド距離Ls*に所定距離Ls1を設定すると共に(ステップS130)、設定した目標スライド距離Ls*だけリング60がアウトプットコーン36の小径側にスライドするようモータ70を回転駆動させるスライド処理を実行して(ステップS140)、本ルーチンを終了する。ここで、所定距離Ls1は、アウトプットコーン36の移動可能距離Lomaxより長い距離を用いることができる。ここで、移動可能距離Lomaxは、アウトプットシャフト38にトルクが作用していないとき(狭圧力調節機構50によってアウトプットコーン36が押し出されていないとき)のアウトプットコーン36の位置(基準位置)に対してアウトプットコーン36が狭圧力調節機構50からの力を受けて移動可能な最大距離であり、アウトプットコーン36とケース21,軸受け46などとの位置関係や、狭圧力調節機構50によってアウトプットコーン36を移動させることが可能な距離などに基づいて予め実験や解析などによって定められた距離を用いることができる。このように、出力部材最大径時に出力トルクToutが閾値Tref以上のときには、リング60をアウトプットコーン36の小径側にスライドさせることにより、減速比が小さくなって出力トルクToutが小さくなるから、アウトプットシャフト38から狭圧力調節機構50やアウトプットコーン36,リング60を介してインプットコーン34に作用する力を小さくすることができ、インプットコーン34の変形を抑制することができる。この結果、インプットコーン34の変形による動力の伝達性能の低下や、リング60の少なくとも一部がアウトプットコーン36からはみ出ることやこれによる更なる動力の伝達性能の低下などを抑制することができる。
【0027】
以上説明した実施例の動力伝達装置20によれば、リング60の位置がアウトプットコーン36の大径側端部である出力部材最大径時に、アウトプットシャフト38に作用するトルクとしての出力トルクToutが閾値Tref以上のときには、リング60をアウトプットコーン36の小径側にスライドさせるから、インプットコーン34の変形を抑制することができる。しかも、この際には、アウトプットコーン36の移動可能距離Lomaxより長い所定距離Ls1だけリング60をアウトプットコーン36の小径側にスライドさせるから、リング60がアウトプットコーン36からはみ出るのをより確実に抑制することができる。
【0028】
実施例の動力伝達装置20では、リング60の位置がアウトプットコーン36の大径側端部であるときの動作について説明したが、これに限られず、リング60の位置がアウトプットコーン36の大径側端部を含む所定範囲内であるときには、実施例と同様の処理を行なえばよい。ここで、所定範囲は、インプットコーン34が変形する可能性のあるトルクがアウトプットシャフト38に作用し得る範囲や、インプットコーン34の変形などによってリング60の少なくとも一部がアウトプットコーン36からはみ出る可能性のあるトルクがアウトプットシャフト38に作用し得る範囲などを予め実験や解析によって定めて用いることができ、例えば、エンジン12の仕様やリング60の各位置における減速比などに基づいて得られるリング60の各位置についての出力トルクToutの最大値や、インプットコーン34やアウトプットコーン36,狭圧力調節機構50,リング60などの仕様などに基づいて定めることができる。また、この場合、リング60の位置が所定範囲内で出力トルクToutが閾値Tref以上のときには、リング60の位置がアウトプットコーン36の大径側端部から遠いほど所定距離Ls1から短くなる傾向の距離だけリング60をアウトプットコーン36の小径側にスライドさせるものとしてもよい。
【0029】
実施例の動力伝達装置20では、出力部材最大径時に出力トルクToutが閾値Tref以上のときには、所定距離Ls1を目標スライド距離Ls*に設定すると共に設定した目標スライド距離Ls*だけリング60をアウトプットコーン36の小径側にスライドさせるものとしたが、所定距離Ls1以外の距離(所定距離Ls1より長い距離または短い距離)を目標スライド距離Ls*に設定するものとしてもよいし、出力トルクToutやリング60の狭圧力などに応じた距離を目標スライド距離Ls*に設定するものとしてもよい。出力トルクToutに基づいて目標スライド距離Ls*を設定する場合、出力トルクToutと目標スライド距離Ls*との関係を予め定めて目標スライド距離設定用マップとしてROMに記憶しておき、出力トルクToutが与えられるとマップから対応する目標スライド距離Ls*を導出して設定するものとしてもよい。目標スライド距離設定用マップの一例を図8に示す。図8の例では、目標スライド距離Ls*は、出力トルクToutが閾値Trefより大きい閾値Tref2以上の領域では所定距離Ls1を設定し、出力トルクToutが閾値Tref以上で閾値Tref2未満の領域では出力トルクToutが大きいほど所定距離Ls1に向けて大きくなる傾向に設定するものとした。ここで、閾値Tref2は、アウトプットコーン36の基準位置からの移動距離が移動可能距離Lomaxに等しくなると想定される出力トルクToutの下限値やそれよりも若干小さいトルクなどを予め実験や解析などによって定めて用いることができる。また、出力トルクToutが閾値Tref以上で閾値Tref2未満のときにこのように目標スライド距離Ls*を設定するのは、出力トルクToutが大きくなるほどインプットコーン34が変形してリング60が軸方向に更に移動しリング60の少なくとも一部がアウトプットコーン36からはみ出しやすくなるという理由に基づく。このように目標スライド距離Ls*を設定することにより、出力トルクToutが閾値Tref以上で閾値Tref2未満のときに、リング60を必要以上にスライドさせるのを抑制することができ、CVT30の減速比が大きく変化するのを抑制することができる。
【0030】
実施例の動力伝達装置20では、入力トルクTinに基づいて出力トルクToutを推定するものとしたが、出力トルクToutを取得するものであれば如何なるものとしてもよく、例えば、出力トルクTout自体を検出するものなどとしてもよい。
【0031】
実施例の動力伝達装置20では、位置検出センサ72は、スライダ66に取り付けられてリング60の位置を検出するものとしたが、リング60の位置を取得するものであれば如何なるものとしてもよく、例えば、トランスアクスルハウジング21aや保持部68などに取り付けられてリング60の位置を検出するものや、ガイドレール64に取り付けられてスライダ66の位置を検出することによってリング60の位置を推定するものなどとしてもよく、また、検出方式も機械式や光学式など如何なる方式としてもよい。
【0032】
実施例の動力伝達装置20では、スライド機構62としては、トランスアクスルハウジング21aに回転自在に取り付けられたガイドレール64と、ガイドレール64の回転時に回転せずにガイドレール64に沿ってスライド可能なスライダ66と、スライダ66に取り付けられると共にリング60を回転自在に保持する保持部68と、ガイドレール64を回転させるモータ70とにより構成するものとしたが、リング60をスライドさせることにより減速比を変更可能なものであれば、如何なる機構により構成するものとしてもよい。
【0033】
実施例の動力伝達装置20では、狭圧力調節機構50としては、アウトプットシャフト38に取り付けられた固定部材52と、アウトプットコーン36に取り付けられた移動部材54と、固定部材52に形成された複数の半球状のボール受け52aと移動部材54に形成された複数の半球状のボール受け54aとの間に配置された複数のボール56とにより構成するものとしたが、アウトプットシャフト38に作用するトルクをアウトプットシャフト38の方向の力に変換してアウトプットコーン36に作用させることができるものであれば、如何なる機構により構成するものとしても構わない。また、インプットシャフト32に入力されるトルク(入力トルクTin)とCVT30の変速比(リング60の位置)とによって推定されるアウトプットシャフト38に作用するトルク(出力トルクTout)が大きいほどリング60への狭圧力が大きくなるように、油圧や電力を用いてリング60への狭圧力を調節する機構により構成するものとしても構わない。
【0034】
実施例の動力伝達装置20では、インプットシャフト32とインプットコーン34とを一体的に形成するものとしたが、別体として形成するものとしてもよい。
【0035】
実施例の動力伝達装置20では、動力伝達機構20aにより、動力源としてのエンジン12からの動力を変速して左右の車輪88a,88bに伝達するものとしたが、動力源としては、エンジン12に代えてまたは加えてモータを用いるものとしてもよい。なお、動力源としてエンジンに代えてモータを用いる場合、動力伝達機構20aは、前後進切替機構24を備えないものとしてもよい。
【0036】
実施例の動力伝達装置20では、自動車10に搭載されるものとしたが、自動車10以外の移動体に搭載されるものとしてもよいし、建設設備などの移動しない設備に組み込まれるものとしてもよい。
【0037】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、CVT30が「無段変速機」に相当し、インプットコーン34が「入力部材」に相当し、アウトプットコーン36が「出力部材」に相当し、リング60が「伝達部材」に相当し、スライド機構62が「スライド手段」に相当し、狭圧力調節機構50が「狭圧力調節手段」に相当し、位置検出センサ72が「位置取得手段」に相当し、入力トルクTinに基づいて出力トルクToutを推定する図7の出力部材最大径時制御ルーチンのステップS110の処理を実行する電子制御ユニット90が「出力トルク取得手段」に相当し、リング60の位置がアウトプットコーン36の大径側端部である出力部材最大径時に出力トルクToutが閾値Tref以上のときには、リング60をアウトプットコーン36の小径側にスライドさせるスライド処理を実行する図7の出力部材最大径時制御ルーチンのステップS130,S140の処理を実行する電子制御ユニット90が「スライド制御手段」に相当する。
【0038】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0039】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、動力伝達装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 自動車、12 エンジン、20 動力伝達装置、20a 動力伝達機構、21 ケース、21a トランスアクスルハウジング、21b コンバータハウジング、21c リアケース、21d 仕切プレート、22 出力軸、24 前後進切替機構、24a サンギヤ、24b リングギヤ、24c キャリア、26 減速ギヤ、28 デファレンシャルギヤ、30 CVT、32 インプットシャフト、34 インプットコーン、36 アウトプットコーン、38 アウトプットシャフト、41,42,45,46,49 軸受け、50 狭圧力調節機構、52 固定部材、52a,54a ボール受け、54 移動部材、56 ボール、58 バネ、59 支持部材、60 リング、62 スライド機構、64 ガイドレール、66 スライダ、68 保持部、70 モータ、72 位置検出センサ、88a,88b 車輪、90 電子制御ユニット、91 シフトレバー、92 シフトポジションセンサ、93 シフトポジションSP,アクセルペダル、94 アクセルペダルポジションセンサ、95 ブレーキペダル、96 ブレーキペダルポジションセンサ、98 車速センサ、B1 ブレーキ、C1 クラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と該入力軸に平行に配置された出力軸とを有し、該入力軸に入力された動力を無段階に変速して該出力軸に出力する無段変速機を備える動力伝達装置であって、
前記入力軸に接続された円錐形状の入力部材と、
前記出力軸に接続され、前記入力部材とは逆向きに配置された円錐形状の出力部材と、
前記入力部材と前記出力部材とに狭圧され、該入力部材と該出力部材との間で動力の伝達を行なう環状の伝達部材と、
前記伝達部材をスライドさせることにより変速比を変更可能なスライド手段と、
前記出力軸に作用するトルクである出力トルクが大きいほど大きくなる傾向に前記伝達部材に作用する狭圧力を調節する狭圧力調節手段と、
前記伝達部材の位置を取得する位置取得手段と、
前記出力トルクを取得する出力トルク取得手段と、
前記取得された伝達部材の位置が前記出力部材の大径側端部を含む所定範囲内であり且つ前記取得された出力トルクが所定トルク以上のとき、前記伝達部材が前記出力部材の小径側にスライドするよう前記スライド手段を制御するスライド制御手段と、
を備える動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記スライド制御手段は、前記出力部材の移動可能距離以上の距離だけ前記伝達部材が前記出力部材の小径側にスライドするよう前記スライド手段を制御する手段である、
動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記スライド制御手段は、前記取得された出力トルクが大きいほど大きくなる傾向の距離だけ前記伝達部材が前記出力部材の小径側にスライドするよう前記スライド手段を制御する手段である、
動力伝達装置。
【請求項4】
入力軸に接続された円錐形状の入力部材と、出力軸に接続され前記入力部材とは逆向きに配置された円錐形状の出力部材と、前記入力部材と前記出力部材とに狭圧され該入力部材と該出力部材との間で動力の伝達を行なう環状の伝達部材と、前記伝達部材をスライドさせることにより変速比を変更可能なスライド手段と、前記出力軸に作用するトルクである出力トルクが大きいほど大きくなる傾向に前記伝達部材に作用する狭圧力を調節する狭圧力調節手段と、を有し、前記入力軸に入力された動力を無段階に変速して前記出力軸に出力する無段変速機を備える動力伝達装置の制御方法であって、
前記伝達部材の位置が前記出力部材の大径側端部を含む所定範囲内であり且つ前記出力トルクが所定トルク以上のとき、前記伝達部材が前記出力部材の小径側にスライドするよう前記スライド手段を制御する、
ことを特徴とする動力伝達装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−202791(P2011−202791A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73262(P2010−73262)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】