説明

動力伝達装置

【課題】 カップリングの温度を的確に測定する。
【解決手段】 相対回転自在に支持されたクラッチ・ハウジング41及びクラッチ・ハブ43間でトルク伝達を行うカップリング37と、前記カップリング37に取り付けられて該カップリング37から温度状態を検出すると共に検出信号を無線送信する温度状態センサ39とを備え、カップリング37から温度状態を直接的に検出することができ、検出された温度状態に基づいてカップリング37の温度を的確に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内外回転部材間でトルク伝達を行うカップリングを備えた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の動力伝達装置としては、例えば特許文献1のように、内外回転部材間でトルク伝達を行うカップリングの温度を測定し、測定した温度に基づいて伝達トルクを調整するものがある。
【0003】
この動力伝達装置は、例えば四輪駆動車の前後輪間に設けられ、前後輪間の差回転及び伝達トルク等のカップリングの動作状態から温度が推定されるようになっている。
【0004】
しかしながら、カップリングの動作状態は、カップリングの温度とは直接的な関連性がないため、推定されたカップリングの温度と実際のカップリングの温度との間には、誤差が生じ易かった。従って、従来の動力伝達装置では、カップリングの温度の的確な測定を行わせることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−286061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、カップリングの温度を的確に測定することができない点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カップリングの温度を的確に測定するために、相対回転自在に支持された内外回転部材間でトルク伝達を行うカップリングと、前記カップリングに取り付けられて該カップリングから温度状態を検出すると共に検出信号を無線送信する温度状態センサとを備えたことを最も主な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の動力伝達装置では、カップリングに取り付けられた温度状態センサにより、カップリングから温度状態を直接的に検出することができ、検出された温度状態に基づいてカップリングの温度を的確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】動力伝達装置を適用した四輪駆動車のスケルトン平面図である(実施例1)。
【図2】図1の動力伝達装置を示す断面図である(実施例1)。
【図3】図2の動力伝達装置に用いられる温度状態センサの概略構成を示す要部拡大断面図である(実施例1)。
【図4】動力伝達装置の温度測定を示すフローチャートである(実施例1)。
【図5】変形例に係る動力伝達装置の温度測定を示すフローチャートである(実施例1)。
【図6】動力伝達装置を示す断面図である(実施例2)。
【図7】動力伝達装置を示す断面図である(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0010】
カップリングの温度を的確に測定するという目的を、カップリングに取り付けられた無線送信可能なセンサによって実現した。
【実施例1】
【0011】
[四輪駆動車]
図1は本発明の実施例1に係る車両制御装置を適用した四輪駆動車のスケルトン平面図である。
【0012】
本実施例の動力伝達装置1は、図1のように、フロントエンジン、フロントドライブベース(FFベース)の四輪駆動車3に適用されたものである。動力伝達装置1は、四輪駆動車3のリヤ・デファレンシャル5とプロペラ・シャフト7との間に設けられて両者間の伝達トルクを断続及び調整するようになっている。
【0013】
四輪駆動車3は、エンジン9の出力側にトランスミッション11を介してフロント・デファレンシャル13が連結されている。
【0014】
フロント・デファレンシャル13には、一方で左右の車軸15,17を介して、左右の前輪19,21が連動連結されている。他方では、トランスファ23、プロペラ・シャフト7、動力伝達装置1、リヤ・デファレンシャル5、左右の車軸25,27を介して、左右の後輪29,31が連動連結されている。
【0015】
従って、エンジン9の出力トルクは、トランスミッション11を介してフロント・デファレンシャル13に入力されると、左右の車軸15,17を介して左右の前輪19,21へトルクが伝達されると共に、トランスファ23、プロペラ・シャフト7、動力伝達装置1へ伝達される。
【0016】
このとき、動力伝達装置1がトルク伝達状態であれば、リヤ・デファレンシャル5、左右の車軸25,27を介して左右の後輪29,31へトルクが伝達される。従って、四輪駆動車3は、四輪駆動状態で走行することができる。
【0017】
一方、動力伝達装置1がトルク伝達状態にないときには、後輪29,31側へのトルク伝達が遮断される。従って、四輪駆動車3は、二輪駆動状態で走行することができる。
【0018】
前記動力伝達装置1は、制御部であるECU33によって制御されるようになっている。ECU33には、アクセル開度センサ、舵角センサ、ヨー・レート・センサ、前後輪19,21,29,31の各車輪速度センサ等からの検出信号が入力されるようになっている。このECU33には、無線受信器35が接続されており、後述する動力伝達装置1の温度状態センサ39からの検出信号が無線入力されるようになっている。
[動力伝達装置]
図2は図1の動力伝達装置を示す断面図、図3は図2の動力伝達装置に用いられる温度状態センサの概略構成を示す要部拡大断面図である。
【0019】
本実施例の動力伝達装置1は、図1及び図2のように、カップリング37と、温度状態センサ39とを備えている。この動力伝達装置1は、カップリング37の温度状態に基づいて伝達トルクを断続及び調整する。
(カップリング)
カップリング37は、外回転部材としてのクラッチ・ハウジング41と内回転部材としてのクラッチ・ハブ43とを備え、内部に潤滑オイルが封入されている。
【0020】
クラッチ・ハウジング41は、中空円筒状のハウジング本体部45を備えている。ハウジング本体部45の軸方向一端(端部)は、一体の端壁部47によって閉止されている。端壁部47の外側面には、プロペラ・シャフト側に接続される回転軸49が一体に突設されている。回転軸49は、ボール・ベアリング51を介して固定側に回転自在に支持されている。ハウジング本体部45の内周面には、一端側から雌スプライン53,55が設けられ、他端側に雌ねじ部57が形成されている。
【0021】
前記クラッチ・ハブ43は、クラッチ・ハウジング41の軸心部に配置されている。クラッチ・ハブ43は、中空円筒状のハブ本体部59を備えている。ハブ本体部59の一端側は、ボール・ベアリング61を介して環状支持部63に回転自在に支持されている。環状支持部63は、クラッチ・ハウジング41の端壁部47の内側面に一体に形成されている。環状支持部63には、油路65が形成されている。環状支持部63の外周側には、端壁部47の内側面に凹部67が設けられている。前記ハブ本体部59の他端側は、摺動ブッシュ69を介して後述する電磁アクチュエータ83のロータ87に回転自在に支持されている。
【0022】
ハブ本体部59の内周側には、中間部にカップリング37の内外を区画する隔壁部71を備えている。すなわち、隔壁部71は、ハブ本体部59をカップリング37内に連通する一端側の内筒部73とカップリング37外に連通する他端側の外筒部75とに区画している。
【0023】
ハブ本体部59の内筒部73は、その外周に雄スプライン77が設けられている。外筒部75の内周には、雌スプライン79が形成され、リヤ・デファレンシャル5側のドライブ・ピニオン・シャフト(図示せず)がスプライン係合するようになっている。
【0024】
前記クラッチ・ハウジング41とクラッチ・ハブ43との間には、断続部としてのメイン・クラッチ81及び電磁アクチュエータ83が設けられている。
【0025】
メイン・クラッチ81は、摩擦多板クラッチからなり、交互に配置された複数枚のインナー・プレートとアウター・プレートとを備えている。インナー・プレートは、クラッチ・ハブ43の雄スプライン77にスプライン係合し、アウター・プレートは、クラッチ・ハウジング41の雌スプライン53にスプライン係合している。
【0026】
このメイン・クラッチ81は、押圧プレート85の押圧によって締結され、締結力に応じてクラッチ・ハウジング41とクラッチ・ハブ43との間のトルク伝達を行う。押圧プレート85は、クラッチ・ハブ43の雄スプライン77にスプライン係合している。押圧プレート85によるメイン・クラッチ81の締結動作は、電磁アクチュエータ83によって制御される。
【0027】
電磁アクチュエータ83は、ロータ87と、電磁石89と、アーマチャ91と、パイロット・クラッチ93とを備えている。
【0028】
ロータ87は、クラッチ・ハウジング41のハウジング本体部45の他端を閉止するように配置されている。ロータ87の外周面には、クラッチ・ハウジング41の雌ねじ部57に対応して雄ねじ部95が設けられている。この雄ねじ部95がクラッチ・ハウジング41の雌ねじ部57に螺合されて、ロータ87はクラッチ・ハウジング41に対して固定されている。ロータ87の雄ねじ部95には、クラッチ・ハウジング41の他端面に当接するナット97が螺合されている。これによって、ロータ87の緩みが規制されている。雄ねじ部95の軸方向内側には、ロータ87の外周側にクラッチ・ハウジング41との間を密閉するOリング99が保持されている。
【0029】
ロータ87の内周側には、クラッチ・ハブ43を挿通する挿通孔101が設けられている。挿通孔101内には、クラッチ・ハブ43を支持する銅系材又は樹脂系材の摺動ブッシュ69が圧入されている。摺動ブッシュ69の軸方向外側には、ロータ87とクラッチ・ハブ43との間に配置されるシール103が保持されている。
【0030】
ロータ87の内外周間の中間部には、例えばステンレス、アルミ、銅などからなる非磁性リング105が周回状に設けられている。ロータ87の中間部背面側には、周回状の空間部107が設けられている。空間部107内には、電磁石89が収容配置されている。
【0031】
電磁石89は、通電制御に応じて電磁力を発生するもので、支持体109に固定されている。支持体109は、ボール・ベアリング111を介してロータ87側に相対回転自在に支持されていると共に係合ピン113によって固定側に回転不能に係合している。なお、支持体113は、ロータ87側ではなく、固定側に直接支持しても良い。
【0032】
電磁石89は、ロータ87に対して内外周に必要な磁路断面積が確保されたエアギャップを持って配置されている。この電磁石89は、車体側の電源(図示せず)及びECU33に対しハーネス115を介して電気的に接続され、通電制御が行われるようになっている。かかる通電制御によって、ロータ87を通る磁路としての磁力線ループが形成される。
【0033】
前記アーマチャ91は、リング状に形成され、外周側がクラッチ・ハウジング41の雌スプライン55にスプライン係合している。アーマチャ91は、ロータ87を介して電磁石89との間で周回状の磁力線ループを形成する。この磁力線ループの形成により、アーマチャ91は、パイロット・クラッチ93を締結するようにロータ87側へ移動する。
【0034】
パイロット・クラッチ93は、アーマチャ91とロータ87との間に対向するように介在されている。パイロット・クラッチ93は、交互に配置された複数枚のインナー・プレートとアウター・プレートを備えている。
【0035】
インナー・プレートは、カム・プレート117の雄スプライン119にスプライン係合し、アウター・プレートは、クラッチ・ハウジング41の雌スプライン55にスプライン係合している。
【0036】
カム・プレート117の背面側は、スラスト・ベアリング121を介して、ロータ87側に当接する構成となっている。カム・プレート117と押圧プレート85との間には、ボール123を備えたカム機構125が設けられている。
(温度状態センサ)
温度状態センサ39は、図1〜図3のように、圧力センサからなり、クラッチ・ハウジング41の端壁部47に取り付けられている。すなわち、温度状態センサ39は、端壁部47に貫通形成された取付孔127内に固定されている。温度状態センサ39の一端には受圧部129が設けられ、受圧部129は端壁部47の凹部67を介してカップリング37内に臨んでいる。
【0037】
受圧部129は、円筒状のハウジング131を備えている。ハウジング131は、一端がカップリング37内に開口した導入口133となっている。従って、ハウジング131内には、導入口133を介してカップリング37内の圧力が導入されるようになっている。
【0038】
ハウジング131の中間部には、弾性を有したダイヤフラム135が設けられている。ダイヤフラム135は、ハウジング131内に導入された圧力を受けて背面側に撓むようになっている。このダイヤフラム135の背面側には、絶縁膜137を介して半導体ひずみゲージ139,141が取り付けられている。
【0039】
半導体ひずみゲージ139,141は、ダイヤフラム135の変形によって電気抵抗値が変化する。半導体ひずみゲージ139,141には、配線143,145が接続されている。配線は、ハウジング131他端の引出口147からハウジング131外に引き出されている。引出口147は、ダイヤフラム135の背面側を大気に開放している。
【0040】
前記温度状態センサ39の他端には、無線送信器149が設けられている。無線送信器149は、受圧部129からの配線143,145が接続されており、半導体ひずみゲージ139,141の電気抵抗値の変化を検出すると共に検出信号を無線送信する。検出信号は、図1のように、無線受信器35で受信されてECU33に入力される。かかる入力により、動力伝達装置1は、カップリング37から温度状態としての内部の圧力が直接的に検出される。
[動力伝達装置の作用]
(トルク伝達)
本実施例の動力伝達装置1は、ECU33による電磁アクチュエータ83の電磁石89の通電制御によってメイン・クラッチ81の伝達トルクを断続及び調整する。
【0041】
電磁アクチュエータ83の電磁石89が通電制御されていないときは、パイロット・クラッチ93が非締結状態にある。かかる状態では、メイン・クラッチ81も締結されず、カップリング37がトルク伝達状態にはない。
【0042】
従って、四輪駆動車3は、前記のように前輪19,21のみによる二輪駆動状態で走行することができる。
【0043】
一方、電磁石89が通電制御されると、電磁石89、ロータ87、アーマチャ91間に磁力線ループが回設され、アーマチャ91とロータ87との間でパイロット・クラッチ93が締結される。
【0044】
パイロット・クラッチ93が締結されると、カム機構125は、カム・プレート117がクラッチ・ハウジング41と一体的に回転し、クラッチ・ハブ43と一体的に回転する押圧プレート85との間で相対回転する。このため、カム機構125は、カム・プレート117及び押圧プレート85のカム面にボール123が乗り上げて推力を発生させる。
【0045】
推力は、カム・プレート117がスラスト・ベアリング121を介してロータ87側で受けられ、その反力として押圧プレート85に作用する。このため、押圧プレート85は、メイン・クラッチ81側に移動してメイン・クラッチ81を締結する。かかる締結により、カップリング37は、トルク伝達状態となる。
【0046】
従って、四輪駆動車3は、前記のように前後輪19,21,29,31による四輪駆動状態で走行することができる。このとき、カップリング37は、メイン・クラッチ81の締結力の増減に応じて、後輪29,31側への伝達トルクを増減調整することができる。
(トルク伝達制御)
前記伝達トルクの断続及び調整は、四輪駆動車3の走行状態の他、カップリング37の温度状態に応じて行われる。
【0047】
走行状態に応じて行う場合は、ECU33に入力されるアクセル開度センサ、舵角センサ、ヨー・レート・センサ、各車輪速度センサ等からの検出信号に基づいて四輪駆動車3の走行状態を判断する。
【0048】
そして、動力伝達装置1は、判断された走行状態、例えば、旋回走行時、坂路走行時、或いは悪路走行時等に応じて、伝達トルクの断続及び調整して前後輪19,21,29,31間の分配トルクを適切な状態に制御する。これにより、四輪駆動車3の横滑りやスリップを回避することができる。
【0049】
カップリング37の温度状態に応じて行う場合は、メイン・クラッチ81、電磁アクチュエータ83等によって上昇したカップリング37の温度である潤滑油の温度(油温)及びカップリング37のメイン・クラッチ81自体の温度を測定する。
【0050】
図4は、動力伝達装置の温度測定を示すフローチャートである。
【0051】
図4の温度測定は、ECU33によって行われ、例えばイグニションキーをアクセサリ電源状態にしたとき等の四輪駆動車3が電源入力状態となったときにスタートする。
【0052】
温度測定では、まずステップS1のように、イグニションONか否かの判断を行う。イグニションON(エンジン始動状態)の場合は、ステップS2に移行し、イグニションOFF(エンジン非始動状態)の場合は、ステップS1へリターンする。
【0053】
ステップS2では、エンジン9の回転数が所定値A(rpm)以上か否かの判断を行う。エンジン9の回転数が所定値A以上である場合には、ステップS3へ移行し、所定値Aを下回る場合には、ステップS1へリターンする。
【0054】
ステップS3では、温度状態センサ39の検出信号(センサ値)の読み込みが行われる。すなわち、無線受信器35で受信した温度状態センサ39からの検出信号を読み込む。かかる読み込みが行われると、ステップS4へ移行する。
【0055】
ステップS4では、読み込んだ検出信号を圧力値に補正する。これにより、カップリング37に取り付けられた温度状態センサ39により、カップリング37から温度状態である内部の圧力を直接的に検出することができる。これによりステップS4が完了して、ステップS5へ移行する。
【0056】
ステップS5では、検出された圧力をカップリング37の油温に変換する。すなわち、カップリング37内の圧力は、カップリング37内の油温と直接的な相関関係にある。この相関関係を予め圧力−温度マップとしておくことで、検出された圧力を油温に変換することができる。得られた油温は、ステップS6のように実際のカップリング37内の油温と略一致することになる。
【0057】
このように、本実施例では、カップリング37内の油温を、直接的な関連性のあるカップリング37内の圧力から求めることができるため、的確に測定することができる。カップリング37内の油温の測定後は、ステップS7に移行する。
【0058】
ステップS7では、各車輪速、制御トルクの読み込みを行う。すなわち、各車輪速センサからの検出信号を読み込むと共にアクセル開度センサからの検出信号等から演算された制御トルクを読み込み、ステップS8に移行する。
【0059】
ステップS8では、読み込まれた各車輪速及び制御トルクからメイン・クラッチ81自体の温度計算を行い、ステップS9に移行する。
【0060】
ステップS9では、イグニションOFFか否かの判断を行う。イグニションOFFの場合は、温度測定を終了し、イグニションONの場合は、ステップS3へリターンして以後の処理を繰り返すことになる。
【0061】
このようにして、カップリング37の油温及びメイン・クラッチ81の温度を測定が行われる。
【0062】
そして、動力伝達装置1では、カップリング37の油温及びメイン・クラッチ81の温度に応じて、伝達トルクの断続及び調整して前後輪19,21,29,31間の分配トルクを適切な状態に制御する。
【0063】
例えば、動力伝達装置1では、カップリング37内の潤滑油が油温に応じて粘性抵抗が変化するため、これによる変化を吸収するように伝達トルクを増減調整して補正する。この結果、動力伝達装置1では、システムトルクのばらつきを低減することができ、品質や性能向上を図ることができる。
【0064】
加えて、動力伝達装置1では、メイン・クラッチ81自体の温度に応じて伝達トルクが変化するため、これを吸収するように伝達トルクを増減調整して補正する。この結果、動力伝達装置1では、より確実にシステムトルクのばらつきを低減することができ、品質や性能向上を図ることができる。
【0065】
また、動力伝達装置1では、カップリング37の油温及びメイン・クラッチ81の温度の何れか一方又は双方が予め設定された閾値を超えた場合に、伝達トルクを減少或いは遮断する。この結果、動力伝達装置1では、メイン・クラッチ81の固着や融着を抑制して保護を図ることができる。
[実施例1の効果]
本実施例の動力伝達装置1は、相対回転自在に支持されたクラッチ・ハウジング41及びクラッチ・ハブ43間でトルク伝達を行うメイン・クラッチ81を備えたカップリング37と、カップリング37に取り付けられて該カップリング37から温度状態としての圧力を検出すると共に検出信号を無線送信する温度状態センサ39とを備えた。
【0066】
従って、動力伝達装置1では、カップリング37に取り付けられた温度状態センサ39により、カップリング37から温度に応じた圧力を直接的に検出することができ、検出された圧力に基づいてカップリング37内の油温を的確に測定することができる。
【0067】
しかも、温度状態センサ39は、検出信号を無線送信するため、回転するクラッチ・ハウジング41及びクラッチ・ハブ43を備えたカップリング37に対しても確実に取り付けることができる。
【0068】
本実施例では、クラッチ・ハウジング41が、中空円筒状のハウジング本体部45と該ハウジング本体部45の端部を閉止する端壁部47とを備え、温度状態センサ39が、前記端壁部47に取り付けられたため、温度状態センサ39を容易且つ確実に取り付けることができる。
【0069】
本実施例では、クラッチ・ハウジング41及びクラッチ・ハブ43間に、カップリング37の圧力に基づいて伝達トルクを断続及び調整するメイン・クラッチ81を備えたため、分配トルクのばらつきを抑制して適切な状態に制御することができる。
【0070】
従って、動力伝達装置1では、システムトルクのばらつきを低減することができ、品質や性能向上を図ることができる。
【0071】
また、本実施例では、メイン・クラッチ81周囲の圧力を直接検出するので、メイン・クラッチ81の締結制御を確実に行わせることができる。
【0072】
また、システムトルクのばらつきを低減した分だけ、他のシステムトルクばらつき因子のマージンとして振り分けることができる。結果として、動力伝達装置1では、システムとしてのコスト低減を図ることができる。
[変形例]
図5は、実施例1の変形例に係る動力伝達装置の温度測定を示すフローチャートである。なお、図5のフローチャートは、図4のフローチャートと基本的に共通しており、図4と対応する部分には同符号を付して詳細な説明を省略する。
【0073】
本変形例では、温度状態センサ39を温度センサによって構成したものである。温度状態センサ39は、受圧部に代えて、例えば温度変化に応じて電気抵抗値が変化するサーミスタ等を有する受温部を備えている。
【0074】
この温度状態センサ39は、受温部でクラッチ・ハウジング41内の油温を検出すると共に無線送信部39から検出信号を無線送信する。検出信号は、図1のように、無線受信器35で受信されてECU33に入力される。かかる入力により、温度状態センサ39によってカップリング37から温度状態としての油温が直接的に検出される。
【0075】
本変形例の温度測定では、図5のように、実施例1と同様のステップS1及びステップS2を経た後、ステップS13において、温度状態センサ39の検出信号(センサ値)の読み込みが行われる。すなわち、無線受信器35で受信した温度状態センサ39からの検出信号の読み込みを行う。かかる読み込みが行われると、ステップS14へ移行する。
【0076】
ステップS14では、読み込んだ検出信号を温度に補正する。これにより、カップリング37に取り付けられた温度状態センサ39によって、カップリング37から温度状態である油温を直接的に検出することができる。得られたカップリング37の油温は、ステップS15のように実際のカップリング37の油温と一致することになる。
【0077】
このように、本実施例では、カップリング37の油温を、カップリング37から直接的且つ的確に測定することができる。カップリング37の油温測定後は、実施例1と同様のステップS7〜S9の処理を行う。
【0078】
本変形例では、上記実施例1と同様の作用効果を奏することができるのに加え、カップリング37に取り付けられた温度状態センサ39により、カップリング37の油温を直接的に検出することができる。このため、本変形例では、温度への変換処理を省略して、温度測定処理を簡素化することができる。
【実施例2】
【0079】
図6は、本発明の実施例2に係る動力伝達装置を示す断面図である。なお、本実施例の動力伝達装置は上記実施例1の動力伝達装置と基本構成が共通しており、対応する構成部分には同符号或いは同符号にAを付して詳細な説明を省略する。
本実施例の動力伝達装置1Aは、図6のように、温度状態センサ39Aをクラッチ・ハブ43Aに取り付けたものである。
【0080】
温度状態センサ39Aは、クラッチ・ハブ43Aの隔壁部71Aに取り付けられている。すなわち、温度状態センサ39Aは、隔壁部71Aに貫通形成された取付孔127A内に固定されている。このため、温度状態センサ39Aは、クラッチ・ハブ43A内に収容されている。
【0081】
従って、本実施例の動力伝達装置1Aにおいても、上記実施例1と同様の作用効果を奏することができる。加えて、本実施例では、温度状態センサ39Aがクラッチ・ハブ43A内に収容されているため、温度状態センサ39Aの周辺構造に対する干渉を抑制することができる。
【0082】
また、リヤ・デファレンシャル5のドライブ・ピニオン・シャフトが結合された状態では、温度状態センサ39Aが外部に露出することがなく、温度状態センサ39Aの保護を図ることができる。
【0083】
また、温度状態センサ39Aは、上記実施例同様、圧力センサ及び温度センサのいずれでも構成することができる。
【0084】
特に、温度センサとした場合には、メイン・クラッチ81側に連通するクラッチ・ハブ41A内の温度を検出するので、外気に影響されることなく、メイン・クラッチ81周辺の温度を正確に検出することができる。
【実施例3】
【0085】
図7は、本発明の実施例3に係る動力伝達装置を示す断面図である。なお、本実施例の動力伝達装置は上記実施例1の動力伝達装置と基本構成が共通しており、対応する構成部分には同符号或いは同符号にBを付して詳細な説明を省略する。
【0086】
本実施例の動力伝達装置1Bは、図7のように、温度状態センサ39Bを、カップリング37Bの表面温度を測定する温度センサによって構成したものである。
【0087】
すなわち、温度状態センサ39Bは、クラッチ・ハウジング41Bの端壁部47Bの外側面に固着されている。温度状態センサ39Bは、受温部でクラッチ・ハウジング41Bの表面温度を検出すると共に無線送信部(図示せず)から検出信号を無線送信する。検出信号は、図1のように、無線受信器35で受信されてECU33に入力される。かかる入力により、動力伝達装置1Bでは、温度状態センサ39Bによってカップリング37Bから温度状態としての表面温度が直接的に検出される。
【0088】
本実施例の動力伝達装置1Bにおいても、上記実施例1と同様の作用効果を奏することができるのに加え、温度状態センサ39Bの取り付けを容易に行わせることができる。
[その他]
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。従って、本発明の要旨に則した各種の変更が可能である。
【0089】
例えば、上記実施例では、温度状態センサとして圧力センサ又は温度センサの何れか一方のみを設けていたが、双方を設けることで、温度測定精度の向上を図ることができる。この場合、圧力センサをクラッチ・ハウジング及びクラッチ・ハブの一方に、温度センサを同他方に設けても良い。
【0090】
また、温度状態センサは、カップリングの圧力又は温度を測定できる位置に取り付けられていれば良く、上記実施例の取付位置に限定されるものではない。
【0091】
例えば、クラッチ・ハウジングのハウジング本体部やクラッチ・ハブのハブ本体部に温度状態センサを取り付けても良く、或いは温度状態センサをカップリング内に収容しても良い。
【符号の説明】
【0092】
1,1A,1B 動力伝達装置
37 カップリング
39,39A,39B 温度状態センサ
41 クラッチ・ハウジング(外回転部材)
43 クラッチ・ハブ(内回転部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転自在に支持された内外回転部材間でトルク伝達を行うカップリングと、
前記カップリングに取り付けられて該カップリングから温度状態を検出すると共に検出信号を無線送信する温度状態センサと、
を備えたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記温度状態センサは、前記カップリング内の温度に応じた圧力を検出する圧力センサ或いは前記カップリングの温度を検出する温度センサである、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の動力伝達装置であって、
前記温度状態センサは、少なくとも前記内外回転部材の何れか一方に取り付けられた、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の動力伝達装置であって、
前記外回転部材は、中空円筒状の本体部と該本体部の端部を閉止する端壁部とを備え、
前記温度状態センサは、前記端壁部に取り付けられた、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1〜3の何れかに記載の動力伝達装置であって、
前記内回転部材は、前記カップリング内に連通する中空円筒状の本体部と該本体部内に設けられて前記カップリングの内外を区画する隔壁部とを備え、
前記温度状態センサは、前記隔壁部に取り付けられた、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の動力伝達装置であって、
前記内外回転部材間に、前記温度状態に基づいて前記伝達トルクを断続する断続部を備えた、
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項7】
請求項6の記載の動力伝達装置であって、
前記断続部は、締結に応じて前記伝達トルクを調整する摩擦クラッチである、
ことを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−265999(P2010−265999A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118418(P2009−118418)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】