説明

化学センサ用薄膜トランジスタ

【解決手段】化学センサは、第1のトランジスタと第2のトランジスタとを備える電子機器である。第1のトランジスタは、第1の半導体とカーボンナノチューブとから作られる半導体を備えている。第2のトランジスタは、第2の半導体から作られる半導体層を備えており、カーボンナノチューブは含んでいない。この2種類のトランジスタは、化学化合物への応答という点で異なっており、その応答の差を利用し、特定の化学化合物の属性を決定することができる。
【効果】この化学センサは、爆発性化合物、例えば、トリニトロトルエン(TNT)の使い捨て可能なセンサとして有用であろう。この電子機器を分析器とともに使用し、分析器は、電子機器によって作られた情報を処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化学物質を感知する薄膜トランジスタ(TFT)を備える電子機器に関する。この電子機器は、1種類以上の種類が異なるトランジスタを備えていてもよく、化合物、例えば、爆発性物質に関わりがある揮発性化合物の検出、特定および/または定量に有用である。
【背景技術】
【0002】
TFTは、一般的に、基材と、導電性ゲート電極と、ソース電極およびドレイン電極と、ゲート電極をソース電極およびドレイン電極と隔離する電気絶縁性のゲート誘電層と、ゲート誘電層と接触してソース電極およびドレイン電極を架橋する半導体層とから構成されている。TFTの性能は、トランジスタ全体の電界効果移動度、電流のオン/オフ比によって決定することができる。
【0003】
有機薄膜トランジスタ(OTFT)は、スピンコーティング、溶液キャスト法、浸漬コーティング、ステンシル/スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、マイクロコンタクトプリントなどのような低コストの溶液系パターニングおよび堆積技術を用いて製造することができる。低コストであるため、OTFTは、電子機器を廃棄することが有用であると思われる用途で使用することができる。
【0004】
爆発性化合物の検出は、国土安全保障用途や、他の防衛機能にとって望ましい。爆発性化合物は、典型的には、窒素を含有しており、例えば、トリニトロトルエン(TNT)、シクロトリメチレントリニトロアミン(RDX)、四硝酸ペンタエリスリトール(PETN)が挙げられる。化学兵器にも窒素を含むもの、例えば、びらん剤、神経ガス、無力化ガスの一部がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ある種の家庭用途や産業用途でも、他のよく似た化合物から特定の化合物を特定することが望ましい。例えば、化学センサは、過剰量の一酸化炭素の存在を示すことができる。また、特定の化学物質の有無を利用し、ある種の産業プロセスを制御することができる。特定の汚染物質または副生成物を検出することも、品質制御目的で有用である。
【0006】
上述の化学物質を感知する機能のいくつかを実施するために、OTFTの低コスト性を利用することが望ましいだろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、いくつかの実施形態では、特定の化合物を具体的に、または大まかな分類または共通の化学によって検出し、特定し、および/または定量するのに有用な電子機器に関する。電子機器は、化学物質を感知するトランジスタを備えており、このトランジスタは、異なる化学化合物にさらされたときに、異なる信号、例えば、電荷キャリア移動度の変化を生じる。この機器は、第1のトランジスタを備えており、場合により、所与の化合物、例えば、揮発性物質に対する応答が異なる第2またはさらなるトランジスタを備えている。この応答は、トランジスタのベースラインと、他のトランジスタとは独立した応答から得られる変化とで差がある。この応答の差を利用し、化合物を検出、特定および/または定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本開示のTFTの第1の実施形態の図である。
【図2】図2は、本開示のTFTの第2の実施形態の図である。
【図3】図3は、本開示のTFTの第3の実施形態の図である。
【図4】図4は、種々の有機溶媒のための2種類の異なるTFTについて、電荷キャリア移動度を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一般的に、本開示は、化学センサとして使用可能な電子機器に関する。電子機器のトランジスタ(または各々のトランジスタ)の電荷キャリア移動度を、周囲の空気にさらされた状態で測定し、この測定値をベースラインとして使用する。次いで、この電子機器を、特定の化学物質を含む蒸気の流れにさらし、電荷キャリア移動度の変化(絶対的変化、相対変化、または両者)を用い、特定の化学化合物を特定することができる。特定のトランジスタは、一般的に、異なる化学物質にさらされると、異なる応答をする。この応答により、化学化合物を大まかに特定する(例えば、特定の分類に含まれる、または特定の化学構造を含む)か、または、具体的に特定することができる。異なるトランジスタは、他と独立して応答することができる。異なるトランジスタ間の応答の差によって、化学化合物の存在または属性を独立して確認する。この電子機器は、蒸気の流れに含まれる化学化合物の大まかな種類、組成および/または属性を決定するのに特に有用である。
【0010】
電子機器が、スキャナ、リーダ、または電子機器によって作られる情報を解釈する類似の分析器と組み合わせてチップまたはカートリッジとして使用される状態が特に想定される。例えば、分析器を使用し、蒸気の流れに関するデータを読み取り、処理し、解釈するか、または得ることができ、また、適切な表示を作成し、データを保存などすることができる。化学化合物の特定は、例えば、電荷キャリア移動度の変化が、化合物の分類または具体的な化学化合物に関連するというリファレンステーブルと比較することによって行うことができる。その後、所望な場合、カートリッジを処分してもよい。特定の用途では、電子機器を使用し、爆発性化合物の蒸気、爆発性化合物の分解フラグメント、または爆発性化合物に一般的に関係がある化学物質の蒸気を検出することができる。
【0011】
さらに特定的な実施形態では、電子機器は、第1のトランジスタと第2のトランジスタとを備え、所望な場合、さらなるトランジスタを備えていてもよい。それぞれのトランジスタは、化学センサとして作用し、所与の化学化合物に対し、他と区別可能な応答を生じる。一般的に、特定の化合物に対する応答は、2種類(またはそれ以上の)トランジスタ間で異なっている。これらの応答の差を利用し、異なる化学化合物をさらに区別することができる。例えば、電子機器は、クロロホルムを他の塩素化溶媒から選択的に特定することができ、または、n−ブタノールを他のアルコール系溶媒から選択的に検出することができる。
【0012】
さらに具体的には、第1のトランジスタは、第1の半導体層を備えており、第1の半導体層は、第1の半導体とカーボンナノチューブとを含んでいる。第2のトランジスタは、第2の半導体層を備えており、第2の半導体層は、第2の半導体を含んでいるが、カーボンナノチューブは含んでいない。このような電子機器を製造するプロセスも開示されている。電子機器を使用する方法も開示されている。
【0013】
図1は、第1のトランジスタを少なくとも備えており、ボトム−ゲート型でボトム−コンタクト型のTFT構造を用いた電子機器を示す。電子機器10は、最下層または最底部層の役割を果たす基材20を備えており、基材20は、トランジスタの最外層の1つであると考えることができる。第1のゲート電極30は、基板の内部に配置されており、ゲート誘電層40は、第1のゲート電極を覆っている。第1のゲート電極30は、この図では、基材20の内部にある凹部で示されているが、このゲート電極は、基材の上部(すなわち、ゲート誘電層の内部にある凹部)に配置されていてもよい。ゲート誘電層40によって、第1のゲート電極30が、第1のソース電極42、第1のドレイン電極44、第1の半導体層50と隔離していることが重要である。第1の半導体層50は、第1のソース電極42および第1のドレイン電極44の上部を覆っており、これらの間に位置している。第1の半導体層は、第1のソース電極42と第1のドレイン電極44との間にチャネル長52を有する。基材20、第1のゲート電極30、ゲート誘電層40、第1のソース電極42、第1のドレイン電極44、第1の半導体層50を合わせ、第1のトランジスタ90を形成していると考えてもよい。
【0014】
また、第2のゲート電極60も、基板の内部に配置されており、ゲート誘電層40が、第2のゲート電極を覆っている。この場合も、第2のゲート電極60は、基材20の内部にある凹部で示されているが、このゲート電極は、基材の上部(すなわち、ゲート誘電層の内部にある凹部)に配置されていてもよい。この場合も、ゲート誘電層40によって、第2のゲート電極60が、第2のソース電極72、第2のドレイン電極74、第2の半導体層80と隔離している。第2の半導体層80は、第2のソース電極72および第2のドレイン電極74の上部を覆っており、これらの間に位置している。第2の半導体層は、第2のソース電極72と第2のドレイン電極74との間にチャネル長82を有する。基材20、第2のゲート電極60、ゲート誘電層40、第2のソース電極72、第2のドレイン電極74、第2の半導体層80を合わせ、第2のトランジスタ92を形成していると考えてもよい。ここで、基材20とゲート誘電層40は、2個のトランジスタで共有されていることに留意されたい。
【0015】
また、この2個のトランジスタが、それ自身の基材とゲート誘電層を備えていてもよいことも想定されている。第1のトランジスタ90と、第2のトランジスタ92とは、互いに電気的に隔離されている。絶縁体94は、ここでは、2個のトランジスタを隔離するものとして示されている。一般的に、2個以上のトランジスタが存在する場合、トランジスタは、互いに電気的に隔離されている。
【0016】
図2は、ボトム−ゲート型でトップ−コンタクト型のTFT構造を用いた電子機器を示す。ここで、第1の半導体層50と第2の半導体層80は、ゲート誘電層40の上部に配置されている。次いで、第1のソース電極42と第1のドレイン電極44は、第1の半導体層50の上部に配置されている。次いで、第2のソース電極72と第2のドレイン電極74は、第2の半導体層80の上部に配置されている。ここで、誘電層40は、2個のトランジスタを隔離する壁を形成する形状になっている。
【0017】
図3は、トップ−ゲート型でトップ−コンタクト型のTFT構造を用いた電子機器を示す。ここで、基材20は、第1のソース電極42、第1のドレイン電極44、第1の半導体層50と接している。第1の半導体層50は、第1のソース電極42および第1のドレイン電極44の上部を覆っており、これらの間に位置している。基材20は、第2のソース電極72、第2のドレイン電極74、第2の半導体層80とも接している。第2の半導体層80は、第2のソース電極72および第2のドレイン電極74の上部を覆っており、これらの間に位置している。ゲート誘電層40は、第1の半導体層50および第2の半導体層80の上部に配置されている。第1のゲート電極30と第2のゲート電極60は、ゲート誘電層40の上部にある。第1のゲート電極30も第2のゲート電極60も、第1の半導体層50または第2の半導体層80と接していない。
【0018】
具体的な実施形態では、本開示の第1の半導体層50は、カーボンナノチューブと、第1の半導体とを含む。第1の半導体は、ポリマー凝集物を形成可能なポリマーである。「ポリマー凝集物」との用語は、ポリマーが、溶解した個々の分子鎖を形成するよりも、ポリマー分子の他と区別可能な粒子またはクラスターを形成する能力を指す。このような粒子は、直径が、約数ナノメートル〜約数マイクロメートルである。複数の実施形態では、第1の半導体は、共役ポリマーであり、共役したポリマー凝集物は、粒径が、光散乱法を用いて決定した場合、約5ナノメートル〜約1マイクロメートルであり、約5ナノメートル〜約500ナノメートルを含む。
【0019】
複数の実施形態では、ポリマーは、液体中、室温で安定な凝集体を形成することができる。種々のプロセスを使用し、ポリマー凝集体を作成することができ、限定されないが、米国特許第6,890,868号または第6,803,262号に開示されているものが挙げられ、これらは参照することで本明細書に完全に組み込まれる。
【0020】
複数の実施形態では、第1の半導体は、式(I)の構造を有するポリチオフェンであり、
【化1】

式中、Aは、二価の結合部分であり、各Rは、独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アリール、置換アリール、アルコキシまたは置換アルコキシ、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン、−CNまたは−NOから選択され、nは、2〜約5,000である。式(I)のポリチオフェンは、ホモポリマーであり、ポリマー凝集体を形成することができる。
【0021】
「二価の結合部分」との用語は、2個の異なる水素以外の原子と単結合を形成し、これらの2個の異なる原子を互いに接続することができる任意の部分を指す。例示的な二価の結合部分としては、−O−、−NH−、アルキル、アリールが挙げられる。
【0022】
二価の結合部分Aは、式(I)の2個のチエニル部分それぞれに対し、単結合を形成する。例示的な二価の結合部分Aとしては、以下のもの、
【化2】

およびこれらの組み合わせが挙げられ、式中、各R’は、独立して、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、アルコキシまたは置換アルコキシ、ヘテロ原子を含む基、ハロゲン、−CNまたは−NOから選択される。これらの部分が、二価の結合部分Aに1つ以上存在していてもよい。それに加え、1個以上の特定の部分が二価の結合部分Aに存在していてもよい。
【0023】
二価の結合部分Aは、常に、式(I)で示される2個のチオフェンモノマーとは異なっているだろうということに留意されたい。言いかえると、式(I)は、単なる1種類の部分から作られたポリチオフェンであるというところまでは狭まらないだろう。特定の実施形態では、Aは、式(I)に示される2個のチオフェン部分とは異なるチエニル部分であってもよい。例えば、Aがチエニル部分である場合、RおよびR’は、同じではない。
【0024】
式(I)の特定の実施形態では、Rは、炭素原子を約6〜約25個含むアルキルであるか、または、Rは、炭素原子を約8〜約16個含むアルキルである。
【0025】
いくつかの特定の実施形態では、第1の半導体は、式(II)の構造を有するポリチオフェンであり、
【化3】

式中、mは、2〜約2,500である。ポリチオフェンは、PQT−12と呼ばれることがある。
【0026】
第1の半導体層は、そのほかにカーボンナノチューブを含んでいる。カーボンナノチューブは、炭素の同素体である。カーボンナノチューブは、円筒形の炭素分子の形態をなしており、ナノテクノロジー、エレクトロニクス、光学分野、他の材料科学分野における広範囲の用途で有用な新しい特性を有している。カーボンナノチューブは、並はずれた強度を示し、固有の電気特性を示し、十分な熱伝導性を示す。ナノチューブの直径は小さく、典型的には、数ナノメートルの大きさである。ナノチューブの長さは、典型的には、これより長く、ある場合には、数ミリメートルまで達する。言いかえると、カーボンナノチューブは、高いアスペクト比、すなわち、直径に対する長さの比率を有していてもよい。
【0027】
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、または多層カーボンナノチューブであってもよい。単層カーボンナノチューブは、それぞれの炭素原子が他の4個の炭素原子と接続しており、長方形のグラフェンシート中の結合と似ている(が同じではない)円筒形である。多層カーボンナノチューブは、異なる直径を有する多くの円筒形カーボンナノチューブで構成されており、互いに同軸に作られている。カーボンナノチューブは、任意の適切な長さおよび直径を有していてもよい。
【0028】
複数の実施形態では、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)である。SWCNTは、直径が約0.5ナノメートル〜約2.5ナノメートルであり、約0.7〜約2.5ナノメートルを含む。ある特定の実施形態では、SWCNTは、直径が、約0.7〜1.2ナノメートル、または約0.7〜約1.0ナノメートルであってもよい。SWCNTは、長さが、約0.1〜約10マイクロメートルであってもよく、約0.5〜約5マイクロメートル、約0.5〜約2.5マイクロメートル、または約0.7〜約1.5マイクロメートルを含む。SWCNTのアスペクト比は、約500〜約10,000であってもよく、約500〜5,000、または500〜1500を含む。これらの文章は、すべてのナノチューブが同じ直径、同じ長さ、または同じアスペクト比を有することが必要であると解釈されるべきではない。むしろ、ナノチューブは、上に列挙した分布範囲内で、異なる直径、異なる長さ、または異なるアスペクト比を有していてもよい。特定の実施形態では、カーボンナノチューブは、単層半導体カーボンナノチューブである。
【0029】
他の実施形態では、カーボンナノチューブは、表面が改質されたカーボンナノチューブであってもよい。表面を改質する基は、カーボンナノチューブの壁面または末端に接続していてもよい。カーボンナノチューブの表面は、非共有結合および共有結合の2つの様式で改質されてもよい。
【0030】
複数の実施形態では、表面が改質されたカーボンナノチューブは、以下の式によってあらわされてもよく、
【化4】

式中、CNTは、カーボンナノチューブをあらわし、Rは、エステル(−COO−)およびアミド(−CONH−)から選択される接続基であり、Rは、共役した基、共役していない基、低分子量の基、無機材料、およびこれらの組み合わせである。表面の改質度は、カーボンナノチューブあたり約1個の基を有するものから、カーボンナノチューブあたり約1000個の基を有するものまでさまざまであってもよい。
【0031】
カーボンナノチューブの表面は、共役した基、共役していない基、無機材料、およびこれらの組み合わせで改質されていてもよい。
【0032】
例示的な共役した基としては、チオフェン系オリゴマー、ピレニル、フルオレニル、カルバゾリル、トリアリールアミン、フェニルを挙げることができる。共役した基は、カーボンナノチューブの表面に直接共有結合していてもよく、アミドまたはエステルのような接続基を介して結合していてもよい。
【0033】
例示的な共役していない基としては、アルキル、アルコキシ、シアノ、ニトロ、ウレタン、スチレン、アクリレート、アミド、イミド、エステル、シロキサンを挙げることができる。また、カルボン酸、スルホン酸、ホスフィン酸、硫酸、硝酸、リン酸などからなる群から選択される酸部分を含む共役していない基も含まれる。特定の実施形態では、表面が改質されたカーボンナノチューブは、カルボン酸、硫酸、硝酸で改質されている。カーボンナノチューブに担持された酸は、半導体層の導電性を高め、トランジスタの電界効果移動度を高めるために、半導体、特にp型半導体にドープされてもよい。
【0034】
具体的な実施形態では、無機材料は、導電性であってもよく、半導体性であってもよい。例示的な無機材料としては、金属および金属酸化物、例えば、金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、カドミウム、パラジウム、白金、クロム、アルミニウム、ZnO、ZnSe、CdSe、ZnIn(a、b、cは整数である)、GaAs、ZnO・SnO、SnO、ガリウム、ゲルマニウム、スズ、インジウム、酸化インジウム、インジウムスズオキシドなどが挙げられる。無機材料は、カーボンナノチューブの表面を均一に覆っていてもよく、カーボンナノチューブの表面にナノ粒子の形態で存在していてもよい。具体的な実施形態では、表面が改質されたカーボンナノチューブは、金、銀、ニッケル、銅、ZnO、CdSe、ZnIn、GaAs、ZnO・SnO、SnO、ZnSeのナノ粒子からなる群から選択されるナノ粒子で改質されている。
【0035】
カーボンナノチューブの表面を改質することによって、カーボンナノチューブと式(I)のポリチオフェンとの混和性を高めることができる。典型的には、ナノ粒子は、強いファンデルワールス力によって凝集物を形成しやすく、その結果、ナノサイズの分散を達成することは困難になる。表面の改質によって溶解度が上がり、ポリチオフェン中に、カーボンナノチューブをナノサイズで分散させることができる。表面が共役した部分で改質される場合、カーボンナノチューブとポリチオフェン半導体との電荷移動がよくなる。
【0036】
カーボンナノチューブは、適切な方法によって表面改質されてもよい。例えば、反応部位がカーボンナノチューブの上に作られてもよく、次いで、オリゴマーまたは低分子量化合物が、この反応部位でナノチューブにグラフト結合してもよい。別のアプローチは、酸処理によるカーボンナノチューブ表面へのカルボン酸基の導入を含む。例えば、硫酸と硝酸の混合物を用い、カーボンナノチューブの表面にカルボン酸基を作成することができる。次いで、他の表面を改質する基を、カルボン酸基と反応させてもよい。他のアプローチは、プラズマ処理、または、ジクロロカルベンのような非常に反応性の化学物質と直接反応させることを含む。他の実施形態では、カーボンナノチューブは、表面が改質されていない。
【0037】
第1の半導体は、溶媒を含む半導体組成物中で、カーボンナノチューブを安定化することができる。この安定化は、いくつかの異なる機構によって行うことができる。複数の実施形態では、ポリマー凝集物を形成することができる性質は、半導体組成物中にカーボンナノチューブを分散させ、安定化するのに役立つ。結果として、ポリマー凝集物は、溶媒にカーボンナノチューブを分散させ、安定化するのに役立つ。他の実施形態では、分散したカーボンナノチューブは、核として機能し、第1の半導体が、個々のカーボンナノチューブを包み込み、カーボンナノチューブおよび第1の半導体のナノ凝集物を形成する。これらのナノ凝集物は、ポリマー凝集物とともに存在していてもよい。半導体で包まれたカーボンナノチューブおよび/または半導体ポリマー凝集物の存在は、高解像度透過型電子顕微鏡技術または原子間力顕微鏡技術のような適切な道具を用いて調べることができる。
【0038】
第1の半導体層50は、第1の半導体およびカーボンナノチューブの合計重量を基準として、約1〜約50重量%のカーボンナノチューブを含んでいてもよい。ある実施形態では、カーボンナノチューブは、第1の半導体層の約3〜約40重量%含まれる。
【0039】
第1の半導体層中のカーボンナノチューブと第1の半導体との重量比は、約1:99〜約50:50であってもよい。ある実施形態では、第1の半導体層中のカーボンナノチューブとポリチオフェンとの重量比は、約5:95〜約40:60である。
【0040】
電子機器が第2のトランジスタを備えるある種の特定の実施形態では、第2のトランジスタの第2の半導体層80は、第2の半導体を含んでいるが、カーボンナノチューブは含んでいない。例示的な半導体としては、限定されないが、アセン、例えば、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、ルブレン、置換ペンタセン、例えば、TIPS−ペンタセン、ペリレン、フラーレン、オリゴチオフェン、ポリチオフェンおよびこれらの置換された誘導体、ポリピロール、ポリ−p−フェニレン、ポリ−p−フェニルビニリデン、ナフタレンジカルボン酸二無水物、ナフタレン−ビスイミド、ポリナフタレン、フタロシアニン、例えば、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、または亜鉛フタロシアニンおよびこれらの置換された誘導体、他の融合環構造、例えば、置換ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン、トリエチルシリルエチニルアントラジチオフェンなどが挙げられる。
【0041】
特定の実施形態では、第2の半導体はポリチオフェンである。さらに特定的な実施形態では、第2の半導体は、上述のような式(I)または式(II)の構造を有するポリチオフェンである。第2のトランジスタの第2の半導体層80中のポリチオフェンは、第1のトランジスタの第1の半導体層50中のポリチオフェンと同じポリチオフェンであってもよく、異なるポリチオフェンであってもよい。第2の半導体層80は、カーボンナノチューブを含まないか、または実質的に含まない。ある実施形態では、第1の半導体層50と第2の半導体層80のポリチオフェンは、両方とも、式(II)で示されるPQT−12である。
【0042】
第1の半導体とカーボンナノチューブとを含む第1の半導体層は、一般的に、溶液析出法によって作られる。この観点で、第1の半導体(例えばポリチオフェン)にカーボンナノチューブを良好に分散させるには、2工程プロセスを使用しなければならないことがわかっている。一般的に言うと、カーボンナノチューブと、第1の量の第1の半導体とを液体に分散し、第1の分散物を作成する。次いで、第2の量の第1の半導体を第1の分散物に加え、添加された分散物を作成する。次いで、第2の量の第1の半導体を、上の添加された分散物に溶解または分散させ、最終的な分散物を作成する。
【0043】
言いかえると、カーボンナノチューブを、溶媒中、第1の量のポリチオフェンに分散させ、第1の分散物を作成する。カーボンナノチューブは、ポリチオフェンによって安定化する。次いで、第2の量のポリチオフェンを第1の分散物に加え、添加された分散物を作成する。次いで、第2の量のポリチオフェンを、この添加された分散物に分散させ、最終的な分散物を作成する。複数の実施形態では、ポリチオフェンは、液体中でポリマー凝集物を形成することができる。
【0044】
第1の半導体(ポリマーである)とカーボンナノチューブの混合物を、通常は第1の高温まで加熱し、第1の半導体を少なくとも部分的に溶解させる。次いで、この温かい混合物を、第1の低温まで下げ、プローブで超音波処理して第1の分散物を作成する。超音波処理は、第1の低温まで温度を下げる前、下げている間、または下げた後に行ってもよい。温度を下げている間に、第1の半導体ポリマーは、第1の低温でポリマー凝集物を形成し、カーボンナノチューブは、第1の半導体ポリマーおよびポリマー凝集物によって分散し、安定化する。カーボンナノチューブをポリチオフェンにきわめて高い添加量で十分に分散させることができる(すなわち、1:1に近い重量比)。次いで、第2の量の第1の半導体を第1の分散物に加え、添加された分散物を作成する。添加された分散物を、場合により、第2の高温まで加熱し、この第2の高温で、第2の量の第1の半導体は、液体に少なくとも部分的に溶解する。添加された分散物を、第2の低温(第2の高温よりも低い)まで下げ、超音波浴で処理し、最終的な分散物を作成する。ある実施形態では、第1の高温は、第2の高温と同じである。他の実施形態では、第1の高温は、第2の高温よりも、5〜約100℃高く、10〜約50℃高い場合を含む。ある実施形態では、第1の低温は、室温よりも低く、第2の低温は、室温である。他の実施形態では、第1の低温も第2の低温も、室温よりも低い。第2の低温まで下げた後、組成物を室温にする。
【0045】
複数の実施形態では、第1の分散物を、プローブによる超音波処理を用いて作成し、最終的な分散物を、浴による超音波処理を用いて作成する。用語「プローブによる超音波処理」は、プローブを、分散物を含む容器に挿入する超音波処理を指す。用語「浴による超音波処理」は、分散物を含む容器を浴に入れ、次いで、浴を超音波処理するような超音波処理を指す。プローブによる超音波処理は、浴による超音波処理と比べて、かなり大きなエネルギー/力を与える。言いかえると、2段階プロセスの場合、第1の分散工程の間は、高い力または高いエネルギーを用い、一方、第2の分散工程の間は、かなり低いエネルギー/力を用いる。
【0046】
当該技術分野で既知のプロセスを用い、電子機器中に2個の半導体層を作成してもよい。複数の実施形態では、半導体層は、液相析出技術を用いて作成される。例示的な液相析出技術としては、スピンコーティング、ブレードコーティング、ロッドコーティング、浸漬コーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、スタンピング、ステンシル印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などが挙げられる。または、半導体層を蒸着してもよい。
【0047】
各半導体層は、深さが約5ナノメートルから約1000ナノメートルであってもよい(約20〜約100ナノメートルを含む)。特定の構造(例えば、図1に示される構造)において、半導体層は、ソース電極とドレイン電極を完全に覆っている。
【0048】
薄膜トランジスタは、一般的に、半導体層に加え、基板と、任意要素のゲート電極と、ソース電極と、ドレイン電極と、誘電層とを備えている。上にすでに記載したように、本開示の電子機器中の2個のトランジスタは、基材と誘電層を共有していてもよい。
【0049】
基板は、限定されないが、ケイ素、ガラス板、プラスチック膜またはシートを含む材料で構成されていてもよい。構造的に可とう性の機器では、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドのシートなどのようなプラスチック基板が好ましい場合がある。基板の厚みは、約10マイクロメートルから10ミリメートルを超えていてもよく、例示的な厚みは、特に、可とう性プラスチック基板の場合には、約50〜約100マイクロメートル、ガラスまたはケイ素のような剛性基板の場合には、約0.5〜約10ミリメートルであってもよい。
【0050】
誘電層は、一般的に、無機材料の膜、有機材料の膜、または有機−無機コンポジットの膜であってもよい。誘電層として適する無機材料の例としては、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムジルコニウムなどが挙げられる。適切な有機ポリマーの例としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(ビニルフェノール)、ポリイミド、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、エポキシ樹脂などが挙げられる。誘電層の厚みは、使用される材料の誘電率によって変わり、例えば、約10ナノメートル〜約500ナノメートルであってもよい。誘電層は、導電率が、例えば、約10−12ジーメンス/センチメートル(S/cm)未満であってもよい。誘電層は、ゲート電極を作成するときに記載したプロセスを含む、当該技術分野で知られる従来のプロセスによって作られる。
【0051】
本開示において、誘電層は、表面改質剤で表面が改質されていてもよい。上の2個の半導体層は、この改質された誘電層表面に直接接していてもよい。完全に接触していてもよいし、部分的に接触していてもよい。この表面改質は、誘電層と半導体層との間に界面層を作成すると考えることもできる。特定の実施形態では、誘電層の表面は、式(A)の有機シラン薬剤で改質されており、
【化5】

式中、Rは、炭素原子を1〜約20個含む炭化水素またはフルオロカーボンであり、R’’は、ハロゲンまたはアルコキシであり、mは、1〜4の整数である。例示的な有機シランとしては、オクチルトリクロロシラン(OTS−8)(R=オクチル、R’’=クロロ、m=1)、ドデシルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、メチルトリメトキシルシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジクロロシラン、(3−フェニルプロピル)ジメチルクロロシラン、(3−フェニルプロピル)メチルジクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェネチルトリクロロシランなどが挙げられる。特定の実施形態では、Rは、フェニル基を含む。他の表面改質剤(例えば、ポリスチレン、ポリシロキサン、ポリシルセスキオキサン)も同様に使用することができる。
【0052】
ゲート電極は、導電性材料で構成されている。ゲート電極は、金属の薄膜、導電性ポリマー膜、導電性インクまたはペーストから作られる導電性膜、または基板自体(例えば、重金属がドープされたケイ素)であってもよい。ゲート電極の材料の例としては、限定されないが、アルミニウム、金、銀、クロム、インジウムスズ酸化物、導電性ポリマー、例えば、ポリスチレンスルホネートがドープされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PSS−PEDOT)、カーボンブラック/グラファイトで構成される導電性インク/ペーストが挙げられる。ゲート電極は、減圧エバポレーション、金属または導電性金属酸化物のスパッタリング、従来のリソグラフィーおよびエッチング、化学真空蒸着、スピンコーティング、鋳造または印刷、または他の析出プロセスによって調製されてもよい。ゲート電極の厚みは、例えば、金属膜の場合には、約10〜約200ナノメートル、導電性ポリマーの場合には、約1〜約10マイクロメートルの範囲である。ソース電極およびドレイン電極として用いるのに適した、典型的な材料としては、アルミニウム、金、銀、クロム、亜鉛、インジウム、導電性金属酸化物、例えば、亜鉛−ガリウム酸化物、インジウムスズ酸化物、インジウム−アンチモン酸化物、導電性ポリマーおよび導電性インクのようなゲート電極の材料が挙げられる。ソース電極およびドレイン電極の典型的な厚みは、例えば、約40ナノメートル〜約1マイクロメートルであり、より特定的な厚みは、約100〜約400ナノメートルである。
【0053】
ソース電極およびドレイン電極として用いるのに適した、典型的な材料としては、金、銀、ニッケル、アルミニウム、白金、導電性ポリマー、導電性インクのようなゲート電極の材料が挙げられる。特定の実施形態では、電極材料は、半導体に対する接触抵抗が低い。典型的な厚みは、例えば、約40ナノメートル〜約1マイクロメートルであり、より特定的な厚みは、約100〜約400ナノメートルである。本開示のOTFT機器は、半導体チャネルを含む。半導体チャネルの幅は、例えば、約5マイクロメートル〜約5ミリメートルであってもよく、特定的なチャネルの幅は、約100マイクロメートル〜約1ミリメートルである。半導体チャネルの長さは、例えば、約1マイクロメートル〜約1ミリメートルであってもよく、より特定的なチャネルの長さは、約5マイクロメートル〜約100マイクロメートルである。
【0054】
各ソース電極は、接地されており、適切なゲート電極に、例えば、約+10ボルト〜約−80ボルトの電圧がかけられる場合、半導体チャネルを通って移動する電荷キャリアを集めるために、例えば、約0ボルト〜約80ボルトのバイアス電圧がドレイン電極にかけられる。電極は、当該技術分野で既知の従来のプロセスを用いて作成されるか、または析出されてもよい。
【0055】
所望な場合、電気的性質を破壊し得る環境条件(例えば、光、酸素、水分など)から守るために、防御層をTFTの上部に堆積させてもよい。このような防御層は、当該技術分野で知られており、単にポリマーからなるものであってもよい。
【0056】
OTFTの種々の要素を、任意の順序で基板の上に堆積させてもよい。しかし、一般的に、ゲート電極および半導体層は、両方ともゲート誘電層に接していなければならない。それに加え、ソース電極およびドレイン電極は、両方とも半導体層に接していなければならない。句「任意の順序で」は、順次作成すること、同時に作成することを含む。例えば、ソース電極およびドレイン電極を同時に作成してもよく、順次作成してもよい。用語基板「の上(on)」または基板「の上(upon)」は、底部または支持板であるような基板に対し、基板の上部にある層および要素である種々の層および要素を指す。言い換えると、すべての要素は、すべてが基板と直接接していない場合であっても、基板の上にある。例えば、誘電層および半導体層は、一方の層が他の層よりも基板に近い場合であっても、両方とも基板の上にある。得られたTFTは、良好な移動度を有し、良好な電流オン/オフ比を有する。
【0057】
一般的に言うと、電子機器のトランジスタを化学センサとして使用する。電子機器のトランジスタ(または各トランジスタ)の電荷キャリア移動度を、周囲の空気にさらされた状態で測定し、この測定値をベースラインとして使用する。次いで、この電子機器を、特定の化学物質を含む蒸気の流れにさらし、電荷キャリア移動度の変化(絶対的変化、相対変化、または両者)を用い、特定の化学化合物を特定することができる。特定のトランジスタは、一般的に、異なる化学物質にさらされると、異なる応答をする。この応答により、化学化合物を大まかに特定する(例えば、特定の分類に含まれる、または特定の化学構造を含む)か、または、具体的に特定することができる。この特定は、電荷キャリア移動度の変化が、化合物の分類または具体的な化学化合物に関連するというリファレンステーブルと比較することによって行うことができる。
【0058】
電子機器に第1のトランジスタと第2のトランジスタを用いる場合、各トランジスタは、蒸気の流れに含まれる所与の化学化合物に対し、独立して応答する。2種類(またはそれ以上の)トランジスタ間の応答の差によって、化学化合物の存在または属性を独立して確認する。特定的には、特定可能な爆発性化合物、または爆発性化合物の存在を示唆し得る化合物が想定されている。一般的に、化学化合物が存在する状態で、第1のトランジスタおよび第2のトランジスタから得られる電荷キャリア移動度を試験し、化合物を特定する。
【0059】
さらに具体的には、第1のトランジスタと第2のトランジスタとを備える電子機器が、蒸気の流れにさらされる可能性があるカートリッジの形態で作られることが想定されている。次いで、カートリッジを手持ち式のスキャナ/リーダと組み合わせて使用し、蒸気の流れに関するデータを読み取り、処理し、解釈するか、または得て、また、適切な表示を作成し、データを保存などする。次いで、所望な場合、カートリッジを処分してもよい。
【0060】
本明細書に開示した爆発性化合物を検出する方法には、電子機器を入れる方法がある。この電子機器は、第1のトランジスタを少なくとも備えており、この第1のトランジスタは、第1の半導体層を備えている。電子機器は、蒸気の流れにさらされる。次いで、電子機器の応答を試験し、蒸気の流れに含まれる化合物の存在を決定し、このことは、爆発性化合物の存在を示している。電子機器は、ここでは、最初に蒸気の流れにさらされ、次いで、スキャナ/リーダに挿入されるチップであってもよい。または、チップをスキャナ/リーダに挿入し、次いで、蒸気の流れにさらされる。このチップを使用し、蒸気の流れに特定の化合物が存在するかしないかを決定し、このことによって、爆発性化合物の存在を示すことができる。例えば、チップで検出される、蒸気の流れに含まれる特定の化合物は、爆発性化合物自体、分解フラグメント、爆発性化合物の製造に用いられる溶媒、または、ある種の他の指示薬であってもよい。1個のトランジスタを用い、1種類の具体的な化合物だけではなく、複数の異なる化学化合物を検出することができることを注記しておくべきである。例えば、電荷キャリア移動度の変化が10%であることは、化合物Aが存在することを示し、一方、変化が20%であることは、化合物Bが存在することを示す。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
単層カーボンナノチューブ(CNT)を、1,2−ジクロロベンゼンに0.1重量%の濃度になるまで加えた。この混合物を出力50%で20秒間、プローブによって超音波処理した。PQT−12の濃度が0.1重量%になるまで、このCNT分散物にPQT−12粉末を加えた。CNTとPQT−12との重量比は1:2であった。この混合物を加温し、PQT−12を溶解させ、次いで、プローブによって20秒間超音波処理した。PQTナノ粒子中のCNT分散物が得られ、この分散物は非常に安定であった。このPQT/CNT分散物を3,500rpmで30分間遠心分離処理し、凝集物を除去した。
【0062】
1,2−ジクロロベンゼン中に0.5重量%のPQT−12を含む、第2のPQTを含む分散物を作成した。PQT/CNT分散物と、PQTを含む分散物とを適切な比率で混合し、PQTに対するCNTの重量比が5%である最終混合物を得た。次いで、この混合物を浴によって超音波処理し、安定な組成物を作成した。
【0063】
(実施例2)
実施例1のPQT−12/CNT組成物を用い、ケイ素ウェハ基板上にTFTを製造し、半導体層を作成した。N−ドープされたケイ素は、ゲートとして機能し、200ナノメートルの酸化ケイ素層は、ゲート誘電層として機能した。酸化ケイ素を、オクチルトリクロロシランで改質した。PQT−12/CNT組成物をウェハ上に1,000〜2,000rpmでスピンコーティングし、半導体層を作成した。この半導体層を80℃で乾燥し、減圧乾燥器中、140℃でアニーリングした。金のソース電極およびドレイン電極を、シャドウマスクによって半導体層の上にエバポレーションした。TFTは、PQT−12とカーボンナノチューブとから作られた半導体層を備えており、以下、これを「5%CNT」と称する。
【0064】
(実施例3)
0.3重量% PQT−12の1,2−ジクロロベンゼン分散物を用い、ケイ素ウェハ基板上にTFTを製造し、半導体層を作成した。N−ドープされたケイ素は、ゲートとして機能し、20ナノメートルの酸化ケイ素層は、ゲート誘電層として機能した。酸化ケイ素を、オクチルトリクロロシランで改質した。PQT−12組成物をウェハ上に1,000〜2,000rpmでスピンコーティングし、半導体層を作成した。この半導体層を80℃で乾燥し、減圧乾燥器中、140℃でアニーリングした。金のソース電極およびドレイン電極を、シャドウマスクによって半導体層の上にエバポレーションした。これらのTFTは、PQT−12から作られた半導体層を備えており、半導体層には、カーボンナノチューブは含まれていなかった。以下、これを「PQT」と称する。
【0065】
(試験および結果)
実施例2および3のTFTのI−V曲線を、Keithley SCS−4200システムを用いて最初に特性決定し、電荷キャリア移動度を算出した。
【0066】
新しい機器のI−V曲線を測定した後、実施例2および3のTFTを、室温で20分間、種々の有機溶媒にさらした。次いで、この機器を同じ測定条件を用いて再び測定し、電荷キャリア移動度を決定した。応答の変化を、コントロールと比較した割合として決定した。各TFTおよび各有機溶媒について、電荷キャリア移動度の変化率を示す棒グラフを図4として提示する。
【0067】
実施例3のPQTトランジスタ(半導体層にPQT−12のみを含む)は、芳香族溶媒、ニトロベンゼン、ジクロロベンゼン、m−キシレン、トルエンに対し、良好な応答性を示した。しかし、このPQTトランジスタは、アルコール系溶媒、例えば、n−ブタノール、イソプロピルアルコール、エタノールに対し、ほとんど応答を示さないか、まったく応答を示さなかった。クロロホルムに対する応答はほとんど無視でき、一方、ジクロロメタンに対する応答は、非常に小さかった。
【0068】
実施例2の5%CNTトランジスタ(半導体層にPQT−12とカーボンナノチューブを含む)は、一般的に、試験した全溶媒に対し、良好な応答性を示し、最も変化が小さいのはジクロロメタンの場合であった。また、この5%CNTトランジスタは、実施例3のトランジスタと比較して、n−ブタノールに対し、高い応答を示した。
【0069】
以下の表1は、各溶媒について、各トランジスタの応答の変化率%と、PQT/5%CNTの比を示している。
【表1】

【0070】
両トランジスタのベースライン測定から、トランジスタは、溶媒にさらされなければ安定であることが示された。実施例3のPQTトランジスタの応答率%が、m−キシレンに対する応答率%とトルエンに対する応答率%が同じであったことを注記しておくべきである。実施例2の5%CNTトランジスタの場合、エタノールに対する応答率%とジクロロメタンに対する応答率%は、ほぼ同じであった。しかし、この2種類のトランジスタの応答率を、それぞれの比率で組み合わせ、5%CNTトランジスタを用いた応答率%の違いによって、m−キシレンとトルエンを識別することができた。同様に、PQTトランジスタを用いた応答率%の違いによって、エタノールとジクロロメタンを識別することができた。2種類のトランジスタを用いると、溶媒の存在を独立して確認し、溶媒の属性を独立して確認するのに役立つ。
【0071】
両トランジスタは、ニトロベンゼン溶媒に対し、良好な応答率を示した。この溶媒は、ニトロ芳香族化合物の代表例であり、ニトロ芳香族化合物としては、TNT、RDX、PETNのような爆発性化合物が含まれる。このことは、本開示の電子機器が、このような爆発性化合物の検出に有用であると思われ、使い捨て可能なTFTセンサセンサとして有用であることを意味している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学化合物の属性を決定するシステムであって、
第1の化学物質を感知する薄膜トランジスタを少なくとも備え、この第1の化学物質を感知するトランジスタが、異なる化学化合物にさらされたとき、電荷キャリア移動度に変化が生じる、電子機器と、
前記電子機器と組み合わせて用い、電荷キャリア移動度の変化に基づいて、前記化学化合物の属性を決定する分析器とを備える、システム。
【請求項2】
化学化合物の属性を決定する電子機器であって、このデバイスが、第1のトランジスタと第2のトランジスタとを備え、
第1のトランジスタが、第1のゲート電極と、第1のソース電極と、第1のドレイン電極と、第1の半導体層とを備え、第1の半導体層が、第1の半導体ポリチオフェンとカーボンナノチューブとを含み、
第2のトランジスタが、第2のゲート電極と、第2のソース電極と、第2のドレイン電極と、第2の半導体層とを備え、第2の半導体層が、第2の半導体ポリチオフェンを含み、カーボンナノチューブを含まず、
第1のトランジスタと第2のトランジスタは、化学化合物にさらされると、化学化合物の指標である電荷キャリア移動度に変化が生じる、電子機器。
【請求項3】
化学化合物を検出する方法であって、
第1のトランジスタを少なくとも備え、この第1のトランジスタが、第1の半導体層を備える電子機器を準備することと、
前記電子機器が蒸気の流れにさらされ、前記第1のトランジスタの電荷キャリア移動度に変化を生じることと、
分析器を用いて前記電子機器の応答を調べ、前記蒸気の流れに特定の化合物が存在することを決定し、そのことが化学化合物の存在を示す、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−79943(P2013−79943A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−200173(P2012−200173)
【出願日】平成24年9月12日(2012.9.12)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】