説明

化合物半導体薄膜のp型への活性化方法

【課題】化合物半導体薄膜のp型への活性化方法を提供する。
【解決手段】バンドギャップより高エネルギーの電磁波を薄膜に照射しながら熱処理を施す。成長時にドーピングされるp型不純物の量は、薄膜の固有抵抗と適正熱処理温度を変え、また電極との接触抵抗を改善する。これにより、MOCVDやHVPEなどの気相エピタキシ法で成長した化合物半導体薄膜の吸収波長の電磁波を照射して化合物半導体薄膜の固有抵抗を低下させたり、付随的に化合物半導体と電極との特性接触抵抗率を低下させる。また、化合物半導体薄膜の成長時、化合物半導体薄膜に注入されたp型不純物の量が増加すると、活性化工程の適正熱処理温度が低くなる。そこで、紫外線の照射なしにp型不純物のドーピング温度を高め、低温での熱処理だけで化合物半導体薄膜の固有抵抗を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青緑色発オプティカルデバイス、青紫色レーザダイオード、紫外線発オプティカルデバイス、レーザダイオード及びトランジスタなどオプティカルデバイスに用いられる化合物半導体素子の製作における、化合物半導体薄膜のp型への活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、GaNを基にして成長した典型的なオプティカルデバイスの構造を示す断面図である。この素子は、図示するように、サファイア基板1上にバッファ層2を配置し、バッファ層2の上にGaN層3、n-GaN層4、InGaN層5及びp-GaN層6を順に積層した後、p-コンタクト層7及びn-コンタクト層8を各々形成して構成される。図1のGaNを基本とした素子は、青色、紫色、緑色の短波長の光を発し、完全なカラー表示や、高容量記録媒体に情報を貯蔵する分野に適用できる。また、熱的特性に優れ、高温で動作可能な電子デバイスにも応用できる。
【0003】
このような短波長オプティカルデバイスの商品化で最も速い進歩を示す窒化物系化合物半導体は、GaAs等の他の系列の物質とは異なり、p型半導体の製作に問題がある。
GaN系化合物半導体を成長させる方法には、有機金属気相成長(Metalorganic Chemical Vapor Deposition;MOCVD)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法、ハイドライドVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy;HVP)法などがある。例えば、MOCVD法により成長させたp型不純物を含む薄膜は、固有抵抗が非常に高くて素子に使用できない。これは反応気体の水素が、成長時にp型不純物と結合された形態で結晶に含まれ、p型不純物が電気的に活性化できないように作用するためと考えられる。これを解決するために、まず電子ビームで電気伝導度を増加させる方法がある。これは成長した薄膜に電子線を照射して固有抵抗を低くする方法である。しかし、この方法は、薄膜の表面に欠陥を誘発し、素子の性能を劣化させる恐れがある。また、電子線は、広い面積には照射が難しいため、狭い面積に照射して順次に基板全体を照射することとなり、大容量の生産には適しない。他の方法は熱処理方法である。これは、成長した薄膜を400℃以上で熱処理して固有抵抗を低くする方法である。しかし、この方法では、通常800〜900℃程度の高温に成長した薄膜を露出すべきなので、表面に熱的損傷を招き、薄膜に含まれた不純物が成長時拡散して製作された素子の性能を劣化させる恐れがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記のような問題点を改善するために、化合物半導体素子の製造方法において、p型不純物がドーピングされた化合物半導体、なかでもGaN系化合物半導体の固有抵抗を低下させ、化合物半導体薄膜のp型への活性化方法を提供することを目的とする。
また、化合物半導体薄膜のp型への活性化方法において、熱処理温度を低下させる技術を提供することを目的とする。
さらに、p型化合物半導体薄膜と電極との接触抵抗を減少させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記の課題を解決するために、化合物半導体素子の製造方法において、気相エピタキシ法で成長し、p型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜及び電極を使用して化合物半導体素子の接触抵抗を減少させる方法であって、前記p型不純物を前記化合物半導体薄膜にドーピングする場合に、最も低い固有抵抗値を有する前記p型不純物のドーピング濃度より2倍以上の高濃度でドーピングする段階を含む方法を提供する。
なお、p型不純物がドーピングされた化合物半導体、なかでもGaN系化合物半導体の固有抵抗を電磁波を使用して低くする、化合物半導体薄膜のp型への活性化方法も前記課題を解決することができる。この方法において、Mgの含量を増加させて熱処理温度を低めることが好ましい。さらに、成長過程でドーピングされるp型不純物の含量に応じ、電極との接触抵抗を減少させることが好ましい。
【0006】
すなわち、前記化合物半導体薄膜のp型への活性化方法は、気相エピタキシ法で成長され、p型不純物がドーピングされる化合物半導体薄膜及び電極を使用して化合物半導体素子を製作する方法であって、前記p型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜に吸収されうる電磁波を、前記化合物半導体薄膜に照射する段階を含む。
前記電磁波を照射する段階は、空気雰囲気または窒素雰囲気で350℃以上の熱処理工程と共に遂行されることが望ましい。
特に、前記電磁波を照射する段階では、前記化合物半導体薄膜がMgをドーピングしたGaN薄膜の場合、使われる前記電磁波は空気中で波長385nmより短い波長を有することが望ましい。
【0007】
3元混晶系化合物では0≦x≦1であり、4元混晶系化合物ではx+y+z=1の関係を有するとするとき、前記化合物半導体薄膜は、InxGa1-xN、AlxGa1-xN、AlxGayInzN、BxGa1-xN、BxAlyGazNからなる群のうちいずれか一のガリウム窒化物系半導体物質からなり、前記化合物半導体薄膜のp型不純物としてZn、Cd、Be、Ca、Baのうちの少なくとも何れか一つを使用することが望ましい。
さらに他の化合物半導体薄膜のp型への活性化方法は、気相エピタキシ法で成長し、p型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜及び電極を使用して化合物半導体素子を製作する方法であって、前記p型不純物がドーピングされた半導体薄膜が、p型不純物としてMgを5×1019cm-3以上含有している場合、前記化合物半導体薄膜を200〜850℃の範囲で熱処理する段階を含む。
3元混晶系化合物では0≦x≦1であり、4元混晶系化合物ではx+y+z=1の関係を有するとするとき、前記化合物半導体薄膜は、InxGa1-xN、AlxGa1-xN、AlxGayInzN、BxGa1-xN、BxAlyGazNからなる群のうちのいずれか一のガリウム窒化物系半導体物質からなり、前記化合物半導体薄膜のp型不純物として、Zn、Cd、Be、Ca、Baのうちの少なくとも何れか一つを使用することが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
以上、説明したように、本発明に係る化合物半導体薄膜のp型への活性化方法は、第一に、VPE法で成長した化合物半導体薄膜に吸収されうる波長範囲の電磁波を照射して化合物半導体薄膜の固有抵抗を低下させ、付随的に化合物半導体と電極との特性接触抵抗率を低下させる。第二に、化合物半導体薄膜の成長時、化合物半導体薄膜に注入されたp型不純物の含有量が増加することに従って活性化工程の適正熱処理温度が低くなる点を用い、紫外線の照射なしにp型不純物のドーピング温度を高めることによって、低温での熱処理だけで化合物半導体薄膜の固有抵抗を低下させうる。
また、本発明の化合物半導体薄膜の接触抵抗の減少方法によれば、p型不純物の濃度を増加させて接触抵抗を低める。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】GaNに基づいて成長した典型的なオプティカルデバイスの構造を示す断面図。
【図2】本発明に係る電磁波を用いたGaN半導体薄膜をp型に活性化する方法を適用するための装置の概略的な断面図。
【図3】色々な温度で紫外線を照射しながら活性化したp型化合物半導体薄膜の試料に流れる電流値を示すグラフ。
【図4】800℃の高温で窒素と空気の2つの雰囲気で活性化した2つのp型化合物半導体薄膜試料の電圧-電流特性を示すグラフ。
【図5】p型不純物が含まれたGaN薄膜試料に多様な波長の光を照射する場合に光吸収が起こる波長範囲を考察するための光透過スペクトル。
【図6】p型化合物半導体薄膜試料に照射される紫外線の強度に応じる電流の変化を示すグラフ。
【図7】Mgの含量が異なる各々のp型化合物半導体薄膜試料に紫外線を照射し、520℃で活性化した状態で測定された電流値に対する、紫外線なしに370℃で活性化した状態で測定された電流値の比を示すグラフ。
【図8】p−GaN薄膜の電極との接触抵抗を、Mgの含有量に応じて示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照し、本発明に係る化合物半導体薄膜のp型への活性化方法を詳細に説明する。
本発明は、化合物半導体素子の性能を高めるために、化合物半導体薄膜をp型に活性化して化合物半導体薄膜の固有抵抗を減少させることが主な特徴である。これを具現するための方法として、MOCVD法やHVPE法などの気相エピタキシ(VPE;Vapor Phase Epitaxy)法で成長されp型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜の固有抵抗を低下させるために、化合物半導体薄膜に吸収されうる電磁波を照射する方法と、化合物半導体薄膜に含まれたp型不純物の濃度を増加させて熱処理温度を低下させる方法とがある。
【0011】
より具体的に、第一の方法では、化合物半導体薄膜が吸収できる最低エネルギー、即ちバンドギャップエネルギーより大きいエネルギーを有する電磁波を照射する方法が用いられる。即ち、図2に示した活性化工程では、p型不純物がドーピングされた化合物半導体薄膜に吸収されうる電磁波を、光源9から化合物半導体薄膜試料10に照射しながら、350℃程度の温度に加熱する。ここで、電熱器11が試料10を加熱するために設けられている。また、試料10はチャンバ12に配置されている。p型不純物としてMgがドーピングされたGaN薄膜の場合には、バンドギャップエネルギーよりエネルギーが高い波長領域の紫外線を照射する場合、固有抵抗が減少する。またこの際、350℃以上に加熱すれば、GaN薄膜の固有抵抗がさらに減少する。このようなp型不純物としては、Mg以外にもBa、Be、Ca、Cd、Znなどが使用される。また、化合物半導体薄膜として、前記MgがドーピングされたGaN薄膜の代わりに、AlGaN薄膜を用いる場合にも類似した様態を示す。即ち、主に3-5族のガリウム窒化物系半導体であるInGaN、AlGaN、AlGaInN、BGaN、BAlGaNなどに対しても各々のバンドギャップよりエネルギーの大きい電磁波を照射すれば、同じ効果が期待できる。
【0012】
以上のような結果を導出するための実験方法として、まずMgがドーピングされたGaNの固有抵抗を簡単に測定するために小さな試料で実験を進行した。この試料の上面に同じ大きさの原形電極を蒸着し、試料間に流れる電流を測定した。原形電極にはPd金属を用い、直径0.6mm、間隔0.6mmで2次元格子状に試料を均一に配置した。5Vの電圧で試料間に流れる電流を測定し、固有抵抗の変化を比較した。同電圧で測定される電流は、薄膜の固有抵抗と直接的な反比例関係にあるので、試片間の固有抵抗の比較に充分である。以下、p型不純物が添加され化合物半導体薄膜の固有抵抗を低下させる工程を活性化工程と呼ぶ。
【0013】
また、MgがドーピングされたGaN半導体薄膜の接触抵抗を測定するためには、多用される方法のTransmission Line Method(TLM)を使用した。用いたPd電極は幅200μm、長さ100μmであり、7つの電極を、間隔5、10、15、20、25、30μmになるように一列に配置した。電圧0.1Vにおける微分抵抗値を測定して接触抵抗を求めた。
【0014】
活性化工程に使われた紫外線の光源としては水銀灯を使用したし、別に言及されない限り、光度は110mW/cm2に全ての実験で同一にした。活性化工程時間は30分に固定して使用した。数分以上の時間範囲における活性化濃度は大きな差を示さなかった。実験に使われたp型化合物半導体薄膜は、サファイア基板上に約1μm厚さのドーピングされていないGaN層を積層し、その上にMgがドーピングされたGaN層を約1μm厚さに成長した構造を使用した。
図3には、色々な温度で紫外線を照射しながら測定した活性化したp型化合物半導体薄膜の試料に流れる電流が示されている。温度に応じた電流の変化に紫外線の影響も共に示されている。成長した状態で電流がほとんど流れない半導体薄膜は、熱処理を通じて電流が多く流れる薄膜に転換される。このとき、紫外線は、この熱処理を促進し、さらに低い温度においても同じ程度の電流が流れうるようにする。同じ量の電流が流れる場合、紫外線を照射する時は紫外線なしに熱処理のみする時より約70〜80℃程度の温度下降効果を与えている。また紫外線を照射する場合、100℃程度の非常に低い温度下での熱処理としても、成長した状態、即ち電流がほとんど流れない状態より約30〜40倍程電流が増加したことが分かる。紫外線がない時100℃と200℃で熱処理された試料では、成長した状態のままの熱処理しない半導体薄膜と同じ程度の電流が流れている。即ち、紫外線を照射すれば試料にややの熱のみ加えても流れる電流の量が大きく増えることが分かる。また、紫外線を照射する場合、熱処理温度が350℃以上になれば、流れる電流の量が増加しない傾向を示していて、それ以上の温度範囲で活性化を進行すれば低い固有抵抗のp型不純物がドーピングされたGaNが得られる。
【0015】
既存の活性化のための熱処理温度より低い温度での熱処理は、成長した半導体薄膜に誘発されうる表面損傷を抑制し、金属との電極形成時に電極と半導体薄膜との間に発生する接触抵抗を低下させる長所がある。
接触抵抗の測定のために一枚の基板から二つの試料を備えて各々他の活性化工程を経た。即ち、MgがドーピングされたGaN薄膜を活性化するために、二つの試料に既存の高温熱処理工程と紫外線を照射する低温熱処理工程とをそれぞれ施した。その後、TLMで特性接触抵抗率を測定した。800℃で活性化した試片は、4.03×10-2Ωcm2から1.16×10-2Ωcm2の特性接触抵抗を示した。一方、370℃で紫外線を照射して活性化した試料は、4.33×10-4Ωcm2から5.62×10-6Ωcm2の特性接触抵抗率を示した。この100倍程度の接触抵抗率の差は非常に大きな値であって、高温で半導体薄膜に表面損傷が発生して欠陥を誘発し、このため電極との接触抵抗が上昇したことを示している。
【0016】
さらに、紫外線照射による低温熱処理は、既存の高温熱処理に比べ、薄膜の表面における酸化物や他の反応物の発生を抑制するので、活性化工程の雰囲気気体を調節する必要がない長所もある。図4に、800℃の高温で窒素及び空気の2つの雰囲気について、それぞれの雰囲気中で活性化した2つの試料の電圧電流特性を示す。空気雰囲気で活性化した試料の電流電圧特性は、0V近くで曲線で示されている。窒素雰囲気で活性化した試料の電流電圧特性は、直線的な特性を示している。空気雰囲気で活性化した試料が0V近くで曲線的特性を示す理由は、化合物半導体薄膜と電極との間に抵抗的接触が形成できなかったからである。即ち、窒素雰囲気で活性化工程を進行してこそ、電極との抵抗的接触を形成することが示されている。しかし、図示していないものの、図3における紫外線を照射した試料は、空気雰囲気で活性化した場合も全て直線的電流電圧特性を示した。これは、紫外線照射と共に低温で活性化工程が進行されたため、薄膜の表面に酸化物または他の反応物が発生せず、界面で抵抗的接触がうまくなされたと考えられる。このように、雰囲気を人為的に窒素雰囲気に調節する必要がないので、活性化のための装備を簡単に作れる長所がある。紫外線を照射する低温活性化工程が空気雰囲気で進行されても、窒素雰囲気で進行される場合と同様に活性化がなされる。
【0017】
通常のMOCVD法で成長した化合物半導体でp型不純物がドーピングされても高い固有抵抗を示すのは、p型不純物が水素と結合してアクセプタとしての役割を果たせないからであると推測される。このように、p型不純物に結合された水素を高温の熱処理を通じて分離し、固有抵抗を低下させる工程が既存の活性化工程である。水素を分離する方法は、他にも電子線の照射方法や少数電荷注入方法などが提示されているが、これら原理は全て水素と電子との作用のためであると提案されている。即ち、電子を外部から注入すれば、水素とp型不純物間の結合を弱め、高温の熱処理なしでも低温で前記結合から水素を分離して薄膜の固有抵抗を低めうる原理である。本発明では、このような電子の注入のために、成長したp型不純物を含む半導体薄膜に吸収されうる光を照射して半導体薄膜内に電子−正孔対を生成する原理を使用した。この際、活性化に役に立つ電子を作れる光は半導体薄膜のバンドギャップよりエネルギーの大きな光である。普通、半導体の光吸収はバンドギャップから始まって波長が短くなるほど増加し、バンドギャップ以下では吸収がない。
【0018】
p型不純物が含まれたGaN薄膜の場合には、図5に示すように、385nmより短波長の光は薄膜内で吸収されて電荷を生成する。即ち、385nmより短波長の光はMgがドーピングされたGaN薄膜で吸収されて活性化に寄与することと見なせる。この385nm波長台の紫外線の光源としては、水銀灯が適している。
本発明の実験に用いた水銀灯は、紫外線領域のみならず可視光線領域の電磁波も多量放出している。紫外線の効果を確認するために紫外線を透過しないフィルターを使用して可視光線だけで活性化を進行させてみた。実験に使われたフィルターは、420nmより短波長の電磁波を透過させないフィルタである。370℃で紫外線を照射しながら活性化した試料は約130μAの電流が流れた。一方、フィルターを使用して紫外線を遮断した状態で熱処理された試料には、約10μAの電流のみ流れて、MgがドーピングされたGaNの場合には、紫外線が活性化工程において主要因であることを示した。
【0019】
電磁波をMgがドーピングされたGaN薄膜に吸収させる場合、吸収率に応じて光の透過深度が変化する。言い換えれば、活性化させようとするMgをドーピングしたGaNの表面近くに紫外線が全て吸収されると、紫外線がGaNの内部には効果を与えられない可能性があるということである。実験に用いた、MgをドーピングしたGaN薄膜は、サファイア基板上にドーピングされないGaN薄膜を1μm成長させた後、その上に成長させた。紫外線の透過深度が、MgをドーピングしたGaN薄膜の活性化に及ぼす影響を検証するために、成長したGaN薄膜を光源側に向けて配置した試料と逆側に向けて配置した試料とに同時に紫外線を照射してGaN薄膜を活性化した。紫外線の透過深度が短ければ、試料の表面近くにあるドーピングされない層で紫外線がほとんど吸収されて、成長した薄膜を光源と逆側に向けた試料は低い電流値を示すはずである。しかし、実際の実験結果は、二つの試料にほとんど同じ電流が流れて透過深度に対する問題はないものと示された。
【0020】
照射される紫外線の強度に応じた電流の変化を、図6に示す。実験に用いた水銀灯の最高放出光度は110mW/cm2であり、この時伝導される電流は25μAである。また紫外線がない場合に同じ温度で活性化した試料に流れる電流は2.9μAである。この電流値は図面で点線と示されている。紫外線が照射された時、活性化した試料では紫外線の強度を変化させても電流の変化がないことが分かる。本実験では、光源の限界のために30mW/cm2以下には紫外線の強度を減らせなかった。しかし図6に示したように、電流は光度への依存性を示していない。このことから、光度は微量さえあれば、p型化合物半導体薄膜の活性化を達成するには充分であると思われる。
【0021】
本発明を具現するための他の方法として、MOCVD法で成長し、p型不純物をドーピングした化合物半導体薄膜の固有抵抗を低下させるために、化合物半導体薄膜に含まれたp型不純物の濃度を増加させて熱処理温度を低下させる方法がある。この方法によれば、p型不純物のMgの含量を増加させることにより、紫外線を照射せず低温熱処理だけで化合物半導体薄膜の活性化を促進可能である。図7は、Mgの含量が異なる各々の試料ごとに完全に活性化した状態、即ち紫外線を照射しながら520℃で活性化させた試料で測定した電流値に対する、紫外線なしに370℃で活性化させた試料で測定した電流値の比を示す。即ち各々の試料ごとに370℃からある程度まで活性化するかの比を示した。Mg含量が9.6×1019cm-3の時は飽和電流の約50%以上の電流値を示している。これはMgの過ドーピングでも低温で紫外線を使用せず活性化できることを意味する。Mgが5×1019cm-3以上であれば飽和電流の約4%の電流が流れている。この場合、活性化工程は200〜850℃程度の低温熱処理によっても十分達成できる。
【0022】
また、化合物半導体薄膜としてAlGaN薄膜を用いる場合にも同様の効果が得られ(図示せず)、主に3-5族のガリウム窒化物系半導体であるInGaN、AlGaN、AlGaInN、BGaN、BAlGaNなどについても、前記のようなp型不純物が過ドーピングされれば低温で活性化がなされる。
普通、半導体薄膜に含まれたp型不純物が増加するほど正孔濃度が増加して薄膜の固有抵抗が低くなり電極との接触抵抗も低くなる傾向がある。特に正孔濃度は、電極との接触抵抗を決定する重要な変数である。しかし、窒化物系半導体はp型不純物の量が2〜3×1019cm-3以上に増加すれば、正孔濃度が減少して薄膜の固有抵抗が増加する。本発明は、Mgが2〜3×1019cm-3以上に過ドーピングされて正孔濃度が減少してもp型不純物の含有量が高い薄膜が電極と低い接触抵抗を形成するという内容である。半導体素子を製作する場合、素子の動作電圧を決定する要因は薄膜の固有抵抗と薄膜と電極との接触抵抗であるが、GaNの場合、バンドギャップエネルギーが大きく、正孔濃度が低くて電極とp-GaNとの接触抵抗が最も重要な要因となる。従って、p-GaNの抵抗がわずかに高くなっても、電極との接触抵抗を低下させる条件として成長したp-GaNを素子に使用してこそ素子の全体抵抗を低めうる。しかし、接触抵抗を低める目的だけのためにMgを過ドーピングする場合、薄膜の抵抗があまりに大きくなり、また正孔濃度の深刻な減少はLEDやLDなどの素子の性能にも悪い影響を及ぼす恐れがある。本発明では、このような問題を解決するために電極と接触する表面層にだけMgを過ドーピングする接触層を作り、その下には適正量のMgをドーピングして薄膜の抵抗を低める構造を提案する。薄膜の抵抗が最も低く、正孔濃度が最も高いGaN薄膜におけるMgの含量は1.5〜2×1019cm-3の範囲である。
【0023】
この実験で用いた試料は、800℃で4分間の熱処理を施して活性化した。そして、各試料の接触抵抗を比較するために、5μm間隔の二つの電極間の0.1Vにおける微分抵抗dV/dIを測定した。接触抵抗が大きい場合には、電極間隔に応じた測定値の変化が大きくリニアフィッティングで接触抵抗を求め難いため、測定された抵抗値を直接比較する方法を選択した。
【0024】
TLMのための電極の中で最も近い二つの電極の低電圧における抵抗値は、薄膜と電極との接触抵抗が最も大きい部分を占めている。このように測定された抵抗を比較して接触抵抗の相対的な比較ができる。
図8に、Mg含量が異なる色々なp型化合物薄膜に0.1Vの電圧を印加した場合に、測定された抵抗値を示す。図面で試料1と試料2とは、厚さ1μmにMgが均一にドーピングされた試料である。また、試料3と試料4とは、厚さ0.9μm、Mgが2.0×1019cm-3でドーピングされた層上に、厚さ0.03μmでMgの含有量を増加させた接触層を成長させた試料である。これは全体層にMgを過ドーピングする場合、薄膜の抵抗が増加しすぎることを避けるためである。図面に示された4つの試片の測定された抵抗値のうち、p-GaN薄膜による抵抗は0.4kΩ〜0.8kΩであり、全体抵抗に比べて非常に小さな部分である。従って、測定された抵抗値の大部分が電極との接触抵抗である。図面に示すように、Mg含有量が増加するほど接触抵抗は減少し、特にMg含量が4.5×1019cm-3以上になれば接触抵抗が急激に減少する。この時、Mg含有量は、薄膜の固有抵抗を最も低下させるMgの含有量1.5〜2×1019cm-3の約2〜3倍の値である。薄膜自体の固有抵抗はMg含有量が低い試料1が1.6Ωcmであり、高い試料2は2.2Ωcmで接触抵抗と反対の傾向を有する。即ち、Mgが過ドーピングされて薄膜の抵抗が高くなる場合、むしろ電極との接触抵抗が低くなる。試料3と4はMg含有量が異なる二つの層からなっているが、図面では接触層におけるMg含量に対して測定された抵抗値を示した。この場合にも、接触層にMgが多く含まれる試料が低い接触抵抗を有することが示された。試料3と4との大部分の厚さには試料1と同じ量のMgがドーピングされているため、薄膜の固有抵抗は試料1、3と4の全てに差がない。
【0025】
図面で接触層にMgが7.2×1019cm-3含まれる試料で接触層の厚さを0.1μmに増加させる場合、抵抗値は0.84kΩ〜1.0kΩに非常に低く減少する現象を示した。これは1.58×10-3Ωcm2の接触抵抗に当る値である。この現象は高温の活性化工程により誘発されうるMgの拡散のためだと見られる。過ドーピング層が薄ければ電極と接触する表面近くのMg含量が拡散によって薄膜が成長する時より減少する。拡散は濃度差が大きい境界面で最も大きく発生するので、電極と接触する表面が、Mg濃度差が大きい境界面と遠ざかるように過ドーピングされた接触層を厚くすれば、表面近くでは拡散の影響が減少してMgの含有量が成長時に注入された状態に近く維持される。この現象はMg以外にもBa、Be、Ca、Cd、Znなどのp型不純物を使ってもなされる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、青緑色発オプティカルデバイス、青紫色レーザダイオード、紫外線発オプティカルデバイス、レーザダイオード及びトランジスタなどオプティカルデバイスに用いられる化合物半導体素子の製作に適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
9 光源
10 試料
11 電熱器
12 チャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相エピタキシ法で成長し、p型不純物をドーピングした化合物半導体薄膜及び電極を用いて化合物半導体素子の接触抵抗を減少させる方法であって、
前記p型不純物を前記化合物半導体薄膜にドーピングする場合に前記薄膜の固有抵抗値を最も低い値としうる前記p型不純物のドーピング濃度の2倍以上の濃度で、前記p型不純物を前記化合物半導体薄膜にドーピングする段階を含む、化合物半導体薄膜の接触抵抗の減少方法。
【請求項2】
前記p型不純物としてMgを4.5×1019cm-3以上ドーピングし、Mg過ドーピング層を形成する段階を含む、請求項1に記載の化合物半導体薄膜の接触抵抗の減少方法。
【請求項3】
前記電極と接触する前記化合物半導体の表面にだけ前記Mgを4.5×1019cm-3以上ドーピングし、厚さ0.03μm以上のMg過ドーピング層を形成する段階を含む、請求項2に記載の化合物半導体薄膜の接触抵抗の減少方法。
【請求項4】
3元混晶系化合物では0≦x≦1であり、4元混晶系化合物ではx+y+z=1の関係を有するとするとき、前記化合物半導体薄膜は、InxGa1-xN、AlxGa1-xN、AlxGayInzN、BxGa1-xN、BxAlyGazNからなる群のうちのいずれか一のガリウム窒化物系半導体物質からなる、請求項1に記載の化合物半導体薄膜の接触抵抗の減少方法。
【請求項5】
前記化合物半導体薄膜のp型不純物として、Zn、Cd、Be、Ca、Baのうちの少なくとも何れか一つを使用する、請求項1に記載の化合物半導体薄膜の接触抵抗の減少方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−152644(P2009−152644A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91746(P2009−91746)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【分割の表示】特願平11−127370の分割
【原出願日】平成11年5月7日(1999.5.7)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】