説明

医療デバイスの表面を治療剤でコーティングするための方法およびシステム、ならびにそれによって作製された薬剤溶離医療デバイス

【要約書】
真空パルス噴霧技法によって、例えば拡張血管薬剤溶離ステントなどの、多層の薬剤が塗布された医療デバイスが形成され、各層は、その後に続く層を形成する前に、密着特性および/または薬剤溶離特性を高めるために照射される。層は、同種のまたは異なった薬剤であってよい。層は、非ポリマー溶離遅延剤を含んでよい。層は、非ポリマー溶離遅延剤の1つまたは複数の層と交互であってよい。コーティングを形成するのにポリマー結合材および/またはマトリクスは使用されないが、純粋な薬剤コーティングは、優れた機械特性と溶離速度を有する。システム、方法および医療デバイス項目が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、哺乳類の体内に植え込むことを目的とした医療デバイスに関し、より詳細には、薬剤を保持するまたはその溶離特性を制御するためにポリマーマトリクスを使用する必要性をなくす、医療デバイス上に薬剤溶離コーティングを形成するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、医療用プロテーゼまたは外科用インプラントなど、哺乳類(ヒトを含めた)の体内または体組織内に植え込むことを目的とした医療デバイスは、種々の金属、金属合金、プラスチックまたはポリマー材料、固体樹脂材料、ガラス材料、ならびに用途に適しておりしかるべき生体適合性を備えた種々の生分解性材料を含む他の材料を含めた多様な材料から作製することができる。例として、特定のステンレス鋼合金およびコバルト−クロム合金が使用されてきた。このようなデバイスには、例えば、血管ステントおよび人工関節プロテーゼなどが含まれるが、これらに限定されない。外科的インプラント治療において良好な結果を得やすくするために、多くの場合、この種のデバイスの表面を薬物または薬剤などの治療剤で被覆することが有益であることがわかっている。
【0003】
例えば、植込み血管ステントの場合、多くの場合、血管の中にそれを挿入する前にステントの表面に薬剤を塗布することが望ましい。植込み血管ステントは、金属材料から作製することができる、または生分解性材料から作製することができる。過去には、拡張血管ステントに治療薬剤を直接塗布しても、目的とするほどには有効でないことが経験から分かっていた。なぜなら、治療剤が、表面から放出される(溶離する)のが速すぎたり(恐らく、ステントの植込み時にほとんど完全に洗い流される)、もしくは、ステントと薬剤の組み合わせが、植込み前および植え込む際に必要とされるステントの圧縮、拡張、または屈曲時に課される機械的ストレスに耐えられず、このようなステントの機械的変形によって薬剤コートがひび割れたり、剥がれたり、あるいは剥離し、これにより一般に、薬剤の損失、または植込み後薬剤が溶離する速度の望ましくない変化が生じたりするからである。特に、より多くの薬剤搭載量が指示され、従ってより厚みのあるコーティングを必要とする場合、機械的変形の間および機械的変形の後、薬剤コーティングを損傷のないままステント上に保持することは未解決の課題であった。コーティングの耐久性および延性を高めると同時にインシチュでの薬剤溶離速度の制御を助ける目的で、このようなステントに治療剤を接着させたり、薬剤をカプセルに入れるのにポリマーマトリクスを使用したりすることが一般的な慣習になっている。現在は、この種のポリマーには、好ましくない結果をもたらす恐れのある望ましくない副作用があることが分かっている。機械特性および溶離特性を制御する目的でポリマーまたは他の結合マトリクスは利用しないが、裸のステント上に頑強で耐久性のある薬剤コーティングが好適な溶離速度を実現するように直接塗布され、このコーティングが、ステントを植え込むのに必要な通常の機械的動作に対し、コーティングが脱落したり許容程度以上の傷がついたりしない程度の耐性を持った、薬剤がコーティングされた拡張血管ステントに対する要望がある。
【0004】
外科用インプラントを、薬剤または薬剤とポリマーのマトリクスでコーティングするための多くの方法が知られている。これらの中でも、浸漬および噴霧塗布が一般に使用されており、多様な噴霧技法が利用されてきた。通常の噴霧技法は、1つまたは複数の治療剤を、場合によってはポリマーマトリクス材料も含ませて溶剤中に溶解させ、噴霧塗布に好適な特性を備えた溶液を生成するステップを含む。2006年8月17日に公開された国際特許出願公開番号WO06086693A2号(Brown)には、超音波ノズルを使用して、薬剤とポリマーのコーティングを医療デバイスに真空噴霧するための装置が記載されている。2007年4月3日に許可されたFox等の米国特許第7,198,675号には、心棒固定装置の上に裸のステントを設置し、溶剤、薬剤、ポリマー、または溶剤、薬剤およびポリマーの任意の組み合わせを噴霧することによってステントの選択された表面を噴霧被覆することが記載されている。しかし、薬剤単独で被覆された血管ステントは、十分に機能を果たさず、薬剤とポリマーの組み合わせは、望ましくない副作用をもたらすという臨床的問題が残っている。
【0005】
拡張ステント上に多くの薬剤がコーティングされる際、一回の塗布では、有効であるべき所望の治療に要求される必要な薬剤搭載量を塗布することができないことが分かっている。厚いコーティングの場合、望ましくない作用を与えずに溶剤を除去することは困難である。1995年11月7日に許可されたBerg等の米国特許第5,464,650号に教示されるように、複数の層のコーティングを使用することによって、より多くの薬剤搭載量をステントに塗布することが可能であるが、この種の多層コーティングは、薬剤とポリマーマトリクスのコーティングの場合に最もうまく行く。薬剤とポリマーマトリクスの多層コーティングと比較して、薬剤のみの多層コーティングは、より厚みがあり、より脆く強度も低く、したがって、ステントが曲げられたり拡張される、あるいは他の機械的変形を受ける際、よりひどく割れたり剥離する傾向にある。
【0006】
ガスクラスタイオンビーム(GCIB)は既知であり、洗浄、エッチング、スムージング、皮膜成長などの目的で表面を処理するのに使用されてきた。ガスクラスタイオンは、標準温度および標準気圧条件下で通常気体として存在する、イオン化され、緩く結合した物質の集合体であり、典型的には、数百個から数万個もの原子または分子から構成される。ガスクラスタイオンは、電場によって数千KeVの相当なエネルギーまで加速することができる。しかしながら、各ガスクラスタイオンの中の多数の原子および分子があり、またその緩い結合が理由で、ある面にぶつかる際のそれらの効果は極めて表面的であり、クラスタは衝突時に分離され、1つ1つの原子または分子は、ほんの数eVのエネルギーしか担持しない。衝突する面での瞬間的な温度および気圧は、ガスクラスタイオン衝突位置で極めて高くなる可能性があり、多様な面化学反応、エッチング、および洗浄作用が生じ得る。ガスクラスタイオンビームは、医療インプラントを清浄する、平滑化する、およびステントを含めた医療デバイスの表面に薬剤を密着させるのに使用されてきた(2006年9月12日に許可されたBlinn等の米国特許第7,105,199号および2004年1月13日に許可されたKirkpatrick等の米国特許第6,676,989号を参照されたい)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、耐久性を促進させ溶離速度を制御する目的でポリマー被覆またはマトリクスを必要とせずに、拡張血管ステントなどの医療デバイスを薬剤でコーティングするための方法およびシステムを提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、耐久性があり、制御された薬剤溶離速度を有し、十分に密着された、医療デバイス用の多層薬剤コーティングを形成するための方法およびシステムを提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、薬剤コーティングの照射によって医療デバイス上の薬剤コーティングの溶離速度を制御するための方法およびシステムを提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、ポリマーを持たず、また、制御された投与量を有する薬剤コーティングを耐久性のあるコーティングまたは耐久性のある多層コーティングの形で有する、例えば拡張血管ステントなどの薬剤溶離医療デバイスを提供することである。
【0011】
本発明の付加的目的は、制御された溶離速度を有する薬剤溶離医療デバイスを提供すること、および薬剤コーティングの中に溶離遅延剤を含み、中に含まれた溶離遅延剤を有する薬剤コーティングを照射することによって、医療デバイス上の薬剤コーティングの溶離速度を制御するための方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記に記載される目的、ならびにさらなるおよび他の目的および利点は、以下に記載される本発明によって実現される。
【0013】
本発明は、例えば、拡張血管ステントなどの医療デバイス上にコーティングを形成するための方法およびシステムを提供する。薬剤または他の治療剤は、十分に密着し耐久性があり、拡張血管ステントにおいては珍しくない機械的変形による脱落、剥離および/または損傷に対して耐性があるコーティングを形成する能力をもたらすシステムおよび技法を使用して、真空中で清浄な面の上に噴霧される。さらに本発明は、十分に密着し耐久性があり、複数の層のおかげでコーティング内に多くの薬剤投薬量を含むことができる多層コーティングの機能を提供する。本発明によって享受される主な利点は、薬剤コーティングを保持するまたは強化するために、ポリマーマトリクス、ポリマー結合剤またはポリマー封入剤を利用する必要がないことであり、したがって、現在ポリマーの使用に起因して生じることが知られている望ましくない副作用が回避される。薬剤コーティングは実質的に純粋な単一の薬剤、同一の溶剤中で溶解する薬剤の混合物、または異なる溶剤中で溶解するが、複数の層内で互い違いに重ねられた薬剤の複合体であってよい。
【0014】
医療デバイスは好ましくは、ガスクラスタイオンビーム処理によって洗浄される。次いで、プログラムされたパルス式の高速噴霧堆積によって真空中で医療デバイス表面に薬剤が塗布される。薬剤は好ましくは、噴霧可能な液体を生成するために好適な溶剤中で溶解することができる固体である。1回または複数回の噴霧パルスが、医療デバイスの表面上に薄い層を形成する。血管ステントなどほぼ円筒形の医療デバイスの場合、全ての所望の面が噴霧被覆されるように、噴霧の間、固定具がデバイスを回転させる。連続する噴霧パルスの間に、医療デバイスの表面に純粋な薬剤コーティングのみを残して溶剤が真空蒸発される。滑らかなまたはざらつきのあるコーティングのいずれかを形成するために、噴霧の幾何学形状およびパルスタイミングを調節することによってコーティングの質感が調節される。所定の回数の噴霧パルスの後、コーティングは、コーティングの密着を高めるおよび/または哺乳類の体内または組織内に植え込まれる際、コーティングの表面を低下した溶離速度を有する形態に変化させるために、好ましくはガスクラスタイオンビームボンバードメントによって照射される。コーティング工程を繰り返すことによって、より厚みのあるコーティング内により多くの薬剤投与量を有するコーティングを形成するために多層コーティングを構築することができる。好ましい噴霧幾何学形状から生じたざらつきのあるコーティングは、より優れた強度、耐久性および密着特性を有し、その挿入および植込みの準備において、または挿入および植込み時に、拡張血管ステントが圧縮されたり、拡張されたり、あるいは曲げられる際に通常受けるような機械的変形の後の良好なコーティング保持および溶離速度を実現する。
【0015】
本発明の一実施形態は、医療デバイスを真空環境に置くステップと、液体溶剤中に溶解した薬剤溶質の溶液を準備するステップと、医療デバイスの少なくとも一部に溶液コーティングを形成するために、医療デバイスの表面に少なくとも1パルスの溶液を噴霧するステップと、溶剤を除去し医療デバイス上に薬剤コーティングを残すために、噴霧ステップの後、溶液コーティングを真空処理するステップと、医療デバイス表面に対する薬剤コーティングの密着を強化するおよび/または目的とする使用条件下での薬剤コーティングからの薬剤の移動を遅らせるために薬剤コーティングを処理するステップとを含む、医療デバイスを薬剤でコーティングする方法を提供する。
【0016】
噴霧ステップおよび溶液コーティングを真空処理するステップは、薬剤コーティングを処理するステップの前に繰り返すことができる。方法はさらに、薬剤コーティングをより厚くするために、噴霧ステップ、真空処理ステップおよび薬剤コーティングを処理するステップを少なくとも一回繰り返すステップを含んでよい。
【0017】
真空処理ステップは、各噴霧パルスの後、真空圧を自動的に回復させるために真空環境に接続された真空ポンプを作動させるステップを含んでよい。噴霧ステップは、制限された溶剤の蒸発によってのみ医療デバイスに対して溶液を送達するように適合されてよい。噴霧ステップは、溶液中のほぼ全ての溶質を、それが医療デバイスに達するまで保持するように適合されてよい。
【0018】
薬剤コーティングステップは、薬剤コーティングの薬剤溶離速度を低下させる、および/または医療デバイスに対する薬剤コーティングの密着を高めるような方法で薬剤コーティングにイオン照射するステップを含んでよい。イオン照射ステップは、GCIB照射を含んでよい。
【0019】
方法はさらに、噴霧ステップの前にガスクラスタイオンビーム処理によって医療デバイスを真空環境で洗浄するステップを含んでよい。方法は、哺乳類の身体に接触することを目的としたほぼ全ての医療デバイス表面部分を被覆するのに使用されてよい。医療デバイスは、ステントであってよい。薬剤溶液は、溶離遅延剤溶質を有してよい。溶離遅延剤溶質は、1つまたは複数のビタミン、トコフェロール、レチノール、レチノイド、および
脂溶性生体適合性物質を含んでよい。
【0020】
別の実施形態において、医療デバイスを薬剤で被覆するための装置は、真空チャンバと、真空チャンバ内に医療デバイスを保持するための手段と、溶液コーティングを形成するために真空チャンバ内で医療デバイスの表面に薬剤の溶液をパルス噴霧するための手段と、薬剤コーティングを形成する目的で溶液コーティングから溶剤を蒸発させるために、真空チャンバ内で減圧を行うための真空生成手段と、薬剤コーティングの少なくとも一部にガスクラスタイオンを照射するように適合された、真空チャンバ内にガスクラスタイオンビームを導入するための手段とを備える。
【0021】
保持手段、パルス噴霧手段および導入手段は、医療デバイスを完全に表面コーティングするように構築され適合されてよい。装置はさらに、各噴霧パルスによる溶液コーティングから溶剤を蒸発させるために、蒸発期間によって分離された1シーケンスの溶液の噴霧パルスを生じさせるように適合された制御手段を備えてよい。制御手段は、薬剤コーティングの連続する層にガスクラスタイオンビームを別々に照射するように適合されてよい。噴霧手段は、制限された溶剤の蒸発によってのみ医療デバイスに対して溶液を送達するように適合されてよい。
【0022】
さらに別の実施形態において、薬剤被覆された医療デバイスは、薬剤と、溶離遅延剤とを備える少なくとも1回GCIB照射された薬剤コーティングを有する。コーティングは、1つまたは複数の層を含んでよく、薬剤および溶離遅延剤は、同一の層内または別個の層内のいずれに含まれてもよい。溶離遅延剤は、1つまたは複数のビタミン、トコフェロール、レチノール、レチノイド、および脂溶性生体適合性物質を含んでよい。
【0023】
本発明の他のおよびさらなる目的と併せて本発明をよりよく理解するために、添付の図面および詳細な記載が参照され、その範囲は、添付の特許請求の範囲において指示されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態による、医療デバイス用の真空噴霧コーティングシステムの概略図である。
【図2】本発明の別の実施形態による、医療デバイス用の真空噴霧コーティングシステムの概略図である。
【図3】本発明による、医療デバイスのパルス噴霧コーティングを制御するためのタイミング詳細を示すタイミンググラフである。
【図4】本発明による、被覆された医療デバイスを形成するために、一体化されたガスクラスタイオンビーム処理システムを有する、医療デバイス用の真空噴霧コーティングシステムの概略図である。
【図5】本発明による、ざらつきのある薬剤コーティングを備えた拡張血管ステントの拡大部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明による、滑らかな薬剤コーティングを備えた拡張血管ステントの拡大部分を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態による、医療デバイスを真空噴霧コーティングするためのシステム200を示す図1を参照されたい。図1は、概略図であり、寸法は一定の縮尺で描かれていない。このシステムは、本発明の別々の方法による2つの使用モードを有し、医療デバイス上に、滑らかなコーティングまたはざらつきのあるコーティングのいずれかの薬剤コーティングを形成することができる。システムは、要素設置プレート208、216、230および288によって密封されたフランジを有する複数のポートを備えた真空コーティングチャンバ202を含む。チャンバ202は好ましくは、約200から400立方インチの容積を有する。ポートの1つは、回転シャフト206を有するモータ204を搭載する要素設置プレート208を有し、このシャフトは、心棒210が回転動作212によってその軸の周りを回転することができるように心棒に装着される。心棒は、例えば拡張血管ステント246、248および250などの円筒形の医療デバイスを、ステントの孔の中を通過して、摩擦嵌合によってあるいは図示されないクリップまたはカラーを利用してそれらを維持することによって保持するように適合される。簡素化のために、心棒は、内径によってステントまたは他の管状または円筒形の医療デバイスを支持するが、必要であれば、その内面に密着するためにステントのメッシュを通るように噴霧することによってステントの内径面も被覆することができるような方法で、拡張メッシュ血管ステントを支持する他の回転支持体が容易に設けられることを当業者はすぐに理解するであろう。また、当分野でよく知られる技法を使用して医療デバイス用の適切な保持器を代用することによって、この装置によって平坦な、あるいはそうでなければ成形された面を噴霧被覆することができることが理解されるであろう。ステントの外面全体の噴霧コーティングを促進させるために、回転心棒210を使用して、モータ204によって実現される回転動作212によってステント246、248および250をその軸の周りで回転させることができる。モータは、例えばおよそ6RPMの任意の好適な速度で回転させてよい。
【0026】
真空システムは、コーティングチャンバ202を減圧で作動させる。真空ポンプ226は、例えば、54CFMの吸い込み速度を有するLeybold D65Bなどの粗引きポンプであってよい。35ミリトール未満の到達圧力能力を有する50CFM以上の速い吸い込み速度が好ましい。真空ポンプ226は、フィルタ224、吸い込みライン222、真空タンク220、補助吸い込みライン218および制御弁(V5)214を介してコーティングチャンバ202に結合される。真空タンクは、示されるように別個の空間であってよい、または以下に詳細に記載するようにそれが圧力バーストを受ける際、吸い込みライン218および222がコーティングチャンバ202を真空にする速度を上げるように、タンクとして作用するのに適切な空間を有することを保証して形成されてよい。タンクは好ましくは、コーティングチャンバ202の容積より大きな容積、好ましくはチャンバ202の容積の2倍から6倍の容積を有する必要がある。制御弁214は、好ましくは電気作動式または電気空気圧作動式であり、また、遠隔作動ができるタイプの弁であることが好ましい。
【0027】
チャンバ202内のポートの1つは、以下に考察されるように、チャンバを他の装置と接続するために設けられたゲート弁286を通る開口を備えた要素設置プレート288を有する。
【0028】
チャンバ202内のポートの1つは、噴霧ノズル234用の開口を備えた要素設置プレート230を有する。噴霧ノズルは、噴霧制御弁(V1)232に接続し、この弁は、好ましくは電気作動式または電気空気圧作動式であり、また、遠隔作動ができるタイプの高速作動弁であることが好ましい。液体タンク254は、チャンバ202内で医療デバイスを噴霧コーティングするための液体252を保持する。液体252は好ましくは、ラパマイシンまたはパクリタキセルなどの薬剤を例とする、通常固体の治療剤の液体溶液である。治療剤に適合可能な、例えばテトラヒドロフラン(THF)などの揮発性溶剤が、溶液中で治療物質を保持し液体252を形成する。液体タンク254は、液体貯蔵ループ260の第1端部(E1)に液体252を送達するために、配管256を介して充填制御弁258に接続される。充填制御弁(V3)258は、好ましくは電気作動式または電気空気圧作動式であり、また、遠隔作動ができるタイプの高速弁であることが好ましい。
【0029】
ガスボトル271の中の加圧ガス270は、ガス配管272を通ってガス圧調節装置274の入り口まで流れることができる。ガス圧調節装置274は好ましくは調節可能であり、液体貯蔵ループ260の第1端部(E1)に接続するために、ガス配管276を介してガス制御弁(V2)278に接続する出口を有する。ガス制御弁278は、好ましくは電気作動式または電気空気圧作動式であり、また、遠隔作動ができるタイプの弁であることが好ましい。液体貯蔵ループ260は、ボーラスとしてノズル234内に注入するために所定の量の液体252を貯蔵するように機能し、その結果、ノズル234からチャンバ202へと液体噴霧のパルスが放出される。液体貯蔵ループ260の第2端部(E2)は、噴霧制御弁(V1)および溢出弁(V4)に接続する。V1とV4は共に、好ましくは電気作動式または電気空気圧作動式であり、また、遠隔作動ができるタイプの高速弁であることが好ましい。弁Vl、V2、V3およびV4は、任意選択で全て、例えば、Valco Instruments社から商業的に入手可能なモデルC22 Cheminertシリーズなどのマルチポートサンプル注入弁の一部であってよい。液体貯蔵ループ260は、所定の体積の液体を貯蔵するために、小さな内径(例えば、0.0625インチ)および所定の長さ(例えば、約1インチから約5インチ)を有する配管であってよい。液体貯蔵ループ260を満たすために、V1およびV2が閉鎖されV3とV4が開放される。液体252は次いで、重力によって液体タンク254から外に流れ(図示されないが、液体タンクは、流れを促進させるために加圧することができる、または流れを促進し制御するために定量ポンプを使用することができることを理解されたい)、配管256およびV3を通って、液体貯蔵ループ260の中に入りループの端から端まで流れ、液体貯蔵ループ260を満たし、溢れた液体がV4および配管264を通って溢出タンク268へと流れ込む(溢れた液体268は、溢出タンク268内で集められる)。液体貯蔵ループが満たされると、V3とV4は閉鎖される。次いで、液体貯蔵ループ260内に満たされた液体を加圧するために、V2が開放される。ガス圧調節器274は、例えば、大気圧を0.5PSI超える圧力を実現するように設定されてよい。液体貯蔵ループが加圧された後、V2は開放されたままでV1が開放され、ノズル234を介して液体貯蔵ループ内に蓄積された量を放出し、チャンバ202内の真空へとそれを拡散させる。ノズル234(ノズルA)は、超音波噴霧ノズルであり、Sono−Tek社のモデル8700−120、または好ましくは約0.020から約0.030インチの範囲の直径のノズル孔236を有する同様の超音波ノズルであってよい。ノズル孔は、任意選択で約118度の開先角度を有する円錐形の出口アパーチャを有してよい。Vl、V2、V3およびV4弁システムの作動およびタイミングのより詳細な記載は、図3を参照して以下で行われる。
【0030】
図1を再度参照すると、噴霧に使用される液体252溶液は、医療デバイス(例えば、ステント)を被覆することが望まれる治療剤のタイプによって選択される。薬剤溶離ステントを形成するために、ラパマイシン、パクリタキセル、または可溶性の固体である他の薬剤が使用されてよい。噴霧用の液体溶液を形成するために、適合性のある、低粘度の揮発性溶剤が使用され、薬剤はこの溶剤中で、コーティングを可能にするために作用可能な期間にわたって安定したままである。THFが好ましい溶剤であるが、エタノール、メタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトン、ジクロロメタンなどの有機溶剤、ならびに他のものも好適である。溶液は、結果として生じる液体の噴霧特性、医療デバイスに塗布される所望の投与量などに基づいて、溶剤中の治療剤の濃度が様々な所定の値になるように混合されてよい。例えば、THF中に溶解したラパマイシンは、広範な濃度、好ましくは約1mg/mlから約10mg/mlで首尾よく塗布することができることが分かった。
【0031】
液体貯蔵ループ260内に蓄積された液体量が、V1およびノズル234を介して放出される際、チャンバ202内の真空中に高速噴霧が爆発的に放出される。噴霧は、チャンバ202内へ円錐状に拡散し、心棒210と、そこに取り付けられた医療デバイス(例えばステント246、248、250)にぶつかる。円錐状の噴霧拡張は、2つの部分を有する。第1の円錐238は、より小さな円錐角を有する。第2の円錐240は、より大きな円錐角を有する。第1円錐238内での噴霧はより密集したより粗い噴霧であり、それが真空中に吹き出される際ノズル壁とほとんどまたは全く接触せず、心棒の距離でそれが形成する堆積スポットは、結果として質が異なるコーティングとなる。この点に関して任意の特定の論理に拘束されることは望まないが、より粗い粒子は、第1の円錐238の外側の第2の円錐240の一部に生じるより微細なより拡散する噴霧の場合よりも、粒子が移動する際に生じる溶剤の蒸発がより少ないより湿った形態で堆積スポットに達すると考えられている。したがって、ノズルの出口から心棒210までの距離Dに、より粗い噴霧が衝突する円形領域242と、より微細なより拡散する噴霧が衝突するより大きな環状領域244の2つの領域がある。また心棒210の距離での噴霧の相対的な「湿潤度」と「乾燥度」は、ノズル出口アパーチャと心棒210との距離D、各噴霧パルスで分配される液体の量、使用される溶剤の揮発性、溶剤中の薬剤の濃度およびノズルの特性に影響される。
【0032】
医療デバイスは、円形領域242内または環状領域244内のいずれかで処理されてよく、有意に異なるコーティング質感および品質が結果として生じる。相対的に「ウェット」な噴霧を有する円形領域内で処理される際、結果としてざらついたコーティングとなる。相対的に「ドライ」な噴霧を有する環状領域内で処理される際、結果として滑らかなコーティングとなる。「ドライ」すぎる噴霧によって環状領域内で処理される際(恐らく溶剤は、医療デバイスに到達する前にほとんど完全に蒸発する)、でこぼこしたまたはひび割れたコーティングが生じる可能性があり、より厚みのあるコーティングでより顕著である。噴霧が「ウェット」すぎるとき、コーティングは、ステントのウェブ構造体内へと伸びたりたわんだりし、ステントを拡張または屈曲する際ひび割れまたは剥離する可能性がある「帆」または「ウェビング」を形成する可能性がある。したがって、処理領域242または244を選択することによって、また距離Dを選択することによって、医療デバイス上の堆積位置での噴霧の「湿潤度」を調節し、これにより結果として生じるコーティングのタイプを調節する(滑らかであるか、ざらつきがあるか)ことができる。
【0033】
制御装置280は、マイクロプロセッサによる制御装置、汎用小型コンピュータ、または他の好ましいプログラム可能制御装置であってよく、チャンバ202内の真空を制御し、液体貯蔵ループ260を満たし医療デバイスを被覆するためにチャンバ202内に噴霧パルスを放出するのに必要な弁の順序付けを制御するために、圧力センサ228およびケーブル282を介してチャンバ202の圧力を検出し、ケーブル284を介してVl、V2、V3、V4およびV5を制御する。
【0034】
表1は、例としてTHF中に溶解した薬剤ラパマイシンを使用する場合の、望ましいタイプの多様なコーティングを形成する条件を示す。「投与量」は、噴霧パルス当たりの投与量であり、コーティングを形成するのに8回の噴霧パルスが繰り返し行われた。
【0035】
【表1】

【0036】
図2を参照する(図1と共通する部分には、共通の参照符号が用いられている)と、本発明の他の実施形態による、医療デバイスの真空噴霧コーティングに関するシステム300は、真空噴霧コーティング200(図1)と同様に構築されるが、それが、短い非超音波ノズル302(ノズルB)を利用する点で異なる。図2は、概略図であり、寸法は一定の縮尺で描かれていない。このシステムは、本発明の別々の方法による2つの使用モードを有し、医療デバイス上に滑らかなまたはざらついたコーティングのいずれかの薬剤コーティングを形成することができる。ノズル302は、長さ約0.5インチで約0.093インチの内径の円筒形のノズル孔304を有する。ノズル出口アパーチャ308と心棒210の間の距離は、Dである。ノズル出口アパーチャ308は、任意選択で約118度の開先角度を有する円錐形であってよい。ノズルBは、複数の医療デバイス(ステント308、310および312)を単一の噴霧円錐内で処理することができるように、大きな処理領域にわたって「ウェット」な噴霧を生成する大きな角度の単一の円錐の噴霧拡張包絡面306を形成する。噴霧の「湿潤度」は、距離Dを変えることによって修正することができ、より大きなDの値は、心棒210で「よりドライな」噴霧パターンを形成する。
【0037】
表2は、例としてTHF中に溶解した薬剤ラパマイシンを使用する場合の、望ましいタイプの多様なコーティングを形成する条件を示す。「投与量」は、噴霧パルス当たりの投与量であり、コーティングを形成するのに8回の噴霧パルスが繰り返し行われた。
【0038】
【表2】

【0039】
図3は、上記で考察したシステム200とシステム300の両方の噴霧制御システムに適用可能なタイミンググラフ350である。タイミンググラフ350は、弁Vl、V2、V3、V4およびV5の作動と、結果として生じるコーティングチャンバ圧、噴霧パルスおよび液体貯蔵ループの充填および補充の変化とのタイミング関係を示す。
【0040】
本発明によるステントなどの医療デバイス上の薬剤のコーティングは、液体の薬剤と溶剤との溶液をパルス噴霧することによって行われる。コーティングは、複数の層に塗布される。ノズル(ノズルAまたはノズルBまたは他のノズル)によって医療デバイスに繰り返しパルス噴霧することによってそれぞれの層を構築することができる。医療デバイス(例えば、ステント)をコーティングする前に、Blinn等の共同所有の米国特許第7,105,199号で教示されるようなガスクラスタイオンビーム技法を使用してデバイスを洗浄することが好ましい。血管ステントなど円筒形または管状の医療デバイスでは、ステントが心棒上で回転する間、一般に複数回のパルス噴霧が塗布され、これが、ステントの外面上の均一なコーティングを保証する。コーティングの各層に対して、4回、8回、16回または他の任意の回数の噴霧パルスが塗布されてよい。本発明の方法の重要な要件は、各噴霧パルスにおいて、液滴が被覆される医療デバイスにぶつかる前に噴霧される液体中の溶剤が完全に蒸発しないように、霧状の噴霧液滴を十分な速さで表面に到達させるため、真空システム中の噴霧の滞空時間が十分に短いことである。これにより液滴が表面に貼り付くことが可能になり、次いで残りの溶剤が急速に真空蒸発される。「ウェット」な噴霧が使用される際、残りの溶剤は実際にはコーティングから沸騰して蒸発し、これにより堆積したコーティングに質感を持たせることができる。被覆される医療デバイスの表面に到達する際、液滴中に溶剤が残ることを保証するために滞空時間が短くなるよう、噴霧の際ノズルの両端に有意な圧力差が存在することが必要である。チャンバ202を低圧(例えば、35ミリトールの真空)で作動させ、噴霧される液体を大気圧またはそれを超える圧力(例えば、大気圧を約0.5psiだけ超える)に加圧することによって。これは、液体貯蔵ループ内の液体のボーラスが、ほとんど音速で真空中に爆発的に放出されることを保証する。このように、噴霧パルスは、極めて短時間で強力である。液体ボーラスを加圧する加圧ガスがもたらす継続する圧力によって、液体がノズル内で蒸発したりノズルを詰まらせたりしないように、全ての液体が迅速に貯蔵ループとノズルの外に吹き飛ばされることが保証される。
【0041】
噴霧パルスおよび真空システムの動作のタイミングは、各噴霧パルスの後、およびそれぞれの次の噴霧パルスの前に、基本的に全ての溶剤が蒸発する、または沸騰して蒸発する、または急激に気化することが保証されるように制御される。複数の噴霧パルス層の各々が塗布された後、被覆された医療デバイスは、層から全ての溶剤が除去されることをさらに保証するために追加の数秒間から追加の数分間の間真空システム内に残されてよい。各層は次いで好ましくは、層の密着をさらに高めるため、および哺乳類の体液(食塩に似た流体)中でのその溶解度を低下させ、かつ外科用インプラントが哺乳類の体内または体組織に入れられた後、薬剤コーティングが溶離する速度を低下させる目的で、少なくとも部分的にコーティングの表面を改質させるために層を照射することによって処理される。
【0042】
照射の後、以下にさらに考察されるように、医療デバイス(例えば、ステント)は任意選択で、各層に対して複数回のパルス噴霧工程を繰り返すことによって、先に塗布された層の上に加えられた薬剤の追加の層を有してよい。また各層の塗布に続いて、好ましくは照射ステップも繰り返される。各層は、共通の溶剤中に溶解した1つまたは複数の薬剤で構成されてよい。共通の溶剤を共有しない、または溶液中で一緒にされたとき不安定な薬剤に関して、次の層は、異なる薬剤および/または異なる溶剤を有してよい。したがって、複合的に重ねられた薬剤コーティングを医療デバイスに塗布することができる。
【0043】
1回または複数回のパルス噴霧堆積で構成される各層を塗布する工程が、図3のタイミンググラフ350に示される。ここで、タイミングに関しては図3を、また項目を指示する符号に関しては図1および/または図2を参照されたい。V5のタイミングは、タイミンググラフ350中のV5と名付けられた直線で示される。各層のコーティングステップの最初で、V5は、コーティングのために所望の真空状態までチャンバ202を吸気するために、一定の時間Tv5にわたって開放される。この真空状態に達するために、チャンバ202内の圧力が検出され、所望の噴霧圧Pと比較することができる。Pは好ましくは、20から100ミリトール程度、例えば35ミリトールであってよい。V5弁が開放され、所定の時間Tv5の後、コーティングチャンバ圧はPに達し、液体貯蔵ループ260を液体252で満たすためにV3とV4がプログラムされた長さの時間Tにわたって開放される。TFは、例えば約17秒であってよい。TFの終わりに、V3とV4が閉鎖され、液体貯蔵ループ260内の液体を大気圧を約0.5psiだけ超える程度のガス圧で加圧するために、V2が所定の時間TV2にわたって開放される。約1秒かそれ以上であり得る一定の遅延時間T1の後、V1が開放され、V1およびノズル234またはノズル302を介して液体貯蔵ループ内の加圧された液体をチャンバ202内に急激に噴霧することが可能になる。噴霧パルスは、「噴霧パルス」と名付けられたタイミンググラフ350の直線で示され、1秒の半分より短くてよい短い期間TSである。液体の噴霧パルスおよび加圧ガスがチャンバ202に進入する際、コーティングチャンバ内の圧力は、1トールを大きく超える圧力レベルPまで急速に上昇する。TV1の後、V1が閉鎖され、噴霧された液体中の溶剤が急速に蒸発する際、コーティングチャンバ圧は、チャンバ202を真空にする真空ポンプ226の影響下で急速に降下する。V1が閉鎖され、約1秒であり得る短い遅延時間T2の後、液体貯蔵ループを満たすシーケンスが繰り返され、液体貯蔵ループ260を補充する。基本的に全ての溶剤が蒸発し吸い出されたとき、コーティングチャンバ圧は再びPSまで降下し、液体貯蔵ループが補充されたとき、制御装置289内で各層に関してプログラムされたパルスの回数だけパルス噴霧サイクルが繰り返される(タイミンググラフ350中で全部で4回のパルスとして示される)。制御装置280によってプログラムされた回数の噴霧パルスが行われた後、制御装置は、全ての溶剤がコーティング層から真空蒸発することをさらに保証するために、追加の所定の時間にわたってV5を開放したまま維持する。追加の所定の時間は、乾燥を確実にするために必要な数秒から数分であってよく、これは制御装置280内にプログラムされる。
【0044】
医療デバイス上に層(上記に考察されるように、滑らかな層かざらついた層かは噴霧パラメータおよび幾何学形状による)が被覆されると、コーティングは好ましくは、表面を改質しコーティングの密着を高めるために照射される。密着は、表面をガスクラスタイオンビーム処理することによって高めることができる。表面は、アルゴンクラスタイオンまたは別の不活性ガスのクラスタイオンを有するGCIBを使用して照射することができる。GCIBは好ましくは、5kVから50kVまたはそれ以上の加速電位によって加速される。コーティング層は好ましくは、平方センチメートル当たり少なくともおよそ1x1013のガスクラスタイオンのGCIB線量に曝される。GCIB照射の効果は、2つある。それは、表面に対して浅いイオンビームを等間隔に撃ち込む、またはコーティング層をステント表面に融合させることによってステントの表面に対する(または前のコーティングに対する)コーティングの密着を高める。それはまた、コーティングの表面を哺乳類の体液に溶解しにくい形態に変えることによって薬剤溶離時間を改善する(増大させる)。この改善の正確なメカニズムは知られていないが、GCIBは、恐らく表面が部分的に炭素(この場合、コーティングは、炭素含有である)および/または他の溶解度の低い物質に変わるように表面に近い最上層を変性させ、これが、少なくとも部分的に、薬剤の溶離を遅くする封入層を形成すると考えられている。テストは、このように改変された表面が炭素が豊富であることを示した。それでもなお、ほとんど改変されない薬剤が、極めて表面に近い改変された層の下で医療デバイスに密着したまま残る。
【0045】
コーティング層のGCIB照射に対する代替として、従来のイオンプラズマ処理技法を使用して堆積したコーティング層を照射することも実現可能である。コーティング層は、例えば、エドワーズモデルS123DCスパッタコータシステムなどのプラズマ処理装置内で照射されてよい。他のプラズマ処理システムを照射に使用することもできる。例示のケースの場合、20ミリバールの圧力で400Vのアルゴンプラズマ(2mAで動作する)が、ラパマイシンが塗布された面を照射し、テストは、薬剤溶離速度が、照射しない場合に対して有意に改善されたことを示した。
【0046】
複数の層が医療デバイスに塗布される際、またこれらの層が連続する層の間で照射される際、より厚みのある、よりゆっくりとより長い時間薬剤を溶離するコーティングとなる。テストはまた、本発明による「よりウェットな」形態のパルス噴霧を使用して形成されたざらついたコーティングが、より強力で、より耐久性があり、より良好に密着し、血管ステントなど医療デバイスを圧縮し、拡張し、曲げるときの負荷により十分に耐えることができることを示した。本発明の方法を使用することによって、医療デバイス上に薬剤を保持するためにポリマー結合剤またはマトリクスを利用する必要なしに、これらの利益を実現することができる。医療条件を緩和させるために拡張血管ステントなど外科用インプラントの使用が決断される際、ポリマー自体が血栓症を引き起こす、または、期待される好ましい結果を損なうといった副作用の可能性がある、という近年の知見からすると、これはかなりの重要性を有する。
【0047】
図4を参照する(図1及び図2と共通する部分には共通の参照符号が用いられている)と、医療デバイスを真空噴霧コーティングするためのシステム400は、本発明の実施形態による被覆された医療デバイスを形成するために、一体式のガスクラスタイオンビーム処理システムを有するように構築されている。図4は概略図であり、一定の縮尺で描かれていない。このシステム400は、システム300と同様の真空噴霧コーティングシステムに組み込まれたガスクラスタイオンビームシステムを示しているが、このようなGCIBと、噴霧コーティング機能と、装置との一体化は、システム200と同様の真空噴霧コーティングシステムにも等しく適用可能である。要素設置プレート288で、ゲート弁286(この概略図では、それが図1および図2でそうであったように閉鎖されずに、開放されて示される)が、チャンバ202をGCIB処理システム402のGCIBビーム出力部に対して装着する。上記に教示した装置および方法に従ってコーティングチャンバ202内で医療デバイス(例えば、ステント)406をコーティングした後、全ての外面の照射を確実にするために医療デバイス406がモータ204によって回転される間、GCIB404が医療デバイスを照射する。本発明の方法に従ってGCIB処理と、薬剤噴霧コーティングを一体化することにより、手による扱いが最小限であり、最小限の汚染の、代替のものと比較して経過時間が短縮された複数の層のコーティングの形成が容易になる。ゲート弁286は、パルス噴霧の間閉鎖されてよく、噴霧制御弁232は、GCIB処理の間閉鎖されてよい。
【0048】
図5は、本発明のシステムおよび方法を使用して製作されたざらついた表面の多層の薬剤被覆拡張血管ステントの走査型電子顕微鏡写真を示す。この薬剤溶離ステントは、薬剤を保持するためにポリマー結合剤またはマトリクスを利用する必要なしに、他の薬剤被覆ステントと比べて好ましい溶離特性およびコーティング耐久特性を有する。
【0049】
図6は、システムおよび方法を使用して製作された滑らかな表面の多層の薬剤被覆拡張血管ステントの走査型電子顕微鏡写真を示す。この薬剤溶離ステントは、薬剤を保持するためにポリマー結合剤またはマトリクスを利用する必要なしに、他の薬剤被覆ステントと比べて、好ましい溶離特性およびコーティング耐久特性を有する。
【0050】
溶離速度のさらなる制御が望まれる場合、薬剤コーティング中に、コーティングの溶離速度に影響を与える非ポリマー物質を組み込むことによって溶離速度を修正することができる。このような物質は好ましくは、薬剤溶離デバイスが哺乳類の体内に植え込まれる際、薬剤の臨床的活性期間を延長する目的で薬剤の溶離を遅くするように働く。薬剤中の治療剤が、哺乳類の体液内で特に溶けやすい場合、または最高の治療効果のために特に長い溶離時間が必要となる場合(これらは例であり、これらに限定されない)、薬剤コーティング中に溶離遅延剤を組み込むことによって、薬剤溶離デバイス上の薬剤コーティング中の薬剤の溶離時間を延長する(および/または溶離速度を下げる)ことが望ましい。これは、薬剤溶離デバイスに噴霧する前に、薬剤と溶剤の溶液中に溶離遅延剤を組み込むことによって実現することができる。さらに多層コーティングが形成される際、経時的な溶離速度の変化を調節するために、各層における薬剤と溶離遅延剤との相対的混合は選択されてよい。あるいは、薬剤と溶離遅延剤を各層内で混合するのではなく、薬剤コーティング層は、1つまたは複数の溶離遅延剤層と互い違いにされてよい。
【0051】
好適な溶離遅延剤は好ましくは、哺乳類の組織および体液に対して生体適合性を持ち、すなわち医学的に安全であり、好ましくは上記に記載したように噴霧コーティング用の薬剤噴霧溶液を形成するのに使用される溶剤内で溶けやすい(薬剤と溶離遅延剤が1つ置きの層の中に塗布され、したがって、異なる溶剤を利用し得る場合を除いて)。例えば、哺乳類の特定の脂溶性の微量栄養素は、溶離遅延剤として有益に利用することができる。2つの好ましい例は、ビタミンEとビタミンAである。
【0052】
例示のケースにおいて、上記に開示される装置および技法に従って、薬剤コーティングを備えた薬剤溶離拡張冠状ステントが準備され、その後被覆されたステントに対して溶離測定が行われた。それぞれのケースにおいて、利用された薬剤はラパマイシンであり、利用された溶剤はTHFであった。溶離遅延剤に関しては、アルファ−トコフェロール(ビタミンE)が使用され、これは、THF中に溶解、混合される前にラパマイシンと7.5%(重量で)混合された。薬剤(および/または薬剤と溶離遅延剤)コーティングは、コーティングを形成する前に、上記の表2、ケース6に記載される工程を使用して、ステントに塗布された。ケースAにおいて、いかなるGCIB照射もなしで、真空噴霧が繰り返されることによってラパマイシンとアルファ−トコフェロール(ビタミンE)の単一の厚いコーティングがステント上に形成された。ケースBおよびケースCにおいて、それぞれラパマイシンとアルファ−トコフェロール(ビタミンE)の5層コーティングが塗布され、各層がGCIB照射された。塗布されたステントは、最初の浸漬の後ばらばらの時間で脱イオン水の中に浸漬した結果の重量損失を測定することによって溶離テストされた。
【0053】
表3は、溶離テストの結果を示す。コーティングがGCIB照射された2つのケースでは、溶離時間は照射されないケースと比較して延長されたが、最も長い溶離時間は、GCIB照射と、非ポリマー溶離遅延剤の両方が利用されたケース(ケースC)において実証された。
【0054】
【表3】

【0055】
非ポリマー溶離遅延剤を含むGCIB照射された薬剤コーティングを有する薬剤被覆医療デバイスを形成する工程を、照射の前の医療デバイスへの薬剤および/または溶離遅延剤の真空噴霧コーティングに関して、記載してきたが、医療デバイスのコーティングは代替として、医療デバイスを薬剤(および/または)溶離遅延剤を含む溶液中に短時間浸し、溶剤を除去するためにコーティングを乾燥させ、次いで結果として生じた乾燥したコーティングを照射することによって行うことも可能であることが、当業者には容易に理解されるであろう。工程は、多層コーティングのために繰り返すことができる。
【0056】
本発明を拡張血管ステントを有する多様な実施形態に関して記載してきたが、本発明は薬剤によってステントをコーティングするのに特に有益であるものの、ステントへの適用に限定されるものではなく、哺乳類の身体または組織に植え込むことを目的とした広範な範囲の医療デバイスに適用され得ることを当業者は理解するであろう。用語「薬剤」および「薬剤コーティング」が使用され、ラパマイシンおよびパクリタキセルの例を挙げてきたが、用語「薬剤」は、可溶性であるか、または噴霧可能な液体を形成するために安定した懸濁物質または散布物質を形成することができなければならないという前提で、植え込むことを目的とした医療デバイス上のコーティングとして有益に利用され得る有機および無機化合物を含めた全ての形態の治療剤を含むことが意図される。いくつかの例は、ラパマイシン、パクリタキセル、ゾタロリムス、それらの類似体および誘導体を含むが、これらに限定されるものではない。用語「薬剤」はまた、薬剤混合物を含むこと、および治療剤の可溶性または安定性を改変させることを目的とした他の薬剤の任意の存在を含むことが意図される。用語「ビタミンE」は、アルファ−トコフェロール、ガンマ−トコフェロール、デルタ−トコフェロール、およびその他のトコフェロールを含むことが意図されるが、これらに限定されるものではない。用語「ビタミンA」は、レチノールおよび他のレチノイドを含むことが意図されるが、これらに限定されるものではない。本発明はまた、上記の開示および特許請求の範囲の精神および範囲内にあるさらなるおよび他の多様な実施形態が可能であることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療デバイスを薬剤でコーティングする方法であって、
a)前記医療デバイスを真空環境に置くステップと、
b)液体溶剤中に溶解した薬剤溶質の溶液を準備するステップと、
c)前記医療デバイスの少なくとも一部に溶液コーティングを形成するために、前記医療デバイスの表面に少なくとも1パルスの前記溶液を噴霧するステップと、
d)前記溶剤を除去し前記医療デバイス上に薬剤コーティングを残すために、前記噴霧ステップの後、前記溶液コーティングを真空処理するステップと、
e)前記医療デバイス表面に対する前記薬剤コーティングの密着を強化するおよび/または目的とする使用条件下での前記薬剤コーティングからの薬剤の移動を遅らせるために前記薬剤コーティングを処理するステップとを含む方法。
【請求項2】
前記噴霧ステップおよび前記溶液コーティングを真空処理するステップが、前記薬剤コーティングを処理するステップの前に繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薬剤コーティングをより厚くするために、前記ステップc)、d)およびe)を少なくとも一回繰り返すことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記真空処理ステップが、各噴霧パルスの後、真空圧を自動的に回復させるために真空環境に接続された真空ポンプを作動させるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記噴霧ステップが、制限された前記溶剤の蒸発によってのみ前記医療デバイスに対して前記溶液を送達するように適合される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記噴霧ステップが、溶液中のほぼ全ての前記溶質を、それが前記医療デバイスに達するまで保持するように適合される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記薬剤コーティングを処理するステップが、前記薬剤コーティングの薬剤溶離速度を低下させるおよび/または前記医療デバイスに対する前記薬剤コーティングの密着を高めるような方法で前記薬剤コーティングをイオン照射するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン照射ステップがGCIB照射を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記噴霧ステップの前にガスクラスタイオンビーム処理によって前記医療デバイスを真空環境で洗浄するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
哺乳類の身体に接触することを目的とした医療デバイスの表面のほぼ全ての部分が、このように薬剤コーティングによって被覆される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記医療デバイスがステントである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記薬剤溶液が溶離遅延剤溶質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記溶離遅延剤溶質が、1つまたは複数のビタミン、トコフェロール 、レチノール、レチノイド、および脂溶性生体適合性物質を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1の方法によって作成されるような薬剤被覆医療デバイス。
【請求項15】
医療デバイスを薬剤で被覆するための装置であって、
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に前記医療デバイスを保持するための手段と、
溶液コーティングを形成するために、前記真空チャンバ内で前記医療デバイスの表面に前記薬剤の溶液をパルス噴霧するための手段と、
薬剤コーティングを形成する目的で前記溶液コーティングから溶剤を蒸発させるために、前記真空チャンバ内で減圧を行うための真空生成手段と、
前記薬剤コーティングの少なくとも一部をガスクラスタイオンによって照射するように適合された、前記真空チャンバ内にガスクラスタイオンビームを導入するための手段とを備える装置。
【請求項16】
前記保持手段、前記パルス噴霧手段および前記導入手段が、前記医療デバイスの表面を完全にコーティングするように構築され適合される、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
各噴霧パルスによる前記溶液コーティングから溶剤を蒸発させるために、蒸発期間によって分離された1シーケンスの前記溶液の噴霧パルスを生じさせるように適合された制御手段をさらに備える、請求項15に記載の装置。
【請求項18】
前記制御手段がさらに、薬剤コーティングの連続する層が前記ガスクラスタイオンビームによって別々に照射されるように適合される、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記噴霧手段が、制限された前記溶剤の蒸発によってのみ前記医療デバイスに対して前記溶液を送達するように適合される、請求項15に記載の装置。
【請求項20】
薬剤と、溶離遅延剤とを備える少なくとも1回GCIB照射された薬剤コーティングを有する薬剤剤被覆医療デバイス。
【請求項21】
前記コーティングが、1つまたは複数の層を含み、さらに前記薬剤および前記溶離遅延剤が同一の層内または別個の層内のいずれかに含まれる、請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
前記溶離遅延剤が、1つまたは複数のビタミン、トコフェロール 、レチノール、レチノイド、および脂溶性生体適合性物質を含む、請求項20に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−501984(P2011−501984A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527252(P2010−527252)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/078429
【国際公開番号】WO2009/046093
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(508216552)エクソジェネシス コーポレーション (7)
【Fターム(参考)】