説明

動圧流体軸受装置、それを備えたスピンドルモータ、および製造方法

【課題】動圧発生溝を転造加工するときに発生するスリーブ内周軸受面の余肉部を整形して平坦にし、かつ軸受面およびスリーブ全体の表面空孔を封孔することにより、圧力漏れが無く高性能で長寿命な流体軸受及びその製造方法を得る。
【解決手段】軸受孔を有し、前記軸受孔の内周面に動圧発生溝を有し、前記軸受孔に軸が相対的に回転可能な状態で挿入されているスリーブを備えた動圧流体軸受装置の製造方法であって、転造により動圧発生溝を形成して成形体を形成する工程と、前記成形体を熱処理して再焼結する工程と、さらにスリーブ内径より大きなボールを通して整形するボールバニッシュ工程を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動圧流体軸受装置、およびその動圧流体軸受装置を構成するスリーブの製造方法、さらにそれを備えたスピンドルモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、回転するディスクを用いたハードディスク装置、光ディスク装置、光磁気ディスク装置等の記録再生装置は、その情報記憶容量が増大し、またデータの転送速度が高速化しているため、これらに使用されるスピンドルモータの軸受装置は常にディスク負荷を高精度に回転させることができるように、高い性能と信頼性が要求されている。そこでこれら記録再生装置には高速回転に適した動圧流体軸受装置およびそれを備えたスピンドルモータが用いられている。
【0003】
動圧流体軸受装置は、軸とスリーブとの間に潤滑流体(一般的にはオイル)を介在させ、動圧発生溝によって回転時にポンピング圧力を発生し、これにより軸がスリーブに対して非接触で回転する。このように動圧流体軸受装置は、非接触で機械的な摩擦が無いため高速回転に適している。
【0004】
動圧流体軸受装置は、図15に示すように、軸101、フランジ102、スリーブ103、スラスト板104、潤滑流体105から構成されており、さらにそれを備えたスピンドルモータ100は、ロータハブ106、ロータ磁石107、巻線が巻回されたステータコア108、ベース109から構成されている。発明者は、特許文献1により、上記の動圧流体軸受装置の構成部品であるスリーブ103を焼結材料で成型し、さらに表面を樹脂等によって完全封孔して潤滑流体105がスリーブ103に浸み込んで潤滑流体漏れを起こしたり、発生動圧が低下しないような構成を提案した。また、前記スリーブ103を量産可能にかつ安価に製造するために、まず焼結粉体材料を成型し焼成して成形体を製作し、次に前記成形体をサイジングして整形し、転造工法等で動圧発生溝を形成し、さらに前記成形体を再度サイジングして整形し、最後に前記成形体のスプリングバックを利用してスリーブ103を金型から取り出すような製造方法を提案した。
【特許文献1】特開2007−113722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の動圧流体軸受装置の製造方法によって、潤滑流体漏れを起こさず発生動圧が低下しないスリーブの生産性を向上させることができるようになったが、今後さらに次のような点も改善していくことが望まれる。すなわち、焼結金属で形成されたスリーブに、転造工法で成形体111に動圧発生溝を形成したときに、図16に示すような動圧発生面から盛り上がる余肉部111hが同時に形成される。軸受性能の向上や信頼性の向上のために、成形体111に付帯するこのような余肉部111hは整形して影響をなくするか、もしくは取り除く必要がある。このために、動圧発生面を押圧して整形する目的で、前記の動圧溝を転造加工した後に再度サイジング等を行なっているが、加工硬化等によって余肉部が固くなっているので、単に動圧発生面をサイジングするだけでは十分に整形することができないという課題があった。
これを放置しておけば、動圧流体軸受装置が高温で使用されて潤滑流体105の粘度が低下した場合や、ディスク110等の負荷が重い条件で使用された場合に、軸101が接触して発熱したり擦れたりすることもあり得るわけで、さらに信頼性を高めることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明は、動圧流体軸受装置の信頼性をさらに高めることを目的としたものである。
そしてこの目的を達成するために、本発明の動圧流体軸受装置の製造方法は、
軸受孔の内周面に動圧発生溝を有するスリーブと、前記軸受孔に相対的に回転可能な状態で挿入されている軸と、を備えた動圧流体軸受装置の製造方法であって、
前記スリーブは、金属粉体を中空円筒状に成型し第1の成形体を形成する粉体成形工程と、前記第1の成形体を焼結して第2の成形体を形成する焼結工程と、前記第2の成形体に第1のサイジングを行って整形し第3の成形体を形成する第1のサイジング工程と、前記第3の成形体の内周面に転造により動圧発生溝を形成して第4の成形体を形成する動圧溝転造工程と、前記第4の成形体を熱処理して第5の成形体を形成する熱処理工程と、前記第5の成形体の軸受孔内に前記第5の成形体の内径より大きい径のボールを挿通して、前記第5の成形体の内径を整形する第1のボールバニッシュを行って第6の成形体を形成する第1のボールバニッシュ工程と、
を含むことを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法である。
また、本発明は、さらに前記第6の成形体の少なくとも一部の表面を第2のサイジング(型内仕上げ)を施すことによって表面密度を増大させることを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法である。
加えて、本発明は、さらに前記第2のサイジングを施した成形体に前記成形体の内径より大きい径のボールを挿通して、前記成形体の内径を整形する第2のボールバニッシングを行なうことを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法である。
さらに、本発明は、前記スリーブの表面に酸化膜を形成する方法で前記スリーブの表面を封孔したものであり、さらにニッケルを含む金属メッキにより薄膜を形成する方法で、スリーブの表面硬度を内部よりも向上させるものである。
【0007】
このように、成形体の内周面に転造により動圧発生溝を形成した成形体にボールバニッシュを行なって表面密度を高くしていくとともに、熱処理工程(再焼結)を設けることにより、前工程にて成形体の表面が加工硬化したものを軟化させ(加工によって増加した転位を消滅させ)、後工程の型内仕上げ(第2のサイジング)で成形体がより金型に添い易く(密着し易く)なり、仕上げ工程での内径寸法や形状が安定することを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の動圧流体軸受装置のスリーブは、上述したように、まず金属粉体を中空円筒状に成型し、これを焼結して焼結金属成形体とし、次に密度を向上させるために第1のサイジングを行い、転造工法で動圧発生溝を形成する。その後熱処理(再焼結)を行い、さらに第1のボールバニッシュを行なうことにより、溝転造等にて加工硬化した表面を軟化することができるので、動圧発生溝は形状を深く滑らかに形成できる。また、軸受内周面はあらかじめ表面の密度を上げておいた上で、その後の第2のサイジングや第2のボールバニッシュでさらに表面密度を向上させているので、表面に残留空孔がなく緻密な成形体とすることができ、その上でさらに表面処理で封孔するので、動圧発生溝で発生した圧力が漏れず焼結成形体の動圧流体軸受面においても高い圧力を発生させることができる。よって、軸は安定して浮上でき、動圧性能と信頼性が良好な動圧流体軸受装置を得ることができる。
【0009】
また、上記の熱処理(再焼結)を行うことにより、第2のサイジングにおける、金型と焼結金属の密着性が向上し、内径の動圧発生溝部に発生する余肉部等が潰れやすく整形し易くなり、第2のサイジングの圧縮代を小さくできるため、加工応力開放時のたわみ変化量を少なく抑制できることにより、内径精度をより安定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
(実施の形態1)
図1、図2は本発明の動圧流体軸受装置の構成を示す断面図である。
[動圧流体軸受装置およびスピンドルモータの構成]
図1において、動圧流体軸受装置は、軸1、フランジ2、スリーブ3、スラスト板4、潤滑流体5(オイル、高流動性グリス、イオン性液体等)から構成され、前記動圧流体軸受装置を備えたスピンドルモータは、さらにロータハブ6、ロータ磁石7、コイルが巻線されたステータ8、ベース9を有する。軸1はフランジ2を一体的に有し、軸1はスリーブ3の軸受孔3Aに回転自在に挿入され、フランジ2はスリーブ3の下面部においてスリーブ3の凹部3Jに収納される。スリーブ3の内周面には動圧発生溝3B、3Cが設けられている。また、フランジ2のスリーブ3との対向面、及びフランジ2とスラスト板4との対向面には、それぞれの対向する面の少なくともいずれか一方には動圧発生溝2A、2Bが設けられている。図1では、フランジ2の両面にそれぞれ動圧発生溝2A、2Bが設けられている。スラスト板4はスリーブ3に接着(例えば、エポキシ系接着剤を使用)、溶接(例えば、レーザで溶接)、溶浸(例えば、低融点金属を溶解して固化)等で密封固定されている。少なくとも各動圧発生溝3B、3C、2A、2Bの付近の軸受隙間は潤滑流体5が保持されている。ロータハブ6は軸1に固定され、ロータハブ6には、図示しないクランパー等によってディスク10が固定される。3Dは軸1の径小部であり、潤滑流体溜り部になっている。この潤滑流体溜り部3Dは、スリーブ3側に加工することも可能である。
尚、本実施の形態において、軸1の材質はステンレス鋼(例えば、SUS420)、高マンガンクロム鋼(例えば、ASK8000)、または炭素鋼を用いている。軸1のラジアル軸受面の表面粗さは、加工により0.01〜0.8μmの範囲に仕上げた材料を使用している。
[動圧流体軸受装置およびスピンドルモータの動作]
以上のように構成された本発明の動圧流体軸受装置およびそれを備えたスピンドルモータ、また、それが搭載される記録再生装置について、その動作について説明する。図1において、図示しない制御回路によりステータ8に回転磁界を発生させると、ロータ磁石7に回転力が与えられ、ロータハブ6、軸1、フランジ2、ディスク10が回転を始める。回転により、動圧発生溝3B、3C、2A、2Bは潤滑流体5をかき集め、軸1とスリーブ3の間、及びフランジ2とスリーブ3の間、及びフランジ2とスラスト板4の間に動圧力(ポンピング圧力)を発生する。これにより、軸1はスリーブ3とスラスト板4に対して非接触で回転し、図示しない磁気ヘッドまたは光学ヘッドにより、ディスク10上にデータの記録再生を行う。
[スリーブの構成]
一方、スリーブ3の材質は図2に部分断面図を示すように、鉄系金属焼結体3Eから成り、この焼結体3Eの内部に残留する空孔3Fには、スリーブ3の表面に必要に応じて400℃〜700℃の高温水蒸気処理(スチーム処理)により四酸化三鉄または三酸化二鉄の酸化皮膜層3Gを約1〜10μmの厚さに設けて、スリーブ3の表面を封孔している。
この場合は空孔3F内にも酸化皮膜層が形成されている。尚、燒結金属材料が銅系の場合は、酸化膜は形成できないので、例えば、樹脂、水ガラス等を含浸し固化させるか、または、錫、亜鉛等の低融点金属を高温下で溶融させて液化して注入したあと常温で固化させて封孔してもよい。また、空孔3Fには、熱硬化性または嫌気硬化性のアクリル樹脂を低圧槽の中で含浸してもよい。これらの樹脂封孔においては、樹脂を硬化させる前に十分洗浄を行うため、表面付近に残留付着した樹脂はすべて除去され、内部に含浸された樹脂だけが残留し硬化する。これにより、スリーブの内部は樹脂3Fで封孔される。
【0012】
さらにスリーブ3の表面は必要に応じて上記の封孔処理に加えて、ニッケルを含む金属成分のメッキまたはDLCの硬質皮膜3Hを厚さ1〜10μmの厚さに形成してもよい。このようにスリーブ3の表面は完全に封孔されているため、従来の流体軸受装置のように焼結金属で形成されたスリーブからの潤滑流体漏れを防ぐためのスリーブを覆うスリーブカバーが不要であり、また、スリーブ内周面の表面空孔(3Fのような表面に連通している空孔)に潤滑流体が漏出して軸受内部に潤滑流体不足を生じたり、スリーブ端面や外周面から漏出した潤滑流体がガス化して流体軸受装置の周囲を汚染するというようなことがない。スリーブ3は表面が封孔されているので、ベース9にスリーブカバー等を介せず、直接接着剤(例えば、アクリル系接着剤やエポキシ系接着剤)により固定される。ロータハブ6にはロータ磁石7が取り付けられ、またベース9にはロータ磁石7に対向する位置にステータ8が固定される。図1では、ロータ磁石7の内周側にステータ8を対向配置したアウターロータ型としたが、ロータ磁石7の外周側にステータ8を対向配置したインナーロータ型としてもよい。スリーブ3はスリーブカバー等を介せずに直接ベース9に固定できるため、取付け時の直角度や同軸度が出やすく、高精度に組み立てすることが可能である。また、スラスト板4がスリーブカバー等を介せずスリーブ3に直接固定できるため、取付け時の直角度が出やすく、高精度に組立できる。
【0013】
[スリーブの製造方法]
以下にスリーブ3の製造方法について図3〜図12を用いて説明する。図3は、本発明の一実施の形態における焼結スリーブの製造工程である。本発明のスリーブ製造の最終工程(検査工程等)までの主な工程は、粉体成形工程S1、焼結工程S2、第1サイジング工程S3、動圧溝転造工程S4、熱処理(再焼結)工程S5、第1ボールバニッシュ工程S6、第2サイジング工程S7、第2ボールバニッシュ工程S8である。以下、順を追って説明する。
【0014】
まず、粉体成形工程S1では、鉄粉または銅粉を図示しない金型で予め圧縮成型し第1の成形体11aを形成する。直径6.5mm、長さ5mm程度の成形体である。次に焼結工程S2では、その圧縮成型された成形体11aを図示しない焼成炉を用いて800〜1200℃程度で焼結し第2の成形体11bを形成する。本実施の形態では、焼結工程S2の後に、バレル工程SS1を行なう。焼結したままの成形体にはそのエッジ部にバリが残っている。これを除去するために、多数の成形体を容器に入れ容器を回転させることによって多数の成形体を攪拌しバリを除去している。また、本実施の形態では、焼結したままの成形体の軸受孔の内周エッジ部を整形する面押し工程SS2を行なう。このような処理によって第2の成形体11bは若干形を変えるが、燒結成形体の内部構造を大きく変化させるものではないので、便宜上これらの処理を含めてできたものを第2の成形体11bと称する。
【0015】
成形体を焼結すると収縮して歪むので、成形体の形状を整える(整形する)必要がある。これが次のサイジング工程(第1のサイジング工程)S3であり、図4は焼結されバレルや面押しを施した第2の成形体11bの形状寸法を整形する第1サイジング金型を示している。12は下型、13は上型、14はピン、15は外型である。図4の下型12に第2の成形体11bをセットし、図中矢印に示すように上型13と外型15を下降させ第2の成形体11bを圧縮成型して第3の成形体11cを形成する。この工程の後に、必要に応じて第3の成形体11cに孔加工を行なうこともある。この場合、このような処理によって第3の成形体11cは若干形を変えるが、燒結成形体の内部構造を大きく変化させるものではないので、便宜上これらの処理を含めてできたものを第3の成形体11cと称する。
【0016】
次に動圧溝転造工程S4は、前記第3の成形体11cは図5に示す溝転造装置の取付け台16にセットし、加工中に焼結金属体が位置ズレを起こさないように図中矢印方向にクランプ17を下降させることで固定し、シャンク18aの外周面に複数個のボール18bを一体的に配置した転造工具18を第3の成形体11cの内径に圧入し、シャンク18aに上下方向(軸方向)の送りを与えながら、正方向回転及び逆方向回転を与え、第3の成形体11cにボール18bにより動圧発生溝11gを加工し、第4の成形体11dを形成する。ここでボール18bはシャンク18aに対して固定されている。そして、シャンク18aの中心軸を中心とし複数個のボール18bの最外径を通る外径線は、第3の成形体11cの内径よりも半径で10μm程度大きくつくられている。この時、第3の成形体11cに加工された動圧発生溝11gは図6に示すように溝深さ(hg)が約10μmの深さであり、動圧発生溝11gの周辺にはバリ等からなる余肉部11hが多く残っている。また、上記のようなボール転造により動圧発生溝を形成するので、その断面形状は略円弧状になっている。さらに溝底面および溝側面は、転造ボールが溝に与える表面しごき効果により、表面粗さが小さく滑らかになっている。
【0017】
従来はここで次の第2サイジング工程(型内仕上げ工程)に移行していたが、本発明の実施の形態においては、ここで再度図示しない焼成炉を用いて熱処理(再焼結)工程S5を行って第5の成形体を形成する。熱処理温度は、800〜1200℃程度である。金属は、加工すると転位と呼ばれる格子欠陥が増えて、それらがお互いに絡み合うことによって転位が動きにくくなって硬度が増すと考えられる。これが加工硬化であり、第4の成形体11dはこの状態にある。従って、このまま第2サイジングしても加工硬化しているので整形効果は小さい。そこで本発明は、この時点で熱処理(再焼結)を行なって、加工硬化によって増加した転位を消滅させ元の硬度に戻している。
【0018】
その後、成形体の内径よりも2〜5μm大きい径のボール(通常は鋼球)を通して内径を整形する第1のボールバニッシュ工程S6を行ない第6の成形体を形成する。このボールバニッシュ工程を行なうことによって、余肉部を整形したり、前記サイジング工程における内径膨らみによる内径円筒度の矯正を行なうことができる。また、特開2006−46540に示すような、溝深さや溝幅に相当する大きさの表面空孔を小さくすることもできる。これらの工程に関しては、後で詳述する。
次に、第2サイジング工程S7は、図7に示すように、焼結成形体の動圧溝形成部以外の箇所(特に端面部)においても表面空孔が確実に封孔されるように、金型内に焼結成形体を入れて整形する工程である。図7は本発明のスリーブ3の製造工程での断面図である。本実施の形態においては、第2サイジング工程S7を行なう第6の成形体断面とその後の形状断面を示している。図中のA1、B1、C1は第6の成形体のそれぞれの部分の軸方向寸法を示している。A2、B2、C2は第2サイジング工程S7後のそれぞれの部分の軸方向寸法を示している。このように第6の成形体の端面を金型内で圧縮成形することにより、端面の表面空孔を小さく少なくすることができる。
【0019】
図8はスリーブ3の動圧発生溝3B、3Cの各種形状と図1に示す動圧流体軸受装置の軸受寿命の関係を示すデータである。発明者の実験によれば、図中記号(A)に示すような溝深さ(hg)が1μmの浅い溝深さで余肉部11hのような突起等がない動圧流体軸受装置の軸受寿命と、記号(B)に示すような溝深さ(hg)は5μmで十分であるが、動圧発生溝3B、3Cの形状が図6のように崩れており、軸受面に平滑な円筒面が形成されていない動圧流体軸受装置の軸受寿命は、いずれも要求される寿命の約半分しか満たすことができなかった。一方、図中(C)に示すように溝深さ(hg)が5μmで十分な深さがあり溝形状に突起等がない軸受の条件では、図1に示す動圧流体軸受装置は必要十分な寿命を得ることができた。なお、ここでの溝深さ5μmと前出した溝転造時の溝深さ10μmとの関係は、動圧溝転造および熱処理後のボールバニッシング工程等を経て溝深さが変化することによる。
このような影響があるので、動圧流体軸受の内周面に生じるバリ等からなる余肉部はできる限り整形してなくすことが重要である。しかしながら、従来の製造方法では、余肉部は溝転造加工時の加工硬化によって硬度が上がっており、第2サイジング(型内仕上げ)をするだけでは動圧流体軸受内周面を平坦にすることが困難なことがわかった。
【0020】
そこで本発明においては、前述したように、第1サイジング工程S3の後の動圧溝転造工程S4と、第2サイジング工程(型内仕上げ工程)S7前の第1ボールバニッシュ工程S6の間に、温度800〜1200℃の熱処理(再焼結)を行うことにより、第1サイジング工程や動圧溝転造工程にて加工硬化した表面を軟化させることにより、軸受孔内径の動圧発生溝部に発生する余肉部11hが潰れやすくなる効果を発揮することがわかった。よって、第2サイジング工程S7時に成形体と金型の密着性が向上し、より小さな圧縮代(圧縮応力)で金型精度が成形体に転写されやすくなることで、圧縮解除時の弾性変形歪みを小さくでき、主要寸法の内径精度が安定しやすくなる。
さらに、熱処理(再焼結)工程S5の後に第1のボールバニッシュ工程S6を行うことにより、寸法精度を向上させることができる。
【0021】
この熱処理(再焼結)の効果を図9〜11を使用してさらに説明する。
まず、図9(a)はスリーブ3の内径部の硬度を比較する為の測定方法を表している。スリーブ3の内径よりも1〜4μm程度大きいサイズのボールで、ボールサイズ差が1μm異なる2つのボール30、31を、荷重センサ33に連結されたロッド32をスリーブ3の載置台35と相対的に移動することによりスリーブ3の内径を通過させ、そのときの座標毎の動荷重を連続的にプロットできるようにした測定装置34とそのシステムを模式的に表している。以下の説明では、スリーブ3の内径D1よりも1μmおよび2μm径の大きいボールを通過させる例を示す。図9(b)は図9(a)で測定したデータを熱処理の前後で焼結成形体の硬度を比較表示したものである。横軸はスリーブ3の軸方向の座標で、縦軸は前記2つの1μmの径差のあるボールを通過させたときの荷重差を表している。(BT係数とは、1μmあたりの荷重差を示す数値であり、値が大きい程スリーブ内径部分の硬度が高いことを示す)
図9(b)は、2mmの軸長を有するスリーブにその内径よりも1μmおよび2μm径の大きいボールを通過させた場合を示す。熱処理前は入口から1.2mm付近にBT係数のピークがあり、最大値は1450g/μm程度である。それに対して、熱処理後はBT係数の変化がほぼフラットであり、最大値は入口から1.7mm付近にあり950g/μm程度である。これからわかるように、熱処理(再焼結)を行うことによりBT係数が小さくなっていることがわかる。これは、内径表面が熱処理(再焼結)によって、加工硬化によって増加した転位が消滅したため軟化し、第2サイジングにおいては金型に密着しやすくなり、金型形状が成形体に転写されやすくなったと考えられる。
なお、上記の測定はスリーブの弾性変形領域内で行なうため、測定後にスリーブに実用上有害な変形が残ることはない。
次に図10は、先ほどの図9(a)の測定システムを用いて、スリーブ3の内径に対し何μm大きいボールを通せば、内径が拡張変形するかを表したグラフである。(これは上記とは異なって弾性変形領域を越える範囲である)横軸はスリーブに通過させるボールのスリーブ内径との径差(通過ボール径−通過前スリーブ内径)を示している。縦軸はボールを通過させた前後のスリーブ内径変化を示している。
まず、熱処理前であるが、熱処理前は3.5μmの径差のボールでは内径変化は起こらなかった。つまりこの場合は弾性領域内の変化であり、ボールの通過後にスリーブ内径は元に戻ることを示している。よって、サイジング等の整形はこの値以上の変化を与えなければ効果はないということがわかる。熱処理前は約5.2μmの径差を持つボールを通して約1μmの内径変化が起こった。
一方、熱処理後は約2μmの径差のボールでは内径変化は起こらなかったが、約5.2μmの径差を持つボールを通すと約2.5μmの内径変化が起こった。以上のことから、熱処理(再焼結)を行うことによりスリーブ内径が金型に密着し易くなるため、より小さな圧縮量(圧縮力)でスリーブ内径が精度のよい金型形状に転写され易いことを示している。
また、図11に本願発明の効果を説明する。図11(a)は第1サイジング工程S3後で熱処理工程S5前に、転造工具18を使用して動圧溝をスリーブの内径に形成した軸方向の動圧溝形状を示す。図中のU字型の谷部が動圧溝11gを示す。図中の山部の両側にある角状の突起が余肉部11hを示している。転造加工により余肉部11h(高さha)が発生していることがわかる。図11(b)は、図11(a)のスリーブ内径に(熱処理なしで)その径よりも2.5μm大きいボールを通すボールバニッシュ工程後の動圧溝の形状を示しており、ボールバニッシュ工程のみでは依然として余肉部11h1(高さhb)が残ることがわかる。ここで、ha>hbである。
一方、図11(c)は、溝転造工程S4後の図11(a)に熱処理(再焼結)工程S5を行い、その後スリーブ内径にその径よりも2.5μm大きいボールを通す第1ボールバニッシュ工程S6後の軸方向の動圧溝形状を示している。余肉部は見受けられなくなっていることがわかる。これは熱処理(再焼結)した後は、図10で説明したように、溝転造による加工硬化が緩和され、精度のよい金型により沿い易くなっていると考えられる。上記の実施例においては、ボール径はスリーブ内径よりも2.5μm大きいボールとしたが、2〜5μmの範囲であれば同様の効果があることがわかっている。熱処理工程S5後に
第1ボールバニッシュ工程S6を行なうことの効果を図11(c)(d)に具体的に示している。図11(c)の動圧溝山部(リッジ部ともいう)の頂点を結んだ線を近似頂点線Lとすると、熱処理工程S5後に第1ボールバニッシュ工程S6を行なった製品は、図中○で示すようにその両側のエッジが近似頂点線Lを越えないようにかつ滑らかに形成される。これはボールバニッシュ工程のボールが動圧溝谷部(グルーブ部ともいう)から動圧溝山部に移動する境界付近のときは、ボールから受ける圧力を受け止める面積が小さいのでエッジ部はより大きく変形を受けるからである。また、そのエッジ部の形状は、前記動圧溝谷部から延ばした近似溝線Mから実際の溝形状が滑らかに離れていく点を結んだ前記近似頂点線Lに平行な線Nと、近似頂点線Lとの距離は0.1μm以上となる。
【0022】
尚、前記熱処理(再焼結)工程は、転造工具18を使用して動圧発生溝を形成する工程の前後どちらでも良いこともわかった。これを図12および図11(e)、(f)を使用して説明する。図3と図12の相違点は、動圧溝転造工程S4と熱処理(再焼結)工程S5が入れ替わっている点である。図11(f)は、第1サイジング工程S3後に熱処理(再焼結)工程S5を行い、その後転造工具18を使用して動圧溝をスリーブの内径に形成する動圧溝転造工程S4を行なった動圧溝の軸方向形状を示す。動圧溝転造加工により余肉部11h2(高さhc)が発生している。しかしながら、この後第1ボールバニッシュを行なうと余肉部11h2は滑らかに整形されることを見出した。図11(f)は、スリーブ内径よりも2.5μm大きいボールを通した第1ボールバニッシュ工程S6後の動圧溝の形状を示している。図11(c)と同様に余肉部は見受けられないことから、熱処理を追加することによって、より小さな圧縮力で仕上げることが可能になるため、加圧解除時の変形が少なくスリーブの寸法精度が安定しやすくなることが確認された。後者(図12および図11(e)、(f))は、焼結工程に連続して再焼結まで行ってしまうので、製品の工程移動に掛かる工数や運賃が安くなるメリットがあり量産性に優れていると考える。
以上のように、粉体成形、焼結、第1サイジングを経て得られた成形体を、スリーブ内径の動圧溝形成部に余肉部が実用上問題ない程度に小さい成形体に仕上げるためには、1)動圧溝転造→熱処理(再焼結)→ボールバニッシュの工程を経るか、または2)熱処理(再焼結)→動圧溝転造→ボールバニッシュの工程を経ることによって得られることがわかった。
尚、上記の説明では成形体を形成する基本的な工程のみを説明したが、図3、図12に記載されているように、必要に応じて小さいバリを除去するためのバレル工程等や連通孔を形成するための加工工程を挿入してもよい。
【0023】
さらに、このようにして得られた余肉部が実用上問題ない程度に小さい成形体は、第2サイジング(型内仕上げ)工程S7によってさらに表面空孔を小さくしたり、他の部分の表面空孔を小さくする。その後スリーブ内径よりも1〜2μm大きいボールを通す第2ボールバニッシュ工程によって、実用上問題のない程度に表面空孔が少なくまた小さいスリーブ内径の動圧溝形成部およびスリーブを得ることができる。
【0024】
このようにして得られた本実施の形態のスリーブ成形体は、図3、図12に示されるように、高温水蒸気(スチーム)処理SS3により四酸化三鉄または三酸化二鉄の酸化皮膜層を形成して、スリーブの表面空孔をほぼ完全に封孔する。
【0025】
尚、この後に、表面硬化処理を行ってもよい。図2の表面硬化層3Hは、ニッケルと燐を主成分とする無電解メッキを主として採用し、その表面はビッカース硬度600以上を得ている。これにより、前述したステンレス鋼、高マンガンクロム鋼、または炭素鋼の軸1に対して十分な耐摩耗性を持たせることができる。または3次元DLC加工装置(例:栗田製作所)によるDLCコーティングを施しても良い。この場合、表面はビッカース硬度800以上を得ている。これらのいずれかの硬化層3Hを設けることにより流体軸受装置の耐摩耗性と信頼性を向上させている。
【0026】
尚、図1におけるスリーブ3の成分に関し、粉体成形(圧粉成型)に用いる金属粉末については真鍮など銅系のものでもよいが、モータの回転軸との熱線膨張係数差を小さくするためには鉄成分を全体の80重量%以上を占める成分からなる鉄系の粉末または純鉄が好ましい。鉄粉を粉体成形した後、これを焼結して軸受用の焼結体素材としている。一般的に動圧流体軸受装置におけるスリーブ3と軸1の隙間は2〜5μm程度に設定され、封孔処理後の表面処理精度および使用時における熱線膨張係数差における使用環境温度差の問題は流体軸受装置にとって重要である。また、スリーブ3の成分に鉄系材料を採用することで、粉体成形し上記各種の工程を経て得られた成形体の多孔質表面に四酸化三鉄(Fe34)や三酸化二鉄(Fe23)の酸化鉄皮膜を形成することが容易に行える。
【0027】
尚、軸1に設けられた径小部が潤滑流体溜り部になっているが、これに限るものではなく、焼結成形体の内周部に径大部を設けてもよい。ただし、径大部のような凹部を設けることは、スリーブ製造の工数や設備費を増大させることになる。(径大部の形成方法については前出の特許文献1を参照のこと。)
尚、本実施の形態の動圧流体軸受装置およびそれを備えたスピンドルモータは、例えば特開2000−197309号公報(流体動圧軸受を備えたモータ及びこのモータを備えた記録ディスク駆動装置)の図2に示す様に、軸の上側にロータハブが固定され軸の下側にリング状部材が取り付けられ、このリング状部材周辺がラジアル軸受面に隣接する潤滑流体溜り部を有し、ロータの下面とスリーブの上面が対向してスラスト軸受面を形成している動圧流体軸受装置においても本発明は適用できるものである。
【0028】
尚,本実施の形態の動圧流体軸受装置は、軸が回転する軸回転式軸受構造で説明したが、軸の両端が固定されスリーブが軸を中心に回転する、図示しない、軸固定式軸受構造の流体軸受にも適用できるものである。
【0029】
(実施の形態2)
図13は、上記実施の形態1における熱処理(再焼結)工程の工程配置に関する変形例である。本実施の形態2は、熱処理(再焼結)による加工硬化の緩和効果を第2サイジング工程で活かす方法である。第1サイジング工程S3を行なったあとに動圧溝転造工程S4を行ない、そこで発生した余肉部を第1ボールバニッシュ工程S5で整形する。本実施の形態2は、この後に第2サイジング(型内仕上げ)工程S7を行なわず、ここで熱処理(再焼結)工程S5を行なう。この方法によっても第1ボールバニッシュ工程S6で整形しきれなかった余肉部の加工硬化を緩和することができるので、第2サイジング(型内仕上げ)工程S7の金型に余計な圧縮応力をかけることがなく、余肉部を実用上問題ないレベルまで整形することができる。また、金型の寿命も延びて経済的である。
【0030】
(実施の形態3)
図14は第3の実施の形態である実施の形態3の動圧流体軸受装置を示す断面図である。21は軸、22はフランジ、23はスリーブ、23Aは軸受孔、23B、23Cは動圧発生溝、22A、22Bはフランジ22に設けられた動圧発生溝、23Dは径大部、23Jは連通路、24はスラスト板、25は潤滑流体、26はキャップ、27はスリーブホルダである。スリーブ23に設けた径大部23Dは軸21に径小部として設けてもよい。ここで、スリーブホルダ27はステンレス鋼(例えば、DHS1等)や後述する封孔された焼結成形体でできている。スラスト板は、ステンレス鋼(例えば、SUS420等)や超鋼合金でできている。キャップ26は、樹脂(例えば、透光性のあるポリエーテルイミド樹脂であるウルテム樹脂等)やステンレス鋼でできている。
【0031】
この第3の実施の形態の動圧流体軸受装置の動作については、図1に示す第1の実施の形態とほぼ同じであるので説明は省略する。異なる点は、1)キャップ26によってスリーブ23との間に潤滑流体溜り部28を設けていること、2)連通路23Jによる循環路を形成し気泡29を動圧軸受部から潤滑流体溜り部へ順次排出できる機構を設けていること、3)スリーブ23はスリーブホルダ27で覆われ、両者の間に連通路23Jが形成されていることである。スリーブ23に少なくとも1ケ所に明けられた連通孔でもよい。
軸受内の潤滑流体25に含まれた気泡(空気)29は、軸方向に非対称な長さを有する動圧発生溝23Bによって発生する図中矢印のような上から下に向かう循環力によって(スラスト軸受22Aから循環力を発生してもよい)、軸受隙間内の潤滑流体25を図中上から下に移動させ、さらに連通孔23J内を図中下から上へ移動させ、動圧発生溝23B、23C、22A、22Bで発生したり開口部から巻き込んだりした気泡を循環させて潤滑流体溜り部28に排出させる。これによって、潤滑流体25の油膜(潤滑流体膜)を軸受隙間内に確実に形成し、動圧流体軸受装置の信頼性を向上させることができる。潤滑流体溜り部28は、例えば図14のように、内周に向かうに従って隙間が小さくなる構成とする。これによって、潤滑流体25は毛管現象によって隙間の狭い方向に引き込まれるので、潤滑流体25と気泡29を分離することができる。循環路は、図14においては、23B、23Cが形成されているラジアル軸受隙間→22Aが形成されているスラスト軸受隙間→フランジ22外周部→連通路23J→潤滑流体溜り部28→23B、23Cが形成されているラジアル軸受隙間となる。また、キャップ26には、分離した気泡29を排出する外気と通じる換気孔を設けてもよい。
【0032】
連通路23Jは、スリーブ23の外周面に少なくとも1つの溝または切り欠き等を設け、スリーブホルダ27との間に空間を形成して構成されている。また、焼結成形体からなるスリーブ23に図示しないドリルでスリーブ3の上端面と下端面を連通するφ0.4mm程度の連通孔をあける方法で加工してもよい。また、溝状の連通路23Jを外周面に有するスリーブ23とスリーブホルダ27を共に焼結成形体で成型し、高温で焼結後にスリーブホルダ27にスリーブ23を圧入することで一体化すると同時に連通路23Jを構成してもよい。このようにスリーブ23とスリーブホルダ27を組み合わせて構成すれば連通路23Jが最も安価に構成することができる。動圧流体軸受装置の高速回転での性能と信頼性を確保するためには連通路23Jの存在は大変有効であり、またこのように2個の焼結金属体を組み合わせて連通路23Jを構成する方法の経済効果は大きい。この動圧流体軸受装置によっても、上記第1の実施の形態の動圧流体軸受装置と同様な効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、ハードディスク装置、光ディスク装置、光磁気ディスク装置等の記録媒体を使用した装置に用いられる動圧流体軸受装置、それを備えたスピンドルモータに関し、高精度に動圧発生溝が加工され、圧力漏れが無く高性能で長寿命な動圧流体軸受装置及びその製造方法が得られる。また、パソコンに用いられるCPU冷却ファンにも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る動圧流体軸受装置、スピンドルモータの断面図
【図2】同動圧流体軸受装置におけるスリーブの部分断面図
【図3】同動圧流体軸受装置の第1の実施の形態における工程図
【図4】同動圧流体軸受装置の製造方法における第1サイジング金型断面図
【図5】同動圧流体軸受装置の製造方法における動圧発生溝転造装置断面図
【図6】同動圧流体軸受装置の焼結成形体の軸受内周面断面図
【図7】同動圧流体軸受装置の焼結成形体の余肉部(突起部)と軸受寿命の関係を示すグラフ
【図8】同動圧流体軸受装置の製造方法における第2サイジング金型断面図
【図9】同動圧流体軸受装置の製造方法における熱処理(再焼結)の効果を測定する測定システムと熱処理(再焼結)の効果を示すグラフ
【図10】同動圧流体軸受装置の製造方法における熱処理(再焼結)の効果を示すグラフ
【図11】同動圧流体軸受装置におけるスリーブの軸受内周面の表面形状測定結果を示すグラフ
【図12】同動圧流体軸受装置の第1の実施の形態における熱処理(再焼結)工程を入れ替えた工程図
【図13】同動圧流体軸受装置の第2の実施の形態における工程図
【図14】同動圧流体軸受装置の第3の実施の形態に係る動圧流体軸受装置の断面図
【図15】従来の動圧流体軸受装置、スピンドルモータの断面図
【図16】従来のスリーブの部分断面図
【符号の説明】
【0035】
1 軸
2 フランジ
3 スリーブ
3A 軸受孔
3B,3C、2A、2B 動圧発生溝
3D 径大部
3J 凹部
4 スラスト板
5 潤滑流体
6 ロータハブ
7 ロータ磁石
8 ステータ
9 ベース
10 ディスク
11 焼結成形体
12 下型
13 上型
14 ピン
15 外型
16 取り付け台
17 クランプ
18 転造工具
18A シャンク
18B 転造ボール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受孔の内周面に動圧発生溝を有するスリーブと、
前記軸受孔に相対的に回転可能な状態で挿入されている軸と、を備えた動圧流体軸受装置の製造方法であって、
前記スリーブは、
金属粉体を中空円筒状に成型し第1の成形体を形成する粉体成形工程と、
前記第1の成形体を焼結して第2の成形体を形成する焼結工程と、
前記第2の成形体に第1のサイジングを行って整形し第3の成形体を形成する第1のサイジング工程と、
前記第3の成形体の内周面に転造により動圧発生溝を形成して第4の成形体を形成する動圧溝転造工程と、
前記第4の成形体を熱処理して第5の成形体を形成する熱処理工程と、
前記第5の成形体の軸受孔内に前記第5の成形体の内径より大きい径のボールを挿通して、前記第5の成形体の内径を整形する第1のボールバニッシュを行って第6の成形体を形成する第1のボールバニッシュ工程と、
を含むことを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項2】
軸受孔の内周面に動圧発生溝を有するスリーブと、
前記軸受孔に相対的に回転可能な状態で挿入されている軸と、を備えた動圧流体軸受装置の製造方法であって、
前記スリーブは、
金属粉体を中空円筒状に成型し第1の成形体を形成する粉体成形工程と、
前記第1の成形体を焼結して第2の成形体を形成する焼結工程と、
前記第2の成形体に第1のサイジングを行って整形し第3の成形体を形成する第1のサイジング工程と、
前記第3の成形体を熱処理して第4の成形体を形成する熱処理工程と、
前記第4の成形体の内周面に転造により動圧発生溝を形成して第5の成形体を形成する動圧溝転造工程と、
前記第5の成形体の軸受孔内に前記第5の成形体の内径より大きい径のボールを挿通して、前記第5の成形体の内径を整形する第1のボールバニッシュを行って第6の成形体を形成する第1のボールバニッシュ工程と、
を含むことを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項3】
軸受孔の内周面に動圧発生溝を有するスリーブと、
前記軸受孔に相対的に回転可能な状態で挿入されている軸と、を備えた動圧流体軸受装置の製造方法であって、
前記スリーブは金属粉体を中空円筒状に成型し第1の成形体を形成する粉体成形工程と、
前記第1の成形体を焼結して第2の成形体を形成する焼結工程と、
前記第2の成形体に第1のサイジングを行って整形し第3の成形体を形成する第1のサイジング工程と、
前記第3の成形体の内周面に転造により動圧発生溝を形成して第4の成形体を形成する動圧溝転造工程と、
前記第4の成形体の軸受孔内に前記第4の成形体の内径より大きい径のボールを挿通して、前記第4の成形体の内径を整形する第1のボールバニッシングを行って第5の成形体を形成する第1のボールバニッシュ工程と、
前記第5の成形体を熱処理して第6の成形体を形成する熱処理工程と、
を含むことを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1、2、3のいずれか1項に記載の前記熱処理工程における熱処理温度は、700℃〜1200℃であることを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1、2、3のいずれか1項に記載の前記第1のボールバニッシュ工程におけるボールバニッシュに使用するボールの径は、当該工程前の前記成形体の内径より2〜5μm大きいことを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の動圧流体軸受装置の製造方法は、さらに前記成形体の少なくとも一部の表面を第2のサイジングをする第2のサイジング工程を設けることを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の動圧流体軸受装置の製造方法は、さらに前記成形体に前記成形体の内径より大きい径のボールを挿通して、前記成形体の内径を整形する第2のボールバニッシュを行なう第2のボールバニッシュ工程を設けることを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の前記第2のボールバニッシュ工程におけるボールバニッシュに使用するボールの径は、当該工程前の前記成形体の内径より1〜2μm大きいことを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の工程後、さらに前記スリーブの表面に四酸化三鉄または三酸化二鉄を含む酸化膜を形成することを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか1項に記載の工程後、さらに前記スリーブの表面に樹脂または水ガラスを含浸させることを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか1項に記載の工程後、さらに前記スリーブの表面に加熱溶解した金属を含浸したことを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか1項に記載の工程後、さらに前記スリーブ表面にニッケルを含む金属メッキにより薄膜を形成したことを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項13】
請求項9から11のいずれか1項に記載の工程後、さらに前記スリーブ表面にDLCコーティングにより薄膜を形成したことを特徴とする動圧流体軸受装置の製造方法。
【請求項14】
軸と、
前記軸が相対的に回転可能な状態で挿入される軸受孔を有するスリーブと、
前記軸受孔の内周面に形成された動圧面と、
前記内周面に形成された動圧発生溝と、
前記軸と前記スリーブによって形成される隙間に保持される潤滑流体と、
を備え、
前記動圧面であって前記動圧発生溝間に形成される丘部は、その両端部が中央部よりも内径方向に突出しないことを特徴とする動圧流体軸受装置。
【請求項15】
前記丘部の両端部は、中央部よりも0.1μm以上低く形成されていることを特徴とする、請求項14に記載の動圧流体軸受装置。
【請求項16】
前記スリーブの表面に、四酸化三鉄または三酸化二鉄を含む酸化膜を形成し、表面を封孔する、請求項14に記載の動圧流体軸受装置。
【請求項17】
前記スリーブの表面に、樹脂または水ガラスを含浸した請求項14に記載の動圧流体軸受装置。
【請求項18】
前記スリーブの表面に、加熱溶解した金属を含浸した請求項14に記載の動圧流体軸受装置。
【請求項19】
請求項16から18のいずれか1項に記載の前記スリーブの表面に、ニッケルを含む金属からなる薄膜を形成した動圧流体軸受装置。
【請求項20】
請求項16から18のいずれか1項に記載の前記スリーブの表面に、DLCからなる薄膜を形成した動圧流体軸受装置。
【請求項21】
請求項14から20のいずれか1項に記載の動圧流体軸受装置と、
前記動圧流体軸受装置に回転可能に固定されるロータハブと、
前記ハブに固定されたロータ磁石と、
前記動圧流体軸受装置を固定するベースプレートと、
前記ロータ磁石と対向するように前記ベースに固定されたステータと、
を備えているスピンドルモータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−7721(P2010−7721A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165577(P2008−165577)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】