説明

化粧品もしくは医薬部外品用または飲食物用防腐剤

【課題】化粧品もしくは医薬部外品および飲食物に有用な防腐剤を提供すること。
【解決手段】アポラクトフェリンは、抗菌性を示し、そして人体に安全でかつ環境にやさしい物質であり、化粧品もしくは医薬部外品用または飲食物用の防腐剤として有用である。本発明の化粧品もしくは医薬部外品、食品、清涼飲料水、またはアルコール飲料は、アポラクトフェリンを防腐剤として含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品もしくは医薬部外品および飲食物に有用な防腐剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧品もしくは医薬部外品および飲食物において、防腐機能を有する成分として、安息香酸、デヒドロ酢酸などの有機酸類;フェニルエタノール、フェノキシイソプロピルアルコールなどのアルコール類;ヒドロキシ安息香酸エステル類、クロルクレゾールなどを含むフェノール類;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどの第四級アンモニウム塩類;あるいはこれらに分類されないクロルヘキシジン、プロピレングリコールなどの1種または2種以上が添加、配合もしくは含有されてきた。しかしながら、現在では、これらの成分の安全性が社会問題となっている。
【0003】
ローズ油、ゼラニウム油、ラベンダー油、レモン油などの抗菌性を示す天然香料も、防腐機能を有する成分として着目されている。しかし、これらの天然香料のみで防腐機能を付与させることは、製品の賦香率の減少に伴い、困難となっている。
【0004】
微生物が繁殖しやすい成分(例えば、グリセリン、アミノ酸、ヒアルロン酸、コラーゲン、プラセンタエキス、ガム質、ビタミン類など)や動植物由来の成分(例えば、油脂や蝋類、界面活性剤など)を配合することなく、化粧品もしくは医薬部外品または飲食物を製造する方法も存在する。しかし、このようにして製造される化粧品もしくは医薬部外品または飲食物では、やはり腐敗などが生じるおそれがあり、そして製品において期待される機能性が低下し得る。
【0005】
ラクトフェリンは、多くの哺乳動物の体液中、例えば、乳汁中に存在する。特に、母乳の初乳には、5〜10g/L含まれ、含有されている全蛋白の30%〜70%を占めることが知られている。ラクトフェリンは、乳児の健康維持および発育に重要な蛋白であると共に、近年、抗菌作用および抗バクテリア作用を有することが明らかになり、食品工業の他、様々な分野で利用されている。
【0006】
ラクトフェリンは、1分子中に2個の鉄を結合している、分子量約80,000の鉄結合性の糖蛋白であり、pH2のような酸性下で鉄を遊離し、アポラクトフェリンとなる。ラクトフェリンの静菌(制菌)作用に関しては、以下のように考えられる。アポラクトフェリンのキレート作用によって、微生物の生育に必要とする鉄分が奪われ、その増殖が制限される。このため、生育の際に鉄分を強く要求する微生物が、ラクトフェリンの静菌(制菌)作用を受ける。このようなラクトフェリンの静菌(制菌)作用は、特に腸内環境において考察されている。このように、ラクトフェリンの静菌(制菌)作用に関してアポラクトフェリンのキレート作用が注目される。
【0007】
ラクトフェリンはまた、ヒト涙液中に多量に存在することも知られている。ラクトフェリンを防腐剤として含有する眼疾患治療用点眼剤および眼軟膏が、特許文献1に記載されている。特許文献2には、緑内障および眼圧を治療するための眼科用製剤に、ラクトフェリンなどの抗菌ペプチドを防腐剤として含有することが記載されている。
【特許文献1】特開平9−30966号公報
【特許文献2】特表2005−526092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、化粧品もしくは医薬部外品および飲食物に有用な防腐剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アポラクトフェリンからなる化粧品もしくは医薬部外品用防腐剤を提供する。
【0010】
さらに本発明は、上記化粧品もしくは医薬部外品用防腐剤を含有する化粧品もしくは医薬部外品を提供する。
【0011】
1つの実施態様では、上記化粧品もしくは医薬部外品は、防腐剤の濃度が0.05質量%〜10.0質量%である。
【0012】
別の実施態様では、上記化粧品もしくは医薬部外品は、防腐剤の濃度が0.5〜1.0質量%である。
【0013】
本発明はまた、アポラクトフェリンからなる飲食物用防腐剤を提供する。
【0014】
さらに本発明は、上記飲食物用防腐剤を含有する食品を提供する。
【0015】
1つの実施態様では、上記食品は、防腐剤の濃度が0.05質量%〜10.0質量%である。
【0016】
さらに本発明は、上記飲食物用防腐剤を含有する清涼飲料水を提供する。
【0017】
1つの実施態様では、上記清涼飲料水は、防腐剤の濃度が0.05質量%〜5.0質量%である。
【0018】
さらに本発明は、上記飲食物用防腐剤を含有するアルコール飲料を提供する。
【0019】
1つの実施態様では、上記アルコール飲料は、防腐剤の濃度が0.01質量%〜5.0質量%である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アポラクトフェリンを、化粧品もしくは医薬部外品または飲食物中に防腐剤として使用し得る。アポラクトフェリンを含有する化粧品もしくは医薬部外品または飲食物は、従来の防腐剤を含有する製品よりも安全性の問題が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(アポラクトフェリンの調製)
本発明の防腐剤は、アポラクトフェリンからなる。本発明で使用するアポラクトフェリンの由来は、特に問わない。
【0022】
アポラクトフェリンは、通常、ラクトフェリンを含有する水溶液のpHを、酸性側(例えば、0.5〜3.0)に調節して、ラクトフェリン分子が有する2価の金属イオン(例えば、鉄イオン)を解離させることにより、製造され得る。アポラクトフェリンは、その分子中の金属イオン(例えば、鉄イオン)結合度が5%以下、好ましくは3%以下である。金属イオンの結合度は、分光分析により鉄結合ラクトフェリンの吸光度を測定すること、あるいは原子吸光分析やICP分光分析により直接、ラクトフェリン中の鉄含量を測定することによって決定され得る。
【0023】
アポラクトフェリンの製造の原料となるラクトフェリンは、乳汁(例えば、牛乳)などの哺乳動物の分泌液または脱脂乳、ホエイ(乳清)などの乳汁加工物からの分離精製(例えば、カチオン交換樹脂に吸着させた後高濃度塩類溶液で脱離させる方法、電気泳動による分離法、アフィニティークロマトグラフィーによる分離法など)を利用することによって得られたものであっても、または遺伝子組換えにより得られる種々の細胞(微生物、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞などを含む)、植物、動物などにより産生されたものであってもよい。ラクトフェリンは、医薬品、試薬などとして市販されているものであってもよい。ラクトフェリンは、好ましくは、天然物に由来する。好ましくは、乳清由来のものである。牛乳または脱脂乳から乳製品(例えば、チーズ、カゼインなど)を製造する際に発生する副産物として得られるホエイは、ラクトフェリンの供給源として好適に用いられ得る。
【0024】
ラクトフェリンを含有する水溶液のpH調整剤として、例えば、塩酸、リン酸、フタル酸、グリシンなどが用いられ得る。アポラクトフェリンを製造するために、pH調整剤は、ラクトフェリンを含有する水溶液に、そのpHを上記の値に調節する量で添加する。
【0025】
アポラクトフェリンは、例えば、ラクトフェリンを限外濾過する際に酸(例えば、塩酸、リン酸、硝酸、リンゴ酸、またはクエン酸)を添加し、ラクトフェリンに結合している金属イオン(例えば、鉄イオン)を解離させることによって、好適に製造され得る。あるいは、アポラクトフェリンは、例えば、カチオン交換膜とアニオン交換膜とが張り合わさった構造を有する複合イオン交換膜であるバイポーラ膜とカチオン交換膜とが交互に配列されて、これらの膜により仕切られた酸室と塩基室とを有する電気透析装置を使用することによっても、好適に製造され得る。アポラクトフェリンの製造について以下の実施例1に詳述するが、アポラクトフェリンの製造法はこれに限定されない。
【0026】
ラクトフェリンからアポラクトフェリンを製造する際、アポラクトフェリンは水溶液の形態で得られ得る。アポラクトフェリンを防腐剤として使用する場合、水溶液の形態で用いても、あるいは溶媒を除去して粉末化した形態で用いてもよい。
【0027】
また、アポラクトフェリンは、医薬品などとして市販されているものであってもよい。しかし、本発明の目的のためには、市販品においては、他の成分を含まず、アポラクトフェリンを単独で含むように製造されているものを使用することが好ましい。医療用に通常使用される純度にまで精製されたものが、好適に用いられ得る。
【0028】
(アポラクトフェリンを含有する化粧品もしくは医薬部外品)
アポラクトフェリンは、化粧品もしくは医薬部外品中に防腐剤として含有され得る。アポラクトフェリンは、以下の実施例に示すように、例えば、化粧水中で良好な抗菌作用を示し得る。
【0029】
本明細書における「化粧品」とは、皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、または身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変えるために、身体に塗擦、散布などにより適用する物をいう。化粧品は、その用途に応じて、基礎化粧品、メイクアップ用化粧品、頭髪用化粧品などに分類される。本明細書においては、「化粧品」とは、薬用化粧品のような、薬事法における定義では医薬部外品に分類されるものも含む。化粧品もしくは医薬部外品は、具体的に例示すれば、コールドクリーム、バニシングクリーム、中油性である混合型クリーム、マッサージクリーム、エモリエントクリーム、ハイゼニッククリーム、目元および手指用クリーム、リップクリーム、シェービングクリーム、アフターシェービングクリームなどのクリーム類;保湿化粧水、収斂性化粧水、酸性化粧水、アルカリ性化粧水、カーマインローション、アフターシェーブローションなどの化粧水類;ポリマー系を含む乳液などの乳液類;美容液および美容オイル;ボディ用スクラブ;パックおよび剥離性パック;下地クリーム、バニシングタイプファンデーション、おしろい、水おしろい、練りおしろい、スティック型を含む油性ファンデーション、水中油型または油中水型である乳液タイプのクリームファンデーション、パウダリーファンデーション、リキッドファンデーション、口紅、頬紅、ブラッシングパウダー、アイライナー、アイシャドウ、マスカラ、眉墨、機能性口紅、リップライナーペンシル、リップグロス、リップクリーム、ネイルエナメル、ベースコート、トップコート、除光液、ネイルクリーム、キューティクルリムーバーなどを含むメイクアップ用製品;シャンプー、コンディショニングシャンプー、リンス、ヘアトリートメント、リンス一体型シャンプー、育毛剤、養毛剤、ヘアムースおよびヘアフォーム、ヘアスプレー、ヘアミスト、ヘアジェル、セットローション、ヘアリキッド、スカルプトリートメント、ヘアクリーム、ヘアオイル、ヘアコーティングローション、ヘアグロススプレー、ヘアブロウ、ポマード、チック、ヘアワックス、染毛剤、ヘアブリーチなどを含む頭髪用製品類;ならびに浴用および洗顔石鹸、ボディ洗浄料、浴用剤、バブルバス、消臭剤、制汗剤、スリミング用、フレグランス用、香水、パヒューム、オードトワレ、オーデコロンなどを含むボディケア用製品類であるが、これらに限定されない。
【0030】
アポラクトフェリン以外に、本発明の化粧品もしくは医薬部外品に含まれ得る成分としては、以下が挙げられる:油脂類、蝋類、炭化水素類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、シリコーン類など含む油性原料;精製水、アルコール類などを含む水性原料;多価アルコール類、糖類、生体高分子類、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、アミノ酸類、尿素、乳酸ナトリウムを含む天然保湿用因子;動植物抽出物、乳酸菌培養物、カゼイン、酵母エキス、ローヤルゼリー、シルク抽出物、海藻エキス、アルギン酸ナトリウムなどを含む天然系界面活性剤;カルボキシルメチルセルロースなどを含む半合成系界面活性剤;メタアクリル酸共重合体などを含む合成系界面活性剤;カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、第四級アンモニウム塩、トリメチルグリシン、アミンオキシド、ポリオキシエチレンなどを含む親水基種類フッ素系界面活性剤;ポリエーテル変性などを含む非イオン系、スルホン酸変性などを含むアニオン系、アンモニウム変性などを含むカチオン系、スルホベタイン変性などを含む両性系のシリコーン系界面活性剤;サーファクチン、リポペプチドなどを含むポリペプチド誘導体系界面活性剤;糖脂質、リン脂質、胆汁酸などの動植物および微生物系天然界面活性剤;ソホロリピドなどを含む微生物産生系天然界面活性剤;賦形および展延を目的とした粉体原料;紫外線防御、角層剥離および溶解、鎮痒、消臭、栄養補給、制汗、美白、細胞賦活、血行促進、消炎、収斂、皮脂抑制を目的とした薬剤用原料;抗脂漏剤;およびホルモン剤。
【0031】
本発明の防腐剤であるアポラクトフェリンは、上記の成分の効能を損なわないように、化粧品もしくは医薬部外品に添加、配合または含有され得る。アポラクトフェリンの含有量は、化粧品もしくは医薬部外品の種類や成分に依存するが、好ましくは0.05〜10.0質量%、より好ましくは0.5〜7.0質量%、さらに好ましくは0.5〜1.0質量%であり得る。この含有量は、クリーム状、液状、乳液状、ムース状、固形状などの形態または用途(基礎用、洗浄用など)による違いは大きくない。
【0032】
アポラクトフェリンは、化粧品もしくは医薬部外品に、当業者が通常用いる手順によって添加、配合または含有され得る。例えば、水またはアルコールなどの溶媒に予め溶解後、他の配合成分と混合することによって、または粉末のまま他の配合成分と攪拌混合することによって、化粧品もしくは医薬部外品中に添加、配合または含有させ得る。
【0033】
本発明の化粧品もしくは医薬部外品は、例えば、プラスチック、ガラスなどの容器(例えば、瓶、アルミパウチなど)に入れられて密封され得る。本発明の化粧品もしくは医薬部外品の保存および運搬は、意図される製品で通常行われているのと同様に行われ得る。本発明の化粧品もしくは医薬部外品は、未使用状態での保存に加え、日常での使用における安定性にも優れ得る。特に、日常的な使用下での雑菌汚染を防ぎ得る。
【0034】
(アポラクトフェリンを含有する食品、清涼飲料水、またはアルコール飲料)
飲食物においても、アポラクトフェリンの抗菌作用が利用され得る。アポラクトフェリンは、食品、清涼飲料水、またはアルコール飲料中に防腐剤として含有され得る。
【0035】
本明細書における「食品」とは、食べることを想定して作られたもの全般をいう。特に、日常生活において保存され得る(例えば、購入後未開封状態での保存または開封後の保存)食品が含まれる。具体的に例示すれば、漬物類;缶詰類;パウチ入り食品類;乾燥食品類;加熱食品類;冷凍食品類;チルド食品類;凍結乾燥食品類;パン類、粉末穀類、粉砕穀類;調味料類;肉および魚介類、野菜類の全部または一部を含む練製品類、ハム類、燻製食品、調味食品類、調理済み食品類;菓子類;生食用菓子;プリン、マーガリン、バター、チーズなどを含む乳製品類;寒天;麺類;即席味噌汁;ペット用食品類;家畜用食品類;栄養補助を目的とした食品などであるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明の防腐剤であるアポラクトフェリンの含有量は、食品の種類や成分に依存するが、好ましくは0.05〜10.0質量%、より好ましくは0.5〜2.0質量%、さらに好ましくは0.5〜1.0質量%であり得る。
【0037】
アポラクトフェリンは、例えば上記の種類の食品の製造の過程で添加、配合または含有され得る。アポラクトフェリンは水溶性であるので、粉末、あるいは水溶液の形態で、あるいはエタノールなどの食品製造に用いられる溶媒に溶解して、食品に添加、配合または含有され得る。
【0038】
本明細書における「清涼飲料水」とは、水以外のソフトドリンク(酒精分1容量%未満を含有する飲料)をいう。具体的には、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、乳飲料、コーヒー飲料などが挙げられるが、これらに限定されない。摂取時に希釈、融解などにより飲み物として摂取することを目的としたもの(例えば、濃厚ジュース、凍結ジュースなど)も、含まれる。通常、清涼飲料水には、牛乳は含まれない。
【0039】
本発明の防腐剤であるアポラクトフェリンの含有量は、清涼飲料水の種類や成分に依存するが、好ましくは0.05〜5.0質量%、より好ましくは0.2〜2.0質量%、さらに好ましくは0.5〜1.0質量%であり得る。
【0040】
アポラクトフェリンは、例えば、上記の種類の清涼飲料水の製造の過程で、添加、配合または含有され得る。アポラクトフェリンは水溶性であるので、粉末、あるいは水溶液の形態で、あるいはエタノールなどの清涼飲料水製造に用いられる溶媒に溶解して、清涼飲料水に添加、配合または含有され得る。
【0041】
本明細書における「アルコール飲料」とは、エチルアルコール(エタノール)が含まれた飲料であって、アルコール分を1容量%以上で含む飲料である。具体的には、発泡酒、蒸留酒、醸造酒、ビール類、リキュール類などが挙げられるが、これらに限定されない。酒の原料としては、ブドウ、リンゴ、サクランボ、ヤシの実などの果実;米、麦、トウモロコシなどの穀物;ジャガイモ、サツマイモなどの根菜類;およびサトウキビなどが挙げられるが、これらに限定されない。具体的な酒の種類としては、ワイン、ブランデー、シードル(アップルワイン)、カルバドス、清酒、焼酎(例えば、米焼酎、粕取焼酎)、紹興酒、泡盛、ビール、モルトウイスキー、バーボンウイスキー、グラッパ、マール、ラム、テキーラ(メスカル)、ジン、ウォッカなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本発明の防腐剤であるアポラクトフェリンの含有量は、アルコール飲料の種類や成分に依存するが、好ましくは0.01〜5.0質量%、より好ましくは0.2〜2.0質量%、さらに好ましくは0.5〜1.0質量%であり得る。
【0043】
アポラクトフェリンは、例えば、上記の種類のアルコール飲料の製造の過程で、添加、配合または含有され得る。アポラクトフェリンは水溶性であるので、粉末、あるいは水溶液の形態で、あるいはエタノールなどのアルコール飲料製造に用いられる溶媒に溶解して、アルコール飲料に添加、配合または含有され得る。
【0044】
本発明の防腐剤を食品、清涼飲料水、またはアルコール飲料に添加、配合または含有する場合、通常の食品、清涼飲料水、またはアルコール飲料に配合される成分を適宜任意に配合することができる。配合される成分としては、動物油(乳脂、牛脂など)、植物油(オリーブ油、カカオ油、ゴマ油、大豆油、トウモロコシ油、綿実油など)、甘味料(ショ糖、果糖、ブドウ糖、パラチノース、フラクトオリゴ糖、デキストリン、アスパルテーム、糖アルコールなど)、デンプン、増粘剤、ゲル化剤、糊料、食物繊維、旨味調味料、ビタミン類、食塩、食酢、醤油、香辛料、酵素、香料、着色料などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
本発明の食品、清涼飲料水、またはアルコール飲料は、意図される製品で通常行われているように、任意の容易に入れられる。例えば、袋詰めされ得る(好ましくは、密封)か、缶に入れられて密封され得るか、またはプラスチック、硝子などの瓶に入れられて密封され得る。本発明の食品、清涼飲料水、またはアルコール飲料の保存および運搬は、意図される製品で通常行われているのと同様に行われ得る。
【0046】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
(実施例1:アポラクトフェリンの調製)
アポラクトフェリンは、以下に記載のように、ラクトフェリンを限外濾過する際に酸を添加し、ラクトフェリンに結合している鉄を添加した酸と共に分離することにより調製した。限外濾過装置としては、旭化成ケミカルズ株式会社製のペンシル型モジュール用小型実験装置(PS−24001型)に、同社製のUFモジュールであるACP−0013(中空糸モジュール:膜内径0.8mm、有効膜面積170cm、膜素材:ポリアクリロニトリル、公称分画分子量:13,000)を組み込み、実験に供した。
【0048】
100mg/mLのラクトフェリン(和光純薬工業株式会社、特級;鉄を約30%含有)水溶液1000mLを室温中、操作開始圧力をモジュール出口圧で50KPaに設定して限外濾過し、容積が500mLになるまで濃縮・減容した。次いで、この限外濾過した溶液に0.05mol/Lのクエン酸水溶液を容積が1000mLになるまで添加し、限外濾過し、容積が500mLになるまで濃縮・減容した。再度、同じ操作を繰り返した。次いで、この限外濾過した溶液に0.05mol/Lのクエン酸水溶液を容積が1000mLになるまで添加し、限外濾過し、容積が250mLになるまで濃縮・減容した。得られた濃縮液を採取し、ラクトフェリンに結合している鉄量をICP分光分析装置(SPS1200AR;セイコーインスツル株式会社製)により470nmの吸光度で測定した。ラクトフェリンに結合している鉄量が3%以下であることを確認し、この濃縮液を、アポラクトフェリン水溶液として用いた。さらにエバポレータにより溶媒を除去し、アポラクトフェリン粉末を得た。
【0049】
(実施例2:化粧水の製造)
アポラクトフェリンを含有する化粧水の製造例を示す。
【0050】
水、アポラクトフェリン粉末(実施例1にて調製)、ブドウ発酵沈殿物、エタノール、ピロ亜硫酸ナトリウム、グルコシルヘスペリジン、およびヒアルロン酸ナトリウムを40〜60℃で混合溶解し、A相とした。一方、グリセリン、プロピレングリコール、PCAイソステアリン酸グリセレス−25、およびアルギン酸プロピレングリコールエステルを均一になるように40〜60℃で混合し、B相とした。次に、A相とB相とを常温にて混合攪拌し、化粧水を得た。
【0051】
化粧水の配合成分および配合率(質量%)を以下の表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
(比較例1:化粧水の製造)
アポラクトフェリン粉末をラクトフェリン粉末(和光純薬工業株式会社、特級;鉄を約30%含有)に代えたこと以外は、上記実施例2と同様にして化粧水を製造した。
【0054】
(実施例3:化粧水の抗菌性試験)
化粧水中でのアポラクトフェリンの抗菌性を調べるために、以下の2つの試験を行った。
【0055】
(3−1:マイクロプレート法による抗菌性試験)
この試験では、10CFU/mLの高濃度の細菌に対して、化粧水中のアポラクトフェリンが抗菌性を有するかを調べた。
【0056】
まず、高濃度の細菌に対する効果を検討するにあたり、実施例2で製造した化粧水(アポラクトフェリン含有化粧水)または比較例1で製造した化粧水(ラクトフェリン含有化粧水)に、アポラクトフェリンまたはラクトフェリンの濃度が8質量%、4質量%、2質量%、または1質量%となるように、実施例1で調製したアポラクトフェリン粉末またはラクトフェリン粉末(和光純薬工業株式会社、特級;鉄を約30%含有)を添加し、溶解して、各化粧水サンプルを得た。これらの化粧水サンプル50μLをそれぞれ、96ウェルプレートのウェルに入れ、次いで、各ウェルにSCDブイヨン培地(ニッスイ)100μLおよび10CFU/mLの細菌50μLを添加した。用いた細菌は、Staphylococcus epidermidis、Listeria innocua、Bacillus cereus、およびEscherichia coliであった。細菌繁殖のコントロールとして、アポラクトフェリンまたはラクトフェリンを含まない化粧水を用いた(アポラクトフェリンまたはラクトフェリン0質量%の化粧水サンプル)。35℃で24時間培養し、ウェル中の細菌の生育を、各細菌とも、595nmでの吸光度測定、あるいはアラマーブルーによる着色試験によって測定した。これらの測定結果では、化粧水サンプル自体が着色しているため、細菌の代わりに水を入れたウェルの値を差し引くことによって評価を行った。
【0057】
結果を図1に示す。図1中、左上のグラフは、Staphylococcus epidermidisの試験結果を示し、右上のグラフは、Listeria innocuaの試験結果を示し、左下のグラフは、Bacillus cereusの試験結果を示し、そして右下のグラフは、Escherichia coliの試験結果を示す。それぞれのグラフ中の黒丸はアポラクトフェリンの測定結果を示し、白丸はラクトフェリンの測定結果を示す。横軸は、化粧水中のアポラクトフェリンあるいはラクトフェリンの濃度(質量%)を表し、縦軸は、吸光度値を表す。この吸光度値は、細菌および培地を添加した化粧水サンプルウェルの吸光度から、細菌を含まない化粧水サンプルウェルの吸光度を差し引いた値である。吸光度値が低いほど細菌数が少ないことを示す。図1の各グラフ中、それぞれの記号で表した点は、3ウェルの測定値の平均の値を示す。いずれの細菌においても、ラクトフェリンの場合には、化粧水中のラクトフェリン濃度が増大しても、吸光度は顕著には低下しなかった。一方で、アポラクトフェリンの場合には、化粧水中のアポラクトフェリン濃度が増大するにつれて、吸光度値が低下した。このことより、アポラクトフェリンはラクトフェリンとは異なり、濃度依存的に、細菌数の減少をもたらすことが明らかとなった。
【0058】
8質量%のアポラクトフェリンが化粧水に含まれている場合、いずれの細菌においても、吸光度値はほぼ0となった。8質量%のアポラクトフェリンを含有する化粧水サンプルでは、このような高い濃度の細菌の増殖をほぼ完全に抑制し得ることが示された。
【0059】
1質量%のアポラクトフェリンを含む場合でも、吸光度値は低下していた。したがって、1質量%の濃度であっても化粧水中にアポラクトフェリンを含有することにより、抗菌作用がみられたことがわかる。
【0060】
(3−2:ディスク拡散法による抗菌性試験)
この抗菌性試験においても、上記3−1と同様の8質量%アポラクトフェリン含有化粧水を化粧水サンプルとして用いた。
【0061】
この試験では、Listeria innocuaを用い、10CFU/mLとなるように菌体濃度を調整した。テストディスク(濾紙)としては、ADVANTEC No.1濾紙(ADVANTEC社製)を約8mmの円形に切り、オートクレーブにかけて使用した。トリプトソーヤ寒天培地を入れたシャーレに細菌を接種した。細菌の接種のために、細菌液を、シャーレ中の寒天培地の全表面を覆うように均一に画線し、塗抹した。上記化粧水サンプルの約2滴分を滴下してディスクに浸み込ませ、乾燥させた。このディスクを上記培地上に載せ、35℃で40時間培養した。培養後、ディスク上の阻止円の形成を肉眼で観察した。
【0062】
培養40時間後に、ディスクの周囲に完全な阻止円の形成が見られた。このように、8質量%アポラクトフェリン化粧水は、細菌の発育および増殖をほぼ完全に抑制し得ることが示された。
【0063】
上記の2つの抗菌性試験から、8質量%アポラクトフェリン含有化粧水が、高い濃度の細菌の増殖をほぼ完全に抑制し得ることがわかる。しかしながら、これらの抗菌性試験では、測定を容易にするためにこのような高濃度の菌を用いたが、日常での使用下ではこれほど高濃度の菌が化粧水中に混入することはないと考えられる。むしろ、これらの抗菌性試験は、化粧水中にアポラクトフェリンが含有されることにより、該化粧水中に混入し得る細菌の発育および増殖を抑制し得ることを実証している。
【0064】
(実施例4:化粧クリームの製造)
アポラクトフェリンを含有する化粧クリームの製造例を示す。
【0065】
白色ワセリン、ホホバ油、ベヘニルアルコール、ペンタステアリン酸ポリグリセリル−10、ステアロイル乳酸ナトリウム、トコフェロール、ステアリルアルコール、スクワラン、モノステアリン酸グリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、およびジパルミチン酸アスコルビルを60〜80℃で溶解し、A相とした。一方、水、プロピレングリコール、プラセンタエキス、エタノール、ヒアルロン酸ナトリウム、グリセリン、およびアポラクトフェリン粉末(実施例1にて調製)を60〜80℃で混合溶解し、キサンタンガムを加える。そこにピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA−2Na、およびグルコシルヘスペリジンを加え、均一に溶解し、B相とした。次に、A相とB相とを50℃にて混合することにより乳化し、クリームを得た。
【0066】
化粧クリームの配合成分および配合率(質量%)を以下の表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
(実施例5:化粧乳液の製造)
アポラクトフェリンを含有する化粧乳液の製造例を示す。
【0069】
水、ブドウ発酵沈殿物、アポラクトフェリン粉末(実施例1にて調製)、グルコシルヘスペリジン、およびヒアルロン酸ナトリウムを50〜60℃で混合攪拌し、A相とした。一方、スクワラン、レシチン、ホホバ油、およびトコフェロールを、40℃で溶解混合し、B相とした。次に、40℃にて、A相とB相とを混合攪拌して乳化し、乳液を得た。
【0070】
化粧乳液の配合成分および配合率(質量%)を以下の表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
(実施例6:漬物の製造)
アポラクトフェリンを含有する漬物の製造例を示す。
【0073】
胡瓜および人参を厚めにスライスして、水で醤油および味醂を薄めた溶液に浸漬させる。次に、アポラクトフェリン粉末を上記水溶液100mLに対して1質量%となるように添加し、常温にて混合し、3〜5時間放置して胡瓜および人参に液をなじませる。これにより、胡瓜および人参の浅漬けを得る。
【0074】
(実施例7:果汁飲料の製造)
アポラクトフェリンを含有する果汁飲料の製造例を示す。
【0075】
蜜柑を圧搾して、果汁を搾出する。上記果汁にアポラクトフェリン粉末を、該果汁100mLに対して1質量%となるように添加し、常温にて溶解し、果汁飲料を得る。
【0076】
(実施例8:ワインの製造)
アポラクトフェリンを含有するワインの製造例を示す。
【0077】
ぶどうを圧搾して、果汁を搾出し、その果汁を天然発酵させワインを得る。上記ワインにアポラクトフェリン粉末を、該ワイン100mLに対して、1質量%となるように添加し、室温にて溶解し、ワインを得る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
アポラクトフェリンは、抗菌性を示し得る。アポラクトフェリンは、天然由来物であるため、人体に安全でかつ環境にやさしい物質である。アポラクトフェリンのこのような性質は、数ヶ月単位の長期にわたって日常的に用いる頻度が高いために雑菌が混入するおそれがありかつ肌に直接触れる化粧品もしくは医薬部外品において、防腐剤として使用するために好ましい。同様に、特に日常での保存の際に雑菌が混入するおそれがあり、かつ体内に摂取される飲食物においても、防腐剤として好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】Staphylococcus epidermidis、Listeria innocua、Bacillus cereus、およびEscherichia coliに対する種々の濃度のアポラクトフェリンまたはラクトフェリンを含有する化粧水サンプルの抗菌性試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポラクトフェリンからなる化粧品もしくは医薬部外品用防腐剤。
【請求項2】
請求項1に記載の防腐剤を含有する化粧品もしくは医薬部外品。
【請求項3】
前記防腐剤の濃度が0.05質量%〜10.0質量%である、請求項2に記載の化粧品もしくは医薬部外品。
【請求項4】
前記防腐剤の濃度が0.5〜1.0質量%である、請求項3に記載の化粧品もしくは医薬部外品。
【請求項5】
アポラクトフェリンからなる飲食物用防腐剤。
【請求項6】
請求項5に記載の防腐剤を含有する食品。
【請求項7】
前記防腐剤の濃度が0.05質量%〜10.0質量%である、請求項6に記載の食品。
【請求項8】
請求項5に記載の防腐剤を含有する清涼飲料水。
【請求項9】
前記防腐剤の濃度が0.05質量%〜5.0質量%である、請求項8に記載の清涼飲料水。
【請求項10】
請求項5に記載の防腐剤を含有するアルコール飲料。
【請求項11】
前記防腐剤の濃度が0.01質量%〜5.0質量%である、請求項10に記載のアルコール飲料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−277153(P2007−277153A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105470(P2006−105470)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(506118087)株式会社エヌ・ピー (3)
【出願人】(506116865)
【Fターム(参考)】