説明

医療装置

【課題】 患者への負担を増加することなく、低侵襲な外科手術が行えると共に、体内に固定設置された医療機器の向きを所望の方向へ自在に変更できる医療装置を実現すること。
【解決手段】 医療装置1は、体腔101内に導入され、被姿勢制御部44を有する医療機器4と、この医療機器を体腔内の体壁102に固定するための固定部42と、医療機器と固定部との間に介装され、固定部に対して医療機器を可動自在に連結した可動部66と、体外に設置され、固定部に対して医療機器を可動させる姿勢制御部22を有する体外装置3と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内に固定される医療機器を備え、特に、この医療機器の向きを体外から可動自在とした医療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、医療機器である内視鏡は、撮像装置を備えており、患者の体腔内へ導入されて、撮像装置によって撮影された観察像により、体内患部の各種検査、各種処置などを行うためのものである。
【0003】
このような内視鏡には、体内の管腔管路である、食道、胃、大腸、十二指腸などの消化臓器内に肛門、或いは口腔から導入するものや、臍部近傍から体壁を穿刺して貫通して、腹腔内へ導入するものがある。一般に内視鏡は、長尺な挿入部を有しており、この挿入部が消化器管路内、或いは腹腔内に挿入される。
【0004】
ところで、近年において、挿入部の導入による患者への苦痛を軽減するため、例えば、特許文献1に記載のようなカプセル型医療装置が提案されている。この特許文献1には、体外からの回転磁場を受けて、回転しながら管腔内の目的部位まで到達可能とするカプセル型内視鏡装置の技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−237979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のカプセル型内視鏡装置は、管腔管路内では有効的な技術であって、腹腔内の内視鏡観察において、この従来のカプセル型内視鏡装置の技術を転用することは困難とされる。
【0006】
つまり、腹腔内に内視鏡を導入する従来の手技には、例えば、低侵讐のため大きく開腹することなく、観察用の内視鏡を体腔内に導くトラカールと、処置具を処置部位に導くトラカールとを患者の腹部に穿刺して、内視鏡で処置具と処置部位とを観察しながら治療処置を行う外科手術、所謂、腹腔鏡下外科手術が行われる。この手法では、内視鏡で処置部位を詳細に観察できる反面、観察できる視野の範囲が比較的狭いという問題がある。そのため、通常の内視鏡の他に、腹腔内の治療部位全体を広範囲に観察できるように、広角視野範囲が設定された広角観察用の内視鏡などの撮像装置を併用することが好ましい。
【0007】
しかし、通常の内視鏡に加え、さらに、体壁である腹壁にトラカールを穿刺して、腹腔内を広角に観察する内視鏡を用いて腹腔鏡下外科手術を行うと、患者の腹壁に複数のトラカールを穿刺しなければならない。これでは、患者に今までよりも負担をかけてしまい、低侵襲な腹腔鏡下外科手術ではなくなってしまうという問題がある。
【0008】
また、腹腔内全体を広範囲に観察できる撮像装置は、撮影する領域のうち、治療部位が画像の中央に位置した状態、及び通常の内視鏡の観察画像の上下左右方向と略同一な方向で観察する状態で固定したほうが、術者に画面上の違和感を与えない。
【0009】
このように、通常の内視鏡とは別に腹腔内に導入される撮像装置は、所望の観察方向を可変できるようにすることが好ましい。
【0010】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは患者への負担を増加することなく、低侵襲な外科手術が行えると共に、体内に固定設置された医療機器の向きを所望の方向へ自在に変更できる医療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく、本発明の医療装置は、体腔内に導入され、被姿勢制御部を有する医療機器と、該医療機器を上記体腔内の体壁に固定するための固定部と、上記医療機器と上記固定部との間に介装され、該固定部に対して該医療機器を可動自在に連結した可動部と、体外に設置され、上記固定部に対して上記医療機器を可動させる姿勢制御部を有する体外装置と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、患者への負担を増加することなく、低侵襲な外科手術が行えると共に、体内に固定設置された医療機器の向きを所望の方向へ自在に変更できる医療装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。尚、以下の説明において、例えば、腹腔鏡下外科手術を行う医療装置を例示する。
(第1の実施の形態)
先ず、腹腔鏡下外科手術に用いられる本発明の医療装置である内視鏡システムについて、以下に説明する。尚、図1から図19は本発明の第1実施形態に係り、図1は医療装置である内視鏡システムの構成を示す図、図2は体外装置の構成を示す断面図、図3は体外装置の構成を示す上面図、図4は腹腔内設置カメラの構成を示す断面図、図5は図4のV−V断面図、図6は患者の腹壁にトラカールが穿刺された状態を示す図、図7は体外装置に穿刺針を挿入した状態を示す断面図、図8は腹腔内設置カメラを腹腔内へ導入する手順を説明するための図、図9は穿刺針を腹壁に穿刺して、腹腔内設置カメラのワイヤを掛止した状態を示し、腹腔内設置カメラを腹腔内へ導入する手順を説明するための図、図10は腹腔内設置カメラのワイヤを掛止した穿刺針を引き上げた状態を示し、腹腔内設置カメラを腹壁へ固定する手順を説明するための図、図11は穿刺針を引き上げると共に、体外装置を穿刺針に沿って下ろす状態を示し、腹腔内設置カメラを腹壁へ固定する手順を説明するための図、図12は図11の状態における体外装置の断面図、図13は体外装置が腹部上に設置され、腹腔内設置カメラが腹壁へ固定された状態を示す図、図14は図13の状態における体外装置、及び腹腔内設置カメラの断面図、図15は腹腔内設置カメラが腹壁へ固定された状態を示す内視鏡システムの全体構成図、図16は体外装置の操作により腹腔内設置カメラが軸周りに回転可動する作用を説明するための断面図、図17は体外装置の操作により腹腔内設置カメラが軸に対して角度を有して回転可動する作用を説明するための断面図、図18は体外装置を腹腔内設置カメラのワイヤから抜き取る手順を説明するための断面図、図19は腹腔内設置カメラを腹腔から取り出す手順を説明するための図である。
【0014】
図1に示すように、腹腔鏡下外科手術を行う本実施の形態の内視鏡システム1は、第1の撮影装置である硬性鏡2と、体外側姿勢制御装置である体外装置3と、第2の撮影装置であると共に、撮像装置である非常に小型な腹腔内設置カメラ(以下、カメラと略記する)4と、光源装置5と、画像処理回路が内蔵された信号処理装置であるカメラコントロールユニット(以下、CCUと略記する)6と、このCCU6に通信ケーブル13によって接続され、観察画像を表示する表示装置7と、により主に構成されている。
【0015】
光源装置5は、硬性鏡2の備える照明光学系に照明光を供給する。光源装置5と硬性鏡2とは光源ケーブル10によって着脱自在に接続される。
硬性鏡2は、硬質な挿入部8と、この挿入部8の基端に連接された操作部9とから主に構成されている。硬性鏡2の挿入部8は、内部にイメージガイド、及びライトガイドバンドルが挿通されており、先端面にイメージガイドを介して被写体像を後述の硬性鏡用カメラへ集光する撮影光学系、及びライトガイドバンドルからの照明光を被写体へ向けて照射する照明光学系が配設されている。
【0016】
硬性鏡2の操作部9には、CCD、CMOS等の固体撮像素子が配された、図示しないカメラヘッドが内蔵されている。光源装置5から光源ケーブル10を介して硬性鏡2に供給された照明光によって照明された観察部位の光学像は、挿入部8のイメージガイドを介して操作部9内のカメラヘッドで撮像される。この硬性鏡用カメラは、撮像した光学像を撮像信号に光電変換して、その撮像信号が撮像ケーブル11を介してCCU5へ伝送される。尚、本実施の形態の硬性鏡2は、その撮影可能な画角α(図15参照)が例えば、70°〜75°となるように、撮像光学系が設定されている。
【0017】
このCCU5は、伝送された画像信号を映像信号に生成して表示装置7に出力する。表示装置7は、例えば、液晶ディスプレイであって、CCU5から出力された映像信号を受けて、硬性鏡2による通常観察画像、及びカメラ4による広角観察画像を画面上にマルチ2画面表示、或いは個別に切り替え表示する。また、CCU5は、体外装置3と電気ケーブル12により着脱自在に接続されている。
【0018】
次に、体外装置3について、図2、及び図3を用いて、以下に詳しく説明する。
体外装置3は、図2、及び図3に示すように、筐体21内に受信機31を有し、非磁性材から形成された筐体21に球体の一部分が切り欠かれた形状の体外姿勢制御部である体外側姿勢可変部22が自由に回転自在に設けられている。
体外側姿勢可変部22は、プラスチック等の非磁性材である合成樹脂から形成された球体に、中心を通り、貫通する孔部23が形成され、一部、ここでは下部側が平面となるように切り欠かれた平面部24を有している。この体外側姿勢可変部22内には、孔部23の周囲に円筒状の体外側強磁性部材である体外側永久磁石25が配設されている。この体外側永久磁石25は、孔部23に沿った平面でN極とS極が磁性区分けされている。
【0019】
この体外側姿勢可変部22は、筐体21の上部で開口するように略同一な球形状に形成された球状凹部26内で可動フリーとなるように配置されている。つまり、体外装置3は、姿勢可変部22が筐体21に対して、回転可動自在な、所謂、トラックボール機構が構成されている。
【0020】
筐体21には、球状凹部26の中央下部で連通し、体外側姿勢可変部22の中心位置の延長線上にワイヤ挿通孔27が下面で開口するように形成されている。また、筐体21には、ワイヤ挿通孔27に連通して、後述するワイヤ固定レバー32がスライド自在に横方向に形成され、一側面、ここでは右側面にて開口したスライド穴部28が形成されている。さらに、筐体21には、球状凹部26に連通し、後述する姿勢位置固定ネジ35が螺合し、他側面、ここでは左側面にて開口したネジ孔29が形成されている。
【0021】
筐体21のスライド穴部28には、付勢バネ34が端面に固定された非磁性材から形成されたワイヤ固定レバー32が挿通配置されている。このワイヤ固定レバー32は、略直方体形状をしており、筐体21のワイヤ挿通孔27に、筐体21の内部方向へスライドすることで、連通する孔部33が形成されている。
【0022】
筐体21のネジ孔29に螺合される非磁性材から形成される姿勢固定部である姿勢位置固定ネジ35は、ネジ孔29への螺合量が多くなると、体外側姿勢可変部22と筐体21内の端面が当接し、球状凹部26内での体外側姿勢可変部22の可動を制動する。
【0023】
次に、カメラ4について、図4、及び図5を用いて、以下に詳しく説明する。
カメラ4は、図4、及び図5に示すように、カメラ本体41と腹壁固定部42が連設して主に構成されている。
【0024】
カメラ本体41は、所謂、カプセル型の撮像ユニット43と、被姿勢制御部である体内側姿勢可変部44と、を有して構成されている。
撮像ユニット43は、先端側(図4では下方)に略ドーム状の透明フード51と、この透明フード51が一面を気密に封止するように配設される非磁性材から形成されたカメラ筐体52と、によって外形が形成されている。
【0025】
カメラ筐体52には、透明フード51側の一面に照明光の光源となる、複数、ここでは2つの照明部である白色LED53が配設され、該一面の略中央に形成されたレンズ保持孔に保持された対物レンズ群54と、この対物レンズ群54により撮影光が集光される位置に受光部が配置された、CCD、C−MOS等の固体撮像素子ユニット55が設けられている。
【0026】
また、カメラ筐体52内には、送信機57が配設され、この送信機57、白色LED53、及び固体撮像素子ユニット55への給電を行うバッテリ56が内蔵されている。尚、本実施の形態のカメラ本体41の機能部は、その撮影可能な画角β(図15参照)が例えば、90°以上となるように、広角な視野範囲を撮像する撮像光学系が設定されている。尚、固体撮像素子ユニット55により光電変換された画像信号は、送信機57から体外装置3の受信機31に無線伝送される。
【0027】
体内側姿勢可変部44は、カメラ筐体52の基端(図4では上端)に嵌合される外形が略円柱形状の非磁性材から形成された本体部61と、この本体部61の基端面中央から同一材により形成された首部62aが延出し、この首部62aの延出端に一体形成された球体部62と、この球体部62を回転保持する非磁性材から形成された球体受部64を有して構成されている。
【0028】
本体部61には、円柱状の体内側強磁性部材である体内側永久磁石63が内蔵され、この体内側永久磁石63は、図5に示すように、本体部61の中心に沿った平面でN極とS極が磁性区分けされている。
【0029】
球体受部64は、球体部62を収容して回転自在に保持する凹部65が形成されている。これにより、球体受部64内で球体部62が回転自在に保持された可動部を構成するボールジョイント部66が構成される。
【0030】
腹壁固定部42は、例えば、シリコンゴム等の柔軟な弾性部材から形成され、球体受部64の基端部に嵌着された接続部71と、この接続部71の後端部に吸盤72と、を有して構成されている。また、腹壁固定部42は、吸盤72の表面略中央にて円筒状に突起した凸部73と、この凸部73の孔部と連通するように、接続部71の中央部に貫通孔74が形成されている。
【0031】
腹壁固定部42の貫通孔74には、所定の長さを有した吊り上げ用のワイヤ45が挿通し、このワイヤ45の一端部にカシメにより接続された連結部75が設けられている。連結部75は、球体受部64の基端面中央に嵌合固定される。すなわち、ワイヤ45は、吸盤72の中央から延出するように設けられている。
【0032】
以上のように構成された本実施の形態の内視鏡システム1は、腹腔鏡下外科手術に用いられ、患者の体腔の1つである腹腔内の治療に用いられる。
ここで、腹腔鏡下外科手術のため、本実施の形態の内視鏡システム1が患者の体腔である腹腔へ設置する手順、及び作用について、図6〜図19を用いて、以下に詳しく説明する。
【0033】
先ず、術者は、患者100の腹壁102にメスなどにより2箇所に小さな切開部を処置し、図6に示すように、これら切開部にトラカール110,111を穿刺する。尚、術者は、ここでは硬性鏡2を腹腔101内へ導入するためのトラカール110から所定に離間する別の場所にて、腹壁102を切開などして、把持鉗子等の処置具120を腹腔101内へ導入するためのトラカール111を腹腔101内へ穿刺する。
【0034】
また、術者は、図7に示すように、体外装置3の体外側姿勢可変部22に設けられた孔部23に穿刺針90の挿入部93を挿入する。このとき、術者は、穿刺針90が体外装置3を貫通するように、ワイヤ固定レバー32を筐体21内に押し込み、ワイヤ固定レバー32の孔部33に穿刺針90の挿入部93が貫通するように挿入する。
【0035】
術者は、体外装置3が十分に穿刺針90の手元側(図7では上部側)に位置して体外装置3の下面から挿入部93を十分に突出させる。この状態において、体外装置3は、ワイヤ固定レバー32に付勢バネ34の付勢力によって、ワイヤ固定レバー32の孔部33の壁面が穿刺針90の挿入部93が当接して抑えることで、穿刺針90から抜け落ちないようになっている。尚、この穿刺針90は、針部91に切り欠き形成された掛止部92を有している。
【0036】
次に、術者は、図8に示すように、トラカール110を介して、硬性鏡2の挿入部8を腹腔101内に挿入する。そして、術者は、トラカール111を介して把持鉗子等の処置具120によって把持したカメラ4を腹腔101内に挿入する。このとき、術者は、硬性鏡2による画像を確認しながら、カメラ4を腹腔101内に挿入すると良い。
【0037】
また、カメラ4は、トラカール111を介して腹腔101内へ導入されるとき、吸盤72の表面略中央にて円筒状に突起した凸部73を把持鉗子等の処置具により把持される。この凸部73は、吸盤72の密着表面の略中央に設けられているため、カメラ4をバランス良く処置具により把持し易い構成となる。これにより、術者は、カメラ4を腹腔内に導入の際に、トラカール111へ挿入し易い、つまり、トラカール111にカメラ4が引っ掛からないように容易に腹腔101へ導入することができる。
【0038】
次に、術者は、図9に示すように、硬性鏡2による画像を確認しながら、体外装置3を保持した穿刺針90が腹壁102を貫通するように穿刺する。そして、術者は、硬性鏡2による画像を見ながら、穿刺針90の針部91に形成された掛止部92をカメラ4のワイヤ45に引っ掛ける。
【0039】
その後、術者は、図10に示すように、針部91の掛止部92にワイヤ45を掛止した状態で、穿刺針90を腹腔101から体外(図10のUP方向)へ引き抜く。そして、術者は、図11に示すように、穿刺針90を腹腔101から引き抜くと共に、体外装置3を患者100の腹部方向(図11のDOWN方向)へ穿刺針90の挿入部93に対して相対移動させて、体外側姿勢可変部22に設けられた孔部23にワイヤ45が貫挿するまで穿刺針90を牽引する。
【0040】
このとき、術者は、体外装置3のワイヤ固定レバー32を筐体21内側へ押し込むことで、容易に体外装置3を穿刺針90の挿入部93に対して相対的にスライドさせることができる。そして、術者は、体外側姿勢可変部22の孔部23にワイヤ45が貫挿したら、図12に示すように、ワイヤ45自体を牽引しながら(図12のUP方向)、体外装置3を患者100の腹部方向(図12のDOWN方向)へ、今度はワイヤ45に対して相対移動させる。
【0041】
つまり、術者は、体外装置3のワイヤ固定レバー32を筐体21内側へ押し込む(図12のF方向)状態を維持することで、容易に体外装置3を穿刺針90の挿入部93、及びカメラ4のワイヤ45に対して相対的にスライドさせることができる。
【0042】
そして、術者は、図13に示すように、体外装置3が患者100の腹部上に載置した状態で、体外装置3とカメラ4が腹壁102を挟んだ状態となるまで、カメラ4のワイヤ45を牽引する。このとき、術者は、硬性鏡2による画像から、図14に示すように、カメラ4の吸盤72が腹壁102内面に吸着したのを確認したら、体外装置3のワイヤ固定レバー32の押し込みを開放する。
【0043】
すると、体外装置3のワイヤ固定レバー32は、付勢バネ34の付勢力を受けて移動し、孔部33が筐体21のワイヤ挿通孔27とずれた状態となり、これら孔部33、及びワイヤ挿通孔27に挿通しているワイヤ45が挟まれた状態となり、筐体21に固定される。これにより、体外装置3とカメラ4とが腹壁102を挟んだ状態で固定される。
【0044】
こうして、図15に示すように、カメラ4が患者100の腹腔101内に、しっかりと安定した状態で設置され、本実施の形態の内視鏡システム1により、腹腔鏡下外科手術が行われる。なお、例えばトラカール110には、図示しない気腹チューブの一端部が取り付けられ、腹腔内には硬性鏡2の視野を確保する目的、及び手術機器等を操作するための領域を確保する目的で気腹用気体として、例えば二酸化炭素ガスなどを注入されている。そして、術者は、図15に示すように、カメラ4を腹腔101内で腹壁102に吸着させて留置する状態で、トラカール110に硬性鏡2、及びトラカール111に処置具120を挿通して、腹腔鏡下外科手術を行う。
【0045】
次に、本実施の形態の内視鏡システム1の体外装置3とカメラ4の作用について、図16、及び図17を用いて詳しく説明する。
カメラ4は、図16に示すように、体外装置3の体外側姿勢可変部22が中心を通る孔部23に平行な軸A回り(図中のR方向)に回転されると、体外側永久磁石25の磁力を受ける体内側永久磁石63が追従して、長手軸a回り(図中のr方向)に回転可動する。
【0046】
すなわち、体内側永久磁石63は、そのS極が体外側永久磁石25のN極へ、一方、体内側永久磁石63のN極が体外側永久磁石25のS極へ引き寄せられる磁力を常に受けている。そのため、カメラ4のカメラ本体41は、体外側姿勢可変部22の軸A回りの回転に追従して、ボールジョイント部66の球体部62の中心が支点となって回転する。
【0047】
そのため、術者は、体外装置3の体外側姿勢可変部22の操作により、カメラ本体41を回転させることができるため、撮像ユニット43により撮像した表示装置7に表示される画像を回転させて、腹腔内の上下左右の表示位置を調整することができる。つまり、術者は、体外装置3の体外側姿勢可変部22の操作により、磁力による無接点にて、硬性鏡2の上下左右の撮影画像に合わせて、カメラ4の上下左右の撮影画像を変更することができる。従って、術者は、硬性鏡2とカメラ4により撮影された2つの表示される画像の上下左右方向を一致させることができるため、表示装置7上での違和感を受けることが防止される。
【0048】
また、カメラ4は、図17に示すように、体外装置3の体外側姿勢可変部22が左右方向(図中のR方向)に所定の角度γで回転されると、体外側永久磁石25の磁力を受ける体内側永久磁石63が引き寄せられ、左右方向(図中のr方向)に所定の角度δで傾倒可動する。これら所定の角度γ,δは、カメラ4のカメラ本体41の質量、体外側永久磁石25と体内側永久磁石63の磁力の強弱等により決定されるものである。
【0049】
つまり、体外側永久磁石25のS極が回転により近づくと、体内側永久磁石63は、N極側への引き寄せられる磁力が増大する。このとき、体外側永久磁石25のN極が回転により遠ざかっているため、体内側永久磁石63は、S極側への引き寄せられる磁力が減少する。そのため、カメラ4のカメラ本体41は、体外側姿勢可変部22の左右の所定の回転角度γに追従して、ボールジョイント部66の球体部62の中心が支点となって所定の角度δで傾倒する。
【0050】
そのため、術者は、体外装置3の体外側姿勢可変部22の操作により、磁力による無接点にて、カメラ本体41を傾倒させることができるため、撮像ユニット43により撮像した表示装置7に表示される画面内で処置する患部を略中央にしたり、処置し易い位置にしたりと、表示位置を調整することができる。つまり、術者は、カメラ4による腹腔101内の撮影方向を変更することができる。
尚、術者は、姿勢位置固定ネジ35を筐体21へねじ込んで、体外側姿勢可変部22を固定することで、カメラ4による所望の観察方向を固定することができる。
【0051】
そして、術者は、腹腔鏡下外科手術を終えると、図18に示すように、体外装置3のワイヤ固定レバー32を筐体21内側へ押し込みながら、体外装置3をワイヤ45から引き抜く。そして、術者は、図19に示すように、腹腔101内のカメラ4を把持鉗子等の処置具120で把持して、トラカール111を介して、腹腔101から体外へ取り出す。
【0052】
以上に述べた各実施の形態の内視鏡システム1によれば、体腔内、ここでは腹腔101内の体内組織が広角を含む多視点で観察することができ、例えば、大きな臓器の手術、或いは大腸切除の際の切除ライン全体を容易に把握できる。また、内視鏡システム1は、拡大観察用の硬性鏡2とは別に腹腔101内に導入されるカメラ4の視野方向を容易に可変することができると共に、その視野方向を固定することができる。そのため、本発明の内視鏡システム1を使用することで、腹腔鏡下外科手術による処置が容易となる。
【0053】
体外装置3は、体外側永久磁石25を除く、主な構成要素となる筐体21、体外側姿勢可変部22、ワイヤ固定レバー32が非磁性材で形成されている。また、カメラ4は、体内側永久磁石63を除く、腹壁固定部42、及び体内側姿勢可変部44の構成要素が非磁性材で形成されている。つまり、体外装置3の体外側永久磁石25とカメラ4の体内側永久磁石63との間に設けられる各構成要素が非磁性材により形成されている。これにより、カメラ4が体外装置3による姿勢可変操作のための各永久磁石25,63の磁性に影響を与えないようにした構成となっている。
【0054】
(第2の実施の形態)
次に、図20、及び図21を用いて、本発明の内視鏡システムに係る第2の実施の形態について、以下に説明する。尚、図20、及び図21は、本発明の第2の実施の形態に係り、図20は薬剤噴霧装置の構成を示す図、図21は薬剤噴霧装置が腹壁へ固定された状態を示す内視鏡システムの全体構成図である。また、以下の説明において、上述した第1の実施の形態の内視鏡システム1と同一の構成について同じ符号を用い、それら構成の詳細な説明を省略する。
【0055】
本実施の形態では、腹腔101内に設置される医療機器を第1の実施の形態の腹腔内設置カメラ4に変えて、腫瘍特異性のある薬剤を体内組織に噴霧する機能部を備えた薬剤噴霧装置80とした例示である。
【0056】
図19に示すように、本実施の形態の薬剤噴霧装置80は、体内側姿勢可変部44に薬剤噴霧装置本体部81が設けられている。この薬剤噴霧装置本体部81は、先細なノズル形状の筐体82と、この筐体82内に設けられた、受信機84、この受信機84からの信号が入力されて駆動する制御部85、制御部85により駆動制御され、薬液噴霧路83に介装されたマイクロポンプ86、及び筐体82に着脱自在なカートリッジタイプであって、薬液が貯留されたタンク87を有して構成されている。尚、受信機84、制御部85、及びマイクロポンプ86は、図示しないバッテリにより電力が供給される。
【0057】
このように構成された薬剤噴霧装置80は、第1の実施の形態と同様にして、図21に示すように、腹腔101内に導入され、腹壁102に固定される。そして、薬剤噴霧装置80は、体外装置3により、所望の方向へ薬剤の噴射方向が可変され、タンク87内の腫瘍特異性のある薬剤を病変部130に向けて噴霧する。
【0058】
つまり、体外装置3には、図示しない送信機が設けられ、この送信機からの指示信号が薬剤噴霧装置80の受信機84に無線伝送される。すると、受信機84は、制御部85へ指示信号を出力し、制御部85がマイクロポンプ86を駆動制御する。
【0059】
以上から、本実施の形態の内視鏡システム1は、腹腔101内の薬剤噴霧装置80を無接点にて、体外の体外装置3を用いて、薬剤の噴霧方向を可変操作できる構成となる。
【0060】
尚、図示しないが噴霧方向を確認できるようにして噴霧の精度を上げるため照準機構(レーザポインタなど)を薬剤噴霧装置80に組み込んでも良い。
【0061】
尚、上述の各実施の形態に記載の腹腔101内の腹壁102に固定設置される医療機器は、腹腔内設置カメラ4、或いは薬剤噴霧装置80を例示したが、図22に示すように、例えば、腹腔101内の患部140を拡大観察できる撮像装置95でも良い。尚、図22は、拡大観察のできる機能部を備えた撮像装置が腹壁へ固定された状態を示す内視鏡システムの全体構成図である。
【0062】
また、体外装置3と腹腔101内の各種医療機器(腹腔内設置カメラ4,薬剤噴霧装置80,撮像装置95等)の機能部への各種信号の授受は、受信機、送信機による無線伝送を例示したが、各種医療機器のワイヤ45を伝送ケーブルに変えて、直接、この伝送ケーブルをCCU6に接続する構成としても良い。
【0063】
さらに、硬性鏡2、腹腔内設置カメラ4、撮像装置95等の画像処理するCCU6、及び表示装置7は、1つに限定することなく、夫々、使用する観察のための医療機器の個数に合わせた複数の構成としても良い。
【0064】
以上に述べた実施の形態の体外装置3の操作により、腹腔101内に設置される各種医療機器(腹腔内設置カメラ4,薬剤噴霧装置80,撮像装置95等)の視野方向、噴霧方向等を可変できる機構は、上述した、永久磁石25,63の構成に限定することなく、例えば、周知技術である、特開2007−215583号公報に記載の磁界発生装置を用いても良い。
【0065】
この特開2007−215583号公報に記載の磁界発生装置は、回転台に配される一対の磁界発生部を備えた磁界発生ユニットを有し、回転台の回転位置、及び一対の磁界発生部の回転位置の組み合わせによる三次元磁場制御を行う構成となっている。このような磁界発生ユニットの公知技術を本実施の形態に記載の体外装置3の操作により、腹腔101内に設置される各種医療機器(腹腔内設置カメラ4,薬剤噴霧装置80,撮像装置95等)の視野方向、噴霧方向等を可変できる機構に転用しても良い。
【0066】
以上の実施の形態に記載した発明は、その実施の形態、及び変形例に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記実施の形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得るものである。
【0067】
例えば、実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題が解決でき、述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得るものである。
【0068】
尚、以上に記載した医療装置である内視鏡システム1は、以下に記載の付記の特徴を備えている。
【0069】
(付記1)
腹腔内に導入される第1の撮像装置と、
該第1の撮像装置とは異なる腹腔内に挿入される第2の撮像装置と、
該第2の撮像装置を腹腔内の腹壁に固定するための固定部と、
上記第2の撮像装置と上記固定部との間に配設され、該第2の撮像装置と該固定部とを回転自在に保持する保持部と、
該保持部により上記第2の撮像装置の上記固定部に対する姿勢位置を体外から無接触で可変する体外装置と、
を備えることを特徴とする医療装置。
【0070】
(付記2)
上記第2の撮影装置には、第1の強磁性体が設けられ、
上記体外装置には、回転自在に保持された、上記第1の強磁性体を引き寄せる第2の磁性体が設けられ、
該第2の磁性体の回転操作に追従して、上記第2の撮像装置の上記固定部に対する回転位置が可変されることを特徴とする付記1に記載の医療装置。
【0071】
(付記3)
上記体外装置には、上記第2の磁性体の回転位置を固定して、上記第2の撮像装置の上記固定部に対する姿勢位置を固定する固定部を備えていることを特徴とする付記2に記載の医療装置。
【0072】
(付記4)
上記第1の強磁性体と上記第2の強磁性体の間に配設される上記体外装置と上記第2の撮像装置の夫々の構成要素は、非磁性材から形成されていることを特徴とする付記2、又は付記3に記載の医療装置。
【0073】
(付記5)
付記1に記載の医療装置の患者への設置手順であって、
上記第1の撮像装置を腹腔内へ第1のトラカールを介して導入し、
上記第2の撮像装置を上記腹腔内へ第2のトラカールを介して、処置具を用いて導入し、
上記体外装置に挿通した穿刺針を腹部の所定の位置で体表から上記腹腔内へ穿刺し、
上記穿刺針を上記第2の撮像装置に接続されたワイヤに掛止した状態で、上記腹部の体表側へ引き上げ、
上記ワイヤを上記体外装置に挿通するように、上記穿刺針を該体外装置から抜き取り、
上記固定部が腹壁に接触させて固定するまで、上記ワイヤを牽引すると共に、該ワイヤに沿って、上記体外装置を上記腹部体表へ載置する。
【0074】
(付記6)
付記5の手順で設置された医療装置の第2の撮像装置を腹腔内から取り出す手順であって、
上記体外装置を上記第2の撮像装置の上記ワイヤに沿って、上記腹部の体表から離反する方向に移動し、
上記ワイヤを上記体外装置から抜き取り、
上記第2のトラカールを介して、上記処置具を用いて上記第2の撮像装置を上記腹腔内から体外へ取り出す。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る医療装置である内視鏡システムの構成を示す図
【図2】同、体外装置の構成を示す断面図
【図3】同、体外装置の構成を示す上面図
【図4】同、腹腔内設置カメラの構成を示す断面図
【図5】同、図4のV−V断面図
【図6】同、患者の腹壁にトラカールが穿刺された状態を示す図
【図7】同、体外装置に穿刺針を挿入した状態を示す断面図
【図8】同、腹腔内設置カメラを腹腔内へ導入する手順を説明するための図
【図9】同、穿刺針を腹壁に穿刺して、腹腔内設置カメラのワイヤを掛止した状態を示し、腹腔内設置カメラを腹腔内へ導入する手順を説明するための図
【図10】同、腹腔内設置カメラのワイヤを掛止した穿刺針を引き上げた状態を示し、腹腔内設置カメラを腹壁へ固定する手順を説明するための図
【図11】同、穿刺針を引き上げると共に、体外装置を穿刺針に沿って下ろす状態を示し、腹腔内設置カメラを腹壁へ固定する手順を説明するための図
【図12】同、図11の状態における体外装置の断面図
【図13】同、体外装置が腹部上に設置され、腹腔内設置カメラが腹壁へ固定された状態を示す図
【図14】同、図13の状態における体外装置、及び腹腔内設置カメラの断面図
【図15】同、腹腔内設置カメラが腹壁へ固定された状態を示す内視鏡システムの全体構成図
【図16】同、体外装置の操作により腹腔内設置カメラが軸周りに回転可動する作用を説明するための断面図
【図17】同、体外装置の操作により腹腔内設置カメラが軸に対して角度を有して回転可動する作用を説明するための断面図
【図18】同、体外装置を腹腔内設置カメラのワイヤから抜き取る手順を説明するための断面図
【図19】同、腹腔内設置カメラを腹腔から取り出す手順を説明するための図
【図20】本発明の第2の実施の形態に係る医療機器の薬剤噴霧装置の構成を示す断面図
【図21】同、薬剤噴霧装置が腹壁へ固定された状態を示す内視鏡システムの全体構成図
【図22】変形例を示し、拡大観察のできる撮像装置が腹壁へ固定された状態を示す内視鏡システムの全体構成図
【符号の説明】
【0076】
1…内視鏡システム
2…硬性鏡
3…体外装置
4…腹腔内設置カメラ
5…光源装置
6…CCU
7…表示装置
22…体外側姿勢可変部
25…体外側永久磁石
31…受信機
42…腹壁固定部
43…撮像ユニット
44…体内側姿勢可変部
57…送信機
62…球体部
63…体内側永久磁石
64…球体受部
65…凹部
66…ボールジョイント部
72…吸盤
100…患者
101…腹腔
102…腹壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔内に導入され、被姿勢制御部を有する医療機器と、
該医療機器を上記体腔内の体壁に固定するための固定部と、
上記医療機器と上記固定部との間に介装され、該固定部に対して該医療機器を可動自在に連結した可動部と、
体外に設置され、上記固定部に対して上記医療機器を可動させる姿勢制御部を有する体外装置と、
を具備することを特徴とする医療装置。
【請求項2】
上記被姿勢制御部、及び上記姿勢制御部の夫々には、強磁性体が配設され、
該強磁性体の互いの磁力によって、上記医療機器の姿勢を可変することを特徴とする請求項1に記載の医療装置。
【請求項3】
上記強磁性体は、永久磁石であることを特徴とする請求項2に記載の医療装置。
【請求項4】
上記可動部は、球体と、該球体を所定の角度で回転自在に保持する保持部から構成されたボールジョイントであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の医療装置。
【請求項5】
上記医療機器は、体外から制御可能な機能部を備えていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の医療装置。
【請求項6】
上記医療機器は、送信機、或いは受信機を備え、体外からの無線信号により上記機能部を制御することを特徴とする請求項5に記載の医療装置。
【請求項7】
上記医療機器は、撮像装置であることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載の医療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−72368(P2009−72368A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244206(P2007−244206)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【Fターム(参考)】