半導体を製造する工程で使用するシリカガラス治具
【課題】使用時に半導体素子を汚染するパーティクルの発生がなく、かつ使用を重ねても処理条件を変動することがないシリカガラス治具を提供する。
【解決手段】半導体を製造する工程で使用するシリカガラス治具において、その表面の一部又は全部に中心線平均粗さRaが0.1〜20μmの凹凸が存在し、前記凹凸が、大柄な波状の凹凸とその表面に存在する微細な浅いお椀状の凹部とからなる多層構造で、しかも前記お椀状の凹部の底の深さが凹部の縁径より小の浅さで凹部間の縁には鋭角な凸がなく、かつ、濃度3.0〜4.0%で液温が17〜23℃のフッ化水素水溶液にて15〜17時間エッチングした時の表面と、エッチング処理しない時の表面とを触針部先端のRが2〜10μmの範囲にある触針式表面粗さ測定装置を用いてJISB0601に基づき測定した時の中心線平均粗さRaの変化率が50%以下であることを特徴とするシリカガラス治具。
【解決手段】半導体を製造する工程で使用するシリカガラス治具において、その表面の一部又は全部に中心線平均粗さRaが0.1〜20μmの凹凸が存在し、前記凹凸が、大柄な波状の凹凸とその表面に存在する微細な浅いお椀状の凹部とからなる多層構造で、しかも前記お椀状の凹部の底の深さが凹部の縁径より小の浅さで凹部間の縁には鋭角な凸がなく、かつ、濃度3.0〜4.0%で液温が17〜23℃のフッ化水素水溶液にて15〜17時間エッチングした時の表面と、エッチング処理しない時の表面とを触針部先端のRが2〜10μmの範囲にある触針式表面粗さ測定装置を用いてJISB0601に基づき測定した時の中心線平均粗さRaの変化率が50%以下であることを特徴とするシリカガラス治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造工程で使用されるシリカガラス治具、さらに詳しくは表面に細な凹凸があるとともに軽微な表層エッチングに対して表面状態の変化が小さいシリカガラス治具に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカガラス治具は半導体素子の製造における拡散工程、気相成長工程、エッチング・アッシング工程などの様々な工程で使用されている。このシリカガラス治具の表面はサンドブラストや研削加工といった処理が施され凹凸をもった不透明に仕上げられたり、或は鏡面研摩や焼き仕上げと呼ばれる火炎研摩等で平滑で透明に仕上げられたものなど、用途などにより適宜選択されているが、洗浄などが容易で汚れにくい透明に仕上げられた表面を有する治具が多く使用されている。中でも、拡散工程、気相成長工程、特に気相成長工程ではCVD(Chemical
Vapor Deposition)法などで半導体素子に例えばポリシリコン膜を成長させるが、その際透明仕上げされたシリカガラス治具にもポリシリコン膜が副生成物として堆積し、それが剥離しパーティクルとなって半導体素子を汚染することが起こる。そのため、副生成物を定期的 に除去する必要があった。その除去にはフッ化水素酸及び硝酸を含む溶液が一般的に用いられているが、平滑な治具の表面も同時にエッチングされて表面が粗れ、表面積等の表面状態の変化が起こり、急に副生成物の付着量が変動し、消費する気相反応ガスの消費量も変動し半導体素子へのポリシリコン膜の成長量の制御が困難となるなどの問題があった。そこで、治具表面にサンドブラスト加工で微細な凹凸を形成し、そこに積極的に副生成物を捕捉しパーティクルの発生を防止することが図られたが、今度は微細な凹凸の加工時に発生した加工塑性層やマイクロクラック等のダメージ部分からシリカガラスの微細な破片が使用時に飛散し半導体素子を汚染するパーティクルの発生が起こった。また、副生成物が厚くなるとシリカガラスとポリシリコンとの熱膨張差による破損が発生し、その防止のため、治具の使用前にガスエッチングやウエットエッチングによる洗浄を行なっているが、透明な表面を有する治具の場合と同様に定期的に副生成物を除去する必要があり、微細な凹凸面が同時にエッチングされ表面状態が変わるなどの問題があった。
【0003】
上記問題点は半導体素子への拡散や気相成長工程にとどまらず、エッチング処理においても同様であった。すなわち、処理ガスを流しながらプラズマなどを利用しエッチングやアッシングを行う工程においても副生成物がシリカガラス治具に堆積し剥離しパーティクルを発生することがあり、CVD等と同様にサンドブラストや研削加工により表面に微細な凹凸を形成し、積極的に副生成物を捕捉しパーティクルの発生を防止することが図られた。しかし、凹凸の加工時に発生した加工塑性層やマイクロクラック等のダメージ部分からプラズマによりシリカガラスの微細な破片が使用時に飛散し半導体素子を汚染するパーティクルになるなどの問題があった。特に、ドライエッチングでは、シリカガラス治具の表面もフッ化水素含有溶液処理と酷似したエッチングがなされ、表面の状態が大きく変わり、半導体素子のエッチング処理自体の制御を困難とするなどの問題があった。
【0004】
上記問題を解決するため、機械加工した治具を、フッ化水素含有溶液でエッチングしマイクロクラックを開放させ、マイクロクラックフリーの面としたシリカガラス治具やシリカガラス治具表面を機械加工で凹凸にしたのち、フッ化水素とフッ化アンモニウムを含有する溶液で処理し、表面に20〜300μmのエクボ状凹部と20〜30μmの間隔で幅が0.5〜50μmの溝を形成し、かつ溝 間及び溝内に幅1〜50μm、高さ0.1〜10μmの小突起を均一に分散させたシリカガラス治具が提案された。しかしながら、実際の使用では前記治具はいずれも、使用により凹部が大きなすり鉢状になり急に副生成物の付着量が変わったり、凹凸が減少し、ある程度使用を続けると、剥離パーティクルが発生するなの欠点があった。
【特許文献1】特開平1 0−59744号公報
【特許文献2】特開平2002−104843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした現状に鑑み、本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、シリカガラス治具の表面粗さを中心線平均粗さRaで0.1〜20μmとし、かつ軽微な表層エッチング処理に対しても表面状態の変化が小さい面とすることで、副生成物の剥離やシリカガラスの微細な破片の飛散がなく、かつ処理ガスの消費の変化が少なく各工程での処理の制御が容易となることを見出して、本発明を完成したものである。すなわち
【0006】
本発明は、使用時に半導体素子を汚染するパーティクルの発生がなく、かつ使用を重ねても処理条件を変動することがないシリカガラス治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、半導体を製造する工程で使用するシリカガラス治具において、その表面の一部又は全部に中心線平均粗さRaが0.1〜20μmの凹凸が存在し、前記凹凸が、大柄な波状の凹凸とその表面に存在する微細な浅いお椀状の凹部とからなる多層構造で、しかも前記お椀状の凹部の底の深さが凹部の縁径より小の浅さで凹部間の縁には鋭角な凸がなく、かつ、濃度3.0〜4.0%で液温が17〜23℃のフッ化水素水溶液にて15〜17時間エッチングした時の表面と、エッチング処理しない時の表面とを触針部先端のRが2〜10μmの範囲にある触針式表面粗さ測定装置を用いてJISB0601に基づき測定した時の中心線平均粗さRaの変化率が50%以下であることを特徴とするシリカガラス治具に係る。
【0008】
本発明のシリカガラス治具は、例えば炉芯管、ウェーハ載置用ボート、エッチング・アッシング用チャンバー等、半導体素子を製造する工程で使用される治具であり、その表面にはその一部又は全部に中心線平均粗さRaで0.1〜20μmの凹凸が存在し、かつ軽微な表層エッチング処理に対して表面状態の変化が小さい治具である。前記表面状態の変化の小ささは濃度3.0〜4.0%で液温が17〜23℃のフッ化水素酸溶液にて15〜17時間エッチング処理したものと、エッチング前との該表面のJISB0601に基づく中心線平均粗さを、触針部先端のRが2〜10μmの範囲である触針式の表面粗さ測定装置にて測定し、その中心線平均粗さの変化率を50%以下とするのがよい。つまり、実際のエッチング、例えばプラズマガスによるエッチングでシリカガラス治具の表面が変化するが、具体的には初期の段階でRaが大きくなるが、その変化の大きさは前記表面状態の変化の小ささを示す中心線平均粗さの変化率と関係し、その変化率が50%以下であると実使用においてもRaの変化は小さいままである。前記フッ化水素酸溶液の濃度が前記範囲未満では変化に時間がかかり過ぎて効率的でなく、前記範囲を超えると初期の変化の速度が速く判定時間が短くなるものの、測定物を溶液から取り出して、表面を水で置換しエッチングを停止するまでに誤差が生じる。また、フッ化水素酸溶液の温度17〜23℃は、その温度が最も一般的であることから採用する。
【0009】
さらに、エッチング処理時間15〜17時間は、判定のための精度の高い変化率を得るための時間である。前記変化率の測定にはJISB0601に基づく触針部先端のRが2〜10μmである触針式の表面測定装置を使用することが重要である。前記触針部先端のRが2〜10μmである触針式表面測定装置を使用する理由は、実使用時におけるシリカガラス治具の表面状態の変化が、その初期状態面に存在するマイクロクラックがエッチング処理により拡大したり、或はその表面のギザギザの凹凸がエッチング処理により形状変化を起したりして大きく変わる。それを非接触型の測定装置、例えばレーザーの反射光を使用する測定装置では、測定形状から算出される中心線平均粗さは正しいものの、使用中に副生成物により直に埋まってしまうような狭い谷部などをも検出し、使用時に処理条件が変わるような大きな状態変化が解りずらいことによる。この触針式表面測定装置を使用する測定法を用いることで、凸部の変化は勿論、特に副生成物の付着状況に敏感な谷部の変化が捕らえ易くなる。前記触針部先のRが2〜10μmであるのは、細い谷を検出しない範囲である2μmから、実質的な凹凸が判定できる10μmの範囲とするもので、実際の使用時に即した表面状態の変化が容易に測定できる。
【0010】
シリカガラス治具の実際の使用において、使用プロセスに応じた副生成物の適正捕捉量があり、例えばCVDプロセスの場合には、ウエハー上の膜成長の余剰ガスが、プラズマ等によるドライエッチング工程の場合には、エッチングされた反応ガスが、シリカガラス治具の表面を粗くすることにより、より多く副生成物として治具上に捕捉堆積させることになる。副生成物の堆積があまり大量であるとウエハー上に膜を形成するガスが必要以上に減少し膜の成長やエッチングが阻害される。その一方、捕捉が少ないと剥離等によりパーティクルが発生し、また、使用時におけるエッチングによるシリカガラス治具の粗さや状態が初期状態から変化し前述と同様な問題を提起する。シリカガラス治具の表面の凹凸は、鋸状の凹凸や不規則で鋭角な山谷が連続するギザギザや台形状の凸部が並ぶものがあるが、いずれも、実使用時のエッチング処理により縁部が尖った大きなお椀状の凹凸となり、副生成物の捕捉能力等、初期状態から大きく変化する。また、初期の状態からお椀状の凹凸を形成した場合、表面積が小さいため、副生成物の捕捉能力が実用に耐えられず、さらにお椀状の縁部の尖った部分が脱落し、パーティクルを発生する。そのため、本発明のシリカガラス治具にあっては、その表面の一部又は全部に中心線平均粗さRaで0.1〜20μmの凹凸を存在させている。この凹凸の存在により副生成物の捕捉が確となり膜の剥離を抑制できる。好ましくは前記凹凸を大柄な凹凸とその表面に微細な浅いお椀状の凹部を形成した多重構造とするのがよい。この多重構造を有することで、軽微なエッチングでは変化しづらい大柄な波状の凹凸により必要な厚みの副生成物を捕捉できる凹凸を確保できる。さらにその大柄な波状の凹凸に微細な浅いお椀状の凹凸を存在させることで捕捉した副生成物を剥離させることなく固定でき、安定した表面を有する治具が得られる。特に望ましくは、浅いお椀状の凹部が、凹部の縁径より底の深さが小で、かつ隣り合った凹部間の境界の縁部が鋭角な凸でないことである。これにより凹部が使用時にエッチングされても、縁部付近も均等に減損し、隣り合った凹部との間に鋭角で脱落しやすい突起状の縁取りが発生するのを防止できる。
【0011】
本発明のシリカガラス治具は、物理的表層除去手段と化学的表層除去手段とを交互に2回以上繰り返し適用することで製造できる。好ましくは物理的表層除去手段で形成する表面粗さが順次小さくなるような処理条件を選択するのがよい。
【0012】
上記物理的表層除去手段とは、固定砥粒砥石による研削処理、遊離砥粒による研摩処理、遊離砥粒によるブラスト処理、液体ホーニングによる処理又はそれらの組合せをいう。そして、固定砥粒砥石はとしては、具体的にレジンボンド型ダイヤモンド砥石などが挙げられ、遊離砥粒としてはシリカやSiCが挙げられ、液体ホーニングによる処理としては、遊離砥粒を液体に分散し吹き付ける処理などが挙げられる。この物理的表層除去手段では、シリカガラス表面に加工塑性層やマイクロクラック等のダメージ層が形成され治具の使用時にシリカガラスの微細な破片が飛散し、パーティクルの発生源となる。その上、エッチング処理工程時に不均質な侵食が起こり、不完全なマイクロクラックの開放による深い溝ができ、表面状態が大きく変化し、CVD工程やエッチング工程などの処理条件を変動させる必要が生じる。しかし、前記物理的表層除去手段に続いて化学的表層除去手段を適用することで加工塑性層の除去やマイクロクラックの開放がなされパーティクルの発生がすくなくなる上に、表面状態の変動も少なくなるが、化学的表層除去手段による表層の除去量が少ないと加工塑性層の除去やマイクロクラックの開放が十分に行なわれない。そこで、物理的表層除去手段で形成した加工塑性層やマイクロクラックのあるダメージ層の除去を十分に行おうとすると、大きな溝やお椀状又はすり鉢状の凹部で外周の縁が尖ったへこみが多くできる。特に外周の縁の尖った部分からは微細なガラスの破片が飛散し易い。前記外周の縁が尖った凹みも発生しない処理法として前記特許文献2に記載の処理法があるが、この方法では物理的表層除去手段で形成した加工塑性層やマイクロクラックなどのダメージ層の除去が十分にできず、エッチング処理時の表面状態の変化が大きくなる。また、実使用時のエッチングが進行すると外周の縁の尖った凹部が多数出現し、パーティクルを発生し易い。
【0013】
本発明の製造方法にあっては、最初の物理的表層除去手段の後に化学的表層除去手段により表面に有るマイクロクラックが開放された表面、例えばすり鉢やお椀状の凹凸が多数ある表面を形成した後に、再度物理的表層除去手段を適用し、凹凸の鋭角な部分を波状にならし、さらに化学的表層除去手段を適用することにより、比較的平坦な面に残留する加工塑性層や僅かに残ったマイクロクラックを開放するものである。前記物理的表層除去手段および化学的表層除去手段は交互に2回以上繰り返し適用するのがよい。これにより使用中のシリカガラス治具の表面状態の変化が小さい治具が得られる。前記物理的表層除去手段はより好ましくは最初より表面粗さが小さくなるようにつぎの物理的表層除去手段を選択するのがよい。これにより形成した大柄な波状の凹凸の形状が大きく変化しない範囲で次の物理的表層除去手段のダメージやマイクロクラックのみを、容易に次の化学的表層除去手段で開放できるだけでなく、大柄な波状の凹凸の表面にお椀状の凹部を多数有する多重構造とすることができる。例えば最初比較的粒度の大きな砥粒を用い、次の除去手段では比較的粒度の小さい砥粒を用いるなどである。その場合、固定砥粒砥石による研削処理に続いて遊離砥粒による研摩処理などを組合せる物理的表層除去手段の組合せも採用できる。例えば最初#120のダイヤモンド砥粒を含む固定砥粒砥石を用いた後#600のSiC遊離砥粒によるサンドブラスト処理を適用するなどである。
【0014】
本発明で使用する化学的表層除去手段としては、フッ化水素を含有する溶液による処理が挙げられるが、好ましくは、最後の物理的表層除去手段後の化学的表層除去手段には、前記溶液にさらにフッ化アンモニウムを含有させるのがよい。これにより、仕組みについては明確でないが、例えば化学的表層除去手段により形成されたお椀状やすり鉢状の凹部の外周縁部にできた尖った突起やその他の鋭角な突起が除去され滑らかな凹凸面とすることができる。これは、フッ化水素とフッ化アンモニウム及びシリカガラスが反応してできた結晶が、例えばお椀状の底部に良く発生し、突起部には発生しないか突起部を吸収した結晶が直ぐに離脱し、結果として突起部が選択的にエッチング除去され、鋭角な部分を持たない丸みを帯びた形態になるものと考えられる。さらに好ましくは、前記フッ化水素を含有する溶液に粒径が10〜200μmの樹脂、シリカ又はセラミックのいずれか又はその組合せの微粒子を分散させるのがよい。この微粒子を分散させることで治具表面のダメージ層の除去が容易で、かつ微細な凹凸の形成能が高くなり、製造手順を簡素化できる。さらに超音波振動や攪拌手段を付加することで一段と処理の効率化が図られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシリカガラス治具は、その使用時にパーティクルの発生が少ない上に、使用を重ねても処理条件が変動することがほとんどなく、安定に高品質の半導体素子の処理ができる効果を奏する。しかも、前記シリカガラス治具は特定の物理的表層除去手段と化学的表層除去手段とを2回以上繰り返し適用することにより容易に製造でき、その工業的価値は高いものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施例について述べるがこれによって本発明はなんら限定されるも のではない。なお、以下の実施例1及び比較例1の中心線平均粗さRaは、表面粗さ計(東京精密(株)製Surfcom300B)により測定した。それ以外の実施例等では、(株)ミツトヨ製の表面粗さ計(SJ−400)を使用した。
【実施例1】
【0017】
直径300mmの石英ガラス表面を#300のダイヤモンド砥粒を含むレジンボンド砥石で研削し円板状のドライエッチング用治具を作成した。得られた治具の中心線平均粗さRaは1.2μmであった。この治具を50%のフッ化水素酸溶液に10分間浸漬した。得られた治具の中心線平均粗さRaは2.8μmであった。続いて該治具を#1000のSiC砥粒のレジンボンド砥石で表面除去を行い、中心線平均粗さRaを0.5μmとし、さらに、フッ化水素15質量%、フッ化アンモニウム15質量%、酢酸50質量%及び水とからなる処理液で1時間処理した。その時の中心線平均粗さRaは1.4μmであった。前記治具を20℃、3.5質量%のフッ化水素酸溶液に浸漬しRaの変化を調べたところ、表1のとおりであった。前記0時間時のマイクロスコープで観察した表面写真を図1に、16時間エッチング処理した後のマイクロスコープで観察した表面写真を図2に示す。さらに、0時間時の走査電子顕微鏡で観察した写真を図3に示す。
(比較例1)
【0018】
実施例1と同様の石英ガラス治具を#300のダイヤモンド砥粒を含むレジンボド砥石で研削し円板状のドライエッチング用治具を作成した。得られた治具の中心線平均粗さRaは1.2μmであった。この治具を次いで10%のフッ化水素酸溶液に分間浸漬した。その時のRaは1.3μmであった。この治具について実施例1と同様に3.5質量%のフッ化水素酸による表面粗さの変化を調べたところ、表1のとおりであった。
【0019】
【表1】
【0020】
上記表1にみるように実施例1の本発明のシリカガラス治具は、3.5質量%のフッ化水素酸溶液のエッチングテストにおいて、Raなどの表面状態の変化が比較例1に比して極めて小さかった。そこで、実施例1と比較例1による治具を、実際にCF4/Arガス、2kwのプラズマドライエッチング装置に投入し、実施例1の治具では5バッチの処理を行なったところ、パーティクルの発生数はいずれのバッチも10ケ未満であった。これに対し、比較例1の治具では、3バッチ目で50ケ以上の大量のパーティクルが発生し、使用を中止した。また、各使用後のRaは実施例1の治具が2μm、比較例1の治具が5.2μmと、3.5質量%のフッ化水素酸溶液によるエッチングテストと同様に大きな開きがあった。さらに、実施例1の5バッチ目及び比較例1の3バッチ目の処理ウエハーのエッチングレートを比較したところ、実施例1の治具に対して比較例1の治具はレートが少なかった。
【実施例2】
【0021】
直径150mmのシリコンウエハーに対応する縦型の気相成長用ウエハボートを作成した。前記ウエハボートを#150の炭化珪素砥粒でサンドブラスト処理を行い、その後15%のフッ化水素酸溶液にて20分処理した後にさらに、#600の炭化珪素砥粒でサンドブラスト処理を行い、続けてフッ化水素14質量%、フッ化アンモニウム12質量%及び水からなる処理液にて1時間処理した。得られたウエハボートの表面を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した。その結果を第4、5図に示す。該ウエハボート表面の粗さは中心線平均粗さRaで2.1μmであった。第4、5図にみるように大柄な波状の凹凸の表面に浅い凹部が形成された多重構造であった。前記ウエハーボートを20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテストを行った。テスト後のウエハーボートの表面をSEMで撮影した写真を第6、7図に示す。前より大柄な波状の凹部が若干広くなって数を減少させているものの多重構造であった。この時のRaは2.1μmであった。さらに、前記ウエハーボートを、実際の窒化珪素の気相成長工程に使用し、2μmの膜を堆積させた。前記成長工程での積算成長毎に、4%のフッ化水素酸溶液で1時間の洗浄を5回繰り返した。使用後の表面のRaは2.5μmであった。
(比較例2)
【0022】
実施例2と同様のウエハーボートに、#150の炭化珪素砥粒でサンドブラスト処理を行い、さらに、#600の炭化珪素砥粒でサンドブラスト処理を行った。次に、10%のフッ化水素酸溶液で1時間の処理を行った。得られたウエハボートの表面を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した。その結果を図8、9に示す。ウエハボートの粗さは中心線平均粗さRaで2.2μmであった。このウエハーボートについて、実施例2と同様に20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテストを行った。テスト後のウエハーボートの表面をSEMで撮影した写真を10、11図に示すが、大きな凹状で縁部が鋭角な凹みが連続する図6の表面とは大きく異なり、Raは4.8μmであった。さらに、前記ウエハーボートを、実際の窒化珪素の気相成長工程に使用し、2μmの膜の積算成長毎に、4%のフッ化水素酸溶液で1時間の洗浄を5回繰り返した。使用後の表面のRaは5.1μmであった。また、3回目から急激なウエハー上に成長する膜厚が減少し、また、処理ウエハーの上のパーティクルの増加がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のシリカガラス治具は、使用時に半導体素子を汚染するパーティクルの発生がなく、かつ使用を重ねても処理条件が変動することがないので、炉芯管、ウェーハ載置用ボート、エッチング・アッシング用チャンバー、リング、プレートとして有用に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1のドライエッチング用治具表面をマイクロスコープで観察した500倍の写真である。
【図2】実施例1のドライエッチング用治具表面を3.5質量%のフッ化水素酸に16時間浸漬した後でマイクロスコープで観察した500倍の写真である。
【図3】実施例1のドライエッチング用治具表面を走査電子顕微鏡で観察した500倍の写真である。
【図4】実施例2のウエハーボートを走査電子顕微鏡で観察した200倍の写真である。
【図5】実施例2のウエハーボートを走査電子顕微鏡で観察した1,000倍の写真である。
【図6】実施例2のウエハーボートを20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテストを行った後のSEMで観察した200倍の写真である。
【図7】実施例2のウエハーボートを20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテストを行った後のSEMで観察した1000倍の写真である。
【図8】比較例2のウエハーボートをSEMで観察した200倍の写真である。
【図9】比較例2のウエハーボートをSEMで観察した1000倍の写真である。
【図10】比較例2のウエハーボートを20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテストを行った後のSEMで観察した200倍の写真である。
【図11】比較例2のウエハーボートを20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテスト後のウエハーボートをSEMで観察した1,000倍の写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造工程で使用されるシリカガラス治具、さらに詳しくは表面に細な凹凸があるとともに軽微な表層エッチングに対して表面状態の変化が小さいシリカガラス治具に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカガラス治具は半導体素子の製造における拡散工程、気相成長工程、エッチング・アッシング工程などの様々な工程で使用されている。このシリカガラス治具の表面はサンドブラストや研削加工といった処理が施され凹凸をもった不透明に仕上げられたり、或は鏡面研摩や焼き仕上げと呼ばれる火炎研摩等で平滑で透明に仕上げられたものなど、用途などにより適宜選択されているが、洗浄などが容易で汚れにくい透明に仕上げられた表面を有する治具が多く使用されている。中でも、拡散工程、気相成長工程、特に気相成長工程ではCVD(Chemical
Vapor Deposition)法などで半導体素子に例えばポリシリコン膜を成長させるが、その際透明仕上げされたシリカガラス治具にもポリシリコン膜が副生成物として堆積し、それが剥離しパーティクルとなって半導体素子を汚染することが起こる。そのため、副生成物を定期的 に除去する必要があった。その除去にはフッ化水素酸及び硝酸を含む溶液が一般的に用いられているが、平滑な治具の表面も同時にエッチングされて表面が粗れ、表面積等の表面状態の変化が起こり、急に副生成物の付着量が変動し、消費する気相反応ガスの消費量も変動し半導体素子へのポリシリコン膜の成長量の制御が困難となるなどの問題があった。そこで、治具表面にサンドブラスト加工で微細な凹凸を形成し、そこに積極的に副生成物を捕捉しパーティクルの発生を防止することが図られたが、今度は微細な凹凸の加工時に発生した加工塑性層やマイクロクラック等のダメージ部分からシリカガラスの微細な破片が使用時に飛散し半導体素子を汚染するパーティクルの発生が起こった。また、副生成物が厚くなるとシリカガラスとポリシリコンとの熱膨張差による破損が発生し、その防止のため、治具の使用前にガスエッチングやウエットエッチングによる洗浄を行なっているが、透明な表面を有する治具の場合と同様に定期的に副生成物を除去する必要があり、微細な凹凸面が同時にエッチングされ表面状態が変わるなどの問題があった。
【0003】
上記問題点は半導体素子への拡散や気相成長工程にとどまらず、エッチング処理においても同様であった。すなわち、処理ガスを流しながらプラズマなどを利用しエッチングやアッシングを行う工程においても副生成物がシリカガラス治具に堆積し剥離しパーティクルを発生することがあり、CVD等と同様にサンドブラストや研削加工により表面に微細な凹凸を形成し、積極的に副生成物を捕捉しパーティクルの発生を防止することが図られた。しかし、凹凸の加工時に発生した加工塑性層やマイクロクラック等のダメージ部分からプラズマによりシリカガラスの微細な破片が使用時に飛散し半導体素子を汚染するパーティクルになるなどの問題があった。特に、ドライエッチングでは、シリカガラス治具の表面もフッ化水素含有溶液処理と酷似したエッチングがなされ、表面の状態が大きく変わり、半導体素子のエッチング処理自体の制御を困難とするなどの問題があった。
【0004】
上記問題を解決するため、機械加工した治具を、フッ化水素含有溶液でエッチングしマイクロクラックを開放させ、マイクロクラックフリーの面としたシリカガラス治具やシリカガラス治具表面を機械加工で凹凸にしたのち、フッ化水素とフッ化アンモニウムを含有する溶液で処理し、表面に20〜300μmのエクボ状凹部と20〜30μmの間隔で幅が0.5〜50μmの溝を形成し、かつ溝 間及び溝内に幅1〜50μm、高さ0.1〜10μmの小突起を均一に分散させたシリカガラス治具が提案された。しかしながら、実際の使用では前記治具はいずれも、使用により凹部が大きなすり鉢状になり急に副生成物の付着量が変わったり、凹凸が減少し、ある程度使用を続けると、剥離パーティクルが発生するなの欠点があった。
【特許文献1】特開平1 0−59744号公報
【特許文献2】特開平2002−104843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした現状に鑑み、本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、シリカガラス治具の表面粗さを中心線平均粗さRaで0.1〜20μmとし、かつ軽微な表層エッチング処理に対しても表面状態の変化が小さい面とすることで、副生成物の剥離やシリカガラスの微細な破片の飛散がなく、かつ処理ガスの消費の変化が少なく各工程での処理の制御が容易となることを見出して、本発明を完成したものである。すなわち
【0006】
本発明は、使用時に半導体素子を汚染するパーティクルの発生がなく、かつ使用を重ねても処理条件を変動することがないシリカガラス治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、半導体を製造する工程で使用するシリカガラス治具において、その表面の一部又は全部に中心線平均粗さRaが0.1〜20μmの凹凸が存在し、前記凹凸が、大柄な波状の凹凸とその表面に存在する微細な浅いお椀状の凹部とからなる多層構造で、しかも前記お椀状の凹部の底の深さが凹部の縁径より小の浅さで凹部間の縁には鋭角な凸がなく、かつ、濃度3.0〜4.0%で液温が17〜23℃のフッ化水素水溶液にて15〜17時間エッチングした時の表面と、エッチング処理しない時の表面とを触針部先端のRが2〜10μmの範囲にある触針式表面粗さ測定装置を用いてJISB0601に基づき測定した時の中心線平均粗さRaの変化率が50%以下であることを特徴とするシリカガラス治具に係る。
【0008】
本発明のシリカガラス治具は、例えば炉芯管、ウェーハ載置用ボート、エッチング・アッシング用チャンバー等、半導体素子を製造する工程で使用される治具であり、その表面にはその一部又は全部に中心線平均粗さRaで0.1〜20μmの凹凸が存在し、かつ軽微な表層エッチング処理に対して表面状態の変化が小さい治具である。前記表面状態の変化の小ささは濃度3.0〜4.0%で液温が17〜23℃のフッ化水素酸溶液にて15〜17時間エッチング処理したものと、エッチング前との該表面のJISB0601に基づく中心線平均粗さを、触針部先端のRが2〜10μmの範囲である触針式の表面粗さ測定装置にて測定し、その中心線平均粗さの変化率を50%以下とするのがよい。つまり、実際のエッチング、例えばプラズマガスによるエッチングでシリカガラス治具の表面が変化するが、具体的には初期の段階でRaが大きくなるが、その変化の大きさは前記表面状態の変化の小ささを示す中心線平均粗さの変化率と関係し、その変化率が50%以下であると実使用においてもRaの変化は小さいままである。前記フッ化水素酸溶液の濃度が前記範囲未満では変化に時間がかかり過ぎて効率的でなく、前記範囲を超えると初期の変化の速度が速く判定時間が短くなるものの、測定物を溶液から取り出して、表面を水で置換しエッチングを停止するまでに誤差が生じる。また、フッ化水素酸溶液の温度17〜23℃は、その温度が最も一般的であることから採用する。
【0009】
さらに、エッチング処理時間15〜17時間は、判定のための精度の高い変化率を得るための時間である。前記変化率の測定にはJISB0601に基づく触針部先端のRが2〜10μmである触針式の表面測定装置を使用することが重要である。前記触針部先端のRが2〜10μmである触針式表面測定装置を使用する理由は、実使用時におけるシリカガラス治具の表面状態の変化が、その初期状態面に存在するマイクロクラックがエッチング処理により拡大したり、或はその表面のギザギザの凹凸がエッチング処理により形状変化を起したりして大きく変わる。それを非接触型の測定装置、例えばレーザーの反射光を使用する測定装置では、測定形状から算出される中心線平均粗さは正しいものの、使用中に副生成物により直に埋まってしまうような狭い谷部などをも検出し、使用時に処理条件が変わるような大きな状態変化が解りずらいことによる。この触針式表面測定装置を使用する測定法を用いることで、凸部の変化は勿論、特に副生成物の付着状況に敏感な谷部の変化が捕らえ易くなる。前記触針部先のRが2〜10μmであるのは、細い谷を検出しない範囲である2μmから、実質的な凹凸が判定できる10μmの範囲とするもので、実際の使用時に即した表面状態の変化が容易に測定できる。
【0010】
シリカガラス治具の実際の使用において、使用プロセスに応じた副生成物の適正捕捉量があり、例えばCVDプロセスの場合には、ウエハー上の膜成長の余剰ガスが、プラズマ等によるドライエッチング工程の場合には、エッチングされた反応ガスが、シリカガラス治具の表面を粗くすることにより、より多く副生成物として治具上に捕捉堆積させることになる。副生成物の堆積があまり大量であるとウエハー上に膜を形成するガスが必要以上に減少し膜の成長やエッチングが阻害される。その一方、捕捉が少ないと剥離等によりパーティクルが発生し、また、使用時におけるエッチングによるシリカガラス治具の粗さや状態が初期状態から変化し前述と同様な問題を提起する。シリカガラス治具の表面の凹凸は、鋸状の凹凸や不規則で鋭角な山谷が連続するギザギザや台形状の凸部が並ぶものがあるが、いずれも、実使用時のエッチング処理により縁部が尖った大きなお椀状の凹凸となり、副生成物の捕捉能力等、初期状態から大きく変化する。また、初期の状態からお椀状の凹凸を形成した場合、表面積が小さいため、副生成物の捕捉能力が実用に耐えられず、さらにお椀状の縁部の尖った部分が脱落し、パーティクルを発生する。そのため、本発明のシリカガラス治具にあっては、その表面の一部又は全部に中心線平均粗さRaで0.1〜20μmの凹凸を存在させている。この凹凸の存在により副生成物の捕捉が確となり膜の剥離を抑制できる。好ましくは前記凹凸を大柄な凹凸とその表面に微細な浅いお椀状の凹部を形成した多重構造とするのがよい。この多重構造を有することで、軽微なエッチングでは変化しづらい大柄な波状の凹凸により必要な厚みの副生成物を捕捉できる凹凸を確保できる。さらにその大柄な波状の凹凸に微細な浅いお椀状の凹凸を存在させることで捕捉した副生成物を剥離させることなく固定でき、安定した表面を有する治具が得られる。特に望ましくは、浅いお椀状の凹部が、凹部の縁径より底の深さが小で、かつ隣り合った凹部間の境界の縁部が鋭角な凸でないことである。これにより凹部が使用時にエッチングされても、縁部付近も均等に減損し、隣り合った凹部との間に鋭角で脱落しやすい突起状の縁取りが発生するのを防止できる。
【0011】
本発明のシリカガラス治具は、物理的表層除去手段と化学的表層除去手段とを交互に2回以上繰り返し適用することで製造できる。好ましくは物理的表層除去手段で形成する表面粗さが順次小さくなるような処理条件を選択するのがよい。
【0012】
上記物理的表層除去手段とは、固定砥粒砥石による研削処理、遊離砥粒による研摩処理、遊離砥粒によるブラスト処理、液体ホーニングによる処理又はそれらの組合せをいう。そして、固定砥粒砥石はとしては、具体的にレジンボンド型ダイヤモンド砥石などが挙げられ、遊離砥粒としてはシリカやSiCが挙げられ、液体ホーニングによる処理としては、遊離砥粒を液体に分散し吹き付ける処理などが挙げられる。この物理的表層除去手段では、シリカガラス表面に加工塑性層やマイクロクラック等のダメージ層が形成され治具の使用時にシリカガラスの微細な破片が飛散し、パーティクルの発生源となる。その上、エッチング処理工程時に不均質な侵食が起こり、不完全なマイクロクラックの開放による深い溝ができ、表面状態が大きく変化し、CVD工程やエッチング工程などの処理条件を変動させる必要が生じる。しかし、前記物理的表層除去手段に続いて化学的表層除去手段を適用することで加工塑性層の除去やマイクロクラックの開放がなされパーティクルの発生がすくなくなる上に、表面状態の変動も少なくなるが、化学的表層除去手段による表層の除去量が少ないと加工塑性層の除去やマイクロクラックの開放が十分に行なわれない。そこで、物理的表層除去手段で形成した加工塑性層やマイクロクラックのあるダメージ層の除去を十分に行おうとすると、大きな溝やお椀状又はすり鉢状の凹部で外周の縁が尖ったへこみが多くできる。特に外周の縁の尖った部分からは微細なガラスの破片が飛散し易い。前記外周の縁が尖った凹みも発生しない処理法として前記特許文献2に記載の処理法があるが、この方法では物理的表層除去手段で形成した加工塑性層やマイクロクラックなどのダメージ層の除去が十分にできず、エッチング処理時の表面状態の変化が大きくなる。また、実使用時のエッチングが進行すると外周の縁の尖った凹部が多数出現し、パーティクルを発生し易い。
【0013】
本発明の製造方法にあっては、最初の物理的表層除去手段の後に化学的表層除去手段により表面に有るマイクロクラックが開放された表面、例えばすり鉢やお椀状の凹凸が多数ある表面を形成した後に、再度物理的表層除去手段を適用し、凹凸の鋭角な部分を波状にならし、さらに化学的表層除去手段を適用することにより、比較的平坦な面に残留する加工塑性層や僅かに残ったマイクロクラックを開放するものである。前記物理的表層除去手段および化学的表層除去手段は交互に2回以上繰り返し適用するのがよい。これにより使用中のシリカガラス治具の表面状態の変化が小さい治具が得られる。前記物理的表層除去手段はより好ましくは最初より表面粗さが小さくなるようにつぎの物理的表層除去手段を選択するのがよい。これにより形成した大柄な波状の凹凸の形状が大きく変化しない範囲で次の物理的表層除去手段のダメージやマイクロクラックのみを、容易に次の化学的表層除去手段で開放できるだけでなく、大柄な波状の凹凸の表面にお椀状の凹部を多数有する多重構造とすることができる。例えば最初比較的粒度の大きな砥粒を用い、次の除去手段では比較的粒度の小さい砥粒を用いるなどである。その場合、固定砥粒砥石による研削処理に続いて遊離砥粒による研摩処理などを組合せる物理的表層除去手段の組合せも採用できる。例えば最初#120のダイヤモンド砥粒を含む固定砥粒砥石を用いた後#600のSiC遊離砥粒によるサンドブラスト処理を適用するなどである。
【0014】
本発明で使用する化学的表層除去手段としては、フッ化水素を含有する溶液による処理が挙げられるが、好ましくは、最後の物理的表層除去手段後の化学的表層除去手段には、前記溶液にさらにフッ化アンモニウムを含有させるのがよい。これにより、仕組みについては明確でないが、例えば化学的表層除去手段により形成されたお椀状やすり鉢状の凹部の外周縁部にできた尖った突起やその他の鋭角な突起が除去され滑らかな凹凸面とすることができる。これは、フッ化水素とフッ化アンモニウム及びシリカガラスが反応してできた結晶が、例えばお椀状の底部に良く発生し、突起部には発生しないか突起部を吸収した結晶が直ぐに離脱し、結果として突起部が選択的にエッチング除去され、鋭角な部分を持たない丸みを帯びた形態になるものと考えられる。さらに好ましくは、前記フッ化水素を含有する溶液に粒径が10〜200μmの樹脂、シリカ又はセラミックのいずれか又はその組合せの微粒子を分散させるのがよい。この微粒子を分散させることで治具表面のダメージ層の除去が容易で、かつ微細な凹凸の形成能が高くなり、製造手順を簡素化できる。さらに超音波振動や攪拌手段を付加することで一段と処理の効率化が図られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシリカガラス治具は、その使用時にパーティクルの発生が少ない上に、使用を重ねても処理条件が変動することがほとんどなく、安定に高品質の半導体素子の処理ができる効果を奏する。しかも、前記シリカガラス治具は特定の物理的表層除去手段と化学的表層除去手段とを2回以上繰り返し適用することにより容易に製造でき、その工業的価値は高いものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施例について述べるがこれによって本発明はなんら限定されるも のではない。なお、以下の実施例1及び比較例1の中心線平均粗さRaは、表面粗さ計(東京精密(株)製Surfcom300B)により測定した。それ以外の実施例等では、(株)ミツトヨ製の表面粗さ計(SJ−400)を使用した。
【実施例1】
【0017】
直径300mmの石英ガラス表面を#300のダイヤモンド砥粒を含むレジンボンド砥石で研削し円板状のドライエッチング用治具を作成した。得られた治具の中心線平均粗さRaは1.2μmであった。この治具を50%のフッ化水素酸溶液に10分間浸漬した。得られた治具の中心線平均粗さRaは2.8μmであった。続いて該治具を#1000のSiC砥粒のレジンボンド砥石で表面除去を行い、中心線平均粗さRaを0.5μmとし、さらに、フッ化水素15質量%、フッ化アンモニウム15質量%、酢酸50質量%及び水とからなる処理液で1時間処理した。その時の中心線平均粗さRaは1.4μmであった。前記治具を20℃、3.5質量%のフッ化水素酸溶液に浸漬しRaの変化を調べたところ、表1のとおりであった。前記0時間時のマイクロスコープで観察した表面写真を図1に、16時間エッチング処理した後のマイクロスコープで観察した表面写真を図2に示す。さらに、0時間時の走査電子顕微鏡で観察した写真を図3に示す。
(比較例1)
【0018】
実施例1と同様の石英ガラス治具を#300のダイヤモンド砥粒を含むレジンボド砥石で研削し円板状のドライエッチング用治具を作成した。得られた治具の中心線平均粗さRaは1.2μmであった。この治具を次いで10%のフッ化水素酸溶液に分間浸漬した。その時のRaは1.3μmであった。この治具について実施例1と同様に3.5質量%のフッ化水素酸による表面粗さの変化を調べたところ、表1のとおりであった。
【0019】
【表1】
【0020】
上記表1にみるように実施例1の本発明のシリカガラス治具は、3.5質量%のフッ化水素酸溶液のエッチングテストにおいて、Raなどの表面状態の変化が比較例1に比して極めて小さかった。そこで、実施例1と比較例1による治具を、実際にCF4/Arガス、2kwのプラズマドライエッチング装置に投入し、実施例1の治具では5バッチの処理を行なったところ、パーティクルの発生数はいずれのバッチも10ケ未満であった。これに対し、比較例1の治具では、3バッチ目で50ケ以上の大量のパーティクルが発生し、使用を中止した。また、各使用後のRaは実施例1の治具が2μm、比較例1の治具が5.2μmと、3.5質量%のフッ化水素酸溶液によるエッチングテストと同様に大きな開きがあった。さらに、実施例1の5バッチ目及び比較例1の3バッチ目の処理ウエハーのエッチングレートを比較したところ、実施例1の治具に対して比較例1の治具はレートが少なかった。
【実施例2】
【0021】
直径150mmのシリコンウエハーに対応する縦型の気相成長用ウエハボートを作成した。前記ウエハボートを#150の炭化珪素砥粒でサンドブラスト処理を行い、その後15%のフッ化水素酸溶液にて20分処理した後にさらに、#600の炭化珪素砥粒でサンドブラスト処理を行い、続けてフッ化水素14質量%、フッ化アンモニウム12質量%及び水からなる処理液にて1時間処理した。得られたウエハボートの表面を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した。その結果を第4、5図に示す。該ウエハボート表面の粗さは中心線平均粗さRaで2.1μmであった。第4、5図にみるように大柄な波状の凹凸の表面に浅い凹部が形成された多重構造であった。前記ウエハーボートを20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテストを行った。テスト後のウエハーボートの表面をSEMで撮影した写真を第6、7図に示す。前より大柄な波状の凹部が若干広くなって数を減少させているものの多重構造であった。この時のRaは2.1μmであった。さらに、前記ウエハーボートを、実際の窒化珪素の気相成長工程に使用し、2μmの膜を堆積させた。前記成長工程での積算成長毎に、4%のフッ化水素酸溶液で1時間の洗浄を5回繰り返した。使用後の表面のRaは2.5μmであった。
(比較例2)
【0022】
実施例2と同様のウエハーボートに、#150の炭化珪素砥粒でサンドブラスト処理を行い、さらに、#600の炭化珪素砥粒でサンドブラスト処理を行った。次に、10%のフッ化水素酸溶液で1時間の処理を行った。得られたウエハボートの表面を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した。その結果を図8、9に示す。ウエハボートの粗さは中心線平均粗さRaで2.2μmであった。このウエハーボートについて、実施例2と同様に20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテストを行った。テスト後のウエハーボートの表面をSEMで撮影した写真を10、11図に示すが、大きな凹状で縁部が鋭角な凹みが連続する図6の表面とは大きく異なり、Raは4.8μmであった。さらに、前記ウエハーボートを、実際の窒化珪素の気相成長工程に使用し、2μmの膜の積算成長毎に、4%のフッ化水素酸溶液で1時間の洗浄を5回繰り返した。使用後の表面のRaは5.1μmであった。また、3回目から急激なウエハー上に成長する膜厚が減少し、また、処理ウエハーの上のパーティクルの増加がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のシリカガラス治具は、使用時に半導体素子を汚染するパーティクルの発生がなく、かつ使用を重ねても処理条件が変動することがないので、炉芯管、ウェーハ載置用ボート、エッチング・アッシング用チャンバー、リング、プレートとして有用に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1のドライエッチング用治具表面をマイクロスコープで観察した500倍の写真である。
【図2】実施例1のドライエッチング用治具表面を3.5質量%のフッ化水素酸に16時間浸漬した後でマイクロスコープで観察した500倍の写真である。
【図3】実施例1のドライエッチング用治具表面を走査電子顕微鏡で観察した500倍の写真である。
【図4】実施例2のウエハーボートを走査電子顕微鏡で観察した200倍の写真である。
【図5】実施例2のウエハーボートを走査電子顕微鏡で観察した1,000倍の写真である。
【図6】実施例2のウエハーボートを20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテストを行った後のSEMで観察した200倍の写真である。
【図7】実施例2のウエハーボートを20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテストを行った後のSEMで観察した1000倍の写真である。
【図8】比較例2のウエハーボートをSEMで観察した200倍の写真である。
【図9】比較例2のウエハーボートをSEMで観察した1000倍の写真である。
【図10】比較例2のウエハーボートを20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテストを行った後のSEMで観察した200倍の写真である。
【図11】比較例2のウエハーボートを20℃、3.5%フッ化水素酸溶液で16時間のエッチングテスト後のウエハーボートをSEMで観察した1,000倍の写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体を製造する工程で使用するシリカガラス治具において、その表面の一部又は全部に中心線平均粗さRaが0.1〜20μmの凹凸が存在し、前記凹凸が、大柄な波状の凹凸とその表面に存在する微細な浅いお椀状の凹部とからなる多層構造で、しかも前記お椀状の凹部の底の深さが凹部の縁径より小の浅さで凹部間の縁には鋭角な凸がなく、かつ、濃度3.0〜4.0%で液温が17〜23℃のフッ化水素水溶液にて15〜17時間エッチングした時の表面と、エッチング処理しない時の表面とを触針部先端のRが2〜10μmの範囲にある触針式表面粗さ測定装置を用いてJISB0601に基づき測定した時の中心線平均粗さRaの変化率が50%以下であることを特徴とするシリカガラス治具。
−
【請求項1】
半導体を製造する工程で使用するシリカガラス治具において、その表面の一部又は全部に中心線平均粗さRaが0.1〜20μmの凹凸が存在し、前記凹凸が、大柄な波状の凹凸とその表面に存在する微細な浅いお椀状の凹部とからなる多層構造で、しかも前記お椀状の凹部の底の深さが凹部の縁径より小の浅さで凹部間の縁には鋭角な凸がなく、かつ、濃度3.0〜4.0%で液温が17〜23℃のフッ化水素水溶液にて15〜17時間エッチングした時の表面と、エッチング処理しない時の表面とを触針部先端のRが2〜10μmの範囲にある触針式表面粗さ測定装置を用いてJISB0601に基づき測定した時の中心線平均粗さRaの変化率が50%以下であることを特徴とするシリカガラス治具。
−
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−42991(P2010−42991A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234804(P2009−234804)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【分割の表示】特願2004−556891(P2004−556891)の分割
【原出願日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【出願人】(591018224)株式会社福井信越石英 (5)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【分割の表示】特願2004−556891(P2004−556891)の分割
【原出願日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【出願人】(591018224)株式会社福井信越石英 (5)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]